JP6882905B2 - 軟磁性扁平粉末 - Google Patents

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Description

本発明は、ノイズ抑制用磁性シートに用いられる軟磁性扁平粉末に関する。
従来、軟磁性扁平粉末を含有する磁性シートは、電磁波吸収体、RFID(Radio Frequency Identification)用アンテナとして用いられてきた。また、近年では、デジタイザと呼ばれる位置検出装置にも用いられるようになってきている。このデジタイザには、例えば、特開2011−22631号公報(特許文献1)のような電磁誘導型のものがあり、ペン形状の位置指示器の先に内蔵されるコイルにより発信された高周波信号を、パネル状の位置検出器に内蔵されたループコイルにより読み取ることで指示位置を検出する。
ここで、検出感度を高める目的で、ループコイルの背面には高周波信号の磁路となるシートが配置される。この磁路となるシートとしては、軟磁性扁平粉末を樹脂やゴム中に配向させたシートや、軟磁性アモルファス合金箔を貼り合わせたものなどが適用される。磁性シートを用いる場合は、検出パネル全体を1枚のシートにできるため、アモルファス箔のような貼り合わせ部での検出不良などがなく優れた均一性が得られる。
また、従来、磁性シートにはFe−Si−Al合金、Fe−Si合金、Fe−Ni合金、Fe−Al合金、Fe−Cr合金などからなる粉末を、アトリッションミル(アトライタ)などにより扁平化したものが添加されてきた。これは、高い透磁率の磁性シートを得られるために、いわゆる「Ollendorffの式」からわかるように、透磁率の高い軟磁性粉末を用いること、反磁界を下げるため磁化方向に高いアスペクト比を持つ扁平粉末を用いること、磁性シート中に軟磁性粉末を高充填することが重要であるためである。軟磁性扁平粉末の長径を大きくし、アスペクト比の高い扁平状の粉末を作製する方法として、例えば、特許第4636113号公報(特許文献2)には、炭素数2〜4の1価アルコールを用いて扁平加工を実施する方法が開示されている。
デジタイザ機能はスマートフォンやタブレット端末などへ適用されるが、このようなモバイル電子デバイスは小型化の要求が厳しく、磁路シートとして用いられる磁性シートにも薄肉化の要求が高く、50μm以下程度の薄さのものが用いられるようになってきた。さらに、タブレット端末には液晶画面が10インチにもなるものがあり、磁性シートにも大面積が要求されるようになってきた。
また、一般に磁性シートの作製には、樹脂とトルエンなどの有機溶剤と扁平粉末を混合
したスラリーを、フイルムに塗布したり、印刷し、これを乾燥させる工程を含む。近年では、コストダウンのため有機溶剤の添加量の少ないスラリーとしたり、あるいは、磁性シートの強度を上げるため粘性の高い樹脂を使用するなど、塗布や印刷するときのスラリーの粘度が高い場合が出てきた。こういった状況においては、従来のように低いタップ密度などの物性を持つ扁平粉末では、以下のような課題が顕在化するようになってきた。
特開2016−72577号公報(特許文献3)のように、真密度に対するタップ密度
の比が0.18以下、つまり、タップ密度がおよそ1.2〜1.3g/cm3の扁平粉末のように使用する軟磁性扁平粉末の長径が過大であるとき、50μm以下の薄さの磁性シートを作る際に、方向性が揃わなかったり、シート内の磁性粉末に粗密ができたりして、シート成形がうまくいかない場合が多い。シート成形時のこのようなトラブルをなくす為に、シート作製時の粉末充填率を下げる方法や、成形後にシートをプレスするといった方法が行われる。しかし、前者の方法などでは、結果的にシートの透磁率を下げ、性能を低下させる。また、後者の方法などでは、シート中の粉末に過大な応力かかるため、粉末に歪が導入される。歪の導入は粉末の保磁力Hcの増大をもたらし、粉末の透磁率が低下するため結果的に性能を低下させる。
特開2011−22631号公報 特許第4636113号公報 特開2016−72577号公報
例えば、特許文献3に示すような、真密度に対するタップ密度TDが小さい軟磁性扁平粉末では、シート成形時に充填性が上がらず、透磁率特性が小さくなる。
そこで、本発明では、扁平粉末の扁平度に着目し、タップ密度に応じて、磁性シート成形時の粉末充填率ひいては透磁率が変化することを見出した。その発明の要旨とするところは、Fe−Si−Al系合金からなる扁平粉末であって、平均粒径D50が10〜50μm未満、扁平粉末の長手方向に磁場を印可して測定した保磁力Hcが119A/m以下、厚さ方向に磁場を測定した保磁力Hcが238A/m以下、長手方向の保磁力に対する厚さ方向の保磁力の比が1.2〜3.0、タップ密度TDが1.5〜4.0g/cm3を満足することを特徴とする軟磁性扁平粉末にある。
上記条件を満足する軟磁性扁平粉末を用いることによって、透磁率が十分に高い電磁波吸収体用磁性シートを作成することができる。ここで、高周波における透磁率μは実数部μ´と虚数部μ´´によって複素透磁率(μ=μ´−jμ´´)で表すことができるが、μの最大値が大きいほどμ´´の値も大きくなる傾向にある。
すなわち、Fe−Si−Al系合金からなる扁平粉末であって、平均粒径D50が10〜50μm未満、扁平粉末の長手方向に磁場を印可して測定した保磁力Hcが119A/m以下、厚さ方向に磁場を測定した保磁力Hcが238A/m以下、厚さ方向の保磁力に対する長手方向の保磁力の比が1.2〜3.0、タップ密度TDが1.5〜4.0g/cm3を満足することを特徴とする軟磁性扁平粉末。上記の条件で軟磁性扁平粉末を製造することによって、透磁率の高い粉末を作製することができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
<原料球状粉末準備工程>
本発明の軟磁性扁平粉末は、軟磁性合金粉末を扁平化処理することで作製することができる。軟磁性合金粉末は、保磁力の値が低い粉末であることが好ましく、飽和磁化の値が高い粉末であることがより好ましい。一般的に、保磁力と飽和磁化の値が優れているのは、Fe−Si−Al系合金である。
軟磁性合金粉末は、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法といった各種アトマイズ法によ
って作製される。軟磁性合金粉末の含有酸素量は、少ないほうがより好ましいため、ガスアトマイズ法による製造が好ましく、さらに不活性ガスを用いての製造がより好ましい。ディスクアトマイズ法による方法でも問題なく製造できるが、量産性の観点からは、ガスアトマイズ法が優れている。
本発明に用いられる軟磁性合金粉末の粒度は特に限定されないが、扁平後の平均粒径を調整する目的もしくは、含有酸素量の多い粉を除去する目的、その他、製造上の目的に応じて、分級されてもよい。
<扁平加工処理工程>
次に、上記軟磁性合金粉末を扁平化する。
扁平加工方法は、特に制限は無く、例えば、アトライタ、ボールミル、振動ミル等を用いて行うことができる。中でも、比較的扁平加工能力に優れるアトライタを用いることが好ましい。また、乾式で加工を行う場合は、不活性ガスを用いることが好ましい。湿式で加工する場合は、有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒の種類については特に限定されない。
有機溶媒の添加量は、軟磁性合金粉末100質量部に対して、100質量部以上であることが好ましく、200質量部以上であることがより好ましい。有機溶媒の上限は特に限定されず、求める扁平粉の大きさ・形状と、生産性のバランスに応じて適宜調整が可能である。酸素を低くするために、有機溶媒中の水分濃度は、有機溶媒100質量部に対して、0.002質量部以下での加工が好ましい。有機溶媒とともに扁平化助剤を用いてもよいが、酸化を抑えるために、軟磁性合金粉末100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましい。
<熱処理工程>
次に、上記軟磁性扁平粉末を熱処理する。熱処理装置について特に制限は無いが、熱処理温度は700℃〜900℃の条件で熱処理されることが好ましい。該当温度で熱処理を行うことによって、保磁力が低下し、高透磁率の軟磁性扁平粉末となる。また、熱処理時間について特に制限は無く、処理量や生産性に応じて適宜選択されるとよい。長時間の熱処理の場合、生産性が低下するため、5時間以内が好適である。
本発明に用いられる軟磁性扁平粉末においては、酸化を抑えるために、真空中あるいは不活性ガス中で熱処理されることが好ましい。表面処理の観点から、窒素ガス中で熱処理されてもよいが、その場合は保磁力の値が上昇し、透磁率は真空で熱処理された場合に比べて低下する傾向にある。
平均粒径D50:10〜50μm未満
軟磁性扁平粉末の平均粒径D50は10〜50μm未満であることが好ましく、15〜40μm未満であることがより好ましく、20〜35μm未満であることがさらに好ましい。平均粒径が10μm未満では、シート成形時に粉末の充填率が低くなり、実部透磁率μ´が低くなる傾向にある。また、平均粒径が大きくなりすぎると、シート成形が困難になるため好ましくない。また、平均粒径が50μm以上では、シート成形時に表面に凸が生じる傾向にあり、好ましくない。
長手方向に磁場を印可して測定した保磁力Hc:119A/m以下
軟磁性扁平粉末の長手方向に磁場を印可して測定した保磁力Hcは119A/m以下であることが好ましく、90A/m以下であることがより好ましい。本発明の請求範囲において、保磁力の値が低いほど、透磁率はより高くなる傾向にある。
厚さ方向に磁場を印可して測定した保磁力Hc:238A/m以下
軟磁性扁平粉末の厚さ方向に磁場を印可して測定した保磁力Hcは238A/m以下であることが好ましく、220A/m以下であることがより好ましい。本発明の請求範囲において、保磁力の値が低いほど、透磁率はより高くなる傾向にある。
長手方向の保磁力に対する厚さ方向の保磁力の比:1.2〜3.0
扁平粉末の保磁力の比が1.2未満となると、アスペクト比も小さくなり、透磁率は低くなる傾向にあるため、好ましくない。また、この比率が3.0よりも大きくなるとシート成形時の粉末の充填率が低くなり、透磁率は低くなる傾向にあるため、好ましくない。
タップ密度TD:1.5〜4.0g/cm3
本発明の軟磁性扁平粉末のタップ密度は、1.5〜4.0g/cm3が好ましく、1.7〜3.8g/cm3がより好ましく、1.9〜3.5g/cm3がさらに好ましい。タップ密度1.5g/cm3未満は、シート成形時の粉末の充填率が低くなり、透磁率は低くなる傾向にあるため、好ましくない。また、タップ密度4.0g/cm3を超えるとアスペクト比も小さくなり、透磁率は低くなる傾向にあるため、好ましくない。
また、シート成形後の絶縁性を高めるなどの観点においては、表面処理された粉末が好
適となる場合があり、本発明の扁平化工方法で製造された粉末について、熱処理行程中あるいは熱処理工程の前後において、表面処理工程を必要に応じて加えても良い。たとえば表面処理のために、活性ガスを微量に含む雰囲気化で熱処理されてもよい。
また、従来から提案されているシアン化カップリング剤に代表される表面処理により、耐食性やゴムへの分散性を改善することも可能である。また、磁性シートの製造方法も従来提案されている方法で可能である。例えば、トルエンに塩素化ポリエチレンなどを溶解したものに扁平粉末を混合し、これを塗布、乾燥させたものを各種のプレスやロールで圧縮することで製造可能である。
以下、本発明について、実施例によって具体的に説明する。
(扁平粉末の作製)
ガスアトマイズ法により所定の成分の粉末を作製し、表1に記載の網で篩い、原料粉末の粒度を変えることにより、扁平粉のD50を変化させた。ガスアトマイズは、アルミナ製坩堝を溶解に用い、坩堝下の直径5mmのノズルから合金溶湯を出湯し、これに高圧アルゴンを噴霧することで実施した。これを原料粉末としアトライタにより扁平加工した。アトライタは、SUJ2製の直径4.8mmのボールを使用し、原料粉末と工業エタノールとともに撹拌容器に投入し、羽根の回転数を300rpmとして実施した。一般に、加工時間に伴い扁平化が進み、TDが低下してくる。そこで、加工途中で少量サンプルを採取し、TDを測定しながら、表1のTDになるまで加工した。工業エタノールの添加量は、原料粉末100質量部に対し、200〜500質量部とした。扁平化助剤は、添加しないか、もしくは、原料粉末100質量部に対し、1〜5質量部とした。扁平加工後に撹拌容器から取り出した扁平粉末と工業エタノールをステンレス製の皿に移し、80℃で24時間乾燥させた。このようにして得た扁平粉末をアルゴン中で、700〜900℃で2時間熱処理し、各種の評価に用いた。
(扁平粉末の評価)
得られた扁平粉末の平均粒径、タップ密度、保磁力を評価した。平均粒径はレーザー回折法、タップ密度は約20gの扁平粉末を、容積100cm3のシリンダーに充填し、落下高さ10mmタップ回数200回の時の充填密度で評価した。保磁力は直径6mm、高さ8mmの樹脂製容器に扁平粉末を充填し、この容器の高さ方向に磁化した場合と、直径方向に磁化した場合の値を測定した。なお、扁平粉末は充填された円柱の高さ方向が厚さ方向となっているため、容器の高さ方向に磁化した場合が扁平粉末の厚さ方向、容器の直径方向に磁化した場合が扁平粉末の長手方向の保磁力となる。印可磁場は144kA/mで実施した。
(磁性シートの作製および評価)
トルエン87.5重量%に塩素化ポリエチレン12.5重量%を溶解し、これに得られた扁平粉末を混合分散した。この分散液をポリエステル樹脂に厚さ100μm程度に塗布し常温常湿で乾燥させた。次に、この磁性シートを、外径7mm、内径3mmのドーナツ状に切り出し、インピーダンス測定器により、室温で1MHzにおけるインピーダンス特性を測定し、その結果から透磁率(複素透磁率の実部:μ´)を算出した。
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明はこの実施例に特に限定されない。また、比較例は後述の表1に示す条件を適宜異ならせ作製した。表1に評価結果を示す。
Figure 0006882905
表1に示すように、No.1〜18が本発明例であり、No.19〜28は比較例である。
比較例No.19、20は、本発明例と比較して、熱処理がされておらず、保磁力が高いために透磁率の値が向上しない。比較例No.21は、本発明例と比較して、平均粒径が小さく、充填率が低くいために透磁率の値が向上しない。比較例No.22は、本発明例と比較して、平均粒径が大きく、シート外観において、表面に凸の問題が生じ、シート成形性が悪い。
比較例No.23、24、25は、本発明例と比較して、タップ密度が小さく、充填率が低いために透磁率が向上しない。比較例No.26、27、28は、本発明例と比較して、タップ密度が大きく、扁平加工が進行していないために透磁率が向上しない。加えて、No.28は、長手方向に対する厚さ方向の保磁力の比が小さく、透磁率が向上しない。これに対して、本発明例No.1〜18は、いずれも本発明の条件を満足していることから、シート成形性に優れ、かつ高い透磁率を有する軟磁性扁平粉末である。
以上述べたように、本発明に係る条件を満足する軟磁性扁平粉末を用いることによって、透磁率が十分に高い電磁波吸収体用磁性シートを製造することができる極めて優れた効果を奏するものである。


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

Claims (1)

  1. Fe−Si−Al系合金からなる扁平粉末であって、平均粒径D50が10μm以上50μm未満、扁平粉末の長手方向に磁場を印可して測定した保磁力Hcが119A/m以下、厚さ方向に磁場を測定した保磁力Hcが83A/m以上238A/m以下、長手方向の保磁力に対する厚さ方向の保磁力の比が1.2〜3.0、タップ密度TDが2.0〜4.0g/cmを満足することを特徴とする軟磁性扁平粉末。
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