以下、実施形態について、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態による二酸化炭素の電解装置の構成を示す図であり、図2は図1に示す電解装置における電解セルの構成を示す断面図である。図1に示す二酸化炭素の電解装置1は、電解セル2と、電解セル2にアノード溶液を供給するアノード溶液供給系統100と、電解セル2にカソード溶液を供給するカソード溶液供給系統200と、電解セル2に二酸化炭素(CO2)ガスを供給するガス供給系統300と、電解セル2における還元反応により生成した生成物を収集する生成物収集系統400と、収集した生成物の種類や生成量を検出すると共に、生成物の制御やリフレッシュ動作の制御を行う制御系500と、カソード溶液やアノード溶液の廃液を収集する廃液収集系統600と、電解セル2のアノードやカソード等を回復させるリフレッシュ材供給部700とを具備している。なお、リフレッシュ動作に必要な構成要素は必ずしも設けられなくてもよい。
電解セル2は、図2に示すように、アノード部10とカソード部20とセパレータ30とを具備している。アノード部10は、アノード11、アノード流路12(アノード溶液流路)、アノード集電板13、撥水性多孔体15、およびアノード流路16(ガス抜き流路)を備えている。カソード部20は、カソード流路21(カソード溶液流路)、カソード22、カソード流路23(CO2ガス流路)、およびカソード集電板24を備えている。セパレータ30は、アノード部10とカソード部20とを分離するように配置されている。アノード11、アノード流路12、アノード集電板13、撥水性多孔体15、およびアノード流路16、カソード流路21、カソード22、カソード流路23、カソード集電板24、およびセパレータ30は、互いに積層されていてもよい。また、カソード流路21は無くてもよい。電解セル2は、図示しない一対の支持板で挟み込まれ、さらにボルト等で締め付けられている。図1および図2において、アノード11およびカソード22に電流を流す電源制御部40が設けられている。電源制御部40は電流導入部材を介してアノード11およびカソード22と接続されている。電源制御部40は、通常の系統電源や電池等に限られるものではなく、太陽電池や風力発電等の再生可能エネルギーで発生させた電力を供給する電力源を有していてもよい。なお、電源制御部40は、上記電力源と、上記電力源の出力を調整してアノード11とカソード22との間の電圧を制御するパワーコントローラ等を有していてもよい。
アノード11は、水または水酸化物を含む物質を酸化して酸素を含む酸化生成物を生成するために設けられる。アノード11は、電解溶液としてのアノード溶液中の水(H2O)の酸化反応を生起し、酸素(O2)や水素イオン(H+)を生成する、もしくはカソード部20で生じた水酸化物イオン(OH−)の酸化反応を生起し、酸素(O2)や水(H2O)を生成する電極(酸化電極)である。アノード11は、セパレータ30と接する第1の面11aと、アノード流路12に面する第2の面11bとを有する。アノード11の第1の面11aは、セパレータ30と密着している。アノード流路12は、アノード11に面し、アノード11に電解溶液としてアノード溶液を供給するものであり、流路板14に設けられたピット(溝部/凹部)により構成されている。アノード溶液は、アノード11と接するようにアノード流路12内を流通する。アノード集電板13は、アノード流路12を構成する流路板14のアノード11とは反対側の面と電気的に接している。
撥水性多孔体15は、アノード流路12とアノード流路16との間に設けられる。撥水性多孔体15の一つの面はアノード流路12に面し、一つの面の反対側の面はアノード流路16に面する。撥水性多孔体15は、少なくとも酸素等の酸化生成物が通過する。
撥水性多孔体15は、例えばカーボンペーパやカーボンクロス等により構成され、撥水処理が施されている。カーボンペーパやカーボンクロスより孔径が小さい多孔質体(Micro Porous Layer:MPL)をさらに積層させてもよい。具体的には、東レ社製の10〜90質量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含浸させたカーボンペーパや例えばSGL社製のSigracet28BC、29BC、38BC、39BC、E−TEK社製のLT−2300等の導電性を有する多孔質体を用いることができる。特にMPL付きの多孔質体は気液分離性能が高く好ましい。非導電性多孔体としては、例えば住友電工社製のポアフロンなどのPTFEの撥水性の多孔体等を用いてもよい。
撥水性多孔体15は、少なくとも平均孔径20μm以下の多孔体を用いることが好ましい。一般的に2〜20μm程度の平均孔径を有する多孔体が好ましいが、撥水性の度合いなどにより最適値は異なる。空孔率は50%以上、好ましくは70%以上が好ましい。
アノード流路16は、酸素等のガス状の酸化生成物を排出するための流路であり、流路板17に設けられたピット(溝部/凹部)により構成されている。
上述したように、実施形態の電解セル2においては、アノード11とセパレータ30とを密着させている。アノード11では酸素(O2)が生成されるが、この際にセパレータ30をカソード流路23とアノード流路12とで挟み込んだセル構造では、アノード11で発生した酸素(O2)ガスの気泡がアノード流路12に滞留し、アノード11とセパレータ30との間のセル抵抗が増加し、これによりアノード11の電圧変動が大きくなることがある。このような点に対して、アノード11とセパレータ30との間にアノード流路12を配置せず、アノード11とセパレータ30とを密着させ、また撥水性多孔体15を設けることにより、アノード11で発生した酸素ガスはアノード流路16に排出される。これによって、アノード11とセパレータ30との間における酸素ガスの滞留が防止され、アノード11の電圧変動によるセル電圧の変動を抑制することが可能になる。
流路板14には、図示を省略した溶液導入口と溶液導出口とが設けられており、これら溶液導入口および溶液導出口を介して、アノード溶液供給系統100によりアノード溶液が導入および排出される。流路板14には、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。アノード流路12には、図3に示すように、複数のランド(凸部)14aが設けられていることが好ましい。ランド14aは、機械的な保持と電気的な導通のために設けられている。ランド14aは、アノード溶液の流れを均一化させるために、互い違いに設けることが好ましい。このようなランド14aによって、アノード流路12は蛇行している。さらに、酸素(O2)ガスが混在するアノード溶液を良好に排出するためにも、アノード流路12にランド14aを互い違いに設け、アノード流路12を蛇行させることが好ましい。
アノード11は、水(H2O)を酸化して酸素や水素イオンを生成する、もしくは水酸化物イオン(OH−)を酸化して水や酸素を生成することが可能で、そのような反応の過電圧を減少させることが可能な触媒材料(アノード触媒材料)で主として構成されることが好ましい。そのような触媒材料としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)等の金属、それらの金属を含む合金や金属間化合物、酸化マンガン(Mn−O)、酸化イリジウム(Ir−O)、酸化ニッケル(Ni−O)、酸化コバルト(Co−O)、酸化鉄(Fe−O)、酸化スズ(Sn−O)、酸化インジウム(In−O)、酸化ルテニウム(Ru−O)、酸化リチウム(Li−O)、酸化ランタン(La−O)等の二元系金属酸化物、Ni−Co−O、Ni−Fe−O、La−Co−O、Ni−La−O、Sr−Fe−O等の三元系金属酸化物、Pb−Ru−Ir−O、La−Sr−Co−O等の四元系金属酸化物、Ru錯体やFe錯体等の金属錯体が挙げられる。
アノード11は、セパレータ30とアノード流路12との間でアノード溶液やイオンを移動させることが可能な構造、例えばメッシュ材、パンチング材、多孔体、金属繊維焼結体等の多孔構造を有する基材を備えている。基材は、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の金属やこれら金属を少なくとも1つ含む合金(例えばSUS)等の金属材料で構成してもよいし、上述したアノード触媒材料で構成してもよい。アノード触媒材料として酸化物を用いる場合には、上記した金属材料からなる基材の表面にアノード触媒材料を付着もしくは積層して触媒層を形成することが好ましい。アノード触媒材料は、酸化反応を高める上でナノ粒子、ナノ構造体、ナノワイヤ等を有することが好ましい。ナノ構造体とは、触媒材料の表面にナノスケールの凹凸を形成した構造体である。
カソード22は、二酸化炭素を含む物質を還元して炭素化合物を含む還元生成物を生成するために設けられる。カソード22は、二酸化炭素(CO2)の還元反応やそれにより生成される炭素化合物の還元反応を生起し、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)、エチレングリコール(C2H6O2)等の炭素化合物を生成する電極(還元電極)である。カソード22においては、二酸化炭素(CO2)の還元反応と同時に、水(H2O)の還元反応により水素(H2)を発生する副反応が生起される場合がある。カソード22は、カソード流路21に面する第1の面22aと、カソード流路23に面する第2の面22bとを有する。カソード流路21は、電解溶液としてのカソード溶液がカソード22およびセパレータ30と接するように、カソード22とセパレータ30との間に配置されている。
カソード流路21は、カソード22に面し、流路板25に設けられた開口部により構成されている。流路板25には、図示を省略した溶液導入口と溶液導出口とが設けられており、これら溶液導入口および溶液導出口を介して、カソード溶液供給系統200により電解溶液としてカソード溶液が導入および排出される。カソード溶液は、カソード22およびセパレータ30と接するようにカソード流路21内を流通する。カソード流路21を構成する流路板25には、化学反応性が低く、かつ導電性を有しない材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、アクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂等の絶縁樹脂材料が挙げられる。カソード流路21はセル抵抗の増加につながるため、なくても良い。
カソード22においては、主としてカソード溶液に接している部分でCO2の還元反応が生じる。このため、カソード流路21には、図4に示すように、開口面積が広い開口部を適用することが好ましい。ただし、機械的な保持や電気的な接続性を高めるために、図5に示すように、カソード流路21にランド(凸部)26を設けてもよい。カソード流路21のランド26は、カソード流路21の中央部に設けられており、カソード流路21内のカソード溶液の流通を妨げないように、ランド26より薄いブリッジ部27で流路板25に保持されている。カソード流路21にランド26を設ける場合、セル抵抗を低減するために、ランド26の数は少ない方が好ましい。
ランド26の少なくとも一部は、流路板14のランド14aに重畳することが好ましい。これにより良好な電気的接続を実現し、電解セル2の電気抵抗を低減させることが出来る。また、セパレータ30とアノード触媒材料とカソード触媒材料との良好な接触を実現し、電気的抵抗の低減だけでなく、反応を効率的に行うことができる。また、アノード流路16の少なくとも一部は、ランド26に重畳することが好ましい。これにより良好な電気的接続を実現し、電解セル2の電気抵抗を低減させることができる。また、セパレータ30とアノード触媒材料とカソード触媒材料との良好な接触を実現し、電気的抵抗の低減だけでなく、反応を効率的に行うことができる。
カソード流路23は、カソード22に面し、流路板28に設けられたピット(溝部/凹部)により構成されている。二酸化炭素を含む気体が流れるCO2ガス流路を構成する流路板28には、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。なお、流路板14、流路板25、および流路板28には、図示を省略した溶液やガスの導入口および導出口、また締め付けのためのネジ穴等が設けられている。また、各流路板14、25、28の前後には、図示を省略したパッキンが必要に応じて挟み込まれる。
流路板28には、図示を省略したガス導入口とガス導出口とが設けられており、これらガス導入口およびガス導出口を介して、ガス供給系統300によりCO2ガスもしくはCO2を含むガス(総称して、単にCO2ガスと呼称する場合もある。)が導入および排出される。CO2ガスは、カソード22と接するようにカソード流路23内を流通する。カソード流路23には、図6に示すように、複数のランド(凸部)29が設けられていることが好ましい。ランド29は、機械的な保持と電気的な導通のために設けられている。ランド29は互い違いに設けることが好ましく、これによりカソード流路23はアノード流路12と同様に蛇行している。カソード集電板24は、流路板28のカソード22とは反対側の面と電気的に接している。
実施形態の電解セル2においては、アノード流路12およびカソード流路23にランド14a、29を設けることで、アノード11とアノード流路12を構成する流路板14との接触面積、およびカソード22とカソード流路23を構成する流路板28との接触面積を増やすことができる。また、カソード流路21にランド26を設けることで、カソード22とカソード流路21を構成する流路板25との接触面積を増やすことができる。これらによって、電解セル2の機械的な保持性を高めつつ、アノード集電板13とカソード集電板24との間の電気的な導通が良好になり、CO2の還元反応効率等を向上させることが可能になる。
カソード22は、図7に示すように、ガス拡散層22Aとその上に設けられたカソード触媒層22Bとを有している。ガス拡散層22Aとカソード触媒層22Bとの間には、図8に示すように、ガス拡散層22Aより緻密な多孔質層22Cを配置してもよい。図9に示すように、ガス拡散層22Aはカソード流路23側に配置され、カソード触媒層22Bはカソード流路21側に配置される。カソード触媒層22Bは、ガス拡散層22A中に入り込んでいてもよい。カソード触媒層22Bは、触媒ナノ粒子や触媒ナノ構造体等を有することが好ましい。ガス拡散層22Aは、例えばカーボンペーパやカーボンクロス等により構成され、撥水処理が施されている。多孔質層22Cは、カーボンペーパやカーボンクロスより孔径が小さい多孔体により構成される。
図9の模式図に示すように、カソード触媒層22Bにおいてはカソード流路21からカソード溶液やイオンが供給および排出される。ガス拡散層22Aにおいては、カソード流路23からCO2ガスが供給され、またCO2ガスの還元反応の生成物が排出される。ガス拡散層22Aに適度な撥水処理を施しておくことによって、カソード触媒層22Bには主としてガス拡散によりCO2ガスが到達する。CO2の還元反応やそれにより生成される炭素化合物の還元反応は、ガス拡散層22Aとカソード触媒層22Bとの境界近傍、もしくはガス拡散層22A中に入り込んだカソード触媒層22B近傍で生起し、ガス状の生成物はカソード流路23から主として排出され、液状の生成物はカソード流路21から主として排出される。
カソード触媒層22Bは、二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成する、また必要に応じてそれにより生成した炭素化合物を還元して炭素化合物を生成することが可能で、そのような反応の過電圧を減少させることが可能な触媒材料(カソード触媒材料)で構成することが好ましい。そのような材料としては、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、鉛(Pb)、錫(Sn)等の金属、それらの金属を少なくとも1つ含む合金や金属間化合物等の金属材料、炭素(C)、グラフェン、CNT(カーボンナノチューブ)、フラーレン、ケッチェンブラック等の炭素材料、Ru錯体やRe錯体等の金属錯体が挙げられる。カソード触媒層22Bには、板状、メッシュ状、ワイヤ状、粒子状、多孔質状、薄膜状、島状等の各種形状を適用することができる。
カソード触媒層22Bを構成するカソード触媒材料は、上記した金属材料のナノ粒子、金属材料のナノ構造体、金属材料のナノワイヤ、もしくは上記した金属材料のナノ粒子がカーボン粒子、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素材料に担持された複合体を有することが好ましい。カソード触媒材料として触媒ナノ粒子、触媒ナノ構造体、触媒ナノワイヤ、触媒ナノ担持構造体等を適用することによって、カソード22における二酸化炭素の還元反応の反応効率を高めることができる。
セパレータ30は、アノード11とカソード22との間に設けられる。アノード11とカソード22との間でイオンを移動させることができ、かつアノード部10とカソード部20とを分離することが可能なイオン交換膜等で構成される。イオン交換膜としては、例えばナフィオンやフレミオンのようなカチオン交換膜、ネオセプタやセレミオンのようなアニオン交換膜を使用することができる。後述するように、アノード溶液やカソード溶液としてアルカリ溶液を使用し、主として水酸化物イオン(OH−)の移動を想定した場合、セパレータ30はアニオン交換膜で構成することが好ましい。ただし、イオン交換膜以外にもアノード11とカソード22との間でイオンを移動させることが可能な材料であれば、ガラスフィルタ、多孔質高分子膜、多孔質絶縁材料等をセパレータ30に適用してもよい。
電解溶液としてのアノード溶液およびカソード溶液は、少なくとも水(H2O)を含む溶液であることが好ましい。二酸化炭素(CO2)は、カソード流路23から供給されるため、カソード溶液は二酸化炭素(CO2)を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。アノード溶液とカソード溶液には、同一の溶液を適用してもよいし、異なる溶液を適用してもよい。アノード溶液およびカソード溶液として用いるH2Oを含む溶液としては、任意の電解質を含む水溶液が挙げられる。電解質を含む水溶液としては、例えば水酸化物イオン(OH−)、水素イオン(H+)、カリウムイオン(K+)、ナトリウムイオン(Na+)、リチウムイオン(Li+)、塩化物イオン(Cl−)、臭化物イオン(Br−)、ヨウ化物イオン(I−)、硝酸イオン(NO3 −)、硫酸イオン(SO4 2−)、リン酸イオン(PO4 2−)、ホウ酸イオン(BO3 3−)、および炭酸水素イオン(HCO3 −)から選ばれる少なくとも1つを含む水溶液が挙げられる。電解溶液の電気的な抵抗を低減するためには、アノード溶液およびカソード溶液として、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等の電解質を高濃度に溶解させたアルカリ溶液を用いることが好ましい。
カソード溶液には、イミダゾリウムイオンやピリジニウムイオン等の陽イオンと、BF4 −やPF6 −等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液を用いてもよい。その他のカソード溶液としては、エタノールアミン、イミダゾール、ピリジン等のアミン溶液もしくはその水溶液が挙げられる。アミンは、一級アミン、二級アミン、三級アミンのいずれでもかまわない。
アノード部10のアノード流路12には、アノード溶液供給系統100から電解溶液としてアノード溶液が供給される。アノード溶液供給系統100は、アノード溶液がアノード流路12内を流通するように、アノード溶液を循環させる。アノード溶液供給系統100は、圧力制御部101、アノード溶液タンク102、流量制御部(ポンプ)103、基準電極104、圧力計105、およびタンク106を有しており、アノード溶液がアノード流路12を循環するように構成されている。アノード溶液タンク102は、循環するアノード溶液中に含まれる酸素(O2)等のガス成分を収集する、図示しないガス成分収集部に接続されている。アノード溶液は、圧力制御部101および流量制御部103において、流量や圧力が制御されてアノード流路12に導入される。
タンク106は、撥水性多孔体15を介して排出される酸化生成物を収容するために設けられる。タンク106は、例えばアノード流路16から酸化生成物を排出するための排出流路に接続される。また、タンク106は、圧力制御部101を介してアノード溶液タンク102に接続される。また、撥水性多孔体15を介して排出される液体をタンク106および循環流路を介してアノード溶液タンク102に戻してもよい。さらに、タンク106は、リフレッシュ材供給部700や循環流路を介してカソード流路23に接続されてもよい。これにより、タンク106に液体が収容される場合に当該液体をリンス液として用いることができる。
カソード部20のカソード流路21には、カソード溶液供給系統200からカソード溶液が供給される。カソード溶液供給系統200は、カソード溶液がカソード流路21内を流通するように、カソード溶液を循環させる。カソード溶液供給系統200は、圧力制御部201、カソード溶液タンク202、流量制御部(ポンプ)203、基準電極204、および圧力計205を有しており、カソード溶液がカソード流路21を循環するように構成されている。カソード溶液タンク202は、循環するカソード溶液中に含まれる一酸化炭素(CO)等のガス成分を収集するガス成分収集部206に接続されている。カソード溶液は、圧力制御部201および流量制御部203において、流量や圧力が制御されてカソード流路21に導入される。
カソード流路23には、ガス供給系統300からCO2ガスが供給される。ガス供給系統300は、CO2ガスボンベ301、流量制御部302、圧力計303、および圧力制御部304を有している。CO2ガスは、流量制御部302および圧力制御部304において、流量や圧力が制御されてカソード流路23に導入される。ガス供給系統300は、カソード流路23を流通したガス中の生成物を収集する生成物収集系統400と接続されている。生成物収集系統400は、気液分離部401と生成物収集部402とを有している。カソード流路23を流通したガス中に含まれるCOやH2等の還元生成物は、気液分離部401を介して生成物収集部402に蓄積される。
アノード溶液やカソード溶液は、上述したように電解反応動作時においてはアノード流路12やカソード流路21を循環する。後述する電解セル2のリフレッシュ動作時には、アノード11、アノード流路12、カソード22、カソード流路21等がアノード溶液やカソード溶液から露出するように、アノード溶液やカソード溶液は廃液収集系統600に排出される。廃液収集系統600は、アノード流路12およびカソード流路21に接続された廃液収集タンク601を有する。アノード溶液やカソード溶液の廃液は、図示しないバルブを開閉することによって、廃液収集タンク601に収集される。バルブの開閉等は制御系500により一括して制御される。廃液収集タンク601は、リフレッシュ材供給部700から供給されるリンス液の収集部としても機能する。さらに、リフレッシュ材供給部700から供給され、液状物質を一部含むガス状物質も、必要に応じて廃液収集タンク601で収集される。
リフレッシュ材供給部700は、ガス状物質供給系710とリンス液供給系720とを備えている。なお、リンス液供給系720は、場合によっては省くことも可能である。ガス状物質供給系710は、空気、二酸化炭素、酸素、窒素、アルゴン等のガス状物質の供給源となるガスタンク711と、ガス状物質の供給圧力を制御する圧力制御部712とを有している。リンス液供給系720は、水等のリンス液の供給源となるリンス液タンク721と、リンス液の供給流量等を制御する流量制御部(ポンプ)722とを有している。ガス状物質供給系710およびリンス液供給系720は、配管を介してアノード流路12、カソード流路21、およびカソード流路23に接続されている。ガス状物質やリンス液は、図示しないバルブを開閉することによって、各流路12、21、23に供給される。バルブの開閉等は制御系500により一括して制御される。
生成物収集部402に蓄積された還元生成物の一部は、制御系500の還元性能検出部501に送られる。還元性能検出部501においては、還元生成物中のCOやH2等の各生成物の生成量や比率が検出される。検出された各生成物の生成量や比率は、制御系500のデータ収集・制御部502に入力される。さらに、データ収集・制御部502は電解セル2のセル性能の一部として、セル電圧、セル電流、カソード電位、アノード電位等の電気的なデータやアノード溶液流路およびカソード溶液流路の内部の圧力および圧力損失等のデータを収集してリフレッシュ制御部503に送る。
データ収集・制御部502は、還元性能検出部501に加えて、電源制御部40、アノード溶液供給系統100の圧力制御部101や流量制御部103、カソード溶液供給系統200の圧力制御部201や流量制御部203、ガス供給系統300の流量制御部302や圧力制御部304、およびリフレッシュ材供給部700の圧力制御部712や流量制御部722と、一部図示を省略した双方向の信号線を介して電気的に接続されており、これらは一括して制御される。なお、各配管には図示しないバルブが設けられており、バルブの開閉動作はデータ収集・制御部502からの信号により制御される。データ収集・制御部502は、例えば電解動作時に上記構成要素の動作を制御してもよい。
リフレッシュ制御部503は、電源制御部40、アノード溶液供給系統100の流量制御部103、カソード溶液供給系統200の流量制御部203、ガス供給系統300の流量制御部302、およびリフレッシュ材供給部700の圧力制御部712、流量制御部722と、一部図示を省略した双方向の信号線を介して電気的に接続されており、これらは一括して制御される。なお、各配管には図示しないバルブが設けられており、バルブの開閉動作はリフレッシュ制御部503からの信号により制御される。リフレッシュ制御部503は、例えば電解動作時に上記構成要素の動作を制御してもよい。また、リフレッシュ制御部503およびデータ収集・制御部502を一つの制御部により構成してもよい。
実施形態の二酸化炭素の電解装置1の運転動作について説明する。まず、図10に示すように、電解装置1の立上げ工程S101が実施される。電解装置1の立上げ工程S101においては、以下の動作が実施される。アノード溶液供給系統100においては、圧力制御部101や流量制御部103で流量や圧力を制御して、アノード溶液をアノード流路12に導入する。カソード溶液供給系統200においては、圧力制御部201や流量制御部203で流量や圧力を制御して、カソード溶液をカソード流路21に導入する。ガス供給系統300においては、流量制御部302や圧力制御部304で流量や圧力を制御して、CO2ガスをカソード流路23に導入する。
次に、CO2の電解動作工程S102が実施される。CO2の電解動作工程S102においては、立上げ工程S101が実施された電解装置1の電源制御部40による電解電圧の印加を開始し、アノード11とカソード22との間に電圧を印加して電流が供給される。アノード11とカソード22との間に電流を流すと、以下に示すアノード11付近での酸化反応およびカソード22付近での還元反応が生じる。ここでは、炭素化合物として一酸化炭素(CO)を生成する場合について、主として説明するが、二酸化炭素の還元生成物としての炭素化合物は一酸化炭素に限られるものではなく、前述した有機化合物等の他の炭素化合物であってもよい。また、電解セル2による反応過程としては、主に水素イオン(H+)を生成する場合と、主に水酸化物イオン(OH−)を生成する場合とが考えられるが、これら反応過程のいずれかに限定されるものではない。
まず、主に水(H2O)を酸化して水素イオン(H+)を生成する場合の反応過程について述べる。アノード11とカソード22との間に電源制御部40から電流を供給すると、アノード溶液と接するアノード11で水(H2O)の酸化反応が生じる。具体的には、下記の(1)式に示すように、アノード溶液中に含まれるH2Oが酸化されて、酸素(O2)と水素イオン(H+)とが生成される。
2H2O → 4H++O2+4e− …(1)
アノード11で生成されたH+は、アノード11内に存在するアノード溶液、セパレータ30、およびカソード流路21内のカソード溶液中を移動し、カソード22付近に到達する。電源制御部40からカソード22に供給される電流に基づく電子(e−)とカソード22付近に移動したH+とによって、二酸化炭素(CO2)の還元反応が生じる。具体的には、下記の(2)式に示すように、カソード流路23からカソード22に供給されたCO2が還元されてCOが生成される。
2CO2+4H++4e− → 2CO+2H2O …(2)
次に、主に二酸化炭素(CO2)を還元して水酸化物イオン(OH−)を生成する場合の反応過程について述べる。アノード11とカソード22との間に電源制御部40から電流を供給すると、カソード22付近において、下記の(3)式に示すように、水(H2O)と二酸化炭素(CO2)が還元されて、一酸化炭素(CO)と水酸化物イオン(OH−)とが生成される。水酸化物イオン(OH−)はアノード11付近に拡散し、下記の(4)式に示すように、水酸化物イオン(OH−)が酸化されて酸素(O2)が生成される。
2CO2+2H2O+4e− → 2CO+4OH− …(3)
4OH− → 2H2O+O2+4e− …(4)
アノード11で発生する酸素ガスの気泡は、アノード触媒材料の活性面積を低下させる。酸化反応は、アノード溶液とアノード触媒材料との接触により起こるが、気泡によってアノード溶液とアノード触媒材料との接触面積が低下し、反応の効率を低下させる。また、気液二層流を形成するため、アノード流路12の圧力損失が増加し、ポンプ出力が増え、システムのエネルギーが失われる。よって、全体の効率を低下させる。また、アノード流路12がパラレル流路を有する場合、アノード流路12において気泡の発生量がばらつき、各流路に流れるアノード溶液の流量やアノード触媒材料との接触面積が異なるため、結果として電解セル2の反応面での反応密度分布が異なり、電解セル2の電解効率が低下する。さらに、アノードで発生する酸素ガスとカソード22のCO2等のガス上の炭素化合物がセパレータ30を介して相互移動する、いわゆるクロスオーバが発生し、セル電圧が上昇する。特に、セパレータ30としてイオン交換膜ではなく、多孔体を用いる場合に顕著である。電解セル2を積層して形成されたスタックでは、電解セル2ごとに圧力損失が異なり、各電解セルに流れるアノード溶液の流量やアノード触媒材料との接触面積が異なるため、結果として電解セルごとの出力が異なってしまうため、システム全体の効率が低下する。
実施形態の電解装置では、アノード流路12に面する撥水性多孔体15を設けることにより、気泡は撥水性多孔体15に移動し、アノード流路12から気泡を除くことができる。よって、クロスオーバ量を減少させることにより電解効率を高めることができる。
撥水性多孔体15がシート状であり、アノード流路12とシート状の撥水性多孔体15を積層し、撥水性多孔体15のアノード流路12と反対側にアノード流路16を設けることにより、アノード流路16を介して酸化生成物のガスを収集することができる。また、電解セル2により酸化生成物の気液分離を行い、発生したガスを収集することにより、電解セル2の外部に気液分離機器を設けることなくシステムを構築できるため、効率が高く、コンパクトかつ低コストな電解セル2を実現することができる。
アノード流路12の圧力は、アノード流路16の圧力よりも高いことが好ましい。これにより、効率的に酸化生成物のガスを収集することができ、アノード流路12内の気泡は、アノード流路16に移動し、アノード11の触媒活性面積の低下を抑制できるため、セル出力を高く維持することができる。
図11は、電解セル2の他の構造例を示す図である。図11に示すように、アノード流路16は、必ずしも設けられなくてもよい。セル面積が小さい、もしくは細長い形状の場合、撥水性多孔体15を介して撥水性多孔体15の側面から酸化生成物のガスを排出することもできる。これにより、アノード流路16が不要となり、コンパクトで部材点数が少ないため、電解セル2を低コストで構成することができる。このときのアノード流路12と撥水性多孔体15との圧力差は、撥水性多孔体15のガスの移動距離に合わせた圧力損失より大きくする必要がある。また、撥水性多孔体15が導電性を有する場合、流路板17を設けずに撥水性多孔体15とアノード集電板13とを直接接続することもできる。また、流路板17を導電体で形成すれば、流路板17を介して撥水性多孔体15とアノード集電板13とを電気的に接続することもでき、電解セル2の面方向での電気的抵抗を考慮せず、電解セル2の面に対し垂直方向での電気的接続が可能であり、電解セル2の電気抵抗が減少し、電解セル2の効率を高めることができる。さらに、電解セル2の垂直方向で電気的接続が可能であれば、電解セル2の積層化が可能となり、部材点数が少なくコンパクトで高密度な積層型電解装置を実現することができる。
図11に示す構造の場合、タンク106は、例えば撥水性多孔体15から酸化生成物を排出するための排出流路に接続される。また、タンク106は、圧力制御部101を介してアノード溶液タンク102に接続される。さらに、タンク106は、リフレッシュ材供給部700を介してカソード流路23に接続されてもよい。これにより、タンク106に酸素と共に液体が排出されて収容される場合に当該液体をリンス液として用いることができる。
アノード流路16を設けず、流路板14と同等の大きさの撥水性多孔体15を設け、ガスケットを設けずに気液分離した酸化生成物のガスを流路面と同一方向に撥水性多孔体15を移動させ、電解セル2から外部にガスを排出してもよい。これにより、アノード流路16を設ける必要がなく、小型化することが可能である。また、部材の積層数が多くなると、撥水性多孔体15に導電性を付与し、電解セル2の両端から電流を与える場合は、セル抵抗が高くなり、積層数が少ない方がセル性能が向上するため、好ましい。特に電解セル2を積層してスタックを形成するために好ましい。
流路板14の少なくとも一部を撥水性多孔体で形成し、ガスケットを設けずに気液分離した酸化生成物を流路面と同一方向に撥水性多孔体15を介して移動させ、電解セル2から外部に酸化生成物を排出してもよい。これにより、アノード溶液が流路板14に浸み込まず、酸化生成物のガスを流路板14を介して排出することができるため、アノード流路12とアノード流路16とを共通化することができるため好ましい。この構成でも、上記のように小型化し、導電性の観点から好ましい。また、部材点数をさらに減らすことができる。
流路板14の撥水性多孔体としては、少なくとも平均孔径20μm以下の多孔体を用い、一般的に2〜20μm程度の孔径を有する多孔体が好ましいが、撥水性の度合いなどにより最適値は異なる。空孔率は50%以上、好ましくは70%以上が好ましい。撥水性は少なくとも接触角が100度以下であることが必要である。
図12は、電解セル2の他の構造例を示す図である。図12に示すように、撥水性多孔体15に接する親水性多孔体18を設けてもよい。親水性多孔体18は、例えば撥水性多孔体15とアノード流路16との間に設けられる。親水性多孔体18を設けることにより、効率的に気液分離を行い、酸化生成物のガスと液体との分離性能を向上させることができる。また、撥水性多孔体15に撥水性の勾配を付与して分離性能を向上させてもよい。
親水性多孔体18としては、例えば住友電工製のポアフロンなどの親水処理したPTFの多孔体や、GEヘルスケアのニュークリポアフィルター、アノポアフィルターのようなアルミナ多孔質フィルター、ADVANTECのメンブレンフィルター等を用いることができる。少なくとも平均孔径50μm以下の多孔体を用いることができる。空孔率は50%以上、好ましくは65%以上が好ましい。
アノード触媒材料は、撥水性を有することが気液分離性能を向上させるため好ましいが、撥水性が高すぎると、アノード触媒材料とアノード溶液との接触が阻害され、触媒有効面積が低下する場合がある。また、気泡により、アノード11とカソード22との間のガス成分の相互の移動現象が起こる場合がある。よって、アノード触媒材料は、撥水性多孔体15よりも親水性を有することが好ましい。これにより、アノード11とカソード22との間でのガスの移動が減少するため、カソード22からアノード11に移動する二酸化炭素の量が減少し、アノード溶液に溶解する二酸化炭素の量を減らすことができる。よって、アノード11のpHの変化量を抑制できるため、電解セル2を安定して運転することができる。
アノード流路16から排出されたガスや液体を冷却し凝集させて気液分離させる装置を設け、得られた液体をカソード流路21の導入口に一定時間毎に供給する装置が設けられていてもよい。
アノード溶液とガス状の二酸化炭素を反応させる場合、アノード溶液中に気泡が生じると発生した酸化生成物のガスがカソード22側に移動し、還元生成物がアノード11側に移動しやすくなる。この現象は、特にアノード11とカソード22との間にセパレータ30としてイオン交換膜ではなく、多孔体を挟んで反応させる構成の電解セル2の場合に顕著に生じる。上記現象により、還元生成物がアノード11側に移動して再度酸化して二酸化炭素に戻る反応や、酸化生成物が還元されて、水に戻る反応が生じやすくなるため、反応の効率が低下する。これに対し、実施形態の電解装置では、撥水性多孔体15を設けることにより、上記現象を抑制することができ、効率を向上させることができる。
上述したカソード22における反応過程において、CO2の還元反応は前述したように、ガス拡散層22Aとカソード触媒層22Bとの境界近傍で生起すると考えられる。この際、カソード流路21を流れるカソード溶液がガス拡散層22Aまで侵入したり、カソード触媒層22Bが水分過剰になったりすることによって、CO2の還元反応によるCOの生成量が低下したり、セル電圧が増加する等といった不都合が生じる。このような電解セル2のセル性能の低下は、アノード11およびカソード22付近におけるイオンや残存ガスの分布の偏り、カソード触媒層22Bの水分過剰、カソード22やアノード11における電解質の析出、さらにアノード流路12やカソード流路21における電解質の析出等によっても引き起こされる。
また、電解動作によってカソード流路21やガス拡散層22Aに塩が析出し、流路の閉塞やガス拡散性の低下によりセル性能が低下する場合がある。これはイオンがセパレータ30やイオン交換膜を介してアノード11とカソード22との間で移動し、当該イオンがガス成分と反応するためである。例えば、アノード溶液に水酸化カリウム溶液を用い、カソードガスに二酸化炭素ガスを用いる場合、アノード11からカソード22にカリウムイオンが移動し、当該イオンが二酸化炭素と反応して炭酸水素カリウムや炭酸カリウム等の塩が生じる。カソード流路21やガス拡散層22A内において、上記塩が溶解度以下である場合にカソード流路21やガス拡散層22Aに上記塩が析出する。流路の閉塞により、セル全体の均一なガスの流れが妨げられてセル性能が低下する。特に複数のカソード流路21を設ける場合、セル性能の低下が顕著である。なお、ガス流速が部分的に速くなることなどで、セル自体の性能が向上する場合もある。これはガスの圧力が増加することによって、触媒に供給されるガス成分等が増加するまたはガス拡散性が増加することによりセル性能が向上させるためである。このようなセル性能の低下を検知するために、セル性能が要求基準を満たしているかどうかを判定する工程S103を実施する。
データ収集・制御部502は前述したように、例えば定期的にまたは連続的に各生成物の生成量や比率、電解セル2のセル電圧、セル電流、カソード電位、アノード電位、アノード流路12の内部の圧力、カソード流路21の内部の圧力等のセル性能を収集する。さらに、データ収集・制御部502には、セル性能の要求基準が予め設定されており、収集したデータが設定された要求基準を満たしているかどうかが判定される。収集データが設定された要求基準を満たしている場合には、CO2の電解停止(S104)を行うことなく、CO2の電解動作S102が継続される。収集データが設定された要求基準を満たしていない場合には、リフレッシュ動作工程S105が実施される。
データ収集・制御部502で収集するセル性能は、例えば電解セル2に定電流を流した際のセル電圧の上限値、電解セル2に定電圧を印加した際のセル電流の下限値、CO2の還元反応により生成した炭素化合物のファラデー効率等のパラメータにより定義される。ここで、ファラデー効率は電解セル2に流れた全電流に対し、目的とする炭素化合物の生成に寄与した電流の比率と定義する。電解効率を維持するためには、定電流を流した際のセル電圧の上限値は設定値の150%以上、好ましくは120%以上に達した際にリフレッシュ動作工程S105を実施するとよい。また、定電圧を印加した際のセル電流の下限値は設定値の50%以下、好ましくは80%以下に達した際にリフレッシュ動作工程S105を実施するとよい。炭素化合物等の還元生成物の生産量を維持するためには、炭素化合物のファラデー効率が設定値より50%以下、好ましくは80%以下になった場合にリフレッシュ動作工程S105を実施するとよい。
セル性能の判定は、例えばセル電圧、セル電流、炭素化合物のファラデー効率、アノード流路12の内部の圧力、およびカソード流路21の内部の圧力の少なくとも1つのパラメータが要求基準を満たしていない場合に、セル性能が要求基準を満たしていないと判定し、リフレッシュ動作工程S105を実施する。また、上記パラメータの2つ以上を組み合わせて、セル性能の要求基準を設定してもよい。例えば、セル電圧および炭素化合物のファラデー効率が共に要求基準を満たしていない場合に、リフレッシュ動作工程S105を実施するようにしてもよい。リフレッシュ動作工程S105は、セル性能の少なくとも1つが要求基準を満たしていない場合に実施する。CO2電解動作工程S102を安定して実施するために、リフレッシュ動作工程S105は例えば1時間以上間隔を開けて実施することが好ましい。
セル性能の要求基準をセル電圧、セル電流、炭素化合物のファラデー効率のいずれかだけで判断すると、セル性能が向上もしくは変化がない場合でも、流路やガス拡散層に塩が析出して出力が低下する場合にはリフレッシュが必要と判断される場合がある。電解装置では、セル性能の低下を事前に察知し、最適なタイミングでリフレッシュ動作を行うことが重要である。そこで、実施形態の電解装置では、セルの圧力(アノード流路12の内部の圧力、カソード流路21の内部の圧力等)を要求基準を定義するためのパラメータの一つとすることにより塩の析出を感知し、リフレッシュ動作を行うことが好ましい。
電解セル2が例えばCOをメインに生成する場合、水素であれば、通常時の少なくとも2倍、好ましくは1.5倍以上に上昇した場合にセル性能の要求基準を満たしていないと判断することができる。例えばCOであれば、通常時の少なくとも0.8倍以下、好ましくは0.9倍以下まで低下した場合にセル性能の要求基準を満たしていないと判断することができる。
電解セル2により炭素化合物を生成するとともに水を分解することも考えられるため、上記基準濃度は任意である。例えば、水素とCOを2:1の割合で生成し、そのガスを反応器によってメタノールを製造する場合、還元生成物の濃度変化の基準は上記基準と異なり、水素と炭素化合物との濃度が、通常時の少なくとも1.3倍以上、好ましくは1.1倍以上に上昇、もしくは通常時の少なくとも0.8倍以下、好ましくは0.9以下に低下した場合にセル性能の要求基準を満たしていないと判断することができる。
塩を検知した場合はリンス液によって塩を排出するが、塩の排出によっても物質移動量が変化しない場合には電解セル2においてリークが発生していると判断してもよい。電解セル2のリークとはアノード11とカソード22との間のガスのリークに限定されず、例えばカソード22とカソード流路21、23との間からのガスリークなども含む。このガスリークは、例えば塩が析出した電解セル2をカソード流路21、23の圧力が高い条件で長時間運転したときに起こりやすい。
リフレッシュ動作の必要性の判断は、セル電圧や電流値、セルの圧力変化による塩の感知のみでなく、セパレータ30によりアノード11とカソード22との間を隔てている場合、アノード11とカソード22との間での気液分離の性能、つまり、アノード11とカソード22との間の液体、ガスの移動量や、生成物の量、基準電極との電圧差、これらパラメータからのファラデー効率の推測値等により判断する。各パラメータ値からのファラデー効率やリフレッシュ動作の必要性は、後述するパラメータからもリフレッシュ動作の必要性の判断として総合的に判定することができ、各値の組み合わせや計算手法は任意である。
フラッディング性能を検出するための運転方法による各セルデータや圧力変化などから見積もられたフラッディング度によりリフレッシュ動作の必要性を判断してもよい。また、電解セル2の運転時間を考慮してもよい。運転時間は、運転開始後の運転時間のみでなく、これまでの運転時間の積算値でもよく、継続時間でもよく、リフレッシュ動作後の運転時間でもよく、さらには積算した電圧値と時間、電流値と時間の掛け算等の計算値でもよく、その組み合わせや計算方法は任意である。また、これら組み合わせの計算値は、単に継続時間等による判断よりも電解セル2の運転方法による違いが加味されるため、好ましい。さらには電流や電圧の変動値や電解溶液のpH値、変化値、酸素発生量、変動量を用いてもよい。
リフレッシュ動作の必要性を判断する動作を行い、その運転時のセル電圧等のパラメータで判断すると、運転動作時間が減少してしまうが、リフレッシュ動作の必要性が的確に判断できるため、好ましい。なお、この際のリフレッシュ動作の必要性の判断時間は、リフレッシュ動作時間の少なくとも半分以下、好ましくは1/4以下、理想的には1/10以下であることが好ましい。また、リフレッシュ動作の必要性を判断するための各パラメータは、電解セル2の各データを電子的ネットワークを介して収集し、複数のセルのデータ収集・制御部502と解析部504により、ビックデーター解析や、機械学習などの解析により必要なパラメータを導き出し、リフレッシュ制御部503にリフレッシュの必要性を判断するための各パラメータにより定義されるセル性能の要求基準を更新させ、常に最良のリフレッシュ動作を行うことができる。
リフレッシュ動作工程S105は、例えば図13に示すフロー図にしたがって実施される。まず、電源制御部40による電解電圧の印加を停止し、CO2の還元反応を停止させる(S201)。このとき、必ずしも電解電圧の印加を停止しなくてもよい。次に、カソード流路21およびアノード流路12からカソード溶液およびアノード溶液を排出(S202)させる。次に、リンス液をカソード流路21およびアノード流路12に供給(S203)して洗浄を行う。
リンス液を供給している間、アノード11とカソード22との間にリフレッシュ電圧を印加してもよい。これにより、カソード触媒層22Bに付着したイオンや不純物を除去することができる。主に酸化処理になるようにリフレッシュ電圧を印加すると触媒表面についたイオンや有機物等の不純物が酸化され除去される。また、この処理をリンス液中で行うことによって触媒のリフレッシュだけでなく、セパレータ30としてイオン交換膜を用いる場合にイオン交換樹脂中に置換されたイオンを除去することもできる。
リフレッシュ電圧は、例えば−2.5V以上2.5V以下であることが好ましい。リフレッシュ動作にエネルギーを使うため、リフレッシュ電圧の範囲は、できる限り狭い方が好ましく、例えば−1.5V以上1.5V以下であることがより好ましい。リフレッシュ電圧は、イオンや不純物の酸化処理と還元処理が交互に行われるようにサイクリックに印加されてもよい。これにより、イオン交換樹脂の再生や触媒の再生を加速させることができる。また、リフレッシュ電圧として電解動作時の電解電圧と同等の値の電圧を印加して、リフレッシュ動作を行ってもよい。この場合、電源制御部40の構成を簡略化することができる。
次に、カソード流路21およびアノード流路12にガスを供給(S204)し、カソード22およびアノード11を乾燥させる。カソード流路21およびアノード流路12にリンス液を供給すると、ガス拡散層22A中の水の飽和度が上昇し、ガスの拡散性による出力低下が生じる。ガスを供給することにより、水の飽和度が下がるためセル性能が回復し、リフレッシュ効果が高まる。ガスは、リンス液流通後すぐに供給することが好ましく、少なくともリンス液の供給の終了後5分以内に行うことが好ましい。これは水の飽和度の上昇による出力低下が大きいためであり、例えば1時間おきにリフレッシュ動作を行うとすると、5分間のリフレッシュ動作中の出力は0Vかあるいは著しく少ないため、出力の5/60を失う場合がある。
以上のリフレッシュ動作が終了したら、カソード流路21にカソード溶液を、アノード流路12にアノード溶液を、カソード流路23にCO2ガスを導入(S205)する。そして、電源制御部40によるアノード11とカソード22との間に電解電圧の印加を再開させてCO2電解動作を再開する(S206)。なお、S201で電解電圧の印加を停止していない場合には上記再開動作は行われない。各流路12、21からのカソード溶液およびアノード溶液の排出には、ガスを用いてもよいし、リンス液を用いてもよい。
リンス液の供給およびフロー(S203)は、カソード溶液およびアノード溶液に含まれる電解質の析出を防止し、カソード22、アノード11、および各流路12、21を洗浄するために実施される。そのため、リンス液は水が好ましく、電気伝導率が1mS/m以下の水がより好ましく、0.1mS/m以下の水がさらに好ましい。カソード22やアノード11等における電解質等の析出物を除去するためには、低濃度の硫酸、硝酸、塩酸等の酸性リンス液を供給してもよく、これにより電解質を溶解させるようにしてもよい。低濃度の酸性リンス液を用いた場合、その後工程で水のリンス液を供給する工程を実施する。ガスの供給工程の直前は、リンス液中に含まれる添加剤が残留することを防止するために、水のリンス液の供給工程を実施することが好ましい。図1は1つのリンス液タンク721を有するリンス液供給系700を示したが、水と酸性リンス液というように複数のリンス液を用いる場合には、それに応じた複数のリンス液タンク721が用いられる。
特にイオン交換樹脂のリフレッシュのためには、酸またはアルカリのリンス液が好ましい。これは、イオン交換樹脂中にプロトンやOH−の代わりに置換された、陽イオンや陰イオンを排出する効果がある。このため、酸とアルカリのリンス液を交互に流通させることや、電気伝導率が1mS/m以下の水との組み合わせ、リンス液が混合しないように複数のリンス液の供給の合間にガスを供給することが好ましい。
リンス液として反応によって生成した水を用いてもよい。例えばCO2とプロトンから還元によってCOを生成する場合、水が生じる。このときのカソード22から排出される水を気液分離によって分離し、溜めて用いてもよい。このようにすると新たに外部からリンス液を供給せずに済み、システム上有利になる。また、電位を変化させて反応電流を増加させ、生成される水の量を増加させることにより、当該水をカソード流路21に供給してもよい。これにより、生成された水のタンクやリンス液として用いるための配管やポンプなどが不要になり、システム上有効な構成となる。また、カソード流路21に酸素を含むガスを供給し、電圧を印加することにより、アノード11の電解溶液またはリンス液を水分解し、対極に移動したプロトンやOH−イオンから触媒によって生成する水によってリフレッシュ動作を行ってもよい。例えば、金触媒を用いてCO2をCOへ還元する電解セルで、ナフィオンをイオン交換膜として用いた場合、カソード22に空気を流通させて、セルに電位を掛けて水分解を行うと、カソード22に移動したプロトンが酸素と触媒によって反応し、水が生成する。この生成水でリフレッシュ動作を行うことができる。また、この後カソード22に酸素を含まないガスを供給することやガスの供給を停止することにより、水素ガスを発生させ、発生した水素によってカソード22を乾燥させるリフレッシュ動作を行ってもよい。これにより、プロトンや水素の還元力によって触媒のリフレッシュ動作を行うこともできる。
ガスの供給およびフロー工程S204に用いるガスは、空気、二酸化炭素、酸素、窒素、およびアルゴンの少なくとも1つを含むことが好ましい。さらに、化学反応性の低いガスを用いることが好ましい。このような点から、空気、窒素、およびアルゴンが好ましく用いられ、さらには窒素およびアルゴンがより好ましい。リフレッシュ用のリンス液およびガスの供給は、カソード流路21およびアノード流路12のみに限らず、カソード22のカソード流路23と接する面を洗浄するため、カソード流路23にリンス液およびガスを供給してもよい。カソード流路23と接する面側からもカソード22を乾燥させるために、カソード流路23にガスを供給することは有効である。
以上ではリフレッシュ用のリンス液およびガスをアノード部10およびカソード部20の両方に供給する場合について説明したが、アノード部10またはカソード部20の一方のみにリフレッシュ用のリンス液およびガスを供給してもよい。例えば、炭素化合物のファラデー効率は、カソード22のガス拡散層22Aとカソード触媒層22Bにおけるカソード溶液とCO2との接触領域により変動する。このような場合、カソード部20のみにリフレッシュ用のリンス液やガスを供給しただけで、炭素化合物のファラデー効率が回復することもある。使用する電解溶液(アノード溶液およびカソード溶液)の種類によっては、アノード部10またはカソード部20の一方に析出しやすい傾向を有することがある。このような電解装置1の傾向に基づいて、アノード部10またはカソード部20の一方のみにリフレッシュ用のリンス液およびガスを供給してもよい。さらに、電解装置1の運転時間等によっては、アノード11およびカソード22を乾燥させるだけでセル性能が回復する場合もある。そのような場合には、アノード部10およびカソード部20の少なくとも一方にリフレッシュ用のガスのみを供給するようにしてもよい。リフレッシュ動作工程S105は、電解装置1の動作状況や傾向等に応じて種々に変更が可能である。
上述したように、第1の実施形態の電解装置1においては、電解セル2のセル性能が要求基準を満たしているかどうかに基づいて、CO2の電解動作工程S102を継続するか、もしくはリフレッシュ動作工程S105を実施するかが判定される。リフレッシュ動作工程S105でリフレッシュ用のリンス液やガスを供給することによって、セル性能の低下要因となるカソード溶液のガス拡散層22Aへの侵入、カソード触媒層22Bの水分過剰、アノード11およびカソード22付近におけるイオンや残存ガスの分布の偏り、カソード22、アノード11、アノード流路12、およびカソード流路21における電解質の析出等が取り除かれる。従って、リフレッシュ動作工程S105後にCO2の電解動作工程S102を再開することによって、電解セル2のセル性能を回復させることができる。このようなCO2の電解動作工程S102およびリフレッシュ動作工程S105をセル性能の要求基準に基づいて繰り返すことによって、電解装置1によるCO2の電解性能を長時間にわたって維持することが可能になる。
アノード11からカソード22へ電解溶液のカチオンが移動し、カソード22のCO2と反応することで塩が生成する、この塩がカソード流路23やガス拡散層中に詰まり、閉塞することで反応が停止する問題がある。このため、純水タンクなどのタンクを設け、カソードに塩の析出のタイミングでカソード入口から純水などを供給し、塩を溶解させて流路の閉塞を防止することが考えられるが、用いた水を補給するなど、メンテナンス性が悪い、また、アノード溶液を用いると、アノード溶液成分とCO2ガスの反応が行われるため塩成分の溶液で塩の排出を行うのは溶解度の観点から好ましくない。さらにはアノード溶液を循環させるため、電解セル2から排出される不純物や反応によって生じる不純物を含むため、好ましくない。そこで、アノード流路16から排出される水は撥水性多孔体15によっていわば蒸留され、アノード溶液よりも低濃度であって、また、不純物を除かれた純水に近い成分の液体となるため、カソード22のリフレッシュのために純水を供給することや純水を用意することなしに動作するため、システム的に好ましい。
撥水性多孔体15からアノード溶液中の水がセル温度の蒸気圧分排出される。一方カソード22ではカソード溶液や二酸化炭素との反応によって塩がカソード流路23に析出する現象が生じる、この塩の溶解のためにカソード流路23に水を導入して塩を除去するリフレッシュ動作を行うが、アノード流路16から排出された水を用いると、リンス用の水を用意する必要がなく、また、水の酸化反応とCOを生成する場合においては反応系の全体で水の増減が無いため、このような構成によりシステム全体での水の増減無く持続運転に好ましい。また、アノード流路16から排出される水をアノード溶液タンク102に戻して、アノード溶液を減少させずに長時間の持続運転が可能となる。このとき、アノード溶液が減少して電解溶液成分濃度が変化することを防ぐ効果もあり、安定運転により効果がある。
(第2の実施形態)
図14は第2の実施形態による二酸化炭素の電解装置の構成を示す図であり、図15は図14に示す電解装置における電解セルの構成を示す断面図である。図14に示す二酸化炭素の電解装置1Xは、第1の実施形態による二酸化炭素の電解装置1と同様に、電解セル2Xと、電解セル2Xにアノード溶液を供給するアノード溶液供給系統100と、電解セル2Xに二酸化炭素(CO2)ガスを供給するガス供給系統300と、電解セル2Xにおける還元反応により生成した生成物を収集する生成物収集系統400と、収集した生成物の種類や生成量を検出すると共に、生成物の制御やリフレッシュ動作の制御を行う制御系500と、アノード溶液の廃液を収集する廃液収集系統600と、電解セル2Xのアノードやカソード等を回復させるリフレッシュ材供給部700とを具備している。
図14に示す二酸化炭素の電解装置1Xは、電解セル2Xの構成が相違することを除いて、基本的には図1に示した電解装置1と同様な構成を具備している。電解セル2Xは、図15に示すように、アノード部10とカソード部20とセパレータ30とを具備している。アノード部10は、アノード11、アノード流路12、アノード集電板13、撥水性多孔体15、およびアノード流路16を備えている。カソード部20は、カソード22、カソード流路23、およびカソード集電板24を備えており、カソード流路21は設けられていない。このため、カソード流路21にカソード溶液を供給するための構成要素は無くてもよい。電源制御部40は電流導入部材を介してアノード11およびカソード22と接続されている。なお、アノード部10を、例えば図11および図12の構造を適宜組み合わせて構成してもよい。
アノード11は、セパレータ30と接する第1の面11aと、アノード流路12に面する第2の面11bとを有することが好ましい。アノード11の第1の面11aは、セパレータ30と密着している。アノード流路12は、流路板14に設けられたピット(溝部/凹部)により構成されている。アノード溶液は、アノード11と接するようにアノード流路12内を流通する。アノード集電板13は、アノード流路12を構成する流路板14のアノード11とは反対側の面と電気的に接している。カソード22は、セパレータ30と接する第1の面22aと、カソード流路23に面する第2の面22bとを有する。カソード流路23は、流路板28に設けられたピット(溝部/凹部)により構成されている。カソード集電板24は、カソード流路23を構成する流路板28のカソード22とは反対側の面と電気的に接している。
リフレッシュ材供給部700のガス状物質供給系710およびリンス液供給系720は、配管を介してアノード流路12およびカソード流路23と接続されている。アノード流路12およびカソード流路23は、配管を介して廃液収集系統600と接続されている。アノード流路12およびカソード流路23から排出されたリンス液は、廃液収集系統600との廃液収集タンク601に回収される。アノード流路12およびカソード流路23から排出されたリフレッシュ用のガスは、廃液収集系統600を介して図示しない廃ガス収集タンクに回収されるか、もしくは大気中に放出される。各部の構成材料等は、第1の実施形態の電解装置1と同様であり、詳細は前述した通りである。
カソード溶液タンク202は、例えばリフレッシュ動作時にカソード流路23から排出されるリンス液等の液体を収容するカソード排出溶液タンクとしての機能を有する。なお、タンク106は、カソード溶液タンク202やリフレッシュ材供給部700を介してカソード流路23に接続されてもよい。これにより、タンク106に液体が収容される場合に当該液体をリンス液として用いることができる。
第2の実施形態の電解装置1Xにおいて、電解装置1Xの立上げ工程S101およびCO2の電解動作工程S102は、カソード溶液の供給を実施しないことを除いて、第1の実施形態の電解装置1と同様に実施される。なお、カソード22におけるCO2の還元反応は、カソード流路23から供給されたCO2とセパレータ30を介してカソード22に浸透したアノード溶液とにより行われる。セル性能の要求基準を満たしているかどうかの判定工程S103についても、第1の実施形態の電解装置1と同様に実施される。セル性能が要求基準を満たしていないと判定されたとき、リフレッシュ動作工程S105を実施する。第2の実施形態の電解装置1Xにおいて、リフレッシュ動作工程S105は以下のようにして実施される。
まず、CO2還元反応を停止させる。このとき、電源制御部40による電解電圧の印加を維持してもよく、また停止してもよい。次に、アノード流路12からアノード溶液を排出させる。次に、リンス液供給系720からリンス液をアノード流路12およびカソード流路23に供給し、アノード11およびカソード22を洗浄する。リンス液を供給している間、第1の実施形態と同様にアノード11とカソード22との間にリフレッシュ電圧を印加してもよい。次に、ガス状物質供給系710からガスをアノード流路12およびカソード流路23に供給し、アノード11およびカソード22を乾燥させる。リフレッシュ動作工程に使用するガスやリンス液は、第1の実施形態と同様である。以上のリフレッシュ動作が終了したら、アノード流路12にアノード溶液を、カソード流路23にCO2ガスを導入する。そして、CO2電解動作を再開する。電源制御部40による電解電圧の印加を停止していた場合、再開させる。
第2の実施形態の電解装置1Xにおいても、電解セル2Xのセル性能が要求基準を満たしているかどうかに基づいて、CO2電解動作を継続するか、もしくはリフレッシュ動作を実施するかが判定される。リフレッシュ動作工程でリンス液やガスを供給することによって、セル性能の低下要因となるアノード11およびカソード22付近におけるイオンの分布の偏りが解消され、またカソード22における水分過剰やアノード11およびカソード22における電解質の析出、それによる流路閉塞等が取り除かれる。従って、リフレッシュ動作工程後にCO2の電解動作を再開することによって、電解セル2Xのセル性能を回復させることができる。このようなCO2の電解動作およびリフレッシュ動作をセル性能の要求基準に基づいて繰り返すことによって、電解装置1XによるCO2の電解性能を長時間にわたって維持することが可能になる。
比較的低い圧力によってセパレータ30を液体が通過する場合、例えば親水性のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔体などを用いて、リンス液をアノード流路12にのみ供給し、図示しないバルブ等でアノード出口の液体に圧力を加えるもしくはアノード出口を塞ぐ。するとリンス液はセパレータ30を通過し、カソード22に流れ、カソード22の排出口からリンス液が流出する。これにより、カソード22とアノード11のリフレッシュを同時に行うことができる。この構成はカソード22にリンス液を流通させる装置が不要であるため、装置がコンパクトになり、また、システムが簡略化されて好ましい。
なお、カソード22に空気ガスを導入する配管を接続してもよい。リフレッシュ時はカソード22に空気を含むガスを供給し、アノード11とカソード22との間にリフレッシュ電圧を印加することにより水電解反応を行ってもよい。アノード11側は、酸化触媒によって、酸素が発生し、生じたプロトンはセパレータ30あるいは電解質膜を通じてカソード22に移動する。カソード22ではプロトンと空気中の酸素がカソード触媒によって反応し、水が生成する。この生成水によってカソードの塩を溶解排出させることができる。また、生成水は純水のため、カソード22を洗浄することができる。この際、カソード22に移動したプロトンによってカソード22の不純物を還元処理することができ、触媒や部材を再生することができる。この構成はカソード22にリンス液を供給する装置が不要であるため、装置がコンパクトになり、また、システムが簡略化されてよい。また、その後のCO2ガスの流通前にカソードに流通した空気を停止させると、生じたプロトン同士が反応し、水素が発生し、生じた水を押し出すこともできる。CO2で押し出す前に酸素含有ガスを停止させ、プロトンによる触媒や部材の再生機能がより効果を発揮することができる。これは酸素がないために、他の還元しにくい触媒やカソード22の各部材が還元されるからである。具体的には不純物の有機物や、金属酸化物などがある。その後にCO2を供給して、反応させることでよりリフレッシュ効果が期待できる。
(実施例1)
図14に示す電解装置を組み立てて、二酸化炭素の電解性能を調べた。まず、多孔質層が設けられたカーボンペーパ上に、金ナノ粒子が担持されたカーボン粒子を塗布したカソードを、以下の手順により作製した。金ナノ粒子が担持されたカーボン粒子と純水、ナフィオン溶液、エチレングリコールとを混合した塗布溶液を作製した。金ナノ粒子の平均粒径は3nmであり、担持量は10質量%であった。この塗布溶液をエアーブラシに充填し、Arガスを用いて多孔質層が設けられたカーボンペーパ上にスプレー塗布した。塗布後に純水で30分間流水洗浄し、その後に過酸化水素水に浸漬してエチレングリコール等の有機物を酸化除去した。これを2×2cmの大きさに切り出してカソードとした。なお、Auの塗布量は塗布溶液の金ナノ粒子とカーボン粒子の混合量から約0.4mg/cm2と見積もられた。アノードには、Tiメッシュに触媒となるIrO2ナノ粒子を塗布した電極を用いた。アノードとしてIrO2/Tiメッシュを2×2cmに切り出したものを使用した。触媒面積は4cm2とした。
電解セル2は、図14に示すように、上からカソード集電板24、カソード流路23(流路板28)、カソード22、セパレータ30、アノード11、アノード流路12、撥水性多孔体15、アノード流路16、アノード集電板13の順で積層し、図示しない支持板により挟み込み、さらにボルトで締め付けて作製した。セパレータ30には、親水処理されたPTFE多孔体(商品名:ポアフロン、住友電気工業社製)を用いた。撥水性多孔体15には、住友電工製のHW−060−10を用いた。アノード11のIrO2/Tiメッシュは、PTFE多孔体に密着させた。なお、評価温度は室温とした。
上記した電解セル2を用いて図14に示す電解装置1を組み立て、電解装置を以下の条件で運転した。電解セル2のカソード流路23にCO2ガスを60sccmで供給し、流路出口に液体トラップを設けた。アノード流路12に炭酸水素カリウム水溶液(濃度1M KHCO3)を2mL/minの流量で300mL導入し循環させた。次に、電源制御部により電圧を制御することにより、アノード11とカソード22の間に400mAの定電流を定電流密度100mA/cm2を流してCO2の電解反応を行い、その際のセル電圧を計測してデータ収集・制御部で収集した。さらに、カソード流路23から出力されるガスの一部を収集し、CO2の還元反応により生成されるCOガス、および水の還元反応により生成されるH2ガスの生成量をガスクロマトグラフにより分析した。データ収集・制御部でガス生成量からCOもしくはH2の部分電流密度、および全電流密度と部分電流密度の比であるファラデー効率を算出して収集した。同様にアノード溶液流路でのCOまたはH2ガスの生成量をガスクロマトグラフにより分析した。結果を表1に示す。
運転開始後、約20分後のセル電圧2.61Vであり、COのファラデー効率が95%であり、H2のファラデー効率は2.6%であった。また、アノード11でのCOの濃度は65ppmであった。これは、カソード22からアノード11に移動したCOの量が少ないことを表す。アノード11で再びCOが酸化されてCO2になる量も含まれているため、電圧の上昇やカソード流路23の導出口でのCO量は減少しセル効率は向上していることがわかる。
初期のアノード溶液のpHは8.8であったが、1時間動作させた後のpHは7.7であった。これはカソード22からアノード11へと移動したCO2がアノード溶液に溶け込んだ影響であるが、後述の比較例1と比べ、pHの減少量が抑えられ、カソード22からアノード11へと移動した量が減少したためである。pHの安定性は運転持続性に大きく影響し、本実施形態の構成はより持続運転可能であることが確認できた。アノード流路12の導出口でのガスの気泡はほとんど無かった。
(比較例1)
撥水性多孔体15およびアノード流路16を設けないこと以外は、実施例1と同様の条件で実験を行った。結果を表1に示す。
運転開始後、約20分後のセル電圧2.88Vであり、COのファラデー効率が91.1%であり、H2のファラデー効率は7.2%であった。また、アノードでのCOの濃度は235ppmであった。これはカソード22からアノード11で移動したCOの量が多いことを表す。
初期のアノード溶液のpHは8.8であったが、1時間動作させた後のpHは7.4であった。アノード流路12の導出口でのガスの気泡は多く、アノード溶液よりも気体成分の体積の方が大きかった。このまま動作させると、2.5時間後にアノード11からカソード22へ移動したカリウムイオンとカソード22付近のCO2ガスが反応して生成した塩がカソード流路21に詰まり、電解セル2の反応が停止した。
(比較例2)
アノード流路への炭酸水素カリウム水溶液の流量を10ccmにしたこと以外は、比較例1と同様の条件で実験を行った。結果を表1に示す。
運転開始後、約20分後のセル電圧2.85Vであり、COのファラデー効率が93.2%であり、H2のファラデー効率は4.2%であった。また、アノード11でのCOの濃度は189ppmであった。これはカソード22からアノード11に移動したCOの量が多いことを表す。流量を増加させることにより比較例1よりは性能向上しているが、実施例1のようなセル性能を得ることはできなかった。
(実施例2〜4)
アノード流路への炭酸水素カリウム水溶液の流量をそれぞれ4、6、10ccmにしたこと以外は、実施例1と同様の条件で実験を行った。結果を表1に示す。表1の結果から流量が異なっていても実施例1とほぼ同様の結果が得られることがわかる。流量を増加させると多少セル電圧が低下し、COのファラデー効率が向上し、多少の効率向上が確認できるが、電解溶液流量を増加させるため圧力損失が増加しポンプなどのエネルギーの増加や、装置構成の耐圧性などを考慮する必要があり、電解溶液流量は少ない方が好ましい。しかし、比較例2と比較すると大幅に性能が向上することがわかる。
(実施例5)
アノード流路16を設けず、流路板14と同等の大きさの撥水性多孔体15を用い、ガスケットを設けずに気液分離した酸素ガスを流路面と同一方向に撥水性多孔体15を移動させ、電解セル2から外部に酸素を排出させたこと以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。結果を表1に示す。
運転開始後、約20分後のセル電圧2.71Vであり、COのファラデー効率が94.2%であり、H2のファラデー効率は3.0%であった。また、アノードでのCOの濃度は75ppmであった。このことから、比較例1より性能向上し、実施例1と同様のセル性能を有することがわかる。実施例1と同様にアノード流路12からはガスの移動はほとんどなかった。
(実施例6)
流路板14が導電性を有する撥水性多孔体であること以外は、実施例1と同様の条件で実験を行った。結果を表1に示す。導電性を有する撥水性多孔体としては、SGL社製のSigracet28BCを用いた。
運転開始後、約20分後のセル電圧2.7Vであり、COのファラデー効率が95.3%であり、H2のファラデー効率は2.8%であった。また、アノードでのCOの濃度は69ppmであった。このことから、比較例1より性能向上し、実施例1と同様のセル性能を有することがわかる。実施例1と同様にアノード流路12からはガスのへ移出はほとんどなかった。
(実施例7)
アノード流路16から排出されるガスを室温で冷却して、水蒸気と水とを分離する装置を設け、水をカソード流路23の導入口に1時間ごとにポンプを用いて供給したこと以外は、実施例1と同様の条件で実験を行った。比較例1では2.5時間後にカソード流路23が塩によって閉塞したが、24時間運転してもカソード流路23の閉塞は確認されず、持続運転が可能であった。
(実施例8)
図16は、実施例8に用いられるアノード11を示す図であり、図17は、実施例8に用いられる流路板14の例を示す図である。図17に示すように、アノード流路12を前半部12aと後半部12bに区切り、各部の電流値が個別に測れるように前半部12aと後半部12bとの間を絶縁板19(PTFEシート)で分離した。アノード11の触媒層は前半部12aと後半部12bのそれぞれに重なるように同じ面積で形成し、絶縁板19との重畳部にはアノード11を形成しなかった。触媒面積は実施例1と同様に4cm2とした。なお、前半部12aと後半部12bの触媒領域の間隔D1は、絶縁板19の幅D2と同じとした。
前半部12aと後半部12bでそれぞれ200mAとなるように電流値を合わせて合計400mAとなるようにして反応を行った。それ以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。結果を表1に示す。前半部12aと後半部12bでほぼ同等の反応が行われていることがセル電圧から確認できた。
(比較例3)
撥水性多孔体15およびアノード流路16を設けないこと以外は、実施例8と同様の条件で実験を行った。結果を表1に示す。前半部12aのセル電圧が2.86Vであるのに対し後半部12bのセル電圧は2.95Vと高い。これは前半部12aよりも後半部12bが流路中に発生する気泡が多くなり、触媒の活性面積の低下によってセル性能が低下しているためである。実施例8と比較して性能の低下が確認できた。
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。