JP6822501B2 - 絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、絶縁被膜付き方向性電磁鋼板及びその製造方法に関する。本発明は、特に被膜張力が大きく、かつ、変圧器等の昇降温が複数繰り返される環境においても、被膜張力を保持でき、鉄損の低減効果も保持できる絶縁被膜付き方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
電磁鋼板は、回転機、静止器の鉄心材料として広く利用されている軟磁性材料である。特に、方向性電磁鋼板は、変圧器や発電機の鉄心材料として用いられる軟磁性材料で、鉄の磁化容易軸である<001>方位が鋼板の圧延方向に高度に揃った結晶組織を有するものである。このような集合組織は、方向性電磁鋼板の製造工程中、二次再結晶焼鈍の際にいわゆるゴス(Goss)方位と称される(110)〔001〕方位の結晶粒を優先的に巨大成長させる、二次再結晶を通じて形成される。
一般に、方向性電磁鋼板においては、絶縁性、加工性および防錆性等を付与するために表面に被膜(絶縁被膜)をもうける。かかる被膜は、最終仕上げ焼鈍時に形成されるフォルステライトを主体とする下地被膜とその上に形成されるリン酸塩系の上塗り被膜(絶縁張力被膜)からなる。
かかる被膜は、高温で鋼板表面に形成され、しかも低い熱膨張係数を持つことから、被膜が形成された方向性電磁鋼板の温度が室温まで下がった時の鋼板と被膜との熱膨張率の差により鋼板に張力を付与し、鉄損を低減させる効果がある。そのため、被膜にはできるだけ高い張力を鋼板に付与することが望まれている。
このような要望を満たすために、従来から種々の被膜が提案されている。例えば、特許文献1では、コロイド状シリカとリン酸マグネシウム、無水クロム酸を主体とする被膜が、また特許文献2では、コロイド状シリカとリン酸アルミニウム、無水クロム酸を主体とする被膜がそれぞれ提案され、長年にわたって使用されてきた。
特許文献3には、被膜張力の大きい被膜の材質に関する具備条件が開示されており、被膜を構成する物質の熱膨張率とヤング率で被膜張力が決定されるとしている。特許文献3によれば、被膜の熱膨張率が小さいほど、被膜張力は大きくなる。
近年、地球温暖化問題の深刻化により、変圧器のエネルギー変換ロスが改めて注目されている。このため、方向性電磁鋼板にはより一層の低鉄損化が求められ、さらに張力付与効果の大きい方向性電磁鋼板用絶縁被膜の開発が切望されている。
また、近年の環境保全への関心の高まりにより、クロムや鉛等の有害物質を含まない製品に対する要望が高まっており、方向性電磁鋼板においてもクロムフリー被膜の開発が望まれている。しかし、クロムフリー被膜の場合、張力付与不足、耐吸湿性の劣化、歪取焼鈍時の融着等の問題が発生するため、クロムフリーとすることは困難であった。
上述の問題を解決する方法として、特許文献4では、コロイド状シリカとリン酸アルミニウム、ホウ酸及び硫酸塩からなる処理液を用いた被膜形成方法が提案された。これにより、耐吸湿性や張力付与による鉄損低減効果は改善されたものの、この方法のみでは、クロムを含む被膜を形成した場合に比べると、鉄損の改善効果は十分とはいえなかった。
これら以外にもクロムフリー被膜の形成方法として、特許文献5、特許文献6が挙げられる。特許文献5では、Li、Al、Siの複合酸化物からなり、特にカオリナイトを原料とすることで1000℃以下の焼き付け温度でβ−石英型結晶構造を有する被膜を得る技術が開示されている。また、特許文献6では、リン酸ジルコニウム系化合物の微粒子を含有する被膜を得る技術が開示されている。
特公昭56−52117号公報 特公昭53−28375号公報 特開平6−248465号公報 特公昭57−9631号公報 特開2017−75358号公報 特開2017−137540号公報
確かに、特許文献5、6のように、ガラス質の被膜の一部を結晶化する、または結晶を含有させることは、耐密着性の向上、鋼板付与張力の向上に寄与するものである。しかしながら、このような絶縁被膜を有する絶縁被膜付き方向性電磁鋼板を実際に変圧器にした際に、鉄損が大きくなってしまう場合があることが判明した。
また、適切な結晶相(つまり熱膨張係数が小さい結晶)を選択することにより、高張力な被膜を得ることができるようになり、磁気特性が向上するというメリットがある一方、鋼板と被膜との熱膨張係数の差が大きくなりすぎることによって、被膜と鋼板の界面もしくは被膜中の絶縁張力被膜とフォルステライト被膜の界面に大きなせん断応力が生じ、特に変圧器の鉄心として利用される際に被膜が割れてしまうという問題が発生しやすくなり、被膜張力が減少するという問題が生じることがわかった。
本発明は、被膜張力が大きく、かつ、変圧器等の昇降温が複数繰り返される環境においても、被膜張力を保持でき、鉄損の低減効果も保持できる絶縁被膜付き方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
変圧器の鉄心は絶縁油に浸漬されており、運転中に鉄損、銅損などのエネルギーロスに起因してその絶縁油は150℃前後の温度まで昇温する。そのため実際に使用されている状態で鉄損等の特性に寄与するのは室温から100℃〜200℃の温度範囲での平均熱膨張係数である。
本発明者らは、結晶化を利用して張力を高めた絶縁被膜を形成した方向性電磁鋼板で、変圧器の運転条件を模した昇降温を複数回繰り返し、鉄損が大きくなった絶縁被膜と変化しなかった絶縁被膜の違いについて鋭意調査を行った。その結果、鉄損が大きくなった絶縁被膜に割れが大量に発生していることを見出した。本調査結果に基づき、絶縁被膜中に含まれる結晶相をできるだけ低熱膨張のものとし、且つ絶縁被膜の割れを防止する方法を鋭意検討したところ、負の熱膨張係数をもつ結晶相は不適切であることを知見し、本発明を完成するに至った。なお、本明細書における熱膨張係数は、25℃から200℃の温度範囲における平均熱膨張係数である。
即ち、本発明の要旨構成は、次の通りである。
[1]25℃から200℃の温度範囲における平均熱膨張係数が7.5×10−6/K以下、かつ、正の平均熱膨張係数を有する結晶をガラス中に含有する絶縁被膜を少なくとも片面に有することを特徴とする絶縁被膜付き方向性電磁鋼板。
[2]前記結晶がβ−スポジュメン型結晶構造を有することを特徴とする[1]に記載の絶縁被膜付き方向性電磁鋼板。
[3]前記結晶がβ−スポジュメン型結晶構造を有し、かつ、Al、Si、Liを含む複合酸化物からなることを特徴とする[1]または[2]に記載の絶縁被膜付きを有する方向性電磁鋼板。
[4]前記AlのLiに対するモル比が0.8〜1.2で、かつ、SiのLiに対するモル比が0.8〜7.5であることを特徴とする[3]に記載の絶縁被膜付きを有する方向性電磁鋼板。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかに記載の絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法であって、リン酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、およびアルミナゾルの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、硝酸リチウム、水酸化リチウム、珪酸リチウムの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、コロイド状シリカを含有する絶縁被膜形成用処理液を、仕上げ焼鈍済みの方向性電磁鋼板の表面に塗布し、950℃以上で焼き付けることを特徴とする絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法。
[6]上記[1]〜[4]のいずれかに記載の絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法であって、リン酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、およびアルミナゾルの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、珪酸リチウムを含有する絶縁被膜形成用処理液を、仕上げ焼鈍済みの方向性電磁鋼板の表面に塗布し、950℃以上で焼き付けることを特徴とする絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法。
[7]上記[1]〜[4]のいずれかに記載の絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法であって、リン酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、およびアルミナゾルの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、硝酸リチウム、水酸化リチウムの中から選ばれる1種又は2種の化合物と、珪酸リチウムを含有する絶縁被膜形成用処理液を、仕上げ焼鈍済みの方向性電磁鋼板の表面に塗布し、950℃以上で焼き付けることを特徴とする絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法。
[8]950℃以上の加熱時間W(秒)が6.0≦W≦150.0であり、800〜950℃の温度範囲での昇温速度V(℃/s)がW≦150.0/V、かつ、0.75≦Vを満たすことを特徴とする[5]〜[7]のいずれかに記載の絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明によれば、被膜張力が大きく、かつ、変圧器等の昇降温が複数繰り返される環境においても、被膜張力を保持でき、鉄損の低減効果も保持できる絶縁被膜付き方向性電磁鋼板が得られる。
本発明によれば、クロムを使用せず、結晶化を利用して鋼板への付与張力を向上させた低熱膨張の絶縁被膜を形成でき、かつ、変圧器として稼働した際に、高張力を保持できる絶縁被膜を形成できる。
絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の各試料に施した昇降温処理の条件を説明する図である。 実施例1で得られた絶縁被膜中の結晶の平均熱膨張係数と昇降温処理前後の被膜張力の関係を示すグラフである。 試料No.1−4の昇降温処理前後の絶縁被膜表面のSEM観察写真である。
以下、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
まず、絶縁被膜に含有させる結晶として、イットリア、β−スポジュメン、窒化マンガン、β−石英、リン酸タングステン酸ジルコニウム(ZWP:Zr(WO)(PO)をそれぞれ公知の方法で作製した。そして、各結晶の熱膨張係数をTMA(熱機械分析装置)を用いて測定した。なお、測定温度範囲は25℃〜200℃、昇温速度は5℃/分とした。測定の結果得られた各結晶の25℃から200℃の温度範囲における平均熱膨張係数を、それぞれ表1に追記した。
次に、絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の各試料を以下の方法で製作した。
公知の方法で製造された板厚:0.27mmの仕上焼鈍済みの方向性電磁鋼板を用意し、未反応の焼鈍分離剤を除去した後、歪取焼鈍(800℃、2時間、N雰囲気)を施した。歪取焼鈍後の前記鋼板の表面にはフォルステライトを主体とする被膜(下地被膜)が形成していた。次に、5質量%リン酸水溶液で軽酸洗した。
その後、第一リン酸マグネシウム水溶液100質量部(固形分換算)に対し、
(試料No.1−1)イットリアを40質量部
(試料No.1−2)β-スポジュメンを40質量部
(試料No.1−3)窒化マンガンを40質量部
(試料No.1−4)β−石英を40質量部
(試料No.1−5)リン酸タングステン酸ジルコニウム(ZWP)を40質量部
(試料No.1−6)結晶の添加なし
をそれぞれ混合し、純水で希釈して比重1.20に調製した絶縁被膜形成用処理液をそれぞれ調製した。そして前記各処理液を焼付後の目付量が両面合計で9.0g/mとなるようにロールコーターにて塗布して乾燥し、850℃、30秒間の条件で焼付を実施して絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の各試料を製造した。焼付雰囲気は窒素雰囲気とした。
かくして得られた絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の各試料について、X線回折により絶縁被膜中に上記各結晶が存在することを確認し(なお、試料No.1−6については結晶が存在しないことを確認し)、鋼板への付与張力及び方向性電磁鋼板の磁気特性を評価した。
鋼板への付与張力(被膜張力)は、圧延方向の張力とし、絶縁張力被膜付き方向性電磁鋼板の各試料から作成した圧延方向長さ280mm×圧延直角方向長さ30mmの試験片の一方の面の絶縁被膜が除去されないように粘着テープでマスキングしてから片面の被膜をアルカリ、酸などを用いて剥離して除去し、次いで前記試験片の片端30mmを固定して試験片250mmの部分を測定長さとしてそり量を測定し、下記式(I)を用いて算出した。
鋼板への付与張力[MPa]=鋼板ヤング率[GPa]×板厚[mm]×そり量[mm]÷(測定長さ[mm])×10・・・式(I)
ただし、鋼板ヤング率は、132GPaとした。
また、鉄損は、JIS C 2550に規定された方法で、絶縁張力被膜付き方向性電磁鋼板の各試料から作成した圧延方向長さ280mm×圧延直角方向長さ30mmの試験片を用いて測定を行った。
次に、実際の変圧器の運転条件を模した過程で上記絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の各試料に対して昇降温処理を実施した。図1に示すように、昇降温処理過程は、(1)25℃から200℃へ1時間かけて昇温、(2)200℃で10分間均熱保持、(3)200℃から25℃へ1時間かけて降温とし、上記各試料に(1)から(3)のサイクルを300回繰り返した。処理雰囲気は窒素雰囲気とした。昇降温処理前後の各試料について、鋼板への付与張力及び磁気特性を評価した。さらに、昇降温処理前後の絶縁被膜表面の状態をSEMによって観察した。
表1に、鋼板への付与張力および鉄損値(W17/50)の昇降温処理前後の値を示す。また、昇降温処理前後の絶縁被膜表面をSEMで観察し、昇降温処理後に絶縁被膜表面の割れが増加したものについては、備考欄にその旨を追記した。また、図3に、表1に示す試料No.1−4の昇降温処理前後の被膜表面のSEM観察写真を示す。
表1に示すとおり、試料No.1−4と試料No.1−5では、昇降温処理後に、絶縁被膜の割れが増加し、鋼板への付与張力が減少し、鉄損値も増加した。これは、負の熱膨張係数を持つ結晶を分散させた絶縁被膜と鋼板との熱膨張係数の差が非常に大きいため、25℃から200℃の温度間で絶縁被膜の熱伸縮が幾度も繰り返された影響で、絶縁被膜に割れが生じたためであると考えられる。これに対して、正の低熱膨張係数を持つ結晶を分散させた絶縁被膜を有する試料No.1−3では、昇降温処理後に、絶縁被膜の割れの増加は極わずかであり、試料No.1−1と試料No.1−2では、昇降温処理後に、絶縁被膜の割れの増加が観察されず、昇降温処理前後で、鋼板への付与張力および鉄損値が良好に保持され、従来例である結晶を添加していない試料No.1−6よりも優れた被膜張力及び鉄損値を得た。
以上の実験結果から、正の低熱膨張係数をもつ結晶(結晶相)を絶縁被膜中に分散させることで、変圧器の運転条件下(室温から200℃程度の温度間での昇降温が幾度も繰り返される条件下)でも高張力を保持可能な絶縁被膜を形成できることが分かった。
次に、本発明の各構成要件の限定理由について述べる。
本発明で対象とする鋼板は、方向性電磁鋼板であれば特に鋼種を問わない。通常、かような方向性電磁鋼板は、含珪素鋼スラブを、公知の方法で熱間圧延し、1回もしくは中間焼鈍を挟む複数回の冷間圧延により最終板厚に仕上げたのち、一次再結晶焼鈍を施し、ついで焼鈍分離剤を塗布してから最終仕上焼鈍を行うことによって製造される。
方向性電磁鋼板に形成される絶縁被膜は、低熱膨張係数を有する結晶をガラス中に含有することが好ましい。前記結晶の25℃〜200℃の温度範囲における平均熱膨張係数は7.5×10−6/Kで、かつ、正の平均熱膨張係数である。前記平均熱膨張係数が負の値の結晶を含む絶縁被膜であると、製造当初の鉄損は小さくなるものの、昇降温を繰り返した際に絶縁被膜に割れが生じ、鉄損がかえって大きくなってしまう。一方、前記平均熱膨張係数が7.5×10−6/Kを超える結晶を含む絶縁被膜や低熱膨張係数を有する結晶を含有しない絶縁被膜であると、張力を十分に付与できず、鉄損の低減効果が不十分になる。前記結晶の平均熱膨張係数は4.0×10−6/K以下で、かつ、正の平均熱膨張係数がより好ましく、3.0×10−6/K以下で、かつ、正の平均熱膨張係数がさらに好ましい。なお、本明細書において、25℃〜200℃の温度範囲における平均熱膨張係数が7.5×10−6/K以下で、かつ、正の平均熱膨張係数の結晶を、「低熱膨張性結晶」ともいう。
かかる低熱膨張性結晶の絶縁被膜中の含有量は、X線回折法にて検出可能な量であれば効果があるが、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、さらにより好ましくは40質量%以上である。結晶を配合した場合の絶縁被膜中の含有量は、計算で求めればよいが、析出した結晶を測定する場合は、絶縁被膜の断面をFIB加工した後、TEM像観察にて試料の傾斜を変化させた際の回折コントラストが異なる部分を低熱膨張性結晶の領域(結晶相)とし、その面積率の値を、予め既知の結晶量の試料を用いて作成した検量線を用いて補正し、含有量(質量%)を推定すればよい。
かかる低熱膨張性結晶を絶縁被膜中に含有させる方法の一例としては、予め低熱膨張性結晶を合成しこれを絶縁被膜形成用処理液中に均一分散させてから鋼板表面に塗布、焼付する方法(ここではフィラー法とよぶ)があげられる。
フィラー法では、前記予め合成した低熱膨張性結晶は、その平均粒子径がレーザー回折法で5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがさらに好ましい。
フィラー法では、まず、ガラス質の原料、例えばリン酸金属塩の水溶液に、予め合成した低熱膨張性結晶を添加し混合して絶縁被膜形成用処理液を調製する。次いで、前記絶縁被膜形成用処理液を方向性電磁鋼板の表面に塗布し、焼付する。
また、低熱膨張性結晶を絶縁被膜中に含有させる別の方法としては、ガラス質の被膜を結晶化処理することによって被膜のマトリックス中に均一に微細に結晶質相を形成する方法(ここではガラスセラミックス法とよぶ)が挙げられる。
ガラスセラミックス法としては、予め組成を調整したガラスを溶製、粉砕しガラスフリットとして、これを溶媒に分散した絶縁被膜形成用処理液を、鋼板表面に塗布、焼付したのち、熱処理などによって結晶化処理する方法が挙げられる。あるいは、例えば以下に示す好ましい態様の絶縁被膜形成用処理液を調整し、これを金属表面に塗布、焼付したのち、熱処理などによって結晶化処理を行なう方法などがある。
前記好ましい態様の絶縁被膜形成用処理液は、リン酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、およびアルミナゾルの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、硝酸リチウム、水酸化リチウム、珪酸リチウムの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、コロイド状シリカを含有する。
また、別の好ましい態様の絶縁被膜形成用処理液は、リン酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、およびアルミナゾルの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、珪酸リチウムを含有する。
さらに、別の好ましい態様の絶縁被膜形成用処理液は、リン酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、およびアルミナゾルの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、硝酸リチウム、水酸化リチウムの中から選ばれる1種又は2種の化合物と、珪酸リチウムを含有する。
低熱膨張性結晶を絶縁被膜中に含有させる方法としては、ガラスセラミックス法のほうがフィラー法よりも微細かつ均一に結晶相を絶縁被膜中に形成することが出来るため特性がよい傾向にある。なお、絶縁被膜中に低熱膨張性結晶が含まれているか否かは、絶縁被膜をX線回折法にて分析することで容易に判別することができる。
また、上記低熱膨張性結晶としては、所定の熱膨張係数を有していればよいが、β−スポジュメン型結晶、珪素窒化物、珪酸ジルコニウム、マンガン窒化物、アルミニウム窒化物、イットリアなどがあげられ、特にβ−スポジュメン型結晶構造を有する結晶(β−スポジュメン型結晶)が好ましい。β−スポジュメン型結晶を絶縁被膜中に含有することで、詳細は明らかではないが、被膜密着性をより向上することができる。なかでもβ−スポジュメン型結晶構造を有し、かつLi、Al、Siを含む複合酸化物が好ましい。β−スポジュメン型結晶を含有する絶縁被膜は、例えば上述したガラスセラミックス法において、絶縁被膜形成用処理液中のLi、Al、Siを一定の組成範囲内に調整することで、容易に得ることができる。
Li、Al、Siを一定の組成範囲内に調整する場合、最適な組成範囲は、AlのLiに対するモル比(Al/Li)が0.8〜1.2で、かつ、SiのLiに対するモル比(Si/Li)が0.8〜7.5とする。
これまで、低熱膨張結晶化ガラスは、溶融法によって得られることが知られており、この場合、高温による溶融と、それに続く長時間の結晶化熱処理が必要となる。
これに対し、フィラー法では、β−スポジュメン型結晶を予め合成しておき、これを絶縁被膜形成用処理液中に含有させることで、850℃、30秒間という、低温短時間の1回プロセスで、β−スポジュメン型結晶を分散させたガラス被膜を形成できることを見出した。フィラー法では、ガラス質の原料を含む混合水溶液の固形分換算100質量部に対し、β−スポジュメン型結晶を20質量部から80質量部添加した絶縁被膜形成用処理液を用いることが好ましく、40質量部から80質量部添加した絶縁被膜形成用処理液を用いることがより好ましい。
また、本発明のガラスセラミックス法を用いた場合にも、絶縁被膜形成用処理液を950℃、30秒間という、低温短時間の1回プロセスで処理することで、β−スポジュメン型結晶を含有する絶縁被膜を形成できる。β−スポジュメン型結晶が、このような簡略化された条件で得られ、さらに、それが、母鋼板に良好に密着し、実用的な被膜張力を発生するようになった理由としては、詳細は明らかでないが、水溶液(絶縁被膜形成用処理液)から絶縁被膜を形成するプロセスでは、溶融法と比べてHO(OH)の含有量が多いためにガラスの粘度が低く、原子移動が容易となり、低熱膨張性結晶の結晶化の速度が速いことが考えられる。
上記した絶縁被膜形成用処理液を電磁鋼板の表面に塗布、焼付けて絶縁被膜を形成する。絶縁被膜の目付量は、両面合計で4.0〜10.0g/mとすることが好ましい。目付量が4.0g/mより少ないと鋼板を積層した際の層間抵抗が不足し、10.0g/mより多いとJIS C2550−4に記載される占積率が低くなるためである。
かかる絶縁被膜の焼付けは、平坦化焼鈍を兼ねて、フィラー法の場合には850℃以上の温度範囲で10秒以上の加熱時間、ガラスセラミックス法の場合には、950℃以上の温度範囲で6.0秒以上の加熱時間とすることが好ましく、フィラー法の場合には850℃以上の温度範囲で10〜300秒の加熱時間、ガラスセラミックス法の場合には、950℃以上の温度範囲で6.0〜150.0秒の加熱時間とすることがより好ましく、フィラー法の場合には850℃〜1100℃の温度範囲で10〜300秒の加熱時間、ガラスセラミックス法の場合には、950℃〜1100℃の温度範囲で6.0〜150.0秒の加熱時間とすることがさらに好ましい。加熱温度が低すぎたり、加熱時間が短すぎると、平坦化が不十分で形状不良のために歩留りが低下し、低熱膨張性結晶が析出しないことがある。一方、加熱温度が高すぎると、平坦化焼鈍の効果が強すぎてクリープ変形して磁気特性が劣化するおそれがある。さらに、ガラスセラミックス法の場合には、800℃〜950℃の温度範囲での昇温速度V(℃/秒)が0.75℃/秒以上(0.75≦V)、かつ、150.0/Vが950℃以上の加熱時間W(秒)以上(W≦150.0/V)とすることがより好ましい。800℃〜950℃の温度範囲での昇温速度(V(℃/秒))が0.75℃/秒以上であると、セラミックスの析出量が過多となることを抑制でき被膜密着性をより向上しやすくなる。また、950℃以上の加熱時間(W(秒))と800℃〜950℃の温度範囲での昇温速度(V(℃/秒))がW≦150.0/Vを満たすことで、被膜張力をより向上しやすくなる。
(実施例1)
板厚:0.23mmの仕上焼鈍済みの方向性電磁鋼板を準備した。未反応の焼鈍分離剤を除去した後、歪取焼鈍(800℃、2時間、N雰囲気)を施した。歪取焼鈍後の前記鋼板の表面にはフォルステライトを主体とする被膜(下地被膜)が形成していた。この方向性電磁鋼板を、5質量%リン酸水溶液で酸洗後、表2に記載の種々の混合水溶液(比重:1.15)に、混合水溶液を固形分換算で100質量部に対して表3に記載の結晶を40質量部添加した絶縁被膜形成用処理液を焼付後の目付量が両面合計で8.0g/mとなるように塗布したのち、1000℃、30秒の焼付け処理を施して絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の各試料を製造した。焼付雰囲気は窒素雰囲気とした。
表2中のリン酸塩としては各々の第一リン酸塩水溶液を使用した。また、珪酸塩としては、組成:LiO・3.5SiOに調整した珪酸リチウム(以下、リチウムシリケートWともいう)を使用した。また、表2中、リン酸塩、ほう酸塩、珪酸塩、コロイド状シリカの配合量は、それぞれ固形分換算の配合量を示す。以降の表においても、特に断らない限りは、固形分換算の配合量を示す。なお、リチウムシリケートWはLiO・3.5SiOとして固形分換算した値、コロイド状シリカはSiOとして固形分換算した値である。
また、表3に示す各結晶については、公知の条件で予め合成した後、粉砕してその粒度を平均粒子径で1μmに調整したものを使用した。各結晶の熱膨張係数をTMA(熱機械分析装置)を用いて測定した。なお、測定温度範囲は25℃〜200℃、昇温速度は5℃/分とした。各結晶の25℃〜200℃の温度範囲における平均熱膨張係数は、β−ユークリプタイト:−0.21×10−6/K、窒化珪素:2.8×10−6/K、珪酸ジルコニウム:4.0×10−6/K、単結晶サファイア:11×10−6/Kであった。また、窒化マンガン:0.05×10−6/K、β−スポジュメン:0.56×10−6/K、イットリア:7.3×10−6/Kである(表1)。
このようにして得られた絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の各試料の諸特性を、変圧器の運転条件を模した過程で各試料の昇降温処理前後で調査した。なお、被膜張力、鉄損の測定方法は、上述した測定方法と同様である。昇降温過程は、図1に示すように、(1)25℃から200℃へ1時間かけて昇温、(2)200℃で10分間均熱保持、(3)200℃から25℃へ1時間かけて降温とし、(1)から(3)のサイクルを300回繰り返した。その結果を表3に併記する。また、SEMによって昇降温処理前後の絶縁被膜表面を観察し、昇降温処理後の絶縁被膜の割れ増加の有無を調べた結果も表3に併記する。また、図2に、絶縁被膜に含まれる結晶の平均熱膨張係数と、昇降温処理前後の被膜張力との関係を示す。
以上のように、絶縁被膜中に25℃〜200℃の温度範囲における平均熱膨張係数が7.5×10−6/K以下で、かつ、正の平均熱膨張係数の結晶を含有させることにより、8.0MPa以上の大きな張力を付与でき、かつ、昇降温処理の前後で、鋼板への付与張力が良好に保持され、鉄損の低減効果を良好に保持できたことがわかる。
(実施例2)
板厚:0.23mmの仕上焼鈍済みの方向性電磁鋼板を準備した。未反応の焼鈍分離剤を除去した後、歪取焼鈍(800℃、2時間、N雰囲気)を施した。歪取焼鈍後の前記鋼板の表面にはフォルステライトを主体とする被膜(下地被膜)が形成していた。この方向性電磁鋼板を、5質量%リン酸水溶液で酸洗後、表2に記載の混合水溶液に、混合水溶液を固形分換算で100質量部に対して表4に記載の各結晶を20質量部又は80質量部添加した絶縁被膜形成用処理液を焼付後の目付量が両面合計で10.0g/mとなるように塗布したのち、850℃、30秒の焼付け処理を施した。焼付雰囲気は窒素雰囲気とした。
また、表4に示す各結晶については、公知の条件で予め合成した後、粉砕してその粒度を平均粒子径で1μmに調整したものを使用した。
このようにして得られた絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の各試料の諸特性を、実施例1と同様にして評価した。また、次に示す方法により被膜密着性を評価した。被膜密着性は、JIS K 5600−5−6のクロスカット法にて評価した。前記評価における粘着テープとしては、セロテープ(登録商標)CT−18(粘着力:4.01N/10mm)を使用し、2mm角のマス目25個のうち、剥離したマス目の個数(剥離数)で被膜密着性を評価した。前記剥離数が3個以下であれば被膜密着性に優れるものとして評価できる。評価結果を表4に併記する。また、SEMによって絶縁被膜表面を観察し、昇降温処理後の絶縁被膜の割れ増加の有無を調べた結果も表4に併記する。
表3、4に示すとおり、絶縁被膜中に所定の低熱膨張性結晶を含有させることにより、複数回昇降温過程を繰り返した後も高張力と低鉄損を保持可能な絶縁被膜が得られることが確認できた。また、表3では、低熱膨張性結晶の絶縁被膜中の含有量が28.6質量%、表4では、16.7質量%、44.4質量%となっており、絶縁被膜中に15質量%以上の所定の低熱膨張性結晶を含有させることが好ましく、25質量%以上の所定の低熱膨張性結晶を含有させることがより好ましく、40質量%以上の所定の低熱膨張性結晶を含有させることがさらに好ましいことが確認できた。また、β−スポジュメン型結晶を絶縁被膜中に含有させることにより、特に優れた被膜密着性が得られ、好ましいことが確認できた。
(実施例3)
板厚:0.23mmの仕上焼鈍済みの方向性電磁鋼板を準備した。未反応の焼鈍分離剤を除去した後、歪取焼鈍(800℃、2時間、N雰囲気)を施した。歪取焼鈍後の前記鋼板の表面にはフォルステライトを主体とする被膜(下地被膜)が形成していた。この方向性電磁鋼板を、5質量%リン酸水溶液で酸洗後、表5、6、7に記載の組成の絶縁被膜形成用処理液を、焼き付け後の目付量が両面合計で7.0g/mとなるよう塗布したのち、表5、6、7に記載の種々の条件で焼付け処理を施すことで、結晶化処理を行なった。950℃以上の加熱時間をW(秒)、800℃〜950℃の温度範囲での昇温速度をV(℃/s)とする。表5、7の条件では、W=15.0、V=10.0とした(ただし、No.5−1は、焼付温度900℃のため、除く)。
なお、表5、7中の珪酸塩としては、リチウムシリケートW、組成:LiO・4.5SiOに調整した珪酸リチウム(以下、リチウムシリケートXともいう)、およびカオリナイトを使用した。カオリナイトは、AlSi(OH)なる組成を有する粘土鉱物である。したがって、加熱脱水すると、Al:SiO=1:2の組成を有する酸化物になる。また、表6、7中のリン酸塩としては第一リン酸塩水溶液を使用した。表5、6、7中、リン酸塩、珪酸塩、コロイド状シリカの配合量は、それぞれ固形分換算の配合量を示す(リチウムシリケートWはLiO・3.5SiO、リチウムシリケートXはLiO・4.5SiOとして固形分換算した値)。また、アルミナゾルは、Alとした固形分換算の配合量を示す。これら以外は試薬を用いた。
このようにして得られた絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の各試料の諸特性を、実施例2と同様にして評価した。評価結果を表5、6、7に併記する。なお、結晶の同定は薄膜X線回折によりおこなった。また、SEMによって絶縁被膜表面を観察し、割れ増加の有無を調べた結果も表5、6、7に併記する。
表5、6、7に示すとおり、リン酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、およびアルミナゾルの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、硝酸リチウム、水酸化リチウム、珪酸リチウムの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、コロイド状シリカを加え、950℃以上の温度で焼き付けた場合には、β−スポジュメン型結晶構造を有する被膜が形成されている。その結果、鋼板への付与張力が良好で、複数回昇降温過程を繰り返した後も、絶縁被膜表面の割れは増加せず、高張力と低鉄損を保持可能な絶縁被膜が得られた。β−スポジュメン型結晶を絶縁被膜中に含有させることにより、特に優れた被膜密着性が得られ、好ましいことが確認できた。また、特に、AlのLiに対するモル比を0.8〜1.2、SiのLiに対するモル比を0.8〜7.5の範囲で混合した場合には、鋼板への付与張力が9.5MPa超と非常に高い値を示した。特に6.0≦W≦150.0、W≦150.0/Vかつ0.75≦Vの条件で焼き付けた場合には、鋼板への付与張力が10.5MPa以上と非常に高い値を示し、かつ剥離数0個と被膜密着性に優れていた。ただし、カオリナイトを用いた場合(表5、No.5−5)では、1000℃以上の焼付温度でもβ-スポジュメン型結晶は析出せず、実施例2と同様にして評価した結果、被膜の割れは増加し、鉄損値が大きくなり、被膜密着性にも劣っている。
(実施例4)
板厚:0.23mmの仕上焼鈍済みの方向性電磁鋼板を準備した。未反応の焼鈍分離剤を除去した後、歪取焼鈍(800℃、2時間、N雰囲気)を施した。歪取焼鈍後の前記鋼板の表面にはフォルステライトを主体とする被膜(下地被膜)が形成していた。この方向性電磁鋼板を、5質量%リン酸水溶液で酸洗後、表8、9、10に記載の組成の絶縁被膜形成用処理液を、焼付後の目付量が両面合計で8.0g/mとなるよう塗布したのち、表8、9、10に記載の種々の条件で焼付け処理を施すことで、結晶化処理を行なった。950℃以上の加熱時間をW(秒)、800℃〜950℃の温度範囲での昇温速度をV(℃/s)とする。表8、10の条件では、W=15.0、V=10.0とした(ただし、No.8−1は、焼付温度900℃のため、除く)。なお、珪酸塩としては、組成:LiO・SiOに調整した珪酸リチウム(以下、リチウムシリケートVともいう)、リチウムシリケートW、リチウムシリケートX、組成:LiO・7.5SiOに調整した珪酸リチウム(以下、リチウムシリケートYともいう)、組成:LiO・20SiOに調整した珪酸リチウム(以下、リチウムシリケートZともいう)を使用した。また、リン酸塩としては第一リン酸塩水溶液を使用した。
表8、9、10中、リン酸塩、珪酸塩の配合量は、それぞれ固形分換算の配合量を示す(リチウムシリケートVはLiO・SiO、リチウムシリケートWはLiO・3.5SiO、リチウムシリケートXはLiO・4.5SiO、リチウムシリケートYはLiO・7.5SiO、リチウムシリケートZはLiO・20SiOとして固形分換算した値)。また、アルミナゾルは、Alとした固形分換算の配合量を示す。これら以外は試薬を用いた。
このようにして得られた絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の各試料の諸特性を、実施例2と同様にして評価した。評価結果を表8、9、10に併記する。なお、結晶の同定は薄膜X線回折によりおこなった。また、SEMによって絶縁被膜表面を観察し、割れ増加の有無を調べた結果も表8、9、10に併記する。
表8、9、10に示すとおり、リン酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、およびアルミナゾルの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、珪酸リチウムを加え、950℃以上の温度で焼き付けた場合には、β−スポジュメン型結晶構造を有する被膜が形成されている。その結果、鋼板への付与張力が良好で、複数回昇降温過程を繰り返した後も、絶縁被膜表面の割れは増加せず、高張力と低鉄損を保持可能な絶縁被膜が得られた。AlのLiに対するモル比を0.8〜1.2、SiのLiに対するモル比を0.8〜7.5の範囲で混合した場合には、鋼板への付与張力が9.5MPa超と非常に高い値を示した。特に、6.0≦W≦150.0、W≦150.0/Vかつ0.75≦Vの条件で焼き付けた場合には、鋼板への付与張力が10.5MPa以上と非常に高い値を示し、かつ剥離数0個と被膜密着性に優れていた。
(実施例5)
板厚:0.23mmの仕上焼鈍済みの方向性電磁鋼板を準備した。未反応の焼鈍分離剤を除去した後、歪取焼鈍(800℃、2時間、N雰囲気)を施した。歪取焼鈍後の前記鋼板の表面にはフォルステライトを主体とする被膜(下地被膜)が形成していた。この方向性電磁鋼板を、5質量%リン酸水溶液で酸洗後、表11、12、13に記載の組成の絶縁被膜形成用処理液を、焼付後の目付量が両面合計で8.0g/mとなるよう塗布したのち、表11、12、13に記載の条件で焼付け処理を施すことで、結晶化処理を行なった。950℃以上の加熱時間をW(秒)、800℃〜950℃の温度範囲での昇温速度をV(℃/s)とする。表11、13の条件では、W=15.0、V=10.0とした(ただし、No.11−1は、焼付温度900℃のため、除く)。
なお、珪酸塩としては、リチウムシリケートW、リチウムシリケートX、リチウムシリケートY、リチウムシリケートZを使用した。また、リン酸塩としては第一リン酸塩水溶液を使用した。表11、12、13中、リン酸塩、珪酸塩の配合量は、それぞれ固形分換算の配合量を示す(リチウムシリケートWはLiO・3.5SiO、リチウムシリケートXはLiO・4.5SiO、リチウムシリケートYはLiO・7.5SiO、リチウムシリケートZはLiO・20SiOとして固形分換算した値)。また、アルミナゾルは、Alとした固形分換算の配合量を示す。これら以外は試薬を用いた。
このようにして得られた絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の各試料の諸特性を、実施例2と同様にして評価した。評価結果を表11、12、13に併記する。なお、結晶の同定は薄膜X線回折によりおこなった。また、SEMによって絶縁被膜表面を観察し、割れ増加の有無を調べた結果も表11、12、13に併記する。
表11、12、13に示すとおり、リン酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、およびアルミナゾルの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、硝酸リチウム、水酸化リチウムの中から選ばれる1種又は2種の化合物と、珪酸リチウムを加え、950℃以上の温度で焼き付けた場合には、β−スポジュメン型結晶構造を有する被膜が形成されている。その結果、鋼板への付与張力が良好で、複数回昇降温過程を繰り返した後も、絶縁被膜表面の割れは増加せず、高張力と低鉄損を保持可能な絶縁被膜が得られた。AlのLiに対するモル比を0.8〜1.2、SiのLiに対するモル比を0.8〜7.5の範囲で混合した場合には、鋼板への付与張力が9.5MPa超と非常に高い値を示した。特に、6.0≦W≦150.0、W≦150.0/Vかつ0.75≦Vの条件で焼き付けた場合には、鋼板への付与張力が10.5MPa以上と非常に高い値を示し、かつ剥離数0個と被膜密着性に優れていた。
以上、説明したとおり、本発明によれば、被膜張力が大きく、かつ、変圧器等の昇降温が複数繰り返される環境においても、被膜張力を保持でき、鉄損の低減効果も保持できる絶縁被膜付き方向性電磁鋼板が得られる。本発明によれば、例えば8.0MPa以上の、より好ましくは9.5MPa超の、さらに好ましくは9.6MPa以上の被膜張力を有し、昇降温が複数繰り返される環境においても、前記被膜張力を保持できる絶縁被膜付き方向性電磁鋼板が得られる。また、本発明によれば、例えば0.85W/kg以下の、より好ましくは0.80W/kg以下の鉄損値(W17/50)を有し、昇降温が複数繰り返される環境においても、前記鉄損値を保持できる絶縁被膜付き方向性電磁鋼板が得られる。
前述したように、本発明によれば、クロムを使用せず、かつ、変圧器として稼働した際に、高張力の保持ができる、結晶化を利用して鋼板への付与張力を向上させた低熱膨張の張力絶縁被膜を形成することができる。よって、本発明は、電磁鋼板製造産業及び電磁鋼板利用産業において利用可能性が高いものである。

Claims (7)

  1. 25℃から200℃の温度範囲における平均熱膨張係数が7.5×10 −6 /K以下、かつ、正の平均熱膨張係数を有する結晶をガラス中に含有する絶縁被膜を少なくとも片面に有する絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    リン酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、およびアルミナゾルの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、硝酸リチウム、水酸化リチウム、珪酸リチウムの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、コロイド状シリカを含有する絶縁被膜形成用処理液を、仕上げ焼鈍済みの方向性電磁鋼板の表面に塗布し、950℃以上で焼き付けることを特徴とする絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法。
  2. 25℃から200℃の温度範囲における平均熱膨張係数が7.5×10 −6 /K以下、かつ、正の平均熱膨張係数を有する結晶をガラス中に含有する絶縁被膜を少なくとも片面に有する絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    リン酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、およびアルミナゾルの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、珪酸リチウムを含有する絶縁被膜形成用処理液を、仕上げ焼鈍済みの方向性電磁鋼板の表面に塗布し、950℃以上で焼き付けることを特徴とする絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法。
  3. 25℃から200℃の温度範囲における平均熱膨張係数が7.5×10 −6 /K以下、かつ、正の平均熱膨張係数を有する結晶をガラス中に含有する絶縁被膜を少なくとも片面に有する絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    リン酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、およびアルミナゾルの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、硝酸リチウム、水酸化リチウムの中から選ばれる1種又は2種の化合物と、珪酸リチウムを含有する絶縁被膜形成用処理液を、仕上げ焼鈍済みの方向性電磁鋼板の表面に塗布し、950℃以上で焼き付けることを特徴とする絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法。
  4. 950℃以上の加熱時間W(秒)が6.0≦W≦150.0であり、
    800〜950℃の温度範囲での昇温速度V(℃/秒)がW≦150.0/V、かつ、0.75≦Vを満たすことを特徴とする請求項のいずれかに記載の絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法。
  5. 前記結晶がβ−スポジュメン型結晶構造を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法。
  6. 前記結晶がβ−スポジュメン型結晶構造を有し、かつ、Al、Si、Liを含む複合酸化物からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法。
  7. 前記AlのLiに対するモル比が0.8〜1.2で、かつ、SiのLiに対するモル比が0.8〜7.5であることを特徴とする請求項6に記載の絶縁被膜付き方向性電磁鋼板の製造方法。
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