JP6772844B2 - 交流電動機の制御装置 - Google Patents
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Description
インバータのPWM制御では、一般に三角波キャリアの山又は谷のタイミングを跨いで上下アームのスイッチング素子が交互にオンする。上アーム素子のオン期間には相電流が増加し、下アーム素子のオン期間には相電流が減少するため、電流リプルが生じる。
しかし、フーリエ級数展開では、電気角1周期のデータを積算する必要があるため応答性が低下する。さらに、1次電流の位相が電流指令に対して180°ずれた場合、PI制御器に入力される電流偏差が増大し、制御破綻が発生するという問題がある。
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、検出電流をフーリエ級数展開して抽出された1次電流を用いる制御において、電流指令に対する1次電流の位相ずれによる制御破綻を回避する交流電動機の制御装置を提供することにある。
インバータ制御部は、交流電動機の一相以上に流れる相電流を検出する一つ以上の電流センサ(87、88)から取得した検出電流と、交流電動機の電気角とに基づくフィードバック制御によってインバータを操作し、交流電動機の通電を制御する。
本明細書で「交流電動機」は、交流駆動のモータ、発電機、及びモータジェネレータを含むものであり、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車の主機として用いられ駆動輪を駆動するためのトルクを発生するモータジェネレータが該当する。また、例えば、モータジェネレータの通電を制御する制御装置が「交流電動機の制御装置」に該当する。
指令補正部は、電気角1周期をN個(Nは2以上の整数)で分割した角度で取得した検出電流に基づく算出値を電気角1周期にわたって積算することによりフーリエ係数を演算する。そして、指令補正部は、当該フーリエ係数を用いて算出された1次電流のdq変換値であるフィルタ電流に基づいて電流指令値を補正し、補正後電流指令値を演算する。
典型的には、指令補正部は、電流指令値と、当該電流指令値に対してフィードバックされるフィルタ電流との差分を0に近づけるように、補正後電流指令値を演算する。
フィードバック制御演算部は、電流センサによる検出電流のdq変換値である瞬時電流を補正後電流指令値に対してフィードバックし、インバータに指令するゲート信号を演算する。
インバータ制御部は、指令補正部が演算した補正後電流指令値がフィードバック制御演算部に入力される「補正モード」と、補正前の電流指令値がそのまま補正後電流指令値としてフィードバック制御演算部に入力される「非補正モード」とを切替可能である。
高次成分が除去されたフィルタ電流に基づいて電流指令値を補正することにより、高次成分の影響を低減することができる。また、フィルタ電流は、フィードバック制御演算のループとは別に電流指令値の補正にのみ用いられるため、電流指令に対し位相が180°ずれた場合にも制御破綻することはない。したがって、本発明では、制御破綻を回避しつつ、高精度な制御が可能となる。
本実施形態の交流電動機の制御装置は、ハイブリッド自動車や電気自動車の動力源であるモータジェネレータ(以下「MG」)を駆動するシステムにおいて、三相交流モータであるMGの通電を制御する装置である。各実施形態の「MG」及び「MG制御装置」は、特許請求の範囲に記載の「交流電動機」及び「交流電動機の制御装置」に相当する。
まず、各実施形態のMG制御装置が適用されるMG駆動システムの全体構成について図1を参照して説明する。図1には、一つのMGを備えるシステムを例示する。
MG駆動システム90は、充放電可能な二次電池であるバッテリ11の直流電力をインバータ20で三相交流電力に変換してMG80に供給するシステムである。MG駆動システム90においてMG制御装置10は、主にインバータ20及びインバータ制御部30を含む。
なお、MG制御装置10は、バッテリ11の電圧を昇圧してインバータ20に出力するコンバータを備えたMG駆動システムに適用されてもよい。また、MG制御装置10は、二つ以上のMGを備えたMG駆動システムにも同様に適用可能である。
回転角センサ85は、MG80の電気角θを検出する。本実施形態では、回転角センサ85としてレゾルバを用いることを想定するが、他の回転角センサが使用されてもよい。
インバータ制御部30は、これらの情報に基づいて、インバータ20を操作するゲート信号UU、UL、VU、VL、WU、WLを演算する。インバータ20は、ゲート信号UU、UL、VU、VL、WU、WLに従ってスイッチング素子21−26が動作することにより、バッテリ11から入力される直流電力を交流電力に変換しMG80に供給する。
次に、インバータ制御部30の構成及び作用効果について、実施形態毎に説明する。第1、第2実施形態のインバータ制御部の符号を、それぞれ「301」、「302」とする。
(第1実施形態)
第1実施形態について、図2〜図8を参照して説明する。
図2に示すように、第1実施形態のインバータ制御部301は、電流指令演算部31、フィードバック制御演算部40及び指令補正部50を有する。
電流指令演算部31は、トルク指令Trq*に基づき、マップや数式を用いてd軸電流指令Id*及びq軸電流指令Iq*を演算する。
図2には、キャリア発生器の図示を省略する。なお、MG80の回転数や変調率に応じてキャリア周波数を変更する等の周知技術が採用されてもよい。
また、電流指令について、入力信号として全体的に捉える場合は「電流指令」といい、補正前の値や補正後の値等の特定の値を指す場合は「電流指令値」という。ただし、その用語の区別は厳格なものではなく、文脈等に応じて混在して用いられる。
dq変換部42は、検出電流Iv、Iw及び電気角θを、キャリアの山又は谷のタイミングでサンプリングし、それらを同一タイミングのデータとして座標変換演算に用いる。そして、dq変換部42は、検出電流Iv、Iwのdq変換値である瞬時電流Id、Iqをフィードバックする。以下、「サンプリング」と「取得」とは同義で用いられる。
第1PI制御器441、442は、それぞれ、第1d軸電流偏差ΔId1及び第1q軸電流偏差ΔIq1を0に近づけるように、比例積分演算により、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*を算出する。なお、第1PI制御器は、微分演算を含むPID制御器として構成されてもよい。また、第1PI制御器441、442により演算されるフィードバック項に加え、別途算出されるフィードフォワード項がd軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*に加算されてもよい。
電圧DUTY変換部47は、システム電圧Vsys及び電気角θに基づき、各相の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を指令デューティDu、Dv、Dwに変換する。
以上がフィードバック制御演算部40の構成である。
1次電流演算部51は、従来技術である特許文献1(特許第5741966号公報)に開示された通り、相電流Iv、Iwをフーリエ級数展開してフーリエ係数を演算し、さらにそのフーリエ係数を用いて1次電流Iv1s、Iw1sを算出する。
詳しい計算式は特許文献1の通りであるため、説明を省略する。
1次電流演算部51及びdq変換部52を合わせてフーリエフィルタ510とする。特許第5888567号公報に開示された構成のように、フーリエフィルタ510は、1次電流Iv1s、Iw1sを一旦算出してからdq変換するのでなく、フーリエ係数から直接、フィルタ電流Id_fflt、Iq_ffltを算出してもよい。
第2PI制御器541、542は、それぞれ、第2d軸電流偏差ΔId2及び第2q軸電流偏差ΔIq2を0に近づけるように、比例積分演算により、補正後電流指令値Id**、Iq**を算出する。補正後電流指令値Id**、Iq**は、フィードバック制御演算部40に入力される。なお、第2PI制御器は、第1PI制御器と同様に、微分演算を含むPID制御器として構成されてもよい。
以上が指令補正部50の構成である。
フーリエフィルタ510は、フーリエ級数展開により検出電流Iv、Iwから高次成分を除去して1次電流Iv1s、Iw1sを抽出し、1次電流Iv1s、Iw1sのdq変換値であるフィルタ電流Id_fflt、Iq_ffltを出力する。
ただし、フーリエ級数展開では、最新のデータ取得から遡って電気角1周期分の算出データを積算する必要がある。したがって、分割数Nが小さく、サンプリングの角度間隔が大きいほど、また、最新データ取得後に演算時間を要するほど、フーリエフィルタ510の処理後の電流位相が遅れ、フィードバック応答性が低下する。
なお、特許文献1には制御破綻についての言及はないが、低回転領域では、フィードバック制御の応答性低下を防ぐためにフーリエ級数展開モードから通常モードに切り替えることが記載されている。そこで、次に図4、図5を参照し、PWM制御での通常モードにおける電流フィードバック制御の問題点について説明する。
一般的な電流フィードバック制御構成は、一重のフィードバックループで表される。このループでは、検出電流Iv、Iwのdq変換値である瞬時電流Id、Iqが、電流指令Id*、Iq*に対してフィードバックされる。つまり、瞬時電流Id、Iqが電流指令Id*、Iq*に追従する。
また、検出電流Iv、Iwには、以下に説明するように、電流センサ87、88の検出遅れによる誤差が発生する。なお、レゾルバを想定した回転角センサ85により検出される電気角θには実質的な遅れは生じないものとする。
図4(b)に、電流センサの検出電流を制御装置が取得する一般的な構成を示す。図4(b)では、電流センサの符号として、図1のV相電流センサの符号「87」を用いる。電流センサ87は、相電流をアナログ信号として検出し、コネクタ71を介して接続された制御装置70に送信する。
制御装置70の受信回路72は、電流センサ87からアナログ信号を受信する。A/D変換部73は、アナログ信号をデジタル信号に変換し、制御演算部74に出力する。
このように、電流信号が、電流センサ87及び制御装置70の受信回路72を経由し、制御演算に利用可能な値として認識されるまでの時間を「検出遅れ時間」と定義する。
次に、図6〜図8を参照し、第1実施形態の構成による作用効果を説明する。
図6に、図3、図4(a)に準じた記載方式で、第1実施形態の単純化した制御構成を示す。また、図6の各部に併記したS1〜S4の番号は、図8のフローチャートの対応するステップ番号を示す。
PWM制御では、三角波キャリアの山又は谷のタイミングでサンプルされた検出電流Iv、Iwがdq変換され、瞬時電流Id、Iqのデータが更新される。
一方、フィルタ電流Id_fflt、Iq_ffltは、キャリア周期とは関係なく、電気角1周期において設定された角度θfでサンプリングされた検出電流Iv、Iwに基づいて演算される。電流サンプリング角度θfは、フーリエ級数展開の分割数Nを用いて「θf=360/N[°]」と表される。
S1で、フーリエフィルタ510は、検出電流Iv、Iwを取得する。
S2で、フーリエフィルタ510は、検出電流Iv、Iwをフーリエ級数展開して1次電流Iv1s、Iw1sを算出し、さらに、1次電流Iv1s、Iw1sのdq変換値であるフィルタ電流Id_fflt、Iq_ffltを算出する。
S4で、第2PI制御器54は、第2電流偏差ΔId2、ΔIq2を0に近づけるように、比例積分演算により補正後dq軸電流指令値Id**、Iq**を演算する。
本実施形態のMG制御装置10の効果について説明する。
(1)インバータ制御部30は、瞬時電流Id、Iqを用いてフィードバック制御演算を行いつつ、フーリエ級数展開によって得られたフィルタ電流Id_fflt、Iq_ffltに基づいて電流指令値Id*、Iq*を補正する。
高次成分が除去されたフィルタ電流Id_fflt、Iq_ffltに基づいて電流指令値Id*、Iq*を補正することにより、高次成分の影響を低減することができる。また、フィルタ電流Id_fflt、Iq_ffltは、フィードバック制御演算のループとは別に電流指令値Id*、Iq*の補正にのみ用いられるため、電流指令Id*、Iq*に対し位相が180°ずれた場合にも制御破綻することはない。したがって、本実施形態では、制御破綻を回避しつつ、高精度な制御が可能となる。
第2実施形態について、図9の制御ブロック図、及び、図10のフローチャートを参照して説明する。図9に示されるフィードバック制御演算部40は、第1実施形態の図2に示されるフィードバック制御演算部40と共通である。その他、図9において、図2と実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
第2実施形態のインバータ制御部302は、第1実施形態のインバータ制御部301に対し、モード選択部35及び指令切替器361、362をさらに有する点が異なる。
上記第1実施形態では常にトルク精度の向上を優先するのに対し、第2実施形態では、車両の運転状況やMG80の動作状態等の情報に応じて、トルク精度及び応答性のいずれを優先するかを選択し、制御モードを切替可能とする。
例えば、トルク精度の向上を優先する場合には補正モードが選択され、フィードバック応答性を優先する場合には非補正モードが選択される。
指令切替器361、362は、それぞれ、第2PI制御器541、542が演算した補正後電流指令値Id**、Iq**が入力されると共に、バイパスを経由して補正前の電流指令値Id*、Iq*が入力される。指令切替器361、362は、モード選択部35からの選択信号に基づき、補正モードでは補正後電流指令値Id**、Iq**を出力し、非補正モードでは補正前の電流指令値Id*、Iq*を出力する。
モード選択部35は、S5で、車両の運転状況やMG80の動作状態等に関する情報を取得し、その情報に基づいて制御モードを選択する。
S6では、選択された制御モードを判定する。
補正モードのとき、S6でYESと判定され、指令切替器361、362は、S7で、補正後電流指令値Id**、Iq**をフィードバック制御演算部40に出力する。
非補正モードのとき、S6でNOと判定され、指令切替器361、362は、S8で、補正前の電流指令値Id*、Iq*をフィードバック制御演算部40に出力する。
(a)フィードバック制御演算部40は、PWM制御に限らず、予め記憶された複数の出力波形パターンから条件に応じたパターンを選択するパルスパターン制御により、インバータ20のゲート信号UU、UL、VU、VL、WU、WLを生成する構成としてもよい。パルスパターン制御でもスイッチング動作等による高次成分が出力波形に重畳する可能性があるため、指令補正部50により電流指令値Id*、Iq*を補正する効果が得られる。
(d)本発明による交流電動機の制御装置は、ハイブリッド自動車や電気自動車のMG駆動システムに限らず、どのような用途の交流電動機駆動システムに適用されてもよい。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
20・・・インバータ、 21−26・・・スイッチング素子、
301、302・・・インバータ制御部、
40・・・フィードバック制御演算部、
50・・・指令補正部、
80・・・MG(交流電動機)、
87、88・・・電流センサ。
Claims (4)
- 複数のスイッチング素子(21−26)の動作により直流電力を交流電力に変換し、交流電動機(80)に供給するインバータ(20)と、
前記交流電動機の一相以上に流れる相電流を検出する一つ以上の電流センサ(87、88)から取得した検出電流と、前記交流電動機の電気角とに基づくフィードバック制御によって前記インバータを操作し、前記交流電動機の通電を制御するインバータ制御部(302)と、
を備え、
前記インバータ制御部は、
電気角1周期をN個(Nは2以上の整数)で分割した角度で取得した検出電流に基づく算出値を電気角1周期にわたって積算することによりフーリエ係数を演算し、当該フーリエ係数を用いて算出された1次電流のdq変換値であるフィルタ電流に基づいて電流指令値を補正し、補正後電流指令値を演算する指令補正部(50)と、
前記電流センサによる検出電流のdq変換値である瞬時電流を前記補正後電流指令値に対してフィードバックし、前記インバータに指令するゲート信号を演算するフィードバック制御演算部(40)と、
を有し、
前記インバータ制御部は、
前記指令補正部が演算した前記補正後電流指令値が前記フィードバック制御演算部に入力される補正モードと、補正前の電流指令値がそのまま前記補正後電流指令値として前記フィードバック制御演算部に入力される非補正モードとを切替可能である交流電動機の制御装置。 - 前記指令補正部は、電流指令値と、当該電流指令値に対してフィードバックされる前記フィルタ電流との差分を0に近づけるように、前記補正後電流指令値を演算する請求項1に記載の交流電動機の制御装置。
- 前記フィードバック制御演算部がPWM制御により前記インバータのゲート信号を生成する構成において、
前記フィードバック制御演算部は、PWM制御のキャリアの山又は谷のタイミングで前記検出電流を取得する請求項1または2に記載の交流電動機の制御装置。 - 前記交流電動機として車両の動力源であるモータジェネレータを駆動するシステムに適用され、
前記インバータ制御部は、
車両の運転状況又は前記モータジェネレータの動作状態に関する情報に基づいて、前記補正モード又は前記非補正モードを切替可能である請求項1〜3のいずれか一項に記載の交流電動機の制御装置。
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