以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本発明が適用される電動車両は、動力又は動力アシストとして電動モータを用いる電気自動車(EV)やハイブリッド車両(HEV)を含んでいるが、本実施形態では電動自動車(EV)を例に取って説明する。
図1は本発明が適用される電気自動車の概略構成を示すブロック図である。図1に示す電動自動車においては、電動自動車の全体制御を行う車両統合コントローラ1から、アクセル開度に応じたトルク要求値(指令値)が出力される。
車両統合コントローラ1からのトルク要求値(指令値)は、モータコントローラ13に入力される。モータコントローラ13は、モータ駆動回路11を介して、電動モータ9の駆動を制御する。電動モータ9は、電気自動車の駆動輪3のドライブシャフト5(請求項中の回転軸に相当)に減速機7を介して動力を伝達するものである。
モータ駆動回路11は、電気自動車のバッテリ15の直流電圧を交流電圧に変換するインバータ等を内蔵している。モータコントローラ13は、例えば、マイクロコンピュータ等から構成され、インバータのスイッチングに用いるPWM(パルス幅変調)信号を出力するPWMコントローラ等を内蔵している。
車両統合コントローラ1は、例えば、マイクロコンピュータ等から構成されている。車両統合コントローラ1には、ブレーキペダルとアクセルペダルの各スイッチ17,19や、アクセルセンサ21及びシフトスイッチ23(請求項中の解除指示検出部に相当)、電動モータ9の回転センサ25a,25b等のスイッチ・センサ類の信号が、CAN(Controller Area Network)の車内通信を介して入力される。
ブレーキペダルとアクセルペダルの各スイッチ17,19は、ブレーキペダルやアクセルペダル(いずれも図示せず)の踏み込みの有無に応じてオンオフ状態が切り替わる信号を出力する。アクセルセンサ21は、アクセルペダルの踏み込み量に応じてレベルが変化する信号を出力する。
シフトスイッチ23は、図2の説明図に示すセレクトレバー27(請求項中のロック解除操作部に相当)の操作により指示される、電気自動車のシフトポジションに対応するシフト位置を検出するスイッチである。ここで、セレクトレバー27の下端は支軸27aに枢支されており、支軸27aを中心として車両の前後方向に揺動するように構成されている。また、セレクトレバー27には、支軸27aを挟んでセレクトレバー27と一直線上に位置するように、リンクレバー29が固定されている。
リンクレバー29の上端は支軸27aに枢支されており、セレクトレバー27を揺動させると、これに連動して、リンクレバー29が支軸27aを中心として車両の前後方向に揺動するように構成されている。リンクレバー29の下端はリンクレバー31を介して制御レバー33の先端にリンク接続されており、リンクレバー29が揺動すると制御レバー33が、制御レバー33の基端を固定した回転軸33aを中心として車両の前後方向に揺動する。回転軸33aは自動変速機35の内部に挿入されている。
シフトスイッチ23は、自動変速機35の内部に設けられたインヒビットスイッチ(図示せず)で構成されている。インヒビットスイッチは、固定子と摺動子とを有しており、回転軸33aに固定された摺動子は、制御レバー33が揺動すると固定子上を摺動する。摺動子との接触によって導通される固定子上の接点パターンは、セレクトレバー27がシフトされたレンジ位置によって異なる。
したがって、シフトスイッチ23は、摺動子が導通させる固定子上の接点パターンに対応する信号を、セレクトレバー27によって指示された電気自動車のシフトポジションの検出信号として、車両統合コントローラ1に出力する。即ち、シフトスイッチ23は、セレクトレバー27がパーキングレンジ(Pレンジ)、リバースレンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)、ドライブレンジ(Dレンジ)、2速レンジ(2レンジ)、1速レンジ(1レンジ)の各レンジの位置にシフトされたときに、そのシフト位置に対応する信号を検出する。
そのために、セレクトレバー27に連なる制御レバー33には、セレクトレバー27を所望のシフト位置に対応した揺動角度に保持するための、図3の説明図に示すディティント機構37が接続されている。
ディティント機構37はディティントプレート39を有している。ディティントプレート39は、基部が制御レバー33の回転軸33aに固定されたほぼ扇形を呈しており、セレクトレバー27が揺動されると、これに連動して回転軸33aを中心として車両の前後方向に揺動する。
ディティントプレート39の先端面にはカム山39aが複数形成されており、隣り合う2つのカム山39aの間に、セレクトレバー27の揺動により指示可能な電気自動車の6つのレンジ(P、R、N、D、2、1)に対応する6つの谷部39bが形成されている。そして、セレクトレバー27の揺動により指示されたレンジに対応する谷部39bに、バネ板41の先端に形成されたディテントピン41aを係合させることで、セレクトレバー27が所望のレンジ位置にシフトされた状態に保持することができる。
なお、ディテントピン41aがカム山39aに沿って移動するように、セレクトレバー27の揺動によりディティントプレート39をバネ板41に対して揺動させることで、ディテントピン41aの係合相手を隣りの谷部39bに切り替えて、セレクトレバー27を隣のシフト位置に切り替えることができる。
また、セレクトレバー27を反対側に揺動させるには、ディテントピン41aの谷部39bに対する係合を解除させる必要があるが、そのための機構については、説明と図示を省略する。
そして、セレクトレバー27の揺動によりディティントプレート39が揺動すると、ディティントプレート39の回転軸33aを挟んでカム山39aや谷部39bとは反対側に形成された係止片39cを先端に係止した、レンジ切り換え弁43のスプール43aが軸方向移動する。このスプール43aの移動により、レンジ切り換え弁43に供給される油圧の排出ポートが切り換えられ、図示しない各レンジの摩擦締結要素の締結、開放によって、自動変速機35のレンジ切り換えが行われる。
図1に示す電動モータ9の回転センサ25a,25bは、電動モータ9の回転量に応じたパルス信号を、例えば互いに位相を1/4周期ずらして車両統合コントローラ1に出力する。したがって、車両統合コントローラ1は、回転センサ25a,25bからのパルス数で電動モータ9の回転量(回転数)や回転速度を算出することができる。また、車両統合コントローラ1は、各回転センサ25a,25bからのパルス信号の位相ずれ方向が進み方向か遅れ方向かによって、電動モータ9の回転方向を検出することができる。
ここで、図1の電動自動車において行われる電動モータ9の駆動制御に関係する構成を抽出して示す図4のブロック図を参照して説明する。
上述した図1のスイッチ・センサ類17,19,21,23,25a,25bの信号が入力される車両統合コントローラ1は、図4のブロック図に示すように、目標モータトルク算出部101を有している。
車両統合コントローラ1の目標モータトルク算出部101は、所定の動作を達成する機能単位を示すモジュールによってそれぞれ構成される。各モジュールは、車両統合コントローラ1内のハードウェアやソフトウェア、又はこれらの組み合わせ等によって実現される。
目標モータトルク算出部101は、アクセルペダルスイッチ19やアクセルセンサ21、シフトスイッチ23の出力信号に基づいて、電動モータ9の目標モータトルクTm*を算出する。
車両統合コントローラ1の目標モータトルク算出部101により算出された目標モータトルクTm*が入力されるモータコントローラ13は、捻れ制振部100を有している。
図1の電動自動車は、電動モータ9から駆動輪3に至る電気自動車の駆動系45(駆動輪3、ドライブシャフト5、減速機7及び電動モータ9等)において、エンジン車両と比較して急峻な加速が可能である一方、このような加速を得るために電動モータ9の回転数を急峻に増加させるとドライブシャフト5が捻れ、この捻れにより振動(捻れ振動)が発生することが知られている。
そこで、本実施形態では、駆動系45の捻れ振動を、図4の捻れ制振部100の制振制御によって抑制するようにしている。
捻れ制振部100は、目標加速度算出部103、モータ回転数検出部105、実加速度算出部107、補正量算出部109、モデル化誤差抑制部111、モータトルク指令値算出部113を有している。
捻れ制振部100の各部103〜113は、所定の動作を達成する機能単位を示すモジュールによってそれぞれ構成される。各モジュールは、モータコントローラ13のハードウェアやソフトウェア、又はこれらの組み合わせ等によって実現される。
目標加速度算出部103は、目標モータトルク算出部101が算出した目標モータトルクTm*から、図1に示す電気自動車の理想車両モデルの伝達関数Gm(s)を用いて、電動モータ9の目標加速度(理想加速度)を算出する。
なお、理想車両モデルとは、図1に示す電気自動車の駆動系45(駆動輪3、ドライブシャフト5、減速機7及び電動モータ9等)においてバックラッシュがなく、且つ完全な剛体であると仮定したモデルを意味する。理想車両モデルの伝達関数Gm(s)については後述する。
モータ回転数検出部105(請求項中の回転速度検出部に相当)は、回転センサ25a,25bの出力信号から電動モータ9の実際の回転数ωMを検出する。この回転数ωMは、単位時間当たりの電動モータ9の回転数(=回転速度)である。
実加速度算出部107は、モータ回転数ωMを基に、電動モータ9の実加速度を演算する伝達関数、即ち、電動モータ9のモータ回転数ωMを入力とし、実加速度を出力とする伝達関数を算出する。
補正量算出部109は、目標加速度算出部103が算出した電動モータ9の目標加速度と実加速度算出部107が算出した電動モータ9の実加速度の偏差が小さくなるように、目標モータトルクTm*に対する補正量を算出する。
補正量算出部109について詳細に説明すると、偏差算出部109aが、目標加速度算出部103により算出された電動モータ9の目標加速度から、実加速度算出部107で算出された電動モータ9の実加速度を減算することにより、目標加速度と実加速度との偏差を算出する。そして、比例制御部109bが、偏差算出部109aにより算出された偏差に所定の比例ゲインKpを乗算する。なお、比例ゲインKpの値は適宜設定可能である。
モデル化誤差抑制部111は、外乱除去を行うハイパスフィルタHPFを有しており、補正量算出部109によって算出される補正量の高周波成分のみをハイパスフィルタHPFで抽出する。
そして、上述した目標加速度算出部103が、レートリミット処理後の目標モータトルクTm*から電動モータ9の目標加速度(理想加速度)を算出するのに用いる理想車両モデルの伝達関数Gm(s)は、例えば以下の式(1)、
Gm(s)=ω/{JT N(s+ω)} …(1)
で表すことができる。
ここで、ω[rad/s]は、モデル化誤差抑制部111のハイパスフィルタHPFによるカットオフ周波数であり、JT [Nms^2]は、電動モータ9の出力軸の慣性モーメントに換算した、駆動系40(図1)の走行中に働く総合イナーシャ(慣性モーメント)である。また、Nは減速機7(図1)の減速比であり、sはラプラス演算子である。
以上のように構成された捻れ制振部100では、理想車両モデルの伝達関数Gm(s)を用いて目標加速度算出部103が算出した電動モータ9の目標加速度(理想加速度)から、補正量算出部109が、レートリミット処理後の目標モータトルクTm*の補正量を算出する。この補正量は、ノイズとなる高周波成分をモデル化誤差抑制部111で排除した後に、モータトルク指令値算出部113において、目標モータトルク算出部101が算出した目標モータトルクTm*に加算される。
そして、モータトルク指令値算出部113が算出したモータトルク指令値に応じたデューティー比のPWM信号が、図1のモータコントローラ13で生成されて、このPWM信号のデューティー比でモータ駆動回路11が電動モータ9を駆動させる。
このような構成により、捻れ制振部100は、駆動系45に生じる捻れ振動を抑制する制振制御を行うことができる。
ところで、ドライブシャフト5の捻れは電気自動車の停車中にも発生する。
例えば、電気自動車を坂道(上り坂や下り坂)に停車させてパーキングロックを作動させると、駆動輪3のドライブシャフト5にかかる回転力(上り坂では後退方向、下り坂では前進方向)によってドライブシャフト5が捻れトルクを蓄積した状態となる。このため、例えば発進に当たりパーキングロックを解除すると、解放されたドライブシャフト5の捻れトルクで電動自動車の駆動系45が振動してしまう。
ここで、電気自動車に搭載された機械式のパーキングロック機構47の概略構成を、ディティント機構37の説明で用いた図3を参照して説明する。図3に示すパーキングロック機構47は、先に説明したディティント機構37に連動して機能するように構成されている。
このパーキングロック機構47では、セレクトレバー27(図2参照)をPレンジに移動させると、ディティントプレート39に一端が枢支されたパーキングロッド49の先端の押し上げ片49aがパーキングポール51を押し上げて、パーキングポール51のロック片51aをパーキングギヤ53に噛合させる。この噛合により、パーキングギヤ53に連結されたドライブシャフト5の回転がロックされる。
このパーキングロック機構47を坂道で作動させると、回転をロックされたドライブシャフト5に捻れトルクが蓄積され、パーキングロックを解除する際に、蓄積された捻れトルクはドライブシャフト5から解放されて電動自動車の駆動系45に振動が発生する。
例えば、上り坂で電気自動車を停車させてセレクトレバー27をPレンジに操作し、パーキングロック機構47を作動させてブレーキペダル(図示せず)の踏み込みを解除すると、電気自動車にかかる重力によって後退方向に回転しようとする回転モーメントが駆動輪3に加わる。
すると、パーキングポール51のロック片51aとパーキングギヤ53との噛合部分の遊び分だけ、パーキングギヤ53とこれに連結されたドライブシャフト5とが後退方向に回転する。この間、ドライブシャフト5に連なる電動モータ9はわずかに逆回転する。
そして、パーキングギヤ53とドライブシャフト5の後退方向への回転により、ロック片51aとパーキングギヤ53との遊びがなくなると、ロック片51aとパーキングギヤ53との噛合によりドライブシャフト5の回転がロックされる。この回転ロックにより電動モータ9の逆回転が停止し、ドライブシャフト5は、電気自動車の後退方向への慣性力(回転モーメント)による捻れトルクが駆動輪3から加わって蓄積された状態となる。
その後、セレクトレバー27をPレンジ以外のレンジ(ここでは「Nレンジ」とする。)に操作し、パーキングロック機構47を解除させると、ドライブシャフト5に蓄積された後退方向への捻れトルクが解放されて、ドライブシャフト5、ひいては電気自動車に、ドライブシャフト5から解放された捻れトルクによる振動が生じる。
図5は、電気自動車を坂道に停車させて作動させたパーキングロックを解除した際にドライブシャフトに発生する捻れトルクの時間経過を示すタイミングチャートである。パーキングロック機構47によるドライブシャフト5のロックを解除すると、ドライブシャフト5に蓄積された捻れが解放されて、図5に示すような停止解除時の捻れ振動がドライブシャフト5に発生する。
なお、電気自動車が走行状態に移ると、図1の車両統合コントローラ1から目標モータトルクTm*が出力される。
このように、パーキングロック機構47の作動中にドライブシャフト5に蓄積された捻れがパーキングロック機構47による回転ロックの解除時に解放されることで駆動系45に生じる停止解除時の捻れ振動は、図4の捻れ制振部100による制振制御を利用することで、抑制することができる。
即ち、図4の捻れ制振部100は、電動自動車の走行中におけるドライブシャフト5の捻れによる駆動系45の走行時捻れ振動を抑制するための、走行時制振制御に利用できるだけでなく、上述した停止解除時の捻れ振動を抑制する停止解除時制振制御にも利用することができる。
具体的には、パーキングロック機構47を解除する際に、電動モータ9を駆動させて、解放されたドライブシャフト5の捻れトルクを相殺するようにトルクを印加することが好ましい。
ところで、このような制御を行うためには、車両統合コントローラ1に対するトリガ入力が必要となるが、このトリガ入力に利用可能な信号は、パーキングロック機構の様式によって異なる。
まず、パーキングロック機構が、モータアクチュエータによって駆動される電気制御式のものである場合について説明する。この電気制御式のパーキングロック機構の場合には、セレクトレバー27のシフト変更を検出してトリガ入力とすることができる。図6のフローチャートでは、「Pレンジ」のシフト位置のセレクトレバー27を操作したときのパーキングロック機構のロック解除の流れを示している。
セレクトレバー27が「Pレンジ」のシフト位置から例えば「Dレンジ」のシフト位置にシフトされると(ステップS1)、シフトスイッチ23が出力する信号の内容が「Pレンジ」に対応する内容から「Dレンジ」に対応する内容に変化する(ステップS3)。そして、CANによってシフトスイッチ23から送信されるセレクトレバー27のレンジ情報が、「Pレンジ」から「Dレンジ」に切り替わる(ステップS5)。
レンジ情報をCANから受信した車両統合コントローラ1は、まず、「Pレンジ」から「Dレンジ」に切り替わったレンジ情報をモータコントローラ13に入力する。そして、モータコントローラ13がONとなり捻れを検出すると、それを打ち消すトルクをモータコントローラ13が印加可能な状態となる(ステップS7、ステップS9)。その後、車両統合コントローラ1により不図示のモータアクチュエータを作動させて、パーキングギヤ53に対するパーキングポール51のロック片51aの噛合を解除させる(ステップS11)。
したがって、駆動系45の制振制御をステップS9で開始させた後に、パーキングロック機構47によるドライブシャフト5の回転ロックをステップS11で解除させて、パーキングロックの解除により発生するドライブシャフト5の振動や電気自動車の前後G(加速度)を、その時点で既に開始されている制振制御によって抑制することができる。
図7は電気自動車を坂道に停車させて作動させた電気制御式のパーキングロック機構の回転ロックを解除する前に駆動系45の捻れ振動に対する制振制御が開始される場合の、電気自動車の各部における状態の時系列変化を示すもので、(a)は駆動系45の制振制御を適用する前と適用した後の、電動モータ9に対してモータトルク指令値算出部113が出力するモータトルク指令値のタイミングチャート、(b)はシフトスイッチ23が出力する電気自動車のシフトポジションの検出信号を示すタイミングチャートである。
セレクトレバー27を「Pレンジ」からそれ以外のレンジ(ここでは「Nレンジ」とする。)に操作すると、図7(b)に示すように、シフトスイッチ23が出力する信号の内容が「Pレンジ」から「Nレンジ」に切り替わり、車両統合コントローラ1が認識するシフトポジションが「Pレンジ」から「Nレンジ」に切り替わる。
これに伴い、車両統合コントローラ1からレンジ情報を受け取ったモータコントローラ13からの、モータトルク指令値に応じたPWM信号の出力が開始される。これにより、駆動系45の停止解除時制振制御が実行される。
その後、モータアクチュエータの作動によりドライブシャフト5のパーキングロック機構47によるロックが解除される。
このように、パーキングロック機構が電動制御式のものである場合は、パーキングロック機構の解除前から制振制御をONにすることができ、その結果、パーキングロック機構47が解除されてドライブシャフト5に蓄積された捻れが解放された瞬間に、モータコントローラ13が停止解除時の捻れ振動を抑制するためのトルク指令値を出力することができる。
一方、パーキングロック機構47が、図3に示すように、セレクトレバー27の揺動に連動してパーキングポール51のロック片51aをパーキングギヤ53と噛合させたりその噛合を解除させたりする機械式のものである場合は、上述した電気制御式と同様の制御をしても、停止解除時の捻れ振動を十分に抑制することができない。以下に、その理由を説明する。
図8のフローチャートは、「Pレンジ」のシフト位置のセレクトレバー27を操作したときのパーキングロック機構のロック解除の流れを示したものであり、停止時制止制御については考慮していない。
即ち、セレクトレバー27が「Pレンジ」のシフト位置から例えば「Dレンジ」のシフト位置にシフトされると(ステップS21)、セレクトレバー27のシフトに連動してパーキングポール51のロック片51aのパーキングギヤ53に対する噛合が解除され(ステップS23)、この時点で、ドライブシャフト5に蓄積された捻れトルクが解放される。
その後、シフトスイッチ23が出力する信号が「Pレンジ」に対応する内容から「Dレンジ」に対応する内容に変更され(ステップS25)、CANによってシフトスイッチ23から送信されるセレクトレバー27のレンジ変更情報が、車両統合コントローラ1あるいはモータコントローラ13に伝達される(ステップS27、ステップS29)。
仮に、この後に、停止解除時制振制御をONにしても、既に、ドライブシャフト5に蓄積された捻れトルクが解放されているので、電気自動車は既に停止解除時の捻れ振動が生じた状態である。したがって、パーキングロック機構が電気制御式のものである場合のように、パーキングギヤ53に対するパーキングポール51のロック片51aの噛合が解除される前に、捻れ制振部100による停止解除時制振制御を開始させておくことができない。
そこで、本実施形態の車両統合コントローラ1では、図4の捻れ制振部100の構成を利用して電動モータ9の回転数を検出し、これをトリガ入力として、図3に示す機械式のパーキングロック機構47によるドライブシャフト5の回転ロックの解除時に、駆動系45の停止解除時の捻れ振動を抑制する制振制御を行うようにしている。
以下、図9のフローチャートを参照して、パーキングロック解除時に実行される停止解除時制振制御シーケンスの手順の一例を説明する。なお、図9では、イグニッションがONした後、PレンジからDレンジにシフト変更し、Dレンジの状態で停止している状況を想定している。
図9に示すように、まず、車両統合コントローラ1は、CANからレンジ情報を取得して(ステップS41)、取得したレンジ情報が「Pレンジ」であるか否かを確認する(ステップS43)。
レンジ情報が「Pレンジ」でない場合は(ステップS43でNO)、セレクトレバー27が「Pレンジ」からそれ以外のレンジにシフトされて、車両がパーキングロック状態から走行状態に移行したものと考えることができる。そこで、車両統合コントローラ1は、駆動系45について実行する制御シーケンスを、不図示の走行時制御シーケンスに移行した後(ステップS44)、図9の停止解除時制振制御シーケンスを終了する。
一方、レンジ情報が「Pレンジ」である場合は(ステップS43でYES)、車両統合コントローラ1は、回転センサ25a,25bの出力信号から検出される電動モータ9の実際の回転数ωMが基準回転数ω1を上回っているか否かを確認する(ステップS45)。
ここで、基準回転数ω1(請求項中の所定速度に相当)は、単位時間当たりの電動モータ9の回転数(=回転速度)であり、パーキングロック機構47によるドライブシャフト5の回転ロックが解除されたか否かを、車両統合コントローラ1がCANから取得するレンジ情報によりセレクトレバー27の「Pレンジ」からのシフト先のレンジを認識するよりも前に判断するための閾値である。
このため、CANから取得したレンジ情報が「Pレンジ」であっても、電動モータ9の実際の回転数ωMが基準回転数ω1を上回っていると、セレクトレバー27のシフト操作でパーキングロック機構47によるドライブシャフト5の回転ロックが解除されて、電動モータ9が回転し始めていると考えられる。
そこで、本実施形態の車両統合コントローラ1では、CANから取得したレンジ情報が「Pレンジ」であり(ステップS43でYES)、さらに、電動モータ9の実際の回転数ωMが基準回転数ω1を上回っている場合は(ステップS45でYES)、セレクトレバー27のシフト操作でパーキングロック機構47によるドライブシャフト5の回転ロックが解除されたものと判断するようにしている。そして、車両統合コントローラ1は、モータトルク指令値に応じたPWM信号をモータコントローラ13に出力させ、駆動系45の停止解除時制振制御を開始(停止解除時制振制御ON)させる(ステップS47)。
したがって、セレクトレバー27のPレンジからそれ以外のレンジへのシフト操作でパーキングロック機構47によるドライブシャフト5の回転ロックが解除されると、車両統合コントローラ1がシフトスイッチ23の出力信号からレンジ変更を認識する前に、停車中にドライブシャフト5に蓄積された捻れトルクに応じたトルクを電動モータ9に発生させることができる。
なお、ドライブシャフト5の捻れ方向は、電動自動車が停車した坂道が上り坂か下り坂かによって逆向きとなる。そこで、基準回転数ω1と電動モータ9の実際の回転数ωMとを比較する際には、電動モータ9の回転方向を無視するために、いずれの回転数にも絶対値を用いる。
そして、電動モータ9の実際の回転数ωMが基準回転数ω1を上回っていない場合は(ステップS45でNO)、パーキングロック機構47によるドライブシャフト5の回転ロックが解除されていないものとして、ステップS41にリターンする。
モータコントローラ13による駆動系45の停止解除時制振制御をONさせた後、車両統合コントローラ1は、モータコントローラ13からのPWM信号の出力による駆動系45の停止解除時制振制御の開始からの経過時間をカウントする捻り振動補正カウンタのカウント値Tnをカウントアップし(ステップS49)、カウントアップ後のカウント値Tnが基準時間t1に至ったか否かを確認する(ステップS51)。
なお、捻り振動補正カウンタのカウント値Tnは、パーキングロック機構47によるドライブシャフト5の回転ロックが解除されてからの経過時間の目安とすることができる。本実施形態では、このカウント値Tnが基準時間t1を上回ると、車両統合コントローラ1が、ドライブシャフト5の回転ロックが解除された電気自動車が車速=0の状態を終えて走行状態となったものと認識するようにしている。
そこで、基準時間t1は、パーキングロック機構47による回転ロックの解除時にドライブシャフト5から解放された捻れにより駆動系45に生じる停止解除時の捻れ振動を、ステップS47のモータコントローラ13によるPWM信号の出力で開始された停止解除時制振制御により収束させるのに十分な時間に設定される。
カウント値Tnが基準時間t1に至るまで(ステップS51でNO)、駆動系45に生じた捻れ振動が停止解除時制振制御により収束していないものとして、ステップS49にリターンし、停止解除時制振制御が継続される。
一方、カウント値Tnが基準時間t1を上回っている場合は(ステップS51でYES)、駆動系45に生じた停止解除時の捻れ振動が制振制御により収束したものとして、車両統合コントローラ1は、モータトルク指令値に応じたPWM信号のモータコントローラ13に対する出力を停止(停止解除時制振制御OFF)させて(ステップS53)、一連の手順を終了し、ステップS41以降の停止解除時制振制御シーケンスの手順を再び繰り返して実行する。
以上の説明からも明らかなように、車両統合コントローラ1が行う図9のフローチャートのステップS45が、請求項中のロック解除判定部に対応する手順となっている。したがって、本実施形態では、請求項中のロック解除判定部が車両統合コントローラ1によって構成されている。
図10は電気自動車を坂道に停車させて作動させた機械式のパーキングロック機構47の回転ロックを解除する際に駆動系45の停止解除時の捻れ振動に対する停止解除時制振制御を行う場合の、電気自動車の各部における状態の時系列変化を示すもので、(a)は駆動系45の停止解除時制振制御を適用する前と適用した後の、電動モータ9に対してモータトルク指令値算出部113が出力するモータトルク指令値のタイミングチャートである。
また、図10(b)はシフトスイッチ23が出力する電気自動車のシフトポジションの検出信号を示すタイミングチャート、(c)は電動モータ9の回転数を示すタイミングチャート、(d)はモータコントローラ13がモータトルク指令値に応じたデューティー比のPWM信号を出力する期間を示すタイミングチャートである。
なお、図10(b)は、シフトスイッチ23から出力されている信号を示しているため、図8で説明したように、セレクトレバー27のシフト操作によるレンジ変更があった場合には、実際のセレクトレバー27のシフト操作からは遅れてシフトスイッチ23が出力するシフトポジションの検出信号の内容が変化している。
また、図10(d)のPWM信号は、図9のステップS41〜ステップS45に示すように、車両統合コントローラ1が認識するシフトポジションが「Pレンジ」の状態で、電動モータ9の回転数ωMが基準回転数ω1を上回ると、モータトルク指令値算出部113の算出したモータトルク指令値に応じたデューティー比で出力される。
そして、電気自動車のドライバが、セレクトレバー27を「Pレンジ」からそれ以外のレンジ(ここでは「Nレンジ」とする。)に操作すると、セレクトレバー27に連動してドライブシャフト5のパーキングロック機構47によるロックが解除される(図10中に示す「機械式パーキングロック機構のロック解除」の時点)。すると、ドライブシャフト5に蓄積された後退方向への捻れトルクが解放され、ロックされたドライブシャフト5に連なって停止していた電動モータ9が、図10(c)に示すように、後退方向に回転し始める。
これに対し、図4の捻れ制振部100のモータトルク指令値算出部113は、まず、ドライブシャフト5のロックにより停止した電動モータ9に合わせて、図10(a)に破線で示す「0」の制振前トルク指令値を、モータトルク指令値として出力する。
そして、電動モータ9が後退方向に回転し始めると、モータトルク指令値算出部113は、電動モータ9の後退方向への回転を打ち消すために、図10(a)に実線で示す、前進方向に電動モータ9を回転させる制振後トルク指令値を、モータトルク指令値として出力する。
ドライブシャフト5のロックが解除された時点では、図10(b)に示すように、シフトスイッチ23が出力する信号の内容が「Pレンジ」から変わっておらず、車両統合コントローラ1が認識するシフトポジションは「Pレンジ」のままである。
ここで、モータコントローラ13が、本実施形態とは異なり、車両統合コントローラ1が認識するシフトポジションの「Pレンジ」から「Nレンジ」に変わるまでPWM信号を出力しないものである場合を仮定する。この場合、ドライブシャフト5のロックが解除された時点では、車両統合コントローラ1が認識するシフトポジションが「Pレンジ」のまま変わっていないので、モータコントローラ13はPWM信号を出力しない。
このため、ドライブシャフト5のロック解除に伴い、モータトルク指令値算出部113が出力するモータトルク指令値が制振前トルク指令値から制振後トルク指令値に変化しても、制振後トルク指令値に応じたモータ駆動回路11による電動モータ9の制御は開始されない。つまり、ドライブシャフト5のロックが解除された時点では駆動系45の停止解除時制振制御が実行されないので、ドライブシャフト5に蓄積された捻れの解放によりドライブシャフト5が停止解除時の捻れ振動を起こしてしまう。
そして、セレクトレバー27によるドライブシャフト5のロック解除操作と、それに伴うパーキングロック機構47によるドライブシャフト5のロック解除から遅れて、図10(b)に示すように、シフトスイッチ23が出力する信号の内容が「Pレンジ」から「Nレンジ」に切り替わり、車両統合コントローラ1が認識するシフトポジションが「Pレンジ」から「Nレンジ」に切り替わる。
この時点では、ドライブシャフト5のロック解除で解放されたドライブシャフト5の捻れによる電動モータ9の後退方向への回転が収束している。このため、車両統合コントローラ1が認識するシフトポジションが「Pレンジ」から「Nレンジ」に切り替わった時点でモータコントローラ13がPWM信号を出力して、図10(a)の制振後トルク指令値に応じたモータ駆動回路11による電動モータ9の制御を開始させても、ドライブシャフト5の停止解除時の捻れ振動を制振するための役には立たない。
これに対し、本実施形態のモータコントローラ13は、車両統合コントローラ1が認識するシフトポジションが「Pレンジ」の状態で、電動モータ9の回転数ωMが基準回転数ω1を上回ると、図10(d)に示すようにPWM信号を出力する。このため、ドライブシャフト5のロック解除で解放されたドライブシャフト5の捻れにより電動モータ9が後退方向に回転し始めるとすぐに、モータトルク指令値算出部113が出力する制振後トルク指令値に応じたモータ駆動回路11による電動モータ9の制御が開始される。
したがって、ドライブシャフト5のロックが解除された直後(図10中に示す「駆動系の制振制御開始」の時点)に駆動系45の停止解除時制振制御が実行されて、ドライブシャフト5に蓄積された捻れの解放によるドライブシャフト5の停止解除時の捻れ振動が緩和される。
なお、特に図示しないが、電気自動車が停止状態において、基準時間t1が経過すると、停止解除時制振制御が停止される。
このように、パーキングロック機構47が機械式のものである場合は、シフトスイッチ23の出力信号が「Pレンジ」であるときに電動モータ9の回転を検出したらすぐに駆動系45の停止解除時制振制御を開始させる。これにより、パーキングロック機構47によるドライブシャフト5の回転ロックが解除された直後の時点で、車両統合コントローラ1が認識するシフトポジションが「Pレンジ」のままであっても、駆動系45の停止解除時制振制御を実行させ、ドライブシャフト5の捻れの解放による駆動系45の停止解除時の捻れ振動を駆動系45の停止解除時制振制御によって抑制することができる。
ここで、図8のようにシフトスイッチ23の出力信号が「Pレンジ」から「Dレンジ」に切り替わってから駆動系45の停止解除時制振制御を開始する場合と、図9のようにシフトスイッチ23の出力信号が「Pレンジ」の時に電動モータ9が回転したらすぐに駆動系45の停止解除時制振制御を開始する場合との、ドライブシャフト5の振動の時間変化を、図11を参照して説明する。
図11(a),(b)は、電気自動車を坂道に停車させて作動させたパーキングロック機構47による回転ロックを解除した際の、ドライブシャフト5の捻れトルク(単位[Nm])の時間経過(単位[s])を示すもので、(a)はシフト情報がPレンジの時に電動モータ9が基準回転数ω1を超えて回転したらすぐに駆動系45の停止解除時の捻れ振動に対する停止解除時制振制御を開始する本実施形態の制御を行う場合、(b)は駆動系45の停止解除時の捻れ振動に対する停止解除時制振制御をシフト情報のPレンジから他のレンジへの変化後に開始する制御を行う場合をそれぞれ示すタイミングチャートである。なお、図11(a),(b)の縦軸及び横軸は、単位長さ当たりのスケールを同一としている。
そして、ドライブシャフト5の捻れトルクについては、図11(a)に示すように基準回転数ω1を超えて電動モータ9が回転すると、車両統合コントローラ1がシフト情報から認識するシフトポジションが「Pレンジ」のままであっても、停止解除時制振制御を開始する本実施形態の駆動制御の方が、図11(b)に示すように車両統合コントローラ1がシフト情報から認識するシフトポジションが「Pレンジ」から他のレンジに変化すると、停止解除時制振制御を開始する駆動制御よりも、振動が明らかに抑制されることが分かる。
なお、図9のフローチャートを参照して説明したパーキングロック解除時の停止解除時制振制御の手順におけるステップS49において、駆動系45の停止解除時制振制御の開始からの経過時間をカウントする捻り振動補正カウンタのカウント値Tnをカウントアップした後、ステップS51において、カウントアップ後のカウント値Tnが基準時間t1に至ったか否かを確認する前に、図12のフローチャートに示すように、車両統合コントローラ1が、電気自動車がブレーキONであるか否かを確認するステップS50を追加してもよい。
そして、電気自動車がブレーキONである場合は(ステップS50でYES)、車両統合コントローラ1は、電気自動車が停車中であるものとして、図9のフローチャートにおけるステップS51以降の手順を実行する。また、電気自動車がブレーキONでない場合は(ステップS50でNO)、電気自動車が走行し始めたものとして、ステップS47で開始した停止解除時制振制御をONさせたまま、図9のフローチャートにおけるステップS51以降の手順をスキップして、一連の手順を終了し、ステップS41以降の停止解除時制振制御シーケンスの手順を再び繰り返して実行する。
上述した図12のフローチャートに示す手順とすることで、駆動系45の停止解除時制振制御の開始後に電気自動車が走行開始したら、停止解除時制振制御の開始からの経過時間が基準時間t1を超えても駆動系45の停止解除時制振制御を終了せずそのまま継続させることができる。
以上の説明からも明らかなように、車両統合コントローラ1が行う図12のフローチャートのステップS50が、請求項中の走行開始検出部に対応する手順となっている。したがって、本実施形態では、請求項中の走行開始検出部が車両統合コントローラ1によって構成されている。
また、図9のフローチャートに示す手順では、駆動系45の停止解除時制振制御を開始したら(ステップS47)、車両統合コントローラ1が、開始からの経過時間が基準時間t1を超えるまで停止解除時制振制御を継続させる(ステップS53)ものとした。
同様に、図12のフローチャートに示す手順でも、駆動系45の停止解除時制振制御の開始後に電気自動車が走行開始しない限り(ステップS50でYES)、車両統合コントローラ1が、停止解除時制振制御の開始からの経過時間が基準時間t1を超えるまで停止解除時制振制御を継続させる(ステップS53)ものとした。
図13及び図14のフローチャートは、セレクトレバー27によるドライブシャフト5のロック解除操作を行っていないにも関わらず停止解除時制振制御が開始された場合、すなわち、誤判定の場合をも想定し、この場合に駆動系45の停止解除時制振制御を終了させる手順を示したものである。なお、図13のフローチャートでは、ステップS61乃至ステップS67において、図9のフローチャートに示すステップS41乃至ステップS47と同じ手順を行う。
ステップS67において、モータトルク指令値に応じたPWM信号をモータコントローラ13に出力(停止解除時制振制御ON)させた後、車両統合コントローラ1は、CANからレンジ情報を取得して(ステップS69)、取得したレンジ情報が「Pレンジ」であるか否かを確認する(ステップS71)。
レンジ情報が「Pレンジ」でない場合は(ステップS71でNO)、セレクトレバー27がPレンジからそれ以外のレンジにシフト操作されたものとして、後述するステップS77に移行する。
一方、レンジ情報が「Pレンジ」である場合は(ステップS71でYES)、車両統合コントローラ1は、モータコントローラ13からのPWM信号の出力による駆動系45の停止解除時制振制御の開始からの「Pレンジ」の継続時間をカウントするPレンジタイマのカウント値Tpをカウントアップし(ステップS73)、カウントアップ後のカウント値Tpが判定時間t2に至ったか否かを確認する(ステップS75)。
カウント値Tpが判定時間t2に至っていない場合は(ステップS75でNO)、ステップS65における、電動モータ9が基準回転数ω1を上回る回転数ωMで回転したとの判定が誤りであり、パーキングロック機構47によるドライブシャフト5の回転ロックが解除されていないものとして、車両統合コントローラ1は、モータトルク指令値に応じたPWM信号のモータコントローラ13に対する出力を停止(停止解除時制振制御OFF)させて(ステップS81)、一連の手順を終了する。
ここで、判定時間t2は、セレクトレバー27のPレンジからそれ以外のレンジへのシフト操作によって、シフトスイッチ23が出力する信号が「Pレンジ」に対応する内容からシフト先のレンジに対応する内容に変化し、この変化がCANから車両統合コントローラ1が取得するレンジ情報に反映されるのに十分な時間に設定されるが、基準時間t1よりも短い時間を想定している。
一方、ステップS71において、レンジ情報が「Pレンジ」でない場合(NO)に進むステップS77では、車両統合コントローラ1は、捻り振動補正カウンタのカウント値Tnをカウントアップし、カウントアップ後のカウント値Tnが待機時間t3に至ったか否かを確認する(ステップS79)。
ここで、待機時間t3は、基準時間t1から判定時間t2を差し引いた残りの時間に設定される(例えば、t1=t2+t3)。したがって、ステップS65における、電動モータ9が基準回転数ω1を上回る回転数ωMで回転したとの判定が誤りでなく、ステップS67で制振制御を開始してからの経過時間が判定時間t2を上回る前にレンジ情報が「Pレンジ」からそれ以外のレンジに切り替わった場合は、さらに待機時間t3を経た後に、制振制御の開始からおおよそ基準時間t1を超えた時点が到来することになる。
そして、カウント値Tnが待機時間t3に至っていない場合は(ステップS79でNO)、駆動系45に生じた捻れ振動が制振制御により収束していないものとして、ステップS77にリターンする。
一方、カウント値Tnが待機時間t3に至っている場合は(ステップS79でYES)、駆動系45に生じた停止解除時の捻れ振動が停止解除時制振制御により収束したものとして、車両統合コントローラ1は、モータトルク指令値に応じたPWM信号のモータコントローラ13に対する出力を停止(停止解除時制振制御OFF)させて(ステップS81)、一連の手順を終了する。
上述した図13のフローチャートに示す手順とすることで、駆動系45の停止解除時制振制御の開始後に、その根拠となった、電動モータ9が基準回転数ω1を上回る回転数ωMで回転したとの判定が、誤りであったと確認された場合に、停止解除時制振制御の開始からの経過時間が基準時間t1を超えていなくても、駆動系45の停止解除時制振制御を途中で終了させることができる。
続いて、図14のフローチャートでは、ステップS61乃至ステップS67において、図12のフローチャートに示すステップS41乃至ステップS47と同じ手順を行う。
さらに、ステップS67において、モータトルク指令値に応じたPWM信号をモータコントローラ13に出力(停止解除時制振制御ON)させた後、車両統合コントローラ1は、図12のフローチャートに示すステップS50と同じく、電気自動車が停車中(ブレーキON)であるか否かを確認する(ステップS68)。
そして、電気自動車が停車中(ブレーキON)である場合は(ステップS68でYES)、車両統合コントローラ1は、図13のフローチャートにおけるステップS69以降の手順を実行し、電気自動車が停車中(ブレーキON)でない場合は(ステップS68でNO)、図13のフローチャートにおけるステップS69以降の手順をスキップして、一連の手順を終了する。
上述した図14のフローチャートに示す手順とすることで、駆動系45の停止解除時制振制御の開始後に電気自動車が走行開始したら、停止解除時制振制御の開始からの経過時間が基準時間t1を超えても駆動系45の停止解除時制振制御を終了せずそのまま継続させることができる。
また、上述した図14のフローチャートに示す手順でも、図13のフローチャートに示す手順と同様に、駆動系45の制振制御の開始後に、その根拠となった、電動モータ9が基準回転数ω1を上回る回転数ωMで回転したとの判定が、誤りであったと確認された場合に、停止解除時制振制御の開始からの経過時間が基準時間t1を超えていなくても、駆動系45の停止解除時制振制御を途中で終了させることができる。
なお、図9、図12、図13及び図14の各フローチャートを参照して一例を説明したパーキングロック解除時の停止解除時制振制御の手順は、図3に示す機械式のパーキングロック機構47に限らず、パーキングロック機構47が、セレクトレバー27の操作をきっかけに作動するものの、機械式のようにセレクトレバー27の操作に連動して作動せず、セレクトレバー27の操作から遅れてモータアクチュエータがパーキングロック機構47を作動させる電気制御式のものである場合にも、適用することができる。
また、図9や図12のフローチャートに示す手順で、車両統合コントローラ1が、電動モータ9が基準回転数ω1を上回る回転数ωMで回転したと確認し(ステップS45でYES)、駆動系45の停止解除時制振制御を開始させた(ステップS47)後、判定時間t2を超えても、CANから取得されるレンジ情報が「Pレンジ」のまま変わらない場合は、パーキングロック機構47によるドライブシャフト5の回転ロックが解除されたと誤って判定したものとして、駆動系45の停止解除時制振制御を終了させるようにしてもよい。