JP6779510B2 - フィブロイン複合体、及びその製造方法 - Google Patents
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Description
これら多孔質体を構成する生体由来物質としては、セルロース、キチン等の糖類、シルクフィブロイン等のフィブロイン、コラーゲン、ケラチンなどのタンパク質群が知られている。
フィブロインの中でもシルクフィブロインは、衣類用途以外に、手術用縫合糸として長く使用されてきた実績があり、また現在では食品及び化粧品の添加物としても利用され、人体に対する適合性にも問題がないことから、上記のような多孔質体の利用分野に利用することに十分適用可能である。
また、シルクフィブロイン水溶液のpHを6以下に保持してゲル化、又はその水溶液に貧溶媒を添加してゲル化させて、得られたゲルを凍結乾燥するシルクフィブロイン多孔質体の製造方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この方法は十分な強度をもった多孔質体を得ることはできず、また溶媒を用いるため、上記特許文献1と同様の問題を招来する。
シルクフィブロイン水溶液を冷凍した後に長時間凍結状態を維持することで多孔質体を製造する手法も報告されている(特許文献3)。しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献3に開示される手法では多孔質体が得られず、再現性に問題がある。
また、特許文献5には、シルクフィブロイン水溶液に対して少量の脂肪族カルボン酸を添加した後に、一定時間凍結させて、その後融解する、上記の特許文献4、及び非特許文献1に記載される手法よりも、さらに高強度のシルクフィブロイン多孔質体を製造する方法が提案されている。
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
1.繊維支持体、熱可塑性樹脂を含む接着層、及びフィブロイン多孔質体を順に有するフィブロイン複合体。
2.フィブロイン多孔質体がグリセリンを含む上記1に記載のフィブロイン複合体。
3.繊維支持体の厚さが1〜2000μmである上記1又は2に記載のフィブロイン複合体。
4.繊維支持体がコットン、レーヨン、及びシルクから選ばれる少なくとも一種の素材により構成されるものである上記1〜3のいずれか1項に記載のフィブロイン複合体。
5.繊維支持体が不織布である上記1〜4のいずれか1項に記載のフィブロイン複合体。
6.熱可塑性樹脂の融点が60〜150℃である上記1〜5のいずれか1項に記載のフィブロイン複合体。
7.接着層の厚さが1〜2000μmである上記1〜6のいずれか1項に記載のフィブロイン複合体。
8.スキンケア材料に用いられる上記1〜7のいずれか1項に記載のフィブロイン複合体。
9.繊維支持体と、熱可塑性樹脂を含む材料と、フィブロイン多孔質体とを、加熱し、圧着させる、繊維支持体、熱可塑性樹脂を含む接着層、及びフィブロイン多孔質体を順に有するフィブロイン複合体の製造方法。
10.熱可塑性樹脂の融点が60〜150℃である上記9に記載のフィブロイン複合体の製造方法。
11.繊維支持体の厚さが1〜2000μmである上記9又は10に記載のフィブロイン複合体の製造方法。
本発明のフィブロイン複合体は、繊維支持体、熱可塑性樹脂を含む接着層、及びフィブロイン多孔質体を順に有するものである。図1は本発明のシルクフィブロイン複合体の構造を示す模式図であり、繊維支持体11、熱可塑性樹脂を含む接着層12、及びフィブロイン多孔質体13を順に有するフィブロイン複合体10が示されている。繊維支持体11とシルクフィブロインフィブロイン多孔質体13とは、接着層12を構成する熱可塑性樹脂の少なくとも一部が溶融し、接着力を発現することで、接着されている。
フィブロイン多孔質体は、フィブロインにより構成される多孔質体であれば特に制限はなく、優れた吸水性、柔軟性、肌触り等の質感を得る観点からシルクフィブロインを用いたシルクフィブロイン多孔質体であることが好ましい。フィブロイン多孔質体の製造は、例えば、フィブロイン水溶液に水溶性有機溶媒及び脂肪族カルボン酸から選ばれる少なくとも一種の添加剤を添加したフィブロイン水溶液を凍結し、次いで溶解して得る手法を採用することが、形状安定性、強度、及び効率的に得る観点から好ましい。
シルクフィブロインを水に溶解させる手法については特に制限はなく、例えば、シルクフィブロインは水への溶解性が低いため、高濃度の臭化リチウム水溶液にシルクフィブロインを溶解後、透析による脱塩を行って得る方法が好適に挙げられる。また、シルクフィブロイン水溶液中のシルクフィブロインの濃度調整の方法としては、風乾による濃縮を経る手法が簡便で好ましい。
このようなカルボン酸として、具体的には、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、アクリル酸、2−ブテン酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸等のジカルボン酸などが好ましく挙げられる。これらは単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。人体への適合性を考慮すると、酢酸、乳酸、コハク酸がより好ましい。これらの添加剤は単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
凍結温度としては、添加剤を加えたシルクフィブロイン水溶液が凍結する温度であれば特に制限はないが、−1〜−40℃が好ましく、−5〜−40℃がより好ましく、−10〜−30℃がさらに好ましい。凍結時間としては、添加剤を加えたシルクフィブロイン水溶液が十分に凍結し、かつ凍結状態を一定時間保持できるよう、30分以上が好ましく、2時間以上が好ましく、4時間以上がさらに好ましい。また、特に−25〜−15℃の温度条件下、30分〜100時間保持することが、多孔質体を再現良く形成する観点から好ましい。
シルクフィブロイン多孔質体の乾燥の手法としては特に制限は無いが、収縮を抑えるという意味で凍結乾燥が好ましい。凍結乾燥の場合、水分を完全に昇華させずに乾燥を終えると、残った水分の表面張力の影響で空孔が潰れてしまうため、水分が完全に昇華するまで乾燥することが好ましい。
この場合、シルクフィブロイン多孔質体を浸漬するグリセリン水溶液におけるグリセリンの濃度は、シルクフィブロイン多孔質体を形成する際に使用したシルクフィブロイン水溶液中のシルクフィブロインの濃度(wt/vol%)を1とした場合、0.2〜2.5が好ましく、0.25〜2がより好ましく、0.25〜1.2がさらに好ましい。グリセリン濃度を上記範囲内に設定することで、より質感に優れ、ひび割れの無い乾燥シルクフィブロイン多孔質体が得られる。従って、本発明においては、フィブロイン多孔質体はグリセリンを含有することが好ましい。
乾燥シルクフィブロイン多孔質体中のグリセリンの含有量(質量%)は、実施例に記載の方法により求めることができる。
また、原料として用いるシルクフィブロイン、添加剤の種類、添加剤の添加量等により、シルクフィブロイン多孔質体の内部構造、固さ等を調整することができる。このようにして、種々の固さを有するシート状、ブロック状のシルクフィブロイン多孔質体を得ることができる。
ここで、多孔質体の平均細孔径は、多孔質体断面の走査型電子顕微鏡写真を5枚撮影し、さらに異なる日に作製した多孔質体断面の走査型電子顕微鏡写真を5枚撮影し、それら10枚の走査型電子顕微鏡写真を、画像解析ソフトを用いて画像処理し、算出した細孔径の平均値である。
ここで空孔率は、得られた多孔質体を純水中に1日静置し完全に吸水させ、秤量した後(湿重量)、凍結乾燥して多孔質体中の水分を完全に除去し、再度秤量した(乾燥重量)。水の密度を1g/cm3、フィブロインの密度を1.2g/cm3、含水状態のフィブロイン多孔質体の密度を1g/cm3と仮定し、次式に従ってシルクフィブロイン多孔質体の空孔率の測定を行って得られた値である。
空孔率=(湿重量−乾燥重量/1.2)/湿重量×100
本発明で用いられる繊維支持体は、繊維からなる支持体であれば特に制限はなく、その形態としては、例えば、不織布、織布、フェルト、メッシュ等が好ましく挙げられる。
接着層は、繊維支持体とフィブロイン多孔質体とを接着する層であり、熱可塑性樹脂を含む層である。接着層は、例えば、熱可塑性樹脂単体、もしくは熱可塑性樹脂を含む組成物、又はこれらにより形成される層状の材料等の熱可塑性樹脂を含む材料を用いて形成することができる。
接着層に用いられる熱可塑性樹脂には特に制限はなく、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール(ブチラール樹脂);ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系樹脂;ポリオキシメチレン等のアセタール樹脂;ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、フッ素樹脂系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー;塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、エチレン−4フッ化エチレン共重合体等のフッ素樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール樹脂、液晶性ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、用途のことを考慮すると水溶性を有しないものが好ましく、また形態安定性をも考慮すると、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂等が好ましく、また生体親和性を考慮するとポリ乳酸も好ましい。
接着層の形成に、熱可塑性樹脂を含む材料として、熱可塑性樹脂単体又は熱可塑性樹脂により形成される層状の材料を用いる場合、層状の材料としては、例えば、樹脂単体又は樹脂組成物により形成されるフィルム状の材料、不織布状の材料、織布状の材料、フェルト状の材料、メッシュ状の材料等の、繊維部分が少なくとも一部に存在する構成を有する繊維状材料などが挙げられる。また、上記の層状の材料であって、素材の特性に起因しない穴が開いた材料等も挙げられる。
例えば、フィルム状の材料を用いる場合、例えば、繊維支持体とフィブロイン多孔質体とを、加熱、圧着して接着した後もそのままフィルム状となる。樹脂単体又は樹脂組成物を全面にわたって塗布して接着層を形成する場合は、このフィルム状の接着層となる。
フィルム状の材料であって、穴が開いた材料を用いる場合、接着層は該穴に対応した穴を有するフィルム状となる。樹脂単体又は樹脂組成物を一部に塗布して接着層を形成する場合は、この穴を有するフィルム状の接着層となる。
また、繊維状材料の加熱圧着の条件(例えば、加熱温度、加圧条件)の調整により、接着層を、不織布状、織布状、メッシュ状、フェルト状等の繊維部分が一部残った層とすることもできる。
本発明においては、種々の形態の接着層の特徴を考慮し、所望の用途に求められる特性に応じて、接着層の形態、材料、及び加熱圧着の条件を選択することができる。
ここで、熱可塑性樹脂繊維の平均繊維径は、電子顕微鏡(300倍)を用いて、熱可塑性樹脂不織布の任意の箇所に存在する熱可塑性樹脂繊維30本の繊維の幅(直径)を測定し、得られた各測定結果の値を平均することで測定することができる。
上記の平均繊維径を有する熱可塑性樹脂繊維は、例えば、メルトブロー法で不織布を形成することで簡便に得ることができる。
該層状の材料の厚さとしては、機械的強度に優れ、複合体の質量が用途に応じた適切な範囲内となり、曲げにくくならない等の良好な使用感、かつ優れた接着力を得る観点から、接着層の厚さが1〜1000μmとなるような厚さが好ましく、10〜500μmとなるような厚さがより好ましく、20〜200μmとなるような厚さがさらに好ましい。すなわち、接着層の厚さは、1〜1000μmが好ましく、10〜500μmがより好ましく、20〜200μmがさらに好ましい。
本発明のシルクフィブロイン複合体において、繊維支持体とフィブロイン多孔質体とは少なくとも接着層に含まれる熱可塑性樹脂により接着されていればよく、この熱可塑性樹脂は、繊維支持体とフィブロイン多孔質体との間に存在することで接着力を発現する。
また、フィブロイン複合体中に複数の繊維支持体及びフィブロイン多孔質体を有する場合、これらの繊維支持体及びフィブロイン多孔質体は同一のものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよく、これも用途に応じて適宜選択することができる。
本発明のフィブロイン複合体の引張強さは、用途に応じたハンドリング性、及び耐久性を有していれば特に制限はないが、70〜2000kPaが好ましく、80〜1500kPaがより好ましく100〜1500kPaがさらに好ましい。
また、スパンレース不織布、織布等の繊維に配向が見られる繊維支持体を使用する場合には、繊維配向方向の引張強さは400〜2000kPaが好ましく、500〜1500kPaがより好ましく、600〜900kPaがさらに好ましい。繊維配向方向に対して垂直方向の引張強さは70〜300kPaが好ましく、80〜280kPaがより好ましい。引張強さが上記範囲内であると、より優れた肌触りが、曲げやすいといった使用感が得られ、様々な用途において好適に用いることができる。
ここで、引張強さは、50mm×5mmの大きさに切削したシルクフィブロイン複合体の試験片について、万能試験機(「EZ−(N)S(型番)」,株式会社島津製作所製)を用い、ロードセルは50N、つかみ具は引張試験用の冶具を用い、引張速度5mm/min、初期つかみ具間距離30mm、室温22℃の条件下で、破断した時点でのロード(N)を測定し、以下の式により算出した値である。
引張強さ(kPa)=破断時ロード(N)÷複合体厚さ(mm)÷5×1000
また、スパンレース不織布、織布等の繊維に配向が見られる繊維支持体を使用する場合には、繊維配向方向の引裂き強さは250〜1500N/mが好ましく、300〜1250N/mがより好ましく、400〜1000N/mがさらに好ましい。繊維配向方向に対して垂直方向の引裂き強さは、250〜5000N/mが好ましく、300〜2500N/mがより好ましく、400〜2000N/mがさらに好ましい。引裂き強さが上記範囲内であると、より優れた肌触りが、曲げやすいといった使用感が得られ、様々な用途において好適に用いることができる。
ここで、引裂き強さは、複合体の引裂き力の中央値を該複合体の厚さ(m)で割って得られた値である。より具体的には、100mm×15mmの大きさに切削し、かつ長さ40mmの切込みを入れた、トラウザ形に打ち抜いたシルクフィブロイン複合体の試験片について、万能試験機(「EZ−(N)S(型番)」,株式会社島津製作所製)を用い、ロードセルは5N、つかみ具は引張試験用の冶具を用い、引裂き速度200mm/min、初期つかみ具間距離40mm、室温22℃の条件下で、垂直方向(TD方向)及び流れ方向(MD方向)について引裂く力の中央値を測定し、以下の式により算出した値である。引裂く力の中央値は図2に示した方法で算出した。
引裂き強さ=引裂く力の中央値(N)/試験片の厚さ(m)
本発明のフィブロイン複合体は、フィブロイン多孔質体の優れた吸水性及び柔軟性、肌触り等の質感の長所を損なうことなく、引張強さ、引裂き強さといった機械的強度にも優れている。また、人体への適合性も高いことから、エステティックサロン又は個人での使用による保湿等を目的とした化粧品及びエステ分野、創傷被覆材、薬剤徐放担体、及び癒着防止材等の医療分野、紙おむつ及び生理用品等の生活日用品分野、組織工学及び再生医療工学等における細胞培養支持体(足場材料)及び組織再生支持体及び組織再生支持体等、並びに微生物及び細菌等の住処になる支持体として活用しうる浄水分野など、産業上幅広い分野で利用される。特に、化粧品及びエステ分野において、保湿等を目的としたフェイスマスク、アイマスク等のスキンケア部材として極めて有用である。
本発明のフィブロイン複合体の製造方法は、繊維支持体と、熱可塑性樹脂を含む材料と、フィブロイン多孔質体とを、加熱し、圧着させることを特徴とし、フィブロイン多孔質体、熱可塑性樹脂を含む接着層、及び繊維支持体を順に有するフィブロイン複合体が得られる。そして、本発明のフィブロイン複合体は、本発明のフィブロイン複合体の製造方法により好ましく得られる。
ここで、繊維支持体、シルクフィブロイン多孔質体、熱可塑性樹脂を含む材料、繊維支持体、及び接着層は上記のフィブロイン多孔質体の製造において説明したものと同じである。
加熱は、例えば繊維支持体、フィブロイン孔質体の少なくともいずれか一方の、熱可塑性樹脂を含む材料と接する面を加熱してもよいし、フィブロイン多孔質体、熱可塑性樹脂を含む材料、繊維支持体を重ねた後、全体的に加熱してもよい。
また、熱可塑性樹脂を含む材料を塗布する代わりに、スパンボンド法、メルトブロー法等によって不織布状に塗布して接着層を形成してもよい。
また、繊維支持体、及びフィブロイン孔質体の少なくとも一方の、熱可塑性樹脂を含む材料と接する面を加熱してから、繊維支持体、熱可塑性樹脂を含む材料(熱可塑性樹脂を含む層状の材料)、及びフィブロイン多孔質体を重ねて、圧着することによっても、フィブロイン複合体を得ることができる。この場合、圧着の際に必要に応じて加熱してもよい。
加熱温度としては、熱可塑性樹脂が溶融する温度であれば特に制限はないが、熱可塑性樹脂が溶融し接着させるための最低限の温度であることが好ましい。このような加熱温度とすることで、フィブロイン多孔質体を必要以上に高温に晒すことがなく、該多孔質体の着色、フィブロインの分解を抑えることができる。また、繊維支持体側から加熱する場合、加熱の際に熱可塑性樹脂に熱を伝わりやすくする観点から、繊維支持体の厚さは0.2〜1mmが好ましく、0.2〜0.8mmがより好ましく、0.2〜0.6mmがさらに好ましい。
フィブロイン多孔質体の着色、該多孔質体を構成するフィブロインの分解を抑える観点から、フィブロイン多孔質体は加熱しないようにすることが好ましい。また、加熱に方向性がある場合、例えば熱したアルミ板等の金属板を一方向からあてて圧着させる場合、加熱の方向には特に制限は無いが、繊維支持体側から行うことが好ましい。繊維支持体側から加熱を行うことで、フィブロイン多孔質体の変色、分解、変質等を抑えることができる。
また、部分的に加熱温度を調整できる場合は、フィブロイン多孔質体への加熱温度を低くすることが好ましく、またそのような調整ができない場合は、フィブロイン多孔質体を設置する部分に断熱材を敷く等の方法により、多孔質体への加熱を低減することができる。
(1)接着力の評価
実施例及び比較例で得られたフィブロイン複合体について、繊維支持体の端部のフィブロイン多孔質体が無い部分を指でつまんで30秒間持ち上げて、繊維支持体とフィブロイン多孔質体とが剥離しないか目視し、下記の基準で評価した。
A :全く剥離することがなかった。
B :ほとんど剥離することがなかった。
C :剥離が生じた。
(2)引裂き強さの測定
100mm×15mmの大きさに切削し、かつ長さ40mmの切込みを入れた、トラウザ形に打ち抜いたフィブロイン複合体の試験片について、万能試験機(「EZ−(N)S(型番)」,株式会社島津製作所製)を用い、ロードセルは50N、つかみ具は引張試験用の冶具を用い、引裂き速度200mm/min、初期つかみ具間距離40mm、室温22℃の条件下で、引裂き力の中央値を測定し、以下の式により算出した値である。
引裂き強さ=引裂き力の中央値(N)/試験片の厚さ(m)
また、スパンレース不織布、織布等の繊維に配向が見られる繊維支持体を使用する場合には、繊維配向方向及び、繊維配向方向に対して垂直方向についてそれぞれ測定を行った。
(3)繊維支持体の黄変の評価
実施例及び比較例で得られたフィブロイン複合体の繊維支持体部分の黄変の有無を肉眼で観察した。加熱前後で黄色味が強くなった場合を黄変あり、変化がない場合を黄変なしの基準に基づき評価した。
(4)フィブロイン複合体の断面の観察
実施例及び比較例で得られたフィブロイン複合体の断面を、走査型電子顕微鏡(「Neo Scope JCM−5000、日本電子株式会社製)を使用して、高真空Pt蒸着モード、加速電圧10kVで観察した。
(シルクフィブロイン水溶液の調製)
シルクフィブロイン水溶液は、高圧精練済み切繭(ながすな繭株式会社製)40gを9M臭化リチウム水溶液400mLに溶解し、常温で24時間攪拌して溶解した。次いで、遠心分離(回転速度:12,000rpm−1、5分間)して、デカンテーションで沈殿物を除去した後、透析チューブ(Spectra/Por1 Dialysis Membrane、MWCO6,000−8,000、Spectrum Laboratories, Inc.製)に注入し、超純水製造装置(「PRO−0500(型番)」及び「FPC−0500(型番)」、いずれもオルガノ株式会社製)から採水した超純水5Lに対して12時間の透析を5回繰り返し、シルクフィブロイン水溶液を得た。
得られたシルクフィブロイン水溶液2mLをポリスチレン製容器に分取し、秤量した後、庫内温度をあらかじめ−20℃程度に調整しておいたノンフロン冷蔵冷凍庫(「R−Y370(型番)」、株式会社日立製作所製)の冷凍室で12時間かけて凍結し、凍結乾燥機(「FDU−1200(型番)」、東京理化器械株式会社製)中で7時間凍結乾燥した。得られた乾燥物を凍結乾燥機から取り出して30秒以内に秤量し、重量減少からシルクフィブロイン水溶液中のシルクフィブロイン濃度(wt/vol%)を定量した。
濃度を測定したシルクフィブロイン水溶液に、酢酸及び超純水を加え、シルクフィブロイン濃度4wt/vol%、酢酸濃度2体積%のシルクフィブロイン水溶液を調製した。このシルクフィブロイン水溶液を内面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)テープを貼り付けたアルミ製容器(内側サイズ:80mm×110mm×0.6mm)に流し込んで封入し、−5℃の低温恒温槽(「NCB−3300(型番)、東京理化器械株式会社社製)に入れて2時間保持し、その後、低温恒温槽の温度を5時間かけて−20℃まで下げて、−20℃で5時間保持した。凍結した試料を室温で自然解凍してから、容器から取り出し、シルクフィブロイン多孔質体を得た。
容器から取り出したシルクフィブロイン多孔質体を10Lの超純水中で12hごとに水を換えて5日間静置し、酢酸を除去した。酢酸除去後のシルクフィブロイン多孔質体を3体積%のグリセリン水溶液10Lに3日間浸漬した後、−25℃に維持した冷凍庫中で6時間かけて凍結した。得られた凍結物を凍結乾燥機(「FD−550P(型番)」、東京理化器械株式会社製)に入れて3日間かけて凍結乾燥した。得られた乾燥物を以下の実施例中でシルクフィブロイン多孔質体として使用した。このようにして得られたシルクフィブロイン多孔質体は、柔軟で肌触りがよく、質感に優れるものであった。
空孔率=(湿重量−乾燥重量/1.2)/湿重量×100
乾燥シルクフィブロイン多孔質体中のグリセリンの含有量CG(質量%)は、グリセリンを導入した乾燥シルクフィブロイン多孔質体の質量(Wa1)と、グリセリンの未導入の乾燥シルクフィブロイン多孔質体の質量(Wa0)とから、乾燥シルクフィブロイン多孔質体に導入されたグリセリンの質量(Wa1−Wa0)を算出した後、グリセリンを導入した乾燥シルクフィブロイン多孔質体の質量(Wa1)で割ったものとし、以下の式で算出した。
CG(質量%)=〔(Wa1−Wa0)/Wa1〕×100
製造例1で得られたシルクフィブロイン多孔質体(厚さ:0.6mm)の上に、熱可塑性樹脂を含む材料として層状の材料を、その上に繊維支持体を積層し、繊維支持体上に180℃に加熱した厚さ5mmのアルミ板をのせて、30秒間静置して、シルクフィブロイン多孔質体と繊維支持体とを熱可塑性樹脂を介して加熱圧着した。次いで、アルミ板を外し、シルクフィブロイン複合体を得た。ここで、層状の材料として、ポリウレタン樹脂不織布(「エスパンシオーネFF(商品名)」、サイズ:70mm×90mm、目付け:50g/m2、厚さ:260μm、KBセーレン株式会社製)を用い、繊維支持体としてスパンレースコットン不織布(サイズ:70mm×90mm、目付け:30g/m2、厚さ:260μm、丸三産業株式会社製)を用いた。得られたシルクフィブロイン複合体について、接着性の評価、及び黄変の確認を行った。評価の結果を第1表に示す。なお、実施例で使用した不織布の厚さは、厚さ測定器(「シックネスゲージ(商品名)」、株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した。
実施例1において、多孔質体の厚さ、熱可塑性樹脂を含む材料の種類、繊維支持体の種類、アルミ板の温度を第1表に記載にかえた以外は、実施例1と同様にして実施例2〜15のシルクフィブロイン複合体を作製した。得られたシルクフィブロイン複合体について、接着性の評価、及び黄変の確認を行った。評価の結果を第1表に示す。
*1,以下の繊維支持体を使用した。
A:スパンレースコットン不織布(目付け:30g/m2、サイズ:70mm×90mm、厚さ:260μm、丸三産業株式会社社製)
B:スパンレースシルク不織布(目付け:30g/m2、サイズ:70mm×90mm、厚さ:350μm、株式会社ユウホウ社製)
*2,以下の熱可塑性樹脂を含む材料を用いた。
A:メルトブローポリウレタン樹脂不織布(「エスパンシオーネFF(商品名)」、サイズ:70mm×90mm、厚さ:150μm、目付け:25g/m2、KBセーレン株式会社製)
B:メルトブローポリウレタン樹脂不織布(「エスパンシオーネFF(商品名)」、サイズ:70mm×90mm、厚さ:260μm、目付け:50g/m2、KBセーレン株式会社製)
C:スパンボンドポリプロピレン不織布(サイズ:70mm×90mm、厚さ:230μm、目付け:30g/m2、前田工繊株式会社製)
D:低密度ポリエチレン不織布(サイズ:70mm×90mm、目付け:20g/m2、融点:115℃、出光ユニテック株式会社製)
また、実施例で作製したフィブロイン複合体は、製造例のシルクフィブロイン多孔質体単体と比較して、引裂き強さが20倍超〜80倍超と大幅に向上していることが分かった。
11 繊維支持体
12 接着層
13 フィブロイン多孔質体
Claims (12)
- 繊維支持体、熱可塑性樹脂を含む接着層、及びフィブロイン多孔質体を順に有するフィブロイン複合体であって、前記フィブロイン多孔質体の厚さが0.2〜1mmである、フィブロイン複合体。
- フィブロイン多孔質体がグリセリンを含む請求項1に記載のフィブロイン複合体。
- 繊維支持体の厚さが1〜2000μmである請求項1又は2に記載のフィブロイン複合体。
- 繊維支持体がコットン、レーヨン、及びシルクから選ばれる少なくとも一種の素材により構成されるものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィブロイン複合体。
- 繊維支持体が不織布である請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィブロイン複合体。
- 熱可塑性樹脂の融点が60〜150℃である請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィブロイン複合体。
- 接着層の厚さが1〜2000μmである請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィブロイン複合体。
- 前記フィブロイン多孔質体の空孔率が80〜99%である請求項1〜7のいずれか1項に記載のフィブロイン複合体。
- スキンケア材料に用いられる請求項1〜8のいずれか1項に記載のフィブロイン複合体。
- 繊維支持体と、熱可塑性樹脂を含む材料と、フィブロイン多孔質体とを、加熱し、圧着させる、繊維支持体、熱可塑性樹脂を含む接着層、及び厚さ0.2〜1mmのフィブロイン多孔質体を順に有するフィブロイン複合体の製造方法。
- 熱可塑性樹脂の融点が60〜150℃である請求項10に記載のフィブロイン複合体の製造方法。
- 繊維支持体の厚さが1〜2000μmである請求項10又は11に記載のフィブロイン複合体の製造方法。
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