JP7075705B2 - アーク溶接制御方法 - Google Patents

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Description

本発明は、溶接ワイヤの材質がアルミニウム又はアルミニウム合金であり、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法に関するものである。
一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
溶接品質をさらに向上させるために、溶接ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接する方法が提案されている。特許文献1の発明では、溶接電流設定値に応じた送給速度の平均値とし、溶接ワイヤの正送と逆送との周波数及び振幅を溶接電流設定値に応じた値としている。
また、溶接ワイヤの材質が鉄鋼又はステンレス鋼であるときには、スパッタ発生量を削減するために、短絡期間からアークが発生する予兆を検出して溶接電流を数十Aまで急減させる電流制御が行われる。アーク発生の予兆は、溶滴にくびれが発生して溶滴の抵抗値が増大することを検出することによって行う。このために、この電流制御はくびれ検出制御と呼ばれる。
日本国特許第5201266号公報
溶接ワイヤの材質がアルミニウム又はアルミニウム合金(以下、アルミニウム材という)であるときには、その抵抗値が小さいために、抵抗値の増大によってくびれの発生を検出することが困難になる。このために、短絡期間中にアークが発生する予兆を検出して溶接電流を急減させるくびれ検出制御を行うことができない。この結果、スパッタ発生量が増加するという問題があった。
そこで、本発明では、溶接ワイヤの材質がアルミニウム又はアルミニウム合金であり、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換える溶接方法において、スパッタ発生量を削減することができるアーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決するために、本開示のアーク溶接制御方法は、
溶接ワイヤの材質がアルミニウム又はアルミニウム合金であり、前記溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法において、
前記短絡期間中の溶接電流の最大値の平均値が150A以下となるように前記溶接電流を制御し、
前記逆送期間中の逆送ピーク値を、前記短絡期間の時間長さの平均値が7ms以下となるように設定し、
前記逆送ピーク値の絶対値を少なくとも40m/分以上に設定する、
ことを特徴とするものである。
本開示のアーク溶接制御方法は、
前記短絡期間の時間長さの平均値を検出し、前記短絡期間の時間長さの平均値が予め定めた短絡時間設定値と等しくなるように逆送減速期間をフィードバック制御する、
ことを特徴とするものである。
本開示のアーク溶接制御方法は、
前記短絡期間中の前記溶接電流を、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流値に制御し、その後は経時的に増加するように制御し、
前記初期期間を1.5ms以上に設定する、
ことを特徴とするものである。請求項1~2のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
本発明によれば、溶接ワイヤの材質がアルミニウム又はアルミニウム合金であり、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換える溶接方法において、スパッタ発生量を削減することができる。
本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。 本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。 本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。 本発明の実施の形態3に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の誤差増幅信号Eaによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
リアクトルWLは、上記の出力電圧Eを平滑する。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば100μHである。
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを交互に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。溶接ワイヤ1及び母材2の材質はアルミニウム又はアルミニウム合金である。
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(-)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間にあると判別してHighレベルになり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
正送加速期間設定回路TSURは、予め定めた正送加速期間設定信号Tsurを出力する。
正送減速期間設定回路TSDRは、予め定めた正送減速期間設定信号Tsdrを出力する。
逆送加速期間設定回路TRURは、予め定めた逆送加速期間設定信号Trurを出力する。
逆送減速期間設定回路TRDRは、予め定めた逆送減速期間設定信号Trdrを出力する。
正送ピーク値設定回路WSRは、予め定めた正送ピーク値設定信号Wsrを出力する。
逆送ピーク値設定回路WRRは、予め定めた逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。
送給速度設定回路FRは、上記の正送加速期間設定信号Tsur、上記の正送減速期間設定信号Tsdr、上記の逆送加速期間設定信号Trur、上記の逆送減速期間設定信号Trdr、上記の正送ピーク値設定信号Wsr、上記の逆送ピーク値設定信号Wrr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理によって生成された送給速度パターンを送給速度設定信号Frとして出力する。この送給速度設定信号Frが0以上のときは正送期間となり、0未満のときは逆送期間となる。
1)正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu中は0から正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正の値の正送ピーク値Wspまで直線状に加速する送給速度設定信号Frを出力する。
2)続いて、正送ピーク期間Tsp中は、上記の正送ピーク値Wspを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)からHighレベル(短絡期間)に変化すると、正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsdに移行し、上記の正送ピーク値Wspから0まで直線状に減速する送給速度設定信号Frを出力する。
4)続いて、逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru中は0から逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる負の値の逆送ピーク値Wrpまで直線状に加速する送給速度設定信号Frを出力する。
5)続いて、逆送ピーク期間Trp中は、上記の逆送ピーク値Wrpを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
6)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)からLowレベル(アーク期間)に変化すると、逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdに移行し、上記の逆送ピーク値Wrpから0まで直線状に減速する送給速度設定信号Frを出力する。
7)上記の1)~6)を繰り返すことによって正負の台形波状に変化する送給パターンの送給速度設定信号Frが生成される。
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
初期期間設定回路TIRは、予め定めた初期期間設定信号Tirを出力する。初期電流設定回路IIRは、予め定めた初期電流設定信号Iirを出力する。
電流増加率設定回路DIRは、予め定めた電流増加率設定信号Dirを出力する。
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の初期期間設定信号Tir、上記の初期電流設定信号Iir及び上記の電流増加率設定信号Dirを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化した時点から初期期間設定信号Tirによって定まる初期期間Ti中は、初期電流設定信号Iirを電流制御設定信号Icrとして出力する。
2)その後の短絡期間中は、初期電流設定信号Iirの値から電流増加率設定信号Dirによって定まる増加率Diで経時的に増加する電流制御設定信号Icrを出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化すると、予め定めた小電流値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr及び上記の電流検出信号Idを入力として、電流制御設定信号Icr(+)と電流検出信号Id(-)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
小電流期間回路STDは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から予め定めた電流降下時間が経過した時点でHighレベルになり、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になるとLowレベルになる小電流期間信号Stdを出力する。
電源特性切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の短絡判別信号Sd及び上記の小電流期間信号Stdを入力として、以下の処理を行い、誤差増幅信号Eaを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときは、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
2)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化すると、電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
3)その後のアーク期間中に小電流期間信号StdがHighレベルとなる期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
この回路によって、溶接電源の特性は、短絡期間及び小電流期間中は定電流特性となり、それ以外のアーク期間中は定電圧特性となる。
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は小電流期間信号Stdの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
同図(A)に示す送給速度Fwは、図1の送給速度設定回路FRから出力される送給速度設定信号Frの値に制御される。送給速度Fwは、図1の正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu、短絡が発生するまで継続する正送ピーク期間Tsp、図1の正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsd、図1の逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru、アークが発生するまで継続する逆送ピーク期間Trp及び図1の逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdから形成される。さらに、正送ピーク値Wspは図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって定まり、逆送ピーク値Wrpは図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる。この結果、送給速度設定信号Frは、正負の略台形波波状に変化する送給パターンとなる。
[時刻t1~t4の短絡期間の動作]
正送ピーク期間Tsp中の時刻t1において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化する。時刻t1において短絡期間が開始すると、時刻t1~t2の予め定めた正送減速期間Tsdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の正送ピーク値Wspから0まで減速する。例えば、正送減速期間Tsd=1msに設定される。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは時刻t2~t3の予め定めた逆送加速期間Truに入り、0から上記の逆送ピーク値Wrpまで加速する。この期間中は短絡期間が継続している。例えば、逆送加速期間Tru=1msに設定される。
時刻t3において逆送加速期間Truが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送ピーク期間Trpに入り、上記の逆送ピーク値Wrpになる。逆送ピーク期間Trpは、時刻t4にアークが発生するまで継続する。したがって、時刻t1~t4の期間が短絡期間となる。逆送ピーク期間Trpは所定値ではないが、4ms程度となる。
同図(B)に示すように、時刻t1~t4の短絡期間中の溶接電流Iwは、初期期間設定信号Tirによって定まる初期期間Ti中は初期電流設定信号Iirによって定まる初期電流Iiとなる。その後、溶接電流Iwは、電流増加率設定信号Dirによって定まる増加率Diで経時的に増加する。
[時刻t4~t7のアーク期間の動作]
時刻t4において、溶接ワイヤの逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によって溶滴が移行してアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する。時刻t4において、アーク期間が開始すると、時刻t4~t5の予め定めた逆送減速期間Trdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する。例えば、逆送減速期間Trd=1msに設定される。
時刻t5において逆送減速期間Trdが終了すると、時刻t5~t6の予め定めた正送加速期間Tsuに移行する。この正送加速期間Tsu中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは0から上記の正送ピーク値Wspまで加速する。この期間中はアーク期間が継続している。例えば、正送加速期間Tsu=1msに設定される。
時刻t6において正送加速期間Tsuが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送ピーク期間Tspに入り、上記の正送ピーク値Wspになる。この期間中もアーク期間が継続している。正送ピーク期間Tspは、時刻t7に短絡が発生するまで継続する。したがって、時刻t4~t7の期間がアーク期間となる。そして、短絡が発生すると、時刻t1の動作に戻る。正送ピーク期間Tspは所定値ではないが、4ms程度となる。正送ピーク値Wspは、例えば30~50m/分に設定される。
時刻t4においてアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。他方、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、溶接電源が定電圧特性となるので、アーク負荷に応じて変化する値となる。この期間中に、溶接ワイヤの溶融が促進されて溶滴が形成される。
時刻t4にアークが発生してから予め定めた電流降下時間が経過する時刻t61において、同図(E)に示すように、小電流期間信号StdがHighレベルに変化する。これに応動して、溶接電源は定電圧特性から定電流特性に切り換えられる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは予め定めた小電流値(60A程度)に低下し、短絡が発生する時刻t7までその値を維持する。同様に、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwも低下する。小電流期間信号Stdは、時刻t7に短絡が発生するとLowレベルに戻る。電流降下時間は5ms程度に設定されるので、時刻t61のタイミングは正送ピーク期間Tsp中となる。小電流期間を設ける理由は、時刻t7に短絡が発生したときの溶接電流Iwの値を小さくすることで、スパッタ発生を少なくするためである。
上述した実施の形態1においては、溶接ワイヤ及び母材の材質はアルミニウム又はアルミニウム合金である。そして、実施の形態1によれば、短絡期間中の溶接電流Iwの最大値の平均値が150A以下となるように溶接電流Iwを制御する。短絡は1秒間当たり80回程度発生する。上記の平均値は、各短絡期間中の溶接電流Iwの最大値を検出し、この最大値を溶接が行われている期間中又は単位時間ごとに最大値の平均値を算出した値である。溶接電流Iwの制御は、初期期間Ti、初期電流Ii又は増加率Diを調整することによって行う。上述したように、溶接ワイヤの材質がアルミニウム材であるときは、くびれ検出制御ができないために、短絡期間からアーク期間に移行するときの電流値が大きくなると、スパッタ発生量が増加する。短絡期間からアーク期間に移行するときの電流値は、短絡期間中の溶接電流Iwの最大値となる。したがって、短絡期間中の溶接電流Iwの最大値の平均値を150A以下にすることによってスパッタ発生量を少なくすることができる。溶接ワイヤの材質が鉄鋼又はステンレス鋼であるときは、この値は350A以上になる。このように大きな値になるのは、溶接状態が不安定になることを抑制するためである。他方、溶接ワイヤの正送と逆送とを行っているので、アルミニウム材であるときは、上記の平均値を小さくしても溶接状態の安定性は維持される。さらに、上記の平均値を100A以下にすることが、スパッタをより少なくするためにはより好ましい。
さらに、実施の形態1において、逆送期間中の逆送ピーク値Wrpを、短絡期間の時間長さの平均値が7ms以下となるように設定することが好ましい。短絡期間中の溶接電流Iwの最大値の平均値が小さくなるように溶接電流Iwが制御されているので、溶滴の移行時間が長くなり、短絡期間が長くなる。短絡期間が長くなると、アーク期間の時間比率が小さくなり、母材への入熱量が小さくなる。この結果、ビード形状に影響を与える。逆送ピーク値Wrpの絶対値を大きくすると、溶接ワイヤが高速に引き上げられるために、短絡期間を短くすることができる。この短絡期間の平均値が7ms以下であれば、ビード形状への影響は小さくなる。一方、逆送ピーク値Wrpの絶対値が大きくなるほど、送給モータWMへの負荷が大きくなる。このために、逆送ピーク値Wrpは、短絡期間の平均値が所定値よりも少し小さくなるように設定するのが好ましい。さらに、ビード形状への影響を小さくするためには、短絡期間の平均値は5ms以下であることがより好ましい。上述した理由から、逆送ピーク値Wrpの絶対値は、少なくとも40m/分以上であることが好ましい。短絡期間の平均値が3ms以上となると溶接状態は安定化する。
さらに、実施の形態1において、短絡期間中の溶接電流Iwを、予め定めた初期期間Ti中は予め定めた初期電流Iiに制御し、その後は経時的に増加するように制御し、初期期間Tiを1.5ms以上に設定することが好ましい。初期期間Tiは、溶接ワイヤの材質が鉄鋼又はステンレス鋼であるときは1ms以下に設定される。これに対して、アルミニウム材のときは、初期期間Tiを1.5ms以上に設定することによって、溶滴移行状態をより円滑にすることができ、溶接状態を安定化することができる。さらに、初期期間Tiを2ms以上に設定することが、溶滴移行状態の円滑化のためにはより好ましい。初期電流Iiは30~70A程度に設定される。短絡期間中の溶接電流Iwの増加波形は、図2では直線状である場合を例示している。溶接電流Iwの増加波形は、2段の折れ線状、曲線状であっても良い。
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、短絡期間の時間長さの平均値を検出し、短絡期間の時間長さの平均値が予め定めた短絡時間設定値と等しくなるように逆送期間中の逆送ピーク値をフィードバック制御するものである。
図3は、本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は図1と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、図1に短絡時間平均値検出回路DTS、短絡時間設定回路DTR及び時間誤差増幅回路ETを追加し、図1の逆送ピーク値設定回路WRRを第2逆送ピーク値設定回路WRR2に置換したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
短絡時間平均値検出回路DTSは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になっている短絡時間を測定し、単位時間ごとに短絡時間の平均値を演算して、短絡時間平均値検出信号Dtsを出力する。単位時間は、例えば0.1~1秒間程度である。
短絡時間設定回路DTRは、予め定めた短絡時間設定信号Dtrを出力する。短絡時間設定信号Dtrは、3~7msの範囲に設定されることが好ましい。
時間誤差増幅回路ETは、上記の短絡時間設定信号Dtr及び上記の短絡時間平均値検出信号Dtsを入力として、短絡時間設定信号Dtr(-)と短絡時間平均値検出信号Dts(+)との誤差を増幅して、時間誤差増幅信号Etを出力する。
第2逆送ピーク値設定回路WRR2は、上記の時間誤差増幅信号Etを入力として、時間誤差増幅信号Etを溶接中積分して、逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。Wrr=Wrr0+∫Et・dtの積分を溶接中行う。Wrr0は予め定めた初期値である。初期値は、例えば-40m/分に設定される。時間誤差増幅回路ET及び第2逆送ピーク値設定回路WRR2によって、短絡時間平均値検出信号Dtsが短絡時間設定信号Dtrと等しくなるように逆送ピーク値設定信号Wrrがフィードバック制御される。
本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を示す図3の溶接電源における各信号のタイミングチャートは、上述した図2と同一であるので説明は繰り返さない。但し、以下の点は異なっている。実施の形態1においては、逆送ピーク値Wrpは所定値である。これに対して、実施の形態2においては、逆送ピーク値Wrpは、短絡時間平均値検出信号Dtsが短絡時間設定信号Dtrと等しくなるようにフィードバック制御される。このために、逆送ピーク値Wrpは溶接中は刻々と変化する値である。
実施の形態2によれば、実施の形態1の効果に加えて、以下の効果を奏する。実施の形態2では、逆送ピーク値Wrpは、短絡期間の時間長さの平均値(短絡時間平均値)が所望値になるように自動的に調整される。すなわち、逆送ピーク値Wrpは自動的に最適値に調整されるので、作業効率が向上する。さらに、逆送ピーク値Wrpが最適化されるので、ビード外観は常に良好になり、溶接状態の安定性もさらに向上する。
[実施の形態3]
実施の形態3の発明は、短絡期間の時間長さの平均値を検出し、短絡期間の時間長さの平均値が予め定めた短絡時間設定値と等しくなるように逆送減速期間をフィードバック制御するものである。
図4は、本発明の実施の形態3に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は図3と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、図3の逆送減速期間設定回路TRDRを第2逆送減速期間設定回路TRDR2に置換し、図3の第2逆送ピーク値設定回路WRR2を逆送ピーク値設定回路WRRに置換したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
第2逆送減速期間設定回路TRDR2は、上記の時間誤差増幅信号Etを入力として、時間誤差増幅信号Etを溶接中積分して、逆送減速期間設定信号Trdrを出力する。Trdr=Trdr0-∫Et・dtの積分を溶接中行う。Trdr0は予め定めた初期値である。初期値は、例えば1msに設定される。時間誤差増幅回路ET及び第2逆送減速期間設定回路TRDR2によって、短絡時間平均値検出信号Dtsが短絡時間設定信号Dtrと等しくなるように逆送減速期間設定信号Trdrがフィードバック制御される。逆送ピーク値設定回路WRRは、図1の回路と同一であるので、説明は繰り返さない。
本発明の実施の形態3に係るアーク溶接制御方法を示す図4の溶接電源における各信号のタイミングチャートは、上述した図2と同一であるので説明は繰り返さない。但し、以下の点は異なっている。実施の形態1においては、逆送減速期間Trdは所定値である。これに対して、実施の形態3においては、逆送減速期間Trdは、短絡時間平均値検出信号Dtsが短絡時間設定信号Dtrと等しくなるようにフィードバック制御される。このために、逆送減速期間Trdは溶接中は刻々と変化する値である。
実施の形態3によれば、実施の形態1の効果に加えて、以下の効果を奏する。実施の形態3では、逆送減速期間Trdは、短絡期間の時間長さの平均値(短絡時間平均値)が所望値になるように自動的に調整される。この結果、短絡期間とアーク期間との繰り返し周期の変動が抑制されるために、ビード外観は常に良好になり、溶接状態の安定性もさらに向上する。
本発明によれば、スパッタ発生量を削減することができるアーク溶接制御方法を提供することができる。
以上、本発明を特定の実施形態によって説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、開示された発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。本出願は、2017年1月24日出願の日本特許出願(特願2017-010465)と2017年4月3日出願の日本特許出願(特願2017-073692)とに基づくものであり、その内容はここに取り込まれる。
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
Di 増加率
DIR 電流増加率設定回路
Dir 電流増加率設定信号
DTR 短絡時間設定回路
Dtr 短絡時間設定信号
DTS 短絡時間平均値検出回路
Dts 短絡時間平均値検出信号
E 出力電圧
Ea 誤差増幅信号
ED 出力電圧検出回路
Ed 出力電圧検出信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
ET 時間誤差増幅回路
Et 時間誤差増幅信号
ER 出力電圧設定回路
Er 出力電圧設定信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
Ii 初期電流
IIR 初期電流設定回路
Iir 初期電流設定信号
Iw 溶接電流
PM 電源主回路
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
STD 小電流期間回路
Std 小電流期間信号
SW 電源特性切換回路
Ti 初期期間
TIR 初期期間設定回路
Tir 初期期間設定信号
Trd 逆送減速期間
TRDR 逆送減速期間設定回路
Trdr 逆送減速期間設定信号
TRDR2 第2逆送減速期間設定回路
Trp 逆送ピーク期間
Tru 逆送加速期間
TRUR 逆送加速期間設定回路
Trur 逆送加速期間設定信号
Tsd 正送減速期間
TSDR 正送減速期間設定回路
Tsdr 正送減速期間設定信号
Tsp 正送ピーク期間
Tsu 正送加速期間
TSUR 正送加速期間設定回路
Tsur 正送加速期間設定信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
Vw 溶接電圧
WL リアクトル
WM 送給モータ
Wrp 逆送ピーク値
WRR 逆送ピーク値設定回路
WRR2 第2逆送ピーク値設定回路
Wrr 逆送ピーク値設定信号
Wsp 正送ピーク値
WSR 正送ピーク値設定回路
Wsr 正送ピーク値設定信号

Claims (3)

  1. 溶接ワイヤの材質がアルミニウム又はアルミニウム合金であり、前記溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法において、
    前記短絡期間中の溶接電流の最大値の平均値が150A以下となるように前記溶接電流を制御し、
    前記逆送期間中の逆送ピーク値を、前記短絡期間の時間長さの平均値が7ms以下となるように設定し、
    前記逆送ピーク値の絶対値を少なくとも40m/分以上に設定する、
    アーク溶接制御方法。
  2. 前記短絡期間の時間長さの平均値を検出し、前記短絡期間の時間長さの平均値が予め定めた短絡時間設定値と等しくなるように逆送減速期間をフィードバック制御する、
    請求項1に記載のアーク溶接制御方法。
  3. 前記短絡期間中の前記溶接電流を、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流値に制御し、その後は経時的に増加するように制御し、
    前記初期期間を1.5ms以上に設定する、
    請求項1~2のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
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