JP6769727B2 - 電池集電体用アルミニウム合金箔およびその製造方法 - Google Patents

電池集電体用アルミニウム合金箔およびその製造方法 Download PDF

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この発明は、電池集電体用アルミニウム合金箔に関する。
近年、リチウムイオン電池の高容量化を目的として、電極集電体であるアルミニウム箔や銅箔、そしてセパレータの薄肉化が要求されている。正極の集電体として使用されるアルミニウム箔は薄肉化される事で、電池製造ライン中での破断を生じやすくなる。その為、アルミ箔を薄肉化する際は、破断を抑制する為、高強度化や高伸び化が求められるのが一般的である。
電池の電極製造中には集電体に熱が加わる工程があり、例えばリチウムイオン電池の製造では、電極スラリーを集電体に塗布した後に100〜200℃程度の比較的低温で熱乾燥を行うのが一般的である。特許文献1や特許文献2では、低温熱処理時に箔の強度が低下し、電池製造工程中に不具合が生じる事を防ぐため、熱処理後の箔の強度を確保する内容を提案している。
特許5798128号明細書 特開2014−114480号公報 特開2014−47367号公報 特開2012−224927号公報
浅野 他,軽金属,64(2014),279p−284p
しかし、我々はアルミニウム箔に関して化学成分や製造工程によっては、低温熱処理時に伸びが極端に低下する現象を見出している。極端に伸びが低下した箔は脆く、電極製造工程中の例えば熱乾燥後のプレス工程等で破断するリスクが高まる為、電極集電体には熱乾燥後でも伸びが高い事が重要である。
このアルミニウム箔における低温熱処理での伸び低下現象について、我々は化学成分としてFeがある程度添加されている場合に顕著に生じる事を発見した。例えば特許文献3や特許文献4にある通り、高伸びを意識した文献は結晶粒の微細化添加元素としてFeを意図して添加しているが、このような箔は低温熱処理時に伸びが極端に低下してしまう可能性が高い。
そもそもの現象である、アルミニウム箔の低温熱処理時の伸び低下に関して、明確なメカニズムは未だ明らかとなっていない。箔のように高い冷間圧延で製作した材料中では、SiはもとよりAlマトリックス中での拡散速度の小さいFeも低温熱処理で拡散や析出を生じる事が知られている。非特許文献1では、FeやSiの粒界への偏析が伸び低下の要因であるとの報告もあり、低温熱処理後のミクロ組織にFeやSiが何らかの影響を及ぼしていると推測される。
非特許文献1においてはFeやSiの積極的な添加は、熱処理時のアルミニウム箔の伸び低下を助長するとも受け取れるが、我々は高伸びを達成する為にFeはある程度添加しつつ、Fe添加量に応じてあえてSiを一定の比率以上で添加する事で低温熱処理時の伸び低下を大幅に抑制出来る事を見出した。
本願発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、強度と伸びの特性に優れた電池集電体用アルミニウム合金箔を提供することを目的の一つとする。
本発明の電池集電体用アルミニウム合金箔のうち、第1の形態は、Si:0.2質量%以上0.8質量%以下、Fe:0.15質量%以上0.7質量%未満を含有し、Si含有量/Fe含有量比が0.7以上2.5以下で、残部がAlと不可避不純物からなり、前記不可避不純物中のMnを0.05質量%以下に規制した組成を有し、厚さが5〜20μmで、引張強さが180MPa以上、伸びが3.0%以上であり、最終冷間圧延後に100〜200℃で30分〜10時間の低温熱処理を行った場合でも、伸びが3.0%以上であることを特徴とする。
以下に、本発明で規定した技術的事項について説明する。
・Fe:0.15〜0.7%未満
Feは材料の結晶粒組織を微細化し、伸びを向上させることのできる元素である。0.15%未満では結晶粒微細化が不十分となり、箔の伸びが低下する。一方0.7%以上では、圧延後の伸びは向上するものの、後述するSiを添加しても低温熱処理時の伸び低下が生じてしまう。同様の理由で、Fe含有量について、下限を0.25%、上限を0.45%とするのが望ましい。
・Si:0.2〜0.8%
Siは箔の強度を向上させ、またFeと共に添加する事で低温熱処理時の伸び低下を抑制出来る元素である。0.2%未満では低温熱処理時の伸び低下抑制の効果が小さい。0.8%を超えるとAl−Fe−Si系の金属間化合物の粗大化、またはSi単体の析出により圧延時の破断等の原因となり圧延性が低下する懸念がある。同様の理由で、Si含有量について、下限を0.30%、上限を0.60%とするのが望ましい。
・Si含有量/Fe含有量比が0.7以上2.5以下
上述のFeとSiの含有量範囲を順守した上で、Si含有量/Fe含有量比を0.7以上とする事で低温熱処理時の伸び低下を抑制する事が出来る。0.7未満、つまりFe含有量が相対的に多い場合は熱処理前の伸び値は高いものの、熱処理後の伸び低下が顕著になる。2.5を超えるとFe含有量に対しSi含有量が相対的に多くなり、晶出相の粗大化やSiの単体析出を生じ、伸びの低下だけでなく圧延性の低下も招く。Siを添加する事でFeの固溶・析出状態が変化していると推測しているが、詳細なメカニズムはまだ明らかとなっていない。なお、同様の理由で上記比について、下限を1.0、上限を2.0とするのが望ましい。
・Mnの含有量を0.05%以下に規制
MnはFeと同様に結晶粒を微細化する効果があり、箔の伸び向上には有効な元素である。ただしMnは熱処理時の転位移動を妨げ、アルミニウム箔の回復・再結晶を阻害する。この材料の回復を抑制する影響が原因であるかどうかは定かではないが、Mnを添加する事で低温熱処理時の伸びの低下が極めて顕著になる。このため、不可避不純物としてMnを含有する場合、その含有量を0.05%以下に規制する事でこの伸びの低下を抑制するのが望ましい。さらに、上限を0.02%とするのが一層望ましい。
・引張強さ180MPa以上、びが3.0%以上
引張強さを180MPa以上、伸び3.0%以上とする事で電池製造ライン中での破断を抑制出来る
・低温熱処理を行った後でも、び値として3.0%以上
低温熱処理を含む電池製造工程中での伸び低下が抑制されることで、電池特性に対して箔の高い伸び特性を生かす事が出来る。また最低でもび値が3.0%以上保たれる事で、製造工程途中での破断を抑制出来る。
低温熱処理としては、100〜200℃×10時間を基準とすることができる。ただし、低温熱処理の条件がこれに限定されるものではなく、例えば100〜200℃で30分〜10時間の処理を示すことができる。温度が100℃未満では乾燥など所望の効果が不十分又は遅過ぎるため、通常の工程では採用されない。一方200℃を超える処理は、箔の軟化が急激に起こるため、同様に採用不可である。また通常、低温熱処理ラインでは箔コイル全体の特性均一化のため30分以上の処理がなされる。なお10時間を超える処理は、スラリー乾燥など所望の効果が飽和するため、非経済的であり現実的でない。
本発明によれば、強度に優れ、なおかつ伸び特性に優れる電池集電体用アルミニウム箔を得ることができる。
本発明の組成としたアルミニウム合金は常法により溶製することができ、既知の半連続鋳造法や連続鋳造圧延法を採用することができる。
半連続鋳造により得られる鋳塊は、所望により均質化処理を行うことができる。均質化処理をする場合、均質温度420〜620℃、保持時間1〜12時間に制御することが望ましい。これにより、鋳造時の合金元素の偏析を解消し、組織を均一化することで薄箔の圧延により好適な状態とすることができる。
均質温度が420℃未満であると、局部的な偏析を解消しきれない恐れがあり、不均一な加工硬化により圧延が困難になる。一方、均質温度が620℃を超えると、局部溶解が起こる場合がある。このため、均質温度は420〜620℃が望ましい。均質時間は、1時間未満ではその効果が十分でなく、やはり不均一な加工硬化により圧延が困難になる。一方、12時間を超えると、析出物が肥大化し、圧延時に破断しやすくなる。このため、均質時間は、1〜12時間とするのが望ましい。
その後、熱間圧延を行ってアルミニウム合金材を得る。熱間圧延は常法により行うことができるが、仕上り温度を200〜290℃にするのが望ましく、240〜280℃にするのが一層望ましい。
上記アルミニウム合金材は、冷間圧延に供され、中間焼鈍を経て、再度冷間圧延、最終冷間圧延が行われる。中間焼鈍は、バッチ式焼鈍炉または連続焼鈍炉を使用し常法により行うことができる。また、本実施形態では、中間焼鈍は行わないものとしてもよい。
冷間圧延における圧下率は、95.0〜99.98%が望ましく、98.0〜99.7%とするのが一層望ましい。
冷間圧延、最終冷間圧延を経て、厚さが5〜20μmであるアルミニウム合金箔を得ることができる。該アルミニウム合金箔は、引張強度が180MPa以上である。また、箔の厚さ12μmにおいて伸びが3.0%以上である。
なお、圧下率は、熱処理後の圧下率を示しており、冷間圧延中に中間焼鈍を行うのであれば中間焼鈍時の板厚が、行わないのであれば熱間圧延時の板厚が出発材となる。
得られたアルミニウム合金箔は、電池集電体用に用いられる。特に、リチウムイオンなどの二次電池に好適に用いることができる。電池用集電体としては、正極、負極のどちらにも用いることができるが、主として正極に用いられる。
電池集電体では、電極スラリーを集電体に塗布した後に、100〜200℃で30分〜10時間で熱乾燥を行うなどの熱履歴を受ける。この熱履歴の後においても、上記した伸びの特性が維持される。
以下に、本発明の実施例を説明する。
表1に示す各組成(残部Alおよびその他の不可避不純物)からなるアルミニウム合金の鋳塊を550℃で4時間の均質化処理した後に、仕上がり温度270℃での熱間圧延にて4.5mmの板材とした。その後、冷間圧延、中間焼鈍、最終冷間圧延を経て、厚み12μm、幅1200mmのアルミニウム合金箔の試料を作製した。中間焼鈍は連続焼鈍ライン(CAL)を用いて、1.0mmの板厚で行った。CALの条件は昇温速度:70℃/秒、加熱温度:500℃、保持時間:3秒、冷却速度:50/秒とした。
Figure 0006769727
(熱処理)
電極製造工程中では箔に対して100〜200℃の熱処理が行われる。この際に高い伸び特性を有するAl−Fe系合金の箔では伸び特性が急激に低下する恐れがある。実施例では熱処理前(圧延後)と100、150、200℃の各温度で10時間熱処理した際の機械的性質の変化を測定した。なお熱処理時間は、想定される範囲内において伸び低下の影響を最も大きく受ける長時間側(:10時間)とした。
(引張り強度、伸び率)
引張り強度と伸び率は、JIS Z2241に準拠し、試料からJIS5号試験片を採取し、万能引張試験機(島津製作所製)で引張り速度2mm/sにて測定を行った。
(圧延性)
圧延性は、幅1200mmを超える広幅の圧延において、最終パス(圧下率)で破断することなく圧延できたものを○、最終パスで1コイル(約10000m)につき3回以下の破断が生じた場合は△、3回を超える破断もしくは硬過ぎる等の理由で圧延継続が難しいと判断されたものについては×とした。○が好ましいが、△以上(約10000mの最終パスで破断が3回以内)であれば製造上は問題ない。
Figure 0006769727
上記試験結果を表2に示した。表から明らかなように、本発明の実施例では、100℃、150℃の低温熱処理の後でも、伸び特性に優れていた。比較例では、低温熱処理後において、伸び特性が優れているものはなかった。

Claims (1)

  1. Si:0.2質量%以上0.8質量%以下、Fe:0.15質量%以上0.7質量%未満を含有し、Si含有量/Fe含有量比が0.7以上2.5以下で、残部がAlと不可避不純物からなり、前記不可避不純物中のMnを0.05質量%以下に規制した組成を有し、厚さが5〜20μmで、引張強さが180MPa以上、伸びが3.0%以上であり、最終冷間圧延後に100〜200℃で30分〜10時間の低温熱処理を行った場合でも、伸びが3.0%以上であることを特徴とする電池集電体用アルミニウム合金箔。
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