以下に添付図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。図1はセットイン一枚袖(セットインスリーブ)で形成された長袖を備えた上衣を作製するためのパターン(型紙)を示しており、図2は図1の一枚袖で形成された袖部を示している。
上衣1は、前身頃2及び後身頃3と、長袖を形成するための袖部21とを備えている。なお、前記前身頃2及び後身頃3は、それぞれ、幅方向の中心線(前中心線(一点鎖線で示す仮想線)14及び後中心線(一点鎖線で示す仮想線)15)を中心として対称(線対称)又は非対称の形態で形成されている。そのため、この図では、前記前身頃2及び後身頃3の半分を図示している。また、前身頃2、後身頃3、及び袖部21は非伸縮性生地及び/又は伸びにくい生地で形成されている。
前記前身頃2及び後身頃3は、それぞれ、円弧状又は湾曲状の襟刳り(衿ぐり)部4を形成するための前襟刳り(衿ぐり)部5及び後襟刳り(衿ぐり)部6と、袖部と縫着するための円弧状又は湾曲状の袖刳り部(アームホール)7とを備えており、前後襟刳り(衿ぐり)部5,6の縁部は、それぞれ、前襟刳り線(又は線状縫着部若しくは縫い代)5a及び後襟刳り線(又は線状縫着部若しくは縫い代)6aを形成している。
前記前身頃2及び後身頃3の袖刳り部(アームホール)7の縁部は、肩線10上に位置するショルダーポイント(着衣状態で肩先に対応する部位又は点)SPを有しており、このショルダーポイントを中心として、それぞれ、前袖刳り線(又は線状の前袖刳り縫着部若しくは縫い代)8aを有する前袖刳り部8と後袖刳り線(又は線状の後袖刳り縫着部若しくは縫い代)9aを有する後袖刳り部9とを形成している。さらに、袖刳り部(アームホール)7の両端部(前袖刳り線8a及び後袖刳り線9aの端部)は、前身頃2と後身頃3との縫着状態において、脇線12上(脇下部)に位置する鎌底部11を形成している。すなわち、前袖刳り線8a及び後袖刳り線9aと脇線12との交点部は鎌底部11を形成している。なお、この例では、前袖刳り部8(前袖刳り線(又は線状縫着部)8a)の湾曲度は、肩部の前方に膨らむ三角筋の部位に対応して、後袖刳り部9(後袖刳り線(又は線状縫着部)9a)の湾曲度よりも大きく(曲率半径が小さく)形成されており、前記前身頃2及び後身頃3は、裾部を形成する裾線13を備えている。
前記袖部21の袖山部25の頂部は、ショルダーポイントSPを形成し、このショルダーポイントから、袖部21の長手方向に沿って袖部21の幅方向のほぼ中心部を延びる袖山線(袖中心線)24により、前身頃2及び後身頃3にそれぞれ縫着するための前袖部22と後袖部23とに区画されている。前記袖部21は、前記前身頃2及び後身頃3の袖刳り部7と縫着するための袖山部25と、この袖山部から袖口部(図示せず)に延びて、腕が挿入可能な筒部を形成するための袖下部(袖底部)30とを備えており、この袖下部(袖底部)30は袖下線30aを有している。なお、袖山部25の袖山ラインの長さは、前記前身頃2及び後身頃3の袖刳り部(アームホール)7の長さに対応している。また、袖下部30の幅は、前記袖山部25から袖口部にいくにつれて小さくし、袖を先細状に形成してもよく、袖口部で大きく形成してもよく、袖下部30の幅は、袖口部と同じ幅であってもよい。
そして、アームホール(袖刳り部)7に縫着される袖山部25は、肩先に対応する前記ショルダーポイントSPから両側部方向にそれぞれなだらかに湾曲して下降する山形状の第1の湾曲部(湾曲下降部又は第1の山部)26と、この第1の湾曲部の両側部の所定の変曲部(谷部)IPからなだらかに湾曲して上昇して、前記前身頃2及び後身頃3の袖刳り部(アームホール)7の鎌底部11に対応する部位(袖山端部という場合がある)29a,29bに至る第2及び第3の湾曲部(湾曲上昇部又は第2の山部の頂部に至る湾曲傾斜部)27,28(第2の湾曲部27及び第3の湾曲部28)とを備えており、袖山端部29a,29bは、第2及び第3の湾曲部27,28と袖下線30aとの交点部で形成されている。すなわち、第2及び第3の湾曲部27,28は、図1及び図2に示されるように、前記第1の湾曲部(第1の山部)26の両側部にそれぞれ隣接しており、この形態の第2及び第3の湾曲部27,28は、第1の変曲部26の両側部の変曲部(谷部)IPからそれぞれ側部方向(袖山端部29a,29b方向)に行くにつれて上昇し、両側部の袖山端部29a,29bに至る形態を有している。また、袖山部25の縁部(袖山ライン、袖付け線又は袖付け縫着部)は、前記第1の湾曲部(湾曲下降部又は山形状湾曲袖部)26の袖付け部の袖山ライン(袖付け線又は袖付け縫着部)26aと、前記第2及び第3の湾曲部(湾曲上昇部)27,28の袖付け部の袖山ライン(袖付け線又は袖付け縫着部)27a,28aとを備えている。第2及び第3の湾曲部27,28は、特許文献4と異なり、前身頃2及び後身頃3のアームホール7の鎌底部11に対応する袖山端部29a,29bに向かって下降する下降域を備えていてない。なお、この例では、前記第1の湾曲部(湾曲下降部)26に隣り合う第2及び第3の湾曲部(湾曲上昇部)27,28は、袖山線24を中心線として非対称の形態を有している。
さらに、第2及び第3の湾曲部(湾曲上昇部)27,28のうち前記鎌底部11に対応する袖山端部29a,29b(湾曲上昇部27,28の端部又は鎌底部11との縫着部)は、皺部や膨出部などで生成するのを防止するため、前記ショルダーポイントSPよりも低い位置に位置させている。すなわち、袖山部25の袖付け部の袖山ライン(袖付け線又は袖付け縫着部、縫い代)は、第1の山部(第1の湾曲部)26のラインと、第1の山部の両側部に隣接して第1の山部の頂部よりも低い第2の山部のラインとを備えた形態において、中央部のなだらかな第1の山部(第1の湾曲部)26の稜線(山形湾曲ライン)と、変曲部(谷部)IPを経て、第2の山部の頂部に至るまでの湾曲傾斜部(湾曲上昇傾斜部)の稜線(湾曲傾斜ライン)27a,28aとを備えた形態を有しており、第2の山部の頂部からさらに側部方向に下降する下降線を備えていない。
より具体的には、本発明では、通常の袖部にはない第2及び第3の湾曲部(第2の山部の傾斜部)27,28を形成することにより、前身頃2及び後身頃3のシルエット(デザイン)を変更することなく、デザイン性及び運動機能性を改善している。すなわち、デザイン性を損なわないため、前記変曲部(谷部)IPは、袖幅方向において、それぞれ、前袖部22及び後袖部23のほぼ中央部に位置している。具体的には、袖山線24を中心として、前袖部22及び後袖部23の各幅を「W」(袖部21全体の袖幅=約2W)としたとき、前袖部22及び後袖部23の変曲部(谷部)IPは、それぞれ、袖山線24から0.4W〜0.6Wの範囲に位置していてもよい。
さらに、前記前袖部22及び後袖部23において、ショルダーポイントSPから変曲部(谷部)IPに至る長さA及びBは、それぞれ、前記変曲部(谷部)IPから鎌底部11に対応する袖山端部29a,29bに至る長さC及びDよりも小さくてもよい。そのため、第2及び第3の湾曲部(第2の山部の湾曲傾斜部)27a,28aの面積を大きくして所定の運動量の余裕部を、視野から隠れる脇下部に形成できる。
さらには、通常又は従来の袖部と比較して、ショルダーポイントSP、鎌底部11に対応する袖山端部29a,29b、及び変曲部IPの高さ位置は、図2に示すような位置関係となる。すなわち、従来の代表的又は一般的な袖部を、袖山部の袖山ライン(袖付け線又は袖付け縫着部)が、ショルダーポイントSPから湾曲して下降して鎌底部に対応する部位(袖山端部)32a,32bに至る単一の湾曲ライン(点線)31を有する基準袖部(又は比較袖部)とし、この基準袖部において前袖部の袖山端部32aと後袖部の袖山端部32bとを結ぶ直線を仮想の基準直線33とし、この基準直線からのショルダーポイントSPの高さを「X」、前記基準直線33からの鎌底部に対応する部位(袖山端部)29a,29bの高さを「Y」としたとき、Y=0.7X〜0.9Xの関係を満たしてもよく、前記基準直線33からの変曲部IPの高さを「Z」としたとき、Z<Y<X及びZ=0.55X〜0.8Xの関係を満たしてもよい。
なお、前記第2及び第3の湾曲部27,28の袖付け部の袖山ライン(袖付け線又は縫い代)27a,28aの長さC,Dは、前記基準袖部において、仮想の湾曲ライン(点線)31のうち変曲部IPから袖山端部32a.32bに至る長さと同じである。
上記袖部21と、前袖部2及び後身頃3とを慣用の方法で縫合することにより、上衣1を作製できる。例えば、上記袖部21の袖山部25の袖付け部(袖付け線又は袖付け縫着部26a,27a,28a)と、前袖部2及び後身頃3のアームホール(袖刳り部)7(前袖刳り部8及び後袖刳り部9の前袖刳り線又は縫着部8a及び後袖刳り線又は縫着部9a)とを互いに縫着することにより、前身頃2及び後身頃3の袖刳り部7の上部及び前後部に余裕部を付加することなく、脇下部に所定の運動量の余裕部が形成された上衣1を形成できる。なお、前記のように、袖下部(又は袖底部)30を縫着することにより、上腕が挿入可能な筒状の袖を形成できる。
このような上衣1では、ショルダーポイントSPからの第1の湾曲部(第1の山部)26が、シルエット(デザイン)を変更していない従来の袖部(基準袖部)の湾曲ライン31に沿っているため、肩線10から袖に沿って自然なラインを形成し、皺部や膨出部などが生成することがない。そのため、生地を有効に利用できる。しかも、袖山部25の第2及び第3の湾曲部(湾曲傾斜部)27,28が、従来の袖部(基準袖部)の湾曲ライン31と異なり、両側端部にいくにつれてショルダーポイントSPの方向に湾曲して上昇して、アームホール(袖刳り部)7の鎌底部11に対応する袖山端部29a,29bに至るため、第2及び第3の湾曲部(湾曲傾斜部)27,28の領域により、上腕を降ろした状態では、視野から隠れる脇下部に余裕部を形成できる。すなわち、上腕を袖部21(又は袖部21の筒部)に沿って延ばすと、図3の円形の鎖線で示すように、脇下部に余裕部が位置するため、上腕を降ろした状態では、余裕部を脇下部に隠すことができる。そのため、脇袖下部にバイアスを形成しなくても、さらに非伸縮性生地又は伸びにくい生地で長袖の上衣を作製しても、外観デザインを損なうことなく、少なくとも上下方向の運動量を確保できる。従って、通勤、通学、就寝などで上腕を上下方向に動かす機会の多い上衣、例えば、シャツ、ブラウス、ジャケット、パジャマなどとして有用である。
なお、前記セットイン袖では、袖下線30aに対応する袖下(又は袖底)に沿って前記前袖部22と後袖部23との縫い目が形成される。このような縫い目(又は袖下線)は、前袖部22及び後袖部23において、袖下線又は切替え線の位置(幅方向の位置)を変更することにより、袖の幅方向の所定箇所で袖の長手方向に沿って形成できる。
図4及び図5は、セットイン一枚袖で形成された上衣を作製するための他のパターン(型紙)を示している。なお、前記図1及び図2と同じ部位及び機能が同じ部位などについては、同一の符号を付して説明する(以下、同じ)。また、図5には、前記前身頃42及び後身頃43の半分を図示している。また、図5には、前記図1及び図2に示す袖部との関係を示すため、参考までに、図2に示す仮想の湾曲ライン31及び袖山端部32a.32bを破線で示している。
図4及び図5に示されるように、上衣41は、前身頃42及び後身頃43と、長袖用の袖部61とを備えており、前身頃42及び後身頃43は、それぞれ、前襟刳り(衿ぐり)部45及び後襟刳り(衿ぐり)部46と、袖部61と縫着するための円弧状又は湾曲状の袖刳り部(アームホール)47とを備えており、前後襟刳り(衿ぐり)部45,46は、円弧状又は湾曲状の襟刳り(衿ぐり)部を形成している。前記袖刳り部(アームホール)47は、前身頃42と後身頃43との縫着状態において、脇線52上(脇下部)に位置する鎌底部51を有している。すなわち、前記袖刳り部(アームホール)47は、前袖刳り線48aを有する前袖刳り部48と後袖刳り線49aを有する後袖刳り部49とを有しており、前記前袖刳り線48a及び後袖刳り線49aと、脇線52との交点部は鎌底部51を形成している。なお、前記前身頃42及び後身頃43は、それぞれ、幅方向の中心線(前中心線(一点鎖線で示す仮想線)44a及び後中心線(一点鎖線で示す仮想線)44b)を中心として非対称又は対称(線対称)の形態で形成されている。
前記袖刳り部(アームホール)47は、前記と同様に、肩線50上に位置するショルダーポイント(着衣状態で肩先に対応する部位又は点)SPを有している。
一方、袖部61は、後袖部23に切替え線62aが形成された形態(すなわち、後袖23の一部が、前袖部23に幅方向に隣接して移動又はシフトした形態)を有している。すなわち、図5に示されるように、図1及び図2において、幅方向の一方の側部に位置する第2の湾曲部(湾曲上昇部)27と、幅方向の他方の側部に位置する前記第3の湾曲部(湾曲上昇部)28とが頂部29からの袖下線30aを共有して互いに隣接して、第2の山部(山形状の湾曲部)を形成し;この第2の山部27,28が前記第1の湾曲部(第1の山部)26の一方の側部に隣接した形態を有している。図5に示す例では、図1及び図2に示す袖部21の形態において、後袖23は、変曲部(谷部)IPから長手方向に延びる切替え線62aに沿って切離されて、後袖部23として残存する第1の後袖部(残存後袖部)23aと;後袖部23から切離され、前袖部22の袖下線30aに隣接して接続又は位置する第2の後袖部(接続後袖部)23bとを備えた形態を有しており;前記第2の後袖部(接続後袖部)23bは前記第3の湾曲部28に対応している。
より詳細には、図5に示す例では、変曲部(谷部)IPが幅方向の中心部(又は中央域)に位置し、この中央部の変曲部(谷部)IPの両側部に第1の湾曲部(第1の山部)26と第2の山部(第2の湾曲部27と第3の湾曲部28とが隣接して形成された山部)とが隣接し、袖山部25の両端部(袖山ライン26aの両端部)にも変曲部(谷部)IPが位置する形態を有している。また、後袖部23は、袖山線24側に位置する第1の後袖部23aと、袖下線30a側に位置する第2の後袖部23bとを備えている。袖山部25は、前袖部22と後袖部23(23a,23b)とを区画する袖山線24上に位置するショルダーポイントSPを中心として両側部方向にそれぞれなだらかに湾曲下降して変曲部(谷部)IPに至る第1の湾曲部(第1の山部)26と;袖下線30aを中心として、前記第2及び第3の湾曲部27,28が隣接して形成された頂部29(図1及び図2に示す袖部21の袖山端部29a,29bに対応)を有する第2の山部とを備えており、この第2の山部は、前記頂部29から両側部方向にそれぞれなだらかに湾曲下降して中央部の変曲部(谷部)IPと、前袖部22の一方の端部の変曲部(谷部)IPとに至る袖山ラインを備えている。第2の山部27,28の頂部29は、前記袖刳り部(アームホール)47の鎌底部51と縫着される。
このようなセットインタイプの上衣では、切替え線62aが後袖部23に形成されているため、前袖部23と後袖部23との縫い目を、袖下部ではなく、後袖部23に形成できる。さらに、前記図1〜図3に示すセットインタイプの上衣と同様に、脇下部に余裕部を形成でき、外観及びデザイン性を損なうことなく、運動機能性を高めることができる。
上衣の袖は、セットイン袖に限らず、身頃の一部が袖と合体したラグラン袖(ラグランスリーブ)であってもよい。図6は、ラグランタイプの上衣を示している。
前記ラグランタイプの上衣71は、前身頃72及び後身頃73と、前身頃72及び後身頃73に形成された襟刳り(衿ぐり)部74(前襟刳り部75及び後襟刳り部76)とを備えており、袖部81は、図1及び図2に示すセットインタイプの第1の湾曲部に代えて、袖山線(袖中心線)24に沿って延出し、前身頃72の前襟刳り部75及び後身頃73の後襟刳り部76との間に位置して襟刳り部74の一部を形成する中間襟刳り部86aを備えた延出部86を有している。
さらに、前身頃72と後身頃73とは、それぞれ、中間襟刳り部86aの両端部からゆるやかなS字状曲線の前袖刳り線(又は前袖刳り縫着部、ラグラン線)78aを有する前袖刳り部78と後袖刳り線(又は後袖刳り縫着部、ラグラン線)79aを有する後袖刳り部79を備え、袖刳り線(又は袖刳り縫着部)を有する袖刳り部(アームホール)77を形成している。なお、袖刳り部(アームホール)77は鎌底部11を有しており、この鎌底部11は、前袖刳り線78a及び後袖刳り線79aと脇線12との交点部で形成されている。また、ラグラン線に対応する前袖刳り線78a及び後袖刳り線79aは、鎌底部11にいくにつれて湾曲度が大きくなり、中間襟刳り部86a側では比較的直線的に形成されている。なお、ラグランタイプの上衣では、身頃(前身頃72及び後身頃73)のラグラン線による袖刳り部ではなく、肩先のショルダーポイントSPと袖脇下部(鎌底部11)とを含み、袖が納まる筒部(例えば、肩線の延長線に対して直交して袖脇下部(鎌底部11)に至る筒部)をアームホールとすることができる。
このような前身頃72及び後身頃73の袖刳り部(アームホール)77に逢着される袖部81は、袖山線24により前袖部82と後袖部83とに区画されており、前袖部82及び後袖部83において、前記延出部86の袖付け部は、両側部に位置する第2及び第3の湾曲部(湾曲袖付け部)87,88の前袖付け線(又は袖付け縫着部)87a部及び後袖付け線(又は袖付け縫着部)88aを備えている。さらに、前記延出部86の袖付け部は、ラグラン線として、延出前袖付け線(又は袖付け縫着部)87b及び延出後袖付け線(又は袖付け縫着部)88bを備えている。前袖付け線87a部及び後袖付け線88aの端部は、前記と同様に、袖下線30aとの交点部において、前記前身頃72及び後身頃73の袖刳り部(アームホール)77の鎌底部11に対応する部位(袖山端部)29a,29bを形成している。なお、延出前袖付け線87b及び延出後袖付け線88bと、前袖付け線87a部及び後袖付け線88aとは、変曲部IPを介して、連続してスムーズに曲線を形成しており、前記前袖刳り線(又は前袖刳り縫着部)78a及び後袖刳り線(又は後袖刳り縫着部)79aとそれぞれ対応して、互いに縫着可能である。
なお、図示するラグランタイプの上衣において、肩先に位置するショルダーポイントSPを基準として、袖部81のうち袖口側に位置する山部(又は領域)を、袖山部とすることができる。この袖山部は、前記図1〜図3に示すのと同様の形態を有している。なお、図1〜図3に示す袖山部25の第1の湾曲部(山形状湾曲部又は袖山ライン)は鎖線で示している。
すなわち、第2及び第3の湾曲部(湾曲上昇部)87,88のうち前記鎌底部11に対応する袖山端部29a,29b(湾曲上昇部87,88の端部又は鎌底部11との縫着部)は、前記と同様に、ショルダーポイントSPよりも低い位置に位置させている。
このようなラグランタイプの上衣71でも、前記セットインタイプの上衣と同様に、脇袖下部に余裕部を形成でき、運動機能性を向上できるとともに、デザイン性及び外観品質を損なうことがない。
なお、ラグラン袖は、肩のラインの途中から脇下に向かって切り替えられたセミラグラン袖;後袖がラグランの形態を有し、前袖がセットイン袖の形態を有するスプリット・ラグラン袖などであってもよい。
本発明の上衣(上着)は、前身頃及び後身頃と袖部とを備えていればよく、身頃(前身頃及び後身頃)には、必要であれば、例えば、前身頃2,42,72の前袖刳り縫着部8a,78a及び/又は後身頃3,43,73の後袖刳り縫着部9a,79aと、前袖部22,82の前袖付け縫着部27a,87a及び/又は後袖部23,83の後袖付け縫着部28a,88aとに、大きな袖刳り、マチ、タックやプリーツ加工などを施して、肩部の上部方向及び/又は前後方向に膨らむ余裕部を形成してもよいが、本発明では、このような余裕部を付加しなくても、脇袖下部に所定の運動量の余裕部(又はゆとり部)を形成でき、腕の動きに追従させることができる。さらに、必要であれば、脇袖下部にバイアスを形成してもよいが、本発明では、バイアスを形成しなくても脇袖下部に所定の運動量の余裕部(又はゆとり部)を形成できる。すなわち、本発明では、前身頃及び後身頃のシルエットを変更する必要がないため、前身頃及び後身頃の袖刳り部に余裕部を付加することなく、袖部と前袖部と後袖部とを互いに縫着することにより、着衣状態で肩部から腕部にかけて自然なラインを形成でき、デザイン性及び外観品質を高めることができるとともに、脇袖下部に余裕部(又はゆとり部)を形成できる。
前身頃2,42,72及び後身頃3,43,73の袖刳りライン(袖刳り縫着部)は、肩線を中心として対称形状であってもよいが、非対称形状である場合が多く、体型に応じて、前身頃2,42,72の前袖刳りライン(前袖刳り縫着部)8aの湾曲度(又は曲率半径)が、後身頃3,43,73の後袖刳りライン(後袖刳り縫着部)9aの湾曲度(又は曲率半径)よりも大きくてもよく小さくてもよい。
着衣状態及び展開状態で、袖部21,61,81の袖山部25を形成する第1の湾曲部(例えば、第1の山部)26は、前記特許文献2と異なり、両側部においてショルダーポイントから湾曲して上昇して下降する山部を形成することなく、ショルダーポイントから湾曲して下降するライン(袖山ライン又は袖付け縫着部)を有していればよく、通常、なだらかな湾曲状のラインである場合が多い。特に、第1の湾曲部26は、ショルダーポイントから両側部方向に湾曲して下降する山形状の形態(第1の山部)を有する場合が多い。前袖部と後袖部とは袖山線を中心として非対称形状又は対称形状であってもよく、体型に応じて、前袖部のライン(前袖山ライン又は前袖付け縫着部)の湾曲度は、後袖部のライン(後袖山ライン又は後袖付け縫着部)の湾曲度よりも大きくても小さくてもよく、互いに異なる湾曲形態であってもよい。
着衣状態及び展開状態において、第2の湾曲部27,87及び第3の湾曲部28,88は、前記第1の湾曲部26の所定の変曲部(谷部)から湾曲して上昇して、前記前身頃及び後身頃のアームホールの鎌底部に至る形態(湾曲して傾斜した形態)を有しており、第2及び第3の湾曲部は、通常、特許文献4と異なり、前身頃及び後身頃のアームホールの鎌底部に対応する部位(袖山端部)に向かって下降する下降域を備えていていない場合が多い。すなわち、第2及び第3の湾曲部は、変曲部(谷部)から、側部方向(袖山端部方向)に行くにつれて上昇して(なだらかに膨らんで)湾曲した稜線の形態を少なくとも含んでおり、例えば、山形形状の稜線において、少なくとも裾部から山部の頂部又は途中部に至る稜線の形態を有していてもよい。
さらに、展開状態において、袖部の袖山部の第2の湾曲部と第3の湾曲部とは、変曲部を介して、第1の湾曲部(第1の山部)の両側部にそれぞれ位置していてもよく、袖下線を共有して山形状の湾曲部(第2の山部)を形成し、変曲部を介して、第1の湾曲部の一方の側部に位置していてもよい。袖部の袖山部は、例えば、下記(1)又は(2)のいずれかの形態を有していてもよい。
(1)ショルダーポイントから両側部方向に湾曲して下降する山形状の第1の湾曲部(第1の山部)と、この第1の湾曲部の両側部にそれぞれ第2の湾曲部と第3の湾曲部とが位置する形態
(2)ショルダーポイントから両側部方向に湾曲して下降する第1の湾曲部(第1の山部)と、この第1の湾曲部の一方の側部に、第2の湾曲部と第3の湾曲部とが袖下線を共有して形成された山形状の湾曲部(第2の山部)が位置する形態
例えば、図1及び図2に示されるように、前記第1の湾曲部(第1の山部)の両側部にそれぞれ第2の湾曲部と第3の湾曲部とが隣接する形態を基本形態(形態(1))とするとき、前記形態(2)を変更形態とすることができ、この変更形態(2)では、前記基本形態の袖部の幅方向の適所に、所望する袖部の縫目線の位置に対応して切替え線を長手方向に形成し、図5に示すような袖部を形成してもよい。また、変更形態(2)において、切替え線(及び袖下線)は、袖部の縫目線に対応させて、前袖部22及び/又は後袖部23の適所に形成でき、切替え線は、前記後袖部の変曲部(谷部)IPに限らず、後袖部23の変曲部IPに隣接する部位、前袖部22の変曲部(谷部)IP又はこの変曲部に隣接する部位などに形成してもよい。そのため、基本形態(1)において、第1の湾曲部(第1の山部)の一方の側部に位置する第2の湾曲部は、山形形状の稜線において、一方の裾部から一方の傾斜部に沿って上昇(湾曲して傾斜)し、頂部を経て、鎌底部に対応する部位(袖山端部)に向かって他方の傾斜部の途中部(袖下線若しくは接続線)にまで下降するほぼ半山形の形態を備え、他方の側部に位置する第3の湾曲部は、前記第2の湾曲部の前記途中部(袖下線若しくは接続線)から他方の裾部に下降する傾斜片状の形態を備えていてもよく;上記とは逆に、第2の湾曲部が傾斜片状の形態を備え、第3の湾曲部が半山形の形態を備えていてもよく;変更形態(2)において、前記半山形状の形態の第2の湾曲部と傾斜片状の形態の第3の湾曲部とが袖下線(又は接続線)を共有して第2の山部(第1の山部に隣接する第2の山部)を形成してもよい。通常、第2の湾曲部及び第3の湾曲部は、山形の頂部から下降して袖山端部に至ることなく、裾部から山部の頂部に至るまでの稜線の形態を有している場合が多い。第2の湾曲部と第3の湾曲部とは、袖下線を中心として線対称の形態であってもよいが、通常、非対称の形態である場合が多い。
袖幅方向において、袖山部の変曲部(谷部、若しくは変曲点)は、前袖部及び後袖部において、それぞれ体型に応じて適所(中央部、袖山線側、又は袖山線から遠ざかる袖下部側)に位置していてもよく、前袖部及び後袖部の幅をそれぞれ「W」としたとき、袖山線から0.25W〜0.8W、好ましくは0.3W〜0.7W、さらに好ましくは0.4W〜0.6W(例えば、0.45W〜0.55W)程度の位置に形成してもよい。変曲部(又は変曲点)が袖山線側に近づきすぎると、デザイン性が低下しやすくなり、袖山線から過度に遠ざかると、第2及び第3の湾曲部による余裕部での運動量が小さくなる。そのため、着衣状態において、変曲部は、袖幅方向において、前袖部及び後袖部の中央部に位置する場合が多い。なお、変曲部(谷部、若しくは変曲点)の位置は、第1の湾曲部と、第2の湾曲部及び第3の湾曲部とが交わる点(曲率が「0」となる点)とすることができる。
さらに、前袖部及び後袖部において、それぞれ、ショルダーポイントから前記変曲部(谷部)への長さと、変曲部(谷部)から鎌底部に対応する部位(袖山端部)への長さとは、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、前記のように、前袖部及び後袖部において、ショルダーポイントから変曲部への長さを「A」及び「B」とし、前記変曲部から鎌底部に対応する部位(袖山端部)への長さを「C」及び「D」としたとき、それぞれ、C<A,C=A,C>A、及びD<B,D=B,D>Bの関係を満たしてもよく、通常、「C」及び「D」は、「A」及び「B」に比べて、それぞれ同等又は大きくてもよく(C≧A及びD≧B)、特に大きい場合が多い(C>A及びD>B)。ショルダーポイントから変曲部への長さ「A」及び「B」が大きすぎると、第2及び第3の湾曲部による余裕部での運動量が小さくなり、小さすぎると肩部などに皺部や膨出部などが生成しやすくなり、デザイン性が低下する。
さらに、第2及び第3の湾曲部のうち前記鎌底部に対応する部位(袖山端部、第2及び第3の湾曲部又は湾曲上昇部の端部)は前記ショルダーポイントよりと同等(又は同じ)若しくはショルダーポイントも低い位置に位置している。例えば、前記図2に示すように、従来の代表的又は一般的な袖部、すなわち、袖山部の袖山ライン(袖付け線又は袖付け縫着部)が、ショルダーポイントSPから湾曲して下降して鎌底部に対応する部位(袖山端部)32a,32bに至る単一の仮想の湾曲ライン(点線)31を有する基準袖部(又は比較袖部)とし、この基準袖部において前袖部の袖山端部32aと後袖部の袖山端部32bとを結ぶ直線を仮想の基準直線(補助線)33とし、この基準直線からのショルダーポイントSPの高さを「X」、前記基準直線(補助線)33からの鎌底部に対応する部位(袖山端部)29a,29bの高さを「Y」、前記基準直線33からの変曲部IPの高さを「Z」としたとき、これらの高さ「X」「Y」「Z」の関係は以下のようであってもよい。すなわち、袖山端部の高さ「Y」は、ショルダーポイントSPの高さ「X」と同等又は同じ(Y≒X)であってもよく、通常、高さ「X」よりも低い(Y<X)場合が多い。袖山端部の高さ「Y」は、ショルダーポイントSPの高さ「X」に対して、例えば、30〜98%(例えば、40〜95%)、好ましくは50〜97%(例えば、60〜90%)、さらに好ましくは70〜95%(例えば、75〜90%)、特に、80〜95%(例えば、85〜90%)程度であってもよい。変曲部IPの高さ「Z」は、ショルダーポイントSPの高さ「X」に対して、例えば、20〜85%(例えば、30〜80%)、好ましくは50〜80%(例えば、55〜75%)、さらに好ましくは60〜75%(例えば、60〜70%)程度であってもよい。変曲部IPの高さ「Z」は、通常、袖山端部の高さ「Y」よりも小さい。
なお、袖部は、上下左右が非対称又は対称であってもよく、前記のように、通常、非対称である場合が多い。また、袖部(セットイン袖など)は、一枚袖に限らず、二枚袖であってもよい。このような二枚袖は、前記前袖部及び後袖部に対応する2つの袖部(例えば、外袖部及び内袖部)で形成でき、2枚の袖部の縫い目(縫着部)は前記図1〜3に示す例と異なり、袖下(又は袖底)から延びている必要はない。
また、上衣は、セットイン袖(セットインスリープ)又はラグラン袖(ラグランスリーブ)のいずれかの袖部を備えていてもよい。本発明は、脇下部に余裕部(又はゆとり部)を形成できるため、セットイン袖に好適に適用でき、このセットイン袖を備えた上衣に効果的である。
本発明では、前身頃及び後身頃の袖刳り部に余裕部を付加することなく、袖部と前袖部と後袖部とを互いに縫着することにより、第2及び第3の湾曲部の領域(面積)により脇下部に余裕部が付与でき、上腕を下に降ろした状態では、余裕部を脇下に隠すことができ、上腕を上方に上げても、身頃の引っ張り量を前記余裕部で吸収でき、突っ張り感がない。そのため、上衣は、長袖、八分袖、七分袖、五分袖及び半袖のいずれの袖を備えていても、デザイン性及び運動機能性を向上できる。特に、袖が長くなるにつれて、上腕の上方への移動に伴って身頃の引っ張り量が大きくなるものの、前記脇下部の余裕部で引っ張り量を吸収できる。さらに、生地は伸縮性生地であってもよいが、前記のように、上腕の上方への移動に伴って身頃の引っ張り力が大きく作用する非伸縮性生地を用いても、デザイン性及び運動機能性を向上できる。そのため、本発明は非伸縮性生地又は伸びにくい生地で長めの袖を有する上衣を形成するのに有用である。
本発明の上衣は、伸縮性生地で作製してもよいが、非伸縮性生地及び/又は伸縮性の少ない生地であっても、運動量を確保できる。そのため、非伸縮性生地及び/又は伸びにくい生地を利用した上衣に有効である。さらに、本発明の上衣は、長袖、八分袖、七分袖、五分袖、半袖などを有していてもよい。一般に、袖が長くなるほど、運動性が低下しやすいものの、本発明の上衣は、袖部が長くても運動量を大きくできる。そのため、長袖、八分袖、七分袖などの袖部の長い上衣に有効に適用できる。
なお、生地は、例えば、JIS L 1096 A法(ストリップ法)に準拠して測定したとき、縦方向の破断伸縮度が、0〜30%、好ましくは1〜25%、さらに好ましくは3〜15%程度の生地であってもよい。