<本発明に係る調味料の製造方法(本調味料製法)>
本発明を完成させるまでの過程で、本発明者は次のように鋭意検討を重ねた。本発明者は、発酵飯が食材に混ざりにくい原因として、発酵飯の水分の含有量が多いため、発酵飯を構成する米粒同士が粘着し合って形成された塊が容易には崩れないことにあると考えた。発酵飯を乾燥させれば、粘着性が抑えられて発酵飯の米粒が分散しやすくなり、短時間で料理全体に混ざって味付けの調整をしやすくなると考えた。しかし、本発明者が知り得る限り、発酵飯に含有される呈味成分や便秘改善の有効成分などを損ないにくくて発酵飯を内部まで短時間で簡便に乾燥可能な方法について、論じた報告は従来なかった。例えば特許文献1で、ふなずしの飯を乾燥させる具体的な方法は記載も示唆もされてない。
そこで、本発明者は、発酵飯を乾燥させるために様々な乾燥方法で試行錯誤を繰り返した。例えば本発明者が、オーブンで発酵飯を加熱した場合や、薄く延ばした発酵飯にドライヤーで熱風を吹きつけて加熱乾燥させた場合には、40分以上加熱しても発酵飯の表面部分を乾燥させるに留まり、発酵飯の内部は濡れたままであった。発酵飯の内部を短時間で乾燥させようとして、オーブンやドライヤーで設定可能な最高の温度で加熱すると、発酵飯が焦げて食用に適さなくなった。発酵飯を凍結乾燥させる場合には、高価で取り扱いが難しく一般家庭に普及していない凍結乾燥機を用いる必要があり、しかも凍結乾燥に数日を要するため、発酵飯を簡便に短時間で凍結乾燥させるのは不可能であった。これに対し、電子レンジで発酵飯を加熱し乾燥させる場合、発酵飯を焦がすことなく内部まで満遍なく数分で簡便に乾燥させることができ、発酵臭が不快に感じない程度にまで減弱され、食材や水や食用油に混ざりやすい乾燥処理物を得ることができた。
また、本発明者が発酵飯を用いて様々な調理試験を行った結果、熱水の存在下で発酵飯と共に食材を煮る調理方法であれば、乾燥させていない発酵飯でも熱水中に上手く分散されて発酵臭を感じられなくなるだけでなく、意外にも、比較的に短時間しか煮られていなくても食材の内部でうま味を感じやすくなることと、煮られている食材の表層部に親水性の被膜状構造が形成されて補強されるため食材が煮崩れにくくなることを発見した。さらに、発酵飯をそのまま熱水の存在下で食材と共に煮る場合と比べて、電子レンジで発酵飯を乾燥させた乾燥処理物を熱水の存在下で食材と共に煮る場合には、意外にも、煮られている食材の表層部で更に親水性の被膜状構造が形成されやすいため、更に食材が煮崩れにくくなることを発見した。これらの発見に基づき本発明者は、以下に説明するように、本発明に係る調味料(以下「本調味料」ともいう。)、本調味料の製造方法(以下「本調味料製法」ともいう。)、本発明に係る食品組成物(以下「本食品」ともいう。)、及び本食品組成物の製造方法(以下「本食品製法」ともいう。)を創作するに至った。
本調味料製法は、例えば図1に示すように、原料準備工程S11、塩切り工程S12、本漬け工程S13、分離工程S14、マイクロ波乾燥工程S20、粉砕工程S22、及び充填工程S30aを含み、後述する本調味料を製造可能な方法である。原料準備工程S11から分離工程S14までは、従来から知られたなれずしの製造方法(例えば、ふなずしの製造方法)と同様で良く(例えば、特許文献1、非特許文献1、及び非特許文献2を参照)、具体的な製造例を挙げると次のとおりである。
原料準備工程S11では、魚肉のなれずしの原料として、魚と塩を準備する。準備する魚は、食用可能な魚類であり、雄性でも雌性でも良く、淡水魚、海水魚、又は汽水魚でも良い。例えば、フナ、ホンモロコ、ビワマス、イサザ、コイ、アユ、ウグイ、オイカワ、ハス、ナマズ、ドジョウ、ワカサギ、ブルーギル、サンマ、サバ、ブリ、ニシン、サケ、及びイワナからなる群より選ばれた1種以上の魚が挙げられる。ふなずしの飯を食べると健康維持に役立つことが知られている(特許文献1を参照)観点から、準備する魚は、好ましくはフナである。フナは、コイ目コイ科コイ亜科フナ属(Carassius)に分類される魚の総称であり、例えば、ニゴロブナ(Carassius buergeri grandoculis)、ゲンゴロウブナ(Carassius cuvieri)、ギンブナ、キンブナ、オオキンブナ、ナガブナ、ヨーロッパブナ、及びギベリオブナからなる群より選ばれた1種以上のフナが挙げられる。伝統的にふなずしの原料として用いられてきたため安全かつ安心な観点から、準備する魚は、ニゴロブナ、及びゲンゴロウブナからなる群より選ばれた1種以上のフナであるのが更に好ましく、更により好ましくはニゴロブナである。なお、「ふなずし」は漢字で正確に表記されると「鮒鮓」であるが、一般的に「鮒寿司」又は「鮒鮨」などと表記される場合もある。
原料準備工程S11で準備する塩は、薬理学的に許容される塩であれば良いが、後述する塩蔵や飯漬けの際に析出しにくく扱いやすい観点で、カリウム塩、及びナトリウム塩からなる群より選ばれた1種以上の塩であるのが好ましく、同じ観点に加え安価で大量に入手しやすい観点で更に好ましくは食塩である。または、後述する本調味料の風味に深みを付与する観点から、準備する塩は好ましくは岩塩である。
塩切り工程S12では、準備した魚から、卵巣以外の内蔵、エラ、及びウロコを除去し、残された魚肉を得る。この魚肉を水洗し、水洗された魚肉の腹腔内に準備した塩を詰め、塩を詰められた魚肉を容器(例えば桶)に収容し更に塩をまぶした上で、この容器の蓋の上から重しを載せて冷暗所で保管(塩蔵)する。用いる塩の量は、必要に応じ適宜調整する。食塩を用いる場合、必要以上に大量の食塩を用いるのを避けつつも魚肉を十分に脱水させる観点から、魚肉の質量に対して約0.5倍から約1.0倍まで程度の質量の食塩を用いるのが好ましい。塩蔵の期間は、1月以上でも良いが、魚肉を十分に脱水させつつ必要以上の長期化を避ける観点から、好ましくは3月以上かつ15月以下である。
本漬け工程S13では、塩蔵された魚肉を容器から取り出し、塩抜きし、乾燥させ、飯漬けする。塩抜きのためには、例えば塩蔵された魚肉を水に浸けても良いが、効率よく塩抜きする観点から、好ましくは塩蔵された魚肉を流水で水洗する。乾燥のためには、例えば塩抜きされた魚肉を10時間以上かつ15時間以下かけて陰干ししても良いが、短時間で効率良く乾燥させる観点から、好ましくは1時間以上かつ3時間以下かけて天日干しする。飯漬けのためには、漬け床として米飯を準備し、乾燥した魚肉の腹腔内とエラ部に米飯を詰め込み、米飯を詰め込まれた魚肉を容器(例えば桶)に収容して容器内において米飯で覆い、この容器に重しをかけた状態で60日以上かつ30月以下かけて漬け込む。飯漬けにより、魚肉や米飯が空気中の酸素(O2)から遮断された嫌気的な雰囲気下に保たれるため、魚肉や米飯で乳酸菌が増殖し乳酸発酵が進んで乳酸(酸味成分)を生成したり、魚肉や米飯でタンパク質が分解されアミノ酸(うま味成分)を生成したりする。
本漬け工程S13で飯漬けに用いる漬け床は、塩を混ぜ込まれた米飯でも良く、米と塩と野菜の混合物でも良いが、上手く乳酸発酵させる観点では、米飯から実質的に成るのが好ましい。同様の観点から漬け床には、実質的に麹が配合されていないのが好ましく、麹が全く配合されていないのが更に好ましい。同様の観点から、漬け床として用いる米飯に塩を混合させる場合にその塩の量は、米飯の質量に対し2質量%以上かつ3質量%以下であるのが好ましい。飯漬けによる発酵期間は、魚肉が発酵され生じるアミノ酸などの呈味成分を漬け床(発酵飯)に多く含有させる観点では好ましくは6月以上、更に好ましくは12月以上であり、必要以上の長期化を避ける観点では好ましくは24月以下である。
分離工程S14では、漬け床から魚肉の発酵物を取り出し、残された発酵飯を回収する。例えば、漬け床からフナの魚肉の発酵物(ふなずし)を取り出し、残された発酵飯(ふなずしの飯)を回収する。以上に説明した原料準備工程S11、塩切り工程S12、本漬け工程S13、及び分離工程S14の組み合わせは、発酵飯を準備する工程S10として機能する。または、ふなずしの製造業者は日常的にふなずしの飯を大量に廃棄しており、産業廃棄物として扱われている発酵飯を効率よく大量に入手し再資源化させる観点から、発酵飯を準備する工程S10では、この製造業者からふなずしの飯を入手するのが好ましい。
発酵飯は、水分の含有量が多く、粥状で粘着性を有する。本漬け工程S13後に更に吸湿した場合の発酵飯は、更に水分の含有量を増してペースト状になる。発酵飯での水分の含有量は、発酵飯に乾燥助剤(市販の精製ケイ砂)を添加し常圧での加熱乾燥法(試料を加熱し水分を蒸発させ、加熱前後での試料の質量差から水分の含有量を算出する方法)により算出した場合に、例えば40質量%以上かつ85質量%以下程度である。発酵飯から魚肉の発酵物を完全に取り除くのは困難であるため、本発明の目的に反しない限り、発酵飯に魚肉の発酵物が幾らか残存しても良い。
発酵飯は、水分の含有量が多いにも関わらず、5℃以上かつ35℃以下(以下「常温」という。)で1年ほど保管しても腐敗しにくい。その理由として、発酵飯のpHは乳酸菌が産生する乳酸などにより4程度に下げられており、また、発酵飯は乳酸菌に由来する抗生物質(例えばナイシン)を含有するため発酵飯で雑菌が繁殖しにくいものと考えられる。なお、一般的に、抗生物質を経口摂取すると腸内細菌叢の構成がかく乱され、通常は腸内で少ない菌数に抑えられている菌(例えばClostridium difficile等)が増殖し、腸炎のリスクが高まることが知られている。例外的に、乳酸菌やこれに由来する抗生物質(ナイシンなど)を経口摂取する場合には、腸内細菌叢の構成がかく乱されにくいため腸炎のリスク増大を避けることができる。
再資源化を望まれている観点から、本発明で用いる発酵飯は、魚肉のなれずしを製造する過程での飯漬けにおいて、60日以上にわたり漬け床として用いられた発酵飯であるのが好ましい。例えば、飯寿司(いずし)、ハタハタ寿司、又はかぶら寿司など、麹を配合された漬け床を用いて飯漬け期間を1月以下に短縮させた寿司では、発酵飯が十分に乳酸発酵していないため、あまり発酵臭を呈さず食用されており、再資源化を要請されていない。また、60日以上にわたり漬け床として用いられた発酵飯(例えばふなずしの飯)と比べて、発酵期間が1月以下と短い寿司の発酵飯では、乳酸菌が十分に増殖しておらずその菌体数が少ないため、発酵飯の組成が大きく異なるであろうと考えられる。
マイクロ波乾燥工程S20では、発酵飯での水分の含有量が12.0質量%以下になるまでマイクロ波乾燥させ、発酵飯をマイクロ波乾燥させた乾燥物(以下「本乾燥物」という。)を得る。本発明でのマイクロ波乾燥は、周波数が300MHz以上かつ300GHz以下である電磁波(マイクロ波)を発酵飯に照射し加熱(以下「マイクロ波加熱」という。)し水分を蒸発させることにより、発酵飯を乾燥させる操作である。例えば電子レンジにより、ふなずしの飯を数分かけてマイクロ波加熱し、その水分の含有量が12.0質量%以下になるまで乾燥させ本乾燥物を得る。マイクロ波加熱を途中で中断して乾燥途中の発酵飯で水分の含有量を確認する場合や、マイクロ波加熱を終えて得られた本乾燥物で水分の含有量を確認する場合には、例えば常圧での加熱乾燥法により水分の含有量を算出する。
水分の含有量が12.0質量%よりも多い発酵飯または乾燥物を長期保存した場合、水分の含有料が多いほど、保存条件によっては意図せず更に発酵が進んで更に酸味が増すおそれがある。一方、マイクロ波乾燥工程S20で得られた本乾燥物は、その水分の含有量が12.0質量%以下に抑えられているため、更なる発酵は実質的に起こらず、長期保存しても風味が保たれやすい。マイクロ波加熱により乳酸菌の菌体が破壊され、また、発酵飯のデンプンがマイクロ波加熱によりβ化し乳酸菌の栄養源として利用されにくくなっているという理由からも、本乾燥物で更なる発酵は実質的に起こらない。また、本乾燥物は、ほんのりと焦げたような香ばしい匂いを有し、もとの発酵飯が有していた発酵臭が不快に感じない程度にまで減弱されている。香ばしい匂いは、もとの発酵飯が含有している還元糖やペプチドやアミノ酸が、マイクロ波加熱によりメイラード反応を起こし生成された各種の香気成分によるものと考えられる。発酵臭が減弱されているのは、発酵臭の原因成分の大部分が、マイクロ波加熱により加熱変性または分解され無臭の成分になったか、又はマイクロ波加熱により揮発し除去されたものと考えられる。もとの発酵飯と異なり本乾燥物は、その水分の含有量が少ないから、粘着性を有さず塊状になりにくい。このため本乾燥物は、水に添加されると直ちに水中で満遍なく分散しやすい。本乾燥物が分散された水を煮ると、分散している本乾燥物が熱水に溶解するか又は細かく砕ける等し、外見上で見当たらなくなる。
マイクロ波乾燥工程S20において、本乾燥物を更に長期保存しやすくする観点から、発酵飯における水分の含有量が、好ましくは10.0質量%以下になるまで、更に好ましくは8.0質量%以下になるまで、発酵飯をマイクロ波乾燥させるのが良い。一方、過度にマイクロ波乾燥させると、発酵飯の一部が焦げるおそれや、本乾燥物に含有されるデンプンが過度にβ化し熱水に溶解しにくくなるおそれがある。焦げを避けつつ、熱水中においてデンプンがα化し軟らかくなり溶解または分散しやすくする観点では、発酵飯における水分の含有量が、好ましくは2.0質量%以上になるまで、更に好ましくは4.0質量%以上になるまで、発酵飯をマイクロ波乾燥させるのが良い。
なお、発酵飯に対し周波数が300MHz未満である電磁波(高周波)により高周波誘導加熱を行うのは、発酵飯の全体を満遍なく乾燥させるのが難しく、高額の設備投資を要する問題がある。周波数が300GHzよりも大きい電磁波では、周波数が大きすぎて発酵飯を適度に乾燥させるのが難しい問題がある。マイクロ波乾燥工程S20で発酵飯に照射するマイクロ波の周波数は、短時間でマイクロ波乾燥させる観点では好ましくは900MHz以上、更に好ましくは2.0GHz以上であり、発酵飯の全体を満遍なく乾燥させやすい観点では好ましくは30GHz以下、更に好ましくは3.0GHz以下である。
マイクロ波乾燥工程S20では、発酵飯に含有される水分を蒸発させやすい観点から、発酵飯を薄板状に引き伸ばした状態でマイクロ波乾燥させるのが好ましい。薄板状に引き伸ばされた発酵飯の厚さは、同様の観点で好ましくは5.0mm以下、更に好ましくは4.0mm以下である。なお、発酵飯を構成する米粒を圧し潰すほど薄く引き伸ばさなくても、マイクロ波加熱により発酵飯を満遍なく乾燥させることができる。このため、作業効率を良くする観点では、薄板状に引き伸ばされた発酵飯の厚さは、好ましくは1.5mm以上、更に好ましくは2.0mm以上である。マイクロ波乾燥工程S20では、発酵飯における水分の含有量が12.0質量%以下になるまで、複数回にわたり発酵飯をマイクロ波乾燥させても良い。例えば、十分に乾燥するまで発酵飯を電子レンジで複数回マイクロ波加熱しても良い。本発明の目的に反しない限り、マイクロ波乾燥と共にこれ以外の乾燥方法を組み合わせて発酵飯を乾燥させても良い。例えば、焦げが生じない程度に発酵飯をフライパン上で短時間あぶって少し加熱乾燥させてから、更に電子レンジで水分の含有量が12質量%以下になるまでマイクロ波乾燥させても良い。
粉砕工程S22では、本乾燥物を調味料またはその配合原料として扱いやすくするために、本乾燥物を粉砕し粒体状にする。例えば、先のマイクロ波乾燥工程S20で発酵飯を薄板状に引き伸ばしてマイクロ波乾燥させた場合、煎餅状になった本乾燥物が得られるため、これを粉砕工程S22で粉砕する。このための粉砕機として例えば、自生粉砕ミル、スタンプミル、リングミル、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、ボールミル、又はロッドミル等が挙げられる。粉砕工程S22では、ありふれた調理道具または調理機器で簡便に済ませる観点から、ミキサー、乳鉢、又は石臼を用い粉砕するのが好ましく、同じ観点に加え簡便に効率よく済ませる観点から家庭用ミキサーを用い粉砕するのが更に好ましい。
粉砕工程S22では、熱水に溶解または分散されやすい本乾燥物を得る観点から、好ましくはJIS Z 8801−1に規定された公称目開きが5.6mmである篩(ふるい)を通過するサイズになるまで、更に好ましくは前記公称目開きが4.0mmである篩を通過するサイズになるまで、本乾燥物を粉砕するのが良い。粉砕された本乾燥物を調味料またはその配合原料として用いる際、過度に微粉砕された本乾燥物の粒子が意図せず飛散するのを避ける観点では、粉砕された本乾燥物から、好ましくは前記公称目開きが45μmである篩を通過する画分を除き、更に好ましくは前記公称目開きが300μmである篩を通過する画分を除くのが良い。
充填工程S30aでは、吸湿を避けつつ市場で流通させやすくするために、粉砕された本乾燥物を容器に充填する。容器は、本発明の目的に反しない限り特に限定されないが、例えば、小袋、瓶、又は缶などが挙げられる。本乾燥物が酸化または吸湿するのを避けつつ、本乾燥物を少量ずつ小分けできる観点から、ポリプロピレン等の防湿性を有する樹脂層同士の間にガスバリア性を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体の層が挟まれた多層フィルムで構成された小袋に、粉砕された本乾燥物を充填するのが好ましい。または同様の観点から、粉砕された本乾燥物を真空包装するのも好ましい。ここでの「真空」とは、通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態である。「真空包装」とは、ガスバリア性に優れた包装材料を含んで成る容器に内容物(本乾燥物)を充填するときに、この容器から空気を吸引排気して密封する包装である。
以上に説明した本調味料製法によれば、発酵飯をマイクロ波乾燥させることにより、発酵飯をその水分の含有量が12.0質量%以下になるまで、発酵飯の内部まで満遍なく短時間(例えば数分)で簡便に乾燥させて本乾燥物を得ることができる。例えば、本発明者が子供たちを支援する本業の合間に台所において一人で実施できるほどに、発酵飯から本乾燥物を短時間かつ簡便に製造可能である。本乾燥物そのもの、つまり本乾燥物から成る組成物を、本調味料として扱っても良い。このため、発酵飯を準備できれば、例えば台所にありふれた調理道具や調理機器(電子レンジ、家庭用ミキサー等)しか用いなくても、本調味料を短時間で簡便に製造可能である。
更に多様な風味を付与された本調味料を製造する観点から、本調味料製法は、マイクロ波乾燥工程S20後または粉砕工程S22後に更に、発酵飯に由来しない1種以上の他の調味料素材を本乾燥物と混合する工程を含んでも良い。あるいは同様の観点から、本調味料製法は、発酵飯を準備する工程S10後に、発酵飯に由来しない1種以上の他の調味料素材と発酵飯を一緒にしてから、マイクロ波乾燥工程S20で発酵飯の水分の含有量が12質量%以下になるまでマイクロ波乾燥させても良い。これらの場合に得た本乾燥物を含有する組成物を、本調味料として扱っても良い。更にこの組成物を、充填工程S30aで容器に充填可能である。
上記した発酵飯に由来しない他の調味料素材として、本発明の目的に反しない限り、砂糖、塩、香辛料、ハーブ、カレー粉、及び水分の含有量が多い他の調味料を乾燥させた乾燥物からなる群より選ばれた1種以上の素材が挙げられる。他の調味料素材として例えば、酢、醤油、魚醤、味噌、醤(ひしお)、タレ、麺汁、割下地、出汁、酒、みりん、ウスターソース、ケチャップ、オイスターソース、ケチャップマニス、サルサ、サンバルソース、チリソース、チャツネ、及びマスタードからなる群より選ばれた1種の調味料または2種以上の調味料の混合物を、その水分の含有量が12質量%以下になるまで乾燥させた乾燥物が挙げられる。
取り扱いやすい本調味料を得る観点から、本調味料製法は更に、本発明の目的に反しない限り、薬理学的に許容される公知の添加剤1種以上を本乾燥物と混合する工程を含んでも良い。添加剤として例えば、賦形剤、結合剤、安定剤、甘味料、抗酸化剤、着香剤、又は着色剤などが挙げられる。賦形剤を本乾燥物と混合する場合、タブレット状、錠剤状、丸剤状、及び顆粒状からなる群より選ばれた1種以上の形状に成形された本調味料を製造可能であり、本乾燥物が粉砕工程S22で過度に微粉砕されても意図せず飛散するのを避けることができる。賦形剤として例えば、白糖、乳糖、ブドウ糖、デンプン、又はマンニット等が挙げられる。結合剤として例えば、アラビアゴム、ゼラチン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、又はメチルセルロース等が挙げられる。安定剤として例えば、無水クエン酸、ラウリン酸ナトリウム、又はグリセロール等が挙げられる。
もとの発酵飯と比べマイクロ波乾燥工程S20で得られる本乾燥物は、例えば煎餅状のまま熱水に添加されても、短時間で熱水に溶解したり細かく砕け分散したりしやすい。このため、本調味料製法では粉砕工程S22を省略しても良い。また、本調味料製法では、本発明の目的に反しない限り、充填工程S30aを省略して良い。例えば、マイクロ波乾燥工程S20で得られた本乾燥物から成るか又はこれを含有して成る組成物を、直ちに後述する本食品製法に供する場合、粉砕工程S22や充填工程S30aは省略可能である。
<本発明に係る調味料(本調味料)>
以下、本調味料の説明に際し、前述した本調味料製法との共通事項が多くあり、共通事項の説明を適宜省略して異なる事項を主に説明する。本調味料は、前述した本乾燥物から成るか又は本乾燥物を含有して成る組成物であり、使用時つまり食材を調理するときに、熱水の存在下で食材と共に煮られる調味料である。本明細書において「煮る」とは、熱水の存在下で食材に味付けしつつ加熱調理することを意味する。一般的に、熱水の存在下で米を加熱調理することは「炊く」ともいわれ、また、調味料を全く加えないか又は少量加えた熱水の存在下で食材を加熱調理することは「茹でる」ともいわれている。このため、米に本調味料を加えて炊くことや、食材に少量の本調味料を加えて茹でることは、本明細書における「煮る」に該当する。換言すれば例えば本調味料は、煮物料理、調味料を加えられた米飯、及び少量の調味料を加えられた茹で物、からなる群より選ばれた1種以上の食品組成物の製造用である乾燥調味料ともいえる。
本調味料は、前述した本調味料製法により得られるため、発酵飯を準備できれば、例えばありふれた調理道具や調理機器しか用いなくても、短時間で簡便に製造可能である。本調味料は、本乾燥物から成るか又は本乾燥物を含有して成るため、マイクロ波乾燥工程S20の説明で前述したように、発酵飯と比べて発酵臭を感じられず、更なる発酵は実質的に抑えられており長期保存に適している。発酵飯と比べて本乾燥物は、熱水に溶解または満遍なく分散しやすいから、煮込み途中で味付けの調整に用いやすく便利であるだけでなく、熱水中で煮られている食材の表層部で後述する親水性の被膜状構造が形成されやすいため、食材が補強され煮崩れにくくなる。したがって、本調味料は、後述する本食品製法に適しており、食材の煮崩れ防止用の調味料として扱われるのが好ましい。
本調味料は、常温で長期間にわたり保管しても腐敗しにくい。その理由として前述したように、本乾燥物で水分の含有量が少ないこと、乳酸などを多く含有するため本乾燥物のpHが比較的に低いこと、本乾燥物が例えばナイシン等の抗菌性物質を含有すること等が考えられる。ふなずし(の飯)に由来する成分が健康維持に役立つ観点(特許文献1を参照)から、本調味料での本乾燥物は、ふなずしの飯がその水分の含有量が12.0質量%以下になるまでマイクロ波乾燥された乾燥物であるのが好ましい。
本調味料そのもの又は本調味料を用い調理された食品組成物を経口摂取すると、便秘を予防または解消させやすい。その理由として本乾燥飯では、発酵飯に由来する何らかの便秘改善作用の有効成分が比較的に保持されており、この有効成分は、本調味料を用い調理された食品組成物でも比較的に保持されているものと考えられる。このため、本調味料またはその有効成分である本乾燥物は、経口摂取による便秘の予防用または改善用の調味料(または経口摂取による便秘改善剤)として活用されるのも好ましい。成人か児童かを問わず、例えば一度の食事で0.3g程度の量の本乾燥物を経口摂取した場合、その後2時間程度で便意を催すため便秘を解消しやすい。一度の食事で経口摂取する本乾燥物の質量は、便秘改善作用を発揮させやすい観点では好ましくは10mg以上、更に好ましくは0.10g以上であり、必要以上に便秘が改善されるのを避ける観点では好ましくは1.0g以下、更に好ましくは0.50g以下である。一方、発酵飯の凍結乾燥物を経口摂取した場合に、このような便秘改善作用は実質的に発揮されない。このため、魚肉のなれずし(例えばふなずし)や発酵飯(例えばふなずしの飯)の凍結乾燥物と比べて、生の発酵飯やそのマイクロ波乾燥物(本乾燥物)は、おそらく乳酸菌に由来する何らかの便秘改善作用の有効成分を高濃度で含有しており、経口摂取により便秘を解消させやすいのであろうと考えられる。マイクロ波乾燥させる際に発酵飯で何らか成分が加熱変性されて、便秘改善作用の有効成分が生成された可能性も考えられる。あるいは、本調味料または本乾燥物は、そのまま米飯に添加し、ふりかけご飯として食用する副食物として用いても良い。
本調味料での本乾燥物は、更に熱水に溶解または分散しやすくなり、煮られると後述する親水性の被膜状構造を食材の表層部に満遍なく形成しやすい観点から、好ましくはJIS Z 8801−1に規定された公称目開きが5.6mmである篩を通過するサイズ、さらに好ましくは前記公称目開きが4.0mmである篩を通過するサイズである。本調味料での本乾燥物は、意図しない飛散を避ける観点から、好ましくは前記公称目開きが45μmである篩を通過しないサイズ、更に好ましくは前記公称目開きが300μmである篩を通過しないサイズである。
本調味料における本乾燥物の水分の含有量は、本調味料を長期保存しやすい観点では、好ましくは10質量%以下、更に好ましくは8.0質量%以下である。同様の観点から、本調味料が本乾燥物を含有して成る組成物である場合、本調味料の全体的な水分の含有量は、同様の観点から、好ましくは12.0質量%以下、更に好ましくは10.0質量%以下、更により好ましくは8.0質量%以下である。本調味料が本乾燥物だけでなく他の調味料素材または添加剤も含有して成る組成物である場合、本調味料における本乾燥物の含有量は、本調味料の使用量が少量でも煮られている食材の表層部で後述する被膜状構造を形成し食材を煮崩れにくさせつつ、うま味を感じやすい食品組成物を得やすい観点から、好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、更により好ましくは90質量%以上である。
<本発明に係る食品組成物の製造方法(本食品製法)>
以下、本食品製法の説明に際し、前述した本調味料製法や本調味料との共通事項が多くあり、共通事項の説明を概ね省略して異なる事項を主に説明する。本調理法は、例えば図2に示すように、食材と調味料を準備する工程S25、食材と調味料を一緒にする工程S28、及び煮る工程S50aを含み、後述する本食品を製造可能である。
食材と調味料を準備する工程S25では、前述した発酵飯、及び発酵飯を乾燥させた乾燥物、からなる群より選ばれた1種以上の飯組成物(以下「飯組成物」ともいう。)から成るか又は1種以上の前記飯組成物を含んで成る調味料を準備する。ここでの乾燥物は、発酵飯を水分の含有量が12質量%以下になるまで凍結乾燥させた乾燥物でも良い。発酵飯そのもの又はその凍結乾燥物であっても、熱水の存在下で十数分以上煮れば、熱水に溶解または分散する。工程S25で準備する調味料は、好ましくは前述した本調味料(本乾燥物から成るか又は本乾燥物を含有して成り、食材を調理するときに熱水の存在下で食材と共に煮られる調味料)である。本調味料は、水に溶解または満遍なく分散しやすいから、食材全体の味付けに直ちに反映されやすいため、加熱調理中に味見しながら必要に応じて添加して味付けの調整をしやすくて便利であり、煮る前の時点でも発酵臭を感じにくいから心理的抵抗なく調理に用いやすく、比較的に短時間しか煮られていない食材でもうま味が付与されやすく、食材が更に煮崩れにくい等の理由から、本食品製法に適した好ましい調味料である。
また、食材と調味料を準備する工程S25では、穀物、野菜、果物、魚介類、及び肉類からなる群より選ばれた1種以上の食材を準備する。これらの食材は、煮られると煮崩れるおそれがあるが、煮崩れないように調理できれば、噛みごたえを楽しんで心地よく食べやすい食品組成物(煮物料理など)を得やすい。食べやすい食品組成物を更に得やすい観点から、準備する食材では、外皮を除かれているのが好ましい。
上記した食材に関し、穀物は、デンプン質を主体とする食用の種子であり例えば、イネ科作物の種子、マメ科作物の種子、ソバの種子、アマランサスの種子、又はキヌアの種子などが挙げられる。イネ科作物として例えば、トウモロコシ、米、小麦、大麦、又はライムギ等が挙げられる。マメ科作物として例えば、大豆、小豆、インゲンマメ、ソラマメ、又はレンズマメ等が例示される。野菜は、水分が多い食用の草本植物であり例えば、根菜類、茎菜類、葉菜類、果菜類、又は花菜類が挙げられる。根菜類として例えば、大根、人参、又はゴボウ等が挙げられる、茎菜類として例えば、タマネギ、又はアスパラガス等が挙げられる。葉菜類として例えば、キャベツ、レタス、ホウレンソウ、又は白菜が挙げられる。果菜類として例えば、トマト、茄子、南瓜、ピーマン、又はキュウリ等が挙げられる。花菜類として例えば、カリフラワー、又はブロッコリー等が挙げられる。果物として例えば、仁果類、核果類、又は殻果類などが挙げられる。仁果類として例えば、梨、又は林檎などが挙げられる。核果類として例えば、アンズ、サクランボ、又は桃などが挙げられる。殻果類として例えば、アーモンド、栗、又は胡桃などが挙げられる。
食材と調味料を準備する工程S25で準備する食材は、本来は煮崩れやすい食材であるが本食品製法では煮崩れを防止しやすく、また、発酵飯由来のうま味を付与されるとおいしく感じやすい観点から、穀物、茎菜類、根菜類、及び芋類からなる群より選ばれた1種以上の食材が更に好ましく、イネ科作物の種子、芋類、カブ、大根、及びアスパラガスからなる群より選ばれた1種以上の食材であるのが更により好ましい。芋類として例えば、ジャガイモ、サツマイモ、又はサトイモ等が挙げられる。なお、イネ科作物の種子や芋類はデンプン質、つまりデンプンを大量に含有するため、他の食材と比べて本来は煮崩れしやすい食材である。また、一般的な調理経験から例えば、カブ、アスパラガス、南瓜、サツマイモ、ジャガイモ、サトイモ、及び大根の各々は、人参やゴボウと比べて煮崩れしやすい食材として知られている。
食材と調味料を一緒にする工程S28では、次の煮る工程S50aの準備として、水と食材と調味料を一緒にした加熱前組成物を調製する。この際、食材、調味料、及び水を任意の順番で一緒にして良く、この三者を同時に一緒にしても良い。なお、発酵飯は水中で塊状になり、発酵飯の凍結乾燥物は水面で膜状になるため、例えば常温の水に発酵飯またはその凍結乾燥物を溶解または分散させるのは困難である。混ぜやすい観点から、50℃以上の熱水を食材や調味料と一緒にした加熱前組成物を得るのが好ましい。常温の水でも満遍なく分散しやすい観点から、水と食材と前述した本調味料を一緒にした加熱前組成物を得るのが更に好ましい。発酵飯またはその乾燥物は酸性を示すため、配合によるが、加熱前組成物の17℃でのpHは4.0以上かつ6.0未満になりやすい。
例えば、大根などの含水率が90質量%以上ある食材を水や調味料と一緒にする場合、次の煮る工程S50aで焦げにくいため、加熱前組成物での水の配合量は30質量%程度でも良い。または次の煮る工程S50aで水を熱媒体として機能させて焦げを避けつつ、熱水中で調味料を満遍なく分散させやすい観点から、加熱前組成物での水の配合量は、好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上である。得られる食品組成物(煮物料理など)で食材や調味料に由来する風味が薄まり過ぎるのを避ける観点から、加熱前組成物での水の配合量は、好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。
次の煮る工程S50aで食材を更に煮崩れにくくしやすい観点から、食材と調味料を一緒にする工程S28では、水と食材と調味料の合計の湿質量に対して調味料に含有される飯組成物の乾燥質量が占める質量比(飯組成物の乾燥質量/水と食材と調味料の合計の湿質量)が、好ましくは0.0050以上となる配合、更に好ましくは0.0080以上となる配合により、加熱前組成物を調製する。一方、発酵飯由来の風味だけでなく食材の風味も活かした食品組成物(煮物料理など)を得る観点では、前記質量比(飯組成物の乾燥質量/水と食材と調味料の合計の湿質量)が、好ましくは0.10以下となる配合、更に好ましくは0.050以下となる配合により加熱前組成物を調製する。ここでの「乾燥質量」は、80℃以上かつ150℃以下に保たれた乾燥器内で一定質量になるまで乾燥させてから常温まで冷却したときの質量である。加熱前組成物に発酵飯とその乾燥物の両方を配合した場合の「飯組成物の乾燥質量」は、両方の合計の乾燥質量である。「湿質量」は、乾燥させていない質量である。
煮る工程S50aでは、加熱前組成物を所定の時間かけて煮て、煮られた食材、つまり、煮物料理または米飯などの食品組成物を得る。乾燥させていない発酵飯を加熱前組成物に配合した場合でも、所定の時間かけて煮れば発酵臭を感じられなくなる。煮られる過程で、発酵臭の原因成分が加熱変性して無臭の成分に変化するか、又は気化して除かれるものと考えられる。加熱前組成物を煮ると、比較的に短時間しか煮ていなくても、煮られた食材の内部でうま味を感じやすくなる。その理由として、発酵飯またはその乾燥物にはアミノ酸などのうま味成分が含有されており、煮られる過程で、うま味成分が比較的に早く食材の内部に浸透しやすいものと考えられる。また、加熱前組成物に発酵飯またはその乾燥物が含有されていることにより、加熱前組成物を煮ている最中に、食材の表層部の少なくとも一部に親水性の被膜状構造が形成されやすくなる。煮られている食材において、親水性の被膜状構造が形成されている部分は、煮られて軟らかくなっている食材の内部よりも硬くなっている。発酵飯またはその乾燥物を配合することなく食材を煮る場合と比べて、本食品製法によれば、形成される被膜状構造により食材の強度が補強されるため、煮られている食材が煮崩れにくい。したがって、本食品製法によれば、煮崩れていないため食べやすい食品組成物を得やすい。煮られている食材の表層部に形成される被膜状構造は、親水性であるため、グルタミン酸などの親水性の呈味成分が食材の内部に浸透するのをほとんど妨げていないと考えられる。
上記した親水性の被膜状構造の組成は不明であるが、発酵飯またはその乾燥物に含有される、加熱変性により硬化しやすい何らかの成分に由来する構造であろうと考えられる。発酵飯またはその乾燥物が乳酸菌などを含有することを考慮すると、親水性の被膜状構造は、煮られる過程で変容した乳酸菌の菌体そのもの、又は煮られる過程で破壊された前記菌体の断片もしくは当該菌体から剥離した親水性の高分子化合物を含んで構成されている可能性が考えられる。親水性の被膜状構造が形成されるメカニズムも不明であるが、熱水の存在下において発酵飯またはその乾燥物が食材と共に煮られると、発酵飯またはその乾燥物に含有される何らかの成分(例えば、乳酸菌の菌体から剥離した親水性の高分子化合物)が食材の表層部に結合するか又は食材の表層部で凝集するかした後に、加熱変性により硬化され形成される構造であろうと考えられる。また、本食品製法により得られる食品組成物(本食品)は、冷蔵していて比較的に腐敗しにくい。その理由として、発酵飯が腐敗しにくいのと同様に、本食品は乳酸菌に由来する何らかの抗生物質(例えば、ナイシン)を含有し得るため、抗菌性を有しており腐敗しにくいものと考えられる。
煮る工程S50aでは、食材の表層部に親水性の被膜状構造を更に形成させて食材を煮崩れにくくする観点から、加熱前組成物をその液温が、好ましくは80℃以上、更に好ましくは85℃以上に保たれるように煮るのが良い。80℃以上に保つと親水性の被膜状構造が更に形成されやすいメカニズムは不明であるが、乳酸菌の菌体またはその断片が80℃以上であると変容または破壊されて被膜状構造の構成成分として供給されやすい可能性や、80℃以上であると被膜状構造の構成成分が熱変性し硬化しやすい可能性が考えられる。一方、加熱前組成物をその液温が長時間にわたり約100℃に保つように煮ると、一旦、食材の表層部に形成された親水性の被膜状構造が薄くなりやすい。100℃付近まで加熱してしまうと、被膜状構造の構成成分が徐々に分解されやすいものと考えられる。このため、形成される被膜状構造をなるべく長時間にわたり維持して食材を煮崩れにくくする観点から、加熱前組成物をその液温が、好ましくは95℃以下、さらに好ましくは90℃以下に保たれるように煮るのが良い。
加熱前組成物をその液温が80℃以上に保たれるように煮る時間の長さは、配合や液温の高さによるが、親水性の被膜状構造を形成させやすい観点から、好ましくは10分以上、更に好ましくは15分以上である。一旦、形成された親水性の被膜状構造が必要以上の長時間にわたり加熱され薄くなるのを避ける観点から、加熱前組成物をその液温が80℃以上に保たれるように煮る時間の長さは、配合や液温の高さによるが、好ましくは3時間以下、更に好ましくは2時間以下である。
本食品製法は例えば、煮物料理、調味料が加えられた米飯、及び少量の調味料が加えられた茹で物、からなる群より選ばれた1種以上の食品組成物の調理方法ともいえる。煮物料理として例えば、煮込み料理、煮付け、含め煮、煮染め(にしめ)、煮浸し、又は炊き合わせが挙げられる。煮込み料理は、食材が比較的に長時間煮られた料理である。煮付けは、食材が加熱開始時から少量の汁で甘辛く煮汁が少し残るまで濃く煮られた料理であり、例えば煮魚が挙げられる。含め煮は、食材がその色や味を活かすように薄めの汁で煮られた料理である。煮染めは、日持ちを良くするために、食材が濃い味で汁がなくなるまで煮つめられた料理である。煮浸しは、食材が薄味の汁で短時間煮られ、そのまま煮汁の中で食材を冷まして味をしみ込ませた料理である。炊き合せは、複数種類の食材をそれぞれ別の鍋で煮て混合させた料理である。これら煮物料理を上手く調製できるように、食材と調味料を一緒にする工程S28での加熱前組成物の配合や、煮る工程S50aでの加熱条件などを適宜調整するのが良い。加熱前組成物を煮るときの液温によるが、一旦、形成された親水性の被膜状構造が必要以上に加熱され薄くなるのを避けつつ、煮られている食材に十分に味付けする観点から、本食品製法は、食材が煮られる時間の長さが3時間以下である、煮込み料理、含め煮、煮浸し、炊き合わせ、及び米飯からなる群より選ばれた1種以上の食品組成物の製造方法であるのが好ましい。
本食品製法は、例えば図3に示すように、食材準備工程S26、発酵飯を準備する工程S10、食材と調味料を一緒にする工程S28、充填工程S30b、及び煮る工程S50bを含む態様でも良い。食材準備工程S26では前述した食材を準備する。発酵飯を準備する工程S10では、発酵飯を準備する。食材を煮崩れにくくする等の観点から、工程S10で発酵飯の代わりにその乾燥物を準備するのが好ましい。図3に示す食材と調味料を一緒にする工程S28では、図2に示す工程S28と同様に加熱前組成物を得る。図3に示す充填工程S30bでは、加熱前組成物を例えば、レトルト用パウチ、瓶、及び缶からなる群より選ばれた容器に充填する。水、食材、及び発酵飯またはその乾燥物をそれぞれ容器に充填して容器内で一緒にすることにより、工程S28と充填工程S30bを一時にまとめて行っても良い。煮る工程S50bは、図2に示す煮る工程S50aと概ね同様であるが、加熱前組成物を容器ごと煮る点で異なる。容器内で煮られた食材は、その表層部の少なくとも一部に親水性の被膜状構造が形成されて煮崩れにくい。図3に示す態様では、発酵飯に由来する風味(アミノ酸のうま味など)が内部に浸透した本食品(例えば、煮物料理の缶詰)を得やすい。
<本発明に係る食品組成物(本食品)>
本食品は、穀物、野菜、果物、魚介類、及び肉類からなる群より選ばれた1種以上の食材が調理された食品組成物であり、前述した本食品製法により製造可能である。また、本食品は、魚肉のなれずしを製造する過程で漬け床として用いられた発酵飯、及び前記発酵飯を乾燥させた乾燥物、からなる群より選ばれた1種以上の飯組成物から成るか又は1種以上の前記飯組成物を含有する調味料と共に、熱水の存在下で煮られた1種以上の食材を含んで成る食品組成物である。本来は煮崩れやすい食材を煮崩れていない状態で心地よく食べることが可能な観点から、本食品では、煮られた1種以上の食材の表層部の少なくとも一部において、1種以上の飯組成物に由来する親水性の被膜状構造が形成されているのが好ましい。同様の観点から、煮られた1種以上の食材の各々において、親水性の被膜状構造が形成されている部分は、煮られて軟らかくなった食材の内部よりも硬くなっているのも好ましい。その他、本食品の製造過程で用いられた調味料は前述した本調味料であるのが好ましい等、本食品について好ましい事項やとり得る形態は、前述した本調味料製法、本調味料、及び本食品製法で説明したとおりである。
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施できる。また、同一の作用または効果が生じる範囲内で、いずれかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。
<実験で用いた飯組成物、食材、及び調理器具など>
滋賀県大津市でふなずしを製造販売している業者から、ふなずしの飯(以下「生飯S1」という。)を譲り受けた。生飯S1は、琵琶湖産の天然ニゴロブナの魚肉を塩蔵し、水洗して乾かし、麹を配合していない米飯(漬け床)と共に12月程度かけて飯漬けにより乳酸発酵させ、その後に漬け床からニゴロブナの発酵物(ふなずし)を取り出して残された粥状の発酵飯であり、本来は廃棄される予定であった。市販の精製ケイ砂を添加し常圧での加熱乾燥法により測定した生飯S1の水分の含有量は、約60質量%であった。つまり10gの生飯S1では、その乾燥質量が約4.0gで、水分の含有量が約6.0gである。
ヘラを用い、生飯S1が厚み3mm程度の薄板状になるようにオーブンシート上で薄く引き伸ばした。薄板状になった生飯S1とオーブンシートの積層物を、家庭用スチームオーブンレンジ(パナソニック株式会社製、品番:NE−BS600−CK、周波数:2,450MHz、出力:150Wから800W、又は1,000W)の庫内に置き、電子レンジ機能で数分かけマイクロ波乾燥させた。マイクロ波乾燥により煎餅状になった乾燥物をオーブンシート上から回収し、家庭用ミキサーで粉砕し、粉砕された乾燥物(以下「μ波乾燥物」という。)を得た。このようにμ波乾燥物を3回試作したところ、水分の含有量が、10.1質量%であるμ波乾燥物S2と、6.8質量%であるμ波乾燥物S3と、4.8質量%であるμ波乾燥物S4が得られた。これらμ波乾燥物は、薄く黄みがかった茶色の外観で、発酵臭を感じられず、公称目開きが4.0mmである篩を通過する粉粒状で、水に投与されると直ちに水中で満遍なく分散した。
また、生飯S1を譲り受けたのと同じ業者から、ふなずしの飯を凍結乾燥機で凍結乾燥させた乾燥物(以下「凍結乾燥物S5」という。)も譲り受けた。凍結乾燥物S5は、水分の含有量が10.7質量%で、白色の粉末状で、そのままでは発酵臭を感じられないものの、水に投与されると水面に浮かぶ膜状となるため水中に分散しにくかった。別途、滋賀県野洲市でふなずしを製造販売している商店である望月水産からも、ふなずしの飯(以下「生飯M1」という。)を譲り受けた。生飯M1は、飯漬けによる乳酸発酵の期間が6月程度であることを除けば、前述した生飯S1と同様の条件でふなずしを製造する際に副産物として生じた発酵飯であり、その水分の含有量や物性などは生飯S1と同様であった。生飯M1を、生飯S1と同様の条件でマイクロ波乾燥させ粉砕し、粉砕された乾燥物(以下「μ波乾燥物M2」という。)を得た。μ波乾燥物M2での水分の含有量や物性などは、前述したμ波乾燥物S2と同様であった。
醤油として、盛田株式会社製のマルキン特選丸大豆しょうゆを準備した。砂糖として、三井製糖株式会社製のスプーン印上白糖と、伊藤忠製糖株式会社製のクルルマーク上白糖を準備した。ウスターソースとして、イオン株式会社製のTOP VALU(登録商標)ウスターソースを準備した。食材として、大根、ジャガイモ(メークイン)、白米、南瓜、及び林檎の各々について、スーパーマーケットで購入して間もない新鮮なものを準備した。ヨードチンキとして、健栄製薬株式会社製の希ヨードチンキを準備した。塩分計として、株式会社タニタ製のSO−304を準備した。pH測定計として、シェンジェンアイティフェイアルイーコマース社製のExcelvan(登録商標)デジタルpHメーター(品番:SDJN0001)を準備した。パール金属株式会社製のカレーシチュー鍋(型番:H−2094)を多数準備した。この鍋は、電磁調理器での誘導加熱(Induction Heating:以下「IH」という。)対応のため鍋底が平らで、フッ素加工された直径22cmの鍋であり、後述する実験例でガラス製鍋蓋を閉じて食材を煮るのに用いた。アイリスオーヤマ株式会社製の室内・家庭用の電磁調理器であるIHコンロ(型番:IHK−T31−B)4台とIHコンロ(型番:IHK−T43−B)2台を準備した。これらの電磁調理器では、加熱調理の際、次の表1に示すように火力(出力)を6段階で任意に調節できる(非特許文献3を参照)。ただし、後述する実験例1から実験例7では、室内で熱媒体として油ではなくて水を用いて加熱前組成物を煮たため、その液温は最高で約100℃までしか昇温しなかった。
<実験例1>
大根から外皮を除き、一辺約3cmの直方体状に切断した大根切片を複数得た。3つの鍋の各々に、この大根切片を3個ずつ入れ、約17℃の水道水を注ぎ、次の表2に示す配合で3種類の加熱前組成物を各々調製した。3種類の加熱前組成物の各々を、IHコンロ(IHK−T31−B)により表2に示す加熱条件で煮た。加熱による塩分濃度やpHの変化は、ほとんど認められなかった。
3種類の加熱前組成物を加熱開始から15分経過時、25分経過時、及び35分経過時に、各々の鍋から煮られている大根切片を箸で1個ずつ採取し、採取した切片の表層部の軟らかさを次の基準で10段階評価した。
1点:包丁で切片を切るときに、生の食材のように硬いと感じ、強い力を要する。
3点:包丁で切片を切るときに、若干硬いと感じ、若干強い力を要する。
5点:包丁で切片を切るときに、何か抵抗を感じ、少しは力を要する。
7点:包丁がほとんど抵抗なく切片に入り、スッと切ることができる。
9点:箸でつまむのが難しいほどに切片が軟らかくなっている。
10点:切片が軟らかくなり過ぎて、箸でつまもうとすると崩れてしまう。
採取した切片を試食し、その内部の軟らかさを次の基準で10段階評価した。評価結果を次の表3に示す。
1点:生の食材のように硬いと感じる。
3点:まだ硬さが残っており、生煮えであると感じる。
5点:硬くも軟らかくもないと感じる。
7点:軟らかくなっていると感じる。
9点:口腔内に入れたときに、噛まなくても形が崩れる程に軟らかいと感じる。
10点:口腔内に入れる前から、既に形が崩れている程に軟らかくなっている。
対照群A0、生飯群A1、及びμ波乾燥物群A2のいずれも、加熱中や加熱後に発酵臭を感じられなかった。加熱後の生飯群A1やμ波乾燥物群A2では、外見上で生飯S1又はμ波乾燥物S2が見当たらないため、生飯S1又はμ波乾燥物S2が配合され調理されたとは分からない煮物料理になっていた。表1に示すように、対照群A0よりも生飯群A1やμ波乾燥物群A2の方が、煮られた大根切片の表層部が適度に硬くて煮崩れにくかった。詳しく観察すると、対照群A0の切片では外皮を剥かれ煮られて崩れた大根が露出しているのに対し、生飯群A1やμ波乾燥物群A2では、外皮を剥かれ煮られた大根切片の表層部に被膜状構造が形成された部分があった。この被膜状構造が形成された部分は、煮る前の段階での大根切片の表層部よりは軟らかくなっているが煮崩れておらず、包丁で切るときに若干硬かった。このため、煮る前に外皮を除いた大根切片であるが、生飯群A1やμ波乾燥物群A2では、まるで煮られた大根切片に新たな外皮(被膜状構造)が形成されているかのような印象を、本発明者は受けた。対照群A0よりも生飯群A1やμ波乾燥物群A2の方が、煮られた大根切片の内部を食べるときに、うま味を感じやすかった。
<実験例2>
ジャガイモから外皮を除き、一辺約1.7cmの直方体状に切断した芋切片を複数得た。3つの鍋の各々に、芋切片を3個ずつ入れ、約17℃の水道水を注ぎ、次の表4に示す配合で3種類の加熱前組成物を調製し、IHコンロ(IHK−T31−B)により表4に示す加熱条件で煮た。加熱による塩分濃度やpHの変化はほとんど認められなかった。
実験例1と同様に、煮られている芋切片を採取し軟らかさを評価した。この芋切片が煮崩れている程度を、次の基準により10段階で評価した。評価結果を次の表5に示す。
1点:切片に割れ目が1つも見当たらず、切片の角の形状もしっかり保たれている。
3点:切片に浅い割れ目が1つある。
5点:切片に浅い割れ目が2つ以上あるか、又は深い割れ目が1つある。
7点:切片に深い割れ目が2つ以上あり、切片の形状が部分的に崩れている。
9点:切片の全体にわたって、大きく崩れている部分がある。
10点:切片が大きく崩れて割れたため、複数の小片になっている。
対照群B0、生飯群B1、及びμ波乾燥物群B2のいずれも、加熱中や加熱後に発酵臭を感じられなかった。加熱後の生飯群B1やμ波乾燥物群B2では、外見上で生飯S1又はμ波乾燥物S2が見当たらないため、生飯S1又はμ波乾燥物S2が配合され調理されたとは分からない煮つけ料理になっていた。対照群B0の煮られた芋切片で被膜状構造は見当たらなかったが、生飯群B1とμ波乾燥物群B2では煮られた芋切片の表層部に被膜状構造が形成されていた。表5に示すように、対照群B0の切片は煮崩れていたのに対し、生飯群B1とμ波乾燥物群B2では切片がほとんど煮崩れなかった。生飯群B1とμ波乾燥物群B2では、煮られた芋切片を食べたときにうま味を感じやすかった。前述した実験例1(表3)よりも実験例2(表5)の方が生飯群やμ波乾燥物群で食材が煮崩れにくかったため、本食品製法では、食材として大根を用いる場合よりも、ジャガイモなどのデンプン質の食材を用いる場合の方が、食材の煮崩れ防止効果が更に現れやすいものと考えられる。
<実験例3>
3つの鍋の各々に白米を1合(150g)入れ、約17℃の水道水を注いで45分間かけて白米に吸水させ、次の表6に示す配合で3種類の加熱前組成物を調製した。3種類の加熱前組成物の各々を、IHコンロ(IHK−T31−B)により表6に示す加熱条件で煮て、弱火の加熱を終えてから20分かけて蒸らして米飯を得た。
20分かけて蒸らし終えた時点を炊飯直後とし、炊飯直後、炊飯直後から1時間経過時、及び炊飯直後から6時間経過時の各々で、米飯の一部を採取して試食し、咀嚼したときに感じる米の弾力の強さを次の基準で評価した。
1点:一般的な米飯と比べて、もっちりした食感を感じにくい。
3点:一般的な米飯と比べて、もっちりした食感を同程度に感じる。
5点:一般的な米飯と比べて、もっちりした食感を幾らか強く感じる。
7点:一般的な米飯と比べて、もっちりした食感を明らかに強く感じる。
9点:一般的な米飯と比べて、もっちりした食感が強く噛みごたえがあると感じる。
10点:噛む度に、もっちりした食感を強く感じ、噛みごたえがあると強く感じる。
米の弾力を評価すると同時に、感じるうま味の強さを次の基準で評価した。これらの評価結果を、次の表7に示す。
1点:一般的な米飯と比べて、うま味を感じにくい。
3点:一般的な米飯と比べて、うま味を同程度に感じる。
5点:一般的な米飯と比べて、うま味を幾らか強く感じる。
7点:一般的な米飯と比べて、うま味を明らかに強く感じる。
9点:うま味を明らかに強く感じて、後味でもうま味を感じる。
10点:うま味を明らかに更に強く感じて、後味でもうま味を強く感じる。
対照群C0、生飯群C1、及びμ波乾燥物群C2のいずれも、加熱中や加熱後に発酵臭を感じられなかった。加熱後の生飯群C1とμ波乾燥物群C2での外見上で生飯S1又はμ波乾燥物S2が見当たらなかったため、生飯S1又はμ波乾燥物S2が配合され炊飯されたとは分からない米飯になっていた。対照群C0で白米の略楕円体の形状が若干崩れていたのに対し、生飯群C1とμ波乾燥物群C2でこの形状がきれいに保たれていた。表7に示すように、対照群C0よりも生飯群C1やμ波乾燥物群C2の方が、噛んだときにもっちりした噛みごたえがあり、うま味を感じやすかった。また、対照群C0や生飯群C1で最もおいしく感じたのは炊飯直後であるのに対し、μ波乾燥物群C2で最もおいしく感じたのは炊飯直後から6時間経過時であった。生飯群C1よりもμ波乾燥物群C2の方がモチモチした食感を強く感じた。その理由としてμ波乾燥物群C2では、米粒の表層部で被膜状構造が維持され、被膜状構造により米粒で水分の蒸発量が少なく抑えられてデンプンのβ化が抑えられたため、米粒でモチモチした食感が保たれ、しかもアミノ酸によるうま味を感じて、6時間経過時においしく感じたのであろうと考えられる。
<実験例4>
ジャガイモから外皮を除き、一辺約1.7cmの直方体状に切断した芋切片を複数得た。3つの鍋の各々に芋切片を6個ずつ入れ、約17℃の水道水を注ぎ、次の表8に示す配合で3種類の加熱前組成物を調製した。加熱前組成物の各々をIHコンロ(IHK−T31−B)により表8に示す加熱条件で煮た。加熱による塩分濃度の変化やpHの変化は、ほとんど認められなかった。
加熱開始から18分経過時に、3種類の加熱前組成物の各々から煮られている芋切片を6個採取した。この切片6個の上面に、醤油、ウスターソース、又はヨードチンキのいずれかの液体1滴をスポイトで滴下した。醤油またはウスターソースを滴下した場合に、滴下された液体が切片の上面で広がる様子を観察して、次の基準で評価した。
×:滴下された液体は、切片の上面でほとんど広がらない。
△:滴下された液体が、滴下された箇所の周辺で部分的に広がっている。
〇:滴下された液体が、切片の上面の略全体に広がっている。
対照群D0、生飯群D1、及びμ波乾燥物群D2のいずれも、加熱中や加熱後に発酵臭を感じられなかった。加熱後の生飯群D1とμ波乾燥物群D2での外見上で生飯S1又はμ波乾燥物S2が見当たらなかったため、生飯S1又はμ波乾燥物S2が配合され調理されたとは分からない芋煮になっていた。加熱開始から18分経過時に、対照群D0の芋切片では被膜状構造が全く形成されていなかったのに対し、生飯群D1の芋切片の表層部では部分的に被膜状構造が形成され、μ波乾燥物群D2の切片の表層部では全体的に被膜状構造が形成されていた。表9に示すように、ヨードチンキを滴下した場合、対照群D0、生飯群D1、及びμ波乾燥物群D2のいずれも、芋切片が青紫色に発色し、芋切片に水分が浸透しデンプンがα化していることが示された。醤油またはウスターソースを滴下した場合に、滴下された液体は、対照群D0の芋切片の上面でほとんど広がらなかったのに対し、生飯群D1やμ波乾燥物群D2では芋切片の上面の広範囲に広がった。
加熱開始から18分経過時の芋切片の表面では、デンプンがα化される程度には吸水されているが、表9に示す対照群D0の芋切片のように、醤油やウスターソース等の親水性の調味液になじむ程の吸水に至っていない段階にあると考えられる。このため、加熱開始から18分経過時に、生飯群D1やμ波乾燥物群D2の芋切片の上面で醤油やウスターソースが広がりやすいという実験結果から、これら芋切片の表層部に形成された被膜状構造が親水性であることが示唆された。また、対照群D0の芋切片を食べてもうま味を感じられなかったが、生飯群D1やμ波乾燥物群D2で芋切片を食べると切片内部でうま味を感じられた。このため、ふなずし(の飯)に由来するアミノ酸などのうま味成分は、加熱開始後に、醤油よりも早い段階で芋切片の内部に浸透しやすいものと考えられる。
<実験例5>
ジャガイモから外皮を除き、一辺約1.7cmの直方体状に切断した芋切片を複数得た。3つの鍋の各々に芋切片を6個ずつ入れ、約17℃の水道水を注ぎ、次の表10に示す配合で3種類の加熱前組成物を調製し、IHコンロ(IHK−T31−B)で鍋ごとに異なる条件で煮続けた。表10と図4に示すように、強加熱群では、最初に加熱レベル6(強火)で加熱して約100℃に達し沸騰したら、加熱レベル2(弱火)に弱めて沸騰させ続けた。中加熱群では、最初に加熱レベル6で加熱し、沸騰したら加熱レベル1(弱火)に弱め液温を90℃台に保った。加熱による塩分濃度の変化やpHの変化は、ほとんど認められなかった。
強加熱群や中加熱群では、加熱開始から20分経過時、30分経過時、及び35分経過時の各々で、煮られている芋切片を1個ずつ採取し、切片の軟らかさや、煮崩れの程度を評価した。また、芋切片の表面や内部での味の濃さを、次の基準で4段階評価した。
×:食べても、うま味や醤油味を感じることができない。
△:食べると、うま味や醤油味をわずかに感じる。
〇:食べると、うま味や醤油味を明らかに感じる。
◎:食べると、濃厚なうま味や醤油味を感じる。
芋切片の表層部に被膜状構造が形成されている程度を観察し、次の基準により10段階評価した。強加熱群と中加熱群での評価結果を、次の表11に示す。
1点:表層部に被膜状構造が見当たらない。
3点:表層部の一部に薄い被膜状構造が形成されている。
5点:表層部の略全部に薄い被膜状構造が形成されている。
7点:表層部の略全部に薄くはない被膜状構造が形成されている。
9点:表層部の略全部に被膜状構造が形成され、被膜状構造が厚く強固な部分もある。
10点:表層部の略全部に厚く強固な被膜状構造が形成されている。
強加熱群や中加熱群では、加熱中や加熱後に発酵臭は感じられず、加熱後に外見上でμ波乾燥物S2は見当たらなかった。表11に示すように、強加熱群と中加熱群では、20分経過時に芋切片の表層部に被膜状構造が形成されていたが、加熱時間の経過と共に被膜状構造の厚みが薄くなり煮崩れの程度が増した。この傾向は、図4に示すように液温が90℃台に保たれた中加熱群よりも、液温が約100℃に保たれた強加熱群で顕著に現れた。一方、表10と図4に示すように、加熱前組成物を最初から加熱レベル1(弱火)で加熱し続けた弱加熱群で、120分間経過しても液温は最高で89.6℃に留まった。弱加熱群で、加熱開始から60分経過時、90分経過時、100分経過時、及び120分経過時の各々で、煮られている芋切片を1個ずつ採取し、切片の軟らかさ、味の濃さ、被膜状構造が形成された程度、及び煮崩れの程度を評価し、評価結果を次の表12に示す。
弱加熱群でも、加熱中や加熱後に発酵臭は感じられず、加熱後に外見上でμ波乾燥物S2が見当たらなかった。図4に示すように、加熱開始から60分経過時に弱加熱群の液温は79.3℃であり、この時点以降の液温は80℃台に保たれた。弱加熱群で煮られている芋切片では、加熱開始から60分を経過して間もない時点から、表層部に被膜状構造が形成される様子が観察された。このため、液温が80℃台に保たれると、煮られている食材の表層部に厚くて強固な被膜状構造が形成されやすく、形成された被膜状構造が長時間にわたり強固なまま維持されやすいため、煮られている食材が更に煮崩れにくいのであろうと考えられる。
<実験例6>
ジャガイモの外皮を除き、一辺約1.7cmの直方体状に切断した芋切片を複数得た。また、南瓜の外皮を除き、一辺約2.5cmの直方体状に切断した南瓜切片を複数得た。3つの鍋の各々に、芋切片5個と南瓜切片5個を入れ、約17℃の水道水を注ぎ、次の表13に示す配合で3種類の加熱前組成物を調製し、IHコンロ(IHK−T31−B)により表13に示す加熱条件で煮続けた。加熱による塩分濃度やpHの変化は、ほとんど認められなかった。加熱開始から15分経過時、20分経過時、及び35分経過時の各々で、鍋から煮られた芋切片と南瓜切片を1個ずつ採取した。切片の軟らかさ、味の濃さ、被膜状構造が形成された程度、及び煮崩れの程度を評価し、その結果を後の表14に示す。
凍結乾燥物群E5では、加熱中や加熱後に幾らか発酵臭を感じ、試食すると発酵飯を連想するような酸味を幾らか感じた。一方、生飯群E1とμ波乾燥物群E4では、加熱中や加熱後に発酵臭や酸味を感じられず、試食すると発酵飯を連想するような酸味は感じられなかった。また、生飯群E1、凍結乾燥物群E5、及びμ波乾燥物群E4のいずれも、加熱後の外観上で生飯S1又は凍結乾燥物S5又はμ波乾燥物S4は見当たらなかった。表14に示すように、凍結乾燥物群E4よりも生飯群E1の方が、芋切片や南瓜切片の表層部で強固な被膜状構造が形成され煮崩れにくかった。生飯群E1よりもμ波乾燥物群E4の方が、芋切片や南瓜切片で更に強固な被膜状構造が形成され更に煮崩れにくかった。なお、発酵飯を凍結乾燥させる場合には加熱されないためもと発酵飯の成分がそのまま保たれやすいが、発酵飯をマイクロ波乾燥させる場合にはもとの発酵飯の成分が加熱変性すると考えられる。このことを考慮すると、凍結乾燥物群E5と比べてμ波乾燥物群E4では、加熱変性により生じた何らかの成分がμ波乾燥物S4に含有されることに起因し、煮られている切片で強固な被膜状構造が形成されやすくなったものと考えられる。
<実験例7>
次の表15に示す配合にしたがって、市販の炊飯器の窯に、無洗米(株式会社パールライス滋賀製、商品名:滋賀県産近江米みずかがみ)を2合(約300g)と水道水を入れ、対照群F0に係る加熱前組成物を調製した。この加熱前組成物を炊飯器で45分間かけて炊飯し、得られた対照群F0に係る米飯を手で直に触れるようにかき混ぜて幾つかの塊に分け、米飯の塊を1つずつ食品用ラップフィルムで包んで室内に置いて冷やし、粗熱がとれたら冷凍庫内において約−15℃で冷凍した。なお、直に手でかき混ぜた際、対照群F0に係る米飯に皮膚常在菌などが付着したと考えられる。手と炊飯器の窯を洗い、同様に次の表15に示す配合にしたがって炊飯し、生飯群F1とμ波乾燥物群F3の各々に係る米飯を得て、これら米飯をそれぞれ直に手で触れるように分けてから食品用ラップフィルムで包んで冷凍した。対照群F0、生飯群F1、及びμ波乾燥物群F3のいずれの米飯も、発酵臭を感じられず、外見上で生飯S1又はμ波乾燥物S3が見当たらなかった。
冷凍した翌日、冷凍された米飯の塊を常温に置いて解凍した。一部の塊では、解凍後に直ちに、非特許文献4から非特許文献6に準拠した検査方法で一般生菌と大腸菌群の菌数を検査した。残りの一部の塊では、解凍後に常温で72時間置いてから同様に菌数を検査した。一般生菌の検査では標準寒天培地を用い、大腸菌群の検査ではXM−G寒天培地を用いた。検査結果を次の表16に示す。
表16に示すように、解凍後に常温で72時間置いて検査された場合に、対照群F0と比べて生飯群F1やμ波乾燥物群F3では、菌数が少なく抑えられていた。このため、生飯S1やμ波乾燥物S3には、何らかの抗菌作用の有効成分が含有されていると考えられる。表15で前述したよりも生飯S1又はμ波乾燥物S3の配合量を更に増やせば、更に強い抗菌作用が発揮されるであろうと推察される。
<実験例8>
本発明者は、表3で前述した生飯群A1やμ波乾燥飯群A2で感じたうま味に着目し、市販の食材を探究して、かね七株式会社製の商品名「焼あご天然だしパック」の煮だし汁である「あごだし」で比較的に似たうま味を感じやすいことを見出した。「焼あご」とはトビウオの焼干しである。焼きあご天然だしパックは、5gの焼きあごを収容した透水性で不溶性の袋状物であり、『遠赤焙焼製法で仕上げているため、「香り」が良く、味わい深く「にごり」の少ない「コク」のあるだしがとれます。』との説明文が包材に記載されている。包材に記載された「だしの取り方」にしたがって、鍋に400gの水道水を入れ、1袋の焼きあご天然だしパック(つまり5gの焼きあご)を加え、IHコンロ(IHK−T43−B)の中火で加熱し、沸騰したら更に中火で5分加熱してから焼きあご天然だしパックを取り除き、鍋に残っただし汁を常温の雰囲気下で冷ましたもの(以下「基準あごだし汁」という。)を複数回にわたり調製した。また、基準あごだしの調製方法に対して水道水の量を800gに変更した他は同様に調製しただし汁(以下「0.5倍あごだし汁」という。)を複数回にわたり調製した。
新鮮な直径約7cmの大根の上半分を多数入手し、葉を除いて水洗し、ピーラーで厚み約1mm分の外周部を切除し、包丁で高さ2cm程度の円柱状に輪切りした大根切片を多数得た。2つの鍋を用い、次の表17に示す配合とIHコンロ(IHK−T43−B)の加熱条件により、加熱開始から45分経過時に鍋から煮られている大根切片を全て採取し、常温で約1時間置いて冷まし、煮られた大根切片それぞれの表層部として厚み5mm程度を包丁で切除し、表層部の切除後に残された大根切片の内部を得た。この条件で調理を何度も繰り返して、基準あごだし群に係る大根煮物の切片内部と、0.5倍あごだし群に係る大根煮物の切片内部と、の2種類をそれぞれ多数調製した。また、20歳代から50歳代までの十数名の成人男女を対象に、一人ずつ何ら事前情報を与えず室内に独りで落ち着いて2種類の切片内部を食べ比べてもらい、どちらの切片内部であごだし使用量が多いか回答してもらうトレーニングを5回以上行った。その結果、正答率が高い上位6名(成人男性2名、成人女性4名)をパネラーとして選定した。
パネラーを選定した後日、同じ条件で調理を複数回行って、基準あごだし群と0.5倍あごだし群の各々に係る大根煮付の切片内部を多数調製した。同時に、3つの鍋を用い次の表18に示す配合に従い3台のIHコンロ(IHK−T31−B)で加熱したことを除けば、同様の条件で調理し冷まして表層部を切除するという調理を複数回行って、対照群G0、生飯群G1、及びμ波乾燥物群G2の各々に係る大根煮付の切片内部を多数調製した。対照群G0、生飯群G1、及びμ波乾燥物群G2のいずれも、加熱による塩分濃度やpHの変化はほとんど認められなかった。生飯群G1とμ波乾燥物群G2で、加熱中や加熱後に発酵臭を感じられず、加熱後の外観上で生飯M1又はμ波乾燥物M2は見当たらず、親水性の被膜状構造が大根煮物の切片表層部に形成されていた。この被膜状構造は、大根煮物から包丁で表層部を切除する際、表層部と共に除去された。この際、被膜状構造が形成されている部分は、煮られて軟らかくなった大根煮物の内部よりも明らかに硬いため、まるで最初から大根に備わっている天然の外皮のように剥がれた。
対照群G0、生飯群G1、及びμ波乾燥物群G2の各々に係る大根煮物の切片内部を、どのように調理されたか何ら事前情報を与えずパネラーごとに給仕した。比較のため、基準あごだし群と0.5倍あごだし群の各々に係る大根煮物の切片内部も、パネラーごとに給仕した。これらを試食の上、対照群G0、生飯群G1、及びμ波乾燥物群G2の各々に係る大根煮物の切片内部でのうま味の濃さを、パネラーごとに次の10段階基準で官能評価してもらった。評価結果を次の表19に示す。
0点:うま味を全く感じることができなかった。
3点:0.5倍あごだし群に係る大根煮物の切片内部と比べ同程度のうま味を感じた。
6点:基準あごだし群に係る大根煮物の切片内部と比べ同程度のうま味を感じた。
9点:基準あごだし群に係る大根煮物の切片内部と比べ顕著に濃いうま味を感じた。
表19に示す評価結果から、熱水の存在下で食材(例えば大根)と共に発酵飯(例えば生飯M1)又はその乾燥物を煮ると、うま味成分が食材の内部に浸透した、おいしくて心地よく食べやすい煮物料理を得られることが示唆された。また、この作用効果は、発酵飯よりも、これをマイクロ波乾燥させた乾燥物(例えばμ波乾燥物M2)で更に発揮されやすい可能性が示唆された。仮に、対照群G0、生飯群G1、及びμ波乾燥物群G2の各々で、大根煮物の切片内部に含有されるうま味成分を機器分析により定量した場合には、対照群G0よりも生飯群G1で、また生飯群G1よりもμ波乾燥物群G2で、おそらく何らかのうま味成分の含有量が多いという分析結果を得られるであろうと考えられる。
<実験例9>
実験例8で選定した6名のうちから、実験例9では5名のパネラー(成人男性2名、成人女性3名)を選定した。実験8と同様に、対照群G0、生飯群G1、及びμ波乾燥物群G2の各々に係る大根煮物を、切片表層部を切除することなく、事前情報を与えずパネラーごとに給仕した。これと同時に多数の鍋とIHコンロを用い、表17で前述した基準あごだし群と比べ同じ配合と同様の加熱条件であるが、加熱開始から35分経過時、45分経過時、及び55分経過時にそれぞれ煮られた大根切片を採取し、直ちに包丁で厚み5mm程度の表層部を切除することにより、残された切片内部を多数調製してパネラーごとに給仕した。これらを試食し、対照群G0、生飯群G1、及びμ波乾燥物群G2の各々に係る大根煮物での切片内部と切片表層部のうま味の濃さを、パネラーごとに次の9段階基準で官能評価してもらった。評価結果を次の表20に示す。
0点:加熱時間35分の基準だし群の切片内部と比べ、うま味が顕著に薄い。
2点:加熱時間35分の基準だし群の切片内部と比べ、同程度のうま味の濃さ。
4点:加熱時間45分の基準だし群の切片内部と比べ、同程度のうま味の濃さ。
6点:加熱時間55分の基準だし群の切片内部と比べ、同程度のうま味の濃さ。
8点:加熱時間55分の基準だし群の切片内部と比べ、うま味が顕著に濃い。
表20に示す評価結果からも、熱水の存在下で食材(例えば大根)と共に発酵飯(例えば生飯M1)又はその乾燥物(例えばμ波乾燥物M2)を煮ると、うま味成分が食材の内部に浸透した、おいしくて心地よく食べやすい煮物料理を得られることが示唆された。μ波乾燥物群G2では、切片表層部と切片内部での点差が0点であったから、表層部と内部でうま味の濃さの違いを実質的に感じることができない程に、うま味成分が十分に切片内部に浸透したものと考えられる。このため、仮に、μ波乾燥物群G2と比べ、表18で前述したよりもμ波乾燥物M2を多く配合するか又は市販のうま味調味料を更に配合した場合には、切片内部でのうま味の濃さの評価結果が22点よりも大幅に高い点数になるであろうと考えられる。
<実験例10>
新鮮な、ジャガイモ、大根、及び林檎の各々の外皮をピーラーで除き、包丁で一辺約2.0cmの立方体状に切断した、芋切片、大根切片、及び林檎切片を各々、多数得た。3つの鍋の各々に、芋切片を10個入れ、約17℃の水道水を注ぎ、次の表21に示す配合で3種類の加熱前組成物を調製し、IHコンロ(IHK−T31−B)を用い表21に示す加熱条件で煮て、加熱後に鍋から10個の煮られた芋切片を採取した。同様にして、後述する表22に示す配合と加熱条件で煮て、加熱後に鍋から10個の煮られた大根切片を採取した。同様にして、後述する表23に示す配合と加熱条件で煮て、加熱後に鍋から10個の煮られた林檎切片を採取した。ここで挙げたいずれの切片も、加熱による塩分濃度やpHの変化はほとんど認められず、加熱中や加熱後に発酵臭を感じられず、加熱後の外観上で生飯M1又はμ波乾燥物M2は見当たらなかった。表21に示す生飯群H1とμ波乾燥物群H2、表22に示す生飯群I1とμ波乾燥物群I2、及び表23に示す生飯群I1とμ波乾燥物群I2では、煮られた切片の表層部に被膜状構造が形成されていた。
9種類の煮られた食材切片について、(10個ずつ)について、滋賀県工業技術総合センターにおいて低荷重物性試験機(島津製作所製、型式:EZ−S)を用いて圧縮強度を測定した。測定の際、煮られた食材切片をガラスシャーレ上に置き、この食材切片の上方から図5に示す治具6を60mm/minの速度で降下させ、食材切片が圧縮荷重をかけられ破断するときに測定される最大応力(つまり圧縮強度)を記録した。治具6は、直径15mmの円柱部7と、図6に示すように測定時に円柱部7の軸方向を鉛直方向に沿って立てたときに円柱部7の下端側に配される下向き凸部8と、が設けられた形状である。下向き凸部8は、円柱部7の下端側において軸方向の15mmにわたり設けられており、測定時に食材切片に接し圧縮荷重をかける部分である。下向き凸部8の先端面(治具6の底面)9は、図6では隠れて図示されていないが長方形で長辺15mm×短辺2mmである。この条件による圧縮強度の測定結果を、図6から図8、及び次の表24に示す。別途、同じ条件で9種類の煮られた食材切片を再度試作し、滋賀県工業技術総合センターにおいて鋭利な刃物で食材切片を切断した切断面を、顕微鏡システム(株式会社キーエンス製、型式:VHX−6000)を用い倍率20倍で観察し写真を撮った。撮影した写真を、図9から図26に示す。これら顕微鏡写真において煮られた食材の表層部では、食材内部と比べて光の反射が少なくて色濃い等の見え方が若干異なる層状の部分が視認できた。この見え方が若干異なる部分の厚みを顕微鏡システムにより計測し、次の表24に示す。
表24、図9、図10、図15、図16、図21、及び図22に例示するように、対照群(H0、I0、及びJ0)では、煮られた食材切片表層部で内部とは見え方が若干異なる部分の厚みは非常に薄いため、表層部に被膜状構造が形成されている様子は実質的に確認できなかった。一方、対照群(H0、I0、及びJ0)と比べて、表24、図11、図12、図17、図18、図23、及び図24に例示するように、生飯群(H1、I1、及びJ1)では、煮られた食材内部と比べて表層部に、色濃くて光の反射が少ない部分が若干厚く形成されていた。このため、生飯群(H1、I1、及びJ1)では、厚み100μmから300μmほどの薄い被膜状構造が形成されているものと考えられる。表24、図13、図14、図19、図20、図25、及び図26に例示するように、μ波乾燥物群(H2、I2、及びJ2)では、煮られた食材内部に対し表層部では、色濃くて光の反射が少ない部分が厚み1,000μmから3,000μmほどの範囲で形成されている様子が観察された。このため、μ波乾燥物群(H2、I2、及びJ2)では、厚み1,000μmから3,000μm程度の被膜状構造が形成されているものと考えられる。
また、図6から図8に示すように、対照群(H0、I0、及びJ0)に対し生飯群(H1、I1、及びJ1)やμ波乾燥物群(H2、I2、及びJ2)では、高い圧縮強度が示され、有意差も認められた。これらの実験結果から、対照群(H0、I0、及びJ0)に対し生飯群(H1、I1、及びJ1)やμ波乾燥物群(H2、I2、及びJ2)では、煮られた食材切片の表層部に被膜状構造が形成され破断されにくくなったこと、つまり、煮崩れにくくなったことが示唆された。