JP5524432B1 - ピストンリング - Google Patents
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Abstract
【課題】ピストンリング周辺が高温となるエンジンで用いられた場合でも、長期にわたりアルミニウム凝着防止効果を持続するピストンリングを提供する。
【解決手段】本発明は、ピストンリング母材の上下側面の少なくとも一方の上に樹脂系皮膜を形成したピストンリングであって、前記樹脂系皮膜の直下がプラトー構造であり、前記樹脂系皮膜が硬質粒子を含有し、該硬質粒子の平均粒径が、前記プラトー構造の谷部分の開口部の平均幅の0.5〜2倍であることを特徴とする。
【選択図】図2
【解決手段】本発明は、ピストンリング母材の上下側面の少なくとも一方の上に樹脂系皮膜を形成したピストンリングであって、前記樹脂系皮膜の直下がプラトー構造であり、前記樹脂系皮膜が硬質粒子を含有し、該硬質粒子の平均粒径が、前記プラトー構造の谷部分の開口部の平均幅の0.5〜2倍であることを特徴とする。
【選択図】図2
Description
本発明は、ピストンリングに関し、詳しくは内燃機関用のピストンリングに関する。
内燃機関で用いられるピストンリングのうち、燃焼室の最も近いところに設置されるトップリングは、燃焼圧力により、アルミニウム合金等からなるピストンのピストンリング溝(リング溝)に激しく叩きつけられ、同時にリング溝の表面を摺動する。内燃機関内は、燃料の燃焼により高温となるが、ガソリンエンジンのトップリング付近においては、200℃以上となり、熱衝撃等によりピストンの強度低下を引き起こすことが知られている。
ピストンのリング溝の表面には、図1に示すように約1μmの突起が、0.2mm間隔で形成されている。これはバイトによる旋盤加工によるものである。この突起はピストンリングの叩きと摺動により欠落または摩耗し、リング溝表面に新生なアルミニウム面が露出する。新生なアルミニウム面は、金属からなるピストンリングの表面に凝着し易い。この現象を、以下「アルミニウム凝着」という。アルミニウム凝着が生じると、リング溝の摩耗が進行する。リング溝の摩耗が大きくなるとピストンリングによるシール性能が低下し、燃焼ガスが燃焼室からクランク室へ流入するブローバイが増加する。ブローバイガスが増加するとエンジンの出力低下等のトラブルを引き起こすおそれがある。
アルミニウム凝着の防止には、リング溝とピストンリングとを直接接触させない方法や、ピストンリングのリング溝に対する攻撃性を緩衝させる方法が提案されている。
ピストン側の対策としては、特許文献1に開示されているように、リング溝に陽極酸化処理(アルマイト処理)を施し、さらにそのリング溝の陽極酸化処理により生じた微細孔中に潤滑性物質を充填する方法が提案されている。リング溝には表面の陽極酸化処理により硬質な酸化皮膜が生成されるため、アルミニウムの脱落が防止されアルミニウム凝着が発生しにくくなる。しかし、ピストンへの陽極酸化処理はコストが高く、また酸化皮膜が硬質であるために初期なじみ性が悪いという問題がある。
ピストンリング側の対策としては、特許文献2に開示されているように、耐熱性樹脂であるポリアミド等に固体潤滑剤である二硫化モリブデン等を分散させた皮膜をピストンリング上下側面に形成し、リング溝に対する攻撃性を緩和させる方法が提案されている。
特許文献3には、ポリアミドイミドを主成分として、ポリアミドイミドの塗膜改質剤と、アルミナ等の硬質粒子を含む乾性被膜潤滑剤とからなる被覆層を、所定の表面粗さの条痕を有する摺動部材の摺動面に形成することにより、摺動部材の耐摩耗性や密着性を向上させつつ、摩擦係数を低減できる方法が提案されている。
特許文献4には、耐熱性樹脂に金属粉末を含有した最表面層と、耐熱性樹脂からなる基底層をピストンリング上下側面に積層し、耐摩耗性と密着性を向上する方法が提案されている。
近年、環境問題への対策という観点から、エンジンの高出力化が進み、トップリング付近の到達温度はさらに上昇している。このような状況下では、ピストンリングに被覆した樹脂系皮膜を長期にわたって維持し、アルミニウム凝着防止効果を持続することが困難となっている。
本発明は、ピストンリング周辺が高温となるエンジンで用いられた場合でも、長期にわたりアルミニウム凝着防止効果を持続するピストンリングを提供することを目的とする。
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、以下に示すピストンリングによれば、高出力エンジンにおいても長期にわたって優れたアルミニウム凝着防止効果を持続できることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明のピストンリングは、ピストンリング母材の上下側面の少なくとも一方の上に樹脂系皮膜を形成したピストンリングであって、前記樹脂系皮膜の直下がプラトー構造であり、前記樹脂系皮膜が硬質粒子を含有し、該硬質粒子の平均粒径が、前記プラトー構造の谷部分の開口部の平均幅の0.5〜2倍であることを特徴とする。
本発明の一実施形態において、前記プラトー構造の谷部分に、前記硬質粒子が挿入されていることが好ましい。
本発明の一実施形態において、前記硬質粒子の含有量は、前記樹脂系皮膜に対して1〜20体積%であることが好ましく、前記硬質粒子は、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ダイヤモンド、酸化セリウムからなる群の少なくとも1種を含むことが好ましい。
本発明の一実施形態において、前記樹脂系皮膜の厚さは、5〜20μmであることが好ましく、前記樹脂系皮膜は、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、フェノール樹脂からなる群の少なくとも1種を主成分とすることが好ましい。
本発明の一実施形態において、前記ピストンリング母材の上下側面の少なくとも一方と前記樹脂系皮膜との間に、リン酸塩皮膜を有することが好ましい。
本発明の一実施形態において、前記樹脂系皮膜が単層であることが好ましい。
本発明のピストンリングは、高温下で長期にわたりアルミニウム凝着防止効果を持続することができる。
以下に本発明のピストンリングの実施形態について、図2を参照して説明する。
図2に、本発明の一実施形態によるピストンリング100を示す。図2には図示しないが、ピストンリング母材10の上下側面(以下、「表面10A」とも表記する。)には、リン酸塩皮膜が形成されてもよい。表面10A、又はリン酸塩皮膜上には、樹脂系皮膜20が形成される。樹脂系皮膜20は硬質粒子22を含有する。
本実施形態のピストンリング100は、図2のように、表面10Aがプラトー構造となっている。プラトー構造とは、例えば、日本工業規格JISB0671で定義されており、プラトー部分(平坦部分)14と谷部分12で表面が形成されている構造をいう。表面10Aがプラトー構造となっていると、表面10Aの上に形成された樹脂系皮膜20の一部が、谷部分12に入り込む。これにより樹脂系皮膜20とピストンリング母材10との密着性が、アンカー効果により向上する。特に、本実施形態においては、谷部分12に入り込んだ樹脂系皮膜20に含まれる硬質粒子22の一部が、図2のようにプラトー部分14よりも上方に突出し、ピストンリング母材10の谷部分12と樹脂系皮膜20とに跨る構造となる。このため、図4に示すような、硬質粒子22を含まないで樹脂系皮膜20が形成されている場合よりも、樹脂系皮膜20とピストンリング母材10との横方向(表面10Aに平行な方向)へのせん断応力に耐えることができ、ピストンリング母材10からの樹脂系皮膜20の剥離が起こりにくくなる。
図3に示すピストンリング200のように、樹脂系皮膜20に硬質粒子22を含むものの、表面10Aがプラトー構造ではなく平坦な場合、上記のようなアンカー効果が期待できない。この状態では、樹脂系皮膜20とピストンリング母材10との横方向(表面10Aに平行な方向)へのせん断応力に耐えることができなくなり、表面10A界面より樹脂系皮膜20が境界剥離し、露出した表面10Aとピストンのリング溝との間でアルミニウム凝着が発生する。
[1]ピストンリング母材
ピストンリング母材10は、特に限定されないが、リング溝との衝突が繰り返されることから、ある程度の強度が必要である。好ましい材料としては、鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、高級鋳鉄等が挙げられる。また、耐摩耗性を向上させるために、ピストンリング外周面に、ステンレス鋼では窒化処理、鋳鉄では硬質クロムめっきや無電解ニッケルめっき処理を施してもよい。また、いずれの場合も、硬質炭素皮膜を形成してもよい。
ピストンリング母材10は、特に限定されないが、リング溝との衝突が繰り返されることから、ある程度の強度が必要である。好ましい材料としては、鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、高級鋳鉄等が挙げられる。また、耐摩耗性を向上させるために、ピストンリング外周面に、ステンレス鋼では窒化処理、鋳鉄では硬質クロムめっきや無電解ニッケルめっき処理を施してもよい。また、いずれの場合も、硬質炭素皮膜を形成してもよい。
[2]ピストンリング母材の下地処理
ピストンリング母材10と樹脂系皮膜20との密着性向上のために、樹脂との密着性に優れたリン酸塩皮膜を予め表面10Aに形成しておくとよい。リン酸塩皮膜は、リン酸亜鉛系、リン酸マンガン系、リン酸カルシウム系の何れのリン酸塩皮膜でもよい。
ピストンリング母材10と樹脂系皮膜20との密着性向上のために、樹脂との密着性に優れたリン酸塩皮膜を予め表面10Aに形成しておくとよい。リン酸塩皮膜は、リン酸亜鉛系、リン酸マンガン系、リン酸カルシウム系の何れのリン酸塩皮膜でもよい。
なお、上記プラトー構造は、樹脂系皮膜20の直下に形成する。よって、表面10A上にリン酸塩皮膜を形成する場合には、リン酸塩皮膜の表面をプラトー構造にする。そのためには、リン酸塩皮膜の形成後、該皮膜の表面を研磨加工することが好ましい。しかし、リン酸塩皮膜が4μm以下と薄い場合には、表面10Aに研磨加工を施し、その後リン酸塩皮膜を形成しても、リン酸塩皮膜にプラトー構造が引き継がれる。
プラトー構造は、表面10Aまたはリン酸塩皮膜表面を研磨加工することにより形成することができる。プラトー構造は、プラトー部分14が平坦なので、長期の使用により、樹脂系皮膜20が摩滅し、ピストンリング母材10が露出しても、ピストンリング母材の表面により、再度ピストンのリング溝が荒らされて、アルミニウム蒸着がしやすくなるという現象を防ぐことができる。
研磨加工の方法は、一般的なベルト研磨、平面研磨等を用いることができる。また、砥石材質、押付圧等を変更することにより、谷部分およびプラトー部分の寸法を制御することができる。
プラトー構造としては、谷部分12の開口部の平均幅は、0.01〜1μm程度が好ましい。また、プラトー部分14の平均幅は、3〜15μmであることが好ましい。なお、本明細書において「谷部分の開口部の平均幅」とは、1つの谷部分の幅の最大値の平均を意味し、光学顕微鏡や電子顕微鏡その他の装置を用いて適切な領域(100μm四方)の表面の凹凸を観察し、その画像を解析することにより算出することができる。また、「プラトー部分の平均幅」とは、谷部分が一方向に均一に分布したと仮定した場合の隣接する谷部分の間隔(谷部分の幅を含まず)を意味し、表面の凹凸を観察して得られた谷部で囲われた領域の面積の平均値を2分の1乗することにより算出することができる。
[3]樹脂系皮膜
樹脂系皮膜20は硬質粒子22を含有する。そのため、ピストンのリング溝表面を大きく荒らすことなく短時間でリング溝表面の突起を除去することができる。また、リング溝表面が荒れることなく早期に突起がなくなるため、それ以降のリング溝による樹脂系皮膜20への攻撃性が小さくなり、高出力エンジンにおいても長期にわたり樹脂系皮膜20が維持され、優れたアルミニウム凝着防止効果を維持できる。
樹脂系皮膜20は硬質粒子22を含有する。そのため、ピストンのリング溝表面を大きく荒らすことなく短時間でリング溝表面の突起を除去することができる。また、リング溝表面が荒れることなく早期に突起がなくなるため、それ以降のリング溝による樹脂系皮膜20への攻撃性が小さくなり、高出力エンジンにおいても長期にわたり樹脂系皮膜20が維持され、優れたアルミニウム凝着防止効果を維持できる。
本実施形態では、硬質粒子22の平均粒径が、前記プラトー構造の谷部分の開口部の平均幅の0.5〜2倍であることが肝要である。これにより、プラトー構造の谷部分12の開口部に位置する硬質粒子の大半が、谷部分12に挿入され、かつ、挿入されたそれぞれの硬質粒子22の一部がプラトー構造の表面10Aから突き出る。このため、樹脂系皮膜20とピストンリング母材10との間にせん断応力が付加された時、すなわち、樹脂系皮膜20がピストンリング母材10に対してピストンリング上下側面に平行な方向にずれる力に対して対抗できるようになる。
硬質粒子22の平均粒径が、前記平均幅の0.5倍未満の場合には、谷部分12に挿入された硬質粒子がプラトー構造の表面10Aから突き出る確率が少なくなり、樹脂系皮膜20とピストンリング母材10との間に負荷されるせん断応力に対抗しにくくなる。また、硬質粒子22の平均粒径が、前記平均幅の2倍超えの場合には、硬質粒子が谷部分12に挿入されにくくなり、やはり樹脂系皮膜20とピストンリング母材10との間に負荷されるせん断応力に対抗しにくくなる。これらの観点から、硬質粒子22の平均粒径は、前記平均幅の1.0〜1.4倍であることが好ましい。
なお、硬質粒子22の平均粒径は、上記条件を満たす範囲で0.01〜1μmとすることが好ましい。硬質粒子22の平均粒径が1μmを超えると、ピストンのリング溝表面を荒らすこととなり、一方、0.01μm未満では、リング溝表面を平滑化するのが困難となる。また、硬質粒子22は異方性を有しない、つまり、アスペクト比が略1(1〜1.5)である。
なお、本明細書において「硬質粒子の平均粒径」は、樹脂系皮膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、視野中の任意の50個の硬質粒子の粒径の50%累積値(D50)として、算出することができる。また、「硬質粒子の平均粒径」は、樹脂系皮膜の形成前に、硬質粒子の粉体の状態で、レーザー回折・散乱式粒度分布計により測定したD50としてもよい。両者はほぼ同じ値となるからである。
硬質粒子22の含有量は、樹脂系皮膜20に対して1〜20体積%であることが好ましい。硬質粒子22の含有量をこの範囲にすることで、樹脂系皮膜20の摩滅までに、リング溝表面を平滑化して、リング溝表面とピストンリング母材10とが直接接したときのアルミニウム凝着を抑制できる。硬質粒子22の含有量が20体積%を超えると、リング溝表面を荒らす可能性があり、一方、1体積%未満では、リング溝表面を平滑化するのに時間がかかる。
硬質粒子22は、ピストンリング母材10を構成する材料よりも硬い材料からなる。具体的には、硬質粒子22としては、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ダイヤモンド、酸化セリウム等が挙げられるが、特に、研磨砥粒として実績があるアルミナ、炭化ケイ素、ダイヤモンド、酸化セリウムが好ましい。硬質粒子22は、1種でもよいが、2種以上の材料を添加してもよい。
樹脂系皮膜20の樹脂材料としては、主鎖に芳香族環や芳香族複素環を有する耐熱性高分子が好ましく、リング溝付近の温度が190℃以上に達する場合は、ガラス転移温度が190℃以上の非結晶性高分子、または、融点が190℃以上の結晶性高分子や液晶性高分子が適している。具体的には、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、フェノールなどが挙げられ、これらを2種類以上含む混合物又は複合物であってもよい。
また、これらの樹脂にシリカ等の無機物を分子レベルで分散させた有機−無機ハイブリッド樹脂では、ピストンリング母材10との密着性をさらに向上させることができる。
例えば、市販されているポリイミド(PI)として、U−ワニスA、U−ワニスS(宇部興産株式会社製)、H801D、H850D(荒川化学工業株式会社製)、RC5057、RC5097、RC5019(株式会社I.S.T製)が挙げられ、ポリアミドイミド(PAI)では、HPCシリーズ(日立化成工業株式会社製)、バイロマックス(東洋紡績株式会社製)などが挙げられる。樹脂系皮膜20は、樹脂材料を主成分、すなわち、樹脂系皮膜に対して50体積%超えとする。
樹脂系皮膜20の厚さ(片面)は、5〜20μmが好ましい。樹脂系皮膜の厚さが20μmを超えると、ピストンリングをリング溝に装着するときに問題が生じ、一方、5μm未満の場合は、樹脂系皮膜が早期に摩滅する。また、本発明において「樹脂系皮膜の膜厚」は、樹脂系皮膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、任意の10箇所の厚みの算術平均として算出する。なお、この厚みはプラトー部分から測定する。
本発明のピストンリングは、ピストンリングの上下側面の少なくとも一方に樹脂系皮膜20を被覆することにより得られるが、特にピストンリングの下側面に被覆することにより優れたアルミニウム凝着防止効果が発揮される。
本実施形態では、これまで説明した、硬質粒子22を含む樹脂系皮膜20の上下には、別途の樹脂系皮膜を形成せず、樹脂系皮膜20を単層とすることが好ましい。樹脂系皮膜20により十分なアルミニウム凝着防止効果を得ることができるため、付加的な樹脂系皮膜の必要がないからである。
[4]樹脂系皮膜の形成方法
樹脂系皮膜20の形成方法は、特に限定されず、スプレーコーティング、印刷法、スピンコーティング、ロールコーティング、ディップコーティング等の公知の方法を用いることができる。樹脂系皮膜20の形成効率と、塗り斑の発生を抑えるという観点から、印刷法が好ましい。
樹脂系皮膜20の形成方法は、特に限定されず、スプレーコーティング、印刷法、スピンコーティング、ロールコーティング、ディップコーティング等の公知の方法を用いることができる。樹脂系皮膜20の形成効率と、塗り斑の発生を抑えるという観点から、印刷法が好ましい。
樹脂系皮膜20の形成に用いるコーティング液やインクの調整方法は、特に限定されないが、例えば市販のポリアミドイミド等のワニスに、硬質粒子22を分散させた液を、必要に応じて溶剤を添加して最適な粘度に調整して用いることが好ましい。コーティング液やインクの粘度の調整に用いる溶剤や添加剤は、コーティング方法や印刷方法により適宜選択される。硬質粒子22の分散方法は特に限定されず、サンドミル、ビーズミル、ボールミル、ロールミル等公知の方法を用いることができ、必要に応じて分散剤等を適宜添加してもよい。コーティング液やインクをピストンリング母材10に塗布、又は印刷後、ピストンリングを乾燥し、樹脂系皮膜20の硬化処理を行う。硬化温度は用いる樹脂材料により適宜選択される。
本発明のピストンリングを以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明のピストンリングはそれらに限定されるものではない。
(実験No.1)
ピストンリング母材が低クロム鋼のピストンリングの上下側面に研磨加工をして、該上下側面をプラトー構造とした。このピストンリングの外周面にイオンプレーティングすることで、厚さ約30μmのCrN皮膜を形成し、アルカリ脱脂後、約80℃に加熱したリン酸マンガン水溶液に約5分浸漬することで、ピストンリングの外周面以外の面に厚さ約2μmのリン酸マンガン皮膜を形成した。このリン酸マンガン皮膜の断面をSEMにて観察したところ、プラトー構造が引き継がれていた。視野内の谷部分の開口部の平均幅は0.05μm、プラトー部分の平均幅は2.2μmであった。
ピストンリング母材が低クロム鋼のピストンリングの上下側面に研磨加工をして、該上下側面をプラトー構造とした。このピストンリングの外周面にイオンプレーティングすることで、厚さ約30μmのCrN皮膜を形成し、アルカリ脱脂後、約80℃に加熱したリン酸マンガン水溶液に約5分浸漬することで、ピストンリングの外周面以外の面に厚さ約2μmのリン酸マンガン皮膜を形成した。このリン酸マンガン皮膜の断面をSEMにて観察したところ、プラトー構造が引き継がれていた。視野内の谷部分の開口部の平均幅は0.05μm、プラトー部分の平均幅は2.2μmであった。
ポリアミドイミドワニス(東洋紡績株式会社製 HR−13NX)に、硬質粒子として、平均粒径0.01μmの異方性を有しないアルミナ粉末を、硬化後の樹脂系皮膜の体積に対して10体積%となるように添加し、撹拌機により十分に撹拌した後、ロール間隔を最小にした三本ロールミルに通すことで樹脂系皮膜のコーティング液を調整した。
ピストンリング母材の上下側面のリン酸マンガン皮膜上に、樹脂系皮膜用コーティング液をスプレーコーティングした後、100℃で5分間乾燥した。さらに、300℃の電気炉で1時間加熱し、樹脂系皮膜を硬化させ、ピストンリングを作製した。樹脂系皮膜の硬化後の合計の厚さ(片側)は、10μmであった。
(実験No.2〜13)
研磨加工の条件を変更して、プラトー構造の寸法を表1に示すものに変更し、さらに硬質粒子の材料及び平均粒径、並びに樹脂材料を表1に示すものに変更した以外は、実験No.1と同じ方法で、ピストンリングを作製した。なお実験No.11のピストンリングの上下側面研磨加工前後の断面図は、図6に相当する。
研磨加工の条件を変更して、プラトー構造の寸法を表1に示すものに変更し、さらに硬質粒子の材料及び平均粒径、並びに樹脂材料を表1に示すものに変更した以外は、実験No.1と同じ方法で、ピストンリングを作製した。なお実験No.11のピストンリングの上下側面研磨加工前後の断面図は、図6に相当する。
(実験No.14〜16)
研磨加工をせずプラトー構造を形成しないこと、及び、硬質粒子を添加しないことの少なくとも一方を採用した以外は、実験No.1と同じ方法で、ピストンリングを作製した。実験No.14は図3に相当し、実験No.15は図4に相当する。
研磨加工をせずプラトー構造を形成しないこと、及び、硬質粒子を添加しないことの少なくとも一方を採用した以外は、実験No.1と同じ方法で、ピストンリングを作製した。実験No.14は図3に相当し、実験No.15は図4に相当する。
<特性評価>
(1)剥離強度の測定
各実験例における樹脂系皮膜の剥離強度を、せん断テストの一種であるスクラッチ試験法により確かめた。スクラッチ試験法とは、ダイヤモンド圧子に一定の割合で荷重を増加させながら、所定の荷重になるまで樹脂系皮膜の表面を一定の速度で適当な方向に引っ掻いていく方法である。試験は球径0.2mmのダイヤモンド圧子を用い、開始荷重1N、終了荷重50N、試験速度10mm/min、評価長さ4.90mmで実施した。スクラッチ試験の結果を表1に示す。剥離強度は試験後のピストンリングを光学顕微鏡で観察し、試験開始地点から剥離開始地点までの長さを荷重に変換した値(単位:ニュートン)を用いる。この試験は、樹脂系皮膜の剥離にしにくさを評価するものであり、剥離強度が高いほど、樹脂系皮膜の剥離に起因するアルミニウム凝着を抑制することができる。結果を表1に示す。
(1)剥離強度の測定
各実験例における樹脂系皮膜の剥離強度を、せん断テストの一種であるスクラッチ試験法により確かめた。スクラッチ試験法とは、ダイヤモンド圧子に一定の割合で荷重を増加させながら、所定の荷重になるまで樹脂系皮膜の表面を一定の速度で適当な方向に引っ掻いていく方法である。試験は球径0.2mmのダイヤモンド圧子を用い、開始荷重1N、終了荷重50N、試験速度10mm/min、評価長さ4.90mmで実施した。スクラッチ試験の結果を表1に示す。剥離強度は試験後のピストンリングを光学顕微鏡で観察し、試験開始地点から剥離開始地点までの長さを荷重に変換した値(単位:ニュートン)を用いる。この試験は、樹脂系皮膜の剥離にしにくさを評価するものであり、剥離強度が高いほど、樹脂系皮膜の剥離に起因するアルミニウム凝着を抑制することができる。結果を表1に示す。
(2)単体凝着試験機による試験
各実験例のピストンリングをエンジンと相関が取れた単体凝着試験機により試験した。単体凝着試験機は、図5に示すピストン2が上下に往復運動を行い、ピストンリング3が回転運動を行う機構であり、試験は、ヒーター1と熱電対5によりピストン2を加熱制御させて行った。試験条件は、面圧5.0MPa、回転速度3.0mm/s、制御温度250℃、試験時間3hとし、オイルの添加を随時行った。この試験は、樹脂系皮膜を剥離させない程度で行い、樹脂系皮膜の摩耗や、摩耗に起因するアルミニウム凝着の程度を評価するものである。
各実験例のピストンリングをエンジンと相関が取れた単体凝着試験機により試験した。単体凝着試験機は、図5に示すピストン2が上下に往復運動を行い、ピストンリング3が回転運動を行う機構であり、試験は、ヒーター1と熱電対5によりピストン2を加熱制御させて行った。試験条件は、面圧5.0MPa、回転速度3.0mm/s、制御温度250℃、試験時間3hとし、オイルの添加を随時行った。この試験は、樹脂系皮膜を剥離させない程度で行い、樹脂系皮膜の摩耗や、摩耗に起因するアルミニウム凝着の程度を評価するものである。
単体凝着試験の結果を表1に示す。表1の判定基準は、以下の要領による。表面粗さはコア部のレベル差Rkで比較し、試験前のピストン材表面のRkは、約1.0μmであった。
(2−1)試験後の樹脂系皮膜の残存厚さ
◎:3μm以上
○:1μm以上3μm未満
△:1μm未満(リン酸マンガン皮膜有り)
×:1μm未満(リン酸マンガン皮膜無し)
◎:3μm以上
○:1μm以上3μm未満
△:1μm未満(リン酸マンガン皮膜有り)
×:1μm未満(リン酸マンガン皮膜無し)
(2−2)凝着
○:なし
△:あり(段差計等を用いて確認できるレベル)
×:あり(肉眼で凹凸(凝着の存在)が観察できるレベル)
○:なし
△:あり(段差計等を用いて確認できるレベル)
×:あり(肉眼で凹凸(凝着の存在)が観察できるレベル)
(2−3)リング溝摩耗
◎:0.5μm未満
○:0.5μm以上1.0μm未満
△:1.0μm以上1.5μm未満
×:1.5μm以上
◎:0.5μm未満
○:0.5μm以上1.0μm未満
△:1.0μm以上1.5μm未満
×:1.5μm以上
(2−4)表面粗さ(Rk)
◎:0.3μm未満
○:0.3μm以上0.5μm未満
△:0.5μm以上0.7μm未満
×:0.7μm以上
◎:0.3μm未満
○:0.3μm以上0.5μm未満
△:0.5μm以上0.7μm未満
×:0.7μm以上
表1から明らかなとおり、硬質粒子の平均粒径が、プラトー構造の谷部分の開口部の平均幅の0.5〜2倍である発明例では、この条件を満たさない比較例よりも剥離強度が顕著に向上していた。そのため、樹脂系皮膜の剥離に起因するアルミニウム凝着を大きく抑制することができた。また、単体凝着試験機による試験の結果も良好であり、樹脂系皮膜が長期間残存することによるアルミニウム凝着の抑制も期待できる。
また、各実験例においてピストンリング母材表面、リン酸塩皮膜、および樹脂系皮膜を含む断面をSEMにより観察したところ、発明例においてのみ、プラトー構造の谷部に硬質粒子が挿入され、硬質粒子の一部が、図2のようにプラトー部分よりも上方に突出し、ピストンリング母材の谷部分と樹脂系皮膜とに跨る構造となっていた。発明例での良好な剥離強度は、この構造に起因するものと考えられる。
以上の結果より、本発明のピストンリングは、長期にわたりアルミニウム凝着防止を持続できることが確認された。
本発明は、高温下で長期にわたりアルミニウム凝着防止効果を持続するピストンリングを提供することができる。
1 ヒーター
2 ピストン
3 ピストンリング
4 温度コントローラー
5 熱電対
100 ピストンリング
10 ピストンリング母材
10A ピストンリング母材の表面
12 谷部分
14 プラトー部分
20 樹脂系皮膜
22 硬質粒子
2 ピストン
3 ピストンリング
4 温度コントローラー
5 熱電対
100 ピストンリング
10 ピストンリング母材
10A ピストンリング母材の表面
12 谷部分
14 プラトー部分
20 樹脂系皮膜
22 硬質粒子
Claims (8)
- ピストンリング母材の上下側面の少なくとも一方の上に樹脂系皮膜を形成したピストンリングであって、
前記樹脂系皮膜の直下がプラトー構造であり、
前記樹脂系皮膜が硬質粒子を含有し、該硬質粒子の平均粒径が、前記プラトー構造の谷部分の開口部の平均幅の0.5〜2倍であることを特徴とするピストンリング。 - 前記プラトー構造の谷部分に、前記硬質粒子が挿入されている請求項1に記載のピストンリング。
- 前記硬質粒子の含有量は、前記樹脂系皮膜に対して1〜20体積%である請求項1又は2に記載のピストンリング。
- 前記硬質粒子は、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ダイヤモンド、酸化セリウムからなる群の少なくとも1種を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のピストンリング。
- 前記樹脂系皮膜の厚さは、5〜20μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載のピストンリング。
- 前記樹脂系皮膜は、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、フェノール樹脂からなる群の少なくとも1種を主成分とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のピストンリング。
- 前記ピストンリング母材の上下側面の少なくとも一方と前記樹脂系皮膜との間に、リン酸塩皮膜を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のピストンリング。
- 前記樹脂系皮膜が単層である請求項1〜7のいずれか1項に記載のピストンリング。
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JPS52138797A (en) * | 1976-04-02 | 1977-11-19 | Laystall Eng Co Ltd | Method of treating metallic surface especially rubbing surface and bearing surface |
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JP2008128482A (ja) * | 2006-11-27 | 2008-06-05 | Riken Corp | ピストンリング |
JP2009074539A (ja) * | 2007-08-24 | 2009-04-09 | Nippon Piston Ring Co Ltd | ピストンリング |
-
2014
- 2014-02-24 JP JP2014033222A patent/JP5524432B1/ja not_active Expired - Fee Related
Patent Citations (5)
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