JP6804871B2 - ポリプロピレン成形体の製造方法、及びポリプロピレン成形体 - Google Patents
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Description
従来から、ポリプロピレンの成形体では、加熱処理して剛性や耐熱性、透明性を向上させることがあった。
例えば、特許文献1には、融解ピーク温度Tmのポリプロピレンを含む予備成形体をTm(℃)からTm+6(℃)までの範囲の温度に昇温して熱処理する第1熱処理工程と、Tm−30(℃)からTm−12(℃)までの範囲に降温して熱処理する第2熱処理工程とを有する、剛性と耐熱性が向上したポリプロピレン成形体の製造方法が開示されている。
本発明は、耐熱性及び剛性に優れたポリプロピレン成形体を容易に製造できるポリプロピレン成形体の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、耐熱性及び剛性に優れたポリプロピレン成形体を提供することを目的とする。
また、本発明のポリプロピレン成形体の製造方法においては、前記第1熱処理温度Ts1(℃)及び前記第2熱処理温度Tc(℃)を、下記式(1)を満たす温度にすることが好ましい。
式(1):(−0.357×Tc+56.4)×LogV+2.89×Tc+Tm−480≦Ts1≦(0.0443×Tc−10.6)×LogV−0.261×Tc+Tm+50
(式(1)におけるVは前記第1熱処理工程における115℃からTs1までの昇温速度(℃/分)である。また、式(1)の下限を示す項はTcが158℃以上で有効である。なお、Tcが158℃未満では、実験を行った138℃以上で好ましいTs1の下限は観察されなかった。)
本発明のポリプロピレン成形体の製造方法においては、115℃からTs1までの昇温速度Vを1〜280℃/分にすることが好ましい。
本発明のポリプロピレン成形体の製造方法においては、前記ポリプロピレン予備成形体は、115℃からTs1まで昇温速度V(℃/分)で昇温した際の示差走査熱量測定の1回目の昇温プロファイルにおいて、前記ポリプロピレン予備成形体の融解熱全体に対するα型結晶の融解ピークの融解熱の割合が50%以上であることが好ましい。
本発明のポリプロピレン成形体の製造方法においては、特にTcが高い場合、前記第1熱処理温度Ts1(℃)で100秒以上保持することが好ましい。
本発明のポリプロピレン成形体の製造方法においては、前記ポリプロピレン予備成形体は限定されないが、平均厚さ500μm以下のシート又はフィルムを用いてもよい。
本発明のポリプロピレン成形体の製造方法においては、前記ポリプロピレン予備成形体に含まれるポリプロピレン樹脂は、キシレン不溶分の立体規則性(mmmm)が93mol%以上であることが好ましい。
本発明のポリプロピレン成形体の製造方法においては、前記ポリプロピレン予備成形体に含まれるポリプロピレン樹脂は、キシレン不溶分の質量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比率(Mw/Mn)が6以上であることが好ましい。
本発明の第2態様のポリプロピレン成形体は、昇温速度20℃/分の1回目の昇温での示差走査熱量測定において、昇温速度20℃/分の2回目の昇温での示差走査熱量測定で求められるα型結晶の融解ピーク温度Tm2以下の温度で融解する低温融解成分の割合が、全融解成分100%に対して35%未満となる部分を有することが好ましい。
本発明のポリプロピレン成形体においては、α2型結晶に基づく−231と−161反射のピーク強度I(α2)の、α1及びα2型結晶の両方に基づく回折のピーク強度I(α1+α2)に対する比I(α2)/I(α1+α2)が0.1以上となる部分を有することが好ましい。
本発明のポリプロピレン成形体は、耐熱性及び剛性に優れている。また、本発明のポリプロピレン成形体は、結晶化度が高く、予備成形体の結晶配向が保持されているので、バリア性にも優れると予想される。
本発明のポリプロピレン成形体の製造方法は、ポリプロピレン製の予備成形体に加熱処理を施す方法である。
本製造方法で使用するポリプロピレンとしては、例えば、プロピレン単独重合体、またはプロピレンと他のα−オレフィン(炭素数は多くとも12)とのブロック共重合体またはランダム共重合体が挙げられる。α−オレフィンの具体例としては、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−ジメチル−1−ペンテン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサンなどが挙げられ、中でも、エチレン、1−ブテンが好ましい。
ポリプロピレンのなかでも、剛性や耐熱性の向上の視点からは、プロピレン単独重合体またはブロック共重合体が好ましい。
上記のポリプロピレンは公知の方法に従って製造できる。一般に、ポリプロピレンの重合触媒としては、(A)マグネシウム、チタン、ハロゲン、および電子供与体化合物を含有する固体触媒、(B)有機アルミニウム化合物、ならびに(C)外部電子供与体化合物を含む触媒や、メタロセン触媒が知られている。本発明のポリプロピレンの製造にはいずれの触媒も使用できる。成分(A)中の電子供与体化合物(「内部電子供与体化合物」ともいう)としては、フタレート系化合物、スクシネート系化合物、ジエーテル系化合物が挙げられ、本発明ではいずれの内部電子供与体化合物も使用できる。しかしながら、得られるポリプロピレンの立体規則性が高く、分子量分布が広くなることから、フタレート系化合物またはスクシネート系化合物を内部電子供与体化合物として含む触媒が好ましい。
内部電子供与体化合物として好ましいフタレート系化合物としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジイソプロピルフタレート、ジオクチルフタレート等が挙げられる。
内部電子供与体化合物として好ましいスクシネート系化合物としては、ジエチル−2,3−(ジイソプロピル)スクシネート、ジイソブチル−2,3−(ジイソプロピル)スクシネート、ジ−n−ブチル−2,3−(ジイソプロピル)スクシネート、ジエチル−2,3−(ジシクロヘキシル)−2−(メチル)スクシネート、ジイソブチル−2,3−(ジシクロヘキシル)−2−(メチル)スクシネート、3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル等が挙げられる。
ポリプロピレンのキシレン不溶分の立体規則性(mmmm)は、用途に応じて適切な値があるが、キシレン不溶分のmmmmの割合が高いと、剛性や耐熱性をより高くできる。具体的に、キシレン不溶分のmmmmは93mol%以上が好ましく、97mol%以上がより好ましく、98mol%がさらに好ましい。
ポリプロピレンの流動性の指標であるMFRは0.01〜1,000g/10分であることが好ましい。ここで、MFRは、JIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定した値である。
予備成形体の形状としては、例えば、板状、シート状、フィルム状、パイプ状、あるいは、用途に応じた立体形状などが挙げられるが、形状を保持しやすい点では、板状、シート状、またはフィルム状が好ましい。
さらに、シート状またはフィルム状の予備成形体は、均一に加熱できることから、薄くすることが好ましく、具体的には、平均厚さが500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。ただし、薄すぎると、破断しやすくなるため、厚さは1μm以上であることが好ましい。
本発明におけるTmは、予備成形体について20℃/分の昇温速度で求められる示差走査熱量測定(DSC)の1回目の昇温のα型結晶の融解ピーク温度のことである。具体的に、予備成形体のTmは、以下の測定方法で求められる。
すなわち、熱補償型示差走査熱量測定装置(例えば、パーキンエルマー社製のダイヤモンドDSC)を用い、ポリプロピレン予備成形体を30℃で5分間保持し、昇温速度20℃/分で230℃まで加熱する。その際に得られるα型結晶の融解曲線のピーク位置(複数の融解ピークが存在する場合は最も高いピークの位置)によりTmを求める。なお、予備成形体のTmは、昇温中のアニール効果に基づく結晶ラメラの厚みの増加による融点の上昇の影響を含んでいる。
Tmは150℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましい。一方、Tmは170℃以下であることが好ましい。
また、第1熱処理温度Ts1の温度範囲は、Tm−15(℃)からTm+4(℃)までの範囲内であることが好ましく、Tm−15(℃)からTm+3(℃)までの範囲内であることがさらに好ましい。
第1熱処理温度Ts1が前記下限値未満であると、結晶シードの形成が充分でなく、得られる成形体の耐熱性及び剛性の向上効果が不充分になることがあり、前記上限値を超えると、耐熱性及び剛性の両方が低くなる。
第1熱処理温度Ts1は、複数の温度でもよく、例えば、一定温度の熱処理と昇温を1回以上繰り返してもよい。
なお、熱処理に使用する装置によっては、加熱するポリプロピレン予備成形体の温度を全く変動させることなく一定に維持することが困難である場合があり、第1熱処理温度Ts1においては、±5℃の温度変動は許容される。また、加熱前のポリプロピレン予備成形体の温度は特に制限されず、例えば、100℃以下とされる。
具体的に、上記のα型結晶の融解ピークの割合は、熱補償型示差走査熱量測定装置(例えば、パーキンエルマー社製のダイヤモンドDSC)を用い、ポリプロピレン予備成形体を30℃で5分間保持した後、昇温速度V(℃/分)で230℃まで加熱して得られる融解曲線から求められる。昇温速度Vについては後述する。
第2熱処理温度Tcの温度範囲は、Tm−10(℃)からTm+6(℃)までの範囲内であることが好ましく、Tm−10(℃)からTm+5(℃)までの範囲内であることがより好ましく、Tm−7(℃)からTm+4(℃)までの範囲内であることがさらに好ましい。
第2熱処理温度Tcが前記下限値未満又は前記上限値を超えると、得られる成形体の耐熱性及び剛性の少なくとも一方が低下する。
第2熱処理温度Tcは、複数の温度でもよく、例えば、一定温度の熱処理と昇温(Ts1に対して)を1回以上繰り返してもよい。
なお、第1熱処理温度Ts1と同様に、第2熱処理温度Tcにおいては、±5℃の温度変動は許容される。
また、第2熱処理温度Tcは、Tm−15(℃)からTm+6(℃)を満たす範囲で、Ts1+1(℃)からTs1+20(℃)の範囲内にあることが好ましく、Ts1+1(℃)からTs1+15(℃)の範囲内にあることがより好ましく、Ts1+1(℃)からTs1+10(℃)の範囲内にあることがさらに好ましい。
式(1):(−0.357×Tc+56.4)×LogV+2.89×Tc+Tm−480≦Ts1≦(0.0443×Tc−10.6)×LogV−0.261×Tc+Tm+50
ここで、式(1)におけるVは、115℃からTs1までの昇温速度(℃/分)のことである。該昇温速度Vは1〜280℃/分であることが好ましく、5〜200℃/分であることがより好ましい。また、式(1)の下限を示す項はTcが158℃以上で有効である。なお、Tcが158℃未満では、実験を行った138℃以上で好ましいTs1の下限は観察されなかった。
昇温速度Vは、{Ts1−(昇温前の温度)}/(予めTs1に昇温した加熱装置への予備成形体の移動に要する時間)、あるいは、{Ts1−(昇温前の温度)}/(予備成形体を装着、または内部で予備成形体が冷却固化した加熱装置の温度がTs1に達するまでの時間)で求められる。ここで、Ts1は、予備成形体が直接または間接的に接触する部分の加熱装置の温度である。また、「昇温前の温度」とは、予備成形体の近傍温度、あるいは、予備加熱を行った場合には、予備加熱工程に用いた加熱装置において、予備成形体が直接または間接的に接触する部分の温度である。
融解再結晶化による結晶シードの成長は、Ts1で熱処理を行うまでの昇温中にも起こるので、昇温速度Vが低い程、Ts1に到達した時点での結晶シードはより成長する傾向にある。そのため、Tc及びTmが変動しない条件とした場合、Vの低下と共にTs1の上限と下限が高くなる(158℃以上の本発明のTcの範囲では、式(1)の()内は負の値を示す)と考えられる。一方、VとTmが変動しない条件とした場合、Tcが低い程、多くの結晶シードが残存するため、Ts1の上限が高くなり、高いTcでの結晶化では、より結晶ラメラの厚いシードが必要となるので、Ts1の下限はTcの上昇と共に高くなると考えられる。
冷却方法としては、冷却ロール等の冷却手段に成形体を接触させて冷却する方法、加熱を停止して自然冷却する方法、冷風又は冷却水を当てて冷却する方法、冷却環境下に放置して冷却する方法が挙げられる。
本発明のポリプロピレン成形体は、昇温速度20℃/分の1回目の昇温での示差走査熱量測定で求められる融解熱ΔH1が、昇温速度20℃/分の2回目の昇温での示差走査熱量測定で求められる融解熱ΔH2の1.10倍以上、好ましくは1.15倍以上、より好ましくは1.20倍以上となる部分を有する。
ΔH1/ΔH2が大きい部分は、結晶の含有割合が多くなる傾向にある。結晶の含有割合が多くなれば、耐熱性及び剛性が高くなる。したがって、ポリプロピレン成形体において、ΔH1/ΔH2が前記下限値以上の部分を有すると、ポリプロピレン成形体の耐熱性及び剛性が高くなる。ポリプロピレン成形体の耐熱性及び剛性をより高くする点では、ポリプロピレン成形体において、ΔH1/ΔH2が前記下限値以上の部分の割合が高いことが好ましく、ポリプロピレン成形体の全体のΔH1/ΔH2が前記下限値以上であることがより好ましい。しかし、ポリプロピレン成形体の全体を、ΔH1/ΔH2が前記下限値以上にする場合には、成形体の生産性が低下する傾向にあるため、例えば、ポリプロピレン成形体の表面のみに、ΔH1/ΔH2が前記下限値以上の層を形成してもよい。
なお、ここでの1回目の昇温及び2回目の昇温も、昇温速度20℃/分である。
一般に、α2型結晶の生成にはポリプロピレンラメラ(厚みが5〜80nmの板状の結晶)の厚みの増加を伴うと考えられている(T.Miyoshi et al.,Journal Physical Chemistry B,114(1),92(2010)参照)。ラメラ厚みが増加すると、剛性及び耐熱性が高くなりやすい。
本発明のポリプロピレン成形体においては、α2型結晶に基づく−231と−161反射のピーク強度I(α2)の、α1及びα2型結晶の両方に基づく回折のピーク強度I(α1+α2)に対する比I(α2)/I(α1+α2)が0.1以上となる部分を有することが好ましい。I(α2)/I(α1+α2)は、0.2以上であることがより好ましく、0.3以上であることがさらに好ましい。I(α2)/I(α1+α2)が前記下限値以上であれば、剛性及び耐熱性がより高くなる。ポリプロピレン成形体の剛性及び耐熱性をより高くする点では、ポリプロピレン成形体において、I(α2)/I(α1+α2)が前記下限値以上の部分の割合が高いことが好ましく、ポリプロピレン成形体の全体が、I(α2)/I(α1+α2)が前記下限値以上であることがより好ましい。
α2型結晶の存在は、X線回折における−231と−161反射により確認することができる(M.Hikosaka and T.Seto,Polymer Journal,5(2),111(1973)参照)。
なお、以下の例では、下記のポリプロピレン(PP1、PP3、PP5)100質量部、または、ポリプロピレンと結晶核剤または充填剤との組成物(PP2、PP4、PP6)のポリプロピレン100質量部に、酸化防止剤として、BASF社製B225を0.2質量部、中和剤として、淡南化学社製カルシウムステアレートを0.05質量部配合し、ヘンシェルミキサーで1分間攪拌、混合した。得られた混合物を、シリンダー温度を230℃に調整した単軸押出機(ナカタニ機械製、NVC、スクリュー直径50mm)を用いて溶融し、ダイスから吐出させた。これにより得たストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を得て、使用した。
PP1:キシレン不溶分の立体規則性(mmmm):98.4mol%、キシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn):5.3、MFR:7.5g/10分のホモポリプロピレン。PP1は、フタレート系化合物を内部電子供与体として含む触媒を用いたプロピレンの重合により得たものである。
PP2:キシレン不溶分の立体規則性(mmmm):96.2mol%、キシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn):5.7、MFR:4.3g/10分のホモポリプロピレンと、ミリケン・アンド・カンパニー社製NX8000(α型結晶の結晶核剤)とを含むポリプロピレン組成物。結晶核剤の含有割合は、ポリプロピレン100質量部に対して0.43質量部である。PP2は、フタレート系化合物を内部電子供与体として含む触媒を用いたプロピレンの重合により得たものである。
PP3:キシレン不溶分の立体規則性(mmmm):98.8mol%、キシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn):5.3、MFR:5.2g/10分のホモポリプロピレン。PP3は、フタレート系化合物を内部電子供与体として含む触媒を用いたプロピレンの重合により得たものである。
PP4:キシレン不溶分の立体規則性(mmmm):98.4mol%、キシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn):5.3、MFR:37g/10分のプロピレンブロック共重合体(MFRが210g/10分とホモポリプロピレンと、エチレン・プロピレン共重合体とからなるブロックポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体の含有割合:30質量%)と、無機充填剤として、α型結晶の結晶核剤でもあるタルク(イミファビ社製HTP05L、レーザー回折法によって測定した体積平均粒子径:5μm)とを含むポリプロピレン組成物。タルクの含有割合は、ポリプロピレン組成物100質量%に対して15質量%である。PP4は、フタレート系化合物を内部電子供与体として含む触媒を用い、多段重合プロセスにより製造した。
PP5:キシレン不溶分の立体規則性(mmmm):98.4mol%、キシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn):9.0、MFR:10g/10分のホモポリプロピレン。PP5は、スクシネート系化合物を内部電子供与体として含む触媒を用いたプロピレンの重合により得たものである。
PP6:PP1と、β型結晶の結晶核剤のChina Petro−Chemical Corporation、Sinopec製Narpow VP101Tとを含むポリプロピレン組成物。結晶核剤の含有割合は、ポリプロピレン100質量部に対して0.20質量部である。
ポリプロピレンのキシレン不溶分のmmmmは、13C−NMRにより求めた。具体的には、まず、ポリプロピレンを、1,2,4−トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼンの混合溶媒に溶解して測定用溶液を調製した。その測定用溶液について、日本電子社製JNM LA−400(13C共鳴周波数 100MHz)を用い、13C−NMRを測定した。この測定により得たスペクトルから、プロピレンモノマーのメソ(m)結合シークエンスが4つ連続したペンタッドに相当するピークの強度の割合を、A.Zambelli,Macromolecules,6,925(1973)に記載された方法に従って求めた。
ポリプロピレンのキシレン不溶分の分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(ポリマーラボラトリーズ社製PL−GPC220)により質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定して求めた。
PP1を含むポリプロピレン樹脂組成物を押出成形して、厚さ0.3mm(300μm)のシート状のポリプロピレン予備成形体を得た。
シートの成形方法は以下のとおりである。
[シート成形機]
25mmφ単層押出型エアーナイフ付キャストシート成形機
[スクリュウ]
フルフライトスクリュウ(L/Dは24)
[成形条件]
<温度>
C(シリンダー)1:200℃、C2:230℃、C3:250℃、C5:250℃、H(ネック):250℃
D(ダイス)1:250℃、D2:250℃、D3:250℃
<スクリュウ回転数>
約90rpm
<ロール設定温度>
80℃
<引取り速度>
約1.3〜1.5m/分
このポリプロピレン予備成形体について、昇温速度20℃/分の条件で示差走査熱量測定をおこなったところ、1回目の昇温の融解ピーク温度Tmは、161.6℃であった。
次いで、ポリプロピレン予備成形体を縦20cm、横12cmに切断して試験片を作製し、その試験片を115℃になるまで加熱した。次いで、試験片を115℃から159℃(第1熱処理温度Ts1)に、昇温速度が200℃/分になるように加熱し、159℃で1分間保持した(第1熱処理工程)。
次いで、159℃で熱処理した成形体を159℃から165℃(第2熱処理温度Tc)に、昇温速度が200℃/分になるように加熱し、165℃で3分間保持した(第2熱処理工程)。ここでの昇温速度は、(Tc−Ts1)/(予めTcに昇温した加熱装置への成形体の移動に要する時間)、あるいは、(Tc−Ts1)/(成形体を装着、または予め内部に成形体が存在する加熱装置の温度がTcに達するまでの時間)で求められる。ここで、Tcは、Ts1と同様、成形体が直接または間接的に接触する部分の加熱装置の温度である。
その後、165℃で熱処理した成形体の加熱を停止し、25℃まで冷却して、ポリプロピレン成形体を得た。
なお、加熱は加熱装置の2枚の加熱板に予備成形体を挟んで実施した。第1熱処理と第2熱処理用に独立した加熱装置を用い、第1熱処理を行った後、予備成形体を第2熱処理用の加熱装置に移動した。昇温速度の制御は、加熱装置の温調と、加熱板の厚みを変えて予備成形体との接触部への熱伝導を変化させることにより行った。
第1熱処理温度Ts1を156℃に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
第1熱処理温度Ts1を159℃に、第2熱処理温度Tcを160℃に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
第1熱処理温度Ts1を155℃に変更した以外は実施例3と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
第1熱処理工程における155℃での熱処理時間を0.2分、第2熱処理工程における160℃での熱処理時間を0.8分に変更した以外は実施例4と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
第1熱処理工程における熱処理時間を0.5分とし、第2熱処理工程において、160℃、3分の熱処理の前に、161℃、0.5分の熱処理を施した以外は実施例4と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
ポリプロピレン予備成形体として、PP2を含むポリプロピレン樹脂組成物を押出成形して得たものを用いた以外は実施例4と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。ポリプロピレン予備成形体の1回目の昇温での示差走査熱量測定におけるα型結晶の融解ピーク温度Tmは、163.1℃であった。
第1熱処理温度Ts1を149℃に変更した以外は実施例3と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
第1熱処理温度Ts1を145℃に変更した以外は実施例3と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
第1熱処理温度Ts1を148℃に、第2熱処理温度Tcを155℃に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
第1熱処理温度Ts1を138℃に変更した以外は実施例10と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
試験片を115℃から159℃に昇温する際の昇温速度を100℃/分に変更した以外は実施例3と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
試験片を115℃から159℃に昇温する際の昇温速度を50℃/分に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
試験片を115℃から159℃に昇温する際の昇温速度を50℃/分に変更した以外は実施例8と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
第1熱処理温度Ts1を164℃に変更すると共に、試験片を115℃から164℃に昇温する際の昇温速度を5℃/分に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
試験片を115℃から149℃に昇温する際の昇温速度を5℃/分に変更した以外は実施例8と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
第1熱処理温度Ts1を138℃、第2熱処理温度Tcを150℃に変更した以外は実
施例1と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
試験片を115℃から156℃に昇温する際の昇温速度を100℃/分に変更し、第1熱処理工程の熱処理時間を5分に変更した以外は実施例2と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
ポリプロピレン予備成形体として、PP3を含むポリプロピレン樹脂組成物を押出成形して得たものを用いた以外は実施例4と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。ポリプロピレン予備成形体の1回目の昇温での示差走査熱量測定におけるα型結晶の融解ピーク温度Tmは、165.6℃であった。
ポリプロピレン予備成形体として、PP3を含むポリプロピレン樹脂組成物を押出成形して得たものを用いた以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
ポリプロピレン予備成形体として、PP4を含むポリプロピレン樹脂組成物を押出成形して得たものを用い、試験片を115℃から155℃に昇温する際の昇温速度を280℃/分、第2熱処理工程における160℃での熱処理時間を1分に変更した以外は実施例4と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。ポリプロピレン予備成形体の1回目の昇温での示差走査熱量測定におけるα型結晶の融解ピーク温度Tmは、162.0℃であった。
ポリプロピレン予備成形体として、PP5を含むポリプロピレン樹脂組成物を射出成形して得たものを用いた。射出成形機(ファナック株式会社製FANUC ROBOSHOT α−100C 射出成形機)を使用し、シリンダー温度230℃、金型温度40℃、射出速度35mm/秒、冷却時間25秒の条件で成形して、幅100mm、厚み0.5mm、長さ100mmの試験片を製造した。第2熱処理温度Tcを163℃、熱処理時間を1分に変更した以外は実施例4と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。ポリプロピレン予備成形体の1回目の昇温での示差走査熱量測定におけるα型結晶の融解ピーク温度Tmは、166.5℃であった。
ポリプロピレン予備成形体として、PP6を含むポリプロピレン樹脂組成物をプレス成形して得たものを用いた。プレス成形機(株式会社ショージ製)を用いて、前記組成物のペレットを230℃、10MPaで10分間プレスした後、30℃まで10℃/分で冷却して幅100mm、厚み0.4mm、長さ100mmのシート状のポリプロピレン予備成形体を得た。ここで、冷却速度は、200℃を、プレスの温度が230℃から30℃に達するまでの時間で除して求められる。第1熱処理工程の熱処理温度Ts1を158℃、試験片を115℃から158℃に昇温する際の昇温速度を1℃/分に変更した以外は実施例18と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。ポリプロピレン予備成形体のβ型結晶分率は92%であり、1回目の昇温での示差走査熱量測定におけるβ型結晶とα型結晶の融解ピーク温度Tmは、それぞれ、151.0℃と164.7℃であった。予備成形体のβ型結晶分率は、X線回折装置(リガク社製MicroMax−007HF)を使用し、波長0.1542nm(CuKα)、露光時間3分の条件にて広角X線回折(WAXD)を測定し、得られたX線回折の2次元パターンを円環積分して求めた強度プロファイルより、A.Turner Jones et al.;Macromol.Chem.75,134(1964)に記載された方法に従って算出した。
試験片を115℃から158℃に昇温する際の昇温速度を100℃/分に変更した以外は実施例23と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
第1熱処理工程の熱処理温度Ts1を145℃、熱処理時間を1分、試験片を115℃から145℃に昇温する際の昇温速度を10℃/分、第2熱処理温度Tcを160℃に変更した以外は実施例23と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
第1熱処理工程における第1熱処理温度Ts1を165℃、熱処理時間を4分とし、第2熱処理工程を省略した以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
第1熱処理温度Ts1を167℃、Ts1での保持時間を7分、第2熱処理温度Tcを158℃に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
第2熱処理温度Tcを170℃に変更した以外は実施例13と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
得られたポリプロピレン成形体について、1回目の昇温での示差走査熱量測定における融解ピーク温度Tm1及び融解熱ΔH1、2回目の昇温での示差走査熱量測定における融解ピーク温度Tm2(α型結晶)及び融解熱ΔH2、貯蔵弾性率、α2型結晶の割合指標を以下のように求めた。その結果を表1,2,3(実施例)及び表4(比較例)に示す。
パーキンエルマー社製のダイヤモンドDSCを用いて示差走査熱量測定を実施した。具体的には、得られたポリプロピレン成形体を30℃で5分間保持した後、昇温速度20℃/分で230℃まで加熱して、1回目の昇温の示差走査熱量測定を実施した。そして、これにより得られる1回目の昇温の融解曲線のピーク位置(複数の融解ピークが存在する場合には最も高いピークの位置)により、ポリプロピレン成形体の融解ピーク温度Tm1を求めた。この融解ピーク温度Tm1が高い程、耐熱性に優れる傾向にある。
また、ベースライン補正後の融解プロファイルにおいて、80℃と、融解が完全に完了してベースラインが直線になる温度との間における融解ピークの面積より、ポリプロピレン成形体の融解熱ΔH1を求めた。
また、230℃で5分間保持した後、降温速度20℃/分で30℃まで冷却し、30℃で5分間保持した。次いで、再び昇温速度20℃/分で230℃まで加熱して、2回目の示差走査熱量測定を実施した。2回目の昇温での示差走査熱量測定により、Tm1およびΔH1と同様にして、融解ピーク温度Tm2(α型結晶)及び融解熱ΔH2を得た。
表1〜4には、ポリプロピレン成形体の融解熱ΔH1と、ポリプロピレン成形体の融解熱ΔH2に対するポリプロピレン成形体の融解熱ΔH1の割合(ΔH1/ΔH2)を示す。ΔH1/ΔH2の値が大きい程、ポリプロピレン成形体の結晶の含有割合が多い傾向にある。結晶の含有割合が多い程、耐熱性及び剛性が高くなる傾向にある。
また、ポリプロピレン成形体の、1回目の昇温での示差走査熱量測定における融解曲線より、ポリプロピレン成形体の2回目の昇温での示差走査熱量測定におけるα型結晶の融解ピーク温度Tm2以下の温度で融解する低温融解成分の、全融解成分に対する割合を求め、表1〜4に示した。該低温融解成分が少ない程、耐熱性に優れる。
TAインスツルメント社製RSA−IIIを用い、測定周波数1Hzで貯蔵弾性率を求めた。この貯蔵弾性率が高い程、剛性が高い。
X線回折装置(リガク社製MicroMax−007HF)を使用し、波長0.1542nm(CuKα)、露光時間3分の条件にて広角X線回折(WAXD)を測定した。得られたX線回折の2次元パターンを円環積分して求めた強度プロファイルより、α2型結晶の割合の指標を求めた。
すなわち、広角X線回折のプロファイルにおいて、2θ=31.5度付近に観察されるα2型結晶に特有な−231と−161反射のピーク強度I(α2)と、2θ=33.5度付近に観察されるα1型結晶及びα2型結晶の両方に基づく回折のピーク強度I(α1+α2)とを測定する。そして、I(α2)/I(α1+α2)を求めて、これをα2型結晶の割合の指標とした。なお、ピーク強度は、それぞれの回折が無くなる極小値(2θ=31.5度より低角度側と2θ=33.5度より高角度側)を結んだベースラインからそれぞれピークの極大までの間のカウント数とした。I(α2)/I(α1+α2)の値が大きい程、全α型結晶(α1型結晶とα2型結晶の総和)中のα2型結晶の割合が多いことを意味する。ただし、求められた値は、α2型結晶の割合そのものを示しているのではなく、α2型結晶の割合に相関する指標である。
第1熱処理工程よりも高い温度で熱処理する第2熱処理工程を有さない比較例1,2の製造方法では、得られたポリプロピレン成形体の融解ピーク温度Tm1が低く、耐熱性が充分ではなく、また、貯蔵弾性率が低く、剛性も不充分であった。
第2熱処理温度をTm+6(℃)超とした比較例3の製造方法により得たポリプロピレン成形体は、融解ピーク温度Tm1が低く、耐熱性が充分ではなく、また、貯蔵弾性率が低く、剛性も不充分であった。
Claims (11)
- 昇温速度20℃/分の条件で求められる示差走査熱量測定の1回目の昇温のα型結晶の融解ピーク温度がTm(℃)であるポリプロピレン予備成形体を加熱し、Tm−30(℃)からTm+5(℃)までの範囲内の一定な第1熱処理温度Ts1 (℃)で5秒以上熱処理する第1熱処理工程と、
該第1熱処理工程で熱処理したポリプロピレン予備成形体をさらに加熱して昇温させて、Tm−10(℃)からTm+6(℃)までの範囲内の一定な第2熱処理温度Tc(℃)で10秒以上熱処理する第2熱処理工程と、
第2熱処理工程で熱処理したポリプロピレン予備成形体を冷却する冷却工程と、を有するポリプロピレン成形体の製造方法。 - 前記第1熱処理温度Ts1(℃)及び前記第2熱処理温度Tc(℃)を、下記式(1)を満たす温度にする、請求項1に記載のポリプロピレン成形体の製造方法。
式(1):(−0.357×Tc+56.4)×LogV+2.89×Tc+Tm−480≦Ts1≦(0.0443×Tc−10.6)×LogV−0.261×Tc+Tm+50
(式(1)におけるVは前記第1熱処理工程における115℃からTs1 (℃)までの昇温速度(℃/分)である。また、式(1)の下限を示す項はTcが158℃以上で有効である。) - 115℃からTs1 (℃)までの昇温速度Vを1〜280℃/分にする、請求項2に記載のポリプロピレン成形体の製造方法。
- 前記ポリプロピレン予備成形体は、115℃からTs1 (℃)まで昇温速度V(℃/分)で昇温した際の示差走査熱量測定の1回目の昇温プロファイルにおいて、前記ポリプロピレン予備成形体の融解熱全体に対するα型結晶の融解ピークの融解熱の割合が50%以上である、請求項3に記載のポリプロピレン成形体の製造方法。
- 前記第1熱処理温度Ts1(℃)で100秒以上保持する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリプロピレン成形体の製造方法。
- 前記ポリプロピレン予備成形体として、平均厚さ500μm以下のシート又はフィルムを用いる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリプロピレン成形体の製造方法。
- 前記ポリプロピレン予備成形体に含まれるポリプロピレン樹脂は、キシレン不溶分の立体規則性(mmmm)が93mol%以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリプロピレン成形体の製造方法。
- 前記ポリプロピレン予備成形体に含まれるポリプロピレン樹脂は、キシレン不溶分の質量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比率(Mw/Mn)が6以上である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリプロピレン成形体の製造方法。
- 前記第2熱処理工程での熱処理は600秒以下である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリプロピレン成形体の製造方法。
- キシレン不溶分の立体規則性(mmmm)が96.2mol%以上98.8mol%以下、キシレン不溶分の質量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比率(Mw/Mn)が5.3以上9.0以下のポリプロピレンを含み、
昇温速度20℃/分の1回目の昇温での示差走査熱量測定において、昇温速度20℃/分の2回目の昇温での示差走査熱量測定で求められるα型結晶の融解ピーク温度Tm2以下の温度で融解する低温融解成分の割合が、全融解成分100%に対して35%未満となる部分を有するポリプロピレン成形体。
- α2型結晶に基づく−231と−161反射のピーク強度I(α2)の、α1及びα2型結晶の両方に基づく回折のピーク強度I(α1+α2)に対する比I(α2)/I(α1+α2)が0.2以上となる部分を有する、請求項10に記載のポリプロピレン成形体。
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