JP6767630B2 - 電解コンデンサ - Google Patents

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Description

本開示は、導電性高分子層を有する電解コンデンサに関する。
小型かつ大容量で低ESR(Equivalent Series Resistance)のコンデンサとして、誘電体層を形成した陽極体と、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成された導電性高分子層とを具備する電解コンデンサが有望視されている。導電性高分子層は、π共役系高分子とポリアニオンなどのドーパントとを含んでいる。ドーパントを用いることで、π共役系高分子にさらに導電性が付与される。
導電性高分子層に添加剤を添加して性能を向上する試みがある。例えば、特許文献1では、π共役系導電性高分子とポリアニオンとイオン伝導性化合物と導電性向上剤とを含む導電性高分子層を形成することが提案されている。
特開2008−109065号公報
しかし、導電性高分子層に導電性向上剤などを添加することで導電性を向上できても、場合によっては、漏れ電流を十分に抑制できないことがある。
そこで、本開示は、導電性高分子層を有する電解コンデンサにおいて、ESRを低減することができるとともに、漏れ電流を抑制することを目的とする。
本開示の一局面における電解コンデンサは、陽極体、陽極体上に形成された誘電体層、誘導体層の少なくとも一部を覆う第1導電性高分子層、および第1導電性高分子層の少なくとも一部を覆う第2導電性高分子層を備える。第1導電性高分子層は、第1導電性高分子と、第1ドーパントとを含む。第2導電性高分子層は、第2導電性高分子と、第2ドーパントと、ポリカルボン酸とを含む。
本開示によれば、導電性高分子層を有する電解コンデンサにおいて、ESRを低減でき、かつ漏れ電流を抑制することができる。
図1は、本開示の一実施形態に係る電解コンデンサの断面模式図である。 図2は、図1の実線αで囲まれた領域の拡大図である。
[電解コンデンサ]
本開示の一実施形態に係る電解コンデンサは、陽極体、陽極体上に形成された誘電体層、誘導体層の少なくとも一部を覆う第1導電性高分子層、および第1導電性高分子層の少なくとも一部を覆う第2導電性高分子層を備える。第1導電性高分子層は、第1導電性高分子と、第1ドーパントとを含み、第2導電性高分子層は、第2導電性高分子と、第2ドーパントと、ポリカルボン酸とを含む。
一般に、誘電体層の表面に形成される第1導電性高分子層と、第1導電性高分子層上に形成される第2導電性高分子層とでは、各層および各層を形成するための処理液に要求される性能が異なる。本実施形態では、第2導電性高分子層にポリカルボン酸を添加することで、その理由は定かではないが、ESRを低減できるとともに、漏れ電流を抑制できることが分かった。また、一般に電解コンデンサが高温高湿環境や長時間高湿環境に晒されると、陽極体の成分が溶出して、ガス発生を招く。発生したガスにより、陰極層間で界面剥離が生じて、ESRが増大することで、コンデンサの性能が劣化する。しかし、本実施形態では、第2導電性高分子層に含まれるポリカルボン酸により溶出した陽極体の成分が捕捉され、コンデンサ性能が劣化することを抑制できる。
図1は、本開示の一実施形態に係る電解コンデンサの断面模式図である。図2は、図1の実線αで囲まれた領域の拡大図である。電解コンデンサ1は、コンデンサ素子11と、コンデンサ素子11を封止する樹脂外装体12と、樹脂外装体12の外部にそれぞれ露出する陽極端子13および陰極端子14と、を備えている。コンデンサ素子11は、箔状または板状の陽極体2と、陽極体2を覆う誘電体層3と、誘電体層3を覆う陰極部15とを含む。陽極端子13は、陽極体2と電気的に接続し、陰極端子14は、陰極部15と電気的に接続している。樹脂外装体12はほぼ直方体の外形を有しており、これにより、電解コンデンサ1もほぼ直方体の外形を有している。
陽極体2と陰極部15とは、誘電体層3を介して対向している。陰極部15は、誘電体層3を覆う導電性高分子層4と、導電性高分子層4を覆う陰極層5とを有している。図示例の陰極層5は、2層構造であり、導電性高分子層4と接触するカーボン層5aと、カーボン層5aの表面を覆う銀ペースト層5bと、を有している。
陰極部15から突出した陽極体2の端部のうち、陰極部15に隣接する領域には、陽極体2の表面を帯状に覆うように絶縁性の分離部16が形成され、陰極部15と陽極体2との接触が規制されている。陰極部15から突出した陽極体2の端部は、陽極端子13の第1端部13aと、溶接などにより電気的に接続されている。一方、陰極部15の最外層に形成された陰極層5は、陰極端子14の第1端部14aと、導電性接着材17(例えば熱硬化性樹脂と金属粒子との混合物)を介して、電気的に接続されている。陽極端子13の第2端部13bおよび陰極端子14の第2端部14bは、それぞれ樹脂外装体12の異なる側面から引き出され、一方の主要平坦面(図1では下面)まで露出状態で延在している。この平坦面における各端子の露出箇所は、電解コンデンサ1を搭載すべき基板(図示せず)との半田接続などに用いられる。
誘電体層3は、陽極体2を構成する導電性材料の表面の一部に形成されている。具体的には、誘電体層3は、陽極体2を構成する導電性材料の表面を陽極酸化することにより形成することができる。従って、誘電体層3は、図2に示すように、陽極体2の表面(より内側の表面の孔や窪みの内壁面を含む)に沿って形成されている。
第1導電性高分子層4aは、誘電体層3を覆うように形成されており、第2導電性高分子層4bは、第1導電性高分子層4aを覆うように形成されている。ただし、第1導電性高分子層および第2導電性高分子層を有する限り、導電性高分子層の構造は特に限定されず、各導電性高分子層は、2層以上の多層構造でもよい。第1導電性高分子層4aは、必ずしも誘電体層3の全体(表面全体)を覆う必要はなく、誘電体層3の少なくとも一部を覆うように形成されていればよい。同様に、第2導電性高分子層4bは、必ずしも第1導電性高分子層4aの全体(表面全体)を覆う必要はなく、第1導電性高分子層4aの少なくとも一部を覆うように形成されていればよい。図示例では、第1導電性高分子層4a、および第2導電性高分子層4bを導電性高分子層4として示したが、一般に、第1導電性高分子層4a、第2導電性高分子層4b、および導電性高分子層4などの導電性高分子を含む層を、固体電解質層と称する場合がある。
誘電体層3は、陽極体2の表面に沿って形成されるため、誘電体層3の表面には、陽極体2の表面の形状に応じて、凹凸が形成されている。第1導電性高分子層4aは、このような誘電体層3の凹凸を埋めるように形成することが好ましい。
以下に、電解コンデンサの構成について、より詳細に説明する。
(陽極体)
陽極体としては、表面積の大きな導電性材料が使用できる。陽極体としては、例えば、導電性材料で形成された基材(箔状または板状の基材など)の表面を粗面化したもの、および導電性材料の粒子の成形体またはその焼結体などが挙げられる。
導電性材料としては、弁作用金属、弁作用金属を含む合金、および弁作用金属を含む化合物などが例示できる。これらの材料は一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。弁作用金属としては、例えば、チタン、タンタル、アルミニウム、および/またはニオブが好ましく使用される。これらの金属は、その酸化物も含め、誘電率が高いため、陽極体の構成材料として適している。
電解コンデンサが高温高湿環境や長期間高湿環境に晒されると、陽極体の成分が溶出して、電解コンデンサの性能が損なわれることがある。特に、陽極体がアルミニウムを含む場合には、アルミニウムが溶出し易い。本実施形態では、第2導電性高分子層がポリカルボン酸を含むため、陽極体の成分が溶出しても、ポリカルボン酸により捕捉され、電解コンデンサの性能の劣化を抑制することもできる。よって、陽極体の材質がアルミニウムやアルミニウム合金である場合にもこのような性能劣化を抑制できる。
(誘電体層)
誘電体層は、陽極体表面の導電性材料を、化成処理などにより陽極酸化することで形成されるため、導電性材料(特に、弁作用金属)の酸化物を含む。例えば、弁作用金属としてタンタルを用いた場合の誘電体層はTa25を含み、弁作用金属としてアルミニウムを用いた場合の誘電体層はAl23を含む。尚、誘電体層はこれに限らず、誘電体として機能するものであれば良い。陽極体が箔状または板状であり、その表面が粗面化されている場合、誘電体層は、図2に示すように、陽極体2の表面の孔や窪み(ピット)の内壁面に沿って形成される。
(第1導電性高分子層および第2導電性高分子層)
第1導電性高分子層は、導電性高分子(第1導電性高分子)およびドーパント(第1ドーパント)を含む。第2導電性高分子層は、導電性高分子(第2導電性高分子)およびドーパント(第2ドーパント)を含む。各層において、ドーパントは、導電性高分子にドープされた状態で含まれていてもよい。また、各層において、ドーパントは、導電性高分子と結合した状態で含まれていてもよい。
(導電性高分子)
第1導電性高分子および第2導電性高分子のそれぞれとしては、電解コンデンサに使用される公知のもの、例えば、π共役系導電性高分子などが使用できる。このような導電性高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、および/またはポリチオフェンビニレンなどを基本骨格とする高分子が挙げられる。
このような高分子には、単独重合体、二種以上のモノマーの共重合体、およびこれらの誘導体(置換基を有する置換体など)も含まれる。例えば、ポリチオフェンには、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)などが含まれる。このような導電性高分子は、導電性が高く、ESR特性に優れている。これらの導電性高分子は、それぞれ、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。導電性高分子の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1,000〜1,000,000である。
導電性高分子は、例えば、導電性高分子の原料(導電性高分子の前駆体)を重合することにより得ることができる。ドーパントが結合またはドープされた導電性高分子は、ドーパントの存在下で、導電性高分子の原料を重合させることにより得ることができる。導電性高分子の前駆体としては、導電性高分子を構成するモノマー、および/またはモノマーがいくつか連なったオリゴマーなどが例示できる。重合方法としては、化学酸化重合および電解酸化重合のどちらも採用することができる。
重合は、重合を促進させるために触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄などを用いることができる。化学酸化重合では、例えば、過硫酸塩(過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなど)、スルホン酸金属塩などの酸化剤を用いてもよい。重合は、必要に応じて、ドーパントの存在下で行ってもよい。
重合は、必要に応じて、導電性高分子の原料(およびドーパント)を溶解または分散させる溶媒(第1溶媒)を用いてもよい。第1溶媒としては、水、水溶性有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられる。導電性高分子は、誘電体層を有する陽極体に付着させる前に、予め合成しておいてもよい。化学酸化重合の場合には、導電性高分子の重合を、誘電体層を有する陽極体の存在下で行ってもよい。
(ドーパント)
第1導電性高分子層に含まれるドーパント(第1ドーパント)および第2導電性高分子層に含まれるドーパント(第2ドーパント)のそれぞれとしては、例えば、低分子ドーパント、および高分子ドーパントが挙げられる。第1導電性高分子層および第2導電性高分子層のそれぞれは、一種のドーパントを含んでもよく、二種以上のドーパントを含んでもよい。
低分子ドーパントとしては、スルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基(−O−P(=O)(−OH)2)、および/またはホスホン酸基(−P(=O)(−OH)2)などのアニオン性基を有する化合物(低分子化合物(モノマー化合物))を用いることができる。このような化合物としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、およびアントラセンなどの芳香環(C6-14芳香環など)、または芳香環(C6-14芳香環など)と脂肪族環との縮合環に、アニオン性基が結合した環状化合物が挙げられる。アニオン性基としては、スルホン酸基が好ましく、スルホン酸基とスルホン酸基以外のアニオン性基との組み合わせでもよい。環状化合物を構成する芳香環および/または脂肪族環は、アニオン性基以外の置換基(例えば、メチル基などのアルキル基、オキソ基(=O)など)を有していてもよい。このような化合物の具体例としては、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、およびアントラキノンスルホン酸などが挙げられる。
高分子ドーパントとしては、例えば、スルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基(−O−P(=O)(−OH)2)、および/またはホスホン酸基(−P(=O)(−OH)2)などのアニオン性基を有する高分子化合物を用いることができる。高分子ドーパントとしては、スルホン酸基を有するものが好ましく、スルホン酸基とスルホン酸基以外のアニオン性基および/またはヒドロキシ基とを有するものを用いてもよい。
スルホン酸基を有する高分子ドーパントとしては、スルホン酸基を有するモノマー(第1モノマー)の単独重合体、第1モノマーと他のモノマー(第2モノマー)との共重合体、スルホン化フェノール樹脂(スルホン化フェノールノボラック樹脂など)などが例示できる。第1モノマーとしては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸などが例示できる。これらのうち、スチレンスルホン酸などのスルホン酸基を有する芳香族ビニルモノマーを少なくとも用いることが好ましい。第2モノマーとしては、アニオン性基を有さないモノマー(ビニルモノマーなど)などを用いることもできるが、スルホン酸基以外のアニオン性基を有するモノマー(ビニルモノマーなど)を用いることが好ましい。アニオン性基としては、例えば、カルボキシ基、リン酸基、およびホスホン酸基からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
高分子ドーパントとしては、スルホン酸基を有するポリエステルなども好ましい。スルホン酸基を有するポリエステルとしては、例えば、第1モノマーとして、スルホン酸基を有するポリカルボン酸(ジカルボン酸など)および/またはスルホン酸基を有するポリオール(ジオールなど)を用い、第2モノマーとして、ポリカルボン酸(ジカルボン酸など)およびポリオール(ジオールなど)を用いたポリエステルなどが挙げられる。第1モノマーとしては、スルホン酸基を有するポリカルボン酸が好ましく使用される。スルホン酸基を有するポリカルボン酸としては、スルホン化フタル酸、スルホン化イソフタル酸、スルホン化テレフタル酸などのスルホン酸基を有するジカルボン酸(芳香族ジカルボン酸など)などが好ましい。第2モノマーとしてのポリカルボン酸としては、スルホン酸基を有さないものが使用され、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などのジカルボン酸(芳香族ジカルボン酸など)などが好ましい。第2モノマーとしてのポリオールとしては、スルホン酸基を有さないものが使用され、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの脂肪族ジオール(C2-4アルキレングリコールなど)が好ましい。
高分子ドーパントにおいて、第1モノマーおよび第2モノマーは、それぞれ、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。高分子ドーパントのスルホン化度は、例えば、5〜100モル%の広い範囲から適宜選択できる。
なお、本明細書中、高分子ドーパントのスルホン化度とは、高分子ドーパントの分子を構成する繰り返し単位全体に占める、スルホン酸基(その塩またはそのエステルも含む)を有する繰り返し単位の割合(モル%)を意味する。高分子ドーパントは、1つの繰り返し単位当たり2個またはそれ以上のスルホン酸基(その塩またはそのエステルも含む)を含んでいてもよいが、スルホン酸基(その塩またはそのエステルも含む)を1個有することが好ましい。
第1導電性高分子層および第2導電性高分子層のそれぞれは、スルホン化度および/または種類(もしくは構造)が異なる複数のドーパントを含んでもよい。
第1導電性高分子層に含まれる第1ドーパントは、スルホン化度S1を有する第1高分子ドーパントを含み、第2導電性高分子層に含まれる第2ドーパントは、スルホン化度S2を有する第2高分子ドーパントを含むことが好ましい。ここで、スルホン化度S1およびスルホン化度S2は、S2<S1を満たす。第2導電性高分子層が、スルホン化度が比較的低い第2高分子ドーパントを含むことで、耐湿性を高めることができる。また、第1導電性高分子層が、スルホン化度が比較的高い第1高分子ドーパントを含むことで、ドーパントの分散性が増すとともに、高いキャリア濃度を確保し易くなるため、ESRを低減し易い。
第1高分子ドーパントのスルホン化度S1は、例えば、45モル%以上(例えば、45〜100モル%)であることが好ましく、70〜100モル%であってもよい。スルホン化度S1がこのような範囲である場合、第1導電性高分子層におけるドーパント(および導電性高分子)の分散性を高め易く、導電性をさらに向上し易い。スルホン化度が異なる複数の第1高分子ドーパントを用いる場合、個々の第1高分子ドーパントのスルホン化度が上記のS1の範囲内であることが好ましい。
第2高分子ドーパントのスルホン化度S2は、例えば、55モル%以下であり、5〜55モル%であることが好ましく、10〜30モル%であってもよい。スルホン化度S2がこのような範囲である場合、第2導電性高分子層の耐湿性をさらに向上することができる。スルホン化度が異なる複数の第2高分子ドーパントを用いる場合、個々の第2高分子ドーパントのスルホン化度が上記のS2の範囲内であることが好ましい。
スルホン化度S1とスルホン化度S2との差:S1−S2は、例えば、25モル%以上であり、30〜90モル%であることが好ましい。差がこのような範囲である場合、高い耐湿性と、高容量および/または低ESRとのバランスが取り易い。
第1高分子ドーパントとしては、スルホン化度S1aを有する高分子ドーパントA、およびスルホン化度S1bを有する高分子ドーパントBからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。ここで、スルホン化度S1aおよびS1bは、S1b<S1aを満たす。スルホン化度S1aは、例えば、90モル%以上であり、95〜100モル%であることが好ましい。スルホン化度S1bは、例えば、45モル%以上90モル%未満であり、50モル%以上90モル%未満または45〜85モル%が好ましい。第1導電性高分子層は、高分子ドーパントAおよび高分子ドーパントBのうち一方を含んでもよく、双方を含んでもよい。
上記高分子ドーパントAとしては、第1モノマーの単独重合体または共重合体、スルホン化フェノール樹脂などが好ましく、特に第1モノマーの単独重合体または共重合体が好ましい。高分子ドーパントAとしては、中でも、スルホン酸基を有する芳香族ビニルポリマー、例えば、スルホン酸基を有する芳香族ビニルモノマーの単独重合体、スルホン酸基を有する芳香族ビニルモノマーと他のスルホン酸基を有するモノマー(スルホン酸基を有する脂肪族ビニルモノマー、および/またはスルホン酸基を有するジエンモノマーなど)との共重合体などが好ましい。
高分子ドーパントBとしては、第1モノマーと第2モノマーとの共重合体が好ましい。中でも、高分子ドーパントBとしては、第1モノマーユニット(スルホン酸基を有する芳香族ビニルモノマーユニットなど)と、スルホン酸基以外のアニオン性基および/またはヒドロキシ基を有するモノマーユニット(ビニルモノマーユニットなど)とを含む共重合体が好ましい。
第2高分子ドーパントとしては、第1モノマーと第2モノマーとの共重合体が好ましい。第2高分子ドーパントとしては、導電性高分子層を形成するための処理液に比較的分散し易い観点からは、スルホン酸基を有するポリエステルなどを用いることが好ましい。
なお、ドーパント、または高分子ドーパントの構成モノマーにおいて、スルホン酸基やカルボキシ基などのアニオン性基は、解離した状態でアニオンを生成することができる限り特に制限されず、上記のアニオン性基の塩、またはエステルなどであってもよい。
第1高分子ドーパントおよび第2高分子ドーパントの重量平均分子量は、それぞれ、例えば、1,000〜1,000,000である。このような分子量を有する高分子ドーパントを用いると、導電性高分子層をさらに均質化し易い。
第1導電性高分子層に含まれるドーパントの量は、第1導電性高分子100質量部に対して、10〜1,000質量部であることが好ましい。第2導電性高分子層に含まれるドーパントの量は、第2導電性高分子100質量部に対して、10〜1,000質量部であることが好ましい。
(ポリカルボン酸)
本実施形態では、第2導電性高分子層がポリカルボン酸を含むことが重要である。ポリカルボン酸を第2導電性高分子層が含むことで、ESRを低減することができるとともに、漏れ電流を抑制することができる。このような効果は、ポリカルボン酸を第1導電性高分子層のみに含む場合には小さい。特に、漏れ電流の抑制効果を十分に得ることが難しい。
漏れ電流を抑制したり、耐電圧特性が向上したりする観点から、ヒドロキシ基を有する高分子ドーパントや後述のポリヒドロキシ化合物は、第2導電性高分子層の内部に偏在し、第1導電性高分子層の内部に存在しないか、低濃度で存在することが好ましい。ポリカルボン酸は、これらのヒドロキシ基を有する成分を架橋して、漏れ電流をさらに小さくすることができる。このような観点からも、第2導電性高分子層がポリカルボン酸を含むことが好ましい。
ポリカルボン酸は、少なくとも第2導電性高分子層に含まれていればよく、第1導電性高分子層および第2導電性高分子層の双方に含まれていてもよい。第1導電性高分子層に含まれるポリカルボン酸の量は、第1導電性高分子100質量部に対して、例えば、500質量部以下であることが好ましい。
しかし、第1導電性高分子層は、ポリカルボン酸を含まないか、含む場合でも、第1導電性高分子層に含まれるポリカルボン酸の濃度よりも、第2導電性高分子層に含まれるポリカルボン酸の濃度が高いことが好ましい。第1導電性高分子層に含まれるポリカルボン酸の量は、第1導電性高分子100質量部に対して、例えば、100質量部以下(例えば、10〜100質量部)であることが好ましく、10〜20質量部であってもよい。第1導電性高分子層に含まれるポリカルボン酸の量がこのような範囲である場合、初期および信頼性試験時のESRを低減する効果が高い。なお、各層におけるポリカルボン酸の濃度は、導電性高分子に対するポリカルボン酸の相対量に基づいて比較してもよい。
第2導電性高分子層に含まれるポリカルボン酸の量は、第2導電性高分子100質量部に対して、例えば、5〜500質量部であり、10〜200質量部であることが好ましい。第2導電性高分子層に含まれるポリカルボン酸の量がこのような範囲である場合、ESRを低減する効果がさらに高まるとともに、漏れ電流をより効果的に抑制することができる。漏れ電流の抑制効果をさらに高める観点からは、第2導電性高分子層に含まれるポリカルボン酸の量を、第2導電性高分子100質量部に対して、30〜100質量部としてもよい。
ポリカルボン酸としては、芳香族ポリカルボン酸、脂環族ポリカルボン酸、および脂肪族ポリカルボン酸などが例示できる。ポリカルボン酸には、カルボキシ基以外の部分に、N原子、S原子および酸素原子などのヘテロ原子を含むポリカルボン酸も含まれる。また、ポリカルボン酸には、ポリカルボン酸の酸無水物も含まれる。酸無水物は、分子内で酸無水物基が形成された化合物、および分子間で酸無水物基が形成された化合物のいずれであってもよい。
ポリカルボン酸は、ヒドロキシ基および/またはカルボキシ基(第1アニオン性基)以外のアニオン性基(第2アニオン性基)を有するものであってもよい。カルボキシ基以外のアニオン性基としては、スルホン酸基、リン酸基および/またはホスホン酸基が例示できる。ポリカルボン酸が有するヒドロキシ基および第2アニオン性基の個数は、合計で、例えば、1〜6個であり、1〜4個または1〜3個が好ましい。
このように、ポリカルボン酸としては、複数のカルボキシ基を有する低分子化合物を用いることができる。なお、低分子化合物には、モノマー化合物の他、複数のポリカルボン酸の分子間で酸無水物基が形成された酸無水物も含まれる。ポリカルボン酸は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリカルボン酸におけるカルボキシ基の個数は、2個以上であればよく、2〜6個または2〜4個であってもよい。ESRの低減効果および漏れ電流の抑制効果がより得られ易い観点からは、ポリカルボン酸におけるカルボキシ基の個数は、3個以上であることが好ましく、3〜6個または3〜4個がさらに好ましい。なお、ポリカルボン酸が酸無水物基を有する場合、ポリカルボン酸におけるカルボキシ基の個数は、酸無水物基の個数の2倍とするものとする。
芳香族ポリカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸、無水フタル酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメシン酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸などの芳香族トリカルボン酸;ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸が好ましい。
脂環族ポリカルボン酸としては、例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸またはその無水物などの飽和脂環族ポリカルボン酸;テトラヒドロフタル酸またはその無水物、メチルテトラヒドロフタル酸またはその無水物などの不飽和脂環族ポリカルボン酸などが好ましい。脂環族ポリカルボン酸の脂環族環は5〜8員であることが好ましく、5員または6員であることがさらに好ましい。
脂肪族ポリカルボン酸としては、飽和脂肪族ポリカルボン酸、不飽和脂肪族ポリカルボン酸が例示できる。脂肪族ポリカルボン酸としては、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸などが好ましい。不飽和脂肪族ポリカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸などが挙げられる。
飽和脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、無水コハク酸、1,4−ブタンジカルボン酸、アジピン酸、酒石酸、D−グルカル酸などの他、カルボキシ基以外の部分にヘテロ原子を含む飽和脂肪族ジカルボン酸も挙げられる。ヘテロ原子としてO原子を含む飽和脂肪族ジカルボン酸としては、ジグリコール酸、オキシ二酪酸などが例示できる。ヘテロ原子としてS原子を含む飽和脂肪族ジカルボン酸としては、チオ二酢酸、チオ二酪酸などが例示できる。ヘテロ原子としてN原子を含む飽和脂肪族ジカルボン酸としては、イミノ二酢酸、イミノ二酪酸などが例示できる。
飽和脂肪族トリカルボン酸としては、例えば、トリカルバリル酸、クエン酸などが挙げられる。飽和脂肪族テトラカルボン酸としては、例えば、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸またはその無水物などが挙げられる。
なお、ポリカルボン酸において、カルボキシ基などのアニオン性基は、解離した状態でアニオンを生成することができる限り特に制限されず、上記のアニオン性基の塩、またはエステルなどであってもよい。
(ポリヒドロキシ化合物)
好ましい実施形態では、第2導電性高分子層は、さらにポリヒドロキシ化合物を含む。ポリヒドロキシ化合物は第1導電性高分子層に含まれていてもよいが、第2導電性高分子層の内部に偏在し、第1導電性高分子層の内部に存在しないか、低濃度で存在することで、誘電体層の劣化が抑制され、漏れ電流が小さくなり、耐電圧特性が向上しやすい。
ポリヒドロキシ化合物は、2個以上のヒドロキシ基を有していればよく、ヒドロキシ基は、アルコール性ヒドロキシ基およびフェノール性ヒドロキシ基のいずれであってもよい。ポリヒドロキシ化合物としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのアルキレングリコール類、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリンなどのグリセリン類を用いてもよい。
ポリヒドロキシ化合物のうち、融点が40℃以上150℃以下であるものを用いると、導電性高分子の結晶性を高め、導電性を向上させるとともに、ESRを低減する効果を得ることができる。ポリヒドロキシ化合物がこのような融点を有する場合、電解コンデンサが高温に曝されたとき、誘電体層に加わるストレスをより小さくすることができ、陽極体の表面が粗面化されることで形成された微細構造の損傷を低減することができる。
ポリヒドロキシ化合物は、300℃以下の沸点を有することが好ましい。このような沸点を有する場合、ポリヒドロキシ化合物は、導電性高分子層の形成時に適度に揮散するため、電解コンデンサの耐リフロー性が向上する。また、導電性高分子層の内部に適度に残留するため、導電性高分子の結晶性が更に高められると考えられる。
ポリヒドロキシ化合物が一分子内に有するヒドロキシ基の数は、2以上であればよいが、融点と沸点をより好ましい範囲にする観点から、ヒドロキシ基の数は、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、2〜3であることが更に好ましい。
ポリヒドロキシ化合物の融点は、40℃以上150℃以下であればよいが、固体状態を維持しやすい点で、50℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがより好ましい。また、ポリヒドロキシ化合物が熱的雰囲気に曝されたときに液状化しやすく、導電性高分子の結晶性を向上させる効果が高い点で、融点は130℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましい。ポリヒドロキシ化合物の沸点は、300℃以下であればよく、250℃以下でもよい。
上記のような融点を有するポリヒドロキシ化合物としては、例えば、エリスリトール、ネオペンチルグリコール、カテコール、キシリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、ピロガロール、ピナコール、2,5−ヘキサンジオールなどが挙げられる。これ
らは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、ネオペンチルグリコール、2,5−ヘキサンジオール、カテコールおよびトリメチロールプロパンなどが好ましい。
第2導電性高分子層に含まれるポリヒドロキシ化合物の量は、第2導電性高分子100質量部に対して、5〜200質量部であることが好ましく、10〜100質量部であることがさらに好ましい。
第1導電性高分子層および第2導電性高分子層が、それぞれポリヒドロキシ化合物を含む場合、第1導電性高分子層に含まれるポリヒドロキシ化合物の濃度は、第2導電性高分子層に含まれるポリヒドロキシ化合物の濃度よりも低いことが望ましい。各層におけるポリヒドロキシ化合物の濃度は、各層に含まれる導電性高分子に対するポリヒドロキシ化合物の相対量で比較してもよい。
第1導電性高分子層に含まれるポリヒドロキシ化合物の量は、第1導電性高分子100質量部に対して、200質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましい。
(塩基性化合物)
第1導電性高分子層および/または第2導電性高分子層は、さらに塩基性化合物を含むことが好ましい。塩基性化合物を含むことで、ドーパントの脱ドープが抑制されるため、導電性高分子層の導電性の低下を抑制でき、ESRを低減する効果がさらに高まる。
塩基性化合物としては、アンモニアなどの無機塩基の他、アミンなどの有機塩基が例示される。導電性の低下を抑制する効果が高い観点から、塩基性化合物のうち、アミンが好ましい。アミンは、1級アミン、2級アミン、3級アミンのいずれであってもよい。アミンとしては、ジエチルアミンなどの脂肪族アミン、環状アミンなども例示される。塩基性化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
ESRを低減し易い観点から、第1導電性高分子層および第2導電性高分子層のそれぞれにおいて、塩基性化合物の量は、導電性高分子100質量部に対して、5〜200質量部または10〜100質量部であることが好ましい。
(水溶性化合物)
耐電圧特性を高める観点から、第1導電性高分子層および第2導電性高分子層は、それぞれ、水溶性化合物を含んでもよい。水溶性化合物としては、ドーパント、ポリカルボン酸、ポリヒドロキシ化合物、および塩基性化合物のいずれとも異なるものが使用される。
水溶性化合物としては、オキシアルキレン基またはポリオキシアルキレン基を有する化合物の他、水溶性の樹脂が挙げられる。水溶性の樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロースエーテルなどが挙げられる。水溶性化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
水溶性化合物としては、水溶性の樹脂の他、オキシアルキレン基を有する化合物のうち、高分子のもの、例えば、ポリエチレングリコールまたはそのエーテル類が好ましい。なお、第1導電性高分子層に含まれる水溶性高分子(第1水溶性高分子)は、第1ドーパントとは異なり、第2導電性高分子層に含まれる水溶性高分子(第2水溶性高分子)は、第2ドーパントとは異なることが好ましい。
耐電圧特性をさらに高める観点から、第1導電性高分子層および第2導電性高分子層のそれぞれに含まれる水溶性化合物の量は、導電性高分子100質量部に対して、5〜200質量部または10〜100質量部であることが好ましい。
(その他)
第2導電性高分子層の平均厚みは、例えば、5〜100μm、好ましくは10〜50μmである。第1導電性高分子層の平均厚みに対する第2導電性高分子層の平均厚みの比は、例えば、5倍以上、好ましくは10倍以上である。平均厚みや平均厚みの比がこのような範囲である場合、導電性高分子層全体の強度を高めることができる。
このように第2導電性高分子層の平均厚みは、第1導電性高分子層の平均厚みに比べて大きいため、抵抗が大きくなり易い。そのため、第2導電性高分子層にポリカルボン酸を用いることで、ESRを低減したり、漏れ電流を抑制したりする効果を発揮し易い。
上記実施形態では、コンデンサ素子が第1導電性高分子層と第2導電性高分子層との2層の導電性高分子層を有する場合について説明したが、第1導電性高分子層および第2導電性高分子層は、それぞれ1層で形成されていてもよく、複数の層で形成されていてもよい。
第1導電性高分子層および第2導電性高分子層のそれぞれは、必要に応じて、さらに、公知の添加剤、および/または導電性高分子以外の公知の導電性材料(例えば、二酸化マンガンなどの導電性無機材料;および/またはTCNQ錯塩など)を含んでもよい。なお、誘電体層と導電性高分子層との間や第1導電性高分子層と第2導電性高分子層との間には、密着性を高める層などを介在させてもよい。
(陰極層)
カーボン層は、導電性を有していればよく、例えば、黒鉛などの導電性炭素材料を用いて構成することができる。銀ペースト層には、例えば、銀粉末とバインダ樹脂(エポキシ樹脂など)を含む組成物を用いることができる。なお、陰極層の構成は、これに限られず、集電機能を有する構成であればよい。陽極端子および陰極端子は、例えば銅または銅合金などの金属で構成することができる。また、樹脂外装体の素材としては、例えばエポキシ樹脂を用いることができる。
本開示の電解コンデンサは、上記構造の電解コンデンサに限定されず、様々な構造の電解コンデンサに適用することができる。具体的に、巻回型の電解コンデンサ、金属粉末の焼結体を陽極体として用いる電解コンデンサなどにも、本開示を適用できる。
[電解コンデンサの製造方法]
電解コンデンサは、陽極体を準備する第1工程と、陽極体上に誘電体層を形成する第2工程と、誘電体層の少なくとも一部を覆うように第1導電性高分子層を形成する第3工程と、第1導電性高分子層の少なくとも一部を覆うように第2導電性高分子層を形成する第4工程と、を経ることにより製造できる。電解コンデンサの製造方法は、さらに陰極層を形成する工程(第5工程)を含んでもよい。以下に、各工程についてより詳細に説明する。
(第1工程)
第1工程では、陽極体の種類に応じて、公知の方法により陽極体を形成する。陽極体は、例えば、導電性材料で形成された箔状または板状の基材の表面を粗面化することにより準備することができる。粗面化は、基材表面に凹凸を形成できればよく、例えば、基材表面をエッチング(例えば、電解エッチング)することにより行ってもよく、蒸着などの気相法を利用して、基材表面に導電性材料の粒子を堆積させることにより行ってもよい。
(第2工程)
第2工程では、陽極体上に誘電体層を形成する。誘電体層は、陽極体の表面を陽極酸化することにより形成される。陽極酸化は、公知の方法、例えば、化成処理などにより行うことができる。化成処理は、例えば、陽極体を化成液中に浸漬することにより、陽極体の表面(より内側の表面の孔や窪みの内壁面)まで化成液を含浸させ、陽極体をアノードとして、化成液中に浸漬したカソードとの間に電圧を印加することにより行うことができる。化成液としては、例えば、リン酸水溶液、リン酸アンモニウム水溶液、またはアジピン酸アンモニウム水溶液などを用いることが好ましい。
(第3工程)
第3工程において、第1導電性高分子層は、第1導電性高分子と第1ドーパントとを含む第1処理液を用いて形成することができる。第3工程では、例えば、誘電体層が形成された陽極体を第1処理液に浸漬させたり、または誘電体層が形成された陽極体に第1処理液を滴下したりする。浸漬や滴下により誘電体層が形成された陽極体の表面(誘電体層が形成された、より内側の表面の孔や窪みの内壁面)まで第1処理液を含浸させる。第1処理液を含浸させた後、陽極体は、必要に応じて、乾燥してもよい。乾燥の際、必要に応じて、陽極体を加熱してもよい。第3工程により、誘電体層が形成された陽極体の表面に導電性高分子および第1ドーパントを付着させることができ、これにより第1導電性高分子層を形成することができる。
好ましい実施形態では、第1処理液として、導電性高分子分散体を用いる。導電性高分子分散体は、第1導電性高分子と、第1ドーパントと、溶媒(第2溶媒)とを含む。このような導電性高分子分散体を用いることで、第1導電性高分子層を容易に形成することができ、品質が安定した第1導電性高分子層が得られ易い。
第2溶媒としては、水、有機溶媒、およびこれらの混合物が例示できる。有機溶媒としては、例えば、炭素数1〜5の脂肪族アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、1−ブタノールなどの脂肪族モノオール;エチレングリコール、グリセリンなどの脂肪族ポリオールなど);アセトンなどの脂肪族ケトン;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド;および/またはジメチルスルホキシドなどのスルホキシドなどが挙げられる。第2溶媒は、一種を単独で二種以上を組み合わせて用いてもよい。
導電性高分子分散体に分散された第1導電性高分子および/または第1ドーパントは、粒子(または粉末)であることが好ましい。分散体中に分散された粒子の平均粒径は、5〜500nmであることが好ましい。平均粒径は、例えば、動的光散乱法による粒径分布から求めることができる。
導電性高分子分散体は、第1導電性高分子および第1ドーパントを溶媒に分散させることにより得ることができる。また、第1導電性高分子の重合液から不純物を除去した後、第1ドーパントを混合した分散体(分散体a)、または第1ドーパントの存在下で第1導電性高分子を重合した重合液から不純物を除去した分散体(分散体b)を、導電性高分子分散体として用いてもよい。この場合、第2溶媒として例示したものを重合時の溶媒(第1溶媒)として用いてもよく、不純物を除去する際に、第2溶媒を添加してもよい。また、分散体aおよびbに、さらに第2溶媒を添加してもよい。導電性高分子分散体は、必要に応じて、公知の添加剤を含んでいてもよい。
第1導電性高分子層が、ポリカルボン酸、ポリヒドロキシ化合物、アミン、および/または水溶性化合物などを含む場合、これらの成分を含む第1処理液を用いて第1導電性高分子層を形成してもよい。また、第1導電性高分子および第1ドーパントを含む第1処理液で陽極体を処理した後、ポリカルボン酸、ポリヒドロキシ化合物、アミン、および/または水溶性化合物を含む別の処理液(処理液A)で陽極体を処理してもよい。これらの成分のうち複数の成分を用いる場合には、複数の成分を含む処理液Aを用いてもよく、各成分をそれぞれ含む複数の処理液Aを用いてもよい。
(第4工程)
第4工程は、第1処理液で処理された陽極体を用い、第1処理液に代えて、第2導電性高分子および第2ドーパントを少なくとも含む第2処理液を用いる以外は、第3工程と同様のまたは類似の手順で行うことができる。第2処理液としては、第1導電性高分子に代えて第2導電性高分子を用い、第1ドーパントに代えて第2ドーパントを用いる以外は、第1処理液と同様のものを使用することができる。
第3工程の場合に準じて、ポリカルボン酸は、第2処理液に加えて用いてもよく、陽極体を第2処理液で処理した後に、ポリカルボン酸を含む別の処理液(処理液B)で処理することにより、第2導電性高分子層を形成してもよい。
第2導電性高分子層が、ポリヒドロキシ化合物、アミン、および/または水溶性化合物を含む場合には、第2処理液に添加してもよく、処理液Bに添加してもよい。また、第2処理液、または第2処理液と処理液Bとで、陽極体を処理した後、ポリヒドロキシ化合物、アミンおよび/または水溶性化合物を含む処理液Cで陽極体を処理することによりこれらの成分を第2導電性高分子層に含有させてもよい。これらの成分のうち複数の成分を用いる場合には、複数の成分を含む処理液Cを用いてもよく、各成分をそれぞれ含む複数の処理液Cを用いてもよい。
(第5工程)
第5工程では、第4工程で得られた陽極体の(好ましくは形成された導電性高分子層の)表面に、カーボン層と銀ペースト層とを順次積層することにより陰極層が形成される。
以下、本開示を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
下記の要領で、図1に示す電解コンデンサ1を作製し、その特性を評価した。
(1)陽極体2を準備する工程(第1工程)
基材としてのアルミニウム箔(厚み:100μm)の両方の表面をエッチングにより粗面化することで、陽極体2を作製した。
(2)誘電体層3を形成する工程(第2工程)
陽極体2の一端部側の部分(分離部から一端部までの部分)を、化成液に浸漬し、70Vの直流電圧を、20分間印加して、酸化アルミニウムを含む誘電体層3を形成した。
(3)第1導電性高分子層4aを形成する工程(第3工程)
攪拌下で、ポリスチレンスルホン酸(スルホン化度:100モル%)で含む水溶液に、3,4−エチレンジオキシチオフェンモノマーを添加し、次いで、酸化剤(硫酸鉄(III)および過硫酸ナトリウム)を添加して、化学酸化重合を行った。得られた重合液を、イオン交換装置によりろ過して不純物を除去することにより、第1導電性高分子としてのポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)と、第1高分子ドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(PSS)とを含む溶液を得た。
得られた溶液に、純水を加えて、高圧ホモジナイザーでホモジナイズし、さらにフィルターでろ過することにより分散液状の第1処理液を調製した。上記(2)で得られた誘電体層3が形成された陽極体2を、第1処理液に浸漬した後、第1処理液から取り出し、さらに120℃で10〜30分の乾燥を行った。第1処理液への浸漬と、乾燥とをさらに1回ずつ繰り返すことで、誘電体層3の表面を覆うように第1導電性高分子層4aを形成した。第1導電性高分子層4aの平均厚みを走査型電子顕微鏡(SEM)により測定したところ、約1μmであった。
(4)第2導電性高分子層4bを形成する工程(第4工程)
上記(3)と同様にして、第2導電性高分子としてのPEDOTと、第2高分子ドーパントとしてのPSSとを含む溶液を得た。得られた溶液に、純水およびクエン酸を加えて、高圧ホモジナイザーでホモジナイズし、さらにフィルターでろ過することにより分散液状の第2処理液を調製した。クエン酸の量は、PEDOT100質量部に対して50質量部であった。
上記(3)で処理された陽極体2を、第2処理液に浸漬した後、取り出し、さらに120℃で10〜30分の乾燥を行った。第2処理液への浸漬と乾燥とを交互にさらに2回ずつ繰り返すことで、第1導電性高分子層4aの表面を覆うように第2導電性高分子層4bを形成した。第2導電性高分子層4bの平均厚みを、第1導電性高分子層4aの場合と同様にして測定したところ、約30μmであった。このようにして、第1導電性高分子層4aおよび第2導電性高分子層4bを、誘電体層3の表面を覆うように形成した。
(5)陰極層5の形成工程(第5工程)
上記(4)で得られた陽極体2を、黒鉛粒子を水に分散した分散液に浸漬し、分散液から取り出し後、乾燥することにより、少なくとも第2導電性高分子層4bの表面にカーボン層5aを形成した。乾燥は、130〜180℃で10〜30分間行った。次いで、カーボン層5aの表面に、銀粒子とバインダ樹脂(エポキシ樹脂)とを含む銀ペーストを塗布し、150〜200℃で10〜60分間加熱することでバインダ樹脂を硬化させ、銀ペースト層5bを形成した。こうして、カーボン層5aと銀ペースト層5bとで構成される陰極層5を形成した。上記のようにして、コンデンサ素子11を作製した。
(6)電解コンデンサの組み立て
上記(5)で得られたコンデンサ素子11の陰極層5と、陰極端子14の一端部(第1端部)14aとを導電性接着剤17で接合した。コンデンサ素子11から突出した陽極体2の他端部と、陽極端子13の一端部(第1端部)13aとをレーザ溶接により接合した。次いで、トランスファモールド法により、コンデンサ素子11の周囲に、絶縁性樹脂で形成された樹脂外装体12を形成した。このとき、陽極端子13の他端部(第2端部)13bと、陰極端子14の他端部(第2端部)14bとは、樹脂外装体12から引き出した状態とした。このようにして、電解コンデンサ1を完成させた。上記と同様にして、電解コンデンサ1を合計250個作製した。
(7)評価
電解コンデンサを用いて、下記の評価を行った。静電容量、ESR値、および耐湿性は、それぞれ、ランダムに選択した120個の電解コンデンサについて測定し、平均値を算出した。
(a)静電容量およびESR
4端子測定用のLCRメータを用いて、電解コンデンサの周波数120Hzにおける静電容量(初期静電容量)(μF)を測定した。4端子測定用のLCRメータを用いて、電解コンデンサの周波数100kHzにおけるESR値(初期ESR値)(mΩ)を測定した。
(b)漏れ電流(LC)
電解コンデンサの陽極体2と陰極層5との間に10Vの電圧を印加し、40秒後の漏れ電流を測定した。そして、漏れ電流量が100μAを超えるものを不良品と判断して、各実施例および各比較例の電解コンデンサに占める不良品の比率(LC不良率)(%)を算出し、漏れ電流の指標とした。
実施例2
実施例1の(4)において、クエン酸の代わりにトリメリット酸を用いたこと以外は実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製し、評価を行った。
実施例3
実施例1の(4)において、クエン酸の代わりにピロメリット酸を用いたこと以外は実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製し、評価を行った。
実施例4
実施例1の(4)において、クエン酸の代わりにフタル酸を用いたこと以外は実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製し、評価を行った。
実施例5
実施例1の(4)において、PEDOTおよびPSSを含む溶液の代わりに、第2導電性高分子としてのPEDOTと、第2高分子ドーパントとしてのスルホン酸基を有するポリエステルとを含む溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製し、評価を行った。
なお、PEDOTおよびスルホン酸基を有するポリエステルを含む溶液は、次のようにして調製した。攪拌下で、スルホン酸基を有するポリエステル(スルホン化度:20モル%)の水溶液に、3,4−エチレンジオキシチオフェンモノマーを添加し、次いで、酸化剤(硫酸鉄(III)および過硫酸ナトリウム)を添加して、化学酸化重合を行った。得られた重合液を、イオン交換装置によりろ過して不純物を除去することにより、上記の溶液を得た。
実施例6
実施例1の(4)において、クエン酸の量を、PEDOT100質量部に対して10質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製し、評価を行った。
実施例7
実施例1の(4)において、クエン酸の量を、PEDOT100質量部に対して200質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製し、評価を行った。
実施例8
実施例1の(3)において、PEDOTおよびPSSを含む溶液に、純水およびクエン酸を加えて、高圧ホモジナイザーでホモジナイズし、さらにフィルターでろ過することにより分散液状の第1処理液を調製した。クエン酸の量は、PEDOT100質量部に対して10質量部であった。このようにして得られた第1処理液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製し、評価を行った。
実施例9
クエン酸の量を、PEDOT100質量部に対して200質量部に変更したこと以外は、実施例8と同様にして第1処理液を調製した。実施例1の(4)において、クエン酸の量を、PEDOT100質量部に対して20質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして第2処理液を調製した。得られた第1処理液および第2処理液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製し、評価を行った。
比較例1
実施例1と同様に調製した第1処理液のみを用い、第2処理液を用いずに、導電性高分子層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製し、評価を行った。
比較例2
クエン酸の量を、PEDOT100質量部に対して50質量部に変更したこと以外は、実施例8と同様にして第1処理液を調製した。実施例1の(4)において、クエン酸を加えることなく第2処理液を調製した。このようにして得られた第1処理液および第2処理液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製し、評価を行った。表1に、実施例1〜9および比較例1〜2の評価結果を示す。なお、A1〜A9は実施例の電解コンデンサであり、B1〜B2は比較例の電解コンデンサである。
Figure 0006767630
表1に示すように、実施例1〜8では、比較例に比べて、静電容量が高く、ESRが低くなった。実施例9では、静電容量およびESRは比較例2とほぼ同程度であるが、比較例1に比べてESRは低減され、比較例1および2に比べて、LC不良率が低く、漏れ電流が抑制されている。他の実施例についても、比較例よりLC不良率が低く、漏れ電流が抑制されている。
本開示の実施形態に係る電解コンデンサは、ESRの低減および漏れ電流の抑制が求められる様々な用途に利用できる。
1:電解コンデンサ
2:陽極体
3:誘電体層
4:導電性高分子層
4a:第1導電性高分子層
4b:第2導電性高分子層
5:陰極層
5a:カーボン層
5b:銀ペースト層
11:コンデンサ素子
12:樹脂外装体
13:陽極端子
13a:陽極端子の第1端部
13b:陽極端子の第2端部
14:陰極端子
14a:陰極端子の第1端部
14b:陰極端子の第2端部
15:陰極部
16:分離部
17:導電性接着剤

Claims (10)

  1. 陽極体、前記陽極体上に形成された誘電体層、前記誘体層の少なくとも一部を覆う第1導電性高分子層、および前記第1導電性高分子層の少なくとも一部を覆う第2導電性高分子層を備え、
    前記第1導電性高分子層は、第1導電性高分子と、第1ドーパントと、第1ポリカルボン酸とを含み、
    前記第2導電性高分子層は、第2導電性高分子と、第2ドーパントと、第2ポリカルボン酸とを含
    前記第1導電性高分子層における前記第1導電性高分子100質量部に対する前記第1ポリカルボン酸の配合部数よりも、前記第2導電性高分子層における前記第2導電性高分子100質量部に対する前記第2ポリカルボン酸の配合部数が大きい、
    電解コンデンサ。
  2. 記第1導電性高分子層に含まれる前記第1ポリカルボン酸の量は、前記第1導電性高分子100質量部に対して、500質量部以下である、
    請求項1に記載の電解コンデンサ。
  3. 陽極体、前記陽極体上に形成された誘電体層、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う第1導電性高分子層、および前記第1導電性高分子層の少なくとも一部を覆う第2導電性高分子層を備え、
    前記第1導電性高分子層は、第1導電性高分子と、第1ドーパントと、第1ポリカルボン酸とを含み、
    前記第2導電性高分子層は、第2導電性高分子と、第2ドーパントと、第2ポリカルボン酸とを含み、
    前記第1導電性高分子層に含まれる前記第1ポリカルボン酸の量は、前記第1導電性高分子100質量部に対して、500質量部以下である、
    電解コンデンサ。
  4. 前記第1ポリカルボン酸および前記第2ポリカルボン酸は、それぞれ、芳香族ポリカルボン酸、脂環族ポリカルボン酸、および脂肪族ポリカルボン酸からなる群より選択される
    少なくとも一種である、
    請求項1〜のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
  5. 前記第1ポリカルボン酸および前記第2ポリカルボン酸は、それぞれ、3つ以上のカルボキシ基を有するポリカルボン酸からなる群より選択される少なくとも一種である
    請求項1〜のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
  6. 前記第1ドーパントは、スルホン化度S1を有する第1高分子ドーパントを含み、
    前記第2ドーパントは、スルホン化度S2を有する第2高分子ドーパントを含み、
    前記スルホン化度S1および前記スルホン化度S2は、S2<S1を満たす、
    請求項1〜のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
  7. 前記スルホン化度S2は、5〜55モル%である、
    請求項に記載の電解コンデンサ。
  8. 前記第2導電性高分子層は、さらにポリヒドロキシ化合物を含む、
    請求項1〜のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
  9. 前記陽極体は、アルミニウムを含む、
    請求項1〜のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
  10. 前記第1ポリカルボン酸と前記第2ポリカルボン酸とは、互いに同じ物質である、
    請求項1〜9のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
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