JP6822809B2 - 硫化物系無機固体電解質材料、固体電解質膜、全固体型リチウムイオン電池および硫化物系無機固体電解質材料の製造方法 - Google Patents

硫化物系無機固体電解質材料、固体電解質膜、全固体型リチウムイオン電池および硫化物系無機固体電解質材料の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、硫化物系無機固体電解質材料、固体電解質膜、全固体型リチウムイオン電池および硫化物系無機固体電解質材料の製造方法に関する。
リチウムイオン電池は、一般的に、携帯電話やノートパソコン等の小型携帯機器の電源として使用されている。また、最近では小型携帯機器以外に、電気自動車や電力貯蔵等の電源としてもリチウムイオン電池は使用され始めている。
現在市販されているリチウムイオン電池には、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されている。一方、電解液を固体電解質に変えて、電池を全固体化したリチウムイオン電池(以下、全固体型リチウムイオン電池とも呼ぶ。)は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
このような固体電解質に用いられる固体電解質材料としては、例えば、硫化物系無機固体電解質材料が知られている。以下の特許文献1には、こうした硫化物系無機固体電解質材料の例が記載されている。
特許文献1(特開2016−27545号)には、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.86°±1.00°の位置にピークを有し、Li2y+3PS(0.1≦y≦0.175)の組成を有することを特徴とする硫化物系固体電解質材料が記載されている。
特開2016−27545号
本発明者らの検討によれば、従来の硫化物系無機固体電解質材料は、粉末同士の結着性が不十分であり、得られる固体電解質膜にクラックが入ってしまう場合があることが明らかになった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、クラックの発生が抑制された固体電解質膜を安定的に得ることができる硫化物系無機固体電解質材料を提供するものである。
本発明者らはリチウムイオン伝導性および製膜性に優れた硫化物系無機固体電解質材料を実現するための設計指針について鋭意検討した。その結果、安息角が特定の範囲にある硫化物系無機固体電解質材料が粉末同士の結着性に優れ、クラックの発生が抑制された固体電解質膜を安定的に得ることができることが明らかになった。
すなわち、安息角という尺度が、リチウムイオン伝導性および製膜性に優れた硫化物系無機固体電解質材料を実現するための設計指針として有効であることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明によれば、
リチウムイオン伝導性を有し、かつ、構成元素としてLi、PおよびSを含む粉末状の硫化物系無機固体電解質材料であって、
25℃、アルゴン雰囲気下で測定される安息角が57°以上70°以下である硫化物系無機固体電解質材料が提供される。
また、本発明によれば、上記硫化物系無機固体電解質材料を主成分として含む固体電解質膜であって、
上記固体電解質膜は上記硫化物系無機固体電解質材料の加圧成形体であり、
上記固体電解質膜中のバインダー樹脂の含有量が上記固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、0.5質量%未満である固体電解質膜が提供される。
また、本発明によれば、
正極層と、固体電解質層と、負極層とがこの順番に積層された全固体型リチウムイオン電池であって、
上記固体電解質層が上記固体電解質膜により構成されたものである全固体型リチウムイオン電池が提供される。
また、本発明によれば、
上記硫化物系無機固体電解質材料を製造するための製造方法であって、
ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)と、ガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料(Y)とを混合する工程を含む硫化物系無機固体電解質材料の製造方法が提供される。
本発明によれば、クラックの発生が抑制された固体電解質膜を安定的に得ることができる硫化物系無機固体電解質材料を提供することができる。
本発明に係る実施形態の全固体型リチウムイオン電池の構造の一例を模式的に示した断面図である。
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。数値範囲の「A〜B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
[硫化物系無機固体電解質材料]
はじめに、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料について説明する。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性を有し、かつ、構成元素としてLi、PおよびSを含む粉末状の硫化物系無機固体電解質材料である。
そして、25℃、アルゴン雰囲気下で測定される、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の安息角が57°以上、好ましくは59°以上、より好ましくは60°以上、特に好ましくは61°以上である。
また、25℃、アルゴン雰囲気下で測定される、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の安息角が70°以下、好ましくは68°以下、より好ましくは66°以下である。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料において、上記安息角を上記範囲内とすることにより、硫化物系無機固体電解質材料の粉末同士の結着性が良好となり、固体電解質膜をより薄く、より広く、かつより緻密に形成することができ、クラックの発生が抑制された固体電解質膜を安定的に得ることが可能となる。
また、安息角を上記上限値以下とすることにより、硫化物系無機固体電解質材料のハンドリング性を向上させることができる。
ここで、安息角は、粉末状の硫化物系無機固体電解質材料を水平面上に落下させて堆積させることにより得られる円錐の母線と水平面とのなす角をいい、例えば、注入法により求められる。安息角は、さらに具体的には、排出孔径2.63mmの漏斗を通して粉末状の硫化物系無機固体電解質材料を水平面上に堆積させて、堆積している粉末と水平面との角度を測定することにより求めることができる。漏斗の排出孔から水平面までの距離は、例えば、25mmとする。
安息角は、例えば、粉体流動計(古河機械金属社製、JIS Z2502準拠)を用いて測定することができる。
本発明者らの検討によれば、従来の硫化物系無機固体電解質材料は、粉末同士の結着性が不十分であり、得られる固体電解質膜にクラックが入ってしまう場合があることが明らかになった。
そこで、本発明者らはリチウムイオン伝導性および製膜性に優れた硫化物系無機固体電解質材料を実現するための設計指針について鋭意検討した。その結果、安息角が特定の範囲にある硫化物系無機固体電解質材料が粉末同士の結着性に優れ、クラックの発生が抑制された固体電解質膜を安定的に得ることができることを見出した。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の安息角は、硫化物系無機固体電解質材料の組成比率や、原料である無機組成物を結晶化してからガラス化すること等の製造条件を高度に制御することにより実現することが可能である。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料において、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=15.7±0.3°の位置における最大回折強度をバックグラウンド強度Iとし、回折角2θ=26.9±0.9°の位置に存在する回折ピークの回折強度をIとしたとき、I/Iの値が好ましくは20.0以下、より好ましくは15.0以下、さらに好ましくは12.0以下である。
/Iを上記上限値以下とすることにより、硫化物系無機固体電解質材のリチウムイオン伝導性をより向上させることができる。さらに、このような硫化物系無機固体電解質材料を用いると、入出力特性により一層優れた全固体型リチウムイオン電池を得ることができる。
ここで、回折角2θ=15.7±0.3°の位置における最大回折強度は、基準の回折強度であり、回折角2θ=26.9±0.9°の位置に存在する回折ピークは硫化リチウム由来の回折ピークである。
したがって、I/Iは、硫化物系無機固体電解質材中の硫化リチウムの含有量の指標を表している。I/Iが小さいほど、硫化物系無機固体電解質材に含まれる硫化リチウムの量が少ないことを意味する。
硫化リチウムはリチウムイオン伝導性が低いため、硫化リチウムの含有量が少ないほど硫化物系無機固体電解質材のリチウムイオン伝導性は向上するものと考えられる。
また、I/Iは小さければ小さいほど好ましいため下限値は特に限定されないが、例えば0.01以上である。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料において、27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz〜7MHzの測定条件における交流インピーダンス法による、硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度が、好ましくは1.0×10−4S・cm−1以上、より好ましくは2.2×10−4S・cm−1以上、さらに好ましくは2.5×10−4S・cm−1以上、特に好ましくは2.8×10−4S・cm−1以上である。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度が上記下限値以上であると、より一層電池特性に優れた全固体型リチウムイオン電池を得ることができる。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、当該硫化物系無機固体電解質材料中のPの含有量に対するLiの含有量のモル比(Li/P)が好ましくは1.0以上10.0以下であり、より好ましくは1.5以上5.0以下であり、さらに好ましくは1.8以上4.5以下であり、さらにより好ましくは2.0以上4.4以下であり、特に好ましくは2.3以上4.3以下である。
また、Pの含有量に対するSの含有量のモル比(S/P)が好ましくは1.0以上10.0以下であり、より好ましくは2.5以上6.0以下であり、さらに好ましくは3.0以上5.0以下であり、さらにより好ましくは3.5以上4.8以下であり、特に好ましくは3.7以上4.5以下である。
ここで、本実施形態の固体電解質材料中のLi、P、およびSの含有量は、例えば、ICP発光分光分析により求めることができる。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の形状としては、例えば粒子状を挙げることができる。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は特に限定されないが、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50が、好ましくは1μm以上40μm以下であり、より好ましくは2μm以上30μm以下、さらに好ましくは3μm以上25μm以下である。
硫化物系無機固体電解質材料の平均粒子径d50を上記範囲内とすることにより、良好なハンドリング性を維持すると共に、得られる固体電解質膜のリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、例えば、全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に用いられる。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料を適用した全固体型リチウムイオン電池の例としては、正極層と、固体電解質層と、負極層とがこの順番に積層されたものが挙げられる。この場合、固体電解質層が硫化物系無機固体電解質材料により構成されたものである。
[硫化物系無機固体電解質材料の製造方法]
次に、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の製造方法について説明する。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の製造方法は、従来の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法とは異なるものである。安息角が上記範囲内にある本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、硫化物系無機固体電解質材料の組成比率や、原料である無機組成物を結晶化してからガラス化すること等の製造条件を高度に制御することが重要である。
より具体的には、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、以下の(A)〜(C)の工程を含む製造方法により得ることができる。また、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の製造方法は、以下の(D)および(E)の工程をさらに含んでもよい。
工程(A):原料である2種以上の無機化合物を含む無機組成物を準備する工程
工程(B):準備した無機組成物を加熱することにより無機組成物を結晶化する工程
工程(C):結晶化した無機組成物を機械的処理することにより、原料である無機化合物同士を化学反応させながら無機組成物をガラス化する工程
工程(D):得られたガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)と、ガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料(Y)とを混合する工程
工程(E):得られた硫化物系無機固体電解質材料を粉砕、分級、または造粒する工程
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の製造方法によれば、従来の製造方法に比べて、無機組成物をガラス化する工程を大幅に短縮することができ、その結果、硫化物系無機固体電解質材料の製造時間を短縮することが可能である。この理由については明らかではないが、以下の理由が推察される。
まず、ガラス状態の無機組成物は準安定状態である。一方、結晶状態の無機組成物は安定状態にある。また、2種以上の無機化合物を含む無機組成物を加熱すると活性化エネルギー以上のエネルギーを簡単に与えることができるので、エネルギーの放出とともに低いエネルギー状態である結晶状態の無機組成物が短時間で得られる。そして、安定状態の自由エネルギーと準安定状態の自由エネルギーは近いため、より小さなエネルギーで安定状態の結晶状態から準安定状態のガラス状態にすることができる。
以上の理由から、無機組成物をガラス化する工程(C)の前に、無機組成物を結晶化する工程(B)をおこない、あらかじめ無機組成物を安定状態である結晶状態とすることにより、より小さなエネルギーで準安定状態のガラス状態にすることができ、従来の製造方法に比べて、無機組成物をガラス化する工程を大幅に短縮することができると考えられる。
そして、より小さなエネルギーで準安定状態のガラス状態にすることができるため、安息角が上記範囲内にある本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料が得られると考えられる。
以下、各工程について詳細に説明する。
(無機組成物を準備する工程(A))
はじめに、原料である2種以上の無機化合物を含む無機組成物を準備する。
無機化合物としては機械的処理により互いに化学反応して、構成元素としてLi、P、およびSを含む硫化物系無機固体電解質材料を生成する化合物を2種以上用いる。これらの無機化合物は、生成させる硫化物系無機固体電解質材料に応じて適宜選択することができ、例えば、硫化リチウム、硫化リン、窒化リチウム等を用いることができる。
上記無機組成物は、例えば、生成させる硫化物系無機固体電解質材料が所望の組成比になるように、原料である2種以上の無機化合物を所定のモル比で混合することにより得ることができる。
2種以上の無機化合物を混合する方法としては各無機化合物を均一に混合できる混合方法であれば特に限定されないが、例えば、乳鉢、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、打撃粉砕装置、ミキサー(パグミキサー、リボンミキサー、タンブラーミキサー、ドラムミキサー、V型混合器等)、気流粉砕機等を用いて混合することができる。
各無機化合物を混合するときの攪拌速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
原料として用いる硫化リチウムとしては特に限定されず、市販されている硫化リチウムを使用してもよいし、例えば、水酸化リチウムと硫化水素との反応により得られる硫化リチウムを使用してもよい。高純度な硫化物系無機固体電解質材料を得る観点および副反応を抑制する観点から、不純物の少ない硫化リチウムを使用することが好ましい。
ここで、本実施形態において、硫化リチウムには多硫化リチウムも含まれる。
原料として用いる硫化リンとしては特に限定されず、市販されている硫化リン(例えば、P、P、P、P等)を使用することができる。高純度な硫化物系無機固体電解質材料を得る観点および副反応を抑制する観点から、不純物の少ない硫化リンを使用することが好ましい。また、硫化リンに代えて、相当するモル比の単体リン(P)および単体硫黄(S)を用いることもできる。単体リン(P)および単体硫黄(S)は、工業的に生産され、販売されているものであれば、特に限定なく使用することができる。
原料である無機化合物としては窒化リチウムを用いてもよい。ここで、窒化リチウム中の窒素はNとして系内に排出されるため、原料である無機化合物として窒化リチウムを利用することで、構成元素としてLi、P、およびSを含む硫化物系無機固体電解質材料に対し、Li組成のみを増加させることが可能となる。
本実施形態の窒化リチウムとしては特に限定されず、市販されている窒化リチウム(例えば、LiN等)を使用してもよいし、例えば、金属リチウム(例えば、Li箔)と窒素ガスとの反応により得られる窒化リチウムを使用してもよい。高純度な固体電解質材料を得る観点および副反応を抑制する観点から、不純物の少ない窒化リチウムを使用することが好ましい。
(無機組成物を結晶化する工程(B))
つづいて、準備した無機組成物を加熱することにより無機組成物を結晶化する。
無機組成物を加熱する際の温度としては特に限定されないが、200℃以上400℃以下の範囲内であることが好ましく、220℃以上320℃以下の範囲内であることがより好ましい。
無機組成物を加熱する時間は、無機組成物を結晶化できる時間であれば特に限定されるものではないが、例えば、1分間以上24時間以下の範囲内であり、好ましくは0.1時間以上10時間以下である。加熱の方法は特に限定されるものではないが、例えば、焼成炉を用いる方法を挙げることができる。なお、このような加熱する際の温度、時間等の条件は、本実施形態の無機材料の特性を最適なものにするため適宜調整することができる。
また、無機組成物が結晶化したかどうかは、例えば、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて、新たな結晶ピークが生成したか否かで判断することができる。
(無機組成物をガラス化する工程(C))
つづいて、結晶化した無機組成物を機械的処理することにより、原料である無機化合物同士を化学反応させながら無機組成物をガラス化する。
ここで、機械的処理は、原料である2種以上の無機化合物を機械的に衝突させることにより、化学反応させながら無機組成物をガラス化させることができるものであり、例えば、メカノケミカル処理等が挙げられる。
ここで、メカノケミカル処理とは、混合対象に、せん断力、衝突力または遠心力のような機械的エネルギーを加えつつガラス化する方法である。メカノケミカル処理によるガラス化をおこなう装置としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル、ロールミル等の粉砕・分散機や、削岩機や振動ドリル、インパクトドライバ等で代表される回転、押出しおよび打撃を組み合わせた機構からなる打撃粉砕装置等が挙げられる。これらの中でも、非常に高い衝撃エネルギーを効率良く発生させることができる観点から、ボールミルおよびビーズミルが好ましく、ボールミルが特に好ましい。また、連続生産性に優れている観点から、削岩機やインパクトドライバ等で代表される回転、押出しおよび打撃を組み合わせた機構からなる打撃粉砕装置が好ましい。
また、メカノケミカル処理は非活性雰囲気下でおこなうことが好ましい。これにより、無機組成物と、水蒸気や酸素等との反応を抑制することができる。
また、非活性雰囲気下とは、真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下のことである。上記非活性雰囲気下では、水分の接触を避けるために露点が−50℃以下であることが好ましく、−60℃以下であることがより好ましい。上記不活性ガス雰囲気下とは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下のことである。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましい。混合系への不活性ガスの導入方法としては、混合系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば特に限定されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法等が挙げられる。
また、結晶化した無機組成物をガラス化するときに、ヘキサン、トルエン、またはキシレン等の非プロトン性有機溶媒を添加して、溶媒に各原料を分散させた状態でガラス化してもよい。
結晶化した無機組成物をガラス化するときの回転速度や処理時間、温度、反応圧力、無機組成物に加えられる重力加速度等の混合条件は、無機組成物の種類や処理量によって適宜決定することができる。一般的には、回転速度が速いほど、ガラスの生成速度は速くなり、処理時間が長いほどガラスヘの転化率は高くなる。
通常は、線源としてCuKα線を用いたX線回折分析をしたとき、結晶化した無機組成物の回折ピークが消失または低下していたら、無機組成物はガラス化され、所望の硫化物系無機固体電解質材料が得られていると判断することができる。
ここで、無機組成物をガラス化する工程(C)では、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=15.7±0.3°の位置における最大回折強度をバックグラウンド強度Iとし、回折角2θ=26.9±0.9°の位置に存在する回折ピークの回折強度をIとしたとき、I/Iの値が好ましくは20.0以下、より好ましくは15.0以下、さらに好ましくは12.0以下となるまで機械的処理をおこなうことが好ましい。
/Iを上記上限値以下とすることにより、硫化物系無機固体電解質材のリチウムイオン伝導性をより向上させることができる。さらに、このような硫化物系無機固体電解質材料を用いると、入出力特性により一層優れた全固体型リチウムイオン電池を得ることができる。
ここで、回折角2θ=15.7±0.3°の位置における最大回折強度は、基準の回折強度であり、回折角2θ=26.9±0.9°の位置に存在する回折ピークは硫化リチウム由来の回折ピークである。
したがって、I/Iは、硫化物系無機固体電解質材中の硫化リチウムの含有量の指標を表している。I/Iが小さいほど、硫化物系無機固体電解質材に含まれる硫化リチウムの量が少ないことを意味する。
硫化リチウムはリチウムイオン伝導性が低いため、硫化リチウムの含有量が少ないほど硫化物系無機固体電解質材のリチウムイオン伝導性は向上するものと考えられる。
また、上記無機組成物をガラス化する工程(C)では、27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz〜7MHzの測定条件における交流インピーダンス法によるリチウムイオン伝導度が好ましくは1.0×10−4S・cm−1以上、より好ましくは1.2×10−4S・cm−1以上となるまで機械的処理をおこなうことが好ましい。これにより、リチウムイオン伝導性により一層優れた硫化物系無機固体電解質材料を得ることができる。
(ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料と、ガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料とを混合する工程(D))
次いで、得られたガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)に対し、ガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料(Y)をさらに混合する工程をさらにおこなってもよい。これにより、リチウムイオン伝導性により一層優れた硫化物系無機固体電解質材料を得ることができる。
ここで、ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)とガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料(Y)との混合方法としては特に限定されないが、例えば、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル、ロールミル等の粉砕・分散機や、削岩機や振動ドリル、インパクトドライバ等で代表される回転、押出しおよび打撃を組み合わせた機構からなる打撃粉砕装置等を用いた混合方法が挙げられる。
また、ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)とガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料(Y)との混合は非活性雰囲気下でおこなうことが好ましい。これにより、硫化物系無機固体電解質材料と、水蒸気や酸素等との反応を抑制することができる。
また、非活性雰囲気下とは、真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下のことである。上記非活性雰囲気下では、水分の接触を避けるために露点が−50℃以下であることが好ましく、−60℃以下であることがより好ましい。上記不活性ガス雰囲気下とは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下のことである。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましい。混合系への不活性ガスの導入方法としては、混合系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば特に限定されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法等が挙げられる。
ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)とガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料(Y)とを混合するときの回転速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物の種類や処理量によって適宜決定することができる。
通常は、線源としてCuKα線を用いたX線回折分析をしたとき、ガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料(Y)の回折ピークが消失または低下していたら、ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)とガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料(Y)とは十分に混合され、所望の硫化物系無機固体電解質材料が得られていると判断することができる。
ガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料(Y)は、例えば、ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)を加熱することにより得ることができる。ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)を加熱する際の温度としては特に限定されないが、200℃以上400℃以下の範囲内であることが好ましく、220℃以上320℃以下の範囲内であることがより好ましい。
ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)を加熱する時間は、ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)をガラスセラミック化できる時間であれば特に限定されるものではないが、例えば、1分間以上24時間以下の範囲内であり、好ましくは0.1時間以上10時間以下である。加熱の方法は特に限定されるものではないが、例えば、焼成炉を用いる方法を挙げることができる。なお、このような加熱する際の温度、時間等の条件は、本実施形態の無機材料の特性を最適なものにするため適宜調整することができる。
また、ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)がガラスセラミック化したかどうかは、例えば、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて、新たな結晶ピークが生成したか否かで判断することができる。
ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)に対するガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料(Y)の混合比(質量比)は特に限定されないが、好ましくは0.1以上10以下、より好ましくは0.2以上5.0以下、さらに好ましくは0.4以上2.0以下、特に好ましくは0.6以上1.5以下である。
混合比が上記範囲内であると、得られる硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性と製膜性のバランスがより一層優れる。
(粉砕、分級、または造粒する工程(E))
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の製造方法では、必要に応じて、得られた硫化物系無機固体電解質材料を粉砕、分級、または造粒する工程をさらにおこなってもよい。例えば、粉砕により微粒子化し、その後、分級操作や造粒操作によって粒子径を調整することにより、所望の粒子径を有する硫化物系無機固体電解質材料を得ることができる。上記粉砕方法としては特に限定されず、ミキサー、気流粉砕、乳鉢、回転ミル、コーヒーミル等公知の粉砕方法を用いることができる。また、上記分級方法としては特に限定されず、篩等公知の方法を用いることができる。
これらの粉砕または分級は、空気中の水分との接触を防ぐことができる点から、不活性ガス雰囲気下または真空雰囲気下で行うことが好ましい。
[固体電解質膜]
次に、本実施形態に係る固体電解質膜について説明する。
本実施形態に係る固体電解質膜は、前述した本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料を主成分として含む固体電解質膜である。
本実施形態に係る固体電解質膜は、例えば、全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に用いられる。
本実施形態に係る固体電解質膜を適用した全固体型リチウムイオン電池の例としては、正極層と、固体電解質層と、負極層とがこの順番に積層されたものが挙げられる。この場合、固体電解質層が固体電解質膜により構成されたものである。
本実施形態に係る固体電解質膜の平均厚みは、好ましくは5μm以上500μm以下であり、より好ましくは10μm以上200μm以下であり、さらに好ましくは20μm以上100μm以下である。上記固体電解質膜の平均厚みが上記下限値以上であると、硫化物系無機固体電解質材料の欠落や、固体電解質膜表面のクラックの発生をより一層抑制できる。また、上記固体電解質膜の平均厚みが上記上限値以下であると、固体電解質膜のインピーダンスをより一層低下させることができる。その結果、得られる全固体型リチウムイオン電池の電池特性をより一層向上できる。
本実施形態に係る固体電解質膜は、粉末状の硫化物系無機固体電解質材料の加圧成形体であることが好ましい。すなわち、粒子状の無機固体電解質材料を加圧し、無機固体電解質材料同士のアンカー効果で一定の強度を有する固体電解質膜とすることが好ましい。
加圧成形体とすることにより、無機固体電解質材料同士の結合が起こり、得られる固体電解質膜の強度はより一層高くなる。その結果、無機固体電解質材料の欠落や、無機固体電解質材料表面のクラックの発生をより一層抑制できる。
本実施形態に係る固体電解質膜中の上記した本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の含有量は、固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。これにより、無機固体電解質材料間の接触性が改善され、固体電解質膜の界面接触抵抗を低下させることができる。その結果、固体電解質膜のリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。そして、このようなリチウムイオン伝導性に優れた固体電解質膜を用いることにより、得られる全固体型リチウムイオン電池の電池特性をより一層向上できる。
固体電解質膜の平面形状は、特に限定されず、電極層や集電体層の形状に合わせて適宜選択することが可能であるが、例えば、矩形とすることができる。
また、本実施形態に係る固体電解質膜にはバインダー樹脂が含まれてもよいが、バインダー樹脂の含有量は、固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、好ましくは0.5質量%未満、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下、さらにより好ましくは0.01質量%以下である。また、本実施形態に係る固体電解質膜は、バインダー樹脂を実質的に含まないことがさらにより好ましく、バインダー樹脂を含まないことが最も好ましい。
これにより、固体電解質材料間の接触性が改善され、固体電解質膜の界面接触抵抗を低下させることができる。その結果、固体電解質膜のリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。そして、このようなリチウムイオン伝導性に優れた固体電解質膜を用いることにより、得られる全固体型リチウムイオン電池の電池特性を向上できる。
なお、「バインダー樹脂を実質的に含まない」とは、本実施形態の効果が損なわれない程度には含有してもよいことを意味する。また、固体電解質層と正極層または負極層との間に粘着性樹脂層を設ける場合、固体電解質層と粘着性樹脂層との界面近傍に存在する粘着性樹脂層由来の粘着性樹脂は、「固体電解質膜中のバインダー樹脂」から除かれる。
上記バインダー樹脂とは固体電解質材料間を結着させるために、リチウムイオン電池に一般的に使用される結着剤のことをいい、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン・ブタジエン系ゴム、ポリイミド等が挙げられる。
本実施形態に係る固体電解質膜は、例えば、粉末状の硫化物系無機固体電解質材料を金型のキャビティ表面上または基材表面上に膜状に堆積させ、次いで、膜状に堆積した硫化物系無機固体電解質材料を加圧することにより得ることができる。
上記硫化物系無機固体電解質材料を加圧する方法は特に限定されず、例えば、金型のキャビティ表面上に粉末状の硫化物系無機固体電解質材料を堆積させた場合は金型と押し型によるプレス、粉末状の硫化物系無機固体電解質材料を基材表面上に堆積させた場合は金型と押し型によるプレスやロールプレス、平板プレス等を用いることができる。
硫化物系無機固体電解質材料を加圧する圧力は、例えば、10MPa以上500MPa以下である。
また、必要に応じて、膜状に堆積した硫化物系無機固体電解質材料を加圧するとともに加熱してもよい。加熱加圧を行えば硫化物系無機固体電解質材料同士の融着・結合が起こり、得られる固体電解質膜の強度はより一層高くなる。その結果、硫化物系無機固体電解質材料の欠落や、硫化物系無機固体電解質材料表面のクラックの発生をより一層抑制できる。
硫化物系無機固体電解質材料を加熱する温度は、例えば、40℃以上500℃以下である。
[全固体型リチウムイオン電池]
つぎに、本実施形態に係る全固体型リチウムイオン電池200について説明する。図1は、本発明に係る実施形態の全固体型リチウムイオン電池200の構造の一例を模式的に示した断面図である。本実施形態に係る全固体型リチウムイオン電池200はリチウムイオン二次電池であるが、リチウムイオン一次電池であってもよい。
本実施形態に係る全固体型リチウムイオン電池200は、正極層210と、固体電解質層220と、負極層230とがこの順番に積層されてなる。そして、固体電解質層220が、本実施形態に係る固体電解質膜により構成されたものである。
また、実施形態に係る全固体型リチウムイオン電池200は、正極層210と、固体電解質層220と、負極層230とにより構成される単位セルを2つ以上積層させることにより、バイポーラ型リチウムイオン電池とすることもできる。
全固体型リチウムイオン電池200の形状は特に限定されず、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状が挙げられる。
本実施形態に係る全固体型リチウムイオン電池200は、一般的に公知の方法に準じて製造される。例えば、正極層210と、固体電解質層220と、負極層230とを重ねたものを、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状に形成することにより作製される。
正極層210は特に限定されず、全固体型リチウムイオン電池に一般的に用いられている正極を使用することができる。正極層210は特に限定されないが、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、正極活物質を含む正極活物質層をアルミ箔等の集電体上に形成することにより得ることができる。
正極活物質層の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
上記正極活物質層は正極活物質を含む。
正極活物質としては特に限定されず、全固体型リチウムイオン電池の正極層に使用可能な一般的に公知の正極活物質を用いることができる。例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)、固溶体酸化物(LiMnO−LiMO(M=Co、Ni等))、リチウム−マンガン−ニッケル酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、オリビン型リチウムリン酸化物(LiFePO)等の複合酸化物;ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子;LiS、CuS、Li−Cu−S化合物、TiS、FeS、MoS、Li−Mo−S化合物、Li−Ti−S化合物、Li−V−S化合物等の硫化物系正極活物質;硫黄を含浸したアセチレンブラック、硫黄を含浸した多孔質炭素、硫黄と炭素の混合粉等の硫黄を活物質とした材料;等を用いることができる。これらの正極活物質は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、より高い放電容量密度を有し、かつ、サイクル特性により優れる観点から、硫化物系正極活物質が好ましく、Li−Mo−S化合物、Li−Ti−S化合物、Li−V−S化合物から選択される一種または二種以上がより好ましい。
ここで、Li−Mo−S化合物は構成元素としてLi、Mo、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるモリブデン硫化物および硫化リチウムをメカノケミカル処理等の混合粉砕することにより得ることができる。
また、Li−Ti−S化合物は構成元素としてLi、Ti、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるチタン硫化物と硫化リチウムをメカノケミカル処理等の混合粉砕することにより得ることができる。
Li−V−S化合物は構成元素としてLi、V、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるバナジウム硫化物と硫化リチウムをメカノケミカル処理等の混合粉砕することにより得ることができる。
上記正極活物質層は特に限定されないが、正極活物質以外の成分として、例えば、固体電解質材料、バインダー、導電助剤等から選択される一種または二種以上の材料を含んでもよい。
正極活物質層中の各種材料の配合割合は、電池の使用用途等に応じて、適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
負極層230は特に限定されず、全固体型リチウムイオン電池に一般的に用いられているものを使用することができる。負極層230は特に限定されないが、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、負極活物質を含む負極活物質層を銅箔等の集電体上に形成することにより得ることができる。
負極活物質層の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
上記負極活物質層は負極活物質を含む。
負極活物質としては特に限定されず、全固体型リチウムイオン電池の負極層に使用可能な一般的に公知の負極活物質を用いることができる。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、樹脂炭、炭素繊維、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素質材料;スズ、スズ合金、シリコン、シリコン合金、ガリウム、ガリウム合金、インジウム、インジウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等を主体とした金属系材料;ポリアセン、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性ポリマー;金属リチウム;リチウムチタン複合酸化物(例えばLiTi12)等が挙げられる。これらの負極活物質は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記負極活物質層は特に限定されないが、負極活物質以外の成分として、例えば、固体電解質材料、バインダー、導電助剤等から選択される一種または二種以上の材料を含んでもよい。
負極活物質層中の各種材料の配合割合は、電池の使用用途等に応じて、適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<評価方法>
はじめに、以下の実施例および比較例における評価方法を説明する。
(1)粒度分布
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マルバーン社製、マスターサイザー3000)を用いて、レーザー回折法により、実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料の粒度分布を測定した。測定結果から、各硫化物系無機固体電解質材料について、重量基準の累積分布における50%累積時の粒径(D50、平均粒径)をそれぞれ求めた。
(2)ICP発光分光分析
ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメント社製、SPS3000)を用いて、ICP発光分光分析法により測定し、実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料中の各元素の質量%をそれぞれ求め、それに基づいて、各元素のモル比をそれぞれ計算した。
(3)X線回折分析
X線回折装置(リガク社製、RINT2000)を用いて、X線回折分析法により、実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料の回折スペクトルをそれぞれ求めた。なお、線源としてCuKα線を用いた。ここで、回折角2θ=15.7±0.3°の位置における最大回折強度をバックグラウンド強度Iとし、回折角2θ=26.9±0.9°の位置に存在する回折ピークの回折強度をIとし、I/Iを求めた。
(4)リチウムイオン伝導度の測定
実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料に対して、交流インピーダンス法によるリチウムイオン伝導度の測定をおこなった。
リチウムイオン伝導度の測定は、北斗電工社製のポテンショスタット/ガルバノスタットSP−300を用いた。試料の大きさはφ9.5mm、厚さ1.3mm、測定条件は、印加電圧10mV、測定温度27.0℃、測定周波数域0.1Hz〜7MHz、電極はLi箔とした。
ここで、リチウムイオン伝導度測定用の試料としては、プレス装置を用いて、実施例および比較例で得られた粉末状の硫化物系無機固体電解質材料を270MPa、10分間プレスして得られる厚さ1.3mmの板状の硫化物系無機固体電解質材料を用いた。
(5)安息角の測定
安息角の測定は粉体流動計(古河機械金属社製、JIS Z2502準拠)を用いて注入法で行った。実施例および比較例で得られた粉末状の硫化物系無機固体電解質材料5gを秤量し、漏斗(傾斜角60°)底部のφ2.63mm(排出孔径)のオリフィスから硫化物系無機固体電解質材料をφ14mmの円板に円錐状に堆積させ、その円錐の母線と底面とがなす角(安息角)αを計測した。ここで、漏斗の排出孔から円板までの距離は25mmとした。
tan α=円錐の高さ/(0.5×円板の直径)
(6)製膜性の評価
実施例および比較例で得られた粉末状の硫化物系無機固体電解質材料10mgを、270MPaでφ14mm×0.4mmにプレス成型して固体電解質膜を作製した。次いで、得られた固体電解質膜の表面を電子顕微鏡(SEM)で観察し、硫化物系無機固体電解質材料の製膜性を以下の基準で評価した。
〇:硫化物系無機固体電解質材料の粉末同士の結着性が良好で、かつ、硫化物系無機固体電解質材料の粉末同士が結着して硫化物系無機固体電解質材料が緻密化している
×:硫化物系無機固体電解質材料の粉末同士の結着性が不良で、かつ、固体電解質膜表面に細かいクラックが発生し、硫化物系無機固体電解質材料が緻密化していない
<実施例1>
構成元素としてLi、PおよびSを含む粉末状の硫化物系無機固体電解質材料を以下の手順で作製した。
原料には、LiS(Alfa Aesar製、純度99.9%)、P(関東化学製試薬)を使用した。LiNは、以下の手順で作製した。
まず、窒素雰囲気のグローブボックス中で、Li箔(本城金属社製純度99.8%、厚さ0.5mm)にステンレス製の剣山を使用し、φ1mm以下の穴を多数開けた。Li箔は穴の部分から黒紫色に変化し始め、そのまま、常温で24時間放置することでLi箔すべてが黒紫色のLiNに変化した。LiNは、メノウ乳鉢で粉砕後、ステンレス製篩で篩い分けし、75μm以下の粉末を回収し硫化物系無機固体電解質材料の原料とした。
つづいて、アルゴングローブボックス中で各原料をLiS:P:LiN=67.5:22.5:10.0(モル%)になるように精秤し、これら粉末を20分間メノウ乳鉢で混合し、無機組成物を得た。次いで、無機組成物5gを秤量し、アルミナルツボ中で300℃、1時間加熱処理し、無機組成物を結晶化した。次いで、結晶化した無機組成物2gを秤量し、φ10mmのジルコニア製ボール500gとともに、アルミナ製ボールミルポット(内容積400mL)に入れ、125rpmで6時間混合粉砕することで硫化物系無機固体電解質材料を得た。
得られた硫化物系無機固体電解質材料について各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
<実施例2〜4>
Li/PおよびS/Pが表1に示す値になるように各原料の比率を変更した以外は実施例1と同様にして硫化物系無機固体電解質材料をそれぞれ作製し、各評価をそれぞれおこなった。得られた結果を表1にそれぞれ示す。
<実施例5>
原料には、LiS(Alfa Aesar製、純度99.9%)、P(関東化学製試薬)を使用した。つづいて、アルゴングローブボックス中で各原料をLiS:P=80.0:20.0(モル%)になるように精秤し、これら粉末を10分間メノウ乳鉢で混合し、無機組成物を得た。次いで、無機組成物5gを秤量し、アルミナルツボ中で220℃で1時間加熱処理し、無機組成物を結晶化した。結晶化した無機組成物2gを秤量し、φ10mmのジルコニア製ボール500gとともに、アルミナ製ボールミルポット(内容積400mL)に入れ、125rpmで6時間混合粉砕することで硫化物系無機固体電解質材料を得た。
得られた硫化物系無機固体電解質材料について各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
<実施例6>
無機組成物の加熱処理温度を240℃に変更した以外は実施例5と同様にして硫化物系無機固体電解質材料を作製し、各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
<実施例7>
無機組成物の加熱処理温度を260℃に変更した以外は実施例5と同様にして硫化物系無機固体電解質材料を作製し、各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
<実施例8>
無機組成物の加熱処理温度を280℃に変更した以外は実施例5と同様にして硫化物系無機固体電解質材料を作製し、各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
<実施例9>
無機組成物の加熱処理温度を300℃に変更した以外は実施例5と同様にして硫化物系無機固体電解質材料を作製し、各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
<実施例10>
無機組成物の加熱処理温度を280℃に変更し、かつ、各原料の割合をLiS:P=70.0:30.0(モル%)とした以外は実施例5と同様にして硫化物系無機固体電解質材料を作製し、各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
<実施例11>
無機組成物の加熱処理温度を280℃に変更し、かつ、各原料の割合をLiS:P=75.0:25.0(モル%)とした以外は実施例5と同様にして硫化物系無機固体電解質材料をそれぞれ作製し、各評価をおこなった。
得られた結果を表1に示す。
<実施例12>
原料には、LiS(Alfa Aesar製、純度99.9%)、P(関東化学製試薬)を使用した。つづいて、アルゴングローブボックス中で各原料をLiS:P=80.0:20.0(モル%)になるように精秤し、これら粉末を10分間メノウ乳鉢で混合し、無機組成物を得た。次いで、無機組成物5gを秤量し、アルミナルツボ中で300℃で1時間加熱処理し、無機組成物を結晶化した。結晶化した無機組成物2gを秤量し、φ10mmのジルコニア製ボール500gとともに、アルミナ製ボールミルポット(内容積400mL)に入れ、125rpmで6時間混合粉砕することで硫化物系無機固体電解質材料を得た。得られた硫化物系無機固体電解質材料について各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
<比較例1>
原料には、LiS(Alfa Aesar製、純度99.9%)、P(関東化学製試薬)を使用した。つづいて、アルゴングローブボックス中で各原料をLiS:P=80.0:20.0(モル%)になるように精秤し、これら粉末を20分間メノウ乳鉢で混合し、無機組成物を得た。次いで、無機組成物2gを秤量し、φ10mmのジルコニア製ボール500gとともに、アルミナ製ボールミルポット(内容積400mL)に入れ、 125rpmで200時間混合粉砕することで硫化物系無機固体電解質材料を得た。得られた硫化物系無機固体電解質材料について各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
<比較例2>
実施例1で得られたガラス状の硫化物系無機固体電解質材料を2g秤量し、アルゴングローブボックス中で300℃、2時間加熱処理することでガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料を得た。得られたガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料について各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
<実施例13>
実施例1で得られたガラス状の硫化物系無機固体電解質材料と比較例2で得られたガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料を質量比で5:5になるように秤量し、これら粉末を20分間メノウ乳鉢で混合した。次いで、混合粉末2gを秤量し、φ10mmのジルコニア製ボール500gとともに、アルミナ製ボールミルポット(内容積400mL)に入れ、125rpmで1時間混合することで硫化物系無機固体電解質材料を得た。得られた硫化物系無機固体電解質材料について各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
<比較例3>
実施例12で得られたガラス状の硫化物系無機固体電解質材料を2g秤量し、アルゴングローブボックス中で270℃、2時間加熱処理することでガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料を得た。得られたガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料について各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
<実施例14>
実施例12で得られたガラス状の硫化物系無機固体電解質材料と比較例3で得られたガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料を質量比で5:5になるように秤量し、これら粉末を20分間メノウ乳鉢で混合した。次いで、混合粉末2gを秤量し、φ10mmのジルコニア製ボール500gとともに、アルミナ製ボールミルポット(内容積400mL)に入れ、125rpmで1時間混合することで硫化物系無機固体電解質材料を得た。得られた硫化物系無機固体電解質材料について各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
Figure 0006822809
安息角が57°以上70°以下である実施例1〜14の硫化物系無機固体電解質材料はリチウムイオン伝導性および製膜性に優れていた。これに対し、安息角が57°未満である比較例1〜3の硫化物系無機固体電解質材料はリチウムイオン伝導性に優れていたものの製膜性に劣っていた。
また、ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料と、ガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料とを混合して得られる実施例13および14の硫化物系無機固体電解質材料はリチウムイオン伝導性が特に優れていた。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
リチウムイオン伝導性を有し、かつ、構成元素としてLi、PおよびSを含む粉末状の硫化物系無機固体電解質材料であって、
25℃、アルゴン雰囲気下で測定される安息角が57°以上70°以下である硫化物系無機固体電解質材料。
2.
1.に記載の硫化物系無機固体電解質材料において、
前記硫化物系無機固体電解質材料中の前記Pの含有量に対する前記Liの含有量のモル比(Li/P)が1.0以上10.0以下であり、前記Pの含有量に対する前記Sの含有量のモル比(S/P)が1.0以上10.0以下である硫化物系無機固体電解質材料。
3.
1.または2.に記載の硫化物系無機固体電解質材料において、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における、前記硫化物系無機固体電解質材料の平均粒子径d 50 が1μm以上40μm以下である硫化物系無機固体電解質材料。
4.
1.乃至3.のいずれか一つに記載の硫化物系無機固体電解質材料において、
全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に用いられる硫化物系無機固体電解質材料。
5.
1.乃至4.のいずれか一つに記載の硫化物系無機固体電解質材料において、
線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=15.7±0.3°の位置における最大回折強度をバックグラウンド強度I とし、回折角2θ=26.9±0.9°の位置に存在する回折ピークの回折強度をI としたとき、I /I の値が20.0以下である硫化物系無機固体電解質材料。
6.
1.乃至5.のいずれか一つに記載の硫化物系無機固体電解質材料において、
27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz〜7MHzの測定条件における交流インピーダンス法による、前記硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度が1.0×10 −4 S・cm −1 以上である硫化物系無機固体電解質材料。
7.
1.乃至6.のいずれか一つに記載の硫化物系無機固体電解質材料を主成分として含む固体電解質膜。
8.
正極層と、固体電解質層と、負極層とがこの順番に積層された全固体型リチウムイオン電池であって、
前記固体電解質層が7.に記載の固体電解質膜により構成されたものである全固体型リチウムイオン電池。
9.
1.乃至6.のいずれか一つに記載の硫化物系無機固体電解質材料を製造するための製造方法であって、
ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)と、ガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料(Y)とを混合する工程を含む硫化物系無機固体電解質材料の製造方法。
10.
9.に記載の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法であって、
前記ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)に対する前記ガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料(Y)の混合比(質量比)が0.1以上10以下である硫化物系無機固体電解質材料の製造方法。
200 全固体型リチウムイオン電池
210 正極層
220 固体電解質層
230 負極層

Claims (10)

  1. リチウムイオン伝導性を有し、かつ、構成元素としてLi、PおよびSを含む粉末状の硫化物系無機固体電解質材料であって、
    25℃、アルゴン雰囲気下で測定される安息角が57°以上70°以下である硫化物系無機固体電解質材料。
  2. 請求項1に記載の硫化物系無機固体電解質材料において、
    前記硫化物系無機固体電解質材料中の前記Pの含有量に対する前記Liの含有量のモル比(Li/P)が1.0以上10.0以下であり、前記Pの含有量に対する前記Sの含有量のモル比(S/P)が1.0以上10.0以下である硫化物系無機固体電解質材料。
  3. 請求項1または2に記載の硫化物系無機固体電解質材料において、
    レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における、前記硫化物系無機固体電解質材料の平均粒子径d50が1μm以上40μm以下である硫化物系無機固体電解質材料。
  4. 請求項1乃至3のいずれか一項に記載の硫化物系無機固体電解質材料において、
    全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に用いられる硫化物系無機固体電解質材料。
  5. 請求項1乃至4のいずれか一項に記載の硫化物系無機固体電解質材料において、
    線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=15.7±0.3°の位置における最大回折強度をバックグラウンド強度Iとし、回折角2θ=26.9±0.9°の位置に存在する回折ピークの回折強度をIとしたとき、I/Iの値が20.0以下である硫化物系無機固体電解質材料。
  6. 請求項1乃至5のいずれか一項に記載の硫化物系無機固体電解質材料において、
    27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz〜7MHzの測定条件における交流インピーダンス法による、前記硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度が1.0×10−4S・cm−1以上である硫化物系無機固体電解質材料。
  7. 請求項1乃至6のいずれか一項に記載の硫化物系無機固体電解質材料を主成分として含む固体電解質膜であって、
    前記固体電解質膜は前記硫化物系無機固体電解質材料の加圧成形体であり、
    前記固体電解質膜中のバインダー樹脂の含有量が前記固体電解質膜の全体を100質量%としたとき、0.5質量%未満である固体電解質膜
  8. 正極層と、固体電解質層と、負極層とがこの順番に積層された全固体型リチウムイオン電池であって、
    前記固体電解質層が請求項7に記載の固体電解質膜により構成されたものである全固体型リチウムイオン電池。
  9. 請求項1乃至6のいずれか一項に記載の硫化物系無機固体電解質材料を製造するための製造方法であって、
    ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)と、ガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料(Y)とを混合する工程を含む硫化物系無機固体電解質材料の製造方法。
  10. 請求項9に記載の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法であって、
    前記ガラス状の硫化物系無機固体電解質材料(X)に対する前記ガラスセラミック状の硫化物系無機固体電解質材料(Y)の混合比(質量比)が0.1以上10以下である硫化物系無機固体電解質材料の製造方法。
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