JP6753850B2 - 高温用高強度低熱膨張鋳造合金およびその製造方法、ならびにタービン用鋳造品 - Google Patents
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Description
C:0.02〜0.06%
Si:0.2〜0.6%
Mn:0.3〜1.5%
Ni:24.0〜29.5%
Co:17.5〜25.5%を含有し、
Ni、Coの含有量(質量%)をそれぞれ[Ni]、[Co]と表した場合に、[Ni]+0.8×[Co]と表されるNi当量が40.5〜44.5%の範囲であり、
かつ、以下の(I)式で表されるAの値が27.5〜29.5の範囲であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、ミクロ組織中のマルテンサイト相の面積率が30〜90%であり、20〜600℃の平均熱膨張係数が、10×10 −6 /℃以下であり、かつ600℃の0.2%耐力が100MPa以上であることを特徴とする高温用高強度低熱膨張鋳造合金。
A=30[C]−1.5×[Si]+0.5×([Mn]−55×[S]/32)+[Ni]+0.05×[Co]+0.1 ・・(I)
(ただし、(I)式中、[C]、[Si]、[Mn]、[Ni]、[Co]は、各元素の含有量(質量%)である。)
C:0.02〜0.06%
Si:0.2〜0.6%
Mn:0.3〜1.5%
S:0.02〜0.05%
Ni:24.0〜29.5%
Co:17.5〜25.5%を含有し、
Ni、Coの含有量(質量%)をそれぞれ[Ni]、[Co]と表した場合に、[Ni]+0.8×[Co]と表されるNi当量が40.5〜44.5%の範囲であり、
かつ、以下の(I)式で表されるAの値が27.5〜29.5の範囲であり、
さらに、Mn、Sの含有量(質量%)をそれぞれ[Mn]、[S]で表した場合に、[Mn]/[S]≧15の関係を満たし、残部Feおよび不可避的不純物からなり、ミクロ組織中のマルテンサイト相の面積率が30〜90%であり、20〜600℃の平均熱膨張係数が、10×10 −6 /℃以下であり、かつ600℃の0.2%耐力が100MPa以上であることを特徴とする高温用高強度低熱膨張鋳造合金。
A=30[C]−1.5×[Si]+0.5×([Mn]−55×[S]/32)+[Ni]+0.05×[Co]+0.1 ・・(I)
(ただし、(I)式中、[C]、[Si]、[Mn]、[Ni]、[Co]は、各元素の含有量(%)である。)
(i)化学成分を特定の範囲に規定することにより、常温の水冷却にて組織中に一定量のマルテンサイト組織を生成させ、600℃という高温でも高強度と低熱膨張性を得ることができる。
(ii)CおよびSiを適正量含有させることにより、健全な鋳造品を得ることができる。
(iii)MnSを適正量含有させることにより、被削性を改善することができる。
(iv)Mn/S比を適正範囲にすることにより、亀裂のない製品を得ることができる。
本発明はこのような知見に基づいて完成されたものである。
<第1の実施形態>
第1の実施形態は、通常の大気溶解および大気鋳造が可能であり、高温まで低熱膨張性を示し、かつ高い高温強度を有する高温用高強度低熱膨張鋳造合金を得るものである。
Cは低熱膨張合金鋳造品の鋳造性や健全性を改善する効果がある。また、オーステナイト相から生成するマルテンサイト相の硬さを増加させ、強度を上げる作用がある。これらの効果および作用を発揮するためには、0.02%以上含有させる必要がある。しかし、その含有量が0.06%を超えると、その他元素の含有量を調整しても熱膨張係数を10×10−6/℃以下とすることが困難になるとともに、マルテンサイト相の生成温度が低下してオーステナイト相が安定化され、通常の水冷操作ではマルテンサイト相を生成させることができず、ドライアイスや液体窒素等の特殊な冷媒を用いたサブゼロ処理が必要となる。したがって、C含有量を0.02〜0.06%の範囲とする。
Siは脱酸および湯流れ性改善を目的として添加する元素である。また、オーステナイト相の安定性を下げ、マルテンサイト相の生成温度を高める効果を有する。しかし、その含有量が0.2%未満では脱酸および湯流れ性改善効果が不十分であり、0.6%超ではCと同様に高温での熱膨張係数の増加が無視できなくなる。したがって、Si含有量を0.2〜0.6%とする。
Mnは脱酸に有効な元素である。しかし、その含有量が0.3%未満ではその効果が少なく、1.5%を超えると熱膨張係数が10×10−6/℃よりも大きくなる。したがって、Mn含有量を0.3〜1.5%の範囲とする。
Niは後述のCoとともに熱膨張係数を決定する重要な元素であり、Co量に応じて後述の範囲に調整することによって熱膨張係数を10×10−6/℃以下にすることができる。しかし、Ni含有量が24.0%未満では、所期の低熱膨張性が得られず、また29.5%を超えると所期の0.2%耐力が得られなくなる。したがって、Niを24.0〜29.5%の範囲とする。
CoはNiとともに熱膨張係数を決定する重要な元素であり、特に低熱膨張性の発現する温度域を高温側に拡げる作用があり、高温用低熱膨張合金においては不可欠な元素である。しかし、Co含有量が17.5%未満、または25.5%超では所期の低熱膨張性が得られなくなる。また、25.5%を超えると材料コストが増加する問題もある。したがって、Co含有量を17.5〜25.5%の範囲とする。
NiおよびCoが上記範囲を満足しても、[Ni]+0.8[Co](ただし、[Ni]、[Co]は、それぞれNi、Coの含有量(質量%)である。)で表されるNi当量が40.5%未満、または44.5%超では熱膨張係数が10×10−6/℃を超えてしまう。したがって、[Ni]+0.8[Co]を40.5〜44.5%の範囲とする。
Aは、以下の(I)式で表される値であり、合金のオーステナイト相の安定度、すなわちマルテンサイト相の生成挙動に影響する主因子を表わすパラメータであり、マルテンサイト変態開始温度とマルテンサイト変態終了温度を決定する。また、マルテンサイト相の面積率も決定する。
A=30[C]−1.5×[Si]+0.5×([Mn]−55×[S]/32)+[Ni]+0.05×[Co]+0.1 ・・(I)
ただし、(I)式中、[C]、[Si]、[Mn]、[S]、[Ni]、[Co]はそれぞれの元素の含有量(質量%)を表す。
Crは耐酸化性を向上させる元素であり、必要に応じて添加することができる。しかし、Cr含有量が0.5%未満では、耐酸化性を向上させる効果が少なく、逆に3%を超えると熱膨張係数の増加が無視できなる。したがって、Crを添加する場合には、その含有量を0.5〜3%とする。
本実施形態の合金のミクロ組織は、面積率でマルテンサイト相が30〜90%である。マルテンサイトの面積率は、マルテンサイト生成温度範囲(マルテンサイト変態開始温度とマルテンサイト変態終了温度の差)と冷却媒体の温度との比からおおよそ推定することができる。マルテンサイト相の面積率が30%未満では十分な強度が得られないおそれがあり、90%超では600℃までの熱膨張係数が大きくなってしまうおそれがある。従来はマルテンサイトの量が多いと熱膨張係数が高くなるとされてきたが、本実施形態のように比較的低いC含有量では、マルテンサイト相の面積率で30〜90%と多くなっても、高強度と低熱膨張係数を両立することができることが判明した。マルテンサイト相の面積率の好ましい範囲は50〜90%である。なお、マルテンサイト相の残部はオーステナイト相である。
第1の実施形態では、通常の大気溶解および大気鋳造が可能な組成を有し、サブゼロ処理を施すことなく、適量のマルテンサイト面積率が得られ、600℃という高温までの熱膨張係数が10×10−6/℃以下と低く、600℃における0.2%耐力が100MPa以上という高い高温強度を示す高温用高強度低熱膨張合金が得られる。また、マルテンサイト相の面積率が50%以上では、0.2%耐力が150MPa以上という極めて高い高温強度が得られる。また、熱膨張係数は強度レベルによって異なり、600℃における0.2%耐力が100MPa以上、150MPa未満の範囲では、9×10−6/℃というより低い熱膨張係数が得られる。
本実施形態では、上記組成の合金を高温加熱後に急冷することにより、上記範囲の適量のマルテンサイトを析出させる。本実施形態の組成は、上述したように、マルテンサイト相生成温度範囲を決めるAが27.5〜29.5の範囲であるため、特許文献1のような高温加熱後のサブゼロ処理を行うことなく、常温の水中冷却で急冷することによりマルテンサイト相を得ることができる。このため、特許文献1のような特殊な製造設備の設置や適用製品の大きさが制限される等の制約がない。
第1の実施形態では、通常の大気溶解および大気鋳造が可能な組成を有し、サブゼロ処理を施すことなく、適量のマルテンサイト面積率が得られ、600℃という高温までの熱膨張係数が10×10−6/℃以下と低く、600℃における0.2%耐力が100MPa以上という高い高温強度を示す高温用高強度低熱膨張合金が得られる。このため、高温で高強度低熱膨張を示す複雑形状品や大型部品を、溶接組立てすることなく製作することができる。
第2の実施形態は、通常の大気溶解および大気鋳造が可能であり、高温まで低熱膨張性を示し、かつ高い高温強度を有し、さらに、コバールよりも優れた被削性を有する高温用高強度低熱膨張鋳造合金を得るものである。
本実施形態では、C、Si、Mn、Ni、Coの含有量、Ni当量の範囲、上述した(I)で表されるAの範囲、選択成分であるCrの範囲、マルテンサイト相の面積率、熱膨張係数、高温強度、および製造条件については第1の実施形態と同様であるが、Sの含有量等を規定した点、およびMn/Sを規定した点が第1の実施形態とは異なっている。以下、第2の実施形態に特有な条件に付いて説明する。なお、第1の実施形態と同様、特に断わらない限り成分における%表示は質量%であり、熱膨張係数の値は20〜600℃の平均熱膨張係数である。
SはMnと硫化物を形成し、被削性向上に寄与するが、合金中に多量に含まれると、低融点のFeSが結晶粒界に生成して脆化し、延性の低下や割れの原因となる。その含有量が0.02%未満では被削性向上効果が小さく、また、0.05%を超えると複雑形状や大型の鋳造品に凝固割れを生じやすくなる。したがって、S含有量を0.02〜0.05%の範囲とする。
[Mn]/[S](ただし、[Mn]、[S]はMn、Sの含有量(質量%)である)は、硫化物の生成量や組成を左右する重要なパラメータとなる。Mn:0〜1.0%、S:0.02〜0.05%の範囲において、[Mn]/[S]が15未満では、Sに対しMnが不足し、過剰なSが上述のFeSを形成し、凝固割れ等の原因となるが、[Mn]/[S]が15以上では、Sは高融点のMnSとして存在するため凝固割れを起こしにくくなる。したがって、[Mn]/[S]を15以上とする。
<第1の実施例>
第1の実施例は、第1の実施形態に対応するものである。
第1の実施形態では、表1に示す各化学組成の合金を高周波誘導炉で大気溶解し、JIS G0307の図1b)に準拠した供試材を鋳造した。いずれも鋳型にはCO2法珪砂型を用いた。
Ms(℃)=882−A×28
マルテンサイト面積率(%)=100(%)−オーステナイト面積率(%)
第2の実施例は、第2の実施形態に対応するものである。
第2の実施形態では、表2に示す各化学組成の合金を高周波誘導炉で大気溶解し、JIS G0307の図1b)に準拠した供試材およびφ100mm、高さ200mmの円柱鋳物を鋳造した。いずれも鋳型にはCO2法珪砂型を用いた。
第3の実施例は、製造条件に関するものである。
表3は、表1のNo.4の組成合金の試験体を、加熱温度:650〜1000℃、平均冷却速度:2.5℃/sec.および5〜7.5℃/sec.の熱処理条件で熱処理したときの熱膨張係数を示すものである。表3に示すように、700〜950℃の温度範囲で加熱後、5℃/sec.以上の冷却速度で、450℃以下まで冷却することにより、熱膨張係数が10×10-6/℃以下となることが確認された。
Claims (7)
- 質量%で、
C:0.02〜0.06%
Si:0.2〜0.6%
Mn:0.3〜1.5%
Ni:24.0〜29.5%
Co:17.5〜25.5%を含有し、
Ni、Coの含有量(質量%)をそれぞれ[Ni]、[Co]と表した場合に、[Ni]+0.8×[Co]と表されるNi当量が40.5〜44.5%の範囲であり、
かつ、以下の(I)式で表されるAの値が27.5〜29.5の範囲であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、ミクロ組織中のマルテンサイト相の面積率が30〜90%であり、20〜600℃の平均熱膨張係数が、10×10 −6 /℃以下であり、かつ600℃の0.2%耐力が100MPa以上であることを特徴とする高温用高強度低熱膨張鋳造合金。
A=30[C]−1.5×[Si]+0.5×([Mn]−55×[S]/32)+[Ni]+0.05×[Co]+0.1 ・・(I)
(ただし、(I)式中、[C]、[Si]、[Mn]、[Ni]、[Co]は、各元素の含有量(質量%)である。) - 質量%で、
C:0.02〜0.06%
Si:0.2〜0.6%
Mn:0.3〜1.5%
S:0.02〜0.05%
Ni:24.0〜29.5%
Co:17.5〜25.5%を含有し、
Ni、Coの含有量(質量%)をそれぞれ[Ni]、[Co]と表した場合に、[Ni]+0.8×[Co]と表されるNi当量が40.5〜44.5%の範囲であり、
かつ、以下の(I)式で表されるAの値が27.5〜29.5の範囲であり、
さらに、Mn、Sの含有量(質量%)をそれぞれ[Mn]、[S]で表した場合に、[Mn]/[S]≧15の関係を満たし、残部Feおよび不可避的不純物からなり、ミクロ組織中のマルテンサイト相の面積率が30〜90%であり、20〜600℃の平均熱膨張係数が、10×10 −6 /℃以下であり、かつ600℃の0.2%耐力が100MPa以上であることを特徴とする高温用高強度低熱膨張鋳造合金。
A=30[C]−1.5×[Si]+0.5×([Mn]−55×[S]/32)+[Ni]+0.05×[Co]+0.1 ・・(I)
(ただし、(I)式中、[C]、[Si]、[Mn]、[Ni]、[Co]は、各元素の含有量(%)である。) - さらに、質量%で、Cr:0.5〜3%を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高温用高強度低熱膨張鋳造合金。
- ミクロ組織中のマルテンサイト相の面積率が50〜90%であり、かつ600℃の0.2%耐力が150MPa以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高温用高強度低熱膨張鋳造合金。
- 20〜600℃の平均熱膨張係数が、9×10−6/℃以下であり、かつ600℃の0.2%耐力が100MPa以上、150MPa未満であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高温用高強度低熱膨張鋳造合金。
- 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の組成を有する合金を、700〜950℃の温度範囲で加熱した後、5℃/sec.以上の平均冷却速度で450℃以下まで冷却して、ミクロ組織中のマルテンサイト相の面積率が30〜90%であり、20〜600℃の平均熱膨張係数が、10×10 −6 /℃以下であり、かつ600℃の0.2%耐力が100MPa以上の鋳造合金を得ることを特徴とする高温用高強度低熱膨張鋳造合金の製造方法。
- 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高温用高強度低熱膨張鋳造合金からなるタービン用鋳造品。
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