JP6835427B2 - 繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造 - Google Patents

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Description

本発明は,内側塗装層と銀面薄膜塗装層の間及び銀面薄膜塗装層と外側塗装層との間の密着性が良好な,繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造に関する。
釣り具用部品又は自転車用部品等の繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造としては次のようなものが挙げられる。
(1)ウレタンやエポキシ樹脂塗料を吹き付け又は刷毛塗りした後に焼き付けして定着させるメタリック塗装技術や,
(2)装飾用物質を真空蒸着,CVD,PVD,スパッタリング等の高度塗装技術を駆使するものがある。
しかし,(1)の場合においては,塗装表面における鮮やかさや艶等の色彩感覚で十分でない面がある。一方,(2)の場合においては,光の屈折を利用した虹色発色等が可能であり,色彩感覚においては十分な面はあるが,装置が大掛かりであり,高度な製造技術を必要とするところから,簡単には採用し難い面がある。
そこで,比較的簡易な装置でかつ装飾性においても十分な性能を発揮する銀鏡反応を利用した装飾構造を形成することも考えられている(特許文献1)。しかし,この銀鏡反応を利用した製法では,耐食性及び強靭性において十分なものが得られず,機械的な強度面で劣る面があった。しかも,図7(b)に示すように,従来の銀鏡塗装における工程は,殆ど各工程終了毎に水洗工程を必要としており,そのために製造工程が複雑になっており,製造工程面でも改善の余地がある。更には,二頭式の塗装用ガンという特殊な吹き付け手段を必要とし,設備面でも負担の大きなものとなっている。
このような従来の銀鏡反応を利用した表面装飾構造において,耐食性及び強靭性において十分なものを,大がかりな装置を使用することなく形成するものとして,特許文献2に記載の表面装飾構造が知られている。
この表面装飾構造は,
繊維強化樹脂製の部品本体表面に,内側塗装層,その内側塗装層の上に銀面薄膜塗装層,その銀面薄膜塗装層の上に外側塗装層を積層し,
前記内側塗装層を,
(1)イソシアネート基とヒドロキシル基との反応によって形成される二液性の樹脂塗料と,
(2)アミノ基を持つ樹脂とエポキシ基を持つシリコン化合物とを反応させて形成される二液性の樹脂塗料と,
(3)前記(1)の反応と前記(2)の反応が同時におこる二液性又は三液性の樹脂塗料と,
のいずれか一つを選択して形成し,
前記外側塗装層を,
(4)アミノ基を持つ樹脂とエポキシ基を持つシリコン化合物とを反応させて形成される二液性の樹脂塗料と,
(5)前記(4)の反応に加えて,イソシアネート基とヒドロキシル基との反応が同時におこる二液性又は三液性の樹脂塗料と,
のいずれか一つを選択して形成し,
前記銀面薄膜塗装層を,アミンを配位子とする銀金属錯体で形成し,前記銀金属錯体を加熱することによって前記銀面薄膜塗装層を形成したものからなる。
特開2009−84596号公報 特許第5361025号公報
上記特許文献2に開示されている表面装飾構造によれば,従来例のものよりも耐食性及び強靭性において優れており,しかも大がかりな装置を使用することなく,鮮やかな表面装飾構造を達成することができるようになる。しかしながら,この表面装飾構造を釣り具用部品ないし自転車用部品の装飾構造として採用する場合には,釣り具用部品及び自転車用部品が大きな外力を繰り返し受けるため,内側塗装層と銀面薄膜塗装層の間,銀面薄膜塗装層と外側塗装層との間に更なる密着性の改良が要望されている。
本発明の目的は,耐食性及び強靭性において十分であり,鮮やかな表面装飾構造を大がかりな装置を使用することなく形成することができるとともに,釣り具用部品及び自転車用部品等の繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造として使用しても,内側塗装層と銀面薄膜塗装層の間及び銀面薄膜塗装層と外側塗装層との間の密着性が良好な繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造を提供する点にある。
本発明の一態様に係る繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造の特徴構成は,
繊維強化樹脂製部品の表面に,内側塗装層,その内側塗装層の上に銀面薄膜塗装層,その銀面薄膜塗装層の上に外側塗装層が積層された繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造であって,
前記内側塗装層が,
(1)イソシアネート基とヒドロキシル基との反応によって形成される二液性の樹脂塗料と,
(2)アミノ基を持つ樹脂とエポキシ基を持つシリコン化合物とを反応させて形成される二液性の樹脂塗料と,
(3)前記(1)の反応と前記(2)の反応が同時におこる二液性又は三液性の樹脂塗料と,
のいずれか一つから形成されたものからなり,
前記銀面薄膜塗装層が,塗布密度が部分的に不均一となるように塗布されたアミンを配位子とする銀金属錯体を加熱することにより形成された厚さが0.02〜0.4μmの海島状部分からなり,
前記外側塗装層が,
(4)アミノ基を持つ樹脂とエポキシ基を持つシリコン化合物とを反応させて形成される二液性の樹脂塗料と,
(5)前記(4)の反応に加えて,イソシアネート基とヒドロキシル基との反応が同時におこる二液性又は三液性の樹脂塗料と,
のいずれか一つから形成されたものからなる点にあり,その作用効果は次のとおりである。
アミンを配位子とする銀金属錯体は,後記するように,アルコールで希釈するだけで十分な流動性を発揮するので,吹き付けや刷毛塗りと言った簡易な作業形態で塗装工程を達成できる。つまり,図7(a)に示すように,塗装工程としては,内側塗装層を形成する内側塗装工程,銀面薄膜塗装工程,乾燥工程,外側塗装層を形成する外側塗装工程で済み,水洗工程を必要としないので,塗装工程の短縮化及び簡略化が可能である。吹き付け手段にしても従来の銀鏡塗装のように特殊なガンは必要とせず,設備面でも負担の少ないものとなっている。
しかも,銀面は,加熱する際に析出した銀粒子同士が海島状に溶融連結することによって,表面密度が高くかつ緊密に連結し,メタリック塗装に比べて輝度や密度,平滑性等の表面装飾性の高い面を呈するようになる。加えて,銀面が海島状に形成されていることにより,内側塗装層と銀面との間及び銀面と外側塗装層との間の接触面積がともに広くなるので,内側塗装層と銀面薄膜塗装層の間及び銀面薄膜塗装層と外側塗装層との間の密着性が良好な表面装飾構造が得られる。しかも,アミンを配位子とする銀金属錯体より析出する銀はナノ粒子となっているので,後記するように,融点降下により銀粒子は連結結合が迅速に行われ,緊密な銀面薄膜塗装層を形成することができる。しかも,銀ナノ粒子は,僅かに融解し,完全連結固着されてないため,外側塗装層との境界域に入り込み,その境界領域においては,樹脂塗料内に混在する銀粒子の密度が外側塗装層から銀面薄膜塗装層に向かうにつれて徐々に増えることとなる。そうすると境界領域に,密度が銀面薄膜塗装層に向かうにつれて増える銀と,樹脂塗料との混合傾斜層が形成される。これにより,銀面薄膜塗装層が海島状に形成されていることと相まって,銀面薄膜塗装層と外側塗装層との密着性が向上し,前記した層間剥離を抑制し,耐食性の向上を図ることができる。

なお,銀面を海島状に形成するには,アミンを配位子とする銀金属錯体溶液の濃度や粘度を調整し,塗布速度を速くして塗布密度が不均一となるようにすること,加熱時に昇温速度を調整すること等によりアミンを配位子とする銀金属錯体の還元反応が部分的にばらつくようにすることにより,達成することができる。
一方,アミンを配位子とする銀金属錯体を内側塗装層の上に塗布すると,銀金属錯体のアミンが内側塗装層の未反応樹脂(イソシアネートやエポキシ基を持つシリコン化合物)と反応する。そして,銀金属錯体を塗布して形成した銀面薄膜塗装層の上に外側塗装層用の塗料を塗布すると,銀面薄膜塗装層内に残存しているアミンが外側塗装層を形成する樹脂と反応する。これにより,銀面薄膜塗装層と内外塗装層との結合力が,銀面薄膜塗装層が海島状に形成されていることと相まって,より増大する。
したがって,本発明に係る繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造によれば,大がかりな装置を必要とせず簡易な作業形態ではありながら,銀面薄膜塗装層と内外塗装層との境界面での層間剥離や浸食と言ったことが回避され,耐食性の高いかつ十分な装飾性を発揮する繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造を形成することができるようになる。
また,係る態様の繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造においては,前記銀面薄膜塗装層の厚さは,海島状部分において0.02〜0.4μmの範囲とされていることが好ましい。
上記特許文献1に開示されている発明においては,銀鏡膜の厚さについて0.1〜10μmという広い範囲の厚さが推奨されているが,海島状部分において0.4μmより厚くなると,剥離テストの際,銀面薄膜塗装層において凝集破壊を起こす。つまり,銀面薄膜塗装層における外側塗装層側に位置する海島状部分と内側塗装層側に位置する部分とが離間して,銀面薄膜塗装層の厚さ方向の中間位置において剥離し易くなる。一方,銀面薄膜塗装層の厚さが海島状部分において0.02μm未満であると,銀鏡膜層が部分的に形成されない状態となることがある。したがって,銀面薄膜塗装層の厚さは海島状に部分において0.02μmから0.4μmの範囲の厚さに設定するのが望ましく,更に0.02μmから0.25μmの範囲の厚さに設定するのがより好ましい。
さらに,係る態様の繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造においては,前記銀面薄膜塗装層と前記内側塗装層との間に樹脂塗料内に銀が混入する内混合傾斜層と,前記銀面薄膜塗装層と前記外側塗装層との間に樹脂塗料内に銀が混入する外混合傾斜層とを形成し,前記内混合傾斜層及び前記外混合傾斜層において,銀の樹脂塗料内に混入する割合が,前記銀面薄膜塗装層に近接する程高くされていることが好ましい。
係る態様の繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造によれば,銀面薄膜塗装層と前記内外側塗装層との間には,両領域を明確に区別する仕切り線は形成されてはなく,樹脂塗料内に銀粒子が混入する内外混合傾斜層が形成されている。したがって,銀面薄膜塗装層と前記内外側塗装層とが例えば釣り竿等が外力を受けて変形することとなっても,両者が剥離することが少ない。しかも,その内外混合傾斜層においては,樹脂塗料内に混入する銀粒子の混入割合が銀面薄膜塗装層側ほど高い割合を示しているので,銀面薄膜塗装層側から内外側塗装層側への応力伝播が円滑になり,銀面薄膜塗装層が海島状に形成されていることと相まって,より応力割れ等の発生を抑えることができる。
釣り竿を示す側面図である。 図2(a)は外側塗装層のさらに外側にクリア層等を有さない塗装構造を示す縦断側面図,図2(b)は外側塗装層の外側に二層のクリア層を有している塗装構造を示す縦断側面図,図2(c)は外側塗装層が第1外側塗装層と第2外側塗装層との二層塗装積層構造を示す縦断側面図である。 図3(a)は銀アミン錯体を内側塗装層の上に塗布した状態を示す説明図,図3(b)は加熱して銀アミン錯体よりアミンが離間して銀のナノ粒子が析出した状態を示す説明図,図3(c)は析出した銀のナノ粒子が溶融連結して銀面膜を作った状態を示す説明図である。 図4(a)は実施形態の表面装飾構造の模式拡大平面図であり,図4(b)は図4(a)のX−X線に沿った模式拡大断面図である。 図5(a)〜図5(d)はそれぞれ他の実施形態の表面装飾構造の模式拡大平面図である。 内側塗装層と銀面薄膜塗装層との間の内混合傾斜層,及び,外側塗装層と銀面薄膜塗装層との間の外混合傾斜層内における銀の混合度合いを示す説明図である。 図7(a)は本発明の銀面薄膜塗装工程を示す工程図であり,図7(b)は従来の銀鏡塗装工程を示す工程図である。 スピニングリールを示す側面図である。 自転車を示す側面図である。
〔実施形態〕
以下,本発明の一態様に係る繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造について,釣り竿に適用した場合を例にとって説明する。ただし,以下に示す実施形態は,本発明の技術思想を具体化するための繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造を釣り竿を例にとって示するものであって,本発明をこの実施形態に限定することを意図するものではない。本発明は,例えば自転車の繊維強化樹脂製部品等,特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。なお,この明細書における各塗装層の説明のために用いられた図面においては,各層を図面上で認識可能な程度の大きさとするため,各層毎に適宜縮尺を異ならせて表示しており,必ずしも実際の寸法に比例して表示されているものではない。
例えばヤマメや岩魚等を釣る際に使用される釣り竿Aは,図1に示すように,穂先竿1の先端にトップガイド2を取り付けるとともに,穂先竿1の中間位置に釣り糸用ガイド3を取付固定し,竿元側に並継式に継合された元竿5を配置し,元竿5にスピンニングリールを装着するリールシート6を取り付けて,構成してある。
なお,釣り竿Aを構成する穂先竿1,元竿5は次のように製作される。つまり,炭素繊維等の強化繊維を一方向に引き揃え,その引き揃え強化繊維群にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂(又は熱可塑性樹脂)を含浸させて,プリプレグシートを形成する。このプリプレグシートを略台形状に裁断した複数のものをマンドレルに巻回し,複数のプリプレグシートを巻回して構成した竿素材をマンドレルに巻回した状態で炉に入れて焼成し,焼成後マンドレルを脱芯して円筒状の竿素材を取り出しその竿素材を所定長に裁断して,仕上加工を施し竿体とする。
プリプレグを構成する強化繊維としては,具体的には,炭素繊維以外にガラス繊維,アラミド繊維,アルミナ繊維等が使用でき,樹脂としては,エポキシ樹脂の他に,フェノール樹脂,ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂やPV(E)等の熱可塑性樹脂が使用できる。また,プリプレグとしては,強化繊維を編み込んだ織り物に樹脂を含浸させて構成したものであってもよい。
釣り竿Aを構成する部品としての中間竿4,元竿5の外周面に施される塗装について説明する。塗装の構成としては,図2(a)に示すように,外側塗装層AEの外側に後記する透明クリア層を設けないか,或いは外側塗装層にクリア塗料を採用したものと,図2(b)に示すように,外側塗装層AEの上にカラークリア層AFと透明クリア層AGとを備えた2種類のものについて説明する。例えば,図2(a)に示すものは中間竿4等に使用され,図2(b)に示すものは元竿5等に使用することとする。なお,この使用については固定したものではなく,自由に選択できるものである。
図2(a)に示すように,中間竿4等の外周面4Aの表面に,最内側塗装層ABを設け,最内側塗装層ABの上から内側塗装層ACを設け,内側塗装層ACの上に銀面薄膜塗装層ADを設け,銀面薄膜塗装層ADの上に外側塗装層AEを設けて形成してある。なお,銀面薄膜塗装層ADは海島状に形成されているが,図2(a)〜図2(c)においては銀面薄膜塗装層ADにおける海島状部分の構成は省略されている。この銀面薄膜塗装層ADの海島状形状については,別途詳細に後述する。
同様に,図2(b)に示すように,元竿5等の外周面5Aの表面に,最内側塗装層ABを設け又は最内側塗装層ABを設けないことを選択できるが,最内側塗装層ABを設けた場合には最内側塗装層ABの上から内側塗装層ACを設け,内側塗装層ACの上に銀面薄膜塗装層ADを設け,銀面薄膜塗装層ADの上に外側塗装層AEを設け,更に,外側塗装層AEの上にカラークリア層AFと透明クリア層AGとを重ねて形成してある。
これらの実施形態の表面装飾構造における最内側塗装層ABは,エポキシ系樹脂塗料が選択される。この最内側塗装層ABは,中間竿4等の竿表面に表出することがある強化繊維を覆い内側塗装層ACの密着性を確保するものである。また,図2(b)に示すように,竿表面には,図示してはいないが,竿体が焼成される際に竿素材の外周面を螺旋状に巻回する成型テープ跡5aを敢えて残した状態で元竿5等を形成する場合がある。このような成型テープ跡5aを均すために最内側塗装層ABが形成される。
次に,内側塗装層ACについて説明する。この塗装層で使用される樹脂塗料としては,以下に示す三種類のものが選定される。
(1)第1の樹脂塗料としては,イソシアネート基とヒドロキシル基とのウレタン反応によって形成される二液性のアクリルウレタン樹脂塗料が挙げられる。
(2)第2の樹脂塗料としては,アミノ基を持つアクリル樹脂とエポキシ基を持つシリコン化合物とを脱水かつ脱アルコール縮合反応によって形成される二液性のアクリルシリコン樹脂塗料が挙げられる。
(3)第3樹脂塗料としては,ウレタン反応と脱水かつ脱アルコール縮合反応が同時におこる二液性又は三液性のウレタン変性アクリルシリコン樹脂塗料が挙げられる。
このようなアクリルウレタン樹脂塗料,アクリルシリコン樹脂塗料のいずれか一方,または,アクリルウレタン樹脂塗料とアクリルシリコン樹脂塗料との両方を上記した内側塗装層ACとして使用することができる。
これらの塗料の竿表面への施工は,シゴキ塗装,刷毛塗り又は吹き付け等を行った後,焼成炉での焼き付けを施して,定着を図る方がよい。
アクリルウレタン樹脂塗料の代わりに,ポリエステルウレタン樹脂塗料,或いは,ポリカーボネートウレタン樹脂塗料等が使用可能である。また,アクリルシリコン樹脂塗料の代わりにウレタン変性アクリルシリコン樹脂塗料を使用することができる。
次に,銀面薄膜塗装層ADについて説明する。ここでは,アミンによる銀の錯体を塗布することによって,銀面薄膜塗装層ADを形成する。アミンによる銀の錯体とは,具体的には,銀に配位子として組み合わせたメチルアミン,ジメチルアミン,トリメチルアミン等の簡単な構造のものから,N,N‐ジイソプロピルエチルアミン等の複雑な構造のアミンも採用し得るが,特に2−エチルへキシルアミンとの錯体が好ましい。
また,銀面薄膜塗装層ADは次のような工程で形成される。
(1)例えば2−エチルへキシルアミンによる銀の錯体にイソプロピルアルコール等の溶媒を加えて,流動化を高める。
(2)この溶液を前記した内側塗装層ACの上に,例えば塗布速度を速くして塗布密度が部分的に不均一となるように塗布する。塗布の仕方は,刷毛塗り或いは吹き付け等の通常使用する塗布方法で十分である。塗布した状態が図3(a)に示す状態である。
(3)次に,この塗布した中間竿4等を焼成炉において,100℃〜170℃の温度で10分〜60分間焼成する。そうすると,アルコール分が蒸発すると同時に,配位子としての2−エチルへキシルアミンと銀との結合力が低下してその2−エチルへキシルアミンが銀粒子から遊離するとともに,アミンの還元作用によって還元され,銀のナノ粒子が折出する。この状態が図3(b)に示す状態である。この銀のナノ粒子のサイズは,約15〜20nmである。
(4)内側塗装層ACの上に析出した銀のナノ粒子群は,融点降下によって,図3(c)に示すように部分的に溶融結合し銀面薄膜塗装層ADを形成する。
一般に,銀バルクの溶融温度は962℃前後であるが,上記場合には,銀粒子がナノ単位の粒径を呈しているので,融点降下が起こり,100℃という比較的穏やかな焼結熱を加えた状態であっても,溶融化が促進されて,析出銀粒子同士が溶融結合し,銀面薄膜が形成される。かかる融点降下によって生地本体を傷めるようなことがなくなる。
このとき,アミンを配位子とする銀金属錯体溶液の塗布速度を速くして塗布密度が部分的に不均一となるように塗布されているので,析出した銀のナノ粒子は,内側塗装層ACの表面全体を均質に被覆できず,図4(a)及び図4(b)に示したように,海島状にに銀面薄膜塗装層ADが形成される。なお,図4(a)及び図4(b)はいずれも模式図であり,その形状及び寸法ともに正確に図示されているものではない。
この銀面薄膜塗装層ADの厚さは,海島状部分SIで0.02〜0.4μmの範囲となるようになされている。この厚さが0.02μm未満であると部分的に銀面薄膜塗装層が形成されないおそれが生じ,また,厚さが0.4μmを超えると剥離テストの際に銀面薄膜塗装層ADにおいて凝集破壊を起こすようになる。つまり,銀面薄膜塗装層ADにおける外側塗装層側に位置する部分と内側塗装層側に位置する部分とが離間して,銀面薄膜塗装層の厚さ方向の中間位置において剥離し易くなる。
海島状の銀面薄膜塗装層ADとしては,図4(a)及び図4(b)に示した形状のみでなく,例えば,拡大平面図において,図5(a)〜図5(d)に示したような形状とすることも可能である。このような形状は,例えば,アミンを配位子とする銀金属錯体溶液の濃度や粘度を調整し,塗布速度を速くして塗布密度が不均一となるようにすること,加熱時に昇温速度を調整すること等によりアミンを配位子とする銀金属錯体の還元反応が部分的にばらつくようにすることにより,適宜に設定することができる。
次いで,海島状の銀面薄膜塗装層ADの表面の上に外側塗装層AEが設けられ,さらに必要に応じて外側塗装層AEの上にカラークリア層や透明クリア層AGが形成され,実施形態の釣り竿Aの中間竿4ないし元竿5が完成されるが,この外側塗装層AEで使用される樹脂塗料としては,以下に示す二種類のものが選定される。
(4)第1の樹脂塗料としては,アミノ基を持つアクリル樹脂とエポキシ基を持つシリコン化合物とを脱水かつ脱アルコール縮合反応によって形成される二液性のアクリルシリコン樹脂塗料が挙げられる。
(5)第2樹脂塗料としては,(4)の反応に加えて,イソシアネート基とヒドロキシル基との反応が同時におこる二液性又は三液性のウレタン変性アクリルシリコン樹脂塗料が挙げられる。
これらの塗料の竿表面への施工は,シゴキ塗装,刷毛塗り又は吹き付け等を行った後,焼成炉での焼き付けを施して,定着を図る方がよい。
アクリルウレタン樹脂塗料の代わりに,ポリエステルウレタン樹脂塗料,或いは,ポリカーボネートウレタン樹脂塗料等が使用可能である。また,アクリルシリコン樹脂塗料の代わりにウレタン変性アクリルシリコン樹脂塗料を使用することができる。
なお,中間竿4に採用される外側塗装層AEとしては,アクリルウレタン樹脂塗料等の代わりに,カラークリア塗料を使用してもよい。
なお,図7(a)に示すように,最内側塗装層AB及び内側塗装層AC,銀面薄膜塗装層ADを形成した後に,乾燥工程が設けてあり,この乾燥工程が終了した後に,外側塗装層AE及びクリア層が形成される。なお,製造工程において,図7(b)に示した従来の銀鏡反応面の場合に使用される水洗工程はない。
次に,内側塗装層ACと銀面薄膜塗装層ADとの内混合傾斜層ACD,銀面薄膜塗装層ADと外側塗装層AEとの外混合傾斜層ADEでの反応形態について説明する。
この内混合傾斜層ACDと外混合傾斜層ADEにおいては,銀面薄膜塗装層ADを形成する銀粒子が内側塗装層ACと外側塗装層AEとの樹脂と混在する混合傾斜層を形成しており,その混合傾斜層での混在状態は,銀面薄膜塗装層ADの側程,銀粒子の割合が高くなる傾斜状態を示している。このように,物理的に銀粒子と樹脂との混在状態を呈するだけでなく,次に記すように,この混合傾斜層においては化学的結合状態を呈していると考えられる。
内混合傾斜層ACDにおける化学的結合状態の説明をする。
(1)内側塗装層ACとしてアクリルウレタン樹脂塗料を使用した場合
まず,下記の式で表わされているように,イソシアネート基とヒドロキシル基とのウレタン反応が起こる。
(化1)
R−NCO + R'−OH = R−NH−COOH'
次に,この中の未反応イソシアネートが銀面薄膜塗装層AD内のアミンと反応している。
(2)外側塗装層AEとしてアクリルシリコン樹脂塗料を使用した場合
ここでは,シリコン化合物としてはグリシジルシラン硬化剤が採用されている。
ここでの反応は,銀面薄膜塗装層AD内のアミンと硬化剤としてのシリコン化合物内のエポキシ基とが反応していると考えられる。
上記した第1級アミン等が生成されて,内混合傾斜層ACDに存在する。
外混合傾斜層ADEにおける化学的結合状態の説明をする。
(3)外側塗装層AEとしてアクリルウレタン樹脂塗料を使用した場合
イソシアネートが銀面薄膜塗装層AD内の残存アミンと反応が起こっている。
(4)外側塗装層AEとしてアクリルシリコン樹脂塗料を使用した場合
ここでは,シリコン化合物としてはグリシジルシラン硬化剤が採用されている。ここでの反応は,銀面薄膜塗装層AD内の残存アミンと硬化剤としてのシリコン化合物内のエポキシ基とが反応していると考えられる。
上記した第1級アミンが生成されて,外混合傾斜層ADEに存在する。
さらに,内混合傾斜層ACDと外混合傾斜層ADEにおける他の反応について説明する。
銀面薄膜塗装層ADと内側塗装層ACとの内混合傾斜層ACD,及び,銀面薄膜塗装層ADと外側塗装層AEとの外混合傾斜層ADEにおいては,上記した反応以外に次のような反応により,銀面薄膜塗装層ADと内側塗装層AC,及び,銀面薄膜塗装層ADと外側塗装層AEとの連結固着状態が強固なものになっている。つまり,
上記反応式で示すように,銀面薄膜塗装層ADの金属膜とアクリルシリコンの硬化反応時,上記のような加水分解が起こり,その際分離するOH基が金属との密着力を向上させる水素結合として働くと考えられる。
また,内混合傾斜層ACD及び外混合傾斜層ADEにおいては,金属である銀が樹脂塗料とともに混在して,このことが銀面薄膜塗装層ADと内側塗装層AC,及び,銀面薄膜塗装層ADと外側塗装層AEとの連結固着状態を強固なものとしている。つまり,銀面薄膜塗装層ADにおいては,全て原料銀が焼結されて銀面構造を構築しているのではない。一部銀は内混合傾斜層ACD及び外混合傾斜層ADEにおいて樹脂塗料と混在している。そして,銀が混在する割合は,図4に示すように,銀面薄膜塗装層ADに近い程大きくなる。つまり,銀が樹脂塗料内に混在する割合は,銀面薄膜塗装層ADに近い程大きくなる傾斜状態を示し
以上のようにして塗装が施された中間竿4,元竿5について,これらの塗装の密着度評価試験を行ってみた。
テストピースが,外側塗装層AEが一層のものにおいては,
(イ) 最内側塗装層ABにエポキシ樹脂塗料を選定,
(ロ) 内側塗装層ACにアクリルウレタン樹脂塗料,又は,アクリルシリコン樹脂塗料,エポキシ樹脂塗料,ウレタン変性アクリルシリコン樹脂塗料のいずれかを選定,
(ハ) 外側塗装層AEに,アクリルウレタン・アクリルシリコン樹脂塗料,ウレタン変性アクリルシリコン樹脂塗料のいずれかを選定,
してテストを行った。
テスト結果としては,最内側塗装層ABにエポキシ樹脂塗料,内側塗装層ACにウレタン変性アクリルシリコン樹脂塗料,外側塗装層AEに,ウレタン変性アクリルシリコン樹脂塗料を選定して組み合わせたものが最もよい結果を示した。
このテスト結果を考察してみると,外側塗装層AEにウレタン変性アクリルシリコン樹脂塗料を選定して組み合わせたことによって,イソシアネート基・エポキシ基がアミノ基含有の銀金属との密着性を向上させ,耐水性に好影響を与えていると考えられる。
また,内側塗装層ACも外側塗装層AEと同様にウレタン変性アクリルシリコン樹脂塗料を採用することによって,銀面薄膜塗装層ADに形成することに使用されたアミンを含む銀金属錯体のそのアミンが残存し,内側塗装層ACのイソシアネート基及びエポキシ基と反応し,良い結合力を現出していると考えられる。
また,外側塗装層AEと鏡面薄膜塗装層ADとの境界域に析出した銀の一部が混在し,銀と樹脂塗料との混合傾斜層を形成している点も上記テスト結果を裏付けるものとなっていると考えられる。
したがって,実施形態の繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造によれば,内側塗装層の組成と,銀面薄膜塗装層形成材料の組成と,外側塗装層の組成と,銀面薄膜塗装層が海島状に形成されていることとが相まって,より応力割れ等の発生を抑えることができるようになっているものと考えられる。
上記実施形態においては,釣り竿Aに適用することについて説明したが,図8に示したリール,特に,スピニングリールBの繊維強化樹脂製部品や,図9に示した自転車Cの繊維強化樹脂製部品にも適用することができ,さらには,釣り具としてのクーラーボックス,ルアー,竿掛け,釣り糸ガイド等の繊維強化樹脂製部品にも適用することができる。
なお,図8に示したスピニングリールBは,ハンドル11を備えたリールボディ12と,リールボディ12に回転不能に備えられた糸巻き用スプール13と,糸巻き用スプール13に釣り糸を巻き付け回転するロータ14とを備えて,構成されている。ロータ14の先端側には回転中心を挟んで二つのベール支持部15が前方に向けて延出されており,一方のベール支持部15には,穂先側から巻き取られる釣り糸を糸巻き用スプール13に誘導するガイドローラ16が取付けてある。
上記したスピニングリールBの構成において,リールボディ12,及び,糸巻き用スプール13,ロータ14等を繊維強化樹脂で製作して,実施形態で示した塗装を施すことは有効である。ただし,図2(a)に示すように,最内側塗装層ABを設け,最内側塗装層ABの上から内側塗装層ACを設け,内側塗装層ACの上に銀面薄膜塗装層ADを設け,銀面薄膜塗装層ADの上に外側塗装層AEを設けて構成することができる。外側塗装層AEとして,カラークリア塗料で作成したものを採用してもよい。また,選択する樹脂塗料についても任意である。
または,図2(b)に示すように,最内側塗装層ABを設け,最内側塗装層ABの上から内側塗装層ACを設け,内側塗装層ACの上に銀面薄膜塗装層ADを設け,銀面薄膜塗装層ADの上に外側塗装層AEを設けて,外側塗装層AEの上にカラークリア層AFを形成し,そのカラークリア層AFの上に透明クリア層AGを形成して構成することができる。
ただし,この場合には,最内側塗装層ABを設けずに,内側塗装層ACを直接リールボディ12の表面に塗装してもよい。
さらに,図9に示した自転車Cは,前後車輪26に支持されたサスペンションフレーム23と,そのサスペンションフレーム23の上部に取付られているハンドルフレーム24と,サスペンションフレーム23等を備えるボディフレーム22とで構成されている。ボディフレーム22の中間部のシートチューブ22Aには外装変速装置用のフロントディレーラ21が取り付けられ,ボディフレーム22の後端部には,リアーディレーラ25が取付けられている。
前記した前車輪26のホイール部を繊維強化樹脂で形成し,そのホイール部に実施形態で記載した塗装を施すことは効果的である。つまり,図2(a),図2(b)に示すように,最内側塗装層ABを設け,最内側塗装層ABの上から内側塗装層ACを設け,内側塗装層ACの上に銀面薄膜塗装層ADを設け,銀面薄膜塗装層ADの上に外側塗装層AEを設ける構成をとってもよい。
また更に,外側塗装層AEの上にカラークリア層AFと透明クリア層AGとを重ねて形成してもよいが,形成するか否かについては,任意に選択することが可能である。また,選択する樹脂塗料についても任意である。
特に大きな荷重を担うボディフレーム22には,図2(c)に示すように,第1外側塗装層AE1と第2外側塗装層AE2の二層構造を含む塗装構造を採用し,比較的荷重負担の少ないハンドルフレーム24等には,図2(a)に示す外側塗装層AEの一層構造を含む塗装構造を適用することができる。
上記したように,ボディフレーム22等の繊維強化樹脂製のパイプに形成することによって,自転車重量の軽量化が達成され,上記した銀面での装飾性の向上によって,高級感のある自転車を提供できる。
部品の軽量化,及び,表面耐食性の向上だけを目的とする場合には,鏡面薄膜塗装層ADを直接部品表面に施し,その鏡面薄膜塗装層ADの上に,外側塗装層AEと透明クリア層AF,又は,外側塗装層AEの一層だけ設ける構成をとってもよい。
また,部品表面に形成される塗装構造としては,最内側塗装層ABはなくてもよく,内側塗装層ACを直接部品表面に施されるものでもよい。特に,穂先竿等で竿重量の軽量化を目的とする場合には,内側塗装層ACを直接部品表面に施し,最外側塗装層としての透明クリア層も一層だけでもよい。
さらに,外側塗装層AEとしては,図2(c)に示すように,二層に形成してもよい。つまり,鏡面薄膜塗装層ADの上に第1外側塗装層AE1を形成し,その第1外側塗装層AE1の上に第2外側塗装層AE2を形成することができる。第1外側塗装層AE1と第2外側塗装層AE2とに採用する樹脂塗料としては,外側塗装層AEとして採用した,アクリルウレタン樹脂塗料,アクリルシリコン樹脂塗料のいずれか一方,または,アクリルウレタン樹脂塗料とアクリルシリコン樹脂塗料との両方を使用することができる。
しかも,第1外側塗装層AE1と第2外側塗装層AE2とを同じ樹脂塗料を使用する必要はなく,異なるものに適用してもよい。なお,この二層構造のものは,元竿等に使用できる。
本願発明は,釣り具や自転車用部品のみならず,その他の繊維強化樹脂製の部品を有するものにも適用できる。
4 中間竿(部品本体)
5 元竿(部品本体)
12 リールボディ(部品本体)
14 ロータ(部品本体)
22 ボディフレーム(部品本体)
24 ハンドルフレーム(部品本体)
AB 最内側塗装層
AC 内側塗装層
AD 銀面薄膜塗装層
AE 外側塗装層
AE1 第1外側塗装層
AE2 第2外側塗装層
AF カラークリア層
AG 透明クリア層

Claims (2)

  1. 繊維強化樹脂製部品の表面に,内側塗装層,その内側塗装層の上に銀面薄膜塗装層,その銀面薄膜塗装層の上に外側塗装層が積層された繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造であって,
    前記内側塗装層が,
    (1)イソシアネート基とヒドロキシル基との反応によって形成される二液性の樹脂塗料と,
    (2)アミノ基を持つ樹脂とエポキシ基を持つシリコン化合物とを反応させて形成される二液性の樹脂塗料と,
    (3)前記(1)の反応と前記(2)の反応が同時におこる二液性又は三液性の樹脂塗料と,
    のいずれか一つから形成されたものからなり,
    前記銀面薄膜塗装層が,塗布密度が部分的に不均一となるように塗布されたアミンを配位子とする銀金属錯体を加熱することにより形成された厚さが0.02〜0.4μmの海島状部分からなり,
    前記外側塗装層が,
    (4)アミノ基を持つ樹脂とエポキシ基を持つシリコン化合物とを反応させて形成される二液性の樹脂塗料と,
    (5)前記(4)の反応に加えて,イソシアネート基とヒドロキシル基との反応が同時におこる二液性又は三液性の樹脂塗料と,
    のいずれか一つから形成されたものからなることを特徴とする,
    繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造。
  2. 前記銀面薄膜塗装層と前記内側塗装層との間に樹脂塗料内に銀が混入する内混合傾斜層と,前記銀面薄膜塗装層と前記外側塗装層との間に樹脂塗料内に銀が混入する外混合傾斜層とが形成され,前記内混合傾斜層及び前記外混合傾斜層において,銀の樹脂塗料内に混入する割合が,前記銀面薄膜塗装層に近接する程高くされていることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂製部品の表面装飾構造。
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