JP6838709B2 - 内燃機関用部品および内燃機関用部品の製造方法 - Google Patents

内燃機関用部品および内燃機関用部品の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、内燃機関用の部品に関する。
例えば自動車の内燃機関(エンジン)において、短時間で発進や停止を頻繁に行うと、エンジンの燃焼室には多くの煤を含有した不完全燃焼ガスが発生する。この煤は、エンジンオイルに混入し高粘度化しゼリー状になる。このゼリー状のオイルはエンジンの部品(ピストン等)に付着し、エンジンの冷却とピストンの運動工程を妨げる等、エンジンの性能劣化と短寿命化を引き起こす。この付着物は、「デポジット」、「スラッジ」あるいは「堆積物」と称される炭化生成物である。例えばピストン冠面に発生したデポジットは、さらに燃料が付着する確率が増加し、燃料の燃焼効率低下を招くことになり、さらに煤を発生させ悪循環に至る。また、デポジットがピストンリング溝部に生成した場合は、ピストンリングの上記溝部内での動きが鈍くなり、燃焼室の気密性を保持できず、オイル上がりや出力低下の原因となってしまう。従来、こうしたデポジットを抑制するため、内燃機関用の部品の表面を皮膜で覆う技術が知られている。例えば、特許文献1には、ピストンの頂面の上に中間層が形成され、中間層の上にフルオロカーボンからなる被複層が形成され、中間層における酸化ケイ素層がピストンと共有結合するものが開示されている。
特開平8−27580号公報
しかし、従来、エンジン内の高温環境下で継続して皮膜の機能を実現することが困難であった。
本発明の一実施形態に係る内燃機関用部品は、好ましくは、基材の表面を覆う耐熱性皮膜と、耐熱性皮膜の上にあり、耐熱性皮膜と共有結合する撥油性皮膜とを有する。
よって、エンジン内の高温環境下でも皮膜の機能を維持することができる。
第1実施形態のエンジンにおける1つの気筒を模式的に示す。 第1実施形態のピストン本体を上方から見た斜視図である。 第1実施形態のピストン本体を下方から見た斜視図である。 第1実施形態のピストンヘッドおよび皮膜の断面を模式的に示す。 実施例1の撥油性皮膜の成分の分析結果を示す。 実施例1のピストン(エンジン運転前)におけるピストン冠面の写真である。 実施例1のピストン(エンジン運転後)におけるピストン冠面の写真である。 未コーティングピストン(エンジン運転前)におけるピストン冠面の写真である。 未コーティングピストン(エンジン運転後)におけるピストン冠面の写真である。 比較例1(加熱前)のピストンヘッドおよび皮膜の断面を模式的に示す。 比較例2(加熱前)のピストンヘッドおよび皮膜の断面を模式的に示す。 比較例3(加熱前)のピストンヘッドおよび皮膜の断面を模式的に示す。 比較例4(加熱前)のピストンヘッドおよび皮膜の断面を模式的に示す。 実施例1および比較例1〜4の加熱前後における撥油性の評価結果を示す。 比較例1(加熱後)のピストンヘッドおよび皮膜の断面を模式的に示す。 比較例2(加熱後)のピストンヘッドおよび皮膜の断面を模式的に示す。 比較例3(加熱後)のピストンヘッドおよび皮膜の断面を模式的に示す。 比較例4(加熱後)のピストンヘッドおよび皮膜の断面を模式的に示す。 実施例2の耐熱性皮膜における窒素量を窒化処理の時間を変更して測定した結果を示す。 実施例4のピストンヘッドおよび皮膜の断面を模式的に示す。 実施例6のピストンヘッドおよび皮膜の断面の写真である。 第7実施形態のピストンヘッドおよび皮膜の断面の写真である。 第7実施形態のピストンヘッドおよび皮膜の断面の写真である。 実施例7の耐熱性皮膜の熱伝導率を中空物質の含有率を変更して測定した結果を示す。
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[第1実施形態]
本実施形態の内燃機関(エンジン)は、一気筒当たりそれぞれ二つの吸気バルブと排気バルブを備えたV型6気筒ガソリンエンジンである。エンジン用の部品は、ピストン、インジェクタ、バルブ、シリンダ等を含む。以下、ピストンを例にとって説明する。
図1に示すように、ピストン1は、円柱状壁面をもつシリンダブロック101に摺動自在に設置される。ピストン1はピストンピン104とコンロッド105によってクランクシャフトに連結される。ピストン1は、ピストン本体2と複合膜3を有する。ピストン本体2は、Al-Si系アルミニウム合金によって一体鋳造される。図1〜図3に示すように、ピストン本体2は、ピストン冠部(ピストンヘッド)20、一対のスカート部21、および一対のエプロン部22を有する。エプロン部22はピストンピンボス部220を有する。ピストンヘッド20は、頂面200およびピストンリング溝部201を有する。ピストンピンボス部220にはピストンピン104が設置され、ピストンリング溝部201にはピストンリングが設置される。複合膜3は、複数の皮膜が複合したものであり、少なくとも頂面200を覆う。複合膜3により覆われた頂面200は、ピストン冠面として機能する。ピストン冠面は、シリンダ壁面103およびシリンダヘッド102と共に燃焼室100を形成する。複合膜3には、局部的には使用環境温度300℃以上の熱負荷がかかりうる。
図4に示すように、複合膜3は、ピストンヘッド20を基材(基体)とし、ピストンヘッド20の表面(頂面200)を覆う。複合膜3は、密着性皮膜30、耐熱性皮膜31、および撥油性皮膜32を有する。頂面200の側から燃焼室100の側に向かって、この順に積層する。
密着性皮膜30は、頂面200と耐熱性皮膜31との間にある接合層(接合皮膜)である。密着性皮膜30は、頂面200に接合し、頂面200と複合膜3との密着性を向上する機能を有する。密着性皮膜30と頂面200は、主に金属結合とイオン結合によって接合している。密着性皮膜30の材料は、少なくとも炭素、窒素、シリコン、チタン、タングステン、およびクロムのいずれかを1つ以上を含む。頂面200と密着性皮膜30との接合が主に金属結合とイオン結合によることを考慮し、上記元素を材料として選択する。密着性皮膜30と頂面200との接合部300に、酸素が実質的に含まれていない。すなわち、基本的に、頂面200と密着性皮膜30との結合に酸素が用いられない。
耐熱性皮膜31は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)を含む。DLCは、実質的にフッ素を含まない水素含有アモルファスカーボン(a-C:H)である。具体的には、耐熱性皮膜31におけるフッ素の含有量は5at%(原子組成百分率)未満であり、水素の含有量は5at%以上である。耐熱性皮膜31と密着性皮膜30は、主にイオン結合と共有結合によって接合している。耐熱性皮膜31の膜厚は、1nm(0.001μm)以上、100μm以下であればよい。膜厚の下限を1nmとすることで、皮膜31の(単体での)強度の維持を図ることができる。また、膜厚の上限を100μm以下とすることで、皮膜31の剥がれの抑制を図ることができる。
撥油性皮膜32は、耐熱性皮膜31の表面を覆い、耐熱性皮膜31よりも撥油性が高い撥油膜である。耐熱性皮膜31と撥油性皮膜32は、共有結合によって接合している。撥油性皮膜32は、ケイ素および酸素を介して、耐熱性皮膜31と共有結合する。具体的には、撥油性皮膜32は、共有結合部320を介して耐熱性皮膜31と接合する。共有結合部32は、耐熱性皮膜31の不対電子と撥油性皮膜32の材料のシランカップリング基とが共有結合した部分であり、ケイ素および酸素を含む。撥油性皮膜32の膜厚は、1nm以上であればよい。膜厚の下限を1nmとすることで、皮膜32の(単体での)強度の維持を図ることができる。
一般に、結合の強度は、金属結合、イオン結合、共有結合の順に大きくなる。よって、結果的に、複合膜3における皮膜30〜32の間の結合力は、基材の表面(頂面200)から積層順に増加する。
撥油性皮膜32は、耐熱性皮膜31と共有結合することで、耐熱性皮膜31と強固に接合する。耐熱性皮膜31は炭素を含んでおり、撥油性皮膜32よりも耐熱性が高い。よって、複合膜3は、エンジン内の過酷な温度環境(高温)下においても、頂面200からの剥がれが抑制されるため、その撥油性を維持し、継続して撥油効果を持続させることができる。複合膜3が適用されたピストン1は、(燃焼室内の)過酷な温度上昇を伴う使用条件においても撥油性を維持してデポジットの発生確率を低減可能である。また、デポジットが発生しても、付着力が低いので、その堆積速度を抑制可能となり、発生したデポジット除去も容易となる。そして、エンジンにおける燃料の不完全燃焼を低下させ、エンジンとしての燃費・性能・環境特性の劣化を低減させことが可能となる。
DLCは耐熱性が高い。耐熱性皮膜31がDLCを含むことで、複合膜3は、より効果的に、エンジン(例えば燃焼室)の高温下においても継続してその機能を持続させることができる。DLCにおけるフッ素の含有量は5at%未満であり少ないため、DLCにおけるsp3構造の崩れを抑制し、高い耐熱性を得ることができる。この観点からは、DLCにフッ素が全くないことが理想的である。
なお、耐熱性皮膜31と頂面200との間に密着性皮膜30がなくてもよい。本実施形態の複合膜3は密着性皮膜30を有する。密着性皮膜30が頂面200と接合する力、および密着性皮膜30が耐熱性皮膜31と接合する力は、耐熱性皮膜31が頂面200と接合する力よりも大きい。よって、頂面200からの複合膜3の剥がれを、より効果的に抑制することができる。内部の圧縮応力が比較的高い耐熱性皮膜31ではなく、クロム等の柔軟性のある材料により形成された密着性皮膜30が頂面200に接合することで、頂面200からの複合膜3の剥がれを抑制することができる。密着性皮膜30と頂面200との接合部300が酸素を実質的に含まないため、高温環境下においても、密着性皮膜30と頂面200との接合強度を向上できる。
[実施例1]
以下、本実施形態を実現する具体的な実施例1を説明する。複合膜3を、以下の工程により形成した。前処理として、成膜前に、基材表面(頂面200)における有機物や無機物等からなる汚れを真空装置にて、エッチング等により除去した。
密着性皮膜30の形成工程として、真空装置にて有機シリコン系材料を用いた化学気相成長法(CVD法)にて、アモルファスシリコンカーバイト(a-SiC)からなる密着性皮膜30を、頂面200の上に形成(成膜)した。密着性皮膜30の膜厚は1.0μmだった。
耐熱性皮膜31の形成工程として、炭化水素系原料を用いたCVD法にて、a-C:Hからなる耐熱性皮膜31を、密着性皮膜30の上に形成した。CVD法では真空装置を用いた。a-C:Hにおけるsp3構造比率は最大で40%程度であった。耐熱性皮膜31の膜厚は1.0μmだった。
撥油性皮膜32の形成工程として、シランカップリング基を含む材料を用いて、撥油性皮膜32を耐熱性皮膜31の上に形成した。撥油性皮膜32は、シランカップリング基を含むフッ化炭素系化合物(CFx-Si)である。使用したCFx-Siは、化学式1に示す通り、柔軟でフレキシブルな分子構造を持つデムナム構造を主鎖骨格としており、数平均分子量は3000〜5000である。末端官能基はシランカップリング基であり、主鎖が伸びた状態で加水分解反応にて被処理基材面となる耐熱性皮膜31と共有結合にて吸着する。
CFx-Siをフッ素系溶媒に0.1〜1.0wt%になるように希釈した溶液を用意した。耐熱性皮膜31が形成されたピストン冠部20を常温で3分、上記溶液にディップ(浸漬)した。これにより撥油性皮膜32を塗布した。すなわち、耐熱性皮膜31の表面にCFx-Siを吸着させた(共有結合部320を形成した)。
浸漬後、140℃で15分の加熱処理を行った。これにより溶媒等を除去し、より強固な共有結合部320を得た。なお、100〜150℃の加熱温度で60分程度の加熱を行えば、より安定した共有結合部320が得られることを実験によって確認した。その後、耐熱性皮膜31の表面に結合されなかった撥油性皮膜32の余剰分については、ワイピング等の物理的手段によって拭き落とした。
最終的な撥油性皮膜32の膜厚は0.1μmだった。なお、撥油性皮膜32の膜厚は、CFx-Siの溶媒への希釈濃度等に依存する。例えば、上記希釈濃度を0.01〜30wt%の範囲で変更することにより、0.001〜1.0μmの範囲で上記膜厚を制御可能であった。
図5は、上記(膜厚が0.1μmの)撥油性皮膜32を、熱負荷試験(大気中300℃、24時間)後にX線光電子分光法(XPS)にてワイドスキャンした結果である。炭素C、フッ素F、および酸素Oが観測されたことを確認できる。なお、XPSとは、高真空中で試料に軟X線を照射し、表面から光電効果によって放出される光電子の運動エネルギー分布を測定することにより、固体表面層における数nm程度に存在する電子が原子から束縛されているエネルギー(束縛エネルギー)を算出し、原子の同定及び化学状態の分析を行う分析方法である。本実施例では、Shimadzu-Kratos社製のAXIS-Ultraにおいて、AlKaモノクロ光源(20kV-15mA、narrow pass energy 20eV、wide pass energy 80eV、X-ray energy 1486.6eV)を用い、X線入射角を試料面に対し30度とし、検出器角度を試料面に対し90度として、測定を行った。観測の深さは最表面より数nmであるため、撥油性皮膜32のみからの情報ということになる。
次に、それぞれの原子をナロースキャンし、その面積比率より原子濃度を算出した。その結果を表1に示す。
本結果によれば、本実施例を適用した内燃機関用部材の表面をXPSで表面観察したならば、表1に準じる結果が得られることになる。すなわち、原子濃度として炭素が約50at%、フッ素が約40at%となる。
さらに、V型6気筒ガソリンエンジンにて、ピストン冠面へ付着するデポジット量の評価を行った。評価のためのエンジンの運転は、二段階で行った。第一段階では、熱負荷が200℃以上と予測されるエンジン運転条件(回転数3000rpm、負荷20kgfm)で50時間稼働させ、引き続く第二段階では、デポジットが発生しやすいエンジン運転条件(回転数2000rpm、負荷10kgfm)で50時間稼働させた。デポジット量の評価は、総試験時間100時間の前後におけるピストン重量の差分とした。ただし、デポジットの除去作業は、エンジンから取り出したピストンを脱脂し、熱湯に浸漬し(95℃、1時間)、中性洗剤を用いてブラシで洗浄することにより、行った。評価の対象として、ピストン冠面にコーティングをしていないピストンと、ピストン冠面に本実施例の複合膜3を有するピストン1とを、各3個ずつ同時にエンジンに組み込み、評価を行った。その結果を表2に示す。
本結果によれば、コーティングしていないピストンのデポジット量は平均約767mgであるのに対し、本実施例のコーティングしたピストン1のデポジット量は平均約397mgであった。すなわち、複合膜3を有することで、ピストンのデポジット量が約52%程度まで減少した。
図6〜図9は、本実施例のピストン1におけるピストン冠面の側の写真と未コーティングピストンのピストン冠面の側の写真を、上記評価のためのエンジンの運転の前後で示す。図6は運転前の本実施例のピストン1、図7は運転後の本実施例のピストン1、図8は運転前の未コーティングピストン、図9は運転後の未コーティングピストンをそれぞれ示す。本実施例のピストン1と未コーティングピストンとの間の、生成・付着したデポジット9の量の違いが目視できる。また、デポジット9の上記除去作業において、本実施例のピストン1のデポジット9は、未コーティングピストンのデポジット9に比べて圧倒的に除去しやすく、デポジット9の付着力の違いを確認することができた。以上のように、本実施例の複合膜3は、デポジットの生成の抑制、及びデポジットの付着力の低減に、非常に有効であることを確認した。
本手法を用いて形成した(複合膜3を有する)ピストン冠面の撥油特性を評価するため、熱負荷の前後における撥油性の評価を行った。比較のために、比較例1(コーティングを行っていないピストン)、比較例2(特開2006-112422号公報に記載されるコーティングを行ったピストン)、比較例3(特表2008-38632号公報に記載されるコーティングを行ったピストン)、比較例4(特表2014-533805号公報に記載されるコーティングの一例を行ったピストン)を準備した。評価対象のピストン冠面側の構造に関して、以下、概略を説明する。まず、本実施例に関しては、図4に示す構造を有する。図10に示すように、比較例1では、アルミニウム合金の基材20の表面200に自然酸化膜201が形成されている。自然酸化膜201の上に汚れ40がある。汚れ40は有機物や無機物等からなる。図11に示すように、比較例2では、真空プロセスにおいて、膜厚が約1.0μmでありa-SiCからなる膜50の上に、フッ素を含む水素含有アモルファスカーボンa-C:H:Fからなる膜51が、約1.0μmの膜厚で形成されている。図12に示すように、比較例3では、アルミニウム合金の基材20の表面200を150℃程度でいったん加熱し汚れを除去した(基材20の表面に酸化膜201が形成された)後に、フッ素を含む変形酸化シリコンからなる膜6が、表面200の上に、約0.2μmの膜厚で形成されている。図13に示すように、比較例4では、真空プロセスにおいて、膜厚が約1.0μmでありa-SiCからなる膜70の上に、実質的にフッ素を含まない水素含有アモルファスカーボンa-C:Hからなる膜71が、約1.0μmの膜厚で形成されている。
本実施例および比較例1〜4のサンプルのそれぞれについて、大気中において300℃で24時間の加熱を行い、この加熱処理の前後において撥油性の評価を行った。図14は、加熱処理の前後における全サンプルの撥油性の評価結果を示す。縦軸は、各サンプルの表面エネルギーから得た、撥油性を示す係数である。各例のサンプルについて、左側が加熱処理の前のグラフであり、右側が加熱処理の後のグラフである。本結果によれば、本実施例のピストン1については、加熱処理後においても安定した高撥油性を維持していることを確認できた。比較例1〜4については、いずれのサンプルも、加熱処理後は、加熱処理前に比べ、撥油性を大きく低下させる結果となった。
図15〜図18を用いて、上記結果が得られた理由について考察する。図15に示すように、比較例1では、ピストン冠面が加熱されることで、表面200に付着していた汚れ40が焼失し、清浄化され、アルミニウム合金の酸化層201が露出した。これにより表面エネルギーが増加し、撥油性が大きく低下したと考えられる。図16に示すように、比較例2では、a-C:H:Fからなる膜51は、加熱前に膜厚が約1.0μmあったが、加熱によって膜厚が大幅に減少していることが確認できた。具体的には、加熱後は膜51が消失し(消失を点線で示す)、最終的には、一部が酸化した膜50のみが最表層に残存した。これは、a-C:Hが本来有する三次元的なテトラヘドラル(sp3)構造が、フッ素を含有することで崩れ(劣化し)、これにより膜51の耐熱性が悪化したためであると考えられる。よって、加熱により膜51の構造が容易に破壊された。図17に示すように、比較例3では、加熱によって膜6の一部61が基材20から脱離し、消失することで、撥油性が大きく低下した。これは、基材20であるアルミニウム合金の酸化層201と膜6との結合力が弱いため、加熱によって両者の結合が断裂したためと考えられる。図18に示すように、比較例4では、加熱によって膜71の表面エネルギーが増加することで、撥油性が低下した。これは、膜71の最表面の層710が、直接、大気中で加熱されることでグラファイト化したためと考えられる。(そもそも、加熱前の段階で、膜71の大きな撥油効果は得られていない。)
[第2実施形態]
本実施形態の複合膜3は、a-C:Hからなる耐熱性皮膜31における水素含有量が5at%以上である。耐熱性皮膜(a-C:H)31は窒素を含む。a-C:Hに添加された窒素は不対電子を多く持つ。このため、耐熱性皮膜31として、水素含有量が多いDLCであるa-C:Hを使用する場合でも、撥油性皮膜32が含有するシランカップリング基(とa-C:Hとの間における共有結合部320の数を増加させることが可能となる。これにより、耐熱性皮膜31と撥油性皮膜32との共有結合が促進される。なお、窒素を添加したa-C:Hからなる耐熱性皮膜31は、常温大気中においては酸化しにくい特性を持っている。他の点は第1実施形態と同様である。
[実施例2]
以下、本実施形態を実現する具体的な実施例2を説明する。a-C:Hからなる耐熱性皮膜31(a-C:H膜)を、真空装置を用いてCVD法で形成した。a-C:H膜の最表面層に窒素を添加するために、窒素を導入したCVD法によって窒化処理を行った。具体的には、上記真空装置に窒素を導入後、a-C:H膜を形成したピストン1を電極として高周波電源を接続し、窒素のプラズマを発生させた。そして、a-C:H膜の表面に、窒素のプラズマを加速して打ち込んだ。a-C:H膜への窒素の侵入深さは、上記加速用の電圧値に依存するが、目的とする共有結合を促進するために必要な深さは表面から数nmあれば十分である。本実施例においては、約5nm(0.005μm)の打ち込み深さを得るために、加速用の電圧値は約-2kVとした。これにより、耐熱性皮膜31の最表面層約5nmに、約10at%濃度となる窒素が添加された。
なお、XPSによって最表面層の窒素の量を測定した。窒化処理の時間を変更して測定を行った。但し、XPSの測定条件は、実施例1で用いた測定条件と同様である。図19に、その結果を示す。窒化処理の時間の増大に伴い、窒素の含有量が約20%までは単調増加することが確認できる。
以上の方法によって窒素を添加したa-C:H膜は、撥油性皮膜32との間で強固な結合が得られ、実施例1にあるとおり大気圧にて300度、24時間の加熱試験前後においても何ら遜色ない撥油性を保持できた。
なお、本実施例にて適用した通り、最適な窒素含有量としては約10%を見出している。なぜなら、撥油性皮膜32との結合力は窒素含有量約7%以上でほぼ飽和する。一方、窒素含有量が13%以上になると、a-C:H膜としての機械的強度が低下する。これらを考慮し、本実施例では約10%を選択した。
[第3実施形態]
本実施形態の複合膜3は、耐熱性皮膜31(DLC)における水素含有量が5at%未満であり不対電子が多い。よって、DLCとシランカップリング基との共有結合が発生しやすいため、耐熱性皮膜31と撥油性皮膜32との間で共有結合部320が発生しやすい。したがって、両膜31,32の接合強度がより向上する。この観点からは、DLCに水素が全くないことが理想的である。
本実施形態では、耐熱性皮膜31として、実質的に水素を含まず、かつ、sp3構造比率が最大で70%程度であるテトラヘドラル・アモルファスカーボン(ta-C)膜を適用する。ta-C膜は、a-C:H膜に比べて高硬度でかつ高耐熱性である。具体的には、少なくとも環境温度450℃の熱負荷においても膜構造の変態が発生せず、膜質の劣化が発生しないことを確認した。よって、高温となる摺動部品の表面にも、マージンをもって利用することが可能となる。また、ta-C膜は、不対電子を多く含むため、第2実施形態のa-C:H膜で採用したような表面窒化処理を行わなくても、撥油性皮膜32との共有結合部320を十分に形成することが可能となる。具体的には、ta-C膜の不対電子の面密度は、電子スピン共鳴(ESR)による測定結果によれば、窒素を10at%程度添加したa-C:H膜に比べて10倍以上ある。よって、撥油性皮膜32との共有結合を得るには都合がよい。以上の特徴を持ったta-C膜を耐熱性皮膜31として使用した結果、実施例1のa-C:H膜を利用した場合と同等以上の撥油性を確認した。他の点は第1実施形態と同様である。
なお、電子スピン共鳴(ESR)測定法とは、不対電子(ダングリングボンド、ラジカル、欠陥起源)を測定するための分光学的手法であり、マイクロ波照射下で磁場を掃引することで、欠陥となる不対電子の状態を変化させた際の応答を見る手法である。不対電子はマイクロ波エネルギーを吸収して励起状態に遷移する。従ってマイクロ波の吸収強度は不対電子数に比例し、かつ、磁場強度に対しピークを持つ。そのピーク磁場や吸収強度から欠陥の起源や密度を評価できる。
[実施例3]
以下、本実施形態を実現する具体的な実施例3を説明する。ta-C膜を形成する手段として、低圧アーク放電(Cathodic Vacuum Arc)技術を用いた。本手法によって得られる炭素薄膜は、基本的に炭素イオンと電子のみより形成され、膜中に水素原子をほとんど含まず、sp3構造比率は最大で70%である。よって、極めて緻密で高硬度のテトラヘドラル・アモルファスカーボン膜が形成される。この低圧アーク放電では、プラズマを発生させる際、炭素イオンや電子以外にも多量の炭素微粒子が発生するが、この炭素微粒子は、屈曲した磁場ダクト等を用いて除去する。
上記ta-C膜を用いた複合膜3のピストンリング溝部201への適用を試みた。ピストンリング溝部201においては、ピストンリングとの摺動が常に発生しており、機械的な強度が必要となる。従来、アルマイト処理等によってピストンリング溝部201の機械的強度を補強することは行われていたが、デポジットを抑制するための対策は施されていなかった。そこで、機械的な強度を保持しつつデポジットを抑制可能な表面処理を目指して試作を実施し、上記ta-C膜を用いたコーティング処理を行った。
一般的にアルマイト皮膜の硬度は常温で約400HVである。これに対し、ta-C膜は、常温で3300HVであり、大気中において300℃、24時間の熱負荷を加えた場合でも同じ硬度を保持できた。ちなみに、a-C:H膜は、常温で約1500HVであるが、上記熱負荷を加えると500HV程度まで劣化した。なお、上記硬度の測定は、薄膜微小硬度計で行った。薄膜微小硬度計は、バーコビッチ型ダイヤモンド圧子の支持部にある薄膜コンデンサーのキャパシタンス変化から、荷重に対する微小変位を検出する。これにより、超低荷重での微小変位の検出が可能である。測定押し込み深さは、総膜厚の1/10とした。
また、上記ta-C膜(膜厚5μm)をピストンリング溝部201に適用したピストンについて、アルマイト皮膜(膜厚30μm)をピストンリング溝部に適用したピストンを比較例として、ピストンリング溝部201の耐久試験と、実施例1と同様のデポジット量の評価とを行った。その結果、ピストンリング溝部201の機械強度として、比較例と同等以上の耐久性を確保できることを確認した。また、ピストンリング溝部201を含むピストン冠面へのデポジット量は比較例の半分以下となり、非常に有効であることを確認した。
[第4実施形態]
本実施形態の複合膜3は、撥油性皮膜32の表面に、複数の粒子による微細な凹凸形状が形成され、この形状によるロータス効果によって、複合膜3(撥油性皮膜32)が更に撥油効果を向上させることができる。
本実施形態では,凹凸形状作製のための粒子は、炭素に限らず、シリコン、チタン、タングステン、クロムといった金属材料またはアルミナといった無機材料であってもよい。また、粒子を皮膜31の表面に埋め込む方法は、イオン化させた粒子を表面に打ち込む等でもよい。但し、各粒子の表面には耐熱性皮膜31で被覆されている必要がある。
[実施例4]
以下、本実施形態を実現する具体的な実施例4を説明する。本実施例では、ta-C膜を形成する低圧アーク放電で、炭素粒子を用いた凹凸形状作製方法を用いた。低圧アーク放電では、プラズマを発生させる際、炭素イオンや電子以外にも多量の炭素微粒子が発生する。通常、この炭素微粒子は、屈曲した磁場ダクト等を用いて除去するが、本実施例においては、この炭素微粒子を利用してロータス効果を発現させた。
すなわち、図20に示すように、アルミニウム合金からなる基材20の上に、窒化クロム(CrN)からなる密着性皮膜30を膜厚1.0μmで形成した。次に、二層構造からなる耐熱性皮膜31を形成した。すなわち、炭素からなる微粒子(以下、粒子33という。)を磁場ダクトにより除去していないで下層ta-C膜310を1.0μm形成し、その上に、粒子33を除去した上層ta-C膜311を約1.0μm形成した。粒子33の平均粒径は1〜20μmであった。その上に、撥油性皮膜32を膜厚0.1μmで形成した。
下層ta-C膜310及び上層ta-C膜311は、同じ炭素同士であるため、強固に結合する。ここで、粒子33の平均粒径は、耐熱性皮膜31(上層ta-C膜311)の算術表面粗さよりも大きい。よって、下層ta-C膜310中にある個々の粒子33によって上層ta-C膜311には微細な凹凸表面形状が形成される。この形状により複合膜3(撥油性皮膜32)は、凹凸形状がない場合に比較し、さらに濡れにくくなるため(ロータス効果)、撥油効果を更に向上させることができる。実際、本実施例の複合膜3のピストン冠面における撥油効果は、実施例1と同等以上であることを確認した。
[第5実施形態]
本実施形態の耐熱性皮膜31は、低硬度な皮膜と高硬度な皮膜とが積層した構造である。耐熱性皮膜31の膜厚に関して、外力に対するロバスト性という観点では、厚いほうが優位となるが、密着性という観点だけから考えれば、薄いほうが優位である。すなわち、ピストン冠面のように、他の部材との物理的な接触がない部材を覆う場合、基材の表面粗さが理想的にゼロであれば、耐熱性皮膜31の最低限必要となる膜厚は、薄膜として存在することが可能な約1nmということになる。しかし、現実の問題としては、少なくとも基材表面の粗さ以上の膜厚がなければ、基材表面への被覆性が100%とならない可能性がある。一方、ピストンリング溝部201のように、他部材(ピストンリング)との物理的な接触が発生する場合、膜厚が厚いほど、外力に対するロバスト性は向上する。しかし、耐熱性皮膜31の硬度が高い場合、その内部の圧縮応力が高いため、膜厚が厚いほど密着性が低下してしまう。上記のa-C:H膜およびta-C膜は、硬度が10〜60GPaと総じて高く、内部の圧縮応力も1〜6GPaとなり、密着性の問題が懸念される。そこで、本実施形態においては、圧縮応力緩和の一手段として、耐熱性皮膜31の中に低硬度な応力緩和皮膜と高硬度な皮膜とが積層する構造を採用した。他の点は第1実施形態と同様である。
[実施例5]
本手法によって、耐熱性皮膜31として、膜厚が最大で10μmとなるa-C:H膜およびta-C膜を形成することに成功した。以上のように、耐熱性皮膜31は、表面粗さゼロという理想的な被処理基材を想定すると、その膜厚は、最小で1nmから形成が可能である。また、応力緩和皮膜を含む積層構造の採用により、最大で10μmまで形成が可能である。
[第6実施形態]
本実施形態の耐熱性皮膜31は、第1実施形態の耐熱性皮膜31としての機能に加え、密着性皮膜30としての機能を併せ持つ。本実施形態の耐熱性皮膜31は、第1実施形態の耐熱性皮膜31および密着性皮膜30が1つの膜として構成されたものに相当する。すなわち、耐熱性皮膜31を構成する材料は、第1実施形態の耐熱性皮膜31を主として構成する炭素、および、第1実施形態の密着性皮膜30を主として構成するシリコンやクロム等である。他の点は第1実施形態と同様である。
[実施例6]
以下、本実施形態を実現する具体的な実施例6を説明する。耐熱性皮膜31を、スプレー方式で形成した。すなわち、耐熱性皮膜31の材料を、スプレーにより、アルミニウム合金からなる基材20の表面200に噴射した。この方式を用いることで、耐熱性皮膜31の膜厚は数十μmと厚くなった。そこで、耐熱性皮膜31のロバスト性を向上させるために、基材20の表面200にあらかじめブラスト処理等を施し、アンカー効果を得るための凹凸形状とした。この表面200に耐熱性皮膜31を形成し、その上に撥油性皮膜32を形成した。
図21に、複合膜3の断面-走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。基材20の表面に、ブラスト処理による凹部202と凸部203を確認できる。耐熱性皮膜31の平均膜厚は約20.0μmであった。膜3の最表層に撥油性皮膜32を確認できる。耐熱性皮膜31は2層構造となっており、下層312と上層313から構成されている。下層312は、シリカ粒子314、アルミナ粒子315、およびバインダー316等からなる。上層313の膜厚は約2μmである。
表3に、SEM-エネルギー分散型X線(EDS)による耐熱性皮膜31の分析結果を示す。本結果によれば、上層313と下層312は多くの炭素CとシリコンSiを含有している。炭素およびシリコンは、それぞれ、撥油性皮膜32との共有結合、および基材200とのイオン結合を実現するための元素である。
上記耐熱性皮膜31を含む複合膜3について、実施例1と同様に耐熱性および撥油性の評価を行ったところ、実施例1(a-C:Hを耐熱性皮膜31とし、a-SiCを密着性皮膜30として利用した場合)と同等以上の効果を確認できた。特に、耐熱性評価においては、アルミニウムの融点近くである約650度まで加熱する評価を別途行ったところ、耐熱性皮膜31がほとんど消失することなく複合膜3としての機能を保持可能であることを示す結果を得ることができた。
[第7実施形態]
本実施形態の耐熱性皮膜31は、第6実施形態の耐熱性皮膜31と基本的に同じであるが、低熱伝導性皮膜としても機能する。耐熱性皮膜31の熱伝導率は低く、0.1W/mk以下である。これは、耐熱性皮膜31が複数の中空物質を含むことによる。耐熱性皮膜31が低熱伝導性皮膜として機能することで、エンジンの熱損失の低減ないし燃焼効率の向上を図ることができる。
耐熱性皮膜31の中には、図22において確認できるように、中空物質として、内部に空洞をもつ粗球状のシリカ(中空シリカ粒子)314が多数存在する。これらの中空シリカ粒子314は、耐熱性皮膜31の形成時にあらかじめ中空球体状のシリカ(直径0.003μm〜数十μm)を導入する方法や、熱的ストレスをシリカに加えることにより、形成可能である。図23に示すように、耐熱性皮膜31の中には、部分的に、直径が3〜15μm程度になるような大型の中空シリカ粒子314も含まれている。これらの中空シリカ粒子314の内部の空気層によって、耐熱性皮膜31の熱伝導率は大幅に低下する。他の点は第1実施形態と同様である。
[実施例7]
以下、本実施形態を実現する具体的な実施例7を説明する。本実施例の耐熱性皮膜31の熱伝導率は、パルス光加熱サーモリフレクタンス法による測定結果から、0.02〜0.08W/mKであった。容積比熱は900〜2500KJ/m3Kであった。通常、ピストンを構成するアルミニウム合金の熱伝導率が100W/mK程度であり、容積比熱が3000KJ/m3K程度であることを考えれば、耐熱性皮膜31の熱伝導率は著しく低く、容積比熱も低い。熱伝導率が低いため、熱損失の低減を図ることができる。また、容積比熱が低いため、熱応答性が高い遮熱膜として有効であることがわかる。
耐熱性皮膜31の熱伝導率は、耐熱性皮膜31に含まれる中空シリカ粒子314の大きさや総量を変更することで、制御可能である。耐熱性皮膜31の熱伝導率が、耐熱性皮膜31における中空シリカ粒子314の含有率に応じてどのように変化するかを測定した。その結果を、図24において黒丸でプロットしたグラフにより示す。上記熱伝導率は、上記含有率を略ゼロとした状態では約5W/mKであったが、上記含有率を増加させることで急激に0.1W/mK程度まで低下し、上記含有率をさらに増加させることで最終的には0.02〜0.08W/mKまで低下した。
また、中空物質として、中空シリカ粒子314の代わりにカーボンナノチューブ(CNT)を含有させた耐熱性皮膜31についても、同様に熱伝導率を測定した。その結果を、図24において白丸でプロットしたグラフにより示す。熱伝導率は、中空シリカ粒子314の場合と同様、CNTの含有率を略ゼロから増加させるに従い、約5W/mKから0.1W/mK程度まで急激に低下し、その後0.05W/mK程度まで低下した。
[他の実施形態]
以上、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明したが、本発明の具体的な構成は、実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。例えば、複合膜3(コーティング)の適用対象は、実施形態において検討を行った頂面200やピストンリング溝部201に限定されない。ピストンに関して言えば、図1〜図3に示されるピストンスカート部21の外表面、エプロン部22の外表面、および頂面200の裏側を含むピストンの内表面23等も適用対象となりうることは言うまでもない。ピストン以外に関して言えば、図1に示されるインジェクタ107の噴出部表面、シリンダ内壁面103、エンジンバルブ108,109の表面等、エンジンに使用されている部品すべてが適用対象となりうる。さらに、上記エンジンとして、ガソリンエンジンに限らず、ディーゼルエンジン等も含まれることを前提としている。エンジンの燃料としては、ガソリン、軽油、重油、液化石油ガス、液化天然ガス、バイオ燃料、水素等が挙げられる。さらに、上記エンジンとして、車両に限らず船舶等に搭載されるエンジンも含まれる。
[実施形態から把握しうる技術的思想]
以上説明した実施形態から把握しうる技術的思想(または技術的解決策。以下同じ。)について、以下に記載する。
(1) 本技術的思想の内燃機関用部品は、その1つの態様において、
基材と、
前記基材の表面を覆う耐熱性皮膜と、
前記耐熱性皮膜の上にあり、前記耐熱性皮膜よりも撥油性が高い撥油性皮膜であって、ケイ素および酸素を介して前記耐熱性皮膜と共有結合する前記撥油性皮膜とを有する。
(2) より好ましい態様では、前記態様において、
前記耐熱性皮膜はダイヤモンドライクカーボンを含む。
(3) 別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記ダイヤモンドライクカーボンにおけるフッ素含有量は5at%未満である。
(4) さらに別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記ダイヤモンドライクカーボンにおける水素含有量が5at%未満である。
(5) さらに別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記ダイヤモンドライクカーボンにおける水素含有量が5at%以上であり、
前記ダイヤモンドライクカーボンは窒素を含む。
(6) さらに別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記基材と前記耐熱性皮膜の間に接合皮膜があり、
前記接合皮膜が前記基材と接合する力、および前記接合皮膜が前記耐熱性皮膜と接合する力は、前記耐熱性皮膜が前記基材と接合する力よりも大きい。
(7) さらに別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記基材の表面に接合する皮膜と前記基材との接合部が酸素を含まない。
(8) さらに別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
少なくとも一部が前記耐熱性皮膜の中にある粒子であって、前記耐熱性皮膜の算術表面粗さよりも粒径の大きい前記粒子を複数有する。
(9) さらに別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記耐熱性皮膜の膜厚が、1ナノメートル以上、100マイクロメートル以下である。
(10) さらに別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記撥油性皮膜の膜厚が1ナノメートル以上である。
(11) さらに別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記耐熱性皮膜は、複数の中空物質を含み、熱伝導率が0.1W/mk以下である。
(12) また、他の観点から、本技術的思想の内燃機関用部品の製造方法は、その1つの態様において、
基材の表面に耐熱性皮膜を形成する工程と、
前記耐熱性皮膜の表面に、前記耐熱性皮膜よりも撥油性が高い撥油性皮膜を形成する工程であって、
前記撥油性皮膜の材料はシランカップリング基を含み、
前記シランカップリング基を前記耐熱性皮膜の表面と反応させることで前記撥油性皮膜を形成する工程とを有する。
(13) より好ましい態様では、前記態様において、
前記耐熱性皮膜の表面に前記撥油性皮膜を形成する工程は、
前記耐熱性皮膜の表面に前記シランカップリング基を付着させる工程と、
前記撥油性皮膜が付着した前記耐熱性皮膜の表面を加熱する工程とを含む。
(14) 別の好ましい態様では、前記態様のいずれかにおいて、
前記基材の表面に前記耐熱性皮膜を形成する工程は、
前記基材の表面に水素含有アモルファスカーボン膜を形成する工程と、
前記水素含有アモルファスカーボン膜の表面に窒素を添加する工程とを含む。
1 ピストン(内燃機関用部品)
2 ピストン本体
20 ピストンヘッド(基材)
3 複合膜
31 耐熱性皮膜
32 撥油性皮膜

Claims (14)

  1. 内燃機関用部品であって、
    基材と、
    前記基材の表面を覆う耐熱性皮膜と、
    前記耐熱性皮膜の上にあり、前記耐熱性皮膜よりも撥油性が高い撥油性皮膜であって、ケイ素および酸素を介して前記耐熱性皮膜と共有結合する前記撥油性皮膜とを有する、
    内燃機関用部品。
  2. 請求項1に記載の内燃機関用部品において、
    前記耐熱性皮膜はダイヤモンドライクカーボンを含む、内燃機関用部品。
  3. 請求項2に記載の内燃機関用部品において、
    前記ダイヤモンドライクカーボンにおけるフッ素含有量は5at%未満である、内燃機関用部品。
  4. 請求項2に記載の内燃機関用部品において、
    前記ダイヤモンドライクカーボンにおける水素含有量が5at%未満である、内燃機関用部品。
  5. 請求項2に記載の内燃機関用部品において、
    前記ダイヤモンドライクカーボンにおける水素含有量が5at%以上であり、
    前記ダイヤモンドライクカーボンは窒素を含む、
    内燃機関用部品。
  6. 請求項2に記載の内燃機関用部品において、
    前記基材と前記耐熱性皮膜の間に接合皮膜があり、
    前記接合皮膜が前記基材と接合する力、および前記接合皮膜が前記耐熱性皮膜と接合する力は、前記耐熱性皮膜が前記基材と接合する力よりも大きい、
    内燃機関用部品。
  7. 請求項2に記載の内燃機関用部品において、
    前記基材の表面に接合する皮膜と前記基材との接合部が酸素を含まない、内燃機関用部品。
  8. 請求項2に記載の内燃機関用部品において、
    少なくとも一部が前記耐熱性皮膜の中にある粒子であって、前記耐熱性皮膜の算術表面粗さよりも粒径の大きい前記粒子を複数有する、内燃機関用部品。
  9. 請求項2に記載の内燃機関用部品において、
    前記耐熱性皮膜の膜厚が、1ナノメートル以上、100マイクロメートル以下である、内燃機関用部品。
  10. 請求項2に記載の内燃機関用部品において、
    前記撥油性皮膜の膜厚が1ナノメートル以上である、内燃機関用部品。
  11. 請求項1に記載の内燃機関用部品において、
    前記耐熱性皮膜は、複数の中空物質を含み、熱伝導率が0.1W/mk以下である、内燃機関用部品。
  12. 内燃機関用部品の製造方法であって、
    基材の表面に耐熱性皮膜を形成する工程と、
    前記耐熱性皮膜の表面に、前記耐熱性皮膜よりも撥油性が高い撥油性皮膜を形成する工程であって、
    前記撥油性皮膜の材料はシランカップリング基を含み、
    前記シランカップリング基を前記耐熱性皮膜の表面と反応させることで前記撥油性皮膜を形成する工程とを有する、
    内燃機関用部品の製造方法。
  13. 請求項12に記載の内燃機関用部品の製造方法において、
    前記耐熱性皮膜の表面に前記撥油性皮膜を形成する工程は、
    前記耐熱性皮膜の表面に前記シランカップリング基を付着させる工程と、
    前記撥油性皮膜が付着した前記耐熱性皮膜の表面を加熱する工程とを含む、
    内燃機関用部品の製造方法。
  14. 請求項12に記載の内燃機関用部品の製造方法において、
    前記基材の表面に前記耐熱性皮膜を形成する工程は、
    前記基材の表面に水素含有アモルファスカーボン膜を形成する工程と、
    前記水素含有アモルファスカーボン膜の表面に窒素を添加する工程とを含む、
    内燃機関用部品の製造方法。
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