JP6778858B2 - アーク溶接制御方法 - Google Patents

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Description

本開示は、消耗電極である溶接ワイヤと溶接対象物である母材との間にアークを発生させて、短絡アーク溶接の溶接出力制御を行うアーク溶接制御方法に関する。
近年、地球環境保護の観点から、自動車業界では、燃費向上を目的とした軽量化のために年々車両鋼板等の薄板化が進められている。また、生産性向上のために溶接工程の生産タクトの向上が進められている。このため、ロボットを用いて行う薄板のアーク溶接においては、溶接速度の高速化や溶接品質の向上が期待されている。しかし、溶接速度の高速化と、溶け落ちやアンダーカットなどの欠陥防止といった課題は相反するものであまた、母材間にギャップが生じている場合、溶け落ちを抑制することで、被溶接物の歩留まりを高めて手直し工数の削減が期待できる。そのため、市場からこれらの課題解決の要求は年々高まってきている。これらの要求に対し、従来から薄板溶接やギャップ溶接に関しては種々提案されている。例えば、パルスMAGアーク溶接において、パルス電流やベース電流といったパルス条件を2つのパルス電流群に切り替えることでアーク長を調整することできる(例えば、特許文献1参照)。これにより突合せ溶接や重ね溶接において、ギャップがある場合においてもアーク長を短くすることで、溶け落ちを抑制することができる。
特開平4−333368号公報
しかしながら、軽量化による薄板化が進む近年では、入熱量の大きいパルスアーク溶接では、短絡アーク溶接よりも溶接対象物の裏側に裏波が発生しやすく、溶け落ちの恐れが高いうえ、溶接対象物にひずみが発生しやすい。このひずみの発生は、溶接長が長いほど影響が大きく、溶接対象物に対する溶接ワイヤの狙いずれの発生を引き起こす恐れがある。また、高速溶接した際にアンダーカットが発生しやすく、生産性の向上が難しい。また、溶接電流を全体的に低減することで低入熱化が図れるが、アークが不安定になるといった課題がある。
上記課題を解決するために、本開示のアーク溶接制御方法は、消耗電極である溶接ワイヤを用いて溶接対象物に対して、第1の入熱量からなる第1の入熱期間と第2の入熱量からなる第2の入熱期間とを周期的に繰り返すアーク溶接を行うアーク溶接制御方法であって、以下を特徴とする。すなわち、第1の入熱期間および第2の入熱期間は、それぞれ短絡期間とアーク期間とからなる。そして、第2の入熱期間の短絡期間において短絡開放を検出すると、第2の入熱期間の短絡開放後の溶接電流を短絡開放の直前電流よりも低くし、第2の入熱期間のアーク期間の溶接電流を第1の入熱期間のアーク期間の溶接電流よりも低くする。あるいは、第2の入熱期間のアーク期間における溶接電流と時間の積のエネルギーの総和を第1の入熱期間のアーク期間における溶接電流と時間の積であるエネルギーの総和よりも低くする。
また、本開示のアーク溶接制御方法は、消耗電極である溶接ワイヤを用いて溶接対象物に対して、第1の入熱量からなる第1の入熱期間と第2の入熱量からなる第2の入熱期間とを周期的に繰り返すアーク溶接を行うアーク溶接制御方法であって、以下を特徴とする。すなわち、第1の入熱期間および第2の入熱期間は、それぞれ短絡期間とアーク期間とからなる。そして、第2の入熱期間の短絡期間において短絡開放を検出すると、第2の入熱期間のアーク期間の溶接電流を短絡開放の直前電流よりも低く、第1の入熱期間のアーク期間の溶接電流よりも低くし、第1の入熱期間のアーク期間の溶接電流に対して相対的に所定の割合で低くなるようにする。
また、上記に加えて、第2の入熱期間のアーク期間の溶接電流を第1の入熱期間のアーク期間の溶接電流に対して低い一定電流とし、30A以上とするものである。
また、上記に加えて、第1の入熱期間と第2の入熱期間との周期的な繰り返しは、前記溶接対象物の板厚およびギャップ量の少なくとも1つに応じて、1回以上、5回以下で連続して行われる第1の入熱期間と、1回の第2の入熱期間とを周期的に交互に繰り返すことにより行うものである。
また、上記に加えて、溶接対象物の方向に行う正送と正送とは逆方向に行う逆送とに交互に、所定の周期と振幅で周期的に前記溶接ワイヤの送給を行うものである。
本開示は、短絡溶接により、短絡開放後の溶接電流を低減する第2の入熱期間である低入熱期間と第2の入熱期間より入熱量が大きい第1の入熱期間とを周期的に繰り返すことで、安定したアークを維持しつつ低入熱化を図り、薄板溶接の溶け落ちの抑制およびギャップ裕度の向上ができ、高速溶接時のアンダーカットの防止、ひずみの低減が可能で溶接品質の向上が可能となる。
本開示の実施の形態1、2におけるアーク溶接制御方法による出力波形と溶接ワイヤ先端の溶滴移行状態の図 本開示におけるアーク溶接装置の概略構成を示す図 本開示発明の実施の形態3におけるアーク溶接制御方法による出力波形と溶接ワイヤ先端の溶滴移行状態の図 本開示の実施の形態4におけるアーク溶接制御方法による出力波形の図 本開示の実施の形態4におけるアーク溶接制御方法による出力波形の図 本開示の実施の形態4における第1の入熱期間Thの連続繰り返し回数Thnとギャップ量Gとの関係図
以下、本開示の実施の形態について、図1から図6を用いて説明する。
(実施の形態1)
まず、本実施の形態1のアーク溶接制御方法を行うアーク溶接装置について、図2を用いて説明する。図2は、アーク溶接装置の概略構成を示す図である。アーク溶接装置20は、消耗電極である溶接ワイヤ22と溶接対象物である被溶接物21との間で、アーク状態のアーク期間Taと短絡状態の短絡期間Tsとを繰り返して溶接を行う。
アーク溶接装置20は、主変圧器2と、一次側整流部3と、スイッチング部4と、DCL(リアクトル)5と、二次側整流部6と、溶接電流検出部7と、溶接電圧検出部8と、短絡検出部9と、短絡開放検出部10と、短絡/アーク検出部11と、ワイヤ送給速度制御部16を有している。
出力制御部12は、短絡制御部13とアーク制御部14を有している。ワイヤ送給速度制御部16は、ワイヤ送給速度検出部17と、演算部18と、正送/逆送切替タイミング制御部19を有している。一次側整流部3は、アーク溶接装置20の外部にある入力電源1から入力した入力電圧を整流する。スイッチング部4は、一次側整流部3の出力を溶接に適した出力に制御する。主変圧器2は、スイッチング部4の出力を溶接に適した出力に変換する。二次側整流部6は、主変圧器2の出力を整流する。DCL(リアクトル)5は、二次側整流部6の出力を溶接に適した電流に平滑する。
溶接電流検出部7は、溶接電流を検出する。溶接電圧検出部8は、溶接電圧を検出する。短絡/アーク検出部11は、溶接電圧検出部8の出力に基づいて、溶接状態が、溶接ワイヤ22と被溶接物21とが短絡している短絡状態であるのか、溶接ワイヤ22と被溶接物21との間でアーク23が発生しているアーク状態であるのか、を判定する。短絡開放検出部10は、短絡状態が開放され、アーク状態であると判定した回数を検出する。
出力制御部12は、スイッチング部4に制御信号を出力して溶接出力を制御する。短絡制御部13は、短絡/アーク検出部11が短絡状態であると判定した場合に、短絡期間の溶接電流である短絡電流の制御を行う。アーク制御部14は、短絡/アーク検出部11がアーク状態であると判定した場合に、アーク期間の溶接電流であるアーク電流の制御を行う。アーク制御部14は、溶接条件設定部15により設定された短絡開放の回数を、短絡開放検出部10が検出した際に、第2の入熱期間の溶接電流を低減する制御を行う。
ワイヤ送給速度制御部16は、ワイヤ送給部25を制御して溶接ワイヤ22の送給速度を制御する。ワイヤ送給速度検出部17は、ワイヤ送給速度を検出する。演算部18は、ワイヤ送給速度検出部17からの信号に基づいて、所定時間や溶接ワイヤ22の送給量の積算量を演算する。正送/逆送切替タイミング制御部19は、演算部18からの信号に基づいて、溶接ワイヤ22の送給の、正送から逆送への切り替えタイミングを遅らせる制御信号や、逆送から正送への切り替えタイミングを遅らせる制御信号を出力する。
アーク溶接装置20には、溶接条件設定部15と、ワイヤ送給部25が接続されている。溶接条件設定部15は、アーク溶接装置20に溶接条件を設定するために用いられる。ワイヤ送給部25は、ワイヤ送給速度制御部16からの信号に基づいて、溶接ワイヤ22の送給の制御を行う。
アーク溶接装置20の溶接出力は、溶接チップ24を介して溶接ワイヤ22に供給される。そして、アーク溶接装置20の溶接出力により、溶接ワイヤ22と被溶接物21との間にアーク23を発生させて溶接を行う。
次に、以上のように構成されたアーク溶接装置20の動作について、図1を用いて説明する。
図1は、本実施の形態における消耗電極式のアーク溶接制御方法による出力波形を示す図である。消耗電極である溶接ワイヤ22を用いて被溶接物21に対して、第1の入熱量からなる第1の入熱期間Thと第2の入熱量からなる第2の入熱期間Tcとを周期的に繰り返すアーク溶接を行う出力波形である。
第1の入熱期間Thおよび第2の入熱期間Tcは、それぞれ短絡期間Tsとアーク期間Taとからなる。第1の入熱期間Th、第2の入熱期間Tcのそれぞれにおいて、短絡期間Tsとアーク期間Taとを交互に繰り返すアーク溶接における、溶接電流Awと、溶接電圧Vwの時間変化、溶接ワイヤ22の溶滴移行状態の模式図Wwを示している。
本実施の形態におけるアーク溶接制御方法において、第1の入熱期間Thと第2の入熱期間Tcとが交互に繰り返される。第1の入熱期間Thおよび第2の入熱期間Tcのいずれも短絡期間Tsとアーク期間Taとを含む。
第1の入熱期間Thの短絡期間Tsにおいて、溶融電流Awは所定の電流値から第1の電流増加率Aws1にて増加し、以下に述べる屈曲点での電流値Awpに達する。その後、溶融電流Awは電流増加率Aws1よりも増加率が小さい電流増加率Aws2にて増加する。この短絡期間Tsにおいて、溶接ワイヤ22の送給速度を負とし、溶接ワイヤの送給の逆送をする。この短絡期間Tsにおいては、溶接ワイヤ22と被溶接物21とが短絡されることにより溶接電圧Vwを0(V)付近の値となっている。
第1の入熱期間Thの短絡期間Tsとアーク期間Taとの切替時に、溶接電流Awを一旦下げ、短絡開放により溶接電圧Vwが増加する。また、溶接ワイヤ22の送給速度Wfを負から正にして、溶接ワイヤの送給を逆送から正送に切り替える。
第1の入熱期間Thのアーク期間Taにおいて、溶接電流Awをピーク電流値Awa1まで上げ、所定の時間一定とする。
第1の入熱期間Thのアーク期間Taの終了および第2の入熱期間Tcの短絡期間Taの開始のタイミングにて、溶接電流Awを所定の値に下げておき、溶接ワイヤ22と被溶接物21とが短絡されることにより溶接電圧Vwを0(V)付近の値となり、溶接ワイヤ22の送給速度Wfを正から負にして、溶接ワイヤの送給を正送から逆送に切り替える。
第2の入熱期間Tcの短絡期間Tsにおいて、溶融電流Awは所定の値から所定の電流増加率にて増加する。その後、溶融電流Awは電流増加率Aws2にて増加する。この短絡期間Tsにおいて、溶接ワイヤ22の送給速度Wfを負とし、溶接ワイヤの送給の逆送をする。
第2の入熱期間Tcのアーク期間Taにおいて、溶接ワイヤ22は短絡状態となるが、そのときの溶融電流Awを電流値Awa1aとする。また、このアーク期間Taの期間において溶接ワイヤ22の送給速度Wfを正とし溶接ワイヤの送給を正送する。
図1において、(a)〜(h)は、消耗電極である溶接ワイヤ22の先端から被溶接物21の側へ溶融金属が移行する溶滴移行状態Wwを表しており、第1の入熱期間Thから第2の入熱期間Tcにかけての溶接ワイヤ22の状態を示す。(a)〜(h)の順に時間が経過する。(a)は、第1の入熱期間Thの短絡期間Tsにおける溶接ワイヤ22の状態を示す。(b)は、第1の入熱期間Thにおいて、短絡期間Tsとアーク期間Taとの切替時での溶接ワイヤ22の状態を示す。(c)および(d)は、第1の入熱期間Thのアーク期間Taにおける溶接ワイヤ22の状態を示す。(c)は、溶接電流Awの値がAwa1となった直後の溶接ワイヤ22の状態を示す。また、(d)は、溶接電流Awの値がAwa1から降下する直前の溶接ワイヤ22の状態を示す。(e)は、第2の入熱期間Tcの短絡期間Tsにおける溶接ワイヤ22の状態を示す。(f)は、第2の入熱期間Tcにおいて、短絡期間Tsとアーク期間Taとの切替時での溶接ワイヤ22の状態を示す。(g)および(h)は、第2の入熱期間Tcのアーク期間Taにおける溶接ワイヤ22の状態を示す。
なお、第1の入熱期間Thのアーク期間Taからの第2の入熱期間Tcの短絡期間Tsへの移行は、第1の入熱期間Thのアーク期間Taの溶接電流Awを短絡期間Tsへ移行する直前に低くし、短絡時のスパッタの発生を抑制している。短絡時のスパッタの発生の影響が少なければ短絡期間Tsへ移行する直前における電流は必ずしも直前でさらに低くしなくても良い。
まず図1において、(a)における溶滴移行状態Wwは、溶接ワイヤ22と被溶接物21との短絡が発生してから溶接ワイヤ22の溶滴26を被溶接物21上の図示しない溶融プールに移行させている。このとき溶接ワイヤ22の送給は、被溶接物21の方向に行う正送とは逆方向に行う逆送を行うことで、短絡開放を機械的に促す。また、(a)における溶接電流Awはこの短絡状態を開放させるために時間の経過に伴って溶接電流を増加するように制御する。
そして、この溶接電流Awの増加の仕方は、例えば、図1に示すように、まず短絡期間Tsにおいて、第1の電流増加率Aws1で増加し、その後、第1の電流増加率Aws1よりも傾きが緩やかな第2の電流増加率Aws2で増加させる。そして、第1の電流増加率Aws1から第2の電流増加傾きAws2に切り替わる時の電流値Awpを屈曲点と呼ぶ。この屈曲点の値は予め実験的に求められた値に設定される。
次に(b)において溶接電圧Vwは、溶接ワイヤ22と被溶接物21との短絡が解放されることにより上昇し、短絡開放が判定される。このときの(b)における溶滴移行状態Wwは、ピンチ効果により溶接ワイヤ22の先端側にくびれ現象が生じて溶滴26を移行させ、短絡状態から開放される。そして(c)から(d)における溶接電流Awの制御は、アーク期間Taにおいて所定のピーク電流値Awa1まで溶接電流を増加する。このとき溶接ワイヤ22の送給は、被溶接物21の方向に溶接ワイヤ22を送る正送を行う。これにより、(c)から(d)の溶滴移行状態Wwは、溶接ワイヤ22の先端の溶融速度が高められ、溶接ワイヤ22の先端に、被溶接物21に移行する溶けた金属である溶滴26を形成し成長させる。この成長した溶滴26が再び短絡することで、溶滴26が被溶接物21に移行する。通常は(a)、(b)、(c)、(d)の溶滴移行状態を経由する短絡期間Tsとアーク期間Taとを含む第1の入熱期間Thのみを繰り返すことで溶接を行っている。
しかし、本実施の形態では、図1における(a)、(b)、(c)および(d)を経由する第1の入熱期間Thと、第1の入熱期間Thより入熱量が低い(e)、(f)、(g)および(h)を経由する第2の入熱期間Tcとを周期的に繰り返して溶接を行うことで被溶接物21に対する入熱量を低減する。例えば図1のように、第1の入熱期間Thにおいて、(a)、(b)、(c)および(d)を経て溶接ワイヤ22の先端の溶滴26を成長させたのち、図1の溶接電圧Vwにより溶接ワイヤ22と被溶接物21との間の次の短絡発生を検出すると、(e)において溶滴移行状態Wwは、(a)の溶滴移行状態Wwと同様に、溶接ワイヤ22の溶滴26を溶融プールに移行させる。(e)における溶接電流Awは、(a)における溶接電流Awの増加形態と同様に、短絡状態を開放させるために時間の経過に伴って溶接電流を増加するように制御する。
さらに第2の入熱期間Tcの(f)における溶接電圧Vwにより短絡開放が判定されたときの溶滴移行状態Wwは、(b)における溶滴移行状態Wwと同様に、ピンチ効果により溶接ワイヤ22の先端にくびれ現象が生じて溶滴26を溶融プールへ移行させ、短絡状態から開放される。第2の入熱期間Tcにおいて短絡開放を検出すると、(g)から(h)における、第2の入熱期間Tcのアーク期間Taの溶接電流Awを、短絡開放の直前の電流Asoよりも低くし、第2の入熱期間Tcのアーク期間Taの溶接電流Awを第1の入熱期間Thのアーク期間Taの溶接電流Awよりも低い電流に制御する、あるいは、第2の入熱期間Tcのアーク期間Taにおける溶接電流Awと時間の積のエネルギーの総和を第1の入熱期間Thのアーク期間Taにおける溶接電流Awと時間の積であるエネルギーの総和よりも低くなるように制御する。これにより第2の入熱期間Tcの入熱量を低減することができる。
なお、第2の入熱期間Tcのアーク期間Taの溶接電流Awを、第1の入熱期間Thのアーク期間Taの溶接電流Awよりも低い電流への制御は、第1の入熱期間Thのアーク期間Taのピーク電流Awa1より低いものすることが好ましい。これにより第2の入熱期間Tcの入熱量をより低減することができる。
また、第1の入熱期間Thのアーク期間Taにおける溶接電流Awに対して低減した第2の入熱期間Tcのアーク期間Taにおける溶接電流Awは、30A以上の値が好ましい。第2の入熱期間Tcのアーク期間Taにおける溶接電流Awが30A未満で、例えば20msec以上と長く続くと、アークを維持できずにアーク切れしてしまう恐れがある。または溶接ワイヤ22の先端の溶滴26の大きさが成長せずに、短絡開放がしづらくなり次の短絡期間Tsが長くなって短絡周期の乱れが発生することがあるため、第2の入熱期間Tcのアーク期間Taにおける低減した溶接電流Awは30A以上の値とすることが望ましい。
なお、本開示のように溶接ワイヤ22の送給を、被溶接物21の方向に行う正送と、正送とは逆方向に行う逆送とに、所定の周期と振幅で変化させ周期的に溶接ワイヤ22を送給するワイヤ送給速度Wfで溶接を行うことで、機械的に短絡発生と短絡開放を促進させることができる。そして第1の入熱期間Thと第1の入熱期間Thより入熱量の低い第2の入熱期間Tcとを周期的に繰り返すことで、安定したアークを維持しつつ低入熱化を図り、薄板溶接の溶け落ち抑制及び後に述べるギャップ裕度の向上が実現できる。
これにより、第1の入熱期間Thと第2の入熱期間Tcとで入熱量が変動する場合でも、短絡周期の乱れを防ぐことができる。
(実施の形態2)
本実施の形態2は第2の入熱期間Tcにおける短絡開放後の溶接電流Awの低減に関する。
本実施の形態2において、実施の形態1と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。実施の形態1と異なる主な点は、図1に示す、第1の入熱期間のアーク期間の溶接電流Awよりも低くする第2の入熱期間Tcにおけるアーク期間Taの溶接電流Awを、所定の一定の電流Awa1aに制御する点である。なお、一定の電流Awa1aは、第1の入熱期間Thのアーク期間Taにおける溶接電流Awのピーク電流Awa1よりも低い電流である。次の短絡が発生するまで一定電流で制御することにより、電流の低減の調整や管理が容易である。
(実施の形態3)
本実施の形態3は第2の入熱期間Tcにおけるアーク期間Taの溶接電流低減に関する。
本実施の形態3において、実施の形態1および2と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。実施の形態1および2と異なる主な点は、図3の溶接電流Awのように、第2の入熱期間Tcにおけるアーク期間Taの溶接電流Awを、第1の入熱期間Thのアーク期間Taの溶接電流Awの電流波形と比較して相対的に低減する点である。第1の入熱期間Thのアーク期間Taの溶接電流Awの電流波形と比較して、第2の入熱期間Tcにおける、アーク期間Taの溶接電流Awを相対的に低減させた、実質的に相似形の電流波形になる様に下げた電流波形とする。具体的には、第2の入熱期間Tcにおけるアーク期間Taの溶接電流Awを第1の入熱期間Thのアーク期間Taの溶接電流Awに対して相対的に低減し、所定の割合とする。
このため、低減された溶接電流でありながらも第2の入熱期間Tcのアーク期間Taの溶接電流Awにおいて、ピーク電流Awa1bを有しており、アーク期間Taの溶接電流Awのピーク電流をピーク電流Awa1に制御する第1の入熱期間Thの溶滴移行状態と類似しており、第1の入熱期間Thと第2の入熱期間Tcの切り替わり時のアークの安定性を高めて低入熱化を図ることができる。
第1の入熱期間Thの溶接電流Awに対して、第2の入熱期間Tcの溶接電流Awを相対的に低減される、所定の割合は、第1の入熱期間Thのアーク期間Taの溶接電流Awの10%以上、50%以下である。第1の入熱期間Thのアーク期間Taの溶接電流Awに対して低減される度合いをより大きくして、相対的な割合を10%より低くすると図3の(g)において第2の入熱期間のアーク期間Taのピーク電流Awa1bを出力した後の(h)において、アーク切れを引き起こす恐れが高まる。また、第1の入熱期間Thのアーク期間Taの溶接電流Awに対して低減される度合いをより小さくし、相対的な割合が50%より大きいと、低入熱の効果が小さい。
(実施の形態4)
第1の入熱期間Thと第2の入熱期間Tcを周期的に繰り返す方法に関する。
本実施の形態4において、実施の形態1〜3と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。実施の形態1〜3と異なる主な点は、1回の第1の入熱期間Thと1回の第2の入熱期間Tcを繰り返す実施の形態1、2、3に対して、本実施の形態では、薄板等の被溶接物21の板厚に応じて、複数回の第1の入熱期間Th(Th1〜Th5)と、1回の前記第2の入熱期間Tcを繰り返すという点である。
図4の溶接電流Awは、複数の第1の入熱期間Th(Th1〜Th5)と、一つの第2の入熱期間Tcを周期的に繰り返している。第1の入熱期間Thの連続繰り返し回数をThn、第2の入熱期間Tcの連続繰り返し回数をTcnとし、Thnを5、Tcnを1とすると、5回の第1の入熱期間Thと1回の第2入熱期間Tcを交互に繰り返す。図5の第1の入熱期間Thの連続繰り返し回数はThn=1であり、第2の入熱期間Tcの連続繰り返し回数はTcn=1である。第1の入熱期間Thと第2の入熱期間Tcをそれぞれ1回ずつ繰り返す。第1の入熱期間の連続繰り返し回数Thnが少ないほど被溶接物21への入熱量の低減効果は大きい。言い換えると、薄い板厚(例えば3.2mm以下)の被溶接物21ほど、第1の入熱期間Thの連続繰り返し回数Thnが少ないことが好ましく、被溶接物21への入熱量の低減をより図ることが出来る。
しかし、第1の入熱期間Thの連続繰り返し回数Thn=5を超える場合は、相対的に入熱量が増えるため入熱量の低減効果が小さい。また、第2の入熱期間Tcの連続繰り返し回数Tcnが1を超える場合は、第2の入熱期間Tcが連続することで、次の第1の入熱期間Thにおける短絡期間Tsのばらつきが生じアークが不安定になる恐れがある。そのため、1回以上、5回以下の複数回の第1の入熱期間Thと、1回の第2の入熱期間Tcとを交互に繰り返すことで安定したアークを維持しつつ入熱量を低減することができ、溶け落ち抑制およびギャップ裕度の向上に繋がる。
例えば、図4および図5に示すように、第2の入熱期間Tcのアーク期間Taの溶接電流Awを一定の電流Awa1aに制御したとき、第1の入熱期間Thの連続繰り返し回数Thnとギャップ量Gとの関係を図6に示す。なお図6では、第2の入熱期間Tcの連続繰り返し回数Tcnを1とし、溶接ワイヤ22の材質と被溶接物21の材質を軟鋼としている。例えば、重ね溶接の際の被溶接物21のアークが照射される側の板の平均板厚に対する、重ねられる板の間の隙間であるギャップの割合をギャップ量G[%]とし、板厚と同厚のギャップの場合をギャップ量G=100%とする。ギャップ量Gの増加に伴い、第1の入熱期間Thの連続繰り返し回数Thnを減らすことでギャップ裕度を向上できる。ギャップ量Gが100%の場合は、第1の入熱期間Thの連続繰り返し回数Thnは2回であり、ギャップ量Gが20%の場合は、第1の入熱期間Thの連続繰り返し回数Thnは5回である。
このように、短絡とアークを繰り返す短絡溶接において、被溶接物21の板厚および/またはギャップ量Gに応じて、一つ以上の連続して繰り返される第1の入熱期間Thと第1の入熱期間Thより入熱量の低い一つの第2の入熱期間Tcとを周期的に繰り返す溶接をすることで、安定したアークを維持しつつ低入熱化を図り、薄板溶接の溶け落ち抑制及びギャップ裕度の向上が実現でき、溶接品質の向上、生産性の向上に繋がる。
以上のように、本開示にかかる発明によれば、短絡とアークを繰り返す短絡溶接において、第1の入熱期間Thと第1の入熱期間Thより入熱量の低い第2の入熱期間Tcとを周期的に繰り返すことで、安定したアークを維持しつつ低入熱化を図り、薄板溶接の溶け落ち抑制及びギャップ裕度の向上が実現できる。
このように、第1の入熱期間Thより入熱量の低い一つの第2の入熱期間Tcと第1の入熱期間Thとの割合を設定することにより、低入熱のための入熱量の切替えが細かく設定できる。また、低入熱化を行うとともに、ビード幅の変化を抑制して、良好なビード外観を得ることができる。また、本開示の短絡アーク溶接は、パルスアーク溶接に対して入熱量が小さく、アーク長の短縮、入熱量の低減が可能である。
これらにより周期的にアーク期間中の溶接電流を低減することで、アークの安定性を高め、入熱量を抑制しアーク長を短くすることで高速溶接時のアンダーカットを防止し、また入熱量を抑制することで、特に薄板の溶接時おいての、ひずみの低減や被溶接物間にギャップがある場合の溶接の際の溶け落ちを防止して溶接品質の向上をすることが可能であり、溶接品質の向上、生産性の向上に繋がる。
本開示にかかる発明によれば、短絡とアークを繰り返す短絡溶接において、第1の入熱期間Thと第1の入熱期間Thより入熱量の低い第2の入熱期間Tcとを周期的に繰り返すことで、安定したアークを維持しつつ低入熱化を図り、薄板溶接の溶け落ち抑制及びギャップ裕度の向上が実現でき、溶接品質の向上、生産性の向上に繋がる。消耗電極である溶接ワイヤを送給しながら短絡アーク溶接を行うアーク溶接制御方法として産業上有用である。
1 入力電源
2 主変圧器(トランス)
3 一次側整流部
4 スイッチング部
5 DCL(リアクトル)
6 二次側整流部
7 溶接電流検出部
8 溶接電圧検出部
9 短絡検出部
10 短絡開放検出部
11 短絡/アーク検出部
12 出力制御部
13 短絡制御部
14 アーク制御部
15 溶接条件設定部
16 ワイヤ送給速度制御部
17 ワイヤ送給速度検出部
18 演算部
19 正送/逆送切替タイミング制御部
20 アーク溶接装置
21 被溶接物
22 溶接ワイヤ
23 アーク
24 溶接チップ
25 ワイヤ送給部
26 溶滴

Claims (5)

  1. 消耗電極である溶接ワイヤを用いて溶接対象物に対して、第1の入熱量からなる第1の入熱期間と第2の入熱量からなる第2の入熱期間とを周期的に繰り返すアーク溶接を行うアーク溶接制御方法であって、
    前記第1の入熱期間および前記第2の入熱期間は、それぞれ短絡期間とアーク期間とを有し、前記第2の入熱期間の前記短絡期間において短絡開放を検出した場合に、前記第2の入熱期間のアーク期間の溶接電流を前記短絡開放の直前における電流よりも低くし、
    前記第2の入熱期間におけるアーク期間の溶接電流を前記第1の入熱期間におけるアーク期間の溶接電流よりも低くする、または、前記第2の入熱期間のアーク期間における溶接電流と時間の積のエネルギーの総和を前記第1の入熱期間のアーク期間における溶接電流と時間の積であるエネルギー総和よりも低くすることを特徴とする、
    アーク溶接制御方法。
  2. 消耗電極である溶接ワイヤを用いて溶接対象物に対して、第1の入熱量からなる第1の入熱期間と第2の入熱量からなる第2の入熱期間とを周期的に繰り返すアーク溶接を行うアーク溶接制御方法であって、
    前記第1の入熱期間および前記第2の入熱期間は、それぞれ短絡期間とアーク期間とからなり、前記第2の入熱期間の前記短絡期間において短絡開放を検出した場合に、前記第2の入熱期間におけるアーク期間の溶接電流を前記短絡開放の直前における電流よりも低く、前記第1の入熱期間におけるアーク期間の溶接電流よりも低くし、前記第1の入熱期間におけるアーク期間の溶接電流に対して相対的に所定の割合で低くなるようにすることを特徴とする、
    アーク溶接制御方法。
  3. 前記第2の入熱期間におけるアーク期間の溶接電流を前記第1の入熱期間におけるアーク期間の溶接電流に対して低い一定電流とし、30A以上とすることを特徴とする、請求項1または2記載のアーク溶接制御方法。
  4. 前記第1の入熱期間と前記第2の入熱期間との周期的な繰り返しは、前記溶接対象物の板厚およびギャップ量の少なくとも1つに応じて、1回以上5回以下で連続して行われる前記第1の入熱期間と、1回の前記第2の入熱期間とを周期的に交互に繰り返すことにより行うことを特徴とする、請求項1または2に記載のアーク溶接制御方法。
  5. 溶接対象物の方向に行う正送と前記正送とは逆方向に行う逆送とに交互に、所定の周期と振幅で周期的に前記溶接ワイヤの送給を行う請求項1または2に記載のアーク溶接制御方法。
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