JP6809758B2 - アーク溶接制御方法 - Google Patents

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Description

本発明は、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法に関するものである。
一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
溶接品質をさらに向上させるために、溶接ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接する方法が提案されている。特許文献1の発明では、溶接電流設定値に応じた送給速度の平均値とし、溶接ワイヤの正送と逆送との周波数及び振幅を溶接電流設定値に応じた値としている。溶接ワイヤの正送と逆送とを繰り返す溶接方法では、定速送給の従来技術に比べて、短絡とアークとの繰り返しの周期を安定化することができるので、スパッタ発生量の削減、ビード外観の改善等の溶接品質の向上を図ることができる。
特許第5201266号公報
溶接ワイヤの正送と逆送とを繰り返す溶接方法は、主に母材が鉄鋼材であるときに使用されている。この溶接方法を、ステンレス鋼材に適用すると、アークが不安定になりスパッタ量が増加するという問題がある。
そこで、本発明では、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換える溶接方法において、母材の材質がステンレス鋼であっても、アークが安定し、かつ、スパッタ発生量も少ない溶接が可能となるアーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
母材の材質を選択すると送給速度のパラメータが前記母材の前記材質ごとに予め記憶された値に設定され、溶接ワイヤの前記送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法において、
前記母材の前記材質がステンレス鋼のときの予め記憶された前記送給速度の逆送ピーク値の絶対値が、前記母材の前期材質が鉄鋼のときの予め記憶された前記送給速度の前記逆送ピーク値の絶対値よりも小さな値である、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法である。
請求項2の発明は、
前記母材の前記材質がステンレス鋼のときの予め記憶された前記送給速度の正送ピーク値の絶対値が、前記母材の前期材質が鉄鋼のときの予め記憶された前記送給速度の前記正送ピーク値の絶対値よりも小さな値である、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接制御方法である。
請求項3の発明は、
前記母材の前記材質がステンレス鋼のときの予め記憶された前記送給速度の逆送減速期間が、前記母材の前期材質が鉄鋼のときの予め記憶された前記送給速度の前記逆送減速期間よりも長い期間である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク溶接制御方法である。
請求項4の発明は、
シールドガスに占める不活性ガスの体積%を設定すると、前記送給速度の前記逆送ピーク値及び前記正送ピーク値の絶対値が前記シールドガスに占める不活性ガスの体積%に応じた値に設定され、
記シールドガスに占める不活性ガスの体積%が大きくなるほど、前記送給速度の前記逆送ピーク値及び前記正送ピーク値の絶対値は小さな値になる、
ことを特徴とする請求項2に記載のアーク溶接制御方法である。
請求項5の発明は、
溶接トーチの前進角を設定すると、前記送給速度の前記逆送ピーク値及び前記正送ピーク値の絶対値が前記溶接トーチの前記前進角に応じた値に設定され、
前記溶接トーチの前記前進角が大きくなるほど、前記送給速度の前記逆送ピーク値及び前記正送ピーク値の絶対値は小さな値になる、
ことを特徴とする請求項2に記載のアーク溶接制御方法である。

本発明によれば、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換える溶接方法において、母材の材質がステンレス鋼であっても、アークが安定し、かつ、スパッタ発生量も少ない溶接が可能となる。
本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。 本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。 本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。 本発明の実施の形態3に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の誤差増幅信号Eaによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
リアクトルWLは、上記の出力電圧Eを平滑する。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば100μHである。
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを交互に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間にあると判別してHighレベルになり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
材質選択回路MSは、母材の材質に対応した番号を溶接作業者が選択すると、その番号の値となる材質選択信号Msを出力する。例えば、鉄鋼を選択するとMs=1となり、ステンレス鋼を選択するとMs=2となる。
正送加速期間設定回路TSURは、予め定めた正送加速期間設定信号Tsurを出力する。
正送減速期間設定回路TSDRは、予め定めた正送減速期間設定信号Tsdrを出力する。
逆送加速期間設定回路TRURは、予め定めた逆送加速期間設定信号Trurを出力する。
逆送減速期間設定回路TRDRは、上記の材質選択信号Msを入力として、材質選択信号Msに対応して予め定めた逆送減速期間設定信号Trdrを出力する。
正送ピーク値設定回路WSRは、上記の材質選択信号Msを入力として、材質選択信号Msに対応して予め定めた正送ピーク値設定信号Wsrを出力する。
逆送ピーク値設定回路WRRは、上記の材質選択信号Msを入力として、材質選択信号Msに対応して予め定めた逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。
送給速度設定回路FRは、上記の正送加速期間設定信号Tsur、上記の正送減速期間設定信号Tsdr、上記の逆送加速期間設定信号Trur、上記の逆送減速期間設定信号Trdr、上記の正送ピーク値設定信号Wsr、上記の逆送ピーク値設定信号Wrr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理によって生成された送給速度パターンを送給速度設定信号Frとして出力する。この送給速度設定信号Frが0以上のときは正送期間となり、0未満のときは逆送期間となる。
1)正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu中は0から正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正の値の正送ピーク値Wspまで直線状に加速する送給速度設定信号Frを出力する。
2)続いて、正送ピーク期間Tsp中は、上記の正送ピーク値Wspを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)からHighレベル(短絡期間)に変化すると、正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsdに移行し、上記の正送ピーク値Wspから0まで直線状に減速する送給速度設定信号Frを出力する。
4)続いて、逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru中は0から逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる負の値の逆送ピーク値Wrpまで直線状に加速する送給速度設定信号Frを出力する。
5)続いて、逆送ピーク期間Trp中は、上記の逆送ピーク値Wrpを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
6)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)からLowレベル(アーク期間)に変化すると、逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdに移行し、上記の逆送ピーク値Wrpから0まで直線状に減速する送給速度設定信号Frを出力する。
7)上記の1)〜6)を繰り返すことによって正負の台形波状に変化する送給パターンの送給速度設定信号Frが生成される。
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
減流抵抗器Rは、上記のリアクトルWLと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01〜0.03Ω程度)の10倍以上大きな値(0.5〜3Ω程度)に設定される。この減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、リアクトルWL及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。
トランジスタTRは、上記の減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の電圧検出信号Vd及び上記の電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの電圧検出信号Vdの電圧上昇値が基準値に達した時点でくびれの形成状態が基準状態になったと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応した基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、電圧検出信号Vdの値を電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応する基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)のときは、低レベル電流設定信号Ilrとなる電流制御設定信号Icrを出力する。
2)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化すると、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流設定値となり、その後は予め定めた短絡時傾斜で予め定めた短絡時ピーク設定値まで上昇してその値を維持する電流制御設定信号Icrを出力する。
3)その後に、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化すると、低レベル電流設定信号Ilrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr及び上記の電流検出信号Idを入力として、電流制御設定信号Icr(+)と電流検出信号Id(−)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
小電流期間回路STDは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から予め定めた電流降下時間が経過した時点でHighレベルになり、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になるとLowレベルになる小電流期間信号Stdを出力する。
電源特性切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の短絡判別信号Sd及び上記の小電流期間信号Stdを入力として、以下の処理を行い、誤差増幅信号Eaを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化した時点から、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して予め定めた遅延期間が経過した時点までの期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
2)その後のアーク期間中は、電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
3)その後のアーク期間中に小電流期間信号StdがHighレベルとなる期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
この回路によって、溶接電源の特性は、短絡期間、遅延期間及び小電流期間中は定電流特性となり、それ以外のアーク期間中は定電圧特性となる。
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は小電流期間信号Stdの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
同図(A)に示す送給速度Fwは、図1の送給速度設定回路FRから出力される送給速度設定信号Frの値に制御される。送給速度Fwは、図1の正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu、短絡が発生するまで継続する正送ピーク期間Tsp、図1の正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsd、図1の逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru、アークが発生するまで継続する逆送ピーク期間Trp及び図1の逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdから形成される。さらに、正送ピーク値Wspは図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって定まり、逆送ピーク値Wrpは図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる。この結果、送給速度設定信号Frは、正負の略台形波波状に変化する送給パターンとなる。
[時刻t1〜t4の短絡期間の動作]
正送ピーク期間Tsp中の時刻t1において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化する。これに応動して、時刻t1〜t2の予め定めた正送減速期間Tsdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の正送ピーク値Wspから0まで減速する。例えば、正送減速期間Tsd=1msに設定される。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは時刻t2〜t3の予め定めた逆送加速期間Truに入り、0から上記の逆送ピーク値Wrpまで加速する。この期間中は短絡期間が継続している。例えば、逆送加速期間Tru=1msに設定される。
時刻t3において逆送加速期間Truが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送ピーク期間Trpに入り、上記の逆送ピーク値Wrpになる。逆送ピーク期間Trpは、時刻t4にアークが発生するまで継続する。したがって、時刻t1〜t4の期間が短絡期間となる。逆送ピーク期間Trpは所定値ではないが、4ms程度となる。
同図(B)に示すように、時刻t1〜t4の短絡期間中の溶接電流Iwは、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流値となる。その後、溶接電流Iwは、予め定めた短絡時傾斜で上昇し、予め定めた短絡時ピーク値に達するとその値を維持する。
同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが短絡時ピーク値となるあたりから上昇する。これは、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwによるピンチ力の作用により、溶接ワイヤ1の先端の溶滴にくびれが次第に形成されるためである。
その後に溶接電圧Vwの電圧上昇値が基準値に達すると、くびれの形成状態が基準状態になったと判別して、図1のくびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。
くびれ検出信号NdがHighレベルになったことに応動して、図1の駆動信号DrはLowレベルになるので、図1のトランジスタTRはオフ状態となり図1の減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、図1の電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrの値に小さくなる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは短絡時ピーク値から低レベル電流値へと急減する。そして、溶接電流Iwが低レベル電流値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、トランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、アーク再発生から予め定めた遅延期間が経過するまでは低レベル電流値を維持する。したがって、トランジスタTRは、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化した時点から溶接電流Iwが低レベル電流値に減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので一旦減少した後に急上昇する。上述した各パラメータは、例えば以下の値に設定される。初期電流=40A、初期期間=0.5ms、短絡時傾斜=2ms、短絡時ピーク値=400A低レベル電流値=50A、遅延期間=1ms。
[時刻t4〜t7のアーク期間の動作]
時刻t4において、溶接ワイヤの逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってくびれが進行してアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、図(D)に示すように、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する。これに応動して、時刻t4〜t5の予め定めた逆送減速期間Trdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する。
時刻t5において逆送減速期間Trdが終了すると、時刻t5〜t6の予め定めた正送加速期間Tsuに移行する。この正送加速期間Tsu中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは0から上記の正送ピーク値Wspまで加速する。この期間中はアーク期間が継続している。例えば、正送加速期間Tsu=1msに設定される。
時刻t6において正送加速期間Tsuが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送ピーク期間Tspに入り、上記の正送ピーク値Wspになる。この期間中もアーク期間が継続している。正送ピーク期間Tspは、時刻t7に短絡が発生するまで継続する。したがって、時刻t4〜t7の期間がアーク期間となる。そして、短絡が発生すると、時刻t1の動作に戻る。正送ピーク期間Tspは所定値ではないが、4ms程度となる。
時刻t4においてアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。他方、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t4から遅延期間の間は低レベル電流値を継続する。その後、溶接電流Iwは増加して高電流値となる。この高電流値となるアーク期間中は、図1の電圧誤差増幅信号Evによって溶接電源のフィードバック制御が行われるので、定電圧特性となる。
時刻t4にアークが発生してから予め定めた電流降下時間が経過する時刻t61において、同図(E)に示すように、小電流期間信号StdがHighレベルに変化する。これに応動して、溶接電源は定電圧特性から定電流特性に切り換えられる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは低レベル電流値に低下し、短絡が発生する時刻t7までその値を維持する。同様に、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwも低下する。小電流期間信号Stdは、時刻t7に短絡が発生するとLowレベルに戻る。電流降下時間は5ms程度に設定されるので、時刻t61のタイミングは正送ピーク期間Tsp中となる。
実施の形態1の発明においては、図1の材質選択回路MSによって母材の材質が選択されると、材質選択信号Msが図1の逆送ピーク値設定回路WRRに入力されて、材質に最適な逆送ピーク値設定信号Wrrが出力される。材質選択信号Ms=2のステンレス鋼のときはMs=1の鉄鋼のときに比べて、逆送ピーク値設定信号Wrrの絶対値を小さく設定する必要がある。これは、図2の時刻t4においてアークが発生したときの逆送ピーク値Wrpが大きいと、溶接ワイヤ先端の残留溶滴に横振れの振動が発生して、スパッタが多く発生するためである。ステンレス鋼は鉄鋼に比べて粘性が大きいために、アークが発生した時点における残留溶滴が大きくなり、これが横振れの原因となる。したがって、ステンレス鋼のときは鉄鋼のときに比べて、逆送ピーク値Wrpの絶対値を40〜70%に小さくする必要がある。例えば、Ms=1(鉄鋼)のときのWrp=−50m/minであり、Ms=2(ステンレス鋼)のときのWrp=−30m/minである。特に、溶接電流Iwの平均値が100〜180Aとなる範囲において、上記の横振れ振動が顕著に発生する。このために、この電流範囲のときにのみ逆送ピーク値Wrpを小さくしても良い。この原因は、電流範囲が100A未満になるとアーク発生時の残留溶滴が小さくなり、横振れ振動が生じにくくなるためである。また、電流範囲が180Aを超えると、残留溶滴が大きくなり、やはり横振れ振動が生じにくくなるためである。すなわち、残留溶滴の大きさが中間的なときに、横振れ振動が発生しやすくなる。
実施の形態1の発明において、より好ましくは、図1の材質選択回路MSによって母材の材質が選択されると、材質選択信号Msが図1の正送ピーク値設定回路WSRに入力されて、材質に最適な正送ピーク値設定信号Wsrが出力される。材質選択信号Ms=2のステンレス鋼のときはMs=1の鉄鋼のときに比べて、正送ピーク値設定信号Wsrの絶対値を小さく設定することが望ましい。これは、図2の時刻t1〜t4の短絡期間中の正送ピーク値Wspが大きいと、溶滴が強く溶融池に押し込まれて、スパッタが多く発生するためである。ステンレス鋼は鉄鋼に比べて粘性が大きいために、短絡期間中の溶滴移行が円滑ではないので、強く押し込まれるとスパッタが発生することになる。したがって、ステンレス鋼のときは鉄鋼のときに比べて、正送ピーク値Wspの絶対値を40〜70%に小さくする必要がある。例えば、Ms=1(鉄鋼)のときのWsp=55m/minであり、Ms=2(ステンレス鋼)のときのWsp=35m/minである。
実施の形態1の発明において、さらにより好ましくは、図1の材質選択回路MSによって母材の材質が選択されると、材質選択信号Msが図1の逆送減速期間設定回路TRDRに入力されて、材質に最適な逆送減速期間設定信号Trdrが出力される。材質選択信号Ms=2のステンレス鋼のときはMs=1の鉄鋼のときに比べて、逆送減速期間設定信号Trdrの値を長く設定することが望ましい。これは、図2の時刻t4〜t5のアークが発生して溶接ワイヤが逆送されている期間が短いと、送給速度Fwの変化が急峻になり、残留溶滴が横振れ振動を発生して、スパッタが多く発生するためである。したがって、ステンレス鋼のときは鉄鋼のときに比べて、逆送減速期間Trdの値を150〜200%に長くする必要がある。例えば、Ms=1(鉄鋼)のときのTrd=1.0msであり、Ms=2(ステンレス鋼)のときのTrd=1.5msである。
上記において、ステンレス鋼のときに逆送ピーク値Wrpを小さくすることは、スパッタが多く発生して溶接品質が著しく悪くなるので必須条件である。これに加えて、正送ピーク値Wspを小さくすると、スパッタが少し少なくなるので、必須条件ではなく、より好ましい条件である。同様に、逆送減速期間Trdを長くすることは、よりスパッタを少なくすることになり、必須条件ではなく、さらにより好ましい条件である。
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、送給速度の逆送ピーク値及び正送ピーク値の絶対値を、シールドガスに占める不活性ガスの体積%が大きくなるほど小さな値に設定するものである。
図3は、本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した図1と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、図1の材質選択回路MSを不活性ガス比率設定回路ARに置換し、図1の逆送ピーク値設定回路WRRを第2逆送ピーク値設定回路WRR2に置換し、図1の正送ピーク値設定回路WSRを第2正送ピーク値設定回路WSR2に置換し、図1の逆送減速期間設定回路TRDRを第2逆送減速期間設定回路TRDR2に置換したものである。以下、同図を参照して、これらのブロックについて説明する。
不活性ガス比率設定回路ARは、シールドガスに占める不活性ガスの体積%を設定するための不活性ガス比率設定信号Arを出力する。シールドガスが、炭酸ガス100%の場合にはAr=0となり、炭酸ガス80%+アルゴンガス20%のマグガスの場合はAr=20となり、炭酸ガス2%+アルゴンガス98%のM2ガスの場合はAr=98となり、アルゴンガス100%の場合はAr=100となる。
第2逆送ピーク値設定回路WRR2は、上記の不活性ガス比率設定信号Arを入力として、不活性ガス比率設定信号Arを入力とする予め定めた逆送ピーク値算出関数に基づいて逆送ピーク値を算出して、逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。逆送ピーク値算出関数は、不活性ガス比率設定信号Arが大きいほど逆送ピーク値が小さくなる関数である。
第2正送ピーク値設定回路WSR2は、上記の不活性ガス比率設定信号Arを入力として、不活性ガス比率設定信号Arを入力とする予め定めた正送ピーク値算出関数に基づいて正送ピーク値を算出して、正送ピーク値設定信号Wsrを出力する。正送ピーク値算出関数は、不活性ガス比率設定信号Arが大きいほど正送ピーク値が小さくなる関数である。
第2逆送減速期間設定回路TRDR2は、予め定めた逆送減速期間設定信号Trdrを出力する。
母材の材質が鉄鋼である場合には不活性ガス比率設定信号Ar=0〜20%の範囲のシールドガスが使用される。ステンレス鋼の場合にはAr=98〜100%のシールドガスが使用される。不活性ガス比率設定信号Arが大きいほど逆送ピーク値及び正送ピーク値の絶対値は小さくなる。このために、実施の形態1と同様に、ステンレス鋼のときは鉄鋼のときよりも両値は小さくなる。但し、実施の形態2では、母材がステンレス鋼であっても、不活性ガス比率が異なると両値が変化して適正化されるので、よりアークの安定性が向上する。
上述した実施の形態2の発明によれば、不活性ガス比率が大きくなるほど逆送ピーク値及び正送ピーク値の絶対値が小さくなるようにしている。このために、使用するシールドガスの不活性ガス比率に応じて適正な逆送ピーク値及び正送ピーク値の絶対値を設定することができるので、アークの安定性をさらに向上させることができる。
[実施の形態3]
実施の形態3の発明は、送給速度の逆送ピーク値及び正送ピーク値の絶対値を、溶接トーチの前進角が大きくなるほど小さな値に設定するものである。
図4は、本発明の実施の形態3に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した図1と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、図1に前進角設定回路BRを追加し、図1の逆送ピーク値設定回路WRRを第3逆送ピーク値設定回路WRR3に置換し、図1の正送ピーク値設定回路WSRを第3正送ピーク値設定回路WSR3に置換したものである。以下、同図を参照して、これらのブロックについて説明する。
前進角設定回路BRは、溶接作業者が溶接トーチの前進角を入力して前進角設定信号Brを出力する。溶接トーチがロボットに把持されている場合には、ロボット制御装置にこの前進角設定回路BRが内蔵されている。また、溶接トーチにジャイロセンサを組み込み、前進角を自動検出するようにしても良い。
第3逆送ピーク値設定回路WRR3は、上記の材質選択信号Ms及び上記の前進角設定信号Brを入力として、材質選択信号Msに対応して予め定めた逆送ピーク値を算出し、この逆送ピーク値を前進角設定信号Brを入力とする予め定めた逆送ピーク値修正関数によって修正し、逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。逆送ピーク値修正関数は、前進角設定信号Brが大きいほど逆送ピーク値が小さくなるように修正する関数である。
第3正送ピーク値設定回路WSR3は、上記の材質選択信号Ms及び上記の前進角設定信号Brを入力として、材質選択信号Msに対応して予め定めた正送ピーク値を算出し、この正送ピーク値を前進角設定信号Brを入力とする予め定めた正送ピーク値修正関数によって修正し、正送ピーク値設定信号Wsrを出力する。正送ピーク値修正関数は、前進角設定信号Brが大きいほど正送ピーク値が小さくなるように修正する関数である。
溶接トーチの前進角が大きくなるほど、アーク再発生時の残留溶滴に発生する横振れの振動が大きくなる。さらに、溶接トーチの前進角が大きくなるほど、短絡期間中の溶接ワイヤの押し込みによるスパッタ量が多くなる。このために、実施の形態2の発明では、前進角が大きくなるほど、逆送ピーク値及び正送ピーク値を小さくすることによって、横振れ振動を緩和してアーク安定性を向上させ、短絡期間中のスパッたの発生量を削減している。
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
AR 不活性ガス比率設定回路
Ar 不活性ガス比率設定信号
BR 前進角設定回路
Br 前進角設定信号
CM 電流比較回路
Cm 電流比較信号
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
E 出力電圧
Ea 誤差増幅信号
ED 出力電圧検出回路
Ed 出力電圧検出信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
ER 出力電圧設定回路
Er 出力電圧設定信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
ILR 低レベル電流設定回路
Ilr 低レベル電流設定信号
Iw 溶接電流
MS 材質選択回路
Ms 材質選択信号
ND くびれ検出回路
Nd くびれ検出信号
PM 電源主回路
R 減流抵抗器
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
STD 小電流期間回路
Std 小電流期間信号
SW 電源特性切換回路
TR トランジスタ
Trd 逆送減速期間
TRDR 逆送減速期間設定回路
Trdr 逆送減速期間設定信号
Trp 逆送ピーク期間
Tru 逆送加速期間
TRUR 逆送加速期間設定回路
Trur 逆送加速期間設定信号
Tsd 正送減速期間
TSDR 正送減速期間設定回路
Tsdr 正送減速期間設定信号
TSDR2 第2正送減速期間設定回路
Tsp 正送ピーク期間
Tsu 正送加速期間
TSUR 正送加速期間設定回路
Tsur 正送加速期間設定信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
Vw 溶接電圧
WL リアクトル
WM 送給モータ
Wrp 逆送ピーク値
WRR 逆送ピーク値設定回路
Wrr 逆送ピーク値設定信号
WRR2 第2逆送ピーク値設定回路
WRR3 第3逆送ピーク値設定回路
Wsp 正送ピーク値
WSR 正送ピーク値設定回路
Wsr 正送ピーク値設定信号
WSR2 第2正送ピーク値設定回路
WSR3 第3正送ピーク値設定回路

Claims (5)

  1. 母材の材質を選択すると送給速度のパラメータが前記母材の前記材質ごとに予め記憶された値に設定され、溶接ワイヤの前記送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法において、
    前記母材の前記材質がステンレス鋼のときの予め記憶された前記送給速度の逆送ピーク値の絶対値が、前記母材の前期材質が鉄鋼のときの予め記憶された前記送給速度の前記逆送ピーク値の絶対値よりも小さな値である、
    ことを特徴とするアーク溶接制御方法。
  2. 前記母材の前記材質がステンレス鋼のときの予め記憶された前記送給速度の正送ピーク値の絶対値が、前記母材の前期材質が鉄鋼のときの予め記憶された前記送給速度の前記正送ピーク値の絶対値よりも小さな値である、
    ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接制御方法。
  3. 前記母材の前記材質がステンレス鋼のときの予め記憶された前記送給速度の逆送減速期間が、前記母材の前期材質が鉄鋼のときの予め記憶された前記送給速度の前記逆送減速期間よりも長い期間である、
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク溶接制御方法。
  4. シールドガスに占める不活性ガスの体積%を設定すると、前記送給速度の前記逆送ピーク値及び前記正送ピーク値の絶対値が前記シールドガスに占める不活性ガスの体積%に応じた値に設定され、
    記シールドガスに占める不活性ガスの体積%が大きくなるほど、前記送給速度の前記逆送ピーク値及び前記正送ピーク値の絶対値は小さな値になる、
    ことを特徴とする請求項2に記載のアーク溶接制御方法。
  5. 溶接トーチの前進角を設定すると、前記送給速度の前記逆送ピーク値及び前記正送ピーク値の絶対値が前記溶接トーチの前記前進角に応じた値に設定され、
    前記溶接トーチの前記前進角が大きくなるほど、前記送給速度の前記逆送ピーク値及び前記正送ピーク値の絶対値は小さな値になる、
    ことを特徴とする請求項2に記載のアーク溶接制御方法。
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