HDD(ハードディスクドライブ)などに搭載されるモータでは、軸受として球軸受やころ軸受が用いられていたが、モータの小型化、低振動・低騒音化などの要請から、近年、流体軸受が開発され、その流体軸受として、動圧流体軸受や焼結含油軸受が実用化されている。
動圧流体軸受は、軸外周面とスリーブ内周面の隙間に介在する潤滑油の油膜圧力によって、回転軸を支持し、軸外周面またはスリーブ内周面の少なくともいずれか一方に動圧溝を設け、その動圧効果によって形成された潤滑油膜によって回転軸の摺動面を浮上支持するものであり、また、焼結含油軸受は、焼結金属などから構成される多孔質体に、潤滑油または潤滑グリースを含浸させて自己潤滑機能を持たせたものである。
AV・OA機器の高性能化、携帯ユースの普及などに伴い、流体軸受を備えたスピンドルモータが使用され、近年、高速化、小型化の要求が強く、そのため、流体軸受にはさらなる低トルク化の要求がある。この低トルク化の要求に対応するため、比較的低粘度の潤滑油基油が選択されてきた。低粘度の潤滑油基油としては、ポリ−α−オレフィンなどの合成炭化水素系潤滑油基油、脂肪族二塩基酸ジエステル、ネオペンチル型ポリオールエステル、脂肪酸モノエステルなどのエステル系潤滑油基油を用いた流体軸受用潤滑油基油が提案されている(特許文献1〜8)。
しかしながら、低温流動性が良好なエステル系潤滑油基油を高温下で使用した場合、潤滑油基油自体が徐々に蒸発するため、スピンドルモータを高温下で使用する場合、問題となることがあった。
本発明の軸受用潤滑油基油は、下記の一般式(1)
[式中、R1及びR2は、同一又は異なって、炭素数8〜12の直鎖状のアルキル基を示す。]
で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を含有していることを特徴とする。
上記一般式(1)におけるR1及びR2は、同一又は異なって、それぞれ炭素数8〜12の直鎖状のアルキル基であり、好ましくは、炭素数が8〜10の直鎖状のアルキル基が好ましい。
R1及びR2の具体的な例としては、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基及びn−ドデシル基が挙げられる。その中でも、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が好ましく、特に、n−ノニル基及びn−デシル基が好ましい。
本発明に係る脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の製造方法は、目的物が得られれば特にその製法に限定されない。例えば、所定の1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(又は、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸低級アルキルエステル)と所定のアルコール成分[炭素数8〜12の直鎖状脂肪族飽和アルコール]とを常法に従って、好ましくは窒素等の不活性化ガス雰囲気下において、エステル化触媒(又は、エステル交換触媒)の存在下または無触媒下で加熱撹拌しながらエステル化反応(又は、エステル交換反応)することにより調製する方法や、イソフタル酸(又はイソフタル酸の低級アルキルエステル)と所定のアルコール成分[炭素数8〜12の直鎖状脂肪族飽和アルコール]とを、常法に従って、好ましくは窒素等の不活性化ガス雰囲気下において、エステル化触媒(又はエステル交換触媒)の存在下または無触媒下で加熱撹拌しながらエステル化反応(又はエステル交換反応)した後、当該ベンゼン環を常法に従って、水素雰囲気下において、水素化触媒の存在下で核水素化反応することにより調製する方法、なども例示される。
前記炭素数8〜12の直鎖状脂肪族飽和アルコールの具体例としては、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール及び1−ドデカノールが挙げられる。その中でも、1−オクタノール、1−ノナノール及び1−デカノールが好ましく、特に、1−ノナノール及び1−デカノールが好ましい。
上記の直鎖状脂肪族飽和アルコールは、夫々単独で又は2種以上を適宜組み合わせることができる。
前記1,3−シクロヘキサンジカルボン酸とアルコール成分とをエステル化反応を行うに際し、該アルコール成分は、例えば、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸1モルに対して2〜5モル、好ましくは2.01〜3モル、特に2.02〜2.5モルの範囲で使用することが好ましい(換言すると、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸1当量に対して1〜2.5当量、好ましくは1.005〜1.5当量、特に1.01〜1.25当量の範囲で使用することが好ましい)。
エステル化反応に用いる触媒としては、鉱酸、有機酸又はルイス酸類等が例示される。より具体的には、鉱酸として、硫酸、塩酸、燐酸が例示され、有機酸としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等が例示され、ルイス酸としては、アルミニウム誘導体、スズ誘導体、チタン誘導体、鉛誘導体、亜鉛誘導体が例示され、これらの1種又は2種以上を併用することが可能である。
それらの中でも、p−トルエンスルホン酸、炭素数3〜8のテトラアルキルチタネート、酸化チタン、水酸化チタン、炭素数3〜12の脂肪酸スズ、酸化スズ、水酸化スズ、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化鉛、水酸化鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムが特に好ましい。その使用量は、例えば、エステル合成原料である酸成分およびアルコール成分の総重量に対して、0.01〜5.0重量%、好ましくは0.01〜4.0重量%、特に0.01〜3.0重量%を使用することが推奨される。
反応温度としては、100〜250℃が例示され、通常、3〜30時間でエステル化反応は完結する。
本エステルの原料の酸成分である、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸は、特に制限はなく、公知の方法で製造したものや、市販品、試薬等で入手できるものなどが使用できる。
また、エステル交換反応とは、上記アルコール成分と1,3−シクロヘキサンジカルボン酸低級アルキルエステル酸とのエステル交換反応を意味し、そのエステル交換反応を行うに際し、該アルコール成分は、例えば、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸低級アルキルエステル1モルに対して、好ましくは2.00〜5.00モル、より好ましくは2.01〜3.00モル、特に2.02〜2.50モルを使用することが推奨される。
エステル交換反応に用いる触媒としては、ルイス酸類又はアルカリ金属類等が例示される。より具体的には、ルイス酸としては、アルミニウム誘導体、スズ誘導体、チタン誘導体、鉛誘導体、亜鉛誘導体が例示され、アルカリ金属類としてはナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が例示され、これらの1種又は2種以上を併用することが可能である。
その中でも、炭素数3〜8のテトラアルキルチタネート、酸化チタン、水酸化チタン、炭素数1〜4のナトリウムアルコキシド、水酸化ナトリウム、炭素数3〜12の脂肪酸スズ、酸化スズ、水酸化スズ、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化鉛、水酸化鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムが特に好ましい。その使用量は、例えば、エステル合成原料である酸成分およびアルコール成分の総重量に対して、0.01〜5.0重量%、好ましくは0.02〜4.0重量%、特に0.03〜3.0重量%を使用することが推奨される。
エステル交換反応の温度としては、100〜250℃が例示され、通常、3〜30時間で反応は完結する。
本エステルの原料の酸成分である、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸低級アルキルエステルは、特に制限はなく、公知の方法で製造したものや、市販品、試薬等で入手できるものなどが使用できる。
1,3−シクロヘキサンジカルボン酸低級アルキルエステルの具体的な例としては、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジエチル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(イソプロピル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジブチルが挙げられる。
エステル化反応又はエステル交換反応においては、反応により生成する水又は低級アルコールの留出を促進するために、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどのエントレーナー又は同伴剤を使用することが可能である。
また、エステル化反応又はエステル交換反応時に、原料、生成エステル及び有機溶媒(水同伴剤)の酸化劣化により酸化物、過酸化物、カルボニル化合物などの含酸素有機化合物を生成すると耐熱性、耐候性等に悪影響を与える。その悪影響の抑制及び安全性の観点から、系内を窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下又は不活性ガス気流下で、常圧ないし減圧下にて当該反応を行うことが望ましい。エステル化反応又はエステル交換反応終了後、通常、過剰の原料アルコールを減圧下または常圧下にて留去する。
上記反応により得られた脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の反応粗物は、通常、引き続き、後処理を行うことで精製される。例えば、触媒の不活性化処理(中和処理、塩基処理、酸処理等)、水洗処理、液液抽出、蒸留(減圧、脱水処理)、吸着精製処理等の本技術分野で採用される処理方法を単独で又は適宜組み合わせることにより精製することができる。
塩基処理に用いる塩基としては、塩基性の化合物であれば特に制約はなく、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどが例示される。
吸着精製処理に用いる吸着剤としては、活性炭、活性白土、活性アルミナ、ハイドロタルサイト、シリカゲル、シリカアルミナ、ゼオライト、マグネシア、カルシア、珪藻土などが例示される。それらを1種で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
上記処理は、常温で行なっても良いが、40〜95℃程度に加温して行なうこともできる。
また、別法として、エステル化反応又はエステル交換反応で得られる、イソフタル酸ジアルキルエステル[炭素数8〜12の直鎖状アルキル基]を、当該ベンゼン環を常法に従って、水素雰囲気下において、水素化触媒の存在下で核水素化反応することにより調製する方法も例示される。
水素化触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの卑金属、ロジウム、ルテニウム、白金、パラジウムなどの貴金属などが触媒として使用できる。
卑金属としては、0価の金属に限らず、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、臭化物、酸化物、水酸化物等の無機化合物、アセチルアセトナート化合物、アミン化合物、ホスフィン化合物、カルボニル化合物との錯体等が挙げられる。
さらに、上記卑金属の他に、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、チタン、クロム、マンガン、パラジウム、銀、スズ、バリウム、モリブテン等の1種以上を添加した変性触媒として使用することもできる。
上記卑金属触媒はそのままで使用することができるが、通常、スポンジメタル型触媒又は担体担持型触媒として使用される。
スポンジメタル型触媒としては、従来公知或いは市販されているものが広く使用でき、例えば、スポンジニッケル触媒、スポンジコバルト触媒、スポンジ銅触媒、スポンジ鉄触媒、スポンジ亜鉛触媒等が挙げられ、この中でもスポンジニッケル触媒、スポンジコバルト触媒が好ましく、選択率が高い点から、特にスポンジニッケル触媒が好ましい。
スポンジメタル型触媒は、展開後の含水状態のものから、水分を適当な溶媒で置換した後に使用することが好ましい。水分を置換する際に使用する溶媒としては、水と相溶し、水素化生成物に悪影響を及ぼさない溶媒であれば、特に限定されない。
担体担持型触媒としては、従来公知或いは市販されているものが広く使用でき、例えば、安定化ニッケル触媒、耐硫黄性ニッケル触媒、フレークニッケル触媒、担持コバルト触媒等が挙げられる。この中でも安定化ニッケル触媒、耐硫黄性ニッケル触媒が好ましい。
該担体担持型触媒に使用される坦体としては、珪藻土、軽石、活性炭、グラファイト、シリカゲル、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、ゼオライト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が例示され、なかでも珪藻土、アルミナ等が好ましい。これらの坦体は、1種でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
該担体担持型触媒の卑金属成分の担持量は、特に限定されないが、触媒の総重量に対して、卑金属分として、通常、1〜90重量%程度、好ましくは20〜80重量%である。
これらの担体担持触媒の製造方法は特に限定されず、例えば、含浸法、共沈法等の従来公知の方法により容易に製造することができる。通常は、市販されているものをそのまま、或いは、使用する前に還元処理等の適当な活性化処理をした後で反応に供することができる。
これら卑金属触媒の形態は特に限定されず、選択される反応方式に応じて粉末状、成型触媒など適宜選択して使用される。粉末状の触媒は、通常、回分或いは連続の懸濁床の水素化反応に用いられ、成型触媒は、固定床連続式の水素化反応に使用される。また、成型触媒としては、使用する反応器の大きさにより適宜選択されるが、通常は直径2〜6mm、高さ2〜8mmの範囲の円柱状が好ましい。
水素化反応に用いられる卑金属触媒の使用量は、通常、原料に対して、0.1〜50重量%の範囲であり、好ましくは0.5〜20重量%、特に好ましくは1〜10重量%が推奨される。この範囲内において、経済的に有利かつ十分な反応速度で水素化反応を行うことができる。
上記貴金属としては、従来公知のものが広く使用できるが、具体的には、0価の金属、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、臭化物、酸化物、水酸化物等の各種該金属含有無機物化合物、アセチルアセトナート化合物等の各種該金属含有有機物、アミン錯体、ホスフィン錯体、カルボニル化合物等の各種該金属含有錯体化合物などが例示される。これらは、それぞれ単独で又は2種以上組み合わせて触媒として使用することもできる。
上記貴金属触媒は、そのままで使用することもできるが、通常、担体担持触媒として使用することが好ましい。担体担持触媒としては、従来公知或いは市販されているものでもよく、具体的には、珪藻土、軽石、カーボン(グラファイト、活性炭等)、シリカゲル、アルミナ、ハイドロタルサイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、ゼオライト、炭酸カルシウム及びこれらの混合物等が例示される。これらのうち特に、カーボン担持触媒が、反応性や選択性の点で好ましい。
担体担持触媒の貴金属成分の担持量は、特に限定されないが、触媒の総重量に対して、貴金属として、通常0.1〜10重量%程度、好ましくは0.5〜5重量%である。担持量が0.1重量%未満では、触媒重量あたりの活性が低下し、触媒を多量に使用する必要が生じて設備的にも経済的にも不利である。また、10重量%を超えた貴金属触媒では、担持した貴金属量に見合う反応速度の向上は得られずあまり好ましくない。
貴金属触媒の使用量としては、特に限定されないが、原料に対して、貴金属として0.01〜5重量%が例示され、より好ましくは0.05〜2重量%である。
これらの貴金属触媒の形態は、特に限定されず、選択される反応方式に応じて粉末状、タブレット状等適宜選択して使用される。具体的には、回分或いは連続の懸濁床反応には粉末触媒が、また、固定床反応にはタブレット触媒が好適に使用される。
水素化反応の反応温度は、触媒の種類、触媒量、水素圧力等により異なり、一概にはいえないが、50〜280℃の範囲が好ましく、特に70〜250℃が推奨される。水素化反応時の水素分圧としては、広い範囲から選択することができるが、0.5〜20MPaの範囲、特に1〜10MPaの範囲が好ましい。反応時間は、触媒の種類、触媒量や諸条件によって異なるが、通常1〜12時間程度である。
反応形式としては、回分反応、連続反応いずれの方法でもよく、また流動床、固定床のいずれも選択することができる。
水素化反応終了後は、濾過、遠心分離等公知の方法により触媒を分離除去した後、必要に応じて上記記載の「エステル化粗物」の後処理工程を行ない、本発明に係る脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を得ることができる。
脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の酸価としては、好ましくは0.1mgKOH/g以下、より好ましくは0.05mgKOH/g以下が推奨される。酸価が0.1mgKOH/g以下のときには、得られる脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の耐熱性がより向上する傾向が認められる。このような好ましい範囲では、本発明の潤滑油の耐熱酸化安定性の向上にもより好影響を与える。酸価を低減する方法としては、反応を十分に進行させる方法や、後処理工程でのアルカリ成分で中和・水洗する方法(上記のアルカリ水溶液による洗浄(中和)及び水による洗浄を行う工程)などが例示される。
一般式(1)で表される脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の具体的な例としては、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−オクチル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−ノニル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−デシル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(n−オクチル)(n−ノニル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(n−オクチル)(n−デシル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(n−オクチル)(n−ウンデシル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(n−オクチル)(n−ウンデシル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(n−オクチル)(n−ドデシル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(n−ノニル)(n−デシル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(n−ノニル)(n−ウンデシル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(n−ノニル)(n−ドデシル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(n−デシル)(n−ウンデシル)が挙げられる。その中でも、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−オクチル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−ノニル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−デシル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(n−ノニル)(n−デシル)が好ましく、特に、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−ノニル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−デシル)が好ましい。
上記の脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物は、夫々単独で又は2種以上を適宜組み合わせることができる。
本発明の軸受用潤滑油基油は、上記一般式(1)で表わされる脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を含有する軸受用潤滑油基油である。
本発明の軸受用潤滑油基油の動粘度(40℃)は、8〜25mm2/sの範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜20mm2/sの範囲である。40℃での動粘度が8mm2/s未満では、潤滑性能が低下する傾向が認められ、25mm2/sを超えるとエネルギー損失が大きくなる傾向が認められる。なお、上記動粘度は、後記実施例に記載した方法にて得られる値である。
本発明の軸受用潤滑油基油の粘度指数は、140以上が好ましく、さらに好ましくは150以上である。粘度指数が高いものほど粘度−温度特性に優れる。なお、上記粘度指数は、後記実施例に記載した方法にて得られる値である。
本発明の軸受用潤滑油基油の低温流動性は、例えば、低温流動性試験による流動点によって評価することができる。本発明の潤滑油基油の流動点は、−5.0℃以下が好ましく、さらに好ましくは−7.5℃以下である。流動点が低いものほど低温流動性に優れる。なお、上記流動点は、後記実施例に記載した低温流動性試験にて得られる値である。
本発明の軸受用潤滑油基油の耐蒸発性は、例えば、TG−DTA装置を用いた5%重量減少した時の温度を指標として評価することができる。本発明において5%重量減の温度は、265℃以上が好ましく、さらに好ましくは275℃以上である。5%重量減の温度が高いものほど耐蒸発性に優れる。なお、上記5%重量減の温度は、後記実施例に記載した耐蒸発性試験にて得られる値である。
本発明の軸受用潤滑油基油は、動圧流体軸受用又は焼結含油軸受用潤滑油基油として好適に用いられる。
本発明の軸受用潤滑油基油は、併用基油として鉱物油(石油の精製によって得られる炭化水素油)、ポリ−α−オレフィン、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、脂環式炭化水素油、フィッシャートロプシュ法によって得られる合成炭化水素の異性化油などの合成炭化水素油、動植物油、本脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物以外の有機酸エステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、シリコーン油などの併用基油の少なくとも1種を適宜併用することができる。
鉱物油としては、溶剤精製鉱油、水素化精製鉱油、ワックス異性化油が挙げられるが、通常、100℃における動粘度が1.0〜25mm2/s、好ましくは2.0〜20.0mm2/sの範囲にあるものが用いられる。
ポリ−α−オレフィンとしては、炭素数2〜16のα−オレフィン(例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1ーヘキサデセン等)の重合体又は共重合体であって、100℃における動粘度が1.0〜25mm2/s、粘度指数が100以上のものが例示され、特に100℃における動粘度が1.5〜20.0mm2/sで、粘度指数が120以上のものが好ましい。
ポリブテンとしては、イソブチレンを重合したもの、イソブチレンをノルマルブチレンと共重合したものがあり、一般に100℃の動粘度が2.0〜40mm2/sの広範囲のものが挙げられる。
アルキルベンゼンとしては、炭素数1〜40の直鎖又は分岐のアルキル基で置換された、分子量が200〜450であるモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、トリアルキルベンゼン、テトラアルキルベンゼン等が例示される。
アルキルナフタレンとしては、炭素数1〜30の直鎖又は分岐のアルキル基で置換されたモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン等が例示される。
動植物油としては、牛脂、豚脂、パーム油、ヤシ油、ナタネ油、ヒマシ油、ヒマワリ油等が例示される。
有機酸エステルとしては、脂肪酸モノエステル、脂肪族二塩基酸ジエステル、脂肪族二価アルコールジエステル、ポリオールエステル及びその他のエステルが例示される。
脂肪酸モノエステルとしては、炭素数5〜22の脂肪族直鎖状又は分岐鎖状モノカルボン酸と炭素数3〜22の直鎖状又は分岐鎖状の飽和若しくは不飽和の脂肪族アルコールとのエステルが挙げられる。
脂肪族二塩基酸ジエステルとしては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナメチレンジカルボン酸、1,10−デカメチレンジカルボン酸等脂肪族二塩基酸若しくはその無水物と炭素数3〜22の直鎖状又は分岐鎖状の飽和若しくは不飽和の脂肪族アルコールとのフルエステルが挙げられる。
脂肪族二価アルコールジエステル及びポリオールエステルとしては、ネオペンチルグリコール、2,2−ジエチルプロパンジオール、2−ブチル2−エチルプロパンンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等のネオペンチル型構造のポリオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2−メチル−1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、1,6−ヘプタンジオール、2−メチル−1,7−ヘプタンジオール、3−メチル−1,7−ヘプタンジオール、4−メチル−1,7−ヘプタンジオール、1,7−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、3−メチル−1,8−オクタンジオール、4−メチル−1,8−オクタンジオール、1,8−ノナンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,9−ノナンジオール、4−メチル−1,9−ノナンジオール、5−メチル−1,9−ノナンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、グリセリン、ポリグリセリン、ソルビトール等の非ネオペンチル型構造のポリオールと炭素数3〜22の直鎖状及び/又は分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪酸とのフルエステルを使用することが可能である。
その他のエステルとしては、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、或いは、縮合ヒマシ油脂肪酸、水添縮合ヒマシ油脂肪酸などのヒドロキシ脂肪酸と炭素数3〜22の直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールとのエステルが挙げられる。
ポリアルキレングリコールとしては、アルコールと炭素数2〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンオキシドの開環重合体が例示される。アルキレンオキシドとしてはエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドが挙げられ、これらの1種を用いた重合体、若しくは2種以上の混合物を用いた共重合体が使用可能である。又、片端又は両端の水酸基部分がエーテル化した化合物も使用可能である。重合体の動粘度としては、好ましくは5.0〜1000mm2/s(40℃)、より好ましくは5.0〜500mm2/s(40℃)が推奨される。
ポリビニルエーテルとしては、ビニルエーテルモノマーの重合によって得られる化合物であり、モノマーとしてはメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、n−ペンチルビニルエーテル、n−ヘキシルビニルエーテル、2−メトキシエチルビニルエーテル、2−エトキシエチルビニルエーテル等が挙げられる。重合体の動粘度としては、好ましくは5.0〜1000mm2/s(40℃)、より好ましくは5.0〜500mm2/s(40℃)が推奨される。
ポリフェニルエーテルとしては、2個以上の芳香環のメタ位をエーテル結合又はチオエーテル結合でつないだ構造を有する化合物が挙げられ、具体的には、ビス(m−フェノキシフェニル)エーテル、m−ビス(m−フェノキシフェノキシ)ベンゼン、及びそれらの酸素の1個若しくは2個以上を硫黄に置換したチオエーテル類(通称C−エーテル)等が例示される。
アルキルフェニルエーテルとしては、ポリフェニルエーテルを炭素数6〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基で置換した化合物が挙げられ、特に1個以上のアルキル基で置換したアルキルジフェニルエーテルが好ましい。
シリコーン油としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンのほか、長鎖アルキルシリコーン、フルオロシリコーン等の変性シリコーンが挙げられる。
本発明の軸受用潤滑油基油中における併用基油の含有量としては、30重量%以下が推奨され、好ましくは20重量%以下、特に10重量%以下が好ましい。
本発明の軸受用潤滑油組成物は、本発明の軸受用潤滑油基油及び酸化防止剤を含有する組成物である。
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビスフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジ(α−メチルシクロヘキシル)−5,5’−ジメチル−ジフェニルメタン、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,5−ジ−tert−アミルヒドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、1,4−ジヒドロキシアントラキノン、3−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,4−ジベンゾイルレゾルシノール、4−tert−ブチルカテコール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,4,5−トリヒドロキシベンゾフェノン、α−トコフェロール、ビス[2−(2−ヒドロキシ−5−メチル−3−tert−ブチルベンジル)−4−メチル−6−tert−ブチルフェニル]テレフタレート、トリエチレングリコールビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ジフェニルアミン、モノブチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、モノペンチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、モノヘキシル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、モノヘプチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、モノオクチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン等のモノアルキルジフェニルアミン、特にモノ(C4−C9アルキル)ジフェニルアミン(即ち、ジフェニルアミンの二つのベンゼン環の一方が、アルキル基、特にC4−C9アルキル基でモノ置換されているもの、即ち、モノアルキル置換されたジフェニルアミン)、p,p’−ジブチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’−ジペンチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’−ジヘキシル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’−ジヘプチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’−ジオクチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’−ジノニル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン等のジ(アルキルフェニル)アミン、特にp,p’−ジ(C4−C9アルキルフェニル)アミン(即ち、ジフェニルアミンの二つのベンゼン環の各々が、アルキル基、特にC4−C9アルキル基でモノ置換されているジアルキル置換のジフェニルアミンであって、二つのアルキル基が同一であるもの)、ジ(モノC4−C9アルキルフェニル)アミンであって、一方のベンゼン環上のアルキル基が他方のベンゼン環上のアルキル基と異なるもの、ジ(ジ−C4−C9アルキルフェニル)アミンであって、二つのベンゼン環上の4つのアルキル基のうちの少なくとも1つが残りのアルキル基と異なるもの等のジフェニルアミン類;N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、4−オクチルフェニル−1−ナフチルアミン、4−オクチルフェニル−2−ナフチルアミン等のナフチルアミン類;p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン類等が例示される。この中でも、特に、p,p’−ジオクチル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、p,p’−ジノニル(直鎖及び分岐鎖を含む)ジフェニルアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、チオジプロピオン酸ジ(n−ドデシル)、チオジプロピオン酸ジ(n−オクタデシル)等のチオジプロピオン酸エステル、フェノチアジン等の硫黄系化合物等が例示される。
これらの中でも、好ましくはフェノール系酸化防止剤及び/又はアミン系酸化防止剤が推奨される。これらの酸化防止剤は、単独で又は適宜2種以上組み合わせて用いることができる。酸化防止剤の含有量は、通常、潤滑油基油に対して0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%程度添加することが望ましい。
ここで、本明細書及び特許請求の範囲において、「潤滑油基油に対して0.01〜5重量%」のように、「潤滑油基油に対して」との表現を用いて、添加剤の配合量の範囲を規定している場合がある。この場合に用いる「潤滑油基油」は、本発明に係る脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物のみからなる軸受用潤滑油基油又は脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物と併用基油との混合物からなる軸受用潤滑油基油の何れかの意味で用いている。そしてまた、「潤滑油基油に対して0.01〜5重量%」の例で言えば、潤滑油基油100重量部に対して、0.01〜5重量部という意味と同義である。
本発明の軸受用潤滑油組成物には、その性能を向上させるために、さらに、金属清浄剤、無灰分散剤、油性剤、摩耗防止剤、極圧剤、金属不活性剤、防錆剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、加水分解抑制剤、増ちょう剤、腐食防止剤、色相安定剤等の添加剤の少なくとも1種を適宜配合することが可能である。これらの配合量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、その具体的な例を以下に示す。
金属清浄剤としては、Ca−石油スルフォネート、過塩基性Ca−石油スルフォネート、Ca−アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Ca−アルキルベンゼンスルフォネート、Ba−アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Ba−アルキルベンゼンスルフォネート、Mg−アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Mg−アルキルベンゼンスルフォネート、Na−アルキルベンゼンスルフォネート、過塩基性Na−アルキルベンゼンスルフォネート、Ca−アルキルナフタレンスルフォネート、過塩基性Ca−アルキルナフタレンスルフォネート等の金属スルフォネート、Ca−フェネート、過塩基性Ca−フェネート、Ba−フェネート、過塩基性Ba−フェネート等の金属フェネート、Ca−サリシレート、過塩基性Ca−サリシレート等の金属サリシレート、Ca−フォスフォネート、過塩基性Ca−フォスフォネート、Ba−フォスフォネート、過塩基性Ba−フォスフォネート等の金属フォスフォネート、過塩基性Ca−カルボキシレート等が使用可能である。金属清浄剤を使用する場合、通常、潤滑油基油に対して1〜10重量%程度、好ましくは2〜7重量%程度添加することが望ましい。
無灰分散剤としては、ポリアルケニルコハク酸イミド、ポリアルケニルコハク酸アミド、ポリアルケニルベンジルアミン、ポリアルケニルコハク酸エステル等が例示される。これらの無灰分散剤は、単独で又は組合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、潤滑油基油に対して1〜10重量%、好ましくは2〜7重量%程度添加することが望ましい。
油性剤としては、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミド、バチルアルコール、キミルアルコール、セラキルアルコールなどのグリセリンエーテル、ラウリルポリグリセリンエーテル、オレイルポリグリセリルエーテルなどのアルキル若しくはアルケニルポリグリセリルエーテル、ジ(2−エチルヘキシル)モノエタノールアミン、ジイソトリデシルモノエタノールアミンなどのアルキル若しくはアルケニルアミンのポリ(アルキレンオキサイド)付加物等が例示される。これらの油性剤は、単独で又は組合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、潤滑油基油に対して0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%程度添加することが望ましい。
摩耗防止剤・極圧剤としては、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、アルキルフェニルホスフェート類、トリブチルホスフェート、ジブチルホスフェート等のリン酸エステル類、トリブチルホスファイト、ジブチルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト等の亜リン酸エステル類及びこれらのアミン塩等のリン系、硫化油脂、硫化オレイン酸などの硫化脂肪酸、ジベンジルジスルフィド、硫化オレフィン、ジアルキルジスルフィドなどの硫黄系、Zn−ジアルキルジチオフォスフェート、Zn−ジアルキルジチオフォスフェート、Mo−ジアルキルジチオフォスフェート、Mo−ジアルキルジチオカルバメートなどの有機金属系化合物等が例示される。これらの摩耗防止剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、潤滑油基油に対して0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%程度添加することが望ましい。
金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール系、チアジアゾール系、没食子酸エステル系の化合物等が例示される。これらの金属不活性剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、潤滑油基油に対して0.01〜0.4重量%、好ましくは0.01〜0.2重量%程度添加することが望ましい。
防錆剤としては、ドデセニルコハク酸ハーフエステル、オクタデセニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸アミドなどのアルキル又はアルケニルコハク酸誘導体、ソルビタンモノオレエート、グリセリンモノオレエート、ペンタエリスリトールモノオレエートなどの多価アルコール部分エステル、Ca−石油スルフォネート、Ca−アルキルベンゼンスルフォネート、Ba−アルキルベンゼンスルフォネート、Mg−アルキルベンゼンスルフォネート、Na−アルキルベンゼンスルフォネート、Zn−アルキルベンゼンスルフォネート、Ca−アルキルナフタレンスルフォネートなどの金属スルフォネート、ロジンアミン、N−オレイルザルコシンなどのアミン類、ジアルキルホスファイトアミン塩等が例示される。これらの防錆剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、潤滑油基油に対して0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜2重量%程度添加することが望ましい。
粘度指数向上剤としては、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体などのオレフィン共重合体が例示される。これらの粘度指数向上剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、潤滑油基油に対して0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜7重量%程度添加することが望ましい。
流動点降下剤としては、塩素化パラフィンとアルキルナフタレンの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールの縮合物、既述の粘度指数向上剤であるポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリブテン等が例示される。これらの流動点降下剤は、単独で又は組み合わせて用いてもよく、これを使用する場合、通常、潤滑油基油に対して0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%程度添加することが望ましい。
消泡剤としては、液状シリコーンが適しており、これを使用する場合、その添加量は、通常、潤滑油基油に対して0.0005〜0.01重量%程度である。
加水分解抑制剤としては、アルキルグリシジルエーテル類、アルキルグリシジルエステル類、アルキレングリコールグリシジルエーテル類、脂環式エポキシ類、フェニルグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物、ジ−tert−ブチルカルボジイミド、1,3−ジ−p−トリルカルボジイミドなどのカルボジイミド化合物が使用可能であり、通常、潤滑油基油に対して0.05〜2重量%程度である。
本発明の軸受用潤滑油基油に増ちょう剤を適宜組み合わせることにより、「グリース」とすることができる。
増ちょう剤としては、ナトリウム石鹸、リチウム石鹸、カルシウム石鹸、カルシウムコンプレックス石鹸、アルミニウムコンプレックス石鹸、リチウムコンプレックス石鹸等の石鹸系や、ベントナイト、シリカエアロゲル、ナトリウムテレフタラメート、ウレア化合物、ポリテトラフルオロエチレン、窒化ホウ素等の非石鹸系が挙げられる。
金属石けん系増ちょう剤としては、リチウム−12−ヒドロキシステアレート等の水酸基を有する脂肪族カルボン酸リチウム塩、リチウムステアレート等の脂肪族カルボン酸リチウム塩またはそれらの混合物などが例示される。
複合体金属石けん系増ちょう剤としては、水酸基を有する1価の脂肪族カルボン酸金属塩と2価の脂肪族カルボン酸金属塩とのコンプレックス等が挙げられ、具体的には複合体リチウム石けんや複合体アルミニウム石けんが例示される。
ウレア化合物としては、脂環族、芳香族、脂肪族、ジウレア、トリウレア、テトラウレア、ウレア・ウレタン化合物等が例示される。
上記の中でも、増ちょう剤として、リチウム石鹸、リチウムコンプレックス石鹸、ウレア化合物が好ましく、耐熱性の点から特にウレア化合物が好ましい。
これらの増ちょう剤は1種でまたは適宜2種以上を組み合わせて用いることができ、その添加量は所定の効果を奏する限り特に限定されるものではない。
腐食防止剤としては、ナトリウムスルホネートやソルビタンエステルが例示され、通常、潤滑油基油に対して0.1〜3.0重量%程度添加される。
色相安定剤としては、置換ハイドロキノン、フルフラールアジン等が例示され、通常、潤滑油基油に対して0.01〜0.1重量%程度添加される。
かくして得られる本発明の軸受用潤滑油基油は、上述の通り、低粘度、高粘度指数であり、かつ、良好な低温流動性を維持しつつ、耐蒸発性の良好なことから、軸受用潤滑油基油として好適である。
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例および比較例中の各特性の測定方法は以下の通りである。特に言及していない化合物は試薬を使用した。
<化合物>
原料
・1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(東京化成工業株式会社製)
・ヘキサヒドロフタル酸無水物:「リカシッド HH」(新日本理化株式会社製)
・1,4−シクロヘキサンジカルボン酸:「リカシッド CHDA」(新日本理化株式会社製)
・1−オクタノール:「コノール 10WS」(新日本理化株式会社製)
・1−ノナノール(東京化成工業株式会社製)
・1−デカノール(東京化成工業株式会社製)
エステル化合物
・アジピン酸ジイソデシル:「サンソサイザー DIDA」(新日本理化株式会社製)
・セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル):「サンソサイザー DOS」(新日本理化株式会社製)
酸化防止剤
・フェノール系酸化防止剤 4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)(東京化成工業株式会社製)以下「MBDBP」と略す。
・アミン系酸化防止剤 p,p’−ジオクチルジフェニルアミン:「VANLUBE 81」(Vanderbilt Chemicals,LLC社製)以下「DODPA」と略す。
[脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物]
<酸価(AV)>
JIS K2501(2003)に準拠して測定した。
<ガスクロマトグラフィー(GC)による分析>
脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物の組成分析はガスクロマトグラフィー(GC)により行った。
[測定条件]
機器:島津製作所製 GC−2014
カラム:ジーエル サイエンス株式会社製TC−5 30mx0.25mm×0.25μm
カラム温度:60〜300℃(昇温速度10℃/min)
インジェクション温度/検出器温度:305℃/305℃
検出器:FID
キャリアガス:ヘリウム
ガス線速度:27.4cm/sec
試料:1重量%のアセトン溶液
注入量:1μl
定量:フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)を内部標準物質として用いて定量した。
[潤滑油基油の物性測定]
<動粘度および粘度指数の測定法>
JIS K2283(2000)に準拠して、40℃、100℃における動粘度を測定し、得られた測定値から粘度指数を算出した。
<低温流動性試験(流動点)の測定法>
JIS K2269(1987)に準拠して流動点を測定した。
<耐蒸発性試験>
軸受用潤滑油基油約10mgを精秤し(小数点以下第3位まで)、TG−DTA装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 装置名;EXSTAR 6000シリーズ、TG/DTA6200)にセットし、下記の測定条件下で、初期の重量から5%の重量が減少した時の温度(5%重量減の温度)を耐蒸発性の指標とした。5%重量減の温度が265℃以上のときに耐蒸発性に優れていると評価される。
[測定条件]
昇温速度:10℃/分
流通窒素量:200ml/分
測定開始温度:50℃
[実施例1]
撹拌器、温度計、冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコに1,3−シクロヘキサンジカルボン酸1.26mol、原料アルコールとして1−オクタノール2.77mol、キシレン 20g、エステル化触媒として酸化スズ0.15gを仕込み、フラスコ内を窒素置換した後、徐々に220℃まで昇温した。理論生成水量(45.4g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しつつ、キシレンが還流するように減圧度を調整しながら、エステル化反応を行い、酸価が0.5mgKOH/g以下となるまで反応を行った。反応終了後、キシレン及び残存する原料アルコールを蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物の酸価に対して2倍当量の苛性ソーダ水溶液で中和した後、水洗水が中性になるまで水洗を繰り返した。得られたエステル化粗物に活性炭を加えて吸着精製処理したのち、濾過をして1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−オクチル)を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物は、酸価が0.01mgKOH/g以下であった。また、GC分析の結果純度が98.6重量%であった。当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物(以下「1,3−CH/n−C8」という)を軸受用潤滑油基油として評価した際の各物性を表1に示す。
[実施例2]
1−オクタノールを1−ノナノール2.77molに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−ノニル)を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物は、酸価が0.01mgKOH/g以下であった。また、GC分析の結果純度が99.4重量%であった。当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物(以下「1,3−CH/n−C9」という)を軸受用潤滑油基油として評価した際の各物性を表1に示す。
[実施例3]
1−オクタノールを1−デカノール2.77molに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−デシル)を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物は、酸価が0.01mgKOH/g以下であった。また、GC分析の結果純度が98.4重量%であった。当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物(以下「1,3−CH/n−C10」という)を軸受用潤滑油基油として評価した際の各物性を表1に示す。
[実施例4]
1−オクタノールを1−ノナノール1.39molと1−デカノール1.39molに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物は、酸価が0.01mgKOH/g以下であった。また、また、GC分析の結果、以下の通りであった。
1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−ノニル):21.3重量%
1,3−シクロヘキサンジカルボン酸(n−ノニル)(n−デシル):50.5重量%
1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−デシル):27.7重量%
当該脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物(以下「1,3−CH/n−C9,C10」という)を軸受用潤滑油基油として評価した際の各物性を表1に示す。
[実施例5]
軸受用潤滑油基油として1,3−CH/n−C10100重量部、及び酸化防止剤としてMBDBP0.5重量部を60℃で混合し軸受用潤滑油組成物を調製した。当該軸受用潤滑油組成物を評価した際の各物性を表1に示す。
[実施例6]
軸受用潤滑油基油として1,3−CH/n−C10100重量部、及び酸化防止剤としてDODPA0.5重量部を60℃で混合し軸受用潤滑油組成物を調製した。当該軸受用潤滑油組成物を評価した際の各物性を表1に示す。
[実施例7]
軸受用潤滑油基油として1,3−CH/n−C10100重量部、酸化防止剤としてMBDBP0.5重量部及びDODPA0.5重量部を60℃で混合し軸受用潤滑油組成物を調製した。当該軸受用潤滑油組成物を評価した際の各物性を表1に示す。
[比較例1]
撹拌器、温度計、冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコにヘキサヒドロフタル酸無水物1.26mol、原料アルコールとして1−オクタノール2.77mol、キシレン 20g、エステル化触媒として酸化スズ0.15gを仕込み、フラスコ内を窒素置換した後、徐々に220℃まで昇温した。理論生成水量(22.7g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しつつ、キシレンが還流するように減圧度を調整しながら、エステル化反応を行い、酸価が0.5mgKOH/g以下となるまで反応を行った。反応終了後、キシレン及び残存する原料アルコールを蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物の酸価に対して2倍当量の苛性ソーダ水溶液で中和した後、水洗水が中性になるまで水洗を繰り返した。得られたエステル化粗物に活性炭を加えて吸着精製処理したのち、濾過をして1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−オクチル)を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステルは、酸価が0.01mgKOH/g以下であった。また、GC分析の結果純度が98.6重量%であった。当該脂環式ジカルボン酸ジエステル(以下「1,2−CH/n−C8」という)を軸受用潤滑油基油として評価した際の各物性を表2に示す。
[比較例2]
1−オクタノールを1−デカノール2.77molに変更したこと以外は比較例1と同様の方法で1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−デシル)を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステルは、酸価が0.01mgKOH/g以下であった。また、GC分析の結果純度が98.5重量%であった。当該脂環式ジカルボン酸ジエステル(以下「1,2−CH/n−C10」という)を軸受用潤滑油基油として評価した際の各物性を表2に示す。
[比較例3]
ヘキサヒドロフタル酸無水物を1,4−シクロヘキサンジカルボン酸1.26molに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(n−オクチル)を得た。得られた脂環式ジカルボン酸ジエステルは、酸価が0.01mgKOH/g以下であった。また、GC分析の結果純度が98.6重量%であった。当該脂環式ジカルボン酸ジエステル(以下「1,4−CH/n−C8」という)を軸受用潤滑油基油として評価した際の各物性を表2に示す。
[比較例4]
アジピン酸ジイソデシル(DIDA)を軸受用潤滑油基油として評価した際の各物性値を表2に示す。
[比較例5]
セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOS)を軸受用潤滑油基油として評価した際の各物性値を表2に示す。
表1からわかるように実施例1〜7に記載の軸受用潤滑油基油は低粘度で粘度指数が140以上であり、流動点が−7.5℃以下と低く、耐蒸発性の指標である5%重量減の温度も、265℃以上と高い。
一方、表2からわかるように比較例1、3〜5に記載の潤滑油基油は、5%重量減の温度が260℃以下と低く、比較例2に記載の潤滑油基油は、5%重量減の温度が265℃以上と高いが、粘度指数が122と低い。
以上のことから本発明に係る脂環式ジカルボン酸ジエステル化合物は、低粘度、高粘度指数及び優れた低温流動性を実現しながら、同時に耐蒸発性に優れ、軸受用潤滑油基油に好適に用いることができる。