JP2015127560A - 内燃機関用ピストンリング - Google Patents

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Abstract

【課題】高温条件下においても長期に亘ってアルミニウム凝着を防止できる内燃機関用ピストンリングを提供する。
【解決手段】ピストンリング用母材11の上下側面の少なくとも一方に耐アルミニウム凝着皮膜12が被覆された、内燃機関用のピストンリング1であって、耐アルミニウム凝着皮膜12は繊維を含む耐熱性樹脂からなり、繊維がチタン酸カリウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一種類から構成されることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は内燃機関用ピストンリングに関し、特に、高温条件下においても長期に亘ってアルミニウム凝着を防止できる内燃機関用ピストンリングに関するものである。
内燃機関において使用されるトップリング、セカンドリング、オイルリングの3つのピストンリングは、ピストンの表面に設けられたピストンリング溝にそれぞれ係合するように配置され、燃焼室から燃焼ガスが外部に漏洩するのを防止するガスシール機能、ピストンの熱を冷却されたシリンダ壁に伝達してピストンを冷却する熱伝導機能、および潤滑油としてのエンジンオイルをシリンダ壁に適量与えて余分なオイルを掻き出す機能を有している。
これら3つのピストンリングは、内燃機関の動作時、燃焼室における燃料の爆発によりピストンが往復運動する際に、ピストンのピストンリング溝内において、溝内面との間で衝突を繰り返している。また、ピストンリングは、ピストンリング溝内において、その周方向に摺動自在であるため、ピストンリング溝内を摺動する。ところで、ピストンリング溝の表面には、溝形成のための旋盤加工により、1μm程度の高さを有する突起が形成されており、上記したピストンリングとの衝突と摺動により突起が摩耗して、ピストンリング溝の表面にアルミニウム面が露出するようになる。
この露出したアルミニウム面は、衝突によりピストンリング側面と接触し、さらに摺動を繰り返すと、アルミニウム合金がピストンリング側面に凝着する現象である、アルミニウム凝着が発生する。これは特に、燃焼室に最も近くに位置し、高温条件下に置かれるトップリングにおいて顕著である。
このアルミニウム凝着がさらに進行すると、ピストン溝の摩耗が急速に進行し、ピストンリングがリング溝に固着し、ピストンリングのガスシール機能が低下して、高圧の燃焼ガスが燃焼室からクランク室へ流出する、いわゆるブローバイと呼ばれる現象が生じ、エンジン出力の低下を招く問題がある。
こうした状況を受けて、これまで、ピストンリングのアルミニウム凝着を防止する様々な技術が提案されてきた。まず、ピストン側の対策として、特許文献1には、ピストンリング溝部に陽極酸化処理(アルマイト処理)を施し、さらにその微細孔中に潤滑性物質を充填する方法が提案されている。この方法においては、ピストンリング溝には陽極酸化処理により硬質な酸化皮膜が生成されるため、アルミニウムの脱落が防止されてアルミニウム凝着が発生しなくなる。しかしながら、ピストンへの陽極酸化処理はコストが高く、また硬質であるため、初期なじみ性が悪いという欠点がある。
そこで、ピストンリング側に対策する様々な技術が提案されている。例えば、特許文献2には、耐熱性樹脂であるポリアミド等に固体潤滑剤である二硫化モリブデン等を分散させた皮膜をリング側面に形成し、ピストンリング溝に対する攻撃を緩和させる方法が提案されている。しかし、固体潤滑剤は、自らが劈開して摩耗することにより皮膜の摩擦係数を低減してピストンリング溝への攻撃を緩和させるため、比較的短時間で皮膜が摩滅してアルミニウム凝着が発生する問題がある。
また、特許文献3には、耐摩耗性や密着性を向上させつつ、より摩擦係数を低減させるために、ポリアミドイミドにアルミナ等の硬質粒子を分散させ、さらにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の固体潤滑剤を含む皮膜が提案されている。しかし、ポリアミドイミドは耐熱性樹脂であるものの、ピストンリング溝で発生するアルミニウム凝着の防止皮膜としては耐熱性が不十分である。
近年、耐環境性という観点から高燃焼圧化やピストントップランドの短縮が進められており、これらのエンジンは従来のエンジンよりトップ(ピストン)溝周辺がより高温となる。しかし、ピストン材であるアルミニウム合金は、200℃以上の高温では軟化しやすく、近年のエンジンではアルミニウム凝着がより発生し易い環境であると言える。
こうした高温条件への対策として、特許文献4には、バインダーを高耐熱性樹脂に変更することにより、耐アルミニウム凝着性を向上させた皮膜が提案されている。
特開昭63−170546号公報 特開昭62−233458号公報 特開2004−149622号公報 特開平7−63266号公報
しかし、特許文献4に記載された技術においては、分散粒子が固体潤滑剤であるため皮膜は比較的早期に摩滅する。したがって、長期に亘って耐アルミニウム凝着効果を維持することは困難である。
そこで、本発明の目的は、高温条件下においても長期に亘ってアルミニウム凝着を防止できる内燃機関用ピストンリングを提供することにある。
発明者らは、上記課題を解決する方途について鋭意検討した結果、耐アルミニウム凝着皮膜を繊維を含む耐熱性樹脂で構成し、この繊維として、ピストン材の硬さ以上の硬度を有する繊維を用いることが有効であることを見出した。しかし、発明者らが更に検討した結果、単にピストンの硬さ以上の硬度を有する材料からなる繊維を使用すればよい訳ではないことが判明し、さらに鋭意検討した結果、チタン酸カリウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素が繊維を構成する材料として極めて優れた特性を有しており、高出力のエンジンにおいても(すなわち、高温条件下においても)長期に亘って優れた耐アルミニウム凝着効果を持続できることを見出し、本発明を完成させるに到った。
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)ピストンリング用母材の上下側面の少なくとも一方に耐アルミニウム凝着皮膜が被覆された、内燃機関用のピストンリングであって、前記耐アルミニウム凝着皮膜は繊維を含む耐熱性樹脂からなり、前記繊維がチタン酸カリウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一種類から構成されることを特徴とする内燃機関用ピストンリング。
(2)前記耐熱性樹脂は、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミドイミド−シリカハイブリッド、ポリイミド−シリカハイブリッドより選ばれる少なくとも一種類から構成される、前記(1)に記載の内燃機関用ピストンリング。
(3)前記繊維の径が0.05μm以上5μm以下であり、平均長さが0.1μm以上100μm以下である、前記(1)または(2)に記載の内燃機関用ピストンリング。
(4)前記繊維の含有量が2質量%以上30質量%以下である、前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の内燃機関用ピストンリング。
(5)前記耐アルミニウム凝着皮膜の厚さが0.5μm以上30μm以下である、前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の内燃機関用ピストンリング。
本発明によれば、耐アルミニウム凝着皮膜を、繊維を含む耐熱性樹脂で構成し、この繊維として、チタン酸カリウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一種類で構成したため、高温条件下においても長期に亘ってアルミニウム凝着を防止することができる。
ピストンリング溝に係合した状態の本発明に係る内燃機関用ピストンリングの模式断面図である。 実施例に使用した単体凝着試験機の模式図である。
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、ピストンリング溝に係合した状態の本発明に係る内燃機関用ピストンリングの模式断面図である。この図に示した内燃機関用ピストンリング1は、ピストンリング用母材11に耐アルミニウム凝着皮膜12が被覆された内燃機関用のピストンリングである。ここで、耐アルミニウム凝着皮膜12は、繊維を含む耐熱性樹脂からなり、繊維がチタン酸カリウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一種類で構成することが肝要である。
図1に示すように、ピストンリング1は、ピストンリング溝21内に係合した状態で、シリンダ24の側壁とピストン20との間の隙間を塞ぎ、燃焼ガスおよびオイルをシールする。そして、ピストンリング1は、ピストン20の往復運動(図中の矢印方向の運動)に追従して、ピストンリング溝21内で上下運動し、ピストンリング1とピストンリング溝21の上面22および下面23との間で衝突を繰り返す。また、ピストンリング1がピストンリング溝21内において周方向に摺動自在であるため、ピストンリング1がピストンリング溝21の上面22および下面23と接触しながら摺動を繰り返す。
これらピストンリング1とピストンリング溝21の上面22および下面23との間の衝突および摺動の繰り返しにより、ピストンリング溝21の上面22および下面23上に形成されている突起(図示せず)が削られて、突起跡を中心としたアルミニウム面が生じる。本発明に係るピストンリング1においては、耐アルミニウム凝着皮膜12を、繊維を含む耐熱性樹脂で構成し、この繊維をチタン酸カリウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一種類で構成してアルミニウム凝着皮膜12を強化した。これにより、高温条件下においても長期に亘って優れた耐アルミニウム凝着効果を維持することができるのである。以下、内燃機関用ピストンリング1の各構成について説明する。
ピストンリング用母材11の材料は、ピストンリング溝21との衝突に耐える強度を有していれば、特に限定されない。鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、高級鋳鉄等とすることが好ましい。また、耐摩耗性を向上させるため、側面に、ステンレス鋼では窒化処理、鋳鉄では硬質クロムめっきや無電解ニッケルめっき処理が施された母材であってもよい。
また、本発明において、耐アルミニウム凝着皮膜12のピストンリング用母材11への密着性を向上させるため、ピストンリング用母材11の表面には、リン酸塩皮膜を予め形成してもよい。このリン酸塩皮膜としては、リン酸亜鉛系、リン酸マンガン系、リン酸カルシウム系の皮膜が挙げられる。また、リン酸塩皮膜以外の化成処理皮膜や酸化膜を形成することもできる。ピストンリング用母材11表面に硬質クロムめっき皮膜や無電解ニッケルめっき皮膜等が形成されている場合には、化成処理皮膜が形成できないため、皮膜12の密着性を確保するために、無機質の汚れや有機質の汚れを予め除去しておくことが望ましい。また、表面粗さの調整を兼ねて、ピストンリング用母材11の表面に対してブラスト処理を行ってもよい。
耐アルミニウム凝着皮膜12は、繊維を含む耐熱性樹脂からなる。すなわち、耐アルミニウム凝着皮膜12は、熱による強度低下が極めて小さい耐熱性樹脂に、ピストン材の硬さ以上の硬度を有する繊維のうち、チタン酸カリウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素からなる繊維の少なくとも一種類を分散させたものである。これにより、皮膜12の耐摩耗性を向上させることができる。また、繊維を二次元に配向、すなわち、繊維を皮膜12の厚み方向ではなく面内方向に延在させることにより、皮膜12のピストンリング溝21表面に対する攻撃を低減して、皮膜12およびピストンリング溝21の双方が摩耗しにくい状態とすることができる。こうして、本発明に係るピストンリング1では、高温条件下においても長期に亘って皮膜12が維持され、優れた耐アルミニウム凝着効果を維持できるのである。
本発明に用いる耐熱性樹脂としては、熱による強度低下が小さいものが好ましく、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリアミドイミド−シリカハイブリッド、ポリイミド−シリカハイブリッド等が挙げられる。前記の性質を向上させるために、耐熱性樹脂は、上記の1種または2種以上を配合することができる。
耐熱性樹脂に添加する繊維としては、チタン酸カリウム、二酸化チタン、酸化アルミニウムまたは炭化ケイ素からなる繊維を使用する。中でも、アルミニウムとの反応性に乏しく、化学結合や吸着を起こしにくいことから、チタン酸カリウム、二酸化チタンからなる繊維を用いることが好ましい。繊維は、上記の1種または2種以上を添加することができる。
上記した繊維の径は、0.05μm以上5μm以下とすることが好ましい。ここで、繊維径を0.05μm以上とすることにより、皮膜12を強化するために繊維の十分な強度を確保することができる。一方、繊維径を5μm以下とすることにより、皮膜12の厚さと繊維径との関係が適切な範囲に維持して、皮膜12を良好に強化することができる。
また、繊維の平均長さは、0.1μm以上100μm以下とすることが好ましい。ここで、0.1μm以上とすることにより、耐熱性樹脂内に繊維が十分な長さで分散させて、耐熱性樹脂ひいては皮膜12の強度を向上させることができる。一方、繊維の平均長さを100μm以下とすることにより、繊維を樹脂外に飛び出させることなく樹脂内に留めて、ピストンリング溝21を攻撃することなく、皮膜12を強化させることができる。
繊維の添加量は、2質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。ここで、添加量を2質量%以上とすることにより、皮膜12の耐摩耗性について十分な向上効果を得ることができる。一方、添加量を30質量%以下とすることにより、耐熱性樹脂のバインダーとしての機能を損なうことなく、皮膜12の強度を向上させることができる。
さらに、耐アルミニウム凝着皮膜12の厚さは、0.5μm以上30μm以下とすることが好ましい。ここで、0.5μm以上とすることにより、添加された繊維を樹脂すなわち皮膜12内に維持して、皮膜12の耐摩耗性の向上を図ることができる。一方、皮膜12の厚さを30μm以下とすることにより、コストの上昇やピストンリング1をピストンリング溝21に装着するときに不具合を発生させることなく、皮膜12の耐摩耗性を向上させることができる。より好ましくは、10μm以上20μm以下である。
このような耐アルミニウム凝着皮膜12は、ピストンリング用母材11の上下側面の少なくとも一方の面に被覆することにより、本発明の効果は得られるが、より優れた耐アルミニウム凝着効果を得るためには、ピストンリング用母材11の上下両側面に被覆するのが好ましい。
従来の耐アルミニウム凝着皮膜では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤が、必須成分、又は添加するのが望ましい成分とされてきた。しかしながら、本発明においては、固体潤滑剤は添加しないのが好ましく、添加するとしても皮膜12全体の体積に対して1%、好ましくは0.8%を限度とする。これは、固体潤滑剤を添加した場合、固体潤滑剤自体が劈開し摩耗することにより皮膜12の摩擦係数を低下させ、ピストンリング溝21への攻撃を緩和するため、皮膜12の摩耗が進行し、剥離した固体潤滑剤がピストン材の表面を荒らす場合があるためである。このような場合、高温下において長期に亘って皮膜12を維持し、優れた耐アルミニウム凝着効果を維持することが困難となる。こうしたことから、固体潤滑剤の使用は極力避けることが好ましい。
こうした耐アルミニウム凝着皮膜12は、既知の様々な方法により形成することができ、特に限定されない。具体的には、スプレーコーティング法、スピンコーティング法、ロールコーティング法、ディップコーティング法、印刷法等公知の方法が用いることができる。このうち、塗布効率に優れ、塗り斑の発生を制御できる点では、印刷法が好ましい。また、簡便である点では、スプレーコーティングが好ましい。
ここで、コーティング液、またはインクの調整方法は特に限定されないが、市販のワニスに繊維を分散させた後、必要に応じて溶剤を添加して最適な粘度に調整して用いるのが好ましい。コーティング液、またはインキの粘度、調整に用いる溶剤や添加剤は、コーティング方法、または印刷方法により適宜選択される。
また、繊維の分散方法は特に限定されず、サンドミル法、ビーズミル法、ボールミル法、ロールミル法等公知の方法を用いることができる。この時、必要に応じて分散剤等を適宜添加してもよい。繊維を耐熱性樹脂に均一に分散することにより、耐アルミニウム凝着効果をさらに向上させることができる。コーティング液塗布後、または印刷後、乾燥して硬化処理を行う。この効果処理は、通常、250〜400℃で1時間保持して行う。ここで、硬化温度が400℃を超えると、樹脂の酸化分解が生じるため好ましくない。
こうして、本発明に係るピストンリングは、高温条件下においても長期に亘ってアルミニウム凝着を防止できる。
<ピストンリングの作製>
以下、本発明の実施例について説明する。
(発明例1)
低クロム鋼で作製したピストンリング用母材の外周面に、イオンプレーティング法により厚さ約30μmの窒化クロム(CrN)からなる皮膜を形成した。次いで、皮膜形成後の母材をアルカリ脱脂した後、約80℃に加熱したリン酸マンガン水溶液に5分間浸漬し、母材の外周面以外の面に厚さ約2μmのリン酸マンガン皮膜を形成した。その後、ポリイミド(PI)ワニス(新日本理化株式会社製、リカコートSN−20)に繊維径が0.05μm、繊維の平均長さが50μmのチタン酸カリウム繊維を添加し、攪拌機を用いて十分に撹拌した後、ロール間隔を最小にした三本ロールミルに通し、コーティング液を調整した。ここで、チタン酸カリウム繊維の添加量は、皮膜全体の質量に対して15%となるように調整した。リン酸マンガン皮膜を形成したピストンリング用母材の上下側面にコーティング液をスプレーコーティングした後、100℃で10分間乾燥し、さらに、280℃の電気炉中で1時間加熱した。得られた皮膜の厚さは約20μmであった。こうして、本発明に係るピストンリングを作製した。
(発明例2〜4)
繊維径がそれぞれ0.03μm(発明例2)、5μm(発明例3)および7μm(発明例4)のチタン酸カリウム繊維を用いた以外は、発明例1と同様に、ピストンリング用母材の上下側面に皮膜を形成してピストンリングを作製した。得られた皮膜の厚さは、それぞれ約20μmであった。
(発明例5〜8)
繊維の平均長さがそれぞれ0.09μm(発明例5)、0.1μm(発明例6)、100μm(発明例7)および105μm(発明例8)のチタン酸カリウム繊維を用いた以外は、発明例1と同様に、ピストンリング用母材の上下側面に皮膜を形成してピストンリングを作製した。得られた皮膜の厚さは、それぞれ約20μmであった。
(発明例9〜12)
皮膜全体の質量を100として、チタン酸カリウム繊維の添加量をそれぞれ1質量%(発明例9)、2質量%(発明例10)、30質量%(発明例11)、および35質量%(発明例12とした以外は、発明例1と同様に、ピストンリング用母材の上下側面に皮膜を形成してピストンリングを作製した。得られた皮膜の厚さはそれぞれ約20μmであった。
(発明例13および14)
皮膜の厚さが、それぞれ0.5μm(発明例13)、および10μm(発明例14)となるようコーティング液の塗布量を調整した以外は、発明例1と同様に、ピストンリング用母材の上下側面に皮膜を形成してピストンリングを作製した。
(発明例15〜28)
樹脂としてポリアミドイミド(PAI)を用いた以外は、発明例1〜14と同様に、ピストンリングを作製した。
(発明例29)
樹脂としてポリベンゾイミダゾール(PBI)を用いた以外は、発明例1と同様に、ピストンリングを作製した。
(発明例30)
樹脂としてポリイミド−シリカハイブリッドを用いた以外は、発明例1と同様に、ピストンリングを作製した。
(発明例31)
二酸化チタンからなる繊維を用いた以外は、発明例1と同様に、ピストンリングを作製した。
(発明例32)
二酸化チタンからなる繊維を用いた以外は、発明例29と同様に、ピストンリングを作製した。
(発明例33)
二酸化チタンからなる繊維を用いた以外は、発明例11と同様に、ピストンリングを作製した。
(発明例34)
二酸化チタンからなる繊維を用いた以外は、発明例14と同様に、ピストンリングを作製した。
(発明例35)
酸化アルミニウムからなる繊維を用いた以外は、発明例29と同様に、ピストンリングを作製した。
(発明例36)
炭化珪素からなる繊維を用いた以外は、発明例29と同様に、ピストンリングを作製した。
(比較例1)
チタン酸カリウム繊維に代えて、二硫化モリブデン粉末(平均粒径2μm)およびグラファイト粉末(平均粒径2μm)を添加した以外は、発明例1と同様に、ピストンリング用母材の上下側面に皮膜を形成してピストンリングを作製した。ここで、二硫化モリブデン粉末およびグラファイト粉末の添加量は、皮膜全体の体積を100として、それぞれ5%とした。得られた皮膜の厚さは約20μmであった。
(比較例2)
二酸化ケイ素からなる繊維を使用し、さらに二硫化モリブデン粉末(平均粒径2μm)およびグラファイト粉末(平均粒径2μm)を添加した以外は、発明例1と同様にピストンリングを作製した。ここで、チタン酸カリウム繊維の添加量は、皮膜全体の体積を100として15%とし、二硫化モリブデン粉末およびグラファイト粉末の添加量は、それぞれ3%とした。得られた皮膜の厚さは約20μmであった。
(比較例3)
二酸化ケイ素からなる繊維を用い、添加量を20質量%とした以外は、発明例1と同様に、ピストンリングを作製した。
(比較例4)
二酸化ケイ素からなる繊維を用い、添加量を20質量%とした以外は、発明例29と同様に、ピストンリングを作製した。
(比較例5)
炭素繊維を用い、添加量を20質量%とした以外は、発明例15と同様に、ピストンリングを作製した。
Figure 2015127560
<単体凝着試験>
図2に示した単体凝着試験機30を用いて、発明例1〜36および比較例1〜5の、皮膜残存量とアルミニウム凝着の有無、ピストン材の摩耗量と表面粗さを評価した。この図に示した単体凝着試験機30は、ピストン32が上下に往復運動を行い、ピストンリング33が回転運動を行う機構を有しており、試験は、ヒーター31、温度コントローラー34および熱電対35により、ピストン32を加熱制御して行った。具体的には、ピストンリング33を3.0mm/sで回転させながら、アルミニウム合金製のピストン32を上下に往復運動させ、所定間隔で面圧5MPaの荷重をかける単体凝着試験を3時間行った。ここで、ヒーター31と熱電対35を用いて、ピストン32の温度が250℃±1℃になるように制御し、ピストンリング33には所定間隔で一定量の潤滑油を窒素ガスとともに噴霧した。なお、ピストン32の材料としては、AC8A−T6を用いた。
<性能評価>
単体凝着試験後のピストンリング33の皮膜残存量とアルミニウム凝着の有無、ピストン材の摩耗量と表面粗さを評価した結果を表1に示す。各評価項目は、以下の判定基準で表した。ピストン材の表面粗さは、JISB0633に基づき、コア部のレベル差Rkで算出した。なお、単体凝着試験前のピストン材の表面粗さRkは約1.0mμmであった。
(1)皮膜残存量(ピストンリング)
◎:3μm以上
○:1μm以上3μm未満
△:1μm未満(リン酸マンガン皮膜あり)
×:1μm未満(リン酸マンガン皮膜なし)
(2)耐アルミニウム凝着性能
○:アルミニウム凝着の発生なし
△:アルミニウム凝着が発生しているが極めて軽微
×:アルミニウム凝着が発生している
(3)ピストン材の摩耗量
ピストン材摩耗量は、試験後のピストン材表面を形状測定して基準面からの深さを算出して求めた。
◎:0.5μm未満
○:0.5μm以上1.0μm未満
△:1.0μm以上1.5μm未満
×:1.5μm以上
(4)ピストン材の表面粗さ
◎:0.3μm未満
○:0.3μm以上0.5μm未満
△:0.5μm以上0.7μm未満
×:0.7μm以上
(5)総合評価
ピストンリングの以上の評価結果から、ピストンリングの性能を総合的に評価した。
◎:優良
○:良好
△:比較的良好
×:悪い
ここで、総合評価は、皮膜残存量と磨耗量とが両方◎の場合は◎、皮膜残存量と磨耗量のいずれか一方が○で他方が○以上の場合には○、皮膜残存量と磨耗量の何れか△で、他方が△以上の場合には△、皮膜残存量と磨耗量の少なくとも一方が×の場合には×として評価した。
表1に示すように、発明例1〜36のピストンリングの全てについて、アルミニウム凝着が発生しなかった。例えば、ポリイミドにチタン酸カリウム繊維のみを分散した皮膜を被覆した発明例1では、アルミニウム凝着の発生は認められず、皮膜の摩耗およびピストン材の摩耗が少なく、ピストン材の表面は平滑化されていた。ポリイミドにチタン酸カリウム繊維のみを分散した皮膜(発明例1〜14)は、自らが劈開し摩耗する固体潤滑剤を含まないため、繊維強化による皮膜の耐摩耗性が著しく向上し、さらにピストン材の表面が平滑化されたことにより、優れた耐アルミニウム凝着効果が発揮されたものと考えられる。なお、発明例1について、さらに10時間の単体凝着試験を行ったが、アルミニウム凝着の発生は認められなかった。摺動初期にピストン材が平滑化されたことにより高温下でのさらなる衝突および摺動においても、優れた耐アルミニウム凝着効果が持続されたものと考えられる。
これに対して、ポリイミドに二硫化モリブデン粉末とグラファイト粉末を分散した皮膜を被覆した比較例1では、単体凝着試験後にはポリイミド皮膜は全く残存せず、下地のリン酸マンガン皮膜まで摩耗が進行しており、顕著なアルミニウム凝着が認められた。また、ピストン材の表面は平滑化されておらず、摩耗が進行していることが確認された。
また、ポリイミドにチタン酸カリウム繊維、二硫化モリブデン粉末とグラファイト粉末を分散した皮膜を被覆した比較例2では、比較例1よりアルミニウム凝着の発生は抑制されているものの、ポリイミド皮膜の残存量は僅かで、ピストン材は殆ど平滑化されておらず、摩耗の進行が認められた。
[繊維径依存性]
チタン酸カリウム繊維の繊維径を変えた発明例1〜4では、いずれもアルミニウム凝着の発生は認められず、皮膜の摩耗は少なかった。特に、繊維径が0.05μm以上5μm以下の範囲にある発明例1および3では、皮膜残存量が3μm以上あり、皮膜がより優れた耐摩耗性を有していた。また、ピストン材の摩耗量も0.5μm未満と非常に少なく、表面粗さも良好であった。
[繊維の平均長さ依存性]
また、チタン酸カリウム繊維の平均長さを変えた発明例1および5〜8では、いずれもアルミニウム凝着の発生はなく、皮膜の摩耗は少なかった。特に、繊維の平均長さが0.1μm以上100μm以下の範囲にある発明例1、6および7では、皮膜の摩耗量、ピストン材の摩耗量ともに非常に少なく、ピストン材の表面粗さが0.3μm未満と良好であった。
[繊維の添加量依存性]
さらに、チタン酸カリウム繊維の添加量を変えた発明例1および9〜12では、いずれもアルミニウム凝着の発生は認められず、皮膜の摩耗は少なかった。特に、チタン酸カリウム繊維の添加量が2質量%以上30質量%以下の範囲にある発明例1、10および11では、より優れた皮膜の耐摩耗性を示し、ピストン材の摩耗量が0.5μm未満と非常に少なく、また表面粗さも良好であった。
[皮膜厚さ]
皮膜の厚さを変えた発明例1、13および14では、いずれもアルミニウム凝着の発生は認められなかった。特に、皮膜の厚さが10μm以上20μm以下の範囲にある発明例1および14では、より優れた皮膜の耐摩耗性を示し、ピストン材の摩耗量が0.5μm未満と非常に少なかった。
さらに、繊維と樹脂材料とを変更した発明例15から36では、いずれもアルミニウム凝着の発生は認められず、皮膜の摩耗量は少なく、さらにピストン材の摩耗量と表面粗さともに良好であった。これに対して、繊維材料として二酸化ケイ素と炭素繊維を用いた比較例3〜5の場合には、皮膜の磨耗量が多かった。これらの繊維は単体ではチタン酸カリウムとほぼ同程度の耐火性および耐久性を有するが、樹脂皮膜内に含有される場合には、耐熱温度やじん性等のわずかな差が、耐摩耗性のより顕著な差となって現れたものと考えられる。
本発明によれば、本発明によれば、耐アルミニウム凝着皮膜を、繊維を含む耐熱性樹脂で構成し、この繊維として、チタン酸カリウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一種類で構成したことにより、高温条件下においても長期に亘ってアルミニウム凝着を防止することができるため、自動車部品製造業に有用である。
1,33 ピストンリング
11 ピストンリング用母材
11a ピストンリング用母材の上側側面
11b ピストンリング用母材の下側側面
12 耐アルミニウム凝着皮膜
20,32 ピストン
21 ピストンリング溝
22 ピストンリング溝の上面
23 ピストンリング溝の下面
24 シリンダ
30 単体凝着試験機
31 ヒーター
34 温度コントローラー
35 熱電対

Claims (5)

  1. ピストンリング用母材の上下側面の少なくとも一方に耐アルミニウム凝着皮膜が被覆された、内燃機関用のピストンリングであって、
    前記耐アルミニウム凝着皮膜は繊維を含む耐熱性樹脂からなり、
    前記繊維がチタン酸カリウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、炭化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一種類から構成されることを特徴とする内燃機関用ピストンリング。
  2. 前記耐熱性樹脂は、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミドイミド−シリカハイブリッド、ポリイミド−シリカハイブリッドより選ばれる少なくとも一種類から構成される、請求項1に記載の内燃機関用ピストンリング。
  3. 前記繊維の径が0.05μm以上5μm以下であり、平均長さが0.1μm以上100μm以下である、請求項1または2に記載の内燃機関用ピストンリング。
  4. 前記繊維の含有量が2質量%以上30質量%以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関用ピストンリング。
  5. 前記耐アルミニウム凝着皮膜の厚さが0.5μm以上30μm以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関用ピストンリング。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2023074868A1 (ja) * 2021-10-29 2023-05-04 パーカー加工株式会社 摺動部材

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