JP4847817B2 - ピストンリング - Google Patents

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Description

本発明は、内燃機関用ピストンリングに関するものであり、さらに詳しく述べるならば、ピストンの材料であるアルミニウム合金がピストンリングに凝着することを防止する技術に関する。
内燃機関では、燃焼室における燃料の爆発によりピストンが繰り返して往復動し、それに伴いピストンのピストンリング溝とピストンリングとの間で衝突が繰り返される。また、運転中、ピストンリングはその周方向に回転しており、ピストンリング溝表面とピストンリング表面との間で周方向の摺動が発生する。(爆発により、ガソリンエンジンのトップリング付近の温度は190〜220℃程度に達し、高出力化が進む近年においては250℃前後まで上昇する。)ディーゼルエンジンにおいてはさらに高温まで上昇すると考えられる。このような高温下でピストンリングによって叩かれると、アルミニウム合金からなるピストンのピストンリング溝表面は疲労破壊し、表面剥離を生じてアルミニウム小片が脱落する。脱落したアルミニウム合金片がピストンリングとピストンリング溝との間で叩かれ摺動を受けると、あるいは脱落によりピストンリング溝に現れたアルミニウム合金の新生表面が、叩かれによりピストンリング側面と接触し、さらに摺動を受ける。すると、アルミニウム合金がピストンリング側面に凝着する現象が起こる。これを「アルミニウム凝着」と呼んでいる。
アルミニウム凝着が進むとピストンリングがピストンリング溝に固着してしまい、ピストンリングのシール性能が損なわれて、高圧の燃焼ガスが燃焼室からクランク室へ流出する、ブローバイといわれる現象が起こり、エンジン出力の低下を招く。また、オイルシール機能も失われるため、オイル消費の増大を招く。固着にまで至らなくても、アルミニウム凝着によるピストンリング側面の盛り上がり、あるいは、ピストンリング溝の荒れにより、やはりピストンリング側面とピストンリング溝表面との間のシール性が損なわれ、ブローバイ増加を招く。
アルミニウム凝着を防止するために、ピストン材であるアルミニウム合金とトップリングとを直接接触させないようにする方法が従来から多数提案されている。
ピストン側の対策としては、特許文献1:特開昭63-170546号公報に開示されているように、ピストンリング溝部に陽極酸化処理(アルマイト処理)を施し、さらにその微細孔中に潤滑性物質を充填する方法が挙げられる。アルマイト処理によりピストンリング溝表面に酸化アルミニウムを主成分とする硬質の酸化皮膜が生成するため、アルミニウム粉の脱落が防止され、ピストンリングへの凝着が発生しなくなる。しかしながら、ピストンへのアルマイト処理には、コストが高く、また、硬質であるため加工傷が消えにくく、初期におけるブローバイ量が大きいという欠点がある。
ピストンリング側の対策としては、特許文献2:実開昭60-82552号公報や特許文献3:特開昭62-233458号公報に開示されている方法が挙げられる。前者は、ピストンリング側面にリン酸塩皮膜や四三酸化鉄皮膜を形成し、その上に二硫化モリブデン、黒鉛、炭素、窒化ホウ素等の固体潤滑剤を分散させた四フッ化エチレン樹脂又はオキシベンゾイルポリエステル樹脂等の耐熱・耐摩耗性樹脂系皮膜を形成するものであり、後者は、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤をエポキシ系樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリイミド等の耐熱樹脂中に分散させた皮膜をピストンリング側面に形成するものである。固体潤滑剤である二硫化モリブデンの含有率は60〜95質量%が望ましく、また固体潤滑剤自らが劈開することによりピストンリング溝とピストンリング側面との間の摩擦係数を低減している。
特許文献2,3はいずれも、自らが劈開して摩耗することにより皮膜としての摩擦係数を低減する、二硫化モリブデンやグラファイトといった固体潤滑剤を含むものであるため、比較的短期間で皮膜が摩滅してしまうおそれがある。近年、環境浄化等を目的とした、高燃焼圧化やピストントップランド短縮が進められており、これらのエンジンでは、従来のエンジンと比較してトップ溝周辺がより高温となるため、ピストンリングとピストンリング溝とが馴染む前に、皮膜が摩滅してしまう。また、高温によりアルミニウム合金が軟化し易いこともあり、近年のエンジンではアルミニウム凝着がより発生し易い。
特許文献4:特開平07-63266号公報は、バインダーを高耐熱樹脂に変更することにより耐アルミニウム凝着性を向上させた皮膜を開示しているが、バインダーを耐熱性あるいは耐摩耗性のより高い樹脂に変更しても、分散粒子が固体潤滑剤である限り、ある程度の効果は得られるものの、比較的早期に皮膜は摩滅するので、長期に亘ってアルミニウム凝着防止効果を維持することは困難である。
特許文献5:特開2001-31906号公報は、固体潤滑剤の他に、平均粒径0.5μm〜2.0μmの六方晶窒化ケイ素を5mass%〜20mass%分散させた樹脂系皮膜をピストンリング外周面に形成することにより、運転初期に窒化ケイ素がベアリング面を形成し、ピストンリング外周面の摩擦力を低減できることを開示している。しかしながら、この皮膜をピストンリング側面に形成しても、窒化ケイ素は熱伝導率が低いため、ピストンリングからの放熱が阻害されてトップリング溝周辺の温度が充分に低下しない。そのため、ベースとなる樹脂の熱分解やピストン材であるアルミニウム合金の軟化が進んで、結果的にアルミニウム凝着を招くおそれがある。
特開昭63-170546号公報 実開昭60-82552号公報 特開昭62-233458号公報 特開平07-63266号公報 特開2001-31906号公報
したがって、本発明の目的は、内燃機関用ピストンリングの放熱性を低下させることなく、ピストンリング側面に形成する皮膜の耐摩耗性を向上させることにより、長期に亘りアルミニウム凝着を防止するピストンリング側対策を提供することである。
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、樹脂系皮膜中にカーボンブラック粒子を主成分として含有せしめることによって、劈開性がなくなり、添加剤粒子の構造が安定して、保油性が高くなり、また、カーボンブラックは放熱性にも優れているので、その結果、皮膜の耐摩耗性が向上するとともに、長期に亘ってアルミニウム凝着防止効果を持続できることを発見し、本発明に想到した。尚、主成分とは樹脂系皮膜中に含有される樹脂以外の物質として最も多いということを意味する。
[1] ピストンリング母材
本発明に使用されるピストンリング母材としては、特に限定されないが、ピストンリング溝との衝突が繰り返されることから、ある程度の強度が必要である。好ましい材料としては、鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、高級鋳鉄が挙げられる。又、ピストンリング側面には側面の耐摩耗性向上が目的で、ステンレス鋼では窒化処理、鋳鉄では硬質Crめっきや無電解ニッケルめっき処理が施されることがあるが差し支えない。
[2]リン酸塩処理
次に、本発明に係る樹脂系皮膜の下地処理の例を説明する。
本発明に係る皮膜の密着性向上のために、樹脂との接着性に優れたリン酸塩皮膜予めを形成しておくと良い。リン酸塩皮膜はリン酸亜鉛系、リン酸マンガン系、リン酸カルシウム系いずれの皮膜でも良い。また、リン酸塩皮膜に代えて他の化成処理皮膜や酸化膜を形成しても密着性は向上する。側面に硬質クロムめっき皮膜や無電解ニッケルめっき皮膜等が施されているピストンリングには、化成処理皮膜が形成できないので、皮膜の密着性を確保するために無機質の汚れや有機質の汚れを除去しておくことが望ましい。また、表面の粗さ調整を兼ねてブラスト処理を行っても良い。
[3] 前処理
化成処理皮膜を形成した直後であれば特別に前処理は必要としない。しかし、長期の保存などで、表面に油等が付着した場合には、有機溶剤での洗浄が望ましい。また、樹脂系皮膜との密着性を向上させる上でシランカップリング剤処理を施しておいても良い。本件においてはピストンリングに適用されることから沸点の高いエポキシ系やアミノ系のものが適している。
[4] 樹脂系皮膜
本発明の樹脂系皮膜は、側面、即ちピストンのピストンリング溝と衝突・摺動するピストンリングの側面に、形成され、高耐熱性樹脂中にカーボンブラック粒子を分散させたナノポーラスな多孔質皮膜を形成することにより、保油性を向上させ放熱性、耐摩耗性を良好にしたことを特徴とする。また、上記側面以外の外周面であってもアルミニウム合金と摺動する面に本発明の樹脂系皮膜を設けることが可能である。
一般にカーボンブラックは、擬似的グラファイト構造の結晶子(炭素6員環30〜40個結合した網平面が3〜5層に積み重ったもの)が集合した粒子から構成され、この一次粒子が融着して数珠状に連なった鎖状構造を有する。これらの最小単位の集合体はアグリゲートと呼ばれ、さらにそれらがいくつか凝集したアグロメレートになっている。皮膜中では樹脂がカーボンブラック粒子の表面を覆うようにコーティングされた状態となり、それぞれのアグリゲートを絡ませながら強固に連結する、あるいは一部アグロメレートで連結した高次構造を形成されているため、皮膜全体の剛性を向上させることができる。このような高次構造の形成や、アグリゲートを形成する一次粒子同士が融着により極めて高いエネルギーで結合されていることから、例えば、単独フィラーが樹脂中に海島状態で分散されているときのような粒子の欠落は起こりえず、結果的に高い耐摩耗性が得られる。
さらにアグロメレートや高次構造は、粒子間に空隙を生じ、一部樹脂によって埋められない空隙がナノレベルの気孔となった多孔質構造を形成する。これらの隙間にはオイルが浸透することが可能であり、カーボンブラックは劈開性がなく構造が安定していることと相俟って、潤滑下での摺動時においては保油性が高く、ピストンリング溝との間の摩擦抵抗を低減させることができると考えられる。即ち、ピストンリング側面がピストンリング溝に叩かれ摺動を受けた際、そのときの摩擦抵抗が少なくなるため、樹脂系皮膜のダメージを軽減することができ、耐久性を向上させることができる。一方、グラファイトは、上記のナノレベル空隙がなく、さらに劈開性をもつために、皮膜表面が粗くなり、保油性が不足してピストンリング溝表面にダメージを与えると考えられる。
尚、カーボンブラックは、固体潤滑剤ではないために、皮膜の摩擦係数を低くしてピストンとピストン皮膜間の摩擦力を低減する観点から、固体潤滑剤を一部併用してもよい。固体潤滑剤は、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、フッ素樹脂等から単独、もしくは複数組み合わせたものを用いることができる。しかしながら、固体潤滑剤の量が多くなると、本発明が特長とする安定した保油性が得られなくなるので、その含有量は70重量%以下、特に60重量%以下が好ましい。なお、これら固体潤滑剤は上述のようにへき開して摺動初期に皮膜から脱落するので、皮膜中の含有量は急激に低下することによって、その後の摺動期間ではカーボンブラックの上記作用が十分に発揮される。さらに、固体潤滑剤が発揮する低摩擦性により皮膜の発熱量は少なくなるが、カーボンブラックの熱伝導性と保油性は発揮される。また、後述の実施例から明らかなように、カーボンブラックは極少量でも特性向上に寄与するので、固体潤滑剤より少量でも差し支えない。さらには、固体潤滑剤による皮膜と本発明品とを交互に積層した多層皮膜としてもよい。積層する層数は複数でもよく、それぞれ厚みを変えても構わない。このときの固体潤滑剤皮膜は、本発明者らの一部によって考案された皮膜を適用することができる。
また本発明の樹脂系皮膜は、樹脂よりも熱伝導性の良いカーボン粒子が連なり合って形成されていることや、多孔質構造を有するためにオイル接触面積が拡大していることから、ピストンリングの熱をオイル中へ効率よく放熱させることができる。従来使用されていたような窒化珪素のように、ピストンリングの放熱効果を低くすると、溝温度が上昇しアルミニウム凝着を誘発し易くなるが、カーボンブラックは、優れた放熱性によりそれらを軽減することが可能である。他方、樹脂層が摩耗し硬質のカーボンブラック粒子が露出して相手材と擦れた場合、粒子自体の発熱が大きくなり、局部的な温度上昇により周囲に被覆されている樹脂層が熱で劣化してしまう。しかし多孔質構造がもつ放熱効果はこのようなカーボンブラック粒子の温度上昇を抑制することもできるので、樹脂部の熱劣化を防ぎ、結果として皮膜の耐久性を向上させることができる。
本皮膜に用いるカーボンブラックはチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック、ケッチェンブラックのどれでも適用することができる。カーボンブラックは1次粒子の粒子径が10〜500nmのものが製造されているが、本発明品に用いるものとしては10〜200nmのものが望ましく、より好ましくは10〜100nmである。カーボンブラック粒子はグラファイトのように劈開性がなく硬質であることから、粒子径が大きいすぎるとピストン材へのダメージが大きくなってしまうので、ナノ粒子のものを使用することが好ましい。
カーボンブラックの一次粒子は、外周部に擬似的グラファイト構造の結晶子が同芯状に配向した構造を示すが、これを黒鉛化処理(不活性雰囲気中において2000〜3000℃で高温処理)することにより、粒子内結晶を成長させ粒子形状が球状から多面状となり、外周部がより厚く擬似的グラファイト構造となった黒鉛化カーボンブラックが得られる。本発明品のような高温環境下で使用され、且つ耐摩耗性を要求されるピストンリング用皮膜においては、黒鉛化カーボンブラックが特に適している。黒鉛化カーボンブラックを用いることにより、黒鉛ナノ粒子を分散させた皮膜を形成することができ、固体潤滑剤のグラファイトのような劈開性の問題を有することなく、潤滑性や耐熱性を向上させることができる。市場で入手できる黒鉛化ブラックとしては、トーカブラック#3800・#3845・#3855(東海カーボン株式会社の商品名)などがある。
カーボンブラックは樹脂中に分散させる際、樹脂との濡れ性や密着性を向上させる上で、カーボンブラック粒子表面にカップリング剤処理、プラズマ処理、酸化処理を行っても良い。さらに分散性を向上させる上で高分子系顔料分散剤を添加してもよく、カーボンブラック表面にはカルボキシル基やフェノール水酸基などの酸性官能基が残存することから、特にアミノ基のような塩基性官能基を有する分散剤が有効である。
皮膜のベースとなる樹脂は、主鎖に芳香族環や芳香族複素環を有する耐熱性高分子が好ましく、ピストンリング溝付近の温度が190℃以上に達することから、ガラス転移温度が190℃以上の非結晶性高分子、もしくは融点が190℃以上の結晶性高分子や液晶性高分子が適している。具体的には、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエステル、芳香族ポリアミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、芳香族ポリシアヌレート、芳香族ポリチオシアヌレート、芳香族ポリグアナミンの少なくとも一種類含む混合物又は複合物などが挙げられる。さらにはこれらの樹脂にシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどの無機物を分子レベルで分散させた有機-無機ハイブリッド樹脂により、耐熱性や強度、基材との密着性をさらに向上させることもできる。またピストンリング溝付近の温度が250℃以上に達するケースもあることや塗料化の点から、ガラス転移温度が250℃以上で、且つ有機溶媒に可溶な樹脂がより好ましく、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾールなどがワニスとして市販化されている。市販で入手できるものとして、ポリイミドでは宇部興産株式会社:Uワニス、日立化成工業株式会社:HCIシリーズが、ポリアミドイミドでは日立化成工業株式会社:HPCシリーズ、東洋紡績株式会社:バイロマックスがあり、さらにポリイミドやポリアミドイミドにシリカをハイブリッド化した荒川化学工業株式会社:コンポセランH800・H900シリーズがある。
またポリベンイミダゾールではAZエレクトロニックスマテリアルズ株式会社:セラゾールシリーズがある。
分散させるカーボンブラック粒子の含有率は、重量比で皮膜全体の3〜80%が好ましい。3%より少ないと、高次構造の形成が充分でなくナノレベルの空隙の形成量が少ない。そのため保油性が充分でなく、放熱性、耐摩耗性が低下し、比較的早期に皮膜が摩滅し凝着が発生してしまう。また、粒子同士の接触も接触が不足し充分な熱伝導率を確保できないため、ピストンからの放熱が阻害されてアルミニウム凝着が発生し易い環境が生じてしまう。80%より多いと、樹脂が粒子を保持する力が弱いためピストンリング溝表面との間での摺動により粒子が脱落してしまうため、結果的に充分な耐アルミニウム凝着性が得られない。また皮膜表面が粗くなりピストンリング溝を摩耗させてしまう。さらに皮膜の耐摩耗性と放熱性の観点から、カーボンブラック粒子の含有率は5〜50%がより好ましい。
[4] 樹脂系皮膜の形成
ピストンリング側面への樹脂系皮膜の塗布方法は特に限定されないが、スプレーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、ロールコーティング、静電塗装、電着塗装、印刷等の公知の方法を用いるのが好ましい。
コーティング後には、樹脂系皮膜を硬化させるために、ピストンリングを熱処理する。熱処理温度はベースとなる樹脂の種類によるが、150℃〜500℃が好ましく、180℃〜400℃がより好ましい。熱処理温度が150℃未満であると硬化反応が不充分であるため耐摩耗性が低く、500℃より高いと、樹脂や分散粒子が熱分解し、あるいは母材の材質によってはピストンリングが変形し、また、リン酸塩の種類によってはリン酸塩が分解して樹脂系皮膜が剥離する。
樹脂系皮膜の厚さは0.5μm〜40μmとするが、2μm〜15μmとするのが好ましい。0.5μm未満では皮膜が早期に摩滅してしまい、40μmを超えるとピストンへの装着が困難になる。
続いて、実施例及び比較例によりさらに詳しく説明を行う。
実施例1
[1] 摩耗試験片の作製
縦60mm、横10mm、厚さ5mmに切断したSK-3片を、Rz(JIS84)が0.8μmから1.5μmになるように研磨した。次いで、アルカリ脱脂後、約80℃に加温したリン酸マンガン水溶液に約5min浸漬することにより、摩耗試験片全面に厚さ約2μmのリン酸マンガン皮膜を形成した。
[2] ピストンリングの作製
ピストンリング用低クロム鋼で作製され、予め外周面にイオンプレーティングにより厚さ約30μmのCrN皮膜を形成した、ボア径73mm、幅2.3mm、厚さ1.0mmのピストンリングを、アルカリ脱脂後、約80℃に加温したリン酸マンガン水溶液に約5min浸漬することにより、ピストンリングの外周面以外の面に厚さ約2μmのリン酸マンガン皮膜を形成した。
[3] 塗料の作製
シリカ-ポリアミドイミドハイブリッド樹脂(荒川化学工業株式会社:H901-2)をN-メチル-2-ピロリジノン200〜300mLで希釈し、黒鉛化処理したカーボンブラック粉末(東海カーボン株式会社:トーカブラック#3845、1次粒子寸法40nm)を添加後、数時間攪拌することにより、カーボンブラックが均一に分散した塗料を得た。尚、カーボンブラックの添加量は、樹脂硬化後における質量比が50%となるよう調整した。
[4] 皮膜の形成
[1]で作製した摩耗試験片の片面および[2]で作製したピストンリングの両側面に、[3]で作製した塗料をスプレー法により塗布し、乾燥後、250℃で1h硬化処理した。このようにして、摩耗試験片5枚とピストンリング5本をそれぞれ作製した。摩耗試験片の皮膜厚さは約10μm、ピストンリングの皮膜厚さは片面当たり約5μmであった。
[5] 皮膜の断面観察
[4]で得られた皮膜、もしくは[3] で調合した塗料で厚さ数μm〜数十μmのフィルムを作製し、その断面を電界放出形走査電子顕微鏡(日立製作所:S5000)により倍率10,000〜50,000倍で観察した。
[6] 摩耗試験
摩耗試験用片に一定荷重でAl球を押し付け、試験片を往復動させることにより、摩耗試験を行った。摩耗試験機の概略図を図1に示す。図1に示されているように、摩耗試験片に熱電対を挿入し、温度コントローラーで温度を260℃に保持しながら、φ4.5mのAl球を100gfの一定荷重で押し付け、摩耗試験片の長軸方向に往復動させた。ストロークは40mm、摺動速度は70mm/sとし、250往復させた。無潤滑、あるいは往復動開始前にエンジンオイルを試験片に塗布してから試験を行った。試験終了後に試験片を取り外し、エタノール中で超音波洗浄することにより摩耗粉を除去し、乾燥、放冷後、粗さ計を使って試験片の短軸方向に断面形状を測定し、摩耗試験により発生した摩耗痕の断面積を算出した。断面形状測定は各摩耗痕3箇所ずつとし、摩耗痕断面積が最大のものをその皮膜の摩耗量とした。
[7] エンジン実験
両側面に皮膜を形成したピストンリングをエンジン試験に供試した。エンジン試験には、排気量が1.3L、アルミニウム合金製のピストンを備えたエンジンを用いた。[1]〜[4]で作製した、両面に樹脂系皮膜を塗布したピストンリングトップ溝に装着し、運転条件は、回転数5700rpm、負荷4/4とし、断続的に100h運転した。同一運転条件で二回のエンジン実験を実施した。
一回目のエンジン実験では一番気筒及び三番気筒のトップ溝に、二回目のエンジン実験では二番気筒及び四番気筒のトップ溝にそれぞれ装着して、評価を行った。
エンジン実験後、ピストンリング側面へのアルミニウム凝着及びピストンのトップリング溝の荒れを観察した。
比較例1
カーボンブラック粉末の替わりに平均粒径1.2μmの二硫化モリブデン粉末(株式会社ダイゾー:MoS2粉Cパウダー)と平均粒径2μmの黒鉛粉末(日本黒鉛工業株式会社:USSP-D)とを、質量比でそれぞれMoS2:30%、黒鉛:20%となるように分散させたこと以外は、実施例1と同様にして摩耗試験片及びピストンリングを作製し、電子顕微鏡による皮膜断面の観察と、各評価試験を実施した。エンジン実験では、一回目の実験の二番気筒と四番気筒にピストンリングを装着し、実施例1と同時にテストした。
比較例2
カーボンブラックの替わりに平均粒径1μmの窒化ケイ素粉末(電気化学工業株式会社:SN-9S)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして摩耗試験片及びピストンリングを作製し、評価した。エンジン実験では、二回目の実験の一番気筒と三番気筒にピストンリングを装着し、実施例1と同時にテストした。
皮膜断面観察結果
実施例1の電子顕微鏡による皮膜断面写真を図2(10,000倍,30,000倍、50,000倍)に、比較例2の断面写真を図3(同じ倍率)にそれぞれ示した。図2のカーボンブラック系樹脂系皮膜と図3の窒化ケイ素系樹脂粉末皮膜は明らかに異なった形態の皮膜であることが確認できる。また図2のカーボンブラック系樹脂皮膜では、粒子間において2000nm以下の空隙を有していることが確認できる。
摩耗試験結果
摩耗試験結果を表1に示す。実施例1が最も高い耐摩耗性を示した。
エンジン実験結果
エンジン実験結果を同じく表1に示す。凝着、溝摩耗未発生を○で、発生したが軽微であるものを△で、発生したものを×で表す。実施例1では凝着、溝摩耗とも発生しなかった。比較例1では溝摩耗が発生し、軽微ではあるが凝着も発生した。比較例2でも凝着、溝摩耗が発生したが、その程度は比較例1よりも悪かった。

実施例2〜7
実施例1の[3]と同様にして、カーボンブラックの添加量を3〜85%で調整し、表2に記載される任意の配合皮膜を得た。それぞれ摩耗試験とエンジン実験を実施し、結果を合わせて表2中に示した。
カーボンブラック配合比に対する摩耗試験結果及びエンジン実験結果
カーボンブラックが2%,85%(実施例2,7)においては、やや軽微な凝着や溝摩耗が確認され、摩耗試験結果においても比較的摩耗量が多い。このことから、カーボンブラックの配合比は3〜80%(実施例3〜6)が好ましいといえる。さらに実施例1の結果もふまえると、5〜50%(実施例4,5,1)で摩耗試験による摩耗量が特に少なく、エンジン実験による凝着や溝摩耗においても良好な結果が得られていることからより好ましい範囲といえる。
実施例8
実施例1の[3]と同様にして、黒鉛化処理されていないファーネスブラック粉末(東海カーボン株式会社:トーカブラック#4500)により調整し、配合皮膜を得た。実施例1の皮膜と合わせ、それぞれ摩耗試験とエンジン実験を実施し、結果を合わせて表3中に示した。摩耗試験では温度を200℃と260℃の設定で行い、エンジン実験については一番気筒及び三番気筒に実施例1の再評価を、二番気筒及び四番気筒に実施例8をそれぞれ装着して、同様に評価を行った。

ファーネスブラックと黒鉛化カーボンブラックの摩耗試験結果及びエンジン実験結果での比較
エンジン実験においては、両皮膜とも凝着や溝摩耗に対して良好な結果が得られており、一次粒子に黒鉛化構造をもたいないカーボンブラックでも優れた耐アルミ凝着性が得られることが確認できる。一方、摩耗試験において、黒鉛化カーボンブラック(実施例1)は、200℃、260℃ともに摩耗量が少なく、それらの摩耗量は温度による差がないのに対し、ファーネスブラック(実施例8)では、比較的摩耗量が多くなり、また温度が高くなった場合にその摩耗量は増大している。このことから、黒鉛化カーボンブラックを用いることで耐摩耗性、耐熱性をより向上させることができるといえる。
実施例9
シリカ-ポリアミドイミドハイブリッド樹脂の替りにシリカ-ポリイミドハイブリッド樹脂(荒川化学工業株式会社:H801D)を、希釈溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンの替りにN,N-ジメチルアセトアミドを使用したこと以外は、実施例1と同様にして摩耗試験片及びピストンリングを作製し、評価した。皮膜の成形方法は実施例[4]と同様であるが、硬化温度は樹脂にあわせ350〜400℃で処理した。摩耗試験では260℃の温度で実施し、またエンジン実験では、七回目の実験として一番気筒と三番気筒に実施例9のピストンリングを、二番気筒と四番気筒に比較例1のピストンリングを装着し、同時にテストした。
実施例10
シリカ-ポリアミドイミドハイブリッド樹脂の替りにポリベンゾイミダゾール樹脂(AZエレクトロニックスマテリアルズ株式会社:セラゾールMRS0810H)を、希釈溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンの替りにN,N-ジメチルアセトアミドを使用したこと以外は、実施例1と同様にして摩耗試験片及びピストンリングを作製し、評価した。皮膜の成形方法は実施例[4]と同様であるが、硬化温度は樹脂にあわせ350〜400℃で理した。摩耗試験では260℃の温度で実施し、またエンジン実験では、八回目の実験として二番気筒と四番気筒に実施例10のピストンリングを、一番気筒と三番気筒に比較例1のピストンリングを装着し、同時にテストした。
ポリイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂での摩耗試験結果及びエンジン実験結果比較
表4でのエンジン実験結果において、実施例9、10の凝着、溝摩耗の発生はなかった。一方、比較例1のピストンリングを装着した場合では凝着や溝摩耗は発生していた。すなわち、ポリイミド樹脂やポリベンゾイミダゾール樹脂でも同様に優れた耐アルミ凝着性が得られることが確認できる。また実施例10のポリベンゾイミダゾール樹脂による摩耗試験結果ではポリアミドイミド樹脂やポリイミド樹脂よりも摩耗量が少なく、より耐摩耗性を向上させることができる。
本発明により、皮膜の耐摩耗性を大幅に向上でき、ピストンリングの耐アルミニウム凝着性を大きく向上させることができるようになった。さらに、凝着摩耗は、摩擦係数、潤滑条件、組み合わせる材料などにより影響することが知られているが、本願発明のようにカーボンブラックの構造・特性を利用する知見はなく、さらに、燃焼炎中のカーボンブラックはエンジン部品の摩耗をもたらすなどの研究が発表されていた経緯もあるので、カーボンブラックの新用途提供、凝着摩耗理論の発展などの面からも、本発明の産業上の意義は大きいと考えられる。
摩耗試験機の図である。 本発明実施例1の皮膜の粒子構造を示す電子顕微鏡写真(倍率10000,30000,50000倍である。) 比較例2の皮膜の粒子構造を示す電子顕微鏡写真(倍率10000,30000,50000倍である。)

Claims (1)

  1. 少なくとも、ピストンのピストンリング溝と衝突・摺動する側面に樹脂系皮膜を設けた内燃機関用ピストンリングにおいて、前記樹脂系皮膜がカーボンブラック粒子を含有することを特徴とするピストンリング。
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