ところで、放射線の遮蔽性能は遮蔽材の密度によるところが大きい。放射線遮蔽材とするためには高密度の重金属や重金属化合物を多量に充填する必要がある。しかし、重金属や重金属化合物を多量に充填すると、放射線遮蔽材の弾性の低下を招くとともに、加工性、成型性が悪化する。また、ゴムやエラストマーを使用した放射線遮蔽材は、放射線の照射によりゴムやエラストマーが放射線劣化し、放射線遮蔽材としての機能が著しく低下する恐れがある。そのため、タングステンをはじめとした重金属を充填する対象である、ゴムやエラストマーの選択は重要である。
特許文献1のように、熱可塑性樹脂を弾性体として放射線遮蔽材を得た場合、熱により放射線遮蔽材が軟化してしまい、所定の形状を維持することができなくなる。したがって、高温下での変形によって遮蔽材の厚みが減少して、放射線の遮蔽性能が低下してしまう恐れがある。また、実施例に挙げられているような天然ゴムを弾性体として放射線遮蔽材を得た場合、放射線が照射される環境下では、著しく硬化劣化してしまう。
また、特許文献2のように、ゴムとしてハロゲン含有材料を使用した場合、ハロゲンは反応性が高く、水素と結びつくことで毒性、腐食性の高いハロゲン化水素ガスに変化してしまう。特に、ハロゲン含有材料を使用した放射線遮蔽材が金属部品と接触する場合は、その金属部品を腐食させてしまう恐れもある。また、ハロゲン含有ゴムは加硫成型時に発生するハロゲン化水素ガスを吸着させるための受酸剤として金属酸化物が使用されている。ハロゲン化水素ガスを吸着した金属酸化物は、ハロゲン化金属となるが、このハロゲン化金属の代表物である金属塩化物は吸水性が高いので、例えば水に接触する環境下で使用するシール材として放射線遮蔽材を用いた場合、その放射線遮蔽材が吸水して密度が低下し、放射線遮蔽能力の低下につながる。
また、特許文献3のように、弾性体としてムーニー粘度ML(1+4)125℃が50以上170以下のように高いゴム弾性体を選択した場合には、混練り後、成型前の材料の表面は平滑になりにくく、また脆弱で強度も低く、任意の形状に成型する際の予備成型が困難である。これを改善しようとすると軟化剤や加工助剤を多量に添加する必要がある。しかし、これら軟化剤や加工助剤の多量の添加はブルーミングの発生原因となり、均一な成型物を得ることが困難になる。
また、ゴムをはじめとする弾性体は放射線の照射により、硬化、若しくは軟化劣化を示すのであるが、放射線遮蔽材の使用場所は原子力発電所をはじめとし、高線量下である場合も考えられ、放射線遮蔽材を設置した後は容易に交換できない場合も想定される。そのため、放射線遮蔽材には放射線遮蔽性能だけではなく、積算の吸収線量が増加してもゴムとしての特性を維持できる組成物が要求され、具体的には、例えば1MGy以上の放射線を吸収した後においても適度な弾性を持っていることが望まれる。
また、放射線遮蔽材は、原子力発電所や放射線検査機器などで使用される際に金属と接触する場合が多い。このとき、接触した金属を腐食させないようにするためノンハロゲン材料が好ましく、また、高温になる金属と接触することも多いため放射線遮蔽材には耐熱性も要求される。
さらに、放射線遮蔽材はその遮蔽性が部材の全体で均一であることが必要である。そのため成型加工性が良好でブルーミングが発生しない材料が望まれている。しかも、湿潤した環境や水中でも、放射線の遮蔽性能を維持することが必要である。
上記目的を達成するために、本発明では、弾性体としてEPDMを選択し、このEPDMにタングステン粉末及びタングステン化合物粉末の少なくとも一方を混合して高密度化した。
第1の発明は、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が24以上75以下であるEPDMを含むゴム成分と、タングステン粉末及びタングステン化合物粉末の少なくとも一方の粉末とが混合されており、EPDMを第1高分子成分とし、ブチルゴム及びイソブチレンゴムの少なくとも1つを第2高分子成分とし、上記ゴム成分は上記第1高分子成分と上記第2高分子成分とを含み、上記ゴム成分100重量部中、上記第1高分子成分の含有量が50重量部以上95重量部以下であり、上記第2高分子成分の含有量が5重量部以上50重量部以下の範囲に設定されていることを特徴とする。
この構成によれば、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が24以上75以下であるEPDMを使用しているため、高い耐熱性が得られるとともに、軟化剤、加工助剤を多量に添加することなく、混練り後の材料が平滑になり、しかも、適度な柔らかさを有する放射線遮蔽材とすることが可能になる。従って、任意の形状になるように予備成型も可能で、かつ、軟化剤、加工助剤の多量添加によるブルーミングの発生も抑制される。
また、タングステン粉末及びタングステン化合物粉末の少なくとも一方の粉末を含んでいるので、得られた放射線遮蔽材は高密度で、高い放射線遮蔽性能を持ったものになる。
また、ノンハロゲン材料とすることが可能になるので、吸水性の高い金属塩化物を生成しない組成となる。よって、湿潤した環境や水中で使用した場合であっても、放射線遮蔽材の密度の低下が抑制される。
また、第1高分子成分であるEPDMは放射線の照射で硬化が進み硬度が増すが、第2高分子成分であるブチルゴムまたはイソブチレンゴムは放射線の照射で軟化劣化する。そのため放射線が照射される環境下にある放射線遮蔽材組成物においては、硬化劣化と軟化劣化が同時に進行し、放射線の照射による見かけの物性変化を最小限に抑えることが可能で、ゴム弾性を維持できる柔軟な放射線遮蔽材組成物となる。
第2の発明は、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が24以上75以下であるEPDMを含むゴム成分と、タングステン粉末及びタングステン化合物粉末の少なくとも一方の粉末とが混合されており、上記ゴム成分100重量部中、アニリン点温度が60℃以下に設定されている軟化剤が10重量部以上50重量部以下の範囲で混合されていることを特徴とする。
この構成によれば、成型時の成型加工性がより一層良好になるとともに、軟化剤が50重量部以下の範囲である限りブルーミングの心配はない。
さらに、この構成によればアニリン点温度が60℃以下に設定されている軟化剤を含んでいるため、放射線に長時間曝露されて、積算の吸収線量が増加しても劣化が少なく、適度な弾性及び伸張性を維持することが可能になる。上記アニリン点温度としてより好ましいのは45℃以下である。
第3の発明は、第1または2の発明において、
塩素、臭素、フッ素の含有率が0.1重量%以下のノンハロゲン材料で構成されていることを特徴とする。
この構成によれば、使用材料がノンハロゲン材料であるため、毒性、腐食性が低く、特に金属部品に接触するような使用形態であっても、その金属部品を腐食させてしまう恐れがない。
また、ノンハロゲン材料であるため、受酸剤は不要であり、吸水性の高い金属塩化物も生成しないため、放射線遮蔽材組成物に高耐水性を付与することが可能である。仮に放射線遮蔽材が吸水してしまうと、放射線遮蔽材の密度が低下し、放射線遮蔽能力の低下につながるが、本発明ではそのような現象が発生しない。
第4の発明は、第1から3のいずれか1つの発明において、
密度が6.0Mg/m3以上12.0Mg/m3以下の範囲に設定されていることを特徴とする。
この構成によれば、タングステン粉末またはタングステン化合物粉末が十分に充填されているので高い放射線遮蔽性能が得られる。
第5の発明は、第1から4のいずれか1つの発明において、
積算吸収線量1.0MGy時に、JIS K−6251に規定された測定方法による切断時伸びが100%以上であることを特徴とする。
この構成によれば、放射線が長時間照射された環境下でも放射線遮蔽材組成物が固く脆くなったり、所望の形をなさないほど軟化することがなく、適度な弾性を維持できる。例えば放射線遮蔽材組成物からなる放射線遮蔽材を湾曲させて使用している場合、湾曲した形状の外側部分には常に伸長力がかかっているが、この構成によれば、伸張力がかかった状態でも表面にき裂が殆ど発生することなく、また、放射線遮蔽材が破断することなく使用可能である。
第6の発明は、50℃の水中に20日間浸せきしたときのJIS K−6258に規定された測定方法による体積変化率が5%以下であることを特徴とする。
この構成によれば、水に長期間浸せきしたときの放射線遮蔽材組成物の吸水量が低く抑えられるので、高湿度環境下や、水中においても放射線遮蔽材組成物の密度に大きな変化が無くなり、十分な放射線遮蔽性能を長期間に亘って維持することが可能である。そのため、放射線遮蔽材組成物からなる放射線遮蔽材を特に防水シートとして使用することが可能になる。
第7の発明は、請求項1から6のいずれか1つに記載された放射線遮蔽材組成物からなる放射線遮蔽材である。
すなわち、放射線遮蔽材組成物を使用して放射線遮蔽シート、防水シート等の止水材、放射線遮蔽パッキン、放射線遮蔽カーテンの各種放射線遮蔽材が得られる。得られた放射線遮蔽材は、放射線遮蔽能力が十分にあり、製品の仕上がりが平滑で、ブルーミングすることがなく、積算の吸収線量が増加しても硬化や軟化劣化することがなくゴム弾性を維持でき、さらに耐水性が高いという特徴を持っている。
本発明によれば、放射線遮蔽能力が十分にあり、製品としたときの仕上がり面を平滑にすることができ、しかも、ブルーミングを防止することができ、さらに、積算の吸収線量が増加しても硬化や軟化劣化することがなく適度なゴム弾性を維持でき、さらに高い耐水性を持たせることができる。
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
本発明の実施形態にかかる放射線遮蔽材組成物は、高分子成分としてのゴム(ゴム成分)と、成型加工性を良好にさせるための軟化剤と、放射線遮蔽材組成物を高密度化するためのタングステン粉末とを含んでおり、これら成分を混合してなるものである。タングステン粉末は、放射線遮蔽材組成物に十分な放射線遮蔽性を付与するための成分である。
放射線遮蔽材組成物のゴム成分は、第1高分子成分としてEPDMを含み、第2高分子成分としてブチルゴムおよびイソブチレンゴムの少なくとも1つを含んでいる。そして、ゴム成分100重量部中、第1高分子成分の含有量が50重量部以上95重量部以下であり、第2高分子成分の含有量が5重量部以上50重量部以下の範囲に設定されている。
第1高分子成分であるEPDMは、エチレン・プロピレン・ジエン・三元共重合体であり、ムーニー粘度、エチレン量、分子量分布、ジエン成分、ジエン量などによって、各種グレードが存在するが、本実施形態においては、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が、24以上75以下、好ましくは24以上50以下の範囲にあるものを選択する。このようなEPDMとしては、例えば、三井化学株式会社製EPT3045、EPT3070、EPT4021、EPT4045M等、住友化学株式会社製、エスプレン501A、エスプレン505A等、JSR株式会社製EP43、EP93、EP21、EP132、EP22、EP33、EP51等を挙げることができるが、これらに限られるものではなく、同等の性質を有するEPDMであれば問題無く使用できる。
第1高分子成分であるEPDMのムーニー粘度ML(1+4)100℃を24以上75以下の範囲にすることにより、多量のタングステン粉末やタングステン化合物粉末を充填しても混練り性が良好で、混練り後に表面が平滑で作業性の良い材料が得られる。このとき多量の軟化剤、加工助剤を必要としないので、ブルーミングの発生もない。逆にムーニー粘度ML(1+4)100℃が75よりも高い場合は、多量のタングステン粉末やタングステン化合物粉末を充填した場合に、混練り品は脆弱で加工性が低く、また平滑性も低下する。これらを解決しようとすると、多量の軟化剤や加工助剤が必要となり、ブルーミングの発生の一因となる。そのためムーニー粘度ML(1+4)100℃が75よりも高いEPDMの使用は好ましくない。
また、第1高分子成分であるEPDMの上記ムーニー粘度ML(1+4)100℃が24以上75以下の範囲になるのであれば、2種類以上のEPDMを混合して使用してもよい。
第2高分子成分であるブチルゴムは、ポリイソブチレンとポリイソプレンの共重合体である。その重合比率、分子量などによって、各種グレードが存在するが、重合比率、分子量等は特に限定されない。ただし、塩素化ブチルや臭素化ブチルはハロゲンを含有していることから本実施形態において使用に適さない。ハロゲンを含有しないブチルゴムとしては、例えば、JSR株式会社製BUTYL065、BUTYL268、BUTYL365等を挙げることができるが、これらに限られるものではない。
第2高分子成分であるイソブチレンゴムはポリイソブチレンの重合体である。分子量などによって、各種グレードが存在するが、分子量等は特に限定されない。このようなイソブチレンゴムとしては、例えば、BASF株式会社製オパノールシリーズ等を挙げることができるが、これに限られるものではない。
第2高分子成分としてのブチルゴム及びイソブチレンゴムは、一方のみを第1高分子成分に混合してもよいし、両方を第1高分子成分に混合してもよい。
第1高分子成分であるEPDMは、放射線に対して他のゴムより耐性が優れるが、長期に亘る放射線の照射環境下では硬化が進み固く脆くなる傾向にある。そのため、EPDM単独では放射線の照射環境下でゴム弾性が低下してき裂が発生する可能性が高くなる。それに対し、第2高分子成分であるブチルゴム及びイソブチレンゴムは、長期に亘る放射線の照射環境下で軟化劣化が進み、ゴム弾性の低下や、変形が発生する。従って、この実施形態では、長期に亘る放射線の照射環境下でもゴム弾性を低下させない組成として、放射線の照射により硬化するゴム成分と、放射線の照射により軟化するゴム成分を組み合わせた組成としている。これにより、放射線遮蔽材組成物の積算の吸収線量が増加してもゴム弾性が維持される。
特に放射線遮蔽材組成物の場合は、密度の高い遮蔽材(タングステン粉末及びタングステン化合物粉末)をゴム成分に練りこむことによって放射線の吸収性と反射性を付与している。従って、密度の高い遮蔽材を充填していない一般のゴムに比べ、本実施形態の放射線遮蔽材組成物の場合は6倍程度の放射線耐性が必要となるため、放射線によって硬化もしくは軟化劣化しないゴム組成物が必要であり、そのため上記組成としている。
すなわち、本実施形態では、第1高分子成分であるEPDMをゴム成分100重量部中、50重量部以上95重量部以下とし、第2高分子成分であるブチルゴムまたはイソブチレンゴムの少なくとも1つを、ゴム成分100重量部中、5重量部以上50重量部以下に調整し混練りしている。これにより、長期の放射線環境下でも、硬化と軟化が同時に進行し、ゴム弾性の低下が少ない放射線遮蔽材組成物を得ることができる。
上記第1高分子成分と第2高分子成分と軟化剤、及びタングステン粉末、若しくはタングステン化合物粉末をはじめとする材料で構成された放射線遮蔽材組成物は、塩素や臭素、ならびにフッ素をはじめとするハロゲンを含有していない。ハロゲン成分は金属を腐食させる恐れがあり、仮に放射線遮蔽材組成物にハロゲン成分が含まれていると、接触した金属部品等を腐食させてしまうので好ましくない。言い換えると、本実施形態では、塩素、臭素、フッ素の含有率が0.1重量%以下のノンハロゲン材料のみを使用して放射線遮蔽材組成物を構成しているので、仮に金属部品等に接触する形態で使用されたとしても金属部品等を腐食させる恐れはない。
また、本実施形態の放射線遮蔽材組成物において、ゴム成分100重量部中、アニリン点温度が60℃以下に設定されている軟化剤を10重量部以上50重量部以下の割合している。軟化剤は、成型物の硬度の低下を目的として使用される添加剤であり、この軟化剤には可塑剤も含まれる。軟化剤としては、例えば、鉱物油系軟化剤、植物油系軟化剤、合成可塑剤を挙げることができ、特に、鉱物油系軟化剤は、芳香族系、ナフテン系、パラフィン系のものがある。
好適な軟化剤としては、60℃以下のアニリン点温度を有する鉱物油系軟化剤を挙げることができる。アニリン点温度は、軟化剤中のベンゼン環等の芳香族化合物の含有量を示す尺度として用いられるものである。本実施形態においてはアニリン点温度が60℃以下、好ましくは45℃以下の軟化剤が好ましく、このような軟化剤を使用することで、放射線遮蔽材組成物の劣化を効果的に抑制できる。このような軟化剤としては、例えば、出光興産社製ACシリーズ、AHシリーズ、神戸油化学工業社製HAシリーズ等をはじめとし、富士興産社、山文油化社等から販売されている軟化剤がある。
本実施形態においては、ゴム成分100重量部中、10以上50重量部以下の割合で軟化剤を添加しており、軟化剤の添加量がこの範囲内にある限り、ゴム成分を効果的に軟化させることが可能で、かつ、ブルーミングも抑制可能である。軟化剤の添加量が50重量部より多いと、軟化剤がブルーミングする恐れがあるので好ましくない。また、軟化剤の添加量が10重量部よりも少ないと、ゴム成分が固く脆弱になり、混練り後の材料が平滑で無くなるため成型が困難になり、好ましくない。
放射線遮蔽材組成物の密度は6.0Mg/m3から12.0Mg/m3の範囲に設定されている。放射線遮蔽材組成物の密度は、タングステン粉末やタングステン化合物粉末の添加量によって調整することができる。好適な実施形態においては、使用するタングステンは粉末形状であり、平均粒径は50μm以下が好ましい。タングステン粉末の平均粒径の下限は8μm以上が好ましい。タングステン粉末の平均粒径をこの範囲に設定することで、加工性や成型性が良好になる。
なお、平均粒径が8μm未満のタングステン粉末を使用する場合には、平均粒径が8μm未満のタングステン粉末の比率が、全タングステン粉末の50重量%以下の範囲になるようにし、平均粒径が8μm以上のタングステン粉末が同50重量%以上となるようにしてもよい。また、タングステン粉末の代わりに、又はタングステン粉末と一緒にタングステン化合物の粉末を添加してもよい。タングステン粉末及びタングステン化合物の粉末を使用する場合、混合比は任意に設定することができる。また、タングステン化合物の粉末の平均粒径は、タングステン粉末の平均粒径と同じにするのが好ましい。
X線やγ線の遮蔽性能を所定以上とするために、放射線遮蔽材組成物の密度が6.0Mg/m3以上12.0Mg/m3以下の範囲となるようタングステン粉末やタングステン化合物粉末を添加している。放射線遮蔽材組成物の密度が6.0Mg/m3未満であると、X線やγ線の遮蔽能力が十分ではなく、必要な遮蔽能力を得るためには放射線遮蔽材の厚みを増さなければならない。逆に放射線遮蔽材組成物の密度が12.0Mg/m3より高いと、タングステン粉末やタングステン化合物粉末の添加量を更に増加させる必要があり、このため混練り及び成型が困難になり、また適当な弾性を得ることができなくなる。これは、たとえEPDMのムーニー粘度が75以下であっても困難な場合が想定される。したがって、放射線遮蔽材組成物の密度は6.0Mg/m3以上12.0Mg/m3以下の範囲、さらに好ましくは7.5Mg/m3以上11.5Mg/m3以下の範囲とするのが、放射線遮蔽性、良好な混練り性、及び成形性を得る上でよい。
本実施形態における放射線遮蔽材組成物は、積算吸収線量が1MGyとなるように放射線を照射した後もJIS K−6251に規定された測定方法による切断時伸びが100%以上となるように各成分の混合量を設定している。
つまり、ゴム成分100重量部中、第1高分子成分の含有量が50重量部以上95重量部以下であり、第2高分子成分の含有量が5重量部以上50重量部以下の範囲となるようにすることで、JIS K−6251に規定された測定方法による切断時伸びが100%以上になる。JIS K−6251に規定された測定方法による切断時伸びが100%よりも小さい場合は、長期に亘って放射線を照射した際に良好なゴム弾性が得られず、例えば放射線遮蔽材を湾曲させた際に、外表面にひび割れが発生したり、放射線遮蔽材が破断する恐れがあり、また、放射線が照射される環境下で放射線遮蔽材の取り替え頻度が高頻度になり、実際の使用状況を考慮すると好ましくない。さらに好ましくは、JIS K−6251に規定された測定方法による切断時伸びが120%以上であり、これにより、十分なゴム弾性と伸び性が得られ、長期に亘って放射線が照射される環境下で使用できる。
この放射線遮蔽材組成物は50℃の水中に20日間浸せきしたときのJIS K−6258に規定された測定方法による体積変化率が5%以下に設定してある。つまり、放射線遮蔽材組成物に使用されている材料がノンハロゲン材料であるため、受酸剤は不要であり、吸水性の高い金属塩化物も生成しない。このため、放射線遮蔽材組成物に高耐水性を付与することが可能になり、上記した体積変化率を実現できる。
JIS K−6258に規定された測定方法による体積変化率が5%よりも大きくなると、湿潤した環境や水中で放射線遮蔽材組成物を使用した際に、密度が低下して放射線遮蔽材組成物の放射線遮蔽性能が低下し、また、本来のゴム弾性が得られず膨潤して使用不可能になる。
以上のような放射線遮蔽材組成物を加工することで、放射線遮蔽シート、防水シート(止水材)、放射線遮蔽パッキン、放射線遮蔽カーテンの各種放射線遮蔽材が得られる。得られた放射線遮蔽材は、放射線遮蔽能力が十分にあり、製品の仕上がりが平滑で、ブルーミングすることがなく、積算の吸収線量が増加しても硬化や軟化劣化することがなくゴム弾性を維持でき、さらに耐水性が高いという特徴を持っている。
放射線遮蔽材組成物には、耐放射線対策ポリマー処方として公知の劣化防止剤を混合することが可能である。このような劣化防止剤としては、例えば、電子・イオン補足剤、エネルギー移動剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、ラジカル不活性剤等がある。
電子・イオン補足剤としては、例えば、ピレン、キノン、ジフェニレンジアミン、テトラメチルフェニレンジアミン等がある。エネルギー移動剤としては、例えば、アセナフテン、アセナフチレン等がある。酸化防止剤としては、例えば、各種フェノール、有機チオ酸塩類等がある。ラジカル補足剤としてはメルカプタン、フェニルエーテル、ヒドロフェナントレン等がある。
放射線遮蔽材組成物には、目的に応じ、各種配合剤、添加剤を混合することが可能である。例えば、架橋反応に必要な架橋剤や加硫促進剤、酸化亜鉛やステアリン酸などの架橋促進助剤、フェノール系やアミン系、キノン系などの老化防止剤、炭酸カルシウム系やクレー系、硫酸バリウム系などの充填剤、カーボンブラック系やシリカ系、表面処理炭酸カルシウム系などの補強材、脂肪酸エステルなどの加工助剤、その他発泡剤、難燃剤、粘着付与材を挙げることができる。また、放射線遮蔽材組成物から得られる放射線遮蔽材の形状保持の観点からも、架橋形態とすることが望ましい。
また、放射線遮蔽材組成物から放射線遮蔽材を製造する際、または放射線遮蔽材組成物を成型する作業を行う際には、一般のゴム加工設備を使用することができるが、これに限られるものではない。
ゴム成分と、軟化剤と、タングステン粉末及びタングステン化合物粉末の少なくとも一方とを混合する際には、例えば、二本ロール、ニーダー類、バンバリーミキサー等を用いて行うことができるが、特に好ましい方法は、二本ロールを用いて各成分を均一に混合、分散させる方法である。
混合された放射線遮蔽材組成物の成型は、例えば、金型成型、押出し成型、カレンダー成型などである。また、架橋条件としては、温度範囲を120℃以上180℃以下とするのが好ましく、架橋時間は10分以上60分以下とするのが好ましい。
放射線遮蔽材組成物から得られた放射線遮蔽材は、タングステン粉末及びタングステン化合物粉末の少なくとも一方が均一に分散した状態で、かつ、高い密度を有しているので、X線、γ線をはじめとした各種放射線を有効に遮蔽することが可能である。
以上説明したように、この実施形態によれば、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が24以上75以下であるEPDMを使用しているため、高い耐熱性が得られるとともに、軟化剤、加工助剤を多量に添加することなく、混練り後の材料が平滑になり、しかも、適度な柔らかさを有する放射線遮蔽材とすることが可能になる。従って、任意の形状の予備成型も可能で、かつ、軟化剤、加工助剤の多量添加によるブルーミングの発生が抑制される。
また、タングステン粉末及びタングステン化合物粉末の少なくとも一方の粉末を含んでいるので、得られた放射線遮蔽材は高密度で、高い放射線遮蔽性能を持ったものになる。
また、ノンハロゲン材料とすることが可能になるので、吸水性の高い金属塩化物を生成しない組成となる。よって、湿潤した環境や水中で使用した場合であっても、放射線遮蔽材の密度の低下が抑制される。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されて解釈されるものではない。
表1には比較例1〜5と、本発明の実施例1〜7にかかる放射線遮蔽材組成物の各成分の配合を示している。尚、表1における単位は重量部である。
表1中の(1)〜(4)のEPDMは三井化学株式会社製のEPDMである。(1)のEPDM3045のムーニー粘度ML(1+4)100℃は40、ML(1+4)125℃は24である。(2)のEPDM3070Mのムーニー粘度ML(1+4)100℃は75、ML(1+4)125℃は47である。(3)のEPDM3092Mのムーニー粘度ML(1+4)100℃は97、ML(1+4)125℃は63である。(4)のEPDMX−4010Mのムーニー粘度ML(1+4)100℃は8である。(5)のEPDM4021Mのムーニー粘度ML(1+4)100℃は24、ML(1+4)125℃は13である。
(6)、(7)のEPDMは住友化学株式会社製のEPDM、エスプレンである。(6)のEPDM505Aはエスプレン505Aであり、ML(1+4)100℃は49、ML(1+4)125℃は31である。(7)のEPDM505はエスプレン505であり、ML(1+4)100℃は84、ML(1+4)125℃は57である。
(8)のSBR1502は、JSR株式会社製のスチレンブタジエンゴムである。(9)のTSR−51は東ソー株式会社製のクロロプレンゴムである。
(10)のIIR#268は、JSR株式会社製のブチルゴムである。(11)のIBR B−150は、BASFジャパン株式会社製のオパノールB−150である。
(12)のW−3KD、(13)のW−6は、それぞれ日本新金属株式会社製のタングステン粉末のW−3KD、W−6である。W−3KDの平均粒度は1.50以上1.99μm以下であり、W−6の平均粒度は8.0以上16.00μm以下である。
(14)のAH−16は出光興産株式会社製のゴムプロセスオイルであり、アニリン点温度は20.5℃である。
(15)のカーボンブラックは旭カーボン株式会社製の旭#70である。(16)の酸化マグネシウムは協和化学工業株式会社製のキョーワマグ#150である。(17)の酸化亜鉛は正同化学工業株式会社製の酸化亜鉛2種である。(18)のステアリン酸は日油株式会社製のビーズステアリン酸つばきである。(19)のエクストンK−1は川口化学工業株式会社製のエクストンK−1である。
(20)のノクラック224、(21)のノクラックADは大内新興化学工業株式会社製の老化防止剤である。(22)のバイオソーブ100は共同薬品の紫外線吸収剤である。
(23)〜(28)の加硫剤としては、鶴見化学工業株式会社製のサルファックスPS、大内新興化学工業株式会社製のノクセラーDM、ノクセラーCZ、ノクセラーTRA、ノクセラーTT、ノクセラーBZを使用した。
表1における比較例1〜5、実施例1〜7の配合処方に基づいて放射線遮蔽材組成物を製造した。製造方法は比較例1〜5と実施例1〜7とで同じであり、周知の二本ロールを用いて混合、圧延し、厚さ2mmのシート状放射線遮蔽材を得た。このシート状放射線遮蔽材を、加圧プレスを使用して160℃に加熱し、20分間加硫成型した。
上記比較例1〜5、実施例1〜7の放射線遮蔽材について、密度、混練り作業性、圧延作業性、ブルーミング、耐放射線性、耐水性体積変化率について評価した。その評価結果を表2に示す。
表2における密度の単位はMg/m3である。
混練り作業性の評価については、上記成分の混合がスムーズに行われたものは○、混合は可能であるがスムーズとはいえないものは△、混合が不可のものは×とした。
圧延作業性の評価については、得られた圧延材料が平滑であったものは○、圧延は可能だが得られた圧延材料の平滑性がやや不足のものは△、圧延が不可のものは×とした。
成型性の評価については、成型が容易に行えたものは○、成型がやや困難であったものは△、成型が困難で形状を作ることができないものは×とした。
ブルーミングの評価については、得られた放射線遮蔽材を30日間室温環境に置き、軟化剤もしくは加工助剤のブルーミングが発生しなかったものは○、ブルーミングが発生したものは×とした。
耐放射線性については、シート状放射線遮蔽材に放射線を照射した後、JIS K−6251に規定された測定方法で切断時伸びを測定した結果に基づいて評価した。放射線の照射条件は、Co−60γ線の空間線量率が1.2kGy/hで、積算吸収線量が1.1MGyとなるよう設定した。
体積変化率、即ち耐水性の評価については、シート状の放射線遮蔽材を使用し、50℃の水中に20日間浸せきしたときのJIS K−6258に規定された測定方法による体積変化率を測定した。
比較例1では、混練り作業が困難で、混合物を得ることができなかった。また、比較例2では、混練り作業は可能だが、タングステン粉末の混合に時間が必要であった。得られたシート状の放射線遮蔽材の耐放射線性を評価したところ、切断時伸びが40%であり、硬化劣化が著しく現れた。またクロロプレンゴムを使用しているため、受酸剤が必要であり、耐水性評価において35%となり、著しい体積増加が現れた。
比較例3では、混練り、圧延は可能であったが、成形後のシート状放射線遮蔽材に膨れ、凹みが多数みられ、均一な厚さのシート状放射線遮蔽材が得られなかった。
比較例4では、高ムーニー粘度のEPDMを使用しており、混練り作業を可能にするためには多量の軟化剤、もしくは加工助剤が必要であった。得られた放射線遮蔽材のブルーミングを観察したところ、ブルーミングが発生していた。
比較例5では、混練り材料が固くなり脆弱であったため、圧延が不可であった。また、比較例6は軟化剤が少ないため、比較例5同様、混練り材料が固くなり、圧延状態が平滑ではなかったため成型物に膨れがみられた。
これらの比較例1〜5に対し、実施例1〜7では良好な結果が得られた。すなわち、混練り作業性、圧延作業性、成型性についても良好、もしくは作業可能であり、ブルーミングの発生もなく、耐水性についても体積変化率が5%以内と良好な結果が得られた。耐放射線性についても、十分な弾性が確認された。
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。