以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
本発明に係る繊維強化プラスチック成形物の形状は、限定されない。成形性の観点から、好ましくは、この繊維強化プラスチック成形物は、管状体である。
この管状体の具体例として、ゴルフクラブのシャフト、釣竿、テニスラケットのフレーム、ドライブシャフト等が挙げられる。管状体以外の繊維強化プラスチック成形物であってもよい。
以下では、ゴルフクラブシャフトを例にとり説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブシャフト6を備えたゴルフクラブ2を示す。ゴルフクラブ2は、ヘッド4と、シャフト6と、グリップ8とを備えている。シャフト6の先端部に、ヘッド4が設けられている。シャフト6の後端部に、グリップ8が設けられている。ヘッド4として、ウッド型ゴルフクラブヘッド、ハイブリット型ゴルフクラブヘッド、ユーティリティ型ゴルフクラブヘッド、アイアン型ゴルフクラブヘッド、パターヘッド等が例示される。図1に示されるヘッド4は、ウッド型ゴルフクラブヘッドである。
なお、以下において「内側」とは、管状体(シャフト)の半径方向における内側を意味し、「外側」とは、管状体(シャフト)の半径方向における外側を意味する。本願において、「軸方向」とは、管状体(シャフト)の軸方向を意味する。
シャフト6は、複数の繊維強化樹脂層を備えた積層体である。シャフト6は、管状体の一例である。シャフト6は中空構造を有する。図1が示すように、シャフト6は、チップ端Tpとバット端Btとを有する。
シャフト6は、フィラメントワインディング法(FW法)とシートワインディング法(SW法)との併用によって製造されている。
FW法の種類として、ドライ法及びウェット法が知られている。
ウェット法では、繊維束に樹脂組成物を含浸させながら、この繊維束をマンドレル等に巻き付ける。このウェット法では、樹脂組成物を含浸させるための樹脂溜めが必要である。上記ウェット法では、樹脂含有量のバラツキが生じやすい。
一方、ドライ法では、トウプレグが用いられる。トウプレグは、予め樹脂組成物が含浸された繊維束である。このトウプレグは、トウプリプレグ、ヤーンプリプレグ又はストランドプリプレグとも称されている。市販されているトウプレグが用いられ得る。
ドライ法では、樹脂溜めが不要であるから、作業効率が高まる。この観点から、ドライ法が好ましい。また、ドライ法は、ウェット法に比較して、樹脂含有量のバラツキが生じにくい。この観点からも、ドライ法が好ましい。即ち、トウプレグが用いられるのが好ましい。
通常、このトウプレグは、ボビンに巻き取られた状態で、フィラメントワインディング装置に取り付けられる。ボビンにおいて、トウプレグ同士が重なっている。ボビンに巻かれた状態では、トウプレグ同士がくっつきやすい。トウプレグ同士がくっつくと、トウプレグをボビンから円滑に引き出すことができず、FW法の実施において支障が生じる。トウプレグ同士のくっつきを防止するため、トウプレグには、タック性(粘着性)が低い樹脂が用いられている。
トウプレグに用いられている繊維束は、通常、千本から数万本のフィラメントを有する。繊維束は、繊維糸とも称される。この繊維束として、東レ社製の商品名「トレカ糸」が例示される。なお「トレカ」は登録商標である。好ましい繊維束は、1000本から70000本程度のフィラメントの束である。典型的には、繊維束のフィラメント本数として、1000本(1K)、3000本(3K)、6000本(6K)、12000本(12K)、18000本(18K)及び24000本(24K)が挙げられる。フィラメントとは、長繊維を意味する。
プリプレグは、プリプレグシートとも称され、繊維に樹脂を含浸させたシート状の材料である。含浸されている樹脂は、マトリックス樹脂とも称される。プリプレグにおいて、マトリックス樹脂は、半硬化状態にある。好ましいマトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂である。
プリプレグにおける繊維の形態は、限定されない。典型的なプリプレグは、UDプリプレグである。UDとは、ユニディレクションの略である。UDプリプレグでは、繊維が実質的に一方向に配向している。UDプリプレグ以外のプリプレグとして、例えば、繊維が編まれているプリプレグが知られている。
多くの種類のプリプレグが市販されている。プリプレグの品種によって、繊維の種類、厚み、繊維弾性率、繊維目付、プリプレグ目付、樹脂含有率等が異なる。
プリプレグは、規定された厚みを有している。プリプレグは、シート状に成形されたものであるから、その厚みの精度及び均一性は高い。
プリプレグは、通常、カバーシートにより挟まれている。典型的なカバーシートは、離型紙及び樹脂フィルムである。使用される前のプリプレグシートは、離型紙と樹脂フィルムとで挟まれている。プリプレグの一方の面には離型紙が貼られており、プリプレグの他方の面には樹脂フィルムが貼られている。プリプレグが使用される際には、これらのカバーシートが剥がされる。
スリットテープは、繊維とマトリックス樹脂とを含むテープである。マトリックス樹脂は、半硬化状態にある。スリットテープは、プリプレグと同様の物性を有しているが、その幅が狭い。本実施形態では、プリプレグから切り出されたスリットテープが用いられる。典型的なスリットテープは、プリプレグを所定の幅でカットしたものである。スリットテープでは、その長手方向に沿って、繊維が配向している。UDプリプレグから作成されたスリットテープ(UDスリットテープ)では、一方向に揃えられた繊維の方向が、スリットテープの長手方向に一致している。
市販されているプリプレグを切断するだけで、スリットテープが作成されうる。したがって、プリプレグと同様に、繊維種類、厚み、繊維弾性率、繊維目付、プリプレグ目付、樹脂含有率等が異なる多種のスリットテープが市販されている。スリットテープは、規定された厚みを有している。プリプレグと同様に、スリットテープの厚みの精度及び均一性は高い。
トウプレグ、プリプレグ及びスリットテープに用いられる繊維として、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維及び炭化ケイ素繊維が例示される。これらの繊維の2種以上が併用されてもよい。成形体の強度の観点から、好ましい繊維は、炭素繊維である。
この炭素繊維として、PAN系、ピッチ系及びレーヨン系の炭素繊維が例示される。引張強度の観点から、PAN系の炭素繊維が好ましい。炭素繊維の形態としては、前駆体繊維に撚りをかけて焼成して得られる炭素繊維(いわゆる有撚糸)、その有撚糸の撚りを解いた炭素繊維(いわゆる解撚糸)、前駆体繊維に実質的に撚りをかけずに熱処理を行う無撚糸などが挙げられる。トウプレグにおける繊維束の取扱性の観点からは、無撚糸が好ましい。また、炭素繊維は、黒鉛繊維を含んでいてもよい。
成形品の強度及び剛性の観点から、繊維の引張弾性率は、10t/mm2以上が好ましく、23.5t/mm2以上がより好ましく、70t/mm2以下が好ましく、50t/mm2以下がより好ましい。この引張弾性率は、JIS R 7601:1986「炭素繊維試験方法」に準拠して測定される。
軽量化と強度とのバランスの観点から、成形品における強化繊維の含有率は、65質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
トウプレグの繊維束には、樹脂組成物(A)が含浸されている。この樹脂組成物(A)として、エポキシ樹脂組成物が好ましい。エポキシ樹脂組成物の基材樹脂は、エポキシ樹脂である。このエポキシ樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂成分は、分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましい。換言すれば、このエポキシ樹脂成分は、2官能のエポキシ樹脂を含有するのが好ましい。2官能のエポキシ樹脂の具体例として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびその水素添加物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびその水素添加物、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。ビスフェノール型エポキシ樹脂は、単独で用いられても良く、2種以上を混合して用いられても良い。エポキシ樹脂組成物は、硬化剤を含有することが好ましい。典型的な硬化剤として、ジシアンジアミドが挙げられる。この硬化剤には、硬化活性を高めるための硬化助剤を組み合わせることができる。硬化助剤としては、尿素に結合する水素の少なくとも1つが、炭化水素基で置換された尿素誘導体が好ましい。エポキシ樹脂組成物は、さらに、オリゴマー、高分子化合物、有機粒子、無機粒子等を含んでいてもよい。
プリプレグのマトリックス樹脂を構成する樹脂組成物(B)として、エポキシ樹脂組成物が好ましい。エポキシ樹脂組成物の基材樹脂は、エポキシ樹脂である。このエポキシ樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂成分は、分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましい。換言すれば、このエポキシ樹脂成分は、2官能のエポキシ樹脂を含有するのが好ましい。2官能のエポキシ樹脂の具体例として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびその水素添加物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびその水素添加物、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。ビスフェノール型エポキシ樹脂は、単独で用いられても良く、2種以上を混合して用いられても良い。エポキシ樹脂組成物は、硬化剤を含有することが好ましい。典型的な硬化剤として、ジシアンジアミドが挙げられる。この硬化剤には、硬化活性を高めるための硬化助剤を組み合わせることができる。硬化助剤としては、尿素に結合する水素の少なくとも1つが、炭化水素基で置換された尿素誘導体が好ましい。エポキシ樹脂組成物は、さらに、オリゴマー、高分子化合物、有機粒子、無機粒子等を含んでいてもよい。
スリットテープのマトリックス樹脂を構成する樹脂組成物(C)として、エポキシ樹脂組成物が好ましい。エポキシ樹脂組成物の基材樹脂は、エポキシ樹脂である。このエポキシ樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂成分は、分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましい。換言すれば、このエポキシ樹脂成分は、2官能のエポキシ樹脂を含有するのが好ましい。2官能のエポキシ樹脂の具体例として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびその水素添加物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびその水素添加物、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。ビスフェノール型エポキシ樹脂は、単独で用いられても良く、2種以上を混合して用いられても良い。エポキシ樹脂組成物は、硬化剤を含有することが好ましい。典型的な硬化剤として、ジシアンジアミドが挙げられる。この硬化剤には、硬化活性を高めるための硬化助剤を組み合わせることができる。硬化助剤としては、尿素に結合する水素の少なくとも1つが、炭化水素基で置換された尿素誘導体が好ましい。エポキシ樹脂組成物は、さらに、オリゴマー、高分子化合物、有機粒子、無機粒子等を含んでいてもよい。
上述の通り、トウプレグに含まれる樹脂組成物(A)では、ボビンからの引き出し性が考慮されており、タック性が比較的低い。一方、スリットテープに用いられている樹脂組成物(C)は、タック性が比較的高い。スリットテープは、プリプレグと同様に、カバーシートにより挟まれているため、スリットテープ同士がくっつくことがない。このため、高いタック性が許容される。タック性が高い場合、巻き付けの際のズレが抑制され、巻き付け精度が高まる。
従って、トウプレグに含まれる樹脂組成物(A)と、スリットテープに用いられている樹脂組成物(C)とを比較すると、樹脂組成物(C)のほうが樹脂組成物(A)よりもタック性が高いのが好ましい。
図2は、シャフト6の一部が示された断面図である。
図2が示すように、シャフト6は、複数の層によって構成されている。シャフト6は、FW法により形成されたフィラメントワインディング層FW1と、スリットテープにより形成されたスリットテープ層ST1と、SW法により形成されたシートワインディング層SW1とを有する。
フィラメントワインディング層FW1は、シャフト6の最内層を構成している。シートワインディング層SW1は、シャフト6の最外層を構成している。フィラメントワインディング層FW1とシートワインディング層SW1との間に、スリットテープ層ST1が設けられている。フィラメントワインディング層FW1の外側に、スリットテープ層ST1が設けられている。スリットテープ層ST1の外側に、シートワインディング層SW1が設けられている。
フィラメントワインディング層FW1は、シャフト6の最内層を構成している。スリットテープ層ST1は、フィラメントワインディング層FW1の外側に接している。シートワインディング層SW1は、スリットテープ層ST1の外側に接している。シートワインディング層SW1は、シャフト6の最外層を構成している。
なお、シートワインディング層SW1は、スリットテープ層ST1の外側に接していなくてもよい。
図2では、フィラメントワインディング層FW1の全体が1層として示されている。このフィラメントワインディング層FW1では、トウプレグ同士の並列によって層が形成され、更にこの層が複数積層されているが、これらの層同士の境界は不明確である。このため、図2では、フィラメントワインディング層FW1が全体として1層とされている。これに対して、シートワインディング層SW1は、断面において各層が明確に区別されうるため、図2において複数の層とされている。図2の実施形態では、シートワインディング層SW1は、4層である。図2において、スリットテープ層ST1は、単純に1層で示されている。実際には、スリットテープ層ST1は、細いテープが螺旋状に巻かれることで形成された層であるから、細かい凹凸を有する。ただし、前述の通り、スリットテープ層ST1は厚みの均一性が高いため、螺旋状に巻かれた状態でも、断面図において略均一な層のように見える。
フィラメントワインディング層FW1における繊維の方向は、軸方向に対して、0°を超えて90°未満とすることができる。0°及び90°での巻き付けは実質的に困難であるが、この制約を除けば,繊維の方向は特に限定されない。
トウプレグは、1本のトウプレグを巻き付けるシングルフィラメントワインディング装置で巻き付けられても良い。シングルフィラメントワインディング装置の一例は、後述されるラッピングマシンである。トウプレグは、2本以上のトウプレグを同時に巻き付けるマルチフィラメントワインディング装置で巻き付けられても良い。生産性の観点からは、このマルチフィラメントワインディング装置が好ましい。更に、2本以上のトウプレグを並列させながら同時に巻き付けることができるマルチフィラメントワインディング装置が用いられても良い。
フィラメントワインディング層FW1は、ストレート層、バイアス層及びフープ層から選択される1又は2以上の層を有していても良い。
ストレート層は、繊維の方向が軸方向に対して実質的に0°とされた層である。通常、ストレート層では、繊維絶対角度が10°以下である。繊維絶対角度が10°以下とは、軸方向に対する繊維の配向角度θが−10°以上10°以下であることを意味する。ただし上述の通り、FW法では、配向角度θを0°とすることは困難である。
バイアス層は、繊維の向きが軸方向に対して傾斜した層である。このましくは、バイアス層は、繊維が互いに逆方向に傾斜した2つの層を有する。捻れ剛性の観点から、バイアス層の繊維絶対角度は、好ましくは15°以上であり、より好ましくは25°以上であり、更に好ましくは40°以上である。捻れ剛性及び曲げ剛性の観点から、バイアス層の繊維絶対角度は、好ましくは75°以下であり、より好ましくは65°以下であり、より好ましくは50°以下である。
フープ層は、繊維の方向が軸方向に対して実質的に90°とされた層である。好ましくは、フープ層の繊維絶対角度は、80°以上90°以下である。ただし上述の通り、FW法では、配向角度θを90°とすることは困難である。
シートワインディング層SW1は、ストレート層、バイアス層及びフープ層から選択される1又は2以上の層を有していても良い。より好ましくは、シートワインディング層SW1は、ストレート層及びバイアス層を有している。シートワインディング層SW1は、ストレート層、バイアス層及びフープ層を有していてもよい。
シートワインディング層SW1は、プリプレグを巻き付けることにより成形される。この巻き付けは、手作業により実施されてもよいし、機械により実施されてもよい。プリプレグを巻き付ける機械は、ローリングマシンとも称される。
スリットテープ層ST1は、スリットテープが螺旋状に巻かれることにより形成されている。好ましくは、スリットテープ層ST1は、1本のスリットテープがチップ端Tpからバット端Btまで巻かれることによって形成されている。
図3は、スリットテープが巻かれている様子を示す斜視図である。この図3を適宜参照しつつ、シャフト6の製造工程の概略が、説明される。
先ず、マンドレル10が用意される。必要に応じて、このマンドレルに、離型剤及びタッキングレジンが塗布される。離型剤は、最終的に行われる引き抜きを容易とするために、塗布される。タッキングレジンは、トウプレグがマンドレル10に付着しやすくするために用いられる。
次に、フィラメントワインディング工程がなされる。FW法により、トウプレグがマンドレル10に巻き付けられる。これにより、マンドレル10にトウプレグが巻き付けられたFW巻回体12が得られる。FW巻回体12では、マンドレル10の外側にフィラメントワインディング層FW1が形成されている。
次に、スリットテープ巻き付け工程がなされる。上記FW巻回体12に、スリットテープ14が巻き付けられる。図3は、この巻き付けの様子を示している。スリットテープ14は、螺旋状に巻き付けられている。巻き付けのピッチP1は、スリットテープ14の幅W1よりも小さい。スリットテープ14は、その幅方向の一部が重ねられつつ、巻き付けられている。スリットテープ14は、前述したカバーシートが剥がされつつ巻き付けられる。
このように、スリットテープ14は、隣接するスリットテープ14同士の間で隙間が生じないように巻き付けられる。換言すれば、好ましくは、スリットテープ14は、FW巻回体12(フィラメントワインディング層FW1)の全体を覆うように、巻き付けられる。この構成は、後述の平坦化効果に寄与する。
図3が示すように、スリットテープ14は、張力F1が付加されつつ、巻き付けられる。
次に、シートワインディング工程がなされる。SW法により、プリプレグが巻き付けられる。所望のサイズにカットされたプリプレグが、巻き付けられる。次に、ラッピングテープが巻かれる。続いて加熱がなされ、マトリックス樹脂が硬化される。次に、マンドレル10が引き抜かれ、ラッピングテープが剥がされる。必要に応じて、両端切除、表面研磨、表面塗装等がなされ、シャフト6が得られる。
前述の通り、トウプレグのタック性は低い。そのため、FW層の上にSW法でプリプレグを巻き付ける場合、プリプレグがFW層の上で滑りやすい。ローリングマシン等でプリプレグを押さえつけながら巻き付ける場合、上記滑りに起因して、プリプレグに皺が生じやすいことが判明した。また、皺が生じないように、力をかけずにプリプレグを巻くと、FW層の表面に樹脂だまりが形成されることが判明した。これらの皺及び樹脂だまりは、シャフト6の強度を低下させる。
本発明者は、強度を高めるための構成について鋭意検討した。その結果、FW層の上にスリットテープを巻くことで、樹脂だまりが減少することが判明した。
FW層の表面には、比較的大きな凹凸が存在することが分かった。この凹凸の発生には、トウプレグの断面形状が関与していると考えられる。一方、前述の通り、スリットテープは、厚みの均一性に優れる。このスリットテープを巻くことで、FW層の表面に形成された凹凸が平坦化される平坦化効果が得られると考えられる。更に、張力を付加しつつスリットテープを巻くことで、上記平坦化効果が促進されると推測される。樹脂だまりの低減は、断面観察によって確認することができる。
スリットテープ14の幅W1は、限定されない。螺旋状の巻き付けを容易とする観点から、スリットテープ14の幅W1は、20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましく、10mm以下がより好ましく、5mm以下が更に好ましい。隙間なく螺旋状に巻き付けるという前提の元では、幅W1が過小であると、巻き付け角度が過度に限定される。スリットテープ巻き付け工程の生産性を高める観点から、幅W1は、1mm以上が好ましく、2mm以上がより好ましい。
スリットテープ14の厚みTは、限定されない。張力に対する強度を考慮すると、スリットテープ14の厚みTは、0.01mm以上が好ましく、0.02mm以上がより好ましく、0.025mm以上が更に好ましい。スリットテープ14の重量を抑制することで、SW層及びFW層の設計自由度が高まる。この観点から、スリットテープ14の厚みTは、0.25mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましく、0.18mm以下が更に好ましい。
張力に対する強度の観点から、スリットテープ14の繊維含有率は、50重量%以上が好ましく、55重量%以上がより好ましい。タック性を高める観点から、スリットテープ14の繊維含有率は、85重量%以下が好ましく、80重量%以下がより好ましい。
上記平坦化効果の観点、及び、スリットテープ14の重量を減らす観点から、スリットテープ14の幅W1と厚みTとの比(W1/T)は、大きい方が好ましい。この観点から、W1/Tは、5以上が好ましく、10以上がより好ましく、15以上がより好ましく、20以上がより好ましく、50以上が更に好ましい。幅W1及び厚みTの好ましい範囲を考慮すると、W1/Tは、1000以下が好ましく、700以下がより好ましく、500以下が更に好ましい。
スリットテープ14の層(ST層)の層数は、限定されない。スリットテープ14の重量を抑制することで、SW層及びFW層の設計自由度が高まる。この観点から、ST層の層数は、3層以下が好ましく、2層以下がより好ましく、1層が特に好ましい。ただし、樹脂だまりの抑制効果を高める観点から、ST層が2層以上とされてもよい。
なお、スリットテープ14の層は、前述の通り、テープ状の部材が螺旋状に巻かれることにより形成されている。よって、スリットテープ14の1層には、スリットテープ14同士が重なった部分が含まれうる。
樹脂だまりを抑制する観点から、スリットテープ14に作用させる張力F1は、0.3kgf以上が好ましく、0.5kgf以上がより好ましく、0.7kgf以上が更に好ましい。スリットテープ14の破断を防止する観点から、上記張力F1は、5kgf以下が好ましく、4kgf以下がより好ましく、3kgf以下が更に好ましい。
張力は、フィラメント1本当たりに換算される。例えば、スリットテープ14に含まれる炭素繊維が24000本であり、このスリットテープ14に1000gfの張力が付加された場合、フィラメント1本当たりの張力は、
1000/24000=0.0417(gf)
である。
樹脂だまりを抑制する観点から、スリットテープ14におけるフィラメント1本当たりの張力は、0.2(gf)以上が好ましく、0.4(gf)以上がより好ましく、0.6(gf)以上がより好ましい。スリットテープ14の破断を防止する観点から、スリットテープ14におけるフィラメント1本当たりの張力は、4(gf)以下が好ましく、3(gf)以下がより好ましい。
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
[評価方法]
シャフトの強度を評価するため、以下の方法で3点曲げ強度を測定した。
[3点曲げ強度]
3点曲げ強度は、SG式3点曲げ強度試験に準拠して行った。SG式とは、日本の製品安全協会が定める試験方法である。計測装置として、島津製作所社製の島津オートグラフが用いられた。図4は、3点曲げ強度の測定方法を示す。図4が示すように、2つの支持点e1、e2においてシャフト6を下方から支持しつつ、荷重点e3において上方から下方に向かって荷重Fを加えた。荷重点e3の位置は、支持点e1と支持点e2とを二等分する位置とした。荷重点e3が、測定点である。荷重点e3の移動速度は、20mm/minとされた。シャフト6の長手方向中心位置が、測定点とされた。スパンSは、300mmとされた。シャフト6が破損したときの荷重Fの値(ピーク値)が測定された。
[実施例1]
上述の製造工程により、シャフトが製造された。先ず、フィラメントワインディング工程がなされた。離型剤及びタッキングレジンが塗布されたマンドレルに、トウプレグを巻き付けて、FW層を形成した。トウプレグとして、JX日鉱日石エネルギー社製の「T800HB6K3−RC−SX3」が用いられた。
なお、フィラメントワインディング工程には、汎用のラッピングマシンが用いられた。このラッピングマシンは、シャフトの製造においてラッピングテープを巻き付けるのに用いられる。
次に、スリットテープ巻き付け工程がなされた。スリットテープとして、日精株式会社製の「TSTP 0.03×3」が用いられた。このスリットテープは、厚みが0.03mmであり、幅が3mmであり、炭素繊維の弾性率は24t/mm2であり、樹脂含有率は42重量%であり、フィラメント数は1250本(1.25K)である。
スリットテープは、前述のラッピングマシンによって、巻き付けられた。ピッチP1は2mmとされた。スリットテープは、張力F1が付加されつつ、巻き付けられた。張力F1は、1kgfであった。フィラメント1本当たりの張力は、0.8gfであった。
次に、シートワインディング工程がなされた。プリプレグとして、三菱レイヨン株式会社製の「MRX350E−075S」が用いられた。
次に、ラッピングテープが巻かれ、電気炉で加熱された。加熱後、マンドレルを抜き取り、ラッピングテープを除去して、シャフトを得た。
実施例1の積層構成は、以下の通りであった。なおFW層が+88°及び−88°とされているのは、FW法では90°で巻くことができないためである。90°にできるだけ近づける観点から、±88°が採用された。
・第1層(FW層FW1):繊維の配向角度θが+88°
・第2層(FW層FW1):繊維の配向角度θが−88°
・第3層(ST層ST1):繊維の配向角度θが+88°
・第4層(SW層SW1):繊維の配向角度θが0°
・第5層(SW層SW1):繊維の配向角度θが90°
・第6層(SW層SW1):繊維の配向角度θが0°
・第7層(SW層SW1):繊維の配向角度θが90°
・第8層(SW層SW1):繊維の配向角度θが0°
[比較例1]
ST層を設けなかった他は実施例1と同様にして、比較例1のシャフトを得た。この比較例1の積層構成は、以下の通りであった。
・第1層(FW層FW1):繊維の配向角度θが+88°
・第2層(FW層FW1):繊維の配向角度θが−88°
・第3層(SW層SW1):繊維の配向角度θが0°
・第4層(SW層SW1):繊維の配向角度θが90°
・第5層(SW層SW1):繊維の配向角度θが0°
・第6層(SW層SW1):繊維の配向角度θが90°
・第7層(SW層SW1):繊維の配向角度θが0°
[比較例2]
FW層をSW層に置換した他は実施例1と同様にして、比較例2のシャフトを得た。この比較例2の積層構成は、以下の通りであった。なお、比較例2のシートワインディング層SW10の合計厚みは、実施例1のフィラメントワインディング層FW1の厚みと同じに設定された。
・第1〜6層(SW層SW10):繊維の配向角度θが90°
・第7層(ST層ST1) :繊維の配向角度θが+88°
・第8層(SW層SW11) :繊維の配向角度θが0°
・第9層(SW層SW11) :繊維の配向角度θが90°
・第10層(SW層SW11) :繊維の配向角度θが0°
・第11層(SW層SW11) :繊維の配向角度θが90°
・第12層(SW層SW11) :繊維の配向角度θが0°
[比較例3]
ST層を設けず、且つ、FW層をSW層に置換した他は実施例1と同様にして、比較例3のシャフトを得た。この比較例3の積層構成は、以下の通りであった。なお、比較例3のシートワインディング層SW10の合計厚みは、実施例1のフィラメントワインディング層FW1の厚みと同じに設定された。
・第1〜6層(SW層SW10):繊維の配向角度θが90°
・第7層(SW層SW11) :繊維の配向角度θが0°
・第8層(SW層SW11) :繊維の配向角度θが90°
・第9層(SW層SW11) :繊維の配向角度θが0°
・第10層(SW層SW11) :繊維の配向角度θが90°
・第11層(SW層SW11) :繊維の配向角度θが0°
図5は、実施例1のシャフトの断面写真である。図6は、比較例1のシャフトの断面写真である。図7は、比較例2のシャフトの断面写真である。図8は、比較例3のシャフトの断面写真である。
図6に示す比較例1では、フィラメントワインディング層FW1とシートワインディング層SW1との境界部に、樹脂だまりRS1が形成された。これに対して、図5に示す実施例1では、スリットテープ層ST1を設けたことで、樹脂だまりRS1の形成が防止された。なお、スリットテープ層ST1の厚みは約0.03mmと薄いため、スリットテープ層ST1層によるシャフト重量及びシャフト外径の増加は、僅かであった。このように、スリットテープ層ST1による顕著な効果を確認することができた。
図7に示す比較例2では、内側のシートワインディング層SW10と外側のシートワインディング層SW11との間に、スリットテープ層ST1が形成された。また、図8に示す比較例3では、内側のシートワインディング層SW10の外側にシートワインディング層SW11が形成されており、スリットテープ層ST1は設けられなかった。
比較例2及び比較例3では、いずれも、樹脂だまりが形成されていない。つまり、シートワインディング層のみである場合、樹脂だまりRS1は形成されない。一方、図6に示す比較例1では、樹脂だまりRS1が形成されている。本発明者は、フィラメントワインディング層FW1とシートワインディング層SW1との境界に、樹脂だまりRS1が生じるという新たな知見を得た。そして、この樹脂だまりRS1を抑制する方法として、スリットテープの使用が有効であることが判明した。
図9は、実施例1及び比較例1から3の3点曲げ強度の測定結果である。サンプル数は4とされ、4つのデータの平均値が算出された。この結果が、図9の棒グラフで示されている。なお、このグラフのエラーバーは、標準偏差を示す。この図9が示すように、3点曲げ強度の平均値は、実施例1で1006N、比較例1で894N、比較例2で1023N、比較例3で991Nであった。なお、シャフトの外径は、実施例1及び比較例2では11.59mmであり、比較例1及び比較例3では11.53mmであった。なお、各シャフトは、テーパーを有さず、その内径及び外径は一定である。
比較例1に比べて、実施例1は3点曲げ強度が高い。ただし、実施例1はスリットテープ層ST1を有するのに対して、比較例1はスリットテープ層ST1が無いので、両者を単純に比較することはできない。そこで、共にスリットテープ層ST1を有し積層構造が互いに対応する実施例1と比較例2とを比較してみると、比較例2のほうが強度が若干高いが、その差は1.7%程度と少ない。これに対して、共にスリットテープ層ST1を有さず積層構造が互いに対応する比較例3と比較例1との比較では、その差は10.9%と大きい。
この結果より、次のことが言える。比較例1と比較例3との比較では、樹脂だまりRS1の存在に起因して、比較例1のほうが強度が大きく低下している。これに対して、実施例1と比較例2との比較では、実施例1に樹脂だまりRS1が無いため、両者の強度はほぼ同じである。実施例1と比較例2との間の強度の差は、フィラメントワインディング層FW1とシートワインディング層SW10との違いに起因すると考えられる。
これらの結果より、樹脂だまりRS1が強度を低下させること、及び、樹脂だまりRS1の発生を抑制することで強度が高まることが明らかとなった。
このように、FW層の表面にST層を設けることで、樹脂だまりの形成が抑制され、強度が向上する。本発明の優位性は明らかである。