JP6765831B2 - 還元型酸化黒鉛の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、還元型酸化黒鉛の製造方法に関する。より詳しくは、触媒、電池やキャパシタの電極材料、熱電変換材料、導電性材料、発光材料、潤滑用添加剤、高分子用添加剤、透過膜材料等として好適に用いることができる還元型酸化黒鉛及びその製造方法に関する。
酸化黒鉛は、sp結合で結合した炭素原子が平面的に並んだ層状構造をもつ黒鉛を酸化し、酸素官能基を付与したものであり、その特異な構造や物性のために数多くの研究がなされている。酸化黒鉛は、触媒、電池やキャパシタの電極材料、熱電変換材料、導電性材料、発光材料、潤滑用添加剤、高分子用添加剤、透過膜材料等として用いられることが期待されている。
酸化黒鉛の製造方法としては、黒鉛を酸溶媒中で強力な酸化剤と作用させることで酸化黒鉛を合成した後、生成した酸化黒鉛を溶液中から分離、精製する方法が一般的であり、酸化剤として硫酸と過マンガン酸カリウムを用いるHummers法が知られている(非特許文献1、特許文献1、2参照)。またその他の方法として、硝酸と塩素酸カリウムを用いるBrodie法、酸化剤として硫酸、硝酸と塩素酸カリウムを用いるStaudenmaier法等が知られている。
酸化黒鉛は、更に還元して酸素官能基を脱離させることで、還元型酸化黒鉛とすることができる。還元度が高い還元型酸化黒鉛は高電気伝導率等の機能を発現するため、還元型酸化黒鉛の調製方法も数多く報告されている。例えば、酸化黒鉛のスラリーを中和してアスコルビン酸で還元する方法が開示されている(非特許文献2参照)。また、アルミ箔や粉末亜鉛を酸や塩基と反応させて生じる水素により酸化黒鉛を還元する方法が報告されている(非特許文献3参照)。
特開2002−53313号公報 特開2011−148701号公報
William S. Hummers, et.al, Journal of American Chemical Society, 1958, 80, 1339 Sina Abdolhosseinzadeh, et.al, Scientific Reports, 2015, 5, 10160 Viet Hung Pham, et.al, J. Mater. Chem., 2012, 22, 10530-10536
上記のとおり、還元型酸化黒鉛の製造方法として種々の方法が知られているが、例えば上記非特許文献2に記載の方法は、得られる還元型酸化黒鉛の還元度をより高いものとし、電気伝導率等の機能をより高めるための工夫の余地があった。また、上記非特許文献3に記載の方法は、反応時に水素を発生させるものであり、水素ガスを排気するための設備を要するため、より簡便に還元型酸化黒鉛を調製することが求められるところであった。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、還元度が高い還元型酸化黒鉛を簡便に製造することを可能とする還元型酸化黒鉛の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、還元度が高い還元型酸化黒鉛を安全に製造する方法について種々検討し、酸成分を0.1質量%以上含む液中で還元剤を用いて酸化黒鉛を還元すると、還元度がより高められた還元型酸化黒鉛を簡便に製造することが可能となることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
すなわち本発明は、酸化黒鉛が還元された還元型酸化黒鉛を製造する方法であって、該製造方法は、酸化黒鉛を還元する工程を含み、該還元工程は、酸成分を0.1質量%以上含む液中で還元剤を用いて酸化黒鉛を還元することを特徴とする還元型酸化黒鉛の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
酸化黒鉛は、グラフェン、黒鉛(グラファイト)等の黒鉛質の炭素材料を酸化することにより酸素が結合したものであり、該酸素は黒鉛質の炭素材料に対しカルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、エポキシ基等の置換基として存在している。本発明の製造方法により得られる還元型酸化黒鉛は、酸化黒鉛を更に還元して置換基の一部が脱離した構造を有し、この構造により高電気伝導率等の機能を発現できる。
本発明の製造方法により得られる還元型酸化黒鉛は、更に、硫黄含有基、窒素含有基等の官能基を有していてもよいが、炭素原子、水素原子、及び、酸素原子のみを構成元素とするものであることが好ましい。
本発明の還元型酸化黒鉛の製造方法は、酸化黒鉛を還元する工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、還元工程後の熟成工程、精製工程や、還元工程の反応原料である酸化黒鉛を得るための、黒鉛を酸化する工程、酸化反応停止工程、酸化工程後の熟成工程、精製工程、乾燥工程等が挙げられる。以下では、先ず、酸化黒鉛を還元する工程について説明する。次いで、その他の工程について上記の順に説明する。
(還元工程)
本発明の還元型酸化黒鉛の製造方法において、酸化黒鉛を還元する工程は、酸成分を0.1質量%以上含む液中で還元剤を用いて酸化黒鉛を還元する。本発明者らは、還元剤を作用させて酸化黒鉛を還元する際に液中に還元剤とともに酸成分を共存させることで還元度が高い還元型酸化黒鉛を合成できることを見出した。酸成分を共存させることで還元度が高い還元型酸化黒鉛を合成できる理由は明らかではないが、酸成分が還元時に副生する水分子の生成を促進することで還元反応の触媒として働いていると考えられる。
なお、酸成分の含有量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
本発明の製造方法において、上記酸成分は、特に限定されないが、水中の酸解離定数pKaが3以下である強酸が好ましく、中でも硫酸及び/又は硝酸であることがより好ましく、硫酸であることが更に好ましい。
本発明の製造方法において、上記液は、得られる還元型酸化黒鉛の還元度をより高いものとする観点からは、酸成分を0.2質量%以上含むことが好ましく、1質量%以上含むことがより好ましく、5質量%以上含むことが更に好ましく、10質量%以上含むことが一層好ましく、20質量%以上含むことが特に好ましい。また、還元工程の反応を適切に制御する観点からは、上記液は、酸成分を90質量%以下含むことが好ましい。
本発明の製造方法において、上記還元剤は、アスコルビン酸、ヒドラジン、尿素、チオ尿素、ヨウ化水素、鉄、水素化ホウ素アルカリ金属塩、水素化アルミニウムアルカリ金属塩、アルミニウム、及び、亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。水素化ホウ素アルカリ金属塩としては、例えば水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、水素化ホウ素リチウム(LiBH)、水素化ホウ素カリウム(KBH)が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できるが、中でも水素化ホウ素ナトリウムが好ましい。水素化アルミニウムアルカリ金属塩としては、水素化アルミニウムナトリウム(NaAlH)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)、水素化アルミニウムカリウム(KAlH)が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できるが、中でも水素化アルミニウムリチウムが好ましい。
上記還元剤は、中でも、アスコルビン酸及び/又はヒドラジンであることがより好ましく、アスコルビン酸であることが更に好ましい。アスコルビン酸としては、入手容易性の観点から、L−アスコルビン酸(ビタミンC)が好ましい。
本発明の製造方法において、上記液は、得られる還元型酸化黒鉛の還元度をより高いものとする観点から、酸化黒鉛の含有量100質量%に対し、還元剤を50質量%以上含むことが好ましく、100質量%以上含むことがより好ましく、150質量%以上含むことが更に好ましく、200質量%以上含むことが特に好ましい。また、上記液は、酸化黒鉛の含有量100質量%に対し、還元剤を10000質量%以下含むことが好ましく、3000質量%以下含むことがより好ましく、1000質量%以下含むことが更に好ましく、500質量%以下含むことが特に好ましい。
上記液は、液中の酸化黒鉛の質量割合が、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましく、2質量%以上であることが特に好ましい。また、酸化黒鉛の質量割合が、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、8質量%以下であることが特に好ましい。
上記液は、その他の成分として、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、例えば水が好ましい。溶媒を用いる場合は、その量は適宜設定すればよいが、上記液中、1〜90質量%であることが好ましい。溶媒の量は、上記液中、より好ましくは2〜85質量%であり、更に好ましくは5〜80質量%であり、特に好ましくは10〜70質量%である。
上記還元工程において、上記液は、精製工程で得られた酸化黒鉛の水分散体や、乾燥工程で得られた酸化黒鉛の粉体を水等の溶媒中に投入したものに、酸成分、還元剤、及び、必要に応じてその他の成分を混合して得てもよいが、酸化反応停止工程で得られた酸成分が残留する液に、還元剤、及び、必要に応じて追加の酸成分等のその他の成分を混合して得ることが好ましい。これにより、酸化工程で用いた酸成分を有効に活用できるとともに、酸化工程後の精製工程等を省くことができ、精製等にかかる時間的・費用的コストを大幅に削減できる。なお、混合は、公知の方法で適宜行うことが可能であるが、例えば、超音波処理を行ったり、公知の分散機を用いたりして酸化黒鉛を均一に分散させることが好ましい。
上記酸化黒鉛を還元する工程において、還元反応の温度は、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、10℃以上が更に好ましく、15℃以上が特に好ましい。反応温度に特に上限はないが、通常、95℃以下で行われる。還元反応を行う反応時間は、0.01時間以上であることが好ましく、0.05時間以上であることがより好ましく、0.1時間以上であることが更に好ましく、0.15時間以上であることが一層好ましく、0.2時間以上であることが特に好ましい。また、該反応時間は、100時間以下であることが好ましく、10時間以下であることがより好ましく、5時間以下であることが更に好ましく、2時間以下であることが一層好ましく、1時間以下であることが特に好ましい。
還元工程は、空気中で行ってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよく、真空中で行ってもよい。
本発明の製造方法は、上記還元工程後、熟成工程や、反応の停止を伴う精製工程を含むものとすることができる。
(還元工程後の熟成工程)
還元工程後の熟成工程において、還元工程で得られた反応液を熟成させる温度及び時間は適宜選択すればよいが、反応液を0〜90℃の温度に維持することが好ましく、より好ましくは、20〜80℃の温度に維持することである。
また熟成させる時間は、0.1〜24時間であることが好ましい。より好ましくは、0.2〜5時間である。
(還元工程後の精製工程)
上記還元工程後の精製工程は、空気中で行ってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。また真空中で行っても良い。
上記還元工程後の精製工程は、例えば、水洗、濾過等の操作が挙げられ、必要に応じて、デカンテーション、遠心分離、分液抽出等を行っても構わない。これら操作のいずれか1つのみを行ってもよく、2つ以上を組み合わせて行ってもよい。また、これらの操作は1回のみ行ってもよく、複数回行ってもよい。なお、還元工程後の精製工程は、通常、酸化工程後の精製工程と比べて容易に行うことができる。
(酸化工程)
本発明の還元型酸化黒鉛の製造方法は、更に黒鉛を酸化する工程を含んでいてもよい。酸化工程で得られる酸化黒鉛含有組成物中の酸化黒鉛を上述した還元工程の原料として用いることができる。黒鉛を酸化する工程は、黒鉛が酸化されることになる限り、その方法は特に制限されず、上述したHummers法、Brodie法、Staudenmaier法等のいずれの方法における黒鉛の酸化方法を用いてもよく、後述する実施例に記載の方法のように、Hummers法における酸化方法を採用した、黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する工程であってもよい。このように、酸化工程が、黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する工程であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
上記酸化工程が黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する工程である場合、硫酸の使用量は、黒鉛に対する硫酸の質量比(硫酸/黒鉛)が25〜60となる量であることが好ましい。該質量比が25以上であることにより、酸化反応中に反応液(混合液)の高粘度化を充分に防止して酸化黒鉛を効率的に製造することができる。また、該質量比が60以下であることにより、廃液量を充分に少なくすることができる。
上記質量比は、26以上であることがより好ましく、27以上であることが更に好ましく、28以上であることが特に好ましい。また、該質量比は、54以下であることがより好ましく、48以下であることが更に好ましく、42以下であることが特に好ましい。
上記酸化工程に用いる黒鉛は、平均粒子径が3μm以上、80μm以下であることが好ましい。このような平均粒子径のものを用いることで、酸化反応をより効率的に進めることができる。黒鉛の平均粒子径は、より好ましくは3.2μm以上、70μm以下である。
上記平均粒子径は、粒度分布測定装置により測定することができる。
上記酸化工程に用いる黒鉛の形状は特に制限されず、微粉状、粉状、粒状、顆粒状、鱗片状、多面体状、ロッド状、曲面含有状等が挙げられる。なお、平均粒子径が上述のような範囲の粒子は、例えば、粒子を粉砕機等により粉砕する方法や、粒子をふるい等にかけて粒子径を選別する方法、これら方法の組み合わせのほか、粒子を製造する段階で調製条件を最適化し、所望の粒子径の粒子を得る方法等により製造することが可能である。
上記黒鉛と硫酸とを含む混合液中における黒鉛の含有量は、混合液100質量%に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが更に好ましく、2質量%以上であることが特に好ましい。該黒鉛の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、7質量%以下であることが更に好ましく、6質量%以下であることが特に好ましい。
本発明の製造方法における酸化工程に用いる黒鉛は、1種のみであってもよく、上記平均粒子径、形状等のいずれかにおいて異なる2種以上のものを用いてもよい。
上記酸化工程で添加する過マンガン酸塩としては、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸アンモニウム、過マンガン酸銀、過マンガン酸亜鉛、過マンガン酸マグネシウム、過マンガン酸カルシウム、過マンガン酸バリウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できるが、中でも過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムが好ましく、過マンガン酸カリウムがより好ましい。
上記酸化工程における上記過マンガン酸塩の全添加量は、上記混合液中の黒鉛量100質量%に対し、50〜500質量%であることが好ましい。これにより、酸化黒鉛を安全かつ効率的に製造することができる。なお、酸化剤の全添加量を変化させることで、酸化黒鉛に導入される酸素原子の量を調節することができる。
該全添加量は、100質量%以上であることがより好ましく、150質量%以上であることが更に好ましく、200質量%以上であることが一層好ましく、240質量%以上であることが特に好ましい。また、該全添加量は、450質量%以下であることがより好ましく、400質量%以下であることが更に好ましく、350質量%以下であることが一層好ましく、300質量%以下であることが特に好ましい。
上記酸化工程では、過マンガン酸塩を一括で添加してもよく、複数回に分けて添加してもよく、連続的に添加しても良いが、複数回に分けて添加するか連続的に添加することが好ましい。これにより、酸化反応が急激に進行することを抑えて反応の制御をよりしやすくすることができる。過マンガン酸塩を複数回に分けて添加する場合、添加する回数は、3回以上であることが好ましく、5回以上であることがより好ましく、7回以上であることが更に好ましく、9回以上であることが特に好ましい。
上記過マンガン酸塩を複数回に分けて添加する場合、1回当たりの添加量は、それぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。
上記酸化工程では、上記混合液の温度を10〜50℃の範囲内に維持しながら過マンガン酸塩を添加することが好ましい。このような温度範囲に維持することで、酸化反応を制御しながら充分に進行させることができる。
上記温度は、12℃以上に維持することが好ましく、15℃以上に維持することがより好ましく、18℃以上に維持することが更に好ましく、20℃以上に維持することが特に好ましい。
上記酸化工程は、上記混合液の温度変化を25℃以下に維持しながら過マンガン酸塩を添加する工程であることが好ましい。これにより、より安定的に酸化工程を行うことができる。
上記酸化工程は、該温度変化を20℃以下に維持することがより好ましく、15℃以下に維持することが更に好ましく、10℃以下に維持することが特に好ましい。
上記酸化工程では、安定的に酸化工程を行う観点から、過マンガン酸塩を10分〜10時間の間にわたって添加することが好ましい。より好ましくは、過マンガン酸塩を30分以上の間にわたって添加することであり、更に好ましくは、1時間以上の間にわたって添加することであり、特に好ましくは、2時間以上の間にわたって添加することである。
また、酸化黒鉛を効率的に製造する点から、過マンガン酸塩の添加時間は、8時間以下であることが好ましく、7時間以下であることがより好ましく、6時間以下であることが更に好ましい。
上記酸化工程は、公知の撹拌機等を用いて撹拌しながら行うことが好ましい。
上記酸化工程は、例えば空気中、又は、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行うことができる。また、上記酸化工程は、その圧力条件は特に限定されないが、例えば常圧条件下で行うことが好ましい。
また上記酸化工程の時間は、0.5時間〜120時間とすることが好ましく、1時間〜15時間とすることがより好ましく、2時間〜10時間とすることが更に好ましい。
上記酸化工程は、連続的に行ってもよいし、断続的に行ってもよい。
上記混合液は、黒鉛、硫酸、及び、必要に応じてその他の成分を混合して得ることができる。上記混合は、公知の方法で適宜行うことが可能であるが、例えば、超音波処理を行ったり、公知の分散機を用いたりして黒鉛を均一に分散させることが好ましい。
本発明の還元型酸化黒鉛の製造方法は、更に、酸化工程後の熟成工程、酸化反応停止(クエンチ)工程等のその他の工程を含んでいてもよい。また、本発明の還元型酸化黒鉛の製造方法は、酸化工程で得られた反応液から酸化黒鉛を精製する工程や、反応液を乾燥する工程、濃縮する工程、又は、希釈する工程を含んでいてもよいが、後述するように、これら工程を含まないものとすることが好ましい。
(酸化工程後の熟成工程)
上記酸化工程後の熟成工程において、酸化工程で得られた反応液を熟成させる温度及び時間は適宜選択すればよいが、反応液を0〜90℃の温度に維持することが好ましく、より好ましくは、20〜80℃の温度に維持することである。
また熟成させる時間は、0.1〜24時間であることが好ましい。より好ましくは、0.5〜5時間である。
(酸化反応停止工程)
上記酸化反応停止工程は、空気中で行ってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。また真空中で行っても良い。
上記酸化反応停止工程は、例えば、反応液の温度を5〜15℃に設定し、反応液に水を添加し、次いで還元剤として過酸化水素水を添加して行うことができる。また、反応液を、5〜25℃に設定した、水又は過酸化水素水に添加して行ってもよい。
上記酸化反応停止工程の時間は、例えば0.01〜5時間とすることができる。
(酸化工程後の精製工程)
本明細書中、精製工程とは、酸化反応停止工程等で得られた液から少なくとも固形不純物(例えば、過マンガン酸塩等の酸化剤等)、酸化反応時の溶媒(硫酸等の強酸等)を除き、液を酸化黒鉛の水分散精製物とする工程を言う。例えば、液を精製する工程により得られる精製物の固形分中の酸化黒鉛の純度は、99.9質量%以上である。
本発明の製造方法では、精製にかかる時間的・費用的コストを大幅に削減する観点、また、液中に固形不純物や硫酸が残留していても還元反応が進行し、特に硫酸量が多いと得られる還元型酸化黒鉛の還元度も高められることから、精製工程を行わないことが好ましい。なお、上記精製工程を行う場合、精製工程は、水洗や、固形不純物を水に溶解させたうえでの遠心分離、濾過等の手法の1種又は2種以上を用いて行うことができ、濾過等の際に界面活性剤、有機溶媒等の凝集剤を添加しても構わない。また、上記精製工程は、空気中で行ってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。また、精製工程を行う際に、水等の一部を除去してもよい。なお、本発明の製造方法が、精製工程を含み、硫酸を除くものである場合は、精製工程後の還元工程の反応に供される液が酸成分を0.1質量%以上含むように酸成分を添加すればよい。
(酸化工程後の乾燥工程、濃縮工程、又は、希釈工程)
上記乾燥工程とは、精製工程等で得られた液から水を除き、乾燥物とする工程を言う。例えば、酸化黒鉛含有組成物を乾燥する工程により得られる乾燥物中の固形分濃度は、99.9質量%以上である。上記濃縮工程とは、精製工程等で得られた液から水の一部を除去する工程である。上記希釈工程とは、精製工程等で得られた液を水で希釈することを言う。本発明の製造方法では、時間的・費用的コストを削減する観点、また、還元反応の進行が特に妨げられない観点から、乾燥工程、濃縮工程、及び、希釈工程を行わないことが好ましい。なお、上記乾燥工程を行う場合、乾燥工程は、遠心分離、濾過、蒸発等の手法の1種又は2種以上を用いて行うことができ、濾過等の際に界面活性剤、有機溶媒等の凝集剤を添加しても構わない。該蒸発は、例えば減圧条件下で行ったり、加熱条件下で行ったりすることができるが、減圧条件下かつ加熱条件下で行うことが好ましい。また、遠心分離や濾過は、空気中で行ってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。上記濃縮工程を行う場合、濃縮工程は、上記蒸発と同様の条件下で行うことができる。上記希釈工程を行う場合、精製工程等で得られた液に水を適量添加すればよい。
(還元型酸化黒鉛)
本発明はまた、電気伝導率が3000S/m以上であることを特徴とする還元型酸化黒鉛でもある。
上記電気伝導率は、4000S/m以上であることが好ましく、6000S/m以上であることがより好ましく、8000S/m以上であることが更に好ましく、10000S/m以上であることが特に好ましい。
上記電気伝導率の上限値は、特に限定されないが、上記電気伝導率は、通常は1000000S/m以下である。
本発明の還元型酸化黒鉛の製造方法により、上記のように電気伝導率が高い還元型酸化黒鉛を得ることができる。
上記電気伝導率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
本発明の還元型酸化黒鉛は、酸素量が20原子%以下であることが好ましく、19原子%以下であることがより好ましく、18原子%以下であることが更に好ましく、17原子%以下であることが特に好ましい。
本発明の還元型酸化黒鉛の製造方法により、上記のように酸素量が少ない還元型酸化黒鉛を得ることができる。なお、酸素量が少ないことは、還元度が高いことを示す指標である。
上記酸素量は、実施例に記載のXPS測定により測定することができる。
本発明の還元型酸化黒鉛において、窒素原子の含有量が0.1原子%以下であることが好ましく、0.05原子%以下であることがより好ましい。また、ホウ素原子の含有量は0.1原子%以下であることが好ましく、0.05原子%以下であることがより好ましい。更に、アルミニウム原子の含有量は0.1原子%以下であることが好ましく、0.05原子%以下であることがより好ましい。そして、亜鉛原子の含有量は0.1原子%以下であることが好ましく、0.05原子%以下であることがより好ましい。また、ナトリウム原子の含有量は0.1原子%以下であることが好ましく、0.05原子%以下であることがより好ましい。
本発明の還元型酸化黒鉛の製造方法において、例えば還元剤としてアスコルビン酸を用いることより、得られる還元型酸化黒鉛中への各種原子の混入を充分に防止することができ、各種原子の含有量が低い還元型酸化黒鉛を得ることができる。
上述した各種原子の含有量は、後述する実施例の方法により測定することができる。
本発明の還元型酸化黒鉛の製造方法により得られる還元型酸化黒鉛は、触媒、電池やキャパシタの電極材料、熱電変換材料、導電性材料、発光材料、潤滑用添加剤、高分子用添加剤、透過膜材料等として好適に使用できる。
なお、上記電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池、固体高分子型燃料電池、金属−空気電池等が挙げられる。
上記熱電変換材料が用いられる熱電変換装置としては、例えば、地熱・温泉熱発電機、太陽熱発電機、工場や自動車等の廃熱発電機、体温発電機等の発電機や、該発電機を電源の少なくとも一つとして用いた各種電気製品、電動機、人工衛星等が挙げられる。
本発明の還元型酸化黒鉛の製造方法は、上述の構成よりなり、還元度が高い還元型酸化黒鉛を簡便に製造することができるため、各種工業用途に使用することができる還元型酸化黒鉛の製造方法として好適に用いることができる。
調製例1に於けるXRD測定結果を表した図である。 調製例1に於けるXPS測定結果を表した図である。 比較例1に於けるXRD測定結果を表した図である。 比較例1に於けるXPS測定結果を表した図である。 実施例1に於けるXRD測定結果を表した図である。 実施例1に於けるXPS測定結果を表した図である。 実施例2に於けるXRD測定結果を表した図である。 実施例2に於けるXPS測定結果を表した図である。 実施例3に於けるXRD測定結果を表した図である。 実施例3に於けるXPS測定結果を表した図である。
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
(XRF測定)
XRF測定は、蛍光X線分析装置(Philips社製、PW2404)を用いて、検量線法にて測定を行った。
(XRD測定)
XRD測定は、全自動水平型X線回折装置(リガク社製、SMART LAB)を用いて、以下の条件により行った。
CuKα1線:0.15406nm
走査範囲:10°−90°
X線出力設定:45kV−200mA
ステップサイズ:0.020°
スキャン速度:0.5°min−1−4°min−1
なお、XRD測定は、試料をグローブボックス中にて気密試料台に装填することにより、不活性雰囲気を保った状態で行った。
(XPS測定)
XPS測定は、光電子分光装置(JPS−9000MX,日本電子株式会社製)を用いて行った。C1sのナロースキャンに於けるピーク分離は、バックグラウンド補正をShirley法で行い、フィッティング関数としてGauss−Lorentz関数を用いたピークフィットにより行った。
(電気伝導率測定)
電気伝導率は乾燥粉末を錠剤成形機にて直径10mm、厚さ約500μmに加工しロレスタ‐GP MCP−T600(三菱化学アナリテック社製)を用いて四端子法で測定を実施した。
調製例1
耐食性反応器に濃硫酸(試薬特級、和光純薬工業製)28.75部と天然黒鉛(Z−5F、鱗片状黒鉛、伊藤黒鉛工業製)1.00部を加えて混合液とした。混合液を撹拌しながら過マンガン酸カリウム(試薬特級、和光純薬工業製)を15分間隔で混合液中へ20回投入した。過マンガン酸カリウムの一回の投入量は0.125部であり、投入量の合計は2.50部であった。過マンガン酸カリウムの投入終了後、混合液を35℃まで昇温し液温を維持したまま2時間熟成を行った。その後60℃以下の液温を維持したままイオン交換水15.48部と30%過酸化水素水(試薬特級、和光純薬工業製)1.77部を投入し反応を停止させた。当該手法により得られた酸化黒鉛含有スラリーを以下から“反応後スラリー”と呼称する。当該反応後スラリーとイオン交換水を50/50(重量比)でよく混合し60℃にて静置することで酸化黒鉛の沈降を促し透明な上澄みを生じさせた。透明な上澄みを除去し、除去した上澄みと同重量のイオン交換水を投入する操作を6回繰り返すデカンテーション法により精製を行った。得られたスラリーを卓上遠心分離機(アズワン社製AS185)により10000rpmにて10分間処理し上澄みを廃棄し酸化黒鉛ウェットケーキを得た。当該ウェットケーキを50℃真空下にて一晩乾燥させることで精製された酸化黒鉛乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末のXRD、XPS測定結果をそれぞれ図1、2に示す。図1から酸化黒鉛特有の10−13°のピークを確認した。図2から286eVに酸素官能基に由来するピークを確認した。またXPS測定から得られる元素%(原子%)は炭素/酸素/硫黄=69.7/29.1/1.2であった。これらのことから酸化黒鉛が得られたことを確認した。
比較例1
調製例1で得られた酸化黒鉛乾燥粉末1.01gをイオン交換水100gに分散させた。XRF測定の結果から求められた分散液中の硫酸濃度は0.019質量%であった。内温を75℃に調整し、よく撹拌しながらL−アスコルビン酸(特級、和光純薬工業社製)を酸化黒鉛に対して300質量%投入し酸化黒鉛の還元反応を実施した。反応時間は1時間とした。得られた還元型酸化黒鉛含有スラリーを濾過水洗を行い、得られたウェットケーキを100℃にて一晩乾燥することで還元型酸化黒鉛乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末のXRD、XPS測定結果をそれぞれ図3、4に示す。図3から酸化黒鉛特有のXRDピークの消失を確認した。図4から酸素官能基に由来するピーク強度が減衰していることを確認したもののXPS測定から得られる元素%は炭素/酸素=79.0/21.0であり依然多くの酸素官能基が残存していることが明らかになった。得られた乾燥粉末の導電率は1560S/mであった。
実施例1
分散液中の硫酸濃度が0.11質量%になるように硫酸(試薬特級、和光純薬工業社製)を添加した以外は比較例1と同様に還元反応を実施した。得られた還元型酸化黒鉛乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末のXRD、XPS測定結果をそれぞれ図5、6に示す。図5から酸化黒鉛特有のXRDピークの消失を確認した。図6から酸素官能基に由来するピーク強度が減衰していることを確認し、XPS測定から得られる元素%は炭素/酸素=82.0/18.0であり硫酸が0.1質量%以上含まれる反応液中で還元反応を実施することでより還元反応が促進されたことが明らかとなった。得られた乾燥粉末の導電率は4195S/mであった。高い還元度から高い導電率を発現可能であることを確認した。
実施例2
調製例1で作成した反応後スラリー50gとイオン交換水200gをよく混合し均一な黒色スラリーを得た。当該黒色スラリーをよく撹拌しながら内温を75℃に調整した。XRF測定の結果から求められた分散液中の硫酸濃度は11.0質量%であった。L−アスコルビン酸を4.5g(酸化黒鉛に対して300質量%)投入し酸化黒鉛の還元反応を実施した。反応時間は1時間とした。得られた還元型酸化黒鉛含有スラリーを濾過水洗を行い、得られたウェットケーキを100℃にて一晩乾燥することで還元型酸化黒鉛乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末のXRD、XPS測定結果をそれぞれ図7、8に示す。図7から酸化黒鉛特有のXRDピークの消失を確認した。図8から酸素官能基に由来するピーク強度が減衰していることを確認し、XPS測定から得られる元素%は炭素/酸素/硫黄=83.6/16.2/0.2であり、より多くの硫酸が含まれる反応液中で還元反応を実施することでより還元反応が促進されたことが明らかとなった。得られた乾燥粉末の導電率は7040S/mであった。高い還元度から高い導電率を発現可能であることを確認した。
実施例3
調製例1で反応後スラリー2553gをよく撹拌し分散液を得た。XRF測定の結果から求められた分散液中の硫酸濃度は59.0質量%であった。L−アスコルビン酸を230g(酸化黒鉛に対して300質量%)投入し酸化黒鉛の還元反応を実施した。反応時内温は30℃に調整した。反応時間は1時間とした。得られた還元型酸化黒鉛含有スラリーを濾過水洗を行い、得られたウェットケーキを100℃にて一晩乾燥することで還元型酸化黒鉛乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末のXRD、XPS測定結果をそれぞれ図9、10に示す。図9から酸化黒鉛特有のXRDピークの消失を確認した。図10から酸素官能基に由来するピーク強度が減衰していることを確認し、XPS測定から得られる元素%は炭素/酸素/硫黄=84.5/15.0/0.5であり、より多くの硫酸が含まれる反応液中で還元反応を実施することでより還元反応が促進されたことが明らかとなった。得られた乾燥粉末の導電率は10780S/mであった。高い還元度から高い導電率を発現可能であることを確認した。

Claims (5)

  1. 酸化黒鉛が還元された還元型酸化黒鉛を製造する方法であって、
    該製造方法は、黒鉛を酸化して酸化黒鉛を得る工程、及び、
    酸化黒鉛を還元する工程を含み、
    該還元工程は、酸成分を0.1質量%以上含む液中で還元剤を用いて酸化黒鉛を還元し、
    該還元剤は、アスコルビン酸、ヒドラジン、尿素、チオ尿素、ヨウ化水素、鉄、水素化ホウ素アルカリ金属塩、水素化アルミニウムアルカリ金属塩、アルミニウム、及び、亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする還元型酸化黒鉛の製造方法。
  2. 前記液は、酸成分を90質量%以下含む
    ことを特徴とする請求項1に記載の還元型酸化黒鉛の製造方法。
  3. 前記酸成分は、硫酸及び/又は硝酸である
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の還元型酸化黒鉛の製造方法。
  4. 前記還元型酸化黒鉛は、電気伝導率が3000S/m以上である
    ことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の還元型酸化黒鉛の製造方法。
  5. 前記還元型酸化黒鉛は、窒素原子の含有量が0.1原子%以下である
    ことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の還元型酸化黒鉛の製造方法。
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