一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
ところで、溶接品質をさらに向上させるために、溶接ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接する方法が提案されている。以下、この溶接方法について説明する。
図4は、溶接ワイヤの送給速度の正送期間と逆送期間とを周期的に繰り返す溶接方法における波形図である。同図(A)は送給速度Fwの波形を示し、同図(B)は溶接電流Iwの波形を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの波形を示す。以下、同図を参照して動作について説明する。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、0よりも上側が正送期間となり、下側が逆送期間となる。正送とは溶接ワイヤを母材に近づける方向に送給することであり、逆送とは母材から離反する方向に送給することである。送給速度Fwは、正弦波状に変化しており、正送側にシフトした波形となっている。このために、送給速度Fwの平均値は正の値となり、溶接ワイヤは平均的には正送されている。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t1時点では0であり、時刻t1〜t2の期間は正送加速期間となり、時刻t2で正送の最大値となり、時刻t2〜t3の期間は正送減速期間となり、時刻t3で0となり、時刻t3〜t4の期間は逆送加速期間となり、時刻t4で逆送の最大値となり、時刻t4〜t5の期間は逆送減速期間となる。送給速度Fwは、時刻t1〜t5を1周期として繰り返される。
溶接ワイヤと母材との短絡は、時刻t2の正送最大値の前後で発生することが多い。同図では、正送最大値の後の正送減速期間中の時刻t21で発生した場合である。時刻t21において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減し、同図(B)に示すように、溶接電流Iwも小電流値の初期電流値に減少する。以下の説明においては、短絡期間中の溶接電流Iwを短絡電流と記載することにする。そして、その後、短絡電流は、所定の上昇率S[A/ms]で増加し、予め定めたピーク値Ipに達するとその値を維持する。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t3からは逆送期間になるので、溶接ワイヤは逆送される。この逆送及び短絡電流によるピンチ力によって短絡が解除されて、時刻t31においてアークが再発生する。アークの再発生は、時刻4の逆送最大値の前後で発生することが多い。同図では、逆送最大値の前の逆送加速期間中の時刻t31で発生した場合である。
時刻t31においてアークが再発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。同図(B)に示すように、短絡電流は、アーク再発生の前兆現象である溶滴のくびれを検出する制御によって、時刻t31よりも数百μs程度前の時点から急減し、時刻t31のアーク再発生時点では小電流値となっている。このくびれの検出は、溶滴にくびれが形成されると通電路が狭くなり溶接ワイヤと母材との間の抵抗値又は溶接電圧値が上昇することを検出することによって行われる。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t31から時刻t5まで逆送される。この期間中は、アーク長が長くなる期間となる。時刻t31〜t5の期間中は、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、所定のアーク時上昇率で増加し、所定の第1溶接電流値に達するとその値をアーク再発生時(時刻t31)からの所定期間維持する。その後は次の短絡が発生する時刻t61まで第1溶接電流よりも小となる第2溶接電流が通電する。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t5から正送期間となり、時刻t6で正送の最大値となる。そして、同図では、時刻t61において、次の短絡が発生する。この時刻t5〜t61の期間中は、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは次第に減少し、同図(B)に示すように、溶接電流Iwも次第に減少する。
上述したように、短絡とアークとの周期は、送給速度の正送と逆送との周期と略一致することになる。すなわち、この溶接方法では、送給速度の正送と逆送との周期を設定することによって短絡とアークとの周期を所望値にすることができる。このために、この溶接方法を実施すれば、短絡とアークとの周期のばらつきを抑制して略一定にすることが可能となり、スパッタ発生量の少ない、かつ、ビード外観の良好な溶接を行なうことができる。
しかし、送給速度の正送と逆送とを繰り返す溶接方法において、給電チップ・母材間距離、溶融池の不規則な運動、溶接姿勢の変化等の外乱によって、短絡期間からアーク期間への移行及びアーク期間から短絡期間への移行のタイミングが上述した適正なタイミングで発生しない場合が生じる。このようになると、短絡とアークとの周期と正送と逆送との周期とが同期しなくなり、短絡とアークとの周期がばらつくことになる。この同期ズレ状態を元の同期状態に戻すための方法が、特許文献1に開示されている。
特許文献1の発明では、溶接ワイヤの正送中で送給速度の減速中に、送給速度が所定の送給速度になるまでに短絡が発生しない場合には、周期的な変化を中止して送給速度を第1の送給速度に一定制御し、第1の送給速度による正送中に短絡が発生すると第1の送給速度から減速を開始して周期的な変化を再開して溶接を行うものである。これにより、同期ズレ状態を同期状態に戻そうとしている。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して、各ブロックについて説明する。
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトル、上記の誤差増幅信号Eaを入力としてパルス幅変調制御を行う変調回路、パルス幅変調制御信号を入力としてインバータ回路のスイッチング素子を駆動するインバータ駆動回路を備えている。
減流抵抗器Rは、上記の電源主回路PMと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01〜0.03Ω程度)の10倍以上大きな値(0.5〜3Ω程度)に設定される。この減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、溶接電源内のリアクトル及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。トランジスタTRは、減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。この送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
溶接電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、溶接電流検出信号Idを出力する。溶接電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、溶接電圧検出信号Vdを出力する。
短絡判別回路SDは、上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡/アーク判別値(10V程度に設定)未満であるときは短絡期間にあると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
送給速度設定回路FRは、図2(A)で詳述するように、正送と逆送とが周期的に繰り返される予め定めたパターンの送給速度設定信号Frを出力する。
送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frを入力として、この設定値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
基準位相設定回路BRは、予め定めた基準位相設定信号Brを出力する。基準位相超過判別回路BDは、この基準位相設定信号Br、上記の送給速度設定信号Fr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)であるときに送給速度設定信号Frの位相Baが基準位相設定信号Brの値に達するとHighレベルにセットされ、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク)になるとLowレベルにリセットされる基準位相超過判別信号Bdを出力する。
第1溶接電流設定回路IWR1は、予め定めた第1溶接電流設定信号Iwr1を出力する。第1溶接電流通電期間設定回路TWR1は、予め定めた第1溶接電流通電期間設定信号Twr1を出力する。
上昇率設定回路SRは、予め定めた上昇率設定信号Srを出力する。ピーク値設定回路IPRは、上記の基準位相超過判別信号Bdを入力として、基準位相超過判別信号Bd=Lowレベルのときは予め定めた第1ピーク値Ip1となり、Bd=Highレベルのときは予め定めた第2ピーク値Ip2となるピーク値設定信号Iprを出力する。ここで、Ip1<Ip2である。
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の溶接電圧検出信号Vd及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの溶接電圧検出信号Vdの電圧上昇値が予め定めたくびれ検出基準値に達した時点でくびれが形成されたと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の溶接電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応したくびれ検出基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、溶接電圧検出信号Vdの値を溶接電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応するくびれ検出基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
駆動回路DRは、この電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr、上記のくびれ検出信号Nd、上記の第1溶接電流設定信号Iwr1、上記の上昇率設定信号Sr及び上記のピーク値設定信号Iprを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から予め定めた初期期間中は、予め定めた初期電流設定値を電流制御設定信号Icrとして出力する。
2)その後は、電流制御設定信号Icrの値を、上記の初期電流設定値から上昇率設定信号Srによって定まる上昇率でピーク値設定信号Iprの値まで上昇させ、その値を維持する。(ピーク値設定信号Iprの値は、送給速度の位相が基準位相に達するまでは第1ピーク値Ip1となり、達した後は第2ピーク値Ip2となる。)
3)くびれ検出信号NdがHighレベルに変化すると、電流制御設定信号Icrの値を低レベル電流設定信号Ilrの値に切り換えて維持する。
4)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク)に変化すると、電流制御設定信号Icrを、予め定めたアーク時上昇率で第1溶接電流設定信号Iwr1の値まで上昇させ、その値を維持する。
オフディレイ回路TDSは、上記の短絡判別信号Sd及び上記の第1溶接電流通電期間設定信号Twr1を入力として、短絡判別信号SdがHighレベルからLowレベルに変化する時点を第1溶接電流通電期間設定信号Twr1の期間だけオフディレイさせて遅延信号Tdsを出力する。したがって、この遅延信号Tdsは、短絡期間になるとHighレベルとなり、アークが再発生してから第1溶接電流通電期間設定信号Twr1の期間だけオフディレイしてLowレベルになる信号である。
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr(+)と上記の溶接電流検出信号Id(−)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
電圧設定回路VRは、アーク期間中の溶接電圧を設定するための予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、この電圧設定信号Vr(+)と上記の溶接電圧検出信号Vd(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
制御切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び上記の遅延信号Tdsを入力として、遅延信号TdsがHighレベル(短絡開始からアークが再発生して第1溶接電流通電期間設定信号Twr1の期間が経過するまでの期間)のときは電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、Lowレベル(アーク)のときは電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。この回路により、短絡期間+第1溶接電流通電期間中は定電流制御となり、それ以外のアーク期間中は定電圧制御となる。
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を説明するための、図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接ワイヤ1の送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)はくびれ検出信号Ndの時間変化を示し、同図(E)は駆動信号Drの時間変化を示し、同図(F)は遅延信号Tdsの時間変化を示し、同図(G)は電流制御設定信号Icrの時間変化を示し、同図(H)は基準位相超過判別信号Bdの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、0よりも上側の正の値のときは溶接ワイヤが正送されていることを示し、0よりも下側の負の値のときは逆送されていることを示す。同図(A)に示す送給速度Fwは送給速度設定信号Fr(図示は省略)によって設定されるので、両波形は相似波形となる。また、同図(A)に示す送給速度Fwは、図4(A)の送給速度Fwと同一波形である。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t1時点では0であり、時刻t1〜t2の期間は正送加速期間となり、時刻t2で正送の最大値となり、時刻t2〜t3の期間は正送減速期間となり、時刻t3で0となり、時刻t3〜t4の期間は逆送加速期間となり、時刻t4で逆送の最大値となり、時刻t4〜t5の期間は逆送減速期間となる。したがって、送給速度Fwは、時刻t1〜t5の期間を1周期として繰り返す波形となる。この1周期は、溶接中は一定値であり変化しない。送給速度Fwの位相は、時刻t1が0°となり、時刻t2が90°となり、時刻t3が180°となり、時刻t4が270°となり、時刻t5が360°(0°)となる。同図では正弦波状に変化しているが、三角波状又は台形波状に変化するようにしても良い。例えば、時刻t1〜t3の正送期間は5.4msであり、時刻t3〜t5の逆送期間は4.6msであり、1周期は10msとなる。また、正送の最大値は50m/minであり、逆送の最大値は−40m/minである。このときの送給速度Fwの平均値は約+4m/minとなり、平均溶接電流値は約150Aとなる。
ここで、送給速度の位相Ba(°)の算出方法について説明する。時刻t1〜t3の正送期間をTs(ms)とし、時刻t3〜t5の逆送期間をTr(ms)とする。周期の開始時点である時刻t1からの経過時間Ta(ms)を計時し、下式によって送給速度の位相Baを算出することができる。
Ta≦TsのときはBa=(Ta/Ts)×180
Ta>TsのときはBa=((Ta−Ts)/Tr)×180+180
同図は、基準位相設定信号Br(図示は省略)=280°の場合である。Bd=280°は時刻t41となる。また、Bd=280°は時刻t4〜t5の逆送減速期間中にある。基準移送超過判別信号BdがHighレベルになる状態とは、逆送減速期間に入っているにもかかわらずまだ短絡が解除されずにアークが再発生していない状態のときである。このような状態の場合には、早急に短絡を解除させる必要がある。このために、短絡期間中に送給速度の位相Baが基準位相設定信号Bdの値に達したときは、短絡電流のピーク値Ipを増加させて、ピンチ力を大きくして短絡の解除を促進する。
同図(C)に示すように、溶接ワイヤと母材との短絡が時刻t21で発生すると、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減する。溶接電圧Vwが短絡/アーク判別値Vta未満になったことを判別すると、同図(F)に示すように、遅延信号TdsはLowレベルからHighレベルに変化する。これに応動して、同図(G)に示すように、電流制御設定信号Icrは時刻t21において小さな値である予め定めた初期電流設定値に変化する。
時刻t3からは逆送加速期間となるので、送給速度Fwは逆送方向に切り換わる。同図(G)に示すように、電流制御設定信号Icrは、時刻t21〜t22の予め定めた初期期間中は上記の初期電流設定値となり、時刻t22〜t23の期間中は上昇率設定信号Srの値で上昇し、時刻t23〜t41の期間中はピーク値設定信号Iprの値(第1ピーク値Ip1)となる。
時刻t42において、送給速度の位相Baが基準位相設定信号Brの値に達しても短絡期間のままであるので、同図(H)に示すように、基準位相超過判別信号BdがHighレベルに変化する。これに応動して、ピーク値設定信号Iprの値が第2ピーク値Ip2へと増加する。
短絡期間中は上述したように定電流制御されているので、溶接電流Iwは電流制御設定信号Icrに相当する値に制御される。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t21においてアーク期間の溶接電流から急減し、時刻t21〜t22の初期期間中は初期電流値となり、時刻t22〜t23の期間中は上昇率Sで上昇し、時刻t23〜t41の期間中は第1ピーク値Ip1となり、時刻t41〜t42の期間中は第2ピーク値Ip2となる。例えば、初期期間は1msに、初期電流は50Aに設定される。また、上昇率Sは400A/msに、第1ピーク値Ip1は450Aに、第2ピーク値Ip2は550Aに設定される。同図(H)に示すように、基準位相超過判別信号Bdは時刻t41〜t44の期間はHighレベルとなる。同図(D)に示すように、くびれ検出信号Ndは、後述する時刻t42〜t44の期間はHighレベルとなり、それ以外の期間はLowレベルとなる。同図(E)に示すように、駆動信号Drは、後述する時刻t42〜t43の期間はLowレベルとなり、それ以外の期間はHighレベルとなる。したがって、同図において時刻t42以前の期間中は、駆動信号DrはHighレベルとなり、図1のトランジスタTRがオン状態となるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の消耗電極アーク溶接電源と同一の状態となる。
同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが第2ピーク値Ip2となる時刻t41あたりから上昇する。これは、溶接ワイヤの逆送に加えて、溶接電流Iwが第2ピーク値Ip2に増加してピンチ力が大きくなり、溶滴にくびれが次第に形成されるためである。
時刻t42において、くびれの形成状態が基準状態に達すると、同図(D)に示すように、くびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。これに応動して、同図(E)に示すように、駆動信号DrはLowレベルになるので、図1のトランジスタTRはオフ状態となり減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、同図(G)に示すように、電流制御設定信号Icrは低レベル電流設定信号Ilrの値へと小さくなる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは第2ピーク値Ip2から低レベル電流値Ilへと急減する。そして、時刻t43において溶接電流Iwが低レベル電流値Ilまで減少すると、同図(E)に示すように、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、図1のトランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、時刻t44のアーク再発生までは低レベル電流値Ilを維持する。したがって、トランジスタTRは、時刻t42にくびれ検出信号NdがHighレベルに変化した時点から時刻t43に溶接電流Iwが低レベル電流値Ilに減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので時刻t42から一旦減少した後に急上昇する。低レベル電流値Ilは、例えば50Aに設定される。
時刻t44において、溶接ワイヤの逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってくびれが進行してアークが再発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwの値は短絡/アーク判別値Vta以上となる。
時刻t44にアークが再発生すると、同図(G)に示すように、電流制御設定信号Icrの値は、低レベル電流設定信号Ilrの値から予め定めたアーク時傾斜で上昇し、上記の第1溶接電流設定信号Iwr1の値に達するとその値を維持する。同図(F)に示すように、遅延信号Tdsは、時刻t44にアークが再発生してから第1溶接電流通電期間Tw1が経過する時刻t45までHighレベルのままである。したがって、溶接電源は時刻t45まで定電流制御されているので、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t44からアーク時傾斜で上昇し、第1溶接電流設定信号Iwr1の値に達するとその値を時刻t45まで維持する。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t44〜t45の第1溶接電流通電期間Tw1中は大きな値の第1溶接電圧値の状態にある。時刻t44にアークが再発生するので、同図(H)に示すように、基準位相超過判別信号BdはLowレベルに変化し、同図(D)に示すように、くびれ検出信号NdはLowレベルに変化する。例えば、アーク時傾斜は400A/msに設定され、第1溶接電流設定信号Iwr1は450Aに設定され、第1溶接電流通電期間設定信号Twr1は2msに設定される。
時刻t45において、同図(F)に示すように、遅延信号TdsがLowレベルに変化する。この結果、溶接電源は定電流制御から定電圧制御へと切り換えられる。時刻t44にアークが再発生してから時刻t5までは、溶接ワイヤは逆送しているので、アーク長は次第に長くなる。時刻t5からは正送加速期間になるので、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送に切り換えられる。時刻t45に定電圧制御に切り換えられると、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、第1溶接電流Iw1から次第に減少する第2溶接電流Iw2が通電する。同様に、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、第1溶接電圧値から次第に減少する。時刻t6の正送最大値の後の時刻t61において、次の短絡が発生する。
外乱によって溶滴の移行状態が変動したために、送給速度の位相Baが基準位相設定信号Brの値に達しても短絡期間が継続している状態になる場合がある。この状態を放置しておくと、送給速度が正送期間に移行することになり、短絡の解除がますます困難となるので、短絡期間が長期化することになる。短絡期間が長期化すると、短絡とアークとの周期と送給速度の正送と逆送との周期とが同期ズレ状態に陥ることになり、溶接状態が不安定になる。上述した実施の形態1では、送給速度の位相Baが基準位相設定信号Brの値に達しても短絡期間にあるときは、溶接電流Iwを第1ピーク値Ip1から第2ピーク値Ip2へと増加させる。これにより、溶滴に作用するピンチ力が大きくなるので、短絡の解除を促進することになり、短絡期間が長期化することを抑制することができる。この結果、本実施の形態では、短絡とアークとの周期と送給速度の正送と逆送との周期とが同期ズレ状態になることを抑制することができる。このときに、時刻t1〜t5の送給速度Fwの1周期は一定であり、変化しない。
送給速度の位相が基準位相に達する前に短絡が解除されてアークが再発生する通常の場合は、上述した図4の動作と同一となる。すなわち、短絡電流のピーク値は第1ピーク値Ip1であるときに短絡が解除されることになる。
上述した実施の形態1によれば、短絡期間中に送給速度の位相が予め定めた基準位相に達したときは、短絡電流のピーク値を増加させる。これにより、送給速度の位相が基準位相に達しても短絡期間が継続しているときは、短絡電流のピーク値を増加させて、短絡の解除を促進することができるので、短絡期間の長期化を抑制することができる。このために、本実施の形態では、送給速度の正送と逆送との周期を一定に保ったままで、短絡とアークとの周期と送給速度の正送と逆送との周期とが同期ズレ状態になることを抑制し、安定した溶接を行なうことができる。
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、送給速度の位相が基準位相に達したときの送給速度を検出し、この検出された送給速度に応じて短絡電流のピーク値の増加量(第2ピーク値Ip2の値)を変化させる。
図3は、本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は上述した図1と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、図1に基準位相送給速度検出回路FDを追加し、図1のピーク値設定回路IPRを修正ピーク値設定回路IPR2に置換したものである。以下、同図を参照して、これらのブロックについて説明する。
基準位相送給速度検出回路FDは、送給速度設定信号Fr及び基準位相設定信号Brを入力として、送給速度設定信号Frの位相が基準位相設定信号Brの値に達したときの送給速度設定信号Frの値を検出して、基準位相送給速度検出信号Fdとして出力する。
修正ピーク値設定回路IPR2は、上記の基準位相送給速度検出信号Fd及び位相超過判別信号Bdを入力として、基準位相超過判別信号Bd=Lowレベルのときは予め定めた第1ピーク値Ip1となり、Bd=Highレベルのときは基準位相送給速度検出信号Fdに応じて変化する第2ピーク値Ip2となるピーク値設定信号Iprを出力する。ここで、Ip1<Ip2である。また、Ip2はFdの関数である。この関数は予め設定される。Fdが大きくなるとIp2は小さくなる関数である。
本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を説明するための、図3の溶接電源における各信号のタイミングチャートは、上述した図2と同一であるので、説明は繰り返さない。但し、以下の動作は異なっている。
時刻t41において、同図(H)に示す基準位相超過判別信号BdがHighレベルになると、図3の基準位相送給速度検出回路FDによって基準位相送給速度検出信号Fdが出力される。同時に、図3の修正ピーク値設定回路IPR2によって基準移送送給速度検出信号Fdに応じた第2ピーク値Ip2となるピーク値設定信号Iprが出力される。
したがって、時刻t41〜t42の期間中の同図(G)に示す電流制御設定信号Icr及び同図(B)に示す溶接電流Iwの値(第2ピーク値Ip2)が基準位相送給速度検出信号Fdの値によって変化する点が図2とは異なっている。
上述した実施の形態2によれば、送給速度の位相が基準位相に達したときの送給速度を検出し、この検出された送給速度に応じて短絡電流のピーク値の増加量を変化させる。これにより、実施の形態1の効果に加えて、以下の効果を奏する。短絡期間中に送給速度の位相が基準位相に達したときに、その時点における送給速度によって短絡の解除を促進するためのピーク値の増加量の適正値が異なる。すなわち、逆送状態にある送給速度が高速であるときはピーク値の増加量が小さくても短絡は速やかに解除される。ピーク値の増加量が小さいと、スパッタ発生量が少ない。他方、送給速度が低速であるときはピーク値の増加量を大きくしないと、短絡は速やかに解除されない。このために、実施の形態2では、検出された送給速度に応じてピーク値の増加量が自動的に適正化されるので、溶接状態の安定性をさらに向上させることができる。