JP6865417B2 - 除電装置 - Google Patents
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Description
蒸着が施される樹脂製のフィルムは、絶縁性のため、静電気帯電しやすい性質を持っている。また、蒸着プロセスの雰囲気は高真空なので、電気的に絶縁性である。
帯電すると、フィルム同士は付着しやすく、搬送不良を起こしたり、しわや傷の原因になったりする。
また、蒸着処理の前にフィルム表面が帯電していると、蒸着が不均一になってしまうこともある。
なお、上記フィルムが帯電する原因は様々であるが、蒸着材に電子ビームを照射して蒸着する場合には、蒸着時に特に帯電しやすい。
このように、高真空中で行なわれる、フィルムの真空製膜プロセスや静電気敏感デバイスの製造プロセスなどで、除電の用途がある。
しかし、コロナ放電によって生成されるイオンでフィルムの表面電荷を中和する一般的な除電装置をそのまま用いることはできない。
なぜなら、真空製膜プロセスや静電気敏感デバイスの製造が実行される高真空下では、コロナ放電によってイオンを生成することができないからである。
この従来の装置では、高真空を維持して蒸着膜を形成する製膜室と、処理後のフィルムを巻き取る巻き取り室とを隔壁で区画している。
上記巻き取り室には、一対の電極を設けるとともに、真空排気手段とガス供給手段とを設けている。そして、この巻き取り室内にガスを供給しながら、一対の電極間に電場を形成して、巻き取り室全体にプラズマを生成させている。このプラズマによってフィルムロールの電荷を除電するようにしていた。
また、製膜室と巻き取り室とのそれぞれに、内部の真空度を維持するための真空排気手段を個別に設ける必要もあった。
このように、上記従来の装置は、区画壁や各室ごとの真空排気手段が必要なうえ、構造が複雑になってしまう。そのため、装置全体が大型化してしまうという問題があった。
この発明の課題は、区画壁を不要にしながら、全体の真空度を落とさずに除電ができる除電装置を提供することである。
また、上記「パルス的に」とは、パルスのようにきわめて短時間という意味で、「ガスをパルス的に供給する」とは、瞬間的にガスを供給することを意味している。
上記放電電極の両側もしくは片側に対応する位置とは、放電電極を挟んだ両脇もしくは片側の位置であるが、放電電極の両脇から上下左右に多少ずれた位置を含むものとする。例えば、上記接地電極の位置は、上記放電電極を基準にして、除電対象側や放電電極側にずれたり、除電対象の搬送方向にずれたりしていてもよい。
したがって、この発明によれば、特別な区画壁を設けなくても、チャンバー全体の高真空を保ちながら、プラズマによって除電対象の電荷を接地電極に流して除電することができる。
だからといって、上記空間内の圧力がプラズマ生成に必要な圧力になるまで、少量のガスを供給し続けた場合には、チャンバー全体の圧力がプラズマ生成可能な圧力になるようにガスを供給しなければならず、チャンバー全体の真空度を保つことはできない。
また、上記放電電極を、ある程度の面積を有する部材で構成した場合には、この放電電極と除電対象とによって、その間に供給されたプラズマ生成用のガスの広がりも抑制できる。
したがって、放電電極で囲まれ、プラズマ生成用のガスによって真空度が低下する領域を局所的にし、チャンバー全体の高真空をより確実に維持することができる。
また、接地電極を、放電電極の両側に設けた場合には、片側のみに設けた場合と比べて、放電電極と接地電極とで形成される電場の偏りを少なくできる。
また、放電電極及び接地電極が電場に沿って保持された除電対象の両脇を挟むように配置されるため、両電極を除電対象の厚み方向に長くすれば、一対の電極のみで、除電対象の両面を同時に除電することもできる。つまり、部品点数を少なくして、装置の製造コストを低く抑えることもできる。
さらに、板状の電極を対向配置させた場合には、これら両電極によって、プラズマ生成用のガスが除電対象の幅方向に広がることを抑制することができる。
狭い空間に、ガス噴出口を臨ませる場合と比べて、ガス供給手段の設置の自由度を高くできる。
第1実施形態の除電装置は、真空ポンプPによって、1[Pa]以下の目的の高真空が保たれるチャンバー1内で、ローラ2などで搬送され、その後、図示しない位置で巻き取られるフィルムFの表面電荷を除電する除電装置である。
この第1実施形態では、上記フィルムFが除電対象であり、ローラ2(図2参照)が除電対象を保持する保持手段である。
また、チャンバー1内には、フィルムFの表面に薄膜を形成する図示しない蒸着プロセスが設けられ、チャンバー1全体の圧力は、上記ポンプPによって、蒸着可能な圧力、例えば10−4〜10−2[Pa]の高真空に保たれるようにしている。
上記放電電極3,4は、フィルムFの幅方向に長さを有する電極であって、図示しない支持手段によってチャンバー1の側面に支持され、絶縁体で被覆された導線によってチャンバー1外の電源7と接続されている。この電源7は、上記放電電極3,4に対して、後で説明するプラズマを生成可能な電圧を出力できればよく、その電圧は直流電圧に限られない。上記電源7から出力される電圧としては、規則的あるいは不規則に正負の極性が入れ替わったり、正負どちらか一方の極性が間欠的に出力されたりするものでもよい。
さらに、上記チャンバー1内には、上記放電電極3,4の長手方向両側であって上記フィルムFの幅を挟む位置に、棒状の接地電極9,10を設けている。これら接地電極9,10は、上記放電電極3,4との間で電場E1,E2を形成するとともに、フィルムFの表面s1,s2上の電荷をアースへ流すためのものである。
この第1実施形態では、上記ガス供給パイプ5,6、バルブV1,V2、上記バルブ制御部8及び図示しないガスの供給源によって、この発明のガス供給手段を構成している。
そして、上記バルブ制御部8はパルス的に上記バルブV1,V2を開状態としたとき、上記空間11,12内に、プラズマ生成用のガスをパルス的に供給する。
チャンバー1内は、上記真空ポンプPによって蒸着処理が可能な高真空が維持され、図示しない搬送手段によって矢印a方向に搬送されているフィルムFの表面s1,s2は帯電しているものとする。
また、上記バルブV1,V2はバルブ制御部8によって閉状態が保たれている。
この状態で、放電電極3,4に直流高電圧を印加すると、放電電極3と一対の接地電極9,10とによって電場E1が形成されるとともに、放電電極4と接地電極9,10とによって電場E2が形成される。
このように放電電極3,4に高電圧を印加した状態で、上記バルブ制御部8によってバルブV1,V2をパルス的に開状態にして、プラズマ生成用のガスをパルス的に供給する。つまり、バルブV1,V2を短時間だけ開状態にしてプラズマ生成用のガスを上記空間11,12に瞬間的に供給し、すぐにバルブV1,V2を閉状態にして上記ガスの供給を停止する。
このように、フィルムF、放電電極3,4及び接地電極9,10とで囲まれた空間11,12内にプラズマが生成されると、上記フィルムFの表面s1,s2がプラズマに曝される。したがって、フィルムFの表面s1,s2の電荷が、プラズマを介して上記接地電極9,10に流れ、フィルムFの両面s1,s2が同時に除電される。
なお、プラズマ生成可能圧力とは、大気圧未満で1[Pa]より高い圧力範囲である。
また、上記したように、チャンバー1内のガスは、真空ポンプPによって常時排気されるようにしている。
したがって、第1実施形態では、プラズマによってフィルムFの表面を除電しながら、チャンバー1の全体の圧力を、蒸着処理が可能な高真空に維持することができる。
特に、上記バルブ制御部8がバルブV1,V2を制御して、プラズマ生成用のガスの供給が停止されている間には、チャンバー1内の排気がより進んで、空間11,12内の真空度も元通りに回復し、チャンバー1全体の高真空は維持される。
ただし、電場を形成し、フィルムFとともに、上記プラズマ生成用のガスを供給すべき空間を囲む電極の数や配置は図1に示すものに限定されない。
また、上記一対の接地電極9,10に替えて、チャンバー1の側面をアース電極として、放電電極3,4とチャンバー1の側面との間に電場を形成するようにしてもよい。
例えば、接地電極9,10にメッシュで構成される電極を用いれば、接地電極9,10の外側から上記空間11,12内へ、プラズマ生成用のガスを供給することができる。このように、放電電極や接地電極をメッシュで構成すれば、空間11,12の外側にガス供給手段を設けることができ、その設置位置の自由度が上がる。
また、上記放電電極や接地電極が板部材の場合には、それらで囲まれる空間にパルス的に供給されたプラズマ生成用のガスの拡散を上記電極によって規制して、圧力が上昇する範囲をより局所に限定することもできる。
その他の構成は図示していないが、上記チャンバー内は常時真空排気され、全体として高真空が保たれるように構成されている。そして、フィルムF、放電電極13及び接地電極14で囲まれた空間15,16内にプラズマ生成用のガスをパルス的に供給するガス供給手段が設けられている点は、上記第1実施形態と同様である。
また、上記放電電極13はメッシュ、接地電極14は板部材からなる。
この第2実施形態においても、プラズマ生成用のガスを、フィルムF、放電電極13及び接地電極14で囲まれた空間15,16内に、パルス的に供給する。これによって、チャンバー全体の真空度の低下を抑制しながら、プラズマによってフィルムFの両面を除電することができる。
例えば、上記接地電極14をメッシュで形成し、接地電極14の外側から上記空間15,16内にプラズマ生成用のガスを供給するようにしてもよい。また、放電電極13及び接地電極14をともにメッシュで形成して、一方の電極側から供給されたプラズマ生成用のガスを他方の電極側から吸引排気するようにしてもよい。また、上記両電極13,14の外側から上記空間15,16内に、プラズマ生成用のガスを供給するようにしてもよい。
上記ガス噴射ノズル19は、図示しないプラズマ生成用のガス供給源に接続されたバルブV3に接続され、このバルブV3にはバルブV3の開閉を制御して、上記ガスをパルス的に供給するためのバルブ制御部8が接続されている。
また、この第3実施形態の除電装置は、その性能を確認する実験を行なうため、除電対象としてフィルムFではなく、帯電した金属製のプレートPLを用いることにする。そして、このプレートPLにはチャンバー1外でチャージプレートモニター(ヒューグルエレクトロニクス700A型)20を接続している。このチャージプレートモニター20は、上記プレートPLを帯電させたり、その表面電位の変化を測定したりする機能を備えている。
さらに、第3実施形態のチャンバー1は接地され、このチャンバー1の側面1a,1bがこの発明の接地電極として機能する。
また、上記プレートPL、放電電極3及び接地電極である側面1a,1bによって囲まれた空間21に向かって、上記ガス噴射ノズル19からプラズマ生成用のガスをパルス的に供給し、この空間21にプラズマを生成させるようにしていている。このプラズマに曝されたプレートPLの表面が除電される点は、上記他の実施形態と同じである。
この確認実験の実験条件は以下のとおりである。
チャンバー1は、底面が直径100[mm]の円、高さが500[mm]の円筒状で、その容量は約4[L]である。
真空ポンプPの排気量は、250[L/s]である。
また、上記ガス噴射ノズル19の先端と放電電極3との距離は3[mm]である。
さらに、除電対象となる上記プレートPLは、上記放電電極3との距離170[mm]の位置にセットされている。
次に、放電電極3に+10[kV]印加する。
さらに、プレートPLを+500[V]または−500[V]に帯電させて除電対象とする。なお、表面電位が+500[V]に帯電したプレートPLと−500[V]に帯電したプレートPLとのそれぞれについて、以下の手順で確認実験を行なった。
また、上記バルブ制御部8は、上記バルブV3を約100[μs]の間、開状態とし、その間に窒素ガスがパルス的に噴射されるようにした。
そして、上記チャージプレートモニター20によって、上記プレートPLの表面電位の時間変化を計測した。
この表面電位の変化は、図5のグラフに示すとおりである。
このグラフ中の実線(1)は、+500[V]に帯電させたプレートPLの表面電位の時間変化であり、破線(2)は−500[V]に帯電させたプレートPLの表面電位の時間変化である。
なお、上記バルブV3を開いてガス噴射ノズル19から窒素ガスが噴射された瞬間を、図5のグラフにおける時間軸のゼロとしている。
そして、上記除電中であっても、チャンバー1内の真空度の変化は確認されなかった。
これらの結果から、上記第3実施形態の除電装置が、チャンバー全体の高真空を保ちながら、高速除電を可能にするものであることを確認できた。
また、上記第3実施形態では、上記ガス噴射ノズル19から100[μs]の間、パルス的に窒素ガスを噴射させることで上記空間21内をプラズマ生成可能圧力まで上昇させることができるとともに、上記パルス的なガスの供給量ではチャンバー1全体の真空度には影響を与えないことも確認できた。
そのため、高真空が必要な、蒸着プロセスやデバイス製造プロセスを設けたチャンバーを単純な構成にしながら、その内部で除電対象を除電することができる。
そして、プラズマが生成される上記空間11,12,15,16,21は、除電したいタイミングに合わせて、蒸着などの真空処理プロセスの前後のいずれか一方あるいは両方に設けることができる。
いずれにしても、放電電極、接地電極及びガス供給パイプの配置、印加電圧、プラズマ生成用のガスの供給時間などは、除電対象の種類や、除電目的に応じて設定する必要がある。
また、チャンバー全体の真空度は、チャンバーの容積や真空ポンプの排気能力によっても変わる。したがって、チャンバー内の構成や排気能力などに応じて、上記パルス的なガスの供給時間の最適値を設定することができる。
2(保持手段)ローラ
3,4 放電電極
5,6 ガス供給パイプ
7 電源
8 バルブ制御部
9,10 接地電極
11,12 空間
13 放電電極
14 接地電極
15,16 空間
17,18 接地電極
19 ガス噴射ノズル
21 空間
1a,1b (接地電極となる)側面
F (除電対象)フィルム
PL (除電対象)プレート
E1〜E4 電場
V1〜V3 バルブ
Claims (4)
- 1Pa以下の高真空を実現するチャンバーと、
このチャンバー内に設けられ、除電対象を保持する保持手段と、
高電圧が印加される放電電極と、
上記放電電極との間で電場を形成する接地電極と、
上記保持手段で保持された上記除電対象、上記放電電極及び上記接地電極で囲まれた空間でプラズマを生成させるためのプラズマ生成用のガスをパルス的に供給するガス供給手段とが備えられ、
上記放電電極に高電圧が印加されるとともに、上記プラズマ生成用のガスが供給されたとき、上記電場によって上記空間にプラズマが生成され、このプラズマを介して上記除電対象の表面電荷が上記接地電極に流れる構成にした除電装置。 - 上記放電電極は、上記保持手段で保持された除電対象と対向位置に設けられるとともに、
上記接地電極は、上記放電電極の両側もしくは片側に対応する位置に設けられた請求項1に記載の除電装置。 - 上記放電電極と接地電極とが対向配置され、
上記放電電極と接地電極とで形成される電場の方向に沿った上記除電対象が、上記保持手段によって保持された請求項1又は2に記載の除電装置。 - 上記放電電極または接地電極の少なくともいずれか一方がメッシュからなる請求項1〜3のいずれか1に記載の除電装置。
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