JP6811967B2 - 弱酸性次亜塩素酸水の製造方法 - Google Patents

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本発明は、弱酸性次亜塩素酸水の製造方法に関する。
水溶液中の次亜塩素酸は、pHによって存在形態が変化する。具体的には、pHが3〜6程度の弱酸性領域では殆どが分子型の次亜塩素酸(HClO)として存在し、pH9以上の塩基性領域では解離した次亜塩素酸イオン(OCl)としての存在が優勢となり、また強酸性領域(たとえばpH3未満)ではpHの低下に伴い塩素分子(Cl)の発生が優勢となる。これら存在形態の中で分子型次亜塩素酸(HClO)が極めて高い殺菌効果を有し、その殺菌効果はイオン型次亜塩素酸(OCl)の約80倍であるとも言われている。このような高い殺菌効果を有する分子型次亜塩素酸を多く含むpH3〜6の弱酸性次亜塩素酸水溶液は、人体に対する安全性も比較的高いことから、医療、歯科、農業、食品加工等、様々分野における除菌剤又は殺菌剤として使用されている。そして、近年では、介護施設、教育施設、商業施設等の公共施設や、一般家庭における除菌や殺菌の用途に使用されるようになり、その消費量は年々増加している。
このような弱酸性次亜塩素酸水溶液を製造する方法としては、塩化ナトリウム水溶液を電気分解する電解法(特許文献1参照)、塩基性の次亜塩素酸塩水溶液に塩酸を加える塩酸法(特許文献2参照)及び次亜塩素酸塩水溶液からなる原料水溶液を弱酸性イオン交換樹脂で処理する方法(以下、単に「イオン交換法」ともいう。特許文献3)が知られている。
これら方法の中でも前記イオン交換法は、電解装置のような特殊な装置を必要とせず、また危険な塩素ガスを発生させることもないため、簡便且つ安全に弱酸性次亜塩素酸水溶液を製造するための方法として優れた方法である。
特開2011−111386号公報 特開2013−39553号公報 特表2011−509275号公報
前記特許文献3に記載された技術は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液と、カルボキシル基をイオン交換基とする弱酸性イオン交換樹脂と、を混合・撹拌した後に静置して前記弱酸性イオン交換樹脂を沈降させてから上澄み部分として得られる弱酸性次亜塩素酸水溶液を農業用途の殺生物処理に用いるというものであり、施用現場で簡単に弱酸性次亜塩素酸水溶液を得ることができるという利点がある。
しかしながら、次亜塩素酸の分解による有効性低下を避けるために、得られた弱酸性次亜塩素酸水溶液は、製造後短時間で使用する必要があり、その使用条件には制約がある。
そこで、本発明は、引用文献3に記載されたのと同様なイオン交換法(次亜塩素酸塩水溶液と弱酸性イオン交換樹脂とを混合・撹拌した後に弱酸性イオン交換樹脂を分離して弱酸性次亜塩素酸水溶液を得る方法を、以下、「バッチ法」ともいう。)により弱酸性次亜塩素酸水溶液を製造するに際し、保存安定性の改善された弱酸性次亜塩素酸水溶液を効率よく製造できる方法を提供することを目的とする。
一般に、水溶液中の分子型次亜塩素酸は、pHが約3〜6の弱酸性領域であっても、自己分解(2HClO→2HCl+O 及び/又は 3HClO→2HCl+HClO)や、有機物と接触した際の急速な還元分解〔HClO→HCl+(O)〕により消失してしまうことが知られている。また、弱酸性イオン交換樹脂を用いたバッチ法での処理では、処理が進行するに従って処理液のpHが低下することと関連してNa→Hのイオン交換を完結させることができないことに加えて、イオン型及び/又は分子型の次亜塩素酸がイオン交換樹脂の樹脂部と接触することによって還元分解されて溶液中に(次亜塩素酸塩由来の)金属イオンが残り易い。そして、当該残存金属イオンによる分解も起こると考えられる。事実、本発明者らの検討によれば、(ガラス製容器中では前記還元分解反応は起こらないと思われるところ、)バッチ法で得られた弱酸性次亜塩素酸水溶液を弱酸性イオン交換樹脂と分離してからガラス製の容器中に保存した場合にも還元分解が起こることが確認されている。
本発明者らは、このような認識の下、イオン交換樹脂の樹脂部との接触により還元分解される量を低減すると同時に残存金属イオン濃度を低減できれば、所期の目的を達成することができると考え、鋭意検討を行った。
その結果、(1)弱酸性イオン交換樹脂と分離された弱酸性次亜塩素酸水溶液をガラス製容器中に保存した場合における分子型次亜塩素酸濃度(弱酸性領域では有効塩素濃度に相当する)の経時変化は、有効塩素濃度に対する残存金属イオンの濃度との比に依存し、当該比が一定の敷居値を超えると次亜塩素酸濃度(有効塩素濃度)の減少速度が急激に速まること(後述の表3及び図2参照)、及び(2)バッチ法における弱酸性イオン交換樹脂との接触処理中における前記金属イオンの濃度は、接触開始後急激に減少するが、接触時間を長くすると増大に転じ、その後、緩やかにダラダラと増大し続けることを見出し(後述の図1参照)、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、(A)次亜塩素酸の金属塩の水溶液からなる原料水溶液と、弱酸性イオン交換樹脂と、を混合して金属イオンと水素イオンとのイオン交換を行うことにより、混合液中に溶解する分子状の次亜塩素酸を生成させるイオン交換工程と、(B)前記イオン交換工程後における混合液から弱酸性イオン交換樹脂を分離し、分子状の次亜塩素酸が溶解した水溶液からなる目的水溶液を得る分離工程と、を含んでなる、前記目的水溶液の製造方法であって、
前記原料水溶液の有効塩素濃度は500(ppm)以上50,000(ppm)以下であり、
前記弱酸性イオン交換樹脂は、原料水溶液との接触開始時において当該原料水溶液中に存在するイオン型及び/又は分子型次亜塩素酸の分解に対して活性を有し、
前記(A)イオン交換工程において、混合する原料水溶液と弱酸性イオン交換樹脂との量比を、弱酸性イオン交換樹脂の総イオン交換当量(EIE)と、原料水溶液中の金属イオンの総化学当量(EMI)との比(EMI/EIE)が0.05以上0.5以下となるような量比とし、混合時の液温を5℃以上40℃以下とし、混合時間を10分以上120分以下とし、
前記(B)分離工程において、pHが3.0以上5.5以下で有効塩素濃度(CEC)に対する金属イオンの総濃度(CMI)の比(CMI/CEC)が0.35以下である目的水溶液を得る、
ことを特徴とする方法である。

本発明の製造方法によれば、バッチ法を採用したイオン交換法により弱酸性次亜塩素酸水溶液を製造するに際し、製造中における分子型次亜塩素酸のロスを抑えながら、保存安定性に優れる弱酸性次亜塩素酸水溶液を効率よく製造することができる。
このような優れた効果が得られるメカニズムは定かではないが、本発明者らは次のように推定している。すなわち、前記(A)イオン交換工程における原料水溶液と弱酸性イオン交換樹脂との量比を前記範囲とすることにより、操作及び制御が容易な液温において、接触初期の弱酸性イオン交換樹脂による前記還元分解量が大きくなり過ぎないようにすると共に、金属イオン濃度が最低となってから然程増大しないような接触時間内に、所期のpHにおける最大限のイオン交換(Na→H)が完了できるようになったものと推定している。
本図は、比較例2にけるイオン交換工程中のNaイオン濃度の経時変化を示すグラフである。 本図は、参考例1〜4、参考比較例1〜3における有効塩素濃度の経時変化を示すグラフである。 本図は、実施例17〜20における有効塩素濃度の経時変化を示すグラフである。
本発明の上記した作用および利得は、以下に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
本発明の製造方法は、(A)次亜塩素酸の金属塩の水溶液からなる原料水溶液と、弱酸性イオン交換樹脂と、を混合して金属イオンと水素イオンとのイオン交換を行うことにより、混合液中に溶解する分子状の次亜塩素酸を生成させるイオン交換工程と、(B)前記イオン交換工程後における混合液から弱酸性イオン交換樹脂を分離し、分子状の次亜塩素酸が溶解した水溶液からなる目的水溶液を得る分離工程と、を含んでなる、前記目的水溶液の製造方法であって、
前記(A)イオン交換工程において、混合する原料水溶液と弱酸性イオン交換樹脂との量比を、弱酸性イオン交換樹脂の総イオン交換当量(EIE)と、原料水溶液中の金属イオンの総化学当量(EMI)との比(EMI/EIE)が0.05以上0.5以下となるような量比とし、混合時の液温を5℃以上40℃以下とし、混合時間を10分以上120分以下とし、前記(B)分離工程において、pHが3.0以上5.5以下で有効塩素濃度(CEC)に対する金属イオンの総濃度(CMI)の比(CMI/CEC)が0.35以下である目的水溶液を得る、ことを特徴とする。
以下、前記目的水溶液について説明を行ったうえで、各工程について詳しく説明する。
〔目的水溶液(得られる弱酸性次亜塩素酸水溶液)について〕
本発明の製造方法で得られる目的水溶液は、pHが3.0以上5.5以下で有効塩素濃度(CEC)に対する金属イオンの総濃度(CMI)の比(CMI/CEC)が0.35以下である弱酸性次亜塩素酸水溶液である。
水溶液中の分子型の次亜塩素酸は、pHにより自己分解速度が変化することが知られており、約pH6.7で自己分解速度が最も速くなり、pHが低くなるにつれ速度が低下し、pHが5.5以下では殆ど変化しないことが知られている。したがって、pHを5.5以下とすることで、安定な弱酸性次亜塩素酸水とすることができる。一方、pHが3以下となると、分子型次亜塩素酸の一部が塩素となってしまい、塩素ガスとして揮発してしまうため、保存安定性に加え安全性の観点からpHは3以上である必要がある。目的水溶液のpHは3.0以上5.5以下であれば特に限定されないが、殺菌効果が高い分子型次亜塩素酸(HClO)の存在確立がより高くなり、殺菌効果を高めるという観点から4.0以上5.5以下であることがより好ましい。
前記したように、金属イオンの存在により分子型次亜塩素酸の分解は促進されるため、理想的には目的水溶液中の金属イオン濃度はゼロであることが好ましい。ところが、弱酸性イオン交換樹脂のイオン交換力は、特に低pH域で低くなる。また、弱酸性イオン交換樹脂は、次亜塩素酸の分解によって生成する食塩のような中性塩のイオン交換には適さないため、イオン交換法において金属イオンを完全に除去することはできない。したがって、保存安定性を良好にするためには、金属イオンを可能な限り少なくする必要がある。本発明者らの検討によれば、金属イオンによる分子型次亜塩素酸の分解に関しては、有効塩素濃度(CEC)に対する金属イオンの総濃度(CMI)の比(CMI/CEC)が特定の敷居値を越えると有意に高くなることが明らかとなっており、5℃以上40℃以下の液温の弱酸性次亜塩素酸水溶液の当該敷居値は0.35を超えたところになる。このため、目的水溶液における前記比(CMI/CEC)は0.35以下である必要がある。前記比(CMI/CEC)は低ければ低いほどよいが、前記したようにバッチ法では金属イオンの総濃度(CMI)をゼロとすることは実質的に不可能である。より確実に安定化効果を得ることができるという理由から、当該比は、0.30以下0.05以上、特に0.25以下0.10以上であることが好ましい。
なお、前記有効塩素濃度(CEC)とは、水溶液中に溶解した塩素分子、酸化力がある塩素化合物(たとえば分子型次亜塩素酸)及び酸化力がある塩素原子含有イオン(たとえばイオン型次亜塩素酸)の総塩素換算濃度を意味し、より具体的には、各成分の質量基準濃度を質量基準の塩素濃度に換算した後に、それらを総和して得られる濃度を意味する。したがって、次亜塩素金属塩が次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl:分子量74.44)である場合、塩素の分子量は70.90であるから、水溶液の有効塩素濃度をCEC(質量ppm)とした場合、当該水溶液のNaOCl濃度:CNaOCl(質量ppm)は、計算上、下記式に基づいて求めることができる。
NaOCl(質量ppm)=CEC(質量ppm)×(74.44/70.90)
また、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の比重をSGで表すと、水溶液中のNaOCl濃度:CNaOCl(mol/L、 Lはリットルを表す。)は、計算上、次式で求められることになる。
NaOCl(mol/L)=〔1000×SG×CNaOCl(質量ppm)×10−6〕/74.44)
=〔SG×CEC(質量ppm)×10−3〕/70.90
本発明では、有効塩素濃度としては、ヨウ素試薬による吸光光度法により測定される濃度を採用しており、たとえば有効塩素濃度測定キットAQ−202型(柴田科学株式会社)を使用して測定することができる。なお、pHが3.0以上5.5以下の弱酸性次亜塩素酸金属塩水溶液においては、次亜塩素酸はほぼ全量が分子型で存在するので、有効塩素濃度は実質的に分子型次亜塩素酸に由来する有効塩素濃度を意味することになる。
また、金属イオンの総濃度(CMI)とは、イオン電極法によって測定される、原料の次亜塩素酸の金属塩の水溶液に由来する金属イオン量の総濃度を意味する。
〔(A)イオン交換工程について〕
(A)イオン交換工程では、前記原料水溶液と、弱酸性イオン交換樹脂と、を混合して金属イオンと水素イオンとのイオン交換を行うことにより、混合液中に溶解する分子型次亜塩素酸を生成させる。ことき混合とは、処理中の原料水溶液が常に均一な組成及びpHを有するようにして、弱酸性イオン交換樹脂と混ざり合った状態を意味し、処理中の原料水溶液の組成やpHが局所的に異なるような状態、たとえば両者が実質的に2層分離した状態は混合状態とは見なさない。均一な混合状態を得るためには、混合液を撹拌することが好ましい。
(A)イオン交換工程で原料水溶液として使用する次亜塩素酸の金属塩の水溶液とは、次亜塩素ナトリウム(NaClO)、次亜塩素酸カリウム(KClO)、次亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO))、次亜塩素酸バリウム(Ba(ClO))などの次亜塩素酸の金属塩が溶解した水溶液を意味する。
上記次亜塩素酸金属塩の水溶液の製法は、特に制限されるものではなく、公知の方法で製造することができる。例えば、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、NaOHとClを電気分解することで製造することができる。また、試薬等として販売されている次亜塩素酸塩を水に溶解させて水溶液としてもよく、また、試薬等として販売されている次亜塩素酸塩水溶液をそのまま又は水で希釈して用いてもよい。溶媒水や希釈水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水が特に制限なく使用できるが、目的水溶液の保存安定性の観点から、イオン電導率が3(mS/m)以下の水を使用することが好ましい。
料水溶液中の有効塩素濃度がたとえば50(ppm)未満と低い場合には不可避的に起こる一定量の分解の影響を受けて、分子型次亜塩素酸の収率(溶液中に残存する分子型次亜塩素酸モル当量/原料水溶液中の次亜塩素酸金属塩モル当量に対応する)が低くなる傾向がある。また、前記有効塩素濃度がたとえば100,000(ppm)と非常に高い場合には、撹拌中の樹脂との接触頻度が多くなり、生成したHClOがより多く分解することによって前記収率が低下する傾向がある。このため、製造を効率的に行うという観点から原料水溶液の有効塩素濃度は、500(ppm)〜50,000(ppm)とする。原料水溶液の有効塩素濃度は、1,000(ppm)〜50,000(ppm)であることが好ましく、取り扱い易さ等を考慮すると5,000(ppm)〜30,000(ppm)であることが最も好ましい。

(A)イオン交換工程で使用する弱酸性イオン交換樹脂としては、イオン交換基としてカルボキシル基(−COOH)を有するイオン交換樹脂が好適に使用される。このようなイオン交換樹脂は、通常、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等を重合し、ジビニルベンゼンで三次元架橋した樹脂にカルボキシル基を導入した構造を有する。このような構造を有する弱酸性イオン交換樹脂は、緩衝作用を有し、大量に使用しても処理水溶液のpHを約5より低い値に低下させることがないので、処理中に塩素ガスを発生させる危険性がない。また、弱酸性イオン交換樹脂は、使用後に塩酸や硫酸水溶液などの薬剤で処理することにより、容易に再生することができる(イオン交換基を−COOHの形に戻すことができる)という特徴を有している。
本発明では、イオン交換工程(A)において、混合する原料水溶液と弱酸性イオン交換樹脂との量比を、弱酸性イオン交換樹脂の総イオン交換当量(EIE)と、原料水溶液中の金属イオンの総化学当量(EMI)との比(EMI/EIE)が0.05以上0.5以下となるような量比とする必要がある。このような量比で両者を接触させることにより、保存安定性の良好な弱酸性次亜塩素酸水を製造することが可能となる。
なお、弱酸性イオン交換樹脂の総イオン交換当量(EIE)とは、イオン交換樹脂のもつすべての交換基が作用した場合のイオン交換能力を意味し、単位は当量(eq)である。例えば、総イオン交換容量が3.9(eq/L-樹脂)の弱酸性イオン交換樹脂100(ml)を使用した場合、イオン交換樹脂の総イオン交換当量は、EIE=0.39(eq)となる。また、原料水溶液の金属イオンの総化学当量(EMI)とは、原料である次亜塩素酸の金属塩の水溶液中に含まれる、金属イオンの価数の和を意味し、単位は当量(eq)で示される。例えば、原料である次亜塩素酸の金属塩の水溶液がNaClONaであり、有効塩素濃度が2000(ppm)で容量が1(L)の場合、原料水溶液の金属イオンの総化学当量は、EMI=0.028(eq)となる。
混合する原料水溶液と弱酸性イオン交換樹脂との量比(EMI/EIE)が0.5を越える場合には、保存安定性を低下させる要因の一つである金属イオンを十分に吸着することができない。また、この場合、すなわちイオン交換樹脂量が必要量よりも少ない場合には、イオン交換反応が進むにつれ徐々にpHが低下していき、Naの吸着と脱着が平衡に達した時のCMI/CEC値は0.35を越える値となってしまい、目的水溶液を得ることができない。Na吸着量を多くし、CMI/CEC値を下げ、高純度な弱酸性次亜塩素酸水を製造するという理由から(EMI/EIE)は0.48以下、特に0.45以下であることが好ましい。
一方、混合する原料水溶液と弱酸性イオン交換樹脂との量比(EMI/EIE)が0.05未満の場合には、処理中に有効塩素濃度が著しく低く(たとえば10ppm程度)なってしまい、目的水溶液を得ることができない。本発明者らの検討によれば、イオン交換樹脂の表面には、イオン型及び/又は分子型次亜塩素酸の分解に対して非常に高い活性を有し、酸化により失活し易いという特異な性質を有する活性点(以下、「特異高活性点」ともいう。)が存在すると考えられる。この特異高活性点は、イオン型及び/又は分子型次亜塩素酸との接触等により速やかに失活するが、前記比(EMI/EIE)が0.05未満の場合には、このような失活を起こす前に一気にイオン型及び/又は分子型次亜塩素酸の分解反応が起こってしまうため、有効塩素濃度が著しく低くなってしまうと考えられる。これに対し、前記比が0.05以上の場合には、十分な分子型次亜塩素酸が残存する状態で前記特異高活性点が失活して消滅するため、目的水溶液を得ることが可能となるものと考えられる。なお、上記特異高活性点以外にも分解反応を引き起こす活性点は存在するが、その分解活性は低いため、本発明で規定する液温及び混合時間(処理時間)では、分子型次亜塩素酸の分解は限定的となり、目的水溶液を得ることが可能となると思われる。弱酸性イオン交換樹脂の使用量を抑え、製造コストを低減するという観点から、(EMI/EIE)は0.15以上、特に0.2以上であることが好ましい。
イオン交換工程(A)における液温、すなわちイオン交換反応時の反応温度は、5℃以上40℃以下、好ましくは10℃以上35℃以下である。液温がこのような範囲であれば取り扱いも容易で温度制御に要するコストも低く抑えることができるばかりでなく、製造される弱酸性次亜塩素酸水溶液中の金属イオンの低減や分子状次亜塩素酸の分解抑制が容易となる。具体的には、液温が5℃未満の場合には、イオン交換反応のスピードが遅くなり、十分なイオン交換を行うために必要な混合時間が120分を超えてしまい、金属イオン量を前記敷居値以下に減少させることが困難となってしまう。一方、温度が40℃を越える場合には、原料である次亜塩素酸の金属塩の水溶液や生成した分子型次亜塩素酸の分解が促進されるとともに、分子型の次亜塩素酸の揮発も促進されることから、溶液の有効塩素濃度が大幅に低下してしまう。
イオン交換工程(A)における混合時間は、10分以上120分以下、好ましくは10分以上90分以下、より好ましくは15分以上60分以下、である。混合時間が10分未満であると、イオン交換反応が不十分となり、金属イオンが多量に残ってしまい、得られる弱酸性次亜塩素酸水の保存安定性が低下する。一方、混合時間が120分を越えると、長時間イオン交換樹脂と接触することとなり、生成した分子型の次亜塩素酸が徐々に分解してしまう。また、分解によって発生するHCl(強酸)は、イオン交換に吸着している金属イオンを脱離する作用を有するため、溶液内の金属イオン量が増加し、やはり保存安定性が低下してしまう。
〔(B)分離工程について〕
(B)分離工程では、前記イオン交換工程後における混合液から弱酸性イオン交換樹脂を分離し、分子状の次亜塩素酸が溶解した水溶液からなる目的水溶液を得る。
混合液から弱酸性イオン交換樹脂を分離する方法としては両者を分離することができれば、どのような方法を用いても良い。例えば、撹拌を停止して樹脂が沈降するまで静置し、上澄み液を容器ですくって回収してもよいし、デカンテーションで回収してもよいし、ポンプのような機械でくみ上げて回収してもよい。また、撹拌後樹脂が沈降するのを待たずに、濾紙や濾布等を用いて濾過をして回収することも可能である。さらに、樹脂の沈降を早めるために、遠心分離機を用いて樹脂を沈降させて回収させることも可能である。
なお、(A)イオン交換工程において、処理の直後に得られた酸性次亜塩素酸水のpHは、目的水溶液のpHの上限値である5.5以下とならない場合もある。すなわち、弱酸性イオン交換樹脂は、pHが5〜6付近で緩衝作用を示すため、イオン交換樹脂の量、および原料溶液の容量や濃度によっては、緩衝作用によりpHが5.5を越え6.5以下となることがある。しかし、その場合でも、pHが5.5〜6.5における分子型の弱酸性次亜塩素酸の自己分解速度は速いため、(B)分離工程中に、又は該工程で分離回収された水溶液を放置することで、分子型の次亜塩素酸が僅かに分解して生成するHClによって、pHは5.5以下となる。pHが一旦5.5以下3.0以上の範囲に入ると、その範囲内でpHは安定する。このとき、静置の時間を短縮するために、無機酸であるHClや硝酸、リン酸等を加えてpH調製をしても良い。
本発明の方法で得られる弱酸性次亜塩素酸水(目的水溶液)は、除菌剤又は殺菌剤として有用であり、様々な除菌・殺菌用途で使用できる。また、その使用態様は特に限定されず、例えば、噴霧器を用いて目的水溶液を噴霧することによって所定の空間を除菌又は殺菌してもよいし、パレットなどの容器に溜めた目的水溶液に除菌又は殺菌対象物である道具、器具、布等を浸漬して、これらを除菌又は殺菌してもよいし、目的水溶液をしみこませた布などにより、壁、床、机、椅子等を清拭してもよい。本発明の方法で得られる弱酸性次亜塩素酸水溶液(目的水溶液)は、殺菌力が高く、人体に対する安全性も比較的高い分子型次亜塩素酸を含み、且つその濃度も安定していることから、医療器具や機器の簡易的な除菌に適しており、また、口腔内の除菌用のうがい液としても使用可能である。
前記(B)分離工程で得られた弱酸性次亜塩素酸水溶液(目的水溶液)は、そのままこれら用途に使用することもできる。しかし、目的水溶液を商品とした場合の輸送コストや保管スペース等を考慮すると、高い有効塩素濃度の目的水溶液からなる濃厚原液を、使用者が使用時に、使用態様に応じて好ましい有効塩素濃度となるように、水道水等の水で都度希釈して使用することが好ましい。前記したように、本発明の方法では、原料水溶液の有効塩素濃度が数千〜数万ppmのときの収率が高く、たとえば10,000(ppm)程度の有効塩素濃度を有する弱酸性次亜塩素酸水溶液(目的水溶液)を効率的に製造できるため、上記したような希釈して使用する際の濃厚原液の製造方法として有効である。ただし、有効塩素濃度が高すぎる場合には取り扱いに注意を要し、塩素系殺菌剤について専門的な知識を有さない一般人による使用を考える場合には、濃縮原液における塩素濃度は100(ppm)以上1,000(ppm)以下、特に300(ppm)以上800(ppm)以下であることが好ましい。
本発明の方法においては、上記したような有効塩素濃度の濃厚原液として使用できる弱酸性次亜塩素酸水溶液(目的水溶液)を効率的に製造するために、(A)イオン交換工程で有効塩素濃度が5,000(ppm)以上30,000(ppm)以下の原料水溶液を使用してイオン型次亜塩素酸を高収率で分子型次亜塩素酸に転化させて前記(B)分離工程で高有効塩素濃度〔たとえば、収率が80%であれば4,000(ppm)〜24,000(ppm)〕の第一の目的水溶液を得た後に、当該第一の目的水溶液を、イオン電導率を3mS/m以下の水で希釈して、有効塩素濃度が100(ppm)以上1,000(ppm)以下、特に300(ppm)以上800(ppm)以下である第二の目的水溶液を得ることが好ましい。
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。
なお、実施例及び比較例では、次亜塩素の金属塩の水溶液及び弱酸性イオン交換樹脂として、以下に示すものを使用した。
[次亜塩素酸金属塩水溶液]
・有効塩素濃度12.0(wt%)NaClO水溶液(ネオラックススーパー:供給元 島田商店)
[弱酸性イオン交換樹脂]
・アンバーライトIRC−76(オルガノ株式会社製):総イオン交換容量3.9(eq/L)、以下、「IRC76」と略記する。
・ダイヤイオンWK401(三菱ケミカル株式会社製):総イオン交換容量4.4(eq/L)、以下、「WK401」と略記する。
・デュオライトC433LF(住化ケムテックス株式会社製):総イオン交換容量4.2(eq/L)、「433LF」と略記する。
(1)弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造方法
前記12%NaClO水溶液をイオン電導率が3(mS/m)以下のイオン交換水で希釈して有効塩素濃度が夫々表1の有効塩素濃度となるよう調整して、原料水溶液を調製した(原料水溶液調製工程)。次に、弱酸性イオン交換樹脂を表1に示す体積量計りとり、夫々表1に示す量の原料水溶液を添加し、表1に示す混合時間および温度でフッ素樹脂製撹拌羽を用いて弱酸性イオン交換樹脂が均一に分散するように撹拌して混合を行った(イオン交換工程)。撹拌中、混合液のpHをモニターし、pHが低下して5.5に到達した時点、又は3分間内のpHの変化が±0.3となった時点で撹拌を停止し、撹拌時間を混合時間とした。撹拌終了後、樹脂が沈降するまで静置させ、デカンテーションにより上澄み液である次亜塩素酸水溶液を、樹脂が入りこまないように#200の濾布を通してポリエチレン容器に回収した(分離工程)。pHが5.5に達していなかった次亜塩素酸水溶液については、回収後、pHを安定させるため、4時間室温にて放置した。
Figure 0006811967

(2)評価方法
(2−1)有効塩素濃度測定
(1)で製造した弱酸性次亜塩素酸水溶液の一部をサンプル溶液とし、当該サンプル溶液を原料溶液の有効塩素濃度に応じ、下記希釈倍率でイオン交換水を用いて希釈し、測定用試料を調製し、有効塩素濃度測定キットAQ−202型(柴田科学株式会社)にて希釈後の有効塩素濃度を測定した。測定結果及び希釈倍率からサンプル溶液の有効塩素濃度を求めた。
・原料溶液の有効塩素濃度301〜900ppm:希釈倍率3倍
・原料溶液の有効塩素濃度901〜3000ppm:希釈倍率10倍
・原料溶液の有効塩素濃度3001〜15000ppm:希釈倍率50倍
・原料溶液の有効塩素濃度15001〜120000ppm:希釈倍率500倍。
(2−2)pH測定
pHメーターF−55型(株式会社堀場製作所)を用いて、(1)で製造した弱酸性次亜塩素酸水溶液の一部をサンプル溶液とし、当該測定サンプル液のpHを測定した。
(2−3)Naイオン濃度測定
(1)で製造した弱酸性次亜塩素酸水溶液の一部をサンプル溶液とし、当該測定サンプル液を原料溶液のナトリウムイオン濃度に応じ、下記希釈倍率でイオン交換水を用いて希釈し、測定用試料を調製し、Naイオンメーター(株式会社堀場製作所)を用いて、測定サンプルのNaイオン濃度を測定した。測定結果及び希釈倍率からサンプル溶液のNaイオン濃度を求めた。
・原料溶液のNaイオン濃度101〜500ppm:希釈倍率5倍
・原料溶液のNaイオン濃度501〜5000ppm:希釈倍率50倍
・原料溶液のNaイオン濃度5001〜20000ppm:希釈倍率200倍。
(3)弱酸性次亜塩素酸水の製造と、得られた水溶液の評価(実施例1〜16及び比較例1〜4)
表1に示した条件で弱酸性次亜塩素酸水を製造し、製造した弱酸性次亜塩素酸水の有効塩素濃度、pH、Naイオン濃度と、CMI/CEC値を表2に示す。なお、実施例11は、原料水溶液の有効塩素濃度が本発明の製造方法における下限値:500ppmを下回る比較例である。

Figure 0006811967

実施例1〜16は、本発明の製造方法における(A)イオン交換工程の各条件を全て満足するものであり、pHが3.0以上5.5以下で有効塩素濃度(CEC)に対する金属イオンの総濃度(CMI)の比(CMI/CEC)が0.35以下となり、本発明の目的水溶液となる弱酸性次亜塩素酸水溶液が得られた。
一方、混合時間が5分と短い比較例1では、Naイオンの吸着が不十分となり、CMI/CEC値が0.35以上となっている。
また、混合時間が120分を越えて遥かに長い240分とした比較例2では、分子型次亜塩素酸(HClO)の分解が顕著となって有効塩素濃度が低下して収率が低くなるばかりでなく、Naイオン濃度が高くなりCMI/CEC値が0.35以上となっている。
参考として、比較例2にけるイオン交換工程中のNaイオン濃度の経時変化を図1に示す。
さらにEMI/EIE値が本発明の範囲外である比較例3(上限値0.5を越える0.62)および比較例4(下限値0.05を下回る0.01)では、前者では処理開始後の初期段階に前記特異高活性点を十分に失活させることができず、残存する特異高活性点によりイオン型及び/又は分子型次亜塩素酸が分解されるため、後者では処理開始後の初期段階において前記特異高活性点が失活する前にイオン型及び/又は分子型次亜塩素酸の急激な分解が起こってしまうためによると思われるが、収率が著しく低下してしまばかりでなく、Naイオンが多く残存してしまい、CMI/CEC値は0.35以上となっている。
(4)弱酸性次亜塩素酸水の保存安定性に対するNaイオン濃度の影響の確認(参考例1〜4、参考比較例1〜3)
pH=3.7、有効塩素濃度=798(ppm)の弱酸性次亜塩素酸水に、Naイオン濃度が130(ppm)、150(ppm)、330(ppm)となるようにNaClを添加し評価サンプルを調製した。200(ml)のPET(ポリエチレンテレフタレート)容器に180(ml)の調製したサンプルを入れて50℃のインキュベーターに保管し、有効塩素濃度の経時変化を測定した。各サンプルの有効塩素濃度、Naイオン濃度、CMI/CEC値、pHを表3に示す。また、結果を図2に示す。
Figure 0006811967

参考例1(CMI/CEC=0.16)、参考例2(CMI/CEC=0.19)、参考例3(CMI/CEC=0.25)及び参考例4(CMI/CEC=0.30)は、何れもCMI/CEC値が発明の目的水溶液の弱酸性次亜塩素酸水と同様の範囲となるように調製したものである。これら参考例では、分解加速のために50℃という高い温度で保存した場合、21日後でも約80%の有効塩素が残存している。これに対し、CMI/CEC値が0.35を越える参考比較例1(CMI/CEC=0.39)、参考比較例2(CMI/CEC=0.41)及び参考比較例3(CMI/CEC=0.50)では、21日後の有効塩素残存率は60%未満となり、以降の低下速度も参考例よりも速くなっている。
(5)希釈工程を経た弱酸性次亜塩素酸水(第二の目的水溶液)の製造と保存安定性試験(実施例17〜20)
実施例2〜5で製造した各弱酸性次亜塩素酸水をイオン電導率が3(mS/m)以下のイオン交換水で希釈して有効塩濃度が約750(ppm)になるように調整した(希釈工程)。得られた希釈済み弱酸性次亜塩素酸水(目的水溶液)の有効塩素濃度、Naイオン濃度、CMI/CEC値、pHを表4に示す。
次に、上記の各目的水溶液350(ml)を容積380(ml)のPET(ポリエチレンテレフタレート)製容器に入れて保存安定性試験用試料(サンプル)を作成し、これを50℃のインキュベーターに保管し、有効塩素濃度の経時変化を測定することにより、保存安定性を調べた。結果を図3に示す。
Figure 0006811967

実施例15〜18の目的水溶液は、何れもCMI/CEC値が0.35以下であり、参考例1〜4と同様の保存安定性を示した。

Claims (4)

  1. (A)次亜塩素酸の金属塩の水溶液からなる原料水溶液と、弱酸性イオン交換樹脂と、を混合して金属イオンと水素イオンとのイオン交換を行うことにより、混合液中に溶解する分子状の次亜塩素酸を生成させるイオン交換工程と、
    (B)前記イオン交換工程後における混合液から弱酸性イオン交換樹脂を分離し、分子状の次亜塩素酸が溶解した水溶液からなる目的水溶液を得る分離工程と、
    を含んでなる、前記目的水溶液の製造方法であって、
    前記原料水溶液の有効塩素濃度は500(ppm)以上50,000(ppm)以下であり、
    前記弱酸性イオン交換樹脂は、原料水溶液との接触開始時において当該原料水溶液中に存在するイオン型及び/又は分子型次亜塩素酸の分解に対して活性を有し、
    前記(A)イオン交換工程において、
    混合する原料水溶液と弱酸性イオン交換樹脂との量比を、弱酸性イオン交換樹脂の総イオン交換当量(EIE)と、原料水溶液中の金属イオンの総化学当量(EMI)との比(EMI/EIE)が0.05以上0.5以下となるような量比とし、
    混合時の液温を5℃以上40℃以下とし、
    混合時間を10分以上120分以下とし、
    前記(B)分離工程において、pHが3.0以上5.5以下で有効塩素濃度(CEC)に対する金属イオンの総濃度(CMI)の比(CMI/CEC)が0.35以下である目的水溶液を得る、
    ことを特徴とする方法。
  2. 有効塩素濃度が5,000(ppm)以上30,000(ppm)以下の原料水溶液を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  3. 原料水溶液調製工程として有効塩素濃度が50,000(ppm)以上の次亜塩素酸金属塩水溶液を、イオン電導率を3(mS/m)以下の水で希釈して、有効塩素濃度が5,000(ppm)以上30,000(ppm)以下の原料水溶液を得る工程を更に含んでなる、請求項2に記載の方法。
  4. 前記(B)分離工程で得られた目的水溶液を第一の目的水溶液とし、(C)当該第一の目的水溶液を、イオン電導率を3(mS/m)以下の水で希釈して、有効塩素濃度が100(ppm)以上1,000(ppm)以下の第二の目的水溶液を得る希釈工程を更に含んでなる、請求項2又は3に記載の方法。
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