以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
実施形態では、本発明に係る全輪駆動車の制御装置を、前輪を主駆動輪とし、後輪を従駆動輪とした全輪駆動車の制御装置に適用する。以下では、4つの実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1を参照して、第1実施形態に係る全輪駆動車の制御装置1(以下、「制御装置1」と記載)について説明する。図1は、第1実施形態に係る制御装置1と全輪駆動車の動力伝達系の構成を示す図である。
制御装置1が搭載される全輪駆動車における動力源で発生した動力の動力伝達系について説明する。動力源6は、例えば、エンジンである。エンジンは、どのような形式のものでもよいが、例えば、水平対向型の4気筒ガソリンエンジンが好適に用いられる。動力源6の出力軸には、変速機7が接続されている。変速機7は、動力源6からの動力(トルク)を変換して出力する。変速機7は、どのような形式のものでもよいが、例えば、無段変速機が好適に用いられる。
変速機7の出力軸7aには、リダクションドライブギヤ10が接続されている。リダクションドライブギヤ10は、リダクションドリブンギヤ11が噛み合っている。リダクションドリブンギヤ11には、フロントドライブシャフト12の一端部が取り付けられている。フロントドライブシャフト12の他端部は、フロントディファレンシャル13(以下、「フロントデフ13」と記載)に接続されている。変速機7からリダクションドライブギヤ10に伝達される動力は、リダクションドリブンギヤ11及びフロントドライブシャフト12を介してフロントデフ13に伝達される フロントデフ13には、前輪左ドライブシャフト14L、前輪右ドライブシャフト14Rが接続されている。前輪左右の各ドライブシャフト14L,14Rには、前輪8FL,8FRが取り付けられている。フロントデフ13からの動力は、前輪左右の各ドライブシャフト14L,14Rを介して左右の各前輪8FL,8FRに伝達される。
また、変速機7の出力軸7aには、トランスファクラッチ20の一方側(入力側)が接続されている。トランスファクラッチ20の他方側(出力側)には、プロペラシャフト21の一端部が取り付けられている。プロペラシャフト21の他端部は、リヤデフクラッチ22(特許請求の範囲に記載の従駆動輪側クラッチに相当)の一方側(入力側)が接続されている。リヤデフクラッチ22の他方側(出力側)は、リヤディファレンシャル23(以下、「リヤデフ23」と記載)に接続されている。変速機7からトランスファクラッチ20を介して伝達される動力は、プロペラシャフト21及びリヤデフクラッチ22を介してリヤデフ23に伝達される。リヤデフ23には、後輪左ドライブシャフト24L、後輪右ドライブシャフト24Rが接続されている。後輪左右の各ドライブシャフト24L,24Rには、後輪8RL,8RRが取り付けられている。リヤデフ23からの動力は、後輪左右の各ドライブシャフト24L,24Rを介して左右の各後輪8RL,8RRに伝達される。
トランスファクラッチ20は、プロペラシャフト21(後輪8RL,8RR側)に伝達される動力を締結力に応じて調節するクラッチである。トランスファクラッチ20は、例えば、多板クラッチである。トランスファクラッチ20は、油圧式のクラッチであり、油圧に応じて締結力が可変である。このトランスファクラッチ20の締結力に応じて、変速機7の出力軸7aからプロペラシャフト21に動力が伝達される。
リヤデフクラッチ22は、リヤデフ23(後輪8RL,8RR)に伝達される動力を締結力に応じて調節するクラッチである。特に、リヤデフクラッチ22は、走行中にトランスファクラッチ20が解放されているときに(前輪8FL,8FRでの二輪駆動のときに)、解放されることでリヤデフ23(ひいては、後輪8RL,8RR)とプロペラシャフト21(ひいては、トランスファクラッチ20)とを切り離すためのクラッチである。これにより、二輪駆動時に後輪8RL,8RRの回転に伴ってプロペラシャフト21が回転することがなくなり、燃費を向上させることができる。リヤデフクラッチ22は、例えば、多板クラッチである。リヤデフクラッチ22は、油圧式のクラッチであり、油圧に応じて締結力が可変である。このリヤデフクラッチ22の締結力に応じて、プロペラシャフト21からリヤデフ23に動力が伝達される。
なお、トランスファクラッチ20は、例えば、トランスミッションのケース内に設けられ、トランスミッション用のオイルによって潤滑される。トランスファクラッチ20は、例えば、図9に示すように、下方側の一部がオイルに浸かっており、動力の入力側(変速機7の出力軸7a側)及び出力側(プロペラシャフト21側)がそれぞれ回転することで潤滑される。また、リヤデフクラッチ22は、例えば、リヤデフのケース内に設けられ、リヤデフ用のオイルによって潤滑される。
各車輪8FL,8FR,8RL,8RRには、各ブレーキ9FL,9FR,9RL,9RRが取り付けられている。ブレーキ9FL,9FR,9RL,9RRは、例えば、油圧で作動するディスクブレーキが用いられる。ブレーキ9FL,9FR,9RL,9RRは、VDCU(Vehicle Dynamics Control Unit)40によって制御される。
VDCU40は、各車輪8FL,8FR,8RL,8RRのブレーキ9FL,9FR,9RL,9RRや動力源6の出力などを制御することで、横滑りなどの車両の不安定な挙動を抑える制御ユニットである。VDCU40は、演算を行うマイクロプロセッサ、マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラムなどを記憶するROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、その記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、入出力I/Fなどを有して構成されている。
VDCU40には、制御に必要な情報を取得するために、各車輪8FL,8FR,8RL,8RRに設けられる各車輪速センサ41FL,41FR,41RL,41RRやGセンサ42などの各種センサが接続されている。車輪速センサ41FL,41FR,41RL,41RRは、車輪8FL,8FR,8RL,8RRの回転状態(車輪速)を検出するセンサである。Gセンサ42は、例えば、車両の前後方向、横方向などの加速度を検出するセンサである。VDCU40で取得した各種センサの検出値やVDCU40で得られた各車輪FL,8FR,8RL,8RRの駆動状態などの情報は、CAN(Controller Area Network)50を介してTCU(Transmission Control Unit)30に送信される。
次に、制御装置1の構成について説明する。制御装置1は、トランスファクラッチ20とリヤデフクラッチ22に対する各制御を行う。特に、制御装置1は、締結状態になるように制御されているトランスファクラッチ20に差回転が発生した場合にトランスファクラッチ20に対する保護制御を行う。制御装置1の各制御は、例えば、TCU30によって実施される。TCU30は、変速機7を総合的に制御する制御ユニットである。TCU30は、VDCU40と同様に、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、バックアップRAM、及び、入出力I/Fなどを有して構成されている。
なお、トランスファクラッチ20に対する保護制御が行われるのは、トランスクラッチ20が滑って差回転が発生し、この差回転によってトランスファクラッチ20が発熱している場合である。例えば、登坂路を走行中にトランスファクラッチ20とリヤデフクラッチ22が共に締結されているときに、前輪8FL,8FR(主駆動輪)だけが滑りやすい路面(低μ路面)に入った場合、この低μ路面に伝えられる以上のトルクが前輪8FL,8FRに伝達されると、前輪8FL,8FRがスリップする。
このとき、トランスファクラッチ20のトルク容量が不足(例えば、クラッチに供給している油圧不足)していると、トランスファクラッチ20を介して後輪8RL,8RRに伝達されるトルクが不足し、後輪8RL,RRが停止する。この後輪8RL,RRの停止に伴って、締結状態のリヤデフクラッチ22を介してプロペラシャフト21が停止する。これにより、トランスファクラッチ20は、滑ることで、トルクの入力側(変速機7の出力軸7a側)のクラッチ板と出力側(プロペラシャフト21側)のクラッチ板との間で差回転が発生し、この差回転によって発熱する。特に、図9に示すように、トランスファクラッチ20の出力側(プロペラシャフト21側)の回転が停止することで、オイルによる潤滑が十分にできないので、冷却性能が悪化する。
そこで、制御装置1では、リヤデフクラッチ22を半締結状態にすることで、リヤデフクラッチ22を滑らせ、トランスファクラッチ20の出力側(プロペラシャフト21側)が回転可能な状態にする。リヤデフクラッチ22を半締結状態にした場合、リヤデフクラッチ22では、滑ることで、トルクの入力側(プロペラシャフト21側)のクラッチ板と出力側(リヤデフ23側)のクラッチ板との間で差回転が発生し、この差回転によって発熱する。この発熱量が増大した場合、制御装置1では、リヤデフクラッチ22の半締結状態を終了させて、リヤデフクラッチ22を解放状態にすることで、トランスファクラッチ20の出力側(プロペラシャフト21側)が回転可能な状態にする。この際、リヤデフクラッチ22を介して後輪8RL,8RRに動力が伝達されないので、制御装置1では、登坂路で車両がずり下がらないように、ブレーキを作動させる。
TCU30には、制御に必要な情報を取得するために、第1油温センサ31、第2油温センサ32などの各種センサが接続されている。第1油温センサ31は、トランスミッション用のオイルの温度を検出するセンサである。第2油温センサ32は、リヤデフ用のオイルの温度を検出するセンサである。また、TCU30は、CAN50を介して、VDCU40から各車輪8FL,8FR,8RL,8RRの車輪速や車両の加速度などの各種検出情報及び各車輪8FL,8FR,8RL,8RRの駆動状態などの情報を受信する。
また、TCU30には、油圧で変速機7の各部の油圧制御を行うために、バルブボディ33が接続されている。バルブボディ33には、コントロールバルブ機構(図示省略)が組み込まれている。このコントロールバルブ機構は、例えば、複数のスプールバルブ(図示省略)と当該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(図示省略)を用いてバルブボディ33内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプ(図示省略)から吐出された油圧(ライン圧)を調圧した各油圧を発生する。
TCU30には、トランスファクラッチ20とリヤデフクラッチ22に対する各制御を行うために、トランスファクラッチ制御部30aと、リヤデフクラッチ制御部30bと、第1判定部30c(特許請求の範囲に記載の第1判定手段に相当)と、第2判定部30d(特許請求の範囲に記載の第2判定手段に相当)と、第3判定部30e(特許請求の範囲に記載の第3判定手段に相当)と、第4判定部30f(特許請求の範囲に記載の第4判定手段に相当)と、保護制御部30g(特許請求の範囲に記載の制御手段に相当)とを有している。これらの各部30a〜30gの処理は、TCU30においてROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることで実現される。
トランスファクラッチ制御部30aは、トランスファクラッチ20の締結力(後輪8RL、8RR側の動力分配率)を制御する。例えば、トランスファクラッチ制御部30aは、動力源6のトルク(例えば、エンジントルク)、車輪FL,8FR,8RL,8RRの駆動状態(例えば、スリップ状態)などに応じて要求締結力を設定し、バルブボディ33のソレノイドバルブを制御することで、要求締結力になるようにトランスファクラッチ20の油圧を調節する。
リヤデフクラッチ制御部30bは、リヤデフクラッチ22の締結力を制御する。例えば、リヤデフクラッチ制御部30bは、トランスファクラッチ20が締結状態の場合(全輪駆動の場合)、バルブボディ33のソレノイドバルブを制御することで、リヤデフクラッチ22が締結状態になるようにリヤデフクラッチ22の油圧(締結力)を調節する。また、リヤデフクラッチ制御部30bは、トランスファクラッチ20が解放状態の場合(二輪駆動の場合)、バルブボディ33のソレノイドバルブを制御することで、リヤデフクラッチ22が解放状態になるようにリヤデフクラッチ22の油圧を調節する。
第1判定部30cは、トランスファクラッチ20に対する保護制御が必要か否か(保護モードに入るか否か)を判定する。まず、第1判定部30cは、車両が所定車速以下で略停車している状態でトランスファクラッチ制御30aでトランスファクラッチ20を締結状態になるように制御しているときに、トランスファクラッチ20に差回転が発生しているか否かを判定する。この判定方法としては、例えば、前輪8FL,8FRの各車輪速と後輪8RL,8RRの各車輪速とを用いてトランスファクラッチ20の入力側(出力軸7a側)と出力側(プロペラシャフト21側)との回転差を算出し、この回転差が所定値以上か否かを判定する方法がある。なお、トランスファクラッチ20の入力側と出力側の回転差を取得する方法としては、例えば、出力軸7a、プロペラシャフト21の回転数を検出する各回転数センサが設けられている場合、この各回転数センサで検出された各回転数を用いて回転差を算出する方法を用いてもよい。
トランスファクラッチ20に差回転が発生している場合、第1判定部30cは、差回転が発生してからのトランスファクラッチ20での発熱量を推定し、この発熱量が所定量以上か否かを判定する。この所定量は、適合で決められる。発熱量を推定する方法は、例えば、一定時間毎にトランスファクラッチ20の入力側と出力側との回転差とトランスファクラッチ20の締結力(例えば、上述した要求締結力(要求油圧)を利用)とトランスファクラッチ20の熱量変換係数(例えば、クラッチ板の摩擦材やオイルなどを含む総合的な熱量変換係数)とを乗算することで発熱量を算出し、この一定時間毎の発熱量を積算することで差回転が発生してからの発熱量を推定する。この推定された発熱量が所定量以上になった場合、保護制御部30gで保護制御が実施される。
第2判定部30dは、保護制御部30gで保護制御を開始してからのリヤデフクラッチ22での発熱量を推定し、この推定値が所定量以上か否か判定する。この所定量は、適合で決められる。発熱量を推定する方法は、例えば、上述したトランスファクラッチ20の発熱量の推定方法と同様に、一定時間毎にリヤデフクラッチ22の回転差とリヤデフクラッチ22の締結力とリヤデフクラッチ22の熱量変換係数とを乗算することで発熱量を算出し、この一定時間毎の発熱量を積算することで保護制御を開始してからの発熱量を推定する。
また、第2判定部30dは、油温センサ32で検出されたリヤデフ用のオイルの温度が所定温度以上か否かを判定する。この所定温度は、適合で決められる。ちなみに、リヤデフクラッチ22で発熱することでリヤデフ用のオイルの温度が上昇するので、このオイルの温度を利用してリヤデフクラッチ22での発熱量が増大していることを間接的に判定する。
第3判定部30eは、保護制御部30gで保護制御を開始してから車両が発進した(前輪8FL,8FRがスリップ状態から非スリップ状態になった)か否かを判定する。第3判定部30eは、例えば、全ての車輪8FL,8FR,8RL,8RRの車輪速が所定速度以上か否かを判定する。この所定速度は、適合で決められる。
第4判定部30fは、保護制御部30gで保護制御を開始してからの経過時間を計測し、この経過時間が所定時間以上か否かを判定する。所定時間は、適合で決められる。この所定時間は、例えば、トランスミッション用のオイルの温度と所定時間との関係を示すマップなどを用いて、トランスミッション用のオイルの温度に応じて可変値とすると好ましい。所定時間を可変値とする場合、例えば、所定時間としては、トランスミッション用のオイルの温度が高いほど(つまり、トランスファクラッチ20の発熱によってオイルの温度が上昇しているほど)、長い時間が設定される。
保護制御部30gは、第1判定部30cでトランスファクラッチ20に対する保護制御が必要と判定した場合、トランスファクラッチ20に対する保護制御を行う。まず、保護制御部30gは、バルブボディ33のソレノイドバルブを制御することで、リヤデフクラッチ22が半締結状態になるようにリヤデフクラッチ22の油圧(締結力)を調節する。このリヤデフクラッチ22を半締結状態とするための締結力の条件は、リヤデフクラッチ22のトルク容量がトランスファクラッチ20のトルク容量よりも小さいトルク容量になり、かつ、登坂路の場合に車両にずり下がり発生しないトルク(動力)を後輪8RL、8RRに伝達できるトルク容量になることである。そのために、このリヤデフクラッチ22を半締結状態とするための要求油圧(要求締結力)を設定する際に、車両が走行中の路面の勾配情報に基づいて設定すると好ましい。勾配情報の取得方法としては、例えば、VDCU40からのGセンサ42で検出された前後方向の加速度を用いて路面勾配(傾斜角)を推定する方法がある。
保護制御部30gは、第2判定部30dでリヤデフクラッチ22での発熱量の推定値が所定量以上と判定した場合又はリヤデフ用のオイルの温度が所定温度以上と判定した場合、バルブボディ33のソレノイドバルブを制御することで、リヤデフクラッチ22が解放状態になるようにリヤデフクラッチ22の油圧を調節する。さらに、保護制御部30gは、各車輪8FL,8FR,8RL,8RRの各ブレーキ9FL,9FR,9RL,9RRを作動させる指令をVDCU40に送信する。
保護制御部30gは、第3判定部30eで車両が発進したと判定した場合又は第4判定部30fで経過時間が所定時間以上と判定した場合、保護制御を終了し、リヤデフクラッチ22に対する通常制御(リヤデフクラッチ制御部30bでの制御)に移行する。通常制御により、リヤデフクラッチ22が締結状態になる。
次に、図1を参照しつつ、制御装置1の作用を図2のフローチャートに沿って説明する。図2は、第1実施形態に係る制御装置1の処理の流れを示すフローチャートである。
車両が全輪駆動で走行中、通常の制御により、トランスファクラッチ20が締結状態となり、リヤデフクラッチ22が締結状態となるように制御されている。この制御により、トランスファクラッチ20の締結力(トルク容量)に応じて、動力源6で発生した動力が前輪8FL,8FRと後輪8RL,8RRとに配分されて伝達されている。
TCU30は、車両が略停車状態において締結状態になるように制御されているトランスファクラッチ20に差回転が発生しているか否かを判定する(S10)。このS10の判定にて差回転が発生していないと判定された場合、TCU30は、上述した通常の制御を継続し、所定時間後にS10の判定を行う。
S10の判定にて差回転が発生していると判定された場合(前輪8FL,8FRがスリップし、後輪8RL,8RRが停止している場合)、TCU30は、差回転が発生してからのトランスファクラッチ20の発熱量を推定し、この発熱量が所定量以上か否かを判定する(S12)。このS12の判定にて発熱量が所定量未満と判定された場合(保護制御が必要な条件を満たしていない場合)、TCU30は、上述した通常の制御を継続し、所定時間後にS10の判定を行う。なお、前輪8FL,8FRがスリップし、後輪8RL,8RRが停止している場合、トランスファクラッチ20は、入力側(出力軸7a側)が回転し、出力側(プロペラシャフト21側)が停止している。
このS12の判定にて発熱量が所定量以上と判定された場合(保護制御が必要な条件を満たした場合)、TCU30は、トランスファクラッチ20に対する締結制御を継続しつつ、リヤデフクラッチ22が半締結状態になるように(リヤデフクラッチ22のトルク容量がトランスファクラッチ20のトルク容量よりも小さくなるように)制御する(S14)。この制御によってリヤデフクラッチ22のトルク容量がトランスファクラッチ20よりも小さくなると、後輪8RL,8RRが停止しているので、リヤデフクラッチ22の出力側(リヤデフ23側)が停止し、リヤデフクラッチ22が滑って半締結状態になる。リヤデフクラッチ22が滑ることで、リヤデフクラッチ22の入力側であるプロペラシャフト21が回転することが可能となる。これにより、トランスファクラッチ20の出力側(プロペラシャフト21側)が回転することが可能となり、トランスファクラッチ20での差回転が抑制され(差回転が無くなる場合も含む)、差回転による発熱が抑制される(発熱しなくなる場合も含む)。さらに、トランスファクラッチ20の入力側(出力軸7a側)と出力側(プロペラシャフト21側)とが共に回転することで、この両側でトランスミッション用のオイルによる潤滑が行われ、トランスファクラッチ20が冷却される。また、リヤデフクラッチ22と半締結状態することで、後輪8RL,8RRに動力(トルク)が伝達されるので、登坂路の場合でもこの動力によって車両がずり下がらない。
TCU30では、S14での保護制御を開始してからのリヤデフクラッチ22での発熱量を推定し、この発熱量が所定量以上か否かを判定する(S16)。このS16の判定にて発熱量が所定量未満と判定された場合、TCU30は、リヤデフ用のオイルの温度が所定温度以上か否かを判定する(S18)。このS18の判定にてオイルの温度が所定温度未満と判定された場合、TCU30は、S14の制御に戻ってリヤデフクラッチ22の半締結状態の制御を継続し、所定時間後にS16の判定を行う。
S16の判定にて発熱量が所定量以上と判定された場合又はS18の判定にてオイルの温度が所定温度以上と判定された場合(リヤデフクラッチ22での発熱が増大した場合)、TCU30は、各車輪8FL,8FR,8RL,8RRの各車輪速が所定速度以上か否かを判定する(S20)。S20の判定にて各車輪速が所定速度未満と判定された場合(車両が発進していない場合)、TCU30は、S14での保護制御を開始してからの経過時間を計測し、この経過時間が所定時間以上か否かを判定する(S22)。
S22の判定にて経過時間が所定時間未満と判定された場合(保護制御終了の条件を満たしていない場合)、TCU30は、トランスファクラッチ20に対する締結制御を継続しつつ、リヤデフクラッチ22が解放状態になるように制御すると共にブレーキを作動させる指令をVDCU40に送信する(S24)。この場合、トランスファクラッチ20の冷却が十分に行われていないので、保護制御を継続する。S24の制御によってリヤデフクラッチ22が解放状態になるので、停止している後輪8RL,8RRとプロペラシャフト21とが切り離される。これにより、トランスファクラッチ20の出力側(プロペラシャフト21側)の回転が可能となり、トランスファクラッチ20での差回転が抑制される。また、VDCU40の制御によって各車輪8FL,8FR,8RL,8RRのブレーキ9FL,9FR,9RL,9RRが作動するので、登坂路の場合でもこの作動中のブレーキによって車両がずり下がらない。TCU30は、S24での制御を行うと、所定時間後にS20の判定を行う。
S20の判定にて全ての車輪速が所定速度以上と判定された場合(車両が発進し、保護制御終了の条件を満たした場合)又はS22の判定にて経過時間が所定時間以上と判定された場合(トランスファクラッチ20に対する冷却が十分に行われ、保護制御終了の条件を満たした場合)、TCU30は、トランスファクラッチ20に対する締結制御を継続しつつ、リヤデフクラッチ22が締結状態になるように制御すると共にブレーキの作動を終了させる指令をVDCU40に送信する(S26)。これにより、トランスファクラッチ20に対する保護制御が終了され、上述した通常の制御に戻る。
第1実施形態に係る制御装置1によれば、締結状態になるように制御されているトランスファクラッチ20に差回転が発生した場合に、リヤデフクラッチ22を半締結状態にすることでトランスファクラッチ20での差回転が抑制され、トランスファクラッチ20の差回転による発熱を抑制することができる。これによって、トランスファクラッチ20の劣化を抑制することができ、トランスファクラッチ20の焼き付きなどを防止することができる。また、第1実施形態に係る制御装置1によれば、トランスファクラッチ20での差回転が抑制されて、トランスファクラッチ20の入力側と出力側とが共に回転することで、トランスファクラッチ20全体がトランスミッション用のオイルで潤滑され、トランスファクラッチ20の冷却効果が向上する。
第1実施形態に係る制御装置1によれば、リヤデフクラッチ22を半締結状態することで、後輪8RL,8RRに動力(トルク)が伝達されるので、登坂路の場合に車両のずり下がりを防止することができる。特に、第1実施形態に係る制御装置1によれば、路面の勾配情報に基づいて半締結状態になるために必要な締結力を設定することで、登坂路において車両がずり下がらないために必要な動力(トルク)を後輪8RL,8RRに伝達できるように、半締結状態の適切な締結力を設定することができる。
第1実施形態に係る制御装置1によれば、リヤデフクラッチ22の発熱量(推定値)が所定量以上か否かの判定及びリヤデフ用のオイルの温度が所定温度以上か否かの判定を行うことにより、半締結状態のリヤデフクラッチ22が滑ることで発熱した場合でも、リヤデフクラッチ22の発熱量を許容範囲内に抑えることができ、リヤデフクラッチ22の劣化を抑制することができる。これにより、リヤデフクラッチ22の焼き付きなどを防止することができる。
第1実施形態に係る制御装置1によれば、リヤデフクラッチ22を半締結状態とする制御終了後にリヤデフクラッチ22を解放状態にすることにより、半締結状態のリヤデフクラッチ22が発熱し、クファクラッチ20の冷却を十分にできない場合でも、更に、リヤデフクラッチ22を解放状態とすることでトランスファクラッチ20の発熱を抑制でき、トランスファクラッチ20を冷却することができる。
第1実施形態に係る制御装置1によれば、リヤデフクラッチ22を解放状態としているときにブレーキ9FL,FR,RL,RRを作動させることにより、登坂路の場合に車両のずり下がりを防止することができる。
第1実施形態に係る制御装置1によれば、保護制御を開始した後に車両が発進したか否かを判定することにより、車両が発進した場合にはトランスファクラッチ20での差回転が無くなるので、トランスファクラッチ20に対する保護制御が必要ない状態を精度良く判定することができる。
第1実施形態に係る制御装置1によれば、保護制御を開始してからの経過時間が所定時間以上か否かを判定することにより、トランスファクラッチ20の出力側が回転できる状態を所定時間確保でき、トランスファクラッチ20の差回転による発熱を十分に抑制することができ、トランスファクラッチ20を冷却することできる。
第1実施形態に係る制御装置1によれば、トランスファクラッチ20での差回転が続くことでトランスファクラッチ20での発熱量が増大するので、トランスファクラッチ20に差回転が発生してからのトランスファクラッチ20の発熱量(推定値)が所定量以上か否かを判定することにより、トランスファクラッチ20に対する保護制御が必要な状態か否かを精度良く判定することできる。
第1実施形態に係る制御装置1によれば、1つのリヤデフクラッチ22を用いてトランスファクラッチ20に対する保護制御を行うことができるので、保護制御に必要な部品点数が少なく、コストを抑えることができる。
(第2実施形態)
図3を参照して、第2実施形態に係る全輪駆動車の制御装置2(以下、「制御装置2」と記載)について説明する。図3は、第2実施形態に係る制御装置2と全輪駆動車の動力伝達系の構成を示す図である。
制御装置2は、第1実施形態に係る制御装置1と比較すると、後輪側の動力伝達系においてリヤデフクラッチの配設箇所と個数が異なり、この構成に応じて制御の一部が異なる。
まず、制御装置2が搭載される全輪駆動車における動力源で発生した動力の動力伝達系について説明する。前輪8FL,8FR側の動力伝達系は、第1実施形態と同様である。以下では、第1実施形態と異なる後輪8RL,8RR側の動力伝達系についてのみ説明する。
変速機7の出力軸7aには、トランスファクラッチ20の一方側が接続されている。トランスファクラッチ20の他方側には、プロペラシャフト25の一端部が取り付けられている。プロペラシャフト25の他端部は、リヤデフ26に接続されている。変速機7からトランスファクラッチ20を介して伝達される動力は、プロペラシャフト25を介してリヤデフ26に伝達される。
リヤデフ23の左後輪8RL側の出力部には、左リヤデフクラッチ27L(特許請求の範囲に記載の従駆動輪側クラッチに相当)の一方側(入力側)が接続されている。左リヤデフクラッチ27Lの他方側(出力側)には、後輪左ドライブシャフト28Lが接続されている。後輪左ドライブシャフト28Lには、左後輪8RLが取り付けられている。一方、リヤデフ23の右後輪8RR側の出力部には、右リヤデフクラッチ27R(特許請求の範囲に記載の従駆動輪側クラッチに相当)の一方側(入力側)が接続されている。右リヤデフクラッチ27Rの他方側(出力側)には、後輪右ドライブシャフト28Rが接続されている。後輪右ドライブシャフト28Rには、右後輪8RRが取り付けられている。リヤデフ26からの動力は、左リヤデフクラッチ27L及び後輪左ドライブシャフト28Lを介して左後輪8RLに伝達されると共に、右リヤデフクラッチ27R及び後輪右ドライブシャフト28Rを介して右後輪8RRに伝達される。
リヤデフクラッチ27L,27Rは、後輪8RL,8RRにそれぞれ伝達される動力を締結力に応じて調節するクラッチである。特に、リヤデフクラッチ27L,27Rは、走行中にトランスファクラッチ20が解放されているときに、解放されることで左右の後輪8RL,8RRとプロペラシャフト25(ひいては、トランスファクラッチ20)とをそれぞれ切り離すためのクラッチである。これにより、二輪駆動時に後輪8RL,8RRの回転に伴ってプロペラシャフト25が回転することがなくなり、燃費を向上させることができる。
リヤデフクラッチ27L,27Rは、例えば、多板クラッチである。リヤデフクラッチ27L,27Rは、油圧式のクラッチであり、油圧に応じて締結力が可変である。この各リヤデフクラッチ27L,27Rの締結力に応じて、リヤデフ26から後輪左右の各ドライブシャフト28L,28R(後輪8RL,8RR)に動力がそれぞれ伝達される。特に、左リヤデフクラッチ27Lの締結力と右リヤデフクラッチ27Rの締結力とにより、リヤデフ26から後輪左ドライブシャフト28L(左後輪8RL)に伝達される動力と後輪右ドライブシャフト28R(右後輪8RR)に伝達される動力との配分を調整することができる。なお、リヤデフクラッチ27L,27Rは、例えば、リヤデフのケース内に設けられ、リヤデフ用のオイルによって潤滑される。
次に、制御装置2の構成について説明する。制御装置2は、トランスファクラッチ20と左右のリヤデフクラッチ27L,27Rに対する各制御を行う。特に、制御装置2は、締結状態になるように制御されているトランスファクラッチ20に差回転が発生した場合にトランスファクラッチ20に対する保護制御を行う。制御装置2の各制御は、例えば、TCU60によって実施される。TCU60は、第1実施形態に係るTCU30と同様に、油温センサ31,32などの各種センサが接続され、また、VDCU40から各種情報を受信する。また、TCU60には、第1実施形態に係るTCU30と同様に、バルブボディ34が接続されている。
TCU60には、トランスファクラッチ20と左右のリヤデフクラッチ27L,27Rに対する各制御を行うために、トランスファクラッチ制御部60aと、リヤデフクラッチ制御部60bと、第1判定部60c(特許請求の範囲に記載の第1判定手段に相当)と、第2判定部60d(特許請求の範囲に記載の第2判定手段に相当)と、第3判定部30e(特許請求の範囲に記載の第3判定手段に相当)と、第4判定部60f(特許請求の範囲に記載の第4判定手段に相当)と、保護制御部60g(特許請求の範囲に記載の制御手段に相当)とを有している。TCU60は、ROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることで、これらの各部60a〜60gの処理が実現される。
トランスファクラッチ制御部60a、第1判定部60c、第3判定部30e、第4判定部60fの各処理は、第1実施形態に係るトランスファクラッチ制御部30a、第1判定部30c、第3判定部30e、第4判定部30fの各処理と同様の処理である。以下では、リヤデフクラッチ制御部60b、第2判定部60d、保護制御部60gの各処理について説明する。
リヤデフクラッチ制御部60bは、左右のリヤデフクラッチ27L,27Rの締結力を制御する。例えば、リヤデフクラッチ制御部60bは、トランスファクラッチ20が締結状態の場合(全輪駆動の場合)、バルブボディ34の各ソレノイドバルブをそれぞれ制御することで、各リヤデフクラッチ27L,27Rがそれぞれ締結状態になるように各リヤデフクラッチ27L,27Rの油圧(締結力)をそれぞれ調節する。また、リヤデフクラッチ制御部60bは、トランスファクラッチ20が解放状態の場合(二輪駆動の場合)、バルブボディ34の各ソレノイドバルブをそれぞれ制御することで、各リヤデフクラッチ27L,27Rがそれぞれ解放状態になるように各リヤデフクラッチ27L,27Rの油圧をそれぞれ調節する。
第2判定部60dは、保護制御部60gで保護制御を開始してからの各リヤデフクラッチ27L,27Rでの発熱量をそれぞれ推定し、この各推定値が所定量以上か否かそれぞれ判定する。この所定量は、適合で決められる。発熱量を推定する方法は、例えば、第1実施形態で説明したリヤデフクラッチ22の発熱量の推定方法と同様の推定方法である。また、第2判定部60dは、第1実施形態に係る第2判定部30dと同様に、油温センサ32で検出されたリヤデフ用のオイルの温度が所定温度以上か否かを判定する。
保護制御部60gは、第1判定部60cでトランスファクラッチ20に対する保護制御が必要と判定した場合、トランスファクラッチ20に対する保護制御を行う。まず、保護制御部60gは、バルブボディ34の各ソレノイドバルブをそれぞれ制御することで、各リヤデフクラッチ27L,27Rがそれぞれ半締結状態になるようにリヤデフクラッチ27L,27Rの油圧(締結力)をそれぞれ調節する。
保護制御部60gは、第2判定部60dで左リヤデフクラッチ27Lでの発熱量の推定値と右リヤデフクラッチ27Lでの発熱量の推定値のうちの少なくとも一方の推定値が所定量以上と判定した場合又はリヤデフ用のオイルの温度が所定温度以上と判定した場合、バルブボディ34の各ソレノイドバルブをそれぞれ制御することで、各リヤデフクラッチ27L,27Rがそれぞれ解放状態になるように各リヤデフクラッチ27L,27Rの油圧をそれぞれ調節する。このとき、保護制御部60gは、各車輪8FL,8FR,8RL,8RRの各ブレーキ9FL,9FR,9RL,9RRを作動させる指令をVDCU40に送信する。
保護制御部60gは、第3判定部60eで車両が発進したと判定した場合又は第4判定部60fで経過時間が所定時間以上と判定した場合、保護制御を終了し、各リヤデフクラッチ27L,27Rに対する通常制御(リヤデフクラッチ制御部60bでの制御)に移行する。通常制御により、リヤデフクラッチ27L,27Rが締結状態になる。
次に、図3を参照しつつ、制御装置2の作用を図4のフローチャートに沿って説明する。図4は、第2実施形態に係る制御装置2の処理の流れを示すフローチャートである。
車両が全輪駆動で走行中、通常の制御により、トランスファクラッチ20が締結状態となり、左右のリヤデフクラッチ27L,27Rが締結状態となる。この場合、トランスファクラッチ20の締結力(トルク容量)に応じて、動力源6で発生した動力が前輪8FL,8FRと後輪8RL,8RRとに配分されて伝達されている。
図4に示すフローチャートのS30、S32の各処理については、第1実施形態の図2に示すフローチャートのS10、S12の各処理と同様の処理である。
S32の判定にて発熱量が所定量以上と判定された場合、TCU60は、トランスファクラッチ20に対する締結制御を継続しつつ、左右の各リヤデフクラッチ27L,27Rがそれぞれ半締結状態になるように(各リヤデフクラッチ27L.27Rのトルク容量がトランスファクラッチ20のトルク容量よりも小さくなるように)制御する(S34)。この制御によって各リヤデフクラッチ27L.27Rのトルク容量がトランスファクラッチ20よりも小さくなると、後輪8RL,8RRが停止しているので、左リヤデフクラッチ27Lの出力側(左後輪8RL側)が停止すると共に右リヤデフクラッチ27Rの出力側(右後輪8RR側)が停止し、左右の各リヤデフクラッチ27L,27Rがそれぞれ滑って半締結状態になる。これによって、第1実施形態と同様に、トランスファクラッチ20の出力側が回転することが可能となり、トランスファクラッチ20での差回転が抑制されるので、差回転による発熱が抑制される。また、リヤデフクラッチ27L,27Rをそれぞれ半締結状態することで、後輪8RL,8RRに動力が伝達されるので、登坂路の場合でもこの動力によって車両がずり下がらない。
TCU60では、S34での保護制御を開始してからの左右の各リヤデフクラッチ27L,27Rの発熱量をそれぞれ推定し、この各発熱量が所定量以上か否かをそれぞれ判定する(S36)。このS36の判定にて各発熱量が共に所定量未満と判定された場合、TCU60は、リヤデフ用のオイルの温度が所定温度以上か否かを判定する(S38)。このS38の判定にてオイルの温度が所定温度未満と判定された場合、TCU60は、S34の制御に戻って左右の各リヤデフクラッチ27L,27Rの半締結状態の制御を継続し、所定時間後にS36の判定を行う。
S36の判定にて少なく一方の発熱量が所定量以上と判定された場合又はS38の判定にてオイルの温度が所定温度以上と判定された場合、TCU60は、各車輪8FL,8FR,8RL,8RRの各車輪速が所定速度以上か否かを判定する(S40)。S40の判定にて各車輪速が所定速度未満と判定された場合、TCU60は、S34での保護制御を開始してからの経過時間を計測し、この経過時間が所定時間以上か否かを判定する(S42)。
S42の判定にて経過時間が所定時間未満と判定された場合、TCU60は、トランスファクラッチ20に対する締結制御を継続しつつ、左右の各リヤデフクラッチ27L,27Rが解放状態になるように制御すると共にブレーキを作動させる指令をVDCU40に送信する(S44)。S44の制御によって左右の各リヤデフクラッチ27L,27Rがそれぞれ解放状態になるので、停止している後輪8RL,8RRとプロペラシャフト25とが切り離される。これにより、トランスファクラッチ20の出力側(プロペラシャフト25側)の回転が可能となり、トランスファクラッチ20での差回転が抑制される。また、VDCU40の制御によって各ブレーキ9FL,9FR,9RL,9RRが作動するので、登坂路の場合でも車両がずり下がらない。TCU60は、S44での制御を行うと、所定時間後にS40の判定を行う。
S40の判定にて全ての車輪速が所定速度以上と判定された場合又はS42の判定にて経過時間が所定時間以上と判定された場合、TCU60は、トランスファクラッチ20に対する締結制御を継続しつつ、左右の各リヤデフクラッチ27L,27Rがそれぞれ締結状態になるように制御すると共にブレーキの作動を終了させる指令をVDCU40に送信する(S46)。これにより、トランスファクラッチ20に対する保護制御が終了され、上述した通常制御に戻る。
第2実施形態に係る制御装置2は、第1実施形態に係る制御装置1と同様の効果を有する。但し、制御装置2では、第1実施形態でのトランスファクラッチ20とリヤデフ23との間の1個のリヤデフクラッチ22の代わりに、リヤデフ23と左右の後輪8RL,8RRとの間の2個のリヤデフクラッチ27L,27Rで行う点は異なる。特に、第2実施形態に係る制御装置2によれば、リヤデフクラッチ27L,27Rがリヤデフ26と左右の後輪8RL,8RRとの間にそれぞれ設けられているので、左リヤデフクラッチ27Lと右リヤデフクラッチ27Rとにより、左後輪8RLと右後輪8RRとにそれぞれ伝達する動力を個別に調整することができる。
(第3実施形態)
図5を参照して、第3実施形態に係る全輪駆動車の制御装置3(以下、「制御装置3」と記載)について説明する。図5は、第3実施形態に係る制御装置3と全輪駆動車の動力伝達系の構成を示す図である。
制御装置3は、第1実施形態に係る制御装置1と比較すると、トランスファクラッチ20に対する保護制御としてリヤデフクラッチ22を半締結状態とする制御のみを行う点が異なる。制御装置3が搭載される全輪駆動車における動力伝達系は、第1実施形態と同様である。
制御装置3の構成について説明する。制御装置3は、トランスファクラッチ20とリヤデフクラッチ22に対する各制御を行う。特に、制御装置3は、締結状態になるように制御されているトランスファクラッチ20に差回転が発生した場合にトランスファクラッチ20に対する保護制御を行う。制御装置3の各制御は、例えば、TCU70によって実施される。TCU70は、第1実施形態に係るTCU30と同様に、油温センサ31,32などの各種センサが接続され、また、VDCU40から各種情報を受信する。また、TCU70には、第1実施形態に係るTCU30と同様に、バルブボディ33が接続されている。
TCU70には、トランスファクラッチ20とリヤデフクラッチ22に対する各制御を行うために、トランスファクラッチ制御部70aと、リヤデフクラッチ制御部70bと、第1判定部70c(特許請求の範囲に記載の第1判定手段に相当)と、第2判定部70d(特許請求の範囲に記載の第2判定手段に相当)と、第3判定部70e(特許請求の範囲に記載の第3判定手段に相当)と、第4判定部70f(特許請求の範囲に記載の第4判定手段に相当)と、保護制御部70g(特許請求の範囲に記載の制御手段に相当)とを有している。TCU70は、ROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることで、これらの各部70a〜70gの処理が実現される。
トランスファクラッチ制御部70a、リヤデフクラッチ制御部70b、第1判定部70c、第2判定部70d、第3判定部70e、第4判定部70fの各処理は、第1実施形態に係るトランスファクラッチ制御部30a、リヤデフクラッチ制御部30b、第1判定部30c、第2判定部30d、第3判定部30e、第4判定部30fの各処理と同様の処理である。以下では、保護制御部70gの処理について説明する。
保護制御部70gは、第1判定部70cでトランスファクラッチ20に対する保護制御が必要と判定した場合、トランスファクラッチ20に対する保護制御を行う。保護制御部70gは、バルブボディ33のソレノイドバルブを制御することで、リヤデフクラッチ22が半締結状態になるようにリヤデフクラッチ22の油圧(締結力)を調節する。
保護制御部70gは、第2判定部70dでリヤデフクラッチ22での発熱量の推定値が所定量以上と判定した場合又はリヤデフ用のオイルの温度が所定温度以上と判定した場合、保護制御を終了し、リヤデフクラッチ22に対する通常制御(リヤデフクラッチ制御部70bでの制御)に移行する。また、保護制御部70gは、第3判定部70eで車両が発進したと判定した場合又は第4判定部70fで経過時間が所定時間以上と判定した場合、保護制御を終了し、リヤデフクラッチ22に対する通常制御に移行する。通常制御により、リヤデフクラッチ22が締結状態になる。
次に、図5を参照しつつ、制御装置3の作用を図6のフローチャートに沿って説明する。図6は、第3実施形態に係る制御装置3の処理の流れを示すフローチャートである。
図6に示すフローチャートのS50、S52、S54、S56、S58の各処理については、第1実施形態の図2に示すフローチャートのS10、S12、S14、S16、S18の各処理と同様の処理である。
S58の判定にてオイルの温度が所定温度未満と判定された場合、TCU70は、各車輪8FL,8FR,8RL,8RRの各車輪速が所定速度以上か否かを判定する(S60)。S60の判定にて各車輪速が所定速度未満と判定された場合、TCU70は、S54での保護制御を開始してからの経過時間を計測し、この経過時間が所定時間以上か否かを判定する(S62)。このS62の判定にて経過時間が所定時間未満と判定された場合、TCU70は、S54の制御に戻ってリヤデフクラッチ22の半締結状態の制御を継続し、所定時間後にS56の判定を行う。
S56の判定にて発熱量が所定量以上と判定された場合又はS58の判定にてオイルの温度が所定温度以上と判定された場合又はS60の判定にて全ての車輪速が所定速度以上と判定された場合又はS62の判定にて経過時間が所定時間以上と判定された場合(何れかの保護制御終了の条件を満たした場合)、TCU70は、トランスファクラッチ20に対する締結制御を継続しつつ、リヤデフクラッチ22が締結状態になるように制御する(S64)。これにより、トランスファクラッチ20に対する保護制御が終了され、上述した通常制御に戻る。
第3実施形態に係る制御装置3は、第1実施形態に係る制御装置1と同様の効果を有する。但し、トランスファクラッチ20に対する保護制御としてリヤデフクラッチ22を解放状態にする制御を行わないので、このリヤデフクラッチ22を解放状態にする制御による効果は除かれる。
(第4実施形態)
図7を参照して、第4実施形態に係る全輪駆動車の制御装置4(以下、「制御装置4」と記載)について説明する。図7は、第4実施形態に係る制御装置4と全輪駆動車の動力伝達系の構成を示す図である。
制御装置4は、第1実施形態に係る制御装置1と比較すると、トランスファクラッチ20に対する保護制御としてリヤデフクラッチ22を解放状態とする制御のみを行う点が異なる。制御装置4が搭載される全輪駆動車における動力伝達系は、第1実施形態と同様である。
制御装置4の構成について説明する。制御装置4は、トランスファクラッチ20とリヤデフクラッチ22に対する各制御を行う。特に、制御装置4は、締結状態になるように制御されているトランスファクラッチ20に差回転が発生した場合にトランスファクラッチ20に対する保護制御を行う。制御装置4の各制御は、例えば、TCU80によって実施される。TCU80は、第1実施形態に係るTCU30と同様に、油温センサ31,32などの各種センサが接続され、また、VDCU40から各種情報を受信する。また、TCU80には、第1実施形態に係るTCU30と同様に、バルブボディ33が接続されている。
TCU80には、トランスファクラッチ20とリヤデフクラッチ22に対する各制御を行うために、トランスファクラッチ制御部80aと、リヤデフクラッチ制御部80bと、第1判定部80c(特許請求の範囲に記載の第1判定手段に相当)と、第4判定部80f(特許請求の範囲に記載の第4判定手段に相当)と、保護制御部(特許請求の範囲に記載の制御手段に相当)80gとを有している。TCU80は、ROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることで、これらの各部80a,80b,80c,80f,80gの処理が実現される。
トランスファクラッチ制御部80a、リヤデフクラッチ制御部80b、第1判定部80c、第4判定部80fの各処理は、第1実施形態に係るトランスファクラッチ制御部30a、リヤデフクラッチ制御部30b、第1判定部30c、第4判定部30fの各処理と同様の処理である。以下では、保護制御部80gの処理について説明する。
保護制御部80gは、第1判定部80cでトランスファクラッチ20に対する保護制御が必要と判定した場合、トランスファクラッチ20に対する保護制御を行う。保護制御部80gは、バルブボディ33のソレノイドバルブを制御することで、リヤデフクラッチ22が解放状態になるようにリヤデフクラッチ22の油圧(締結力)を調節する。さらに、保護制御部60gは、各車輪8FL,8FR,8RL,8RRの各ブレーキ9FL,9FR,9RL,9RRを作動させる指令をVDCU40に送信する。
保護制御部80gは、第4判定部80fで経過時間が所定時間以上と判定した場合、保護制御を終了し、リヤデフクラッチ22に対する通常制御(リヤデフクラッチ制御部80bでの制御)に移行する。通常制御により、リヤデフクラッチ22が締結状態になる。
次に、図7を参照しつつ、制御装置4の作用を図8のフローチャートに沿って説明する。図8は、第4実施形態に係る制御装置4の処理の流れを示すフローチャートである。
図8に示すフローチャートのS70、S72の各処理については、第1実施形態の図2に示すフローチャートのS10、S12の各処理と同様の処理である。
S72の判定にて発熱量が所定量以上と判定された場合、TCU80は、トランスファクラッチ20に対する締結制御を継続しつつ、リヤデフクラッチ22が解放状態になるように制御すると共にブレーキを作動させる指令をVDCU40に送信する(S74)。この制御によってリヤデフクラッチ22が解放状態になるので、停止している後輪8RL,8RRとプロペラシャフト21とが切り離される。これにより、トランスファクラッチ20の出力側(プロペラシャフト21側)の回転が可能となり、トランスファクラッチ20での差回転が抑制され、差回転による発熱が抑制される。また、VDCU40の制御によって各ブレーキ9FL,9FR,9RL,9RRが作動するので、登坂路の場合でも車両がずり下がらない。
TCU80は、S74での保護制御を開始してからの経過時間を計測し、この経過時間が所定時間以上か否かを判定する(S76)。S76の判定にて経過時間が所定時間未満と判定された場合、TCU80は、S74の制御に戻ってリヤデフクラッチ22の解放状態の制御を継続し、所定時間後にS76の判定を行う。
S76の判定にて経過時間が所定時間以上と判定された場合(保護制御終了の条件を満たした場合)、TCU80は、トランスファクラッチ20に対する締結制御を継続しつつ、リヤデフクラッチ22が締結状態になるように制御すると共にブレーキの作動を終了させる指令をVDCU40に送信する(S78)。これにより、トランスファクラッチ20に対する保護制御が終了され、上述した通常制御に戻る。
第4実施形態に係る制御装置4によれば、締結状態になるように制御されているトランスファクラッチ20に差回転が発生した場合に、リヤデフクラッチ22を解放状態にすることでトランスファクラッチ20での差回転が抑制され、トランスファクラッチ20の差回転による発熱を抑制することができる。
第4実施形態に係る制御装置4によれば、リヤデフクラッチ22を解放状態としているときにブレーキを作動させることにより、登坂路の場合に車両のずり下がりを防止することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では前輪8FL,8FRを主駆動輪とし、後輪8RL,8RRを従駆動輪とするパートタイム方式の全輪駆動車に適用したが、前輪を従駆動輪、後輪を主駆動輪とするパートタイム方式の全輪駆動車に適用してもよい。
上記実施形態では動力源6としてエンジンを備える全輪駆動車を例示したが、電動モータ、エンジンと電動モータのハイブリッドなどの他の動力源を備える全輪駆動車に適用してもよい。また、上記実施形態では変速機7として無段変速機を備える全輪駆動車を例示したが、有段自動変速機、手動変速機などの他の変速機を備える全輪駆動車に適用してもよい。
上記実施形態ではトランスファクラッチ20、リヤデフクラッチ22,27L,27Rとして油圧クラッチを用いたが、電磁クラッチなどの他の形式のクラッチを用いてもよい。
上記実施形態ではトランスファクラッチ20に対する保護制御の終了条件をリヤデフクラッチ22の発熱量(推定値)、リヤデフ用のオイルの温度、各車輪8FL,8FR,8RL,8RRの車輪速、保護制御開始からの経過時間の4つのパラメータを用いて判定したが、このうちの1つ、2つあるいは3つのパラメータだけを用いて判定してもよいし、また、他のパラメータを用いてトランスファクラッチ20に対する保護制御の終了条件を判定してもよい。例えば、温度センサで検出された実際のトランスファクラッチ20の温度を用い、トランスファクラッチ20の実温度が所定温度以下になった場合に保護制御を終了する。また、温度センサで検出された実際のリヤデフクラッチ22の温度を用い、リヤデフクラッチ22の実温度が所定温度以上になった場合にリヤデフクラッチ22の半締結状態を終了する。
上記実施形態ではトランスファクラッチ20に対する保護制御の開始条件をトランスファクラッチ20の発熱量(推定値)を用いて判定したが、他のパラメータを用いてもよく、例えば、トランスファクラッチ20の差回転(又は主駆動輪8FL,8FRのスリップ)が発生してからの経過時間を計測し、この経過時間が所定時間以上になった場合(つまり、差回転が所定時間継続した発熱量が増大した場合)に保護制御を開始する。
上記第3実施形態ではプロペラシャフト21とリヤデフ23との間にリヤデフクラッチ22を備える全輪駆動車においてトランスファクラッチ20に対する保護制御としてリヤデフクラッチ22を半締結状態とする制御だけを行う構成としたが、リヤデフと左右の後輪との間に左右の各リヤデフクラッチを備える全輪駆動車(例えば、図3に示す構成)においてトランスファクラッチに対する保護制御として左右の各リヤデフクラッチをそれぞれ半締結状態とする制御だけを行う構成としてもよい。
上記第4実施形態ではプロペラシャフト21とリヤデフ23との間にリヤデフクラッチ22を備える全輪駆動車においてトランスファクラッチ20に対する保護制御としてリヤデフクラッチ22を解放状態とする制御とブレーキ作動制御だけを行う構成としたが、リヤデフと左右の後輪との間に左右の各リヤデフクラッチを備える全輪駆動車においてトランスファクラッチに対する保護制御として左右の各リヤデフクラッチをそれぞれ解放状態とする制御とブレーキ作動制御だけを行う構成としてもよい。