JP6753712B2 - 粒状錫めっき鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
かような錫めっき鋼板では、後の溶接処理を考慮して鋼板表面に均一な厚みの錫めっき層を形成するのではなく、鋼板表面に粒状又は島状の錫めっき(以後、これらを総称して「粒状錫めっき」とも称する)を形成することが行われている。
粒状錫めっきを鋼板に施すことで溶接不良が抑制されるが、その一方で錫めっきが施されずに鋼板素地が露出する部位が増えることになってしまい、耐食性が低下する事態につながることがある。
この特許文献1によれば、鋼板表面のうち粒状錫が析出されない領域でも耐食性の低下を防ぐことができ、錫による鋼板の被覆面積率を少なくしつつ耐食性と加工塗料密着性の相反する特性を同時に満足させることが可能となっている。
この粒状錫めっきが鋼板表面から抜け落ちる現象は、次に説明する態様で発生していると考えられる。
すると、後に粒状錫めっきを行った際には、この鋼板表面における不活性点を中心として錫めっきが析出しない領域(点状めっき抜け)が発生する。この点状めっき抜けの発生は溶接不良を引き起こす要因ともなり得るので、かような点状めっき抜けを有する製品は不良品として無駄となってしまう。
また、上記(1)又は(2)の粒状錫めっき鋼板の製造方法においては、(3)前記前処理浴の液温は、15〜60℃であることが好ましい。
また、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の粒状錫めっき鋼板の製造方法においては、(4)前記第3工程の後、前記粒状錫めっきの表面に対して金属クロム又はクロム酸化物による皮膜を形成する第4工程を更に有することが好ましい。
また、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の粒状錫めっき鋼板の製造方法においては、(5)前記Snめっき浴は、前記前処理浴よりも低いpHを有するSn電気めっき浴であることが好ましい。
また、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の粒状錫めっき鋼板の製造方法においては、(6)前記粒状錫めっき鋼板は、Snめっき皮膜量が150〜300mg/m 2 であることが好ましい。
≪第1実施形態≫
図1に示されるように、本実施形態に係る表面処理鋼板SSは、粒状錫めっきが施された鋼板であって、原板1と、この原板1上に形成される表面処理層とを含んで構成されている。表面処理層は、粒状錫めっき3と、この粒状錫めっき3上に形成される保護皮膜4を含んで構成されている。なお、保護皮膜4は、本実施形態の表面処理鋼板SSで必須ではなく、適宜これを省略してもよい。
表面処理鋼板SSを製造する際には、基材となる原板1を準備する。この原板1は、例えば0.1mm〜0.5mm程度の金属板であり、例えば鉄または鋼板などの合金などが用いられる。なお、本実施形態との金属板としては、0.10〜1.20mm程度の厚さの普通鋼冷延鋼板が好ましい。中でも、0.1〜0.5mm程度の厚さの普通鋼冷延鋼板が好ましい。冷延鋼板の中でも低炭素または炭素量0.01質量%未満の極低炭素アルミキルド鋼板が、加工性などの観点から好ましく原板として使用される。
なおアルカリ脱脂に使用するアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウムなどの強エッチングタイプのアルカリが挙げられる。また、弱アルカリ系や界面活性剤を配合したものを用いてもよい。
また、脱脂処理は例えば浸漬法で行うことができ、その場合の浸漬時間は、0.5秒〜30秒であって、特に好ましくは1秒〜5秒がよい。
換言すれば、本実施形態においては、酸洗処理は行わずに後述する前処理浴への浸漬を実施することが好ましい。
また、ステップ1やステップ2の後で、水などを用いてリンス処理(水洗)をすることで非連続の工程としてもよい。
この前処理浴には、Snイオンが20〜1000mg/L、材料の使用効率性の観点も考慮すると好ましくは50〜500mg/Lであり、生産性も考慮すると更に好ましくは100〜300mg/Lの濃度で含まれる。20mg/Lより小さいと、後述する超微細な錫粒子2が原板1表面で起点となるだけの付着量が得られず、効果が不十分となってしまうからである。一方で1000mg/Lを超えても、Snイオンが溶媒に溶けずに前処理浴中で溶け残ってしまい不経済となるほか、Snイオンの溶け残りが原板に付着して外観不良が生じやすくなるからである。
また、前処理浴に原板1を浸漬する浸漬時間は、0.5〜60秒であって、好ましくは2秒〜30秒がよく、更に量産性も考慮すると1〜5秒が好ましい。60秒以上では意図しない汚染が発生したり生産性が著しく低下してしまい不経済となるからである。一方で、0.5秒は生産ラインでの最速処理を考慮した値であり、生産ラインのコンベア速度を考慮すると0.4秒より短い時間で浸漬することは現実的でないからである。
まず図3の左側には、後述する粒状錫めっきが原板1に施された後の表面処理鋼板SSにおける光学顕微鏡を用いた表面観察写真を示す。
領域(a)で囲った部位は欠陥が発見されない正常部であり、領域(b)で囲った部位は粒状錫めっきが抜け落ちた欠陥部となっている。
このように、領域(b)では点状めっき抜けが発生しており、当該領域内ではSnが検出されず欠陥となっていることが分かる。
前述したとおり、この領域(b)では、下地となる原板1の表面には電気的に不活性な領域(不活性点)が散在しており、これら不活性点を中心にして錫めっきが定着しない領域が形成されると考えられる。
なお原板1表面に付着する超微細な錫粒子2は原板1上で点在しており、それぞれ検出自体は可能であるが、互いに密着して均一な厚みの層として存在していない点も本実施形態では特筆すべき特徴となっている。
ステップ3で前処理浴に原板1を浸漬した後は、粒状錫めっき3を原板1上に形成する(ステップ4)。
なお、ステップ3とステップ4を連続的な工程とせずに、ステップ3の後で水などを用いてリンス(水洗)処理を行ってからステップ4へ移行してもよい。そしてステップ3の後でリンス処理を行う場合には、クロムを含有しないようにすることが好ましい。クロムが含有しているとステップ4で粒状錫めっき3が原板1上に定着し難くなってしまうからである。
なおステップ4で用いるSnめっき浴としては、例えば以下の硫酸錫めっき浴を適用してもよい。
硫酸濃度:15〜45g/L、
硫酸錫濃度:15〜25g/L、
添加剤1(界面活性剤):0.01〜0.07g/L、
めっき電流密度:2〜15A/dm2、
電気量:5〜100C/dm2、
めっき浴温度:35〜50℃
Snめっき皮膜量:150〜300mg/m2、
pH:1.0以下
またその他に、酸化防止剤等の公知の添加剤を加えてもよい。
この保護皮膜4としては、例えば耐食性の向上などを目的として金属クロムまたはクロム酸化物の皮膜が好ましい。
なお、上記した保護皮膜4は、本実施形態では必須でなく、適宜これを省略してもよい。
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。
<実施例1>
厚さ0.225mmの低炭素アルミキルド鋼の冷延鋼板を原板として用いた。まず、この鋼板をアルカリ水溶液中で電解脱脂して水洗いを行い、その後に以下の条件で規定された前処理浴に浸漬した。
浴の主成分:イオン交換水に塩化Sn(II)水和物を溶解させて建浴
浴に含有する無機イオン:Sn2+
Sn2+の濃度:20mg/L
浴温:25℃
pH:3.7(ただし、中心pH値であり、±0.5の範囲で規定)
浸漬時間:2秒
[Snめっき条件]
硫酸濃度:30g/L、
硫酸錫濃度:20g/L、
添加剤1(界面活性剤):0.04g/L、
めっき電流密度:5A/dm2、
電気量:5C/dm2、
めっき浴温度:40℃
pH:<1.0
Sn皮膜量 :200mg/m2
以上によって得られた表面処理鋼板SSに対して光学顕微鏡を用いて表面観察写真を取得し、この表面処理鋼板SSの表面における点状めっき抜けの数を検査した。
そしてこの点状めっき抑制効果の評価(I)として、検査で求められた単位面積(m2)当たりの点状めっき抜けの個数を、前処理を行わなかった表面処理鋼板(比較例3)の点状めっき抜けの個数で除算し、点状めっき抜けの割合(%)を求めた。
また、評価(I)に基づく評価(II)として、以下の基準で評価付けを行った。
◎:点状めっき抜けの割合が30%未満であり、外観不良もない
〇:点状めっき抜けの割合が50%未満であり、外観不良もない
△:点状めっき抜けの割合が50〜80%であるか、外観不良である
×:点状めっき抜けの割合が90%以上であるか、外観不良である
この結果、実施例1における点状めっき抜けの割合は33%であり、評価付けは「○」であった。
Sn2+の濃度を50mg/Lとし、中心pH値を3.4とし、保護皮膜4として金属クロム又はクロム酸化物(CrOx)を粒状錫めっき3上に形成した以外は、実施例1と同様に行った。
検査の結果、実施例2における点状めっき抜けの割合は25%であり、評価付けは「◎」であった。
Sn2+の濃度を100mg/Lとし、中心pH値を3.2とし、保護皮膜4として金属クロム又はクロム酸化物を粒状錫めっき3上に形成した以外は、実施例1と同様に行った。
検査の結果、実施例3における点状めっき抜けの割合は21%であり、評価付けは「◎」であった。
Sn2+の濃度を300mg/Lとし、中心pH値を3.0とした以外は、実施例1と同様に行った。
検査の結果、実施例4における点状めっき抜けの割合は21%であり、評価付けは「◎」であった。
Sn2+の濃度を500mg/Lとし、中心pH値を2.8とし、保護皮膜4として金属クロム又はクロム酸化物を粒状錫めっき3上に形成した以外は、実施例1と同様に行った。
検査の結果、実施例5における点状めっき抜けの割合は21%であり、評価付けは「◎」であった。
Sn2+の濃度を1000mg/Lとし、中心pH値を2.5とし、保護皮膜4として金属クロム又はクロム酸化物を粒状錫めっき3上に形成した以外は、実施例1と同様に行った。
検査の結果、実施例6における点状めっき抜けの割合は42%であり、評価付けは「○」であった。
Sn2+の濃度を1000mg/Lとし、前処理浴の主成分を硫酸第1スズとし、中心pH値を2.5とし、保護皮膜4として金属クロム又はクロム酸化物を粒状錫めっき3上に形成した以外は、実施例1と同様に行った。
検査の結果、実施例7における点状めっき抜けの割合は42%であり、評価付けは「○」であった。
原板1を前処理浴へ浸漬する前に硫酸水溶液で原板1を酸洗し、Sn2+の濃度を1000mg/Lとし、中心pH値を2.5とし、保護皮膜4として金属クロム又はクロム酸化物を粒状錫めっき3上に形成した以外は、実施例1と同様に行った。
検査の結果、実施例8における点状めっき抜けの割合は42%であり、評価付けは「○」であった。
Sn2+の濃度を10mg/Lとし、中心pH値を3.9とし、保護皮膜4として金属クロム又はクロム酸化物を粒状錫めっき3上に形成した以外は、実施例1と同様に行った。
検査の結果、比較例1における点状めっき抜けの割合は103%であり、評価付けは「×」であった。
Sn2+の濃度を1100mg/Lとし、前処理浴の主成分を硫酸第1スズとし、中心pH値を2.5とした以外は、実施例1と同様に行った。
検査の結果、比較例2における点状めっき抜けの割合は97%であり、Snイオンの濃度が高すぎたためSnイオンの溶け残りが原板に付着して外観不良となっていた。
粒状錫めっき3を原板1に形成する前に硫酸水溶液(硫酸濃度70g/L)で酸洗し、前処理浴への浸漬は行わずに粒状錫めっき3を原板1に形成した。
なお、実施例1と同様に、粒状錫めっき3が原板1に形成された後、この粒状錫めっき3上に保護皮膜4を形成することは省略した。
上述したとおり、比較例3における点状めっき抜けの個数を、実施例1〜8及び比較例1、2の比較基準とすべく、この比較例の値を100%として算出した。
一方で表1における比較例では、上記した点状めっき抜けの割合が比較例3に対して±10%以内であり、相対的に多くの点状めっき抜けが発生していることが確認される結果となった。
また、評価(I)に基づく評価(II)としては、表1で示した基準と同じ基準で評価付けを行った。
Sn2+の濃度を1000mg/Lとし、浴温を40℃とし、中心pH値を2.6とし、浸漬時間を2秒とし、前処理浴の主成分を硫酸第1スズとした以外は、実施例1と同様に行った。
検査の結果、実施例9における点状めっき抜けの割合は38%であり、評価付けは「○」であった。
Sn2+の濃度を1000mg/Lとし、浴温を40℃とし、中心pH値を2.6とし、浸漬時間を2秒とした以外は、実施例1と同様に行った。換言すれば、前処理浴の主成分を塩化スズとした以外は、実施例9と同様に行った。
検査の結果、実施例10における点状めっき抜けの割合は40%であり、評価付けは「○」であった。
Sn2+の濃度を1000mg/Lとし、中心pH値を2.0とした以外は、実施例1と同様に行った。
検査の結果、実施例11における点状めっき抜けの割合は42%であり、評価付けは「○」であった。
Sn2+の濃度を1000mg/Lとし、中心pH値を1.5とした以外は、実施例1と同様に行った。
検査の結果、実施例11における点状めっき抜けの割合は25%であり、評価付けは「◎」であった。
粒状錫めっき3を原板1に形成する前に硫酸水溶液(硫酸濃度70g/L)で酸洗し、前処理浴への浸漬は行わずに粒状錫めっき3を原板1に200mg/m2の皮膜量で形成した。
なお、実施例1と同様に、粒状錫めっき3が原板1に形成された後、この粒状錫めっき3上に保護皮膜4を形成することは省略した。
上述したとおり、比較例4における点状めっき抜けの個数を、実施例9〜12及び比較例5〜7に対する比較基準とすべく、この比較例の値を100%として算出した。
粒状錫めっき3を原板1に形成する前に硫酸水溶液(硫酸濃度7g/L)で酸洗し、前処理浴への浸漬は行わずに粒状錫めっき3を原板1に200mg/m2の皮膜量で形成した。
なお、実施例1と同様に、粒状錫めっき3が原板1に形成された後、この粒状錫めっき3上に保護皮膜4を形成することは省略した。
検査の結果、比較例5における点状めっき抜けの割合は107%であり、評価付けは「×」であった。
粒状錫めっき3を原板1に形成する前に、60%硝酸(5g/L)が添加された硫酸水溶液(硫酸濃度50g/L)で原板1を酸洗し、前処理浴への浸漬は行わずに粒状錫めっき3を原板1に200mg/m2の皮膜量で形成した。
なお、実施例1と同様に、粒状錫めっき3が原板1に形成された後、この粒状錫めっき3上に保護皮膜4を形成することは省略した。
検査の結果、比較例6における点状めっき抜けの割合は81%であり、評価付けは「△」であった。
粒状錫めっき3を原板1に形成する前に、前処理浴の成分が添加された硫酸水溶液(硫酸濃度50g/L)で原板1を酸洗し、前処理浴への浸漬は行わずに粒状錫めっき3を原板1に200mg/m2の皮膜量で形成した。なお、このとき添加した前処理浴の成分構成としては、硫酸スズ(Sn2+の濃度が1000mg/L)の浴であって浴温が40℃、中心pH値が1未満であった。
なお、実施例1と同様に、粒状錫めっき3が原板1に形成された後、この粒状錫めっき3上に保護皮膜4を形成することは省略した。
検査の結果、比較例7における点状めっき抜けの割合は83%であり、評価付けは「△」であった。
一方で表2における比較例では、上記した点状めっき抜けの割合が比較例4に対して±20%以内であり、相対的に多くの点状めっき抜けが発生していることが確認される結果となった。
2 錫粒子
3 粒状錫めっき
4 保護皮膜
SS 表面処理鋼板
Claims (6)
- 原板を脱脂する第1工程と、
前記第1工程の後、Sn2+の濃度が20〜1000mg/Lで含まれるようにSnイオンが溶け込んだ水溶液の前処理浴に、前記原板を浸漬する第2工程と、
前記第2工程の後、前記前処理浴とは異なる浴組成のSnめっき浴を用いて、前記原板に対して粒状錫めっきを施す第3工程と、
を有することを特徴とする粒状錫めっき鋼板の製造方法。 - 前記前処理浴のpHは、1.5〜4.5である請求項1に記載の粒状錫めっき鋼板の製造方法。
- 前記前処理浴の液温は、15〜60℃である請求項1又は2に記載の粒状錫めっき鋼板の製造方法。
- 前記第3工程の後、前記粒状錫めっきの表面に対して金属クロム又はクロム酸化物による皮膜を形成する第4工程を更に有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の粒状錫めっき鋼板の製造方法。
- 前記Snめっき浴は、前記前処理浴よりも低いpHを有するSn電気めっき浴である請求項1〜4のいずれか一項に記載の粒状錫めっき鋼板の製造方法。
- 前記粒状錫めっき鋼板は、Snめっき皮膜量が150〜300mg/m 2 である請求項1〜5のいずれか一項に記載の粒状錫めっき鋼板の製造方法。
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