(第1の実施形態)
以下に図面を参照し、本発明の第1の実施形態を詳細に説明する。
図1は本実施形態に係るインクジェット記録装置310の内部構成を示す模式図である。
本実施形態のインクジェット記録装置(以下、プリンタ、記録装置とも称する)310は、記録ユニット101を備えている。記録ユニット101は、記録ヘッド102Lと記録ヘッド102Rを有しており、これらの記録ヘッド102L、102Rは1つの保持部103によって保持されている。記録ヘッド102L、102Rそれぞれには、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクを吐出するための吐出口列が1つずつ設けられているが、詳細については後述する。
なお、図2からわかるように、記録ヘッド102L、102RはY方向に同じ位置であって、X方向に互いに離間するような位置に設けられている。なお、ここでは記録ヘッド102L、102RがY方向に同じ位置に設けられた記録ユニット101を記載したが、同一走査で記録ヘッド102L、102Rの両方によって記録媒体上の少なくとも一部の領域を記録可能なように、Y方向に関して各色のインクを吐出する吐出口列に応じた記録領域が部分的にオーバーラップするように構成されていれば、記録ヘッド102L、102RがY方向にずれた位置に設けられていても良い。
記録ユニット101は、記録媒体に対し、X方向に延伸して設けられたガイドレール104に沿ってX方向(交差方向)に相対的に往復移動(走査)可能となっている。また、記録媒体106はプラテン107に支持されており、搬送ローラ105を回転させることによりY方向(搬送方向)へと搬送される。本実施形態におけるインクジェット記録装置310は、上述の記録ユニット101のX方向への走査を伴った記録動作と、搬送ローラ105による記録媒体106のY方向への搬送動作と、を繰り返し行うことにより、記録媒体106の全域に対する記録を完了する。
図2は本実施形態で用いる記録ユニット101の詳細を示す図である。なお、図2(a)には記録ユニット101をXY平面に対して鉛直下方から見た図を模式的に示している。また、図2(b)には記録ユニット101をY方向から見た図を模式的に示している。
本実施形態における記録ユニット101内には、記録ヘッド102Lと記録ヘッド102RがX方向に距離Wだけ離間して設けられている。そして、記録ヘッド102Lには、X方向左側からシアンインクを吐出する吐出口列111C、マゼンタインクを吐出する吐出口列111M、イエローインクを吐出する吐出口列111Y、ブラックインクを吐出する吐出口列111Kの順番で4つの吐出口列111C、111M、111Y、111Kが配置されている。一方、記録ヘッド102RにはX方向左側からブラックインクを吐出する吐出口列112K、シアンインクを吐出する吐出口列112C、マゼンタインクを吐出する吐出口列112M、イエローインクを吐出する吐出口列112Yの順番で4つの吐出口列112C、112M、112Y、112Kが配置されている。なお、記録ヘッド102L、102R内の各吐出口は3[ng]の吐出量でインクを吐出するよう製造されている。
なお、記録ヘッド102L内の4つの吐出口列111C、111M、111Y、111Kは、互いに同じ距離dだけ離間して配置されている。同様に、記録ヘッド102R内の4つの吐出口列112C、112M、112Y、112Kもまた互いに同じ距離dだけ離間しながら配置されている。また、8つの吐出口列それぞれには、それぞれのインクを吐出する複数の吐出口(不図示)がY方向(所定方向)に配列されている。
ここで、図2(a)からわかるように、本実施形態で用いる記録ユニット101は、明度が低いインクであるブラックインクを吐出する吐出口列111K、112K間の距離が、ブラックインクよりも明度が高いイエローインクを吐出する吐出口列111Y、112Y間の距離よりも短くなるように、各吐出口列が配置されている。同様に、ブラックインクを吐出する吐出口列111K、112K間の距離は、ブラックインクよりも明度が高いシアンインクを吐出する吐出口列111C、112C間の距離、およびブラックインクよりも明度が高いマゼンタインクを吐出する吐出口列111M、112M間の距離よりも短くなっている。
なお、本実施形態では記録ユニット101内での各吐出口列の配列順序は他の順序であっても良い。
記録ヘッド102L内の各吐出口列内の吐出口は、不図示の流路を介してそれぞれのインクを収納するインクタンクに接続されている。詳細には、吐出口列111Cに配列された吐出口はシアンインクを収納するインクタンク108Cに、吐出口列111Mに配列された吐出口はマゼンタインクを収納するインクタンク108Mに、吐出口列111Yに配列された吐出口はイエローインクを収納するインクタンク108Yに、吐出口列111Kに配列された吐出口はブラックインクを収納するインクタンク108Kにそれぞれ接続されている。同様に、記録ヘッド102R内の吐出口列112Cに配列された吐出口はシアンインクを収納するインクタンク109Cに、吐出口列112Mに配列された吐出口はマゼンタインクを収納するインクタンク109Mに、吐出口列112Yに配列された吐出口はイエローインクを収納するインクタンク109Yに、吐出口列112Kに配列された吐出口はブラックインクを収納するインクタンク109Kにそれぞれ接続されている。
なお、ここでは同色のインクを吐出する記録ヘッド102L内の吐出口列と記録ヘッド102R内の吐出口列は異なるインクタンクに接続される形態について記載したが、1つの同じインクタンクに接続される形態であっても良い。また、異なるインクタンクを用いる場合と同じインクタンクを用いる場合のいずれであっても、インクタンクを支持部103のX方向中央側に寄せて設けることにより記録ユニットを小型化することができる。しかしながら、小型化を考えないのであれば、例えば2つの異なるインクタンクを用いる場合には、それぞれの記録ヘッドとインクタンクのX方向の中央部がおおよそ一致するように設計しても良い。
図3は記録ユニット101を用いて記録媒体106に記録を行う際の様子を説明するための模式図である。なお、図3に示す2つの記録ユニット101のうち、破線にて記載したX方向左側に位置する記録ユニット101は、X方向左側から右側へと走査させる場合において記録媒体106に対する記録を開始するタイミングにおける記録ユニット101の位置を示している。また、実線にて記載したX方向右側に位置する記録ユニット101は、X方向左側から右側へと走査させる場合において記録媒体106に対する記録を終了するタイミングにおける記録ユニット101の位置を示している。なお、実際には後述する記録ユニット101の加減速制御や吐出特性を維持するための予備吐出受け部107L、107Rへの予備吐出制御を行うため、図3に示した2つの記録ユニット101よりもX方向外部にも記録ユニット101は走査される。
以下の説明では記録媒体106のX方向左側の端部位置を位置X1、記録媒体106のX方向右側の端部位置を位置X4と記載する。また、位置X1よりもX方向右側の所定位置を位置X2、位置X4よりもX方向左側の所定位置を位置X3と記載する。このように位置X1〜X4を定義した上で、記録媒体上の位置X1から位置X2までのX方向左側の領域を領域A1、記録媒体上の位置X2から位置X3までのX方向中央の領域を領域A2、記録媒体上の位置X3から位置X4までのX方向右側の領域を領域A3として記載する。
ここで、領域A1は記録ヘッド102Rからはインクを吐出せず、記録ヘッド102Lからのインクの吐出のみによって記録を行う領域である。また、領域A3は記録ヘッド102Lからはインクを吐出せず、記録ヘッド102Rからのインクの吐出のみによって記録を行う領域である。
一方、領域A2は記録ヘッド102L、102Rの両方からのインクの吐出によって記録を行う領域である。したがって、本実施形態では後述する記録ヘッド分配処理を行うことで領域A2に対応するデータを分割し、記録ヘッド102Rと記録ヘッド102Lの両方を用いた領域A2に対する分担記録を行うために用いる記録データを生成する。
以上記載したように、本実施形態では記録媒体106をX方向に3分割し、領域A1と、領域A1とX方向に隣接する領域A2と、領域A2とX方向に隣接する領域A3と、の3つの領域ごとにインクを吐出する記録ヘッドを異ならせて記録を行う。詳細には、X方向左側の領域A1には記録ヘッド102Lのみによって、X方向右側の領域A3には記録ヘッド102Rのみによって、また、X方向中央の領域A2には記録ヘッド102L、102Rの両方によってインクを吐出して記録を行う。
なお、領域A1、A2、A3のX方向における幅は、後述する記録条件に応じて定められる。この点については後述する。
図5は本実施形態における制御プログラムにしたがってCPU311が実行する記録に用いられる記録データ生成処理のフローチャートである。なお、この制御プログラムはROM313に予め格納されている。
PC300から記録装置310にRGB形式で示されたRGBデータが取得されると、まずステップS801にてRGBデータを記録に用いるインクの色に対応するインク色データに変換する色変換処理を行う。この色変換処理により、複数の画素それぞれにおける階調値を定める8ビット256値の情報によって表されるインク色データが生成される。上述のように、本実施形態ではブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクを記録に用いるため、ステップS801における色変換処理によってブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクそれぞれに対応するインク色データが生成されることになる。なお、色変換処理としては適宜異なる処理を実行しても良く、例えばROM313に予め記憶されたRGB値とCMYK値の対応関係を規定した3次元ルックアップテーブル(3D−LUT)を用いても良いし、更に四面体補完を実行しても良い。
次に、ステップS802にてCMYK値それぞれのインク色データが示す階調値を補正し、CMYK値それぞれ8ビット256値の情報によって表される階調補正データを生成する階調補正処理を実行する。この階調補正処理では、例えば補正前の各色のインクに対応するインク色データと補正後の各色のインクに対応する階調補正データの対応関係を規定した1次元ルックアップテーブル(1D−LUT)等を用いることができる。なお、この1D−LUTはROM313に予め格納されている。
次に、ステップS803にて階調補正データを量子化し、各画素に対する各色のインクの吐出または非吐出を定める1ビット2値の情報によって表される量子化データ(画像データ)を生成する量子化処理を行う。量子化処理としては誤差拡散法やディザ法等、従来より知られている種々の処理を実行可能である。
次に、ステップS804にて各色のインクに対応する量子化データのうち、記録媒体上の領域A2に対応する量子化データを記録ヘッド102Lと記録ヘッド102Rに分配する分配処理が実行される。更に、この分配処理では、記録ヘッド102Lに分配された量子化データと、記録媒体上の領域A1に対応する量子化データと、の論理和をとることにより、記録媒体に対する記録ヘッド102Lから各画素に対する各色のインクの吐出または非吐出を定めた、記録ヘッド102Lに対応する分配データを生成する。同様に、記録ヘッド102Rに分配された量子化データと、記録媒体上の領域A3に対応する量子化データと、の論理和をとることにより、記録媒体に対する記録ヘッド102Rから各画素に対する各色のインクの吐出または非吐出を定めた、記録ヘッド102Rに対応する分配データを生成する。なお、この左右ヘッド分配処理については後述する。
そして、ステップS805Lでは、記録ヘッド102Lに対応する分配データを記録媒体上の同じ単位領域に対して行われる複数回の走査(パス)に分配し、複数回の走査それぞれにおいて記録ヘッド102Lからのインクの吐出に用いられる記録ヘッド102L用の記録データを生成する。同様に、ステップS805Rでは記録ヘッド102Rに対応する分配データを複数回の走査に分配し、複数回の走査それぞれにおいて記録ヘッド102Rからのインクの吐出に用いられる記録ヘッド102R用の記録データを生成する。本実施形態では、ステップS805L、S805Rにて生成された記録ヘッド102L、102R用の記録データにしたがって、記録ヘッド102L、102Rからの吐出動作を実行する。なお、ステップS805L、S806における処理は、例えば複数回の走査に対応し、それぞれ記録の許容を定める記録許容画素と記録の非許容を定める非記録許容画素が配置された複数のマスクパターンを用いることにより行うことができる。なお、この複数のマスクパターンはROM313に予め格納されている。これらの複数パス分配処理については後述する。
ここでは1つの単位領域に対して複数回の走査を行う形態について記載したが、単位領域に対して1回だけ走査を行って記録を行っても良い。この場合、ステップS805L、S805Rにおける処理は省略することができる。
また、ここではステップS801〜S805L、S805Rにおける全ての処理をプリンタ310内のCPU311が実行する形態について記載したが、PC300内のCPU301がステップS801〜S805L、S805Rの一部あるいは全ての処理を実行しても良い。
(左右ヘッド分配処理)
図6は本実施形態におけるステップS804での左右ヘッド分配処理で用いる分配パターンを示す模式図である。ここで、図6(a)は記録媒体上の領域A2に対応する量子化データを記録ヘッド102Lに分配するための分配パターンを模式的に示す図である。また、図6(b)は記録媒体上の領域A2に対応する量子化データを記録ヘッド102Rに分配するための分配パターンを模式的に示す図である。なお、これらの分配パターンはROM313に予め格納されている。
また、図6(c)は本実施形態におけるステップS804での左右ヘッド分配処理を実行した結果、量子化データが記録ヘッド102Lに分配される比率にて規定される記録ヘッド102Lへの分配率と、量子化データが記録ヘッド102Rに分配される比率にて規定される記録ヘッド102Rへの分配率と、を示している。なお、図6(c)のうちの実線部が記録ヘッド102Lへの分配率を、破線部が記録ヘッド102Rへの分配率をそれぞれ示している。
なお、ここでは簡単のため、領域A2がX方向に14画素のサイズを有する領域であるとして記載する。したがって、図6(a)、(b)それぞれに示す記録ヘッド102L、102Rに対応する分配パターンもまたX方向に14画素のサイズを有している。また、図6(a)、(b)に示す分配パターンはY方向に8画素のサイズを1つの繰り返し単位として構成されており、Y方向に対してはこれらの分配パターンを繰り返し用いることにより領域A2全域に対して左右ヘッド分配処理を完了する。
ここで、図6(a)、(b)それぞれに示す分配パターンのうち、黒く塗り潰された画素が量子化データによってインクの吐出が定められていた場合にインクの吐出を許容する画素を示している。また、白抜けで示された画素が量子化データによってインクの吐出が定められていた場合であってもインクの吐出を非許容する画素を示している。
図6(a)、(b)からわかるように、本実施形態で使用する記録ヘッド102Lに対応する分配パターンと記録ヘッド102Rに対応する分配パターンは互いに排他的且つ補完的な位置にインクの吐出の許容が定められている。したがって、例えば領域A2に対応する量子化データとして全画素に対してインクの吐出を定めるような量子化データが取得された場合、領域A2内の全ての画素に対して記録ヘッド102Lと記録ヘッド102Rのいずれか一方から1回だけインクを吐出するように、左右ヘッド分配処理を行うことができる。
更に、図6(a)、(b)からわかるように、本実施形態で用いる記録ヘッド102L、102Rに対応する分配パターンは、いずれも記録媒体上のX方向における位置にかかわらず全画素のうちの半数の画素においてインクの吐出の許容が定められている。
したがって、図6(a)、(b)に示す分配パターンを用いた場合、記録媒体上のX方向における全域に対する分配率は図6(c)のようになる。すなわち、領域A1に対応する量子化データは記録ヘッド102Rに分配されないため、領域A1においては記録ヘッド102Lへの分配率が100%となる。一方、領域A3に対応する量子化データは記録ヘッド102Lには分配されないので、領域A3においては記録ヘッド102Rへの分配率が100%となる。また、上述のように図6(a)、(b)に示す分配パターンはいずれもX方向における位置にかかわらず半数の画素においてインクの吐出が定められているため、領域A2においてはX方向における位置にかかわらず記録ヘッド102Lへの分配率が50%、記録ヘッド102Rへの分配率が50%となる。
このように、図6(a)、(b)に示す分配パターンを用いることにより、記録媒体上の領域A1、A2、A3のいずれの領域においても記録ヘッド102Lへの分配率と記録ヘッド102Rへの分配率の合計は100%となっていることがわかる。すなわち、量子化データを記録ヘッド102Lと記録ヘッド102Rに分配し、領域A2を記録ヘッド102Lと記録ヘッド102Rで分担記録したとしても、領域A2に対するインクの吐出量が領域A1、A3に対するインクの吐出量に比べて所望の量から大きくずれることはない。
(複数パス分配処理)
以下、4パス記録と2パス記録を例として、本実施形態におけるステップS805L、S805Rでの複数パス分配処理について詳細に説明する。
(1)4パス記録時
図7は本実施形態において記録媒体上の単位領域に対して記録ユニットを4回走査させて記録を行う、いわゆる4パス記録の際に用いるマスクパターンと、その4パス記録時の過程を模式的に示す図である。なお、図7(a)は4パス記録時の記録媒体上の単位領域211に対する記録を行う際の過程を示している。また、図7(b)、(c)、(d)、(e)はそれぞれ1、2、3、4パス目で単位領域211に記録を行う際に適用するマスクパターンを示している。なお、ここでは簡単のため、記録ユニット101内の吐出口列111Cの1列のみについて説明し、更に吐出口列111Cが32個の吐出口から構成されるとして記載する。また、1つのマスクパターンはX方向に8画素、Y方向に8画素の64個の画素から構成され、これをX方向に繰り返し適用することで全ての領域にマスクパターンの分配処理を行う。
吐出口列111C内の複数の吐出口は、Y方向に沿って4つの吐出口群201、202、203、204に分割される。そして、単位領域211に対して、1パス目では吐出口群201から、2パス目では吐出口群202から、3パス目では吐出口群203から、4パス目では吐出口群204からインクが吐出される。そのため、4パス記録時の単位領域211はY方向において吐出口群201〜204の1つのY方向における長さ、すなわち吐出口列111CのY方向の長さをLとした場合L/4の長さを有することになる。
この際、1パス目で用いる記録データを生成する際にはマスクパターン221を用いる。同様に、2、3、4パス目で用いる記録データを生成する際には、それぞれマスクパターン222、223、224を用いる。
各マスクパターン221、222、223、224はそれぞれ複数のインクの吐出を定める記録許容画素とインクの非吐出を定める非記録許容画素が配置されることで構成されている。図5において、黒く塗りつぶされている箇所が記録許容画素を、白抜けで表されている箇所が非記録許容画素を表している。記録許容画素では入力されたデータがインクの吐出を表すデータである場合にインクを吐出する記録データとする。また、非記録許容画素では、インクの吐出を表すデータが入力された場合であってもインクを吐出しない記録データとする。
なお、これらのマスクパターン221、222、223、224における記録許容画素は、それぞれ互いに異なる位置であり、且つ、それぞれの論理和が全画素となるような関係となる位置に配置されている。
以下は記録媒体上にデューティが100%の画像(以下、ベタ画像とも称する)を形成する例について説明する。なお、本実施形態では記録媒体上のある領域内に存在する画素相当の画素領域のすべてに1回ずつインクが付与された場合において、その領域に対する記録デューティが100%であると定義する。
1回目の記録走査では、記録媒体106上の領域211に対して吐出口群201からマスクパターン221に従ってインクが吐出される。この結果、単位領域211では図7のAの黒色で示す画素領域にインクが吐出される。
次に、記録媒体106を吐出口列111Cに対してY方向の上流側から下流側にL/4の距離だけ相対的に搬送する。これにより、吐出口列111Cと記録媒体106は吐出口群111Cと単位領域211が対向するような位置関係となる。
この後に2回目の記録走査を行う。2回目の記録走査では、記録媒体上の領域211に対して吐出口群202からマスクパターン222に従ってインクが吐出される。この2回目の記録走査が行われた後、単位領域211には図7のBの黒色で示す画素領域にインクが付与されたことになる。
以下、記録ユニットの記録走査と記録媒体3の相対的な搬送を交互に繰り返す。この結果、4回目の記録走査が行われた後には、Dに示すように記録媒体3の単位領域211ではすべての画素領域に対してインクの吐出が完了し、ベタ画像が形成される。
(2)2パス記録時
次に2パス記録を行う場合について説明する。上述した4パス記録時と同様の部分については説明を省略する。
図8は本実施形態において記録媒体上の単位領域に対して記録ユニットを2回走査させて記録を行う、いわゆる2パス記録の際に用いるマスクパターンと、その2パス記録時の過程を模式的に示す図である。なお、図8(a)は2パス記録時の記録媒体上の単位領域212に対する記録を行う際の過程を示している。また、図8(b)、(c)はそれぞれ1、2パス目で単位領域212に記録を行う際に適用するマスクパターンを示している。
また、4パス記録時に用いるマスクパターンと同様に、2パス記録時に用いるマスクパターンもそれぞれX方向に8画素、Y方向に8画素の64個の画素から構成される。そして、これをX方向およびY方向に繰り返し適用することで全ての領域にマスクパターンの分配処理を行う。
2パス記録時には、吐出口列111C内の複数の吐出口はY方向に沿って2つの吐出口群205、206に分割される。そして、単位領域212に対して、1パス目では吐出口群205から、2パス目では吐出口群206からインクが吐出される。したがって、2パス記録時の単位領域212のY方向の長さはL/2となり、4パス記録時の単位領域211の長さL/4よりも長くなる。
この際、1パス目で用いる記録データを生成する際にはマスクパターン225を、1パス目で用いる記録データを生成する際にはマスクパターン226をそれぞれ用いる。これらのマスクパターン225、226において、記録許容画素はそれぞれ互いに異なる位置であり、且つ、それぞれの論理和が全画素となるような関係となる位置に配置されている。
このようなマスクパターンを用い、1パス目でマスクパターン225にしたがって吐出口群205から単位領域212にインクを吐出し、Y方向上流側から下流側にL/2の距離だけ記録媒体106を搬送し、2パス目でマスクパターン226にしたがって吐出口群206から単位領域212にインクを吐出する。これにより、2回目の記録走査が行われた後には、図8のBに示すように単位領域212にはすべての画素領域にインクを吐出することが可能となる。
(記録媒体の種類および記録モード)
本実施形態における記録装置は、複数種類の記録媒体に対して記録を行うことができる。また、同じ種類の記録媒体についても、複数の記録モードにしたがって記録を行うことができる。ここで、複数の記録モードは、記録速度を重視する高速記録モード、画像の画質を重視する高画質記録モード、記録速度も画質もある程度重視する通常記録モードの3つを含むものである。
本実施形態におけるPC300は、記録を行う記録媒体の種類や記録時の記録モードをユーザに選択させるためのUIを備えている。図9(a)に本実施形態でのUI601を示している。
図中左は、記録媒体の種類についての選択エリアで、普通紙、光沢紙、マット紙、ファインアート紙の中から一つ選択できるようになっている。同様に図中右は記録モードついての選択エリアで、高画質記録モード、通常記録モード、高速記録モードの中から一つ選択できるようになっている。
このUI601は、PC300のディスプレイに表示され、ユーザーからマニュアル動作での記録媒体種類や記録モードの選択を受け付ける。ここでの選択の結果が種々の動作の際のパラメータ設定に反映される。
図9(b)は記録媒体の種類や記録モードに応じて設定されるパラメータの一例を示している。
例えば、普通紙、光沢紙、マット紙においては、高画質記録モードが選択された場合には走査回数を4回とする。これは、走査回数を多くし、ある画素行を記録する吐出口の数が多くなるほど画質の低下は抑制されるためである。また、高速記録モードが選択された場合には走査回数を1回とする。図7、図8を比較するとわかるように、走査回数を少なくすることで1回当たりの搬送量を多くすることができるので、記録時間を短縮することができるからである。また、通常記録モードが選択された場合、走査回数は高画質記録モードと高速記録モードの中間をとって2回とする。
また、ファインアート紙においては高画質記録モード、通常記録モードでは走査回数を4回、高速記録モードでは1回とする。
ここで、本実施形態では、記録媒体の種類や記録モードに応じて分担記録領域A2の幅を異なる値(P1〜P3、G1〜G3、M1〜M3、F1〜F3)に決定する。この点については後に詳述するが、記録媒体の種類や記録モードが色再現性が広くなるような条件であるほど、分担記録領域A2の幅を広いものとする。
(記録媒体の種類、走査回数に応じた色再現域の違い)
記録媒体の種類や走査回数が異なると、記録される画像における色再現域の広さが異なってくる。この点について以下に詳細に説明する。
図10は記録媒体の種類や走査回数と色再現域の対応関係を示す図である。
なお、図10に示す打ち込み量とは、600dpi格子あたりに付与するインク量のことであり、本実施形態では記録媒体がインクを受容・保持が可能な量に設定される。本実施形態では1ドットあたり3[ng]としており、このドットが600dpi格子あたりに4ドット記録された場合を打ち込み量100%と定義している。なお、本実施形態では各記録媒体がインクを受容可能かどうかについて、インクあふれ、ビーディング、インク色間のにじみなどについて検討し、設定される。
また、図10に示す色再現域(以下、色再現範囲、色域、ガマットとも称する)とは任意の色空間における再現可能な色の範囲のことを指しており、色再現域が広いほど図10に示す数値が大きくなっている。
この色再現域の広さを表す指標として、色域体積がある。色域体積は任意の色空間での3次元の体積のことである。色再現域を構成する色度点が離散的であることがある。例えば、特定の色再現域をCIE−L*a*b*上の729点をもって代表させ、その間の点については四面体補間や、立方体補間などの公知の補間演算を用いて求めることがある。このような場合には、対応する色域体積は補間演算方法に対応して、色再現域を構成する四面体や、立方体などのCIE−L*a*b*上の体積を求めて累積したものを使用することができる。
本発明における色再現域や色域も特定の色空間にしばられるものではないが、本実施形態では、CIE−L*a*b*空間での色再現域を例として説明する。また、同様に本実施形態での色再現域の数値は四面体補間を前提としてCIE−L*a*b*空間で累積計算した場合の体積を示している。
また、図10に示す明度L*(G)とは、各色再現域において、RGB各256値での中間調に対応する(R,G,B)=(128,128,128)のデータに基づいて記録された画像における明度を示している。本実施形態では、記録ドットの吐出量や記録メディアの違いを反映させやすいために中間調明度である明度L*(G)を採用している。例えば最低明度の場合、記録ドットの吐出量によらず、紙面が十分に被覆されてしまっているため、違いが出にくい。ところが中間調であれば、紙面被覆率が50%程度であることから、吐出量の違いに基づく記録ドット径の違いを反映させやすい。
(1)記録媒体の種類と色再現域の相関
普通紙と光沢紙とでは、受容層の構成が異なり、普通紙では基材のパルプのみで受容層がなく、光沢紙ではアルミナ層が30[um]となっている。このことによってインクの吸収・保持特性と色再現域の両方が変わってくる。図10によると普通紙では打ち込み量が150〜200%であるのに対し、光沢紙では200〜250%と多くなっている。これは光沢紙では、紙面上に受容層が存在することによって、インクの吸収・保持特性が高くなっていることよるものである。
同様に受容層が存在する光沢紙では、普通紙よりも色再現域も広くなっている。これは紙面上に受容層が存在することによって、発色に寄与しやすい紙面表層にインクをとどめると共に、媒体内部での散乱を押さえ、下層に浸透したインクであっても発色に寄与するようになっているからである。
また、マット紙、ファインアート紙の受容層はいずれも粗いシリカ層からなり、その厚さはそれぞれ、20[um]、15[um]となっている。マット紙、ファインアート紙ともに色再現域は受容層を有さない普通紙よりも広くなっているが、マット紙の方がファインアート紙よりも色再現域が広くなっていることがわかる。
一般に受容層が同じ構成の場合は、受容層が厚い方がインクの吸収・保持および発色特性が良い。しかし、受容層の材質が同じ、例えばシリカ同士であっても、その粒径の違いでインクの浸透、発色は変わってくる。粒径が小さく、紙面表層に細密充填されている方が、発色が良くなる。これは、単位体積あたり大きい吸着表面積で色材を吸着しやすい粒径の小さい受容層の構成要素が、紙面表層から密に存在することで、紙面表層で色材を保持することになるからである。
(2)走査回数と色再現域の相関
記録媒体の種類が同じ場合、走査回数が多い方が記録媒体に対する打ち込み量を多くすることができる。これは複数パスに分割して記録することによって、パス間に時間差ができることに起因している。この時間差の間にインク中の溶剤は紙面表層から蒸発したり、紙面深くに拡散したりする。このことによって紙面表層の受容層に空隙ができるため、更にインクを吸収・保持する余裕ができるのである。
そして、打ち込み量が多い方が打ち込み量が少ないものよりも色再現域は広くなる。これは、紙面に記録(塗布)されるインクの量が多い方が発色に寄与することによっている。
以上の点をまとめると、走査回数が多い場合には、走査回数が少ない場合に比べて打ち込み量が多くなるため、色再現域が広くなる。例えば、図10からわかるように、記録媒体が普通紙である場合には4パス(高画質記録モード)時には320K、2パス(通常記録モード)時には290K、1パス記録(高速記録モード)時には250Kとなっており、走査回数が多いほど色再現域が広くなっている。
(色再現域と明度差の相関)
上述のように記録媒体の種類や走査回数等の記録条件に応じて色再現域の広さは変わってくるが、図3に示すような記録方式で記録を行う場合、色再現域が広いほど記録ヘッド102L、102Rの間で吐出量のずれが生じた際に領域A1と領域A3の間で記録画像に明度差が大きく生じてしまう。
以下の説明では、図10に示す各記録条件のうち、色再現域が750Kと相対的に広い記録条件(光沢紙、通常記録モード)と色再現域が290Kと相対的に狭い記録条件(普通紙、通常記録モード)の2つの記録条件について詳細に説明する。
また、以下は記録ヘッド102Lが製造中心の吐出量3[ng]に対して15%多い3.45[ng]、記録ヘッド102Rが製造中心に対して15%少ない2.55[ng]の吐出量となるような吐出量誤差が生じている場合について説明を行う。
図10によると普通紙、通常記録モードの記録条件の場合、吐出量誤差が生じていなければ明度L*(G)は29となる。しかしながら、上述のような吐出量誤差が生じると、記録ヘッド102LにおけるL*(G)は26、記録ヘッド102RにおけるL*(G)は32となってしまう。
これにより、図3の記録ヘッド102Lから領域A1に記録される画像と、記録ヘッド102Rから領域A3に記録される画像と、の間に明度差ΔL*=6(=32−26)が生じてしまう。記録ヘッド102L、102Rで分担記録を行うため、明度が領域A1と領域A3の中間程度となる領域A2の幅が大きければ、この領域A1、A3間の明度差ΔL*=6はそれ程目立たない。しかしながら領域A2の幅がある程度小さくなると、明度差ΔL*=6である領域A1、A3が近接することになるため、この明度差が視認され易くなり、画質が低下してしまう虞がある。
一方、光沢紙、通常記録モードの記録条件の場合、吐出量誤差が生じていなければ明度L*(G)は20となる。ここで、上述のように光沢紙、通常記録モードの記録条件は普通紙、通常記録モードの記録条件よりも色再現域が広い記録条件である。そのため、同程度の吐出量誤差が生じたとしても、光沢紙、通常記録モードの記録条件における吐出量誤差の影響による所望の色からの剥離は普通紙、通常記録モードの記録条件よりも程度が大きくなる。したがって、上述のような吐出量誤差が生じると、記録ヘッド102LにおけるL*(G)は15、記録ヘッド102RにおけるL*(G)は25となってしまう。
この場合、図3の領域A1、A3に記録される画像間での明度差はΔL*=10(=25−15)となり、普通紙、通常記録モードの記録条件における領域A1、A3間の明度差ΔL*=6よりも大きくなる。このため、領域A2の幅をある値とした場合、普通紙、通常記録モードの記録条件では上述の吐出量誤差が生じた際であっても明度差が視認されにくかったとしても、光沢紙、通常記録モードの記録条件では明度差が視認され易く、画質の低下が生じる虞がある。したがって、本実施形態では光沢紙、通常記録モードの記録条件においては、普通紙、通常記録モードの記録条件の場合に比べて領域A2の幅を長く設定し、比較的大きい明度差ΔL*=10を視認されにくくする。
ここで、光沢紙、通常記録モードの記録条件だけではなく、明度差ΔL*が比較的小さい普通紙、通常記録モードの記録条件においても領域A2の幅を長く設定したとしても、比較的視認されにくい明度差がより視認されにくくなるだけであり、画質が低下することはない。しかしながら、図3を参照するとわかるように、記録ヘッド102L、102Rで分担記録を行う領域A2の幅を長くする場合、記録ヘッド102Rは図3における位置X2よりも左側まで、記録ヘッド102Lは図3における位置X3よりも右側まで移動する必要がある。つまり、1回の走査当たりで記録ユニット101を走査させる幅を長くしなければならないため、記録時間が長くなってしまう。
したがって、明度差ΔL*が比較的小さい普通紙、通常記録モードの記録条件の場合には領域A2の幅をある程度短くすることにより、記録時間を短くして記録を行うことが可能となる。
以上の点を鑑み、本実施形態では、色再現域が広くなるほど記録媒体上の領域A2の幅を大きく設定する。これにより、色再現域が広い場合における記録ヘッド102L、102Rの吐出量誤差による画質低下の抑制と、色再現域が狭い場合における記録時間の短縮と、を両立することができる。
いくつかの記録条件において詳細を記載すると、普通紙、通常記録モードの場合、色再現域は290Kと比較的狭いため、領域A2の幅P2は5[cm]と比較的小さい値に決定する。また、光沢紙、通常記録モードの場合、色再現域は750Kと比較的広いため、領域A2の幅G2は8[cm]と比較的大きい値に決定する。また、普通紙、高画質記録モードの場合、色再現域は320Kと普通紙、通常記録モードよりは広くなるため、領域A2の幅P1は5.5[cm]と普通紙、通常記録モードよりは大きい値に決定する。
以上記載したように、本実施形態によれば、画質の低下の抑制と記録時間の短縮が可能な記録を行うことが可能となる。
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、左右ヘッド分配処理において領域A2内のX方向における位置にかかわらず記録ユニット内の左側の記録ヘッドへの量子化データの分配率と右側の記録ヘッドへの量子化データの分配率が等しくなるように、2つの記録ヘッドに量子化データを分配する形態について記載した。
これに対し、本実施形態では、領域A2内のX方向における位置に応じて左側の記録ヘッドへの量子化データの分配率と右側の記録ヘッドへの量子化データの分配率が異なるように、2つの記録ヘッドに量子化データを分配する形態について記載する。
なお、上述した第1の実施形態と同様の部分については説明を省略する。
図11は本実施形態におけるステップS804での左右ヘッド分配処理で用いる分配パターンを示す模式図である。ここで、図11(a)は記録媒体上の領域A2に対応する量子化データを記録ヘッド102Lに分配するための分配パターンを模式的に示す図である。また、図11(b)は記録媒体上の領域A2に対応する量子化データを記録ヘッド102Rに分配するための分配パターンを模式的に示す図である。
また、図11(c)は本実施形態におけるステップS804での左右ヘッド分配処理を実行した結果、量子化データが記録ヘッド102Lに分配される比率にて規定される記録ヘッド102Lへの分配率と、量子化データが記録ヘッド102Rに分配される比率にて規定される記録ヘッド102Rへの分配率と、を示している。なお、図11(c)のうちの実線部が記録ヘッド102Lへの分配率を、破線部が記録ヘッド102Rへの分配率をそれぞれ示している。
ここで、図11(a)、(b)それぞれに示す分配パターンのうち、黒く塗り潰された画素が量子化データによってインクの吐出が定められていた場合にインクの吐出を許容する画素を示している。また、白抜けで示された画素が量子化データによってインクの吐出が定められていた場合であってもインクの吐出を非許容する画素を示している。
図11(a)、(b)からわかるように、本実施形態で使用する記録ヘッド102Lに対応する分配パターンと記録ヘッド102Rに対応する分配パターンは、図6(a)、(b)に示す第1の実施形態で使用する分配パターンと同様に、互いに排他的且つ補完的な位置にインクの吐出の許容が定められている。したがって、例えば領域A2に対応する量子化データとして全画素に対してインクの吐出を定めるような量子化データが取得された場合、領域A2内の全ての画素に対して記録ヘッド102Lと記録ヘッド102Rのいずれか一方から1回だけインクを吐出するように、左右ヘッド分配処理を行うことができる。
また、図11(a)、(b)からわかるように、本実施形態で用いる記録ヘッド102L、102Rに対応する分配パターンは、記録媒体上のX方向における位置に応じてインクの吐出の許容を定める画素の数が異なっている。
図11(a)に示す記録ヘッド102Lに対応する分配パターンは、記録媒体上の領域A2内においてX方向左側から右側に向かうにしたがってインクの吐出の許容を定める画素の数が減少するように、各画素に対するインクの吐出の許容が定められている。
一方、図11に示す記録ヘッド102Rに対応する分配パターンは、記録媒体上の領域A2内においてX方向左側から右側に向かうにしたがってインクの吐出の許容を定める画素の数が増加するように、各画素に対するインクの吐出の許容が定められている。
したがって、図11(a)、(b)に示す分配パターンを用いた場合、記録媒体上のX方向における全域に対する分配率は図11(c)のようになる。第1の実施形態と同様に、領域A1に対応する量子化データは記録ヘッド102Rに分配されないため、領域A1においては記録ヘッド102Lへの分配率が100%となる。また、領域A3についても第1の実施形態と同様に領域A3に対応する量子化データは記録ヘッド102Lには分配されないので、領域A3においては記録ヘッド102Rへの分配率が100%となる。
また、領域A2については、上述のように図11(a)に示す記録ヘッド102Lに対応する分配パターンはX方向左側から右側に向かうにしたがって漸次的に減少するようにインクの吐出の許容が定められている。そのため、領域A2においては記録ヘッド102Lへの分配率がX方向左側から右側に向かうにしたがって漸次的に減少する。
一方、上述のように図11(b)に示す記録ヘッド102Rに対応する分配パターンはX方向左側から右側に向かうにしたがって漸次的に増加するようにインクの吐出の許容が定められている。したがって、領域A2においては記録ヘッド102Rへの分配率がX方向左側から右側に向かうにしたがって漸次的に増加する。
ここで、図11(c)からわかるように、領域A2ではX方向における位置に応じて記録ヘッド102Lへの分配率と記録ヘッド102Rへの分配率が異なるものの、それらの合計はX方向における位置にかかわらず100%となっていることがわかる。すなわち、本実施形態においても領域A2に対するインクの吐出量が領域A1、A3に対するインクの吐出量に比べて所望の量から大きくずれることはないことがわかる。
更に、図11(c)からわかるように、本実施形態では領域A1と領域A2の境界、および領域A2と領域A3の境界のそれぞれにおいて記録ヘッド102L、記録ヘッド102Rそれぞれからの吐出量を漸次的に切り替えることになる。例えば、領域A1には記録ヘッド102Lのみによって記録を行うのに対し、領域A2になるとX方向左側端部から右側に向かうにしたがって記録ヘッド102Lからの吐出量が漸次的に減少し、且つ、記録ヘッド102Rからの吐出量が漸次的に増加する。同様に、領域A3には記録ヘッド102Rのみから記録を行うのに対し、領域A2ではX方向右側端部から左側に向かうにしたがって記録ヘッド102Rからの吐出量が漸次的に減少し、且つ、記録ヘッド102Lからの吐出量が漸次的に増加する。これにより、記録ヘッド102Lと記録ヘッド102Rに吐出特性の違いが生じたとしても、領域A1、A2間および領域A2、A3間での吐出量の急峻な変化を抑制することができるため、画質むらを低減することが可能となる。
(第3の実施形態)
第1、第2の実施形態では明度差が大きいほど領域A2の幅が大きくなるように領域A2の幅を設定する形態について記載した。
本実施形態では、第1、第2の実施形態の条件に加え、人間の視覚特性に基づいて知覚されるコントラスト(明度差)を具体的に算出し、それに応じた領域A2の幅を設定する。
なお、上述した各実施形態と同様の部分については説明を省略する。
(コントラスト感度関数)
以下では、人間の視覚特性として、どの程度の明度ギャップが知覚されるのかについて、コントラスト感度関数に基づいて説明する。コントラスト感度関数とは、空間周波数と、その際に人間に知覚されるコントラスト(=明度差)との関係について対応付けるものである。
以下、図12を参照して詳述する。
図12(a)は、コントラスト感度関数のベースとなるコントラストの1周期を説明するグラフである。図12(a)には正弦波が描かれており、S0−S4間で空間周波数としての1周期(2π)となっている。輝度LについてみるとS1位置での最小輝度Ymin、S3位置で最大輝度Ymaxを示している。グラフではS0で輝度Yaveであったものが、減少し、S1で最小値Yminとなり、S2に向かって増加し、輝度Lavに戻った後、引き続き増加してS3で最大値Ymaxに達し、S4に向かって減少してSaveとなっている。コントラストは、この間の最大値maxと最小値Yminの落差に比例する。コントラスト(マイケルソンコントラスト)は(式1)で与えられる。
このグラフでは(Ymax−Ymin)に比例したコントラストがついていることが分かる。
図12(b)は、「ディジタルカラー画像の解析・評価」三宅洋一(2000)東京大学出版会 pp.71−72に記載されているBartenのモデルによるコントラスト感度関数CSF(u)のグラフである。ここでは、ディスプレイサイズw=50[deg]、輝度Y=100[cd/m2(平方メートル)]、u[cycles/deg]と仮定した上で、(式3)〜(式5)を(式2)に代入して求めたものとなっている。横軸は空間周波数を表す[cycles/deg]、縦軸はコントラスト識別限界値の逆数となっている。図を見るとコントラスト感度のピークは3[cycles/deg]付近で500程度となっており、これより左側の周波数が低くても、これよりも右側の周波数が高くてもコントラスト感度は低くなることが分かる。例えば、低周波の0.2[cycles/deg]では、コントラスト感度が100程度、同様に高周波の10[cycles/deg]でもコントラスト感度が100程度となっている。
b=0.3(1+100/Y)0.15・・・(式4)
c=0.06・・・(式5)
(コントラスト感度関数の重複記録領域幅への適用)
以下では、図13を参照してコントラスト感度関数の重複記録領域幅への適用について詳述する。図13(a)は、領域A2の幅とコントラストの1周期との対応付け方を説明するグラフである。
図3の領域A1と領域A3の間、すなわち領域A2に明度差D2−D3があったものとする。コントラスト感度関数と対応をとるために、ここでは、この領域A2と関連する明度差にかかる変化を空間周波数と対応付けて解釈する必要がある。そこで本発明者らは次のように対応付けを行った。まず、X2−X3間の領域A2と、そこでの明度差D2−D3を図13(a)でのS13−S15間の太実線に置き換える。ここで点線であらわされる正弦波と太実線とは、S14の位置で傾きがそろっており、かつ、交差している。また、領域A2に相当するS13−S15の前後のS12−S13,S15−S16の領域は、それぞれ記録ヘッド102Lのみで記録されるX1−X2間の領域A1、記録ヘッド102Rのみで記録されるX3−X4間の領域A3に対応しており、輝度が一定となっている。これだけでは、周期関数とみなすことが出来ないので、それぞれS12,S16でグラフを折り返して、図13(a)中、破線の部分を作ることで、領域A2を含む1周期を構成する。
ここで説明の簡単のために、(S14,Yave)を原点として、x座標が、S14=0,S16=π/2,S12=−π/2、y座標が、Ymax=1、Yave=0,Ymin=−1として考える。正弦波sin(x)の傾きはcos(x)であるからS14での傾きは1。したがってS15のxおよびy座標はいずれも1となる。重複記録領域の1周期S10−S18間の長さは2π、領域A2に相当するS13−S15間の長さは2となる。
次に、空間周波数[cycles/deg]と、領域A2の幅[cm]とを対応付ける。(式6)は観察距離d、視野角θでの重複領域を含む1周期に対応する長さDとの対応を示す式である。それぞれ図13(b)の位置関係となっている。
さらに、視野角θでの重複領域を含む1周期に対応する長さDと、重複記録領域幅δとの間で(式7)が成り立つ。
(視野角θでの重複領域を含む1周期に対応する長さD):(重複記録領域幅δ)=2π:2・・・(式7)
図13(c)は、観察距離d=30[cm]とした上で、図12(b)のコントラスト感度の横軸を、領域A2の幅δに書き直したものである。これを見ると、領域A2の幅は0.1[cm]程度をピークに、その幅を広げるか、あるいは狭めることで、感度が低くなることが分かる。しかし、幅が0.1[mm]を切る幅の高周波を領域A2で実現すること自体が難しい。また、高周波領域側では変化量が急峻であるため、微量のドットズレでの結果が大きく変わってしまい実用的でない。そこで、本実施形態では、領域A2の幅をコントラスト感度のピークを越えて低周波側に設けるようにしている。
コントラスト感度は、(式8)に示す通り、識別限界輝度の逆数となっている。
ところで、ここで得られた識別限界ΔYは輝度値に関するものであるので、(式9)を使って明度Lベースに換算して用いる。
L=116(Y/100)1/3−16・・・(式9)
(L,a,b)=(50,0,0)付近でこの輝度値の差ΔYが生じたものとして考える。上記の条件で、L=50をYに換算すると18.42となる。これを中心としてプラス側、マイナス側それぞれにΔY/2ずらしたもののLを数14で求め、その差分であるΔLを求める。
このようにしてコントラスト感度関数を用いて、重複記録領域幅と、識別限界明度のΔLとの関係に書き直したグラフが図13(d)である。このグラフは、領域A2をある幅に取った場合に、どの程度の明度差が識別できるかを示している。
図13(d)を見ると、領域A2の幅は0.1程度で最小識別限界ΔLとなり、ΔL=0.3程度でも識別できるが、領域A2の幅を4[cm]とするとΔL=5程度までが、知覚されなくなることを示している。同様に6[cm]ではΔL=7程度、8[cm]とするとΔL=10近くまでが知覚されなくなることを示している。図は対数軸で記載しているが、領域A2幅が4[cm]〜8[cm]の範囲では、領域A2幅と最少識別限界ΔLとの関係は線形で近似できる。この区間であれば、ΔL1あたりの重複記録幅は、0.8[cm」となっているので、これを目安に領域A2幅を決めればよい。
例えば、上述のように普通紙、通常記録モードの記録条件では明度差ΔL=6、光沢紙であった。ここで、図13(d)を参照すると、明度差ΔL=6に対応する領域A2幅は4[cm]である。したがって、本実施形態では、普通紙、通常記録モードの記録条件における領域A2幅を4[cm]に設定する。
また、光沢紙、通常記録モードの記録条件では明度差ΔL=10であるため、図13(d)を参照し、対応する領域A2幅は6.6[cm]となる。したがって、本実施形態では、光沢紙、通常記録モードの記録条件における領域A2幅を7[cm]に設定する。
以上に記載した本実施形態によれば、領域A2の幅を人間の視覚特性に基づいて知覚されるコントラスト(明度差)に基づいて設定できるため、画質低下を好適に抑制することができる。
(その他の実施形態)
なお、以上に説明した各実施形態では、左の記録ヘッドと右の記録ヘッドがある程度だけ離間して設けられた記録ユニットを記載したが、この離間の距離Wは少なくとも各記録ヘッド内の吐出口列間の距離dよりも長いことが好ましい。なお、記録ヘッド間の距離が長いほど記録時間を短縮することができるため、実際には所望の記録時間となるような距離だけ記録ヘッド間が離間されていることが好ましい。
また、以上に説明した各実施形態ではいずれも各記録ヘッドがシアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインクを吐出する吐出口列を1つずつ用いる形態について記載したが、その他の色のインクを吐出する吐出口列を用いるような形態であっても良い。また、同じ色のインクを吐出する吐出口列を1つの記録ヘッド当たり複数用いても良い。
また、以上に説明した各実施形態では、同じ種類のインクを吐出する複数の吐出口がY方向に配列された1つの列によって1つの吐出口列が構成される形態について記載したが、他の形態による実施も可能である。例えば、同じ種類のインクを吐出する複数の吐出口がY方向に配列された列を2つ有し、その2列がX方向に互いにずれた位置であって、且つ、一方の列の吐出口が他方の列の吐出口間にインクを吐出可能なようにY方向に互いにずれた位置に配置されることによって1つの吐出口列が構成されても良い。
また、以上に説明した各実施形態では、記録ユニットとして異なる2つの記録ヘッドと、記録ヘッドを保持する保持部と、から構成される記録ユニットを用いる形態について記載したが、他の形態による実施も可能である。すなわち、浸透速度が互いに異なる2種類のインクを吐出する吐出口列をそれぞれ有する第1の記録部と第2の記録部を備え、第1、第2の記録部間のX方向における距離がある程度離間して配置された記録ユニットを用いる形態であれば各実施形態に記載した各記録部内での吐出口列の配置を行うことにより各実施形態と同様の効果を得ることができる。例えば、保持部を有さず、第1の記録部と第2の記録部が1つの記録ヘッド内に備えられた記録ユニットを用いる場合であっても各実施形態による効果を得ることができる。