JP6929003B2 - アーク溶接制御方法 - Google Patents

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Description

本発明は、母材の材質が亜鉛メッキ鋼板であり、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法に関するものである。
一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
溶接品質をさらに向上させるために、溶接ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
日本国特表2008−531283号公報
亜鉛メッキ鋼板のアーク溶接においては、溶接中に母材表面の亜鉛がアーク熱によって蒸気となり、溶融池からガスとして噴出し、溶接状態が不安定になる現象が生じる。また、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換えるアーク溶接では、送給速度が一定である通常のアーク溶接に比べて、このガス噴出現象が顕著となる。
そこで、本発明では、母材の材質が亜鉛メッキ鋼板であり、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換えるアーク溶接において、溶接状態を安定化し、スパッタ発生量を削減することができるアーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
本開示のアーク溶接制御方法は、
母材の材質が亜鉛メッキ鋼板であり、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法において、
前記アーク期間中は、第1アーク電流Ia1を通電する第1アーク期間と、第2アーク電流Ia2を通電する第2アーク期間と、第3アーク電流Ia3を通電する第3アーク期間とを経時的に切り換え、Ia1>Ia2>Ia3となるように制御し、
前記第2アーク期間中は定電圧制御する、
ことを特徴とするものである。
本開示のアーク溶接制御方法は、前記第1アーク期間中は定電流制御する、
ことを特徴とするものである。
本開示のアーク溶接制御方法は、前記第1アーク期間及び/又は前記第1アーク電流の値は、亜鉛蒸気が溶融池から排出されて溶融池内に残留しない値に設定される、
ことを特徴とするものである。
本開示のアーク溶接制御方法は、前記第1アーク期間及び/又は前記第1アーク電流Ia1の値を、前記母材の単位面積当たりの亜鉛付着量に応じて変化させる、
ことを特徴とするものである。
本開示のアーク溶接制御方法は、前記正送期間と前記逆送期間との繰り返し周波数の平均値が70Hz以上90Hz以下の範囲になるように前記送給速度の波形パラメータを設定する、
ことを特徴とするものである。
本開示のアーク溶接制御方法は、前記波形パラメータは、少なくとも正送ピーク値及び逆送ピーク値である、
ことを特徴とするものである。
本開示のアーク溶接制御方法は、前記周波数の平均値を前記母材の単位面積当たりの亜鉛付着量が多くなるほど低くなるように前記波形パラメータを設定する、
ことを特徴とするものである。
本発明によれば、母材の材質が亜鉛メッキ鋼板であり、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換えるアーク溶接において、溶接状態を安定化し、スパッタ発生量を削減することができる。
本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。 本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。 本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。 本発明の実施の形態3に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の誤差増幅信号Eaによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
リアクトルWLは、上記の出力電圧Eを平滑する。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば100μHである。
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを交互に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。母材2の材質は、亜鉛メッキ鋼板である。
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間にあると判別してHighレベルになり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
正送加速期間設定回路TSURは、予め定めた正送加速期間設定信号Tsurを出力する。
正送減速期間設定回路TSDRは、予め定めた正送減速期間設定信号Tsdrを出力する。
逆送加速期間設定回路TRURは、予め定めた逆送加速期間設定信号Trurを出力する。
逆送減速期間設定回路TRDRは、予め定めた逆送減速期間設定信号Trdrを出力する。
正送ピーク値設定回路WSRは、予め定めた正送ピーク値設定信号Wsrを出力する。
逆送ピーク値設定回路WRRは、予め定めた逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。
送給速度設定回路FRは、上記の正送加速期間設定信号Tsur、上記の正送減速期間設定信号Tsdr、上記の逆送加速期間設定信号Trur、上記の逆送減速期間設定信号Trdr、上記の正送ピーク値設定信号Wsr、上記の逆送ピーク値設定信号Wrr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理によって生成された送給速度パターンを送給速度設定信号Frとして出力する。この送給速度設定信号Frが0以上のときは正送期間となり、0未満のときは逆送期間となる。
1)正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu中は0から正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正の値の正送ピーク値Wspまで直線状に加速する送給速度設定信号Frを出力する。
2)続いて、正送ピーク期間Tsp中は、上記の正送ピーク値Wspを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)からHighレベル(短絡期間)に変化すると、正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsdに移行し、上記の正送ピーク値Wspから0まで直線状に減速する送給速度設定信号Frを出力する。
4)続いて、逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru中は0から逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる負の値の逆送ピーク値Wrpまで直線状に加速する送給速度設定信号Frを出力する。
5)続いて、逆送ピーク期間Trp中は、上記の逆送ピーク値Wrpを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
6)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)からLowレベル(アーク期間)に変化すると、逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdに移行し、上記の逆送ピーク値Wrpから0まで直線状に減速する送給速度設定信号Frを出力する。
7)上記の1)〜6)を繰り返すことによって正負の台形波状に変化する送給パターンの送給速度設定信号Frが生成される。
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
減流抵抗器Rは、上記のリアクトルWLと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01〜0.03Ω程度)の10倍以上大きな値(0.5〜3Ω程度)に設定される。この減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、リアクトルWL及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。
トランジスタTRは、上記の減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の電圧検出信号Vd及び上記の電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの電圧検出信号Vdの電圧上昇値が基準値に達した時点でくびれの形成状態が基準状態になったと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応した基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、電圧検出信号Vdの値を電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応する基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。
第1アーク期間設定回路TA1Rは、予め定めた第1アーク期間設定信号Ta1rを出力する。第1アーク期間回路STA1は、上記の短絡判別信号Sd及び上記の第1アーク期間設定信号Ta1rを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化し予め定めた遅延期間Tcが経過した時点から第1アーク期間設定信号Ta1rによって予め定めた第1アーク期間Ta1中はHighレベルとなる第1アーク期間信号Sta1を出力する。
第1アーク電流設定回路IA1Rは、予め定めた第1アーク電流設定信号Ia1rを出力する。
第3アーク期間回路STA3は、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から予め定めた電流降下時間Tdが経過した時点でHighレベルになり、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になるとLowレベルになる第3アーク期間信号Sta3を出力する。
第3アーク電流設定回路IA3Rは、予め定めた第3アーク電流設定信号Ia3rを出力する。
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr、上記のくびれ検出信号Nd、上記の第1アーク期間信号Sta1、上記の第3アーク期間信号Sta3、上記の第1アーク電流設定信号Ia1r及び上記の第3アーク電流設定信号Ia3rを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から第1アーク期間信号Sta1がHighレベルに変化するまでの遅延期間中は、低レベル電流設定信号Ilrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
2)第1アーク期間信号Sta1がHighレベル(第1アーク期間)のときは、第1アーク電流設定信号Ia1rとなる電流制御設定信号Icrを出力する。
3)第1アーク期間信号Sta1がLowレベルに変化した時点から第3アーク期間信号Sta3がLowレベルに変化するまでの期間(第2アーク期間及び第3アーク期間)中は、第3アーク電流設定信号Ia3rとなる電流制御設定信号Icrを出力する。
4)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化すると、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流設定値となり、その後は予め定めた短絡時傾斜で予め定めた短絡時ピーク設定値まで上昇してその値を維持する電流制御設定信号Icrを出力する。
5)その後に、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化すると、低レベル電流設定信号Ilrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr及び上記の電流検出信号Idを入力として、電流制御設定信号Icr(+)と電流検出信号Id(−)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
電源特性切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の第1アーク期間信号Sta1及び上記の第3アーク期間信号Sta3を入力として、以下の処理を行い、誤差増幅信号Eaを出力する。
1)第1アーク期間信号Sta1がLowレベルに変化し、第3アーク期間信号Sta3がHighレベルに変化するまでの第2アーク期間Ta2中は、電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
2)それ以外の期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
この回路によって、溶接電源の特性は、短絡期間、遅延期間、第1アーク期間Ta1及び第3アーク期間Ta3中は定電流特性となり、第2アーク期間Ta2中は定電圧特性となる。
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は第1アーク期間信号Sta1の時間変化を示し、同図(F)は第3アーク期間信号Sta3の時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
同図(A)に示す送給速度Fwは、図1の送給速度設定回路FRから出力される送給速度設定信号Frの値に制御される。送給速度Fwは、図1の正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu、短絡が発生するまで継続する正送ピーク期間Tsp、図1の正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsd、図1の逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru、アークが発生するまで継続する逆送ピーク期間Trp及び図1の逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdから形成される。さらに、正送ピーク値Wspは図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって定まり、逆送ピーク値Wrpは図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる。この結果、送給速度設定信号Frは、正負の略台形波波状に変化する送給パターンとなる。
[時刻t1〜t4の短絡期間の動作]
正送ピーク期間Tsp中の時刻t1において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化する。これに応動して、時刻t1〜t2の予め定めた正送減速期間Tsdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の正送ピーク値Wspから0まで減速する。例えば、正送減速期間Tsd=1msに設定される。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは時刻t2〜t3の予め定めた逆送加速期間Truに入り、0から上記の逆送ピーク値Wrpまで加速する。この期間中は短絡期間が継続している。例えば、逆送加速期間Tru=1msに設定される。
時刻t3において逆送加速期間Truが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送ピーク期間Trpに入り、上記の逆送ピーク値Wrpになる。逆送ピーク期間Trpは、時刻t4にアークが発生するまで継続する。したがって、時刻t1〜t4の期間が短絡期間となる。逆送ピーク期間Trpは所定値ではないが、4ms程度となる。また、例えば、逆送ピーク値Wrp=−20〜−50m/minに設定される。
同図(B)に示すように、時刻t1〜t4の短絡期間中の溶接電流Iwは、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流値となる。その後、溶接電流Iwは、予め定めた短絡時傾斜で上昇し、予め定めた短絡時ピーク値に達するとその値を維持する。
同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが短絡時ピーク値となるあたりから上昇する。これは、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwによるピンチ力の作用により、溶接ワイヤ1の先端の溶滴にくびれが次第に形成されるためである。
その後に溶接電圧Vwの電圧上昇値が基準値に達すると、くびれの形成状態が基準状態になったと判別して、図1のくびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。
くびれ検出信号NdがHighレベルになったことに応動して、図1の駆動信号DrはLowレベルになるので、図1のトランジスタTRはオフ状態となり図1の減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、図1の電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrの値に小さくなる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは短絡時ピーク値から低レベル電流値へと急減する。そして、溶接電流Iwが低レベル電流値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、トランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、アーク再発生から予め定めた遅延期間Tcが経過するまでは低レベル電流値を維持する。したがって、トランジスタTRは、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化した時点から溶接電流Iwが低レベル電流値に減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので一旦減少した後に急上昇する。上述した各パラメータは、例えば以下の値に設定される。初期電流=40A、初期期間=0.5ms、短絡時傾斜=2ms、短絡時ピーク値=400A、低レベル電流値=50A、遅延期間Tc=1ms。
[時刻t4〜t7のアーク期間の動作]
時刻t4において、溶接ワイヤの逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってくびれが進行してアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する。これに応動して、時刻t4〜t5の予め定めた逆送減速期間Trdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する。
時刻t5において逆送減速期間Trdが終了すると、時刻t5〜t6の予め定めた正送加速期間Tsuに移行する。この正送加速期間Tsu中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは0から上記の正送ピーク値Wspまで加速する。この期間中はアーク期間が継続している。例えば、正送加速期間Tsu=1msに設定される。
時刻t6において正送加速期間Tsuが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送ピーク期間Tspに入り、上記の正送ピーク値Wspになる。この期間中もアーク期間が継続している。正送ピーク期間Tspは、時刻t7に短絡が発生するまで継続する。したがって、時刻t4〜t7の期間がアーク期間となる。そして、短絡が発生すると、時刻t1の動作に戻る。正送ピーク期間Tspは所定値ではないが、5ms程度となる。また、例えば、正送ピーク値Wsp=20〜50m/minに設定される。
時刻t4においてアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。他方、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t4から遅延期間Tcの間は低レベル電流値を継続する。これは、アークが発生した直後に電流値を上昇させると、溶接ワイヤの逆送と溶接電流による溶接ワイヤの溶融とが加算されて、アーク長が急速に長くなり、溶接状態が不安定になる場合があるためである。
正送加速期間Tsu中の時刻t51において、遅延期間Tcが終了すると、同図(E)に示すように、第1アーク期間信号Sta1がHighレベルに変化し、時刻t51〜t61の予め定めた第1アーク期間Ta1に移行する。この第1アーク期間Ta1中は引き続き定電流制御され、同図(B)に示すように、図1の第1アーク電流設定信号Ia1rによって定まる所定の第1アーク電流Ia1が通電する。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは電流値及びアーク負荷によって定まる値となり、大きな値となる。例えば、第1アーク期間Ta1=1〜2ms程度に設定され、第1アーク電流Ia1=300〜500A程度に設定される。
時刻t62において、アーク発生時点t4から予め定めた電流降下時間Tdが経過すると、同図(F)に示すように、第3アーク期間信号Sta3がHighレベルに変化する。時刻t61〜t62の期間が第2アーク期間Ta2となる。この第2アーク期間Ta2中は、定電圧制御される。同図(B)に示すように、第2アーク電流Ia2はアーク負荷によって変化するが、第1アーク電流Ia1よりも小さい値であり、かつ、第3アーク電流Ia3よりも大きな値となる。すなわち、Ia1>Ia2>Ia3となるように出力制御される。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは定電圧制御によって所定値に制御され、第1アーク期間Ta1の電圧値と第3アーク期間Ta3の電圧値との中間値となる。第2アーク期間Ta2は所定値ではないが、3〜6ms程度となる。
第3アーク期間信号Sta3がHighレベルに変化する時刻t62から短絡が発生する時刻t7までの期間が、第3アーク期間Ta3となる。この第3アーク期間Ta3中は、定電流制御される。同図(B)に示すように、図1の第3アーク電流設定信号Ia3rによって定まる所定の第3アーク電流Ia3が通電する。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは電流値及びアーク負荷によって定まる値となる。例えば、第3アーク電流Ia3=60Aに設定される。第3アーク期間Ta3は所定値ではないが、1〜2ms程度となる。
以下、実施の形態1の作用効果について説明する。実施の形態1によれば、アーク期間を、主に第1アーク電流Ia1が通電する第1アーク期間Ta1、第2アーク電流Ia2が通電する第2アーク期間Ta2及び第3アーク電流Ia3が通電する第3アーク期間Ta3の3つの期間に区分して出力制御している。Ia1>Ia2>Ia3である。
(1)第1アーク電流Ia1を大電流値とすることによって溶融池への入熱を大きくし、亜鉛蒸気の溶融池からの排出を促進し、かつ、健全な溶け込みを確保している。したがって、第1アーク期間Ta1及び/又は第1アーク電流Ia1の各値は、亜鉛蒸気が溶融池から排出されて溶融池内に残留しないように設定される。
(2)第2アーク電流Ia2を第1アーク電流Ia1よりも小電流値とすることによって、亜鉛蒸気の溶融池からの爆発的噴出を抑制し、溶接状態を安定化している。第2アーク電流Ia2は、亜鉛蒸気の発生を緩和することができる電流値となる。
(3)第3アーク電流Ia3をさらに小電流値とすることによって溶接ワイヤの溶融を抑制し、短絡発生へと導いている。これにより、短絡期間とアーク期間との繰り返し周期を安定化し、溶接状態の安定化を図っている。第3アーク電流Ia3は、溶接ワイヤが溶融しない程度の小電流値に設定される。
さらに、第2アーク期間Ta2は、定電圧制御することが望ましい。この期間を定電圧制御することによってアーク長を適正値に維持することができ、溶接状態を安定化することができる。
さらに、第1アーク期間Ta1は、定電流制御することが望ましい。定電流制御すると、第1アーク電流Ia1の値がアーク負荷によらず所定値となる。このために、この期間中における溶融池への入熱量を所望値に制御することができる。この結果、適正な入熱によって亜鉛蒸気の排出を促進することができる。この期間における入熱量が過大になると、第2アーク期間Ta2中の第2アーク電流Ia2の平均値が小さくなるので、ビード外観が悪くなる。したがって、この期間中の入熱量を適正化することは重要である。
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、第1アーク期間Ta1及び/又は第1アーク電流Ia1の値を母材の単位面積当たりの亜鉛付着量に応じて変化させる。
図3は、本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した図1と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、図1に亜鉛付着量設定回路ZRを追加し、図1の第1アーク期間設定回路TA1Rを修正第1アーク期間設定回路TA1Rに置換し、図1の第1アーク電流設定回路IA1Rを修正第1アーク電流設定回路IA1Rに置換したものである。以下、同図を参照して、これらのブロックについて説明する。
亜鉛付着量設定回路ZRは、母材の単位面積当たりの亜鉛付着量に相関した亜鉛付着量設定信号Zrを出力する。例えば、この亜鉛付着量設定信号Zrは、溶接電源のフロントパネルに設けられたツマミの位置に対応して1〜5の正数値を出力する信号である。標準値は3となっている。溶接作業者が母材の亜鉛付着量が多いと判断したときはツマミを調整して4又は5にする。逆に亜鉛付着量が少ないと判断したときは1又は2に調整する。
修正第1アーク期間設定回路TA1Rは、上記の亜鉛付着量設定信号Zrを入力として、亜鉛付着量設定信号Zrの値が大きくなるほど第1アーク期間設定信号Ta1rの値を長くして出力する。
修正第1アーク電流設定回路IA1Rは、上記の亜鉛付着量設定信号Zrを入力として、亜鉛付着量設定信号Zrの値が大きくなるほど第1アーク電流設定信号Ia1rの値を大きくして出力する。
本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を示すタイミングチャートは、上述した図2と同様であるので、説明は繰り返さない。但し、第1アーク期間Ta1及び/又は第1アーク電流Ia1の値が、亜鉛付着量設定信号Zrの値に応じて変化する点は異なっている。
上述した実施の形態2によれば、第1アーク期間及び/又は第1アーク電流Ia1の値を、母材の単位面積当たりの亜鉛付着量に応じて変化させる。これにより、第1アーク期間中の溶融池への入熱量を母材の亜鉛付着量に応じて適正化することができる。このために、亜鉛付着量に応じて亜鉛蒸気の排出効果を適正化することができる。
[実施の形態3]
実施の形態3の発明は、正送期間と逆送期間との繰り返し周波数の平均値が70Hz以上90Hz以下の範囲になるように送給速度の波形パラメータを設定する。
図4は、本発明の実施の形態3に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した図3と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、図3の正送ピーク値設定回路WSR及び逆送ピーク値設定回路WRRを削除し、正送逆送ピーク値設定回路WRを追加したものである。以下、同図を参照して、このブロックについて説明する。
正送逆送ピーク値設定回路WRは、上記の亜鉛付着量設定信号Zrを入力とする予め定めた関数によって算出された正送ピーク値設定信号Wsr及び逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。この関数は、亜鉛付着量設定信号Zrの値が大きいほど正送ピーク値設定信号Wsr及び逆送ピーク値設定信号Wrrの値が小さくなる関数である。送給速度Fwの正送期間と逆送期間との繰り返し周波数の平均値が70Hz以上90Hz以下の範囲になるようにこの関数は設定される。より好ましくは周波数が75Hz以上85Hz以下の範囲になるようにこの関数は設定される。亜鉛付着量設定信号Zrの値が大きいほど正送ピーク値設定信号Wsr及び逆送ピーク値設定信号Wrrの値が小さくなるので、周波数は上記の範囲内で低くなるように変化する。
本発明の実施の形態3に係るアーク溶接制御方法を示すタイミングチャートは、上述した図2と同様であるので、説明は繰り返さない。但し、以下の点は異なっている。実施の形態3によれば、送給速度の正送期間と逆送期間との繰り返し周波数の平均値が70Hz以上90Hz以下の範囲になるように送給速度の波形パラメータを設定する。送給速度の波形パラメータとしては、少なくとも正送ピーク値及び逆送ピーク値である。周波数が70Hzよりも小さくなると、アーク期間中の母材への入熱が過大となり、亜鉛蒸気の噴出が激しくなる。この結果、溶接状態が不安定になり、スパッタ発生量も多くなる。周波数が90Hzを超えると、アーク期間が短くなり、第3アーク期間を確保することが難しくなる。この結果、スパッタ発生量が多くなり、溶接状態も悪くなる。周波数が75Hz以上85Hz以下の範囲にあると、溶接状態はさらに安定化し、スパッタ発生量もより少なくなる。
さらに、周波数の平均値を亜鉛メッキ鋼板の単位面積当たりの亜鉛付着量が多くなるほど低くなるように前記波形パラメータを設定する。母材の亜鉛付着量が多くなるほど亜鉛蒸気の噴出が激しくなるので、周波数の平均値が上記の範囲内において低くなるようにした方が、溶接状態は安定化する。
本発明によれば、母材の材質が亜鉛メッキ鋼板であり、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換えるアーク溶接において、溶接状態を安定化し、スパッタ発生量を削減することができるアーク溶接制御方法を提供することができる。
以上、本発明を特定の実施形態によって説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、開示された発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
本出願は、2016年10月31日出願の日本特許出願(特願2016−213269)と、2016年11月30日出願の日本特許出願(特願2016−232039)と、に基づくものであり、その内容はここに取り込まれる。
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
CM 電流比較回路
Cm 電流比較信号
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
E 出力電圧
Ea 誤差増幅信号
ED 出力電圧検出回路
Ed 出力電圧検出信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
ER 出力電圧設定回路
Er 出力電圧設定信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
Ia1 第1アーク電流
IA1R (修正)第1アーク電流設定回路
Ia1r 第1アーク電流設定信号
Ia2 第2アーク電流
Ia3 第3アーク電流
IA3R 第3アーク電流設定回路
Ia3r 第3アーク電流設定信号
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
ILR 低レベル電流設定回路
Ilr 低レベル電流設定信号
Iw 溶接電流
ND くびれ検出回路
Nd くびれ検出信号
PM 電源主回路
R 減流抵抗器
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
STA1 第1アーク期間回路
Sta1 第1アーク期間信号
STA3 第3アーク期間回路
Sta3 第3アーク期間信号
SW 電源特性切換回路
Ta1 第1アーク期間
TA1R (修正)第1アーク期間設定回路
Ta1r 第1アーク期間設定信号
Ta2 第2アーク期間
Ta3 第3アーク期間
Tc 遅延期間
Td 電流降下時間
TR トランジスタ
Trd 逆送減速期間
TRDR 逆送減速期間設定回路
Trdr 逆送減速期間設定信号
Trp 逆送ピーク期間
Tru 逆送加速期間
TRUR 逆送加速期間設定回路
Trur 逆送加速期間設定信号
Tsd 正送減速期間
TSDR 正送減速期間設定回路
Tsdr 正送減速期間設定信号
Tsp 正送ピーク期間
Tsu 正送加速期間
TSUR 正送加速期間設定回路
Tsur 正送加速期間設定信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
Vw 溶接電圧
WL リアクトル
WM 送給モータ
WR 正送逆送ピーク値設定回路
Wrp 逆送ピーク値
WRR 逆送ピーク値設定回路
Wrr 逆送ピーク値設定信号
Wsp 正送ピーク値
WSR 正送ピーク値設定回路
Wsr 正送ピーク値設定信号
ZR 亜鉛付着量設定回路
Zr 亜鉛付着量設定信号

Claims (7)

  1. 母材の材質が亜鉛メッキ鋼板であり、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法において、
    前記アーク期間中は、第1アーク電流Ia1を通電する第1アーク期間と、第2アーク電流Ia2を通電する第2アーク期間と、第3アーク電流Ia3を通電する第3アーク期間とを経時的に切り換え、Ia1>Ia2>Ia3となるように制御し、
    前記第2アーク期間中は定電圧制御する、
    アーク溶接制御方法。
  2. 前記第1アーク期間中は定電流制御する、
    請求項1に記載のアーク溶接制御方法。
  3. 前記第1アーク期間及び/又は前記第1アーク電流の値は、亜鉛蒸気が溶融池から排出されて溶融池内に残留しない値に設定される、
    請求項1〜2のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
  4. 前記第1アーク期間及び/又は前記第1アーク電流Ia1の値を、前記母材の単位面積当たりの亜鉛付着量に応じて変化させる、
    請求項1〜3のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
  5. 前記正送期間と前記逆送期間との繰り返し周波数の平均値が70Hz以上90Hz以下の範囲になるように前記送給速度の波形パラメータを設定する、
    請求項1〜4のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
  6. 前記波形パラメータは、少なくとも正送ピーク値及び逆送ピーク値である、
    請求項に記載のアーク溶接制御方法。
  7. 前記周波数の平均値を前記母材の単位面積当たりの亜鉛付着量が多くなるほど低くなるように前記波形パラメータを設定する、
    請求項5又は6に記載のアーク溶接制御方法。
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