JP6846913B2 - 広波長域発光素子および広波長域発光素子の作製方法 - Google Patents

広波長域発光素子および広波長域発光素子の作製方法 Download PDF

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Description

本発明は、13族窒化物からなる活性層を有する発光素子に関する。
発光ダイオード(LED)は、いずれもが13族窒化物からなるn型層、活性層、p型層を順に積層することで構成される。n型層およびp型層を構成する13族窒化物のバンドギャップを、活性層を構成する13族窒化物のバンドギャップよりも大きくすることで、LEDの発光効率を向上させることができるほか、活性層に用いる13族窒化物の組成を適宜調整することで、LEDの発光波長を変えることができる。また、活性層を組成の相異なる井戸層と障壁層とを積層した量子井戸構造とすることで光出力を高くすることができ、係る量子井戸構造を多層形成する多重量子井戸構造(MQW)を用いることで、さらに光出力を高めることができる(例えば、特許文献1参照)。
LEDを作製する際の基板には従来、サファイア基板が用いられるのが一般的であったが、これに換えて窒化ガリウム(GaN)基板を用いることで、LED層構造中の転位密度を減らすことができ、LEDの高効率化が期待できる。GaN基板の作製方法としては、HVPE法が良く知られている(例えば、特許文献2参照)。
ただし、GaN基板は一般的に高価であることから、安価で大面積化にも適した基板として、基板表面の略法線方向に単結晶構造を有する複数の窒化ガリウム系単結晶粒子で構成される多結晶基板である多結晶窒化ガリウム自立基板が、用いられることもある(例えば、特許文献3および特許文献4参照)。特に、特許文献4には、窒化ガリウム自立基板を構成する窒化ガリウム結晶の結晶方位の平均傾斜角を1°〜10°とすることで、転位密度の低減が実現された多結晶窒化ガリウム自立基板が開示されている。
また、LEDによって白色光(白色照明)を実現するには、相異なる波長の光(典型的には赤色光、緑色光、青色光)を重畳的に発光させる必要があるが、一つの素子から相異なる波長の光を発生させる発光素子(複数波長発光素子)もすでに公知である(例えば、特許文献5ないし特許文献8参照)。
特許文献5には、異なる組成の活性層を持つ複数の量子井戸構造を順に積層することで複数波長発光素子を作製する技術が、開示されている。
特許文献6には、選択成長用マスクを用いて面内方向に異なる組成の活性層を形成する技術が、開示されている。
特許文献7には、イオン打ち込みを用いて面内方向に異なる組成の活性層を形成することで複数波長発光素子を作製する技術が、開示されている。
特許文献8には、凹凸の上面と下面とで傾斜が異なる基板を用いて複数波長発光素子を作製する技術が、開示されている。
また、オフ角を有するGaN基板上にInGaN膜を形成する場合、オフ角とIn組成の関係がテラス上成長とステップ端成長の割合から決定され、オフ角が0°から45°の範囲では傾斜角が大きくなるほどInGaN膜におけるIn組成が低くなることも知られている(例えば、特許文献9参照)。
特許第2917742号公報 特開2010−132556号公報 国際公開第2014/192911号 国際公開第2015/151902号 特許第3543498号公報 特開平5−251738号公報 特開平8−139362号公報 特許第5032171号公報 国際公開第2010/016459号
特許文献5に開示された技術においては、バンドギャップの大きい材料からなる活性層(短波長:青色)を発光観測面側(素子上面側)に形成することによって、バンドギャップの大きい材料からなる活性層(長波長:赤色、中間の波長:緑色)からの光が吸収されることを防ぐことで、複数波長発光を実現している。しかしながら、当該構造には、発光観測面側と反対側に向かう光を反射させて利用することができずに吸収されてしまうため、光取出し効率が低くなってしまうという問題がある。
特許文献6ないし特許文献8に開示された技術においてはいずれも、面内方向に異なる組成の活性層を形成しているため、積層方向に異なる組成の活性層を形成した場合とは異なり、発光観測面側に向かう光も発光観測面側と反対側に向かう光も吸収されることがなく高い光取り出し効率が得られる。しかしながら、選択成長用マスクの形成やイオン打ち込みや凹凸加工といった複雑な工程が必要になり、製造コストや生産性の点で不利である。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、従来よりも発光ピーク波長近傍における高発光強度域が広く、かつ複雑な工程を経ることなく作製可能な発光素子を実現することを、目的とする。
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、広波長域発光素子が、複数のGaN単結晶粒子からなり、前記複数のGaN単結晶粒子についてのc軸方向の基板法線に対する傾斜角の頻度分布において傾斜角が0°のときの頻度値から順次に積算した累積頻度値が全体の80%となる傾斜角である累積80%傾斜角が12°以上20°以下である多結晶GaN基板と、13族窒化物半導体からなる発光構造と、を備え、前記発光構造が、前記多結晶GaN基板の上に設けられた、GaNに所定のn型ドーパントがドープされてなるn型導電層と、前記n型導電層の上に設けられた、In Ga 1−x N(0<x<1)なる組成の第1単位層とGaNからなる第2単位層とが繰り返し交互に積層されることにより多重量子井戸構造を有する活性層と、前記活性層の上に設けられた、GaNに所定のp型ドーパントがドープされてなるp型導電層と、を備え、発光スペクトルにおいてピーク波長における発光強度値の80%以上の発光強度値である波長範囲が40nm以上である、ことを特徴とする。
本発明の第の態様は、第の態様に係る広波長域発光素子であって、前記n型導電層の上に設けられた、InGa1−yN(0<y<1)なる組成の第1単位層とGaNからなる第2単位層とが繰り返し交互に積層されることにより超格子構造を有する応力緩和層、をさらに備え、前記活性層が前記応力緩和層の上に設けられてなる、ことを特徴とする。
本発明の第の態様は、第の態様に係る広波長域発光素子であって、前記多結晶GaN基板の累積80%傾斜角が15°以上20°以下であり、前記活性層の第1単位層におけるInモル比xの値の最大値が0.4〜0.55である、ことを特徴とする。
本発明の第の態様は、発光スペクトルにおいてピーク波長における発光強度値の80%以上の発光強度値である波長範囲が40nm以上である、広波長域発光素子を作製する方法であって、複数のGaN単結晶粒子からなり、前記複数のGaN単結晶粒子についてのc軸方向の基板法線に対する傾斜角の頻度分布において傾斜角が0°のときの頻度値から順次に積算した累積頻度値が全体の80%となる傾斜角である累積80%傾斜角が12°以上20°以下である多結晶GaN基板を準備する、準備工程と、前記多結晶GaN基板の上に、GaNに所定のn型ドーパントがドープされてなるn型導電層を形成するn型導電層形成工程と、前記n型導電層の上に、InGa1−xN(0<x<1)なる組成の第1単位層とGaNからなる第2単位層とを繰り返し交互に積層することにより多重量子井戸構造を有する活性層を形成する活性層形成工程と、前記活性層の上に、GaNに所定のp型ドーパントがドープされてなるp型導電層を形成するp型導電層形成工程と、を備えることを特徴とする。
本発明の第の態様は、第の態様に係る広波長域発光素子の作製方法であって、前記n型導電層の上に、InGa1−yN(0<y<1)なる組成の第1単位層とGaNからなる第2単位層とが繰り返し交互に積層されることにより超格子構造を有する応力緩和層を形成する応力緩和層形成工程、をさらに備え、前記活性層形成工程においては、前記応力緩和層の上に前記活性層を形成する、ことを特徴とする。
本発明の第の態様は、第の態様に係る広波長域発光素子の作製方法であって、前記多結晶GaN基板の累積80%傾斜角が15°以上20°以下であり、前記活性層の形成温度が680℃〜750℃である、ことを特徴とする。
発明の第ないし第の態様によれば、多結晶基板上に13族窒化物半導体からなる一組の発光構造を設けるという単純な構成で、ピーク波長近傍での高発光強度域が広くかつ発光強度も良好な広波長域発光素子が実現される。
特に、本発明の第、第、第5、および第の態様によれば、ピーク波長がより広波長側にシフトした広波長域発光素子が実現される。
特に、本発明の第および第の態様によれば、白色光あるいは概ね白色光に近い発光が得られる広波長域発光素子が実現される。
多結晶GaN基板1の構成を模式的に示す断面図である。 GaN単結晶粒子の傾斜角頻度分布を模式的に示す図である。 発光ピークの模式図である。 第1の実施の形態に係る発光素子10の構成を模式的に示す断面図である。 第2の実施の形態に係る発光素子20の構成を模式的に示す断面図である。 実施例1の多結晶GaN基板1を構成するGaN単結晶粒子の傾斜角頻度分布を示す図である。 実施例2のcase(2)およびcase(3)の発光素子に用いられた多結晶GaN基板1を構成するGaN単結晶粒子の傾斜角頻度分布を例示する図である。 実施例2の全14種類の発光素子のそれぞれの発光スペクトルより求めた、80%強度波長範囲と発光強度とを、それぞれの多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角に対してプロットした図である。 全14種類の発光素子のそれぞれにおける発光の色度座標を示したxy色度図である。 多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角が15°であるcase(1)の発光素子の発光スペクトルを示す図である。
本明細書中に周期表の族番号を示す場合、それは、1989年国際純正応用化学連合会(International Union of Pure Applied Chemistry:IUPAC)による無機化学命名法改訂版による1〜18の族番号表示による。例えば、13族とはアルミニウム(Al)・ガリウム(Ga)・インジウム(In)等を指し、14族とは、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)等を指し、15族とは窒素(N)・リン(P)・ヒ素(As)・アンチモン(Sb)等を指す。
<多結晶GaN基板およびその累積80%傾斜角>
図1は、後述する本発明の実施の形態に係る発光素子10(図4参照)および発光素子20(図5参照)に用いる多結晶GaN基板1の構成を模式的に示す断面図である。
多結晶GaN基板1は、面内方向に多数の単結晶GaN粒子が連結してなる多結晶基板であり、かつ、結晶粒界gbで区画される個々のGaN単結晶粒子のc軸方向が、当該多結晶GaN基板1の主面の法線方向(以下、単に基板法線とも称する)から所定の範囲内でずれを有するものである。個々のGaN単結晶の面内方向における平均粒径(平均サイズ)は30μm〜100μm程度である。
例えば図1に示す多結晶GaN基板1の場合であれば、図面視左右方向において4つのGaN単結晶1a、1b、1c、および1dが連結してなるところ、それらGaN単結晶1a、1b、1c、および1dにおけるc軸方向(矢印cにて示す)はそれぞれ、多結晶GaN基板1の主面Sの法線方向(矢印nにて示す、図1の図面視上下方向に一致している)に対して、角度α1、α2、α3、α4だけ傾斜している。
本発明の実施の形態においては、多結晶GaN基板1における個々のGaN単結晶のc軸方向の基板法線に対するばらつきの程度を、c軸方向の基板法線に対する傾斜角のばらつきとして捉え、「累積80%傾斜角」なるパラメータで評価する。
ここで、「累積80%傾斜角」は、個々のGaN単結晶粒子のc軸方向の基板法線に対する傾斜角の頻度分布(ヒストグラム)において、傾斜角が0°のときの頻度値から順次に積算した累積頻度値が全体の80%となる傾斜角の値として、定義される。係る頻度分布は例えば、多結晶GaN基板1の主面Sを被測定面として電子線後方散乱回折法(EBSD)の逆極点図マッピング測定を行うことによって得られる。以降、係る頻度分布を単に傾斜角頻度分布とも称する。
図2は、GaN単結晶粒子の傾斜角頻度分布を模式的に示す図である。図2には、異なる2通りの頻度分布FD1、FD2を例示している。また、それぞれの頻度分布FD1、FD2における累積80%傾斜角をA80として示している。ただし、図2においては図示の簡単のため、頻度分布を連続曲線として示している。
頻度分布FD1と頻度分布FD2とを比較すると、前者は0°近傍の頻度が相対的に高く、かつ、傾斜角の分布範囲が頻度分布FD2よりも狭いのに対し、後者は、0°から比較的高角度側まで頻度があまり変化せず、傾斜角の分布範囲が頻度分布FD1よりも広くなっている。これに応じて、頻度分布FD1における累積80%傾斜角よりも頻度分布FD2における累積80%傾斜角の方が、値が大きくなっている。
2つの頻度分布の違いは、頻度分布FD1が得られた多結晶GaN基板1の方が、頻度分布FD2が得られた多結晶GaN基板1よりも、個々のGaN結晶のc軸配向度が高いことを意味しているが、係る相違はそのまま、累積80%傾斜角の値の相違として現れる。本実施の形態においては、この関係を利用して、累積80%傾斜角を、多結晶GaN基板1における個々のGaN単結晶のc軸のばらつきの程度を表すパラメータとして用いる。
そして、後述する本発明の実施の形態においては、この累積80%傾斜角が10°以上である多結晶GaN基板1が、好ましくは、累積80%傾斜角が12°以上20°以下である多結晶GaN基板1が、発光素子10および発光素子20の下地基板として用いられる。このことは、多結晶GaN基板1を構成する個々のGaN単結晶のc軸方向が比較的ランダムに基板法線に対して傾斜しているものであるということを意味する。
換言すれば、多結晶GaN基板1は必ずしも、いわゆる配向多結晶GaN基板というわけではないといえる。すなわち、個々の単結晶のc軸方向については基板法線から多少のずれ(最大でも5°程度)を有している場合があるものの、基板全体としてみれば基板法線とGaNのc軸方向とが略一致しているとみなすことができるような、高いc軸配向度を有するものではないといえる。
なお、多結晶GaN基板1の厚みには、発光素子10および発光素子20を形成するための処理および発光素子10および発光素子20の使用に際して問題とならない限りにおいて特段の制限はないが、例えば300μm〜1800μm程度のものが例示される。
多結晶GaN基板1は例えば、アルミナ粒子が焼結されることによって面内方向に多数のアルミナ結晶が連結してなる焼結体(アルミナ焼結体)の主面上に、フラックス法などの結晶成長手法によってGaN厚膜を形成した後、アルミナ焼結体を分離することによって得られるGaN自立基板を、所定の厚みに研磨することによって、得ることができる。また、係る態様にて多結晶GaN基板1を作製する場合、多結晶GaN基板1を構成する個々のGaN単結晶は、そのc軸方位がアルミナ焼結体のそれぞれの結晶粒のc軸と一致するように、換言すれば、当該結晶粒の結晶方位に倣うように、成長する。それゆえ、多結晶GaN基板1の作製に際しては、作製しようとする多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角に応じた配向度あるいは累積80%傾斜角を有するアルミナ焼結体が選択されて、使用されればよい。アルミナ焼結体としては例えば、c軸配向度が50%以上であり、アルミナ結晶のc軸の平均傾斜角が0.01°〜30°程度である市販品から、多結晶GaN基板1の作製に適したものを適宜選択して利用可能である。
<発光スペクトルにおける80%強度波長範囲>
次に、本発明の実施の形態に係る発光素子10および発光素子20の発光スペクトルの形状を特徴付ける「80%強度波長範囲」なるパラメータについて説明する。
図3は、ある発光スペクトルに現れる発光ピークの模式図である。本発明においては、このような発光ピークのピーク波長λpにおける発光強度値(最大強度値)をIとするとき、当該発光ピークにおいて、強度値が最大強度値Iの80%(80%I)以上である波長範囲Δλ80を、80%強度波長範囲と定義する。
係る80%強度波長範囲は、発光スペクトルのピーク波長λp近傍の波長域における発光強度値の分布を評価する指標となる。すなわち、80%強度波長範囲の値が小さいほど、当該発光スペクトルを与える光は単色光に近いといえる。反対に、80%強度波長範囲の値が大きいほど、ピーク波長λp近傍における高発光強度域が広く、それゆえ、当該発光スペクトルを与える光は、異なる色味を呈する比較的強度の大きな光が多く混合したものということになる。例えば、ピーク波長λpが520nm〜530nm程度であって、80%強度波長範囲が60nm以上であれば、当該発光スペクトルを与える光は白色光もしくはそれに比較的近い色味を呈するものとなる。
なお、発光スペクトルにおける発光ピークの形状を評価する指標として、半値幅が多く用いられるが、係る半値幅はあくまで最大強度値の1/2以上の強度を与える波長範囲を示すに過ぎないため、ピーク波長λp近傍の高発光強度範囲を評価する指標としては不十分である。
<第1の実施の形態>
<発光素子の概要>
図4は、本発明の第1の実施の形態に係る発光素子10の構成を模式的に示す断面図である。発光素子10は、概略、多結晶GaN基板1の一方主面上に、いずれもが13族窒化物半導体からなるn型導電層2と、活性層3と、p型導電層4とが積層された構成を有する。以下においては、係るn型導電層2と、活性層3と、p型導電層4との積層部分を、発光構造とも称する。
上述したように、多結晶GaN基板1としては、累積80%傾斜角が10°以上、好ましくは12°以上20°以下となっているものが用いられる。すなわち、多結晶GaN基板1を構成するそれぞれのGaN単結晶のc軸はランダムに傾斜している。そのため、多結晶GaN基板1の上に形成されるn型導電層2と、活性層3と、p型導電層4のc軸方向は、個々のGaN単結晶上の積層部分ごとに、当該GaN単結晶のc軸方向に倣っている。それゆえ、n型導電層2と、活性層3と、p型導電層4とからなる発光構造においても、c軸方向はランダムにばらついたものとなっている。これにより、発光構造においては、多結晶GaN基板1の結晶粒界gb1に倣って結晶粒界gb2が形成されてなる。
これらn型導電層2、活性層3、およびp型導電層4の積層は、MOCVD(有機金属化学気相成長)法によって行うのが好適であるが、他の成長手法が採用されてもよい。
n型導電層2は、GaNにn型ドーパント(例えばSi)が1×1018/cm〜1×1019/cm程度の原子濃度でドープされることによりn型を呈するGaN層である。n型導電層2は、100nm〜3μm程度の厚みを有するのが好適である。
活性層3は、発光素子10において主に発光を担う部位である。図4においては詳細な図示を省略しているが、本実施の形態に係る発光素子10は、係る活性層3を、InGa1−xN(0<x<1)なる組成の第1単位層(井戸層)3aとGaNからなる第2単位層(障壁層)3bとを、繰り返し交互に積層してなる多重量子井戸(MQW)構造にて備える。すなわち、本実施の形態に係る発光素子10は、InGaN/GaN MQW構造を有する活性層3を備える。
活性層3は、2nm〜4nm程度の厚みを有する第1単位層3aと4nm〜15nm程度の厚みを有する第2単位層3bとをそれぞれ3層〜15層ずつ積層することによって構成されるのが好適である。
活性層3の詳細については後述する。
p型導電層4は、GaNにp型ドーパント(例えばMg)が1×1019/cm〜1×1020/cm程度の原子濃度でドープされることによりp型を呈するGaN層である。p型導電層4は、50nm〜1μm程度の厚みを有するのが好適である。
また、発光素子10は、p型導電層4の図面視上面(活性層3と接触していない側の主面)にアノード電極5を備え、多結晶GaN基板1の他方主面(n型導電層2が形成されていない側の主面)にカソード電極6を備える。なお、図4においては発光素子10がアノード電極5とカソード電極6とをそれぞれ離散的に複数個備えるように示しているが、それぞれのアノード電極5同士、および、それぞれのカソード電極6同士は互いに電気的に接続されている。あるいは、p型導電層4の上面に連続的に(一様に)アノード電極5が設けられてもよいし、多結晶GaN基板1の他方主面には連続的に(一様に)カソード電極6が設けられてもよい。
アノード電極5とカソード電極6との間に図示しない外部電源によって通電がなされることで、発光素子10からの発光が、より詳細には活性層3における発光が実現される。
<発光素子の製法>
次に、発光素子10の作製方法を、多結晶GaN基板1上への各層の形成にMOCVD法を用い、n型ドーパントをSiとし、p型ドーパントをMgとする場合を例として説明する。
まず、あらかじめ用意した多結晶GaN基板1を、所定のMOCVD炉内のサセプタ上に載置し、水素とアンモニアガスの混合雰囲気中で基板温度をいったん1050℃〜1200℃の範囲にまで上昇させてクリーニング処理を行う。
その後、n型導電層2、第1単位層3aと第2単位層3bとからなるMQW構造を有する活性層3、および、p型導電層4を、順次に形成する。各層の形成は、以下の条件をみたして行うようにすればよい。なお、15族/13族ガス比とは、モル比で表した、13族原料ガス(TMG(トリメチルガリウム)、TMI(トリメチルインジウム))の全供給量に対する15族原料ガスであるアンモニアガスの供給量の比である。また、本実施の形態において形成温度とはサセプタ加熱温度を意味する。
n型導電層2:
形成温度:1050℃〜1200℃;
形成圧力:30kPa〜100kPa;
キャリアガス:窒素および水素;
原料ガス:TMGおよびアンモニアガス;
15族/13族ガス比:1000〜2000;
ドーパント源:シランガス。
活性層3:
形成温度:750℃〜800℃;
形成圧力:30kPa〜100kPa;
キャリアガス:窒素;
第1単位層3aの原料ガス:TMG、TMI、およびアンモニアガス;
第2単位層3bの原料ガス:TMGおよびアンモニアガス;
15族/13族ガス比:5000〜30000。
p型導電層4:
形成温度:1050℃〜1200℃;
形成圧力:30kPa〜100kPa;
キャリアガス:窒素および水素;
原料ガス:TMGおよびアンモニアガス;
15族/13族ガス比:1000〜2000;
ドーパント源:CpMg。
これらの条件をみたすことで、発光素子10を好適に形成することができる。
<活性層の詳細と発光波長域>
続いて、発光素子10における発光を特徴付ける活性層3について、より詳細に説明する。
本実施の形態に係る発光素子10において、活性層3のそれぞれの第1単位層3aにおけるInモル比xは、当該第1単位層3aの面内方向において一様に同じとはなっておらず、下地である多結晶GaN基板1を構成する個々のGaN単結晶の傾斜角が大きい箇所ほどInモル比xは小さいという傾向を有する。これは、特許文献9において説明されている、GaN基板上にInGaN膜を形成する場合と同様、GaN単結晶の傾斜角と第1単位層3aを構成するInGaNのInモル比xとの関係が、テラス上成長とステップ端成長の割合から決定されることによる。
それゆえ、上述した形成条件で活性層3を形成した場合、活性層3を構成する第1単位層3aには、多結晶GaN基板1を構成するGaN単結晶の傾斜角の分布に応じたInモル比xの分布が生じている。
一般に、活性層がInGaN/GaN MQW構造を有する発光構造においては、井戸層を構成するInGaNのInモル比に応じて発光波長に違いが生じ、係るInモル比が小さいほど発光波長が短くなる。それゆえ、第1単位層3aのInモル比xに上述のような分布が生じている、本実施の形態に係る発光素子10の活性層3においては、結晶粒界gb2によって区画された、個々のGaN単結晶上の積層部分ごとに、相異なる波長の発光が生じるようになっている。
そして、このような分布が生じている結果として、発光素子10全体としては、ピーク波長λpが430nm〜480nm程度であり、かつ、80%強度波長範囲が40nm以上、好ましくは60nm以上という、ピーク波長近傍での高発光強度域が広い発光スペクトルでの発光が、生じるようになっている。係る発光は、紫外から緑色までの互いに異なる色味を呈する光を概ね同程度の強度で含んでおり、それらの光の強度差はせいぜい20%程度である。係る特徴を有することから、発光素子10は、広波長域発光素子とも称することができるものといえる。
より詳細には、基板法線に対するc軸の傾斜角が0°であるGaN単結晶におけるInモル比の値をx0とした場合、第1単位層3aにおいてはx≦x0(<1)となっている。ここで、x0なる値はいわば、Inモル比xの上限値であるほか、素子設計上の第1単位層3aにおけるInモル比xの値でもあり、また、c軸配向した基板上にやはり全体としてc軸配向した活性層3を形成すると仮定した場合の、第1単位層3aにおけるInモル比にも相当する。
なお、一般に、InGaNにおけるInモル比と当該InGaNの形成温度との間には相関があり、形成温度を低めるほど、Inモル比の大きいInGaNの形成が可能であり、このことは第1単位層3aの形成にも適用し得るようでもある。しかしながら、活性層3の形成温度を上述した750℃〜800℃という温度範囲よりも低めた場合、活性層3の直下のn型導電層2から作用する応力が原因となって、活性層3の結晶品質が劣化し、結果的に良好な発光が得られなくなるため、係る対応を採用することは現実的ではない。
換言すれば、第1単位層3aにおけるInモル比xの上限値であるx0の値は、活性層3の形成温度ともども、十分な結晶品質を確保しひいては高い発光強度を得るという観点から概ね決まっている。そして、上述した750℃〜800℃という活性層3の形成温度は、x0の値を概ね0.25〜0.4とする場合に相当する。係る活性層3の形成条件は、十分な強度での発光が実現程度に活性層3の結晶品質を確保するという観点から定められてなる。また、それゆえ、上述した発光ピークのピーク波長λpの値も、Inモル比xの上限値x0ひいては活性層3の形成温度に応じた値となっている。
以上のような特徴を有する発光素子10は、発光ピークの半値幅が狭い単色光を発光する発光素子とも、そのような単色光を複数種類(例えば、赤色光、緑色光、青色光の3種類)同時に発光させることで白色光を得るような複数波長発光素子とも、異なる性状を有するものにほかならない。
仮に、累積80%傾斜角が10°に満たない多結晶GaN基板1を用いた場合、c軸配向度が高いために発光波長域が狭くなって単色光に近づいてしまい、80%強度波長範囲が40nm未満となってしまうため好ましくない。一方、原理的には、累積80%傾斜角の値に上限はないが、累積80%傾斜角が大きくなると発光強度が低下する傾向があることから、実用的には20°以下であることが好ましい。係る場合、良好な発光強度が確保される。
特に、累積80%傾斜角が12°以上20°以下である場合、80%強度波長範囲が60nm〜150nmと大きく、かつ、発光強度が大きな発光素子10が実現されるので好ましい。
以上、説明したように、本実施の形態によれば、累積80%傾斜角が10°以上、好ましくは12°以上20°以下である多結晶GaN基板を下地基板として、InGa1−xNからなる井戸層とGaNからなる障壁層とからなるMQW構造を有する活性層を含む発光構造を設けることで、80%強度波長範囲が40nm以上、好ましくは60nm以上という、ピーク波長近傍での高発光強度域が広い発光が生じる、広波長域発光素子が実現される。
しかも、係る広波長域発光素子における発光構造の形成は、例えばMOCVD法などの従来公知の成長手法によって実現可能であり、選択成長用マスクの形成やイオン打ち込みや凹凸加工といった複雑な工程を行う必要がないので、製造コストや生産性の点でも優れている。
<第2の実施の形態>
上述した第1の実施の形態に係る発光素子10は、第1単位層3aのInモル比xがx≦x0なる範囲で分布を有することによって広波長域発光素子となってはいる。しかしながら、最大値x0には形成温度との関係から制限があり、仮に活性層3の形成温度を低めることによって、係る最大値x0を、単色光を発光させる場合であれば橙色光〜赤色光が得られるような0.45〜0.55程度の値に定めたとしても、結晶品質が劣化し発光強度が低下するのみであり、白色光の発光は実現されない。
本実施の形態に係る発光素子20は、この点を鑑みたものとなっている。以下、発光素子20について説明する。
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る発光素子20の構成を模式的に示す断面図である。図5からわかるように、発光素子20は、第1の実施の形態に係る発光素子10において発光構造を構成するn型導電層2と活性層3との間に、応力緩和層7を介在させた構成を有する。すなわち、発光素子20においては、n型導電層2と、応力緩和層7と、活性層3と、p型導電層4とがこの順に積層されることによって、発光構造が形成されている。それゆえ、応力緩和層7以外の構成要素については、原則として説明を省略する。また、以下においては、第1の実施の形態と同様、発光素子20をMOCVD法にて作製する場合を例とする。
図5においては詳細な図示を省略しているが、応力緩和層7は、InGa1−yN(0<y<1)なる組成の第1単位層7aとGaNからなる第2単位層7bとを、繰り返し交互に積層してなる超格子構造を有する。応力緩和層7は、1nm〜3nm程度の厚みを有する第1単位層7aと1nm〜3nm程度の厚みを有する第2単位層7bとをそれぞれ10層〜40層ずつ積層することによって構成されるのが好適である。
また、応力緩和層7は、以下のような条件で形成することが可能である。
形成温度:750℃〜800℃;
形成圧力:30kPa〜100kPa;
キャリアガス:窒素;
第1単位層7aの原料ガス:TMG、TMI、およびアンモニアガス;
第2単位層7bの原料ガス:TMGおよびアンモニアガス;
15族/13族ガス比:5000〜30000。
係る応力緩和層7を設けたうえで活性層3を形成する場合、第1の実施の形態のようにn型導電層2の直上に活性層3を設ける場合に比して活性層3に作用する応力が緩和される。それゆえ、第1の実施の形態よりも低い形成温度で活性層3を形成したとしても、活性層3の結晶品質の劣化が抑制される。これはすなわち、応力緩和層7を設けることで、第1の実施の形態よりも第1単位層3aのInモル比xの最大値x0を高めることができることを意味する。
具体的には、本実施の形態においては、活性層3の形成温度を第1の実施の形態よりも低い680℃〜750℃とする。また、その他の形成条件は、第1の実施の形態と同様とする。係る場合、x0の値は概ね0.4〜0.55となる。
以上のような構成を有する本実施の形態に係る発光素子20からは、第1の実施の形態と同様の40nm以上、好ましくは60nm以上なる80%強度波長範囲を有し、かつ、ピーク波長λpが470nm〜570nm程度と第1の実施の形態よりも長波長側にシフトした発光スペクトルでの発光が、生じる。
特に、多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角を15°以上(20°以下)とした場合、白色光あるいは概ね白色光に近い発光が得られる。係る場合、発光素子20は、白色光を発光可能な広波長域発光素子ということができる。
なお、確認的にいえば、応力緩和層7は一見、活性層3と類似する構成を有するようにもみられるが、上述のように応力緩和層7を形成する際のTMIの流量は活性層3を形成する際のTMIの流量よりも低く、それゆえ、応力緩和層7の第1単位層7aのInモル比yは最大でもせいぜい0.05程度であって、活性層3の第1単位層3aにおけるInモル比xに比して小さい。それゆえ、応力緩和層7は活性層3としての機能が想定されたものではない。
以上、説明したように、本実施の形態によれば、累積80%傾斜角が10°以上、好ましくは12°以上20°以下である多結晶GaN基板を下地基板とし、InGa1−yNからなる第1単位層とGaNからなる第2単位層とが繰り返し交互に積層された超格子構造を有する応力緩和層を設けたうえで、InGa1−xNからなる井戸層とGaNからなる障壁層とからなるMQW構造を有する活性層を含む発光構造を設けることで、80%強度波長範囲が40nm以上、好ましくは60nm以上という、ピーク波長近傍での高発光強度域が広い広波長域の発光を、応力緩和層を設けない発光素子に比して高波長側において得ることができる、広波長域発光素子が実現される。特に、累積80%傾斜角が15°以上20°以下である多結晶GaN基板を下地基板として用いた場合には、白色光の発光が可能な、広波長域発光素子が実現される。
なお、応力緩和層7を具備しつつも、活性層3の形成温度を第1の実施の形態と同様とすることは、つまりはX0の値を第1の実施の形態と同様とすることは、もちろん可能である。
(実施例1)
本実施例では、第1の実施の形態に係る発光素子10を作製し、発光プロファイルの評価を行った。なお、発光素子10の作製は、母基板(ウェハー)の上に各層および電極のパターンを形成することによって得られた積層体を切断することで多数の発光素子10を同時に得る、いわゆる多数個取りの手法によって行った。
まず、母基板(ウェハー)の状態の多結晶GaN基板1を用意し、EBSDの逆極点図マッピング測定を行った。図6は、係る測定の結果に基づいて得られる、多結晶GaN基板1を構成するGaN単結晶粒子の傾斜角頻度分布を示す図である。
図6に示した傾斜角頻度分布より、本実施例において用いた多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角は15°であることが確認された。また、GaN単結晶粒子の平均粒径はおよそ100μmであった。
次に、MOCVD装置を用いて、多結晶GaN基板1上に、n型導電層2、活性層3、およびp型導電層4を順次に形成した。
n型導電層2としては、Si原子濃度が5×1018/cmになるようにSiをドーピングしたn−GaN層を1μmの厚みに形成した。
活性層3としては、第1単位層3aとしてのInGa1−xN層を2.5nmの厚みに5層、第2単位層3bとしてのGaN層を10nmの厚みに6層、交互に積層した。なお、第1単位層3aは、x0=0.4となる条件で形成した。
p型導電層4としては、Mg原子濃度が1×1019/cmになるようにMgドーピングしたp−GaNを200nmの厚みに形成した。各層の具体的な形成条件は以下の通りとした。
n型導電層2:
形成温度:1150℃;
形成圧力:100kPa;
キャリアガス:窒素および水素;
原料ガス:TMGおよびアンモニアガス;
15族/13族ガス比:1500;
ドーパント源:シランガス。
活性層3:
形成温度:750℃;
形成圧力:100kPa;
キャリアガス:窒素;
第1単位層3aの原料ガス:TMG、TMI、およびアンモニアガス;
第2単位層3bの原料ガス:TMGおよびアンモニアガス;
15族/13族ガス比:15000。
p型導電層4:
形成温度:950℃;
形成圧力:100kPa;
キャリアガス:窒素および水素;
原料ガス:TMGおよびアンモニアガス;
15族/13族ガス比:1500;
ドーパント源:CpMg。
n型導電層2、活性層3、およびp型導電層4が形成された多結晶GaN基板1をMOCVD装置から取り出した後、p型導電層4のMgイオンの活性化処理として、窒素雰囲気中で800℃の熱処理を10分間行った。
続いて、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、多結晶GaN基板1の裏面側(n型導電層2の形成されていない側の主面)に、カソード電極6となるTi/Al/Ni/Au多層電極膜を格子状にパターニングした。各層の厚みはそれぞれ15nm、70nm、12nm、60nmとした。なお、カソード電極6を格子状に設けているのは、電極が形成されていない箇所から外部に光が取り出せるようにするためである。
その後、カソード電極6のオーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。
さらに、フォトリソグラフィープロセスとスパッタ法とを用いて、p型導電層4の上にアノード電極5としてのAg−Pd−Cu合金膜を1mm角のサイズで200nmの厚みにパターニングした。
その後、アノード電極5のオーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中で500℃の熱処理を30秒間行った。
最後に、得られた積層体を切断して1.3mm角のチップとした。以上より、発光素子10が得られた。
係る発光素子10をフェイスダウンでリードフレームに実装し、アノード電極5とカソード電極6との間に500mAで通電し、発光スペクトルを得た。その結果、ピーク波長λpが475nmで80%強度波長範囲が92nmである広波長域発光が得られた。係る結果は、発光素子10が広波長域発光素子として得られていることを示している。
(比較例1)
活性層3の形成温度を720℃とした他は、実施例1と同様な手順で発光素子を作製した。得られた発光素子を実施例1と同様にフェイスダウンでリードフレームに実装し、アノード電極とカソード電極との間に500mAで通電し、発光スペクトルを得た。その結果、ピーク波長λpが510nmで80%強度波長範囲が87nmの広波長域発光が得られた。すなわち、80%強度波長範囲は実施例1と同程度である一方、ピーク波長λpが長波長側にシフトしていた。しかしながら、その発光強度は実施例1に係る発光素子10の0.2倍であった。
(実施例2)
本実施例では、傾斜角頻度分布が相異なる複数の多結晶GaN基板1を用意し、それぞれを用いて、第2の実施の形態に係る発光素子20と同様に応力緩和層7を有する発光素子を作製した。
具体的には、多結晶GaN基板1として、累積80%傾斜角がそれぞれ1°、3°、5°、7°、9°、10°、12°、14°、15°、16°、18°、20°、21°、23°である14種類のものを用意した。なお、以下においては累積80%傾斜角が15°、9°、21°である多結晶GaN基板1を用いて作製した発光素子をそれぞれ、case(1)、case(2)、case(3)の発光素子と称する。
図7は、case(2)およびcase(3)の発光素子に用いられた多結晶GaN基板1を構成するGaN単結晶粒子の傾斜角頻度分布を例示する図である。図7(a)がcase(2)についての分布であり、図7(b)がcase(3)についての分布である。なお、case(1)の発光素子に用いられた多結晶GaN基板1については、図6に示したものと概ね同様の傾斜角頻度分布が得られていた。図6および図7からは、累積80%傾斜角が大きい多結晶GaN基板1の頻度分布ほど、最大頻度が低下しかつ分布が高角度側に広がっていることがわかる。係る傾向は、累積80%傾斜角を多結晶GaN基板1におけるGaN単結晶粒子の傾斜の度合いを示すパラメータとして用いることの妥当性を、示唆するものといえる。
用意したそれぞれの多結晶GaN基板1に対し、共通の形成条件で、n型導電層2、応力緩和層7、活性層3、p型導電層4、カソード電極6、アノード電極5を順次に形成し、得られた積層体を実施例1と同様に切断し、チップ化することで、それぞれの発光素子を得た。
応力緩和層7を除く各部の具体的な形成条件は、発光スペクトルにおけるピーク波長が525nmになるように14種類の発光素子のそれぞれにおける活性層3の形成温度を調整したほかは、実施例1と同じとした。それぞれの発光素子における多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角と活性層3の成長温度との対応関係を表1に一覧にして示す。
Figure 0006846913
応力緩和層7としては、第1単位層7aとしてInGa1−yN層を2nmの厚みに25層、第2単位層7bとしてのGaN層を2nmの厚みに25層、交互に積層した。応力緩和層7の具体的な形成条件は、以下の通りとした。なお、第1単位層7aは、y≦0.03となる条件で形成した。
形成温度:800℃;
形成圧力:100kPa;
キャリアガス:窒素;
第1単位層7aの原料ガス:TMG、TMI、およびアンモニアガス;
第2単位層7bの原料ガス:TMGおよびアンモニアガス;
15族/13族ガス比:15000。
得られた全14種類の発光素子について、それぞれ、実施例1と同様に、フェイスダウンでリードフレームに実装し、アノード電極とカソード電極との間に500mAで通電し、発光スペクトルを得た。得られた発光スペクトルはいずれも、ピーク波長が525nmであった。
図8は、全14種類の発光素子のそれぞれの発光スペクトルより求めた、80%強度波長範囲と発光強度とを、それぞれの多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角に対してプロットした図である。なお、発光強度は、累積80%傾斜角が20°である発光素子についての値を50%として規格化している。
図8に示すように、80%強度波長範囲は、累積80%傾斜角が9°以下の範囲では概ね20nm程度であったのに対して、累積80%傾斜角が10°以上の範囲では40nmを最小値として単調に増加する傾向がみられた。一方で、発光強度は、累積80%傾斜角が20°までの範囲では累積80%傾斜角が大きくなるにつれて比較的緩やかに減少する程度(せいぜい30%程度の減少に留まる)であるが、20°を超えると急激に減少した。
そして、図8に示す結果からは、多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角が10°以上であれば、ピーク波長近傍での高発光強度域を示す80%強度波長範囲が40nm以上と大きい広波長域発光素子が実現されること、さらには、多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角が12°以上20°以下であれば、80%強度波長範囲が60nm以上150nm以下と大きく、かつ、発光強度も比較的大きな広波長域発光素子が得られることが、確認される。
また、図9は、全14種類の発光素子のそれぞれにおける発光の色度座標を示したxy色度図である。図9に示すように、各発光素子からの発光を示す座標位置は、多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角が小さいほど、単色の緑色光を与える座標位置に近づき、多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角が大きいほど、白色点Eに近づくことが確認された。なお、多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角が15°以上である発光素子からの発光は、目視によれば概ね白色光とみなせるものであったが、これは、図9に示した結果と概ね合致している。
例えば、図10は、多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角が15°であるcase(1)の発光素子の発光スペクトルを示す図である。係るcase(1)の発光素子の構成は、応力緩和層を備えることを除いて、実施例1の発光素子と同じである。図10からわかるように、当該発光素子においては、480nm〜570nmという幅90nmの波長域において、ピーク波長である525nmにおける強度値(最大強度値)の80%以上の強度を有する発光が得られており、最大強度値については実施例1の発光素子と同等であった。
すなわち、図10に示すcase(1)の発光素子の発光スペクトルは、80%強度波長範囲および最大強度値を実施例1の発光素子の発光スペクトルと同等に保ちつつ、発光波長が長波長側にシフトしたものであった。そして、係る発光は白色光とみなせるものであった。
以上の結果は、実施例1に係る発光素子のn型導電層2と活性層3の間に応力緩和層7を設けることにより、発光スペクトルの形状を維持しつつ、発光ピークを長波長側へシフトさせることが可能であること、さらには、多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角を15°以上とすることによって白色光の発光を得ることが可能であることを、示している。
なお、図8および図9に示す結果からは、例えばcase(2)のような、多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角が10°未満の発光素子の場合、発光強度は申し分ないものの、80%強度波長範囲が20nm程度と小さく、概ね単色光とみなされる発光が得られるに過ぎないこともわかる。
さらには、例えばcase(3)のような、多結晶GaN基板1の累積80%傾斜角が20°を上回る発光素子の場合、80%強度波長範囲は160nm以上と十分大きく、白色光とみなされる発光が得られるものの、発光強度が必ずしも十分ではないこともわかる。
1 多結晶GaN基板
1a、1b、1c、1d GaN単結晶
2 n型導電層
3 活性層
3a (活性層の)第1単位層
3b (活性層の)第2単位層
4 p型導電層
5 アノード電極
6 カソード電極
7 応力緩和層
7a (応力緩和層の)第1単位層
7b (応力緩和層の)第2単位層
10、20 発光素子
S (多結晶GaN基板の)主面

Claims (6)

  1. 複数のGaN単結晶粒子からなり、前記複数のGaN単結晶粒子についてのc軸方向の基板法線に対する傾斜角の頻度分布において傾斜角が0°のときの頻度値から順次に積算した累積頻度値が全体の80%となる傾斜角である累積80%傾斜角が12°以上20°以下である多結晶GaN基板と、
    13族窒化物半導体からなる発光構造と、
    を備え、
    前記発光構造が、
    前記多結晶GaN基板の上に設けられた、GaNに所定のn型ドーパントがドープされてなるn型導電層と、
    前記n型導電層の上に設けられた、In Ga 1−x N(0<x<1)なる組成の第1単位層とGaNからなる第2単位層とが繰り返し交互に積層されることにより多重量子井戸構造を有する活性層と、
    前記活性層の上に設けられた、GaNに所定のp型ドーパントがドープされてなるp型導電層と、
    を備え、
    発光スペクトルにおいてピーク波長における発光強度値の80%以上の発光強度値である波長範囲が40nm以上である、
    ことを特徴とする広波長域発光素子。
  2. 請求項に記載の広波長域発光素子であって、
    前記n型導電層の上に設けられた、InGa1−yN(0<y<1)なる組成の第1単位層とGaNからなる第2単位層とが繰り返し交互に積層されることにより超格子構造を有する応力緩和層、
    をさらに備え、
    前記活性層が前記応力緩和層の上に設けられてなる、
    ことを特徴とする広波長域発光素子。
  3. 請求項に記載の広波長域発光素子であって、
    前記多結晶GaN基板の累積80%傾斜角が15°以上20°以下であり、
    前記活性層の第1単位層におけるInモル比xの値の最大値が0.4〜0.55である、
    ことを特徴とする広波長域発光素子。
  4. 発光スペクトルにおいてピーク波長における発光強度値の80%以上の発光強度値である波長範囲が40nm以上である、広波長域発光素子を作製する方法であって、
    複数のGaN単結晶粒子からなり、前記複数のGaN単結晶粒子についてのc軸方向の基板法線に対する傾斜角の頻度分布において傾斜角が0°のときの頻度値から順次に積算した累積頻度値が全体の80%となる傾斜角である累積80%傾斜角が12°以上20°以下である多結晶GaN基板を準備する、準備工程と、
    前記多結晶GaN基板の上に、GaNに所定のn型ドーパントがドープされてなるn型導電層を形成するn型導電層形成工程と、
    前記n型導電層の上に、InGa1−xN(0<x<1)なる組成の第1単位層とGaNからなる第2単位層とを繰り返し交互に積層することにより多重量子井戸構造を有する活性層を形成する活性層形成工程と、
    前記活性層の上に、GaNに所定のp型ドーパントがドープされてなるp型導電層を形成するp型導電層形成工程と、
    を備えることを特徴とする広波長域発光素子の作製方法。
  5. 請求項に記載の広波長域発光素子の作製方法であって、
    前記n型導電層の上に、InGa1−yN(0<y<1)なる組成の第1単位層とGaNからなる第2単位層とが繰り返し交互に積層されることにより超格子構造を有する応力緩和層を形成する応力緩和層形成工程、
    をさらに備え、
    前記活性層形成工程においては、前記応力緩和層の上に前記活性層を形成する、
    ことを特徴とする広波長域発光素子の作製方法。
  6. 請求項に記載の広波長域発光素子の作製方法であって、
    前記多結晶GaN基板の累積80%傾斜角が15°以上20°以下であり、
    前記活性層の形成温度が680℃〜750℃である、
    ことを特徴とする広波長域発光素子の作製方法。
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