JP6777045B2 - 高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 - Google Patents

高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、SiおよびMnを含む高強度鋼板を母材とする、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
近年、自動車、家電、建材等の分野において素材鋼板に防錆性を付与した表面処理鋼板、中でも防錆性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が使用されている。また、自動車の燃費向上および自動車の衝突安全性向上の観点から、車体材料の高強度化によって薄肉化を図り車体そのものを軽量化かつ高強度化するために、高強度鋼板の自動車への適用が促進されている。
一般的に、溶融亜鉛めっき鋼板は、スラブを熱間圧延や冷間圧延した薄鋼板を母材として用い、母材鋼板をCGLの焼鈍炉で再結晶焼鈍し、その後、溶融亜鉛めっき処理を行い製造される。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき処理後、さらに合金化処理を行い製造される。
鋼板の強度を高めるためには、SiやMnの添加が有効である。しかし、連続焼鈍の際に、SiやMnは、Feの酸化が起こらない(Fe酸化物を還元する)還元性のN+Hガス雰囲気でも酸化し、鋼板最表面にSiやMnの酸化物を形成する。SiやMnの酸化物はめっき処理時に溶融亜鉛と下地鋼板との濡れ性を低下させるため、SiやMnが添加された鋼板では不めっきが多発するようになる。また、不めっきに至らなかった場合でも、めっき密着性が悪いという問題がある。
SiやMnを多量に含む高強度鋼板を母材とした溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法として、特許文献1には、無酸化炉方式において鋼板表面に酸化膜を形成させた後に還元焼鈍を行う方法が開示されている。しかしながら、特許文献1では良好なめっき密着性が安定して得られない。
これに対して、特許文献2〜8では、酸化速度や還元量を規定したり、酸化帯での酸化膜厚を実測し、実測結果から酸化条件や還元条件を制御して効果を安定化させようとした技術が開示されている。
また、特許文献9〜10では、高温酸化に代わり水溶液中での陽極酸化によって酸化皮膜を形成させる技術が開示されている。
特開昭55−122865号公報 特開平4−202630号公報 特開平4−202631号公報 特開平4−202632号公報 特開平4−202633号公報 特開平4−254531号公報 特開平4−254532号公報 特開平7−34210号公報 特開平5−171392号公報 特開平5−239605号公報
特許文献1〜8に開示されている溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を適用した場合、還元焼鈍において鋼板表面にSiやMnの酸化物が形成することで、十分なめっき密着性が必ずしも得られないことが分かった。また、これらの技術を工業的に実施する場合、酸化処理に大規模な加熱炉が必要となり、実施できる設備が限定されてしまう。
特許文献9、10に開示される製造方法は大規模な加熱炉を必要とせず、電解処理が行える設備で実施可能である。しかしながら、これらの技術においても特許文献1〜8と同様に、還元焼鈍において鋼板表面にSiやMnの酸化物が形成することで、十分なめっき密着性が必ずしも得られないことが分かった。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、めっき密着性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
鋼の高強度化には上述したようにSiやMn等の固溶強化元素の添加が有効である。また、自動車用途に使用される高強度鋼板については、プレス成形が必要になるために強度と延性のバランスの向上が要求される。これらに対しては、Si、Mnは鋼の延性を損なわずに高強度化ができる利点があるため、Si含有鋼は高強度鋼板として非常に有用である。しかしながら、Si含有鋼、Si・Mn含有鋼を母材とした高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合、以下の問題がある。
SiやMnは焼鈍雰囲気中で鋼板最表面にSiおよび/またはMnの酸化物を形成し、鋼板と溶融亜鉛との濡れ性を劣化させる。その結果、不めっきなどの表面欠陥が発生する。また、不めっきに至らなかった場合でもめっき密着性が著しく劣ってしまう。これは、鋼板表面に形成されたSiおよび/またはMnの酸化物が、めっき層と鋼板の界面に残存するために、めっき密着性を劣化させているものと考えられる。
Siの鋼板最表面での酸化を防ぐには、酸化処理を行った後に還元焼鈍を行う方法が有効であるが、酸化処理として高温酸化を工業的に実施する場合、大規模な加熱炉が必要となり、実施できる設備が限定されてしまう課題がある。また、酸化処理として陽極酸化を適用する場合、大規模な加熱炉を必要とせず、電解処理が行える設備で実施可能であるが、十分なめっき密着性が必ずしも得られない。これは陽極酸化によって形成する酸化皮膜が緻密なために、その後の還元焼鈍において完全に還元できないために、めっき密着性が劣化したものと考えられる。
上記をもとに検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
SiやMnを含む高強度鋼板を母材とした場合、鋼板と溶融亜鉛の濡れ性の低下の原因となるSiやMnの鋼板最表面での酸化を抑制するため、酸化処理を行った後に還元焼鈍を行うことが有効である。
この時、酸化処理として陽極酸化を適用することが有効である。さらに、陽極酸化は、大規模な加熱炉を必要とせず、また、陽極酸化は電解処理が行える設備で実施可能である。
また、陽極酸化に用いる処理液として、水溶液ではなく非水溶媒を用いることで多孔質な酸化皮膜を得ることできる。
以上により、その後の還元焼鈍時に、酸化皮膜の還元を速やかに進行させことができ、めっき密着性を改善することができる。
本発明は上記知見に基づくものであり、特徴は以下の通りである。
[1]質量%で、C:0.3%以下、Si:0.1〜2.5%、Mn:0.5〜8.5%、P:0.10%以下、S:0.010%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼板に対して、溶融亜鉛めっき処理を施すに際し、非水溶媒中で陽極電解処理を行い、次いで、還元雰囲気中で焼鈍処理を行い、次いで、溶融亜鉛めっき処理することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[2]前記溶融亜鉛めっき処理後、さらに、合金化処理を行うことを特徴とする上記[1]に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[3]前記非水溶媒中には、フッ化物およびHOを含有していることを特徴とする上記[1]または[2]に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[4]前記非水溶媒中に、フッ化物量をF量として、0.01〜1.0mol/L、HOを1〜20vol%含有することを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[5]前記焼鈍処理は、H濃度:5〜30体積%、HO濃度:500〜5000体積ppm、残部がNおよび不可避的不純物からなる雰囲気中で、650〜900℃の温度で鋼板を加熱することを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[6]前記鋼板は、成分組成として、さらに、質量%で、Al:0.01〜0.1%、Mo:0.05〜1.0%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%、Cr:0.01〜0.8%、B:0.0005〜0.005%、Sb:0.001〜0.10%、Sn:0.001〜0.10%の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
なお、本発明における高強度とは、引張強度TSが440MPa以上である。また、本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、冷延鋼板を母材とする場合、熱延鋼板を母材とする場合のいずれも含むものである。
本発明によれば、めっき密着性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
以下、本発明について具体的に説明する。
なお、以下の説明において、鋼成分組成の各元素の含有量、めっき層成分組成の各元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であり、特に断らない限り単に「%」で示す。また、HO濃度、H濃度の単位はいずれも「体積%」「体積ppm」であり、特に断らない限り単に「%」「ppm」で示す。
鋼成分組成について説明する。
C:0.3%以下
Cは、0.3%を超えると溶接性が劣化するため、C量は0.3%以下とする。一方、鋼組織として、残留オーステナイト相(以下、残留γ相と称することもある)やマルテンサイト相などを形成させることで加工性を向上しやすくする。そのため、C量は0.025%以上が好ましい。
Si:0.1〜2.5%
Siは鋼を強化して良好な材質を得るのに有効な元素である。Si量が0.1%未満では高強度を得るために高価な合金元素が必要になり、経済的に好ましくない。一方、Si量が2.5%を超えると本発明を用いても良好なめっき密着性を得ることが困難である。また、合金化温度が高温化するために、所望の機械特性を得ることが困難になる。したがって、Si量は0.1%以上2.5%以下とする。
Mn:0.5〜8.5%
Mnは鋼の高強度化に有効な元素である。機械特性や強度を確保するためには0.5%以上含有する。一方、8.5%を超えると溶接性やめっき密着性、強度と延性のバランスの確保が困難になる場合がある。したがって、Mn量は0.5%以上8.5%以下とする。
P:0.10%以下
Pは、鋼の強化に有効な元素である。ただし、P量が0.10%を超えると、粒界偏析により脆化を引き起こし、耐衝撃性を劣化させる場合がある。したがって、P量は0.10%以下とする。
S:0.010%以下
Sは、MnSなどの介在物となって、耐衝撃性の劣化や溶接部のメタルフローに沿った割れの原因となる。このため、S量は極力少ない方がよい。したがって、S量は0.010%以下とする。
残部はFeおよび不可避的不純物である。
なお、下記を目的として、Al:0.01〜0.1%、Mo:0.05〜1.0%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%、Cr:0.01〜0.8%、B:0.0005〜0.005%、Sb:0.001〜0.10%、Sn:0.001〜0.10%のうちから選ばれる元素の1種または2種以上を必要に応じて添加してもよい。
これらの元素を添加する場合における適正添加量の限定理由は以下の通りである。
Alは熱力学的に最も酸化しやすいため、Si、Mnに先だって酸化し、Si、Mnの鋼板表面での酸化を抑制し、鋼板内部での酸化を促進する効果がある。この効果は0.01%以上で得られる。一方、0.1%を超えるとコストアップになる。したがって、添加する場合、Al量は0.01%以上0.1%以下が好ましい。
Moは0.05%未満では強度調整の効果やNb、Ni、Cuとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくい。一方、1.0%超えではコストアップを招く。したがって、添加する場合、Mo量は0.05%以上1.0%以下が好ましい。
Nbは0.005%未満では強度調整の効果やMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくい。一方、0.05%超えではコストアップを招く。したがって、添加する場合、Nb量は0.005%以上0.05%以下が好ましい。
Tiは0.005%未満では強度調整の効果が得られにくく、0.05%超えではめっき密着性の劣化を招く。したがって、添加する場合、Ti量は0.005%以上0.05%以下が好ましい。
Cuは0.05%未満では残留γ相形成促進効果やNiやMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくい。一方、1.0%超えではコストアップを招く。したがって、添加する場合、Cu量は0.05%以上1.0%以下が好ましい。
Niは0.05%未満では残留γ相形成促進効果やCuとMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくい。一方、1.0%超えではコストアップを招く。したがって、添加する場合、Ni量は0.05%以上1.0%以下が好ましい。
Crは0.01%未満では焼き入れ性が得られにくく強度と延性のバランスが劣化する場合がある。一方、0.8%超えではコストアップを招く。したがって、添加する場合、Cr量は0.01%以上0.8%以下が好ましい。
Bは鋼の焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。0.0005%未満では焼き入れ効果が得られにくく、0.005%を超えるとSiの鋼板最表面の酸化を促進させる効果があるため、めっき密着性の劣化を招く。したがって、添加する場合、B量は0.0005%以上0.005%以下が好ましい。
Sb、Snは脱窒、脱硼等を抑制して、鋼の強度低下抑制に有効な元素である。こうした効果を得るにはそれぞれ0.001%以上とすることが好ましい。一方、Sb、Snの含有量がそれぞれ0.10%を超えると耐衝撃性が劣化する。したがって、添加する場合、Sb、Sn量はそれぞれ0.001%以上0.10%以下が好ましい。
次に、本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。本発明では、上記成分組成からなる鋼板に対して、陽極酸化処理を行い、次いで焼鈍処理を行った後に溶融めっき処理を施す。または、さらに、合金化処理を施す。
陽極酸化処理
本発明では、非水溶媒中で陽極電解処理を行う。
非水溶媒を用いることで多孔質な酸化皮膜を生成することでき、めっき密着性が向上する。
非水溶媒としては、特に限定するものはない。エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、エタノール、メタノールなどを用いることができる。
好ましくは、非水溶媒中には、フッ化物およびHOを含有する。フッ化物およびHOを含有することで、溶液に適度な皮膜溶解性を与えることができ、さらに多孔質な酸化皮膜を得ることでき、より一層めっき密着性が向上する。多孔質の酸化皮膜を得るためには、皮膜の成長と溶解を同時に進行させることが必要である。皮膜の溶解が起こらない溶液組成では緻密な薄い皮膜しか形成しない。また皮膜の成長速度よりも溶解速度が速い溶液では皮膜の形成は進行しない。そのため、非水溶媒中には、フッ化物およびHOを含有することで、さらに溶液に適度な皮膜溶解性を与える。フッ化物は特に限定するものではない。フッ化水素酸、フッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化水素ナトリウム、フッ化水素カリウム、フッ化水素アンモニウムなどを用いることができる。非水溶媒中に含有するフッ化物量は、F量として、0.01〜1.0mol/Lの範囲が好ましい。0.01mol/L未満では、陽極電解処理(陽極酸化)時の皮膜溶解性が低くなり皮膜が緻密化し十分な量の酸化皮膜を得るのが困難になる場合がある。1.0mol/L超えでは、過剰な皮膜溶解性となり酸化皮膜の形成が困難になる場合がある。非水溶媒中に含有するHO量は、皮膜の形成速度を調整する点から、1〜20vol%が好ましい。1vol%未満では、陽極電解処理(陽極酸化)時の電解電流が小さくなり、Feイオンの供給量が減少し、皮膜の成長速度が低下する場合がある。20vol%超えでは、過大な電流が流れることで過剰なFeの溶出がおこり、孔食状の素地基板の欠陥に繋がる場合がある。
以上の陽極電解処理による酸化皮膜の形成過程をまとめると、下記の反応式のように進行すると推定される。
(陽極反応)2Fe+4OH→2FeOOH+H+4e
Fe+2OH→Fe(OH)+2e
4Fe+6OH→2Fe+3H+6e
(陰極反応)2H+2e→H
ここで、陽極反応によって形成されたFeOOHまたはFe(OH)、Feは下式のように、フッ化物イオンによって溶解されると推定される。
FeOOH+6F+3H→[FeF]3−+2H
Fe(OH)+6F+2H→[FeF]3−+2HO+e
Fe+12F+6H→2[FeF]3−+3H
陽極電解処理は、鋼板を陽極として、陰極には鋼板、ステンレス鋼板、Ptなどの適当な通電材料を用いることができる。また、上記酸化皮膜を形成するためには、電解電圧は10〜100Vの間で任意に設定し、電解時間は1〜30分の間で調整することが好ましい。その際の処理液の温度は常温〜80℃の範囲が好ましく、工業的には40〜60℃が好ましい。
以上により、非水溶媒中で陽極電解処理を行い、鋼板表面に酸化皮膜を形成する。さらには、酸化皮膜として、鉄の酸化物、鉄の水酸化物、鉄の水和酸化物のいずれか一つ以上を形成することが好ましい。すなわち、FeとOを含む酸化物からなる皮膜、FeとOを含む水酸化物からなる皮膜、FeとOを含む水和酸化物からなる皮膜を鋼板表面に形成することが好ましい。
更に、めっき密着性を改善するために、形成される酸化皮膜は、O量で0.10〜10g/mであることが好ましい。0.10g/m未満では、めっき密着性を改善するための効果が十分でない場合がある。10g/m超えでは、その後の還元焼鈍において酸化膜が完全に還元できずにめっき密着性が劣化する場合がある。
酸化皮膜は、後述する方法にて形成の有無を確認することができる。
次に、焼鈍処理について説明する。
本発明では、還元雰囲気中での焼鈍処理(以下、還元焼鈍と称することもある)を行う。好ましくは、焼鈍処理は、H濃度:5〜30体積%、HO濃度:500〜5000体積ppm、残部がNおよび不可避的不純物からなる雰囲気中で、650〜900℃の温度で鋼板を加熱する。
還元焼鈍では、酸化処理で鋼板表面に形成された酸化皮膜を還元するとともに、酸化皮膜から供給される酸素によって、SiやMnの合金元素を鋼板内部に内部酸化物として形成する。結果として、鋼板最表面には酸化皮膜から還元された還元鉄層(還元鉄を中心とする層)が形成され、SiやMnは内部酸化物として鋼板内部に留まるため、鋼板表面でのSiやMnの酸化が抑制され、鋼板と溶融めっきの濡れ性の低下を防止し、不めっきがなく良好なめっき外観を得ることができる。
良好なめっき外観は得られるものの、さらに鋼鈑表面でのSiおよび/またはMnの酸化物形成の抑制を十分とし、より一層優れためっき密着性が得るために、好ましくは、焼鈍処理は、HO濃度は500〜5000ppmとする。また、通常、合金化溶融亜鉛めっき鋼鈑を製造する場合は、合金化温度が高温になるため、残留オーステナイト相のパーライト相への分解や、マルテンサイト相の焼き戻し軟化が起こり、所望の機械特性が得られない場合があるが、本発明では、焼鈍処理の際のHO濃度を500〜5000ppmとすることで、この課題も解決することが出来る。
O濃度を500〜5000ppmに制御することで、SiやMnの内部酸化を積極的に形成させることが出来る。SiやMnの内部酸化の形成によって鋼鈑表面でのSiやMnの酸化物の形成を更に抑制し、合金化処理を行わない溶融亜鉛めっき鋼鈑でのめっき密着性が一層改善し、更に、鋼板表層の固溶Si量を低下させ、合金化処理を行う場合の合金化反応を促進させることができる。SiやMnの内部酸化物を更に積極的に形成させる点から、雰囲気中のHO濃度を500ppm以上に制御することが好ましい。粒内での内部酸化を更に促進させる目的で1000ppm以上とすることがさらに好ましい。一方で、HO濃度が5000ppmを超えると、陽極電解処理で形成された酸化皮膜が還元し難くなり、還元焼鈍炉でのピックアップの危険性があるだけでなく、酸化皮膜が溶融めっき時にまで残存するとかえって鋼板と溶融亜鉛との濡れ性を低下させ、密着性不良を招く恐れがある。また、加湿のためのコストアップにも繋がる。そのため、HO濃度の上限は5000ppmとする。酸化皮膜を完全に還元させるために4000ppm以下が好ましい。
還元焼鈍炉内のHO濃度を制御する方法は特に制限されるものではないが、加熱蒸気を炉内に導入する方法や、バブリングなどによって加湿したNおよび/またはHガスを炉内に導入する方法がある。また、中空糸膜を利用した膜交換式の加湿方法は更に露点の制御性が増すために好ましい。
還元焼鈍のH濃度は5%以上30%以下が好ましい。5%未満では酸化皮膜の還元が抑制されてピックアップが発生する危険性が高まる。30%を超えるとコストアップに繋がる。
濃度5〜30%、HO濃度500〜5000ppm以外の残部はNおよび不可避的不純物である。
鋼板の加熱温度は650℃以上900℃以下が好ましい。650℃未満では酸化皮膜の還元が抑制されるだけでなく、所望する機械特性が得られない場合がある。900℃を超えても所望の機械特性が得られない場合がある。機械特性向上の点から、鋼板の加熱温度は、650〜900℃が好ましい。この温度範囲での保持時間は、10〜600秒が好ましい。なお、加熱温度は、鋼板表面の温度とする。
還元焼鈍後の鋼板は、溶融亜鉛めっき処理が施される。溶融亜鉛めっき処理は、浴中有効Al濃度:0.095〜0.175%(合金化処理を行う場合、より好ましくは0.095〜0.115%)、残部はZnおよび不可避的不純物からなる成分組成の溶融亜鉛めっき浴中で行うことが好ましい。ここで浴中有効Al濃度とは、浴中Al濃度から浴中Fe濃度を差し引いた値である。浴中有効Al濃度が0.095%未満になると合金化処理後に鋼板とめっき層の界面に固くて脆いFe−Zn合金であるΓ相が形成されるため、めっき密着性に劣る場合がある。一方、0.175%を超えると本発明を適用しても合金化温度が高くなり、所望のTS、Elなどの機会特性が得られないだけでなく、めっき浴中でのドロスの発生量が増加し、ドロスが鋼板に付着して起こる表面欠陥が問題となる。また、コストアップにも繋がる。よって、浴中有効Al濃度は0.095%以上0.175%以下が好ましい。合金化処理を行う場合、より好ましくは0.115%以下とする。
溶融亜鉛めっき時のその他の条件は制限されるものではないが、例えば、溶融亜鉛めっき浴温度は通常の440〜500℃の範囲で、板温440〜550℃で鋼板をめっき浴中に浸入させて行い、ガスワイピングなどで付着量を調整することが出来る。
溶融亜鉛めっき処理後は、必要に応じて合金化処理を行うことができる。合金化処理条件は特に制限されるものではないが、鋼板を460〜600℃で10〜60秒間加熱して処理する。600℃超になるとめっき密着性が劣化し、460℃未満では合金化が進行しない。また、高温での合金化処理は前述したように機械特性が劣化する場合があるので、合金化温度は540℃以下が更に好ましい。
合金化処理する場合、合金化度(皮膜中Fe%)は7〜15質量%になるように処理を行うことが好ましい。7質量%未満は合金化ムラが生じ外観性が劣化したり、いわゆるζ相が生成して摺動性が劣化し、15質量%超えは硬質で脆いΓ相が多量に形成しめっき密着性が劣化するため、更に望ましくは8〜13質量%である。
以上により、本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板が製造される。
表1に示す化学成分の鋼を溶製して得た鋳片を熱間圧延、酸洗、冷間圧延によって板厚1.2mmの冷延鋼板とした。
Figure 0006777045
次いで、鋼板を陽極、Pt板を陰極として表2に記載の条件で陽極電解処理を行い、鋼板表面に酸化皮膜を形成させた。この時の処理液の温度は50℃とした。次いで、表2に示す条件にて還元焼鈍処理を行った。引き続き、浴中有効Al濃度0.11%を含有した460℃の浴を用いて溶融亜鉛めっき処理を施した後にガスワイピングで片面あたりの目付け量を約50g/mに調整し溶融亜鉛めっき鋼板(GI)を製造した。さらに、めっき層中のFe含有量が10〜12%となるように460〜600℃で10〜60秒間合金化処理し合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)とした。
以上により得られた溶融亜鉛めっき鋼板(合金化溶融亜鉛めっき鋼板含む)に対して、陽極電解処理後の酸化皮膜形成の有無および酸化量、引張強度(TS)を測定した。また、めっき外観性およびめっき密着性を評価した。以下に、測定方法および評価方法を示す。
酸化皮膜形成の有無および酸化量
酸化皮膜にFeおよびOが含有していることはEDSによる元素分析によって確認した。本実施例にて形成した酸化皮膜からはいずれもFeおよびOが検出された。また、酸化量は融解赤外線吸収法により酸素量を求め、未処理材との差分から片面当りの酸素量(g/m)として算出した。
引張強度(TS)
合金化処理を施した合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を用いて、圧延方向を引張り方向としてJIS5号試験片を用いてJISZ2241に準拠した方法で行った。
めっき外観性
上記によって製造された鋼板の外観を目視観察し、合金化ムラ、不めっき、またはピックアップによる押し疵などの外観不良がないものを○、外観不良がわずかにあるがおおむね良好であるものを△、合金化ムラ、不めっき、または押し疵のいずれかがあるものは×とした。
めっき密着性
(溶融亜鉛めっき鋼板(GI))
めっき鋼板を、先端が2.0Rで90°の金型を用いて曲げ加工を加えた後に、曲げ外側にセロハンテープ(登録商標)を貼り付けて引き離した際に、めっき層の剥離が認められないものを「○」、1mm以下のめっき剥離、もしくはテープへのめっき層の付着はないが、鋼板からめっき層が浮いた状態になっているものを「△」、めっき層が1mm超えでテープに付着して剥離したものを「×」と評価した。「○」「△」を合格とした。
(合金化溶融めっき鋼板(GA))
めっき鋼板にセロハンテープ(登録商標)を貼り、テープ 面を90度曲げ、曲げ戻しをし、加工部の内側(圧縮加工側)に、曲げ加工部と平行に巾24mmのセロハンテープを押し当てて引き離し、セロハンテープの長さ40mmの部分に付着した亜鉛量を蛍光X線によるZnカウント数として測定し、Znカウント数を単位長さ(1m)当たりに換算した量を、下記の基準に照らしてランク1〜2のものを良好 (○)、3のものをおおむね良好(△)、4以上のものを不良(×)と評価した。「○」「△」を合格とした。
蛍光X線カウント数 ランク
0−500未満 :1(良)
500以上−1000未満 :2
1000以上−2000未満:3
2000以上−3000未満:4
3000以上 :5(劣)
以上により得られた結果を製造条件と併せて表2に示す。
Figure 0006777045
表2より、本発明例は、Si、Mnを含有する高強度鋼であるにもかかわらず、めっき密着性に優れ、めっき外観も良好である。一方、本発明範囲外で製造された比較例は、めっき密着性、めっき外観のいずれか一つ以上が劣る。
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板はめっき密着性に優れるため、自動車の車体そのものを軽量化かつ高強度化するための表面処理鋼板として利用することができる。

Claims (5)

  1. 質量%で、C:0.3%以下、Si:0.1〜2.5%、Mn:0.5〜8.5%、P:0.10%以下、S:0.010%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼板に対して、溶融亜鉛めっき処理を施すに際し、
    フッ化物およびH Oを含有する非水溶媒中で陽極電解処理を行い、
    次いで、還元雰囲気中で焼鈍処理を行い、
    次いで、溶融亜鉛めっき処理することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  2. 前記溶融亜鉛めっき処理後、さらに、合金化処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  3. 前記非水溶媒中に、フッ化物量をF量として、0.01〜1.0mol/L、HOを1〜20vol%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  4. 前記焼鈍処理は、H濃度:5〜30体積%、HO濃度:500〜5000体積ppm、残部がNおよび不可避的不純物からなる雰囲気中で、650〜900℃の温度で鋼板を加熱することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  5. 前記鋼板は、成分組成として、さらに、質量%で、Al:0.01〜0.1%、Mo:0.05〜1.0%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%、Cr:0.01〜0.8%、B:0.0005〜0.005%、Sb:0.001〜0.10%、Sn:0.001〜0.10%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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