JP7017979B2 - 溶接電源および溶接電源の制御方法 - Google Patents
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Description
この外部特性の観点から溶接作業性を改善する技術として、例えば特許文献1や特許文献2がある。特許文献1では、単位溶接長さ当たりのワイヤ溶着量に応じて外部特性の傾きを変化させることによって、溶接状態を安定化させる消耗式電極アーク溶接電源の出力制御方法を開示している。また、特許文献2では、溶接電圧平滑信号が電圧設定信号と略等しくなるように外部特性を電圧値が増減する方向に平行移動させて再形成することによって、チップ・被溶接物間距離の変化によるアーク長の変化を抑制することができ、常に良好な溶接品質を得ることを開示している。
このように粘性、表面張力といった溶融物性は温度と依存関係があり、この温度は溶接電流や材料特性によって変化する。
前記溶接電源は、少なくともシールドガスの組成ごとに加え、前記消耗式電極の組成、線径またはワイヤの突出し長さのうち少なくとも1つの要素ごとに、ワイヤ送給速度設定信号Wfr(m/min)と、前記ワイヤ送給速度設定信号Wfr(m/min)に対して最適な溶融バランスをとることが可能な適正溶接電流である溶接電流信号Ir(A)との関係を決定したデータベースである溶融情報、および前記溶接電流信号Ir(A)と外部特性傾き信号Ks(V/100A)との関係を決定したデータベースを有する記憶部DBを備え、
任意の前記ワイヤ送給速度設定信号Wfr(m/min)を、前記記憶部DBの前記溶融情報に入力することにより前記溶接電流信号Irを求め、
さらに、前記溶融情報から得られる前記溶接電流信号Irと、前記溶接電流信号Ir(A)と前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)との関係を決定した前記データベースとに基づいて、前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)を決定する場合に、
前記溶融情報から得られる前記溶接電流信号Irが350A以下の場合、前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)は、該外部特性傾き信号Ksの上限を0.004×Ir-1.9、下限を0.0032×Ir-3.82とする適正範囲内となるように、前記溶接電流信号Irに対応して制御され、
前記溶接電流信号Irが350Aを超える場合、前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)は、該外部特性傾き信号Ksの上限を-0.0067×Ir+1.8333、下限を-2.7とする適正範囲内となるように、前記溶接電流信号Irに対応して制御されることを特徴とする。
前記溶接電源は、少なくともシールドガスの組成ごとに加え、前記消耗式電極の組成、線径またはワイヤの突出し長さのうち少なくとも1つの要素ごとに、ワイヤ送給速度設定信号Wfr(m/min)と、前記ワイヤ送給速度設定信号Wfr(m/min)に対して最適な溶融バランスをとることが可能な適正溶接電流である溶接電流信号Ir(A)との関係を決定したデータベースである溶融情報、および前記溶接電流信号Ir(A)と外部特性傾き信号Ks(V/100A)との関係を決定したデータベースを有する記憶部DBを備え、
任意の前記ワイヤ送給速度設定信号Wfr(m/min)を、前記記憶部DBの前記溶融情報に入力することにより前記溶接電流信号Irを求め、
さらに、前記溶融情報から得られる前記溶接電流信号Irと、前記溶接電流信号Ir(A)と前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)との関係を決定した前記データベースとに基づいて、前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)を決定する場合に、
前記溶融情報から得られる前記溶接電流信号Irが350A以下の場合、前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)は、該外部特性傾き信号Ksの上限を0.004×Ir-1.9、下限を0.0032×Ir-3.82とする適正範囲内となるように、前記溶接電流信号Irに対応して制御され、
前記溶接電流信号Irが350Aを超える場合、前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)は、該外部特性傾き信号Ksの上限を-0.0067×Ir+1.8333、下限を-2.7とする適正範囲内となるように、前記溶接電流信号Irに対応して制御されることを特徴とする。
図1は、本発明の実施形態に係る出力制御方法を示すアーク溶接電源のブロック図である。なお、図1は本発明を説明するための一実施形態であって、本実施形態に限定されるものではない。
短絡判定回路SDは、溶接電圧検出回路VDで検出された溶接電圧検出信号Vdを入力値として、短絡であるかアークであるかを判定し、短絡時にHighレベルになる短絡判定信号Sdをアーク期間電圧補正回路EAC、短絡期間電圧補正回路ESCへ出力する。なお、溶接電圧検出信号Vdが予め定めた基準値(例えば、15V)以下の場合には短絡と判定し、当該基準値を超える場合にはアークと判定する。
アーク期間電圧補正回路EACは、短絡期間中に減少した電圧指令値をアーク期間中に補填する電圧指令値補填制御部、短絡溶接時において、短絡しない期間が長くなることに対して、出力指令にスロープをつけて、短絡周期を安定化させる出力電圧スロープ制御部、グロビュール領域での移行周期の安定化を図る瞬時電圧制御部、およびアークの吹上等、外乱に対して安定化を図る電流フィードバック制御部を含んで構成される。
アーク期間電圧補正回路EACは、短絡判定信号SdがHighレベルでない場合、後述する電圧指令値補填制御部、出力電圧スロープ制御部、瞬時電圧制御部、および電流フィードバック制御部等で出力される指令値を計算して、アーク期間電圧補正信号Eacを出力する。なお、出力されるアーク期間電圧補正回路EACは、後述の補填する指令値から、例えば以下の式で表すことができる。
Eac=Vo_err-Vo_slp+Vo_direct
また、短絡判定信号SdがHighレベルの場合は、Eac=0を出力する。
電圧指令値補填制御部は、短絡期間中に減少した出力電圧指令をアーク期間に加算する制御を行う。補填する指令量Vo_errは、予め記憶部DBに設定している補正係数K1、出力電圧設定信号Vsおよび制御出力電圧設定信号Ecrから、以下に示す式により求められる。
Vo_err=K1×(Vs-Ecr)
この補填量が適正範囲の場合、短絡溶接時の溶融速度がより安定する。
出力電圧スロープ制御部は、短絡溶接時において、短絡しない期間が長くなる場合、出力を徐々に低下させる制御を行う。このスロープ量Vo_slpは再アーク発生後の期間tと予め記憶部DBに記憶している補正係数K2から、以下に示す式により求められる。
Vo_slp=K2×t
このスロープ量が適正範囲の場合、短絡周期の安定化を図ることができる。
瞬時電圧制御部は、制御出力電圧設定信号Ecrに応じて、出力電圧を高速に増減する。アーク期間の安定化を図ることが可能となり、その増減に寄与する瞬時電圧制御量Vo_directは、予め、記憶部DBに設定している補正係数K3、出力電圧設定信号Vsおよび溶接電圧検出回路VDで検出された溶接電圧検出信号Vdから、以下に示す式により求められる。
Vo_direct=K3×(Vs-Vd)
電流フィードバック制御部は、外乱によって生じるアークの偏向、吹上等の不安定を解消できる。アーク期間の一定以上の電流変化を抑制する制御を行う。その制御量Vo_actは、予め記憶部DBに設定している補正係数K4、溶接電流検出信号Id、平均溶接電流検出信号Id_ave、溶接電流信号Irから、以下に示す式により求められる。
Vo_act=K4×(Id_ave-Ir-Id)
短絡期間電圧補正回路ESCは、短絡初期の電流増加を抑制する瞬時短絡抑制制御部、短絡期間の電流増加率を制御する電子リアクトル制御部、および短絡が長期間にわたる場合に、強制的に短絡を解除する長期短絡解除制御部を含んで構成される。
短絡期間電圧補正回路ESCは、短絡判定信号SdがHighレベルの場合、短絡期間電圧補正回路ESC内の短絡時間タイマーにて計測した短絡時間に応じて、後述する瞬時短絡抑制制御部、電子リアクトル制御部、および長期短絡解除制御部で出力される指令値を選択して、短絡期間電圧補正信号Escを出力する。
また、短絡判定信号SdがHighレベルではない場合は、Esc=0を出力する。
瞬時短絡抑制制御部は、短絡開始からの時間が予め記憶部DBに設定された瞬時短絡時間以下であれば、短絡初期の制御出力電圧設定信号Ecrを低下させ、電流が増加するのを抑制する制御を行う。これにより、瞬時短絡を抑制し、スパッタを低減することができる。
電子リアクトル制御部は、短絡期間の電流増加率を抑制することによって、溶滴移行周期の安定化を図ることができ、スパッタの低減が可能となる。電子リアクトル制御量di_integは、予め記憶部DBに設定している補正係数K6、K7および電流偏差ΔIdから、以下に示す式により求められる。
di_integ=Σ(ΔId×K6-K7)
長期短絡解除制御部は、短絡が長期化した場合に強制的に短絡を解除することによって、短絡移行周期の安定化を図ることができる。短絡開始からの時間が予め記憶部DBに設定された短絡解除時間以上になった場合に電流を増加させる制御を行う。
一方、制御出力電圧設定信号Ecrは、入力した出力電圧設定信号Vsに対し、補填する値として、アーク期間電圧補正信号Eac、短絡期間電圧補正信号Esc、および後述する外部特性電圧信号Excの指令値を加算回路ADDで加算し、出力する。
外部特性電圧補正回路EXCは、溶接電源の電流電圧出力特性、すなわち外部特性傾き信号Ksを補正する。外部特性傾き信号Ksは、記憶部DBの溶融情報によって得られる。外部特性傾き信号Ksを加味した電圧補正値Vo_extは、記憶部DBによって得られる外部特性傾き信号Ks、溶接電流信号Irおよび溶接電流検出信号Idから、以下に示す式により求められる。
Vo_ext=Ks×(Id-Ir)
よって、本実施形態の制御に用いられる外部特性傾き信号Ksは、ワイヤ送給速度設定信号Wfr(m/min)に応じて溶接電流域ごとに制御する。なお、この溶接電流域であるかについての判断は、シールドガス組成および溶接ワイヤの材料特性を含む溶融情報から得られる最適な溶接電流値を基にする。
続いて、本実施形態に係る溶接電源の制御方法について説明する。
本実施形態の溶接電源10は、シールドガスの組成や、溶接ワイヤ1の組成または線径などの材料特性の情報と共に、ワイヤ送給速度設定信号Wfrおよび出力電圧設定信号Vsを入力する。これにより、記憶部DBで記憶されている、図2に示すようなワイヤ送給速度設定信号Wfrと溶接電流信号Irの関係(溶融情報)から、適正溶接電流である溶接電流信号Irを求める。さらに図3に示すような溶接電流信号Irと外部特性傾き信号Ksの関係から外部特性傾き信号Ksを得る。そして、ワイヤ送給速度設定信号Wfr、出力電圧設定信号Vsおよび外部特性傾き信号Ksに従い、溶接電源10を制御して適切な溶接を行う。
本実施形態の制御では、溶接電流信号Irが350A以下の場合、図3に示すように、その外部特性傾き信号Ks(V/100A)は、該外部特性傾き信号Ksの上限を0.004×Ir-1.9、下限を0.0032×Ir-3.82とする適正範囲内となるように、溶接電流信号Irに対応して制御、すなわち決定される。
図2および図3に示すように、記憶部DBに含まれる溶接ワイヤ1の溶融情報には、シールドガスの組成を必須情報とし、それに加えて溶接ワイヤ1の組成、線径または突出し長さといった材料特性の情報のうち、少なくとも1つの情報が含まれていることが好ましい。
記憶部DBは、これらの情報を基に最適な溶融バランスをとることができるワイヤ送給速度設定信号Wfr(m/min)と溶接電流信号Irとの関係(図2参照)を決定したデータベースである溶融情報、および溶接電流信号Irと外部特性傾き信号Ksとの関係(図3参照)を決定したデータベースを有する。すなわち、任意のワイヤ送給速度設定信号Wfrを記憶部DBに入力すると、シールドガスの組成や溶接ワイヤ1の材料特性を加味した溶融情報に従って、入力したワイヤ送給速度設定信号Wfrに最も適切な外部特性傾き信号Ksが得られる。
[シールドガスの組成]
ガスの種類は特に問わないが、溶接で一般的に用いられるAr、CO2、またはこれらの混合ガスであることが好ましい。また、混合ガスの場合は混合比の情報を必要とする。例えば、Arの比率が20%およびCO2の比率が80%の混合ガスと、Arの比率が80%およびCO2の比率が20%の混合ガスとでは、溶接時の溶滴移行形態が大きく異なるため、それぞれ適切な制御方法とする必要がある。シールドガスの組成は、重要な情報であることから、必須情報とする。
溶接ワイヤの種類はとくに問わず、ソリッドワイヤでも良いし、あるいは、筒状を呈する外皮と、その外皮の内側に充填されたフラックスとで構成されるフラックスコアードワイヤ(FCW)でも良い。溶接ワイヤの溶融情報には、これら溶接ワイヤの種類の情報、軟鋼、ステンレス等の鋼種の情報、または溶接ワイヤの線径の情報を含むことが好ましい。
なお、フラックスコアードワイヤは、外皮に継目のないシームレスタイプ、外皮に継目のあるシームタイプのいずれの形態であってもよい。また、ソリッドワイヤおよびフラックスコアードワイヤは、ワイヤ表面(外皮の外側)に銅メッキを施されていても施されていなくてもよい。
溶接ワイヤは鉄ベースであり、その組成によって、溶接ワイヤの電気抵抗、または溶接によって溶融したときの溶融物性が異なる。溶接ワイヤの電気抵抗は、溶接時の溶接ワイヤの送給速度と溶接電流の関係による溶融バランスに寄与する。すなわち、電気抵抗が高い程、溶接ワイヤにかかる電気抵抗熱が大きくなり、その分、溶接ワイヤは溶けやすくなる。そのため、電気抵抗が低い溶接ワイヤを用いたときと同じ送給速度(同じ溶融量を維持)とした場合、電気抵抗が高い溶接ワイヤのほうがより低い溶接電流で溶接できることになる。
さらに、溶接電流は、溶接時の溶滴および溶融池の温度に寄与し、この温度は溶融物性に影響する。例えば、表面張力や粘性といった溶融物性は一般的に温度が高くなる程、表面張力や粘性が低下し、温度が低くなる程、表面張力や粘性が高くなる。また、溶融物性は温度一定であっても、ワイヤの組成によっても変化する。例えば、SやOは有名な表面活性元素であり、これらの添加量が多い程、表面張力は低下する。
Si、Mnは溶接ワイヤの電気抵抗に寄与する元素である。これらは添加するほど、電気抵抗は高くなり、溶接ワイヤは溶融しやすくなる。また、Si、Mnは脱酸元素でもあり、表面張力に影響を及ぼす元素である。よって、本実施形態の制御をより安定に行う上で、好ましい溶接ワイヤの溶融バランス(適正なアーク長を維持できる送給速度と溶接電流の関係の最適バランス)および溶融物性を得るためには、Si、Mnが各々、0.20質量%以上含まれていることが好ましい。一方、Si、Mnの添加量が過度に多いと溶融池表面に厚い酸化皮膜が生成し、本実施形態の制御に悪影響を与える可能性がある。よって、本実施形態の制御をより安定に行う好ましい範囲として、Siは2.00質量%以下、Mnは3.00質量%以下に規定することが好ましい。
Cr、Niは必要に応じて任意で添加しても良い。例えば、溶接ワイヤの鋼種をステンレスとする場合において添加するのが一般的であると言える。しかしながら、Cr、Niは溶接ワイヤの電気抵抗に寄与する元素であり、添加量が増えるほど、電気抵抗が上がる。
また、Crは添加量が上がるほど粘性が増加する元素である。電気抵抗が上がるほど、溶融バランスを取るために、溶接電流は低く制御されるので、溶滴の粘性はますます増加する傾向にある。一方、Niは粘性が低下する元素である。よって、本実施形態の制御をより安定に行う上で、好ましい粘性の範囲としてCrは30質量%以下、Niは30質量%以下に抑制することが好ましい。なお、CrおよびNiともに、下限は特に規定しない(0%を含む)。
本実施形態の制御をより安定に行うためには、0.0010≦(Cr+O)/(Ni+Mn+Si)≦1.7000であると、適正な粘性範囲内であり、より好ましい。なお、0.0010を下回ると粘性が低くなる傾向にあり、1.7000を超えると粘性が高くなる傾向にあるため、より好ましい範囲から外れる。
S、Oは溶融金属の表面張力に影響を及ぼす元素である。これらは添加量が多い程、表面張力が低下する傾向にある。本実施形態の制御を行う上で、好ましい表面張力の範囲として、Sは0.0010質量%以上、0.0500質量%以下で添加することが好ましい。Oは0.0005質量%以上、0.0500質量%以下で添加することが好ましい。
また、これらは合計(S+O)で0.0020質量%以上、0.0700質量%以下とすることが好ましい。さらに、Oは多量に添加すると、他の元素(特に酸素との親和性が高いSi、Mn等の脱酸元素)と結合し、酸化皮膜が発生する原因となる。よって、SとOの比率:S/Oが0.2以上の場合には、Oによる酸化皮膜の発生を抑制することができ、より好ましく、0.5以上とするとさらにより好ましい。
これらの元素は、多く添加されると溶接ワイヤの電気抵抗に影響するため、機械的性能と電気抵抗を考慮した時の最適範囲から、その他の元素は、それぞれ質量%で、C:0.001~0.500%、Mo:3.00%以下、W:3.00%以下、Nb:3.00%以下、V:1.00%以下、Ti:1.00%以下、Al:1.00%以下、Zr:1.00%以下、Ca:0.500%以下、K:0.500%以下、Na:0.500%以下、B:0.500%以下、Bi:0.500%以下,N:0.500%以下、Ra:0.500%以下、Ce:0.500%以下、Ta:3.00%以下、Cu:3.00%以下、残部はFeおよび不純物とすることがより好ましい。
なお、不純物としては、例えばP、Pb、Se等が挙げられる。また、溶接ワイヤにメッキを施した場合、上記元素中にはメッキ分も含まれることとする。
溶接ワイヤの線径は、溶接ワイヤの溶け易さに依存する。溶接ワイヤを溶融するための熱量が必要となるため、線径が太くなる程、溶接ワイヤは溶けにくくなる。本実施形態の制御を行う上では、線径が0.8~2.4mmの範囲であることが好ましく、0.9~1.6mmの範囲であることがより好ましい。
溶接ワイヤの突出し長さは、溶接ワイヤの通電点(MAG溶接において一般的にはコンタクトチップ先端)と母材間の距離を指す。突出し長さは、長くなる程、電気抵抗熱が大きくなるため、溶接ワイヤは溶けやすくなる。本実施形態の制御をより安定に行うための溶融バランスを考慮すると、突出し長さは10~35mmの範囲であることが好ましく、15~30mmの範囲であることがより好ましい。
その他、外部特性傾き信号Ksを決める情報として、前述の溶融情報に加えて、施工情報を組み合わせてもよい。施工情報の一例としては、溶接速度、トーチ角度、前進・後進角度、開先形状、母材の板厚、母材の材質(メッキ等の母材表面の情報も含む)等が挙げられる。
試験No.1~5の溶接ワイヤの各組成および関係式は、いずれも好ましい条件の範囲内であり、良好な溶接品質(スパッタ性の評価「◎」)が得られた。
試験No.6~9、試験No.11、試験No.13、試験No.15、試験No.17~20は、溶接ワイヤの各組成および関係式は、いずれも好ましい条件の範囲内であり、良好な溶接品質(スパッタ性の評価「◎」)が得られた。
一方、試験No.10は、Si含有量が2.00質量%を超えており、試験No.14は、Si含有量が0.20質量%未満であったため、スパッタ性の評価が共に「○」であった。
試験No.12は、Mn含有量が3.00質量%を超えており、試験No.16は、Mn含有量が0.20質量%未満であったため、スパッタ性の評価が共に「○」であった。
試験No.21は、溶接ワイヤの各組成については好ましい条件の範囲内であるものの、「Si+Mn+Cr+Ni」および「(Cr+O)/(Ni+Mn+Si)」がそれぞれ45質量%および1.7000を超えているため、スパッタ性の評価が「○」であった。
試験No.22は、さらにCr含有量が30質量%を超えているため、スパッタ性の評価が「○」であった。
試験No.23は、「Si+Mn+Cr+Ni」およびNi含有量がそれぞれ45質量%および15質量%を超えているため、スパッタ性の評価が「○」であった。
試験No.24は、溶接ワイヤの各組成については好ましい条件の範囲内であるものの、「Si+Mn+Cr+Ni」が0.50質量%以下であり、スパッタ性の評価が「○」であった。
試験No.26,27,29、31、33および35は、溶接ワイヤの各組成がいずれも好ましい条件の範囲内であり、良好な溶接品質(スパッタ性の評価「◎」)が得られた。
一方、試験No.25は、S含有量が0.0010質量%未満であり、試験No.30は、S含有量が0.0500質量%を超えているため、スパッタ性の評価が共に「○」であった。
試験No.28は、O含有量が0.0005質量%未満であり、試験No.32は、O含有量が0.0500質量%を超えているため、スパッタ性の評価が共に「○」であった。
試験No.34および試験No.36は、S、Oを含めて溶接ワイヤの各組成は好ましい条件の範囲内であるが、試験No.34では「S+O」が0.0700質量%を超えており、試験No.36では「(Cr+O)/(Ni+Mn+Si)」が0.0010未満であったため、スパッタ性の評価が共に「○」であった。
試験No.37~45は、いずれも溶接ワイヤの各組成が好ましい条件の範囲内であり、良好な溶接品質(スパッタ性の評価「◎」)が得られた。
2 母材
3 アーク
4 コンタクトチップ
10 溶接電源
PM 電源主回路
ED 出力電圧検出回路
Ed 出力電圧検出信号
AMP 電圧誤差増幅回路
Amp 電圧誤差増幅信号
ADD 加算回路
Ecr 制御出力電圧設定信号
VS 出力電圧設定回路
Vs 出力電圧設定信号
ID 溶接電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
VD 溶接電圧検出回路
Vd 溶接電圧検出信号
SD 短絡判定回路
Sd 短絡判定信号
WFR ワイヤ送給速度設定回路
Wfr ワイヤ送給速度設定信号
記憶部DB 溶融情報を含むデータベース
Ir 溶接電流信号
Ks 外部特性傾き信号
EXC 外部特性電圧補正回路
Exc 外部特性電圧信号
ESC 短絡期間電圧補正回路
Esc 短絡期間電圧補正信号
EAC アーク期間電圧補正回路
Eac アーク期間電圧補正信号
WL リアクトル
Claims (5)
- 消耗式電極を用いてガスシールドアーク溶接を行うための溶接電源であって、
前記溶接電源は、少なくともシールドガスの組成ごとに加え、前記消耗式電極の組成、線径またはワイヤの突出し長さのうち少なくとも1つの要素ごとに、ワイヤ送給速度設定信号Wfr(m/min)と、前記ワイヤ送給速度設定信号Wfr(m/min)に対して最適な溶融バランスをとることが可能な適正溶接電流である溶接電流信号Ir(A)との関係を決定したデータベースである溶融情報、および前記溶接電流信号Ir(A)と外部特性傾き信号Ks(V/100A)との関係を決定したデータベースを有する記憶部DBを備え、
任意の前記ワイヤ送給速度設定信号Wfr(m/min)を、前記記憶部DBの前記溶融情報に入力することにより前記溶接電流信号Irを求め、
さらに、前記溶融情報から得られる前記溶接電流信号Irと、前記溶接電流信号Ir(A)と前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)との関係を決定した前記データベースとに基づいて、前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)を決定する場合に、
前記溶融情報から得られる前記溶接電流信号Irが350A以下の場合、前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)は、該外部特性傾き信号Ksの上限を0.004×Ir-1.9、下限を0.0032×Ir-3.82とする適正範囲内となるように、前記溶接電流信号Irに対応して制御され、
前記溶接電流信号Irが350Aを超える場合、前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)は、該外部特性傾き信号Ksの上限を-0.0067×Ir+1.8333、下限を-2.7とする適正範囲内となるように、前記溶接電流信号Irに対応して制御されることを特徴とする溶接電源。 - 前記溶融情報に含まれる前記消耗式電極は、
前記消耗式電極の全重量に対し、
Si:0.20~2.00質量%、
Mn:0.20~3.00質量%、
Cr:30質量%以下(0%を含む)、
Ni:15質量%以下(0%を含む)、
を含有し、
Si、Mn、CrおよびNiの合計が、0.50~45質量%の範囲であることを特徴
とする請求項1に記載の溶接電源。 - 前記消耗式電極は、0.0010≦(Cr+O)/(Ni+Mn+Si)≦1.700
0を満足することを特徴とする請求項2に記載の溶接電源。 - 前記消耗式電極は、更に、
S:0.0010~0.0500質量%、
O:0.0005~0.0500質量%、
を含有し、
0.0020質量%≦(S+O)≦0.0700質量%を満足することを特徴とする請
求項2または3に記載の溶接電源。 - 消耗式電極を用いてガスシールドアーク溶接を行うための溶接電源の制御方法であって、
前記溶接電源は、少なくともシールドガスの組成ごとに加え、前記消耗式電極の組成、線径またはワイヤの突出し長さのうち少なくとも1つの要素ごとに、ワイヤ送給速度設定信号Wfr(m/min)と、前記ワイヤ送給速度設定信号Wfr(m/min)に対して最適な溶融バランスをとることが可能な適正溶接電流である溶接電流信号Ir(A)との関係を決定したデータベースである溶融情報、および前記溶接電流信号Ir(A)と外部特性傾き信号Ks(V/100A)との関係を決定したデータベースを有する記憶部DBを備え、
任意の前記ワイヤ送給速度設定信号Wfr(m/min)を、前記記憶部DBの前記溶融情報に入力することにより前記溶接電流信号Irを求め、
さらに、前記溶融情報から得られる前記溶接電流信号Irと、前記溶接電流信号Ir(A)と前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)との関係を決定した前記データベースとに基づいて、前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)を決定する場合に、
前記溶融情報から得られる前記溶接電流信号Irが350A以下の場合、前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)は、該外部特性傾き信号Ksの上限を0.004×Ir-1.9、下限を0.0032×Ir-3.82とする適正範囲内となるように、前記溶接電流信号Irに対応して制御され、
前記溶接電流信号Irが350Aを超える場合、前記外部特性傾き信号Ks(V/100A)は、該外部特性傾き信号Ksの上限を-0.0067×Ir+1.8333、下限を-2.7とする適正範囲内となるように、前記溶接電流信号Irに対応して制御されることを特徴とする溶接電源の制御方法。
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