以下、実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面は模式的であり、例えば各構成要素の厚さ、幅等の寸法は実際の構成要素の寸法と異なる場合がある。また、実施形態において、実質的に同一の構成要素には同一の符号を付け、説明を省略する場合がある。
図1および図2は、実施形態の電気化学反応装置の構造例を示す断面模式図である。電気化学反応装置は、アノード部10と、カソード部20と、セパレータ30と、電源40と、を具備する。
アノード部10は、水(H2O)を酸化して酸素や水素イオンを生成する、もしくは水酸化物イオン(OH−)を酸化して水や酸素を生成することができる。アノード部10は、アノード11と、流路板12と、集電体13と、流路14と、を備える。
アノード11は、例えばメッシュ材、パンチング材、多孔体、金属繊維焼結体等の多孔構造を有する基材に酸化触媒を担持させることにより形成される。基材は、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の金属やこれら金属を少なくとも1つ含む合金(例えばSUS)等の金属材料で構成してもよい。アノード11は、例えば支持体等により支持される。支持体は、例えば開口を有し、当該開口にアノード11が配置される。
酸化触媒としては、水を酸化するための活性化エネルギーを減少させる材料が挙げられる。言い換えると、水の酸化反応により酸素と水素イオンを生成する際の過電圧を低下させる材料が挙げられる。例えば、イリジウム、鉄、白金、コバルト、またはマンガン等が挙げられる。また、酸化触媒としては、二元系金属酸化物、三元系金属酸化物、または四元系金属酸化物などを用いることができる。二元系金属酸化物としては、例えば酸化マンガン(Mn−O)、酸化イリジウム(Ir−O)、酸化ニッケル(Ni−O)、酸化コバルト(Co−O)、酸化鉄(Fe−O)、酸化スズ(Sn−O)、酸化インジウム(In−O)、または酸化ルテニウム(Ru−O)等が挙げられる。三元系金属酸化物としては、例えばNi−Co−O、La−Co−O、Ni−La−O、Sr−Fe−O等が挙げられる。四元系金属酸化物としては、例えばPb−Ru−Ir−O、La−Sr−Co−O等が挙げられる。なお、これに限定されず、酸化触媒としてRu錯体またはFe錯体等の金属錯体を用いることもできる。また、複数の材料を混合してもよい。
流路板12は、アノード11に面する溝を有する。流路板12は、流路板としての機能を有する。流路板12としては、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。
集電体13は、流路板12を介してアノード11に電気的に接続される。集電体13は、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を含むことが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。
流路14は、アノード11および流路板12の溝との間の空間を含む。流路14は、水等の酸化される物質(被酸化物質)を含む第1の電解液を流すための電解液流路としての機能を有する。
カソード部20は、二酸化炭素(CO2)を還元して炭素化合物や水素を生成することができる。カソード部20は、流路板21と、流路22と、カソード23と、流路243を備える流路板24と、集電体25と、を備える。なお、図2に示すように、流路板21は設けなくてもよい。
流路板21は、流路22としての機能を有する開口を有する。流路22は、水を含有する第2の電解液および二酸化炭素を流すために設けられている。第2の電解液は二酸化炭素を含有していてもよい。流路板21は、化学反応性が低く、かつ導電性を有しない材料を含むことが好ましい。そのような材料としては、アクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂等の絶縁樹脂材料が挙げられる。なお、流路22に流れる電解液に含まれる水の量や電解液成分を変えることで、酸化還元反応性を変化させ、還元される物質の選択性や生成する化学物質の割合を変えることができる。
アノード11およびカソード23の少なくとも一つは、多孔質構造を有していてもよい。多孔質構造を有する電極層に適用可能な材料としては、上記材料に加え、例えばケッチェンブラックやバルカンXC−72等のカーボンブラック、活性炭、金属微粉末等が挙げられる。多孔質構造を有することにより、酸化還元反応に寄与する活性面の面積を大きくすることができるため、変換効率を高めることができる。
還元触媒としては、水素イオンや二酸化炭素を還元するための活性化エネルギーを減少させる材料が挙げられる。言い換えると、水素イオンや二酸化炭素の還元反応により水素や炭素化合物を生成する際の過電圧を低下させる材料が挙げられる。例えば、金属材料または炭素材料を用いることができる。金属材料としては、例えば水素の場合、白金、ニッケル等の金属、または当該金属を含む合金を用いることができる。二酸化炭素の還元反応では金、アルミニウム、銅、銀、白金、パラジウム、もしくはニッケル等の金属、または当該金属を含む合金を用いることができる。炭素材料としては、例えばグラフェン、カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:CNT)、フラーレン、またはケッチェンブラック等を用いることができる。なお、これに限定されず、還元触媒として例えばRu錯体またはRe錯体等の金属錯体、イミダゾール骨格やピリジン骨格を有する有機分子を用いてもよい。また、複数の材料を混合してもよい。
還元反応により生成される炭素化合物の例は、還元触媒の種類等によって異なる。還元反応により生成される化合物は、例えば一酸化炭素(CO)、蟻酸(HCOOH)、メタン(CH4)、メタノール(CH3OH)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、エタノール(C2H5OH)、ホルムアルデヒド(HCHO)、エチレングリコール等の炭素化合物、または水素である。
多孔質構造は、5nm以上100nm以下の細孔分布を有することが好ましい。上記細孔分布を有することにより触媒活性を高めることができる。さらに、多孔質構造は、複数の細孔分布ピークを有することが好ましい。これにより、表面積の増大、イオンや反応物質の拡散性の向上、高い導電性の全てを同時に実現することができる。例えば、5μm以上10μm以下の細孔分布を有する上記材料の導電層に100nm以下の上記還元触媒に適用可能な金属または合金の微粒子(微粒子状の還元触媒)を含む還元触媒層を積層してカソード23を構成してもよい。このとき、微粒子も多孔質構造を有していてもよいが、導電性や反応サイトと物質拡散の関係から必ずしも多孔質構造を有していなくてもよい。また、上記微粒子を他の材料に坦持させてもよい。
カソード23は、例えばガス拡散層としての機能を有する多孔質導電層23aと、多孔質導電層23aに積層され且つ還元触媒を含有する還元触媒層23bと、を有する。カソード23は、例えば支持体等により支持される。支持体は、例えば開口を有し、当該開口にカソード23が配置される。
多孔質導電層23aは、表面23a1と、流路板24に面する表面23a2と、表面23a1から表面23a2まで連通する空孔部と、を有する。空孔部の平均孔径は10μm以下であることが好ましい。多孔質導電層23aの厚さは100〜500μmであることが好ましい。100μm以下ではセル面での均一性が損なわれ、厚い場合ではセル厚みが増すことや、部材のコスト増加、また、500μm以上の厚みではガスの拡散性の増加により効率が低下する。多孔質導電層23aは、例えばカーボンペーパやカーボンクロス等により形成される。
還元触媒層23bは、流路22に面する表面23b1と、多孔質導電層23aの表面23a1に面する表面23b2と、を有する。還元触媒層23bは、例えば多孔質導電層23aよりも小さい孔径を有する多孔質導電層(メソポーラスレイヤ)と、多孔質導電層の表面に担持された還元触媒と、を有する。多孔質導電層23a、メソポーラスレイヤ、および還元触媒の間で撥水性や多孔体度を変えることによりガスの拡散性と液体成分の排出を促進させることができる。また、還元触媒層23bの面積よりも多孔質導電層23aの面積を大きくしてもよい。これにより、流路板24との構造と共に多孔質導電層23aと組み合わせてセルに均一にガス供給を行い、液体成分の排出を促進させることが可能となる。
多孔質導電層としてナフィオンおよびケッチェンブラック等の導電性粒子の混合物を用い、還元触媒として金触媒を用いてもよい。また、還元触媒の表面に5μm以下の凹凸を形成することにより、反応効率を高めることができる。さらに、高周波を加えることで還元触媒の表面を酸化させ、その後電気化学的に還元することにより、ナノパーティクル構造を有するカソード23を形成することができる。金以外としては、銅、パラジウム、銀、亜鉛、スズ、ビスマス、鉛等の金属が好ましい。また、多孔質導電層はさらにそれぞれの層が孔径の異なる積層構造を有していてもよい。孔径が異なる積層構造によって例えば電極層近傍の反応生成物濃度の違いやpHの違いなどによる反応の違いを孔径によって調整して効率を向上することが可能となる。
比較的低い光の照射エネルギーを用いて低電流密度の電極反応を行う場合、触媒材料の選択肢が広い。よって、例えばユビキタス金属等を用いて反応を行うことが容易であり、反応の選択性を得ることも比較的容易である。配線等により光電変換体からなる電源40とアノード11およびカソード23の少なくとも一つとを電気的に接続する場合、電解液槽を小型化して省スペース化、コスト低下等の理由により一般的に電極面積は小さくなり、高電流密度で反応を行う場合がある。この場合、触媒として貴金属を用いることが好ましい。
このような実施形態の電気化学反応装置は、アノード11とカソード23とを一体化し、部品数が低減され、簡略化されたシステムである。よって、例えば製造、設置、およびメンテナンス性が向上する。
図3は流路板24の一部の構造例を示す上面模式図である。図3はX軸とX軸に直交するY軸とを含む流路板24のX−Y平面を示している。図4は流路板24の一部の構造例を示す側面模式図である。図4はY軸とY軸およびX軸に直交するZ軸とを含む流路板24のY−Z平面を示している。図3および図4では、流路板24と表面23b2または表面23a2との重畳部のみを模式的に図示している。
流路板24は、表面241と、表面242と、流路243と、を備える。表面241は、多孔質導電層23aに接する。表面242は、表面241に対向し、集電体25に接する。図3および図4に示す流路板24は、直方体形状を有するがこれに限定されない。
流路243は、多孔質導電層23aの表面23a2に面する。流路243は、流入口243aおよび流出口243bに連通する。流入口243aは、二酸化炭素が流路板24の外部(カソード部20の外部)から流路243に流入するために設けられる。上記二酸化炭素の少なくとも一部はガス状である。流出口243bは、二酸化炭素が流路243から流路板24の外部(カソード部20の外部)に流出するためおよび還元反応による生成物を流路板24の外部に流出するために設けられる。
図3に示す流路243は、表面241に沿ってサーペンタイン状に延在する。これに限定されず、流路243は、表面241に沿って櫛歯状や渦巻状に延在してもよい。流路243は、例えば流路板24に設けられた溝および開口により形成される空間を含む。
流路243は、複数の領域243cと、複数の領域243dと、を有する。複数の領域243cの一つは、表面241のX軸方向に沿って延在する。複数の領域243dの一つは、複数の領域243cの一つから表面241に沿って折り返すように延在する。複数の領域243dの他の一つは、領域243dから表面241のX軸方方向に沿って延在する。
表面241と表面23a2または表面23b2との重畳部のX軸方向の長さはL1として定義される。表面241と表面23a2または表面23b2との重畳部のY軸方向の長さはL2として定義される。表面23a2または表面23b2と流路243との重畳部のX軸方向の長さはL3として定義される。表面23a2または表面23b2と流路243との重畳部のY軸方向の長さはL4として定義される。領域243cの長さはL5として定義される。領域243cの平均幅はL6として定義される。領域243dの長さはL7として定義される。領域243dの平均幅はL8として定義される。複数の領域243cの一つと複数の領域243cの他の一つとの間の平均幅はL9として定義される。表面241と表面23a2または表面23b2との重畳部のX軸方向の端部と流路243との最短距離はL10として定義される。表面23a2または表面23b2との重畳部のY軸方向の端部と流路243との最短距離はL11として定義される。流路243のZ軸方向の深さは、L12として定義される。
表面23a2の面積に対する、表面23a2と流路243との重畳部の面積の比は、0.5以上0.85以下であることが好ましい。また、表面23b2の面積に対する、表面23b2と流路243との重畳部の面積の比は、0.5以上0.85以下であることが好ましい。
流入口243a付近と流出口243b付近との間で反応により変化するガス量に伴い、流速が変化する場合がある。これに対し、例えば流路243の幅を狭くする、または流路243の並列接続での分岐数を変化させることによりカソード23の全体の還元反応の均一性を高めることができる。流路243の全長に対する流路243の幅の積算値を上記全長で割った値を平均値として用い、複数の領域243cの一つと複数の領域243cの他の一つとの間の領域の全長に対し上記領域の幅の積算値を上記全長で割った値を平均値として用いる場合、上記領域の幅は流路243の幅より小さい方が好ましい。これにより多孔質導電層23aに二酸化炭素ガスを効率良く供給することができる。しかしながら、極端に小さい場合、流路243よりも上記領域を介してガス等が供給されやすくなる。複数の領域243cの一つと複数の領域243cの他の一つとの間の平均幅(L9)に対する、流路243の領域243cの平均幅(L6)の比は、1.5以上5以下であることが好ましい。
流路243の構造には様々な形があるが、流路243と多孔質導電層23aとの重畳部では二酸化炭素ガスが供給される。二酸化炭素ガスの流量や、流路幅を変えることで流速を変えて圧力等を調整することで、二酸化炭素の分圧は高くなる。さらに、生成した水や酸化側から移動した水の排出も二酸化炭素ガスが流通していることから促進される。一方領域243c間では生成した水や酸化側から移動した水の移動度が流路243に対向する領域よりも悪く、多孔質導電層23a中や還元触媒層23bの水分量はより高い。これら観点から複数の領域243c間の面積が大きい場合は、水素発生が多く、二酸化炭素の還元性能は低下する。また、複数の領域243c間の幅が広いと複数の領域243c間の中央部から流路243への水の排出と流路243から複数の領域243c間への二酸化炭素の供給量が減少する。このため、水素発生が増加してセル性能が低下する。また、還元触媒層23bや多孔質導電層23aの流路243の外周を囲む領域の外のエリアでは隣り合う流路がないため、複数の領域243c間の周囲幅が大きいと水素発生割合の増加は顕著な影響となる。
複数の領域243cの一つと複数の領域243cの他の一つとの間の領域が狭ければよいかというとその限りではなく、多孔質導電層23aの圧力損失と流路243の圧力損失との差でガスが流路243を通過せずに、上記領域を通過しやすくなる場合がある。その場合は反応の面均一性が損なわれ、電気化学反応装置の反応効率が低下する。さらには上記領域の面積が小さいと多孔質導電層23aと流路板24との接触面積が減少するため接触抵抗が増加して電気化学反応装置の反応効率が低下する。
表面23b2の面積よりも表面23a2の面積を大きくすることにより、多孔質導電層23aに均一にガスや水分の量を調整しやすくすることができるため、反応効率を向上させることができる。しかしながら、表面23b2の面積よりも表面23a2の面積が極端に大きい場合は、セル面積が大きくなり、コストや製造性、放熱等の影響で効率が低下する。
表面23a2の面積に対する、表面23a2と流路243との重畳部の各頂点のうち内角が180度未満の頂点を結ぶ多角形を除く表面23a2の残部の面積の比は、1/6以下であることが好ましい。図5は、重畳部の面積の算出方法を説明するための模式図である。図5は、重畳部の各頂点のうち内角が180度未満の頂点71と、各頂点71を結ぶ多角形72を図示している。さらに、表面23b2の面積に対する、当該重畳部と多角形72を除く表面23b2の残部の面積の比は、1/6以下であることが好ましい。
表面23a2または表面23b2と表面241との重畳部の各地点に対し、表面23a2または表面23b2と流路243との重畳部までの距離が遠ければ遠いほど還元反応により炭素化合物よりも水素が支配的に発生する。また、表面23a2または表面23b2と表面241との重畳部のうちの表面23a2または表面23b2と流路243との重畳部から遠い部分が多いと二酸化炭素の還元性能は低下する。そこで、表面23a2または表面23b2と表面241との重畳部の各地点から表面23a2または表面23b2と流路243との重畳部までの最短距離の標準偏差を小さくすることにより、二酸化炭素の還元性能を向上させることができる。
最短距離の標準偏差は、0.8以下であることが好ましい。図6は、最短距離の標準偏差の算出方法を説明するための図である。図6は、表面23a2または表面23b2と流路243との重畳部を除く表面23a2または表面23b2と表面241との重畳部の残部をX軸方向に沿って0.1mm毎に区切る複数の分割線81と、上記残部をY軸方向に沿って0.1mm毎に区切る複数の分割線82と、複数の分割線81と複数の分割線82との複数の交点83と、交点83から上記重畳部の最短距離xと、を図示している。
標準偏差σは、交点83から重畳部までの最短距離xの二乗を交点83毎に算出し、算出した各最短距離xの二乗の和を交点数nで割った値の平方根を算出することにより定義される。すなわち、標準偏差σは下記式(A)により表される。
重畳部の残部において、最短距離xが0.5mm以上である交点の数は、全ての交点83の数nの30%以下であることが好ましい。また、重畳部の残部において、最短距離xが0.5mm以上である交点の数は、全ての交点83の数nの30%以下であることが好ましい。
流路243のZ軸方向の深さは、多孔質導電層23aへの二酸化炭素の供給や、液体の排出の観点、セル面で均一の反応を行うといった観点から浅い方が好ましい。しかしながら、流路が細いことにより流路圧損が増加することで、ガス供給のエネルギーロスや、流路ではなく、ガス拡散層を通過することによるセル面での均一反応の妨げとなるため、極端に狭いのは好ましくない、流路243の深さは0.3〜2mmの範囲が好ましく、0.3mm未満の場合は流路243に多孔質導電層23aが食い込む。このため、実際の流路の幅がさらに狭くなるために、流路幅を狭くすることや、深さを0.5mm程度にすることが好ましい。流路243が深すぎると拡散の影響によってガスの供給が悪化するため、少なくとも2mm以下の深さであることが好ましい。
第1の電解液および第2の電解液としては、例えばLiHCO3、NaHCO3、KHCO3、CsHCO3、リン酸、ホウ酸等を含む水溶液を用いてもよい。また、第1および第2の電解液としては、例えば任意の電解質を含む水溶液を用いることができる。電解質を含む水溶液としては、例えばリン酸イオン(PO4 2−)、ホウ酸イオン(BO3 3−)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)、リチウムイオン(Li+)、セシウムイオン(Cs+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、塩化物イオン(Cl−)、炭酸水素イオン(HCO3 −)、炭酸イオン(CO3 −)等を含む水溶液が挙げられる。なお、第1の電解液と第2の電解液は、互いに異なる物質を含んでいてもよい。
上述した電解液としては、例えばイミダゾリウムイオンやピリジニウムイオン等の陽イオンと、BF4 −やPF6 −等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液を用いることができる。さらに、他の電解液としては、エタノールアミン、イミダゾール、ピリジン等のアミン溶液もしくはその水溶液が挙げられる。アミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミン等が挙げられる。これらの電解液が、イオン伝導性が高く、二酸化炭素を吸収する性質を有し、還元エネルギーを低下させる特性を有していてもよい。
一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン等が挙げられる。アミンの炭化水素は、アルコールやハロゲン等が置換していてもよい。アミンの炭化水素が置換されたものとしては、メタノールアミン、エタノールアミン、クロロメチルアミン等が挙げられる。また、不飽和結合が存在していてもよい。これら炭化水素は、二級アミン、三級アミンも同様である。
二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン等が挙げられる。置換された炭化水素は、異なってもよい。これは三級アミンでも同様である。例えば、炭化水素が異なるものとしては、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン等が挙げられる。
三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリエキサノールアミン、メチルジエチルアミン、メチルジプロピルアミン等が挙げられる。
イオン液体の陽イオンとしては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾールイオン、1−メチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
イミダゾリウムイオンの2位が置換されていてもよい。イミダゾリウムイオンの2位が置換された陽イオンとしては、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
ピリジニウムイオンとしては、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム、ペンチルピリジニウム、ヘキシルピリジニウム等が挙げられる。イミダゾリウムイオンおよびピリジニウムイオンは共に、アルキル基が置換されてもよく、不飽和結合が存在してもよい。
アニオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、BF4 −、PF6 −、CF3COO−、CF3SO3 −、NO3 −、SCN−、(CF3SO2)3C−、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド等が挙げられる。イオン液体のカチオンとアニオンとを炭化水素で接続した双生イオンでもよい。なお、リン酸カリウム溶液等の緩衝溶液を流路に供給してもよい。
流路板24は、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を含む金属板であることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属板が挙げられる。
集電体25は、流路板24の表面242に接する。集電体25は、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を含むことが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。
セパレータ30は、アノード部10とカソード部20との間でイオンを移動させることができ、且つアノード11とカソード23とを分離することが可能なイオン交換膜等で構成される。イオン交換膜は、特定のイオンを通過させることができる。イオン交換膜としては、例えばアストム社のネオセプタ(登録商標)や旭硝子社のセレミオン(登録商標)、Aciplex(登録商標)、Fumatech社のFumasep(登録商標)、fumapem(登録商標)、デュポン社のテトラフルオロエチレンをスルホン化して重合したフッ素樹脂であるナフィオン(登録商標)、LANXESS社のlewabrane(登録商標)、IONTECH社のIONSEP(登録商標)、PALL社のムスタング(登録商標)、mega社のralex(登録商標)、ゴアテックス社のゴアテックス(登録商標)等を用いることができる。また、炭化水素を基本骨格とした膜や、アニオン交換ではアミン基を有する膜を用いてイオン交換膜が構成されていてもよい。
電解質として固体電解質膜を用いる場合は、前述のナフィオンやセレミオンなどを用いる。また、固体電解質膜に限定されず、アルカリなどの電解液であっても良い、このときにアノード11とカソード23との間隔は狭い方が電気抵抗が低くなり好ましく、また、アノード11とカソード23との間隔が均一の方が、電極面に対する電気的抵抗が均一となるため反応効率が高くなり好ましい。そのため、アノード11とカソード23との間に多孔質の非導電性の膜を設けると好ましい。これにより電解質が多孔体を介して移動することが可能となり、アノード11とカソード23との間隔を数μmから数百μの間で均一とし、なおかつアノード11とカソード23に存在するガス成分の分離が可能となる。このような膜としてテフロン(登録商標)などのはっ水性の多孔質ポリマーや、テフロン(登録商標)等のはっ水性処理を施した多孔質が用いられる。
イオン交換膜が例えばプロトン交換膜である場合、水素イオンを移動することができる。ナフィオン等の固体高分子膜であるイオン交換膜を用いることにより、イオンの移動効率を高めることができる。なお、必ずしもイオン交換膜が設けられなくてもよく、イオン交換膜の代わりに寒天等の塩橋を設けてもよいし、多孔体の薄膜でも良い。
電源40は、アノード11およびカソード23に電気的に接続される。電源40から供給される電気エネルギーを用いてカソード23による還元反応およびアノード11による酸化反応が行われる。電源40とアノード11との間、および電源40とカソード23との間は例えば配線で接続されていてもよい。電源40は、光電変換素子、系統電源、蓄電池等の電源装置または風力、水力、地熱、潮汐力等の再生可能エネルギーを電気エネルギーに変換する変換部を含む。例えば、光電変換素子は、照射された太陽光等の光のエネルギーにより電荷分離を行う機能を有する。光電変換素子の例は、pin接合型太陽電池、pn接合型太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、多接合型太陽電池、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、色素増感型太陽電池、有機薄膜太陽電池等を含む。
次に、実施形態の電気化学反応装置の動作例について説明する。ここでは、一例として流路243を介して二酸化炭素を含むガスが供給され、一酸化炭素を生成する場合について説明する。アノード部10では、下記式(1)のように水の酸化反応が起こり、電子を失い、酸素と水素イオンが生成される。生成された水素イオンの少なくとも一つは、セパレータ30を介してカソード部20に移動する。
2H2O → 4H++O2+4e− ・・・(1)
カソード部20では、下記式(2)のように二酸化炭素の還元反応が起こり、電子を受け取りつつ水素イオンが二酸化炭素と反応し、一酸化炭素と水が生成される。また、下記式(3)のように水素イオンが電子を受け取ることにより、水素が生成される。このとき、水素は一酸化炭素と同時に生成されてもよい。
CO2+2H++2e− → CO+H2O ・・・(2)
2H++2e− → H2 ・・・(3)
酸化反応の標準酸化還元電位と還元反応の標準酸化還元電位との電位差以上の開放電圧を有する必要がある。例えば、式(1)における酸化反応の標準酸化還元電位は1.23[V]である。式(2)における還元反応の標準酸化還元電位は0.03[V]である。式(3)における還元反応の標準酸化還元電位は0Vである。このとき、式(1)と式(2)との反応では開放電圧を1.26[V]以上にする必要がある。
アノードとカソードとの間のイオン交換膜は二酸化炭素ガスや炭酸イオン、炭酸水素イオン等がイオン交換膜を劣化させてしてしまう場合がある。この際の二酸化炭素ガス量と水蒸気量を調整することにより寿命を延ばすことが可能となる。しかしながら水素イオンが豊富にある条件では、水素の生成が起こるため、多すぎても投入エネルギーが二酸化炭素の還元に使われず、二酸化炭素の還元効率が低下してしまう。よって、二酸化炭素の還元に必要な水素イオン量と水素生成を抑えるバランスを保つ必要がある。
水素イオンや二酸化炭素の還元反応は、水素イオンを消費する反応である。このため、水素イオンの量が少ない場合、還元反応の効率が悪くなる。よって、第1の電解液と第2の電解液との間で水素イオンの濃度を異ならせ、濃度差により水素イオンを移動させやすくしておくことが好ましい。陰イオン(例えば水酸化物イオン等)の濃度をアノード側の電解液とカソード側の電解液との間で異ならせてもよい。イオン交換膜として陽イオン交換膜を用いる場合には陽イオンを移動させ、イオン交換膜として陰イオン交換膜を用いる場合には陰イオンを移動させる。また、水素イオンの濃度差を高めるために、二酸化炭素を含まない不活性気体(窒素、アルゴン等)を例えば電解液に直接吹き込み、電解液に含まされる二酸化炭素を放出させて電解液中の水素イオン濃度を低くする方法が考えられる。
式(2)の反応効率は、電解液中に溶存された二酸化炭素の濃度によって変化する。二酸化炭素濃度が高くなるほど反応効率は高くなり、低くなるほど低下する。式(2)の反応効率は、二酸化炭素濃度と水蒸気量によっても変化する。これら反応は、還元触媒層23bと流路243間に多孔質導電層23aを設け、多孔質導電層23aを介して二酸化炭素を供給することにより、電解液中の二酸化炭素濃度を高めることができる。流路243には二酸化炭素をガスで導入し、還元触媒に二酸化炭素を供給するが、アノード11から水が移動してくることや、反応によって生じる水によって、還元触媒層23bでの二酸化炭素と水の濃度は変化する。
二酸化炭素を還元する際に生成される液体成分をカソード部20の外部に効率良く排出しないと、多孔質導電層23aや還元触媒層23bに液体成分が詰まり、反応効率が低下する場合がある。例えばカソード23に良く用いられるパンチングメタルや、エキスパンドメタルのような電極材料を用いてガスと集電の両方の性能を得るタイプの構成であると、反応効率の低下が生じる。そこで実施形態の電気化学反応装置では、細い管状となった流路を有する流路板を用い、生じた液体成分を流路によって押し出し、排出する構成を有する。流路は並列に配置される複数の流路やサーペンタイン状の流路やその組み合わせで構成される。また、セル面で均一の反応を行うために、流路の反応面に対する分布は均一であることが好ましい。
二酸化炭素を還元するための還元触媒は接する電解質や電解質膜、水蒸気圧によって選択性が異なり、二酸化炭素を還元して一酸化炭素やギ酸、エチレン、メタンなどを生成するが、条件によってはプロトンを還元し水素を多く生成するため、二酸化炭素の還元効率が低下してしまう。これは二酸化炭素の還元に用いるプロトン源が、水素イオンや炭酸水素イオンであることが原因となり、電解液中の例えば炭酸水素イオン濃度や、pHによって変化する。この変化は主に金を用いた触媒では一酸化炭素と水素の選択性に大きく関与し、銅などの多電子還元を行う触媒ではその一酸化炭素やギ酸、エチレン、メタン、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、アセトンなどの選択性はそれぞれ異なる。これらの制御を行う上で電解液の選択は重要となる。しかしながら還元触媒に二酸化炭素ガスを供給する方式で、セル抵抗を低減させるために触媒層が電解質膜(もしくは酸化側の電解液)に接している場合では、酸化触媒との相性やセル抵抗、電解質膜の構成などのセルを構成する部材との兼ね合いで決まるため、任意の電解液を選択することは困難である。
しかしながら、還元触媒に二酸化炭素ガスを供給する方式で、セル抵抗を低減させるために触媒層が電解質膜(もしくはアノード側の電解液)に接している場合では、酸化触媒との相性やセル抵抗、電解質膜の構成などのセルを構成する部材との兼ね合いで決まるため、任意の電解液を選択することは困難である。そこで、流路構造を変えることによっても触媒層での二酸化炭素と水の濃度を調整することができる。
二酸化炭素の還元のみに特化するだけでなく、例えば一酸化炭素と水素を1:2で生成し、その後の化学反応でメタノールを製造する等、任意の割合で二酸化炭素の還元物と水素を製造することもできる。水素は比較的水の電解や、化石燃料由来の安価で入手しやすい原料があるため、水素の比率や大きい必要はない。また、二酸化炭素を原料とすることで温暖化削減効果もあるため、一酸化炭素のみを還元できると環境性は増すが効率よく反応させるにはまた困難が伴う。これら観点からその電解の反応効率や、実現性、その比率は一酸化炭素の水素に対する比率は少なくとも1以上、望ましくは1.2以上、1.5以上であると経済性や環境性、実現性の観点から好ましい。
流路板24の構造は、図1ないし図6に示す構造例に限定されない。図7は流路板24の他の構造例を示す上面模式図である。図8は図7における線分X1−Y1の断面模式図である。図9は図7における線分X2−Y2の断面模式図である。図7ないし図9において図1ないし図6に示す構造と共通する部分は図1ないし図6の説明を適宜援用することができる。
図7ないし図9に示す流路板は、流路層24aと、流路層24aに積層された流路層24bと、を備える。流路層24aおよび流路層24bとしては耐食性が高いチタン等を用いることができるが、プレス加工性や価格等の関係で、アルミニウムやSUS等のプレス板に金メッキ等の加工や、対腐食性の高い燃料電池用の導電性SUS等を用いてもよい。
流路層24aは、流入口243aと、流出口243bと、開口245aと、開口245bと、を備える。流入口243a、流出口243bのそれぞれは、流路層24aの側面に露出するように設けられている。
開口245aは、流路層24aを貫通して流入口243aに連通する。開口245bは、流路層24aを貫通して流出口243bに連通する。なお、開口245aないし開口245bのそれぞれは、溝により構成されてもよい。
流路層24bは、流路層24aと離間する領域24b1と、領域24b1に対して流路層24aに向かって突出するように折り曲げられた領域24b2と、を有する。領域24b1は流路層24bを貫通する開口を有していてもよい。
領域24b2は、開口246aと、開口246bと、を有する。開口246aは、開口245aを介して流入口243aに連通する。開口246bは、開口245bを介して流出口243bに連通する。
図7ないし図9に示す流路板において、流路層24aおよび流路層24bの側面は、シール材26により封止される。このとき、流路243は、領域24b2とカソード23の多孔質導電層23aとの間の空間を含む。
図10は、電気化学反応装置の他の構造例を示す断面模式図である。図10に示す電気化学反応装置は、複数のアノード11と、流路板12と、多孔質導電層23aと還元触媒層23bとを有する複数のカソード23と、流路層24aと流路層24bとを有する流路板24と、複数の流路層24cと、複数のセパレータ30と、シール材26と、を具備する。図10では、アノード11と、カソード23と、セパレータ30と、流路層24cと、を備えるユニットが複数積層されている。なお、図1ないし図9を参照して説明した電気化学反応装置と共通する部分については適宜説明を援用することができる。
複数のアノード11の一つは、複数のカソード23の一つと流路板24との間に設けられる。複数のカソード23の一つは、上記複数のアノード11の一つと流路板24の一つとの間に設けられる。複数のセパレータ30の一つは、上記複数のアノード11の一つと上記複数のカソード23の一つとの間を分離する。複数の流路層24cの一つは、複数のカソード23の他の一つと上記複数のアノード11の一つとの間に設けられる。また、図示しないが複数のアノード11および複数のカソード23は、電源40に電気的に接続されている。
流路板12は、例えば図1に示す電気化学反応装置と同様に集電体13を介して電源40に電気的に接続されてもよい。多孔質導電層23aは、流路層24cに面する。還元触媒層23bは、セパレータ30に面する。
流路層24aは、多孔質導電層23aに面する。流路層24aは例えば図1に示す電気化学反応装置と同様に集電体25を介して電源40に電気的に接続されてもよい。流路層24bは、流路層24aに積層される。流路層24bの領域24b1は流路層24bを貫通する開口を有する。流路層24cは、例えば流路層24aと同じ構造を有する流路層を用いることができる。また、流路層24aの開口246a、246bを設けずに領域24b2が流路層24cの端部まで延在する構造を有していてもよい。このとき流路層24cの端部から流路243に直接二酸化炭素または電解液を供給してもよい。流路層24cをバイポーラプレートともいう。また、シール材26は、上記ユニットの積層体を封止する。
図10に示す電気化学反応装置では、アノード11側の電解液とカソード23側の電解液を共通化し、さらに電解液を流す流路を共通化することができる。例えば同じ流路層24cをアノード11側の流路およびカソード23側の流路として用いることができ、前述の流路のように開口を形成することによりカソード23側の流路としても用いることができる。このような構成にすると、アノード11とカソード23との接触抵抗が削減され、効率が向上するため好ましい。また、部品点数の削減によるコストダウンや小型軽量化にもなって良い。
(実施例1A、1B、2A、2B、3A、3B、4、5、比較例1、2)
本実施例の電気化学反応装置のセルを以下のとおり作製した。エッチング法によりメッシュ構造を有するチタンからなる金網の表面に酸化イリジウムを含有する酸化触媒を形成することによりアノードを形成した。また、第1の多孔質導電層とカーボンペーパからなる第2の多孔質導電層との積層体に23wt%の金坦持カーボンをスプレーして、金の坦持量が0.2mg/cm2である触媒層付きカーボンペーパを作製することによりカソードを作製した。アノードとカソードとをイオン交換膜(Nafion115)で挟んで積層して構造体(触媒面積400mm2)を作製した。
カソード側の流路板は導電性を有するチタンにより形成した。流路の折り返し部では、流路が並列接続で2つに分岐する。折り返し部の分岐数は、一部合流個所が含む分岐数として規定した。
各実施例、比較例における流路板についての各パラメータの値を表1に示す。表1において、往復数は流路の折り返し数を表す。往復数が1.5であれば、流路は2回折り返すように延在する。また、往復数が2.5であれば、流路は4回折り返すように延在する。
流路板重畳部長Xは流路板と第1または第2の多孔質導電層との重畳部のX軸方向の長さ(図3のL1に相当)を表す。流路板重畳部長Yは、流路板と第1または第2の多孔質導電層との重畳部のY軸方向の長さ(図3のL2に相当)を表す。流路重畳部長Xは、流路と第1または第2の多孔質導電層との重畳部のX軸方向の長さ(図3のL3に相当)を表す。流路重畳部長Yは、流路と第1または第2の多孔質導電層との重畳部のY軸方向の長さ(図3のL4に相当)を表す。重畳部残部長は、流路板重畳部長Yと流路重畳部長Yとの差(L2−L4に相当)を表す。流路延在部幅は、流路の延在部の平均幅(図3のL6に相当)を表す。流路折返部幅は、流路の折り返し部の平均幅(図3のL8に相当)を表す。延在部間幅は、流路の複数の延在部の一つと他の一つとの間の幅(図3のL9に相当)を表す。流路幅比は、延在部間幅に対する延在部幅の比(L6/L9に相当)を表す。流路板重畳部端幅Xは、流路板重畳部のX軸方向の端部と流路重畳部との間の最狭幅(図3のL10に相当)を表す。流路板重畳部端幅Yは、流路板重畳部のY軸方向の端部と流路重畳部との間の最狭幅(図3のL11に相当)を表す。
流路断面積は、流路の延在部の幅と流路の深さ(図3のL12に相当)との積(L6×L12に相当)により求められる。流路重畳部面積は、流路と第1または第2の多孔質導電層との重畳部の面積を表す。流路重畳部面積は、流路のコーナーの曲率半径Rを考慮して流路形状を定義して計算した値である。具体的には、流路の延在部の長さ(L5)と幅(L6)との積により定義される第1の面積と、折り返し部の長さ(L7)と幅(L8)との積により定義される第2の面積との和に対してコーナーの角を考慮することに算出される。
重畳部残部面積は、流路重畳部を除く流路板と第1または第2の多孔質導電層との重畳部の残部の面積を表す。重畳部残部面積は、流路と第1または第2の多孔質導電層との重畳部の各頂点のうち、内角が180度未満の頂点を結ぶ多角形の面積を重畳部の面積から引いた値である。本例では第1および第2の多孔質導電層の一表面の面積が共に400mm2であるため、400mm2から上記多角形の面積を引いた値を重畳部残部面積の値とした。
標準偏差σは、上記式(A)に示すように、流路重畳部を除く流路板重畳部の残部をX軸方向に沿って0.1mm毎に区切る複数の第1の分割線と、上記残部をY軸方向に沿って0.1mm毎に区切る複数の第2の分割線と、の複数の交点のそれぞれから重畳部までの最短距離xの二乗を交点毎に算出し、算出した各最短距離xの二乗の和を交点数nで割った値の平方根により算出した。
個数割合は、全ての交点83の数nに対する最短距離xが0.5mm以上である交点の数の個数割合を表す。面積比は重畳部の面積に対する重畳部の面積の比を表す。
アノード側の流路板は導電性を有するチタンで形成される。アノード側の流路はカーボンペーパとの接触面に沿って4回折り返すように延在する。流路は、延在部間には何もない構造のカソード側の流路と同様の構造を有する。このアノード側の流路板とカソード側の流路板により上記構造体を挟み、電気化学反応装置のセルを作製した。
このセルの酸化側の流路に電解液として1.0Mの水酸化カリウム溶液を0.6sccmの流量で供給した。還元側の流路には二酸化炭素ガスを30sccmの流量で供給した。このセルにアノードとカソードとの間に2.5Vの電圧を印加し、カソード側から発生する気体を捕集して二酸化炭素の変換効率を測定した。また、発生する気体をサンプリングし、ガスクロマトグラフィにより同定・定量を行った。その際の電流値を電流計で測定した。それぞれの電流値、一酸化炭素の発生量から計算した一酸化炭素の部分電流、水素の発生量から計算した水素の部分電流、一酸化炭素のファラデー効率、水素のファラデー効率、一酸化と水素との生成量の比(CO/H2)等を表1に示す。
図11は、第1または第2の多孔質導電層と流路板との重畳部の面積に対する第1または第2の多孔質導電層と流路との重畳部の面積の面積比とファラデー効率との関係を示す図である。図11において四角印は面積比と水素のファラデー効率との関係を表し、三角印は面積比と一酸化炭素のファラデー効率との関係を表す。
図12は、上記面積比と全体電流または部分電流との関係を示す図である。図12において四角印は面積比と水素の部分電流との関係を表し、三角印は面積比と一酸化炭素の部分電流との関係を表し、菱型印は面積比と全体電流との関係を表す。
図11および図12に示すように、水素のファラデー効率、一酸化炭素のファラデー効率、ファラデー効率比、全電流、および一酸化炭素の部分電流は、面積比が約0.65のときに高い値を示し、全電流値が100mAを超えるためには面積比が0.5以上にする必要がある。面積当たりの電流密度が高いことは、反応密度が高く、セル性能の効率が高いことを示す。さらに、一酸化炭素の部分電流が45mA以上となるのは面積比0.5以上0.85以下、実用性のあるファラデー効率40%以上となる点、CO/H2が0.6以上となる点ともに面積比0.5以上0.85以下であり、面積比が0.5以上で0.85以下であることを実用面からも必要とすることがわかる。
図13は、流路幅比と全体電流または部分電流との関係を示す図である。図13において四角印は流路幅比と水素の部分電流との関係を表し、三角印は流路幅比と一酸化炭素の部分電流との関係を表し、菱型印は流路幅比と全体電流との関係を表す。全電流は、流路幅比が約1.9のときに高い値を示す。流路幅比が少なくとも1.5以上5以下でないと、45mA以上の一酸化炭素の部分電流を得ることが困難になることがわかる。流路の延在部間の幅も広ければ一酸化炭素の反応選択性が向上し、一酸化炭素の部分電流も増加する。流路の往復数が1.5の場合、一酸化炭素の部分電流が高いが、全電流が低かった。
図14は、重畳部残部面積と全体電流または部分電流との関係を示す図である。図14において四角印は重畳部残部面積と水素の部分電流との関係を表し、三角印は重畳部残部面積と一酸化炭素の部分電流との関係を表し、菱型印は重畳部残部面積と全体電流との関係を表す。重畳部残部面積が25mm2以下の領域で、一酸化炭素の部分電流が45mA以上であった。このことから第1または第2の多孔質導電層の一表面の面積に対する、重畳部残部の面積の比は、1/6以下であることが好ましいことがわかる。
比較例1と比較例2とを比較すると流路面積はほぼ同一で、比較例1では延在間幅が広く、残部面積が小さい。また、一酸化炭素のファラデー効率が、比較例1では15%、比較例2では23%、部分電流が比較例1では15mA、比較例2では23mA、であった。全体電流値はほぼ同じであるため、比較例2の方が比較例1よりもセル性能が高いことがわかる。これは延在部間幅が狭いことよりも重畳部残部面積が小さいことによる効率向上の寄与が大きかったといえる。これは、重畳部端部から重畳部までの最短距離が長いと、第1の多孔質導電層内部の水濃度が向上し、水素発生が大きくなるためである。
比較例1の延在部幅と延在部間幅はそれぞれ1.5mmに対し、比較例2では延在部幅が1.4mm、延在部間幅が2mmである。延在部間幅が広い構造は、一酸化炭素の選択性に不利な構造にも関わらず、比較例2の方が一酸化炭素の反応選択性が高いことが確認できる。これは、比較例2では流路重畳部のX軸方向の長さが17mmであり、Y軸方向の長さが16.5mmであり、残部面積が非常に大きくなっているためである。しかしながら、その効率は低く、実用上は比較例2の構成は好ましくない。
実際のセルにおいては100cm2前後のセル面積で反応させるため、重畳部の面積に対する重畳部残部面積の比は低く、影響は小さくなる。実際に使用されるセルサイズは7cm角以上であることから計算すると、少なくとも残部の幅を1.5mm以下にするためには、重畳部の面積に対する重畳部残部面積の比は0.7以下である必要があり、これ以下であれば、セル性能向上に効果があると言える。
図15は、標準偏差σと全体電流または部分電流との関係を示す図である。図15において四角印は標準偏差σと水素の部分電流との関係を表し、三角印は標準偏差σと一酸化炭素の部分電流との関係を表し、菱型印は標準偏差σと全体電流との関係を表す。図15から標準偏差σは0.8以下であることが好ましいことがわかる。また、一酸化炭素のファラデー効率が40%以上、であって、一酸化炭素の部分電流値が50mA程度であって、一酸化炭素と水素の生成量の比が1:1以上になるために標準偏差σが0.75以下であることが好ましい。
図16は、複数の第1の分割線と複数の第2の分割線の各交点と流路重畳部との最短距離が0.5mm以上である交点の個数割合と全体電流または部分電流との関係を示す図である。図16において四角印は個数割合と水素の部分電流との関係を表し、三角印は個数割合と一酸化炭素の部分電流との関係を表し、菱型印は個数割合と全体電流との関係を表す。図16に示すように個数割合が30%を超えると水素発生が多く、一酸化炭素の生成量が非常に少ないため、少なくとも30%以下であることが好ましいことがわかる。より好ましくは、20%以下、望ましくは10%以下であると、一酸化炭素のファラデー効率が50%近くなり、好ましい。
本実施例、比較例は流路構造による辺流やセル内での発電分布の影響を抑えるために、サーペンタイン状に延在する流路を用い、二酸化炭素の流量が豊富な領域において、流路構造を比較することで、流路面積やその他パラメーターでの比較を行ったが、セル内での第1の多孔質導電層中の水と二酸化炭素の濃度によって反応選択率が変化するため、サーペンタイン状の流路に限らず、格子状等のその他の流路においても同等の効果を有する。
また、触媒、ガス拡散層によってもこれら比率や傾向は異なり、触媒と溶液成分を変化させることでも生成物や比率を変化させることができる。ガス拡散層を変化させ、流路構造による違いを確認したところ、一酸化炭素の電解効率の好ましい位置関係については大きく変化せず、同様の結果が見られている、これは流路下部の二酸化炭素と延在部間領域下部の水の濃度の分布の傾向が同様であることによるものである。ガス拡散層の撥水性を低下させた際の値としては、全電流値と一酸化炭素の選択性が低下傾向にあるものの、グラフの形状に関しては一酸化炭素の電解の部分電流値のピーク個所やファラデー効率の範囲は同様の値を示し、同様の効果を表した。同様にセル電圧についても、より低い電圧の場合、トータルの値が減少し、一酸化炭素の比率が増加する傾向にあるが、二酸化炭素の還元の部分電流密度の観点からも同様の傾向が確認され、電圧の高い場合においては、トータルの値が増加し、一酸化炭素の比率が減少する傾向にあるが、二酸化炭素の還元の部分電流密度の好ましい個所に関しては同様の傾向が確認された。また、銅触媒を用いた二酸化炭素の還元反応においても。水素と二酸化炭素についての全電流密度、ファラデー効率、全電流値それぞれに関して同様の傾向が得られる。
上記実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。