本発明の樹脂組成物は、下記式(1)で表されるスクアリリウム化合物と熱硬化性樹脂とを含有するものである。
上記式(1)中、R1〜R3、R5〜R7はそれぞれ独立して、水素原子、有機基または極性官能基を表し、環Aおよび環Bはそれぞれ独立して含窒素複素環を表し、当該複素環の窒素原子には置換基を有していてもよい分岐状アルキル基が結合している。
スクアリリウム化合物は、赤色〜近赤外領域の光を選択的に吸収し、可視光領域の光を高い透過率で透過させるという分光特性を有する。特に上記式(1)で表されるような、スクアリリウム骨格に含窒素複素環が縮環したベンゼン環が結合したスクアリリウム化合物は、赤色〜近赤外領域の吸収ピークがシャープに形成されるため、この吸収ピークに対応した波長域の光を選択的にカットすることが可能となる。
ところで、本発明者らが、上記式(1)で表され環Aと環Bの含窒素複素環の窒素原子にアルキル基が結合したスクアリリウム化合物について、これを熱硬化性樹脂に配合しその硬化物の吸収(透過)スペクトルを測定したところ、環Aと環Bの含窒素複素環の窒素原子に直鎖状アルキル基が結合したスクアリリウム化合物では、樹脂硬化物中で可視光領域(例えば、波長500nm〜600nmの範囲)に新たな吸収ピークを示すものがあることが明らかになった。この場合、スクアリリウム化合物が本来有する分光特性、すなわち赤色〜近赤外領域の光を選択的に吸収し、可視光領域の光を高い透過率で透過させるという特性を発揮させることが困難となり、特に樹脂組成物から光学フィルターを形成する場合など、分光設計が難しくなる点で好ましくない。そこで様々なスクアリリウム化合物を調べたところ、環Aと環Bの含窒素複素環の窒素原子に直鎖状アルキル基ではなく分岐状アルキル基を結合させることにより、樹脂硬化物中でもスクアリリウム化合物本来の分光特性を発揮させることができることが明らかになった。以下、本発明の樹脂組成物について詳しく説明する。
樹脂組成物に含まれるスクアリリウム化合物は、上記式(1)で表されるものである。スクアリリウム化合物には共鳴関係にある化合物が存在している場合があり、式(1)のスクアリリウム化合物と共鳴関係にある化合物としては、例えば、下記式(1a),(1b)で表される化合物が挙げられる。本発明のスクアリリウム化合物はこれら全ての共鳴関係にある化合物を含むものとし、具体的には、式(1)のスクアリリウム化合物には、下記式(1a),(1b)で表されるような共鳴関係にある化合物が含まれる。
式(1)において、スクアリリウム骨格の一方側と他方側に結合した基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。すなわち、R1、R2、R3および環AはそれぞれR5、R6、R7および環Bと同一または異なっていてもよい。スクアリリウム骨格の一方側と他方側に結合した基が同一の場合は、スクアリリウム化合物の熱や光に対する耐久性の向上が期待できる。スクアリリウム骨格の一方側と他方側に結合した基が互いに異なる場合は、スクアリリウム化合物の分子どうしの会合や凝集が抑制され、溶剤や樹脂に対する溶解性の向上が期待できる。
式(1)中、R1〜R3、R5〜R7はそれぞれ独立して、水素原子、有機基または極性官能基を表す。R1〜R3、R5〜R7の有機基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロアリール基、アミノ基、アミド基、スルホンアミド基、カルボキシ基(カルボン酸基)、シアノ基等が挙げられる。R1〜R3、R5〜R7の極性官能基としては、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基、スルホ基(スルホン酸基)等が挙げられる。
R1〜R3、R5〜R7のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等の直鎖状または分岐状のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等の環状(脂環式)アルキル基等が挙げられる。アルキル基は置換基を有していてもよく、アルキル基が有する置換基としては、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲノ基、水酸基、カルボキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基等が挙げられる。ハロゲノ基を有するアルキル基としては、モノハロゲノアルキル基、ジハロゲノアルキル基、トリハロメチル単位を有するアルキル基、パーハロゲノアルキル基等が挙げられる。ハロゲノ基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、特にフッ素原子が好ましい。アルキル基の炭素数(置換基を除く炭素数)は1〜20が好ましく、具体的には、直鎖状または分岐状のアルキル基であれば炭素数1〜20が好ましく、より好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは1〜5であり、環状のアルキル基であれば炭素数4〜10が好ましく、5〜8がより好ましい。
R1〜R3、R5〜R7のアルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基に含まれるアルキル基の具体例は、上記のアルキル基に関する説明が参照される。
R1〜R3、R5〜R7のアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、インデニル基等が挙げられる。アリール基は置換基を有していてもよく、アリール基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヘテロアリール基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。アリール基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、6〜20が好ましく、より好ましくは6〜12である。
R1〜R3、R5〜R7のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。アラルキル基は置換基を有していてもよく、アラルキル基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シアノ基、ニトロ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。アラルキル基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、7〜25が好ましく、より好ましくは7〜15である。
R1〜R3、R5〜R7のアリールオキシ基、アリールチオ基、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基に含まれるアリール基の具体例は、上記のアリール基に関する説明が参照される。
R1〜R3、R5〜R7のヘテロアリール基としては、例えば、チエニル基、チオピラニル基、イソチオクロメニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピラリジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フラニル基、ピラニル基等が挙げられる。ヘテロアリール基は置換基を有していてもよく、ヘテロアリール基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、水酸基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。ヘテロアリール基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、2〜20が好ましく、より好ましくは3〜15である。
R1〜R3、R5〜R7のアミノ基としては、式:−NRa1Ra2で表され、Ra1およびRa2がそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるもの等が挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基の具体例は、上記のこれらの基の説明が参照され、アルケニル基とアルキニル基としては、上記に例示したアルキル基の炭素−炭素単結合の一部が二重結合または三重結合に置き換わった基が挙げられる。Ra1とRa2は互いに連結して環形成していてもよい。
R1〜R3、R5〜R7のアミド基としては、式:−NH−C(=O)−Ra3で表され、Ra3がアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるもの等が挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基の具体例は、上記のこれらの基の説明が参照される。
R1〜R3、R5〜R7のスルホンアミド基としては、式:−NH−SO2−Ra4で表され、Ra4がアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるもの等が挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基の具体例は、上記のこれらの基の説明が参照される。
R1〜R3、R5〜R7のハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。
式(1)のR1〜R3、R5〜R7はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アミド基または水酸基であることが好ましい。このようなスクアリリウム化合物は製造が比較的容易であり、またR1〜R3、R5〜R7を適宜選択することで、スクアリリウム化合物の最大吸収波長を所望の波長域に制御することが可能となる。なかでも、スクアリリウム化合物の安定性や製造容易性の点から、R1〜R3、R5〜R7はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアミド基であることが好ましい。この場合のアルキル基は、直鎖状または分岐状であることが好ましく、またその炭素数は1〜6が好ましく、1〜4がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。
式(1)の環Aと環Bの含窒素複素環は、環を構成するヘテロ原子として少なくとも窒素原子を1つ有しており、この窒素原子に分岐状アルキル基が結合している。例えば、環Aと環Bを構成する窒素原子に直鎖状アルキル基が結合している場合は、スクアリリウム化合物を熱硬化性樹脂に配合した樹脂組成物の硬化物中で、スクアリリウム化合物が本来示す吸収ピークとは異なる、可視光領域(例えば、波長500nm〜600nmの範囲)に新たな吸収ピークを示す場合があるが、環Aと環Bを構成する窒素原子に分岐状アルキル基が結合していることによって、熱硬化性樹脂の硬化物中でもスクアリリウム化合物本来の分光特性を発揮させることができる。環Aと環Bを構成する窒素原子に結合するアルキル基の種類によって吸収スペクトルにこのような違いが出る原因は定かではないが、当該アルキル基が直鎖状である場合は、熱硬化性樹脂の硬化反応の際に、スクアリリウム化合物が会合体を形成してその状態のまま固定化されるなどして、スクアリリウム化合物単体では見られなかった新たな吸収ピークが発現するものと考えられる。
環Aと環Bを構成する窒素原子に結合する分岐状アルキル基は、炭素数が3以上のものであれば特に限定されない。分岐状アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、1−エチルプロピル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、tert−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。分岐状アルキル基の炭素数(置換基を除く炭素数)の上限は特に限定されないが、20以下が好ましく、12以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、6以下がさらにより好ましい。環Aと環Bを構成する窒素原子に結合する分岐状アルキル基は、置換基を有していてもよく、当該置換基としては、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲノ基、水酸基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基等が挙げられる。なお、分岐状アルキル基は置換基を有しないことが好ましい。
環Aと環Bの含窒素複素環は、環構成原子として、ヘテロ原子を窒素原子1つのみを有していてもよく、ヘテロ原子を2つ以上有していてもよい。ヘテロ原子を2つ以上有する場合は、少なくとも1つの窒素原子を必須的に有し、さらにN(窒素原子)、S(硫黄原子)およびO(酸素原子)から選ばれる少なくとも1種以上の原子を1つ以上有する。環Aと環Bの含窒素複素環としては、例えば、ピロリジン環、ピペリジン環、ヘキサメチレンイミン環、ヘプタメチレンイミン環、モルホリン環、チオモルホリン環、ピペラジン環等が挙げられる。スクアリリウム化合物の製造容易性の点からは、環Aと環Bの含窒素複素環は、環を構成するヘテロ原子として窒素原子を1つのみ有することが好ましい。また、環Aと環Bは、非芳香族含窒素複素環であることが好ましく、ベンゼン環と縮環した炭素−炭素結合以外は、単結合により炭素原子と窒素原子または炭素原子どうしが結合して環形成していることがより好ましい。
環Aと環Bの含窒素複素環は、環Aまたは環Bが縮環するベンゼン環のスクアリリウム骨格の結合位置のパラ位の炭素原子に窒素原子が結合していることが好ましい。すなわち、樹脂組成物に含まれるスクアリリウム化合物としては、下記式(2)で表されるものが好ましい。下記式(2)中、R1〜R3、R5〜R7は上記と同じ意味を表し、R4とR8は、上記に説明した、置換基を有していてもよい分岐状アルキル基を表す。このようなスクアリリウム化合物であれば、吸収スペクトルの最大吸収ピークが長波長側(例えば685nm以上)にシフトして、赤色領域の光線の透過率を高めて、透過光の色味を実際のものに近付けることが容易になる。
環Aと環Bの含窒素複素環は、上記に説明した分岐状アルキル基以外に置換基を有していてもよい。すなわち、環Aと環Bの含窒素複素環は、窒素原子以外の環構成原子に置換基が結合してもよく、そのような置換基としては、上記に説明した有機基や極性官能基が挙げられる。なかでも、環Aと環Bが有していてもよい置換基(環Aまたは環Bを構成する窒素原子に結合する置換基を除く)としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、水酸基が好ましく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲノアルキル基がより好ましい。この場合のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲノアルキル基の炭素数は1〜8が好ましく、より好ましくは1〜5であり、さらに好ましくは1〜3であり、アリール基の炭素数は6〜12が好ましく、6〜10がより好ましく、アラルキル基の炭素数は7〜13が好ましく、7〜11がより好ましい。アルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。なお、環Aと環Bは、環構成窒素原子に結合した分岐状アルキル基以外に置換基を有していなくてもよい。
環Aと環Bの環員数は5以上が好ましく、6以上がより好ましく、また12以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。特に環Aと環Bの環員数が6以上であれば、赤色〜近赤外領域に極大吸収を有する吸収ピークをとりわけシャープなものにすることができ、当該吸収ピークの短波長側の傾斜部の傾きを吸収なものとすることができる。そのため、透過波長域と吸収波長域との境目がシャープに形成され、吸収ピークに対応した波長域の光を選択的にカットすることが可能となる。
環Aと環Bが5員以上の含窒素複素環であるスクアリリウム化合物としては、下記式(5)で表されるスクアリリウム化合物が好適に示される。
上記式(5)において、R1〜R8は上記に説明した通りであり、R11は、環Aを構成する炭素原子に結合する水素原子または置換基を表し、R12は、環Bを構成する炭素原子に結合する水素原子または置換基を表し、mおよびnは1以上の整数を表す。複数のR11は互いに同一であっても異なっていてもよく、複数のR12は互いに同一であっても異なっていてもよい。式(5)のスクアリリウム化合物は、環Aと環Bが、ヘテロ原子として窒素原子を1つのみ有する5員以上の複素環となっており、ベンゼン環と縮環した炭素−炭素結合以外は、単結合により炭素原子と窒素原子または炭素原子どうしが結合して環形成している。
式(5)において、R11とR12の置換基としては、上記に説明した有機基や極性官能基が挙げられる。mおよびnは2以上が好ましく、また8以下が好ましく、6以下がより好ましく、4以下がさらに好ましい。
R11およびR12は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、および水酸基よりなる群から選ばれる基または原子であることが好ましく、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、およびハロゲノアルキル基よりなる群から選ばれる基または原子であることがより好ましく、水素原子、アルキル基、およびハロゲノアルキル基よりなる群から選ばれる基または原子であることがさらに好ましい。この場合のアルキル基、ハロゲノアルキル基の炭素数は、1〜8が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。なかでも、R11とR12は水素原子であることが好ましく、すなわち環Aと環BはR4とR8以外に置換基を有しないことが好ましい。
スクアリリウム化合物は、R1またはR2が下記式(3)で表される基であり、R5またはR6が下記式(4)で表される基であることが好ましい。下記式(3)および下記式(4)において、R9とR10はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数5以上のアルキル基を表す。このようなスクアリリウム化合物は、有機溶媒や樹脂への溶解性に優れるものとなる。そのため、樹脂組成物中にスクアリリウム化合物を高濃度に含有させることが可能になり、当該樹脂組成物から光学フィルターを形成する場合など、厚みを薄く形成しても、スクアリリウム化合物に由来して赤色〜近赤外領域の光を好適に吸収させることができる。
−NH−C(=O)−R9 (3)
−NH−C(=O)−R10 (4)
R9とR10のアルキル基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、有機溶媒や樹脂への溶解性を高める点から6以上が好ましく、7以上がより好ましく、8以上がさらに好ましい。R9とR10のアルキル基の炭素数の上限は特に限定されないが、30以下が好ましく、25以下がより好ましく、20以下がさらに好ましく、18以下がさらにより好ましい。R9とR10のアルキル基としては、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。
R9とR10のアルキル基は置換基を有していてもよく、当該置換基としては、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲノ基、水酸基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基等が挙げられる。なお、R9とR10のアルキル基は置換基を有しないことが好ましい。
R9とR10のアルキル基は直鎖状であることが好ましい。R9とR10が直鎖状アルキル基であれば、スクアリリウム化合物の耐熱性が高まる傾向となり、スクアリリウム化合物を樹脂に配合して加熱硬化する際など、スクアリリウム化合物の分解を抑えることができる。そのため、加熱処理を経た樹脂硬化物中においても、スクアリリウム化合物を高濃度に存在させることが可能となる。
スクアリリウム化合物は、製造容易性の点から、R1が上記式(3)で表される基であることがより好ましく、R5が上記式(4)で表される基であることがより好ましい。この場合、R2、R3、R6、R7はアミド基でないことが好ましく、例えば、水素原子またはアルキル基であることが好ましい。
R1が式(3)で表される基であり、R5が式(4)で表される基であるスクアリリウム化合物としては、下記式(6)で表されるスクアリリウム化合物が好適に示される。下記式(6)において、R2〜R4、R6〜R10、環Aおよび環Bは上記に説明した通りである。
式(6)で表されるスクアリリウム化合物は、製造が比較的容易であり、有機溶媒や樹脂への溶解性に優れるものとなる。そのため、樹脂組成物中にスクアリリウム化合物を高濃度に含有させることが可能になり、当該樹脂組成物から光学フィルターを形成する場合など、厚みを薄く形成しても、スクアリリウム化合物に由来して赤色〜近赤外領域の光を好適に吸収させることができる。また、スクアリリウム化合物をセキュリティインクに使用する場合などは、インク中にスクアリリウム化合物を高濃度に含有させることができ、インクの発色性を高めることができる。さらに、熱硬化性樹脂組成物の硬化物中でも、スクアリリウム化合物本来の吸収スペクトルに従って、可視光領域の光を高い透過率で透過させつつ、赤色〜近赤外領域の光を選択的に吸収することが可能となる。
本発明の樹脂組成物に含まれるスクアリリウム化合物としては、特に下記式(7)で表されるスクアリリウム化合物が好適に示される。下記式(7)において、R2〜R4、R6〜R12、環A、環B、mおよびnは上記の説明が参照される。
上記に説明したスクアリリウム化合物は、下記式(8−1)の化合物と下記式(8−2)の化合物をスクアリン酸と反応させることにより製造することができる。下記式(8−1)および式(8−2)中、R1〜R3、R5〜R7、環Aおよび環Bは、上記の式(1)における意味と同じであり、その好適態様も上記に説明した通りである。式(8−1)の化合物と式(8−2)の化合物は同一であってもよい。
スクアリン酸と上記化合物との反応は、溶媒存在下で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、例えば、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;クロロトルエン、ジクロロベンゼン等の塩素系芳香族類;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;等が挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
スクアリン酸との反応において、反応温度は適宜設定すればよく、例えば30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましく、また170℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましい。当該反応は還流下で行うことが好ましい。反応時間は特に限定されず、反応の進行状況に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、また48時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましい。反応時の雰囲気は、不活性ガス(窒素、アルゴン等)雰囲気とすることが好ましい。
スクアリリウム化合物の製造は、次の論文を参照することもできる:Serguei Miltsov et al.,“New Cyanine Dyes:Norindosquarocyanines”, Tetrahedron Letters, Vol.40, Issue 21, p.4067-4068 (1999)。
得られたスクアリリウム化合物は、必要に応じて、ろ過、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、アルミナカラムクロマトグラフィー、昇華、再結晶、晶析など公知の精製手段によって適宜精製することができる。スクアリリウム化合物の化学構造は、質量分析法、単結晶X線構造解析法、フーリエ変換赤外分光法、核磁気共鳴分光法などの公知の分析方法により解析することができる。
本発明の樹脂組成物に用いられる熱硬化性樹脂について説明する。熱硬化性樹脂は、加熱により樹脂成分の重合反応が起こり硬化するものであれば特に限定されず、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂等が挙げられる。なかでも、熱硬化性樹脂としては、耐熱性が高く、高温下での形状安定性に優れる点から、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
エポキシ樹脂に含まれるオキシラン化合物は、エポキシ基(オキシラン環)をグリシジル基の形態で含んでいてもよく、シクロアルキレン環の二重結合を酸化してエポキシ化した脂環式エポキシ基(シクロアルケンオキサイド)の形態で含んでいてもよい。エポキシ基がグリシジル基の形態で含まれる場合は、グリシジル基は、例えばグリシジルエーテルの形態で存在していてもよく、グリシジルアミンの形態で存在していてもよく、グリシジルエステルの形態で存在していてもよく、もちろんグリシジル基が直接主鎖に結合していてもよい。
エポキシ樹脂としては、主鎖に芳香環構造を有する芳香族エポキシ樹脂、脂環構造を有する脂環式エポキシ樹脂、主鎖に芳香環構造も脂環構造も有さず脂肪族炭化水素鎖構造を有する脂肪族エポキシ樹脂などを用いることができ、特にその種類は限定されない。
芳香族エポキシ樹脂としては、主鎖にビスフェノール骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、ナフタレン環、アントラセン環等を有するオキシラン化合物が挙げられ、これらの化合物には通常グリシジル基の形態でエポキシ基が含まれる。芳香族エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;テトラグリシジルアミノジフェニルメタン等の多官能性グリシジルアミン樹脂;テトラフェニルグリシジルエーテルエタン等の多官能性グリシジルエーテル樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂;フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、ナフトール等のフェノール化合物とフェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アルデヒドとの縮合反応により得られるポリフェノール化合物と、エピクロルヒドリンとの反応物;フェノール化合物とジビニルベンゼンやジシクロペンタジエン等のジオレフィン化合物との付加反応により得られるポリフェノール化合物と、エピクロルヒドリンとの反応物等が挙げられる。
脂環式エポキシ樹脂としては、シクロヘキサン環等の脂環構造を有するオキシラン化合物が挙げられ、エポキシ基はグリシジル基またはシクロアルケンオキサイドの形態で含まれる。グリシジル基を有する脂環式エポキシ樹脂としては、主鎖に脂環構造を有するものが挙げられ、例えば、上記の芳香族エポキシ樹脂の芳香環を水素化したもの(水添エポキシ樹脂)や、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物等が挙げられる。シクロアルケンオキサイド構造を有する脂環式エポキシ樹脂としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、イプシロン−カプロラクトン変性−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等が挙げられる。
脂肪族エポキシ樹脂としては、主鎖にプロピレングリコール構造、アルキレン構造、オキシアルキレン構造等を有するオキシラン化合物が挙げられ、これらの化合物には通常グリシジル基の形態でエポキシ基が含まれる。脂肪族エポキシ樹脂としては、例えば、ポリヒドロキシ化合物(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG600)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(PPG)、グリセロール、ジグリセロール、テトラグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパンおよびその多量体、ペンタエリスリトールおよびその多量体、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース等の単/多糖類等)とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるもの等が挙げられる。
エポキシ樹脂としては脂環式エポキシ樹脂を用いることが好ましい。脂環式エポキシ樹脂を用いれば、樹脂硬化物の耐熱性を高めやすくなり、また着色の少ないものとすることができる。
エポキシ樹脂に含まれるオキシラン化合物は、エポキシ基(オキシラン環)をグリシジル基の形態で含むことが好ましい。エポキシ樹脂は通常、硬化剤や硬化触媒を含む樹脂組成物として取り扱われるが、グリシジル基を有するエポキシ樹脂を用いれば、硬化の際、様々な種類の硬化剤や硬化触媒を使用することができるため、硬化剤や硬化触媒を適宜選択して樹脂組成物としての適用範囲を広げることができる。エポキシ樹脂に含まれるオキシラン化合物は、エポキシ基(オキシラン環)を1分子中に3個以上含むこと(多官能型)がより好ましい。
エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物は、硬化剤および/または硬化触媒を含有することが好ましい。硬化剤および硬化触媒は公知のものを用いることができ、エポキシ樹脂の種類や所望する性状に応じて適宜選択すればよい。硬化剤としては、アミン類(脂肪族ジアミン、脂肪族ポリアミン、脂環式ジアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ジアミン、芳香族ポリアミン等)、ポリアミノアミド類、酸無水物類(脂肪族酸無水物、脂環式酸無水物、芳香族酸無水物等)、フェノール類(ビスフェノール、ポリフェノール類等)、ポリメルカプタン類等が挙げられる。硬化触媒としては、3級アミン類(トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデカン、1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)−ノネン−5等)、イミダゾール類(1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等)、ルイス酸塩類やブレンステッド酸塩類等が挙げられる。硬化剤および硬化触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。硬化剤および硬化触媒は、それらの総量として、エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば0.1〜10質量部用いればよい。
硬化剤としては、潜在性硬化触媒を用いることが好ましい。潜在性硬化触媒としては熱潜在性硬化触媒や光潜在性硬化触媒が挙げられ、それぞれ反応形式の違いにより、カチオン硬化触媒とラジカル硬化触媒が存在する。潜在性硬化触媒は、エポキシ樹脂とともに樹脂組成物中に含有させても、熱や光の反応開始のきっかけを与えなければ、長期間安定して保存することが可能となるため、樹脂組成物の取り扱い性が向上する。熱潜在性硬化触媒であれば、樹脂組成物を加熱することにより硬化反応が進行し、光潜在性硬化触媒であれば、樹脂組成物に活性エネルギー線を照射することにより硬化反応が進行する。このように硬化剤として潜在性硬化触媒を用いれば、エポキシ樹脂の硬化反応を自在に調節することができ、1液型樹脂組成物として調製しても保存安定性に優れるとともに、硬化させたいときは加熱や活性エネルギー線の照射により反応のきっかけを与えることにより、速やかに硬化反応を進行させることができる。なかでも、硬化物の収縮量を低減できる点から、熱潜在性カチオン硬化触媒または光潜在性カチオン硬化触媒を用いることが好ましい。
熱潜在性カチオン硬化触媒は公知のものを適宜用いればよく、なかでも、有機ボランとルイス塩基との塩を用いることが好ましい。有機ボランとルイス塩基との塩を用いることも好ましい。有機ボランはルイス酸として機能し、例えば下記式(9)で表されるものが好ましく用いられる。このような熱潜在性カチオン硬化触媒を用いることにより、耐熱性や耐湿性等の耐久性に優れ、着色の低減された硬化物を得やすくなる。
BRb1 uRb2 3-u (9)
上記式(9)中、Rb1はフッ化フェニル基を表し、Rb2は置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、uは1〜3の整数を表す。Rb1のフッ化フェニル基は、フェニル基の水素原子が1〜5個のフッ素原子で置換されている。Rb1が複数ある場合は、複数のRb1は同一であっても異なっていてもよく、Rb2が複数ある場合は、複数のRb2は同一であっても異なっていてもよい。Rb2の炭化水素基としては、炭素数1〜20であることが好ましく、アルキル基、アリール基またはアルケニル基であることが好ましい。これらの基に有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基等が挙げられる。
上記式(9)で表される有機ボラン(ルイス酸)として具体的には、例えば、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(以下、「TPB」と称する)、ビス(ペンタフルオロフェニル)フェニルボラン、ペンタフルオロフェニル−ジフェニルボラン、トリス(4−フルオロフェニル)ボラン等が好ましい。これらの中でも、硬化物の耐熱性、耐湿熱性、耐温度衝撃性等を向上できる点で、TPBがより好ましい。なお、ルイス酸としてTPBを含む触媒を、「TPB触媒」と称す。
有機ボランの対イオンとなるルイス塩基は、有機ボランのホウ素原子と配位結合を形成できるものであれば限定されず、ルイス塩基として通常用いられるものを用いることができ、非共有電子対を有する原子を有する化合物が好適に用いられる。具体的には、窒素原子、リン原子または硫黄原子を有する化合物を用いることができる。この場合、ルイス塩基は、窒素原子、リン原子または硫黄原子が有する非共有電子対を有機ボランのホウ素原子に供与することにより、配位結合を形成することができる。
有機ボランとルイス塩基との塩としては、例えば、TPB/モノアルキルアミン錯体、TPB/ジアルキルアミン錯体、TPB/トリアルキルアミン錯体等のTPB/アルキルアミン錯体やTPB/ヒンダードアミン錯体等の有機ボラン/アミン錯体;TPB/NH3錯体等の有機ボラン/アンモニア錯体;TPB/トリアリールホスフィン錯体、TPB/ジアリールホスフィン錯体、TPB/モノアリールホスフィン錯体等の有機ボラン/ホスフィン錯体;TPB/アルキルチオール錯体等の有機ボラン/チオール錯体;TPB/ジアリールスルフィド錯体、TPB/ジアルキルスルフィド錯体等の有機ボラン/スルフィド錯体等が挙げられる。これらの中でも、TPB/アルキルアミン錯体、TPB/ヒンダードアミン錯体、TPB/NH3錯体、TPB/ホスフィン錯体が好適に用いられる。
光潜在性カチオン硬化触媒としては、例えば、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムホスフェート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロロフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロロフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロフォスフェート、ビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe−ヘキサフルオロホスフェート、ジアリルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。これらの中でも、オニウム塩を使用することが好ましく、トリアリールスルホニウム塩およびジアリールヨードニウム塩のうち少なくとも1種を使用することが好ましい。
本発明の樹脂組成物は、上記に説明したスクアリリウム化合物と熱硬化性樹脂を少なくとも含むものであり、樹脂組成物に含まれるスクアリリウム化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
スクアリリウム化合物は一種の色素と見なすことができるが、本発明の樹脂組成物は、用途に応じた所望の性能が確保される限り、上記式(1)で表されるスクアリリウム化合物以外に他の色素を含有していてもよい。樹脂組成物に含まれていてもよい色素としては、上記式(1)で表されるスクアリリウム化合物以外のスクアリリウム系色素、クロコニウム系色素、中心金属イオンとして銅(例えば、Cu(II))や亜鉛(例えば、Zn(II))等を有していてもよい環状テトラピロール系色素(ポルフィリン類、クロリン類、フタロシアニン類、コリン類等)、シアニン系色素、クアテリレン系色素、ナフタロシアニン系色素、ニッケル錯体系色素、銅イオン系色素、ジインモニウム系色素、サブフタロシアニン系色素、キサンテン系色素、アゾ系色素、ジピロメテン系色素等が挙げられる。これら他の色素は、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。なかでも、式(1)のスクアリリウム化合物と特開2016−074649号公報に開示されるスクアリリウム化合物(下記式(10)で表されるスクアリリウム化合物)とを組み合わせて用いることが好ましく、これにより近赤外領域に広い吸収波長域を有し、かつこれより短波長側では可視光領域の広い範囲で高い透過率を示す樹脂組成物を形成することが容易になる。
上記式(10)中、R21およびR22はそれぞれ独立して、下記式(11)で表される基を表し、下記式(11)中、環Pは、4〜9員の不飽和炭化水素環を表し、環Qは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、置換基を有していてもよい芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環を表し、R23は、水素原子、有機基または極性官能基を表し、R24は、有機基または極性官能基を表し、*は式(10)中の4員環(スクアリリウム骨格)との結合部位を表し、kは0〜6の整数であり、かつh以下(ただし、hは環Pの構成員数から3を引いた値である)であり、kが2以上である場合、複数のR24は同一であっても異なっていてもよい。
R23とR24の有機基と極性官能基の詳細は、R1〜R3とR5〜R7の有機基と極性官能基の説明が参照される。R23としては、水素原子、アルキル基、アルコキシカルボニル基、アリール基が好ましく、アルキル基またはアリール基がより好ましい。この場合、アルキル基の炭素数は、直鎖状または分岐状のアルキル基であれば1〜6が好ましく、より好ましくは1〜4であり、脂環式のアルキル基であれば4〜7が好ましく、より好ましくは5〜6である。アリール基の炭素数は6〜10が好ましく、より好ましくは6〜8である。R23がアルキル基またはアリール基である場合、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が好ましく挙げられる。R24としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲノ基、アリール基、アルコキシカルボニル基(エステル基)、アミド基、スルホンアミド基、水酸基が好ましく、アルキル基または水酸基がより好ましく、当該アルキル基としては、炭素数1〜4の直鎖状または分岐状のアルキル基が好ましく挙げられる。なお、環Pは置換基R24を有しないことも好ましく、すなわちkが0であることも好ましい。
環Pの構造としては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン、シクロヘプタトリエン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロオクタトリエン、シクロノネン、シクロノナジエン、シクロノナトリエン、シクロノナテトラエン等のシクロアルケン構造が挙げられる。なかでも、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のシクロアルカンモノエンが好ましく、シクロヘキセン、シクロヘプテン、またはシクロオクテンがより好ましい。
環Qの芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環、フルオランテン環、シクロテトラデカヘプタエン環等が挙げられる。芳香族炭化水素環は、環構造を1個のみ有するものであってもよく、2個以上の環構造が縮合したものであってもよい。環Qの芳香族複素環は、N(窒素原子)、O(酸素原子)およびS(硫黄原子)から選ばれる1種以上の原子を環構造に含み、芳香族性を有するものであり、例えば、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、プリン環、プテリジン環等が挙げられる。芳香族複素環は、環構造を1個のみ有するものであってもよく、2個以上の環構造が縮合したものであってもよい。環Qのこれらの環構造を含む縮合環は、芳香族炭化水素環と芳香族複素環とが縮環した構造を有するものであり、例えば、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、ベンゾピラン環、アクリジン環、キサンテン環、カルバゾール環等が挙げられる。
環Qは置換基を有していてもよく、当該置換基としては上記に説明した有機基や極性官能基が挙げられる。なかでも、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4の直鎖状または分岐状アルキル基)、アリール基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜2のアルキルチオ基)、ヘテロアリール基、アミノ基、アミド基、スルホンアミド基、水酸基、チオール基、ベンゾチアゾール基、インドリニル基等の電子供与性基;ハロゲノ基(好ましくは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基)、ハロゲノアルキル基(好ましくは炭素数1〜3のパーハロゲノアルキル基)、シアノ基、アルコキシカルボニル基(エステル基)、カルボキシ基(カルボン酸基)、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、スルホ基(スルホン酸基)、ニトロ基等の電子吸引性基が好ましく挙げられる。これらの中でも、電子吸引性基がより好ましく、ハロゲノ基が特に好ましい。なお、環Qは置換基を有さなくてもよい。環Qが置換基を有する場合、その数は1〜3が好ましく、1〜2がより好ましく、さらに好ましくは1である。
式(10)で表されるスクアリリウム化合物の具体例としては、特開2016−074649号公報の実施例に記載のスクアリリウム化合物01〜スクアリリウム化合物30が挙げられる。なお、式(10)で表されるスクアリリウム化合物としては、環Pがシクロヘキセン環またはシクロオクテン環であるものが好ましく、シクロオクテン環がより好ましく、環Qは、置換基を有していてもよいベンゼン環または置換基を有していてもよいナフタレン環であるものが好ましい。式(10)で表されるスクアリリウム化合物の詳細は、特開2016−074649号公報の記載が参照される。
樹脂組成物中のスクアリリウム化合物の含有量(2種以上のスクアリリウム化合物を用いる場合はそれらの合計含有量)は、所望の性能を発現させる点から、樹脂組成物の固形分100質量%中、0.01質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、樹脂組成物の成形性や成膜性等を高める点から、樹脂組成物中のスクアリリウム化合物の含有量は、樹脂組成物の固形分100質量%中、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。樹脂組成物がスクアリリウム化合物以外の色素も含有する場合は、これらの合計含有量が上記範囲にあることが好ましい。このように樹脂組成物中のスクアリリウム化合物の含有量を調整することにより、樹脂組成物から樹脂層を形成して光学フィルターとした場合に、可視光領域の光を高い透過率で透過させつつ、赤色〜近赤外領域の光を選択的に吸収させることが容易になる。
上記式(1)のスクアリリウム化合物と上記式(10)のスクアリリウム化合物とを組み合わせて用いる場合、式(1)のスクアリリウム化合物の含有量は、式(1)のスクアリリウム化合物と式(10)のスクアリリウム化合物との合計100質量%に対し、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、また80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。
樹脂組成物が、スクアリリウム化合物以外の他の色素をも含有する場合、他の色素の含有量は、スクアリリウム化合物100質量部に対し、100質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂は透明性が高いものであることが好ましく、これにより樹脂組成物を光学用途に好適に適用しやすくなる。熱硬化性樹脂は、例えば、厚さ0.1mmでの全光線透過率が75%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。前記全光線透過率の上限は特に限定されず、全光線透過率は100%以下であればよいが、例えば95%以下であってもよい。全光線透過率は、JIS K 7105に基づき測定する。
樹脂組成物は、溶媒を含有するものであってもよく、塗料化されたものであってもよい。塗料化された樹脂組成物は、溶媒を含むことにより樹脂組成物の塗工が容易になる。塗料化された樹脂組成物は、例えば、スクアリリウム化合物を熱硬化性樹脂を含む溶媒に溶解させたり、スクアリリウム化合物を熱硬化性樹脂を含む溶媒(分散媒)に分散させることにより得ることができる。溶媒は、スクアリリウム化合物の溶媒(溶剤)として機能するものであっても、分散媒として機能するものであってもよい。溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;PGMEA(2−アセトキシ−1−メトキシプロパン)、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体類(エーテル化合物、エステル化合物、エーテルエステル化合物等);N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;N−メチル−ピロリドン(具体的には、1−メチル−2−ピロリドン等)等のピロリドン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;等が挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
溶媒の含有量としては、樹脂組成物100質量%中、例えば50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、また100質量%未満が好ましく、95質量%以下がより好ましい。溶媒の含有量をこのような範囲内に調整することにより、スクアリリウム化合物濃度の高い樹脂組成物を得ることが容易になる。
なお、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類等は、スクアリリウム化合物を分解するおそれがあるため、使用量は少ない方が好ましい。そのためアミド類の含有量は、樹脂組成物100質量%中、60質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下がさらにより好ましく、0質量%が特に好ましい(すなわち、アミド類を含まない)。
樹脂組成物は、例えば、350nm〜400nmの波長域に吸収能を有する化合物(紫外線吸収剤)を含んでいてもよい。これらの化合物の存在により、350nm〜400nm波長域の光に起因する樹脂組成物の劣化を抑制することができる。350nm〜400nmの波長域に吸収能を有する化合物を併用する場合、350nm〜400nmの波長域に吸収能を有する化合物としては、例えば、BASF社製のTINUVIN(登録商標)シリーズ、三共化成社製のジスライザー(登録商標)シリーズ、アデカ社製のアデカスタブ(登録商標)シリーズ、住友化学社製のスミソーブ(登録商標)シリーズ、共同薬品社製のバイオソーブ(登録商標)シリーズ、シプロ化成社製のシーソーブ(登録商標)シリーズ等を用いることができる。
樹脂組成物は表面調整剤を含んでいてもよく、これにより、樹脂組成物を硬化して樹脂層を形成した際に、樹脂層にストライエーションや凹み等の外観上の欠陥を生じることを抑制することができる。表面調整剤の種類は特に限定されず、シロキサン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系レベリング剤などを用いることができる。表面調整剤としては、例えば、ビックケミー社製のBYK(登録商標)シリーズや信越化学工業社製のKFシリーズ等を用いることができる。
樹脂組成物は分散剤を含んでいてもよく、これにより、樹脂組成物中でのスクアリリウム化合物の一部が分散状態で存在しても、分散性を安定化され、スクアリリウム化合物の再凝集を抑制することができる。分散剤の種類は特に限定されず、エフカアディティブズ社製のEFKAシリーズ、ビックケミー社製のBYK(登録商標)シリーズ、日本ルーブリゾール社製のソルスパース(登録商標)シリーズ、楠本化成社製のディスパロン(登録商標)シリーズ、味の素ファインテクノ社製のアジスパー(登録商標)シリーズ、信越化学工業社製のKPシリーズ、共栄社化学社製のポリフローシリーズ、ディーアイシー社製のメガファック(登録商標)シリーズ、サンノプコ社製のディスパーエイドシリーズ等を用いることができる。
樹脂組成物は、シランカップリング剤やその加水分解物あるいは加水分解縮合物を含んでいてもよく、これにより樹脂組成物を基板上で硬化させたりした場合に、硬化した樹脂層の基板への密着性を高めることができる。
樹脂組成物には、必要に応じて、可塑剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、比抵抗調整剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
樹脂組成物は、硬化することにより硬化物とすることができる。本発明の樹脂組成物は、上記式(1)で表されるスクアリリウム化合物を含有するため、硬化物中でもスクアリリウム化合物本来の分光特性を発揮させることができる。そのため、赤色〜近赤外領域の光を選択的に吸収し、可視光領域の光を高い透過率で透過させることができる光学フィルター等に好適に適用することができる。
硬化物は、例えば、樹脂組成物を所定形状で硬化させた成型品であってもよい。成型品の形状は特に限定されるものではないが、板状、シート状、粒状、粉状、塊状、粒子凝集体状、球状、楕円球状、レンズ状、立方体状、柱状、棒状、錐形状、筒状、針状、繊維状、中空糸状、多孔質状等が挙げられる。
硬化物は、塗料化された樹脂組成物を塗工して硬化させたものであってもよい。この場合は、液状またはペースト状の樹脂組成物を基板(例えば、樹脂板、フィルム、ガラス板等)上に塗工し硬化させることで、厚さ200μm以下のフィルム状や、厚さ200μm超のシート状の硬化物を得ることができる。樹脂組成物の塗工は、スピンコート法、溶媒キャスト法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法等の公知の方法を採用することができる。得られた硬化物は、基材から剥離してフィルムやシートとして取り扱ってもよいし、基材と一体化して取り扱うこともできる。
樹脂組成物の硬化物は、単一の樹脂層(樹脂組成物が硬化して形成された層)から構成されていてもよく、複数の樹脂層から構成されていてもよい。硬化物が基材と一体化して取り扱われる場合は、硬化物は基材の一方面のみに形成されてもよく、両面に形成されてもよい。なお、硬化物と基材とが一体化したものは、樹脂組成物から形成された成形体を基材と熱圧着したり化学結合することによっても形成することができる。
本発明の樹脂組成物から得られる硬化物は、波長450nm〜1100nmの範囲の吸収スペクトルにおいて、波長650nm〜950nmの範囲に最大吸収ピークを有することが好ましい。すなわち硬化物の吸収スペクトルを測定したとき、波長650nm〜950nmの範囲に吸収極大を有するピークを有し、かつ当該吸収ピークの吸収極大が波長450nm〜1100nmの範囲で最大値をとることが好ましい。樹脂組成物の硬化物がこのような吸収スペクトルを示すものであれば、赤色〜近赤外領域の光を効果的に吸収できる。前記極大波長は、670nm以上がより好ましく、685nm以上がさらに好ましく、また900nm以下がより好ましく、850nm以下がさらに好ましく、800nm以下がさらにより好ましい。
本発明の樹脂組成物は、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品、電気・電子部品等の様々な用途で用いられるフィルター形成用の樹脂組成物として好ましく使用できる。樹脂組成物およびその硬化物は、例えば、近赤外線カットフィルター等の光学フィルターに適用したり、省エネルギー用に熱線を遮断する近赤外線吸収フィルムや近赤外線吸収板、可視光および近赤外光を利用した太陽電池用材料、プラズマディスプレイパネル(PDP)やCCD用の特定波長吸収フィルター等への適用も可能である。このようなフィルターは、単一または複数の樹脂層から形成されてもよく、支持体と一体化されて形成されてもよい。
支持体と一体化されたフィルターは、例えば、樹脂組成物を、支持体表面(または、支持体と樹脂層との間にバインダー層等の他の層を有する場合は、当該他の層の表面)にスピンコート法や溶媒キャスト法により塗布し、硬化することにより形成することができる。また、支持体に対して、樹脂組成物から形成された面状成形体を熱圧着することによりフィルターを形成してもよい。
樹脂組成物から形成された樹脂層は、支持体の一方面のみに設けられてもよく、両面に設けられてもよい。樹脂層の厚さは特に限定されないが、所望の近赤外線カット性能を確保する点から、例えば0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、2μm以上がさらに好ましく、また1mm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。支持体上に塗料化された樹脂組成物を塗工するなどして樹脂層を形成する場合は、支持体によってフィルターの強度を確保することができるため、樹脂層の厚さをさらに薄くすることができる。支持体上に樹脂層を形成する場合の樹脂層の厚さは、例えば、50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましく、5μm以下が特に好ましい。
支持体としては、樹脂板、樹脂フィルム、ガラス板等の透明基板を用いることが好ましい。なかでも、光学フィルターの耐熱性を高める観点から、支持体としてガラス基板を用いることが好ましく、このように形成された光学フィルターは、例えば、半田リフローにより電子部品に実装することが可能となる。またガラス基板は、高温にさらされても割れや反りが起こりにくいため、樹脂層との密着性を確保しやすくなる。また、支持体と樹脂層の間に、例えばシランカップリング剤から形成されたバインダー層を設けてもよく、これにより樹脂層とガラス基板との密着性を高めることができる。なお、樹脂層を形成する樹脂組成物に、シランカップリング剤やその加水分解物あるいは加水分解縮合物を含めるようにしても、樹脂層とガラス基板との密着性を高めることができる。
支持体(基板)の厚みは、例えば、強度を確保する点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、また薄型化の点から、0.4mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましい。
樹脂組成物から形成された樹脂層には、第2の樹脂層として、当該樹脂層と同一または異なる樹脂から構成された保護層を積層させてもよい。保護層を設けることにより、樹脂層に含まれるスクアリリウム化合物の耐久性(耐分解性)を高めることができる。保護層は、樹脂層の一方面のみに設けられてもよく、両面に設けられてもよい。樹脂層が支持体上に設けられる場合は、保護層は、樹脂層の支持体とは反対側の面に設けられることが好ましい。
本発明の樹脂組成物から光学フィルターを形成する場合、光学フィルターは、蛍光灯等の映り込みを低減する反射防止性や防眩性を有する層(反射防止膜)、傷付き防止性能を有する層、その他の機能を有する透明基材等を有していてもよい。
光学フィルターは、樹脂層上に近赤外線反射膜(例えば、700nm〜800nmの波長域の反射膜)を有していてもよい。近赤外線反射膜は、樹脂層よりも入光側に設けられていることが好ましい。光学フィルターに近赤外線反射膜が設けられていれば、光学フィルターの透過光から近赤外線をよりカットすることができる。なお、近赤外線反射膜は、紫外線反射機能を兼ね備えるものであってもよい。
近赤外線反射膜や反射防止膜(可視光反射防止膜)は、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜から構成することができる。従って、このような機能を光学フィルターに付与する場合は、光学フィルターは誘電体多層膜を有することが好ましい。高屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、屈折率の範囲が通常1.7〜2.5の材料が選択される。高屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化錫、酸化ビスマス等の酸化物;窒化ケイ素等の窒化物;前記酸化物や前記窒化物の混合物やそれらにアルミニウムや銅等の金属や炭素をドープしたもの(例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO))等が挙げられる。低屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.6以下の材料を用いることができ、屈折率の範囲が通常1.2〜1.6の材料が選択される。低屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、六フッ化アルミニウムナトリウム等が挙げられる。
光学フィルターはまた、アルミ蒸着膜、貴金属薄膜、酸化インジウムを主成分とし酸化スズを少量含有させた金属酸化物微粒子を分散させた樹脂膜等を有していてもよい。
光学フィルターの厚みは、例えば、1mm以下であることが好ましい。これにより、例えば、撮像素子の小型化への要請に十分に応えることができる。光学フィルターの厚みは、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下、さらにより好ましくは150μm以下であり、また30μm以上が好ましく、50μm以上がさらに好ましい。
光学フィルターは、イメージセンサー(撮像素子)、照度センサー、近接センサー等のセンサーの構成部材の一つとして用いることができる。例えばイメージセンサーは、被写体の光を電気信号等に変換して出力する電子部品として用いられ、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等が挙げられる。イメージセンサーは、携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等に用いることができる。センサーは、上記の光学フィルターを1または2以上含み、必要に応じて、さらに他のフィルター(例えば、可視光線カットフィルター、赤外線カットフィルター、紫外線カットフィルター等)やレンズを有していてもよい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
(1)化合物の合成
(1−1)合成例1:スクアリリウム化合物Aの合成
300mLの4口フラスコに、ジメチルホルムアミド5g、炭酸カリウム2.2g、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン1.07g(0.008mol)、2−ヨードプロパン1.4gを入れ、窒素流通下(10mL/min)、撹拌羽を用いて撹拌しながら80℃条件にて4時間反応させた。反応終了後、得られた反応液を、水酸化カリウム水溶液50mLと酢酸エチル50mLの入ったビーカーに、撹拌させながら加えた。水溶液はアルカリ性を示していた。しばらく撹拌したのち分液ロートにて有機相を抽出し、抽出した有機相に硫酸マグネシウム(無水)を加えて脱水した。この有機相から固形物(無機分)をろ別した後、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。留去後、適宜シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)を用い、また濃縮および真空乾燥を行うことにより、中間体A1を0.9g得た。1,2,3,4−テトラヒドロキノリンに対する収率は64.2mol%であった。
次いで、50mLの2口フラスコに、窒素流通下(10mL/min)、中間体A1を2.80g(0.0160mol)と硫酸46gを入れ、撹拌羽を用いて撹拌しながらフラスコ内の温度が0〜5℃となるように氷冷した。そこへ、硝酸1.6gと硫酸6.6gからなる混酸8.2gをフラスコ内の温度が0〜5℃を維持できるよう静かに滴下し、滴下終了後、1時間撹拌を継続した。撹拌終了後、得られた反応液を200gの氷水へ投入し、水酸化カリウム60gを少しずつ加えて中和した。水酸化カリウム添加後、水溶液はアルカリ性を示していた。そこに酢酸エチル200gを加えてしばらく撹拌した後、分液ロートにて有機相を抽出し、抽出した有機相に硫酸マグネシウム(無水)を加えて脱水した。この有機相から固形物(無機分)をろ別した後、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。留去後、適宜シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)を用い、また濃縮および真空乾燥を行うことにより、中間体A2を3.1g得た。中間体A1に対する収率は88.0mol%であった。
次いで、100mLの2口フラスコに、中間体A2を2.64g(0.012mol)、濃塩酸(塩酸濃度36重量%)を9.0g入れ、窒素流通下(5mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、塩化スズ・2水和物9.1gと濃塩酸(塩酸濃度36重量%)9.1gの入った溶液を、反応熱に注意しながら少しずつ添加した。添加後、3時間ほど室温にて撹拌した。その後、純水100gと酢酸エチル100gの入ったビーカーに、得られた反応液を撹拌させながら加えた。そこに水酸化カリウム溶液を少しずつ添加し、水溶液のpHが10付近になったところでしばらく撹拌した後、分液ロートにて有機相を抽出し、抽出した有機相に硫酸マグネシウム(無水)を加えて脱水した。この有機相から固形物(無機分)をろ別した後、エバポレーターを用いて溶媒を濃縮後、適宜シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)を用い、また濃縮および真空乾燥を行うことにより、中間体A3を0.96g得た。中間体A2に対する収率は42.0mol%であった。
次いで、100mLの3口フラスコに、中間体A3を2.72g(0.0143mol)、超脱水クロロホルムを50g入れ、窒素流通下(5mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、トリエチルアミンを4.34g(0.0429mol)、n−デカノイルクロリドを5.45g(0.0286mol)加え、室温にて12時間反応させた。反応終了後、得られた反応液をイオン交換水に加えて酢酸エチルで抽出を行った。抽出した有機相に硫酸マグネシウム(無水)を加えて脱水した。この有機相から固形物(無機分)をろ別した後、エバポレーターを用いて溶媒を濃縮後、適宜シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)を用い、また濃縮および真空乾燥を行うことにより、中間体A4を3.10g得た。中間体A3に対する収率は62.9mol%であった。
次いで、300mLの2口フラスコに、中間体A4を4.93g(0.0143mol)、スクアリン酸0.82g(0.0072mmol)、1−ブタノール30g、トルエン30gを入れ、窒素流通下(10mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌し、かつディーンスターク装置を用いて溶出してくる水を取り除きながら、還流条件にて3時間反応させた。反応終了後室温まで冷却させ、析出物をろ別した。ろ別した析出物をメタノールで洗浄し、再び析出物のみをろ過して、得られたケーキ(固形物)をアルミナによるカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)によって精製を行った。得られた精製物を真空乾燥機を用いて60℃で12時間乾燥し、目的物であるスクアリリウム化合物Aを3.9g得た。スクアリン酸に対する収率は71.1mol%であった。
(1−2)合成例2:スクアリリウム化合物Bの合成
合成例1において、n−デカノイルクロリドをパルミトイルクロリド(n−ヘキサデカノイルクロリド)に変更したこと以外は、合成例1と同様の手順により表1に示すスクアリリウム化合物Bを得た。スクアリン酸に対する収率は86.1mol%であった。
(1−3)合成例3:スクアリリウム化合物Cの合成
300mLの4口フラスコに、クロロホルム110g、酢酸1.8g、7−ニトロ−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン5.4g(0.0303mol)、ナトリウムトリアセトキシボロヒドリド12.84g(0.0606mol)を入れ、窒素流通下(10mL/min)、撹拌羽を用いて撹拌しながらイソブチルアルデヒド4.37g(0.0606mol)を10分間かけて滴下した。滴下終了後、得られた反応液を水300gに加え、塩酸を用いて中和した。そこに酢酸エチル300gを加え、分液ロートにて有機相を抽出し、抽出した有機相に硫酸マグネシウム(無水)を加えて脱水した。この有機相から固形物(無機分)をろ別した後、エバポレーターを用いて溶媒を濃縮後、適宜シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)を用い、また濃縮および真空乾燥を行うことにより、中間体C1を6.13g得た。7−ニトロ−1,2,3,4−テトラヒドロキノリンに対する収率は86.4mol%であった。次いで、中間体C1から、合成例1の中間体A2から中間体A3の合成手順に従い(ただし中間体A2を中間体C1に変更する)、中間体C2を合成した。中間体C2の中間体C1に対する収率は83.0mol%であった。さらに、中間体C2から、合成例1の中間体A3から中間体A4の合成手順に従い(ただし中間体A3を中間体C2に変更する)、中間体C3を合成した。中間体C3の中間体C2に対する収率は92.0mol%であった。次いで、中間体C3から、合成例1の中間体A4からスクアリリウム化合物Aの合成手順に従い(ただし中間体A4を中間体C3に変更する)、スクアリリウム化合物Cを合成した。スクアリリウム化合物Cのスクアリン酸に対する収率は63.5mol%であった。
(1−4)合成例4:スクアリリウム化合物Dの合成
合成例3において、n−デカノイルクロリドをパルミトイルクロリド(n−ヘキサデカノイルクロリド)に変更したこと以外は、合成例3と同様の手順により表1に示すスクアリリウム化合物Dを得た。スクアリン酸に対する収率は77.4mol%であった。
(1−5)合成例5:比較スクアリリウム化合物Aの合成
合成例4において、イソブチルアルデヒドをプロピオンアルデヒドに変更したこと以外は、合成例4と同様の手順により表1に示す比較スクアリリウム化合物Aを得た。スクアリン酸に対する収率は69.9mol%であった。
(2)樹脂組成物の調製
(2−1)硬化触媒の調製
国際公開第1997/031924号に記載された合成法に従って、TPB(トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン)含有量7%の安藤パラケミー社製アイソパー(登録商標)E溶液255gを調製した。この溶液に水を60℃で滴下して白色結晶を析出させ、これを室温まで冷却した後、吸引ろ過し、n−ヘプタンで洗浄した。得られたケーキを60℃で減圧乾燥し、白色結晶であるTPB・水錯体(TPB含有粉末)を18.7g得た。この錯体は水分量9.2%(カールフィッシャー水分計)であり、TPB含有率は90.8%であった。乾燥後の錯体に対して19F−NMR分析とGC分析を実施したが、TPB以外のピークは検出されなかった。得られたTPB・水錯体2.0gとトルエンを1.1gとを配合し、室温で10分間混合した。その後、2mol/Lアンモニア・エタノール溶液を2.6g添加し、室温で60分間混合し、TPB触媒の均一溶液とした。これをカチオン硬化触媒とした。
(2−2)シラン加水分解物溶液の調製
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製、ofs−6040)24.7質量部と2−プロパノール32.1質量部と蒸留水3.4質量部とを配合し、25℃で均一に混合した。そこに、ギ酸1.54質量部を加えて90分間混合し、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解反応を進行させて、シラン加水分解物溶液を得た。
(2−3)エポキシ樹脂組成物の調製
エポキシ樹脂として2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物(ダイセル社製、EHPE3150)を100質量部、溶媒としてトルエン150質量部とo−キシレン75質量部、上記の合成例で得られたスクアリリウム化合物A〜Dまたは比較スクアリリウム化合物Aのいずれかを8.9質量部、表面調整剤としてビックケミー社製BYK−306(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)を0.3質量部配合し、40℃で均一に混合した。得られた混合物を25℃に降温後、上記で得られたカチオン硬化触媒2.5質量部とシラン加水分解物溶液10質量部を加えて均一に混合し、これを孔径0.45μmのフィルター(ジーエルサイエンス社製、クロマトディスク非水系13N)でろ過して異物を取り除き、エポキシ樹脂組成物を得た。
(3)光学フィルターの作製
上記で得られた各樹脂組成物を、ガラス基板(Schott社製、D263Teco)上に2cc垂らした後、スピンコーター(ミカサ社製、1H−D7)を用い、0.2秒間かけて1600回転にし、20秒間その回転数で保持し、その後0.2秒間かけて0回転になるようにして、樹脂組成物をガラス基板上に成膜した。樹脂組成物を成膜したガラス基板を、精密恒温器(ヤマト科学社製、DH611)を用いて100℃で3分間初期乾燥した。その後、イナートオーブン(ヤマト科学社製、DN610I)を用いて50℃で30分間窒素置換した後、15分程度で190℃に昇温し、窒素雰囲気下で190℃で30分間乾燥することにより、ガラス基板上に樹脂層(吸収層)を形成した。ガラス基板上に形成した樹脂層の厚みは2μmであった。なお、樹脂層の厚みは、樹脂層を形成したガラス基板の厚みとガラス基板単独の厚みをそれぞれマイクロメーターにより測定し、両者の差から求めた。
(4)光学フィルターの透過スペクトル測定
ガラス基板上に樹脂層を形成した各光学フィルターについて、分光光度計(島津製作所社製、UV−1800)を用いて透過スペクトルを測定ピッチ1nmで測定し、波長300nm〜1100nmにおける光の透過率を求めた。スクアリリウム化合物Bを含有する樹脂組成物から形成した光学フィルターの透過スペクトルを図1に示し、比較スクアリリウム化合物Aを含有する樹脂組成物から形成した光学フィルターの透過スペクトルを図2に示す。
スクアリリウム化合物A〜Dは、上記式(1)の環Aと環Bの含窒素複素環の窒素原子に分岐状アルキル基が結合したものである。スクアリリウム化合物A〜Dのいずれかを含有する樹脂組成物から形成した光学フィルターは、透過スペクトルを測定したところ、波長700nm付近に吸収極大を有する吸収ピークを示し、可視光領域の波長450nm〜600nmの範囲には実質的に吸収ピークを示さなかった。スクアリリウム化合物A〜Dを含有する樹脂組成物は、硬化物中でスクアリリウム化合物A〜D本来の分光特性を発揮させることができた。
一方、比較スクアリリウム化合物Aは、上記式(1)の環Aと環Bの含窒素複素環の窒素原子に直鎖状アルキル基が結合したものである。比較スクアリリウム化合物Aを含有する樹脂組成物から形成した光学フィルターは、透過スペクトルを測定したところ、波長700nm付近に吸収極大を有する吸収ピーク以外に、波長560nm付近に吸収極大を有する比較的大きな吸収ピークを示した。なお、比較スクアリリウム化合物Aは、溶液中では、波長700nm付近に吸収極大を有する吸収ピークを示し、波長560nm付近に吸収極大を有する吸収ピークは示さなかった。比較スクアリリウム化合物Aは、樹脂硬化物中では、溶液中で示したような比較スクアリリウム化合物A本来の分光特性を示さない結果となった。