以下、本発明に係る模擬運転装置及び模擬運転方法について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
[1.模擬運転装置10の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る模擬運転装置10の概略的な構成を示す斜視図である。本実施形態における模擬運転装置10は、例えば、病院等の医療機関、大学等の研究機関、警察署や運転免許試験所等の公共機関に設置され、患者や来所者等の運転者12による車両の模擬運転の評価に使用される。
図1及び図2に示すように、模擬運転装置10は、模擬運転装置本体14(以下、装置本体14ともいう。)と、パーソナルコンピュータ16(以下、PC16ともいう。)とを有する。
装置本体14は、運転者12が模擬運転を行う模擬車両18の操作部分を模したものであり、入力部20を有する。入力部20は、運転者12が操作するものであって、ハンドル22(ハンドル操作具)と、アクセルペダル24(アクセル操作具)と、ブレーキペダル26(ブレーキ操作具)とを有する。入力部20は、PC16のコンピュータ本体30(以下、PC本体30ともいう。)に接続されている。
PC16は、PC本体30と、3台のモニタ32、34、36と、キーボード38及びマウス40の入力部42と、スピーカ44とを有する。PC本体30は、モニタ32、34、36にモニタ信号を供給することにより、モニタ32、34、36に運転シミュレーションの画面を表示させる。また、PC本体30は、スピーカ44から当該運転シミュレーションに伴う効果音や音声を出力させる。運転者12は、運転シミュレーションの画面に応じて入力部20に入力操作を行うことにより、モニタ32、34、36の画面表示を見ながら模擬車両18(四輪車)を運転することができる。
本実施形態では、運転者12の前方正面にモニタ32、前方左側にモニタ34、及び、前方右側にモニタ36が配置されている。これは、前方を見た運転者12の視野範囲をカバーするために、正面から左右に亘って、3台のモニタ32、34、36を配置したものである。
PC本体30は、入出力部46と、演算部48と、記憶部50とを有する。演算部48は、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Microprocessor)を含み構成され、非一過性の記録媒体である記憶部50に記憶されているプログラムを読み出して実行することにより、演算部48の各部の機能を実現する。
すなわち、演算部48は、事前設定処理部52と、模擬運転処理部54と、評価処理部56とを有する。事前設定処理部52は、模擬運転を行うための事前設定を処理する。模擬運転処理部54は、模擬運転を行う際の処理(模擬運転処理)を実行する。評価処理部56は、模擬運転の結果を評価し、その評価結果を入出力部46を介して外部に出力する。これらの処理の詳細は、図3等を参照して後述する。
[2.模擬運転装置10の処理(模擬運転方法)]
<2.1 模擬運転装置10の処理の概要>
図3は、本実施形態の模擬運転装置10の処理の概要を示すフローチャートである。ここでは、運転者12が半側空間無視又は視野狭窄の障害を持つ運転者である場合について説明する。
ステップS1において、PC本体30(図1及び図2参照)の電源がオンされると、PC本体30の事前設定処理部52は、起動処理の後、ステップS2において、モニタ32、34、36上にユーザメニュー(図示せず)を表示させる。ステップS3において、運転者12は、入力部42を操作して模擬運転モードを選択する。ユーザメニューでは、模擬運転モードの選択肢が示される。例えば、本実施形態では、運転者12が入力部42を操作して、図4に示す曲線路の走行コース58の模擬運転モードを選択する。
ステップS3において模擬運転モードが選択されると、次のステップS4において、PC本体30の模擬運転処理部54は、選択された模擬運転モードを実行し、運転者12に対して走行コース58の模擬運転を行わせる。ステップS4の詳細については後述する。
ステップS4の模擬運転の終了後、ステップS5において、PC本体30の評価処理部56は、模擬運転を実行した際に収集したデータを用いて、運転者12による模擬運転を評価する。ステップS5の詳細についても後述する。
<2.2 ステップS4の処理>
図5は、ステップS4の模擬運転の実行を示すフローチャートである。このフローチャートの処理主体は、模擬運転処理部54である。
ステップS4において、模擬運転処理部54は、半側空間無視又は視野狭窄の障害を持つ運転者12に対して、単純反応検査(図6及び図7参照)又は選択反応検査(図6及び図8〜図10参照)の模擬運転を行わせる。
ここで、本実施形態における単純反応検査及び選択反応検査の概要について説明する。
単純反応検査は、模擬車両18が一定速度(例えば、40[km/h])で模擬的に走行している場合に、モニタ32、34、36の画面60、62、64のうち、運転者12の視野範囲における少なくとも左右の箇所となる部分に、1種類のマーク68の一時的な表示を順次行わせる検査である。なお、本実施形態では、一例として、正面の画面60の一部を構成する左右部分と、左側の画面62と、右側の画面64とに、当該マーク68の一時的な表示を順次行わせる。
この場合、マーク68は、運転者12に対して、アクセルペダル24から直ちに足を離すこと(踏み込みを解除すること)を指示する青色の円形のマーク(図7で横線のハッチングで図示)である。
そして、単純反応検査において、運転者12は、表示されたマーク68を見て、アクセルペダル24から足を離し、一方で、模擬運転処理部54は、マーク68の表示開始時刻から、運転者12によるアクセルペダル24の操作中断に応じた時刻までの反応時間を計測する。
なお、運転者12によるアクセルペダル24の操作中断に応じた時刻とは、例えば、アクセルペダル24の開度が所定の閾値まで戻ったときの時刻をいう。この場合、図示しないアクセルペダルセンサによりアクセルペダル24の開度を検出し、検出した開度をPC本体30の模擬運転処理部54に出力することで、模擬運転処理部54は、単純反応検査での反応時間を計測することができる。
一方、選択反応検査は、模擬車両18が一定速度(例えば、40[km/h])で走行中、モニタ32、34、36の画面60、62、64のうち、運転者12の視野範囲における少なくとも左右の箇所となる部分に、複数種類のマークのうちのいずれかを一時的に表示(出現)させ、出現したマークの種類に対応する操作を運転者12に選択判断させる検査である。なお、本実施形態では、一例として、正面の画面60の一部を構成する左右部分と、左側の画面62と、右側の画面64とに、3種類のマーク70、72、74のいずれかの一時的な表示を順次行わせる。
この場合、3種類のマーク70、72、74のうち、マーク70は、運転者12に対して、特に何もせず、現状維持(アクセルペダル24の踏み込みの継続)を指示する青色の円形のマーク(図8で横線のハッチングで図示)である。また、マーク72は、運転者12に対して、アクセルペダル24から足を離すことを指示する黄色の円形のマーク(図9でチェックのハッチングで図示)である。さらに、マーク74は、運転者12に対して、アクセルペダル24から足を離し、ブレーキペダル26を踏み込むことを指示する赤色の円形のマーク(図10で縦線のハッチングで図示)である。
そして、選択反応検査において、運転者12は、表示されたマーク72を見て、アクセルペダル24から足を離し、一方で、模擬運転処理部54は、マーク72の表示開始時刻から、運転者12によるアクセルペダル24の操作中断に応じた時刻までの反応時間を計測する。また、表示されたマーク74を見た場合、運転者12は、アクセルペダル24から足を離して、ブレーキペダル26を踏み込む一方で、模擬運転処理部54は、マーク74の表示開始時刻から、運転者12によるブレーキペダル26の操作に応じた時刻までの反応時間を計測する。
なお、表示されたマーク70を見た場合、運転者12は、現状維持(アクセルペダル24の踏み込みをそのまま継続)でよく、特に新たな操作アクションは不要である。すなわち、マーク70は、マーク72、74の見極めを複雑化させるためのマークである。
また、運転者12によるブレーキペダル26の操作に応じた時刻とは、例えば、運転者12がブレーキペダル26を踏み込むことにより、ブレーキペダル26の開度が所定の閾値を超えたときの時刻をいう。この場合、図示しないブレーキペダルセンサによりブレーキペダル26の開度を検出し、検出した開度をPC本体30の模擬運転処理部54に出力することで、模擬運転処理部54は、マーク74の表示に起因する反応時間を計測することができる。
従って、選択反応検査では、単純反応検査と比較して、3種類のマーク70、72、74を見分ける選択的な認知と、各マーク70、72、74に対応する操作判断とが必要であり、半側空間無視又は視野狭窄の障害を持つ運転者12にとっては、より認知障害が惹起しやすい状態で模擬運転を行うことになる。
このように、単純反応検査と選択反応検査とでは、マーク68、70、72、74の出現する表示位置を順次変更することや、マーク68、70、72、74に対応する操作判断を運転者12に行わせる点等の基本操作部分では考え方が共通する。そこで、ステップS4の説明では、単純反応検査での模擬運転について最初に説明し、次に、選択反応検査での模擬運転について説明する。
なお、単純反応検査及び選択反応検査では、いずれも、模擬運転中、運転者12は、アクセルペダル24を踏み続けた状態で模擬車両18を一定速度で走行させ、マーク68、72、74が出現したときに、踏み込んだ足をアクセルペダル24から離すか、又は、さらにアクセルペダル24から離した足でブレーキペダル26を踏み込む(アクセルペダル24からブレーキペダル26に踏みかえる)操作を指示する。すなわち、アクセルペダル24及びブレーキペダル26は、マーク68、72、74の出現に対する運転者12の反応を検出する検知スイッチとして機能する。
また、単純反応検査及び選択反応検査では、運転者12の視野範囲における少なくとも左右の箇所となる部分(正面の画面60の一部を構成する左右部分、左側の画面62及び右側の画面64)に、マーク68、70、72、74の一時的な表示を、場所を変更して順次行わせる。これは、半側空間無視又は視野狭窄の障害を持つ運転者12の場合、視野範囲の右側又は左側に半側空間無視又は視野狭窄が発生することが多いためである。つまり、本実施形態では、半側空間無視又は視野狭窄の障害を検知しやすくするため、カーブ走行が多い走行コース58で模擬車両18を走行させ、運転者12を前方に注視させて視線が左右に移動しにくい状況下で、視野の左側から右側に至る各画面60、62、64のうち、視線に対して少なくとも左右部分に対応する位置にマーク68、70、72、74を一時的に表示(出現)させる。
具体的に、ステップS4では、視野範囲の正面位置を除く左右両側に対応する各画面60、62、64中にマーク68、70、72、74の一時的な表示を行うことにより、当該運転者12に視野欠損が発生しているか否かを検査する。
(2.2.1 単純反応検査での模擬運転)
ステップS40において、模擬運転処理部54(図2参照)は、模擬運転の開始を運転者12に指示する画像をモニタ32、34、36に表示すると共に、当該指示に応じた音声をスピーカ44から出力する。
ステップS41において、運転者12は、モニタ32、34、36の画面60、62、64を見て、又は、スピーカ44からの音声を聞いて、アクセルペダル24を踏み込む。アクセルペダル24の踏み込み量(開度)を図示しないアクセルペダルセンサが検出してPC本体30に出力し、模擬運転処理部54がアクセルペダル24の開度に応じて、走行コース58における模擬車両18前方の風景を動画として画面60、62、64に表示することにより、模擬運転が開始される。
図6は、模擬運転時の画面60、62、64の表示の一例を示す。画面60、62、64には、走行コース58を構成する道路76が表示されている。道路76は、模擬車両18が走行する走行車線78と、対向車線80とから構成される。なお、走行コース58は、カーブが多いため、運転者12の脇見運転の余裕は少ない。従って、運転者12は、正面のモニタ32の画面60の中央部分に走行車線78が位置するようにハンドル22を操作しながら前方を注視して模擬運転を行うことになる。
なお、図6の各画面60、62、64に破線で示すように、各画面60、62、64は、それぞれ3×3=9個、合計で27個の領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64iに分割されている。これらの領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64iは、マーク68、70、72、74の出現可能領域(一時的に表示させる領域)を示しており、ステップS5での領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64i毎の評価処理についての説明の便宜上、仮想的に図示している。従って、実際の画面60、62、64に図示の破線が表示されることはない。また、画面60、62、64の枠外には、ステップS5での領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64i毎の評価処理と対応付けて説明するために、便宜的に、横に1〜9の数字、縦にA〜Cの文字を付している。これらの数字及び文字も実際の画面60、62、64に表示されることはない。
また、画面60の下方には、模擬車両18の動作状態を表示する動作状態表示枠82が表示されている。動作状態表示枠82は、車速V[km/h]をデジタル表示する車速表示部84と、アクセルペダル24の開度をバー表示するアクセルペダル開度表示部86と、ブレーキペダル26の開度をバー表示するブレーキペダル開度表示部88とを有する。
そして、ステップS41において、運転者12は、アクセルペダル24を踏み込み、模擬的に、模擬車両18を走行車線78上で前方に走行させる。この場合、模擬運転処理部54は、運転者12がアクセルペダル24を一杯に踏み込んでも、上限が一定速度(例えば、40[km/h])で模擬車両18が走行するような表示を画面60、62、64に対して行う。
その後、ステップS42において、模擬運転処理部54は、例えば、図7に示すように、右側のモニタ36の画面64の領域64bにマーク68を出現(一時的に表示)させる。
ステップS43において、運転者12は、表示されたマーク68を確認すると、アクセルペダル24から一時的に足を離す。模擬運転処理部54は、アクセルペダル24の開度が所定の閾値未満又は0°になったことを確認することにより、運転者12がアクセルペダル24から一時的に足を離したと判断する。
次のステップS44において、模擬運転処理部54は、マーク68の表示開始時刻から、運転者12がアクセルペダル24から一時的に足を離したと判断できた時刻、すなわち、運転者12によるアクセルペダル24の操作中断の時刻までの反応時間を特定(取得)し、取得した反応時間を記憶部50に記憶する。
また、ステップS44において、模擬運転処理部54は、道路76の基準位置、例えば、道路76のセンターライン90の位置に対する模擬車両18の距離を検出し、検出した距離を記憶部50に記憶する。
なお、当該距離については、例えば、ハンドル22の舵角を図示しない舵角センサで検出し、検出された舵角に応じたハンドル22の操作量に基づき、模擬運転処理部54がセンターライン90の位置に対する模擬車両18の距離を算出することにより検出される。また、半側空間無視又は視野狭窄の障害を持つ運転者12の場合、センターライン90に対して、左側又は右側に模擬車両18が偏った状態、又は、左右方向に模擬車両18がぶれた状態で、該模擬車両18を運転する傾向がある。従って、センターライン90の位置に対する模擬車両18の距離は、該センターライン90の位置に対する模擬車両18のブレ量でもある。
ステップS45において、模擬運転処理部54は、領域64bに対するマーク68の出現を停止(一時的な表示を停止)させる。
ステップS46において、模擬運転処理部54は、模擬運転を終了すべきか否かを判定する。模擬運転を継続する場合(ステップS46:NO)、模擬運転処理部54は、ステップS41に戻り、ステップS41〜S45の処理を繰り返し行う。
従って、ステップS46で模擬運転を終了させる旨の判定が成立するまで(ステップS46:YES)、単純反応検査の模擬運転が継続して行われ、同じマーク68が前回の領域とは異なる領域に一時的に表示され、反応時間及び模擬車両18の距離(ブレ量)が順次取得されて記憶部50に記憶される(ステップS44)。
なお、単純反応検査では、例えば、画面60、62、64のうち、領域60a、60c〜60g、60i以外の各領域に対して、4回ずつマーク68の一時的な表示のための処理(ステップS41〜S46の処理)が行われる。従って、記憶部50には、各領域60b、60h、62a〜62i、64a〜64iについて、4回のマーク68の一時的な表示に対する反応時間及びブレ量の結果が記憶されることになる。
ステップS46で模擬運転の終了を判定した場合(ステップS46:YES)、模擬運転処理部54は、モニタ32、34、36の画面60、62、64に模擬運転の終了を指示する表示を行う。運転者12は、表示内容を確認し、アクセルペダル24から足を離し、そのまま走行を停止させることにより、単純反応検査における模擬車両18の模擬運転を終了する。
(2.2.2 選択反応検査の模擬運転)
選択反応検査の模擬運転では、上記の単純反応検査の模擬運転と比較して、下記の点が異なる。ここでは、単純反応検査の模擬運転と異なる点についてのみ説明する。
ステップS42において、模擬運転処理部54は、画面60、62、64に、3種類のマーク70、72、74のうち、いずれかのマークを一時的に表示させる。
図8は、正面の画面60の領域60gにマーク70を出現させた場合を図示したものであり、図9は、左側の画面62の領域62eにマーク72を出現させた場合を図示したものであり、図10は、左側の画面62の領域62fにマーク74を出現させた場合を図示したものである。
選択反応検査において、マーク70は、運転者12に対して、何もせず、現状維持(アクセルペダル24の踏み込みの継続)を指示する青色の円形のマークである。従って、マーク70が表示された場合、ステップS43、S44の処理はスキップされ、その後、ステップS45でマーク70の出現が停止する。従って、マーク70を見た運転者12が誤ってアクセルペダル24の操作中断又はブレーキペダル26の操作を行っても、反応時間又はブレ量が収集されることはない。
また、選択反応検査において、マーク72は、運転者12に対して、アクセルペダル24から足を離すことを指示する黄色の円形のマークである。従って、単純反応検査でマーク68が表示された場合と同様に、マーク72が出現したときには、ステップS42〜S44の処理が順次行われ、ステップS45でマーク72の出現が停止する。
一方、選択反応検査において、マーク74は、運転者12に対して、アクセルペダル24から足を離し、ブレーキペダル26を踏み込むことを指示する赤色の円形のマークである。従って、マーク74が出現した場合、ステップS43において、運転者12は、表示されたマーク74を見て、アクセルペダル24の踏み込みを解除する。次に、ステップS48で、運転者12は、ブレーキペダル26を踏み込む。
次のステップS44において、模擬運転処理部54は、マーク74の表示開始時刻から、運転者12がブレーキペダル26を踏み込んだと判断できた時刻、すなわち、運転者12によるブレーキペダル26の操作時刻までの反応時間を特定(取得)し、取得した反応時間を記憶部50に記憶する。なお、運転者12がブレーキペダル26を踏み込んで、ブレーキペダル26の開度が所定の閾値を超えたときに、模擬運転処理部54は、その時刻をブレーキペダル26の操作時刻と判断する。
また、ステップS44において、模擬運転処理部54は、道路76のセンターライン90の位置に対する模擬車両18の距離を検出し、検出した距離を記憶部50に記憶する。その後、ステップS45において、模擬運転処理部54は、マーク74の出現を停止する。
ステップS46において、模擬運転処理部54が模擬運転の継続を判定した場合(ステップS46:NO)、マーク74が出現停止となっているため、運転者12は、ブレーキペダル26から足を離し、踏み込みを解除する(ステップS49)。この場合、運転者12がブレーキペダル26から足を離して、ブレーキペダル26の開度が所定の閾値未満又は0°となったときに、模擬運転処理部54は、ブレーキペダル26の踏み込みが解除されたと判断すればよい。その後、ステップS41の処理に戻る。
従って、選択反応検査の模擬運転においても、ステップS46で模擬運転を終了させる旨の判定が成立するまで(ステップS46:YES)、選択反応検査の模擬運転が継続して行われ、3種類のマーク70、72、74が前回の領域とは異なる領域に一時的に表示され、反応時間及び模擬車両18の距離(ブレ量)が順次取得されて記憶部50に記憶される(ステップS44)。
ステップS46で模擬運転の終了を判定した場合(ステップS46:YES)、模擬運転処理部54は、モニタ32、34、36の画面60、62、64に模擬運転の終了を指示する表示を行う。運転者12は、表示内容を確認し、アクセルペダル24又はブレーキペダル26から足を離し、そのまま走行を停止させることにより、選択反応検査における模擬車両18の模擬運転を終了する。
<2.3 ステップS5の処理>
図11は、ステップS5の評価処理を示すフローチャートである。このフローチャートの処理主体は、評価処理部56である。
ステップS5では、記憶部50に記憶された反応時間及び距離のデータを用いて、半側空間無視又は視野狭窄の障害を持つ運転者12の模擬運転を評価する。なお、前述のように、複数の領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64iにマーク68、70、72、74が一時的に表示されて反応時間及び距離が取得され、記憶部50に記憶されている。従って、評価処理部56は、各領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64iについて、取得された反応時間及び距離に基づいて、運転者12の模擬運転を評価する。
具体的に、ステップS50において、記憶部50に記憶された1つの領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64iに対する全ての反応時間を読み出し、その平均値(平均反応時間)を算出する。ステップS4では、単純反応検査と選択反応検査とがそれぞれ行われたので、評価処理部56は、1つの領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64iについて、単純反応検査の反応時間の結果に対する平均反応時間と、選択反応検査の反応時間の結果に対する平均反応時間とをそれぞれ算出する。算出した各平均反応時間は、記憶部50に記憶される。
次のステップS51において、評価処理部56は、ステップS50での平均反応時間の算出処理に用いた各反応時間について、所定の第1反応時間(例えば、2[s])以上の反応時間が1つでもあったか否かを判定する。
全ての反応時間が第1反応時間未満である場合(2[s]未満、ステップS51:NO)、評価処理部56は、次のステップS52において、平均反応時間が所定の第2反応時間(例えば、1[s])未満であるか否かを判定する。
平均反応時間が第2反応時間未満である場合(1[s]未満、ステップS52:YES)、ステップS53において、評価処理部56は、当該1つの領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64iについては、反応時間及び平均反応時間が良好である、すなわち、半側空間無視又は視野狭窄の影響(障害)がないと判定する。
一方、ステップS52で平均反応時間が第2反応時間以上である場合(1[s]以上、ステップS52:NO)、ステップS54において、評価処理部56は、当該1つの領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64iについては、半側空間無視又は視野狭窄の影響(障害)の疑いがある要注意の領域であると判定する。
また、ステップS51で第1反応時間以上の反応時間が1つでもあった場合(2[s]以上、ステップS51:YES)、ステップS55において、評価処理部56は、当該1つの領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64iについては、半側空間無視又は視野狭窄の影響(障害)がある、すなわち、視野欠損部分に対応した領域であると判定する。
次のステップS56において、評価処理部56は、全ての領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64iに対して、ステップS50〜S55の処理を行ったか否かを判定する。
ステップS50〜S55の処理を行っていない領域が存在すれば(ステップS56:NO)、ステップS50に戻り、当該領域に対してステップS50〜S56の処理が行われる。
このようにして、全ての領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64iに対して、ステップS50〜S55の処理が実行された場合(ステップS56:YES)、評価処理部56は、次のステップS57において、記憶部50に記憶されている各距離を読み出し、読み出した各距離を用いて誤差率、標準偏差及び変動係数の算出等の各種統計処理を行う。
その後、ステップS58において、評価処理部56は、反応時間及び平均反応時間と、ステップS50〜S55での評価結果と、各距離と、ステップS58での統計処理の結果とを入出力部46を介して外部に出力する。
次に、評価処理部56が出力した各種の評価結果について、図12〜図17に示す。図12〜図14は、単純反応検査についての評価結果であり、図15〜図17は、選択反応検査についての評価結果である。
図12は、単純反応検査において、領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64i毎に、平均反応時間と、第1反応時間未満の反応時間の結果の割合と、評価結果とを、各画面60、62、64の配置に対応させて図示した一覧表である。すなわち、各領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64iを示す矩形状の枠の中には、上段に第1反応時間未満の反応時間の結果の割合[%]が図示され、下段に平均反応時間[s]が図示されている。また、各矩形状の枠には、ステップS53のOKの評価結果であった場合を白抜き表示とし、ステップS54の要注意の評価結果であった場合をチェック柄の表示とし、ステップS55のNGの評価結果であった場合を縦線のハッチング表示としている。
なお、画面60の複数の領域60a、60c〜60g、60iについては、マーク68の一時的な表示を行わなかったため、矩形状の枠内は空欄となっている。
図12に示すように、領域62cに対応する左下の枠のみがNGの評価結果となっている。すなわち、領域62cについては、反応時間が第1反応時間未満である割合が50%(2回)であることから、反応時間が第1反応時間以上である割合は50%(2回)である。ステップS51の判定処理では、2[s]を超える反応時間のデータが1つでもあれば、NGと判定される(ステップS55)。この場合、領域62cでは反応時間が2[s]を超えるデータが2つあったので、領域62cは、視野欠損部分に対応する領域である可能性が高いと評価することができる。一方、領域60a、60c〜60g、60iを除く、領域62c以外の他の領域については、反応時間が第1反応時間未満である割合が100%であることから、視野が正常であると評価することができる。
図13は、走行コース58に沿って模擬車両18が走行したときに順次取得された反応時間について、走行距離を横軸にして図示したものである。図13において、黒塗りの左向きの三角形のプロットは、左側の画面62の各領域62a〜62h及び中央の画面60の領域60bにマーク68が一時的に表示されたときの反応時間の結果を示す。また、黒塗りの右向きの三角形のプロットは、右側の画面64の各領域64a〜64h及び中央の画面60の領域60hにマーク68が一時的に表示されたときの反応時間の結果を示す。従って、図13では、各画面60、62、64について、左右のどちらにマーク68が表示されたのかを直感的に理解することができる。
なお、図13では、一例として、左向きの三角形及び右向きの三角形を黒塗りで表示している。本実施形態では、表示されたマーク68と同じ色で左向きの三角形及び右向きの三角形を表示してもよい。すなわち、黒塗りの左向きの三角形及び黒塗りの右向きの三角形を、マーク68と同じ色(青色)の三角形として表示すれば、左右のどちらにマーク68が表示されているのか理解しやすくなる。
この場合、ほとんどの反応時間は1[s]未満であるが、2つの反応時間のみが2[s]のところにプロットされている。これらの2つの反応時間は、領域62cに対する反応時間である。なお、これら2つの反応時間は、実際には2[s]以上であるが、図13では、2[s]のラインに貼り付いた状態で図示している。
また、図13では、左側の反応時間(黒塗りの左向きの三角形)と、右側の反応時間(黒塗りの右向きの三角形)との差を比較することにより、反応時間の左右差を評価することができる。図13の例では、概ね、反応時間の左右差が小さいことから、脳の損傷が視機能に及ぼす影響は低いと評価することができる。
図14は、走行コース58に沿って模擬車両18が走行したときに順次取得されたセンターライン90に対する模擬車両18の左右方向の距離(ブレ量)について、走行距離を横軸にして図示したものである。この場合、縦軸で0[m]がセンターライン90の位置であり、正方向が模擬車両18の左方向、負方向が模擬車両18の右方向を示す。この場合、模擬車両18は、±100[%]の誤差率の範囲内(+0.8[m]〜−0.8[m])に概ね収まりつつ走行していることが理解できる。
なお、半側空間無視の運転者12の場合、視野が見えない方向に模擬車両18が寄っていく傾向がある。例えば、右脳が損傷している場合、左側が見えないため、このような障害を持つ運転者12が運転すると、模擬車両18は、左方向(図14では正方向)に寄った状態で走行することになる。
次に、選択反応検査に対する評価結果について、図15〜図17を参照しながら説明する。
図15は、選択反応検査において、領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64i毎に、平均反応時間と、第1反応時間未満の反応時間の結果の割合と、評価結果とを、各画面60、62、64の配置に対応させて図示した一覧表である。この場合、領域62a、62bに対応する左上、左中央の枠がNGの評価結果であると共に、領域62cに対応する左下の枠が要注意の評価結果となっている。
すなわち、領域62a、62bについては、反応時間が第1反応時間未満である割合がそれぞれ75%(3回)であることから、反応時間が第1反応時間以上である割合は25%(1回)となる。つまり、領域62a、62bは、ステップS51の判定処理において、2[s]を超える反応時間のデータが1つあったため、NGと判定された場合であり、当該領域62a、62bは、視野欠損部分に対応する領域である可能性が高いと評価することができる。
一方、領域62cについては、反応時間が第1反応時間未満である割合が100%であるが、平均反応時間が第2反応時間(1[s])を超えているため、視野欠損部分の疑いがあると評価することができる。
さらに、領域60a、60c〜60g、60iを除く、領域60a〜60c以外の他の領域については、反応時間が第1反応時間未満である割合が100%であることから、視野が正常であると評価することができる。
図16は、選択反応検査において、走行コース58に沿って模擬車両18が走行したときに順次取得された反応時間について、走行距離を横軸にして図示したものである。図16において、黒塗りの左向きの三角形のプロットは、左側の画面62の各領域62a〜62h及び中央の画面60の領域60bにマーク72が一時的に表示されたときの反応時間の結果を示す。また、黒塗りの右向きの三角形のプロットは、右側の画面64の各領域64a〜64h及び中央の画面60の領域60hにマーク72が一時的に表示されたときの反応時間の結果を示す。さらに、白抜きの左向きの三角形のプロットは、左側の画面62の各領域62a〜62h及び中央の画面60の領域60bにマーク74が一時的に表示されたときの反応時間の結果を示す。さらにまた、白抜きの右向きの三角形のプロットは、右側の画面64の各領域64a〜64h及び中央の画面60の領域60hにマーク74が一時的に表示されたときの反応時間の結果を示す。従って、図16においても、各画面60、62、64について、左右のどちらにマーク72、74が表示されたのかを直感的に理解することができる。
この場合、複数の反応時間は1[s]を超え、さらに、2つの反応時間のみが2[s]のところにプロットされている。これらの2つの反応時間は、領域60a、60bに対する反応時間である。
また、図13の結果と比較して、図16では、左側の反応時間(黒塗りの左向きの三角形及び白抜きの左向きの三角形)と、右側の反応時間(黒塗りの右向きの三角形及び白抜きの右向きの三角形)との差が大きくなっている。この結果より、運転者12の脳が損傷している可能性があると評価することができる。
なお、図16では、一例として、左向きの三角形及び右向きの三角形を黒塗り又は白抜きで表示している。本実施形態では、表示されたマーク72、74と同じ色で左向きの三角形及び右向きの三角形を表示してもよい。すなわち、黒塗りの左向きの三角形及び黒塗りの右向きの三角形を、マーク72と同じ色(黄色)の三角形として表示すれば、左右のどちらにマーク72が表示されているのか理解しやすくなる。また、白抜きの左向きの三角形及び白抜きの右向きの三角形を、マーク74と同じ色(赤色)の三角形として表示すれば、左右のどちらにマーク74が表示されているのか理解しやすくなる。
図17は、選択反応検査において、走行コース58に沿って模擬車両18が走行したときに順次取得されたセンターライン90に対する模擬車両18の左右方向の距離について、走行距離を横軸にして図示したものである。
この場合、図14の結果と比較して、走行距離の推移に対して、模擬車両18が±100[%]の誤差率の範囲(+0.8[m]〜−0.8[m])を超える場合が多いことが容易に理解できる。
このように、選択反応検査では、単純反応検査と比較して、選択的な認知及び判断が必要であるため、半側空間無視又は視野狭窄の障害の検知が容易である。
[3.模擬運転装置10及び模擬運転方法の効果]
以上説明したように、本実施形態の模擬運転装置10及び模擬運転方法によれば、模擬運転中、運転者12がアクセルペダル24を操作しているときに、モニタ32、34、36の画面60、62、64上、視野範囲における正面を除く少なくとも左右の箇所に、アクセルペダル24の操作中断を指示するマーク68、72、74の一時的な表示が順次行われる。そのため、運転者12は、マーク68、72、74の一時的な表示を見て、アクセルペダル24の操作を中断する。模擬運転後、評価処理部56は、運転者12によるアクセルペダル24の操作中断の正誤を判定する。
これにより、模擬運転中の運転者12による走行コース58の道路76の認知と、これに対応する運転者12の有効視野とが定量的に判定される。すなわち、半側空間無視又は視野狭窄の障害を持つ運転者12は、画面60、62、64上、空間認識がしにくい位置、又は、視野欠損部分に対応する位置にマーク68、72、74が一時的に表示されると、アクセルペダル24の操作中断を行えない。この結果、評価処理部56は、この位置については、運転者12がマーク68、72、74を認識できなかった(アクセルペダル24の操作中断ができなかった)と評価することができる。
従って、本実施形態では、評価処理部56での評価結果を用いて、実際の車両の運転可否や、運転に当たって注意すべきことを、説得性のあるデータとして運転者12に提示することができる。また、この注意すべき内容に従って、運転者12が模擬運転を行うことにより、当該評価結果が半側空間無視又は視野狭窄の障害に起因するものであることの自覚を運転者12に促すことができる。
このように、本実施形態は、特別な脳計測手段を用いることなく、運転者12のハンドル22の操作及びアクセルペダル24の操作によって、走行コース58に集中した模擬運転を運転者12に行わせると共に、刻々と変化する状況を運転者12に認知及び判断させることにより、実際の車両の運転が可能であるか否かを評価することができる。
また、脳機能障害が残っている運転者12は、空間認識が困難であるため、当該運転者12が模擬運転を行うと、左右方向にぶれつつ模擬車両18が走行したり、又は、いずれか一方の方向に偏った状態で模擬車両18が走行する可能性がある。このようなブレの大きさを検出することにより、実際の車両の運転が可能かどうかの判断材料を運転者12に提示することができる。
また、半側空間無視又は視野狭窄は、運転者12の視野の右側又は左側に発生する場合が多い。そこで、左右の画面62、64の領域62a〜62i、64a〜64i毎にマーク68、72、74の一時的な表示を順次行い、この結果に基づいて領域62a〜62i、64a〜64i毎にアクセルペダル24の操作中断の正誤を判定することで、実際の半側空間無視又は視野狭窄の程度を数値化して運転者12に提示することができる。
また、画面60、62、64上に一時的に表示されるマークをマーク72、74の2種類とし、マーク72、74に対応して、運転者12がアクセルペダル24の操作及びブレーキペダル26の操作を区別して操作することにより、選択的な認知及び判断により、半側空間無視又は視野狭窄の認知障害を惹起しやすい状態で模擬運転を行わせることができる。
また、評価処理部56は、領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64i毎に、マーク68、72、74の一時的な表示に基づく運転者12によるアクセルペダル24の操作中断の正誤を判定し、その判定結果を集計して、操作中断の結果及び判定結果を外部に出力するので、領域60a〜60i、62a〜62i、64a〜64i毎に、半側空間無視又は視野狭窄の位置状況を図示化することができる。
さらに、評価処理部56は、マーク68、72、74の表示開始から運転者12がアクセルペダル24の操作を中断するまでの反応時間が所定時間内であるか否かを判定することにより、半側空間無視又は視野狭窄の位置状況に加え、その位置での反応時間に基づく運転者12の状態を評価することができる。
[4.変形例]
本発明は、上記の実施形態に限らず、種々変更することが可能である。ここで、上記の説明に対する変形例について以下に説明する。
(1)上記の説明では、運転者12のアクセルペダル24の操作中断を、アクセルペダル24の開度によって検知する場合について説明した。本実施形態では、アクセルペダル24を光センサ又は磁気センサによりオン位置及びオフ位置が検出される検知スイッチとして機能させることも可能である。この場合、運転者12がアクセルペダル24を踏み込むことにより、模擬運転処理部54は、検知スイッチのオン(アクセルペダル24の操作)を検知する。一方で、運転者12がアクセルペダル24から足を離せば、模擬運転処理部54は、検知スイッチのオフ(アクセルペダル24の操作中断)を検知する。
(2)上記の説明では、運転者12のブレーキペダル26の操作を、ブレーキペダル26の開度によって検知する場合について説明した。本実施形態では、ブレーキペダル26を光センサ又は磁気センサによりオン位置及びオフ位置が検出される検知スイッチとして機能させ、運転者12がブレーキペダル26を踏み込めばオン(ブレーキペダル26の操作)と検知してもよい。
(3)上記の説明では、運転者12の前方正面に3台のモニタ32、34、36を配置した場合について説明した。本実施形態では、前方を見た運転者12の視野範囲をカバーできるのであれば、モニタ32、34、36の台数は何台でもよい。例えば、4台以上のモニタを正面から左右に亘って配置してもよいし、又は、運転者12の正面に1台の大型モニタを配置して視野範囲をカバーしてもよい。さらに、モニタ32、34、36に代えて、大型のスクリーンを運転者12の前方に配置してもよい。この場合、スクリーンに映像を投影するプロジェクタをPC16に接続しておく必要がある。
(4)上記の説明では、図14及び図17の評価のための基準位置をセンターライン90としていたが、道路76上の他のラインを基準位置としてもよい。