JP6769423B2 - 吸音材 - Google Patents
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Description
多孔質吸音材は、多孔質体に音が入射した際に、音波が多孔質材料との摩擦、振動、粘性抵抗などを生じることによって、音エネルギーが熱エネルギーに変換、減衰することで吸音効果を発揮する。
多孔質吸音材は、音の周波数が高くなるほど高い吸音効果を示すものの、低周波数帯域の音(低周波音)に対しては吸音効果が低くなる傾向にある。
例えば、非特許文献1には、多孔質体として不織布の表面に、透過性の低い膜としてポリエチレンフィルムが積層した吸音材が開示されている。
多孔質体を厚くすれば、多孔質体単独でも高周波数帯域に加えて低周波数帯域での吸音効果が得られるが、吸音材の設置スペースによっては、吸音材の厚さが制限されている場合があり、設定以上の厚さの吸音材を配置することが困難となる。
[1] 密度が0.04〜0.20g/cm3であり、アスカーFP硬度が15〜95である多孔質体と、
前記多孔質体の少なくとも一方の面に設けられた、坪量が10〜100g/m2であり、MD方向における引張伸びが100〜800%であるフィルムと、
前記多孔質体と前記フィルムとの間に設けられた接着剤層と、
を備え、
前記フィルムおよび接着剤層を貫通するスリットが設けられている、吸音材。
[2] 前記多孔質体が不織布である、[1]に記載の吸音材。
[3] 前記不織布が天然繊維を含む、[2]に記載の吸音材。
[4] 前記天然繊維がパルプ繊維である、[3]に記載の吸音材。
[5] 前記不織布を構成する全ての繊維の平均繊維径が6〜80μmである、[2]〜[4]のいずれか1つに記載の吸音材。
[6] 前記フィルムを構成する樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、アクリロニトリル・スチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコールおよびポリ塩化ビニリデンからなる群より選ばれる1種以上である、[1]〜[5]のいずれか1つに記載の吸音材。
[7] 前記フィルムおよび接着剤層に設けられる全てのスリットの前記フィルム表面の面積当たりの開孔面積割合が0.1〜1.0%である、[1]〜[6]のいずれか1つに記載の吸音材。
[8] 前記フィルムおよび接着剤層に設けられる全てのスリットの長さが0.5〜15mmである、[1]〜[7]のいずれか1つに記載の吸音材。
[9] 前記フィルムおよび接着剤層に設けられる全てのスリットの幅が1mm以下である、[1]〜[8]のいずれか1つに記載の吸音材。
以下の明細書において、周波数は1000Hzを基準として、基準より高い帯域を「高周波数帯域」といい、高周波数帯域の音を「高周波音」という。対して、周波数が基準より低い帯域を「低周波数帯域」といい、低周波数帯域の音を「低周波音」という。
図1は、本発明の吸音材の一実施形態を模式的に示す平面図であり、図2は、図1に示す吸音材のA−A断面を模式的に示す断面図である。
本実施形態の吸音材10は、多孔質体11と、多孔質体11の一方の面に設けられたフィルム12と、多孔質体11とフィルム12との間に設けられた接着剤層13とを備え、フィルム12および接着剤層13を貫通する複数のスリット14が設けられている。
多孔質体11は、主に高周波音(特に、2000Hz以上の高周波数帯域の音)を吸音するものである。
多孔質体11の密度は0.04〜0.20g/cm3であり、0.05〜0.12g/cm3が好ましい。多孔質体11の密度が上記範囲の下限値以上であると、多孔質体11としての構造が粗くなりにくく、音が通過する際の粘性・熱交換によるエネルギー損失が大きくなり、吸音性が高まる。よって、薄くても充分な吸音性を発揮できる。多孔質体11の密度が上記範囲の上限値以下であると、高周波数帯域の反射が小さく、多孔質体11としての吸音特性を良好に維持できる。また、フィルム12の膜振動を妨げにくいので、フィルム12による膜吸音特性も良好に維持できる。
多孔質体11のアスカーFP硬度は、デュロメータとしてアスカーゴム硬度計FP型を用いて測定される値である。具体的には、高さ2.54mm、直径15mmの円筒形の押針を用い、測定試料と接触する加圧基準面を50mm×37mmとして測定される硬さである。
多孔質体11の坪量は、JIS L 1913:2010の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」に準拠して測定される値である。
多孔質体11の厚さは、JIS L 1913:2010の「6.1.1 A法」に準拠して測定される値である。
不織布は、原料繊維として天然繊維を含むことが好ましい。天然繊維としては、パルプ繊維、綿、麻などの植物繊維;毛(例えば羊毛)、絹などの動物繊維;鉱物繊維などが挙げられる。これらの中でも、吸音性により優れる観点から、パルプ繊維が好ましい。
パルプ繊維の形状特性を示す指標として、パルプ繊維の(実繊維長−両端間距離)/(両端間距離)で示されるカール指数や、(繊維壁厚×2)/(ルーメン径)で示されるルンケル比などが知られている。
一般に、フラッフ化する前の原料パルプの含水率は35質量%以下であり、好ましくは10質量%以下、2質量%以上程度である。含水率の低いドライな状態の原料パルプを解繊することにより、繊維間結合しにくく、それ自体が嵩高なパルプが効率的に得られる。そして、このようなフラッフパルプを用いて製造した不織布は、内部に隙間が生じ、低密度化し、吸音性に優れる傾向にある。
機械的処理に供する原料パルプの形状は特に限定されないが、シート状にしたパルプ(いわゆるパルプシート)やシート状に漉き取ったパルプを巻取ロールのような状態にしたものが、取扱いが容易なため好ましい。
合成樹脂からなる繊維としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、ナイロン(登録商標)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ乳酸(PLA)等からなる繊維が挙げられる。合成樹脂からなる繊維は、中空管状および捲縮状の少なくとも一方の形態を有していることが好ましい。なお、詳しくは後述するが、不織布がエアレイド不織布の場合、合成樹脂からなる繊維は、エアレイド不織布の製造時の熱処理において溶融しないものが好ましい。
繊維に捲縮を付与する方法としては、仮撚り加工、一部に延伸を行う半延伸法のような外力による方法;熱膨張率の異なる複数種の材料を貼り合せるなどして製造された複合繊維に対して、熱処理を行うことによって捲縮させる方法等が挙げられる。なお、元々は捲縮を有していないが、中層を製造する際の熱処理等により捲縮が生じる潜在捲縮繊維も使用できる。
エアレイド不織布は、例えば以下のようにして製造される。まず、メッシュ状の無端ベルト上に透気性キャリアシートを配置し、該透気性キャリアシート上に、エアレイド方式のウェブ形成装置にて、不織布を構成する繊維を空気に分散させながら堆積させてウェブを形成する。次いで、ウェブに含まれる繊維を結合してエアレイド不織布を得る。繊維の結合方法としては、バインダーをスプレーして繊維間を接着させるラテックスボンド法、繊維と共に熱融着性樹脂や熱融着性繊維を供給し、加熱によって熱接着させるサーマルボンド法などが挙げられる。
特に吸音性を様々なバリエーションで制御できる観点から、多孔質体11としては、中層と、該中層の両面に設けられた表面層とからなる3層構造の不織布が好ましい。
以下、3層構造の多孔質体11の一例について、図3を参照しながら説明する。
中層11aとしては、上述した不織布が好ましく、中でもパルプ繊維を含むエアレイド不織布がより好ましい。
中層11aがパルプ繊維を含むエアレイド不織布の場合、パルプ繊維の含有量は中層11aの総質量に対して、60〜95質量%が好ましく、70〜90質量%がより好ましく、75〜85質量%がさらに好ましい。パルプ繊維の含有量が上記範囲の下限値以上であると、吸音性がより優れる。パルプ繊維の含有量が上記範囲の上限値以下であると、熱融着性繊維の割合が相対的に増加し、中層11aの強度が優れる傾向にある。
中層11aにおける熱融着性繊維の含有量は中層11aの総質量に対して、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましく、15〜25質量%がさらに好ましい。熱融着性繊維(b)の含有量が上記範囲の下限値以上であると、中層11aの強度が優れる。熱融着性繊維(b)の含有量が上記範囲の上限値以下であると、パルプ繊維の割合が相対的に増加し、吸音性が優れる傾向にある。
また、中層11aの厚さは、1mm以上が好ましく、4mm以上がより好ましい。中層11aの厚さが上記範囲の下限値以上であると、吸音性が充分に得られる。好ましい態様によれば、吸音材をコンパクトにできる観点から、中層11aの厚さは、1〜50mmであり、4〜40mmがより好ましい。
表面層11bは、中層11aの両面に設けられる層である。
表面層11bとしては、多孔質シートが挙げられる。表面層11bに多孔質シートを用いることにより、高周波音が表面層11bで反射せず、高周波音を中層11aで確実に減衰させることができる。
表面層11bの坪量は、特に制限はないが、10〜100g/m2が好ましく、20〜60g/m2がより好ましい。表面層11bの坪量が上記範囲の上限値以下であれば、吸音材をコンパクトにできる。
中層11aの両面に表面層11bを有する3層構造の多孔質体11のフラジール通気度は5〜100cm3/cm2・s−1が好ましく、5〜60cm3/cm2・s−1がより好ましく、5〜30cm3/cm2・s−1がさらに好ましい。多孔質体11のフラジール通気度が上記範囲内であれば、高周波音が表面層11bを通り抜け、中層11aで効果的に減衰されるため、吸音性に優れる。多孔質体11のフラジール通気度は、主に、表面層11bの構成に依存する傾向にある。よって、表面層11bに用いる多孔質シートを適宜選択することにより、多孔質体11のフラジール通気度を上記範囲内に調整できる。多孔質体11のフラジール通気度を上記範囲内とするためには、表面層11bを構成する多孔質シート単独のフラジール通気度が5〜500cm3/cm2・s−1であることが好ましく、5〜200cm3/cm2・s−1がより好ましく、10〜30cm3/cm2・s−1がさらに好ましい。
多孔質体11のフラジール通気度は、JIS L 1096:1998の「8.26.1 A法(フラジール法)」に準拠して測定される値である。
エアレイド不織布からなる中層11aの両面に表面層11bを有する3層構造の多孔質体11は、例えば次のようにして製造できる。
まず、サクションボックスを有するメッシュコンベア上に、表面層11bを構成する多孔質シートを繰出し、該多孔質シート上に、粉体接着剤を散布する。ついで、中層11aを構成する原料繊維と熱融着性繊維とを空気中で均一に混合、解繊し、乾式のエアレイドウェブ形成装置を用いて、多孔質シート上に、中層11aを構成するエアレイドウェブを形成する。
次いで、該エアレイドウェブ上に、粉体接着剤を散布し、さらにその上に、多孔質シートを積層するように繰出し、熱風乾燥機に導いて、熱融着性繊維の少なくとも一部が溶融し、バインダーとして作用する温度以上に加熱する。
これにより、エアレイドウェブの両面に多孔質シートを接着して、積層体(以下、「積層体S」ともいう。)を形成する。
その後、該積層体Sをさらにプレスロールに通し、所望の坪量、厚み、見掛け密度となるように成型することにより、表面層11bと表面層11bとの間に中層11aが形成された3層構造の多孔質体11が得られる。
粉体接着剤は、中層11aと表面層11bとの接着のために使用される接着剤であって、例えば、PE、PP、PET、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)等からなる粉体を使用できる。
まず、サクションボックスを有するメッシュコンベア上に、表面層11bを構成する多孔質シートを繰出し、該多孔質シート上に、粉体接着剤を散布する。ついで、中層11aを構成する原料繊維と熱融着性繊維とを空気中で均一に混合、解繊し、乾式のエアレイドウェブ形成装置を用いて、多孔質シート上に、中層11aを構成するエアレイドウェブを形成する。
次いで、該エアレイドウェブ上に、粉体接着剤を散布せずにキャリアシートを積層するように繰出し、熱風乾燥機に導いて、熱融着性繊維の少なくとも一部が溶融し、バインダーとして作用する温度以上に加熱する。
これにより、エアレイドウェブの一方の面に多孔質シートが接着し、他方の面にキャリアシートが配置された積層体(以下、「積層体S’」ともいう。)を形成する。
その後、該積層体S’をさらにプレスロールに通し、所望の坪量、厚み、見掛け密度となるように成型し、その後、キャリアシートを剥離することにより、表面層11bと中層11aの2層構成の多孔質体11が得られる。
フィルム12は、主に低周波音(特に、500Hz以下の低周波数帯域の音)を吸音するものである。
フィルム12の坪量は10〜100g/m2が好ましく、15〜65g/m2がより好ましく、15〜40g/m2がさらに好ましい。フィルム12の坪量が上記範囲の下限値以上であると、引張伸びを確保しやすくなり、膜振動による吸音性がより向上する。フィルム12の坪量が上記範囲の上限値以下であると、フィルム12による膜振動が生じやすくなり、音が反射しにくく、低周波数帯域の吸音性を良好に維持できる。
フィルム12の坪量は、JIS L 1913:2010の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」に準拠して測定される値である。
なお、MD方向とは、フィルム12の製造時における流方向(押し出し方向)である。
フィルム12の引張伸びは、JIS K 7127:1999に準拠して測定される値である。
フィルム12の通気度は、JIS P 8117:2009に準拠して測定される値である。
フィルム12の厚さは、JIS K 7130:1999に準拠して測定される値である。
また、フィルム12は、単層構造であってもよいし、同種または異種の層の2層以上が積層した多層構造であってもよい。
接着剤層13は、多孔質体11とフィルム12とを接着させる層である。
図1に示す吸音材10においては、多孔質体11およびフィルム12は接着剤層13により面接着しているが、点接着でもよいし、線接着でもよい。
接着剤層13の坪量は、JIS L 1913:2010の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」に準拠して測定される値である。
ホットメルト型接着剤を構成する成分としては、例えば、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等の熱可塑性プラスチック成分;ロジン、ロジン誘導体等の天然樹脂成分;ブチルゴム、ポリイソブチレン等のゴム成分などが挙げられる。
スリット14は、フィルム12および接着剤層13を貫通している貫通孔である。
スリット14が設けられていることで、高周波音がスリット14の隙間を通り抜けて多孔質体11に到達し、多孔質体11にて吸音される。しかも、フィルム12および接着剤層13を貫通する貫通孔はスリット状であるため、フィルム12が低周波音を吸音する際のフィルム12の膜振動を妨げにくい。
スリット14のフィルム12表面の面積当たりの開孔面積割合は、下記式により算出される。
スリットのフィルム表面の面積当たりの開孔面積割合=(スリットの開孔時面積の合計/フィルム表面の面積)×100
スリット14の長さは、ノギスにより測定される値である。
スリット14の幅は、ノギスにより測定される値である。
図1、2に示す吸音材10は、例えば次のようにして製造できる。
まず、一方の面にホットメルト型接着剤が塗布され、接着剤層13が形成されたフィルム12と、多孔質体11とを、接着剤層13と多孔質体11とが接するように貼り合せ、積層体(X)を得る。ホットメルト型接着剤は、フィルム12の表面の全面に塗工されてもよいし、部分的に塗工されてもよい。ホットメルト型接着剤が部分的に塗工される場合、パターン形状やメッシュ状となるように塗工されることが好ましい。パターン形状としては、例えば、スリット形状やスパイラル形状、ドット形状などが挙げられる。
次いで、ホットプレス内にて積層体(X)を加熱加圧成形する。
フィルム12と接着剤層13とを貫通するようなスリット刃が設けられた円形の型を用い、加圧加熱成形後の積層体(X)を型抜きする。こうして、多孔質体11と接着剤層13とフィルム12とがこの順に積層し、フィルム12と接着剤層13とを貫通するスリット14が設けられた、円柱状の吸音材10が得られる。
なお、スリット刃が設けられていない型を用いて積層体(X)を型抜きした後に、フィルム12と接着剤層13とを貫通するように、メス、カッター等の刃物を用いたり、レーザー加工したりして、スリット14を形成してもよい。
吸音材10の密度は0.04〜0.20g/cm3が好ましく、0.05〜0.12g/cm3がより好ましい。吸音材10の密度が上記範囲の下限値以上であると、多孔質体11を音が通過する際の粘性・熱交換によるエネルギー損失が大きくなり、吸音性が高まる。よって、薄くても充分な吸音性を発揮できる。吸音材10の密度が上記範囲の上限値以下であると、多孔質体11としての吸音特性を良好に維持できるとともに、フィルム12の膜振動を妨げにくいので、フィルム12による膜吸音特性を良好に維持できる。
吸音材10のアスカーFP硬度は、デュロメータとしてアスカーゴム硬度計FP型を用いて測定される値である。具体的には、高さ2.54mm、直径15mmの円筒形の押針を用い、測定試料と接触する加圧基準面を50mm×37mmとして測定される硬さである。
吸音材10の坪量は、JIS L 1913:2010の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」に準拠して測定される値である。
吸音材10の厚さは、JIS L 1913:2010の「6.1.1 A法」に準拠して測定される値である。
以上説明したように、本実施形態の吸音材10は、多孔質体11の一方の面に接着剤層13を介してフィルム12が積層されており、フィルム12および接着剤層13を貫通する複数のスリット14が設けられている。そのため、低周波音がフィルム12に衝突することでフィルム12が膜振動して内部摩擦を生じ、音エネルギーが消費させることで低周波音(特に、500Hz以下の低周波数帯域の音)が吸音される。スリット14は、フィルム12が膜振動していないときは見かけ上、閉じているが、フィルム12が膜振動することでスリット14の両側に段差が生じ、スリット14が開口する。この開口したスリット14の隙間を高周波音が通り抜けて多孔質体11に到達する。多孔質体11に高周波音が入射した際に、音波が多孔質体11との摩擦、振動、粘性抵抗などを生じることによって、音エネルギーが熱エネルギーに変換、減衰することで高周波音(特に、2000Hz以上の高周波数帯域の音)が吸音される。
よって、本実施形態の吸音材10であれば、低周波音から高周波音まで広範囲の周波数帯域の音に対して、薄くても高い吸音効果を有する。
ここで、仮にスリット以外の形状の穴(例えば、ドット状、円形状、楕円形状、矩形状等の穴)が設けられた場合には、フィルム12は膜振動しにくくなり、低周波音に対する吸音効果が得られにくい。
本実施形態の吸音材10は、電気冷蔵庫、エアコン、電気掃除機等の家電製品、ディスプレイ機器、オーディオ機器、建設用機械、自動車などにおける、モータ、コンプレッサ等が発する騒音や振動、機械現場(プレス機、押出成形機、研磨機等)のエアー騒音、ファンの音や振動、工事現場の騒音や振動、一般生活音などを吸収する吸音材として好適である。
吸音材10を用いる際は、フィルム12側が音源側となるように吸音材10を設置することで、本発明の吸音効果が充分に得られる。吸音材10は、家電製品等に組み込まれ、モータ、コンプレッサ等に巻回したり貼り付けたりする形態で使用されるが、そのような使用形態に限定されない。
本発明の吸音材10は上述したものに限定されない。図1、2に示す吸音材10は、多孔質体11の一方の面にフィルム12が積層されているが、吸音材10と吸音材10を設置する面との間に空気層が存在する場合は、多孔質体11の他方の面にも接着剤層介してフィルムが積層されていてもよい。このような構成とすることで、多孔質体11の一方の面に積層されたフィルム12が完全に低周波音を吸音できずに、低周波音の一部がフィルム12を通り抜けてしまっても、多孔質体11の他方の面に積層されたフィルムによって低周波音を吸音できる。加えて、多孔質体11が完全に高周波音を吸音できずに、高周波音の一部が多孔質体11を通り抜けてしまったとしても、多孔質体11の他方の面に積層されたフィルムによって高周波音は反射される。反射された高周波音は多孔質体11に戻り、多孔質体11において吸音される。
原料繊維としてパルプ繊維を用いた中層と、中層の両面に表面層とを備えた多孔質体を以下のように製造した。
サクションボックスを有するメッシュコンベア上に表面層Aとしてスパンボンド不織布を繰出し、該表面層A上に、5g/m2のPE粉体(粉体接着剤)をスプレー装置で散布した。ついで、フラッフパルプ(針葉樹漂白パルプ)と、熱融着性繊維(PE/PP複合型合成繊維、繊度1.7dtex、長さ加重平均繊維長5mm)とを、空気中で混合、解繊し、乾式のエアレイドウェブ形成装置を用いて、表面層A上にエアレイドウェブ(中層)を形成させた。
なお、フラッフパルプおよび熱融着性繊維は、用途に応じて自由に選択できるが、パルプの有する吸音特性を発揮するために、パルプ配合比が高くなるように混合、解繊した。
ついで、該エアレイドウェブ上に、先に使用したものと同じ粉体接着剤を層状散布装置にて散布し、さらにその上に、表面層BとしてレーヨンPETスパンレースを積層するように繰出し、熱風乾燥機に導いて、熱融着性繊維の鞘が溶融するように、鞘の融点以上に加熱した。
これにより、エアレイドウェブの両面に、表面層を接着して、積層体Sを形成した。
その後、該積層体Sをさらにプレスロールに通し、密度が0.050g/cm3であり、坪量が1000g/m2であり、アスカーFP硬度が22〜30であり、厚さが20.0mmである多孔質体を得た。
吸音材を直径100mmの円形の型を用いて型抜きし、低音(125〜1600Hz)用の吸音率の測定試料を作製した。
別途、吸音材を直径29mmの円形の型を用いて型抜きし、高音(500〜6300Hz)用の吸音率の測定試料を作製した。
低音用または高音用の吸音率の測定試料を用い、JIS A 1405−2:2007(ISO 10534−2、ASTM E1050)に準拠し、以下のようにして垂直入射吸音率の測定を行った。なお、材料の吸音率は音が入射する角度によって変化するため、測定方法により吸音率の値は異なる。音響管を用いて音が材料へ垂直に入射する条件で測定した吸音率を「垂直入射吸音率」という。「垂直入射吸音率」は吸音材料の開発や特性の把握などに用いられる。
具体的には、まず、音響管(リオン株式会社製、「9301型」)の終端に試料を装着した。試料の背後空気層を0mmとした。次いで、音響管内のスピーカーからノイズ音を放射し、音響管内に音場を生成した。そして、2本のマイクロフォンの音圧信号をFFT分析してマイクロフォン間の複素音圧伝達関数H12を算出し、該関数から3150Hzにおける「垂直入射吸音率」を算出した。測定周波数は125〜1600Hzの領域(以下、「領域(L)」という。)または500〜6300Hzの領域(以下、「領域(H)」という。)とした。
算出された垂直入射吸音率は、相対比較で判断した。
フィルムとして、ポリエチレン(PE)フィルム(坪量:20g/m2、MD方向における引張伸び:250%、通気度:440秒/100cc、厚さ:20μm、密度:1g/cm3)の片面に、ホットメルト型接着剤を坪量が3〜8g/m2となるように塗布し、接着剤層を形成した。接着剤層と多孔質体とが接するように、フィルムと多孔質体とを貼り合せ、ホットメルト法によりフィルムと多孔質体とを接着した。
次いで、フィルム面に対して、接着剤層まで貫通するように、一つ当たり長さ100mm、幅0.5mmのスリットを、フィルム表面の面積に対するスリット面積の合計の割合、すなわちフィルム表面の面積当たりの開孔面積割合(以下、「スリット割合」ともいう。)が0.8%となるように、かつ、全てのスリットの向きが揃うように形成し、吸音材を得た。
フィルムの種類と、スリットの長さ、幅、測定試料におけるスリットの個数、フィルムの単位面積当たりのスリットの個数、スリット割合について、表1に示す。
得られた吸音材について、領域(L)における垂直入射吸音率を測定した。結果を図4に示す。
スリット割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして吸音材を製造し、領域(L)における垂直入射吸音率を測定した。結果を図4に示す。
スリット割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして吸音材を製造し、領域(L)および領域(H)における垂直入射吸音率を測定した。領域(L)における結果を図4に示し、領域(H)における結果を図5に示す。
スリット割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして吸音材を製造し、領域(H)における垂直入射吸音率を測定した。結果を図5に示す。
実施例1と同様の方法により製造した多孔質体を吸音材とし、領域(L)および領域(H)における垂直入射吸音率を測定した。領域(L)における結果を図4に示し、領域(H)における結果を図5に示す。
スリットを形成しなかった以外は実施例1と同様にして吸音材を製造し、領域(L)および領域(H)における垂直入射吸音率を測定した。領域(L)における結果を図4に示し、領域(H)における結果を図5に示す。
スリットの代わりに針穴を形成した以外は、実施例1と同様にして吸音材を製造し、比較例3、5では領域(L)および領域(H)における垂直入射吸音率を測定し、比較例4では領域(H)における垂直入射吸音率を測定した。領域(L)における結果を図4に示し、領域(H)における結果を図5に示す。
なお、針穴の直径、測定試料における針穴の個数、およびフィルム表面の面積に対する針穴面積の合計の割合(以下、「針穴割合」という。)が表2に示す値となるようにした。
これに対して、多孔質体の表面にフィルムを設けると、低周波数帯域での吸音効果は得られたが、高周波数帯域での吸音効果が低下した(比較例2)。
フィルムおよび接着剤層を貫通するスリットを設けると、高周波数帯域での吸音効果の低下を抑制しつつ、低周波数帯域での吸音効果も得られた(実施例1〜5)。
しかし、スリットの代わりに針穴を設けた場合では、低周波数帯域での吸音効果は得られたが、高周波音が針穴を充分に通り抜けず、高周波数帯域での吸音効果が低下した(比較例3〜5)。
フィルムの代わりに、孔開きオレフィン樹脂シート(孔径:約0.5mm、開孔率:25%)を用い、スリットを形成しなかった以外は、実施例1と同様にして吸音材を製造し、領域(L)および領域(H)における垂直入射吸音率を測定した。
フィルムの代わりに、孔開き塩化ビニル樹脂シート(孔径:約1.5mm、開孔率:40%)を用い、スリットを形成しなかった以外は、実施例1と同様にして吸音材を製造し、領域(L)および領域(H)における垂直入射吸音率を測定した。
フィルムの代わりに、孔開き積層シート(素材:パルプエアレイド、表裏面材は難燃キノクロス(エアレイド)、中層はパルプとバインダー合繊)を用い、スリットを形成しなかった以外は、実施例1と同様にして吸音材を製造し、領域(L)および領域(H)における垂直入射吸音率を測定した。
なお、比較例8〜11で用いた各孔開き積層シートの坪量、厚さ、孔径および開孔率を表3に示す。
比較例10の場合、ホルムヘルツ共鳴により低周波に特異的な小さい吸音ピークが認められたが、低周波数帯域での吸音効果は充分ではなかった。
比較例11の場合、多孔質体にフィルムを設けた場合(比較例2)と同様の挙動を示し、高周波数帯域での吸音効果が低下した。
表4、5に示す種類のフィルムを用い、スリットを形成しなかった以外は、実施例1と同様にして吸音材を製造し、アスカーFP硬度を測定した。結果を表4、5に示す。
また、実施例1、3および比較例1で得られた吸音材のアスカーFP硬度の結果も表4に示す。
・PE:ポリエチレン
・LL/LD:気相法リニア低密度ポリエチレン/高圧法低密度ポリエチレンの積層体(密度:0.9g/cm3)
11:多孔質体
11a:中層
11b:表面層
12:フィルム
13:接着剤層
14:スリット
Claims (9)
- 密度が0.04〜0.20g/cm3であり、アスカーFP硬度が15〜95である多孔質体と、
前記多孔質体の少なくとも一方の面に設けられた、坪量が10〜100g/m2であり、MD方向における引張伸びが100〜800%であるフィルムと、
前記多孔質体と前記フィルムとの間に設けられた接着剤層と、
を備え、
前記フィルムおよび接着剤層を貫通するスリットが設けられている、吸音材。 - 前記多孔質体が不織布である、請求項1に記載の吸音材。
- 前記不織布が天然繊維を含む、請求項2に記載の吸音材。
- 前記天然繊維がパルプ繊維である、請求項3に記載の吸音材。
- 前記不織布を構成する全ての繊維の平均繊維径が6〜80μmである、請求項2〜4のいずれか一項に記載の吸音材。
- 前記フィルムを構成する樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、アクリロニトリル・スチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコールおよびポリ塩化ビニリデンからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の吸音材。
- 前記フィルムおよび接着剤層に設けられる全てのスリットの前記フィルム表面の面積当たりの開孔面積割合が0.1〜1.0%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の吸音材。
- 前記フィルムおよび接着剤層に設けられる全てのスリットの長さが0.5〜15mmである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の吸音材。
- 前記フィルムおよび接着剤層に設けられる全てのスリットの幅が1mm以下である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の吸音材。
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