JP6845999B2 - 被覆電線、端子付き電線、及び撚線 - Google Patents

被覆電線、端子付き電線、及び撚線 Download PDF

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Description

本開示は、被覆電線、端子付き電線、及び撚線に関する。
本出願は、2017年07月14日付の日本国出願の特願2017−138646に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
特許文献1,2は、自動車に用いられるワイヤーハーネスを開示する。ワイヤーハーネスとは、代表的には、導体の外周に絶縁被覆層を備える被覆電線と、被覆電線の端部に取り付けられた端子部とを備える複数の端子付き電線を束ねたものである。特許文献1,2は、上記導体として銅合金撚線を開示する。
特開2015−086452号公報 特開2012−146431号公報
本開示の被覆電線は、
導体と、前記導体の外周を覆う絶縁被覆層とを備える被覆電線であって、
前記導体は、銅又は銅合金から構成される複数の素線が撚り合わされてなる撚線であり、
隣り合う前記素線が金属結合された金属結合部を備える。
本開示の端子付き電線は、
上記の本開示の被覆電線と、
前記被覆電線の端部に取り付けられた端子部とを備える。
本開示の撚線は、
電線の導体に利用される撚線であって、
銅又は銅合金から構成される複数の素線が撚り合わされてなり、
隣り合う前記素線が金属結合された金属結合部を備える。
実施形態の被覆電線の一例を模式的に示す横断面図である。 実施形態の被覆電線に備えられる導体をなす撚線を説明する説明図である。 実施形態の端子付き電線について、端子部近傍を示す概略側面図である。 試験例1において、試料No.1−1の導体の横断面を示す顕微鏡写真である。
[本開示が解決しようとする課題]
上述のワイヤーハーネスに備えられる端子付き電線のように、端部に端子部が取り付けられて利用される被覆電線に対して、座屈し難いものが望まれている。
特許文献1,2に記載されるように導体の断面積を0.22mm以下とより小さくすれば(細径化すれば)、導体が銅合金から構成されていても、軽量化を図ることができる。しかし、導体の断面積を小さくすると、導体の剛性が低くなり易く、ひいては被覆電線の剛性も低くなり易い。剛性が低い被覆電線を上述の端子付き電線に利用すると、端子部をハウジングの端子収納部に挿入する際などで、被覆電線における端子部近傍が局所的に座屈する(いわゆる腰折れする)可能性がある。従って、端子部の挿入作業性を向上するなどの観点から、導体の断面積が小さい場合でも座屈し難い被覆電線が望まれる。また、特許文献1,2に記載されるように被覆電線の導体を撚線とすれば、ある程度剛性を高めても曲げなどを行い易い。従って、座屈し難く、曲げなども行い易い被覆電線を構築できる撚線が望まれる。
また、上述のように端部に端子部が取り付けられて利用される被覆電線に対して、導体における端子部の圧縮度合が小さくても、端子部との接触抵抗が低いことが望まれている。
特許文献1は、導体の断面積が0.22mmの撚線導体、又は0.13mmの撚線導体に端子部を圧着固定し、クリンプハイトを0.76としたときの接触抵抗が小さいことを開示する。ここで、圧着端子を取り付ける場合にその圧縮度合を大きくすれば、撚線の撚り合せ状態を崩して各素線と端子部との接触面積を大きく確保し易くなり、接触抵抗を低くし易いと考えられる。しかし、上記圧縮度合が大きいほど、導体における端子部の圧縮箇所の残存面積割合(詳細は後述)が小さくなる。そのため、導体における端子部の圧縮箇所及びその近傍では、導体における端子部が取り付けられていない未圧縮箇所に比較して、例えば衝撃を受けた際に破断することなく耐えられる力(N)が小さく、耐衝撃性の弱点になり易い。上記圧縮度合を小さくすれば、導体における端子部の圧縮箇所及びその近傍の残存面積割合を大きく確保でき、未圧縮箇所の優れた特性、例えば耐衝撃性を維持でき、耐衝撃性に優れる端子付き電線とすることができる。従って、上述のような導体の断面積が小さい場合、更には上記圧縮度合がより小さい場合、特に導体における端子部の圧縮箇所の残存面積割合が0.76超である場合でも、接触抵抗が低い被覆電線や接触抵抗が低い被覆電線を構築できる撚線が望まれる。
更に、上述のように端部に端子部が取り付けられて利用される被覆電線に対して、分岐線などを溶接した場合に溶接強度が高いことが望まれる。また、溶接強度がより高い被覆電線を構築できる撚線が望まれる。
そこで、座屈し難い被覆電線、端子付き電線、及び撚線を提供することを目的の一つとする。
[本開示の効果]
本開示の被覆電線、本開示の端子付き電線、及び上記の本開示の撚線は座屈し難い。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係る被覆電線は、
導体と、前記導体の外周を覆う絶縁被覆層とを備える被覆電線であって、
前記導体は、銅又は銅合金から構成される複数の素線が撚り合わされてなる撚線であり、
隣り合う前記素線が金属結合された金属結合部を備える。
上記の撚線は、複数の素線(ここでは銅線又は銅合金線)を撚り合せたままであって、圧縮成形していない非圧縮撚線の他、撚り合せ後に圧縮成形されてなる圧縮撚線を含む。
上記の被覆電線は、導体を撚線とするものの、上記金属結合部を備えるため、素線同士が滑り難く、複数の素線が一体となって動き易い。この点から導体の剛性を高められて、上記の被覆電線は、座屈し難い。導体の断面積が小さい場合、例えば0.22mm以下、更に0.2mm以下、0.15mm以下である場合でも、上述のように素線が一体となって動き易いことで剛性に優れて、座屈し難い。このような上記の被覆電線は、端子付き電線に利用した場合に、端子部をハウジングの端子収納部に挿入する際などで端子部近傍が座屈し難く、挿入作業性に優れる。
また、上記の被覆電線は、端部に端子部が取り付けられて、導体における端子部の圧縮度合が小さい場合でも、端子部との接触抵抗が低い。金属結合部によって素線間の接触抵抗を低減できることで、上記圧縮度合を小さくしても接触抵抗を低くし易いと考えられるからである。また、上記圧縮度合が小さければ、導体における端子部の圧縮箇所の残存面積割合を大きくでき、導体における非圧縮箇所の優れた特性を維持できる。例えば、耐衝撃性に優れる導体であれば、その断面積が小さい場合、特に0.22mm以下、更に0.2mm以下、0.15mm以下である場合でも、耐衝撃性に優れる端子付き電線を構築できる。このような上記の被覆電線は、端子付き電線に利用した場合に、上述のように導体の断面積が小さい場合でも、更には上記圧縮度合がより小さい場合でも、接触抵抗が低い上に耐衝撃性にも優れる。
更に、上記の被覆電線は、導体に分岐線などを溶接した場合に溶接強度に優れる。上記導体をなす撚線において分岐線などが直接溶接された箇所の近傍に、分岐線などが直接溶接されていないものの、金属結合部によって素線間が強固に接合された箇所を含み得るからである。
(2)上記の被覆電線の一例として、
前記撚線は、前記複数の素線が同心撚りされてなり、少なくとも一つの中心素線と、前記中心素線の外周を覆う複数の外周素線とを備え、
前記金属結合部は、前記中心素線とこの中心素線に隣り合う前記外周素線とが金属結合された箇所を複数含む形態が挙げられる。
上記形態は、中心素線と外周素線とが金属結合部によって強固に接合されているため、座屈し難い。また、上記形態は、金属結合部によって中心素線と外周素線との間の接触抵抗を低減できるため、上述のように導体における端子部の圧縮度合を小さくした場合に主に外周素線と端子部とが直接接触し、中心素線が端子部に直接接触していなくても、端子部との接触抵抗を低くし易い。更に、上記形態は、中心素線と外周素線とが金属結合部によって強固に接合されているため、分岐線などを溶接した場合に主に外周素線と分岐線などとが直接溶接され、中心素線が分岐線などに直接溶接されていなくても、溶接強度に優れる。
(3)上記の被覆電線の一例として、
前記素線は、前記銅合金からなり、
前記銅合金は、Fe,Ti,Mg,Sn,Ag,Ni,In,Zn,Cr,Al,及びPから選択される1種又は2種以上の元素を合計で0.01質量%以上5.5質量%以下含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる形態が挙げられる。
上記の特定の組成の銅合金は、純銅に比較して強度に優れる。また、上記の銅合金は、代表的には熱処理によって伸びを高められた場合には耐衝撃性にも優れる。更に、上記の銅合金のうち、析出型合金は時効といった熱処理によって強度及び導電率を高め易い上に、伸びなどの靭性も向上し易い。このような銅合金からなる素線が撚り合わされた撚線を導体に備える上記形態は、高強度、高靭性や高い耐衝撃性、高導電率などが要求されるワイヤーハーネスなどの配線に好適に利用できる。
(4)本開示の一態様に係る端子付き電線は、
上記(1)から(3)のいずれか一つに記載の被覆電線と、
前記被覆電線の端部に取り付けられた端子部とを備える。
上記の端子付き電線は、上述の金属結合部を含む撚線を導体とする上記の被覆電線を備えるため、上述のように座屈し難い、端子部の取付箇所の圧縮度合が小さくても導体と端子部との接触抵抗が低い、溶接強度に優れるという効果を奏する。
(5)本開示の一態様に係る撚線は、
電線の導体に利用される撚線であって、
銅又は銅合金から構成される複数の素線が撚り合わされてなり、
隣り合う前記素線が金属結合された金属結合部を備える。
上記の撚線は上述の金属結合部を含むため、この撚線を導体に備える被覆電線は、上述のように座屈し難い、端子部の取付箇所の圧縮度合が小さくても端子部との接触抵抗が低い、溶接強度に優れるという効果を奏する。
[本開示の実施形態の詳細]
以下、適宜、図面を参照して、本開示の実施の形態を詳細に説明する。図中、同一符号は同一名称物を示す。銅合金の組成において、元素の含有量は、断りが無い限り質量割合(質量%又は質量ppm)とする。
図1は、実施形態の被覆電線1をその軸方向に直交する平面で切断した横断面図である。ここでは、金属結合部24が分かり易いように金属結合部24にクロスハッチングを付して示し、素線20のハッチングを省略している。
図2は、実施形態の被覆電線1に備えられる導体2をその軸方向に直交する平面で切断した横断面図である。ここでは、金属結合部24が分かり易いように、金属結合部24及びその近傍を一点鎖線円で囲んで示し、素線20のハッチングを省略している。
[被覆電線]
実施形態の被覆電線1は、図1に示すように、導体2と、導体2の外周を覆う絶縁被覆層3とを備える。導体2は、銅又は銅合金から構成される複数の素線20が撚り合わされてなる撚線2Sである。実施形態の撚線2Sは、被覆電線1といった電線の導体2に利用されるものであり、銅又は銅合金から構成される複数の素線20が撚り合わされてなる。撚線2Sの代表例として、図1に示すような複数の素線20が同心撚りされてなる同心撚線が挙げられる。同心撚線は、少なくとも一つの中心素線21と、中心素線21の外周を覆う複数の外周素線22とを備え、中心素線21を中心として、その外周に外周素線22が同心状に撚り合わされる。図1は、1本の中心素線21の外周に6本の外周素線22を撚り合わせた7本撚りの同心撚線であって、圧縮成形されてなる圧縮撚線を例示する。その他の撚線2Sとして、複数の素線20が一括して撚り合わされてなる集合撚線(図示せず)などが挙げられる。実施形態の被覆電線1に備えられる導体2をなす撚線2S及び実施形態の撚線2Sは、隣り合う素線20,20が金属結合された金属結合部24を備える(図4の顕微鏡写真も参照)。以下、導体2をなす撚線2S、絶縁被覆層3を順に説明する。
(導体)
撚線2Sをなす各素線20は、銅(いわゆる純銅)からなる線材、又は添加元素を含み、残部がCu及び不可避不純物からなる銅合金からなる線材である。
純銅は、Cuの含有量が99.95%以上であるものが挙げられる。
銅合金は、例えば、Fe,Ti,Mg,Sn,Ag,Ni,In,Zn,Cr,Al,及びPから選択される1種又は2種以上の元素を合計で0.01%以上5.5%以下含有し、残部がCu及び不可避不純物からなるものが挙げられる。この銅合金は、純銅に比較して強度に優れる、熱処理によって伸びを高めることで耐衝撃性にも優れる、析出型合金である場合には時効処理によって強度及び導電率を高め易く、靭性も向上し易い。添加元素の種類にもよるが、添加元素の合計の含有量が多いほど引張強さが高くなり易く強度や剛性に優れ、少ないほど導電率が高くなり易い。具体的な組成として、以下が挙げられる(残部はCu及び不可避不純物)。
組成(1 析出+固溶型合金)Feを0.2%以上2.5%以下と、Tiを0.01%以上1.0%以下と、Mg,Sn,Ag,Ni,In,Zn,Cr,Al,及びPから選択される1種又は2種以上の元素を合計で0.01%以上2.0%以下とを含む。
組成(2 析出+固溶型合金)Feを0.1%以上1.6%以下と、Pを0.05%以上0.7%以下と、Sn及びMgの少なくとも一方の元素を合計で0%以上0.7%以下とを含む。
組成(3 固溶型合金)Snを0.15%以上0.7%以下含む。
組成(4 固溶型合金)Mgを0.01%以上1.0%以下含む。
上記組成(1)において、Feの含有量は0.4%以上2.0%以下、更に0.5%以上1.5%以下、
Tiの含有量は0.1%以上0.7%以下、更に0.1%以上0.5%以下、
Mgの含有量は0.01%以上0.5%以下、更に0.01%以上0.2%以下、
Snの含有量は0.01%以上0.7%以下、更に0.01%以上0.3%以下、
Agの含有量は0.01%以上1.0%以下、更に0.01%以上0.2%以下、
Ni,In,Zn,Cr,Al,及びPの合計含有量は0.01%以上0.3%以下、更に0.01%以上0.2%以下とすることができる。
上記組成(2)において、Feの含有量は0.2%以上1.5%以下、更に0.3%以上1.2%以下、
Pの含有量は0.1%以上0.6%以下、更に0.11%以上0.5%以下、
Mgの含有量は0.01%以上0.5%以下、更に0.02%以上0.4%以下、
Snの含有量は0.05%以上0.6%以下、更に0.1%以上0.5%以下とすることができる。
上記組成(3)において、Snの含有量は0.15%以上0.5%以下、更に0.15%以上0.4%以下とすることができる。
上記組成(4)において、Mgの含有量は0.02%以上0.5%以下、更に0.03%以上0.4%以下とすることができる。
その他、C,Si,及びMnから選択される1種又は2種以上の元素を合計で10ppm以上500ppm以下含有することができる。これらの元素は、上述のFeやSnなどの元素の酸化防止剤として機能することができる。
<組織>
各素線20を構成する銅合金が時効処理を施すと析出物を形成する析出型銅合金(例、上述の組成(1),(2)など)である場合、時効処理が施されていれば、代表的には析出物を含む組織を有する。析出物が均一的に分散した組織を有すると、析出強化による高強度化、添加元素の固溶量の低減による高導電率化などを期待できる。
<断面積>
導体断面積、即ち撚線2Sを構成する素線20の合計断面積は、被覆電線1の用途に応じて適宜選択できる。特に、上記断面積が0.22mm以下であれば軽量な被覆電線1とすることができる。このような被覆電線1は、軽量化が望まれる用途、例えば自動車用ワイヤーハーネスなどに好適に利用できる。更なる軽量を考慮すると、上記断面積は、0.2mm以下、更に0.15mm以下、0.13mm以下とすることができる。
導体断面積が所定の大きさとなるように、撚り合せ前の各素線20の断面積、形状などを選択するとよい。撚り合せ前の素線20として、断面積や形状が異なる素線20を含むことができるが、各素線20の断面積や形状が等しいと撚り合わせ条件を調整し易い。
<素線数>
撚線2Sの素線数は適宜選択できる。同心撚線の素線数は、7本、19本、37本などが挙げられる。図1に示す7本撚りの同心撚線では、1本の中心素線21の外周に6本の外周素線22から構成される1層の外周層を備える。19本撚りでは2層の外周層を備え、37本撚りでは3層の外周層を備える。その他、同心撚線では、中心素線21を2本以上の線材とすることができる。
<形状>
撚線2S(導体2)の外形は、撚り合せ状態に応じた形状を有する。圧縮撚線では、代表的には、横断面形状又は端面形状が円形に近いもの(図1参照)が挙げられる。その他、圧縮成形時の成形金型の形状を適宜選択することで、横断面形状を楕円状、六角形状などの多角形状などとすることもできる。
圧縮撚線は、圧縮度合にもよるが、隣り合う素線20,20同士が面接触した箇所を有し易い。そのため、撚線2Sが圧縮撚線であれば、金属結合部24をより多く有したり、結合長さL(図2)がより長い金属結合部24を有したりし易いと期待される。
<金属結合部>
実施形態の被覆電線1に備えられる導体2をなす撚線2S、及び実施形態の撚線Sでは、少なくとも一つの金属結合部24が存在する横断面を有する。図2は、撚線2Sにおいて、金属結合部24が存在する横断面の一例を模式的に示す。金属結合部24は、撚線2Sをなす複数の素線20のうち、隣り合う素線20,20の主成分であるCuが金属結合してなるものである。金属結合部24によって隣り合う素線20,20同士が強固に接合されて、撚線2Sはばらけ難い。そのため、金属結合部24を備える撚線2Sは、剛性を高められて座屈し難い上に、曲げなどが行い易い。また、金属結合部24を有する撚線2Sは、素線20間の接触抵抗を低減できる。更に、撚線2Sの一部に分岐線などが溶接された場合に、撚線2Sにおける分岐線などに直接溶接されている箇所の近傍に、分岐線などとは直接溶接されていないものの金属結合部24を有する場合には、溶接強度を高められる。従って、金属結合部24を有する撚線2Sを導体2に備えることで、座屈し難い上に曲げなどが行い易く、更に素線20間の接触抵抗が低く、溶接強度にも優れる被覆電線1を構築することができる。
金属結合部24は、簡略的には、被覆電線1又は撚線2Sの横断面をとり、この横断面を光学顕微鏡又は金属顕微鏡などの顕微鏡で観察することで確認できる。上記顕微鏡による観察像、又は適宜画像処理が施された処理像において、隣り合う素線20,20の接触箇所であって、隣り合う素線20,20の境界を視覚的に判別できない領域を金属結合部24と見做すことができる(図4も参照)。より厳密には、クロスセクションポリッシャー(CP)によって断面を研磨し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察するなどにより、金属結合された箇所を抽出することが挙げられる。また、撚線2Sのみの状態において、撚線2Sを手などで撚りを開くように解すと、撚りが解れずに素線20,20同士が接合された箇所を簡単に見つけられる。より簡易的には、この接合箇所を金属結合部24と見做すことができる。この接合箇所及びその近傍の横断面をとれば、金属結合部24を効率よく抽出できると期待される。
被覆電線1又は撚線2Sをその軸方向にみたとき、上述の金属結合部24が存在する横断面を多く有するほど、撚線2Sの剛性を高められる、素線20間の接触抵抗を低減できる、溶接強度を高められるという効果を得易い。例えば、被覆電線1などがリールに巻き取られたコイル材であれば、被覆電線1又は撚線2Sはその長さ3mごとに上記金属結合部24が存在する横断面を一つ以上備えることが挙げられる。被覆電線1又は撚線2Sの長さに対して2%以上20%以下の間隔で上記金属結合部24が存在する横断面を一つ以上備えることが好ましい。端的に言うと、この被覆電線1又は撚線2Sをその軸方向にみれば、複数の異なる箇所に金属結合部24を有する。又は、ワイヤーハーネスなどに備えられており、長さが比較的短い場合、例えば長さが0.5m以上5m以下程度である被覆電線1では、上記金属結合部24が存在する横断面を一つ以上備えることが挙げられる。特に端子部の取付箇所の近傍に金属結合部24を含むと、ハウジングの端子収納部への挿入作業時に被覆電線1の端子部近傍が座屈し難く好ましい。
被覆電線1又は撚線2Sからとった一つの横断面において、金属結合部24の個数が多いほど、撚線2Sの剛性を高められる、素線20間の接触抵抗を低減できる、溶接強度を高められるという効果を得易い。即ち、撚線2Sは、隣り合う素線20,20の組のうち、少なくとも一組が金属結合部24を備えており、更に過半数の組、特に全ての組が金属結合部24を備えると、上述の効果を得易い。金属結合部24は一つの横断面に複数存在していなくてもよく、被覆電線1又は撚線2Sをその軸方向にみて、上述の隣り合う素線20,20の組であって複数組が金属結合部24を備えることが好ましい。上記一つの横断面における金属結合部24の個数が多くても、被覆電線1をその軸方向にみて、複数の金属結合部24が離間して存在すれば、曲げなども行い易い。隣り合う素線20,20の組とは、例えば、撚線2Sが図1,図2に示す、一つの中心素線21と一層の外周層とを備える同心撚線である場合、中心素線21と外周素線22との組、隣り合う外周素線22,22同士の組が挙げられる。この例では、合計6組の隣り合う素線20,20の組が金属結合部24を有する。その他の隣り合う素線20,20の組として、複数の中心素線21を備える同心撚線である場合、更に、隣り合う中心素線21,21の組が挙げられる。複数の外周層を備える同心撚線である場合には、更に各外周層における隣り合う外周素線22,22同士の組、内外に隣り合う外周素線22,22同士の組が挙げられる。
被覆電線1又は撚線2Sからとった一つの横断面において、金属結合部24は、撚線2Sをなす素線20のうち、内側に配置される素線20と外側に配置される素線20とが金属結合された箇所を一つ以上含む形態が好ましく、複数含むことがより好ましい。この形態は、素線20同士が強固に接合されて座屈し難い上に、例えば、比較的小さな圧縮度合で撚線2Sに端子部を取り付けた場合に、中心素線21などの内側の素線20が端子部に直接接触しておらず、実質的に外周素線22などの外側の素線20のみが端子部に接触しても、端子部との接触抵抗を低くし易い。また、例えば、撚線2Sに分岐線などを溶接した場合に、中心素線21などの内側の素線20と分岐線などとが直接溶接されておらず、実質的に外周素線22などの外側の素線20のみと分岐線などとが溶接されていても、溶接強度を高め易い。従って、この形態の撚線2Sを備えることで、座屈し難い上に、圧縮度合が小さくても端子部との接触抵抗が低く、溶接強度にも優れる被覆電線1を構築することができる。
特に、同心撚線では、中心素線21と外周素線22との金属結合部24を二つ以上、隣り合う外周素線22,22同士の金属結合部24を二つ以上備えると、より座屈し難く、圧縮度合が小さくても端子部との接触抵抗がより低く、溶接強度がより高くなり易く好ましい。図1,図2では、金属結合部24は、中心素線21と、この中心素線21に隣り合う外周素線22とが金属結合された箇所を複数(ここでは三つ)含むと共に、隣り合う外周素線22,22同士が金属結合され合箇所を複数(ここでは三つ)含む場合を例示する。更に、撚線2Sをなす全ての素線20は、隣り合う素線20,20の組のいずれかの金属結合部24を介して互いに接合されていることが好適である。図1に示す例では、紙面左側に位置する二つの外周素線22,22の一方が例えば中心素線20との金属結合部24を含めば、7本全ての素線20が金属結合部24を介して互いに接合される。
被覆電線1又は撚線2Sからとった一つの横断面に存在する各金属結合部24を、上述のように隣り合う素線20,20の境界を視覚的に判別できない領域と見做し、この領域の最小距離を結合長さLとする。各結合長さLが長いほど、また結合長さLの合計長が長いほど、金属結合部24によって強固に接合されて剛性に優れたり、素線20間の接触抵抗を低減できたり、上述の溶接強度を高めたりし易い。例えば、導体断面積が0.1mm以上0.22mm以下程度である場合には、結合長さLの合計長が0.05mm以上であると、更に0.06mm以上、0.08mm以上であると、上述のように剛性の向上や素線20間の接触抵抗の低減、溶接強度の向上といった効果を得易い。又は、例えば、結合長さLの合計長は、撚線2Sを内包する最小の包絡円200をとり、この包絡円200の直径Rの3%以上15%以下程度、更に5%以上10%以下程度であると、上述の剛性の向上、素線20間の接触抵抗の低減、溶接強度の向上などの効果を得易い上に、撚線2Sの可撓性の低下を低減し易い。
上述のように金属結合部24が中心素線21と外周素線22との金属結合部24を複数備え、かつ隣り合う外周素線22,22同士の金属結合部24を複数備える場合には、中心素線21と外周素線22との金属結合部24における結合長さLの合計長が0.05mm以上、かつ外周素線22,22同士の金属結合部24における結合長さLの合計長が0.05mm以上であると、上述の剛性の向上、素線20間の接触抵抗の低減、溶接強度の向上などの効果を得易く好ましい。
<特性>
各素線20の組成や撚線Sの製造条件などにもよるが、各素線20が上述の組成(1)〜(4)のいずれかの銅合金からなる場合、導体2(撚線2S)の引張強さが450MPa以上、導体2(撚線2S)の破断伸びが5%以上、及び導体2(撚線2S)の導電率が55%IACS以上の少なくとも一つを満たすものとすることができる。引張強さが450MPa以上であれば、高強度であり、座屈し難く、溶接強度に優れる。破断伸びが5%以上であれば、曲げ易い。導電率が55%IACS以上であれば、導電性に優れ、導体断面積をより小さくし易い。特に引張強さが450MPa以上であり、かつ破断伸びが5%以上であれば、強度と靭性との双方に優れる上に、耐衝撃性により優れて好ましい。列挙した三つの事項を全て満たすことがより好ましい。各素線20が純銅からなる場合、導体2(撚線2S)の引張強さが220MPa以上、導体2(撚線2S)の破断伸びが15%以上、及び導体2(撚線2S)の導電率が98%IACS以上の少なくとも一つを満たすものとすることができる。
引張強さ、破断伸び、導電率は、代表的には、銅合金の組成や製造条件を調整することで所定の大きさにすることができる。例えば、伸線加工度を高めて細径の素線20を用いたり、素線20が銅合金からなる場合には添加元素を多くしたりすると、引張強さが高く、導電率が低くなる傾向にある。例えば、熱処理を行う場合に熱処理温度を高めると、破断伸びが高く、引張強さが低くなる傾向にある。素線20が析出型銅合金からなる場合では時効処理を行うと導電率が高くなる傾向にある。
(絶縁被覆層)
<構成材料>
絶縁被覆層3を構成する絶縁材料は、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)やハロゲンフリー樹脂(例えば、ポリプロピレン(PP)など)、難燃性に優れる材料などが挙げられる。PVCは、比較的柔らかく、曲げなどが行い易い被覆電線1とすることができる。ハロゲンフリー樹脂は、比較的硬く、絶縁被覆層3の厚さが比較的薄くても座屈し難い被覆電線1とすることができる。上記絶縁材料には、公知の絶縁材料を利用できる。
<厚さ>
絶縁被覆層3の厚さは、導体断面積などに応じて、所定の絶縁強度を有する範囲で適宜選択できる。特に、導体断面積が0.22mm以下である場合には、絶縁被覆層3の平均厚さは0.21mm以上が好ましく、更に0.22mm以上、0.23mm以上がより好ましい。絶縁被覆層3の厚肉化による被覆電線1の剛性の向上を期待でき、座屈し難くできるからである。ここでの平均厚さとは、導体2の最外側に配置される各素線(図1では外周素線22)の外周面のうち、隣り合う外周素線22,22の外周面の対向箇所に形成される撚り溝を除くクラウン部から絶縁被覆層3の外周面までの最小距離の平均である。簡略的には、上記平均厚さは、導体2を内包する最小の包絡円200(図2)から絶縁被覆層3の外周面までの平均距離に相当する。絶縁被覆層3は、導体2に対して均一的な厚さで形成されていることが好ましい。導体2と絶縁被覆層3との一体化による剛性を高め易く、座屈し難くできるからである。
(用途)
実施形態の被覆電線1は、各種の配線に利用できる。特に、被覆電線1の端部に端子部が取り付けられた状態で使用される用途などに適する。具体的には、被覆電線1は、自動車や飛行機等の機器、産業用ロボット等の制御機器といった各種の電気機器の配線、例えば自動車用ワイヤーハーネスといった各種のワイヤーハーネスの配線などに利用できる。実施形態の撚線2Sは、実施形態の被覆電線1などの各種の配線の導体2に利用できる。
[端子付き電線]
実施形態の端子付き電線10は、図3に示すように実施形態の被覆電線1と、被覆電線1の端部に取り付けられた端子部4とを備える。図3では、端子部4として、一端に雌型又は雄型の嵌合部42を備え、他端に絶縁被覆層3を把持するインシュレーションバレル部44を備え、中間部に導体2を把持するワイヤバレル部40を備える圧着端子を例示する。圧着端子は、被覆電線1の端部において絶縁被覆層3が除去されて露出された導体2の端部に圧着されて、導体2と電気的及び機械的に接続される。その他の端子部4として、導体2を溶融して接続する溶融型のものなどが挙げられる。
端子付き電線10は、被覆電線1ごとに一つの端子部4が取り付けられた形態(図3)の他、複数の被覆電線1に対して一つの端子部4を備える形態が挙げられる。複数の被覆電線1を結束具などによって束ねると、端子付き電線10を取り扱い易い。
端子付き電線10に備えられる端子部4が圧着端子である場合、導体2における端子部4が取り付けられていない未圧縮箇所の断面積に対する端子部4が取り付けられた圧縮箇所の断面積の比を残存面積割合とし、この残存面積割合が大きいと、導体2の断面積が上述のように小さい場合でも、耐衝撃性などの特性に優れて好ましい。定量的には、上記残存面積割合が0.76超であることが挙げられる。上記残存面積割合が大きいほど、導体2における端子部4の圧縮箇所は、導体2における未圧縮箇所の優れた特性を維持し易く、端子付き電線10全体として耐衝撃性などに優れる。耐衝撃性などの向上を考慮すると、上記残存面積割合は、0.77以上、更に0.78以上、0.79以上、0.80以上とすることができる。
上記残存面積割合は、端子部4を取り付ける際の圧縮度合を調整する、特に小さくすることで、代表的にはクリンプハイト(C/H、端子付き電線10におけるワイヤバレル部40の高さ)を調整することで、上述の範囲を満たすことができる。実施形態の端子付き電線10は、実施形態の撚線2Sを導体2とする実施形態の被覆電線1を構成要素とするため、上述のように圧縮度合が小さくても、導体2と端子部4間の接触抵抗を低くできる(後述の試験例参照)。
実施形態の端子付き電線10における導体2の非圧縮箇所は、上述した実施形態の被覆電線1に備えられる導体2の仕様(組成、組織、撚り合せ状態、形状、特性など)を維持する、又は同等程度の特性などを有する。各項目の詳細は上述の通りである。
(用途)
実施形態の端子付き電線10は、上述の自動車や飛行機、制御機器などといった各種の電気機器の配線、特に自動車用ワイヤーハーネスといった各種のワイヤーハーネスの配線などに利用できる。
[電線の溶接構造]
実施形態の被覆電線1や実施形態の端子付き電線10では、導体2の一部に分岐線などを溶接して分岐をとることができる。この場合、導体2は、撚線2Sをなす複数の素線20のうち、一部の素線20、代表的には外側に配置される素線20と分岐線などとが直接溶接され、他部の素線20、代表的には内側に配置される素線20や分岐線から離れた位置に配置される外側の素線20と分岐線などとが直接溶接されていない状態が有り得る。しかし、導体2は、金属結合部24が存在する撚線2Sからなるため、上述のように分岐線などに直接溶接されていない素線20を含む場合でも溶接強度に優れる。また、金属結合部24を含むことで、溶接箇所の接続抵抗も低減できると期待される。
分岐線は、実施形態の被覆電線1や実施形態の端子付き電線10と同様の構成のものとすることができる。又は、導体2(撚線2S)をなす素線20が銅合金線である場合には、分岐線を、純銅から構成される銅導体を備える被覆電線などとすることができる。この場合、銅合金線の撚線2Sからなる導体2を備える実施形態の被覆電線1又は実施形態の端子付き電線10と、純銅から構成される銅導体を備える分岐用被覆電線と、導体2において絶縁被覆層3から露出された露出箇所と銅導体の一部とが溶接された溶接箇所とを備える電線の溶接構造を構築することができる。純銅は一般に銅合金よりも強度に劣る。そのため、この電線の溶接構造では、銅合金から構成される導体2よりも銅導体の断面積を大きくすると、溶接箇所の強度を高め易い。
[効果]
実施形態の被覆電線1、及び実施形態の端子付き電線10は、導体2を撚線2Sとするものの、撚線2Sが金属結合部24を含むため、座屈し難い、素線20間の接触抵抗を低減でき、端子部4の圧縮度合が小さい場合でも導体2(撚線2S)と端子部4との接触抵抗が低い、分岐線などを溶接した場合に溶接強度に優れる、といった格別の効果を奏する。これらの効果を後述の試験例1で具体的に説明する。実施形態の撚線2Sは、導体2に用いることで、曲げなどを行うことができながらも、座屈し難い被覆電線1や端子付き電線10を構築できる。また、実施形態の撚線2Sは、導体2に用いることで、端子部4の圧縮度合が小さい場合でも端子部4との接触抵抗が低い被覆電線1や端子付き電線10、分岐線などを溶接した場合に溶接強度に優れる被覆電線1や端子付き電線10を構築できる。
[撚線、被覆電線の製造方法]
実施形態の撚線2Sは、代表的には、複数の銅線又は銅合金線を用意し、撚り合わせることで製造できる。銅線や銅合金線、これらの撚線の基本的な製造条件は、公知の製造方法を参照できる。実施形態の被覆電線1は、代表的には、銅又は銅合金から構成される導体2を準備する工程と、導体2の外周に絶縁被覆層3を形成する工程とを備える製造方法によって製造できる。導体2には撚線2Sを用いる。被覆電線1の基本的な製造条件などは、撚線の導体と、この導体の外周を覆う絶縁被覆層とを備える被覆電線を製造する公知の製造方法を参照できる。絶縁被覆層3の形成は、押出法などが利用できる。
特に、実施形態の撚線2S(実施形態の被覆電線1の導体2)の製造には、複数の銅線又は複数の銅合金線を撚り合わせた後に金属結合部24を形成する熱処理を行う工程を備えることが挙げられる。この熱処理は、時効処理や軟化処理とは独立したものとすることができるが、時効処理や軟化処理を兼ねるものとすると、熱処理工程数を低減でき、量産性に優れて好ましい。
以下、撚り合せ前の銅線又は銅合金線を単線素材、上記金属結合部24を形成する熱処理前の撚線を未結合撚線と呼ぶことがある。
更に、本発明者は、上述の未結合撚線をなす各素線の表面に付着する油量がある程度少ないと、金属結合部24を形成し易い、との知見を得た。定量的には、上記各素線の表面の油付着量は、素線の質量1gに対して10μg以下であること(10μg/g以下)が好ましい、との知見を得た。そこで、金属結合部24を備える撚線2Sの製造条件の一つとして、未結合撚線をなす各素線の油付着量を10μg/g以下とすることが挙げられる。
なお、上記各素線の表面に付着する油とは、代表的には鉱物油、合成油などであり、素線となる銅線や銅合金線の製造過程で使用する潤滑剤(変色防止機能など、潤滑機能以外の機能を兼用する場合がある)に由来するものである。このような潤滑剤は、代表的には伸線加工などの塑性加工時に用いられる。
(導体の準備工程)
<単線素材>
導体2(撚線2S)に用いる各単線素材は、代表的には、銅又は銅合金を鋳造する工程と、鋳造材に圧延やコンフォーム押出などの塑性加工を施す工程と、塑性加工材に伸線加工を施す工程とを備える製造方法によって製造できる。鋳造には、各種の連続鋳造が利用できる。伸線加工に供する素材として、連続鋳造に引き続いて圧延を行う連続鋳造圧延材とすることができる。伸線加工の途中又は伸線加工後に適宜熱処理を施すことができる。ここでの熱処理は例えば伸線加工に伴う加工歪みの除去などを目的としたものが挙げられる。
伸線加工時には、適宜な潤滑剤を利用すると断線し難く、伸線加工性に優れる。潤滑剤を用いる場合、潤滑剤の塗布量を少なくしたり、伸線加工後に残存する潤滑剤を低減、除去する熱処理を施したりして、撚り合せ前の単線素材の油付着量を10μg/g以下とすることが挙げられる。又は、単線素材を撚り合せたり、更に圧縮成形したりした後、残存する潤滑剤を低減、除去する熱処理を施して、未結合撚線をなす素線の付着量を10μg/g以下とすることが挙げられる。ここでの熱処理は、油の成分などに応じて、上述の油付着量が10μg/g以下となるように調整するとよい。塗布量を少なくすることで上記油付着量を10μg/g以下を満たす場合には、潤滑剤を低減、除去するための熱処理を省略することができる。
<未結合撚線>
用意した複数の単線素材は所定の撚りピッチで撚り合わせる。同心撚線とする場合には、1本以上の単線素材を中心として、その外周に所定の撚りピッチで複数の単線素材を撚り合わせる。
《撚りピッチ》
撚りピッチは、適宜選択できる。例えば、同心撚線からなり、断面積が0.22mm以下である導体2(撚線2S)とする場合、撚りピッチを12mm以上20mm以下とすることが挙げられる。撚りピッチが12mm以上であればある程度大きいため、導体断面積が小さくても強度に優れ、座屈し難い。撚りピッチが20mm以下であれば大き過ぎず、素線20同士が一体として動き易い。この点からも座屈し難い。より高強度を望む場合には、上記撚りピッチは14mm以上、更に14.5mm以上、15mm以上、15.5mm以上とすることができる。素線20の更なる一体化を望む場合には、上記撚りピッチは18mm以下、更に16mm以下とすることができる。
《圧縮割合》
導体2(撚線2S)が素線20を撚り合せたままの非圧縮撚線であれば、圧縮成形工程を不要にできる。又は、導体2(撚線2S)が撚り合せた後、圧縮成形されてなる圧縮撚線(図1参照)であれば、以下の効果を奏する。
(1)撚線2Sの外径を非圧縮撚線よりも小さくできて細径の被覆電線1とすることができる。
(2)横断面形状を円形状などの所望の形状にすることができる。
(3)金属結合部24を形成する熱処理前の未結合撚線において、隣り合う素線同士が面接触した箇所が多くなり、金属結合部24を形成し易い。
(4)絶縁被覆層3を形成し易い。
(5)圧縮加工時の加工硬化による強度の向上が期待できる。
ひいてはより座屈し難い被覆電線1や、素線20間の接触抵抗が低い被覆電線1、溶接強度により優れる被覆電線1とすることができる。
撚り合せ前の単線素材の合計断面積(例、7本撚線であれば7本の単線素材の合計面積)に対して、圧縮成形によって減少した断面積の割合、即ち{(撚り合せ前の単線素材の合計断面積−圧縮撚線の断面積)/撚り合せ前の単線素材の合計断面積}×100を圧縮撚線の圧縮割合(%)とすると、この圧縮割合が大きいほど強度を向上し易い。但し、上記圧縮割合が大き過ぎると破断伸びなどの靭性の低下や耐衝撃性の低下を招いたり、端子部を圧着し難くなったりする可能性がある。強度の向上、靭性や耐衝撃性の確保などを考慮すると、圧縮撚線の圧縮割合は10%以上30%以下が好ましく、更に12%以上25%以下、12%以上20%以下とすることができる。圧縮割合は、製造過程で予め設定しておき、設定値に基づいて圧縮成形することで上述の範囲とすることができる。
《熱処理》
撚り合せ前の単線素材又は撚り合わせたままの撚線(未結合撚線の一例)又は圧縮撚線(未結合撚線の別例)が銅合金線からなる場合、銅合金の組成にもよるが、時効処理や軟化処理などの熱処理を施すことで、析出物の分散強化による強度の向上(析出型合金)や固溶元素の低減による導電率の向上(析出型合金、固溶型合金)、軟化による伸びの向上や耐衝撃性の向上(析出型合金、固溶型合金)などが期待できる。上述の単線素材又は撚線まま又は圧縮撚線が銅線からなる場合には、軟化処理を施すことで、伸びや耐衝撃性、導電率の向上などが期待できる。
上述の組成(1),(2)に対する時効や軟化などを目的とした熱処理条件として、例えば以下が挙げられる。
組成(1)熱処理温度:400℃以上650℃以下、更に450℃以上600℃以下
保持時間:1時間以上40時間以下、更に4時間以上20時間以下
組成(2)熱処理温度:350℃以上550℃以下、更に400℃以上500℃以下
保持時間:1時間以上40時間以下、更に4時間以上20時間以下
純銅に対する軟化を目的とした熱処理条件として、例えば以下が挙げられる。
熱処理温度:100℃以上350℃以下、更に120℃以上200℃以下
保持時間:1時間以上8時間以下、更に2時間以上4時間以下
本発明者は、特に、上述の未結合撚線(撚線まま又は圧縮撚線)に上述の時効や軟化などを目的とした熱処理を施す場合に熱処理の雰囲気を調整することで、隣り合う素線20,20の接触箇所の少なくとも一部が金属結合し易い、との知見を得た。具体的には、酸素の含有量が少ない還元雰囲気、又は酸素の含有量が少ない不活性雰囲気とすることが好ましい、との知見を得た。また、上述のように未結合撚線をなす各素線の油付着量が少ないと、金属結合部24をより確実に形成し易い、との知見を得た。この理由の一つとして、以下のように考えられる。酸素の含有量が少ない還元雰囲気又は不活性雰囲気として熱処理を行うと、素線表面に残存する潤滑剤由来の油分が揮発する。この揮発時に素線の新生面を出現させると共に、酸素が非常に少ないため、新生面が酸化することなく、新生面同士が金属結合すると考えられる。また、油付着量が比較的少ないことで揮発し易くなり、ひいては上記新生面を生成し易いと考えられる。
上記の熱処理の雰囲気における酸素の含有量は体積割合で10ppm以下が挙げられる。酸素の含有量が上記の範囲を満たすように、熱処理炉内の酸素を低減、除去してから、熱処理炉内に還元性ガスや不活性ガスを充填するとよい。還元雰囲気をなす還元性ガスは、水素、一酸化炭素などが挙げられる。不活性雰囲気をなす不活性ガスは、窒素やアルゴンなどが挙げられる。特に、還元雰囲気とすると、出現した新生面の酸化を防止し易く、新生面同士の金属結合がより確実に行えると考えられる。熱処理温度及び保持時間を上述の特定の範囲とすると共に、熱処理雰囲気を低酸素な還元雰囲気又は不活性雰囲気とする熱処理を行うと、隣り合う素線における接触箇所及びその近傍では上述の油分の揮発、新生面の生成、金属結合が順次なされ、各素線におけるそれ以外の箇所では時効析出や軟化がなされる。なお、上述の所定の熱処理温度までの昇温過程や、所定の熱処理温度での保持開始初期などで、上述の油分の低減、除去をできる場合がある。
上記の熱処理温度を一定とする場合、保持時間を上述の範囲で長くすると、金属結合部24の個数を多くしたり、上述の結合長さL、結合長さLの合計長を長くしたりし易い傾向にある。
[端子付き電線の製造方法]
実施形態の端子付き電線10は、例えば、被覆電線1の少なくとも一端側の絶縁被覆層3を除去して導体2の端部を露出させる工程と、導体2の端部に端子部4を取り付ける工程とを備える製造方法によって製造できる。端子部4が圧着端子であれば、所定のクリンプハイト(C/H)で圧着する。このとき、導体2の残存面積割合(詳細は上述)が上述のようにある程度大きくなるようにC/Hを調整することが好ましい。
[試験例1]
銅合金線を素線とする撚線を作製し、隣り合う素線の結合状態を調べた。また、この撚線を導体に用いた被覆電線を作製し、この被覆電線の端部に端子部を取り付けて座屈状態、端子部との接触抵抗を調べた。更に、作製した被覆電線に銅導体を溶接して溶接強度を調べた。
(試料の作製)
素線とする銅合金線は、以下のように作製する。銅合金の溶湯を用いて連続鋳造材(直径φ12.5mm)を作製し、表面を適宜切削した後、冷間圧延を施す。得られた圧延材に伸線加工を施し、得られた銅合金線(直径φ0.172mmの丸線)を7本用いて、一つの中心素線の外周を6本の外周素線が覆う同心撚線を作製する。撚り合せ後、圧縮成形して圧縮撚線を作製する。更に圧縮撚線に熱処理を施す。
この試験では、各試料の熱処理条件が異なる点を除いて、以下の事項は共通とする。
(共通事項)
上記銅合金は、Feを0.61質量%、Pを0.12質量%、Snを0.26質量%含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる。
伸線加工には、潤滑剤を用いる。伸線後の銅合金線において、その表面の油付着量が銅合金線の質量1gに対して、10μg以下となるように潤滑剤の塗布量を調整したり、伸線後に残存する潤滑剤を除去したりする。
撚りピッチは、14mm以上20mm以下の範囲から選択する。圧縮成形は、圧縮割合を20%とし、圧縮成形後の圧縮撚線の断面積を0.13mmとする。圧縮割合(%)は、{(撚り合せ前の7本の銅合金線の合計断面積−圧縮撚線の断面積)/撚り合せ前の7本の銅合金線の合計断面積}×100で求める。
圧縮撚線に、以下の熱処理条件で熱処理を施したものを導体とする。
(熱処理条件)
熱処理温度は、400℃以上500℃以下の範囲から選択する。保持時間は、4時間以上12時間以下の範囲から選択する。熱処理雰囲気は、水素を主体とする還元雰囲気とし、酸素の含有量を体積割合で10ppm以下とする。
試料No.1−1〜No.1−8では、熱処理温度を同じとし、試料番号が大きいほど保持時間が長くなるように上記範囲から選択する。
試料No.1−101では、熱処理温度及び熱処理雰囲気を試料No.1−1などと同じとし、保持時間を上記範囲外である4時間未満とし、試料No.1−1などよりも短くする。
試料No.1−102では、熱処理温度及び保持時間を試料No.1−1と同じとし、熱処理雰囲気における酸素の含有量を異ならせる。具体的には、酸素の含有量を体積割合で0.1%程度とし、試料No.1−1などよりも多くする。
なお、この熱処理は、時効処理に相当すると共に、試料No.1−1〜No.1−8では、金属結合部の形成のための熱処理に相当する。
(撚線の評価)
上述の条件で熱処理を施した圧縮撚線を、その軸方向に直交する平面で切断した横断面をとり、この横断面を光学顕微鏡で観察し、隣り合う素線の状態を調べた。ここでは、隣り合う素線同士が金属結合した箇所の有無を調べた。また、金属結合した箇所があれば、その個数、及び金属結合した箇所の結合長さの合計長(mm)を求めた。ここでは、中心素線と外周素線とが金属結合した箇所Aと、隣り合う外周素線同士が金属結合した箇所Bとにそれぞれ分けて、金属結合箇所の個数、及び結合長さを調べた。結果を表1に示す。図4は、試料No.1−1の圧縮撚線(上述の熱処理を施した7本同心撚線)について、光学顕微鏡による観察像であり、図2はこの観察像をトレースした模式図に相当する。ここでは、観察像において、隣り合う素線の境界を視覚的に判別できない領域を金属結合箇所として抽出する。図4の観察像では、図2において一点鎖線円で囲まれる箇所に金属結合箇所が存在する。各金属結合箇所の結合長さは、上記観察像における上述の境界を視覚的に判別できない領域の最小距離とし(図2の結合長さL参照)、各箇所の最小距離の合計距離を合計長(mm)とする。ここでは、測定用試料の長さを50mm以上100mm以下とし、この試料から採取する横断面数を3以上とし、その平均を表1に示す。なお、この試験では、金属結合箇所が認められた試料は、上記測定用試料の長さに対して2%以上20%以下の間隔で金属結合箇所が認められた。
上述のようにして用意した導体(導体断面積0.13mm)の外周に、表1に示す構成材料の絶縁被覆層を表1に示す被覆厚さ(mm)になるように押出にて形成する。表1の被覆種類においてPVCとはポリ塩化ビニル、HF(PP)とはハロゲンフリーのポリプロピレンである。表1の被覆厚さとは、上述のクラウン部を覆う箇所の厚さの平均である。なお、最終的に得られる各試料の被覆電線について、絶縁被覆層の平均厚さを測定したところ、表1に示す値に実質的に等しいことを確認している。
(被覆電線の評価)
・座屈力
用意した各試料の被覆電線について、端部に圧着端子を取り付けて、端子付き電線を作製した。ここでは、導体における端子部が取り付けられていない未圧縮箇所の断面積に対する端子部が取り付けられた圧縮箇所の断面積の比(残存面積割合)が0.79となるように、クリンプハイトを調整した。
用意した各試料の端子付き電線について、端子部をハウジングの端子収納部に収納するときの座屈力を以下のように仮想して測定した。その結果を表1に示す。
端子付き電線における端子部を把持して、被覆電線における端子部とは反対側の先端部を平板に押し当てる。この試験では、被覆電線の長さを10mmとし(被覆電線において端子部の把持箇所から突出し、上記先端部までの長さ)、把持した端子付き電線の速度を200mm/minとし、上述の被覆電線の先端部を平板に押し当てる際の荷重を変化させて、押し当て動作を行う。そして、被覆電線が座屈するときの最大荷重を測定し、この最大荷重を座屈力(N)とする。
・端子挿入性
用意した各試料の端子付き電線について、上述の座屈力が7N以上であれば、座屈し難く端子挿入性に優れるとしてG、7N未満であれば、座屈し易く端子挿入性に劣るとしてBと評価した。評価結果を表1に示す。
・接触抵抗
用意した各試料の被覆電線について、端部に圧着端子を取り付けて、端子付き電線を作製した。ここでは、上述の残存面積割合が0.85となるように、クリンプハイトを調整した。
用意した各試料の端子付き電線について、JASO D616、自動車部品―低圧電線、項目6.8に基づいて、導体と端子部との接触抵抗(mΩ/m)を測定した。この試験では、被覆電線の各端部に圧着端子を取り付け、各圧着端子から150mm離れた二点を抵抗の測定点とする。両圧着端子に電源を取り付け、印加電圧を15mV、通電電流を15mAとして、両端部に圧着端子を備える端子付き電線に通電し、上述の二点間の抵抗を測定する。測定した抵抗値から、被覆電線の抵抗分を差し引いた値を接触抵抗(mΩ/m)とする。測定結果を表1に示す。
・溶接強度
用意した各試料の被覆電線について、純銅から構成される銅導体を溶接し、特許文献1の図5に示すピール力の測定方法を参照して、溶接強度(N)を測定した。その結果を表1に示す。
ここでは、試料ごとに1本の被覆電線と、純銅の銅導体を備える2本の被覆電線とを用意し(いずれも長さ150mm)、各被覆電線の端部から絶縁被覆層を除去して銅合金の導体と、銅導体とを露出させ、銅合金の導体を挟むように銅導体を重ね合せて超音波溶接した。溶接には、市販の溶接装置を用いた。そして、各試料の銅合金の導体を備える被覆電線を固定した状態で、銅導体を備える2本の被覆電線を互いに離れる方向に引っ張る。例えば、特許文献1の図5に示されるように、溶接箇所及び各試料の被覆電線を水平方向に配置して上記被覆電線を固定し、銅導体を備える2本の被覆電線を上下方向に配置して、その一方を上方向、他方を下方向に引っ張る。引張試験は市販の引張試験機などを利用する。溶接箇所が破壊するまでの最大荷重(N)を測定し、この最大荷重を溶接強度とする。なお、純銅の銅導体は、銅合金の導体よりも強度に劣る。そのため、ここでは、純銅の銅導体について2本の合計断面積(mm)を、各試料の銅合金から構成される導体の断面積(0.13mm)よりも大きくした。
Figure 0006845999
表1に示すように、導体を銅系撚線とし、撚線をなす素線のうち、隣り合う素線が金属結合された箇所(金属結合部)を備える試料No.1−1〜No.1−8,No.1−101は、金属結合部を備えていない試料No.1−102に比較して、座屈力が高く、座屈し難いことが分かる。特に、試料No.1−1〜No.1−8は、試料No.1−101に比較して、座屈力がより高く(a)、金属結合部の個数がより多く(b)、結合長さの合計長がより長く(c)、更に端子部をハウジングに挿入する際の作業性にも優れることが分かる。
試料No.1−1〜No.1−8について、定量的には、以下の通りである。
(a)座屈力が7N以上である。
(b)中心素線と外周素線との金属結合部が三つ以上、かつ隣り合う外周素線同士の金属結合部が三つ以上であり、いずれも複数備える。
(c)中心素線と外周素線との金属結合部における結合長さの合計長、及び隣り合う外周素線同士の金属結合部における結合長さの合計長がいずれも、0.02mm超、更に0.05mm以上、更には0.06mm以上であり、0.10mm以上の試料も多い。中心素線と外周素線との金属結合部における結合長さの合計長と隣り合う外周素線同士の金属結合部における結合長さの合計長との総和は、0.05mm以上、更に0.10mm以上であり、0.20mm以上の試料も多い。
試料No.1−1〜No.1−8を比較すれば、金属結合部の個数が多く、結合長さの合計長が長いほど、座屈力が高い傾向にあるといえる。このような結果が得られた理由の一つとして、複数の金属結合部を備えたり、その結合長さが長かったりすることで、隣り合う素線同士が滑り難くなって複数の素線が一体となって動き易くなり、撚線全体としての剛性を高められたため、と考えられる。これらのことから、隣り合う素線が金属結合されてなる金属結合部の有無は、座屈し難さに影響を及ぼすといえ、金属結合部の個数がより多かったり、その結合長さがより長かったりすると、より座屈し難いといえる。
また、上述の金属結合部を備える試料No.1−1〜No.1−8,No.1−101は、金属結合部を備えていない試料No.1−102に比較して、上述の残存面積割合が0.85と大きく、導体における端子部の圧縮度合が小さくても、導体と端子部との接触抵抗が低いことが分かる。特に、試料No.1−1〜No.1−8は、試料No.1−101に比較して、上記接触抵抗がより低い。定量的には、試料No.1−1〜No.1−8の上記接触抵抗は、0.4mΩ/m以下、更に0.3mΩ/m以下であり、多くの試料は0.2mΩ/m以下である。更に、試料No.1−1〜No.1−8を比較すれば、金属結合部の個数が多く、結合長さの合計長が長いほど、上記接触抵抗が低い傾向にあるといえる。このような結果が得られた理由の一つとして、複数の素線のうち、端子部に直接接触していない素線が存在していても、複数の金属結合部を備えたり、その結合長さが長かったりすることで素線間の接触抵抗を低減できたため、と考えられる。これらのことから、隣り合う素線が金属結合されてなる金属結合部の有無は、素線間の接触抵抗、撚線からなる導体と端子部との接触抵抗に影響を及ぼすといえ、金属結合部の個数がより多かったり、その結合長さがより長かったりすると、上記接触抵抗をより低減し易いといえる。
更に、上述の金属結合部を備える試料No.1−1〜No.1−8,No.1−101は、金属結合部を備えていない試料No.1−102に比較して、溶接強度に優れることが分かる。特に、試料No.1−1〜No.1−8は、試料No.1−101に比較して、溶接強度がより高い。定量的には、試料No.1−1〜No.1−8の溶接強度は、12N以上、更に15N以上であり、18N以上の試料も多い。更に、試料No.1−1〜No.1−8を比較すれば、金属結合部の個数が多く、結合長さの合計長が長いほど、溶接強度が高い傾向にあるといえる。このような結果が得られた理由の一つとして、導体をなす撚線において、分岐線とは直接溶接されていない箇所が存在していても、溶接箇所の近傍に、複数の金属結合部を備えたり、その結合長さが長かったりすることで素線間が強固に接合された箇所を含むことができたため、と考えられる。これらのことから、隣り合う素線が金属結合されてなる金属結合部の有無は、溶接強度に影響を及ぼすといえ、金属結合部の個数がより多かったり、その結合長さがより長かったりすると、溶接強度をより高め易いといえる。
その他、この試験から以下のことが分かる。
(x)試料No.1−1〜No.1−8では、導体断面積が0.15mm以下、更に0.13mm以下と小さいものの、撚りピッチが14mm以上と大きい。このことからも導体を構成する撚線の強度を高められる上に、素線同士が一体となって動き易くなり、座屈力の向上に寄与したと考えられる。
(y)試料No.1−1〜No.1−8では、導体を圧縮撚線とすると共に、ここではその圧縮割合を10%以上30%以下という特定の範囲としている。このことは、圧縮成形時の加工硬化による強度の向上が期待でき、座屈力の向上に寄与したと考えられる。また、圧縮成形によって、各素線と端子部とが面接触し易くなって、上述の接触抵抗の低下に寄与したと考えられる。
(z)金属結合部を形成するには、撚り合せ後に熱処理を施すこと、特にこの熱処理雰囲気を、酸素の含有量が10体積ppm以下の還元雰囲気とすることが好ましい。上記熱処理の保持時間を4時間以上と長めにすると、金属結合部をより多く形成したり、結合長さを長くしたりし易い。更に、上記熱処理前において、撚線をなす素線の表面の油付着量を少なくしておくことが好ましい。
その他、用意した試料No.1−1〜No.1−8の被覆電線は、導体の引張強さが450MPa以上、更に500MPa以上であり、高強度である。このように高強度であることは、座屈力の向上、溶接強度の向上に寄与したと考えられる。また、試料No.1−1〜No.1−8の被覆電線は、導体の破断伸びが5%以上、更に8%以上であり、高靭性でもある。このように高強度及び高靭性であるため、試料No.1−1〜No.1−8の被覆電線は、耐衝撃性などにも優れると期待される。なお、ここでは、導体の引張強さ及び破断伸びは以下のように測定した。被覆電線を所定の長さに切断して、絶縁被覆層をフェザーなどの適宜な切削工具で除去して導体を露出させる。この導体を試料とし、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法、1998)に準拠して、汎用の引張試験機を用い、評点距離GLを250mmとし、引張速度を50mm/minとして引張試験を行った。引張強さ(MPa)は{破断荷重(N)/導体の断面積(mm)}から求めた。破断伸び(全伸び、%)は、{破断変位(mm)/250(mm)}×100から求めた。
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、試験例1の銅合金の組成、銅合金線の断面積、素線数、熱処理条件などを適宜変更できる。導体を銅合金線からなる撚線とする場合には、上述の組成(1)、(3)、(4)などとすることができる。又は、導体を銅線からなる撚線とすることができる。銅線からなる撚線では、製造過程で上述のように新生面が生成された際に、新生面に析出物などが実質的に存在しないため、金属結合部をより形成し易いと期待される。
1 被覆電線
10 端子付き電線
2 導体
2S 撚線
20 素線
21 中心素線
22 外周素線
24 金属結合部
200 包絡円
3 絶縁被覆層
4 端子部
40 ワイヤバレル部
42 嵌合部
44 インシュレーションバレル部

Claims (5)

  1. 導体と、前記導体の外周を覆う絶縁被覆層とを備える被覆電線であって、
    前記導体は、銅又は銅合金から構成される複数の素線が同心撚りされてなる撚線であり、
    前記複数の素線は、少なくとも一つの中心素線と、前記中心素線の外周を覆う複数の外周素線とを備え、
    前記撚線は、前記撚線の軸方向に離間して配される複数の金属結合部を備え、
    前記金属結合部は、隣り合う前記素線が金属結合されてなり、
    更に、前記被覆電線は、前記被覆電線の軸方向に直交する平面で切断した特定断面を有し、
    前記特定断面における前記複数の外周素線は、
    前記中心素線と前記金属結合部によって結合されるものと、
    前記中心素線と金属結合されていないものとを含む、
    被覆電線。
  2. 前記中心素線と金属結合された前記外周素線を二つ以上含む請求項1に記載の被覆電線。
  3. 前記素線は、前記銅合金からなり、
    前記銅合金は、Fe,Ti,Mg,Sn,Ag,Ni,In,Zn,Cr,Al,及びPから選択される1種又は2種以上の元素を合計で0.01質量%以上5.5質量%以下含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる請求項1又は請求項2に記載の被覆電線。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の被覆電線と、
    前記被覆電線の端部に取り付けられた端子部とを備える端子付き電線。
  5. 電線の導体に利用される撚線であって、
    銅又は銅合金から構成される複数の素線が同心撚りされてなり、
    前記撚線の軸方向に離間して配される複数の金属結合部を備え、
    前記複数の素線は、少なくとも一つの中心素線と、前記中心素線の外周を覆う複数の外周素線とを備え、
    前記金属結合部は、隣り合う前記素線が金属結合されてなり、
    更に、前記撚線は、前記撚線の軸方向に直交する平面で切断した特定断面を有し、
    前記特定断面における前記複数の外周素線は、
    前記中心素線と前記金属結合部によって結合されるものと、
    前記中心素線と金属結合されていないものとを含む、
    撚線。
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