JP6858950B2 - 液相法によるセレノグルタチオンの製造方法 - Google Patents

液相法によるセレノグルタチオンの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ペプチド合成法を用いたセレノグルタチオンの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、溶液中でアミノ酸をカルボキシ基末端側から順次連結する方法(液相法)を用いることで、セレノグルタチオン酸化体を高収率かつ高収量で製造する方法に関する。
セレノグルタチオンは、グルタチオンの硫黄原子がセレン原子に置換した水溶性のトリペプチドであり、タンパク質のジスルフィド結合の形成を促進する効果(非特許文献1)やグルタチオンの代替としてグルタチオンレダクターゼの作用を補助する効果(非特許文献2)などの生理作用を示すことから、基礎生物学分野や医学分野での応用が期待されている。セレノグルタチオンを構成するアミノ酸は、L−グルタミン酸(Glu)、L−セレノシステイン(Sec)、グリシン(Gly)であり、これらはアミノ基末端側から、γGlu―Sec―Gly(γはグルタミン酸の側鎖γ位のカルボキシ基がセレノシステインのアミノ基と連結していることを示す)の順にペプチド結合で連結している。セレノグルタチオンには還元体(GSeH)と酸化体(GSeSeG、(1))の2種類の化学状態があるが、セレノシステインの側鎖―CH2SeHは酸素などの酸化剤によって容易に酸化されてジセレニド―CH2SeSeCH2―となるため、セレノグルタチオンは通常は酸化体、すなわち二量体として製造される。
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セレノグルタチオンの製造方法に関する最近の先行技術には、固体の樹脂上に各アミノ酸をカルボキシ基末端側からグリシン、セレノシステイン、グルタミン酸の順に1個ずつ連結する方法(固相法)が報告されている(非特許文献1〜3)。
非特許文献1において、Hilvertらは、Applied Biosystems社製自動合成機(ABI 433A automatic synthesizer)を用いて、0.25mmolスケールで、固相法によるセレノグルタチオン(化合物1)の合成を報告している。Fmoc−Glyを担持したWANG樹脂に、活性化されたセレノシステイン(Fmoc−Sec(MPM)−OPfp)とγグルタミン酸(Boc−Glu(OPfp)−OtBu)を順次反応させ、最後にTFA/TMSBr/thioanisole/m−cresol(750/132/120/50)カクテルを用いて、セレノグルタチオンの樹脂からの脱離と保護基の脱離を同時に行うことで、化合物1を収率33%で得た。
非特許文献2において、吉田らは、手動による固相法によってセレノグルタチオン(化合物1)を合成したと報告している。あらかじめFmoc−Glyを担持させたAlko−PEG樹脂に、HOBt/DCC活性化法によってセレノシステイン(Fmoc−Sec(MPM)−OH)とグルタミン酸(Fmoc−Glu−OtBu)を順次反応させ、最後にReagent K(TFA:H2O:フェノール:チオアニソール:エタンジチオール=82.5:5:5:5:2.5のTFAカクテル)とTFA/DTNPを用いて脱樹脂と脱保護を行った。合成は0.2mmolスケールで行われ、セレノグルタチオンは収率9%で得られた。
非特許文献3において、バイオタージ社では、マイクロウェーブ合成付き自動合成装置Syrowave(Biotage社製)を用いて、固相法によってセレノグルタチオンを0.025mmolスケールで合成したと報告している。樹脂としてはChemMatrix Rink amide resinを用い、Fmocアミノ酸を順次反応させた後、前記TFAカクテルを用いてペプチドを切り出した。得られたセレノグルタチオンの純度は77%であった。なお、本文献では収率については触れられていない。
しかし、このような固相法ではアミノ酸連結時に各アミノ酸試薬を過剰に加える必要があり、また、樹脂からペプチドを切り出す際の効率も悪いため、セレノグルタチオンは低収率、低収量でしか得られない。
一方、液相法によるセレノグルタチオンの製造方法については、1960年代から1990年代にかけて検討されたが(非特許文献4〜6)、セレノグルタチオンの収率が9%程度と低かったことから、その後は顧みられることはなかった。しかし、2015年に下平と岩岡によって、液相法によるセレノグルタチオンの効率的な製造方法が報告された(非特許文献7)。
非特許文献7において、下平らは、カルボキシ基をtBuエステルで保護したグリシン(Fmoc−Gly−OtBu)に、活性化したセレノシステイン(Fmoc−Sec(MPM)−OPfp)とグルタミン酸(Boc−Glu(OPfp)−OtBu)を、溶液中で順次反応させた。その際に、Fmoc基脱保護剤としてはピペリジンあるいはジメチルアミンを使用した。その後、ヨウ素でセレン原子上のMPM基を取り除き、続いてTFA水溶液でグリシンとグルタミン酸のアミノ基とカルボキシ基の保護基を取り除くことにより、段階的な脱保護過程を適用することでセレノグルタチオン(化合物1)を収率66%で得ている。本法は、過去に報告されたセレノグルタチオンの製造方法の中で最も効率的なものである。
J. Beld, K. J. Woycechowsky, D. Hilvert, Biochemistry, 2007, 46, 5382-5390. S. Yoshida, F. Kumakura, I. Komatsu, K. Arai, Y. Onuma, H. Hojo, B. G. Singh, K. I. Priyadarsini, M. Iwaoka, Angew. Chem., Int. Ed., 2011, 50, 2125-2128. セレノシステインを含んだペプチド合成におけるChemMatrixの有効性、バイオタージ社Application Note、2011年. Frank, W. (1964) Synthesen von selenhaltigen peptiden, II Darstellung des Se-analogen oxydierten glutathions (Se-Se-Glutathion), Hoppe-Seyler's Z. Physiol. Chem., 339, 214-221. Theodoropoulos, D., Schwartz, I. L., and Walter, R. (1967) Synthesis of selenium containing peptides, Biochemistry, 6, 3927-3932. Tamura, T., Oikawa, T., Ohtaka, A., Fujii, N., Esaki, N., and Soda, K. (1993) Synthesis and characterization of the selenium analog of glutathione disulfide, Anal. Biochem., 208, 151-154. 下平伸吾、岩岡道夫、第42回有機典型元素化学討論会、2015年12月4日、名古屋、要旨集p.134.
セレノグルタチオンはこれまでに固相法と液相法によって製造されてきたが、いずれの製造法もセレノグルタチオンは低収率、低収量でしか得られなかった。本発明では、セレノグルタチオンを高収量かつ高収率で製造するための新しい手法を提供することを課題とする。
下平らによって報告された液相法による製造法(非特許文献7)では、製造の途中で生じる合成中間体を各製造工程で単離する必要があり、固相法に比べて煩雑な操作を必要とする。しかし、液相法は一度に製造される目的ペプチドの収量が多く、また製造の最終段階における目的ペプチドの純度が高いために最終生成物の精製が容易であるというメリットがある。
そこで、本発明では、下平らのセレノグルタチオンの製造工程を再検討し、特に、(1)事前に合成と単離が必要である活性なペンタフルオロフェニルエステル(Pfpエステル)を用いる代わりに、カルボキシ基の活性化剤(例えばカルボジイミド類)および反応促進用添加剤(例えば1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)を用いること、好ましくはさらに、(2)最終段階においてチオアニソールとトリフルオロ酢酸の混合物(TFAカクテル)を用いてすべての保護基を一段階で取り除くことで、より効率的で高収量のセレノグルタチオンの製造法とすることができることを見出した。本製造法を用いると、セレノグルタチオン(化合物1、図1参照)は、トリフルオロ酢酸塩(GSeSeG・2TFA)として、原料のN−(9−フルオレニルメトキシカルボニル)−Se−(4−メトキシフェニルメチル)−L−セレノシステイン(Fmoc−Sec(MPM)−OH,化合物2)より93%の通算収率で製造される。
すなわち、本発明は下記の事項を包含する。
[1]
L−セレノシステインを出発原料として、L−セレノシステインとグリシンとを連結してL−セレノシステイニルグリシンを得る工程(第1工程)、L−セレノシステイニルグリシンとL−グルタミン酸とを連結してγ−L−グルタミル−L−セレノシステイニルグリシンを得る工程(第2工程)、およびγ−L−グルタミル−L−セレノシステイニルグリシンを脱保護してセレノグルタチオンを得る工程(第3工程)を有する、液相法によるセレノグルタチオンの製造方法であって、
前記第1工程は、アミノ基およびセレン原子が保護されたL−セレノシステイン誘導体と、アミノ基が脱保護され、カルボキシ基が保護されたグリシン誘導体とを反応させることで前記連結を行う工程であり、
前記第2工程は、アミノ基が脱保護され、カルボキシ基およびセレン原子が保護されたL−セレノシステイニルグリシン誘導体と、アミノ基およびα炭素に結合したカルボキシ基が保護されたL−グルタミン酸誘導体とを反応させることで前記連結を行う工程であり、
前記第1工程および第2工程それぞれの連結における、所定のカルボキシ基とアミノ基との反応を、カルボキシ基の活性化剤としてのカルボジイミド類および反応促進用添加剤を用いて行うことを特徴とする、セレノグルタチオンの液相製造方法。
[2]
前記カルボジイミド類が1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)またはN,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)であり、前記反応促進用添加剤が1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)であることを特徴とする、項1に記載の製造方法。
[3]
前記第3工程におけるγ−L−グルタミル−L−セレノシステイニルグリシンの脱保護を、チオアニソール(TA)とトリフルオロ酢酸(TFA)の混合物を脱保護剤として用いて、全ての保護基について一段階で行うことを特徴とする、項1または2に記載の製造方法。
[4]
前記出発原料としてのL−セレノシステインが、N−(9−フルオレニルメトキシカルボニル)−Se−(4−メトキシフェニルメチル)−L−セレノシステイン(Fmoc−Sec(MPM)−OH)であることを特徴とする、項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
本発明で開発されたセレノグルタチオンの製造法を用いれば、セレノグルタチオンを大量かつ安価に製造することが可能となる。これによって、セレノグルタチオンを用いたタンパク質フォールディングの研究や、セレノグルタチオンをグルタチオンの代替として使用する研究などが可能となり、基礎生物学や基礎医学の幅広い分野にセレノグルタチオンが応用されることが期待できる。
図1は、本発明で得られるセレノグルタチオン(化合物1)の合成スキームの概要を示す。
以下、図1に示す合成スキームに沿って、本発明によるセレノグルタチオンの液相製造方法について説明する。説明中の化合物(誘導体)に付された番号は図1のスキームに対応する。当該スキームでは各誘導体は特定の保護基を有するように表現されているが、以下の説明は基本的に、保護基の種類によらず、他の保護基を有する実施形態についても共通する。したがって、以下の説明において、例えば「L−セレノシステイン誘導体(2)」という語句は、図1の合成スキームに示されているようにアミノ基がFmoc基で、セレン原子がMPM基で保護されている誘導体に限定されず、それぞれ他の保護基で保護されている誘導体であってもよい(アミノ基およびセレン原子が何らかの保護基で保護されていればよい)と理解されるべきである。他の誘導体についても同様である。
本発明のセレノグルタチオンの液相製造方法は、基本的に、(1)L−セレノシステインとグリシンとを連結してL−セレノシステイニルグリシンを得る工程、(2)L−セレノシステイニルグリシンとL−グルタミン酸とを連結してγ−L−グルタミル−L−セレノシステイニルグリシンを得る工程、および(3)γ−L−グルタミル−L−セレノシステイニルグリシンを脱保護してセレノグルタチオンを得る工程を有する。これらの工程を、以下の説明において、それぞれ第1工程、第2工程および第3工程と呼ぶ。
本発明のセレノグルタチオンの液相製造方法は、第1工程および第2工程における、それぞれ所定のカルボキシ基とアミノ基との反応を、カルボキシ基の活性化剤としてのカルボジイミド類および反応促進用の添加剤を用いて行う。「所定のカルボキシ基およびアミノ基」は以下の記載により示される。
第1工程:L−セレノシステイン(Sec)とグリシン(Gly)との連結工程
セレノグルタチオンの液相製造方法における第1工程は、L−セレノシステインとグリシンとを連結し、L−セレノシステイニルグリシン(5)を合成する工程である。ここでいう「L−セレノシステイン」は、アミノ基およびセレン原子が保護された(保護基が結合した)誘導体(2)を指し、「グリシン」は、アミノ基およびカルボキシ基が保護された誘導体(3)を指す。グリシン誘導体(3)のアミノ基を脱保護してグリシン誘導体(4)とした後、L−セレノシステイン誘導体(2)のカルボキシ基を所定の化合物で活性化させて、グリシン誘導体(4)の脱保護されたアミノ基と反応させる。
L−セレノシステイン誘導体(2)のアミノ基の保護基は、第2工程におけるL−グルタミン酸誘導体(7)との反応のために、第1工程後に脱保護される。そのようなアミノ基の保護基としては、例えばFmoc基(9−フルオレニルメトキシカルボニル基)が好ましい。一方、L−セレノシステイン誘導体(2)のセレン原子の保護基は、第3工程で脱保護処理されるまでセレン原子を保護し続ける。そのようなセレン原子の保護基としては、例えばMPM基(メトキシフェニルメチル基)やMBn基(メチルベンジル基)が適当であるが、より穏和な条件で脱保護ができるMPM基の方が好ましい。したがって、本発明の製造方法の出発原料であるL−セレノシステインとしては、上記のようにアミノ基がFmoc基で、セレン原子がMPM基で保護された誘導体(Fmoc−Sec(MPM)−OH)、すなわちN−(9−フルオレニルメトキシカルボニル)−Se−(4−メトキシフェニルメチル)−L−セレノシステインが好ましい。
グリシン誘導体(3)のアミノ基の保護基は、本工程におけるL−セレノシステイン誘導体(2)との反応のために脱保護される。そのようなアミノ基の保護基としては、例えばFmoc基が好ましい。一方、グリシン誘導体(3)のカルボキシ基の保護基は、第3工程で脱保護処理されるまでカルボキシ基を保護し続ける。そのようなカルボキシ基の保護基としては、例えばtBu基(tert−ブチル基)、Bn基(ベンジル基)、Allyl基(アリル基)が適当であるが、酸性条件で容易に脱保護できるtBu基が好ましい。
<グリシン誘導体(3)のアミノ基の脱保護処理>
グリシン誘導体(3)の保護基、代表的にはFmoc基の脱保護処理に用いる脱保護剤は、公知の脱保護剤の中から適宜選択することができる。例えば、ジメチルアミン(Me2NH)、ジエチルアミン(Et2NH)などの直鎖状アルキル基を有する第二級アミンや、ピロリジン、ピペリジンなどの環状の第二級アミンを脱保護剤として用いることができるが、減圧下での留去が容易なジメチルアミンとジエチルアミンを用いるのが好ましく、水溶液ではなく純粋な液体として入手が可能なジエチルアミンを用いるのがより好ましい。また、この脱保護処理のための溶媒も適宜選択することができる。例えばジメチルホルムアミド(DMF)を単独で、N−メチルピロリドン(NMP)を単独で、ジクロロメタン(DCM)を単独で、またはこれらの溶媒と水(H2O)とを混合して用いることができるが、溶媒中に水が存在しないようにすることが第1工程の収率を高める上で好ましく、そのような観点からは、DMFを溶媒とし、DMFへの溶解性に優れ水を含まない純粋な液体として入手が可能なEt2NHを脱保護剤として組み合わせて用いることが好ましい。溶媒中の脱保護剤の濃度も適宜調節することができるが、通常5〜30体積%、好ましくは10〜20体積%である。脱保護処理の時間は、通常1〜30分、好ましくは5〜20分である。処理温度は室温程度でよいが、化合物(アミノ酸およびペプチド)に悪影響を与えない範囲で、必要に応じて適宜40℃以下の範囲で調節してもよい。脱保護処理の後、必要に応じて過剰のEt2NH等の脱保護剤を減圧留去した後、グリシン誘導体(4)を次のL−セレノシステイン誘導体(2)との反応に用いる。
<グリシン誘導体(4)とL−セレノシステイン誘導体(2)との結合反応>
L−セレノシステイン誘導体(2)のカルボキシ基は、グリシン誘導体(4)の脱保護されたアミノ基との反応のために、所定の活性化剤および反応促進用添加剤を用いて活性化される。そのため本発明では、カルボキシ基があらかじめペンタフルオロフェニルエステル(Pfpエステル)によって活性化処理された、L−セレノシステイン誘導体を用いる必要がない。
L−セレノシステイン誘導体(2)のカルボキシ基の活性化剤としては、カルボジイミド類が用いられる。カルボキシ基の活性化剤としてのカルボジイミド類としては、様々な化合物が公知であり、適宜選択することができるが、例えば、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)などを用いることができる。このうち、DCCを用いた場合には、カルボジイミドと生成物のL−セレノシステイニルグリシン(5)とをカラムクロマトグラフィーによって分離することが困難であった。一方、EDCIやDICを用いた場合には、カルボジイミドと生成物のL−セレノシステイニルグリシン(5)は、抽出操作およびその後のカラムクロマトグラフィーによって容易に分離することができた。
また、カルボキシ基の活性化剤としてのカルボジイミド類と併用される、反応促進用の添加剤も公知のものの中から適宜選択することができるが、代表的には1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)が挙げられる。なお、カルボジイミド類だけでも反応は進行するが、十分な収率を達成するためには長時間が必要となるため産業上は不利である。
L−セレノシステイン誘導体(2)に対するカルボキシ基の活性化剤および反応促進用添加剤の使用量(当量比)は適宜調節することができるが、L−セレノシステイン誘導体(2)1当量に対して、通常は活性化剤が1〜4当量および反応促進用添加剤が1〜4当量、好ましくは活性化剤が1.5〜2当量および反応促進用添加剤が1.5〜2当量である。反応時間も適宜調節することができるが、通常は0.5〜12時間(オーバーナイト)、好ましくは2〜6時間である。反応温度は室温程度でよいが、化合物(アミノ酸およびペプチド)に悪影響を与えない範囲で、必要に応じて適宜40℃以下の範囲で調節してもよい。
第1工程により生成したL−セレノシステイニルグリシン誘導体(5)は、適切な溶媒(例えば酢酸エチル−水)を用いて抽出し、有機層を適切な溶液(例えば1M塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液)を用いて洗浄した後、脱水、溶媒の減圧留去、さらに精製(例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィー、酢酸エチル/ヘキサン溶媒(3:7)を用いて)などにより回収することができる。回収されたL−セレノシステイニルグリシン誘導体(5)は、次の第2工程に供され、まずは脱保護剤が添加された溶媒に溶解させて用いられる。
第2工程:L−セレノシステイニルグリシンとL−グルタミン酸との連結工程
セレノグルタチオンの液相製造方法における第2工程は、L−セレノシステイニルグリシンとL−グルタミン酸とを連結してγ−L−グルタミル−L−セレノシステイニルグリシン(8)を合成する工程である。ここでいう「L−セレノシステイニルグリシン」は、グリシン誘導体(4)に由来する保護された(保護基が結合した)カルボキシ基と、L−セレノシステインに由来する保護されたアミノ基および保護されたセレン原子とを有する誘導体(5)を指し、「L−グルタミン酸」は、アミノ基およびα炭素に結合した(α位にある)カルボキシ基が保護された誘導体(7)を指す。L−セレノシステイニルグリシン誘導体(5)のアミノ基を脱保護してL−セレノシステイニルグリシン誘導体(6)とし、L−グルタミン酸誘導体(7)の側鎖のγ炭素に結合した(γ位にある)カルボキシ基を所定の化合物で活性化させて、L−セレノシステイニルグリシン誘導体(6)の脱保護されたアミノ基と反応させる。
L−グルタミン酸誘導体(7)のアミノ基およびα位のカルボキシ基の保護基はどちらも、第3工程で脱保護処理されるまでそれぞれアミノ基およびα位のカルボキシ基を保護し続ける。そのようなアミノ基の保護基としては、例えばFmoc基、Boc基(tert−ブトキシカルボニル基)、ベンジルオキシカルボニル基(Z基)が適当であるが、第3工程での除去が容易なBoc基が好ましく、カルボキシ基の保護基としては、例えばtBu基(tert−ブチル基)が好ましい。
<L−セレノシステイニルグリシン誘導体(5)のアミノ基の脱保護処理>
L−セレノシステイニルグリシン誘導体(5)の保護基、代表的にはFmoc基の脱保護処理に用いる脱保護剤は、公知の脱保護剤の中から適宜選択することができるが、例えば、第1工程におけるグリシン誘導体(3)の脱保護処理と同様、ジメチルアミン(Me2NH)、ジエチルアミン(Et2NH)などの直鎖状アルキル基を有する第二級アミンや、ピロリジン、ピペリジンなどの環状の第二級アミンを脱保護剤として用いることができ、次に述べる溶媒への溶解性に優れ、純粋な液体として入手が可能なEt2NHが好ましい。また、この脱保護処理のための溶媒も適宜選択することができるが、例えばジメチルホルムアミド(DMF)を単独で、NMPを単独で、またはこれらの溶媒とジクロロメタン(DCM)とを混合して用いることができる。脱保護剤の溶解性と、脱保護剤の第二級アミンによるセレノシステイン残基のα水素の引き抜きに伴うSe原子の脱離がDMF中で徐々に進行すること(その脱離を防ぐ必要があること)を考慮すると、DMFとDCMの混合溶媒を用いることが好ましい。溶媒中の脱保護剤の濃度も適宜調節することができるが、通常5〜30体積%、好ましくは10〜20体積%である。脱保護処理の時間は、通常1〜30分、好ましくは5〜20分である。処理温度は室温程度でよいが、化合物(アミノ酸およびペプチド)に悪影響を与えない範囲で、必要に応じて適宜40℃以下の範囲で調節してもよい。脱保護処理の後、必要に応じて過剰のEt2NH等の脱保護剤およびDCM等の溶媒を減圧留去した後、L−セレノシステイニルグリシン誘導体(6)を次のL−グルタミン酸誘導体(7)との反応に用いる。
<L−セレノシステイニルグリシン誘導体(6)とL−グルタミン酸誘導体(7)との結合反応>
L−グルタミン酸誘導体(7)の側鎖のγ位のカルボキシ基は、L−セレノシステイニルグリシン誘導体(6)の脱保護されたアミノ基との反応のために、所定の活性化剤および反応促進用添加剤を用いて活性化される。
L−グルタミン酸誘導体(7)の側鎖のγ位のカルボキシ基の活性化剤としても、第1工程におけるグリシン誘導体(4)とL−セレノシステイン誘導体(2)との結合反応の際と同様のカルボジイミド類を用いることができ、EDCI、DICなどが好ましい。
L−グルタミン酸誘導体(7)に対するカルボキシ基の活性化剤および反応促進用添加剤の使用量(当量比)は適宜調節することができるが、L−グルタミン酸誘導体(7)1当量に対して、通常は活性化剤が1〜4当量および反応促進用添加剤が1〜4当量、好ましくは活性化剤が1.5〜2当量および反応促進用添加剤が1.5〜2当量である。反応時間も適宜調節することができるが、通常は0.5〜12時間(オーバーナイト)、好ましくは2〜6時間である。反応温度は室温程度でよいが、化合物(アミノ酸およびペプチド)に悪影響を与えない範囲で、必要に応じて適宜40℃以下の範囲で調節してもよい。
第2工程により生成したγ−L−グルタミル−L−セレノシステイニルグリシン誘導体(8)は、適切な溶媒(例えば酢酸エチル−水)を用いて抽出し、有機層を適切な溶媒(例えば1M塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液)を用いて洗浄した後、脱水、溶媒の減圧留去、さらに精製(例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィー、酢酸エチル/ヘキサン溶媒(45:55)を用いて)などにより回収することができる。回収されたγ−L−グルタミル−L−セレノシステイニルグリシン誘導体(8)は、次の第3工程に供され、脱保護剤に溶解させて用いられる。
第3工程:γ−L−グルタミル−L−セレノシステイニルグリシンの脱保護工程
セレノグルタチオンの液相製造方法における第3工程は、γ−L−グルタミル−L−セレノシステイニルグリシン(8)の脱保護、すなわち当該誘導体が有する2つのカルボキシ基の保護基(例えばtBu基)、アミノ基の保護基(例えばBoc基)、およびセレン原子の保護基(例えばMPM基)の全てについて、一段階で(途中で分離工程等を挟まずに)除去する工程である。
第3工程で用いる脱保護剤としては、少なくともチオアニソール(TA)とトリフルオロ酢酸(TFA)を含有する混合物が好ましい。このような混合物は、必要に応じて脱保護作用を有するその他の化合物、例えば水、トリイソプロピルシラン(TIS)、エタンジチオール、ジメチルスルフィドなども含有していてもよいが、本発明においては、TAおよびTFAのみからなる混合物であっても十分にγ−L−グルタミル−L−セレノシステイニルグリシン(8)に対する脱保護剤として機能させることができる。
TAおよびTFAの混合割合は適宜調節することができるが、TAおよびTFAの合計に対して、TAが通常5〜40体積%、好ましくは10〜20体積%である。反応時間も適宜調節することができるが、通常1〜72時間(3日間)、好ましくは2〜24時間(1日間)である。反応温度は室温程度でよいが、化合物(アミノ酸およびペプチド)に悪影響を与えない範囲で、必要に応じて適宜40℃以下の範囲で調節してもよい。セレン原子上の保護基(例えばMPM基)は他の部位の保護基に比べて外れにくい場合があるので、セレン原子上の保護基まで完全に脱保護されて目的物が得られるよう、反応条件を調節することが適切である。
第3工程により生成した、脱保護されたγ−L−グルタミル−L−セレノシステイニルグリシン(1)は、例えば、TFAを気化して除去した後、ジエチルエーテルを加えて当該化合物(トリペプチド)を沈殿させてデカンテーションし、必要に応じてこの操作を何回か繰り返して洗浄した後、残りの溶媒を減圧留去し、適切な溶媒(例えばTFA含有MeCN/H2O溶液)に再度溶解してから凍結乾燥するなどして、最終目的物をトリフルオロ酢酸塩(GSeSeG・2TFA)として回収することができる。最終生成物は必要に応じて、逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、あるいは逆相シリカゲルを用いたオープンカラムクロマトグラフィーによってさらに精製し、各種の実験に供することができる。
上述した第1〜第3工程の各条件(用いる物質の種類、数値範囲等)は、実施形態に応じて適宜組み合わせることができ、必要に応じて最適範囲をさらに調節することができる。また、実施形態によっては、上記の通常の条件および好ましい条件に限定されずに、適切に条件を設定することが可能な場合もあるだろう。
[実験例1]L-セレノシステイン(Sec)とグリシン(Gly)との連結法の検討
Fmoc-Gly-OtBu (3)の脱Fmoc保護とFmoc-Sec(MPM)-OH (2)との連結反応それぞれの条件について、脱Fmoc保護剤および反応時間、ならびにカルボキシ基の活性化剤(カルボジイミド)の種類と反応促進用添加剤(HOBt)との当量比および反応時間を変更しながら検討した。結果を表1に示す。
まず、Fmoc-Gly-OtBu(3)からFmoc基を取り除いてアミノ基を遊離させるための試薬(Fmoc基脱保護剤)を検討した。その結果、Fmoc基の脱保護条件としては、ジメチルホルムアミド(DMF)−水(H2O)混合溶媒中で5%ジメチルアミン(Me2NH)を用いる条件、DMF溶媒中で5〜20%ジエチルアミン(Et2NH)を用いる条件のいずれを用いても、Fmoc基の脱保護は、室温で反応時間5〜20分で定量的に進行することがわかった。
次に、上記の反応後、過剰のMe2NHまたはEt2NHをエバポレーターで減圧留去して得られたNH2-Gly-OtBu(4)を用いて、Fmoc-Sec(MPM)-OH(化合物2)との連結反応の条件を検討した。種々のカルボジイミドと反応促進用添加剤の組み合わせを検討した結果、カルボジイミドとしては、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)、N,N'-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)のいずれを用いても、高収率で目的のジペプチド(化合物5)が得られることが分かった(表1)。しかし、DCCを用いた場合には目的物とDCCを分離することが困難であった。最も良い収率の反応条件は、化合物2に対して2当量のDICと1.5当量のHOBtを使用し、反応時間を6時間とする場合であり、このとき化合物5はセレノシステイン誘導体(化合物2)より、単離収率98.4%で得られた。
Figure 0006858950
[実験例2]L-セレノシステイニルグリシン(Sec―Gly)(5)とL-グルタミン酸(Glu)との連結法の検討
実施例1で述べた条件を適用して、ジペプチド5とL-グルタミン酸誘導体(7)との連結反応の条件の検討を行った。結果を表2に示す。
まず、脱Fmoc保護剤としてEt2NHを用い、20%ジクロロメタン(DCM)―ジメチルホルムアミド(DMF)混合溶媒中で脱保護を行うことで、化合物5から化合物6への変換を定量的に行うことができた。
続いて、過剰のEt2NHとDCMをエバポレーターで減圧留去し、得られた化合物6に1.5当量のL-グルタミン酸誘導体Boc-Glu-OtBu(7)を加えて連結反応を行った。この際のカルボジイミドと反応促進用添加剤の組み合わせとしては、EDCIとHOBt、あるいはDICとHOBtの組み合わせが良好な結果を与え、特に、化合物7に対して2当量のDICと1.5当量のHOBtの組み合わせが最も良好な結果を与えた。最適条件において、目的物のトリペプチド(化合物8)は単離収率95.3 %で得られた。
Figure 0006858950
[実験例3]γ-L-グルタミル-L-セレノシステイニルグリシン(γGlu―Sec―Gly)(8)の脱保護法の検討
化合物8の脱保護条件について、チオアニソール(TA)およびトリフルオロ酢酸(TFA)の混合比および化合物8との反応時間を変更しながら検討した。結果を表3に示す。
チオアニソール(TA)とトリフルオロ酢酸(TFA)の混合物を脱保護剤として用いたところ、セレン上のMPM保護基の脱離とグリシンとグルタミン酸の保護基の脱保護を同時に一段階で行うことができ、目的物であるセレノグルタチオン酸化体(化合物1)をほぼ定量的に得ることができた。77Se NMRスペクトルで確認したところ、反応時間2時間ではセレン原子上のMPM保護基は外れていなかったが、4時間後にはMPM保護基は完全に脱保護されていた。また、TAの濃度を10%にしても6時間反応させることで脱保護が進行した。しかしながら、大量に脱保護を行う際にはTAの濃度を20%とし、一晩反応させる必要があった。
Figure 0006858950
[実施例]
1.化合物5の合成(第1工程)
1.1 Fmoc-Gly-OtBu(化合物3)(0.1145 g, 0.32 mmol)を30 mLナス型フラスコにとり、10%-Et2NH/DMF(4 mL)に溶かし5分間室温で攪拌した。Fmoc基の脱保護が完了後、エバポレーターで過剰のEt2NHを減圧留去した。得られた溶液にFmoc-Sec(MPM)-OH(化合物2)(0.1025 g, 0.20 mmol)、HOBt(0.0677 g, 0.44 mmol)、EDCI(0.0807 g, 0.42 mmol)、DMF(2 mL)を順次加え、室温で2時間攪拌した。撹拌後、反応液を酢酸エチル―水で抽出し、得られた有機層を1M塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液の順に洗浄した後、硫酸マグネシウムで脱水した。濾過後、エバポレーターで溶媒を減圧留去した。得られた粗製の化合物5を酢酸エチル:ヘキサン(3:7)を溶媒として、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、目的物(化合物5)を収量0.1198 g、収率95.7 %で得た。
1.2 Fmoc-Gly-OtBu(0.2188 g : 0.62 mmol)を30 mLナス型フラスコにとり、10%-Et2NH/DMF(6 mL)に溶かした。この溶液を5分間攪拌することで脱Fmocを行った。反応終了後、エバポレーターでEt2NHを減圧留去した。得られた溶液にFmoc-Sec(MPM)-OH(0.2063 g : 0.40 mmol)、HOBt(0.0938 g : 0.61 mmol)、DIC(124.4 μL : 0.80 mmol)とDMF(2 mL)を加え、室温で6時間攪拌した。撹拌後、反応液を酢酸エチル―水で抽出し、得られた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液の順に洗浄した後、硫酸マグネシウムで脱水した。濾過後、エバポレーターで溶媒を減圧留去した。得られた粗製の化合物5を酢酸エチル:ヘキサン(3:7)を溶媒として、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、目的物(化合物5)を収量0.2480 g、収率98.4 %で得た。
生成物(化合物5)のスペクトルデータ
1H NMR (CDCl3): δH 1.39 (9H, s, tBu), 2.69 (1H, m, Sec βH), 2.87 (1H, m, Sec βH), 3.68 (3H, s, MPM OMe), 3.71 (2H, s, MPM CH2), 3.84 (2H, m, Gly), 4.15 (1H, t, JHH 6.9 Hz, Fmoc 1H), 4.34 (3H, m, Fmoc 2H + Sec αH ), 5.52 (H, d, JHH 6.5 Hz, NH), 6.58 (1H, s, NH), 6.74 (2H, d, JHH 7.8 Hz, MPM Ar), 7.16 (2H, d, JHH 8.4 Hz, MPM Ar), 7.24 (2H, t, JHH 7.2 Hz, Fmoc Ar), 7.32 (2H, t, JHH 7.4 Hz, Fmoc Ar), 7.51 (2H, d, JHH 6.8 Hz, Fmoc Ar), 7.69 (2H, d, JHH 7.5 Hz, Fmoc Ar). 13C NMR (CDCl3): δC 25.8, 27.5, 28.1, 42.2, 47.1 54.5, 55.2, 67.3, 82.5, 114.1, 120.0, 125.2, 127.1, 127.8, 130.1, 130.8, 141.3, 143.8, 156.0, 158.6, 168.5, 170.5. 77Se NMR (CDCl3): δSe 221.6. [α]D:-3.4°(in CHCl3)。
2.化合物8の合成(第2工程)
2.1 Fmoc-Sec(MPM)-Gly-OtBu(0.0669 g : 0.11 mmol)を10 mLナス型フラスコにとり、10%-Et2NH/20%-DCM/DMF(2 mL)に溶かした。この溶液を5分間攪拌することで脱Fmocを行った。反応終了後、エバポレーターでEt2NHとDCMを減圧留去した。得られた溶液にBoc-Glu-OtBu(0.0580 g : 0.19 mmol)、HOBt(0.0269 g : 0.18 mmol)、EDCI(0.0807 g : 0.16 mmol)とDMF(1 mL)を加え、室温で2時間攪拌した。撹拌後、反応液を酢酸エチル−水で抽出し、得られた有機層を1M塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液の順に洗浄した後、硫酸マグネシウムで脱水した。濾過後、エバポレーターで溶媒を減圧留去した。得られた粗製の化合物8を酢酸エチル:ヘキサン(45:55)を溶媒として、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、目的物(化合物8)を収量0.0700 g、収率95.0 %で得た。
2.2 Fmoc-Sec(MPM)-Gly-OtBu(0.2408 g : 0.34 mmol)を30 mLナス型フラスコにとり、10%-Et2NH/20%-DCM/DMF(6 mL)に溶かした。この溶液を5分間攪拌することで脱Fmocを行った。反応終了後、エバポレーターでEt2NHとDCMを減圧留去した。得られた溶液にBoc-Glu-OtBu(0.1778 g : 0.59 mmol)、HOBt(0.1364 g : 0.89 mmol)、DIC(180.3 μL : 1.16 mmol)とDMF(2 mL)を加え、室温で6時間攪拌した。撹拌後、反応液を酢酸エチル−水で抽出し、得られた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液の順に洗浄した後、硫酸マグネシウムで脱水した。濾過後、エバポレーターで溶媒を減圧留去した。得られた粗製の化合物8を酢酸エチル:ヘキサン(45:55)を溶媒として、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、目的物(化合物8)を収量0.2528 g、収率95.3 %で得た。
生成物(化合物8)のスペクトルデータ
1H NMR (CDCl3): δH 1.47 (9H, s, tBu), 1.48 (9H, s, tBu), 1.49 (9H, s, tBu), 1.90 (1H, m, Glu βH), 2.18 (1H, m, Glu βH), 2.30 (2H, m, Glu γH), 2.81 (1H, dd, JHH 6.4 Hz and 12.9 Hz, Sec βH), 2.99 (1H, dd, JHH 6.2 Hz and 13.2 Hz, Sec βH), 3.81 (3H, s, MPM OMe), 3.82 (2H, s, MPM CH2), 3.93 (2H, m, Gly), 3.86-4.00 (1H, m, Glu αH), 4.61 (1H, dd, JHH 6.5 Hz and 13.5 Hz, Sec αH), 5.27 (1H, d, JHH 6.8 Hz, NH), 6.70 (1H, d, JHH 7.4 Hz, NH), 6.82 (1H, t, JHH 7.3 Hz, NH), 6.86 (2H, d, JHH 8.5 Hz, MPM Ar), 7.26 (2H, d, JHH 8.4 Hz, MPM Ar). 13C NMR (CDCl3): δC 25.1, 27.4, 28.0, 28.0, 28.3, 28.9, 32.4, 42.1, 52.7, 53.4, 55.2, 79.9, 82.2, 82.2, 114.0, 130.0, 131.0, 155.8, 158.5, 168.5, 170.6, 171.5, 172.3. 77Se NMR (CDCl3): δSe 225.9. [α]D:-8.6°(in CHCl3)。
3.化合物8の脱保護によるセレノグルタチオン(化合物1)の合成(第3工程)
3.1 γ-L-グルタミル-L-セレノシステイニルグリシン(34.7 mg : 0.051 mmol)を15 mL遠沈管にとり、20%-TA/TFA(1.5 mL)に溶かした。37℃で4時間振盪した後、窒素を吹きかけることでTFAを気化させた。得られた残渣にEt2Oを加えることでペプチドを沈殿させ、溶液をデカンテーションした。同様の操作を3回繰り返すことでペプチドを洗浄し、エバポレーターで溶媒を減圧留去した。0.1%-TFA含有50%-MeCN/H2Oに溶かし、凍結乾燥を行うことによって目的物(化合物1)をTFA塩として定量的に得た。
3.2 γ-L-グルタミル-L-セレノシステイニルグリシン(260 mg : 0.379 mmol)を15 mL遠沈管にとり、20%-TA/TFA(4 mL)に溶かした。37℃で24時間振盪した後、窒素を吹きかけることでTFAを気化させた。得られた残渣にEt2Oを加えることでペプチドを沈殿させ、溶液をデカンテーションした。同様の操作を3回繰り返すことでペプチドを洗浄し、エバポレーターで溶媒を減圧留去した。0.1%-TFA含有50%-MeCN/H2Oに溶かし、凍結乾燥を行うことによって目的物(化合物1)をTFA塩として定量的に得た。
生成物(化合物1)のスペクトルデータ
1H NMR (D2O): δH 2.10 (2H, q, JHH 7.3 Hz, Glu βH), 2.46 (2H, m, Glu γH), 3.07 (1H, dd, JHH 9.3 and 13.0 Hz, Sec βH), 3.33 (1H, dd, JHH 4.9 and 13.2 Hz, Sec βH), 3.83 (1H, t, JHH 6.2 Hz, Glu αH), 3.91 (2H, s, Gly), 4.60 (1H, dd, JHH 4.9 Hz and 9.2 Hz, Sec αH). 13C NMR (CDCl3): δC 25.8, 29.2, 31.1, 41.2, 53.1, 53.9, 172.7, 172.8, 173.0, 174.5. 77Se NMR (CDCl3): δSe 292.4. [α]D:-59.3°(in H2O)。
4.セレノグルタチオン(GSeSeG、化合物1)の精製および純度の確認方法
上記の合成法で得られたセレノグルタチオンは、各種NMRスペクトルおよび旋光度([α]D)の測定によって、その純度を確認することができる。必要に応じて、次に示す手段によって純度をより高めることができる。
4.1 逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーによる精製方法
GLサイエンス社製の逆相カラムInertsil C18(粒径 5 μm, 直径4.6 mm×長さ150 mm)を用いて、以下のHPLC条件で、得られたセレノグルタチオンの分析及び精製を行った。カラム温度は35℃、溶媒の流速は1.0 mL/min、検出波長は220 nmとした。溶媒Aは0.1%TFA−アセトニトリル、溶媒Bは0.1%TFA−水とし、サンプル注入後20分かけて溶媒Bの濃度を1%から21%に徐々に増加した。少量のセレノグルタチオンを水に溶かしてサンプルとした。セレノグルタチオンは約9.5分後に溶出し、これを捕集し、凍結乾燥した。この精製法では、一回に精製できるセレノグルタチオンはごく少量(〜100 μg)であった。
4.2 逆相シリカゲルを用いたオープンカラムクロマトグラフィーによる精製方法
関東化学社製の逆相クロマト用シリカゲルSilica gel 120 (spherical) RP-18 (粒径 40〜50 μm)を0.1%TFA含有30%アセトニトリル−水に膨潤させ、カラム管(直径2.5 cm×長さ30 cm)に詰めた。溶媒の流速を3.4 mL/min、検出波長を220 nmとして、セレノグルタチオンを同溶媒に溶かしてカラムに注入した。セレノグルタチオンは25〜30分後に溶出し、これを捕集し、凍結乾燥した。この精製法では、一回に精製できるセレノグルタチオンは〜40 mgであった。

Claims (4)

  1. L−セレノシステインを出発原料として、L−セレノシステインとグリシンとを連結してL−セレノシステイニルグリシンを得る工程(第1工程)、L−セレノシステイニルグリシンとL−グルタミン酸とを連結してγ−L−グルタミル−L−セレノシステイニルグリシンを得る工程(第2工程)、およびγ−L−グルタミル−L−セレノシステイニルグリシンを脱保護してセレノグルタチオンを得る工程(第3工程)を有する、液相法によるセレノグルタチオンの製造方法であって、
    前記第1工程は、アミノ基およびセレン原子が保護されたL−セレノシステイン誘導体と、アミノ基が脱保護され、カルボキシ基が保護されたグリシン誘導体とを反応させることで前記連結を行う工程であり、
    前記第2工程は、アミノ基が脱保護され、カルボキシ基およびセレン原子が保護されたL−セレノシステイニルグリシン誘導体と、アミノ基およびα炭素に結合したカルボキシ基が保護されたL−グルタミン酸誘導体とを反応させることで前記連結を行う工程であり、
    前記第1工程および第2工程それぞれの連結における、所定のカルボキシ基とアミノ基との反応を、カルボキシ基の活性化剤としてのカルボジイミド類および反応促進用添加剤を用いて行い、
    前記反応促進用添加剤が1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)であることを特徴とする、セレノグルタチオンの液相製造方法。
  2. 前記カルボジイミド類が1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)またはN,N'−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記第3工程におけるγ−L−グルタミル−L−セレノシステイニルグリシンの脱保護を、チオアニソール(TA)とトリフルオロ酢酸(TFA)の混合物を脱保護剤として用いて、全ての保護基について一段階で行うことを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 前記出発原料としてのL−セレノシステインが、N−(9−フルオレニルメトキシカルボニル)−Se−(4−メトキシフェニルメチル)−L−セレノシステイン(Fmoc−Sec(MPM)−OH)であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
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