以下、本発明の周波数シンセサイザーを添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の周波数シンセサイザーの第1実施形態を示すブロック図である。図2は、図1に示す周波数シンセサイザーの周波数比較器を示すブロック図である。図3は、図1に示す周波数シンセサイザーのFDSMの構成例を示すブロック図である。図4は、図1に示す周波数シンセサイザーのFDSMの構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、周波数シンセサイザー1は、周波数計測部(周波数変調部)の一例である周波数デルタシグマ変調部(以下、「FDSM(Frequency Delta Sigma Modulator)」と言う)11と、周波数比較器(比較部)13と、ゲインがk0に設定されたゲイン部16と、積分部71と、DA変換器(デジタルアナログ変換器)14と、電圧制御発振器(VCO)15とを有している。FDSM11と、周波数比較器13と、ゲイン部16と、積分部71と、DA変換器14と、電圧制御発振器15とは、出力側に向ってこの順序で接続されている。ゲイン部16のゲインk0の値は、特に限定されず、諸条件に応じて適宜設定される。
また、DA変換器14と電圧制御発振器15とで、クロック信号(第1の信号)を生成する発振部が構成される。このような構成により、この周波数シンセサイザー1では、電圧制御発振器15の発振周波数の調整をデジタル化することができ、DA変換器14の前段までのデジタル信号処理との整合性が良い。
また、積分部71は、本実施形態では、加算器72と、ラッチ73とで構成され、ゲイン部16の後段に配置されており、現在のデータと、現在のデータよりも1つ前のラッチ73にラッチされているデータとを加算器72で加算するように構成されている。
また、図2に示すように、周波数比較器13は、ゲインがkに設定されたゲイン部132と、減算器131とを有している。ゲイン部132のゲインkの値は、特に限定されず、諸条件に応じて適宜設定される。FDSM11から出力された信号(FDSM出力)は、ゲイン部132でk倍にされ、減算器131に入力される。したがって、周波数比較器13では、周波数の目標値と、FDSM11から出力され、ゲイン部132でk倍にされた信号が示す周波数とが比較される。
また、FDSM11は、電圧制御発振器15から出力されたクロック信号(第1の信号)と基準信号(第2の信号)との一方を用いて他方を周波数デルタシグマ変調する回路であり、クロック信号と基準信号とを用い、クロック信号と基準信号との一方の周波数を計測する。本実施形態では、代表的に、基準信号を用いてクロック信号を周波数デルタシグマ変調する場合を例に挙げて説明する。そして、クロック信号を用いて基準信号を周波数デルタシグマ変調する場合については、後述する説明において、基準信号とクロック信号とを入れ替えればよいので、その説明は省略する。
FDSM11としては、例えば、出力信号をビットストリーム形式で出力するFDSM(以下、「ビットストリーム構成のFDSM(ビットストリーム型FDSM)」とも言う)、出力信号をデータストリーム形式で出力するFDSM(以下、「データストリーム構成のFDSM(データストリーム型FDSM)」とも言う)等を用いることができる。
ビットストリーム構成のFDSMを用いる場合は、信号処理回路を簡素化することができる。また、データストリーム構成のFDSMを用いる場合は、周波数比較器13のダイナミックレンジを広げることができるため、周波数変動が大きい場合にも対応することができる。
次に、データストリーム構成のFDSM11と、ビットストリーム構成のFDSM11とを説明するが、まずは、データストリーム構成のFDSM11について説明する。
図3に示すように、データストリーム構成のFDSM11は、クロック信号の立ち上がりエッジをカウントしてカウント値を示すカウントデータDcを出力するアップカウンター21と、基準信号の立ち上がりエッジに同期してカウントデータDcをラッチして第1データD1を出力する第1ラッチ22と、基準信号の立ち上がりエッジに同期して第1データD1をラッチして第2データD2を出力する第2ラッチ23と、第1データD1から第2データD2を減算して出力データOUTを生成する減算器24とを備える。なお、第1ラッチ22および第2ラッチ23は、例えばDフリップフロップ回路等で構成される。
この例のFDSM11は、一次の周波数デルタシグマ変調器とも呼ばれ、出力クロック信号のカウント値を出力基準信号により2回ラッチしており、基準信号の立ち上がりエッジをトリガとしてクロック信号のカウント値を順次保持する。この例では、立ち上がりエッジでラッチ動作を行う場合を想定しているが、立ち下りエッジもしくは立ち上がり立下りエッジの両方でラッチ動作を行ってもよい。また減算器24は保持されている2つのカウント値の差分を演算することで基準信号が1周期推移する間に観測されるクロック信号のカウント値の増分を時間経過と共に不感期間無く出力する。クロック信号の周波数をfx、基準信号の周波数をfcとしたとき、周波数の比はfx/fcとなる。FDSM11は、周波数の比をデジタル信号列として出力するものである。
このデジタル信号列は、データ列・データストリームと呼ばれる。また、後述する1ビットで表されるデジタル信号列は、ビット列・ビットストリームと呼ばれる。
次に、ビットストリーム構成のFDSM11について説明する。
図4に示すように、ビットストリーム構成のFDSM11は、基準信号の立ち上がりエッジに同期してクロック信号をラッチして第1データd1を出力する第1ラッチ22と、基準信号の立ち上がりエッジに同期して第1データd1をラッチして第2データd2を出力する第2ラッチ23と、第1データd1と第2データd2の排他的論理和を演算して出力データOUTを生成する排他的論理和回路25とを備える。なお、第1ラッチ22および第2ラッチ23は、例えばDフリップフロップ回路等で構成される。
このFDSM11が前記データストリーム構成のFDSM11と相違するのは、前記データストリーム構成のFDSM11では、第1ラッチ22によってカウントデータDcを保持し、基準信号が1周期推移する間に観測されるクロック信号の立ち上がりエッジをカウントして得たカウントデータDcの増分を出力データOUTとして出力するのに対し、このFDSM11では、第1ラッチ22によってクロック信号のHighもしくはLowの状態を保持し、基準信号が1周期推移する間の反転回数の偶奇を出力データOUTとして出力する点である(反転回数が偶数であれば0、奇数であれば1を出力する)。
ところで、クロック信号の1周期はHighとLowの反転遷移2回で構成されることから、基準信号に対するクロック信号の変動が、出力データOUTに及ぼす変化の度合いは、前記データストリーム構成のFDSM11においてカウント値を保持する場合に比べ2倍となる。従って、ビットストリーム構成のFDSM11におけるアイドルトーンの振る舞いは、前記データストリーム構成のFDSM11において、2倍の周波数のクロック信号がFDSM11に入力された場合の振る舞いと一致する。ビットストリーム構成のFDSM11の動作については、上記の性質を考慮し、必要に応じてクロック信号Fxの周波数fxを周波数2fxに置き換えて考えればよい。
次に、周波数シンセサイザー1の動作について説明する。
図1に示すように、周波数シンセサイザー1のFDSM11には、基準信号(第2の信号)と、電圧制御発振器15から出力されたクロック信号(第1の信号)とが入力され、FDSM11では前述した所定の処理が行われる。
FDSM11から出力された周波数を示す信号は、周波数比較器13に入力される。周波数比較器13には、周波数の目標値を示す信号が入力されており、周波数比較器13では、前記目標値と、前記FDSM11から出力された信号(厳密には、ゲイン部132でk倍にされた信号)が示す周波数とを比較する。
周波数比較器13の比較結果である目標値とFDSM11から出力された信号が示す周波数との差(周波数の偏差)を示す周波数差信号は、ゲイン部16でk0倍にされ、積分部71で積分され、DA変換器14でデジタル信号からアナログ信号に変換され、電圧制御発振器15の制御電圧信号(制御電圧)として、電圧制御発振器15に入力される。これにより、電圧制御発振器15の発振周波数、すなわち、電圧制御発振器15から出力されるクロック信号の周波数が調整され、目標値に収束する(ロックされる)。
以上説明したように、周波数シンセサイザー1によれば、簡易な構成で、電圧制御発振器15から出力されるクロック信号の周波数をロックすることができる。
また、FDSM11を用いることにより、簡易な構成で、高精度の周波数計測を行うことができ、また、前記ロックに要する時間を低減することができる。
また、逆位相のアイドルトーン(アイドルトーンに起因する量子化雑音)を発生させない構成なので、前記ロック時のクロック信号にゆらぎがある場合でも、定常特性を悪化させることは無い。すなわち、前記ロック時のクロック信号にゆらぎがある場合でもアイドルトーンを抑制することができる。
また、フラクショナル型のPLLでは、フラクショナルスプリアスが発生するが、この周波数シンセサイザー1は、前記フラクショナルスプリアスが発生しない構成であり、これにより、高精度の周波数シンセサイザーを実現することができる。
また、処理される信号は、DA変換器14の手前までは、デジタル信号であるので、ノイズに対して強く、これにより高い精度が得られる。
なお、DA変換器14および電圧制御発振器15を、デジタル信号で発振周波数を制御するデジタル制御発振器(DCO)に変更してもよい。同様に、以下の各実施形態においても、DA変換器および電圧制御発振器の組み合わせと、デジタル制御発振器とのいずれを用いてもよい。
<第2実施形態>
図5は、本発明の周波数シンセサイザーの第2実施形態を示すブロック図である。図6は、図5に示す周波数シンセサイザーの周波数計測部を示すブロック図である。
以下、第2実施形態について、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
図5に示すように、第2実施形態の周波数シンセサイザー1は、周波数計測部5と、ループフィルター(フィルター)12と、周波数比較器13と、ゲイン部16と、積分部71と、発振部の一例であり、デジタル信号で発振周波数を制御するデジタル制御発振器(DCO)17とを有している。周波数計測部5と、ループフィルター12と、周波数比較器13と、ゲイン部16と、積分部71と、デジタル制御発振器17とは、出力側に向ってこの順序で接続されている。
発振部としてデジタル制御発振器17を用いることにより、温度変化等の環境変化に対しても安定した出力を得ることができる。
また、ループフィルター12としては、特に限定されず、例えば、ローパスフィルターやラグ・リードフィルター等を用いることができる。このループフィルター12は、周波数比較器13の前、すなわち、周波数計測部5と周波数比較器13との間に配置されている。
また、周波数計測部5は、位相調整部10と、並列に接続された(並列化された)複数のFDSM(Frequency Delta Sigma Modulator)11と、加算器30とを有している。位相調整部10と、各FDSM11と、加算器30とは、出力側に向ってこの順序で接続されている。FDSM11は、データストリーム構成のFDSMであり、そのFDSM11としては、第1実施形態で述べたものと同様のものを用いることができる。
以下、周波数計測部5について詳細に説明する。
<1−1:全体構成>
図6に第2実施形態における周波数計測部5のブロック図を示す。この図に示すように、周波数計測部5は、クロック信号Fxと基準信号Fcとの少なくとも一方の位相を調整して、n(nは2以上の自然数)組の出力クロック信号Fx1〜Fxn及び出力基準信号Fc1〜Fcnを出力する位相調整部10と、並列に接続されたn個のFDSM(1)〜FDSM(n)と、加算器30とを備える。
j(jは1以上n以下の任意の自然数)番目のFDSM(j)は、出力基準信号Fcjを用いて出力クロック信号Fxjを周波数デルタシグマ変調して出力データOUTjを生成する。加算器30は出力データOUT1〜OUTnを加算して、周波数デルタシグマ変調信号Yを生成する。
FDSM(j)は、出力クロック信号Fxjの立ち上がりエッジをカウントしてカウント値を示すカウントデータDcを出力するアップカウンター21と、出力基準信号Fcjの立ち上がりエッジに同期してカウントデータDcをラッチして第1データD1を出力する第1ラッチ22と、第1データD1を出力基準信号Fcjの立ち上がりエッジに同期して第1データD1をラッチして第2データD2を出力する第2ラッチ23と、第1データD1から第2データD2を減算して出力データOUTjを生成する減算器24とを備える。第1ラッチ22および第2ラッチ23は、例えばDフリップフロップ回路等で構成される。なお、FDSM(1)〜FDSM(j−1)とFDSM(j+1)〜FDSM(n)とは、FDSM(j)と同様に構成されている。
この例のFDSM(j)は、一次の周波数デルタシグマ変調器とも呼ばれ、出力クロック信号Fxjのカウント値を出力基準信号Fcjにより2回ラッチしており、出力基準信号Fcjの立ち上がりエッジをトリガとして出力クロック信号Fxjのカウント値を順次保持する。この例では、立ち上がりエッジでラッチ動作を行う場合を想定しているが、立ち下りエッジでラッチ動作を行ってもよい。また減算器24は保持されている2つのカウント値の差分を演算することで出力基準信号Fcjが1周期推移する間に観測される出力クロック信号Fxjのカウント値の増分を時間経過と共に不感期間無く出力する。クロック信号Fxの周波数をfx、基準信号Fcの周波数をfcとしたとき、周波数の比はfx/fcとなる。FDSM(j)は、周波数の比をデジタル信号列として出力するものである。FDSM(j)から出力される出力データOUTjは量子化誤差を含んでいる。
<1−2:周波数デルタシグマ変調とアイドルトーンとの関係>
次に周波数デルタシグマ変調とアイドルトーンとの関係について説明する。クロック信号Fxとして1周期21μSの信号(47.619047kHz)を考える。また基準信号Fcとして1周期66μSの信号(15.15kHz)を考える。これは、クロック信号Fxの周波数fxが基準信号Fcの周波数fcより高い場合に該当する。fxとfcの比は、次式で与えられる。
fx:fc=1/21e−6:1/66e−6=22:7
この場合、クロック信号Fxの22周期と基準信号Fcの7周期の時間が等しい。つまり、21μS×22=66μS×7=462μSごとに同じデータ列が繰り返される。
このときのFDSM(j)の動作について考えてみると出力基準信号Fcjが1周期進む間に出力クロック信号Fxjは22/7周期=3+1/7周期だけ進むことになり、カウント値は3又は4だけ増加する。従って減算器24からは3又は4が時間経過と共に出力される。これらの関係を出力基準信号Fcjと出力クロック信号Fxjとの立ち上がりエッジが一致する場合を起点として表すと図7になる。図7は出力基準信号Fcjと出力クロック信号Fxjの立ち上がりエッジが一致した瞬間から、462μS後に再び立ち上がりエッジが一致することも表している。一般に、出力基準信号Fcjと出力クロック信号Fxjとの立ち上がりエッジが一致しない場合を起点とした場合でも、その位相のずれに対応したパルス列が462μS周期で繰り返されることに変わりは無いが、ここでは簡単のために出力基準信号Fcjと出力クロック信号Fxjの立ち上がりエッジが一致する瞬間を起点とする場合を示している。
実際のFDSM(j)の出力データOUTjのデータ列には図8の様に「3433333」の繰り返しパターンが462μS周期で出現することになる。尚、図6のFDSM(j)は動作開始時の第1ラッチ22及び第2ラッチ23の出力が不定のため、図8は最初の462μSの周期が一巡した次の二巡目の繰り返しパターンを示している。この462μS周期の繰り返しパターンは図9に示す出力クロック信号Fxjの周期の進みを考えると理解しやすい。この例の場合、出力基準信号Fcjが最初の1周期進む間に出力クロック信号Fxjは3+1/7周期だけ進むが、出力クロック信号Fxjの4周期目に注目すると出力クロック信号Fxjの3周期目の終わりを基準として1/7周期だけ進んでいることを意味している。このような非整数が出るのは出力クロック信号Fxjと出力基準信号Fcjとの周波数比もしくは周期比の値が整数関係にないためで、出力クロック信号Fxjの3周期目の終わりから1/7周期だけ進んだ点が出力基準信号Fcjの2周期目での出力クロック信号Fxjの位相の起点となる。そして、出力基準信号Fcjの2周期目の終わりには出力クロック信号Fxjは最初から数えて6+2/7周期だけ進んでいることになる。このように考えると、出力基準信号Fcjが7周期進むごとに遷移回数の非整数分が0(出力クロック信号Fxjと出力基準信号Fcjの立ち上がりエッジが一致しない場合を起点とした場合には、その位相のずれに対応する非整数)に戻ることを意味している。出力クロック信号Fxjのレベルとは関係なく、このような周期性のある繰り返しパターンが持つ周波数成分に起因する雑音がアイドルトーンである。
アイドルトーンは出力基準信号Fcjと出力クロック信号Fxjとの位相関係に基づく量子化誤差によりFDSM(j)内部で発生するものである。もしアイドルトーンの発生が無かった場合、FDSM(j)の出力データOUTjの変化は出力基準信号Fcjに対する出力クロック信号Fxjのゆらぎや変動を表すことになるので、出力基準信号Fcjに対して出力クロック信号Fxjにゆらぎも変動もない場合の出力データOUTjは、アイドルトーンの影響を無視した場合、直流とみなすことができる。逆に言えば、出力データOUTj変化には出力基準信号Fcjに対する出力クロック信号Fxjの変動にアイドルトーンの影響が重畳されて出現する。アイドルトーンはFDSM(j)の出力データOUTjにフィルター処理を施すことにより排除や軽減が可能である。
しかしながら、フィルターの性能は有限であり、出力クロック信号Fxjの周波数fxや変動が未知である場合は、フィルターの仕様を確定できないという問題もある。更に、フィルターの阻止域にある出力基準信号Fcjに対する出力クロック信号Fxjのゆらぎや変動成分の検出も阻止してしまう。よって、FDSMを用いた高精度測定においては、アイドルトーン自体の抑圧が重要な課題となる。
次に、FDSMを並列接続した場合のアイドルトーンについて検討する。図10は、4個のFDSM(1)〜FDSM(4)を単純に並列化し、出力データOUT1〜OUT4を加算した例である。この装置は、図6に示す周波数計測部5から位相調整部10を削除して、4個のFDSM(1)〜FDSM(4)にクロック信号Fxと基準信号Fcとを直接供給する。
ここで、クロック信号Fxが図7に示す出力クロック信号Fxjであり、基準信号Fcが図7に示す出力基準信号Fcjと同じである場合、図10に示す装置のタイミングチャートは図11に示すものとなる。図11と図8とを比較すると、4個のFDSM(1)〜FDSM(4)を並列化しても、図8に示す1個のFDSM(j)の「3433333」の繰り返しパターンが「12 16 12 12 12 12 12」に変わっただけであることが判る。すなわち、周波数デルタシグマ変調信号Yの強度は4倍になるが量子化誤差も4倍になるため、「3433333」と「12 16 12 12 12 12 12」のSN比(信号雑音比)は同じと言える。つまり、FDSMを単純に並列接続しただけでは出現するアイドルトーンの影響は変わらないことを意味している。その理由は図11から明らかなように、FDSM(1)〜FDSM(4)出力間でアイドルトーンの位相関係が一致しているためである。従って4並列だけでなく5、6、7…n並列としても変わらない。
このようなアイドルトーンの位相はFDSMに入力される2つの信号の位相関係によって決まることは明らかである。また、n並列FDSM出力間でアイドルトーンの位相関係を分散させるためには、n並列を構成する各シングルFDSM出力に現れる繰り返しパターンの相対位置をずらせば良く、そのためには各FDSMへ入力する出力クロック信号と出力基準信号との並列入力間での相対位相関係を分散させる必要がある。
<1−3:位相調整部>
本実施形態では、位相調整部10は、出力データOUT1〜OUTnのアイドルトーンの位相が全て異なるように、クロック信号Fxと基準信号Fcとの位相を相対的に調整して、n組の出力クロック信号及び出力基準信号(Fx1,Fc1)、(Fx2,Fc2)、…(Fxn,Fcn)を生成する。
ここで、位相調整部10は、図12Aに示すように、クロック信号Fxを遅延回路DLx1〜DLxn−1によって順次遅延して出力クロック信号Fx1〜Fxnを生成し、基準信号Fcを遅延回路DLc1〜DLcn−1によって順次遅延して出力基準信号Fc1〜Fcnを生成する。あるいは、図12Bに示すように、位相調整部10において、クロック信号Fxを遅延回路DLx1〜DLxn−1によって順次遅延して出力クロック信号Fx1〜Fxnを生成し、基準信号Fcについては遅延せずに出力基準信号Fc1〜Fcnとしてもよい。また、図12Cに示すように、位相調整部10において、クロック信号Fxについては遅延せずに出力クロック信号Fx1〜Fxnを生成し、基準信号Fcを遅延回路DLc1〜DLcn−1によって順次遅延して出力基準信号Fc1〜Fcnを生成してもよい。さらに、図12Dに示すように、位相調整部10において、クロック信号Fx及び基準信号Fcにそれぞれに施す遅延量の増加順が異なるよう配線し入力することで最大の位相差を設けるように位相調整部10を構成してもよい。各遅延回路としては、特に限定されないが、例えば、インバーター等を用いることができる。
<1−4:遅延量の決定及び信号への遅延の施し方>
次に、遅延量の決定及び信号への遅延の施し方について説明する。上述したように、出力クロック信号Fxjと出力基準信号FcjとをそれぞれFDSM(j)に入力した際の出力データOUTjはクロック信号Fxの周波数fxと基準信号Fcの周波数fcの比により決まる周期的なデータ列となる。クロック信号Fxに遅延を施した出力クロック信号Fxjと基準信号FcとをFDSM(j)に入力すると、クロック信号Fxに遅延を施さずに入力した場合に比べ、データ列の周期とデータ列に現れる繰り返しパターンは変わらないが、繰り返しパターンの開始位置がずれる。遅延を施す前後での出力の繰り返しパターンの開始位置を比べると、クロック信号Fxに施す遅延量が増えるに従って繰り返しパターンの開始位置がステップ状に変化する。また、クロック信号Fxに施す遅延量がクロック信号FxのKa周期(Kaは自然数)と等しくなるとき、出力クロック信号Fxjと基準信号Fcとの相対位相関係は遅延を施す前(クロック信号Fxと基準信号Fcとの相対位相関係)と等しくなる(条件A)。
同様に、クロック信号Fxに遅延を施すことなくFDSM(j)に入力し、基準信号Fcに遅延を施した出力基準信号FcjをFDSM(j)に入力する場合でも、基準信号Fcに遅延を施さずに入力した場合に比べ、出力データOUTjの繰り返しパターンとその周期は変わらないが、繰り返しパターンの開始位置がずれる。遅延を施す前後での出力の繰り返しパターンの開始位置を比べると、基準信号Fcに施す遅延量が増えるに従って繰り返しパターンの開始位置がステップ状に変化する。基準信号Fcに施す遅延量が基準信号FcのKb周期(Kbは自然数)と等しくなるとき、クロック信号Fxと出力基準信号Fcjとの相対位相関係は遅延を施す前(クロック信号Fxと基準信号Fcとの相対位相関係)と等しくなる(条件B)。
ここで、条件Aと条件Bのいずれかを満たす遅延量のうち、最小の遅延量τは、クロック信号Fxの1周期と基準信号Fcの1周期のうち短い方の周期に等しく、クロック信号Fx又は基準信号Fcに施す遅延量をτだけ増加させたときの相対位相関係は遅延を施す前の状態と等しくなる。条件Aと条件Bのいずれかを満たす遅延量になると、出力データOUTjの繰り返しパターンの開始位置が遅延を施さない場合と一致する。アイドルトーンを分散させるためには、繰り返しパターンの開始位置をずらす必要がある。
そこで、クロック信号Fxと基準信号Fcの周波数のうち高い周波数を持つ方の信号に対し、その信号の1周期に等しい遅延量τをn分割するように遅延を施して並列化することで、クロック信号Fxと基準信号Fcとの並列間での相対位相関係を分散させることができ、それにより繰り返しパターンの開始位置がずれることで、n並列のFDSM(1)〜FDSM(n)の出力データOUT1〜OUTn間でのアイドルトーンの位相関係は分散する。
次に、クロック信号Fxと基準信号Fcとの相対位相関係と、相対位相関係が等しくなる遅延量をTとしたとき、Tをn分割するようにクロック信号Fxに遅延を施し並列化しても、クロック信号Fxには遅延を施さずTをn分割するように基準信号Fcに遅延を施し並列化しても、n並列のFDSM(1)〜FDSM(n)の出力データOUT1〜OUTn間でのアイドルトーンの位相関係を分散させるという効果は同じであることを説明する。
基準信号Fcをδだけ遅延を施した信号をFDSM(j)に入力した場合と、基準信号Fcを遅延させずにクロック信号Fxをδだけ先行させた信号をFDSM(j)に入力する構成とした場合を比べても、出力クロック信号Fxjと出力基準信号Fcjとの相対位相関係は変わらない。このことから、基準信号Fcをδだけ遅延を施した出力基準信号FcjをFDSM(j)に入力する代わりに、基準信号Fcに遅延を施さずにクロック信号Fxをδだけ先行させた出力クロック信号FxjをFDSM(j)に入力すると考えても、出力データOUTjのデータ列を議論する上では差し支えない。
一方で、出力クロック信号Fxjと出力基準信号Fcjとの相対位相関係が等しくなる先行量は遅延量Tに等しいので、遅延量もしくは先行量を変数とすると、出力クロック信号Fxjと出力基準信号Fcjとの相対位相関係は周期Tを持つ、と言える。
ここで、先行量Tをn分割するように先行させた出力クロック信号Fx1〜FxnをFDSM(1)〜FDSM(n)に入力して並列化しても、遅延量Tをn分割するように遅延を施した出力クロック信号Fx1〜FxnをFDSM(1)〜FDSM(n)に入力して並列化しても、相対位相関係が等しくなる周期T内で出力クロック信号と出力基準信号の相対位相関係を分散させていることに変わりはない。
このことから、「Tをn分割するように基準信号Fcに遅延を施す」→「Tをn分割するようにクロック信号Fxを先行させる」→「Tをn分割するようにクロック信号Fxに遅延を施す」のどれを考えても相対位相関係を分散させていることに変わりないことが解る。このことはクロック信号Fxと基準信号Fcを置き換えても成立する。
以上より、Tをn分割するようにクロック信号Fxに遅延を施し並列化しても、クロック信号Fxには遅延を施さずTをn分割するように基準信号Fcに遅延を施し並列化しても、n並列のFDSM(1)〜FDSM(n)の出力データOUT1〜OUTn間でのアイドルトーンの位相関係を分散させるという効果は同じであると言える。
ここで、出力クロック信号Fxjと出力基準信号Fcjとの相対位相関係が等しくなる遅延量Tとして、クロック信号FxのKa周期(Kaは自然数)、又は基準信号FcのKb周期(Kbは自然数)のいずれかと等しくなるように選ぶことができるが、大きな遅延量(Kaが2以上又はKbが2以上)を設定する際はアイドルトーンの位相関係の分散に偏りが生じる場合があるので注意が必要となる。なお、アイドルトーンの位相関係の分散に偏りが生じない一般的な条件については後述する。
Tより小さい周期性を考慮しなくともよいよう、出力クロック信号Fxjと出力基準信号Fcjとの相対位相関係が等しくなる遅延量のうち最小のものをTに選べば都合がよい。すなわち、クロック信号Fxの周波数fxと基準信号Fcの周波数fcのうち周波数が高い方の1周期と等しくなるよう遅延量Tを決め、これをn分割するように遅延を施し並列化すればよい。図14の例のように周波数fxが周波数fcより高い場合、その遅延量はクロック信号Fxの1周期をn分割するように設定し、クロック信号Fx又は基準信号Fcに遅延を施して並列化することで、出力データOUT1〜OUTn間でのアイドルトーンの相対位相関係は分散し、出力データOUT1〜OUTnの合算値においては相殺効果を利用することができる。遅延信号同士の位相差は最小の位相差として最大値を確保できる均等遅延が好適であり、このときに最大の分散効果を得る。
<1−4−1:クロック信号Fxの周波数fxが基準信号Fcの周波数fcより高い場合>
図7に示す出力クロック信号Fxjと出力基準信号Fcjにおいて、これらの相対位相関係が等しくなる最小の遅延量は「fx>fc」よりクロック信号Fxの1周期に等しい21μSである。n=4とした場合、周波数計測部5は図13のように構成することができる。ここで、遅延回路DLx1〜DLx3の遅延量は21/4μSとなる。図13に示す周波数計測部5のタイミングチャートを図14に示す。同図に示すように出力データOUT1〜OUT4のパターンは分散されるので、周波数デルタシグマ変調信号Yは、アイドルトーンが分散されたものとなる。
<1−4−2:基準信号Fcの周波数fcがクロック信号Fxの周波数fxより高い場合>
次に、基準信号Fcの周波数fcがクロック信号Fxの周波数fxより高い場合について説明する。n=4とした場合、周波数計測部5は図15のように構成することができる。
FDSM(j)(jはn以下の自然数)の動作は、図7の例に対して周波数関係を入れ替え、クロック信号Fxとして1周期66μSの信号(15.15kHz)を、基準信号Fcとして1周期21μSの信号(47.619047kHz)を考える。クロック信号Fxと基準信号Fcとの周波数の比[fx:fc]は、次式で与えられる。
fx:fc=1/66e−6:1/21e−6=7:22
となることから、クロック信号Fxの7周期と基準信号Fcの22周期の時間が等しく、66μS×7=21μS×22=462μSごとに同じデータ列が繰り返されることがわかる。FDSM(j)の動作としては、図16に示すように、出力基準信号Fcjと出力クロック信号Fxjの立ち上がりエッジが一致した瞬間を起点とすると、出力基準信号Fcjが1周期進む間に出力クロック信号Fxjは7/22周期だけ進むことになり、カウントデータDcは0又は1だけ増加する。
この場合、FDSM(j)の出力データOUTjには、図17に示すように、462μS周期のデータ列「0100100100100100100100」が出現する。尚、図17のFDSM(j)も動作開始時の第1ラッチ22及び第2ラッチ23の出力が不定のため、最初の462μSのデータ列が一巡した次の二巡目のデータ列を示している。
クロック信号Fxより周波数の高い基準信号Fcの1周期は21μSであるので、図15に示す遅延回路DLc1〜DLc3の遅延量は21/4μSとなる。図15に示す周波数計測部5のタイミングチャートを図18に示す。同図に示すように出力データOUT1〜OUT4のパターンは分散されるので、周波数デルタシグマ変調信号Yは、アイドルトーンが分散されたものとなる。これに対して、図15に示す周波数計測部5から位相調整部10を削除した図10に示す装置のタイミングチャートは図19に示すものとなる。この場合は、アイドルトーンが分散されずSN比を改善することは困難である。但し、周波数計測部5としてFDSMを単独で用いた場合に比べれば、信号のゆらぎ等の影響を受けることでアイドルトーンが低減され、SN比が改善される。
第2実施形態の周波数計測部5は、FDSM(1)〜FDSM(n)は、データストリーム形式の出力データOUT1〜OUTnを生成する。また、上述したように位相調整部10は、クロック信号Fxの1周期と基準信号Fcの1周期とのうち短い周期をTxとすると、クロック信号Fxと基準信号Fcとのうち一方を、Tx/nだけ順次遅延して出力クロック信号Fx1〜Fxnと出力基準信号Fc1〜Fcnとを生成する。
ここで、アイドルトーンの周期は、クロック信号Fxの1周期と基準信号Fcの1周期とに応じて定まるが、Txを下回ることはない。一方、出力データOUT1〜OUTnの各々に重畳するアイドルトーンの位相は、FDSM(1)〜FDSM(n)に供給されるn組の出力クロック信号及び出力基準信号(Fx1,Fc1)、(Fx2,Fc2)、…(Fxn,Fcn)の位相によって定まる。上述したようにクロック信号Fxと基準信号Fcとのうちの一方を、Tx/nだけ順次遅延すれば、出力データOUT1〜OUTnの各々に重畳するアイドルトーンの位相をTx/nずつずらすことができ、出力データOUT1〜OUTnの各々に重畳するアイドルトーンの位相を分散させることができる。
また、図12A〜図12Dを参照して説明したように、遅延の施し方には各種の態様がある。アイドルトーンの位相はFDSMに供給される出力クロック信号及び出力基準信号の位相によって定まるので、出力データOUT1〜OUTnに重畳するアイドルトーンの位相をTx/nずつずらすようにクロック信号Fxと基準信号Fcとの位相を相対的に調整して、n組の出力クロック信号及び出力基準信号(Fx1,Fc1)、(Fx2,Fc2)、…(Fxn,Fcn)を生成すればよい。
具体的には、i(iはn−1以下の任意の自然数)番目のFDSM(i)に供給する出力クロック信号Fxiと出力基準信号Fciとの位相差をPiとしたとき、位相調整部10は、Tx/n=Pi+1−Piとなるように、クロック信号Fxと基準信号Fcとの位相を相対的に調整して、n組の出力クロック信号及び出力基準信号(Fx1,Fc1)、(Fx2,Fc2)、…(Fxn,Fcn)を生成すればよい。
また、第2実施形態の周波数計測部5では、クロック信号Fxと基準信号Fcとを入れ替えても、カウントする信号とカウントされる信号が逆転するだけで、n並列のFDSM(1)〜FDSM(n)それぞれに対応するアイドルトーンの位相を分散させるという効果は損なわれないため、構成を変更する必要は無い(例えば、周波数計測装置における通常のカウント構成をレシプロカル構成で使うとき等)。
次に、周波数シンセサイザー1の動作について説明する。
図5に示すように、周波数シンセサイザー1の周波数計測部5には、基準信号と、デジタル制御発振器17から出力されたクロック信号とが入力され、周波数計測部5では前述した所定の処理が行われる。
周波数計測部5から出力された周波数を示す信号は、ループフィルター12で所定の処理が行われ、周波数比較器13に入力される。例えば、ループフィルター12として、ローパスフィルターを用いた場合は、ループフィルター12で、所定の遮断周波数以上の周波数成分が遮断または低減される。また、周波数比較器13には、周波数の目標値を示す信号が入力されており、周波数比較器13では、前記目標値と、前記ループフィルター12から出力された信号が示す周波数とを比較する。
周波数比較器13の比較結果である目標値とループフィルター12から出力された信号が示す周波数との差を示す周波数差信号は、ゲイン部16でk0倍にされ、積分部71で積分され、デジタル制御発振器17のデジタル制御信号として、デジタル制御発振器17に入力される。これにより、デジタル制御発振器17の発振周波数、すなわち、デジタル制御発振器17から出力されるクロック信号の周波数が調整され、目標値に収束する。
以上のような第2実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
また、この周波数シンセサイザー1では、アイドルトーンをさらに低減させることができる。
すなわち、クロック信号と基準信号とのいずれの位相もずらさない場合でも、信号のゆらぎ等の影響で、例えば、アイドルトーンを1/n1/2程度に低減することが可能である。
また、クロック信号と基準信号との少なくとも一方の位相をずらす場合は、例えば、アイドルトーンを1/n程度に低減することが可能である。
また、ループフィルター12により、デジタル制御発振器17の位相雑音を増加させる周波数成分を効果的に減衰させることができる。
また、ループフィルター12は、周波数比較器13の前、すなわち、周波数計測部5と周波数比較器13との間に配置されているので、調整分解能を高めることができる。
また、処理される信号は、すべてデジタル信号であるので、ノイズに対して強く、これにより高い精度が得られる。
なお、ループフィルター12の位置は、前記の位置に限らず、他の位置、例えば、周波数比較器13とゲイン部16との間、ゲイン部16とデジタル制御発振器17との間等、周波数比較器13の後であってもよい。
また、ループフィルター12の他に、さらに、別のループフィルターを他の位置、例えば、周波数比較器13とゲイン部16との間、ゲイン部16とデジタル制御発振器17との間等に設けてもよい。
<第3実施形態>
図20は、本発明の周波数シンセサイザーの第3実施形態における周波数計測部を示すブロック図である。
以下、第3実施形態について、前述した第2実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
図20に示すように、第3実施形態の周波数シンセサイザー1では、周波数計測部5の各FDSM11は、ビットストリーム構成のFDSMであり、そのFDSM11としては、第1実施形態で述べたものと同様のものを用いることができる。
以下、周波数計測部5について詳細に説明する。
<2−1:全体構成>
図20に第3実施形態における周波数計測部5のブロック図を示す。周波数計測部5は、FDSM(1)〜FDSM(j)の詳細な構成を除いて、図6に示す第2実施形態における周波数計測部5と同様に構成されている。
FDSM(j)は、出力基準信号Fcjの立ち上がりエッジに同期して出力クロック信号Fxjをラッチして第1データd1を出力する第1ラッチ22と、出力基準信号Fcjの立ち上がりエッジに同期して第1データd1をラッチして第2データd2を出力する第2ラッチ23と、第1データd1と第2データd2の排他的論理和を演算して出力データOUTjを生成する排他的論理和回路25とを備える。第1ラッチ22および第2ラッチ23は、例えばDフリップフロップ回路で構成される。なお、FDSM(1)〜FDSM(j−1)とFDSM(j+1)〜FDSM(n)とは、FDSM(j)と同様に構成されている。
第3実施形態のFDSM(j)が図6に示す第2実施形態のFDSM(j)と相違するのは、第2実施形態では、第1ラッチ22によってカウントデータDcを保持し、出力基準信号Fcjが1周期推移する間に観測される出力クロック信号Fxjの立ち上がりエッジをカウントして得たカウントデータDcの増分を出力データOUTjとして出力するのに対し、第3実施形態では、第1ラッチ22によって出力クロック信号FxjのHighもしくはLowの状態を保持し、出力基準信号Fcjが1周期推移する間の反転回数の偶奇を出力データOUTjとして出力する点である(反転回数が偶数であれば0、奇数であれば1を出力する)。
ところで、出力クロック信号Fxjの1周期はHighとLowの反転遷移2回で構成されることから、出力基準信号Fcjに対する出力クロック信号Fxjの変動が、出力データOUTjに及ぼす変化の度合いは、図6のカウント値を保持する場合に比べ2倍となる。従って、ビットストリーム構成のFDSM(j)におけるアイドルトーンの振る舞いは、図6のFDSM(j)において、2倍の周波数の出力クロック信号FxjがFDSM(j)に入力された場合の振る舞いと一致する。第3実施形態におけるFDSM(j)の動作については、上記の性質を考慮し、必要に応じてクロック信号Fxの周波数fxを周波数2fxに置き換えて考えればよい。
<2−2:周波数2fxが周波数fcより高い場合>
次に、周波数2fx(クロック信号Fxに対応)が基準信号Fcの周波数fcより高い場合を説明する。クロック信号Fxとして1周期21μSの信号(47.619047kHz)を考える。また基準信号Fcとして1周期66μSの信号(15.15kHz)を考える。クロック信号Fxの1周期はHighとLowの反転遷移2回で構成されるので、以下では周波数fxの2倍の値を扱う。これは、クロック信号Fxの2倍の周波数2fxが基準信号Fcの周波数fcより高い場合に該当し、周波数の比2fx:fcは、次式で与えられる。
2fx:fc=2/21e−6:1/66e−6=44:7
この場合、クロック信号Fxが44回反転遷移する時間と基準信号Fcの7周期の時間が等しい。つまり、21/2μS×44=66μS×7=462μSごとに同じデータ列が繰り返される。
このときのFDSM(j)の動作について考えてみると出力基準信号Fcjが1周期進む間に出力クロック信号Fxjは44/7=6+2/7回だけ反転遷移することになる。これらの関係を出力基準信号Fcjと出力クロック信号Fxjの立ち上がりエッジが一致する場合を起点として表すと図21になる。
実際のFDSM(j)の出力データOUTjのデータ列には図22に示すように「0100100」のビット列が462μS周期で出現することになる。尚、図20のFDSM(j)は動作開始時の第1ラッチ22及び第2ラッチ23の出力が不定のため、図22は最初の462μSの周期が一巡した次の二巡目の繰り返しパターンを示している。
「2fx>fc」であり、ビットストリーム対応のFDSM(j)の振る舞いは、図6に示すデータストリーム対応のFDSM(j)においてクロック信号Fxの2倍の周波数の信号がFDSM(j)に入力された場合の振る舞いと一致することから、クロック信号Fxの半周期を基準としてこれを分割するように遅延を施せばよい。
n=4とした場合、図13に示す構成を適用すればよい。ここで、遅延回路DLx1〜DLx3の遅延時間は、クロック信号Fxの半周期を4等分した時間(21/8μS)とすればよい。この場合、タイミングチャートは図23に示すものとなり、出力データOUT1〜OUT4の繰り返しパターンの開始位置がずれるため、アイドルトーンが分散される。
仮に、クロック信号Fxに遅延を施さず、図10に示すように、単に4個のFDSM(1)〜FDSM(4)を並列化したとすると、そのタイミングチャートは図24に示すものとなる。この場合は、出力データOUT1〜OUT4の繰り返しパターンの開始位置が一致するため、周波数デルタシグマ変調信号YのSN比を改善することは困難である。但し、周波数計測部5としてFDSMを単独で用いた場合に比べれば、信号のゆらぎ等の影響を受けることでアイドルトーンが低減され、SN比が改善される。
<2−3:周波数fcが周波数2fxより高い場合>
次に、基準信号Fcの周波数fcがクロック信号Fxの2倍の周波数2fxより高い場合について説明する。
FDSM(j)(jはn以下の自然数)の動作は、図21の例に対して周波数関係を入れ替え、クロック信号Fxとして1周期66μSの信号(15.15kHz)を、基準信号Fcとして1周期21μSの信号(47.619047kHz)を考える。クロック信号Fxの1周期はHighとLowの反転遷移2回で構成されるので、以下では周波数fxの2倍の値を扱う。これは、基準信号Fcの周波数fcがクロック信号Fxの2倍の周波数2fxより高い場合に該当し、周波数の比2fx:fcは、次式で与えられる。
2fx:fc=2/66e−6:1/21e−6=7:11
このことから、クロック信号Fxの7周期と基準信号Fcの11周期の時間が等しく、66/2μS×7=21μS×11=231μSごとに同じデータ列が繰り返されることになる。FDSM(j)の動作としては、図25に示すように、出力基準信号Fcjと出力クロック信号Fxjの立ち上がりエッジが一致した瞬間を起点とすると、出力基準信号Fcjが1周期進む間に出力クロック信号Fxjは7/22周期だけ進むことになり、7/22×2=7/11回だけ反転遷移することになる。
この場合、FDSM(j)の出力データOUTjには、図26に示すように、231μS周期のビット列「01101101101」が出現する。尚、図20のFDSM(j)は動作開始時の第1ラッチ22及び第2ラッチ23の出力が不定のため、図26は、最初のビット列が一巡した次の二巡目のビット列を示している。
n=4とした場合、図15に示す構成を適用すればよい。ここで、遅延回路DLc1〜DLc3の遅延時間は、基準信号Fcの1周期を4等分した時間(21/4μS)とすればよい。この場合、タイミングチャートは図27に示すものとなり、出力データOUT1〜OUT4の繰り返しパターンの開始位置がずれるため、アイドルトーンが分散される。
仮に、クロック信号Fxに遅延を施さず、図10に示すように、単に4個のFDSM(1)〜FDSM(4)を並列化したとすると、そのタイミングチャートは図28に示すものとなる。この場合は、出力データOUT1〜OUT4の繰り返しパターンの開始位置が一致するため、周波数デルタシグマ変調信号YのSN比を改善することは困難である。但し、周波数計測部5としてFDSMを単独で用いた場合に比べれば、信号のゆらぎ等の影響を受けることでアイドルトーンが低減され、SN比が改善される。
第3実施形態の周波数計測部5において、FDSM(1)〜FDSM(n)は、ビットストリーム形式の出力データOUT1〜OUTnを生成する。また、上述したように位相調整部10は、クロック信号Fxの半周期と基準信号Fcの1周期とのうち短い周期をTxとすると、クロック信号Fxと基準信号Fcとのうち一方を、Tx/nだけ順次遅延して出力クロック信号Fx1〜Fxnと出力基準信号Fc1〜Fcnを生成する。
第3実施形態の周波数計測部5も、第2実施形態の周波数計測部5と同様に、位相調整部10は、出力データOUT1〜OUTnに重畳するアイドルトーンの位相をTx/nずつずらすようにクロック信号Fxと基準信号Fcとの位相を相対的に調整して、n組の出力クロック信号及び出力基準信号(Fx1,Fc1)、(Fx2,Fc2)、…(Fxn,Fcn)を生成すればよい。
具体的には、i(iはn−1以下の任意の自然数)番目のFDSM(i)に供給する出力クロック信号Fxiと出力基準信号Fciとの位相差をPiとしたとき、位相調整部10は、Tx/n=Pi+1−Piとなるように、クロック信号Fxと基準信号Fcとの位相を相対的に調整して、n組の出力クロック信号及び出力基準信号(Fx1,Fc1)、(Fx2,Fc2)、…(Fxn,Fcn)を生成すればよい。
以上のような第3実施形態によっても、前述した第2実施形態と同様の効果を発揮することができる。
<第4実施形態>
図29は、本発明の周波数シンセサイザーの第4実施形態を示すブロック図である。
以下、第4実施形態について、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
図29に示すように、第4実施形態の周波数シンセサイザー1は、周波数計測部5と、周波数比較器13と、ループフィルター(フィルター)12と、ゲイン部16と、積分部71と、発振部の一例であり、デジタル信号で発振周波数を制御するデジタル制御発振器(DCO)17とを有している。周波数計測部5と、周波数比較器13と、ループフィルター12と、ゲイン部16と、デジタル制御発振器17とは、出力側に向ってこの順序で接続されている。ループフィルター12としては、特に限定されず、例えば、ローパスフィルターやラグ・リードフィルター等を用いることができる。このループフィルター12は、周波数比較器13の後、すなわち、周波数比較器13とデジタル制御発振器17との間に配置されている。
周波数計測部5としては、例えば、第1実施形態で述べたビットストリーム構成のFDSM、第1実施形態で述べたデータストリーム構成のFDSM、第2実施形態で述べた周波数計測部5、第3実施形態で述べた周波数計測部5等と同様のものを用いることができる。
以上のような第4実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
また、ループフィルター12は、周波数比較器13の後、すなわち、周波数比較器13とデジタル制御発振器17との間に配置されているので、周波数比較器13で生じる量子化ノイズ成分等のデジタル制御発振器17の位相雑音を増加させる周波数成分を効果的に減衰させることができる。
<第5実施形態>
図30は、本発明の周波数シンセサイザーの第5実施形態を示すブロック図である。
以下、第5実施形態について、前述した第2実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
図30に示すように、第5実施形態の周波数シンセサイザー1は、周波数計測部5と、ループフィルター12と、周波数比較器13と、積分部31と、ゲイン部16と、積分部71と、デジタル制御発振器17とを有している。周波数計測部5と、ループフィルター12と、周波数比較器13と、積分部31と、ゲイン部16と、積分部71と、デジタル制御発振器17とは、出力側に向ってこの順序で接続されている。
周波数計測部5としては、例えば、第1実施形態で述べたビットストリーム構成のFDSM、第1実施形態で述べたデータストリーム構成のFDSM、第2実施形態で述べた周波数計測部5、第3実施形態で述べた周波数計測部5等と同様のものを用いることができる。
また、積分部31は、入力される周波数を積分して位相に変換する機能を有している。この積分部31は、本実施形態では、加算器32と、ラッチ33とで構成され、周波数比較器13と、ゲイン部16(デジタル制御発振器17)との間に配置されており、現在のデータと、現在のデータよりも1つ前のラッチ33にラッチされているデータとを加算器32で加算するように構成されている。
この積分部31を設けることにより、周波数シンセサイザーは、PLLの機能を有することとなる。
これにより、周波数比較器13の比較結果である目標値とループフィルター12から出力された信号が示す周波数との差を示す周波数差信号が、積分部31で位相の差を示す信号に変換され、ゲイン部16でk0倍にされ、積分部71で積分され、デジタル制御発振器17のデジタル制御信号として、デジタル制御発振器17に入力される。これにより、デジタル制御発振器17の発振周波数、すなわち、デジタル制御発振器17から出力されるクロック信号の位相および周波数が調整され、位相は所定値に収束し、周波数は目標値に収束する。
以上のような第5実施形態によっても、前述した第4実施形態と同様の効果を発揮することができる。
また、簡易な構成で、デジタル制御発振器17から出力されるクロック信号の位相をロックすることができる。
なお、第5実施形態は、前記各実施形態に適用することができる。すなわち、前記各実施形態に、第5実施形態と同様の積分部を設けてもよい。
以上、本発明の周波数シンセサイザーを、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、他の任意の構成物が付加されていてもよい。
また、本発明は、前記各実施形態および各変形例のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
また、前記実施形態では、周波数デルタシグマ変調部の構成例を2つ挙げたが、本発明では、周波数デルタシグマ変調部の構成は、これに限定されず、他の構成であってもよい。
また、前記実施形態では、周波数デルタシグマ変調部を用いて周波数計測部を構成しているが、本発明では、これに限定されず、例えば、他の構成の周波数変調部を用いて周波数計測部を構成してもよい。
また、前記実施形態では、分周器が設けられていないが、本発明では、これに限定されず、1つまたは複数の分周器が設けられていてもよい。