以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(第1実施形態)
減速機の潤滑装置を説明する前に、電気自動車の駆動系の全体を概説する。図1は減速機3の斜視図で、ギアケース4の内部を透視した状態で示している。減速機3は電気自動車に用いられるものである。白抜き矢印は車両前方を示している。図1を参照して、ギアケース4の内部に収納されているギア機構10及びパーキング機構21の各部がどのように動くのかを説明する。図1はあくまでギア機構10及びパーキング機構21の機能を説明するための図であるので、図1に示すギア機構10及びパーキング機構21の配置と、図2,図3で後述する本実施形態のギア機構10及びパーキング機構21の配置とは必ずしも対応するものでない。
電気自動車を駆動するモータ1は、車両の前方において、モータ1の回転軸が車両の前後方向と直交する向きに配置されている(図3参照)。モータ1の回転は減速機3に伝達される。減速機3は、ギア機構10、パーキング機構21、これらを収納するギアケース4から主に構成される。
ギア機構10は、インプットギア11、セカンドギア12、ファイナルギア13の3つのギアセットで構成され、インプットギア11セカンドとギア12が、セカンドギア12とファイナルギア13が外歯で互いに噛み合っている。これら3つのギア11〜13の噛合部をオイルで潤滑する必要があるため、ギア機構10の全体はギアケース4の内部に収納されている。
インプットギア11はモータ1の出力軸と直結している。モータ1の回転速度が減速されるように、インプットギア11とセカンドギア12のギア比、セカンドギア12とファイナルギア13のギア比をそれぞれ定めている。この3つのギア11〜13の組み合わせであるギア機構10によって、モータ1の回転方向とファイナルギア13の回転方向を揃えつつ、モータ1の回転(回転入力)が所定の回転速度まで減速される。ファイナルギア13に伝えられたモータからの回転は、図3にも示すようにディファレンシャルギア14を介して、車両の左右に延びる一対のドライブシャフト15,15に伝えられる。ドライブシャフト15,15に伝えられた回転はドライブシャフト15,15の先にある駆動輪に伝達される。
パーキング機構21は、ギア機構10の一部と結合することでギア機構10の回転の停止を行い、結合を解放することで回転の停止の解除を行うものである。ギア機構10の回転の停止がロック、回転停止の解除がアンロックといわれる。パーキング機構21は、回動可能なマニュアルシャフト23及びマニュアルプレート24、これらを初期位置に向けて付勢するディテントスプリング25、スライド可能なパーキングロッド26、揺動可能なパーキングポール27、及びパーキングギア28で構成されている。これら部材のうち23〜27の部材の全体は、実際にはカバーに収納されるのであるが、図1ではこのカバーを図示していない。
図示しないパーキングアクチュエータが作動することでギア機構10のロック、アンロックが行われる。すなわち、パーキングアクチュエータとしてのモータが一方向に回転すると、パーキングアクチュエータと機械的に連結しているマニュアルシャフト23及びマニュアルプレート24が一方向に回転し、この回転運動がパーキングロッド26のスライド運動に変換される。パーキングロッド26が一方向にスライドすると、パーキングポール27が支点を中心にして揺動し、パーキングポール27の揺動先端にある爪(図示しない)がパーキングギア28と噛み合う。パーキングギア28はインプットギア11と同軸に、かつインプットギア11よりもモータ1の側に形成されているため、爪が一方向に揺動してパーキングギア28と噛み合うことによって、インプットギア11が回転できなくなる(ギア機構10のロック)。一方、パーキングアクチュエータとしてのモータが他の方向に回転すると、爪が反対方向に揺動してパーキングギア28から外れる。これによって、インプットギア11が回転可能となる(ギア機構10のアンロック)。
次に、図2は本発明の第1実施形態の減速機3の潤滑装置の概略構成図、図3は図2のA−A線断面図である。第1実施形態の減速機3も電気自動車に用いられるものである。図2において、左右方向が車両の前後方向、上下方向が鉛直方向である。図3においては、左右方向が車両の前後方向、上下方向が車両の左右方向である。ただし、車両に対するギアケース配置は図2,図3の場合に限定されるものでない。
図2にも示したように、ほぼ箱状のギアケース4の内部において、鉛直方向の上方(鉛直方向の上方を、単に「上方」ともいう。)側でかつ車両前方側の位置に、パーキング機構21が設けられている。これは、パーキング機構21の鉛直方向の下方(鉛直方向の下方を、単に「下方」ともいう。)にオイルタンク(後述する)を設けるスペースを確保するためである。
インプットギア11、セカンドギア12、ファイナルギア13の3つのギアは、図2にも示したように、車両前後方向に全体としてへの字状に、つまりパーキング機構21に隣接して車両後方側に配置されている。ファイナルギア13が3つのギアのうち最大のギア半径を有している。図1では3つのギア11〜13の配置は逆への字状であったが、本実施形態の3つのギア11〜13はへの字状に設けている。特に、ファイナルギア13に対する2つのギア11,12の鉛直方向の相対位置を図1と相違させ、2つのギア11,12をファイナルギア13より相対的に上方に位置させている。これは、最大のギア半径を有するファイナルギア13の下方にスペースを確保するのは困難であるため、ファイナルギア13よりギア半径の小さい2つのギア11,12の下方にスペースを確保するためである。具体的には、インプットギア11の下方のスペースにオイルタンク55(後述する)が、セカンドギア12の下方のスペースにオイルポンプ62(後述する)がそれぞれ設けられる。なお、本実施形態は、ギアケース4をほぼ箱状とし、ギア機構10が3つのギア11〜13で構成される場合であるが、この場合に限定されるものでない。
図1では、パーキング機構21内部の各部材の動きを説明するため、パーキング機構21のカバー22を取り去った状態で示したが、実際にはパーキング機構21のうちの23〜26の部材及び27の部材の一部の全体は、図2にも示したようにカバー22で被覆されている。このため、図1に示した23〜26の部材及び27の部材の一部はカバー22で被覆され、図2には見えていない。そして、揺動部材としてのパーキングポール27の揺動先端側のみがカバー22の外にはみ出しており、インプットギア11と同軸で構成されるパーキングギア28に向かって延びている。
図1と図2とでは、パーキングポール27の揺動先端にある爪27aの揺動方向が相違している。すなわち、図1ではパーキングポール27の揺動先端にある爪(図示しない)が下方から上方に揺動してパーキングギア28と噛み合う構成である。一方、図2ではパーキングポール27の揺動先端にある爪27aが上方から下方に揺動してパーキングギア28と噛み合う構成となっている。このように、ロック時、アンロック時のパーキングポール27の揺動方向を、図1の場合から変更することによって、ギアケース4の内部において上方にパーキング機構21を設けることが可能になっている。
ギアケース4の内部において、パーキング機構21及び2つのギア11,12の下方に確保したスペースには、ドライサンプ方式の潤滑システムが構成される。ドライサンプ方式の潤滑システムは、オイルパンに戻ったオイルをスカベンジングポンプで強制的に回収して専用のオイルタンクに貯めた後、オイルタンクに貯留されているオイルを、スカベンジングポンプとは別のフィードポンプによって潤滑各部に供給するものである。ドライサンプ方式の潤滑システムは、オイルタンク55、スカベンジングポンプ63、フィードポンプ71で主に構成される。
パーキング機構21及びインプットギア11の下方に確保したスペースに、ギアケース4の内部空間を内壁で仕切ることによってオイルタンク55を形成する。詳述すると、図2,図3に示したように、ギアケース4は、下方に位置する底壁43、上方に位置する上方壁44、車両前方に位置する前方壁45、車両後方に位置する後方壁46、車両の右方に位置する右側壁47、車両の左方に位置する左側壁48の6つの壁からなり、これら6つの壁で密閉空間としてのギアケース4が構成されている。
この場合に、図2に示したように底壁43から立ち上がる立壁(内壁)49をギアケース4と一体で設ける。立壁49は、図3にも示したように左右の両側壁47,48と直交すると共に、左右の両側壁47,48にまで延びて、左右の両側壁47,48に接続されている。この立壁49によって、ギアケース4内部においてパーキング機構21及びインプットギア11の下方に確保したスペースが、車両前方側と車両後方側の2つに仕切られる。
立壁49は、図2にも示したように鉛直壁50と曲壁51とで構成される。鉛直壁50は、底壁43から上方へと立ち上がり、インプットシャフト11に衝突する手前まで延びる壁である。曲壁51は、鉛直壁50の上端からインプットシャフト11の下方の外周を車両前方側へと回り込むようにして立ち上がり、パーキング機構41のケース22の鉛直方向の下方端(以下「ケース下端」という。)22aの直ぐ近くまで延びる壁である。なお、立壁49が鉛直壁50と曲壁51とで構成される場合に限定されるものでない。
このように、内壁としての立壁49をギアケース4と一体で形成することで、1つの内壁(立壁49)と3つの外壁(前方壁45、右側壁47、左側壁48の3つ)によって、ギアケース4の内部空間が仕切られる。この車両前方側に仕切られた空間(スペース)がオイルタンク55として形成される。内壁で仕切ったオイルタンク55をギアケース4の内部に設けることで、オイルタンクをギアケース4とは別に単独で設ける場合と比較して、余計なカバーとかそういった部品を省略することができる。
図2にも示したように、オイルタンク55の上方はギアケース4の内部に向かって開放されている。つまり、オイルタンク55は上方に開放端(以下、「上方開放端」ともいう。)56を有する。上方開放端56の形状は、本実施形態では長方形であるが、長方形に限られるものでない。
後述するように、スカベンジポンプ63の吐出流量がフィードポンプ71の吐出流量より大きくなるように、2つのポンプ63,71のポンプ能力が設定されることから、オイルタンク55の上方開放端56までオイルが貯留されることとなる。つまり、図2にも示したように、オイルタンク55内部のオイルの液面(以下、単に「液面」ともいう。)57は上方開放端56にまでほぼ到達している。そして、オイルタンク55の上方解放端56から溢れ出るオイルは、オイルタンク55の壁を構成する立壁49を伝ってギアケース4の底部と流れ、底壁43の上部に貯まる。ギアケース4の内部においてパーキング機構21を車両前方でかつ上方の角に配置し、かつオイルタンク55の上方開放端56をパーキング機構21のケース下端22aの直ぐ下の位置まで延ばしているのは、オイルの液面57をできるだけ上方へと高くしたいためである。このように、液面57を上方に可能な限り高くすることで、オイルタンク55に貯留されるオイル量を確保することができる。
ここで、オイルタンクに上方開放端56を有させるのではなく、ギアケース4の内部に密閉空間でオイルタンクを形成することが考えられる。オイルタンクを密閉空間で形成するもの(これを「比較例1」とする。)では、スカベンジングポンプによりオイルを吸引し、吸引したオイルをオイルタンクの内部に吐出させたとき、オイルタンク55の内部に吐出されるオイルに空気が混じることがある。このオイルに混じる空気は時間が経過すると、密閉空間のオイルタンクの方向の上部に貯まる。これが継続すると、上部に貯まった空気の圧力に押されてオイルタンク内のオイルの液面が下方へと低下していく。十分なオイルの量がオイルタンクの内部に入らなくなるわけである。すると、やがては液面がフィードポンプの吸入口まで到達し、フィードポンプに空気が吸い込まれることとなり、フィードポンプによる潤滑各部への循環が途切れてしまう。
一方、本実施形態のようにオイルタンク55が上方開放端56を有していれば、オイルに混じってオイルタンク55の内部に入った空気は、オイルタンク55の内部で上方へと移動し、やがては上方開放端56からギアケース4内部の空間へと拡散してゆく。これによって、オイルタンク55の鉛直方向の上部に貯まる空気の圧力によって液面57が下方に押し下げられるという事態を回避できる。
次に、曲壁51を車両前方へと延ばすことで、オイルタンク55の上方開放端56の車両方向長さが、曲壁51を車両前方へと延ばさない場と比べて相対的に短いものとなっている。車両を加速したり減速したり旋回したりすることでオイルの液面は、車両が定常定速走行しているときの液面よりも鉛直方向に変動する。例えば、車両を急加速した場合のオイルタンク55内部のオイルの液面57の状態を図4に、車両を急減速した場合のオイルタンク55内部のオイルの液面57の状態を図5に示す。車両を急加速した場合には、図4に示したようにオイルタンク55内部のオイルに加速度が作用し、液面57が車両前後方向に傾く。すなわち、液面57のうちの車両前方側が相対的に低下し、車両後方側が相対的に上昇する。一方、車両を急減速した場合には、図5に示したようにオイルタンク55内部のオイルに減速度が作用し、液面57が車両前後方向に傾く。すなわち、液面のうちの車両前方側が相対的に上昇し、車両後方側が相対的に低下する。このように車両前後方向に傾く液面57が車両前方側にあるのに対して、フィードポンプ71の吸入口(73)は車両後方側で下方に設けられている。このため、車両に加速度や減速度や旋回による加速度Gが作用して、車両前方側で液面57が車両前後左右方向に傾くことがあっても、液面57は車両後方側で下方にあるフィードポンプ71の吸入口(73)から鉛直方向に遠い位置にあるために、傾いた液面57がフィードポンプ71の吸入口(73)まで到達することはない。なお、フィードポンプ71の吸入口(73)については後述する。
ここで、上方開放端56の車両方向長さが本実施形態に比較して相対的に長いもの(これを「比較例2」とする。)では、車両を加速したり減速したり旋回したりすることに伴う液面57の車両前後左右方向の傾きの程度が本実施形態の場合より大きくなる。これによって、傾いた液面57がフィードポンプ71の吸入口(73)まで到達することが考えられ、上記のようにフィードポンプ71に空気が吸い込まれたのでは、潤滑各部への循環が途切れてしまう。一方、本実施形態によれば、上方開放端56の車両方向長さが比較例2より相対的に短いものとなっているので、車両を加速したり減速したり旋回したりすることに伴う液面57の車両前後左右方向の傾きの程度が比較例2の場合より小さくなる。車両前後左右方向の傾きの程度が小さくなる分だけ、液面57がフィードポンプ71の吸入口(73)まで到達しづらくなり、フィードポンプ71に空気が吸引される事態を回避することができる。
図2では、曲壁51の上端は切り放し状態としているが、この場合に限られない。例えば図6に示したように、曲壁51の上端から車両前方に向けて延びる水平壁52を設けてもかまわない。ただし、水平壁52の車両前方端は、前方壁45から離して設け、上方開放端56が生じるようにする。このように、水平壁52を設けることで、上方開放端56の車両方向長さが、図2の場合より短くなる。その短くなる分だけ、急加速や急減速や急旋回に伴う液面57の車両前後左右方向の傾きの程度をさらに小さくすることができる。
潤滑のためにギア機構10に供給されたオイルは、ギア機構10を構成する3つのギア11〜13の噛合部を潤滑した後、ギアケース4の底部へと落下し、底壁43の上部に貯まる。本実施形態では、底壁43とこれに接続される四方の壁(45,46,47,48)がギア機構10の潤滑各部を潤滑した後のオイルを一時的に貯留するオイルパンとして構成されている。図2にはオイルパンとしてのギアケース4の底部(底壁43の上部)に潤滑後のオイルが溜まり、オイルの液面68が構成されているところを示している。
図2に示したように、ギアケース4の内部おいて、オイルタンク55の車両後方側の外側で、かつインプットギア11の一部及びセカンドギア12の下方に設けたスペースに、オイルポンプ62を備える。図2ではオイルポンプ62は一つに見えるが、実際にはオイルポンプ62は一つでなく、図3に示したようにスカベンジングポンプ63とフィードポンプ71で構成されている。
スカベンジングポンプ63は、ギアケース4の底部(底壁43の上部)に十分な量のオイルが貯まっている場合にはオイルのみを吸引するが、ギアケース4の底部に十分な量でないオイルが貯まっている場合にはその十分な量でないオイルと、オイル周囲の空気とを同時に吸引し得るポンプである。一方、フィードポンプ71は歯車ポンプ等の油圧ポンプである。スカベンジングポンプ63とフィードポンプ71は、図3にも示したようにギア機構10の軸方向(車両の左右方向)に並べて設けられている。スカベンジングポンプ63が車両の左側に、フィードポンプ71が車両の右側に配されているが、2つのポンプ63,71を配置する位置はこの逆であってかまわない。
スカベンジポンプ63の吐出流量がフィードポンプ71の吐出流量より大きくなるように、2つのポンプ63,71のポンプ能力が設定される。これによって、ギアケース4の底部にオイルがある限り、吐出流量の差の分だけオイルタンク55内部のオイルの量が増大し、オイルタンク55内部のオイルの液面57が上昇してゆく。やがて、液面57がオイルタンク55の上方開放端56にまで到達し、上方解放端56から溢れ出るオイルは、上記のようにオイルタンク55の壁(立壁49)を伝ってギアケース4の底部と流れ、底壁43の上部に貯まる。このようにオイルを上方解放端56まで到達させることで、オイルタンク55内部のオイルの液面57を高く一定に保持することができる。2つのポンプ63,71はいずれもモータで駆動される。駆動方式は電動に限らず、機械駆動でもかまわない。
スカベンジングポンプ63のオイル吸入路64は、ギアケースの底壁43に向かって形成される。オイル吸入路64の開口端(以下「吸入口」ともいう。)65は底壁43に接している。吸入口65は底壁43の近くにあってもかまわない。
スカベンジングポンプ63のオイル吐出路66、フィードポンプ71のオイル吸入路72、フィードポンプ71のオイル吐出路74は、図3にも示したようにギアケース4を構成する壁の内部に形成される。すなわち、スカベンジングポンプ63のオイル吐出路66は、スカベンジングポンプ63に隣接するギアケース左側壁48の内部に形成される。このオイル吐出路66で、スカベンジングポンプ63とオイルタンク55の内部を連通する。つまり、オイル吐出路66の開口端(以下「吐出口」ともいう。)67はオイルタンク55の内部に開口する。この場合、吐出口67を開口する位置は、オイル吐出路66を短くするためにも鉛直壁50の近くが好ましい。また、オイル吐出路66をギアケース左側壁48の内部に形成するときにはギアケース左側壁48の近くが好ましい。
フィードポンプ71のオイル吸入路72は、フィードポンプ71に隣接するギアケース右側壁47の内部に形成される。このオイル吸入路72で、フィードポンプ71とオイルタンク55の内部を連通する。つまり、オイル吸入路72の開口端(以下「吸入口」ともいう。)73はオイルタンク55の内部に開口する。この場合、吸入口73を開口する位置も、オイル吸入路72を短くするためにも鉛直壁50の近くが好ましい。また、オイル吸入路72をギアケース右側壁47の内部に形成するときにはギアケース右側壁47の近くが好ましい。
フィードポンプ71のオイル吐出路74は、フィードポンプ71に隣接するギアケース右側壁47に形成される。図示しないが、ギア11〜13の軸心にはオイルの供給路が、さらにこのオイル供給路から分岐して噛合部に向かうオイル供給路が形成されており、フィードポンプ71のオイル吐出路74は、このギア11〜13の軸心に設けられたオイル供給路に接続されている。このため、フィードポンプ71より吐出されるオイルは、ギア11〜13の内部に設けられたオイル供給路からギア11〜13の噛合部に到達し、当該噛合部を潤滑する。
オイルタンク55の内部にはリブ58を備える。リブ58は車両後方側のオイルタンク55の内部を鉛直方向の上方側と鉛直方向の下方側との2つのスペース60,61に仕切るものである。すなわち、図2にも示したように、リブ58は、鉛直壁50からオイルタンク55の内部を車両前方に向かってかつ水平方向に張り出すと共に、リブ58の全体は鉛直方向の下方に凸の曲面状で、リブ58の先端58aは上方に向かうように形成されている。
一方、リブ58の先端58aは前方壁45にまでは到達しておらず、オイルタンク55の内部の車両前方側では鉛直方向の上方と鉛直方向の下方とが連通している。すなわち、オイルタンク55内部のうち、車両前方側には上方と下方とが連通する部位59を有している。
なお、本実施形態では、オイルタンク55の内部においてリブ58を鉛直壁50から車両前方に向けて張り出して設けているが、この場合に限定されるものでない。本実施形態では、2つのポンプ63,71を、ギアケース4内部でオイルタンク55より車両後方側の外に設ける関係上、スカベンジングポンプ63のオイル吐出路66、フィードポンプ71のオイル吸入路72の各長さをできるだけ短くするためにリブ58を2つのポンプ63,71に近い側の壁(つまり鉛直壁50)に設けている。スカベンジングポンプ63のオイル吐出路66、フィードポンプ71のオイル吸入路72の各長さを短くすることにこだわらないのであれば、オイルタンク55の壁を構成する残り3つの壁(45,47,48)のいずれかにリブ58を設けてもかまわない。
スカベンジングポンプ63は、ギアケース4の底部(底壁43の上部)に貯まったオイルが十分無ければ、ギアケース4の底部に貯まったオイルの他にも、オイル周辺の空気を吸入する。スカベンジングポンプ63がオイルと空気を吸入することで空気混じりのオイルがオイルタンク55の内部に入る。これによって、スカベンジングポンプ63の吐出口67の付近には空気(気泡)混じりのオイルが貯まる。このとき、空気混じりのオイルの近くにフィードポンプ71の吸入口73があると、空気混じりのオイルがフィードポンプ71の吸入口73から吸い込まれる。空気混じりのオイルがフィードポンプ71に吸い込まれたのでは、フィードポンプ71のオイル吐出流量が減少してしまう。フィードポンプ71に吸い込まれる空気の量が多いと潤滑各部への潤滑が途切れてしまう。
そこで、スカベンジングポンプ63により吸い込まれてオイルタンク55の内部に存在する空気混じりのオイルがフィードポンプ71の吸入口73から吸い込まれないように、リブ58の鉛直方向の上方側のスペース(以下「上方側スペース」ともいう。)60にスカベンジングポンプ63の吐出口67を、リブ58の鉛直方向の下方側のスペース(以下「下方側スペース」ともいう。)61にフィードポンプ71の吸入口73を設ける。このように、スカベンジングポンプ63の吐出口67とフィードポンプ71の吸入口73とをリブ58によって仕切った上下2つのスペース60,61に振り分けることで、スカベンジングポンプ63からの空気混じりのオイルは、上方側スペース60にだけ貯めることが可能となる。空気混じりのオイルがリブ58の先端58aを回り込んで下方側スペース61に向かうことはないので、空気混じりのオイルがフィードポンプ71の吸入口73から吸い込まれることがなくなる。これによって、フィードポンプ71の吐出流量が減ってしまったり、ギア機構10の潤滑各部への潤滑が途切れてしまったりすることを回避できる。
このように、リブ58とこれに接続される四方の壁とは、スカベンジングポンプ63によって吐出された空気混じりのオイルを、上方側スペース60に一時的に貯留する機能を有している。このため、図3にも示したように、リブ58の車両右方側端58bを右側壁47に当接するまで、かつリブ58の車両左方側端58cを左側壁48に当接するまで延ばして、かつリブ58の先端58aを上方に曲げて形成することで、空気混じりのオイルが上方側スペース60にとどまるだけで、下方側スペース61へと移動することがないようにしている。
上方側スペース60にスカベンジングポンプ63によって吐出された空気混じりのオイルが貯まっても、時間が経過すれば、空気(気泡)は、やがて上方に向けて上昇して液面57に到達し、ギアケース4の内部の空間(外気)へと逃げる。
なお、ギア機構10の潤滑各部を潤滑した後にギアケース4の底部へと落下してくるオイルには、コンタミが混じることがある。スカベンジングポンプ63の吸入口65にコンタミを除去するためのフィルタを設けている。よって、オイルタンク55の内部にコンタミが混入することはない。
ここで、ギア機構10を潤滑するために、ドライサンプ方式の潤滑システムを採用した背景を説明する。電気自動車駆動用のモータ1及び減速機3をオイルで潤滑するシステムを本出願人が現在開発している。この潤滑システムを任意の車高の車両に適用したいという要望がある。この要望を満たすには、潤滑システムを構成する部品全体(つまりユニット)の高さ(鉛直方向の高さ)を抑えたものとしなければならない。仮に、鉛直方向に深いオイルパンを設けることができるのであれば、オイルパンとフィードポンプからなる通常の潤滑システム(ウェットサンプ方式)でかまわない。しかしながら、限られた高さの中にユニットを配置しようとすると、通常の潤滑システムを構成することができず、どうしてもドライサンプ方式の潤滑システムが必要となったものである。
さらに述べると、ギアケース4の内部には回転体があるので、ユニットの高さを抑えつつオイルの液面は回転体と干渉しないように、つまり、下方にあってオイル量の少ない浅い状態となるようにしたい。しかしながら、オイル量の少ない浅い状態でフィードポンプを使用しようとすると、車両の加減速に伴い少ないオイルの液面が車両前後左右方向に傾斜したときに、フィードポンプの吸入口が空気に露出することがある。吸入口が空気に露出した状態ではフィードポンプが空気を吸引するため潤滑各部への潤滑が途切れてしまう。こうした事態を回避するために、フィードポンプ71と別にスカベンジングポンプ63を設ける。スカベンジングポンプ63は、オイルのほか空気を吸引しても大丈夫なポンプである。このスカベンジングポンプ63でオイルタンク55に常にオイルを満たす。オイルタンク55に満たされたオイルをフィードポンプ71で吸引することで、潤滑各部への潤滑が途切れることがないようにすることができる。ドライサンプ方式の潤滑システムは、こうした考え方に基づいている。
ここで、本実施形態の作用効果をまとめる。
本実施形態では、回転入力を減速するギア機構10と、インプットギア11(ギア機構の一部)と連携することでギア機構10全体の回転の停止を行うパーキング機構21とを備える。また、ギア機構10及びパーキング機構21を内部に収納し、かつパーキング機構21及びインプットギア11を鉛直方向の上方に収納し、ギア機構10の潤滑各部を循環するためのオイルを底部に貯留するギアケース4を備える。また、パーキング機構21の鉛直方向の下方のギアケース4内部を立壁49(内壁)で仕切って構成され、上方開放端56(上方端)をギアケース4の内部に開放するオイルタンク55を備える。また、ギアケース4の底部(底壁43の上部)に貯溜されるオイルを吸引してオイルタンク55に吐出するスカベンジングポンプ63と、オイルタンク55に貯留されるオイルを吸引してギア機構10の潤滑各部に供給するフィードポンプ71と、を備える。本実施形態では、パーキング機構21をギアケース4内部の上方に収納し、パーキング機構21の下方のギアケース4の内部にオイルタンク55を配置することで、オイルタンク55内部のオイルの液面57を上方に向けて高くすることが可能となった。これによって、車両に加減速や旋回による加速度Gが作用してオイルタンク55内部のオイルの液面57が車両の前後左右方向に傾斜した場合にもフィードポンプ71の吸入口73が空気に露出することがないので、ギア機構10の潤滑各部への潤滑を途切れることなく行うことができる。また、本実施形態では、オイルタンク55の上方端56をギアケース4の内部に開放するので、オイルタンク55に吐出された空気がオイルタンク55の上方に溜まってゆくことを避けることができる。
本実施形態では、オイルタンク55の内部を、車両前方側に鉛直方向の上方と鉛直方向の下方とが連通する部位59を残して、上方側スペース60と下方側スペース61の2つに仕切るリブ58を備える。そして、上方側スペース60にスカベンジングポンプ63の吐出口67を、下方側スペース61にフィードポンプ71の吸入口73を設けている。スカベンジングポンプ63から吐出される空気混じりのオイルが、オイルタンク55の内部に入った後に、下方側スペース61へと移動しようとしても、リブ58によって阻止されるので、空気混じりのオイルがフィードポンプ71の吸入口73から吸い込まれることがなくなる。これによって、フィードポンプ71の吐出流量が減ってしまったり、ギア機構10の潤滑各部への潤滑が途切れてしまったりすることを回避できる。
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態の電気自動車に用いられる減速機3の潤滑装置の概略構成図である。
第2実施形態は、ユニットの鉛直方向の高さ及びパーキング機構21の鉛直方向の高さ位置が同じであっても、オイルタンク55の高さ、つまり、オイルタンク55の上方開放端56を、さらに上方に向けて高くするものである。オイルタンク55内部のオイルの液面57が車両の加減速や旋回によって車両の前後左右方向に傾くことで、フィードポンプ71の吸入口73が空気に露出してしまうことがある。フィードポンプ71の吸入口73が空気に露出することがないようにするためには、オイルタンク55を、上方に向けて極力高くしてやることである。言い換えると、フィードポンプ71の吸入口73から液面57までの鉛直方向の長さを大きく(長く)してやる必要がある。
そこで第2実施形態では、図7に示したようにオイルタンク55の上方開放端56の鉛直方向の位置が、パーキング機構21のケース下端22aより上方にあり、上方開放端56より下方にあるパーキング機構21の一部が、オイルタンク55の内部に収納されるようにする。すなわち、曲壁51を、インプットシャフト11の外周に沿ってさらに上方へと延ばし、曲壁51の上方端51aがパーキング機構21のケース下端22aよりも上方にくるようにする。このとき、パーキング機構21の鉛直方向の下部21aがオイルタンク55の内部に収納される。すると、オイルタンク55内部のオイルの液面57は、上方へと上昇していく途中でパーキング機構21のケース下端22aに到達する。この後には、パーキング装置21の下部21aがオイル中に浸されることになるが、液面57はさらに上昇してオイルタンク55の上方開放端56に到達する。上方解放端56に到達した後、オイルはオイルタンク55の外に溢れ出て流れ落ちる。言い換えると、オイルタンク55の上部では、パーキング機構21の下部21aがオイルを押しのける。オイルタンク55の内部に同じ量のオイル量が貯留されていても、パーキング装置21の下部21aがオイルを押しのける分だけ液面57が上方へと高くなるのである。
パーキング機構21のなかで、特に爪27aを有するパーキングポール27は、ギア機構10のロック時にインプットシャフト11と同軸のパーキングギア28と結合しなくてはいけないので、パーキング機構21の全体をオイルタンク55内部のオイル中に浸すこことはできない。詳述すると、パーキング機構21において、インプットシャフト11と同軸のパーキングギア28と噛み合う機構を構成するパーキングポール27が、パーキングギア28の回転運動を止めるための可動部になる。当該可動部までがオイルに浸された状態では、ロック指示を受けて当該可動部が動く際に、当該可動部がオイルを押しのけて動かなければならず、オイルの抵抗がフリクションになってしまう。従って、当該可動部がオイルタンク55内部のオイルに浸されることなくギアケース4内部の外気に露出さえしていれば、当該可動部を駆動するためのリンク機構(図1の23〜26)はオイルタンク55内部のオイルに浸されていても問題ない。
このように、パーキング機構21のうち、パーキングギア28の回転運動を止めるための可動部を除く部材(部位)がオイルタンク55内部に収納されることで、オイルタンク55内部に収納されたパーキング機構21の一部がオイルを押しのける分だけオイルタンク55内部のオイルの液面57を上方へと高くすることができる。
第2実施形態では、オイルタンク55の上方開放端56(上方端)は、パーキング機構21の下端(22a)より上方にあり、オイルタンク55の上方開放端56より下方にあるパーキング機構21の一部(21a)は、オイルタンク55の内部に収納されている。同じユニットの高さにおいて、パーキング機構21が鉛直方向の同じ位置にあるとしたとき、第2実施形態では、オイルタンク55の上方開放端56がパーキング機構21のケース下端22aより上方にある分だけ、オイルタンク55の上方開放端56の高さを上方へと高くすることができる。この場合に、上方開放端56にまでオイルの液面57が到達していれば、パーキング機構21の一部がオイルタンク55内部のオイルに浸される分だけ液面57はフィードポンプ71の吸入口73から上方により遠いものとなる。これによって、車両に加減速や旋回による加速度Gが作用してオイルタンク55内部のオイルの液面57が傾斜した場合にもフィードポンプ71の吸入口73が空気に露出することをさらに防止できる。
また、オイルの液面57が上方開放端56まで到達している場合において、オイルの液面57が鉛直方向の同じ位置にあるとしたとき、第2実施形態では、パーキング機構21の一部(21a)がオイルタンク55の内部に収納される分だけ、パーキング機構21を、パーキング機構21の一部(21a)がオイルタンク55の内部に収納されない場合よりも下方の位置にレイアウトできる。これによって、ユニットの高さが低減されることから、ドライサンプ方式の潤滑システムを構成するユニットの高さを抑えたものとすることができる。
(第3実施形態)
図8は第3実施形態の減速機3の潤滑装置の概略構成図で、第1実施形態の図2と置き換わるものである。
第1実施形態では、オイルタンク55の車両後方側の外のギアケース4内部にオイルポンプ62を設けた。一方、第3実施形態は、オイルポンプ62をオイルタンク55の内壁(50,51,53)で被覆することによって、オイルポンプ62をオイルタンク55の内部に収納したものである。すなわち、立壁49のうち直立壁50の位置を車両後方のファイナルギア13の近くまでシフトし、車両後方にシフトした鉛直壁50と曲壁51を繋ぐ水平壁53を新たに追加して設けている。また、リブ58はオイルポンプ62のケースからオイルタンク55の内部を車両前方に向かってかつ水平方向に張り出すと共に、リブ58の全体は下方に凸の曲面状で、リブ58の先端58aは上方に向かうように形成されている。このように、水平壁53を追加することで、オイルタンク55の容積を拡大することができる。
第3実施形態においても、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
(実施例1)
図9は第2実施形態の図7に対応する実施例1、図10は第3実施形態の図8に対応する実施例2の減速機3の潤滑装置の概略構成図である。ただし、図9,図10にはオイルタンク55の立壁49のみを示し、リブ58、スカベンジングポンプ63及びフィードポンプ71の吸入口及び吐出口、それら吸入口、吐出口につながる油路は示していない。
図2、図4〜図8は、ドライサンプ方式の潤滑システムを構成するについて、ギアケース4の内部にパーキング機構21、ギア機構10、オイルタンク55、オイルポンプ62を全体としてどう配置するかを主に示したもので、ギアケース4を実際の車両に対してどのように配置するかは考えていなかった。実際には、図9,図10に示したようにギアケース4の底壁43が、鉛直方向に対して垂直でなく、車両後方に向けて下方へと傾いていることがある。
また、図2、図4〜図8は、オイルポンプ62を設ける位置を主に示したもので、オイルポンプ62の実際の大きさまでは考慮していなかった。実際には、オイルポンプ62は図9,図10に示したように所定の大きさ(外形寸法)を有する。従って、オイルポンプ62の外形寸法を考慮して立壁49の形状を考えなければならない。
例えば、図9に示す実施例1は、オイルポンプ62の外形寸法が、セカンドギアと同等の場合である。しかも、オイルポンプ62には、付随する部材、例えばオイルポンプ62をギアケース4に対して固定する支持部材62aを備えている。この支持部材62aが、オイルポンプ62より車両右方側(図9で紙面奥)に配置されている。従って、実施例1では、鉛直壁50と支持部材62aとの干渉を避けるため、鉛直壁50の下方を車両前方側に傾けている。
図10に示す実施例2では、オイルポンプ62に所定の大きさがあるため、図8に示した鉛直壁50と水平壁53を平らな壁とすることはできない。このため、図8の水平壁53に代えて、実施例2ではインプットギア11及びセカンドギア12の外周に沿って延びる曲壁81としている。また、図8の鉛直壁50に代えて、実施例2ではファイナルギア13の外周に沿って立ち上がる曲壁82としている。このように、立壁49は、オイルポンプ62の外形寸法及びオイルポンプに付随する部材を考慮して形成する必要がある。
スカベンジングポンプ63及びフィードポンプ71の位置や個数は実施形態のものに限定されるものでない。例えば、ギアケース4の外側にスカベンジングポンプ63及びフィードポンプ71を配置してもよい。また、スカベンジングポンプ63及びフィードポンプ71の吸入口、吐出口とそれにつながるオイル供給路の位置は実施形態のものに限定されない。
実施形態では、電気自動車にパーキング機構を用いる場合で説明したが、この場合に限られるものでない。電気自動車に限らず、車両にパーキング機構を用いる場合には本発明の適用がある。