JP6171717B2 - 押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、押出発泡成形に好適なポリプロピレン樹脂組成物に関するものであり、詳しくは、独立気泡率が高く、緻密で、サイズの揃った発泡セルを形成することができる押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物に関するものであり、更には、その樹脂組成物を用いて製造した発泡シート、並びに、その発泡シートを熱成型した成型体に関する。
ポリプロピレンの重要な成形加工法の一つに発泡成形がある。押出発泡成形や射出発泡成型で得られた各種の成形体は、断熱性や遮音性、クッション性、エネルギー吸収特性などの優れた特性を有しており、幅広い用途で使用されている。特に近年は、環境問題の観点から、材料の軽量化と環境負荷の低減が重要な開発要素となってきており、原料である樹脂に対しても、発泡特性の更なる向上が望まれている。
一般的に、ポリプロピレンは、線状の分子構造と標準的な分子量分布を持つことから、溶融張力が低く、発泡成形を行うことが難しい。その欠点を補うために、ポリプロピレンの溶融張力を向上させる方法として、過去に様々な技術開発がなされてきた。
代表的な方法の1つにラジカルを発生させて長鎖分岐(long chain branch)を導入する方法がある。長鎖分岐とは、主鎖炭素数が数十以上、分子量では数百以上からなる分子鎖による分岐構造を言い、溶融張力を向上させる効果があると考えられている。具体的な方法としては、高エネルギーイオン化放射線を用いる方法(特許文献1参照。)や有機過酸化物を用いる方法(特許文献2参照。)などが開示されている。
しかしながら、高エネルギーイオン化放射線を用いる方法は、放射線を用いるための特殊な設備が必要であり、どうしても製造コストが高くなる。また、高エネルギーイオン化放射線により生成したラジカルが残留するために、黄変などの外観の問題が発生したり、時間の経過と共に物性が変化して、安定しなかったり、といった品質上の問題を抱えている。また、有機過酸化物を用いる方法では、有機過酸化物の分解生成物による汚染、臭気、黄変、といった品質上の問題があり、さらに、有機化酸化物が不安定であるために、製造時の安全性の観点で大きな課題を抱えている。
ポリプロピレンの溶融張力を向上させる他の方法として、極めて分子量の高い成分を導入する方法がある。具体的な方法としては、多段重合により超高分子量成分を製造する方法(特許文献3、4参照。)や予備重合で超高分子量ポリエチレン成分を製造する方法(特許文献5参照。)などが知られている。
しかしながら、この様な方法で製造されたポリプロピレンは、長鎖分岐を有するポリプロピレンと較べて溶融張力が随分と低く、従って、その発泡特性は、満足できるものではなく、適用可能な範囲が限られるといった問題を抱えている。
この様な課題や問題を解決するために、ラジカルを発生させることなく、長鎖分岐を形成する技術の開発が進められてきた(特許文献6〜9参照。)。特定の構造を有するメタロセン触媒を用いてモノマーを重合することにより末端不飽和結合を有するマクロモノマーを製造し、それをプロピレンと共重合することによって、長鎖分岐を形成する技術である。これらの方法によって、ラジカル発生に伴う臭気等の課題を解決することができたが、一方で、長鎖分岐の形成量が少なく、溶融張力が不充分となり、発泡特性が悪かったり、溶融張力を高くできた場合でも、発泡時のセル形成は良好であっても延展性が低いためにシート形成時にセルが破泡したり、シート表面の外観が悪くなったり、あるいは、流動性が低くなって押出レートを高くすることができず、生産性が悪くなったり、といった問題が発生している。特に、押出レートが高く成形スピードが速い条件下で、発泡セルの形成と延展時のセル破壊の防止を両立することができていない点が、大きな問題である。
発泡成形に適した樹脂組成物の開発という観点では、複数のポリプロピレンをブレンドする方法(特許文献10〜14参照。)が開示されている。
しかしながら、上記特許文献10〜14では、種々のポリプロピレンのブレンドを開示しているものの、充分な発泡特性が得られているとは言い難い。特に、マクロモノマーを用いて長鎖分岐を導入する際に生じる溶融張力不足、流動性不足、外観不良、といった問題に対しては、何ら改良するものではなく、単に高価な長鎖分岐を有するポリプロピレンを希釈してコストを低下させる程度のものである。
特開昭62−121704号公報 特表2001−524565号公報 WO99/07752号公報 特開2001−335666号公報 WO97/14725号公報 特表2001−525460号公報 特開2009−275207号公報 特開2009−293020号公報 特開2009−299029号公報 特開2001−226510号公報 特開2002−356573号公報 特開2010−121054号公報 特開2009−275210号公報 特開2011−068819号公報
本発明の目的は、従来技術の現状に鑑み、上記の課題や問題を解決し、押出発泡成形に好適なポリプロピレン樹脂組成物を提供することにある。詳しくは、押出レートが高く成形スピードが速い条件下でも、発泡時のセル形成と延展時のセル破壊防止を両立することにより、独立気泡率が高く(連続気泡率が低く)、緻密で、サイズの揃った発泡セルを形成することができる押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物を提供するものであり、更には、その樹脂組成物を用いることにより、高品質の発泡シート、発泡成形体を製造する方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の長鎖分岐ポリプロピレンと特定のインパクトコポリマーを必須とする配合により、押出発泡特性を著しく高めることに成功した。具体的には、押出発泡成形に適した溶融張力と延展性の最適なバランスを見出すことにより、発泡時のセルの形成と押出時の成形品の表面形成とを両立させることに成功した。
一般に、樹脂の発泡という現象においては、より高い溶融張力を有する樹脂の方が、セルの形成、膨張の際に薄い隔壁を強固に維持できるという観点で、望ましいと考えられている。一方で、押出成形においては、ダイスと巻き取りロールとの間で、ダイスから押し出した樹脂原反を延展する操作が重要となる。この際に、高すぎる溶融張力は、延展性を下げる作用を及ぼすこととなり、シートやフィルムの欠陥や乱れを誘起し、気泡の破壊や表面荒れという好ましくない現象を引き起こしてしまう。
従って、押出発泡成形においては、溶融張力が高ければ高い程良いと言うことはなく、ある特定の値が好ましいという考え方が生じてくる。一方、延展性が高い樹脂は、発泡時にセルの隔壁が伸ばされ易いために、薄くなり易く、破泡を起こしやすいと考えなくてはならない。従って、延展性も、高ければ高い程良いと言うことはなく、ある特定の値が好ましいという考え方が生じてくる。
この様な、溶融張力と延展性のバランスは、通常トレードオフの関係となり易く、片方を優先すれば他方が悪化する場合が非常に多い。このトレードオフの関係を打開し、発泡時のセルの形成と押出時の表面形成とを両立させることに成功した本発明の本質が、特定の長鎖分岐ポリプロピレンと特定のインパクトコポリマーの併用である。長鎖分岐ポリプロピレンは、一般に溶融張力が高いが延展性に乏しい。一方、固有粘度の高いプロピレン−エチレン共重合体を有するインパクトコポリマーは、相対的に粘度の低いプロピレン(共)重合体と相対的に粘度の高いプロピレン−エチレン共重合体とのブレンド物であるが故に、一般的に延展性が高いが、溶融張力が発泡成形に充分なレベルとはならない。この両者を補完的に用いるというのが本発明の本質であり、本発明者らは、両者の長所を引き出すためには、長鎖分岐ポリプロピレンとインパクトコポリマーのそれぞれがある特定の特徴を満たさなければならない、ということを見出したのである。特に、従来考えられているよりも、長鎖分岐ポリプロピレンの粘度を下げ、長鎖分岐ポリプロピレンとしては、比較的溶融張力が低い領域に設定し(もちろん、通常のポリプロピレンや固有粘度の高いプロピレン−エチレン共重合体を有するインパクトコポリマーの溶融張力よりは高い)、逆に、インパクトコポリマーのプロピレン−エチレン共重合体の粘度を高く設定することが、押出発泡成形には重要である。
なお、ここに示したような技術思想、及び、後述の具体的な実施形態は、上記に挙げた様な公知の文献には、全く記載や示唆もされていないことを明記しておきたい。
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ポリプロピレン(X)5〜99wt%と、プロピレン(共)重合体(YH)とプロピレン−エチレン共重合体(YC)とからなるインパクトコポリマー(Y)1〜95wt%とを含有するポリプロピレン樹脂組成物(Z)[但し、ポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)との合計を100wt%とする。]であって、
該ポリプロピレン(X)は、下記の特性(X−i)〜(X−iv)を満たし、
該プロピレン(共)重合体(YH)は、下記の特性(YH−i)〜(YH−ii)を満たし、
該プロピレン−エチレン共重合体(YC)は、下記の特性(YC−i)〜(YC−ii)を満たし、
該インパクトコポリマー(Y)は、下記の特性(Y−i)を満たし、及び
該ポリプロピレン樹脂組成物(Z)は、下記の特性(Z−i)〜(Z−ii)を満たすことを特徴とする押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物が提供される。
特性(X−i):長鎖分岐を有する。
特性(X−ii):230℃で測定した溶融張力(MT)が2〜10gである。
特性(X−iii):MFRが5g/10分を超え、20g/10分以下である。
特性(X−iv):25℃キシレン可溶成分量(CXS)がポリプロピレン(X)全量に対し5wt%未満である。
特性(YH−i):プロピレン単独重合体、又は、エチレン及び炭素数4〜10のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとプロピレンとの共重合体であって、プロピレン(共)重合体(YH)が共重合体の場合には、(YH)中のエチレン及びα−オレフィンの含量の合計が0を超え、3wt%以下である。
特性(YH−ii):MFRが1〜100g/10分である。
特性(YC−i):プロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量がプロピレン−エチレン共重合体(YC)全量に対し10〜90wt%である。
特性(YC−ii):135℃デカリン中で測定した固有粘度が5〜20dl/gである。
特性(Y−i):インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量がインパクトコポリマー(Y)全量に対し1wt%以上、50wt%未満である。
特性(Z−i):MFRが0.1〜20g/10分である。
特性(Z−ii):230℃で測定した溶融張力(MT)が1〜7gである。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明に係るポリプロピレン樹脂組成物(Z)100重量部に対し、プロピレン(共)重合体(H)0.1〜1000重量部を含有するポリプロピレン樹脂組成物(Z’)であって、
該プロピレン(共)重合体(H)は、プロピレン単独重合体、又は、エチレン及び炭素数4〜10のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとプロピレンとの共重合体であり、プロピレン(共)重合体(H)が共重合体の場合には、プロピレン(共)重合体(H)中のエチレン及びα−オレフィンの含量の合計が0を超え、3wt%以下であることを特徴とする押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物が提供される。
本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記ポリプロピレン(X)は、さらに、下記の特性(X−v)を満たすことを特徴とする押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物が提供される。
特性(X−v):絶対分子量Mabsが100万における分岐指数gが0.3以上、1.0未満である。
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、前記ポリプロピレン(X)は、さらに、下記の特性(X−vi)を満たすことを特徴とする押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物が提供される。
特性(X−vi):伸張粘度の測定における歪硬化度(λmax)が5〜12である。
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、前記インパクトコポリマー(Y)は、さらに、下記の特性(Y−ii)を満たすことを特徴とする押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物が提供される。
特性(Y−ii):MFRが0.1〜20g/10分である。
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記ポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)との合計100重量部に対し、発泡剤を0.05〜6.0重量部含有することを特徴とする押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物が提供される。
本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明に係る押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物を用いて製造してなることを特徴とするポリプロピレン系発泡シートが提供される。
また、本発明の第8の発明によれば、第7の発明に係るポリプロピレン系発泡シートの少なくとも片方の表面に、非発泡層が積層されていることを特徴とするポリプロピレン系多層発泡シートが提供される。
さらに、本発明の第9の発明によれば、第8の発明において、前記非発泡層は、第1の発明に係るインパクトコポリマー(Y)が満たすべき特性および要件を満たすインパクトコポリマー(Y’)[但し、インパクトコポリマー(Y’)はインパクトコポリマー(Y)と同一であっても良いし、異なっていても良い。]を含むポリプロピレン樹脂組成物からなることを特徴とするポリプロピレン系多層発泡シートが提供される。
また、本発明の第10の発明によれば、第7〜9のいずれかの発明に係るポリプロピレン系発泡シート又はポリプロピレン系多層発泡シートを熱成型することにより製造してなることを特徴とする熱成型体が提供される。
本発明の押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物は、押出レートが高く成形スピードが速い条件下でも、発泡成形時のセルの形成が非常に均一であり、高い独立気泡率で、緻密でサイズの揃ったセルを有する発泡成形体を製造することができる。また、流動性、並びに、延展性が非常に高く、高い押出レートで外観の綺麗な発泡シートを製造することが可能となる。また、この様な高い発泡特性を有しながら、耐ドローダウン性も優れており、熱成型性も良好である。
この様にして得られた発泡成形体は、外観、熱成型性、耐衝撃性、軽量性、剛性、耐熱性、断熱性、耐油性等に優れていることより、トレー、皿、カップなどの食品容器や自動車ドアトリム、自動車トランクマットなどの車両内装材、包装、文具、建材などに好適に利用することができる。
図1は、発泡シートの熱成型性、耐ドローダウン性の評価として、実施例1における垂れ試験の測定結果を説明する図である。
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
本発明の押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物(以下、樹脂組成物と記載することもある。)は、特定の物性を有するポリプロピレン(X)5〜99wt%と、特定の要件および特定の物性を有するインパクトコポリマー(Y)1〜95wt%とを含有することを特徴とする。
以下で、ポリプロピレン(X)及びインパクトコポリマー(Y)が満たすべき特性などについて、項目毎に、詳細に述べる。
I.ポリプロピレン(X)
本発明で用いられるポリプロピレン(X)は、プロピレン単独重合体であっても、プロピレン共重合体であってもよい。プロピレン共重合体である場合、コモノマーは、エチレン及び炭素数4〜10のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンであり、ポリプロピレン(X)中のコモノマーの含量は、3wt%以下である。本発明のポリプロピレン(X)は、プロピレン単独重合体である方が、耐熱性や剛性が高く好ましい。
本発明におけるポリプロピレン(X)は、下記の特性(X−i)〜(X−iv)を満たすものである。
特性(X−i):長鎖分岐を有する。
特性(X−ii):230℃で測定した溶融張力(MT)が2〜10gである。
特性(X−iii):MFRが5g/10分を超え、20g/10分以下である。
特性(X−iv):25℃キシレン可溶成分量(CXS)がポリプロピレン(X)全量に対し5wt%未満である。
この様なポリプロピレン(X)の中でも、下記の特性(X−v)を満たすものがより好ましく、さらに、下記の特性(X−vi)を満たすものが最も好ましい。
特性(X−v):絶対分子量Mabsが100万における分岐指数gが0.3以上、1.0未満である。
特性(X−vi):伸張粘度の測定における歪硬化度(λmax)が5〜12である。
以下、順に詳説する。
I−1.特性(X−i):長鎖分岐
本発明に係るポリプロピレン(X)は、長鎖分岐を有するものでなくてはならない。長鎖分岐とは、主鎖炭素数が数十以上、分子量では数百以上からなる分子鎖による分岐構造を言い、1−ブテンなどのα−オレフィンと共重合を行うことにより形成される炭素数数個の短鎖分岐とは区別される。
ポリプロピレン中に長鎖分岐があるかどうかを調べる方法は、幾つかあるが、特徴(X−ii)(X−vi)に示す様な樹脂のレオロジー特性によるものが簡便に用いられる。より厳密な同定方法としては、特徴(X−v)に示す様に、分子量と粘度との関係を用いる方法や、13C−NMRを用いる方法などがある。後者については、前記特許文献7やMacromol.Chem.Phys.2003,vol.204,1738に詳細な説明があるので、参照されたい。
I−2.特性(X−ii):溶融張力(MT)
本発明に係るポリプロピレン(X)は、前記の特性(X−ii)に示す通り、その溶融張力(MT)が2〜10gでなくてはならない。本発明における溶融張力(MT)は、以下の条件で測定した値とする。
[MT測定条件]
測定装置:(株)東洋精機製作所製キャピログラフ1B
キャピラリー:直径2.0mm、長さ40mm
シリンダー径:9.55mm
シリンダー押出速度:20mm/分
引き取り速度:4.0m/分(但し、MTが高すぎて樹脂が破断してしまう場合には、引き取り速度を下げ、引き取りのできる最高の速度で測定する。)
温度:230℃
溶融張力(MT)は、発泡成形に重要な因子と認識されており、特許文献の中でも、MTを規定したものは多い。
例えば、前記特許文献7では、MTとスウェルが高く成形加工性に優れたプロピレン重合体が開示されている。MTに関しては、その段落[0078]に好ましい範囲の記載があり、高ければ高い程良く、最も好ましいのは15g以上と言及されている。従って、特許文献7には、本発明の特定のMTの値を示唆する記述は、一切なく、長鎖分岐を有するポリプロピレンとしては、MTが比較的低い2〜10gが好ましいとする本発明とは、発明の技術思想が根本的に異なる。
また、前記特許文献8、9には、それぞれ押出発泡成形用樹脂組成物、ポリプロピレン系発泡シートが開示されている。MTに関する記述は、それぞれ段落[0074]、[0076]にあるが、特許文献7と同様の記載内容となっており、本発明の特定のMTの値を示唆する記述は、一切ない。
また、前記特許文献10には、長鎖分岐を有する高MTのポリプロピレンと低MTのポリプロピレンの混合物を用いて、押出発泡することにより製造したポリプロピレン系樹脂発泡体が開示されている。この場合も、その段落[0014]に詳細な記載があるが、MTは、高い方が好ましくと、記載され、本発明の特定のMTの値を示唆する記述は、一切ない。
また、前記特許文献11には、高MTのポリプロピレン樹脂と低MTのポリプロピレン樹脂の混合物を基材樹脂とするポリプロピレン系樹脂押出泡シートが開示されている。高MTのポリプロピレン樹脂の例示は、その段落[0015]に記載があり、長鎖分岐や架橋を有するものであるが、その特許請求の範囲の請求項1の規定の通り、MTは10cN以上と高い方が好ましい記載となっており(1g=0.98cN)、本発明の特定のMTの値を示唆する記述は、一切ない。
また、前記特許文献12には、低MFRのポリプロピレン、特定の規定のプロピレン・エチレンブロック共重合体、極めて高い固有粘度を有するオレフィン重合体を含むポリプロピレン、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物等の熱可塑性樹脂、からなるポリプロピレン系樹脂組成物が開示されている。極めて高い固有粘度を有するオレフィン重合体を含むポリプロピレンが高MTのポリプロピレンに相当するが、この特許文献12には、本発明の特定のMTの値を有する長鎖分岐ポリプロピレンに関して示唆する記載は、一切ない。なお、特許文献12で開示されている極めて高い固有粘度を有するオレフィン重合体を含むポリプロピレンは、極めて高い固有粘度を有するオレフィン重合体の分散が難しく、輝点が悪く成形体の外観が悪くなり易いといった問題も、含んでいる。
さらに、前記特許文献13には、長鎖分岐を有するポリプロピレンとプロピレン系重合体、発泡剤からなるプロピレン樹脂組成物を少なくとも一方向に延伸させることによって得られたポリプロピレン系発泡延伸フィルムが開示されている。この場合も、その段落[0072]に記載の通り、MTは、高い方が好ましく、本発明の特定のMTの値を示唆する記述は、一切ない。
本発明に係るポリプロピレン(X)は、MTが2〜10gでなくてはならない。MTの下限については、MTが3g以上であることが好ましい。MTの上限については、MTが9g以下であることが好ましく、更に好ましくはMTが8g以下、最も好ましくは7g以下である。MTの値が高すぎると、押出成形の際の延展性が悪くなり、シート、フィルム、成形体などの外観が悪くなったり、延展不良による破泡のため、連続気泡率が悪くなったりするので、好ましくない。逆に、MTの値が低すぎると、発泡セル形成の際に張力不足による破泡のため、連続気泡率が悪くなったりセル径が大きくなったりセルサイズが不均一になったりするので、好ましくない。
MTを上記の範囲に制御する具体的な手法としては、触媒製造法(特に錯体の担持比率)を調整することで、長鎖分岐の数を変える方法や、特性(X−iii)の範囲内でMFRを調整する方法がある。長鎖分岐の数を増やしたり、MFRを低くしたりすると、MTは高くなる。一方、MTを低くするには、逆方向に調整すれば良い。
I−3.特性(X−iii):MFR
本発明に係るポリプロピレン(X)は、前記の特性(X−iii)に示す通り、MFRが5g/10分を超え、20g/10分以下でなくてはならない。
本発明におけるMFRは、JIS K7210:1999「プラスチック―熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)およびメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」のA法、条件M(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定した値である。
MFRは、ポリプロピレンの成形加工において最も基本的な因子である。発泡成形や押出成形の場合、一般的には、比較的低い値が好ましいと言われている。
例えば、前記特許文献7では、MFRに関してはその段落[0037]に好ましい範囲の記載があり、押出発泡成形の場合には、比較的低い値が好ましいと記載されており、最も好ましい範囲は1.0〜3.0g/10分と、記載されている。従って、前記特許文献7には、本発明の特定のMFRの値を示唆する記述は、一切なく、押出発泡成形向けとしては、比較的高い5g/10分を超え、20g/10分以下が好ましいとする本発明とは異なる。
また、前記特許文献8、9では、MFRに関する記述は、それぞれ段落[0035]、[0037]にあるが、前記特許文献7と同様に、比較的低い値が好ましいと記載されており、最も好ましい範囲は2〜5g/10分と記載されている。従って、両特許文献には、本発明の特定のMFRの値を示唆する記述は一切ない。
また、前記特許文献10では、詳細な説明にMFRに関する記載はないが、実施例の値(MI)は、1.8、3.0g/10分であり(段落[0030])、本発明の規定の範囲に入らない。
また、前記特許文献11では、高MTのポリプロピレン樹脂と低MTのポリプロピレン樹脂のMFR比についての記載があるが、MFRの値自体に関しては、詳細な記載がない。実施例のMFRの値は、3.2g/10分であり(段落[0052])、本発明の規定の範囲に入らない。
また、前記特許文献12では、極めて高い固有粘度を有するオレフィン重合体を含むポリプロピレンが高MTのポリプロピレンに相当するが、そのMFRに関する詳細な説明は、その段落[0047]にあり、最も好ましい範囲は0.2〜5.0g/10分と記載されている。この特許文献には、本発明の特定のMFRの値を有する長鎖分岐ポリプロピレンに関して示唆する記載は一切ない。
さらに、前記特許文献13の場合も、その段落[0034]に記載の通り、MFRは低い方が好ましく、最も好ましい範囲は2〜5g/10分と記載されている。本発明の特定のMFRの値を示唆する記述は一切ない。
本発明に係るポリプロピレン(X)は、MFRが5g/10分を超え、20g/10分以下でなくてはならない。MFRの下限に関しては、好ましくは6g/10分以上、より好ましくは7g/10分以上、最も好ましくは8g/10分以上である。MFRが低すぎると、押出成形の際の延展性が悪くなり、シート、フィルム、成形体などの外観が悪くなったり、延展不良による破泡のため、連続気泡率が悪くなったりするので好ましくない。MFRの上限に関しては、好ましくは17g/10分以下、より好ましくは15g/10分以下、更に好ましくは13g/10分以下、最も好ましくは10g/10分以下である。MFRが高すぎると、発泡セル形成の際に過剰に引き伸ばされる部分が生じ易く、破泡して連続気泡率が悪くなったり、セル径が大きくなったり、セルサイズが不均一になったりするため好ましくない。
MFRを上記の範囲に調整する具体的な方法として、重合時に添加する水素の量を変更する方法を挙げることができる。水素は、プロピレンの重合において、連鎖移動剤として作用するため、水素の添加量を増やせば、MFRが上がり、逆に、添加量を下げれば、MFRを下げることができる。重合槽内部の水素濃度に対するMFRの値は、使用する触媒や他の重合条件によって異なるが、触媒種やその他の重合条件に応じて事前に水素濃度とMFRの関係を把握し、望みのMFRの値となるよう水素濃度を調整することは、当業者にとって極めて容易なことである。
I−4.特性(X−iv):25℃キシレン可溶成分量(CXS)
本発明に係るポリプロピレン(X)は、前記の特性(X−iv)に示す通り、25℃キシレン可溶成分量(CXS)が5wt%未満でなくてはならない(但し、ポリプロピレン(X)全量を100wt%とする)。本発明におけるCXSは、以下の手順で測定した値である。
[CXS測定手順]
2gの試料を300mlのp−キシレン(0.5mg/mlのBHTを含む)に130℃で溶解させ溶液とした後、25℃で12時間放置する。その後、析出したポリマーを濾別し、濾液からp−キシレンを蒸発させ、さらに100℃で12時間減圧乾燥し25℃キシレン可溶成分を回収する。この回収成分の重量の仕込み試料重量に対する割合[重量%]をCXSと定義する。
CXSは、低結晶性のポリマー成分を表す一般的な指標であり、この値が高いとポリプロピレン(X)中の低結晶性成分の含量が高くなり、成形時や製品自体に問題が生じる恐れがある。例えば、押出発泡成形時に目やにや発煙の問題が生じたり、シート、フィルム、製品の表面がべたついたりする問題が生じ易い。本発明に係るポリプロピレン(X)は、CXSが5wt%未満でなくてはならない。CXSは、好ましくは3wt%未満、より好ましくは1wt%未満、最も好ましくは0.5wt%未満であることが望ましい。CXSの下限値については、特に制限はないが、0.01wt%以上、好ましくは0.05wt%以上あると、添加剤の効果が発現し易くなる。
CXSを上記の範囲に調整する具体的な方法として、触媒の選定を挙げることができる。長鎖分岐を有するポリプロピレンのCXSを決定する最も重要な因子は、触媒であり、公知の触媒の中から、CXSを満たすものを選定すればよい。触媒の具体例は後述する。
I−5.特性(X−v):分岐指数g
本発明に係るポリプロピレン(X)は、特性(X−i)〜(X−iv)を満たさなくてはならないが、更に、以下の特性(X−v)を満たすことが好ましい。
特性(X−v):絶対分子量Mabsが100万における分岐指数gが0.3以上、1.0未満である。
分岐指数gは、長鎖分岐に関する、より直接的な指標として知られている。「Developments in Polymer Characterization−4」(J.V. Dawkins ed. Applied Science Publishers, 1983)に詳細な説明があるが、分岐指数gの定義は、以下の通りである。
分岐指数g=[η]br/[η]lin
[η]br:長鎖分岐構造を有するポリマー(br)の固有粘度
[η]lin:ポリマー(br)と同じ分子量を有する線状ポリマーの固有粘度
上記定義から明らかな通り、長鎖分岐構造が存在すると、分岐指数gは、1よりも小さな値を取り、長鎖分岐構造が増えるほど分岐指数gの値は、小さくなっていく。ポリプロピレンは、一般に分子量分布を有しているため、かなり分子量の大きい成分に長鎖分岐構造が存在すれば、効率よく絡み合いを促進し、発泡特性を高めることに寄与することができる。故に、本発明に係るポリプロピレン(X)のうち、絶対分子量Mabsが100万となる時の分岐指数gの値が特定の範囲に入っているものが特に好ましい。
絶対分子量Mabsが100万となる時の分岐指数gの値を知るためには、絶対分子量Mabsの関数として分岐指数gの値を得なくてはならない。この点については、本発明においては、以下の測定方法、解析方法、算出方法を用いるものとする。
[測定方法]
GPC:Alliance GPCV2000(Waters社)
検出器:接続順に記載
多角度レーザー光散乱検出器(MALLS):DAWN−E(Wyatt Technology社)
示差屈折計(RI):GPC付属
粘度検出器(Viscometer):GPC付属
移動相溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン(Irganox1076を0.5mg/mLの濃度で添加)
移動相流量:1mL/分
カラム:東ソー社 GMHHR−H(S) HTを2本連結
試料注入部温度:140℃
カラム温度:140℃
検出器温度:全て140℃
試料濃度:1mg/mL
注入量(サンプルループ容量):0.2175mL
[解析方法]
多角度レーザー光散乱検出器(MALLS)から得られる絶対分子量(Mabs)、二乗平均慣性半径(Rg)、および、Viscometerから得られる極限粘度([η])を求めるにあたっては、MALLS付属のデータ処理ソフトASTRA(version4.73.04)を利用し、以下の文献を参考にして計算を行う。
参考文献:
1.「Developments in Polymer Characterization−4」(J.V. Dawkins ed. Applied Science Publishers, 1983. Chapter1.)
2.Polymer, 45, 6495−6505(2004)
3.Macromolecules, 33, 2424−2436(2000)
4.Macromolecules, 33, 6945−6952(2000)
[分岐指数g’の算出方法]
分岐指数g’は、サンプルを上記Viscometerで測定して得られる極限粘度([η]br)と、別途、線状ポリマーを測定して得られる極限粘度([η]lin)との比([η]br/[η]lin)として算出する。
ここで、[η]linを得るための線状ポリマーとしては、市販のホモポリプロピレン(日本ポリプロ社製ノバテックPP(登録商標) グレード名:FY6)を用いる。線状ポリマーの[η]linの対数は、分子量の対数と線形の関係があることは、Mark−Houwink−Sakurada式として公知であり、[η]linは、低分子量側や高分子量側に、適宜外挿して数値を得ることとする。
本発明に係るポリプロピレン(X)は、絶対分子量Mabsが100万となる時の分岐指数gの値が0.3以上、1.0未満であることが好ましい。より好ましくは0.55以上、0.98以下、更に好ましくは0.75以上、0.96以下、最も好ましくは0.78以上、0.95以下である。
分岐指数g’が上記の範囲にあると、混練を繰り返した際の溶融張力の低下度合いが小さくなるため、生産工程における材料リサイクルの際に物性や成形性の低下が小さくなり好ましい。
分岐指数g’を上記の範囲に調整する具体的な方法として、触媒の選定を挙げることができる。長鎖分岐を有するポリプロピレンの分岐指数g’を決定する最も重要な因子は、触媒であり、公知の触媒の中から分岐指数g’を満たすものを選定すればよい。触媒の具体例は、後述する。
I−6.特性(X−vi):伸張粘度の測定における歪硬化度(λmax)
本発明に係るポリプロピレン(X)は、前記の特性(X−i)〜(X−iv)を満たさなくてはならず、特性(X−v)を満たすことが好ましいが、加えて、以下の特性(X−vi)を満たすことが好ましい。
特性(X−vi):伸張粘度の測定における歪硬化度(λmax)が5〜12である。
本発明におけるλmaxの算出においては、以下の条件で測定した伸張粘度の値を使用する。
装置:Rheometorics社製Ares
冶具:ティーエーインスツルメント社製Extentional Viscosity Fixture
測定温度:180℃
歪み速度:0.1/sec
試験片の作成方法:プレス成型
試験片の形状:18mm×10mm、厚さ0.7mm、のシート
次に、得られた伸張粘度の値から、λmaxを算出する方法を説明する。
まず、横軸に時間t(秒)、縦軸に伸長粘度η(Pa・秒)を両対数グラフでプロットし、その両対数グラフ上で歪み硬化を起こす直前の粘度を直線で近似する。具体的には、まず伸張粘度を時間に対してプロットした際の各々の時刻での傾きを求めるが、それに当っては伸張粘度の測定データは離散的であることを考慮し、隣接データの傾きをそれぞれ求め、周囲数点の移動平均をとる方法を用いる。
伸張粘度は、低歪み量の領域では、単純増加関数となり、次第に一定値に漸近し、歪み硬化がなければ充分な時間経過後にトルートン粘度に一致するが、歪み硬化のある場合には、一般的に歪み量(=歪み速度×時間)1程度から、伸張粘度が時間と共に増大を始める。すなわち、上記傾きは、低歪み領域では時間と共に減少傾向があるが、歪み量1程度から逆に増加傾向となり、伸張粘度を時間に対してプロットした際の曲線上に、変曲点が存在する。そこで歪み量が0.1〜2.5程度の範囲で、上記で求めた各々の時刻の傾きが最小値をとる点を求めて、その点で接線を引き、直線を歪み量が4.0となるまで外挿する。歪み量4.0となるまでの伸長粘度ηの最大値(ηmax)を求め、また、その時間までの上記近似直線上の粘度をηlinとする。ηmax/ηlinを、λmax(0.1)と定義する。
歪硬化度(λmax)も、発泡成形に重要な因子と認識されており、特許文献の中でも歪硬化度を規定したものは多い。
例えば、前記特許文献7では、歪硬化度(λmax)に関しては、特許請求の範囲の請求項1の他に、その段落[0066]に好ましい範囲の記載があり、高ければ高い程良く、最も好ましいのは15.0以上と言及されている。従って、前記特許文献7には、本発明の特定の歪硬化度(λmax)の値を示唆する記述は、一切なく、長鎖分岐を有するポリプロピレンとして比較的低い5.0〜12.0が好ましいとする本発明とは、発明の技術思想が根本的に異なる。
また、前記特許文献8、9では、歪硬化度(λmax)に関する記述は、それぞれ段落[0061][0063]にあるが、特許文献7と同様の記載となっており、本発明の特定の歪硬化度(λmax)の値を示唆する記述は、一切ない。
また、前記特許文献12には、本発明の特定の歪硬化度(λmax)の値を有する長鎖分岐ポリプロピレンに関して示唆する記載は、一切ない。
さらに、前記特許文献13の場合も、その段落[0059]に記載の通り、歪硬化度(λmax)は高い方が好ましく、本発明の特定の歪硬化度(λmax)の値を示唆する記述は、一切ない。
なお、前記特許文献10、11には、歪硬化度(λmax)に関する記述自体がない。
本発明に係るポリプロピレン(X)は、歪硬化度(λmax)が5〜12であることが好ましい。より好ましくは、歪硬化度(λmax)が6〜11であり、更に好ましくは、7〜10である。本発明に係るポリプロピレン(X)のうち、歪硬化度(λmax)の値がこの範囲内にあるものは、延展性と発泡時のセル形成のバランスが特に良好となり一層好ましい。
歪硬化度(λmax)を上記の範囲に制御する具体的な手法としては、触媒製造法(特に錯体の担持比率)を調整することで長鎖分岐の数を変える方法や、特性(X−iii)の範囲内でMFRを調整する方法がある。長鎖分岐の数を増やしたり、MFRを低くしたりすると、歪硬化度(λmax)は高くなる。歪硬化度(λmax)を低くするには、逆方向に調整すれば良い。
I−7.その他の特性(X−vii):mm分率
本発明に係るポリプロピレン(X)の特性については、上述の通りであるが、その他に、下記の特性(X−vii)を満たすものを用いると、より一層好ましい。
特性(X−vii):13C−NMRにより求めたアイソタクチックトライアッド分率(mm分率)が95%以上である。
ここで、mm分率は、プロピレン単位3連鎖において隣接するメチル基の立体関係がメソとなるものが2つ連続したものの存在率を示し、本発明における定義は、特開2009−275207号公報の段落[0053]〜[0065]の記載に従うものとする。13C−NMRの測定条件も、特開2009−275207号公報に従う。
mm分率は、立体規則性の指標であり、数値が高い程ポリマー鎖中でプロピレン単位が規則正しく並んでいることを意味し、結晶化度が高くなりやすい。従って、mm分率が高い程、耐熱性や剛性が高くなるので好ましい。本発明において、mm分率は95%以上が好ましく、より好ましくは96%以上であり、さらに好ましくは97%以上である。
mm分率を上記の範囲に調整する具体的な方法として、触媒の選定を挙げることができる。長鎖分岐を有するポリプロピレンのmm分率を決定する最も重要な因子は、触媒であり、公知の触媒の中からmm分率を満たすものを選定すればよい。触媒の具体例は、後述する。
II.ポリプロピレン(X)の製造方法
本発明におけるポリプロピレン(X)は、上記の特性(X−i)〜(X−iv)を満たす限り、特に製造方法を限定するものではない。各種方法の中でもメタロセン触媒の組み合わせを利用したマクロマー共重合法を用いることが好ましく、例えば、特開2009−57542号公報に開示されている方法を例として挙げることができる。この手法は、マクロマー生成能力を有する特定の構造の触媒成分と、高分子量でマクロマー共重合能力を有する特定の構造の触媒成分とを、組み合わせた触媒を用いて、長鎖分岐構造を有するポリプロピレンを製造する方法である。
以下、この方法をポリプロピレン(X)の製造方法の具体例として選び、詳細に説明する。
II−1.触媒
下記の触媒成分(A)、(B)および(C)からなる触媒を用いることが好ましい。
触媒成分(A):下記一般式(a1)で表される化合物である成分[A−1]から少なくとも1種類、および下記一般式(a2)で表される化合物である成分[A−2]から少なくとも1種類を選んだ2種以上の周期表4族の遷移金属化合物。
成分[A−1]:一般式(a1)で表される化合物
成分[A−2]:一般式(a2)で表される化合物
触媒成分(B):イオン交換性層状珪酸塩
触媒成分(C):有機アルミニウム化合物
以下、触媒成分(A)、(B)および(C)について、詳細に説明する。
(1)触媒成分(A)
(i)成分[A−1]:一般式(a1)で表される化合物
Figure 0006171717
[一般式(a1)中、各々R11およびR12は、独立して、炭素数4〜16の窒素、酸素または硫黄を含有する複素環基を表す。各々R13およびR14は、独立して、ハロゲン、ケイ素、酸素、硫黄、窒素、ホウ素、リン若しくはこれらから選択される複数のヘテロ元素を含有してもよい炭素数6〜16のアリール基、または炭素数6〜16の窒素、酸素若しくは硫黄を含有する複素環基を表す。各々X11およびY11は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、アミノ基、炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルアミド基、トリフルオロメタンスルホン酸基、または炭素数1〜20のリン含有炭化水素基を表す。Q11は、炭素数1〜20の二価の炭化水素基、または炭素数1〜20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基若しくはゲルミレン基を表す。]
上記R11およびR12の、炭素数4〜16の窒素、酸素または硫黄を含有する複素環基としては、好ましくは2−フリル基、置換された2−フリル基、置換された2−チエニル基、置換された2−フルフリル基であり、より好ましくは、置換された2−フリル基である。
また、置換された2−フリル基、置換された2−チエニル基、置換された2−フルフリル基の置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基、トリアルキルシリル基等が挙げられる。これらのうち、メチル基、トリメチルシリル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
さらに、R11およびR12として、特に好ましくは、2−(5−メチル)−フリル基である。また、R11およびR12は、互いに同一である場合が好ましい。
上記R13およびR14の、ハロゲン、ケイ素、酸素、硫黄、窒素、ホウ素、リン、又はこれらから選択される複数のヘテロ元素を含有してもよい炭素数6〜16のアリール基としては、炭素数6〜16になる範囲で、アリール環状骨格上に、1つ以上の、炭素数1〜6の炭化水素基、炭素数1〜6の珪素含有炭化水素基、炭素数1〜6のハロゲン含有炭化水素基等を置換基として有していてもよい。
13およびR14としては、好ましくは、少なくとも1つが、フェニル基、4−メチルフェニル基、4−i−プロピルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、4−トリメチルシリルフェニル基、2,3―ジメチルフェニル基、3,5―ジ−t−ブチルフェニル基、4−フェニル−フェニル基、クロロフェニル基、ナフチル基、又はフェナンスリル基であり、より好ましくはフェニル基、4−i−プロピルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、4−トリメチルシリルフェニル基、4−クロロフェニル基である。また、R13およびR14が互いに同一である場合が好ましい。
上記X11およびY11は、補助配位子であり、触媒成分(B)と反応して、オレフィン重合能を有する活性なメタロセンを生成させる。したがって、この目的が達成される限り、X11およびY11は、配位子の種類が制限されるものではなく、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、アミノ基または炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルアミド基、トリフルオロメタンスルホン酸基、または炭素数1〜20のリン含有炭化水素基を示す。
上記Q11は、二つの共役五員環を架橋する結合性基であり、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、又は炭素数1〜20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基若しくはゲルミレン基を示す。シリレン基またはゲルミレン基上に2個の炭化水素基が存在する場合は、それらが互いに結合して環構造を形成していてもよい。
上記のQ11の具体例としては、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、1,2−エチレン等のアルキレン基;ジフェニルメチレン等のアリールアルキレン基;シリレン基;メチルシリレン、ジメチルシリレン、ジエチルシリレン、ジ(n−プロピル)シリレン、ジ(i−プロピル)シリレン、ジ(シクロヘキシル)シリレン等のアルキルシリレン基、メチル(フェニル)シリレン等の(アルキル)(アリール)シリレン基;ジフェニルシリレン等のアリールシリレン基;テトラメチルジシリレン等のアルキルオリゴシリレン基;ゲルミレン基;上記の2価の炭素数1〜20の炭化水素基を有するシリレン基のケイ素をゲルマニウムに置換したアルキルゲルミレン基;(アルキル)(アリール)ゲルミレン基;アリールゲルミレン基などを挙げることができる。これらの中では、炭素数1〜20の炭化水素基を有するシリレン基、または、炭素数1〜20の炭化水素基を有するゲルミレン基が好ましく、アルキルシリレン基、アルキルゲルミレン基がより好ましい。
上記一般式(a1)で表される化合物のうち、好ましい化合物として、以下に具体的に例示する。
ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−チエニル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジフェニルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルゲルミレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルゲルミレンビス{2−(5−メチル−2−チエニル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−t−ブチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−トリメチルシリル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−フェニル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(4,5−ジメチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−ベンゾフリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−メチルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−i−プロピルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−トリメチルシリルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−フルフリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−クロロフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−フルオロフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−トリフルオロメチルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−t−ブチルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−フリル)−4−(1−ナフチル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−フリル)−4−(2−ナフチル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−フリル)−4−(2−フェナンスリル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(2−フリル)−4−(9−フェナンスリル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(1−ナフチル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(2−ナフチル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(2−フェナンスリル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(9−フェナンスリル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−t−ブチル−2−フリル)−4−(1−ナフチル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−t−ブチル−2−フリル)−4−(2−ナフチル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−t−ブチル−2−フリル)−4−(2−フェナンスリル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−t−ブチル−2−フリル)−4−(9−フェナンスリル)−インデニル}]ハフニウム、などを挙げることができる。
これらのうち、より好ましいのは、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−メチルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−i−プロピルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−トリメチルシリルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−クロロフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(2−ナフチル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−t−ブチルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、である。
また、さらに好ましいのは、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−フェニル−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−i−プロピルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−トリメチルシリルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−t−ブチルフェニル)−インデニル}]ハフニウム、である。
(ii)成分[A−2]:一般式(a2)で表される化合物
Figure 0006171717
[一般式(a2)中、各々R21およびR22は、独立して、炭素数1〜6の炭化水素基を表す。各々R23およびR24は、独立して、ハロゲン、ケイ素、酸素、硫黄、窒素、ホウ素、リン又はこれらから選択される複数のヘテロ元素を含有してもよい炭素数6〜16のアリール基を表す。各々X21およびY21は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、アミノ基、炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルアミド基、トリフルオロメタンスルホン酸基、または炭素数1〜20のリン含有炭化水素基を表す。Q21は、炭素数1〜20の二価の炭化水素基、または炭素数1〜20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基若しくはゲルミレン基を表す。M21は、ジルコニウムまたはハフニウムを表す。]
上記R21およびR22は、それぞれ独立して、炭素数1〜6の炭化水素基であり、好ましくはアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。具体的な例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、n−ヘキシル等が挙げられ、好ましくはメチル、エチル、n−プロピルである。また、R21およびR22は、互いに同一である場合が好ましい。
上記R23およびR24は、それぞれ独立して、ハロゲン、ケイ素、あるいは、これらから選択される複数のヘテロ元素を含有してもよい炭素数6〜16の、好ましくは炭素数6〜12のアリール基である。好ましい例としてはフェニル、3−クロロフェニル、4−クロロフェニル、3−フルオロフェニル、4−フルオロフェニル、4−メチルフェニル、4−i−プロピルフェニル、4−t−ブチルフェニル、4−トリメチルシリルフェニル、4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)、4−(2−クロロ−4−ビフェニリル)、1−ナフチル、2−ナフチル、4−クロロ−2−ナフチル、3−メチル−4−トリメチルシリルフェニル、3,5−ジメチル−4−t−ブチルフェニル、3,5−ジメチル−4−トリメチルシリルフェニル、3,5−ジクロロ−4−トリメチルシリルフェニル等が挙げられる。また、R23およびR24は、互いに同一である場合が好ましい。
上記X21およびY21は、補助配位子であり、触媒成分(B)と反応して、オレフィン重合能を有する活性なメタロセンを生成させる。したがって、この目的が達成される限り、X21およびY21は、配位子の種類が制限されるものではなく、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基、アミノ基または炭素数1〜20の窒素含有炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルアミド基、トリフルオロメタンスルホン酸基、または炭素数1〜20のリン含有炭化水素基を示す。
上記Q21は、二つの共役五員環を架橋する結合性基であり、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、又は炭素数1〜20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基若しくはゲルミレン基を示す。シリレン基またはゲルミレン基上に2個の炭化水素基が存在する場合は、それらが互いに結合して環構造を形成していてもよい。好ましくは置換シリレン基あるいは置換ゲルミレン基である。
ケイ素、ゲルマニウムに結合する置換基は、炭素数1〜12の炭化水素基が好ましく、二つの置換基が連結していてもよい。具体的な例としては、メチレン、ジメチルメチレン、エチレン−1,2−ジイル、ジメチルシリレン、ジエチルシリレン、ジフェニルシリレン、メチルフェニルシリレン、9−シラフルオレン−9,9−ジイル、ジメチルシリレン、ジエチルシリレン、ジフェニルシリレン、メチルフェニルシリレン、9−シラフルオレン−9,9−ジイル、ジメチルゲルミレン、ジエチルゲルミレン、ジフェニルゲルミレン、メチルフェニルゲルミレン等が挙げられる。
さらに、上記M21は、ジルコニウムまたはハフニウムであり、好ましくはハフニウムである。
上記一般式(a2)で表される化合物のうち、好ましい化合物として、以下に具体的に例示する。
中心金属がハフニウムの化合物を記載したが、ジルコニウムに代替した化合物も同様に非限定的な例として取り扱う。
ジクロロ{1,1’−ジメチルシリレンビス(2−メチル−4−フェニル−4−ヒドロアズレニル)}ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(3−クロロ−4−t−ブチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(3−メチル−4−t−ブチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(3−クロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(3−メチル−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(1−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(2−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロ−2−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(2−クロロ−4−ビフェニリル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(9−フェナントリル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−n−プロピル−4−(3−クロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−クロロ−4−t−ブチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−メチル−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルゲルミレンビス{2−メチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルゲルミレンビス{2−メチル−4−(4−t−ブチルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−(9−シラフルオレン−9,9−ジイル)ビス{2−エチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−クロロ−2−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−(9−シラフルオレン−9,9−ジイル)ビス{2−エチル−4−(3,5−ジクロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、などを挙げることができる。
これらのうち、より好ましいのは、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(3−クロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−クロロ−2−ナフチル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−メチル−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−(9−シラフルオレン−9,9−ジイル)ビス{2−エチル−4−(3,5−ジクロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、である。
また、さらに好ましいのは、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−メチル−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、ジクロロ[1,1’−(9−シラフルオレン−9,9−ジイル)ビス{2−エチル−4−(3,5−ジクロロ−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム、である。
(2)触媒成分(B)
触媒成分(B)は、イオン交換性層状珪酸塩であることが好ましい。
(i)イオン交換性層状珪酸塩の種類
イオン交換性層状珪酸塩(以下、単に珪酸塩と略記することもある。)とは、イオン結合などによって構成される面が互いに結合力で平行に積み重なった結晶構造を有し、かつ、含有されるイオンが交換可能である珪酸塩化合物をいう。大部分の珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出されるため、イオン交換性層状珪酸塩以外の夾雑物(石英、クリストバライト等)が含まれることが多いが、それらを含んでもよい。それら夾雑物の種類、量、粒子径、結晶性、分散状態によっては純粋な珪酸塩以上に好ましいことがあり、そのような複合体も、触媒成分(B)に含まれる。
本発明で使用する珪酸塩は、天然産のものに限らず、人工合成物であってもよく、また、それらを含んでもよい。
珪酸塩の具体例としては、例えば、白水春雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)に記載されている次のような層状珪酸塩が挙げられる。
すなわち、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト等のスメクタイト族、バーミキュライト等のバーミキュライト族、雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ベントナイト、パイロフィライト、タルク、緑泥石群等である。
珪酸塩は、主成分の珪酸塩が2:1型構造を有する珪酸塩であることが好ましく、スメクタイト族であることが更に好ましく、モンモリロナイトが特に好ましい。層間カチオンの種類は、特に限定されないが、工業原料として比較的容易に且つ安価に入手し得る観点から、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を層間カチオンの主成分とする珪酸塩が好ましい。
(ii)イオン交換性層状珪酸塩の化学処理
本発明に係る触媒成分(B)のイオン交換性層状珪酸塩は、特に処理を行うことなくそのまま用いることができるが、化学処理を施すことが好ましい。ここでイオン交換性層状珪酸塩の化学処理とは、表面に付着している不純物を除去する表面処理と粘土の構造に影響を与える処理のいずれをも用いることができ、具体的には、酸処理、アルカリ処理、塩類処理、有機物処理等が挙げられる。
<酸処理>:
酸処理は、表面の不純物を取り除くほか、結晶構造のAl、Fe、Mg、等の陽イオンの一部または全部を溶出させることができる。
酸処理で用いられる酸は、好ましくは塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、シュウ酸から選択される。
処理に用いる塩類(次項で説明する)および酸は、2種以上であってもよい。塩類および酸による処理条件は、特には制限されないが、通常、塩類および酸濃度は、0.1〜50重量%、処理温度は、室温〜沸点、処理時間は、5分〜24時間の条件を選択して、イオン交換性層状珪酸塩から成る群より選ばれた少なくとも一種の化合物を構成している物質の少なくとも一部を溶出する条件で行うことが好ましい。また、塩類および酸は、一般的には水溶液で用いられる。
なお、以下の酸類、塩類を組み合わせたものを処理剤として用いてもよい。また、これら酸類、塩類の組み合わせであってもよい。
<塩類処理>:
塩類で処理される前の、イオン交換性層状珪酸塩の含有する交換可能な金属陽イオンの40%以上、好ましくは60%以上を、下記に示す塩類より解離した陽イオンと、イオン交換することが好ましい。
このようなイオン交換を目的とした塩類処理で用いられる塩類は、有機陽イオン、無機陽イオンおよび金属イオンからなる群から選ばれた少なくとも一種の陽イオンと、有機陰イオン及び無機陰イオンからなる群から選ばれた少なくとも一種の陰イオンとから構成される塩類が、例示される。例えば、周期表第1〜14族原子から成る群より選ばれた少なくとも一種の原子を含む陽イオンと、ハロゲン陰イオン、並びに、無機酸および有機酸由来の陰イオンから成る群より選ばれた少なくとも一種の陰イオンとから成る化合物が好ましい例として挙げられる。ここで、酸由来の陰イオンとは、酸から少なくとも1個の水素陽イオンが脱離した陰イオンのことである。例えば、HNOの様な1価の無機酸の場合には、その酸由来の陰イオンは、NO であり、HPOの様な3価の無機酸の場合には、その酸由来の陰イオンは、HPO 、HPO 2−、PO 3−、の3種類が存在する。有機酸由来の陰イオンの場合も同様である。更に好ましくは、陽イオンが金属イオン、陰イオンが無機酸由来の陰イオンやハロゲン陰イオンとから成る化合物である。
このような塩類の具体例としては、LiF、LiCl、LiBr、LiI、LiSO、Li(CHCOO)、LiCO、LiHCO、Li、LiClO、LiPO、CaCl、CaSO、CaC、Ca(NO、MgCl、MgBr、MgSO、Mg(PO、Mg(ClO、MgC、Mg(NO、Mg(CHCOO)等が挙げられる。
また、Ti(CHCOO)、Ti(CO、Ti(NO、Ti(SO、TiF、TiCl、Zr(CHCOO)、Zr(CO、Zr(NO、Zr(SO、ZrF、ZrCl、Hf(CHCOO)、Hf(CO、Hf(NO、Hf(SO、HfF、HfCl、V(CHCOCHCOCH、VOCl、VCl、VCl、VBr等が、挙げられる。
また、Cr(CHCOCHCOCH、Cr(NO、Cr(ClO、CrPO、Cr(SO、CrF、CrCl、CrBr、CrI、Mn(CHCOO)、Mn(CHCOCHCOCH、MnCO、Mn(NO、MnO、Mn(ClO、MnF、MnCl、Fe(CHCOO)、Fe(CHCOCHCOCH、FeCO、Fe(NO、Fe(ClO、FePO、FeSO、Fe(SO、FeF、FeCl等が、挙げられる。
また、Co(CHCOO)、Co(CHCOCHCOCH、CoCO、Co(NO、CoC、Co(ClO、Co(PO、CoSO、CoF、CoCl、NiCO、Ni(NO、NiC、Ni(ClO、NiSO、NiCl、NiBr等が、挙げられる。
さらに、Zn(CHCOO)、Zn(CHCOCHCOCH、ZnCO、Zn(NO、Zn(ClO、Zn(PO、ZnSO、ZnF、ZnCl、AlF、AlCl、AlBr、AlI、Al(SO、Al(C、Al(CHCOCHCOCH、Al(NO、AlPO、GeCl、GeBr、GeI等が、挙げられる。
<アルカリ処理>:
酸、塩処理の他に、必要に応じて下記のアルカリ処理や有機物処理を行ってもよい。アルカリ処理で用いられる処理剤としては、LiOH、NaOH、KOH、Mg(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)、Ba(OH)などが例示される。
<有機物処理>:
また、有機物処理に用いられる有機処理剤の例としては、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、N,N−ジメチルアニリニウム、トリフェニルホスホニウム、等が挙げられる。
また、有機物処理剤を構成する陰イオンとしては、塩類処理剤を構成する陰イオンとして例示した陰イオン以外にも、例えばヘキサフルオロフォスフェート、テトラフルオロボレート、テトラフェニルボレートなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。
また、これらの処理剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの組み合わせは、処理開始時に添加する処理剤について組み合わせて用いてもよいし、処理の途中で添加する処理剤について、組み合わせて用いてもよい。また化学処理は、同一または異なる処理剤を用いて複数回行うことも可能である。
これらイオン交換性層状珪酸塩には、通常、吸着水および層間水が含まれる。これらの吸着水および層間水を除去して触媒成分(B)として使用するのが好ましい。
イオン交換性層状珪酸塩の吸着水および層間水の加熱処理方法は、特に制限されないが、層間水が残存しないように、また、構造破壊を生じないよう条件を選ぶことが必要である。加熱時間は0.5時間以上、好ましくは1時間以上である。その際、除去した後の触媒成分(B)の水分含有率が、温度200℃、圧力1mmHgの条件下で2時間脱水した場合の水分含有率を0重量%とした時、3重量%以下、好ましくは1重量%以下、であることが好ましい。
以上のように、触媒成分(B)として、特に好ましいものは、塩類処理および/または酸処理を行って得られた、水分含有率が3重量%以下の、イオン交換性層状珪酸塩である。
イオン交換性層状珪酸塩は、触媒形成または触媒として使用する前に、後述する有機アルミニウム化合物の触媒成分(C)で処理を行うことが可能で、好ましい。イオン交換性層状珪酸塩1gに対する触媒成分(C)の使用量に制限は無いが、通常20mmol以下、好ましくは0.5mmol以上、10mmol以下で行う。処理温度や時間の制限は無く、処理温度は、通常0℃以上、70℃以下、処理時間は10分以上、3時間以下で行う。処理後に洗浄することも可能で、好ましい。溶媒は、後述する予備重合やスラリー重合で使用する溶媒と同様の炭化水素溶媒を使用する。
また、触媒成分(B)は、平均粒径が5μm以上の球状粒子を用いるのが好ましい。粒子の形状が球状であれば、天然物あるいは市販品をそのまま使用してもよいし、造粒、分粒、分別等により粒子の形状および粒径を制御したものを用いてもよい。
ここで用いられる造粒法は、例えば攪拌造粒法、噴霧造粒法が挙げられるが、市販品を利用することもできる。
また、造粒の際に、有機物、無機溶媒、無機塩、各種バインダ−を用いてもよい。
上記のようにして得られた球状粒子は、重合工程での破砕や微粉の生成を抑制するためには0.2MPa以上、特に好ましくは0.5MPa以上の圧縮破壊強度を有することが望ましい。このような粒子強度の場合には、特に予備重合を行う場合に、粒子性状改良効果が有効に発揮される。
(3)触媒成分(C)
触媒成分(C)は、有機アルミニウム化合物である。触媒成分(C)として用いられる有機アルミニウム化合物は、一般式:(AlR31 3−qで示される化合物が適当である。この式で表される化合物を単独で、複数種混合してあるいは併用して使用することができる。この式中、R31は、炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Zは、ハロゲン、水素、アルコキシ基、アミノ基を示す。qは1〜3の、pは1〜2の整数を各々表す。R31としては、アルキル基が好ましく、またZは、それがハロゲンの場合には塩素が、アルコキシ基の場合には炭素数1〜8のアルコキシ基が、アミノ基の場合には炭素数1〜8のアミノ基が、好ましい。
有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリノルマルプロピルアルミニウム、トリノルマルブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリノルマルヘキシルアルミニウム、トリノルマルオクチルアルミニウム、トリノルマルデシルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムジメチルアミド、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジイソブチルアルミニウムクロライド等が挙げられる。
これらのうち、好ましくは、p=1、q=3のトリアルキルアルミニウムまたはアルキルアルミニウムヒドリドである。さらに好ましくは、R31が炭素数1〜8であるトリアルキルアルミニウムである。
(4)触媒の形成・予備重合について
触媒は、上記の各触媒成分(A)〜(C)を(予備)重合槽内で、同時にもしくは連続的に、あるいは一度にもしくは複数回にわたって、接触させることによって形成させることができる。
各成分の接触は、脂肪族炭化水素あるいは芳香族炭化水素溶媒中で行うのが普通である。接触温度は、特に限定されないが、−20℃から150℃の間で行うのが好ましい。接触順序としては、合目的的な任意の組み合わせが可能であるが、特に好ましいものを各成分について示せば、次の通りである。
触媒成分(A)と触媒成分(B)を接触させる前に、触媒成分(A)と、あるいは触媒成分(B)と、または触媒成分(A)および触媒成分(B)の両方に触媒成分(C)を接触させること、または、触媒成分(A)と触媒成分(B)を接触させるのと同時に触媒成分(C)を接触させること、または、触媒成分(A)と触媒成分(B)を接触させた後に触媒成分(C)を接触させることが可能であるが、好ましくは、触媒成分(A)と触媒成分(B)を接触させる前に、触媒成分(C)といずれかに接触させる方法である。
また、各成分を接触させた後、脂肪族炭化水素あるいは芳香族炭化水素溶媒にて洗浄することが可能である。
触媒成分(A)、(B)および(C)の使用量は任意である。例えば、触媒成分(B)に対する触媒成分(A)の使用量は、触媒成分(B)1gに対し、好ましくは0.1μmol〜1,000μmol、特に好ましくは0.5μmol〜500μmolの範囲である。また触媒成分(A)に対する触媒成分(C)の量は、遷移金属のモル比で、好ましくは0.01〜5×10、特に好ましくは0.1〜1×10、の範囲内が好ましい。
ここで、本触媒系における成分[A−1](一般式(a1)で表される化合物)と成分[A−2](一般式(a2)で表される化合物)の機能を説明しておく。
本触媒系は、モノマーの重合によりマクロマーを形成し、そのマクロマーとモノマーとの共重合によって、長鎖分岐を有するポリプロピレンを製造することができるものである。成分[A−1]は、相対的に分子量が小さく、かつ、末端にビニル基を有する所謂マクロマーを生成する触媒成分であり、成分[A−2]は、相対的に分子量の大きな鎖状のポリプロピレン鎖の他に、[A−1]から生成したマクロマーをプロピレンと共重合して、長鎖分岐を有する高分子量のポリプロピレン鎖を生成する触媒成分である。
従って、成分[A−1]と成分[A−2]の使用比率を変化させることで、ポリプロピレン中の長鎖分岐の数を制御することができる。成分[A−1]の使用比率を高くするほどマクロマーの生成量が増え、ポリプロピレン中の長鎖分岐が増える。そうすると、ポリプロピレン(X)のMTが高くなり、分岐指数gが小さくなり、λmaxが高くなる。成分[A−2]の使用比率を高くすれば、逆方向に変化する。実際にどの程度長鎖分岐が生成するかは用いる成分[A−1]と成分[A−2]によって変化するが、実際に成分[A−1]と成分[A−2]の使用比率を変化させて長鎖分岐の生成量を把握し、望みの値に調整することは、当業者にとって容易なことである。長鎖分岐の生成量を制御できれば、MT、分岐指数g、λmaxを制御できることは自明である。
また、[A−1]の選択によってマクロマーの分子量を調整することにより、長鎖分岐の長さを変えることもできる。
また、ポリプロピレン(X)のCXSとmm分率についても、上述の好ましい例の範囲で適宜条件や化合物を選定しながら調整すれば、特性(X−iv)、(X−vii)を望みの値に調整することは、容易である。
上記の通り、成分[A−1]と成分[A−2]の使用比率は、ポリプロピレン(X)の特性に合わせて適宜調整すれば良いが、一般的には、遷移金属のモル比で、成分[A−1]と成分[A−2]の合計に対する[A−1]の比率が、0.30以上、0.99以下であることが好ましい。
以上の様に例示した触媒は、本重合の前に少量のオレフィンと接触させて予備重合を行っても良い。予備重合を行うことにより、重合体粒子の急激な成長を防止し、形状の良好なポリプロピレン粒子を形成することができる。
予備重合時に使用するオレフィンは、特に限定はないが、プロピレン、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレン等を例示することができる。オレフィンのフィード方法は、オレフィンを反応槽に定速的にあるいは定圧状態になるように維持するフィード方法やその組み合わせ、段階的な変化をさせる等、任意の方法が可能である。
予備重合温度、時間は、特に限定されないが、各々−20℃〜100℃、5分〜24時間の範囲であることが好ましい。また、予備重合量は、予備重合ポリマー量が触媒成分(B)に対し、好ましくは0.01〜100、さらに好ましくは0.1〜50である。また、予備重合時に触媒成分(C)を添加、又は追加することもできる。また、予備重合終了後に洗浄することも可能である。
また、上記の各成分の接触の際もしくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン等の重合体、シリカ、チタニア等の無機酸化物の固体を共存させる等の方法も可能である。
II−2.重合方法
(1)触媒の使用/プロピレン重合について
重合様式は、前記触媒成分(A)、触媒成分(B)および触媒成分(C)を含むオレフィン重合用触媒とモノマーが効率よく接触するならば、あらゆる様式を採用しうる。
具体的には、不活性溶媒を用いるスラリー重合法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いる、所謂バルク重合法、溶液重合法あるいは実質的に液体溶媒を用いず各モノマーをガス状に保つ気相重合法などが採用できる。また、連続重合、回分式重合を行う方法も適用される。また、単段重合以外に、2段以上の多段重合することも可能である。
スラリー重合法の場合は、重合溶媒として、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の飽和脂肪族又は芳香族炭化水素の単独又は混合物が用いられる。
また、重合温度は、0℃以上150℃以下である。特に、バルク重合法を用いる場合には、40℃以上が好ましく、更に好ましくは50℃以上である。また上限は80℃以下が好ましく、更に好ましくは75℃以下である。
さらに、気相重合法を用いる場合には、40℃以上が好ましく、更に好ましくは50℃以上である。また上限は100℃以下が好ましく、更に好ましくは90℃以下である。
重合圧力は、1.0MPa以上5.0MPa以下であることが好ましい。特に、バルク重合法を用いる場合には、1.5MPa以上が好ましく、更に好ましくは2.0MPa以上である。また上限は4.0MPa以下が好ましく、更に好ましくは3.5MPa以下である。
さらに、気相重合を用いる場合には、1.5MPa以上が好ましく、更に好ましくは1.7MPa以上である。また上限は2.5MPa以下が好ましく、更に好ましくは2.3MPa以下である。
さらに、分子量調節剤として、水素をプロピレンに対してモル比で1.0×10−6以上、1.0×10−2以下の範囲で用いることができる。
本発明に係るポリプロピレン(X)は、オレフィン重合用触媒の存在下、プロピレンを重合することにより、又はプロピレンとコモノマーとを共重合することにより、製造することが好ましい。コモノマーとしては、エチレン及び炭素数4〜10のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンがあげられる。
III.インパクトコポリマー(Y)
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)は、以下の特性(YH−i)〜(YH−ii)を満たすプロピレン(共)重合体(YH)と、特性(YC−i)〜(YC−ii)を満たすプロピレン−エチレン共重合体(YC)からなり、更に、特性(Y−i)を満たすものである。
特性(YH−i):プロピレン単独重合体、又は、エチレン及び炭素数4〜10のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとプロピレンとの共重合体であって、プロピレン(共)重合体(YH)が共重合体の場合には、(YH)中のエチレン及びα−オレフィンの含量の合計が0を超え、3wt%以下である。
特性(YH−ii):MFRが1〜100g/10分である。
特性(YC−i):プロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量がプロピレン−エチレン共重合体(YC)全量に対し10〜90wt%である。
特性(YC−ii):135℃デカリン中で測定した固有粘度が5〜20dl/gである。
特性(Y−i):インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量がインパクトコポリマー(Y)全量に対し1wt%以上、50wt%未満である。
インパクトコポリマーとは、通常、結晶性のプロピレン(共)重合体とプロピレン−エチレン共重合体のリアクターブレンドであって、古くはプロピレン−エチレンブロック共重合体と呼ばれていた。
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)は、特性(YH−i)〜(YH−ii)を満たすプロピレン(共)重合体(YH)と特性(YC−i)〜(YC−ii)を満たすプロピレン−エチレン共重合体(YC)とのリアクターブレンドである。
プロピレン(共)重合体(YH)、プロピレン−エチレン共重合体(YC)、インパクトコポリマー(Y)の順に、詳細を説明する。
III−1.プロピレン(共)重合体(YH)
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)の構成成分であるプロピレン(共)重合体(YH)は、インパクトコポリマー(Y)の結晶部を構成する主な成分であって、結晶性と流動性の2点が重要な制御ポイントである。
III−1−1.特性(YH−i)
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)の構成成分であるプロピレン(共)重合体(YH)は、プロピレン単独重合体、またはエチレン及び炭素数4〜10のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとプロピレンとの共重合体である。
プロピレン(共)重合体(YH)が共重合体の場合には、(YH)中のエチレン及び炭素数4〜10のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンの含量が0を超え、3wt%以下である。エチレン及び炭素数4〜10のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンの含量が3wt%を超えると、最終製品の耐熱性が悪くなり、好ましくない。
炭素数4〜10のα−オレフィンの具体例としては、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、を挙げることができる。エチレン及び炭素数4〜10のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンの中で最も好ましいのは、エチレンと1−ブテンである。
プロピレン(共)重合体(YH)が共重合体である場合、エチレン及び炭素数4〜10のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンの含量の制御は、重合槽に供給するモノマーの量比(例:プロピレンに対するエチレンの量比)を適宜調整することによって行うのが通例である。用いる触媒の共重合特性を事前に調べておいて、重合槽のガス組成が望みのコモノマー含量に対応する値になるようモノマーの供給量比を調整すればよい。
また、耐熱性の観点から、プロピレン(共)重合体(YH)は、プロピレン単独重合体であることが好ましい。
III−1−2.特性(YH−ii):MFR
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)の構成成分であるプロピレン(共)重合体(YH)は、MFRが1〜100g/10分であることが必要である。
本発明の押出発泡用ポリプロピレン樹脂組成物の設計思想の要点の一つは、既述の通り、比較的MFRが高く、MTが高すぎない(かつ、低すぎない)という特徴を有する特定の長鎖分岐を有するポリプロピレン(X)を、流動性が高すぎず、かつ、低すぎない、インパクトコポリマー(Y)と、組み合わせる点にある。
インパクトコポリマー(Y)の構成成分であるプロピレン−エチレン共重合体(YC)は、後述の様に剪断下の構造形成を抑制するために、高い粘度(=流動性が低い)が必要となる一方、インパクトコポリマー(Y)としての流動性を確保するためには、プロピレン(共)重合体(YH)の粘度を下げる、つまり、MFRを高くすることが普通の考え方である。
ここで構造形成とは、長鎖分岐を有するポリプロピレン(X)が、溶融押出機内のような剪断が掛かる条件下で、長鎖分岐を有するポリプロピレンを中心とした運動を阻害されたポリマー鎖が徐々に集まってきて、いわゆるシシ−ケバブ構造(またはその前駆体)を形成する構造形成をいう。
しかしながら、プロピレン(共)重合体(YH)のMFRが高すぎると、プロピレン(共)重合体(YH)とプロピレン−エチレン共重合体(YC)の粘度差が大きくなり、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の分散不良が発生して、剪断下の構造形成を抑制する効果が小さくなってしまう問題が生じる。また、輝点が悪化して最終製品の外観が悪くなるという問題も起きる。従って、プロピレン(共)重合体(YH)のMFRは、ある特定の範囲内に設定することが重要となるのである。
例えば、前記の特許文献12には、低MFRのポリプロピレン、特定の規定のプロピレン・エチレンブロック共重合体、極めて高い固有粘度を有するオレフィン重合体を含むポリプロピレン、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物等の熱可塑性樹脂、からなるポリプロピレン系樹脂組成物が開示されており、極めて高い固有粘度を有するオレフィン重合体を含むポリプロピレンが高MTのポリプロピレンに相当するが、プロピレン・エチレンブロック共重合体は、プロピレン重合体部分のMFRもプロピレン・エチレンブロック共重合体のMFRも高く、逆に、MFRの低い高MTのポリプロピレンと組み合わせる設計となっている。これは、従来の技術思想の典型であり、本発明の設計思想とは完全に逆方向の考え方である。
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)の構成成分であるプロピレン(共)重合体(YH)のMFRは、1〜100g/10分であるが、MFRがこの範囲よりも高すぎると、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の分散が悪くなり、製品の外観等が悪くなるので好ましくない。上限値に関しては、プロピレン(共)重合体(YH)のMFRは、より好ましくは70g/10分以下、更に好ましくは60g/10分以下、最も好ましくは50g/10分以下である。逆に、MFRが低すぎると、インパクトコポリマー(Y)の流動性が低下し、押出発泡用ポリプロピレン樹脂組成物の延展性が悪くなり、発泡時の破泡やシートやフィルムの表面外観不良、更には最終製品の外観不良に繋がるので好ましくない。下限値に関しては、プロピレン(共)重合体(YH)のMFRは、より好ましくは5g/10分以上、更に好ましくは10g/10分以上、最も好ましくは15g/10分以上、である。
MFRを上記の範囲に調整する具体的な方法として、重合時に添加する水素の量を変更する方法を挙げることができる。詳細はポリプロピレン(X)の特性(X−iii)の説明と同じであるので割愛する。
なお、MFRの測定法は、前述のポリプロピレン(X)におけるMFRの測定方法と同じである。
III−2.プロピレン−エチレン共重合体(YC)
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)の構成成分であるプロピレン−エチレン共重合体(YC)は、押出発泡用ポリプロピレン樹脂組成物において長鎖分岐を有するポリプロピレン(X)の剪断下の構造形成を抑制する成分であって、非晶性と運動性の2点が重要な制御ポイントである。
長鎖分岐を有するポリプロピレン(X)は、その分子構造に起因して、直鎖状のポリプロピレンとの比較で、非常に高いMTを有し、かつ、高い歪硬化度を示す。これは、長鎖分岐が他のポリマー鎖と絡み合い、双方の運動を拘束する為に起きる現象であるが、一方で、押出機内の様に剪断が掛かる条件下では、長鎖分岐を有するポリプロピレンを中心とした運動を阻害されたポリマー鎖が徐々に集まってきて、ある種の構造を形成する様になる。
この構造は、いわゆるシシ−ケバブ構造(またはその前駆体)であり、ポリプロピレンまたはポリプロピレン樹脂組成物の、他の部分に較べて強度が高く、異物として振る舞ってしまう。そのため、特に延展に対して抗う振る舞いを示し、押出発泡成形の場合では、シートやフィルム表面の荒れを生じたり、発泡時のセルの成長の際に、セル隔壁が破れて連続気泡率が高くなったり、といった問題を生じてしまう。つまり、押出発泡成形においては、長鎖分岐を有するポリプロピレン鎖は、ポリプロピレンまたはポリプロピレン樹脂組成物中に広く分散しているのが、望ましい状態であり、局在化して構造を形成するのは望ましくない状態なのである。
構造形成を抑制するためには、自身が結晶とならないポリマー鎖であって、かつ、自身の運動性が低くて(かつ、自身は構造形成の原因となりづらく)周囲のポリマーの運動を阻害して、構造を形成する位置に移動できない様なポリマー鎖を存在させれば良い。すなわち、非晶性の高分子量ポリマーが有効であるとの考えに至る。これが、インパクトコポリマー(Y)の構成成分であるプロピレン−エチレン共重合体(YC)であり、非晶性と運動性の2点が、重要な制御ポイントとなる所以である。
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)の構成成分であるプロピレン−エチレン共重合体(YC)は、プロピレンとエチレンの共重合体であるが、本発明の効果を阻害しない範囲で他のモノマーを共重合したものでも良い。具体的には、炭素数4〜10のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のα−オレフィンを用いることができる。この様なα−オレフィンの具体例としては、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等を挙げることができる。この中で、1−ブテンがより好ましい。プロピレン−エチレン共重合体(YC)がプロピレンとエチレン以外のモノマー単位を含む場合、プロピレン−エチレン共重合体(YC)が結晶性を示すようにならないように、その含量は、例えば10〜40wt%であることが好ましい。
III−2−1.特性(YC−i):プロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)の構成成分であるプロピレン−エチレン共重合体(YC)は、プロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量が10〜90wt%である(但し、プロピレン−エチレン共重合体(YC)全量を100wt%とする。)。
プロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量は、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の非晶性を決める重要な因子である。プロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量が上記の範囲を外れると、プロピレン−エチレン共重合体(YC)自体が結晶性を示す様になり、剪断下の構造形成を抑制できなくなるので好ましくない。
プロピレン−エチレン共重合体(YC)は、インパクトコポリマー(Y)中の分散性が高い方が好ましく、その観点で、プロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量は、高すぎない方が好ましい。具体的には、プロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量は、好ましくは70wt%以下、より好ましくは60wt%以下、更に好ましくは50wt%以下、最も好ましくは40wt%以下である。一方、エチレン含量の下限値については、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の結晶性分布を考慮すると、低すぎない方が安定して、剪断下の構造形成を抑制する効果を期待できる。具体的には、プロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量は、好ましくは15wt%以上、更に好ましくは20wt%以上、最も好ましくは25wt%以上である。プロピレン−エチレン共重合体(YC)がインパクトコポリマー(Y)中によく分散していることで、ポリプロピレン(X)とプロピレン−エチレン共重合体(YC)との分散性も、良好なものになり得る。
プロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量を上記の範囲に調整する具体的な方法として、重合時に添加するプロピレンとエチレンの比率を変更する方法を挙げることができる。プロピレン−エチレン共重合体(YC)を製造する際には、プロピレンとエチレンを共重合するのであるから、重合槽内におけるプロピレンとエチレンの比率によって、プロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量が決まる。重合槽内におけるプロピレンとエチレンの比率とプロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量の関係は、触媒や温度等の重合条件によって異なるが、用いる触媒や重合条件の下で重合槽内におけるプロピレンとエチレンの比率とプロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量の関係を事前に把握しておき、望みのエチレン含量となる様に、プロピレンとエチレンの比率を調整することは、当業者にとって容易なことである。重合槽内におけるプロピレンとエチレンの比率を調整するには、重合時に添加するプロピレンとエチレンの比率を調整すればよい。
III−2−2.特性(YC−ii):固有粘度
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)の構成成分であるプロピレン−エチレン共重合体(YC)は、135℃デカリン中で測定した固有粘度が5〜20dl/gである。
プロピレン−エチレン共重合体(YC)の固有粘度は、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の運動性を決める重要な因子である。上述の通り、剪断下の構造形成を抑制するためには、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の運動性が低くなくてはならず、従って、その固有粘度は、高くなくてはならない。つまり、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の固有粘度が低すぎると、剪断下の構造形成を抑制できなくなるので、好ましくない。
プロピレン−エチレン共重合体(YC)の固有粘度の下限値については、好ましくは6dl/g以上、更に好ましくは7dl/g以上、最も好ましくは8dl/g以上である。一方、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の固有粘度の上限値については、あまり高すぎると、インパクトコポリマー(Y)中で分散不良を引き起こし、剪断下の構造形成を抑制する効果が小さくなったり、輝点の問題が生じたりするので好ましくない。具体的には、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の固有粘度は、好ましくは16dl/g以下、更に好ましくは13dl/g以下、最も好ましくは10dl/g以下である。
プロピレン−エチレン共重合体(YC)の固有粘度を上記の範囲に調整する具体的な方法として、重合時に添加する水素の量を変更する方法を挙げることができる。詳細は、ポリプロピレン(X)の特性(X−iii)の説明と同じであるので割愛する。
III−3.インパクトコポリマー(Y)
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)は、上記に説明したプロピレン(共)重合体(YH)とプロピレン−エチレン共重合体(YC)からなり、更に、特性(Y−i)を満たすものである。
III−3−1.特性(Y−i):インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)は、インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量が1wt%以上、50wt%未満である(但し、インパクトコポリマー(Y)全量を100wt%とする。)。
インパクトコポリマー(Y)の構成成分であるプロピレン−エチレン共重合体(YC)は、既に述べた通り、長鎖分岐を有するポリプロピレン(A)が剪断下の構造形成を抑制する働きを持つ極めて重要な成分であり、インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量が少なすぎると、この構造形成抑制効果が小さくなり好ましくない。
インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量の下限値については、好ましくは5wt%以上、より好ましくは10wt%以上、更に好ましくは15wt%以上、最も好ましくは20wt%以上である。逆に、インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量が多すぎると、押出発泡用ポリプロピレン樹脂組成物の結晶性が低くなってしまうために、耐熱性や剛性が低下して好ましくない。また、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量が多すぎると、相対的にプロピレン(共)重合体(YH)のMFRを高くすることにつながり、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の分散が劣って、構造形成の抑制効果が低下するので、好ましくない。一方、インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量の上限値については、好ましくは45wt%以下、より好ましくは40wt%以下、更に好ましくは35wt%以下、最も好ましくは30wt%以下である。
なお、インパクトコポリマー(Y)全量を100wt%とするので、インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン(共)重合体(YH)の含量は、100wt%からプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量を減じた値となる。
インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量を上記の範囲に調整する具体的な方法として、インパクトコポリマー(Y)を製造する際に、プロピレン(共)重合体(YH)とプロピレン−エチレン共重合体(YC)の製造量を調整する方法を挙げることができる。
インパクトコポリマー(Y)は、リアクターブレンドであるので、製造工程中にプロピレン(共)重合体(YH)を製造する工程とプロピレン−エチレン共重合体(YC)を製造する工程がある。例えば、インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量を下げる際は、プロピレン(共)重合体(YH)の相対量を増やしてプロピレン−エチレン共重合体(YC)の相対量を減らせばよい。その場合、プロピレン(共)重合体(YH)の製造量を変更せずに、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の製造量を減らしても良いし、プロピレン(共)重合体(YH)の製造量を増やして、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の製造量を変更しないことでも良いし、プロピレン(共)重合体(YH)の製造量を増やして、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の製造量を減らしても良い。インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量を上げる際は、逆の考え方を用いればよい。また、プロピレン(共)重合体(YH)の製造量を上げるには、プロピレン(共)重合体(YH)を製造する工程の滞留時間を長くしたり、重合圧力を高くしたりすれば良い。プロピレン(共)重合体(YH)の製造量を下げるには、逆の操作を行えばよい。プロピレン−エチレン共重合体(YC)の製造量を変更する場合も同様である。また、プロピレン−エチレン共重合体(YC)を製造する工程で、エタノールや酸素などの重合抑制剤を用いている場合には、その添加量を増減することでも、制御することができる。重合抑制剤の添加量を増やせば、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の製造量が下がる。逆も同様に調整が可能である。
III−3−2.特性(Y−ii):MFR
本発明のインパクトコポリマー(Y)は、インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量がインパクトコポリマー(Y)全量に対し1wt%以上、50wt%未満であるが、その様なインパクトコポリマー(Y)の中でも、以下の特性(Y−ii)を満たすものが好ましい。
特性(Y−ii):MFRが0.1〜20g/10分である。
インパクトコポリマー(Y)のMFRは、0.1〜20g/10分であることが好ましいが、より好ましくは0.5〜10g/10分、更に好ましくは0.7〜5g/10分、最も好ましくは1〜3g/10分である。インパクトコポリマー(Y)のMFRが上記の範囲内にあると、押出挙動が安定し、ネックインも抑制できるので好ましい。
次に、インパクトコポリマー(Y)のMFRを制御する方法を説明する。本発明に係るインパクトコポリマー(Y)は、上記に説明したプロピレン(共)重合体(YH)とプロピレン−エチレン共重合体(YC)のリアクターブレンドであるので、インパクトコポリマー(Y)のMFRを変更する手法としては、プロピレン(共)重合体(YH)のMFRを変更する方法、プロピレン−エチレン共重合体(YC)のMFRを変更する方法、インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量を変更する方法、の3つの方法がある。特性(X−iii)、特性(YC−ii)から明らかな様に、プロピレン(共)重合体(YH)のMFRは、プロピレン−エチレン共重合体(YC)のMFRよりも高い値を有する。従って、インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量を増やすと、MFRの低い成分の量が増えるために、インパクトコポリマー(Y)のMFRは下がる。逆もまた同様である。従って、インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量を変えることで、インパクトコポリマー(Y)のMFRを制御することができる。プロピレン(共)重合体(YH)のMFRとインパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量の変更方法については、既に説明した通りである。プロピレン−エチレン共重合体(YC)のMFRも、プロピレン(共)重合体(YH)と同様に、水素の添加量を変化させることで制御が可能である。
なお、MFRの測定法は、前述のポリプロピレン(X)におけるMFRの測定方法と同じである。
III−3−3.インパクトコポリマー(Y)のインデックスの決定方法
インパクトコポリマー(Y)は、一般にプロピレン(共)重合体とプロピレン−エチレン共重合体のリアクターブレンドであり、通常はプロピレン(共)重合体を製造する工程を先に実施し、その後でプロピレン−エチレン共重合体を製造する工程を行う。
従って、普通はプロピレン−エチレン共重合体だけを直接分析することができない。直接的に分析可能なのは、プロピレン(共)重合体とインパクトコポリマー全体の2つである。この様に、直接分析することができないプロピレン−エチレン共重合体のインデックスを決める方法は2つある。一つは分別を用いる方法である。CXSの様な分別手法を用いて、その構成成分であるプロピレン(共)重合体とプロピレン−エチレン共重合体を分離し、個々にインデックスを求める方法である。もう一つは、直接的に分析可能なプロピレン(共)重合体とインパクトコポリマー全体の分析結果、並びに、プロピレン(共)重合体とプロピレン−エチレン共重合体の生産バランスを用いて、プロピレン−エチレン共重合体のインデックスを求める方法である。
本発明においては、インパクトコポリマー(Y)のインデックス、すなわち、インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の固有粘度とエチレン含量については、以下の方法で求めた値を用いることと、規定する。
手順1.インパクトコポリマー(Y)を25℃キシレンで可溶分(CXS成分)と不溶分(CXIS成分)に分離し、CXS成分を13C−NMRで分析してエチレン含量を求める。
手順2.13C−NMRによる分析の結果、CXS成分のエチレン含量が15wt%以上となる場合は、CXS成分をプロピレン−エチレン共重合体(YC)と見なす。つまり、CXSの値(wt%)をプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量(wt%)とし、CXS成分のエチレン含量をプロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量とする。同様に、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の固有粘度はこのCXS成分を分析することにより決定する。
手順3.13C−NMRによる分析の結果、CXS成分のエチレン含量が15wt%未満となる場合には、プロピレン(共)重合体とインパクトコポリマー全体の分析結果、並びに、プロピレン(共)重合体とプロピレン−エチレン共重合体の生産バランスを用いて、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の固有粘度とエチレン含量、を決定する。
以下、順に詳説する。
(1)25℃キシレンによる分別方法
ポリプロピレン(X)の特性(X−iv)の項で説明した方法を用いて、インパクトコポリマー(Y)のCXSの測定を行い、25℃キシレン可溶分(CXS成分)回収する。このCXS成分を用いて、次の(2)に記載の方法により、エチレン含量を求める。
(2)13C−NMRによるエチレン含量の測定方法
CXS成分のエチレン含量の測定の際には、下記の測定条件を用いることとする。
[エチレン含量測定用の13C−NMR測定条件]
機種:日本電子(株)製 GSX−400
溶媒:o−ジクロベンゼン+重ベンゼン(4:1(体積比))
濃度:100mg/mL
温度:130℃
パルス角:90°
パルス間隔:15秒
積算回数:5,000回以上
スペクトルの帰属は、例えば、Macromolecules 17,1950 (1984)などを参考に行えばよい。上記条件により測定されたスペクトルの帰属は、表1の通りである。表1中Sαα等の記号はCarmanら(Macromolecules 10,536(1977))の表記法に従い、Pはメチル炭素、Sはメチレン炭素、Tはメチン炭素をそれぞれ表わす。
Figure 0006171717
以下、「P」を共重合体連鎖中のプロピレン単位、「E」をエチレン単位とすると、連鎖中にはPPP、PPE、EPE、PEP、PEE、およびEEEの6種類のトリアッドが存在し得る。Macromolecules 15,1150 (1982)などに記されているように、これらトリアッドの濃度と、スペクトルのピーク強度とは、以下の(1)〜(6)の関係式で結び付けられる。
[PPP]=k×I(Tββ) …(1)
[PPE]=k×I(Tβδ) …(2)
[EPE]=k×I(Tδδ) …(3)
[PEP]=k×I(Sββ) …(4)
[PEE]=k×I(Sβδ) …(5)
[EEE]=k×{I(Sδδ)/2+I(Sγδ)/4} …(6)
ここで[ ]はトリアッドの分率を示し、例えば[PPP]は全トリアッド中のPPPトリアッドの分率である。したがって、
[PPP]+[PPE]+[EPE]+[PEP]+[PEE]+[EEE]=1 … (7)
である。また、kは定数であり、Iはスペクトル強度を示し、例えば、I(Tββ)はTββに帰属される28.7ppmのピークの強度を意味する。上記(1)〜(7)の関係式を用いることにより、各トリアッドの分率が求まり、さらに下式によりエチレン含有量が求まる。
エチレン含有量(モル%)=([PEP]+[PEE]+[EEE])×100
なお、メタロセン触媒を用いてインパクトコポリマー(Y)を製造した場合には、少量のプロピレン異種結合(2,1−結合及び/又は1,3−結合)が生成し、それにより、表2の微小なピークを生じる。
Figure 0006171717
正確なエチレン含有量を求めるには、これら異種結合に由来するピークも考慮して計算に含める必要があるが、異種結合由来のピークの完全な分離・同定が困難であり、また、異種結合量が少量であることから、エチレン含有量は、実質的に異種結合を含まないチーグラー・ナッタ系触媒で製造された共重合体の解析と同じく、式(1)〜(7)の関係式を用いて求めることとする。
エチレン含有量のモル%から重量%への換算は以下の式を用いて行う。
エチレン含有量(重量%)=(28×X/100)/{28×X/100+42×(1−X/100)}×100
ここで、Xは、モル%表示でのエチレン含有量である。
(3)CXS成分の分析により固有粘度を求める方法
CXS成分を13C−NMRで分析した結果、CXS成分のエチレン含量が15wt%以上であれば、25℃キシレンによる溶媒分別によりプロピレン−エチレン共重合体(YC)を正しく分離できていると、判断する。従って、手順2に記載の通り、CXSの値(wt%)をプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量(wt%)とし、CXS成分のエチレン含量をプロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量とする。同様に、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の固有粘度もこのCXS成分を分析することにより決定する。
具体的には、上記の通り回収したCXS成分を用いて固有粘度を測定する。固有粘度の測定はウベローデ型毛管粘度計を用い、温度135℃、デカリン溶媒、の条件で行うこととする。
(4)プロピレン(共)重合体とインパクトコポリマー全体の分析結果から計算する方法
CXS成分を13C−NMRで分析した結果、CXS成分のエチレン含量が15wt%未満の場合には、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の結晶性を無視できなくなるので、プロピレン(共)重合体(YH)とプロピレン−エチレン共重合体(YC)を25℃キシレンで分別できていないと考えなくてはならない。
この場合には、以下の(4)−1〜3の手順によって、インパクトコポリマー(Y)のインデックスを定めることとする。
(4)−1.インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量の決定
まず、インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量を生産バランスから決める。具体的には、プロピレン(共)重合体(YH)を製造する工程の生産量(以下、PR−YHと記載。単位はT/h。)とプロピレン−エチレン共重合体(YC)を製造する工程の生産量(以下、PR−YCと記載。単位はT/h。)を求め、両方の値を用いて、以下の式(III)からインパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量([YC]、単位はwt%。)を求める。
[YC]=PR−YC÷(PR−YH+PR−YC)x100 (III)
PR−YH、PR−YCは、ヒートバランスから求めることが一般的である。特に障害がない場合、本発明では、13C−NMRの結果、CXS成分のエチレン含量が15wt%未満の場合には、PR−YHとPR−YCは、ヒートバランスから求めることとする。PR−YCをヒートバランスから求めることが事実上不可能である場合には、PR−YCの代わりにインパクトコポリマー(Y)全体の生産量(以下、PR−Yと記載。単位はT/h。)を用いて、以下の式(IV)からインパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量を求めることとする。
[YC]=(PR−Y − PR−YH)÷PR−Yx100 (IV)
(4)−2.プロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量の決定
次に、プロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量([E−YC]、単位はwt%。)を求める。この際、上記(4)−1で求めたインパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量([YC]、単位はwt%。)の他に、プロピレン(共)重合体(YH)中のエチレン含量([E−YH]、単位はwt%。)とインパクトコポリマー(Y)中のエチレン含量([E−Y]、単位はwt%。)を用いる。具体的には、以下の式(V)から計算する。
[E−YC]=[[E−Y]−{[E−YH]×(100 − [YC])÷100}]÷[YC]x100 (V)
ここで、[E−YH]と[E−Y]は、直接13C−NMRによる分析から求めることができる。この場合の分析条件、解析方法は、上記(2)13C−NMRによるエチレン含量の測定方法の項で記載した通りとする。
(4)−3.プロピレン−エチレン共重合体(YC)の固有粘度の決定
最後に、プロピレン−エチレン共重合体(YC)の固有粘度([η−YC]、単位はdl/g。)を求める。この場合は、上記(4)−1で求めたインパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量([YC]、単位はwt%。)の他に、プロピレン(共)重合体(YH)の固有粘度([η−YH]、単位はdl/g。)とインパクトコポリマー(Y)の固有粘度([η−Y]、単位はdl/g。)を用いる。
具体的には、以下の式(VI)から計算する。
[η−YC]=[[η−Y]−{[η−YH]×(100 − [YC])÷100}]÷[YC]x100 (VI)
ここで、プロピレン(共)重合体(YH)の固有粘度[η−YH]、インパクトコポリマー(Y)の固有粘度[η−Y]は、ウベローデ型毛管粘度計を用い、温度135℃、デカリン溶媒、の条件で行うこととする。
IV.インパクトコポリマー(Y)の製造方法
本発明におけるインパクトコポリマー(Y)は、上記の特性(Y−i)を満たすものであって、かつ、上記の特性(YH−i)〜(YH−ii)を満たすプロピレン(共)重合体(YH)と、上記の特性(YC−i)〜(YC−ii)を満たすプロピレン−エチレン共重合体(YC)とからなるものであり、本要件を有するものであれば、特に製造方法を限定するものではない。
以下、具体的な例を挙げながら、本発明のインパクトコポリマー(Y)を製造するための適正な形態を説明する。
IV−1.触媒
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)を製造するための触媒は、任意のものを用いることができるが、特性(YC−i)〜(YC−ii)を満たすプロピレン−エチレン共重合体(Y−2)を構成成分として製造する観点から、チーグラー・ナッタ触媒を用いる方が好ましい。チーグラー・ナッタ触媒を用いる場合、具体的な触媒の製造法は、特に限定されるものではないが、一例として、特開2007−254671号公報に開示された触媒を例示することができる。
具体的には、本発明に係るインパクトコポリマー(Y)の製造に好適なチーグラー・ナッタ触媒の代表的な例として、以下の構成成分、
(ZN−1):チタン、マグネシウム、ハロゲンを必須成分として含有する固体成分、
(ZN−2):有機アルミニウム化合物、
(ZN−3):電子供与体、
からなる触媒を挙げることができる。
(1)固体成分(ZN−1)
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)の製造に好適なチーグラー・ナッタ触媒の構成成分である固体成分(ZN−1)は、チタン(ZN−1a)、マグネシウム(ZN−1b)、ハロゲン(ZN−1c)を必須成分として含有するものであり、任意成分として、電子供与体(ZN−1d)を用いることができる。ここで、「必須成分として含有する」ということは、挙示の三成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の成分を任意の形態で含んでも良いということを示すものである。以下に詳述する。
(ZN−1a):チタン
チタン源となるチタン化合物としては、任意のものを用いることができる。代表的な例としては、特開平3−234707号公報に開示されている化合物を挙げることができる。チタンの価数に関しては、4価、3価、2価、0価の任意の価数を持つチタン化合物を用いることができるが、4価のチタン化合物を用いることが望ましい。
(ZN−1b):マグネシウム
マグネシウム源となるマグネシウム化合物としては、任意のものを用いることができる。代表的な例としては、特開平−234707号公報に開示されている化合物を挙げることができる。一般的には、塩化マグネシウム、ジエトキシマグネシウム、金属マグネシウム、ブチルマグネシウムクロライドが用いられる場合が多い。
(ZN−1c):ハロゲン
ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素、及びそれらの混合物を用いることができる。この中で塩素が特に好ましい。
(ZN−1d):電子供与体
固体成分(ZN−1)は、任意成分として電子供与体を含有しても良い。電子供与体(ZN−1d)の代表的な例としては、特開2004−124090号公報に開示されている化合物を挙げることができる。一般的には、有機酸及び無機酸、並びにそれらの誘導体(エステル、酸無水物、酸ハライド、アミド)化合物類、エーテル化合物類、ケトン化合物類、アルデヒド化合物類、アルコール化合物類、アミン化合物類、などを用いることが望ましい。
これらの中で好ましいのは、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジヘプチルに代表されるフタル酸エステル化合物類、フタロイルジクロライドに代表されるフタル酸ハライド化合物類、2−n−ブチル−マロン酸ジエチルの様な2位に一つ又は二つの置換基を有するマロン酸エステル化合物類、2−n−ブチル−コハク酸ジエチルの様な2位に一つ又は二つの置換基若しくは2位と3位にそれぞれ一つ以上の置換基を有するコハク酸エステル化合物類、2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパンや2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパンの様な2位に一つ又は二つの置換基を有する1,3−ジメトキシプロパンに代表される脂肪族多価エーテル化合物類、9,9−ビス(メトキシメチル)フルオレンに代表される芳香族の遊離基を分子内に有する多価エーテル化合物類、などである。
(2)有機アルミニウム化合物(ZN−2)
有機アルミニウム化合物(ZN−2)としては、特開2004−124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。一般的には、下記一般式(5)にて表される化合物を用いることが望ましい。
AlX(OR10 …(5)
(一般式(5)中、Rは、炭化水素基を表す。Xは、ハロゲン又は水素原子を表す。R10は、炭化水素基またはAlによる架橋基を表す。c≧1、0≦d≦2、0≦e≦2、c+d+e=3である。)
具体的な例として、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムエトキサイド、メチルアルモキサン、などを挙げることができる。
(3)電子供与体(ZN−3)
電子供与体(ZN−3)として、アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物(ZN−3a)、又は少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(ZN−3b)を例示することができる。
(ZN−3a):アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)の製造に好適なチーグラー・ナッタ触媒の構成成分であるアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物(ZN−3a)としては、特開2004−124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。一般的には、下記一般式(3)にて表される化合物を用いることが望ましい。
Si(OR …(3)
(一般式(3)中、Rは、炭化水素基またはヘテロ原子含有炭化水素基を表す。Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基及びヘテロ原子含有炭化水素基からなる群から選ばれる任意の遊離基を表す。Rは、炭化水素基を表す。0≦a≦2,1≦b≦3,a+b=3である。)
具体的な例として、t−Bu(Me)Si(OMe)、t−Bu(Me)Si(OEt)、t−Bu(Et)Si(OMe)、t−Bu(n−Pr)Si(OMe)、c−Hex(Me)Si(OMe)、c−Hex(Et)Si(OMe)、c−PenSi(OMe)、i−PrSi(OMe)、i−BuSi(OMe)、i−Pr(i−Bu)Si(OMe)、n−Pr(Me)Si(OMe)、t−BuSi(OEt)、(EtN)Si(OMe)、EtN−Si(OEt)、などを挙げることができる。
(ZN−3b):少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物
少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(ZN−3b)としては、特開平3−294302号公報および特開平8−333413号公報に開示された化合物等を用いることができる。一般的には、下記一般式(4)にて表される化合物を用いることが望ましい。
O−C(R−C(R−C(R−OR …(4)
(一般式(4)中、R及びRは、水素原子、炭化水素基及びヘテロ原子含有炭化水素基からなる群から選ばれる任意の遊離基を表す。Rは、炭化水素基またはヘテロ原子含有炭化水素基を表す。)
具体的な例として、2,2−ジイソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソブチル−2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、9,9−ビス(メトキシメチル)フルオレン、などを挙げることができる。
(4)予備重合
上記に例示した触媒は、本重合で使用する前に予備重合されていても良い。重合プロセスに先立って、予め少量のポリマーを触媒周囲に生成させることによって、触媒がより均一となり、微粉の発生量を抑えることができる。
予備重合におけるモノマーとしては、特開2004−124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。具体的には、エチレン、プロピレン、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、スチレン、ジビニルベンゼン類、などが特に好ましい。
上記に例示した触媒と上記のモノマーとの反応条件は、特に制限されるものではないが、一般的には以下の範囲内が好ましい。
固体成分(ZN−1)1gあたりの基準で、予備重合量は0.001〜100gの範囲内であり、好ましくは0.1〜50g、更に好ましくは0.5〜10gの範囲内が望ましい。予備重合時の反応温度は−150〜150℃、好ましくは0〜100℃である。そして、予備重合時の反応温度は本重合のときの重合温度よりも低くすることが望ましい。反応は、一般的に撹拌下に行うことが好ましく、そのときヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒を存在させることもできる。
IV−2.重合方法
(1)逐次重合
次に、本発明に係るインパクトコポリマー(Y)の製造方法について詳述する。
本発明に係るインパクトコポリマー(Y)は、プロピレン(共)重合体(YH)およびプロピレン−エチレン共重合体(YC)とからなるリアクターブレンドであり、インパクトコポリマー(Y)の製造に際しては、プロピレン(共)重合体(YH)とプロピレン−エチレン共重合体(YC)の2つの重合体成分を製造する必要がある。相対的に分子量が高く粘度やMFRが低いプロピレン−エチレン共重合体(YC)をプロピレン(共)重合体(YH)中にきれいに分散させてインパクトコポリマー(Y)本来の性能を発現させるという観点から、当該両成分を、逐次重合により製造することが望ましい。
具体的には、第1工程において、プロピレン(共)重合体(YH)を重合した後で、第2工程において、プロピレン−エチレン共重合体(YC)を重合することが望ましい。製造順を逆にすることも可能ではあるが、プロピレン−エチレン共重合体(YC)は、(YC−i)の規定から共重合体中のエチレン含有量が10〜90wt%の範囲にあり、結晶性が低い重合体であるため、第1工程で製造すると重合槽内部で付着したり、移送配管を閉塞したりするなどの製造トラブルを起こす可能性が高く、あまり好ましくない。
逐次重合を行う際には、バッチ法と連続法のいずれを用いることも可能であるが、一般的には生産性の観点から、連続法を用いることが望ましい。
バッチ法の場合には、時間と共に重合条件を変化させることにより、単一の重合反応器を用いてプロピレン(共)重合体(YH)とプロピレン−エチレン共重合体(YC)を個別に重合することが可能である。本発明の効果を阻害しない限り、複数の重合反応器を並列に接続して用いてもよい。
連続法の場合には、プロピレン(共)重合体(YH)とプロピレン−エチレン共重合体(YC)を個別に重合する必要から2個以上の重合反応器を直列に接続した製造設備を用いる必要がある。プロピレン(共)重合体(YH)を製造する第1工程に対応する重合反応器とプロピレン−エチレン共重合体(YC)を製造する第2工程に対応する重合反応器については、直列の関係になくてはならないが、第1工程、第2工程のそれぞれについて複数の重合反応器を直列及び/又は並列に接続して用いてもよい。
(2)重合プロセス
重合プロセスは、任意のものを用いることができる。
反応相については、液体の媒体を用いる手法であっても良いし、気体の媒体を用いる手法であっても良い。具体的な例として、スラリー法、バルク法、気相法を挙げることができる。バルク法と気相法の中間的な条件として、超臨界条件を用いることも可能であるが、実質的には気相法と同等であるため、特に区別することなく気相法に含める。なお、多槽連続重合プロセスの場合、バルク法の重合反応器の後に気相法の重合反応器を付ける場合があるが、この場合は、当業界の慣例に従ってバルク法と呼ぶことにする。また、バッチ法の場合に、第1工程をバルク法で行い、第2工程を気相法で行うこともあるが、この場合も同様にバルク法と呼ぶことにする。この様に反応相は、特に限定されるものではないが、スラリー法は、ヘキサンやヘプタンといった有機溶媒を用いるために付属設備が多く、一般的に生産コストが高くなるという問題がある。従って、バルク法か気相法を用いる方が一層望ましい。
また、バルク法と気相法については、それぞれ種々のプロセスが提案されている。攪拌(混合)方法や除熱方法に違いがあるが、この観点において本発明は、特段プロセス種を限定することはない。
(3)一般的な重合条件
重合温度は、通常用いられている温度範囲であれば、特に問題なく用いることができる。具体的には、0℃〜200℃、好ましくは40℃〜100℃の範囲を用いることができる。
重合圧力は、選択するプロセスによって差異が生じるが、通常用いられている圧力範囲であれば特に問題なく用いることができる。具体的には、0より大きく200MPaまで、好ましくは0.1〜50MPaの範囲を用いることができる。この際に、窒素などの不活性ガスを共存させても問題はない。
また、プロピレン−エチレン共重合体(YC)を製造する第2工程においては、エタノールや酸素などの重合抑制剤を添加することもできる。この様な重合抑制剤を用いると、第2工程における重合量の制御が容易であるだけでなく、重合体粒子の性状を改良することもできる。
V.ポリプロピレン樹脂組成物
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、上記の特性(X−i)〜(X−iv)を満たすポリプロピレン(X)5〜99wt%と、上記の特性(YH−i)〜(YH−ii)を満たすプロピレン(共)重合体(YH)と特性(YC−i)〜(YC−ii)を満たすプロピレン−エチレン共重合体(YC)からなり、更に、特性(Y−i)を満たすインパクトコポリマー(Y)1〜95wt%とからなる樹脂組成物(Z)であって(但し、ポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)の合計を100wt%とする)、以下の特性(Z−i)〜(Z−ii)を満たすものである。
特性(Z−i):MFRが0.1〜20g/10分である。
特性(Z−ii):230℃で測定した溶融張力(MT)が1〜7gである。
以下、順に詳説する。
V−1.樹脂組成物の製造方法
本発明のポリプロピレン樹脂組成物(Z)の調製方法は、公知のものを用いることができる。例えば、ポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)、および、後述する任意の添加剤を、ドライブレンド、ヘンシェルミキサー等で混合することにより樹脂組成物を調製することができる。また、これらを単軸押出機、二軸混練機、ニーダ等によって、溶融混練してもよい。
このとき、押出成形に用いるためには、溶融混練し、樹脂組成物は、ペレット化されていることが好ましい。樹脂組成物のペレット化の方法としては、
a.ポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)と任意の添加剤を混合したものを溶融混練しペレット化する。
b.ポリプロピレン(X)と任意の添加剤を混合したものを溶融混練しペレット化し、インパクトコポリマー(Y)と任意の添加剤にポリプロピレン(X)組成物ペレットをさらに混合してから、溶融混練しペレット化する。
b’.インパクトコポリマー(Y)と任意の添加剤を混合したものを溶融混練しペレット化し、ポリプロピレン(X)と任意の添加剤にさらに混合してから溶融混練する。
c.ポリプロピレン(X)と任意の添加剤を混合したものと、インパクトコポリマー(Y)と任意の添加剤を混合したものを各々溶融混練し、各々のペレットを得て、得られた各々のペレットを混合する。
d.ポリプロピレン(X)と任意の添加剤を混合したものと、インパクトコポリマー(Y)と任意の添加剤を混合したものを各々溶融混練し、各々のペレットを得て、得られた各々のペレットを混合し、さらにこれを溶融混練しペレット化する。
といった方法を用いることができる。
ここで、本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、下記の特性(Z−i)〜(Z−ii)を満たすものであるが、特性(Z−i)で規定するMFR、並びに、特性(Z−ii)で規定するMTは、共にポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)を溶融混練したものを用いて測定した値である。従って、これらを単純に混合して用いる場合や、cのようにポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)を混合(ドライブレンド)し、両者を溶融混練せずに押出発泡用樹脂組成物として用いる場合には、ポリプロピレン(X)、インパクトコポリマー(Y)、任意成分に関して同一の配合を用いて別途溶融混練を実施し、得られたペレットを用いてMFRとMTの測定を実施し、こうして得られた値を押出発泡用ポリプロピレン樹脂組成物のMFRとMTの値と定める。この場合、後述の実施例に記載の方法を用いて溶融混練を実施することとする。
V−2.ポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)の含量
本発明のポリプロピレン樹脂組成物におけるポリプロピレン(X)の含量は、5〜99wt%である。より好ましい範囲を例示すると、より好ましくはポリプロピレン(X)の含量が10〜90wt%、更に好ましくは15〜80wt%である。これに対応して、ポリプロピレン樹脂組成物におけるインパクトコポリマー(Y)の含量は、1〜95wt%、好ましくは10〜90wt%、更に好ましくは20〜85wt%である(ポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)の合計を100wt%とする)。
長鎖分岐を有するポリプロピレン(X)の含量が少なすぎる場合は、発泡成形体の連続気泡率が上昇したり、熱成型の際に、ドローダウンが悪くなったりして、好ましくない。逆に、ポリプロピレン(X)の含量が多すぎる場合には、延展性が低下してシートやフィルムの外観が悪くなったり、押出量が低下して生産性が悪くなったりして、好ましくない。ポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)の含量は、樹脂組成物を作る際のブレンド量比を調整すれば、望みの含量に調整できる。
V−3.特性(Z−i):MFR
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、MFRが0.1〜20g/10分である。より好ましい範囲を例示すると、より好ましくはMFRが1〜15g/10分、更に好ましくは2〜10g/10分、最も好ましくは3〜8g/10分である。MFRがこの範囲よりも低い場合には、延展性が低下してシートやフィルムの外観が悪くなったり、押出量が低下して生産性が悪くなったりして、好ましくない。逆に、MFRがこの範囲よりも高い場合には、発泡成形体の連続気泡率が上昇したり、気泡の大きさが不均一になったり、熱成型の際にドローダウンが悪くなったりして、好ましくない。
MFRを上記の範囲内に調整する方法は、幾つかある。例えば、ポリプロピレン(X)やインパクトコポリマー(Y)のMFRを調整することで、ポリプロピレン樹脂組成物のMFRを調整できる。また、ポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)のMFRが異なる場合、両者の配合量を変更することでもポリプロピレン樹脂組成物のMFRを調整できる。例えば、ポリプロピレン(X)のMFRがインパクトコポリマー(Y)のMFRよりも高い場合、ポリプロピレン(X)の配合量を高くすると、ポリプロピレン樹脂組成物のMFRは、高くなる。
V−4.特性(Z−ii):溶融張力(MT)
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、230℃で測定した溶融張力(MT)が1〜7gでなくてはならない。より好ましい範囲を例示すると、より好ましくはMTが1.5〜6g、最も好ましくは2〜5gである。ここで、ポリプロピレン樹脂組成物のMTは、ポリプロピレン(X)の特性(X−ii)の溶融張力(MT)と同じ測定方法を用いて得られる値である。MTが上記の範囲よりも低い場合、発泡時のセルの形成や成長に障害が生じて連続気泡率が上昇したり、セルの大きさが不均一になったりして、好ましくない。逆に、MTが上記の範囲よりも高い場合、延展性が低下して、シートやフィルムの外観が悪くなったり、押出量が低下して生産性が悪くなったりして、好ましくない。
MTを上記の範囲内に調整する方法は、幾つかある。例えば、ポリプロピレン(X)のMTを変更することでも良いし、ポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)の配合量を変更することでも調整できる。一般に、ポリプロピレン(X)の含量を高くすると、樹脂組成物のMTを高くすることができる。
V−5.プロピレン(共)重合体(H)
特に、発泡成形などの高い溶融張力を求められる分野においては、製品の物性と経済性の両立の観点から、溶融張力の高い樹脂組成物を、さらに他の樹脂で薄めて使用することが求められる場合が、数多く存在する。
本発明におけるポリプロピレン樹脂組成物(Z)は、その構成成分であるポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)が、各々に発泡性能を向上させる役割を担っており、これらを阻害する樹脂での希釈は、本発明の効果を阻害してしまう。
したがって、希釈用の他の樹脂は、本発明の効果を著しく阻害することがない範囲で用いることが好ましい。本発明のポリプロピレン樹脂組成物(Z)は、ポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)とが有機的に影響し合って、発泡性能に関して高い効果を発現しており、希釈用の他の樹脂で薄めても、高い効果が維持されやすい。
本発明において発泡性能を維持しながら経済性を向上させるための希釈に用いられる好ましい樹脂としては、プロピレン単独重合体、又は、エチレン及び炭素数4〜10のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとプロピレンとの共重合体(H)であり、プロピレン(共)重合体(H)が共重合体の場合には、プロピレン(共)重合体(H)中のエチレン及びα−オレフィンの含量が0を超え、3wt%以下であるプロピレン(共)重合体(H)が好適である。
これは、本発明の構成要件であるインパクトコポリマー(Y)に含まれるプロピレン(共)重合体(YH)と同様の性能を有するプロピレン(共)重合体(H)を希釈材として用いるのであれば、希釈後の樹脂組成物(Z’)中におけるポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量を、本発明の樹脂組成物(Z)の範囲内に維持できる場合において、発泡特性を悪化させることが無いことに基づいている。
一方で、本発明に係るインパクトコポリマー(Y)の要件を満たさない他のインパクトコポリマーやポリエチレン系樹脂を希釈材として用いた場合、それらがインパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の改良効果を阻害し、本発明の効果を著しく阻害することがあるため、希釈材の選択には注意を要する。
なお、本発明の効果を著しく阻害しているかどうかは、希釈材を用いた場合と希釈材を用いない場合と比較して、例えば、連続気泡率が3倍程度の値を示すかどうかを目安にすることができる。
プロピレン(共)重合体(H)の配合量は、ポリプロピレン樹脂組成物(Z)100重量部に対し、好ましくは0.1〜1000重量部以下、より好ましくは1〜500重量部、更に好ましくは10〜300重量部である。希釈後の樹脂組成物(Z’)中におけるポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量を樹脂組成物(Z)の規定の範囲内に維持できる範囲が好ましく、ポリプロピレン樹脂組成物(Z’)中における、YCの割合が、X、Y及びHの合計量に対して、好ましくは0.01〜47.5wt%、より好ましくは1〜36wt%、さらに好ましくは4〜25.5wt%となるように、プロピレン(共)重合体(H)の配合量を定めることが好ましい。
V−6.添加剤
本発明のポリプロピレン樹脂組成物(Z、Z’)には、各種添加剤を任意成分として配合することができる。詳しくは、従来公知のポリオレフィン樹脂用配合剤として使用される酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、金属不活性化剤、安定剤、中和剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、核剤、過酸化物、充填剤、抗菌防黴剤、蛍光増白剤のような各種添加剤を、本発明の効果を損ねない範囲で加えることができる。これら添加剤の配合量は、樹脂組成物100wt%中で、一般に0.0001〜3wt%、好ましくは0.001〜1wt%である。
まず、酸化防止剤から説明する。
ポリオレフィンの酸化劣化は、熱、光、機械力、金属イオン等と酸素との作用により生ずるパーオキサイドラジカルやハイドロパーオキサイド化合物を経由したラジカル連鎖反応であり、一般的に自動酸化と呼ばれている。この自動酸化を抑制する為に用いられるのが酸化防止剤であり、連鎖反応のどこに作用するかによって、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、の3種に大別されるのが一般的である。
フェノール系酸化防止剤は、ラジカル補足剤であり、パーオキサイドラジカルなどと反応して生じるラジカルが比較的安定であることから系中のラジカル濃度を下げることができる。一般的には、置換フェノール化合物、特に、オルト位に嵩高い置換基を有する置換フェノール化合物を用いる。
以下、フェノール系酸化防止剤として、代表的な化合物を例示する。
モノフェノール型の化合物では、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(通称:BHT)、トコフェロール(ビタミンE)、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート(商品名:Irganox1076、スミライザーBP−76)を例示することができる。
ビスフェノール型の化合物では、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)(商品名:スミライザーMDP−S)、1,1−ビス(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ブタン(商品名:スミライザーBBM−S、アデカスタブAO−40)、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(商品名:スミライザーGA−80、アデカスタブAO−80)を例示することができる。
トリフェノール型の化合物では、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン(商品名:アデカスタブAO−30)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:Irganox1330、アデカスタブAO−330)、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート(商品名:Irganox3114、アデカスタブAO−20)、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート(商品名:スミライザーBP−179、Cyanox1790)、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−イソシアヌレート(商品名:ケミノックス314)を例示することができる。
テトラフェノール型の化合物では、テトラキス{メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}メタン(商品名:Irganox1010)を例示することができる。
リン系酸化防止剤は、ハイドロパーオキサイド化合物を還元する作用があり、ハイドロパーオキサイド分解剤とも呼ばれる。単独でも酸化防止効果があるが、上記のフェノール系酸化防止剤と併用すると、相乗効果が発生して、更に酸化防止効果が高まるため、通常は、両者を併用して用いることが多い。この相乗効果は、フェノール系酸化防止剤と自動酸化に関わるラジカル種との反応で発生したフェノキシラジカル種をリン系酸化防止剤が還元することにより、フェノール系酸化防止剤が再生するために、生じると考えられている。
以下、リン系酸化防止剤として、代表的な化合物を例示する。
ホスファイト型の化合物では、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名:Irgafos168、スミライザーP−16、アデカスタブ2112)、トリスノニルフェニルホスファイト(商品名:スミライザーTNP、アデカスタブ1178)、トリス(ミックスド,モノ−ジノニルフェニルホスファイト)(商品名:アデカスタブ329K)、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト(通称:P−EPQ)、環状ネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニルフォスファイト)(商品名:アデカスタブPEP−36)を例示することができる。
硫黄系酸化防止剤も、リン系酸化防止剤と同様に、ハイドロパーオキサイド化合物を還元する作用があり、ハイドロパーオキサイド分解剤とも呼ばれる。こちらもリン系酸化防止剤と同様に、フェノール系酸化防止剤との併用による相乗効果があると言われている。
以下、硫黄系酸化防止剤として、代表的な化合物を例示する。
スルフィド型の化合物では、ジラウリル−3,3’−チオ−ジプロピオネート(通称:DLTDP)、ジ−ミリスチル−3,3’−チオ−ジプロピオネート(通称:DMTDP)、ジステアリル−3,3’−チオ−ジプロピオネート(通称:DSTDP)、ペンタエリスリトール−テトラキス−(3−ラウリルチオ−プロピオネート)(商品名:スミライザーTP−D、アデカスタブAO−412S)を例示することができる。
次に、紫外線吸収剤と光安定剤について説明する。
光劣化を抑制するための添加剤が紫外線吸収剤と光安定剤である。ポリプロピレンに紫外線が当たると、ラジカルが生成して自動酸化が起こる。紫外線吸収剤は、紫外線を吸収することにより、ラジカルの生成を抑制する作用があり、光安定剤は、紫外線により生成したラジカルを捕捉・不活性化する作用がある。
紫外線吸収剤は、紫外線領域に吸収帯を持つ化合物であり、トリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、ニッケルキレート系、無機微粒子系、などが知られている。この中で最も汎用的に用いられているのは、トリアゾール系である。
以下、紫外線吸収剤として代表的な化合物を例示する。
トリアゾール系の化合物では、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(商品名:スミソーブ200、TinuvinP)、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(商品名:スミソーブ340、Tinuvin399)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール(商品名:スミソーブ320、Tinuvin320)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール(商品名:スミソーブ350、Tinuvin328)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(商品名:スミソーブ300、Tinuvin326)を例示することができる。
ベンゾフェノン系の化合物では、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン(商品名:スミソーブ110)、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン(商品名:スミソーブ130)を例示することができる。
サリシレート系の化合物では、4−t−ブチルフェニルサリシレート(商品名:シーソーブ202)を例示することができる。シアノアクリレート系の化合物では、エチル(3,3−ジフェニル)シアノアクリレート(商品名:シーソーブ501)を例示することができる。ニッケルキレート系の化合物では、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル(商品名:アンチゲンNBC)を例示することができる。無機微粒子系の化合物では、TiO、ZnO、CeOを例示することができる。
光安定剤は、ヒンダードアミン系の化合物を用いることが一般的であり、HALSと呼ばれる。HALSは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン骨格を持ち、紫外線を吸収することはできないが、多種多様な機能により光劣化を抑制する。主な機能は、ラジカルの捕捉、ハイドロキシパーオキサイド化合物の分解、ハイドロキシパーオキサイドの分解を加速する重金属の捕捉、の3つと言われている。
以下、HALSとして代表的な化合物を例示する。
セバケート型の化合物では、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(商品名:アデカスタブLA−77、Tinuvin770)、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート(商品名:Tinuvin765)を例示することができる。
ブタンテトラカルボキシレート型の化合物では、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(商品名:アデカスタブLA−57)、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(商品名:アデカスタブLA−52)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール及びトリデシルアルコールとの縮合物(商品名:アデカスタブLA−67)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノール及びトリデシルアルコールとの縮合物(商品名:アデカスタブLA−62)を例示することができる。
コハク酸ポリエステル型の化合物では、コハク酸と1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとの縮合重合体を例示することができる。
トリアジン型の化合物では、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン・2,4−ビス{N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ}−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物(商品名:Chimassorb199)、ポリ{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}(商品名:Chimassorb944)、ポリ(6−モルホリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル){(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}(商品名:Chimasorb3346)を例示することができる。
その他の添加剤についても、幾つか例示しておく。
滑剤は、成形性や流動性を高めるために用いる添加剤であり、成形機や押出機の中でポリマー分子間の摩擦力やポリマーと成形機内壁との間の摩擦力を低減する作用を持つ。滑剤として用いられる化合物は、パラフィンやワックスなどの炭化水素化合物、ステアリルアルコールやプロピレングリコールなどのアルコール、n−ブチルステアレートなどの高級脂肪酸エステル、オレイン酸アミドやステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミド、ステアリン酸カルシウムなどの高級脂肪酸塩、ステアリン酸モノグリセリドなどの多価アルコールの部分エステル、シリコンオイルなどがある。
このうち、高級脂肪酸アミドの具体例としては、ラウリル酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルシン酸アミド、ベヘン酸アミド、を挙げることができる。脂肪酸アミド化合物は、アルキル鎖上やN上に置換基を有していても良い。置換基を有する脂肪酸アミド化合物の例としては、ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−ステアリルエルシン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、を挙げることができる。
安定剤は、そもそもポリ塩化ビニル(PVC)向けの添加剤であり、PVCから塩酸(HCl)が脱離して劣化することを防ぐ目的で使用される。各種安定剤のうち幾つかの化合物は、中和剤としての機能も有していることから、ポリオレフィンの添加剤としても用いられることがある。
中和剤は、ポリオレフィンの製造に用いられるチーグラー触媒に由来する塩素成分を中和するのに用いられる化合物である。中和剤としては、中和能力があるカルボン酸塩を用いることが多いが、塩素イオンの捕捉能力がある無機化合物も用いることができる。両者とも安定剤として用いられる化合物である。基本的に塩素原子を含まないメタロセン触媒を用いる場合には、本来必要のない添加剤であるが、塩素原子は、容易にコンタミする化学種であるため、安定生産の観点から、保険的に用いられる場合が多い。
以下、中和剤として代表的な化合物を例示する。
カルボン酸塩型の化合物では、ステアリン酸カルシウムとステアリン酸亜鉛を例示することができる。無機化合物では、ハイドロタルサイト、並びに、水酸化アルミニウムと炭酸リチウムの包摂物(商品名:ミズカラック)を例示することができる。
VI.押出発泡成形、ポリプロピレン系発泡シート、熱成型体
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、押出成形、射出成型、カレンダー成形、プレス成型等に供することができるが、気泡の保持性に優れ、かつ、溶融張力が適度であるため延展性が良いために、各種の押出発泡成形に、特に適したものである。どの様な押出発泡成形を用いるかは、特に制限するものではない。
代表的な押出発泡成形として、発泡シート成形、発泡フィルム成形、発泡ブロー成形、などによる発泡成形がある。発泡シート成形の場合、公知の押出機とダイスの組み合わせを用いることができる。
押出機は、単軸であっても二軸であっても良い。ダイはTダイでも良いし、円形(サーキュラー)であっても良い。発泡フィルム成形の場合も、同様である。発泡フィルム成形の場合には、更に延伸を行ってもよい。延伸方法は、公知の方法を制限なく用いることができる。例えば、チューブラー法、テンター式延伸法、ロール延伸法、パンタグラフ式バッチ延伸法、などを例示することができる。発泡ブロー成形の場合も、公知の方法を用いればよい。具体例として、ダイレクトブロー成形機やアキューム式ブロー成形機を挙げることができる。
以下、順に詳説する。
VI−1.発泡剤
本発明のポリプロピレン樹脂組成物を用いて、押出発泡成形を行う際には、発泡剤を使用する必要がある。この際、発泡剤の種類には、特に制限がなく、プラスチックやゴム等に使用されている公知の発泡剤を使用することができる。発泡剤の種類にも、特に制限はなく、物理発泡剤、分解性発泡剤(化学発泡剤)、熱膨張剤を含有させたマイクロカプセル等、いずれの種類を用いても良い。
物理発泡剤の具体例としては、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素、クロロジフルオロメタン、ジフルオロメタン、トリフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、クロロメタン、ジクロロメタン、クロロエタン、ジクロロトリフルオロエタン、ジクロロフルオロエタン、クロロジフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ジフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、トリフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン、クロロペンタフルオロエタン、パーフルオロシクロブタンなどのハロゲン化炭化水素、水、炭酸ガス、窒素などの無機ガス、などを例示することができる。これらの化合物は、単独で用いても良いし、複数の化合物を併用しても良い。
中でも、プロパン、ブタン、ペンタンのような脂肪族炭化水素および炭酸ガスが、安価かつポリプロピレン樹脂(X)への溶解性が高いという点から好ましい。特に、炭酸ガスを用いる場合には、7.4MPa以上、31℃以上の超臨界条件とすると、重合体への拡散、溶解性に優れた状態となるので一層好ましい。
物理発泡剤を用いる場合には、必要に応じて、気泡調整剤を使用することができる。気泡調整剤としては、炭酸アンモニウム、重曹、重炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム等の無機系分解性発泡剤、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル及びジアゾアミノベンゼン等のアゾ化合物、N,N′−ジニトロソペンタンメチレンテトラミン及びN,N′−ジメチル−N,N′−ジニトロソテレフタルアミド等のニトロソ化合物、ベンゼンスルホニルヒドラジド、p−トルエンスルホニルヒドラジド、p,p′−オキシビスベンゼンスルホニルセミカルバジド、p−トルエンスルホニルセミカルバジド、トリヒドラジノトリアジン、バリウムアゾジカルボキシレート等の分解性発泡剤、タルク、シリカ等の無機粉末、多価カルボン酸等の酸性塩、多価カルボン酸と炭酸ナトリウム又は重曹との反応混合物等を例示することができる。これらの気泡調整剤は、単独で用いても良いし、複数を併用しても良い。
気泡調整剤を使用する際には、気泡調節剤の配合量は、ポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)の合計100重量部に対して、純分で0.01〜5重量部の範囲とすることが好ましい。
分解性発泡剤(化学発泡剤)の具体例としては、重炭酸ソーダとクエン酸などの有機酸の混合物、アゾジカルボンアミド、アゾジカルボン酸バリウムなどのアゾ系発泡剤、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソテレフタルアミドなどのニトロソ系発泡剤、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、p−トルエンスルホニルセミカルバジドなどのスルホヒドラジド系発泡剤、トリヒドラジノトリアジンなどが挙げられる。
発泡剤の配合量は、ポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)の合計100重量部に対し、好ましくは0.05〜6.0重量部の範囲であり、より好ましくは0.05〜3.0重量部、さらに好ましくは0.5〜2.5重量部、特に好ましくは1.0〜2.0重量部である。
VI−2.ポリプロピレン系発泡シート
本発明のポリプロピレン系発泡シートは、ポリプロピレン樹脂組成物(Z)又はポリプロピレン樹脂組成物(Z’)を用いて、製造したものである。本発明においては、ポリプロピレン系発泡シートの形状や成形方法を制限するものではない。発泡シートの厚みは、0.3mm〜10mm程度が好ましい。より好ましくは0.5mm〜5mmである。
ポリプロピレン系発泡シートは、熱成型により二次加工され、各種容器等を中心に広く産業上用いられている。そして、ポリプロピレン系発泡シートは、軽量であることを利点に、各種用途での利用が広がっている。
ここでポリプロピレン系発泡シートは、シート中に多くの気泡(セル)を含んでいるため、セルが粗かったり不揃いであったりすると、これらがシート表面に現れ、表面外観を悪化させ、商品価値が低下してしまう。さらに、熱成型を行う際には、金型を転写するために十分に加熱して行う必要があるが、発泡シートにおいては、加熱時にセルも膨張する。その結果、発泡セルが粗いと、表面が悪化しやすく、また、不揃いであるとシートが加熱中に破れてしまうといった問題がある。
これらの問題を解決するには、独立気泡率が高く、緻密でサイズの揃った発泡セルを形成することが必要であると考えられるが、本発明における押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物を用いることで、これらが実現し、発泡シートとしては、外観に優れ、また、熱成型適性が高いシートを得ることができる。
VI−4.ポリプロピレン系多層発泡シート
ポリプロピレン系発泡シートを製造する際には、多層発泡シートとすることもできる。
具体的には、本発明の押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物を用いる発泡層と、熱可塑性樹脂組成物からなる非発泡層とを、共押出成形すれば良い。この際、複数の押出機を用いたフィードブロックやマルチダイなどによる公知の共押出方法を用いることができる。
本発明の押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物を発泡層に用いるポリプロピレン系多層発泡シートに用いられる非発泡層は、発泡層のいずれの面に設けられていてもよく、また、発泡層を非発泡層の間に存在させた構成(サンドイッチ構造)とすることもできる。
ポリプロピレン系多層発泡シートの厚みは、特に限定しないが、0.3mm〜10mm程度が好ましい。更に好ましくは0.5mm〜5mmである。
また、ポリプロピレン系多層発泡シートにおける非発泡層の厚さは、発泡層の気泡の成長を妨げないように、得られるポリプロピレン系多層発泡シートの全厚みの1〜50%、より好ましくは5〜20%になるように形成することが望ましい。
非発泡層が設けられたポリプロピレン系多層発泡シートは、強度において優れたものとなり、少なくとも該発泡層の外側に、非発泡層が設けられることにより、表面平滑性や外観においても、優れたものとなる。更に、非発泡層に機能性の熱可塑性樹脂を使用することにより、抗菌性、ソフト感、耐受傷性等の付加的機能をポリプロピレン系多層発泡シートに兼備させることが容易にできる点からも、好ましい。
非発泡層に用いられる熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂としては、本発明の効果を阻害しない範囲で、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィンコポリマー、ポリ−4−メチル−ペンテン−1等のポリオレフィン、エチレン−プロピレンエラストマー等のオレフィン系エラストマー、またはこれらと共重合可能な他の単量体、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の共重合体および混合物等を選択することができる。
中でも、リサイクル性、接着性、耐熱性、耐油性、剛性などの点から、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィンコポリマーが好適である。プロピレン−α−オレフィンコポリマーとしては、プロピレン(共)重合体とエチレン−プロピレンランダム共重合体を複数あるいは単槽の重合槽を使用して、多段階重合して得られた、インパクトコポリマーを含む。
これらのうち、インパクトコポリマーは、剛性と耐衝撃性のバランスに優れるため、より好ましく、インパクトコポリマー(Y)が満たすべき要件を満たすインパクトコポリマー(Y’)(ただし、(Y’)は(Y)と同一であっても良いし、異なっていても良い)を含むポリプロピレン樹脂組成物を表面層に用いた場合には、得られたシートは、表面外観が良く、かつ、熱成型時のセルの保持性が高いといった特徴を有するため、最も好適である。この際、表面層に用いるポリプロピレン樹脂組成物中のインパクトコポリマー(Y’)の含量は、0.1〜100重量%であることが好ましい。
また、特に熱成型体として用いる場合に、成型体の剛性は、非常に重要であるが、特にこれを向上させるためには、表面層に非発泡層を設け、非発泡層に無機充填剤を配合することが好ましい。非発泡層に用いられる熱可塑性樹脂組成物としては、熱可塑性樹脂100重量部に対し、無機充填剤50重量部以下を配合することが望ましい。50重量部を超えると、ダイス出口でのメヤニを発生しシートの外観を損ないやすい。
無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、ハイドロタルサイト、ゼオライト、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなどが例示できる。
VI−3.熱成型性
本発明におけるポリプロピレン系発泡シート及びポリプロピレン系多層発泡シートは、熱成型適性が高いものであるが、これらは垂れ試験を行うことで評価ができる。垂れ試験は、熱成型と同様にシートをヒーターで加熱し、その時のシートの挙動を観察する試験法である。垂れ試験におけるシートの挙動は以下のようになっている。
まず、シートが加熱されると、軟化・膨張し、シートは一旦垂れ下がる。この間は、まだ結晶融解が充分ではなく、熱成型時には延展生が不足し、金型形状を十分に転写することができない。加熱が進み、結晶融解が充分となると、一旦垂れ下がったシートは、シート成形時の残留応力が緩和することにより、収縮し、加熱時の位置あたりまで張り戻る。このとき結晶は、十分に融解し、また、残留応力も解放されることで、熱成型時には、金型を充分転写した成型体を得ることができる。更に加熱が進むと、シート温度の上昇に伴い粘度が低下し、自重やセルの膨張により垂れ下がりはじめ、いずれは穴が開き始める。穴が開くと、当然熱成型して成型体を得ることはできないし、穴が開かないにしても垂れ下がりが大きいと、金型に接触し、成型体を得ることができなくなる。
上記挙動において、熱成型が可能な範囲は、シートが張り戻った時間T1から穴が開くまで時間T2の範囲内であり、この時間幅が広いほど成型可能範囲は広いため、垂れ試験の結果から、T2−T1を求め、これを熱成型性の評価に用いることができる。この時、本時間範囲において、垂れが小さい方が熱成型は行いやすく、また、より大きな成型体の成型が可能であるため、T2における垂れ量D(T2)を(T2−T1)で除して成型可能範囲における平均的な垂れ速度VD[mm/s]と定義し、これも、熱成型性の評価に用いることができる。
発泡セルの状態については、セルの大きさが小さく緻密で、大きさが揃っていて、独立性の高い状態が好ましい。具体的には、平均気泡径が500μm以下であることが好ましく、400μm以下がより好ましく、300μm以下が更に好ましい。平均気泡径が500μmを大きく超えると、ポリプロピレン系発泡シートや該シートを熱成型する際に、熱成型体に対し、穴明き等の外観不良が発生するため好ましくない。なお、平均気泡径は実施例に記載の方法により光学顕微鏡を用いて求めた値とする。
また、セルの独立性に関しては、連続気泡率で判断することができる。連続気泡率は、30%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下、更に好ましくは15%以下である。連続気泡率が30%を超えると、熱成型する際に、発泡シート内の発泡セルの膨張が生じないため、熱成型体の厚みが減ってしまうため、好ましくない。また、熱成型体の断熱性能の低下にも、繋がるので好ましくない。
なお、連続気泡率は、実施例に記載の方法によりエアピクノメター(東京サイエンス(株)製)を用いて求めた値とする。
VI−5.熱成型体
本発明の熱成型体は、上記のポリプロピレン系発泡シートまたはポリプロピレン系多層発泡シートを熱成型したものである。
熱成型法は、特に制限されるものではなく、例えば、プラグ成型、マッチド・モールド成型、ストレート成型、ドレープ成型、プラグアシスト成型、プラグアシスト・リバースドロー成型、エアスリップ成型、スナップバック成型、リバースドロー成型、フリードローイング成型、プラグ・アンド・リッジ成型、リッジ成型などの方法を例示することができる。
VI−6.用途
本発明のポリプロピレン系発泡シートおよび熱成型体は、均一微細な発泡セルを有し、外観、熱成型性、耐衝撃性、軽量性、剛性、耐熱性、断熱性、耐油性等に優れていることより、トレー、皿、カップなどの食品容器や自動車ドアトリム、自動車トランクマットなどの車両内装材、包装、文具、建材などに好適に利用できる。
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
1.諸物性の測定方法
(i)MFR
JIS K7210:1999のA法、条件M(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定した。単位はg/10分である。
(ii)溶融張力(MT)
東洋精機製作所製キャピログラフを用いて、以下の条件で測定した。
・キャピラリー:直径2.0mm、長さ40mm
・シリンダー径:9.55mm
・シリンダー押出速度:20mm/分
・引き取り速度:4.0m/分
・温度:230℃
MTが極めて高い場合には、引き取り速度4.0m/分では、樹脂が破断してしまう場合があり、このような場合には、引取り速度を下げ、引き取りのできる最高の速度における張力をMTとする。単位はグラムである。
(iii)25℃パラキシレン可溶成分量(CXS)
以下の方法を用いてCXSの値を得た。
2gの試料を300mlのp−キシレン(0.5mg/mlのBHTを含む)に130℃で溶解させ溶液とした後、25℃で12時間放置する。その後、析出したポリマーを濾別し、濾液からp−キシレンを蒸発させ、さらに100℃で12時間減圧乾燥し25℃キシレン可溶成分を回収する。この回収成分の重量の仕込み試料重量に対する割合[重量%]をCXSと定義する。
(iv)分岐指数g
示差屈折計(RI)、粘度検出器(Viscometer)、光散乱検出器(MALLS)を検出器として備えたGPCを用いて、絶対分子量Mabsが100万となる時の分岐指数gを求めた。具体的な測定方法、解析方法、算出方法は、上述の通りである。
(v)歪硬化度(λmax)
Rheometorics社製Aresを用いて伸張粘度の測定を行い、その結果から歪硬化度(λmax)を求めた。具体的な測定方法、算出方法は、上述の通りである。
(vi)アイソタクチックトライアッド分率(mm分率)、長鎖分岐の有無
日本電子社製、GSX−400、FT−NMRを用い、上述の通り、特開平2009−275207号公報の段落[0025]〜[0065]に記載の方法で測定した。mm分率の単位は%である。
(vii)プロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量
上記(iii)に記載の方法により得られたインパクトコポリマー(Y)のCXS成分を用いて、13C−NMRによりエチレン含量を求めた。13C−NMRの測定条件は、以下の通りである。
機種:日本電子(株)製 GSX−400
溶媒:o−ジクロベンゼン+重ベンゼン(4:1(体積比))
濃度:100mg/mL
温度:130℃
パルス角:90°
パルス間隔:15秒
積算回数:5,000回以上
得られたスペクトルの解析方法は、上述の通りである。
(vii)プロピレン−エチレン共重合体(YC)の固有粘度
上記(iii)に記載の方法により得られたインパクトコポリマー(Y)のCXS成分を用いて、固有粘度の測定を行った。固有粘度の測定はウベローデ型毛管粘度計を用い、温度135℃、デカリン溶媒、の条件で行った。
(viii)インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量
上記(iii)に記載の方法により得られたインパクトコポリマー(Y)のCXSの値(wt%)をインパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量(wt%)とした。
2.使用材料
(1)ポリプロピレン(X)
下記の製造例X1〜Xc7で得られたポリプロピレン(X1)〜(Xc7)をポリプロピレン(X)として使用した。
[製造例X1:ポリプロピレン(X1)の製造]
<触媒成分[A−1]の合成>
以下の手順によって、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−i−プロピルフェニル)インデニル}]ハフニウムの合成を行った。
(i)4−(4−i−プロピルフェニル)インデンの合成
500mlのガラス製反応容器に、4−i−プロピルフェニルボロン酸15g(91mmol)、ジメトキシエタン(DME)200mlを加え、炭酸セシウム90g(0.28mol)と水100mlの溶液を加え、4−ブロモインデン13g(67mmol)、テトラキストリフェニルホスフィノパラジウム5g(4mmol)を順に加え、80℃で6時間加熱した。
放冷後、反応液を蒸留水500ml中に注ぎ、分液ロートに移しジイソプロピルエーテルで抽出した。エーテル層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過し、溶媒を減圧留去して、シリカゲルカラムで精製し、4−(4−i−プロピルフェニル)インデンの無色液体15.4g(収率99%)を得た。
(ii)2−ブロモ−4−(4−i−プロピルフェニル)インデンの合成
500mlのガラス製反応容器に4−(4−i−プロピルフェニル)インデン15.4g(67mmol)、蒸留水7.2ml、DMSO 200mlを加え、ここにN−ブロモスクシンイミド17g(93mmol)を徐々に加えた。そのまま室温で2時間撹拌し、反応液を氷水500ml中に注ぎ入れ、トルエン100mlで3回抽出した。トルエン層を飽和食塩水で洗浄し、p−トルエンスルホン酸2g(11mmol)を加え、水分を除去しながら3時間加熱還流した。反応液を放冷後、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過し、溶媒を減圧留去して、シリカゲルカラムで精製し、2−ブロモ−4−(4−i−プロピルフェニル)インデンの黄色液体19.8g(収率96%)を得た。
(iii)2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−i−プロピルフェニル)インデンの合成
500mlのガラス製反応容器に、2−メチルフラン6.7g(82m1mol)、DME100mlを加え、ドライアイス−メタノール浴で−70℃まで冷却した。ここに1.59mol/Lのn−ブチルリチウム−n−ヘキサン溶液51ml(81mmol)を滴下し、そのまま3時間撹拌した。−70℃に冷却し、そこにトリイソプロピルボレート20ml(87mmol)とDME50mlの溶液を滴下した。滴下後、徐々に室温に戻しながら一夜撹拌した。
反応液に蒸留水50mlを加え加水分解した後、炭酸カリウム223gと水100mlの溶液、2−ブロモ−4−(4−i−プロピルフェニル)インデン19.8gg(63mmol)を順に加え、80℃で加熱し、低沸分を除去しながら3時間反応させた。
放冷後、反応液を蒸留水300ml中に注ぎ、分液ロートに移しジイソプロピルエーテルで3回抽出した、エーテル層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過し、溶媒を減圧留去して、シリカゲルカラムで精製し、2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−i−プロピルフェニル)インデンの無色液体19.6g(収率99%)を得た。
(iv)ジメチルビス(2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−i−プロピルフェニル)インデニル)シランの合成
500mlのガラス製反応容器に、2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−i−プロピルフェニル)インデン9.1g(29mmol)、THF200mlを加え、ドライアイス−メタノール浴で−70℃まで冷却した。ここに、1.66mol/Lのn−ブチルリチウム−n−ヘキサン溶液17ml(28mmol)を滴下し、そのまま3時間撹拌した。−70℃に冷却し、1−メチルイミダゾール0.1ml(2mmol)、ジメチルジクロロシラン1.8g(14mmol)を順に加え、徐々に室温に戻しながら一夜撹拌した。
反応液に蒸留水を加え、分液ロートに移し食塩水で中性になるまで洗浄し、硫酸ナトリウムを加え反応液を乾燥させた。硫酸ナトリウムを濾過し、溶媒を減圧留去して、シリカゲルカラムで精製し、ジメチルビス(2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−i−プロピルフェニル)インデニル)シランの淡黄色固体8.6g(収率88%)を得た。
(v)ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−i−プロピルフェニル)インデニル}]ハフニウムの合成
500mlのガラス製反応容器に、ジメチルビス(2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−i−プロピルフェニル)インデニル)シラン8.6g(13mmol)、ジエチルエーテル300mlを加え、ドライアイス−メタノール浴で−70℃まで冷却した。ここに1.66mol/Lのn−ブチルリチウム−n−ヘキサン溶液15ml(25mmol)を滴下し、3時間撹拌した。反応液の溶媒を減圧で留去し、トルエン400ml、ジエチルエーテル40mlを加え、ドライアイス−メタノール浴で−70℃まで冷却した。そこに、四塩化ハフニウム4.0g(13mmol)を加えた。その後、徐々に室温に戻しながら一夜撹拌した。
溶媒を減圧留去し、ジクロロメタン−ヘキサンで再結晶を行い、ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−i−プロピルフェニル)インデニル}]ハフニウムのラセミ体を黄色結晶として7.6g(収率65%)得た。
得られたラセミ体についてのH−NMRによる同定値を以下に記す。
H−NMR(C6D6)同定結果
ラセミ体:δ0.95(s,6H),δ1.10(d,12H),δ2.08(s,6H),δ2.67(m,2H),δ5.80(d,2H),δ6.37(d,2H),δ6.74(dd,2H),δ7.07(d,2H),δ7.13(d,4H),δ7.28(s,2H),δ7.30(d,2H),δ7.83(d,4H)。
<触媒成分[A−2]の合成>
特開平11―240909号公報の実施例1に記載の方法に基づいて、rac−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウムを合成した。
<触媒成分Bの合成>
(i)イオン交換性層状珪酸塩の化学処理
セパラブルフラスコ中で蒸留水2,264gに96%硫酸(668g)を加えその後、層状珪酸塩としてモンモリロナイト(水沢化学社製ベンクレイSL:平均粒径19μm)400gを加えた。このスラリーを90℃で210分加熱した。この反応スラリーを蒸留水4,000gに加えた後にろ過したところ、ケーキ状固体810gを得た。
次に、セパラブルフラスコ中に、硫酸リチウム432g、蒸留水1,924gを加え硫酸リチウム水溶液としたところへ、上記ケーキ状固体を全量投入した。このスラリーを室温で120分反応させた。このスラリーに蒸留水4Lを加えた後にろ過し、更に蒸留水でpH5〜6まで洗浄し、ろ過を行ったところ、ケーキ状固体760gを得た。
得られた固体を窒素気流下100℃で一昼夜予備乾燥後、53μm以上の粗大粒子を除去し、更に200℃、2時間、減圧乾燥することにより、化学処理スメクタイト220gを得た。
この化学処理スメクタイトの組成は、Al:6.45重量%、Si:38.30重量%、Mg:0.98重量%、Fe:1.88重量%、Li:0.16重量%であり、Al/Si=0.175[mol/mol]であった。
<予備重合触媒M1の調製>
(i)触媒調製及び予備重合
3つ口フラスコ(容積1L)中に、上記の触媒成分Bの合成で得られた化学処理スメクタイト20.0gを入れ、ヘプタン(132mL)を加えてスラリーとし、これにトリイソブチルアルミニウム(25mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を68.0mL)を加えて1時間攪拌後、ヘプタンで残液率が1/100になるまで洗浄し、全容量を100mLとなるようにヘプタンを加えた。
また、別のフラスコ(容積200mL)中で、上記の触媒成分[A−1]の合成で得られたrac−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−(5−メチル−2−フリル)−4−(4−i−プロピルフェニル)インデニル}]ハフニウム(180μmol)をトルエン(42mL)に溶解し(溶液1)、更に、別のフラスコ(容積200mL)中で、上記の触媒成分[A−2]の合成で得られたrac−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウム(120μmol)をトルエン(18mL)に溶解した(溶液2)。
上記の化学処理スメクタイトが入った1Lフラスコにトリイソブチルアルミニウム(0.84mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を1.2mL)を加えた後、上記溶液1を加えて20分間室温で撹拌した。その後更にトリイソブチルアルミニウム(0.36mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を0.50mL)を加えた後、上記溶液2を加えて、1時間室温で攪拌した。
その後、ヘプタンを338mL追加し、このスラリーを、1Lオートクレーブに導入した。
オートクレーブの内部温度を40℃にしたのち、プロピレンを10g/時の速度でフィードし、4時間40℃を保ちつつ予備重合を行った。その後、プロピレンフィードを止めて、1時間残重合を行った。得られた触媒スラリーの上澄みをデカンテーションで除去した後、残った部分に、トリイソブチルアルミニウム(6mmol:濃度143mg/mLのヘプタン溶液を17.0mL)を加えて5分攪拌した。
この固体を1時間減圧乾燥することにより、乾燥予備重合触媒60.0gを得た。予備重合倍率(予備重合ポリマー量を固体触媒量で除した値)は2.00g/g−触媒であった。
以下、このものを「予備重合触媒M1」という。
<重合>
内容積200リットルの攪拌式オートクレーブ内をプロピレンで充分に置換した後、精製した液化プロピレン40kgを導入した。これに水素10L(標準状態の体積として)、トリイソブチルアルミニウム−n−ヘプタン溶液470ml(0.12mol)を加えた後、内温を30℃に調整した。次いで、予備重合触媒M1を2.0g(予備重合ポリマーを除いた重量で)アルゴンで圧入し、内温が70℃になるまで昇温した。内温が70℃に到達した時点から2時間経過後に、エタノールを100ml圧入し、未反応のプロピレンをパージし、オートクレーブ内を窒素置換することにより重合を停止した。その後、得られたポリマーを90℃窒素気流下で1時間乾燥した。ポリプロピレンの収量は19.0kgであり、触媒活性は9.5kg−PP/g−触媒であった。
<造粒>
上記の重合で得られたポリプロピレン100重量部に対し、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート(商品名:Cyanox1790、日本サイテックインダストリーズ株式会社製)0.05重量部、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名:IRGAFOS 168、BASFジャパン株式会社製)0.10重量部、ポリ{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}(商品名:Chimassorb944、BASFジャパン株式会社製)0.03重量部、ステアリン酸アミド0.09重量部、を配合し充分に撹拌した後、2軸押出機(テクノベル社製KZW25TW−45MG−NH)を用いて溶融混練し、押出されたストランドを切断しペレット化し、ポリプロピレン(X1)を得た。
得られたポリプロピレン(X1)を分析した結果を表3に示す。13C−NMR測定の結果、このポリプロピレン(X1)に長鎖分岐が存在することを確認した。また、分岐指数gが0.85であり、1よりも小さな値であることも、このポリプロピレン(X1)に、長鎖分岐が存在することを示している。
[製造例X2:ポリプロピレン(X2)の製造]
<予備重合触媒M2の調製>
触媒成分[A−1]、[A−2]の使用量をそれぞれ210、90μmolとした以外は、製造例X1の予備重合触媒M1の調製と同様にして、予備重合触媒M2の調製を行った。乾燥予備重合触媒の収量は58.0gであり、予備重合倍率は1.90g/g−触媒であった。
以下、このものを「予備重合触媒M2」という。
<重合>
予備重合触媒M1の代わりに予備重合触媒M2を使用し、更に、水素の使用量を9.5L(標準状態の体積として)とした以外は、製造例X1と同様にして、重合を行った。ポリプロピレンの収量は18.4kgであり、触媒活性は9.2kg−PP/g−触媒であった。
<造粒>
上記の重合で得られたポリプロピレンを用いて製造例X1と同様にして造粒を行い、ポリプロピレン(X2)を得た。
得られたポリプロピレン(X2)を分析した結果を表3に示す。
[製造例Xc3:ポリプロピレン(Xc3)の製造]
重合の際に、水素の使用量を6.2L(標準状態の体積として)とした以外は、製造例X1と同様にして、ポリプロピレン(Xc3)の製造を行った(予備重合触媒の合成、造粒は、製造例X1と同様である)。
得られたポリプロピレン(Xc3)を分析した結果を表3に示す。
[製造例Xc4:ポリプロピレン(Xc4)の製造]
重合の際に、水素の使用量を7.8L(標準状態の体積として)とした以外は、製造例X2と同様にして、ポリプロピレン(Xc4)の製造を行った(予備重合触媒の合成、造粒は製造例X2と同様である)。
得られたポリプロピレン(Xc4)を分析した結果を表3に示す。
[製造例X5、X6:ポリプロピレン(X5、X6)の製造]
重合の際に、水素の使用量をそれぞれ9.0、10.5L(標準状態の体積として)とした以外は、製造例X2と同様にして、ポリプロピレン(X5、X6)の製造を行った(予備重合触媒の合成、造粒は製造例X2と同様である)。
得られたポリプロピレン(X5、X6)を分析した結果を表3に示す。
[製造例Xc7:ポリプロピレン(Xc7)の製造]
重合の際に、水素の使用量を11.0L(標準状態の体積として)とした以外は、製造例X2と同様にして、ポリプロピレン(Xc7)の製造を行った(予備重合触媒の合成、造粒は製造例X2と同様である)。
得られたポリプロピレン(Xc7)を分析した結果を表3に示す。
Figure 0006171717
(2)インパクトコポリマー(Y)
下記の製造例Y1〜Y6で得られたインパクトコポリマー(Y1)〜(Y7)をインパクトコポリマー(Y)として使用した。Yの製造例において、Meはメチル、Etはエチル、Prはプロピル、Buはブチルの略号である。
[製造例Y1:インパクトコポリマー(Y1)の製造]
<触媒の分析方法>
触媒成分、固体触媒、予備重合触媒の分析に際しては、以下の方法を使用した。
・Ti含量(wt%)
試料を精確に秤量し、加水分解した上で比色法を用いて測定した。予備重合後の試料については、予備重合ポリマーを除いた重量を用いて含量を計算した。
・ケイ素化合物含量(wt%)
試料を精確に秤量し、メタノールで分解した。ガスクロマトグラフィーを用いて標準サンプルと比較することにより、得られたメタノール溶液中のケイ素化合物濃度を求めた。メタノール中のケイ素化合物濃度と試料の重量から、試料に含まれるケイ素化合物の含量を計算した。予備重合後の試料については、予備重合ポリマーを除いた重量を用いて含量を計算した。
<予備重合触媒Z1の調製>
(1)固体成分Z1の調製
撹拌装置を備えた容量10Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、精製したトルエン2Lを導入した。ここに、室温で、Mg(OEt)を200g投入し、TiClを1Lゆっくりと添加した。徐々に温度を90℃に上げて、フタル酸ジ−n−ブチルを50ml導入した。その後、温度を110℃に上げて3hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。次いで、精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiClを1L添加し、温度を110℃に上げて2hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。次いで、精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiClを1L添加し、温度を110℃に上げて2hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。更に、精製したn−ヘプタンを用いて、トルエンをn−ヘプタンで置換し、固体成分Z1のスラリーを得た。このスラリーの一部をサンプリングして乾燥した。分析したところ、固体成分Z1のTi含量は2.7wt%であった。
(2)固体触媒Z1の調製
次に、撹拌装置を備えた容量20Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、上記固体成分Z1のスラリーを固体成分として100g導入した。精製したn−ヘプタンを導入して、固体成分の濃度が25g/Lとなる様に調整した。SiClを50ml加え、90℃で1hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。
その後、精製したn−ヘプタンを導入して液レベルを4Lに調整した。ここに、ジメチルジビニルシランを30ml、t−BuMeSi(OMe)を30ml、EtAlのn−ヘプタン希釈液をEtAlとして80g添加し、40℃で2hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄し、固体触媒Z1を得た。
得られた固体触媒Z1のスラリーの一部をサンプリングして乾燥し、分析を行った。固体触媒Z1には、Tiが1.2wt%、t−BuMeSi(OMe)が8.9wt%含まれていた。
(3)予備重合
上記で得られた固体触媒Z1を用いて、以下の手順により予備重合を行った。
上記のスラリーに精製したn−ヘプタンを導入して、固体触媒の濃度が20g/Lとなる様に調整した。スラリーを10℃に冷却した後、EtAlのn−ヘプタン希釈液をEtAlとして10g添加し、280gのプロピレンを4hrかけて供給した。プロピレンの供給が終わった後、更に30min反応を継続した。
次いで、気相部を窒素で充分に置換し、反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。得られたスラリーをオートクレーブから抜き出し、真空乾燥を行って予備重合触媒Z1を得た。
この予備重合触媒Z1は、固体触媒1gあたり2.5gのポリプロピレンを含んでいた。分析したところ、この予備重合触媒Z1のポリプロピレンを除いた部分には、Tiが1.0wt%、t−BuMeSi(OMe)が8.3wt%含まれていた。
<重合>
重合は、2槽連続の気相重合反応装置を用いて実施した。逐次重合の第1工程を実施する第1重合槽と、第2工程を実施する第2重合槽は、共に内容積230リットルの流動床式反応器である。使用する原料ガスは充分に精製したものを使用した。
(第1工程:プロピレン重合体の製造)
第1重合槽のガス組成については、プロピレンの分圧が1.8MPaA、重合槽の全圧が3.0MPaG、となる様に、プロピレンと窒素を連続的に供給した。また、分子量制御剤としての水素を、水素/プロピレンのモル比で0.020となるように連続的に供給した。重合温度は60℃となるように制御した。この第1重合槽に、EtAlを4.0g/hで供給し、更に、上記の予備重合触媒Z1を第1重合槽におけるプロピレン重合体の生産速度が17.5kg/hとなるように連続的に供給し、プロピレン単独重合体の製造を行った。第1重合槽で生産したパウダー(プロピレン重合体)は、重合槽内のパウダー保有量が40kgとなるように連続的に抜き出し、第2重合槽に連続的に移送した。
第1重合槽から第2重合槽へ移送するパウダーの一部をサンプリングして分析したところ、MFRは、20.0g/10分であった。
なお、MFRの測定の際には、サンプルであるプロピレン重合体に、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト]メタン(商品名:IRGANOX1010、BASFジャパン株式会社製)、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名:IRGAFOS 168、BASFジャパン株式会社製)、ステアリン酸カルシウム、をそれぞれ適量(500wtppm程度)添加混合した上で測定を行った。
(第2工程:プロピレン−エチレン共重合体の製造)
第2重合槽のガス組成については、プロピレンの分圧が1.15MPaA、エチレンの分圧が0.35MPaA、重合槽の全圧が2.5MPaG、となる様に、プロピレン、エチレン、窒素を連続的に供給した。また、分子量制御剤としての水素を、水素/(プロピレン+エチレン)のモル比で260ppmとなるように連続的に供給した。重合温度は70℃となるように制御した。更に、重合抑制剤として、エタノールを2.0g/hとなる様に連続的に供給し、プロピレン−エチレン共重合体の製造を行った。第2重合槽で生産が終了したパウダー(プロピレン重合体とプロピレン−エチレン共重合体とからなるインパクトコポリマー)は、重合槽内のパウダー保有量が60kgとなるように連続的にベッセルに抜き出した。このベッセルに、水分を含んだ窒素ガスを供給して反応を停止させ、インパクトコポリマーのパウダーを得た。
<造粒>
上記の重合で得られたインパクトコポリマー100重量部に対し、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト]メタン(商品名:IRGANOX1010、BASFジャパン株式会社製)0.05重量部、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名:IRGAFOS 168、BASFジャパン株式会社製)0.05重量部、ステアリン酸カルシウム0.05重量部を配合し充分に撹拌した後、2軸押出機(テクノベル社製KZW25TW−45MG−NH)を用いて溶融混練し、押出されたストランドを切断しペレット化し、インパクトコポリマー(Y1)を得た。
得られたインパクトコポリマー(Y1)を分析した結果を表4に示す。
[製造例Y2:インパクトコポリマー(Y2)の製造]
重合の第2工程の際に、プロピレンの分圧を1.28MPaA、エチレンの分圧を0.22MPaA、とし、水素/(プロピレン+エチレン)のモル比を120ppmとなるように調整し、更に、エタノールの供給量を1.5g/hとなる様に変更した以外は、製造例(Y1)と同様にして、インパクトコポリマー(Y2)の製造を行った。
得られたインパクトコポリマー(Y2)を分析した結果を表4に示す。
[製造例Y3:インパクトコポリマー(Y3)の製造]
<予備重合触媒Z2の調製>
触媒の分析は、製造例Y1と同様に実施した。
(1)固体成分Z2の調製
撹拌装置を備えた容量10Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、精製したn−ヘプタン2Lを導入した。更に、MgClを250g、Ti(O−n−Bu)を1.8L添加して、95℃で2hr反応を行った。反応生成物を40℃に冷却し、メチルハイドロジェンポリシロキサン(20センチストークスのもの)を500ml添加した。40℃で5hr反応を行った後、析出した固体生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。
次いで、精製したn−ヘプタンを導入して、上記固体生成物の濃度が200g/Lとなる様に調整した。ここに、SiClを300ml添加して、90℃で3hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄し、反応生成物の濃度が100g/Lとなる様に精製したn−ヘプタンを導入した。フタル酸ジクロライド30mlを精製したn−ヘプタン270mlに混合した液を事前に調製しておき、その混合液をオートクレーブへ添加し、90℃で1hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄し、反応生成物の濃度が200g/Lとなる様に精製したn−ヘプタンを導入した。ここへ、TiClを1L添加し、95℃で3hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄し、固体成分Z2のスラリーを得た。このスラリーの一部をサンプリングして乾燥した。分析したところ、固体成分Z2のTi含量は2.5wt%であった。
(2)固体触媒Z2の調製
次に、撹拌装置を備えた容量20Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、上記固体成分Z2のスラリーを固体成分として100g導入した。精製したn−ヘプタンを導入して、固体成分の濃度が25g/Lとなる様に調整した。SiClを50ml加え、70℃で1hr反応を行った。その後、温度を30℃まで下げ、トリメチルビニルシランを30ml、t−BuMeSi(OMe)を30ml、EtAlのn−ヘプタン希釈液をEtAlとして80g添加し、30℃で2hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄し、固体触媒Z2を得た。得られた固体触媒Z2のスラリーの一部をサンプリングして乾燥し、分析を行った。固体触媒Z2には、Tiが1.4wt%、t−BuMeSi(OMe)が7.2wt%含まれていた。
(3)予備重合
上記で得られた固体触媒Z2を用いて、以下の手順により予備重合を行った。
上記のスラリーに精製したn−ヘプタンを導入して、固体触媒の濃度が20g/Lとなる様に調整した。スラリーを10℃に冷却した後、EtAlのn−ヘプタン希釈液をEtAlとして10g添加し、280gのプロピレンを4hrかけて供給した。プロピレンの供給が終わった後、更に30min反応を継続した。次いで、気相部を窒素で充分に置換し、反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。得られたスラリーをオートクレーブから抜き出し、真空乾燥を行って予備重合触媒Z2を得た。
この予備重合触媒Z2は、固体触媒1gあたり2.5gのポリプロピレンを含んでいた。分析したところ、この予備重合触媒Z2のポリプロピレンを除いた部分には、Tiが1.1wt%、t−BuMeSi(OMe)が6.8wt%含まれていた。
<重合>
重合は、バッチ式のスラリー重合反応装置を用いて実施した。重合槽は内容積400リットルの攪拌機付きステンレス鋼製オートクレーブである。使用する原料ガス、並びに、n−ヘプタンは充分に精製したものを使用した。
(第1工程:プロピレン重合体の製造)
上記の重合槽をプロピレンガスで充分に置換し、重合溶媒としてn−ヘプタン120Lを導入した。温度を70℃に調整した後、EtAlを30g、水素を12リットル導入し、更に上記の予備重合触媒Z2を10g(予備重合ポリマーを除く)加えた。内温を75℃に上げた後、プロピレンを20.7kg/h、水素を20.6L/hで供給し重合を開始した。200分後にプロピレンと水素の供給を停止した。プロピレンと水素の供給を継続していた間は重合槽内の圧力は徐々に上昇し、最終的に0.46MPaGまで上昇した。プロピレンと水素の供給を停止した後、重合槽内のガスを使用して残重合を行い、重合槽内の圧力が0.35MPaになった時点で、重合槽内のガスを0.03MPaGまでパージしプロピレン単独重合体を得た。
得られたプロピレン重合体の一部をサンプリングして分析した所、MFRは24.0g/10分であった。
なお、MFRの測定の際には、サンプルであるプロピレン重合体に、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト]メタン(商品名:IRGANOX1010、BASFジャパン株式会社製)、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名:IRGAFOS 168、BASFジャパン株式会社製)、ステアリン酸カルシウム、をそれぞれ適量(500wtppm程度)添加混合した上で測定を行った。
(第2工程:プロピレン−エチレン共重合体の製造)
第1工程の終了後、重合槽の内温を65℃に調整し、n−ブタノールを16.0cc導入した。次いで、プロピレンを2.4kg/h、エチレンを1.6kg/hで供給し第2工程のプロピレンとエチレンの共重合を開始した。90分後にエチレンとプロピレンの供給を停止し、重合槽内のガスをパージした後、槽内を充分に窒素で置換し、重合を終了した。重合槽内の圧力はエチレンとプロピレン供給開始時には0.03MPaGであったが、供給停止時には0.09MPaGであった。
得られた重合体スラリーを次の攪拌機付き後処理槽に移送し、ブタノールを2.5リットル加え、70℃で3時間処理を行った。その後、スラリーを次の攪拌機付き後処理槽に移送し、水酸化ナトリウム20gを溶解した純水100リットルを加え、1時間処理を行った。その後、水層を静置後分離し触媒残渣を除去した。スラリーを遠心分離機に移送してパウダーとヘプタンを分離した。分離後のパウダーを80℃の乾燥機で3時間乾燥し、59.7kgのインパクトコポリマーを得た。
<造粒>
上記で得られたインパクトコポリマーを用い、製造例Y1と同様に造粒を行って、インパクトコポリマー(Y3)を得た。
得られたインパクトコポリマー(Y3)を分析した結果を表4に示す。
[製造例Yc4:インパクトコポリマー(Yc4)の製造]
重合の第1工程の際に、水素/プロピレンのモル比を0.012、重合槽内のパウダー保有量を60kgとなるように調整し、更に、第2工程の際に、重合温度を80℃、水素/(プロピレン+エチレン)のモル比を1680ppmとなるように調整し、エタノールの供給量を2.6g/hとなる様に変更した以外は、製造例(Y2)と同様にして、インパクトコポリマー(Yc4)の製造を行った。
得られたインパクトコポリマー(Yc4)を分析した結果を表4に示す。
[製造例Y5:インパクトコポリマー(Y5)の製造]
重合の第2工程の際に、水素/(プロピレン+エチレン)のモル比を500ppmとなるように調整し、更に、エタノールの供給量を2.2g/hとなる様に変更した以外は、製造例(Y1)と同様にして、インパクトコポリマー(Y5)の製造を行った。
得られたインパクトコポリマー(Y5)を分析した結果を表4に示す。
[製造例Y6:インパクトコポリマー(Y6)の製造]
重合の第1工程の際に、水素/プロピレンのモル比を0.027となるように調整し、更に、重合の第2工程の際に、エタノールの供給量を1.4g/hとなる様に変更した以外は、製造例(Y1)と同様にして、インパクトコポリマー(Y6)の製造を行った。
得られたインパクトコポリマー(Y6)を分析した結果を表4に示す。
Figure 0006171717
[実施例1]
1.ポリプロピレン樹脂組成物(Z1)の特性
発泡成形に用いる樹脂組成物(Z1)の特性を測定するために、製造例X1で得られたポリプロピレンペレット(X1)と、製造例Y1で得られたインパクトコポリマー(Y1)ペレットを50:50(重量比)でブレンドし、十分に撹拌した後、単軸押出機を用いて以下の条件で溶融混練し、押出されたストランドを切断しペレット化した。
混練条件:
・押出機:口径30mm、L/D=25(アイ・ケー・ジー社製PMS30−25)
・スクリュ:フルフライト CR2.0、Feed部溝深さ4mm+ダルメージ
・スクリュ回転数:60rpm
・設定温度:ホッパ下水冷、C1〜C4各220、200、200、200℃
・ダイ:ストランドダイ
得られたペレットの諸物性を以下の方法で測定した。結果を表5に示す。
・MFR
JIS K7210:1999のA法、条件M(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定した。単位はg/10分である。
・溶融張力(MT)
東洋精機製作所製キャピログラフを用いて、以下の条件で測定した。
・キャピラリー:直径2.0mm、長さ40mm
・シリンダー径:9.55mm
・シリンダー押出速度:20mm/分
・引き取り速度:4.0m/分
・温度:230℃
MTが極めて高い場合には、引き取り速度4.0m/分では、樹脂が破断してしまう場合があり、このような場合には、引取り速度を下げ、引き取りのできる最高の速度における張力をMTとする。単位はグラムである。
2.押出発泡シート成形
ポリプロピレンペレット(X1)とインパクトコポリマーペレット(Y1)を50:50(重量比)でドライブレンドし押出発泡用ポリプロピレン樹脂組成物(Z1)を得た。
樹脂組成物(Z1)100重量部に対し、気泡調整剤として化学発泡剤(商品名:ハイドロセロールCF40E−J、日本ベーリンガーインゲルハイム社製)を0.5重量部添加し、十分に撹拌した後単軸押出機に投入し、押出機シリンダーにあけられた物理発泡剤投入穴より、高圧ポンプを用いて液化COを注入しながら押出し、フィードブロックを介して幅750mm、Lip幅0.4mmのTダイからシート状に付形した。
このとき、単軸押出機2台を用いて、各々から製造例Y3で得られたインパクトコポリマー(Y3)を押出し、フィードブロックにて両表層に積層し、2種3層の多層シートとした。
押出されたシートは、ダイ出口直後に設置された直径50mmのロールで、まず片面が冷却され、その後に設置された直径100mmのロール4本で両面を冷却し、ニップロールにより一定速度で引き取られシート状に加工された。
このときの各押出機の運転条件とシート成形条件は以下の通りである。
・押出機(発泡層)
口径65mm、L/D=45、CO2注入口根本よりL/D=20の位置
スクリュ回転数:75rpm
設定温度:C1−180、C2〜4−240、C5−190、C6〜9−175℃
吐出量:約65kg/h
・押出機(両表層)
口径30mm、L/D=28
スクリュ回転数:50rpm
設定温度:C1−180、C2−230、C3−190、C4−180℃
吐出量:約5kg/h
・シート成形
フィードブロック温度:175℃
ダイ温度:175℃
冷却ロール温度:15℃
巻き取り速度:4.5m/min
得られた発泡シートの諸特性を以下の方法により測定した。結果を表5に示す。
3.発泡シートの特性
・平均気泡径:
実施例および比較例において得られたポリプロピレン系樹脂発泡シートから、25mm角のサンプルを切り出した。実体顕微鏡(ニコン製:SMZ−1000−2型)を用いて発泡層断面を拡大投影し、断面中の気泡数と気泡径より、押出方向断面及びその垂直方向の断面の気泡径をそれぞれ算出、その平均値を発泡層の平均気泡径とした。
・密度:
実施例および比較例により得られたポリプロピレン系(多層)発泡シートから試験片を切出し、試験片重量(g)を、該試験片の外形寸法から求められる体積(cm)で割って求めた。JIS K7222に準じて測定し、密度を求めた。
・連続気泡率:
実施例および比較例により得られたポリプロピレン系(多層)発泡シートから試験片を切出し、エアピクノメター(東京サイエンス(株)製)を用いて、ASTM D2856に記載の方法に準じて測定した。
・延展性・シート外観評価:
発泡シートの外観評価は、各実施例及び各比較例で得られたポリプロピレン系樹脂発泡シートを以下の基準で評価した。
◎:均一に延展され厚み斑が非常に少ない。気泡形状が微細かつ均一で部分的な凹部(ヒケ)もなくシート外観が美麗。
○:均一に延展され厚み斑が少ない。気泡形状が均一で、部分的な凹部(ヒケ)もない。
△:延展不良が認められ、厚み斑がある。気泡形状は、均一だが延展不良箇所に部分的な凹部(ヒケ)が発生している。
×:均一な延展が難しく厚み斑が多い。気泡の合一が見られ、部分的な凹部(ヒケ)がある。
・熱成型性、耐ドローダウン性:
得られた発泡シートの熱成型性、耐ドローダウン性を評価するために、垂れ試験機(三鈴江リー社製)を用いて、以下の評価を行った。
各実施例及び各比較例で得られたポリプロピレン系樹脂発泡シートから、300mm×300mmの大きさの試験片を切り出し、内寸260mm×260mmの枠に固定した。シートが固定された枠を垂れ試験機にセットし、加熱盤一式をシート上にスライドさせることでシートを加熱し、加熱開始からのシート中心における高さ方向の時間変位をレーザー変位計により測定した。
このとき、加熱盤は、インフラスタインヒータが配列された加熱盤2枚が上下に設置されており、それぞれの位置がセットされたシートに対し120mmになるように上下位置を設定する。ヒーターは、予め440℃に制御しておく。
測定された変位データから張り戻った時間T1と穴が開くまで時間T2、時間T2における垂れ量D(T2)を読み取り、成型可能時間範囲として(=T2−T1)[s]、成型可能範囲における平均的な垂れ速度VD(=D(T2)/(T2−T1))[mm/s]と定義し、これを評価に用いる。
このとき、各測定値は、3枚のシートについてそれぞれ垂れ試験を行った結果の平均値を用いる。結果を表5に示す。
実施例1における垂れ試験の測定結果を図1に示す。
4.熱成型
得られたシートを45cm×45cmにカットし、テスト用真空圧空成型機(株式会社浅野研究所製 FKS型)を用いて、両面を加熱した後、真空成型にて容器を成型した。
このとき、できるだけきれいな容器が成型できるよう加熱時間や金型位置を変化させ容器を作製した。
このときに、容器が良好な形状となる加熱時間の範囲が広く、金型位置の調整が容易なものほど熱成型性が優れるとし、成型性の官能評価を実施した(評価基準:良◎〜○〜△〜×悪の4段階)。
また、得られた容器の外観を目視で評価した(評価基準:良◎〜○〜△〜×悪の4段階)。結果を表5に示す。
[実施例1’]
実施例1で用いたポリプロピレンペレット(X1)とインパクトコポリマー(Y1)ペレットを50:50(重量比)からなるポリプロピレン樹脂組成物(Z1)100重量部に対し、市販のホモポリプロピレンペレット[日本ポリプロ社製、MA1B(MFR=21g/10分)]を70重量部加え、希釈した樹脂組成物(Z1’)を得た。
(Z1’)の特性を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表5に示す。
また、樹脂組成物(Z1)の代わりに(Z1’)を用いた以外は、実施例1と同様に、シート成形を行い、諸物性を測定した。結果を表5に示す。
[実施例2]
ポリプロピレン(X)として、製造例X2で得られたポリプロピレンペレット(X2)を用いた以外は、実施例1と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
[実施例2’]
ポリプロピレン(X)として、製造例X2で得られたポリプロピレンペレット(X2)を用いた以外は、実施例1’と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
[実施例3]
ポリプロピレンペレット(X1)とインパクトコポリマー(Y1)ペレットの比率を70:30(重量比)にした以外は、実施例1と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
[実施例4]
ポリプロピレン(X)として、製造例X5で得られたポリプロピレンペレット(X5)を用いた以外は、実施例3と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
[実施例4’]
実施例4で用いたポリプロピレンペレット(X5)とインパクトコポリマー(Y1)ペレットを70:30(重量比)からなるポリプロピレン樹脂組成物(Z1)100重量部に対し、市販のホモポリプロピレンペレット[日本ポリプロ社製、MA1B(MFR=21g/10分)]を150重量部加え、希釈した樹脂組成物(Z1’)を得た。
実施例1’と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
[実施例5]
ポリプロピレン(X)として製造例X6で得られたポリプロピレンペレット(X6)を用いた以外は、実施例3と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
[実施例6]
インパクトコポリマー(Y)として、製造例Y2で得られたインパクトコポリマーペレット(Y2)を用いた以外は、実施例3と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
[実施例6’]
実施例6で用いた樹脂組成物(Z)に対し、市販のホモポリプロピレンペレット[日本ポリプロ社製、MA1B(MFR=21g/10分)]を100重量部加え、希釈した組成物(Z’)を用いた以外は、実施例6と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
[実施例7]
インパクトコポリマー(Y)として、製造例Y3で得られたインパクトコポリマーペレット(Y3)を用いた以外は、実施例3と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
[実施例8]
インパクトコポリマー(Y)として、製造例Y5で得られたインパクトコポリマーペレット(Y5)を用いた以外は、実施例6’と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
[実施例9]
インパクトコポリマー(Y)として、製造例Y6で得られたインパクトコポリマーペレット(Y6)を用いた以外は、実施例6’と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
[比較例1]
ポリプロピレン(X)としての要件を満たさない製造例Xc3で得られたポリプロピレンペレット(Xc3)を用いた以外は、実施例1と同様の評価を行った。結果を表6に示す。
[比較例1’]
ポリプロピレン(X)としての要件を満たさない製造例Xc3で得られたポリプロピレンペレット(Xc3)を用いた以外は、実施例1’と同様の評価を行った。結果を表6に示す。
[比較例2]
ポリプロピレン(X)としての要件を満たさない製造例Xc4で得られたポリプロピレンペレット(Xc4)を用いた以外は、実施例3と同様の評価を行った。結果を表6に示す。
[比較例2’]
ポリプロピレン(X)としての要件を満たさない製造例Xc4で得られたポリプロピレンペレット(Xc4)を用いた以外は、実施例1’と同様の評価を行った。結果を表6に示す。
[比較例3]
ポリプロピレン(X)としての要件を満たさない製造例Xc7で得られたポリプロピレンペレット(Xc7)を用いた以外は、実施例4’と同様の評価を行った。結果を表6に示す。
[比較例4]
インパクトコポリマー(Y)を用いずに、ポリプロピレン(X1)のみで、実施例1と同様の評価を行った。結果を表6に示す。
[比較例5]
インパクトコポリマー(Y)を用いずに、ポリプロピレン(X1)100重量部に対し、市販のホモポリプロピレンペレット[日本ポリプロ社製、MA1B(MFR=21g/10分)]を40重量部加えたのみで、実施例1と同様の評価を行った。結果を表6に示す。
[比較例6]
インパクトコポリマー(Y)としての要件を満たさない製造例Yc4で得られたポリプロピレンペレット(Yc4)を用いた以外は、実施例3と同様の評価を行った。結果を表6に示す。
Figure 0006171717
Figure 0006171717
実施例と比較例の対比により、本発明における押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物が、発泡特性に優れ、発泡シートの熱成型適性が高く、得られた容器の外観に優れることは明らかである。
本発明の押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物は、発泡特性に優れ、発泡シートの熱成型適性が高く、得られた容器の外観に優れていることから、トレー、皿、カップなどの食品容器や自動車ドアトリム、自動車トランクマットなどの車両内装材、包装、文具、建材などに好適に利用でき、工業的価値は極めて高い。

Claims (10)

  1. ポリプロピレン(X)5〜99wt%と、プロピレン(共)重合体(YH)とプロピレン−エチレン共重合体(YC)とからなるインパクトコポリマー(Y)1〜95wt%とを含有するポリプロピレン樹脂組成物(Z)[但し、ポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)との合計を100wt%とする。]であって、
    該ポリプロピレン(X)は、下記の特性(X−i)〜(X−iv)を満たし、
    該プロピレン(共)重合体(YH)は、下記の特性(YH−i)〜(YH−ii)を満たし、
    該プロピレン−エチレン共重合体(YC)は、下記の特性(YC−i)〜(YC−ii)を満たし、
    該インパクトコポリマー(Y)は、下記の特性(Y−i)を満たし、及び
    該ポリプロピレン樹脂組成物(Z)は、下記の特性(Z−i)〜(Z−ii)を満たすことを特徴とする押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
    特性(X−i):長鎖分岐を有する。
    特性(X−ii):230℃で測定した溶融張力(MT)が2〜10gである。
    特性(X−iii):MFRが5g/10分を超え、20g/10分以下である。
    特性(X−iv):25℃キシレン可溶成分量(CXS)がポリプロピレン(X)全量に対し5wt%未満である。
    特性(YH−i):プロピレン単独重合体、又は、エチレン及び炭素数4〜10のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとプロピレンとの共重合体であって、プロピレン(共)重合体(YH)が共重合体の場合には、(YH)中のエチレン及びα−オレフィンの含量の合計が0を超え、3wt%以下である。
    特性(YH−ii):MFRが1〜100g/10分である。
    特性(YC−i):プロピレン−エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量がプロピレン−エチレン共重合体(YC)全量に対し10〜90wt%である。
    特性(YC−ii):135℃デカリン中で測定した固有粘度が5〜20dl/gである。
    特性(Y−i):インパクトコポリマー(Y)中のプロピレン−エチレン共重合体(YC)の含量がインパクトコポリマー(Y)全量に対し1wt%以上、50wt%未満である。
    特性(Z−i):MFRが0.1〜20g/10分である。
    特性(Z−ii):230℃で測定した溶融張力(MT)が1〜7gである。
  2. 請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物(Z)100重量部に対し、プロピレン(共)重合体(H)0.1〜1000重量部を含有するポリプロピレン樹脂組成物(Z’)であって、
    該プロピレン(共)重合体(H)は、プロピレン単独重合体、又は、エチレン及び炭素数4〜10のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとプロピレンとの共重合体であり、プロピレン(共)重合体(H)が共重合体の場合には、プロピレン(共)重合体(H)中のエチレン及びα−オレフィンの含量の合計が0を超え、3wt%以下であることを特徴とする押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
  3. 前記ポリプロピレン(X)は、さらに、下記の特性(X−v)を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
    特性(X−v):絶対分子量Mabsが100万における分岐指数gが0.3以上、1.0未満である。
  4. 前記ポリプロピレン(X)は、さらに、下記の特性(X−vi)を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
    特性(X−vi):伸張粘度の測定における歪硬化度(λmax)が5〜12である。
  5. 前記インパクトコポリマー(Y)は、さらに、下記の特性(Y−ii)を満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
    特性(Y−ii):MFRが0.1〜20g/10分である。
  6. 前記ポリプロピレン(X)とインパクトコポリマー(Y)との合計100重量部に対し、発泡剤を0.05〜6.0重量部含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の押出発泡成形用ポリプロピレン樹脂組成物を用いて製造してなることを特徴とするポリプロピレン系発泡シート。
  8. 請求項7に記載のポリプロピレン系発泡シートの少なくとも片方の表面に、非発泡層が積層されていることを特徴とするポリプロピレン系多層発泡シート。
  9. 前記非発泡層は、請求項1に記載のインパクトコポリマー(Y)が満たすべき特性および要件を満たすインパクトコポリマー(Y’)[但し、インパクトコポリマー(Y’)はインパクトコポリマー(Y)と同一であっても良いし、異なっていても良い。]を含むポリプロピレン樹脂組成物からなることを特徴とする請求項8に記載のポリプロピレン系多層発泡シート。
  10. 請求項7〜9のいずれか1項に記載のポリプロピレン系発泡シート又はポリプロピレン系多層発泡シートを熱成型することにより製造してなることを特徴とする熱成型体。
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