現行の癌処置は、主として化学療法、放射線療法、および手術に基づく。その処置が早期段階で適用される場合の高い成功率にもかかわらず、進行した疾患のほとんどの場合では、腫瘍が手術により切除できないか、または投与可能な放射線量および化学療法用量が正常な細胞に対する毒性により制限されるので治癒不能である。この問題を緩和するために、より高い選択性と効力を追求するバイオテクノロジー戦略が開発されている。中でも、遺伝子療法およびウイルス療法では、癌に対して治療目的を持ったウイルスを使用する。遺伝子療法では、ウイルスを、その複製を回避し、治療用遺伝物質のビヒクルまたはベクターとして機能するように改変する。逆に、ウイルス療法では、腫瘍細胞で選択的に複製および増殖するウイルスを使用する。ウイルス療法では、腫瘍細胞は治療遺伝子の効果よりもむしろ細胞内でのウイルスの複製により生じる細胞変性効果によって死滅する。腫瘍細胞における優先的複製は、腫瘍溶解として知られている。厳密な意味では、腫瘍で選択的に複製するウイルスは腫瘍溶解性と呼称されるが、より広義では、腫瘍溶解性という語は、選択性がなくとも腫瘍細胞を溶解することができるいずれの複製可能ウイルスにも適用できる。本明細書では、腫瘍溶解性という用語は両方の意味で使用される。
免疫療法は、腫瘍を排除するための免疫系の使用に基づく。処置の主要な概念は、腫瘍細胞を認識し、それらをする選択的に破壊するためのエフェクター細胞を活性化させる免疫系の能力を刺激するまたは回復させることである。種々の免疫療法は、a)既存の抗腫瘍免疫を改善することを目的とする受動型と、b)患者の免疫系を直接刺激して抗腫瘍免疫応答を惹起させることを含む能動型、の2群に分けられる。受動免疫療法は、免疫系を抑制するシグナルを遮断する、イピリムマブ(CTLA−4)、ニボルマブ(PD−1)、またはMDX−1105(PD−L1)などのモノクローナル抗体を含む(Pardoll, D.M., Nat Rev Cancer. 2012 Mar 22;12(4):252-64)。この群には、自己T細胞の移入も見られる。抗腫瘍能を付与するにはいくつかの技術があるが、総てがある程度の細胞のエクス・ビボ(ex vivo)操作を含む。細胞のエクス・ビボ操作には、a)細胞を腫瘍抗原で刺激し、これらの細胞を特異的に増幅すること、およびb)腫瘍関連抗原に関してトランスジェニックな高親和性T細胞受容体(TCR)を挿入すること、またはそのTCRをキメラ抗原受容体(CAR)で置換することにより腫瘍特異的受容体を導入することが含まれる(Kalos, M. and June, C.H., Immunity 2013 Jul 25;39(1):49-60)。能動療法の場合、1つのアプローチは、イン・ビボ(in vivo)で患者の免疫系を再活性化または再刺激することである。例えば、免疫刺激性サイトカインIL−2が黒色腫および腎臓癌を処置するために10年にわたって使用されている(Amin, A. and White, R.L. Jr., Oncology (Williston Park). 2013 Jul;27(7):680-91)。加えて、TNF−α(van Horssen, R., et al., Oncologist. 2006 Apr;11(4):397-408)およびIFN I型およびII型(Kotredes, K.P. and Gamero, A.M., J Interferon Cytokine Res. 2013 Apr;33(4):162-70)も癌処置に使用されている。最後に、近年より開発が進んだ分野の1つが治療用ワクチンであった(Myc, L.A., et al., Arch Immunol Ther Exp (Warsz). 2011 Aug;59(4):249-59)。DNAに基づくワクチン(Bei, R. and Scardino A., J Biomed Biotechnol. 2010;2010:102758)、ペプチドに基づくワクチン(Arens, R., et al., Semin Immunol. 2013 Apr;25(2):182-90; Vacchelli, E., et al., Oncoimmunology. 2012 Dec 1;1(9):1557-1576)、樹状細胞に基づくワクチン(Bonaccorsi, I., et al., Immunol Lett. 2013 Sep-Oct;155(1-2):6-10; Palucka, K. and Banchereau, J., Immunity. 2013 Jul 25;39(1):38-48)、およびウイルスベクターに基づくワクチン(Larocca, C. and Schlom, J., Cancer J. 2011 Sep-Oct;17(5):359-71)を含む広範な製剤が免疫誘導のために使用されてきた。これまでの多大な努力にもかかわらず、この種の療法の有効性は依然として限定される。克服すべき主要な障害は、腫瘍免疫抑制と、誘導される応答の能力および特異性である。
癌ウイルス療法は、遺伝子療法よりも古い。ウイルスを用いた癌治癒に関する最初の報告は、過去1世紀の最初に遡る。1912年、De Paceは子宮頸癌において狂犬病ウイルスの接種後に腫瘍退縮を得た(De Pace N., Ginecologia 1912;9:82-89)。De Pace 1912以来、多くの種類のウイルスが、腫瘍にそれらを処置するために注射されてきた。自律的パルボウイルス、水疱性口内炎ウイルス、およびレオウイルスなどの天然の腫瘍親和性を提供するウイルスが存在する。他のウイルスは、腫瘍において選択的複製を達成するために遺伝的に改変することができる。例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)は、腫瘍細胞などの活発な増殖下にある細胞には不要な酵素活性であるリボヌクレオチドレダクターゼ遺伝子を欠失させることにより腫瘍指向性とされた。しかしながら、アデノウイルスが、その低い病原性と腫瘍細胞に感染する高い有効性のために、癌のウイルス療法および遺伝子療法において最も慣用されるウイルスとなった。
癌ウイルス療法における複製可能なウイルスの使用は、ウイルス複製の結果として、腫瘍細胞が破壊され、放出されたウイルス後代が周囲の細胞に感染するという概念に基づく。何回か複製した後、腫瘍の全面的破壊が達成される。原理上、最初に数細胞に感染するだけで、ウイルス複製効果が、ウイルスが腫瘍塊中に拡大増殖するような連鎖反応を生じさせる。ひと度、ウイルスが末梢の正常細胞に到達して感染すると、ウイルスはその腫瘍選択性のためにそれらの細胞では複製できず、正常組織は病原性効果を受けない。
癌ウイルス療法のためのウイルス種を選択する際に考慮すべき種々の側面がある。アデノウイルスは、二十面体キャプシドを有する直径70〜90nmのエンベロープを持たないウイルスである。それらのゲノムは、両末端の逆方向末端反復配列(ITR)と5’末端に結合された末端タンパク質を有する、25〜45キロベースの間で変動する大きさの直鎖二本鎖DNAである(Russell, W.C., J Gen Virol 2009 90:1-20)。アデノウイルスは溶菌複製サイクルを持ち、従って、自らがその中で複製する細胞を死滅させる。加えて、アデノウイルス生物学の幅広い知識とアデノウイルスDNAの操作の可能性は、いくつかの戦略により、選択性を付与し、腫瘍細胞感染力などの他の特徴を改善し、かつ、腫瘍溶解効力を増強することを容易にする。また、アデノウイルスは、突然変異率が極めて低く、免疫適格患者においては極めて軽度な病状のウイルスである。加えて、アデノウイルスの複製能は高く、これにより、高濃度量(1012〜1013ウイルス粒子(vp)/mL)での生産が可能である。
二十面体キャプシドは3つの主要タンパク質により形成され、そのうちヘキソン三量体が最も多い(Nemerow, G.R., et al. Virology 2009 384:380-8)。キャプシドの12の各頂点はまた、ファイバーと共有結合しているペントンベースである5量体タンパク質を含有する。このファイバーは、ペントンベースから突き出ている三量体タンパク質であり、ノブのあるロッド様構造である。他のウイルスタンパク質IIIa、IVa2、VI、VIII、およびIXも、ウイルスキャプシドに会合している。タンパク質VII、小ペプチドミュー、および末端タンパク質(TP)がDNAに会合している。タンパク質Vは、タンパク質VIを介してキャプシドとの構造的連結を提供する。
ヘキソンタンパク質は最も多いキャプシドタンパク質であり、ウイルスの総タンパク質量の63%を占める。タンパク質は、異なる、十分に定義された構造領域を持つ。V1ドメインとV2ドメインは各サブユニットのベースを形成する。これらのドメインは「ダブルバレル」または「ダブルゼリーロール」コンフォメーションを採用し、擬似六角形となり、これがウイルスシェルのより大きなアセンブリを可能とする。これらの構造はベースではVC領域および上半分ではループDE2により分離される。これらの領域は保存性が高く、従って、V1とV2の安定化に重要な役割を果たす。DE1、FG1、およびFG2はこの三量体の頂部を形成している。DE1およびFG1ゾーンは、可変性の高いフレキシブルな領域を含む、その構造は決定されていない。これらの領域は超可変領域(HVR)と呼ばれる。これらのHVRにおける種々の修飾が、ウイルスアセンブリに影響を及ぼすことなく行える(Roberts, D.M., et al., Nature. 2006 May 11;441(7090):239-43; Alba, R., et al., Blood. 2009 Jul 30;114(5):965-71; Matthews, Q.L., Mol Pharm. 2011 Feb 7;8(1):3-11)。
ヒトアデノウイルスは、アデノウイルス科(Adenoviridae)に分類される。ヒトアデノウイルスの57の血清型が確認されており、A〜Gの6つの分化群に分類される。C群に属すヒトアデノウイルス5型(Ad5)は、36キロベース(kb)の二本鎖直鎖DNAを含む二十面体タンパク質キャプシドである。アデノウイルスは、ウイルスゲノムを複製するために細胞機構に依存する。アデノウイルスは休止細胞に感染し、それらに細胞周期のS期様の状態を引き起こしてウイルスDNAの複製を可能とする。Ad5ゲノムは、両DNA鎖に8つのオーバーラップする転写単位を有する。これら8つの単位装置は、転写産物の時系列:前初期(E1A)、初期(E1B、E2、E3、E4)、中間期(IX、IVa)、および後期(L1−L5)遺伝子に従って分類される(Russell, W.C., J Gen Virol 2009 90:1-20)。ゲノムの終端には2つのITR配列が存在し、それらは互いに同一であり、ウイルスDNA複製の起点を含む。アデニンおよびチミンに富む配列により形成されるビリオンパッケージングシグナルは、ゲノムの左端に存在する。
成人では、Ad5感染は多くの場合で無症候性であり、小児では風邪および結膜炎を引き起こす。一般的に、Ad5は上皮細胞に感染し、これは自然感染では気管支上皮細胞である。Ad5は、キャプシドの12個の頂点からアンテナとして延びるファイバーと、コクサッキー−アデノウイルス受容体(CAR)として知られる、細胞間接着に関与する細胞タンパク質との相互作用の手段により細胞に侵入する。ウイルスDNAが核に到達すると、初期遺伝子(E1〜E4)の転写が始まる。発現される最初の遺伝子は、初期1A領域(E1A)からでのものある。E1Aは、細胞タンパク質pRb(網膜芽細胞腫タンパク質)と結合して転写因子E2Fを放出し、E2、E3、およびE4などの他のウイルス遺伝子、ならびに細胞周期を活性化する細胞遺伝子の転写を活性化する。他方、E1Bは転写因子p53と結合して、細胞周期を活性化し、感染細胞のアポトーシスを阻害する。E2は、ウイルス複製のためのタンパク質をコードしている。E3は、抗ウイルス免疫応答を阻害するタンパク質をコードしている。E4は、ウイルスRNA輸送に関与するタンパク質をコードしている。初期遺伝子の発現は、ゲノムの複製をもたらし、ひと度、複製されれば、主要後期プロモーターの活性化をもたらす。このプロモーターは、キャプシドを形成する構造タンパク質をコードする総てのRNAが得られるように差次的スプライシングにより処理されるmRNAの発現を駆動する。
腫瘍溶解性アデノウイルスの設計に関して考慮すべき2つの重要な点があり、それは選択性と効力である。腫瘍細胞に対する選択性を達成するために、3つに戦略が用いられている:正常細胞における複製に必要であるが腫瘍細胞における複製には無くてもよいウイルス機能の欠失;ウイルスプロモーターの、例えば、腫瘍選択的プロモーター下でウイルス複製を開始する遺伝子の発現を駆動する腫瘍選択的プロモーターでの置換;および宿主細胞の感染に含まれるウイルスキャプシドタンパク質の修飾。このような遺伝子改変を用いた場合に相当なレベルの選択性が得られ、腫瘍細胞での複製効率は正常細胞の10000倍であった。
アデノウイルスは、自らの遺伝物質の複製のために宿主細胞の機構を必要とする。従って、細胞複製の活性化またはアポトーシスの阻害に関与するウイルス遺伝子の突然変異または欠失により、条件付き複製ウイルスが得られる。対照的に、腫瘍細胞は細胞周期の活性化とアポトーシス経路の阻害の両方を有し、細胞複製の活性化またはアポトーシスの阻害に関与するウイルス遺伝子に突然変異または欠失を有するアデノウイルスの複製を可能とする。例えば、p53は、感染細胞において活性化され、その効果は通常E1b−55Kにより遮断される。p53はおよそ50%の腫瘍で突然変異を受けていることを考えて、ウイルスdl1520(ONYX−015)が腫瘍溶解性ウイルスとして使用された(Bischoff, J.R., et al., Science. 1996 Oct 18;274(5286):373-6)。このウイルスは、遺伝子E1b−55Kの827bpの欠失を有する。選択性機構は、機能的p53を有する正常細胞は、ウイルスの複製周期を完了させる前にアポトーシスに入るという事実に基づく。しかしながら、非機能的p53(または調節に影響を与える他の障害)を有する腫瘍細胞は、ウイルスを通常通り複製される(Hall, A.R., et al., Nat Med. 1998 Sep;4(9):1068-72; Rothmann, T., et al., J Virol. 1998 Dec;72(12):9470-8; Goodrum, F.D. and Ornelles, D.A., J Virol. 1998 Dec;72(12):9479-90)。
選択性を達成するための別の戦略では、E1Aの部分的欠失により、正常細胞では複製を制限するが、癌細胞などの標的細胞では複製を可能とする。CR2(定常領域2)における24塩基対の欠失を特徴とする条件付き複製ウイルスが作出され、神経膠腫および乳癌異種移植の処置において有効かつ選択性があることが示された(Fueyo, J., et al., Oncogene 2000 19:2-12; Heise, C., et al., Nat Med 2000 6(10):1139-9)。それらの癌特異性は、機能不全型E1AがE2F1転写因子を放出できず、そのために遊離型のE2F1が必要となることによるものである。E2F1は癌細胞に豊富で、ほとんどの場合でpRb経路に障害がある(Hanahan, D. and Weinberg, R.A., Cell. 2000 Jan 7;100(1):57-70)。
腫瘍選択性を付与するための別の戦略は、アデノウイルスVA−RNA遺伝子の欠失を有し(Cascallo, M., et al., Cancer Res. 2003 Sep 1;63(17):5544-50; Cascallo, M., et al., Hum Gene Ther. 2006 Sep;17(9):929-40)、腫瘍細胞に一般に存在するRAS経路の活性化またはインターフェロン経路の末端切断に依存する、アデノウイルスの使用である。
腫瘍選択性を付与するための別の戦略は、特定の腫瘍種に特異的なプロモーターを用いてウイルス複製に必須のアデノウイルス遺伝子の発現を制限することである。α−フェトタンパク質プロモーター(Hallenbeck, P.L., et al., Hum Gene Ther. 1999 Jul 1;10(10):1721-33)などの種々の特異的プロモーターを有するアデノウイルスが作出されている。このウイルスは、α−フェトタンパク質を過剰発現する肝癌細胞で選択的に複製する。同様に、1)ヒト前立腺特異的抗原(PSA)を発現する前立腺癌細胞での選択的複製を達成するための、PSA遺伝子由来のプロモーター(Rodriguez, R., et al., Cancer Res. 1997 Jul 1;57(13):2559-63)、2)ヒトオステオカルシン(hOC)を発現する前立腺癌細胞での選択的複製を達成するための、hOCプロモーター(Hsieh et al., Cancer Res. 2002 Jun 1;62(11):3084-92)、および3)MUC1陽性乳癌細胞での選択的複製を達成するためのDF3/MUC1プロモーター(Kurihara, T., et al., J Clin Invest. 2000 Sep;106(6):763-71)を用いてE1Aの発現を制御するウイルスが構築されている。
特定の腫瘍種に特異的なプロモーターとは対照的に、E2F−1プロモーターなど、E2F転写因子に応答するプロモーターは、広範囲の腫瘍においてウイルス複製に必須のアデノウイルス遺伝子の発現を可能とする(Cascallo, M., et al., Mol Ther. 2007 Sep;15(9):1607-15; Johnson, L., et al., Cancer Cell. 2002 May;1(4):325-37, Rojas, J.J., et al., Gene Ther. 2009 Dec;16(12):1441-51、Tsukuda, K., et al., Cancer Res. 2002 Jun 15;62(12):3438-47)。正常細胞では、E2F−1プロモーターからの必須アデノウイルス遺伝子の発現は、E2FとpRbの会合によって阻害される。しかしながら、腫瘍細胞では、pRbの不在または高リン酸化の結果として「遊離型」E2Fのレベルが上昇し、その結果、E2F−1プロモーターから必須アデノウイルス遺伝子が発現される。例えば、ICOVIR15Kアデノウイルス(配列番号1)は、内在するE1Aプロモーターに挿入されているパリンドロームのE2F結合部位を含む。これらの部位の挿入により、癌細胞などの高複製細胞でE1AΔ24タンパク質の選択的発現を可能とする。加えて、ICOVIR15KのE1AΔ24タンパク質は、E1AのpRb結合部位の欠失を有し、これにより、突然変異アデノウイルスは、休止中の正常細胞では、E2FからのpRb解離が不能となる。
選択性を達成するためのウイルスキャプシドタンパク質の改変の一例は、肝向性を低減するためのファイバーシャフトのヘパリン硫酸グリコサミノグリカン(HSG)結合部位KKTK(配列番号26)の除去である(Bayo-Puxan, N., et al., Hum Gene Ther. 2009 Oct;20(10):1214-21)。ICOVIR15Kアデノウイルスでは、これは、ファイバーシャフトのHSG結合部位KKTK(配列番号26)をインテグリン結合モチーフ(RGDK)(配列番号27)で置換することにより達成された。ICOVIR15Kアデノウイルスにおけるこの修飾は、イン・ビボ試験モデルにおいて野生型ウイルスファイバーに関して腫瘍/肝臓形質導入比を改善し、毒性プロフィールを増強し、癌細胞のウイルス感染力を高め、かつ、抗腫瘍有効性を高める(Rojas, J.J., et al., Gene Ther. 2012 Apr;19(4):453-7)。
腫瘍溶解効力に関しても同様に、それを増強するためのいくつかの遺伝子改変も同様に記載されている。これらの改変は、細胞へのウイルスの侵入または細胞からのウイルスの放出のいずれかに影響を及ぼす。侵入段階を増強するためには、細胞に感染するためにウイルスが使用するキャプシドタンパク質が改変された。例えば、ファイバーへのRGDペプチド(アルギニン−グリシン−アスパラギンモチーフ)の挿入により、アデノウイルスは、野生型アデノウイルスの場合と同様に内部移行するためだけではなく、細胞と合体するためにもインテグリンを使用することが可能となる。インテグリンをウイルスの細胞受容体として使用することで、感染力と腫瘍溶解効力が増す。
感染細胞からのウイルスの放出を増やす修飾に関しては、これらの修飾は、E1b−19Kの欠失、E3−11.6K(ADP)の過剰発現、および原形質膜におけるE3/19Kタンパク質の局在を含む。E1b−19Kは、Bcl−2と同族のアポトーシス阻害剤である。E1b−19K欠失は、感染細胞の早期アポトーシスにより細胞死を増す。この早期アポトーシスは多くの場合、多くの感染細胞株で総ウイルス生産の低下をもたらすが、細胞培養においては、ウイルスの急速放出とその後のウイルス拡散を加速化する。よって、プラークアッセイにおいて、E1b−19Kを発現しない突然変異体は、野生型アデノウイルスに比べて大きなプラークの表現型を呈する。E3−11.6K(ADP)タンパク質は感染細胞の溶解に役割を果たし、ADPの過剰発現は、核内に蓄積されたウイルスの放出を増す。ADP過剰発現ウイルスの表現型もまた、大きなプラークと感染細胞の上清中により多くのウイルスが存在することを特徴とする。ADPの過剰発現は、1)ADP以外の、またはADPおよびE3−12.5K以外のE3遺伝子の除去;ならびに2)強力なプロモーターの後にADP遺伝子を挿入することの2つの機構によって達成された。ADP以外の、またはADPおよびE3−12.5K以外のE3遺伝子の除去により、E3プロモーターにより駆動されるmRNA前駆体における他のスプライシング部位が除去される。これらのスプライス部位をめぐる競合がなければ、ADPをコードするmRNAのプロセシングが優先される。
アデノウイルスの腫瘍溶解効力を高めるために使用される別の戦略は、腫瘍溶解性アデノウイルスのゲノムに治療遺伝子を挿入することによる「武装腫瘍溶解性アデノウイルス」の作出である。この場合、治療遺伝子は、とりわけ、バイスタンダー効果(すなわち、隣接している非感染を死滅させる)によるプロドラッグの活性化、腫瘍に対する免疫系の活性化、アポトーシスの誘導、血管新生の阻害、または細胞外マトリックスの除去の手段によって非感染腫瘍細胞の死滅を媒介しなければならない。これらの場合、治療遺伝子の発現の方法および時間がこの治療アプローチの最終結果に重要となる。
腫瘍に対する免疫系を活性化させるために治療遺伝子で武装した腫瘍溶解性ウイルスに関しては、ウイルス感染細胞は、交差提示のための非ウイルス抗原(すなわち、腫瘍抗原)の送達が優れ(Schulz, O., et al., Nature. 2005 Feb 24;433(7028):887-92)、ウイルスにより誘導される細胞死は、樹状細胞(DC)による取り込みに関する腫瘍関連抗原のアベイラビリティーを高め(Moehler, M.H., et al., Hum Gene Ther. 2005 Aug;16(8):996-1005)、次に、細胞傷害性T細胞の刺激を増強すると思われる。さらに、ウイルス感染は、腫瘍からのサイトカイン生産のバランスを変化させ、次に、すなわち、腫瘍微小環境の免疫抑制の性質を打ち消すことにより腫瘍に対する免疫反応の性質に影響を及ぼし得る(Prestwich, R.J., et al., Expert Rev Anticancer Ther. 2008 Oct;8(10):1581-8)。最も重要なこととして、ウイルスは、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)などの高免疫原性タンパク質を発現するように操作することができる。免疫原性タンパク質が腫瘍細胞内で発現されると、それらは特異的かつ持続的抗腫瘍免疫の強力な刺激因子となる。免疫療法遺伝子の腫瘍細胞への導入、およびさらには、タンパク質へのそれらの翻訳は、免疫応答の活性化およびより効率的な腫瘍細胞の破壊をもたらす。この点で最も適切な免疫細胞は、ナチュラルキラー細胞(NK)および細胞傷害性CD8+ T細胞である。
腫瘍溶解性ウイルスに対する免疫応答は、ウイルス療法を開発する上で極めて重要なパラメーターの1つである。宿主免疫応答に関して、一見反対の2つの見解が現れている。1つは、免疫系は、それが総ての腫瘍細胞を破壊できるまでは腫瘍溶解性ウイルスを排除するバリアであるというものである。もう1つは、ウイルスは抗腫瘍免疫応答を誘導するためのビヒクルであるというものである。
用語「免疫優性(immunodominance)」および「免疫優性の(immunodominant)」は、特定の抗原決定基に対する特に強力な体液性免疫応答を意味して1960年代および1970年代に初めて使用された(Curtiss, L.K. and Krueger, R.G., Immunochemistry. 1975 Dec;12(12):949-57; Johnston et al., J Pathol Bacteriol. 1968 Apr;95(2):477-80)。数年後、様々な著者が、試験マウスにおいて様々な病原体に対する応答が、病原体に応じてH−2の特定の対立遺伝子に限定されたこと、または主要な応答がある対立遺伝子特異的H−2に限定されたことを記載している(Biddison et al., J. Ex. Med. 1978 Dec 1; 148(6):1678-86; Doherty P.C. and Zinkernagel R.M., Nature. 1975 Jul 3;256(5512):50-2)。また、特定のH−2対立遺伝子が所与の抗原決定基に対する低い反応性または非反応性に関連していることも記載された(Bennink, J.R. and Yewdell, J.W., J Exp Med. 1988 Nov 1;168(5):1935-9)。抗原決定基のペプチド特性に関する知識が進展した際に、検出可能な免疫応答を誘導するために必要とされる抗原の量に従った免疫優性または亜優性決定基の存在が記載された(Sercarz, E.E., et al., Annu Rev Immunol. 1993;11:729-66)。エピトープ免疫優性は、複数の抗原を有し、3〜6の異なる対立遺伝子(ヒトの場合)によりMHCクラスIに提示され得る何百または何千というペプチドを生成するウイルスまたは細菌による感染の後に見られる現象を意味する。しかしながら、これらのエピトープのうち少数だけが実際に特定のMHC対立遺伝子により提示され、応答を生じ得る(Yewdell, J.W. and Del Val, M., Immunity. 2004 Aug;21(2):149-53)。免疫履歴、感染経路、ウイルスタンパク質および抗原提示の量、ペプチド/MHC複合体の輸送および安定性、MHCの複対立遺伝子の共発現、ナイーブ細胞のレパートリーにおけるT細胞前駆体の頻度、MHC/TCR相互作用、メモリーCTLの生成、および制御性T(Treg)細胞の生成を含め、エピトープ免疫優性に関与する種々の因子が存在する。全体的に見れば、免疫優性の階層を定義するために最も重要なパラメーターは、エピトープが効率的に処理され、所与のMHC対立遺伝子に係留するための少なくとも最小限の閾値親和性を持つべきものである(Beekman et al., J Immunol. 2000 Feb 15;164(4):1898-905; Seifert et al., J Clin Invest. 2004 Jul;114(2):250-9; Sette, A., et al., J Immunol. 1994 Dec 15;153(12):5586-92; Regner et al., Viral Immunol. 2001;14(2):135-49)。これらの最小限の特徴がなければ、エピトープは、正常なタンパク質分解過程で生成される多数の非免疫原性ペプチドと違わないであろう。
これまでの努力にもかかわらず、癌の処置に有効な新たな治療アプローチを見出すことがなお必要である。
本発明は、限定されるものではないが、アデノウイルスタンパク質の免疫優性T細胞エピトープにおける1以上の機能欠失を有する腫瘍溶解性アデノウイルスを含む新規な薬剤を提供する。関連のポリペプチドおよびポリヌクレオチド、前記腫瘍溶解性アデノウイルスを含んでなる組成物、および前記腫瘍溶解性アデノウイルスを作製または生産する方法も提供される。新規な腫瘍溶解性アデノウイルスを使用する方法、例えば、腫瘍細胞溶解を誘導する、腫瘍増殖を阻害する、癌を処置する、および/または癌に対する免疫応答を増強する方法もさらに提供される。
I.定義
本発明の理解を助けるために、いくつかの用語および句を以下に定義する。
本明細書に言及される用語「アデノウイルス」は、ヒトから、またおなじくらい他の哺乳動物および鳥類から単離された52を超えるアデノウイルスサブタイプを示す。例えば、Strauss, S.E., "Adenovirus Infections in Humans," in The Adenoviruses, Ginsberg, ed., Plenum Press, New York, N.Y., pp. 451-496 (1984)参照。用語「アデノウイルス」は、省略形「Ad」で本明細書に言及することができ、例えばAd5のように、その後に血清型を示す数字が続く。
本明細書で使用する場合、用語「腫瘍溶解性アデノウイルス」は、腫瘍細胞において複製できるまたはそれが複製可能アデノウイルスを意味する。腫瘍溶解性アデノウイルスは、非複製アデノウイルスとは異なり、非複製アデノウイルスは標的細胞において複製能がない。非複製アデノウイルスは、その目的が無傷細胞内で治療遺伝子を発現させることであって細胞の溶解ではないので、遺伝子療法において、標的細胞に対する遺伝子の担体として使用される。対照的に、腫瘍溶解性アデノウイルスの治療作用は、複製して標的細胞を溶解させ、それにより、腫瘍細胞を排除する能力に基づく。本明細書で使用する場合、腫瘍溶解性アデノウイルスには、選択性はなくとも腫瘍細胞を溶解することができる複製可能アデノウイルスと、腫瘍で選択的に複製する腫瘍溶解性アデノウイルスの両方が含まれる。
本明細書で使用する場合、用語「複製可能アデノウイルスベクター」または「複製可能アデノウイルス」は、特定の細胞または組織でウイルス複製に必要ないずれの遺伝子機能にも欠陥のない、それぞれいずれのアデノウイルスベクターまたはアデノウイルスも意味する。ベクターまたはアデノウイルスは、複製し、封入され得るが、特定の細胞または組織で選択的にまたは条件付きでのみ複製する場合がある。
本明細書で使用する場合、「腫瘍特異的腫瘍溶解性アデノウイルス」は、増殖性障害の細胞、例えば、癌細胞を選択的に死滅させるアデノウイルスを意味する。「腫瘍特異的腫瘍溶解性アデノウイルス」は、ウイルス複製を支持する所与の表現型を有する所定の細胞集団において優先的に細胞増殖を阻害するか、細胞溶解を引き起こすか、またはアポトーシスを誘導する(ひとまとめに死滅させると見なされる)。このようなウイルスは、細胞増殖を阻害する、細胞溶解を引き起こす、アポトーシスを誘導する、もしくはそうでなければ所定の細胞表現型を持たない細胞で複製することができないか、またはその能力が限定されている。癌細胞の死滅は、生存細胞総数、細胞変性効果、新生細胞のアポトーシス、癌細胞におけるウイルスタンパク質の合成(例えば、代謝標識、ウイルスタンパク質のウエスタン分析、または複製に必要なウイルス遺伝子の逆転写ポリメラーゼ連鎖反応による)、または腫瘍サイズの縮小を決定するなどの当技術分野で確立されて任意の方法によって検出することができる。
本明細書で使用する場合、「免疫優性T細胞エピトープの機能欠失」は、エピトープのHLA−A2結合親和性を少なくとも約10分の1にする免疫優性T細胞エピトープのコード配列におけるいずれの突然変異(すなわち、挿入、置換、または欠失)も意味する。
用語「エピトープ」または「抗原決定基」は、本明細書において互換的に使用され、免疫系(例えば、T細胞、B細胞、および抗体)により認識され得る抗原の部分を意味する。抗原がポリペプチドである場合、エピトープは、連続するアミノ酸およびタンパク質の三次元折りたたみにより並列される不連続のアミノ酸の両方から形成され得る。連続するアミノ酸から形成されるエピトープはタンパク質変性時に一般に保持されるが、三次元折りたたみにより形成されるエピトープはタンパク質変性時に一般に失われる。エピトープは一般に、ユニークな空間コンフォメーションで少なくとも3個、より通常には、少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を含む。用語「免疫優性T細胞エピトープ」は、免疫系により容易に認識され、同じ抗原または細胞により同時に処理を受ける他の抗原の他のエピトープに比べてロバストなCD4+またはCD8+T細胞応答を惹起する抗原のエピトープまたは抗原決定基を意味する。
本明細書で使用する場合、「細胞傷害性が実質的に低減された」アデノウイルスは、感染後5日でA549細胞におけるそのIC50値(50%の細胞傷害性を達成するのに必要な多重感染度)において、親アデノウイルスに比べて約2倍以上の低減を有するアデノウイルスを意味する。
本明細書で使用する場合、「ウイルス複製が実質的に低減された」アデノウイルスは、感染後60時間でA549細胞における総ウイルスバーストサイズ(1個の感染細胞により生産されるウイルス粒子の量)において、親アデノウイルスに比べて約1対数より大きい低減を有するアデノウイルスを意味する。
「単離された」ポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞、または組成物は、自然界に見られない形態にあるポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞、または組成物である。単離されたポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞または組成物は、それらが自然界に見られる形態ではもはやない程度に精製されたものを含む。いくつかの実施形態では、単離された抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞、または組成物は実質的に純粋である。
本明細書で使用する場合、「実質的に純粋」とは、少なくとも50%純度(すなわち、夾雑物不含)、少なくとも90%純度、少なくとも95%純度、少なくとも98%純度、または少なくとも99%純度である材料を意味する。
本明細書で使用する場合、用語「増殖性障害」は、細胞が正常な組織増殖よりも速く増殖するいずれの細胞障害も意味する。増殖性障害には、限定されるものではないが、癌が含まれる。
用語「癌」および「癌性」は、細胞集団が調節を欠いた細胞増殖を特徴とする、哺乳動物における生理学的状態を意味する、または表す。癌の例としては、限定されるものではないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病が挙げられる。このような癌のより詳しい例としては、鼻咽頭癌、滑膜癌、肝細胞癌、腎臓癌、結合組織の癌、黒色腫、肺癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、脳癌、咽頭癌、口腔癌、肝臓癌、骨癌、膵臓癌、絨毛癌、ガストリノーマ、クロム親和性細胞腫、プロラクチノーマ、T細胞白血病/リンパ腫、神経腫、フォンヒッペル−リンドウ病、ゾリンジャー−エリソン症候群、副腎癌、肛門癌、胆管癌、膀胱癌、尿管癌、乏突起膠腫、神経芽腫、髄膜腫、脊髄腫瘍、骨軟骨腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、原発不明癌、カルチノイド、消化管のカルチノイド、線維肉腫、乳癌、パジェット病、子宮頸癌、食道癌、胆嚢癌、頭部癌、眼癌、頸部癌、腎臓癌、ビルムス腫瘍、カポジ肉腫、前立腺癌、精巣癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、皮膚癌、中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、内分泌膵臓癌、グルカゴノーマ、膵臓癌、副甲状腺癌、陰茎癌、下垂体癌、軟組織肉腫、網膜芽細胞腫、小腸癌、胃癌、胸腺癌、甲状腺癌、絨毛癌、胞状奇胎、子宮癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、聴神経腫、菌状息肉腫、インスリノーマ、カルチノイド症候群、ソマトスタチノーマ、歯肉癌、心臓癌、口唇癌、髄膜癌、口腔癌、神経癌、口蓋癌、耳下腺癌、腹膜癌、咽頭癌、胸腔癌、唾液腺癌、舌癌、および扁桃癌が挙げられる。
「腫瘍」および「新生物」は、前癌病変を含め、良性(非癌性)であれ悪性(癌性)であれ、過剰な細胞成長または増殖から生じるいずれの組織塊も意味する。腫瘍の例としてが、限定されるものではないが、腺癌、腺腫、星状細胞腫、癌腫、軟骨腫、軟骨肉腫、嚢腺腫、未分化胚細胞腫、赤白血病、線維腫、線維肉腫、顆粒膜細胞腫、血管腫、血管肉腫、平滑筋腫、平滑筋肉腫、ライディッヒ細胞腫、脂肪腫、脂肪肉腫、リンパ芽球性白血病、リンパ性白血病、リンパ腫、悪性組織球症、悪性黒色腫、肥満細胞腫、褐色細胞腫、髄膜腫、中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄性白血病、乏突起膠腫、骨腫、骨肉腫、形質細胞腫、横紋筋腫、横紋筋肉腫、精上皮腫、セルトリ細胞腫、軟組織肉腫、扁平上皮癌、扁平上皮乳頭腫、滑膜細胞肉腫、胸腺腫、および移行上皮癌が挙げられる。
用語「癌細胞」、「腫瘍細胞」、および文法上の同義語は、腫瘍細胞集団の塊を含んでなる非腫瘍形成性細胞と腫瘍形成性幹細胞(癌幹細胞)の両方を含む、腫瘍または前癌病変に由来する細胞の全体的集団を意味する。本明細書で使用する場合、用語「腫瘍細胞」は、癌幹細胞から腫瘍細胞を区別するために再生および分化能を欠く腫瘍細胞のみに言及する場合は用語「非腫瘍形成性」により修飾される。
用語「対象」は、特定の処置のレシピエントとなるべきもので、限定されるものではないが、ヒト、非ヒト霊長類、齧歯類などを含むいずれの動物(例えば、哺乳動物)も意味する。一般に、用語「対象」および「患者」は、本明細書ではヒト対象に関して互換的に使用される。
1種類以上のさらなる治療薬と「組合せ」投与には、同時および任意の順序での連続投与が含まれる。
用語「医薬処方物」および「医薬組成物」は、有効成分の生物活性を効果的とする形態にあり、かつ、その処方物が投与される対象に許容できないような毒性のある付加的成分を含有しない調製物を意味する。このような処方物および組成物は無菌化が可能である。
用語「薬学上許容可能な塩」または「薬学上許容可能な担体」は、本明細書に記載の化合物に見られる特定の置換基に応じて、比較的無毒の酸または塩基を用いて調製される有効化合物の塩を含むことを意味する。本出願の化合物が相対的に酸性の官能基を含有する場合には、塩基付加塩は、このような化合物の中性形態を、無希釈でまたは好適な不活性溶媒中で十分な量の所望の塩基と接触させることにより得ることができる。薬学上許容可能な塩基付加塩の例としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、有機アミノ、もしくはマグネシウム塩、または類似の塩が挙げられる。本出願の化合物が相対的に塩基性の官能基を含有する場合には、酸付加塩は、このような化合物の中性形態を、無希釈でまたは好適な不活性溶媒中で十分な量の所望の酸と接触させることにより得ることができる。薬学上許容可能な酸付加塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、炭酸、一水素炭酸、リン酸、一水素リン酸、二水素リン酸、硫酸、一水素硫酸、ヨウ化水素酸、または亜リン酸などの無機酸から誘導されるもの、ならびに酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、マレイン酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸フマル酸、乳酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p−トリルスルホン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸などの比較的無毒の有機酸から誘導される塩が含まれる。また、アルギン酸塩などのアミノ酸の塩、およびグルクロン酸またはガラクツロン酸などの有機酸の塩も含まれる(例えば、Berge, S.M., et al., J Pharm Sci. 1977 Jan;66(1):1-19参照)。当業者に知られる他の薬学上許容可能な担体も本出願の組成物に好適である。腫瘍溶解性アデノウイルスまたは本明細書に開示される他の薬物の「有効な量」は、治療目的または予防目的などの明示された目的を遂行するために十分な量である。「有効な量」は、述べられた目的に関して経験的に、および慣例の方法で決定することができる。
用語「治療上有効な量」は、対象または哺乳動物において疾患または障害を「処置する」ために有効な、腫瘍溶解性アデノウイルスまたは他の薬物の量を意味する。癌の場合、腫瘍溶解性アデノウイルスまたは薬物の治療上有効な量は、癌細胞の数を減らすこと;腫瘍サイズを縮小すること;末梢器官への癌細胞の浸潤を阻害すること(すなわち、ある程度に緩徐化すること、特定の実施形態では、停止させること);腫瘍転移を阻害すること(すなわち、ある程度に緩徐化すること、特定の実施形態では、停止させること);腫瘍増殖をある程度に阻害すること;および/または癌に関連する1以上の症状をある程度に軽減することができる。「処置する」についての本明細書の定義を参照。腫瘍溶解性アデノウイルスまたは薬物が増殖を防ぎ、かつ/または既存の癌細胞を死滅させる限り、それは細胞増殖抑制性および/または細胞傷害性である。「予防上有効な量」は、所望の予防結果を達成するために必要な投与量および期間で有効な量を意味する。必ずしも必要ではないが一般に、予防的用量は疾患の前または疾患の早期段階で対象に使用されるので、予防上有効な量は治療上有効な量よりも少ない。
用語「用量(dose)」および「投与量(dosage)」は、本明細書では互換的に使用される。用量は、各投与において個体に与えられる有効成分の量を意味する。用量は、所与の療法に関する通常用量の範囲、投与頻度;個体の大きさおよび忍容性;病態の重篤度;副作用のリスク;および投与経路を含む、いくつかの因子に応じて異なる。当業者は、用量が上記の因子に応じて、または治療の進行に基づいて改変され得ることを認識するであろう。用語「投与形」は、医薬または医薬組成物の特定の形式を意味し、投与経路によって異なる。例えば、投与形は、噴霧化、例えば吸入薬のためには液体形態、例えば経口送達のためには錠剤もしくは液体、または例えば注射のためには生理食塩水であり得る。
用語「標識」は、本明細書で使用される場合、「標識された」ウイルス粒子またはポリペプチドを作出するためにウイルス粒子またはポリペプチドに直接または間接的にコンジュゲートされる検出可能な化合物または組成物を意味する。標識は、それ自体検出可能であり得(例えば、放射性同位元素標識または蛍光標識)、または、酵素標識の場合には、基質化合物または検出可能な組成物の化学的変化を触媒することができる。
「化学療法薬」は、作用機序にかかわらず、癌の処置において有用な化学化合物である。化学療法薬種としては、限定されるものではないが、アルキル化剤、代謝拮抗物質、紡錘体阻害植物アルカロイド、細胞傷害性/抗腫瘍抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、抗体、光増感剤、およびキナーゼ阻害剤が含まれる。化学療法薬には、「標的療法」および従来の化学療法で使用される化合物が含まれる。
「処置する」または「緩和する」などの用語は、1)診断された病態または障害の治癒する、緩徐化する、その症状を軽減する、および/またはその進行を停止させる治療的手段と、2)標的とする病態または障害の発生を予防および/または緩徐化する予防または回避的手段の両方を意味する。よって、処置を必要とする者には、その障害をすでに有する者;その障害を有する傾向がある者;およびその障害が回避されるべき者が含まれる。特定の実施形態では、対象は、その患者が以下:癌細胞の数の減少もしくは完全な不在;腫瘍サイズの縮小;例えば、軟組織および骨への癌の拡散を含む、末梢器官への癌細胞浸潤の阻害もしくは不在;腫瘍転移の阻害もしくは不在;腫瘍増殖の阻害もしくは不在;特定の癌に関連する1以上の症状の軽減;罹患率および死亡率の低減;生活の質の改善;腫瘍の腫瘍形成性、腫瘍形成頻度、もしくは腫瘍形成能の低減;腫瘍における癌幹細胞の数もしくは頻度の低減;腫瘍形成性細胞の、非腫瘍形成性状態への分化;または効果のいくつかの組合せ、のうち1以上を示せば、本発明の方法に従って、癌を首尾良く処置される。
本明細書で互換的に使用される「ポリヌクレオチド」または「核酸」は、任意の長さのヌクレオチドポリマーを意味し、DNAおよびRNAを含む。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドもしくは塩基、および/もしくはそれらの類似体、またはDNAもしくはRNAポリメラーゼによりポリマーに組み込まれ得る任意の基質であり得る。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびそれらの類似体などの修飾ヌクレオチドを含んでなり得る。存在する場合、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリマーのアセンブリの前または後に付与され得る。ヌクレオチドの配列に非ヌクレオチド成分が挿入されてもよい。ポリヌクレオチドは、標識成分とのコンジュゲーションによるなど、重合後にさらに修飾され得る。他のタイプの修飾としては、例えば、「キャップ」、類似体での天然ヌクレオチドの1以上の置換、例えば、非電荷結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメートなど)によるものおよび電荷結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)によるもの、例えば、タンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ply−L−リシンなど)などのペンダント部分を含有するもの、インターカレーター(例えば、アクリジン、ソラレン/プソラレンなど)によるもの、キレーター(例えば、金属、放射性金属、ホウ素、酸化金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾結合(例えば、αアノマー核酸など)によるものなどのヌクレオチド間修飾、ならびに非修飾型のポリヌクレオチドが含まれる。さらに、糖に通常存在するヒドロキシル基のいずれかを、例えば、ホスホン酸基、リン酸基で置換すること、標準的な保護基で保護すること、または付加的ヌクレオチドに対して付加的結合を行うために活性化すること、または固相支持体へコンジュゲートさせることが可能である。5’および3’末端OHはリン酸化することができ、またはアミンもしくは1〜20個の炭素原子の有機キャッピング基部分で置換することができる。他のヒドロキシルもまた、誘導体化して標準的保護基とすることができる。ポリヌクレオチドはまた、例えば、2’−O−メチル−、2’−O−アリル、2’−フルオロ−または2’−アジド−リボースを含む、当技術分野で一般に知られているリボースまたはデオキシリボース糖の類似形態、炭素環式糖類似体、α−アノマー糖、アラビノース、キシロースもしくはリキソースなどのエピマー糖、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環式類似体および脱塩基ヌクレオシド類似体、例えば、メチルリボシドもまた含有し得る。1以上のホスホジエステル結合を別の結合糖で置換することができる。これらの別の結合糖には、限定されるものではないが、リン酸基がP(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、(O)NR2(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR’、COまたはCH2(「ホルムアセタール」)で置換された実施形態が含まれ、ここで、各RまたはR’は独立にH、または所望によりエーテル(−O−)結合を含有する置換もしくは非置換アルキル(1〜20C)、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニルまたはアラルジルである。ポリヌクレオチドにおける総ての結合が同じである必要はない。前記は、RNAおよびDNAを含め、本明細書に言及される総てのポリヌクレオチドに当てはまる。
用語「ベクター」は、宿主細胞において対象とする1以上の遺伝子または配列を送達および発現させることができる構築物を意味する。ベクターの例としては、限定されるものではないが、ウイルスベクター、裸のDNAもしくはRNA発現ベクター、プラスミド、コスミドまたはファージベクター、カチオン性縮合剤と会合したDNAもしくはRNA発現ベクター、リポソームに封入されたDNAもしくはRNA発現ベクター、および生産細胞などの特定の真核細胞が挙げられる。
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は本明細書では、任意の長さのアミノ酸ポリマーを意味して互換的に使用される。このポリマーは直鎖または分岐型であってよく、修飾アミノ酸を含んでなってもよく、非アミノ酸が挿入されていてもよい。この用語はまた、例えば、ジスルフィド結合の形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または標識成分とのコンジュゲーションなどの他の任意の操作もしくは修飾など、自然にまたは介入により修飾されたアミノ酸ポリマーも包含する。また、この定義には、例えば、1以上のアミノ酸類似体(例えば、非天然アミノ酸など)、ならびに当技術分野で公知の他の修飾を含有するポリペプチドも含まれる。
用語「アミノ酸」は、天然および合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣物を意味する。天然アミノ酸は、遺伝コードによりコードされているもの、ならびに例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタメート、およびO−ホスホセリンなどの後に修飾されるアミノ酸である。アミノ酸類似体は、天然アミノ酸と同じ基本化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基と結合している炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを意味する。このような類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチド骨格を有するが、天然アミノ酸と同じ基本化学構造を保持する。アミノ酸模倣物は、アミノ酸の一般化学構造とは異なる構造を有するが、天然アミノ酸と同様に機能する化学化合物を意味する。
用語「同一」または「同一性」パーセントは、2以上の核酸またはポリペプチドに関して、配列同一性の一部として保存的アミノ酸置換を考慮せずに、比較および最大一致が得られるようにアライン(必要であれば、ギャップを導入する)した場合に、同じである、または特定のパーセンテージの同じであるヌクレオチドもしくはアミノ酸残基を有する、2以上の配列または部分配列を意味する。同一性パーセントは、配列比較ソフトウエアもしくはアルゴリズムを使用することによるか、または視覚的検査により測定することができる。アミノ酸配列またはヌクレオチド配列のアラインメントを得るために使用できる様々なアルゴリズムおよびソフトウエアが当技術分野で知られている。配列アラインメントアルゴリズムのこのような1つの限定されない例として、Karlin, S. and Altschul, S.F., Proc Natl Acad Sci USA. 1990 March;87(6):2264-2268に記載され、Karlin, S. and Altschul, S.F., Proc Natl Acad Sci USA. 1993 Jun 15;90(12):5873-5877で改良され、NBLASTおよびXBLASTプログラム(Altschul, S.F., et al., Nucleic Acids Res. 1997 Sep 1;25(17):3389-402)に組み込まれているアルゴリズムがある。特定の実施形態では、Gapped BLASTをAltschul et al.に記載のように使用することができ、BLAST−2、WU−BLAST−2(Altschul, S.F. and Gish, W., Methods Enzymol. 1996;266:460-80.)、ALIGN、ALIGN−2(Genentech、サンフランシスコ、カリフォルニア州)またはMegalign(DNASTAR)は、配列をアラインするために使用できるさらなる公開ソフトウエアプログラムである。特定の実施形態では、2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントが、GCGソフトウエアのGAPプログラムを使用して(例えば、NWSgapdna.CMPマトリックスおよびギャップウエイト40、50、60、70、または90およびレングスウエイト1、2、3、4、5、または6を使用)決定される。特定の別の実施形態では、Needleman and Wunsch (J. Mol. Biol. (48):444-453 (1970))のアルゴリズムを組み込んだGCGソフトウエアパッケージのGAPプログラムを、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントを決定するために使用することができる(例えば、Blossum 62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、およびギャップウエイト16、14、12、10、8、6、または4およびレングスウエイト1、2、3、4、5を使用)。あるいは、特定の実施形態では、ヌクレオチド配列間またはアミノ酸配列間の同一性パーセントが、Myers and Miller (CABIOS, 4:11-17 (1989))のアルゴリズムを用いて決定される。例えば、同一性パーセントは、ALIGNプログラム(バージョン2.0)を使用し、残基表を伴うPAM120、ギャップレングスペナルティー12およびギャップペナルティー4を用いて決定することができる。特定のアラインメントソフトウエアによる最大アラインメントに適当なパラメーターは当業者であれば決定可能である。特定の実施形態では、アラインメントソフトウエアのデフォルトパラメーターが使用される。特定の実施形態では、第1のアミノ酸配列と第2のアミノ酸配列の同一性パーセンテージ「X」は、100×(Y/Z)として計算され、ここで、Yは、第1の配列と第2の配列のアラインメント(視覚的検査または特定の配列アラインメントプログラムによりアライン)において同一マッチとしてスコアされたアミノ酸残基の数であり、Zは、第2の配列の残基の総数である。第1の配列の長さが第2の配列よりも長い場合には、第2の配列に対する第1の配列の同一性パーセントは、第1の配列に対する第2の配列の同一性パーセントよりも長くなる。
限定されない例として、任意の特定のポリヌクレオチドが参照配列と特定の配列同一性パーセンテージを持つ(例えば、少なくとも約80%同一、少なくとも約85%同一、少なくとも約90%同一、いくつかの実施形態では、少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%同一である)かどうかは、特定の実施形態では、Bestfitプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package、Unix用バージョン8、Genetics Computer Group、University Research Park、575 Science Drive、マディソン、WI53711)を用いて決定することができる。Bestfitは、2配列間で最良の相同性セグメントを見出すためにSmith and Waterman, Advances in Applied Mathematics 2: 482-489 (1981)のローカルホモロジーアルゴリズムを使用する。本発明に従って特定の配列が参照配列と例えば95%同一であるかどうかを決定するためにBestfitまたは他の任意の配列アラインメントプログラムを使用する場合、参照ヌクレオチド配列の全長にわたって同一性パーセンテージが計算され、かつ、参照配列のヌクレオチド総数の5%までの相同性ギャップが許容されるようにパラメーターが設定される。
いくつかの実施形態では、本発明の2つの核酸またはポリペプチドは実質的に同一であり、比較し、最大一致が得られるようにアラインし、配列比較アルゴリズムを使用してまたは視覚的検査により測定した場合に、それらは少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、いくつかの実施形態では、少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%のヌクレオチドまたはアミノ酸残基同一性を有することを意味する。特定の実施形態では、同一性は、少なくとも約10、約20、約40〜60残基長もしくはその間の任意の整数値である配列領域にわたって、または60〜80残基、少なくとも約90〜100残基より長い領域にわたって存在するか、あるいは配列は、例えばヌクレオチド配列のコード領域などの、比較される配列の全長にわたって実質的に同一である。
「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基が、類似の側鎖を有する別のアミノ酸残基で置換されるものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基の系列は当技術分野で定義されており、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。例えば、フェニルアラニンのチロシンでの置換は保存的置換である。特定の実施形態では、本発明のポリペプチドおよび抗体の配列における保存的置換は、抗原、すなわち、そのポリペプチドまたは抗体が結合するFOLR1に対する、そのアミノ酸配列を含有するポリペプチドまたは抗体の結合を損なわない。抗原結合を排除しないヌクレオチドおよびアミノ酸の保存的置換を同定する方法は当技術分野で周知である(例えば、Brummell, D.A., et al., Biochemistry. 1993 Feb 2;32(4):1180-7; Kobayashi, H., et al., Protein Eng. 1999 Oct;12(10):879-84;およびBurks, E.A., et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1997 Jan 21;94(2):412-7参照)。
「ストリンジェントハイブリダイゼーション条件」という句は、プローブが、一般に複雑な核酸混合物中でその標的部分配列とハイブリダイズし、他の配列とはハイブリダイズしない条件を意味する。ストリンジェント条件は、配列依存的であり、状況が異なれば異なる。より長い配列はより高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する詳細な指針は、Tijssen, P., Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology - Hybridization with Nucleic Probes. 1993;24:19-78に見出せる。一般に、ストリンジェント条件は、定義されたイオン強度pHで特定の配列の融点(Tm)よりも約5〜10℃低くなるように選択され標的と相補的なプローブの50%が平衡状態において標的配列とハイブリダイズする温度(定義されたイオン強度、pH、および核酸濃度下)である(標的配列は過剰量で存在するので、Tmで、平衡状態おいて50%より少ないプローブが占有される)。ストリンジェント条件はまた、ホルムアミドなどの脱安定剤の添加によっても達成され得る。選択的または特異的ハイブリダイゼーションでは、陽性シグナルは、バックグラウンドハイブリダイゼーションの少なくとも2倍、好ましくは10倍である。例示的ストリンジェントハイブリダイゼーション条件は次の通りであり得る:50%ホルムアミド、5×SSC、および1%SDS、42℃でインキュベーション、または5×SSC、1%SDS、65℃でインキュベーション、0.2×SSC、および0.1%SDS、65℃での洗浄。
ストリンジェント条件下で互いにハイブリダイズしない核酸も、それらがコードしているポリペプチドが実質的に同一である場合にはなお実質的に同一である。これは、例えば核酸のコピーが遺伝コードにより許容される最大コドン縮重を用いて作製される場合に起こる。このような場合、核酸は一般に、中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする。「中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」の例には、40%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDSのバッファー中、37℃でのハイブリダイゼーション、および1×SSC中、45℃での洗浄が含まれる。陽性ハイブリダイゼーションは、バックグラウンドの少なくとも2倍である。当業者ならば、同等のストリンジェンシーの条件を提供するために別のハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を使用可能であることを容易に認識できるであろう。ハイブリダイゼーションパラメーターを決定するためのさらなる指針は、多くの参照文献、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel, et al.編, John Wiley & Sonsに示されている。
PCRについては、低ストリンジェンシー増幅には約36℃の温度が典型的であるが、アニーリング温度はプライマー長に応じて約32℃〜48℃の間で変更可能である。高ストリンジェンシーPCR増幅では、約62℃の温度が典型的であるが、高ストリンジェンシーアニーリング温度は、プライマー長および特異性に応じて約50℃〜約65℃の範囲であり得る。高および低の両ストリンジェンシー増幅に典型的なサイクル条件は、90℃〜95℃で30秒〜2分の変性相、30秒〜2分持続するアニーリング相、および約72℃で1〜2分の伸長相を含む。低および高ストリンジェンシー増幅反応のプロトコールおよび指針は、例えば、Innis, M.A., et al., PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press, Inc. N.Y. (1990)に示されている。
用語「組換え」は、例えば、細胞、または核酸、タンパク質、またはウイルス、またはベクターに関して使用される場合、その細胞、核酸、タンパク質、ウイルス、またはベクターが実験室法により改変されている、または実験室法の結果であることを示す。よって、例えば、組換えタンパク質は、実験室法により生産されたタンパク質を含む。組換えタンパク質は、天然(非組換え)型のタンパク質内には見られないアミノ酸残基を含んでよく、または改変された、例えば、標識されたアミノ酸残基を含み得る。組換え細胞、ウイルス、核酸、タンパク質、またはベクターには、異種核酸もしくはタンパク質の導入、または天然核酸もしくはタンパク質の変更により改変された細胞、ウイルス、核酸、タンパク質、またはベクターを含み得る。よって、例えば、組換え細胞には、天然(非組換え)型の細胞内には見られない遺伝子を発現する、またはそうでなければ以上に発現される、発現不足の、もしくは全く発現されない天然遺伝子を発現する細胞を含む。
用語「異種」は、核酸の一部に関して使用される場合、その核酸が自然状態では互いに同じ関係では見られることがない2以上の部分配列を含んでなることを示す。例えば、ある供給源からのプロモーターと別の供給源からのコード領域など、新たな機能的核酸を作製するように構成された無関連の遺伝子に由来する2以上の配列を有する核酸が一般に組換え生産される。同様に、異種タンパク質は、そのタンパク質が互いに自然状態では同じ関係で見られることがない2以上の部分配列を含んでなることを示す(例えば、融合タンパク質)。
本明細書で使用する場合、用語「修飾」は、核酸またはポリペプチド配列の配列変化を意味する。例えば、アミノ酸配列修飾は一般に、置換、挿入または欠失変異体の3つのクラスのうち1以上に入る。挿入には、アミノ末端および/またはカルボキシル末端融合、ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入が含まれる。欠失は、タンパク質配列からの1以上のアミノ酸残基の除去を特徴とする。本明細書で使用する場合、記号Δすなわちデルタは、欠失を意味する。置換修飾は、少なくとも1つの残基が除去され、かつ、その場所に異なる残基が挿入されたものである。アミノ酸置換は一般に単一残基の置換であるが、いくつかの場所に一度に起こる場合もある。最終構築物に到達するために、置換、欠失、挿入またはそれらの任意の組合せを合わせてもよい。これらの修飾は、タンパク質をコードするDNAのヌクレオチドの修飾によりなされてもよく、それにより、その修飾をコードするDNAが作出される。既知の配列を有するDNAの所定の部位に挿入、欠失および置換突然変異を作出するための技術は周知である。修飾技術は、1以上のポリペプチド領域をコードするDNA配列を操作するための組換えDNA技術の使用を含み得る。場合により、修飾技術は、例えば、組換え、M13プライマー突然変異誘発およびPCR突然変異誘発を含む。
用語「トランスフェクション」または「形質導入」は互換的に使用でき、核酸分子またはタンパク質を細胞に導入するプロセスと定義される。核酸は、非ウイルスまたはウイルスに基づく方法を用いて細胞に導入される。核酸分子は、完全なタンパク質またはその機能的部分をコードする配列であり得る。一般に、核酸ベクターは、タンパク質発現に必要な要素(例えば、プロモーター、転写開始部位など)を含んでなる。トランスフェクションの非ウイルス的方法は、細胞に核酸分子を導入するための送達系としてウイルスDNAまたはウイルス粒子を使用しないいずれの適当な方法も含む。例示的非ウイルストランスフェクション法には、リン酸カルシウムトランスフェクション、リポソームトランスフェクション、ヌクレオフェクション、ソノポレーション、熱ショックによるトランスフェクション、メグネチフェクションおよびエレクトロポレーションが含まれる。ウイルスに基づく方法では、任意の有用なウイルスベクターを本明細書に記載の方法で使用することができる。ウイルスベクターの例としては、限定されるものではないが、レトロウイルス、アデノウイルス、レンチウイルスおよびアデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。いくつかの側面では、核酸分子は、当技術分野で周知の標準的手順に従い、アデノウイルスベクターを用いて細胞に導入される。用語「トランスフェクション」または「形質導入」はまた、外部環境から細胞にタンパク質を導入することも意味する。一般に、タンパク質の形質導入またはトランスフェクションは、細胞膜を通過し得るペプチドまたはタンパク質を目的のタンパク質に付着させることに頼る。例えば、Ford, K.G., et al., Gene Ther. 2001 Jan;8(1):1-4およびProchiantz, A., Nat Methods. 2007 Feb;4(2):119-20参照。
「対照」または「標準的対照」は、試験サンプル、測定値、または値と比較するための参照、通常は既知の参照として機能するサンプル、測定値、または値を意味する。例えば、試験サンプルは、所与の疾患(例えば、自己免疫疾患、炎症性自己免疫疾患、癌、感染性疾患、免疫疾患、または他の疾患)を有する疑いのある患者から採取し、既知の正常(非疾患)個体(例えば、標準的対照被験体)と比較することができる。標準的対照はまた、所与の疾患を持たない類似の個体(例えば、標準的対照被験体)の集団(すなわち、標準的対照集団)、例えば、類似の医学的バックグラウンド、同じ年齢、体重などを有する健康な個体から集めた平均測定値または値も表し得る。標準的対照値はまた、同じ個体から、例えば、疾病発症前の患者から初期に得られたサンプルから得ることもできる。当業者ならば、標準的対照が任意の数のパラメーター(例えば、RNAレベル、タンパク質レベル、特定の細胞種、特定の体液、特定の組織、滑膜細胞、滑液、滑膜組織、線維芽細胞様滑膜細胞、マクロファージ様滑膜細胞など)の評価のために設計可能であることを認識できるであろう。
当業者ならば、どの標準的対照が所与の状況で最も適当であるかを理解し、標準的対照値との比較に基づいてデータを分析することができる。標準的対照はまた、データの有意性(例えば、統計的有意性)を決定するためにも有用である。例えば、所与のパラメーターに関する値が標準的対照において広く変動していれば、試験サンプルにおける変動は有意と見なされない。
本開示および特許請求の範囲で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈がそうではないことを明示しない限り、複数形を含む。
本明細書ではどの実施形態も「含んでなる」という言葉を用いて記載されるが、「からなる」および/または「から本質的になる」の言葉で記載される、それ以外の点では類似の実施形態も提供されると理解される。
用語「および/または」は、本明細書で「Aおよび/またはB」などの句で使用される場合、「AおよびB」、「AまたはB」、「A」および「B」の両方を含むものとする。同様に、用語「および/または」は、「A、B、および/またはC」などの句で使用される場合、以下の実施形態:A、B、およびC;A、B、またはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;AおよびC;AおよびB;BおよびC;A(単独);B(単独);およびC(単独)のそれぞれを包含するものとする。
II.腫瘍溶解性アデノウイルス
本発明は、アデノウイルスタンパク質の免疫優性T細胞エピトープの少なくとも1つの機能欠失を含んでなる腫瘍溶解性アデノウイルスを提供する。
特定の実施形態では記免疫優性T細胞エピトープは、ヒトリンパ球抗原(HLA)クラスI拘束性エピトープである。例えば、特定の実施形態では、免疫優性T細胞エピトープは、ヒトリンパ球抗原−A2.1(HLA−A2.1)拘束性エピトープである。他の実施形態では、免疫優性T細胞エピトープは、ヒトリンパ球抗原(HLA)クラスII拘束性エピトープである。免疫優性エピトープは、抗原による宿主(動物)の免疫誘導の際に免疫応答の効力を測定することにより同定される。所与のエピトープに対する免疫応答の効力は、そのようなエピトープを認識する、およびそのようなエピトープの認識時に活性化されるリンパ球の数を意味する。細胞のイムノプロテオソームは抗原を小断片(9アミノ酸前後)に切断し、そのような断片は小胞体へ輸送され、リンパ球上のT細胞受容体に定義されるべくMHCクラスIまたはクラスII分子に積載される。このプロセシングおよび抗原提示経路の効率は、MHC分子のアミノ酸配列およびハプロタイプに依存する。提示された断片はエピトープと定義される。免疫優性エピトープは、免疫宿主のより多数のリンパ球を活性化する提示断片と定義される。活性化されたリンパ球の数の定量は、通常、活性化されたリンパ球により分泌されるサイト検出する、ELISPOTまたは細胞内サイトカイン染色(ICS)などの種々の技術を用いて行うことができる。野生型アデノウイルスに感染したヒトにおいて、ヒトアデノウイルスエピトープを認識するCD8+またはCD4+が、ヒトアデノウイルスの免疫優性エピトープを同定するために試験されている。例えば、Tang J., et al., Virology 2006 Jul; 350(2):312-22; Leen, A.M., et al., Blood 2004 Oct; 104(8):2432-40;およびLeen, A.M., et al., J Virol. 2008 Jan; 82(1):546-54参照。
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの欠失は、前記少なくとも1つの欠失の無い親アデノウイルスと比較して細胞傷害性の実質的低下またはウイルス複製の実質的低下に関連しない。
特定の実施形態では、免疫優性T細胞エピトープの少なくとも1つの欠失は、E1A、E1B、ヘキソン、ペントンベース、ファイバータンパク質、キャプシドタンパク質IX、DNAポリメラーゼ、および一本鎖DNA結合タンパク質からなる群から選択されるアデノウイルスタンパク質内にある。いくつかの実施形態では、免疫優性T細胞エピトープの少なくとも1つの欠失は、アデノウイルスヘキソンタンパク質保存された塩基領域内にある。例えば、特定の実施形態では、免疫優性T細胞エピトープの少なくとも1つの欠失は、Hex512(GLVDCYINL)(配列番号23)、Hex713(YLNHTFKKV)(配列番号11)、Hex892(LLYANSAHA)(配列番号15)、およびHex917(YVLFEVFDV)(配列番号19)からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、アデノウイルスは、Hex512エピトープにおけるL520P突然変異、Hex713エピトープにおけるV721A突然、Hex892エピトープにおけるA900S突然変異、およびHex917エピトープにおけるV925K突然変異からなる群から選択される少なくとも1つの突然変異を含んでなる。特定の実施形態では、アデノウイルスは、免疫優性T細胞エピトープHex512(GLVDCYINL)(配列番号23)およびHex917(YVLFEVFDV)(配列番号19)の欠失を含んでなる。いくつかの実施形態では、アデノウイルスは、Hex512エピトープにおけるL520P突然変異およびHex917エピトープにおけるV925K突然変異を含んでなる。特定の実施形態では、アデノウイルスは、免疫優性T細胞エピトープHex713(YLNHTFKKV)(配列番号11)、Hex892(LLYANSAHA)(配列番号15)、およびHex917(YVLFEVFDV)(配列番号19)の欠失を含んでなる。いくつかの実施形態では、アデノウイルスは、Hex713エピトープにおけるV721A突然変異、Hex892エピトープにおけるA900S突然変異、およびHex917エピトープにおけるV925K突然変異を含んでなる。特定の実施形態では、アデノウイルスは、免疫優性T細胞エピトープHex512(GLVDCYINL)(配列番号23)、Hex713(YLNHTFKKV)(配列番号11)、Hex892(LLYANSAHA)(配列番号15)、およびHex917(YVLFEVFDV)(配列番号19)の欠失を含んでなる。いくつかの実施形態では、アデノウイルスは、Hex512エピトープにおけるL520P突然変異、Hex713エピトープにおけるV721A突然変異、Hex892エピトープにおけるA900S突然変異、およびHex917エピトープにおけるV925K突然変異を含んでなる。
特定の実施形態では、アデノウイルスは、ヒトアデノウイルスである。例えば、特定の実施形態では、アデノウイルスは、ヒトアデノウイルス血清型1〜51、およびそれらの誘導体からなる群から選択されるヒトアデノウイルスである。いくつかの実施形態では、アデノウイルスは、ヒトアデノウイルス血清型5である。
本明細書に記載の腫瘍溶解性アデノウイルスの修飾は、腫瘍溶解性アデノウイルスの癌を処置する能力を改善するために行われ得る。腫瘍溶解性アデノウイルスのこのような修飾は、Jiang, H., et al., Curr Gene Ther. 2009 Oct;9(5):422-7に記載されている、また、米国特許出願第20060147420号も参照、これらはそれぞれ引用することにより本明細書の一部とされる。例えば、いくつかの腫瘍種上にコクサッキーウイルスおよびアデノウイルス受容体(CAR)が存在しないことまたは低レベルでしか存在しないことは腫瘍溶解性アデノウイルスの有効性を制限し得る。例えば、RGDモチーフ(細胞表面インテグリンの通常リガンドを模倣するRGD配列)、Tatモチーフ、ポリリジンモチーフ、NGRモチーフ、CTTモチーフ、CNGRLモチーフ、CPRECESモチーフまたはstreptタグモチーフ(引用することにより本明細書の一部とされるRuoslahti, E. and Rajotte, D., Annu Rev Immunol. 2000;18:813-27)などの種々のペプチドモチーフをファイバーノブに付加することができる。モチーフは、アデノウイルスファイバータンパク質のHIループに挿入することができる。キャプシドを修飾すると、CAR非依存的な標的細胞感染が可能となる。これにより、より高い複製、より効率的な感染、および腫瘍細胞溶解の増加が可能となる(引用することにより本明細書の一部とされるSuzuki et al., Clin Cancer Res. 2001 Jan;7(1):120-6)。EGFRまたはuPRなどの特定の受容体に結合するペプチド配列もまた付加可能である。EGFRvIIIなど、癌細胞の表面に排他的または優先的に見られる特定の受容体は、アデノウイルスの結合および感染の標的として使用することができる。
特定の実施形態では、腫瘍溶解性アデノウイルスは、腫瘍で選択的に複製し、腫瘍における選択的複製を達成するためにE1a、E1b、E4、およびVA−RNAからなる群から選択される1以上の遺伝子における突然変異をさらに含んでなる。例えば、いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性アデノウイルスは、E1AのCR2領域に24塩基対の欠失(E1AΔ24)を含むように修飾される。
特定の実施形態では、腫瘍溶解性アデノウイルスは、腫瘍において選択的に複製する。例えば、いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性アデノウイルスは、腫瘍における選択的複製を達成するために組織特異的または腫瘍特異的プロモーターを含んでなる。いくつかの実施形態では、組織特異的プロモーターまたは腫瘍特異的プロモーターは、腫瘍における選択的複製を達成するために、E1a、E1b、E2、およびE4からなる群からの1以上の遺伝子の発現を制御するためのプロモーター配列である。いくつかの実施形態では、組織特異的プロモーターは、E2Fプロモーター、テロメラーゼhTERTプロモーター、チロシナーゼプロモーター、前立腺特異的抗原プロモーター、αフェトタンパク質プロモーター、およびCOX−2プロモーターからなる群から選択される。例えば、いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性アデノウイルスは、E2F−1プロモーターから必須のアデノウイルス遺伝子を発現するように修飾される。いくつかの実施形態では、高複製細胞においてE1AまたはE1AΔ24の選択的発現を可能とするために、腫瘍溶解性アデノウイルスの内在E1AプロモーターにパリンドロームE2F結合部位が挿入される。
特定の実施形態では、アデノウイルスは、その感染力を増強するためまたは腫瘍細胞に存在する受容体を標的化するためのキャプシド修飾を含んでなる。例えば、いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性アデノウイルスは、肝向性を低減するために、ファイバーシャフトのヘパリン硫酸グリコサミノグリカン(HSG)結合部位KKTK(配列番号26)を除去するようにさらに修飾される。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性アデノウイルスは、感染力および腫瘍溶解効力を増強するために、ファイバーシャフトのヘパリン硫酸グリコサミノグリカン(HSG)結合部位KKTK(配列番号26)をインテグリン結合モチーフ(例えば、RGDK)(配列番号27)で置換するようにさらに修飾される。
特定の実施形態では、アデノウイルスは、癌の遺伝子療法の分野で慣用される少なくとも1つの遺伝子をさらに含んでなる。例えば、いくつかの実施形態では、癌療法の分野で慣用される少なくとも1つの遺伝子は、プロドラッグ活性化遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、および免疫刺激遺伝子からなる群から選択される遺伝子である。
特定の実施形態では、本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスは、それぞれ腫瘍抗原またはエピトープをコードする1以上の異種核酸配列をさらに含んでなる。いくつかの実施形態では、1以上の異種核酸配列は、それぞれ腫瘍抗原またはエピトープをコードする1〜5の異種核酸配列を含んでなる。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原またはエピトープは、腫瘍細胞にユニークな突然変異または再配列を有する遺伝子、再活性化された胚遺伝子によりコードされているタンパク質、組織特異的分化抗原、およびいくつかの他の自己タンパク質を含む。
いくつかの実施形態では、腫瘍抗原またはエピトープは、MAGE−1、MAGE−2、MAGE−3、CEA、チロシナーゼ、ミドカイン、BAGE、CASP−8、β−カテニン、CA−125、CDK−1、ESO−1、gp75、gpl00、MART−1、MUC−1、MUM−1、p53、PAP、PSA、PSMA、ras、trp−1、HER−2、TRP−1、TRP−2、IL13Rα、IL13Rα2、AIM−2、AIM−3、NY−ESO−1、C9orf1l2、SART1、SART2、SART3、BRAP、RTN4、GLEA2、TNKS2、KIAA0376、ING4、HSPH1、C13orf24、RBPSUH、C6orf153、NKTR、NSEP1、U2AF1L、CYNL2、TPR、SOX2、GOLGA、BMI1、COX−2、EGFRvIII、EZH2、LICAM、リビン、MRP−3、ネスチン、OLIG2、ART1、ART4、B−サイクリン、Gli1、Cav−1、カテプシンB、CD74、E−カドヘリン、EphA2/Eck、Fra−1/Fosl1、GAGE−1、ガングリオシド/GD2、GnT−V、β1,6−Ν、Ki67、Ku70/80、PROX1、PSCA、SOX10、SOX11、サバイビン、UPAR、メソテリン、およびWT−1、またはそれらのエピトープからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原またはエピトープは、ヒト腫瘍抗原またはエピトープである。
いくつかの実施形態では、異種核酸配列は、免疫優性T細胞エピトープの少なくとも1つの機能欠失を有する前記アデノウイルスタンパク質をコードするアデノウイルス遺伝子に挿入される。いくつかの実施形態では、異種核酸配列は、免疫優性T細胞エピトープの少なくとも1つの欠失を有する前記アデノウイルスタンパク質以外のアデノウイルスタンパク質をコードするアデノウイルス遺伝子に挿入される。いくつかの実施形態では、異種核酸配列は、アデノウイルスヘキソンタンパク質をコードするアデノウイルス遺伝子に挿入される。例えば、異種核酸配列は、前記アデノウイルスヘキソンタンパク質の超可変領域に挿入することができる。特定の実施形態では、前記超可変領域は、超可変領域5(HVR5)である。特定の実施形態では、異種核酸配列は、ヘキソン超可変領域1、ファイバータンパク質HIループに挿入されるか、またはタンパク質IXと融合される。
いくつかの実施形態では、腫瘍抗原またはエピトープには、フレキシブルリンカーが隣接している。例えば、いくつかの実施形態では、フレキシブルリンカーは、GSGSR(配列番号28)、AGSGSR(配列番号29)、およびAGSGS(配列番号30)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなる。好ましくは、異種核酸配列の挿入は、「インフレーム」で行われる。
特定の実施形態では、本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスは、gp100腫瘍抗原もしくはエピトープ、またはチロシナーゼ腫瘍抗原もしくはエピトープをコードする1以上の異種核酸配列をさらに含んでなる。いくつかの実施形態では、1以上の異種核酸配列は、(a)gp100抗原またはエピトープをコードする異種核酸配列と、(b)チロシナーゼ抗原またはエピトープをコードする異種核酸配列とを含んでなる。例えば、いくつかの実施形態では、gp100腫瘍抗原またはエピトープは、アミノ酸配列YLEPGPVTA(配列番号31)を含んでなり、チロシナーゼ抗原またはエピトープは、アミノ酸配列YMDGTMSQV(配列番号32)を含んでなる。いくつかの実施形態では、gp100抗原またはエピトープをコードする異種核酸配列は、アデノウイルスヘキソンタンパク質の超可変領域5に挿入される。いくつかの実施形態では、チロシナーゼ腫瘍抗原またはエピトープをコードする異種核酸配列は、アデノウイルスヘキソンタンパク質の超可変領域5に挿入される。いくつかの実施形態では、gp100抗原またはエピトープをコードする異種核酸配列とチロシナーゼ抗原またはエピトープをコードする異種核酸配列の両方はアデノウイルスヘキソンタンパク質の超可変領域5に挿入される。
特定の実施形態では、本発明は、配列番号3または4のヌクレオチド配列を含んでなる腫瘍溶解性アデノウイルスを提供する。特定の実施形態では、本発明は、配列番号5のヌクレオチド配列を含んでなる腫瘍溶解性アデノウイルスを提供する。
特定の実施形態では、アデノウイルスは、変異型Rb経路を有する細胞で複製可能である。トランスフェクション後、アデノウイルスプラークをアガロース重層細胞から単離し、分析のためにウイルス粒子を拡大培養する。詳細なプロトコールについては、Graham, F.L. and Prevec, L., Methods Mol Biol. 1991;7:109-28(引用することによりその全内容が本明細書の一部とされる)が当業者に参照される。
アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの作製のための別の技術としては、細菌人工染色体(BAC)系の使用、相補的アデノウイルス配列を含む2つのプラスミドを使用するrecA+細菌株におけるイン・ビボ細菌組換え、および酵母人工染色体(YAC)系(引用することにより本明細書の一部とされるPCT公開第95/27071号および第96/33280号)が含まれる。
III.ポリヌクレオチドおよびポリペプチド
また、本明細書では、上記の腫瘍溶解性アデノウイルスをコードする核酸も提供される。場合により、腫瘍溶解性アデノウイルスをコードする1つの核酸(例えば、プラスミド)が提供される。場合により、腫瘍溶解性アデノウイルスをコードする複数の核酸(例えば、複数のプラスミド)が提供される。
また、全体にわたって記載される修飾アデノウイルスを感染させた宿主細胞も提供される。宿主細胞は、上記の修飾アデノウイルスにより形質転換させことができる。場合により、宿主細胞は、上記の修飾アデノウイルスの遺伝物質の取り込み、組み込みおよび発現の結果として遺伝的に改変されている。場合により、宿主細胞は、ヒト細胞などの哺乳動物細胞である。アデノウイルスは、ヒトアデノウイルスなどの哺乳動物アデノウイルスであり得る。
特定の実施形態では、本発明は、配列番号3、4、および5からなる群から選択される配列と少なくとも約90%同一の配列を含んでなる単離されたポリヌクレオチドを包含する。いくつかの実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、配列番号3、4、および5からなる群から選択される配列と少なくとも約95%同一の配列を含んでなる。いくつかの実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、配列番号3、4、および5からなる群から選択される配列と少なくとも約99%同一の配列を含んでなる。いくつかの実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、配列番号3、4、および5からなる群から選択される配列を含んでなる。特定の実施形態では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含んでなるベクターを包含する。特定の実施形態では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターを含んでなる宿主細胞を包含する。
修飾は、当技術分野で公知の任意のいくつかの方法を用いてウイルスの核酸においてなされる。例えば、部位特異的突然変異誘発を核酸配列を修飾するために使用できる。部位特異的突然変異誘発の最も一般的な方法の1つは、オリゴヌクレオチド定方向突然変異誘発である。オリゴヌクレオチド定方向突然変異誘発では、所望の配列変化をコードするオリゴヌクレオチドを対象とするDNAの一方の鎖にアニーリングし、DNA合成の開始のためのプライマーとして用いる。この方式では、配列変化を含むオリゴヌクレオチドが、新たに合成される鎖に組み込まれる。例えば、Kunkel, T.A., Proc Natl Acad Sci U S A. 1985 Jan;82(2):488-92; Kunkel, T.A., et al., Methods Enzymol. 1987;154:367-82; Lewis, M.K. and Thompson, D.V., Nucleic Acids Res. 1990 Jun 25;18(12):3439-43; Bohnsack, R.N., Methods Mol Biol. 1996;57:1-12; Deng, W.P. & Nickoloff, J.A., Anal Biochem. 1992 Jan;200(1):81-8;およびShimada, A., Methods Mol Biol. 1996;57:157-65(これらはそれぞれ引用することによりその全内容が本明細書の一部とされる)。配列に修飾を導入するために他の方法も当技術分野で慣用される。例えば、修飾された核酸を、PCRもしくは化学合成を用いて作製するか、または所望のアミノ酸配列変化を有するポリペプチドを化学的に合成することができる。例えば、Bang, D. and Kent, S.B., Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Apr 5;102(14):5014-9およびその中の参照文献を参照。また、ウイルス核酸の修飾を行うために、ウイルスが通常増殖しない細胞種(例えば、ヒト細胞)上での選択および/または化学的突然変異誘発(例えば、Rudd, P. and Lemay, G., J Gen Virol. 2005 May;86(Pt. 5):1489-97参照)(引用することによりその全内容が本明細書の一部とされる)も使用可能である。
本明細書に記載の単離されたポリペプチドは、当技術分野で公知の任意の好適な方法により生産することができる。このような方法は、直接的タンパク質合成法から単離されたポリペプチド配列をコードするDNA配列の構築と好適な形質転換宿主でのその配列の発現までに及ぶ。いくつかの実施形態では、DNA配列は、組換え技術を用いて、対象とする野生型タンパク質をコードするDNA配列を単離または合成することにより構築される。場合により、配列は、その機能的類似体を提供するために、部位特異的突然変異誘発により変異誘発することができる。例えば、Mark, D.F., et al., Proc Natl Acad Sci USA. 1984 Sep;81(18):5662-6および米国特許第号4,588,585(引用することによりその全内容が本明細書の一部とされる)参照。
いくつかの実施形態では、1以上の対象とするポリペプチドをコードするDNA配列は、オリゴヌクレオチド合成装置を用いた化学合成により構築される。このようなオリゴヌクレオチドは、所望のポリペプチドのアミノ酸配列および対象とする組換えポリペプチドが生産される宿主細胞において有利なコドンの選択に基づいて設計することができる。対象とする単離されたポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチド配列を合成するためには標準的方法を適用することができる。例えば、完全なアミノ酸配列を用いて逆翻訳遺伝子を構築することができる。さらに、特定の単離されたポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含有するDNAオリゴマーを合成することができる。例えば、所望のポリペプチドの一部をコードするいくつかの小オリゴヌクレオチドを合成した後に連結することができる。個々のオリゴヌクレオチドは一般に、相補的アセンブリのために5’または3’オーバーハングを含む。
ひと度アセンブルされれば(合成、部位特異的突然変異誘発または別の方法による)、対象とする特定の単離されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、発現ベクターに挿入され、かつ、所望の宿主での前記タンパク質の発現に適当な発現制御配列に機能的に連結される。適正なアセンブリは、ヌクレオチドシーケンシング、制限マッピング、および好適な宿主での生物学的に活性なポリペプチドの発現によって確認することができる。当技術分野で周知のように、宿主においてトランスフェクト遺伝子の高発現レベルを得るためには、遺伝子は、選択された発現宿主において機能的な転写および翻訳発現制御配列に機能的に連結されなければならない。
特定の実施形態では、1以上の対象とするポリペプチドをコードするDNAを増幅および発現させるために組換え発現ベクターが使用される。組換え発現ベクターは、哺乳動物、微生物、ウイルスまたは昆虫遺伝子に由来する好適な転写または翻訳調節要素に機能的に連結された対象とするポリペプチドをコードする合成のまたはcDNAから誘導されたDNA断片を有する複製可能なDNA構築物である。転写単位は一般に、以下に詳細に記載されるように、(1)遺伝子発現に調節の役割を持つ1または複数の遺伝要素、例えば、転写プロモーターまたはエンハンサー、(2)mRNAへと転写され、タンパク質への翻訳される構造的配列またはコード配列、ならびに(3)適当な転写および翻訳開始および終結配列のアセンブリを含んでなる。このような調節要素は、転写を制御するためのオペレーター配列を含み得る。宿主における複製能(通常、複製起点により付与される)、および形質転換体の認識を容易にするための選択遺伝子をさらに組み込むことができる。DNA 領域は、それらが互いに機能的に関連する場合に機能的に連結されている。例えば、シグナルペプチド(分泌リーダー)のDNAは、ポリペプチドの分泌に関与する前駆体として発現される場合に、ポリペプチドのDNAと機能的に連結されており;プロモーターは、それがその配列の転写を制御する場合に、コード配列と機能的に連結されており;またはリボソーム結合部位は、それが翻訳を可能とするように配置されている場合に、コード配列と機能的に連結されている。酵母発現系での使用が意図される構造要素としては、宿主細胞による、翻訳されたタンパク質の細胞外分泌を可能とするリーダー配列が含まれる。あるいは、組換えタンパク質がリーダーまたは輸送配列無しで発現される場合には、それはN末端メチオニン残基を含み得る。この残基は場合により、その後に、発現された組換えタンパク質から切断されて最終産物を提供することができる。
発現制御配列および発現ベクターの選択は、宿主の選択に応じる。多様な発現宿主/ベクターの組合せが使用可能である。真核生物の宿主に有用な発現ベクターとしては、例えば、SV40、ウシ乳頭腫ウイルス、アデノウイルスおよびサイトメガロウイルス由来の発現制御配列を含んでなるベクターが含まれる。細菌宿主に有用な発現ベクターとしては、既知の細菌プラスミド、例えば、pCR1、pBR322、pMB9およびそれらの誘導体を含む大腸菌(Escherichia coli)由来のプラスミド;M13および線維状一本鎖DNAファージなどの広宿主域プラスミドが含まれる。
1以上の対象とするポリペプチドの発現に好適な宿主細胞としては、適当なプロモーターの制御下の原核生物、酵母、昆虫または高等真核細胞が含まれる。原核生物としては、グラム陰性またはグラム陽性生物、例えば、大腸菌または桿菌が含まれる。高等真核細胞としては、下記のような哺乳動物起源の樹立細胞株が含まれる。無細胞翻訳系もまた使用可能である。細菌、真菌、酵母、および哺乳動物細胞宿主とともに使用するための適当なクローニングおよび発現ベクターは、Pouwels et al. (Cloning Vectors: A Laboratory Manual, Elsevier, N.Y., 1985)により記載され、その関連の開示は引用することにより本明細書の一部とされる。タンパク質生産方法に関するさらなる情報は、例えば、米国特許公開第2008/0187954号、米国特許第6,413,746号および同第6,660,501号、および国際特許公開WO04009823に見出すことができ、それらはそれぞれ引用することによりその全内容が本明細書の一部とされる。
形質転換宿主のより生産されたタンパク質は、任意の好適な方法に従って精製することができる。このような標準的方法には、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティーおよびサイズ分画カラムクロマトグラフィー)、遠心分離、示差的溶解度、またはタンパク質精製のための他の任意の標準的技術が含まれる。適当なアフィニティーカラムに通すことにより簡単な精製を可能とするために、ヘキサヒスチジン、マルトース結合ドメイン、インフルエンザコート配列およびグルタチオン−S−トランスフェラーゼなどのアフィニティータグをタンパク質に結合をさせることができる。単離されたタンパク質はまた、タンパク質分解、核磁気共鳴およびX線結晶学などの技術を用いて物理的に特性決定を行うこともできる。
本発明の特定の実施形態では、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターに感染した細胞は、発現ベクターにリポーター遺伝子を含めることによって同定してもよい。一般に、選択可能なリポーターは、選択を可能とする特性を付与するものである。陽性選択可能なリポーターは、リポーター遺伝子の存在がその選択を可能とするものであり、一方、陰性選択可能なリポーターは、その存在がその選択を阻害するものである。陽性選択マーカーの例は、薬剤耐性マーカー(ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシンおよびヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子)である。他のタイプのリポーターとしては、GFPなどのスクリーニング可能なリポーターが含まれる。
増幅/発現法、免疫組織化学法、FISHおよび放出抗原アッセイ、サザンブロット法、ウエスタンブロット法、またはPCR技術など、タンパク質のレベルおよび活性を決定するための種々のアッセイが利用可能である。さらに、タンパク質発現または増幅は、イン・ビボ診断アッセイを用い、例えば、検出すべきタンパク質と結合し、かつ、検出可能な標識(例えば、放射性同位体)でタグ付けされる分子(例えば抗体)を投与し、その標識の局在に関して患者を外的にスクリーニングすることによって評価してもよい。よって、細胞においてタンパク質レベルを測定する方法は一般に当技術分野で公知であり、適用可能な場合には、本明細書に記載の方法および組成物に関連して、タンパク質のレベルおよび/または活性を評価するために使用可能である。これらのアッセイは、アデノウイルスポリペプチド(例えば、E1A、E1B、ヘキソン、ペントンベース、ファイバータンパク質、キャプシドタンパク質IX、DNAポリメラーゼ、および一本鎖DNA結合タンパク質)における修飾の効果を決定するために使用することができる。例えば、これらのアッセイは、その1または複数のポリペプチドの正常レベルもしくは完全に機能的な遺伝子産物を生産できないアデノウイルスを生じるかどうかを決定するため、または1以上のアデノウイルスポリペプチドの総てもしくは一部の突然変異を含んでなるアデノウイルスを確認するために使用することができる。
IV.使用方法および医薬組成物
本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスは、限定されるものではないが、癌の処置などの治療的処置方法を含む様々な適用に有用である。特定の実施形態では、腫瘍溶解性アデノウイルスは、腫瘍細胞溶解の誘導、腫瘍増殖の阻害、癌の処置、および/または癌に対する免疫応答の増強に有用である。使用方法は、イン・ビトロ(in vitro)、エクス・ビボ、またはイン・ビボ法であり得る。
1つの側面において、本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスは、哺乳動物における癌または癌に至る前悪性疾患の治療または予防のための薬剤の調製において有用である。いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトである。
1つの側面において、本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスは、薬剤として有用である。いくつかの実施形態では、本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスは、癌における予防薬および/または治療薬として有用である。
1つの側面において、本発明は、腫瘍細胞の溶解を誘導する方法であって、前記腫瘍細胞を有効量の本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスまたは医薬組成物と接触させて腫瘍細胞の溶解を誘導することを含んでなる方法を提供する。特定の実施形態では、腫瘍細胞の溶解を誘導する方法は、腫瘍細胞をイン・ビトロで腫瘍溶解性アデノウイルスに接触させることを含んでなる。例えば、不死化細胞株または癌細胞株を培地中で培養し、そこに腫瘍溶解性アデノウイルスを加えて腫瘍細胞の溶解を誘導する。いくつかの実施形態では、腫瘍細胞を、例えば、組織生検、胸腔滲出液、または血液サンプルなどの患者サンプルから単離し、培地中で培養し、そこに腫瘍溶解性アデノウイルスを加えて腫瘍細胞の溶解を誘導する。特定の実施形態では、腫瘍細胞の溶解を誘導する方法は、動物モデルにおいて腫瘍細胞を腫瘍溶解性アデノウイルスに接触させることを含んでなる。例えば、腫瘍溶解性アデノウイルスを免疫不全マウス(例えば、NOD/SCIDマウス)内で増殖させた腫瘍異種移植片に投与し、腫瘍細胞の溶解を誘導することができる。いくつかの実施形態では、癌幹細胞を、例えば、組織生検、胸腔滲出液、または血液サンプルなどの患者サンプルから単離し、免疫不全マウスに注射し、その後、腫瘍溶解性アデノウイルスを投与して腫瘍細胞の溶解を誘導する。いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性アデノウイルスを同時に、または腫瘍形成性細胞の導入の少し後に動物に投与してする腫瘍細胞の溶解を誘導する。いくつかの実施形態では、腫瘍形成性細胞が特定の大きさに増殖した後、腫瘍溶解性アデノウイルスを治療薬として投与する。
1つの側面において、本発明は、哺乳動物において腫瘍増殖を阻害する方法であって、治療上有効な量の本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスまたは医薬組成物を前記哺乳動物に投与することを含んでなる方法を提供する。いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトである。いくつかの実施形態では、哺乳動物は腫瘍を有するか、または腫瘍が除去されている。
いくつかの実施形態では、腫瘍は、腺癌、腺腫、星状細胞腫、癌腫、軟骨腫、軟骨肉腫、嚢腺腫、未分化胚細胞腫、赤白血病、線維腫、線維肉腫、顆粒膜細胞腫、血管腫、血管肉腫、平滑筋腫、平滑筋肉腫、ライディッヒ細胞腫、脂肪腫、脂肪肉腫、リンパ芽球性白血病、リンパ性白血病、リンパ腫、悪性組織球症、悪性黒色腫、肥満細胞腫、褐色細胞腫、髄膜腫、中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄性白血病、乏突起膠腫、骨腫、骨肉腫、形質細胞腫、横紋筋腫、横紋筋肉腫、精上皮腫、セルトリ細胞腫、軟組織肉腫、扁平上皮癌、扁平上皮乳頭腫、滑膜細胞肉腫、胸腺腫、および移行上皮癌からなる群から選択される腫瘍である。
別の側面において、本発明は、哺乳動物において癌を処置する方法であって、治療上有効な量の本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスまたは医薬組成物を前記哺乳動物に投与することを含んでなる方法を提供する。別の側面において、本発明は、哺乳動物において癌に対する免疫応答を増強するための方法であって、本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスまたは医薬組成物を前記哺乳動物に、前記哺乳動物において前記1種類以上の腫瘍抗原またはエピトープに対する免疫応答を増強するのに有効な量で投与することを含んでなる方法を提供する。いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトである。いくつかの実施形態では、哺乳動物は腫瘍を有するか、または腫瘍が除去されている。
いくつかの実施形態では、癌は、鼻咽頭癌、滑膜癌、肝細胞癌、腎臓癌、結合組織の癌、黒色腫、肺癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、脳癌、咽頭癌、口腔癌、肝臓癌、骨癌、膵臓癌、絨毛癌、ガストリノーマ、クロム親和性細胞腫、プロラクチノーマ、T細胞白血病/リンパ腫、神経腫、フォンヒッペル−リンドウ病、ゾリンジャー−エリソン症候群、副腎癌、肛門癌、胆管癌、膀胱癌、尿管癌、乏突起膠腫、神経芽腫、髄膜腫、脊髄腫瘍、骨軟骨腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、原発不明癌、カルチノイド、消化管のカルチノイド、線維肉腫、乳癌、パジェット病、子宮頸癌、食道癌、胆嚢癌、頭部癌、眼癌、頸部癌、腎臓癌、ビルムス腫瘍、カポジ肉腫、前立腺癌、精巣癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、皮膚癌、中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、内分泌膵臓癌、グルカゴノーマ、膵臓癌、副甲状腺癌、陰茎癌、下垂体癌、軟組織肉腫、網膜芽細胞腫、小腸癌、胃癌、胸腺癌、甲状腺癌、絨毛癌、胞状奇胎、子宮癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、聴神経腫、菌状息肉腫、インスリノーマ、カルチノイド症候群、ソマトスタチノーマ、歯肉癌、心臓癌、口唇癌、髄膜癌、口腔癌、神経癌、口蓋癌、耳下腺癌、腹膜癌、咽頭癌、胸腔癌、唾液腺癌、舌癌、および扁桃癌からなる群から選択される。
本発明によるアデノウイルスは、局所または全身投与され得る。例えば、いくつかの実施形態では、腫瘍溶解性アデノウイルスまたは医薬組成物は、腫瘍内、静脈内、血管内、くも膜下腔内、気管内、筋肉内、皮下、腹膜内、皮内、非経口、鼻腔内、経皮、眼内、頭蓋内または経口投与される。本発明によるアデノウイルスはまた、細胞担体で投与してもよい。
有効量の治療薬または予防薬は、例えば腫瘍に対する免疫応答の刺激など、意図される目的に基づいて決定される。当業者ならば、イン・ビボおよびエクス・ビボ状況で遺伝子送達をどのように適用すればよいかを十分に心得ている。アデノウイルスおよびアデノウイルスベクターについては、一般に、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクター原株を準備する。いくつかの実施形態では、本発明によるアデノウイルスは単回投与または複数回投与で投与することができる。いくつかの実施形態では、本ウイルスは、少なくとも約、多くとも約、または約1×104、1×105、1×106、1×107、1×108、1×109、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、または1×1014のウイルス粒子、またはそれらの間の任意の値もしくは範囲の投与量で対象に投与することができる。いくつかの実施形態では、本ウイルスは、少なくとも約、多くても約、または約1×103、1×104、1×105、1×106、1×107、1×108、1×109、1×1010、1×1011、1×1012、または1×1013プラーク形成単位(PFU)、またはそれらの間の任意の値もしくは範囲の投与量で対象に投与することができる。処置回数および用量の両方に応じて投与すべき量は、処置する対象、対象の状態、および所望の保護によって異なる。本治療組成物の厳密な量はまた医師の判断によっても異なり、各個体に特有のものである。
いくつかの実施形態では、本方法は、1種類以上の付加的治療薬を前記哺乳動物に投与することをさらに含んでなる。例えば、いくつかの実施形態では、治療薬は、化学療法薬である。化学療法としては、限定されるものではないが、5−フルオロウラシル;マイトマイシンC;メトトレキサート;ヒドロキシ尿素;シクロホスファミド;ダカルバジン;ミトキサントロン;アントラサイクリン(エピルビシンおよびドキソルビシン);受容体に対する抗体、例えば、ハーセプチン;エトポシド;プレグナソーム(pregnasome);ホルモン療法、例えば、タモキシフェンおよび抗エストロゲン作用薬;インターフェロン;アロマターゼ阻害剤;月経前期薬;およびLHRH類似体が含まれる。 CDK(サイクリン依存性キナーゼ)阻害剤は、CDKの機能を阻害する治療薬である。提供される方法における使用に好適なCDK阻害剤としては、限定されるものではないが、AG−024322、AT7519、AZD5438、フラボピリドール、インジスラム、P1446A−05、PD−0332991、およびP276−00が含まれる(例えば、引用することによりその全内容が本明細書の一部とされるLapenna, S., et al, Nat Rev Drug Discov. 2009 Jul;8(7):547-66参照)。薬剤および投与量の選択は、処置される所与の疾患に基づき、当業者ならば容易に決定できる。併用投与は、別個の処方物または単一の医薬処方物を用いた同時投与、およびいずれかの順序での連続投与を企図し、両方(または総ての)有効薬剤が同時にそれらの生物活性を発揮する期間があることが好ましい。薬剤または組成物の組合せは、並行(例えば、混合物として)、個別であるが同時(例えば、別個の静脈ライン)または逐次(例えば、1つの薬剤をまず投与し、その後、第2の薬剤を投与する)のいずれかで投与することができる。よって、組合せという用語は、2種類以上の薬剤または組成物の並行、同時または逐次投与を意味して使用される。
本発明はさらに、1種類以上の本明細書に記載の腫瘍溶解性アデノウイルスを含んでなる医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、本医薬組成物は、薬学上許容可能な担体または賦形剤をさらに含んでなる。これらの医薬組成物は、腫瘍細胞の溶解の誘導、腫瘍細胞増殖の阻害、癌の処置、および/または癌に対する免疫応答の増強に使用が見出せる。
特定の実施形態では、本処方物は、本発明の精製抗体または薬剤と薬学上許容可能なビヒクル(例えば、担体、賦形剤)を合わせることにより、保存および使用のために調製される(Gennaro, A.R., Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition Mack Publishing, 2000)。好適な薬学上許容可能なビヒクルとしては、限定されるものではないが、リン酸、クエン酸、および他の有機酸などの非毒性バッファー;塩化ナトリウムなどの塩;アスコルビン酸およびメチオニンを含む酸化防止剤;保存剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾール);低分子量ポリペプチド(例えば、約10未満のアミノ酸残基);血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリシンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、グルコース、マンノース、またはデキストリンなどの炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体);ならびにTWEENまたはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が含まれる。
本発明の医薬組成物は、局所処置または全身処置のいずれかのためにいくつかの方法で投与することができる。投与は、局所(例えば、膣および直腸送達を含み、粘膜へ);肺(例えば、ネブライザーによるものを含め、エアゾールの吸入または吹送による);気管内、鼻腔内、表皮および経皮;経口;または静脈内、動脈内、皮下、腹腔内もしくは筋肉内注射もしくは注入を含む非経口;または頭蓋内(例えば、くも膜下腔内もしくは脳室内)投与であり得る。
注射使用に好適な剤形には、無菌水溶液または分散液、および無菌注射溶液もしくは分散液の即時調製のための無菌粉末が含まれる。総ての場合で、剤形は無菌でなければならず、容易なシリンジ操作性が存在する程度の流動性がなければならない。剤形は製造および保存条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物汚染作用にから保存されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの好適な混合物、および植物油を含有する溶媒または分散媒であり得る。必要であれば、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、およびチメロサールなどを使用することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射用組成物の吸収の長期化は、組成物における、吸収遅延剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によりもたらされ得る。
特定の実施形態では、無菌注射溶液は、必要な量の化合物を上記で列挙した様々な他の成分とともに適当な溶媒に配合した後に濾過除菌を行うことによって調製される。一般に、分散液は、種々の無菌化有効成分を、基本分散媒および上記で列挙したものからの必要な他の成分を含有する無菌ビヒクルに配合することによって調製される。無菌注射溶液の調製用の無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥技術であり、これにより、その予め濾過除菌した溶液から有効成分と所望される任意の付加的成分の粉末が得られる。
調剤時に、溶液は、投与処方物と適合する様式かつ治療上または予防上有効であるような量で投与される。水溶液での非経口投与の場合、溶液は必要であれば適宜緩衝してもよく、この希釈液をまず、十分な生理食塩水またはグルコースで等張化する。これらの特定の水溶液は、血管内および腫瘍内投与に特に好適である。これに関して、使用可能な無菌水性媒体は、本開示に照らして当業者に公知である。
本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスは、医薬組合せ処方物、または併用療法としての投与計画において、付加的治療薬と組み合わせることができる。本発明の1つの側面において、付加的治療薬は、抗癌特性を有する。例えば、いくつかの実施形態では、付加的治療薬は、化学療法薬である。医薬組合せ処方物または投与計画の付加的治療薬は好ましくは、互いに悪影響を及ぼさないように腫瘍溶解性アデノウイルスに対して相補的活性を有する。腫瘍溶解性アデノウイルスおよび付加的治療薬を含んでなる医薬組成物も提供される。
疾患の処置に関して、付加的治療薬の適当な投与量は、処置される疾患のタイプ、疾患の重篤度および経過、疾患の反応性、以前の治療、患者の臨床歴などによって異なり、総て処置する医師の裁量にある。付加的治療薬は、1回、または数日〜数ヶ月、もしくは治癒が果たされるまで、もしくは病状の軽減(例えば、腫瘍サイズの縮小)が達成されるまで続く一連の処置で投与することができる。薬剤の最適な統計計画は患者の体内の薬物蓄積の測定から計算することができ、個々の薬剤の相対的効力によって異なる。投与する医師は最適な投与量、投与法および反復率を容易に決定することができる。特定の実施形態では、薬剤の投与量は、体重kg当たり0.01μg〜100mgであり、1日、1週間、1か月または1年に1回または複数回与えることができる。特定の実施形態では、薬剤は、2週間に1回または3週間に1回与えられる。特定の実施形態では、薬剤の投与量は、体重kg当たり約0.1mg〜約20mgである。処置する医師は、測定された滞留時間および体液または組織中の薬物濃度に基づいて投与の反復率を評価することができる。
組合せ療法は、「相乗作用」を提供することができ、「相乗作用性」、すなわち、有効成分が一緒に使用された場合に達成される効果がそれらの化合物を個々に使用する場合に得られる効果の和よりも大きいことを実証する。相乗作用は、有効成分が、(1)ともに処方および投与される、もしくは組み合わせた単位投与処方物で同時に送達される場合;(2)別個の処方物として交互にもしくは並行して送達される場合;または(3)他のいくつかの投与計画による場合に達成できる。交互療法で送達される場合、相乗作用は、化合物が逐次に、例えば、別個のシリンジでの異なる注射により投与または送達される場合に達成できる。一般に、交互療法の際、各有効成分の有効投与量は、逐次、すなわち、順次投与されるが、組合せ療法では、2種類以上の有効成分の有効な投与量が一緒に投与される。
V.腫瘍溶解性アデノウイルスを含んでなるキット
本発明は、開示される腫瘍溶解性アデノウイルスまたは本明細書に記載の他の薬剤を含んでなり、かつ、本明細書に記載の方法を実施するために使用できるキットを提供する。
特定の実施形態では、キットは、1以上の容器に少なくとも1種類の腫瘍溶解性アデノウイルスを含んでなる。特定の実施形態では、キットは、少なくとも1種類の本明細書に記載の医薬組成物と使用説明書とを含んでなる。当業者ならば、開示される腫瘍溶解性アデノウイルスまたは本発明の他の薬剤は、当技術分野で周知の確立されたキット形式の1つに容易に組み込み可能であることを容易に認識するであろう。
さらに、本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスまたは医薬組成物と1種類以上の付加的治療薬とを含んでなるキットも提供される。例えば、いくつかの実施形態では、本キットは、本発明の腫瘍溶解性アデノウイルスまたは医薬組成物と1種類以上の付加的化学療法薬とを含んでなる。
本発明は以下の通りである。
[1]アデノウイルスタンパク質の免疫優性T細胞エピトープの少なくとも1つの機能欠失を含んでなる、腫瘍溶解性アデノウイルス。
[2]前記免疫優性T細胞エピトープが、ヒトリンパ球抗原(HLA)クラスI拘束性エピトープである、上記[1]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[3]前記免疫優性T細胞エピトープが、ヒトリンパ球抗原−A2.1(HLA−A2.1)拘束性エピトープである、上記[2]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[4]前記免疫優性T細胞エピトープが、HLAクラスII拘束性エピトープである、上記[1]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[5]前記少なくとも1つの欠失は、前記少なくとも1つの欠失の無い親アデノウイルスと比較して細胞傷害性の実質的低下またはウイルス複製の実質的低下に関連しない、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[6]前記アデノウイルスタンパク質が、E1A、E1B、ヘキソン、ペントンベース、ファイバータンパク質、キャプシドタンパク質IX、DNAポリメラーゼ、および一本鎖DNA結合タンパク質からなる群から選択される、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[7]前記アデノウイルスタンパク質が、アデノウイルスヘキソンタンパク質である、上記[6]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[8]前記免疫優性T細胞エピトープが、前記アデノウイルスヘキソンタンパク質の保存されたベース領域にある、上記[7]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[9]前記免疫優性T細胞エピトープが、Hex512(GLVDCYINL)(配列番号23)、Hex713(YLNHTFKKV)(配列番号11)、Hex892(LLYANSAHA)(配列番号15)、およびHex917(YVLFEVFDV)(配列番号19)からなる群から選択される、上記[8]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[10]アデノウイルスが、Hex512エピトープにおけるL520P突然変異、Hex713エピトープにおけるV721A突然変異、Hex892エピトープにおけるA900S突然変異、およびHex917エピトープにおけるV925K突然変異からなる群から選択される少なくとも1つの突然変異を含んでなる、上記[8]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[11]アデノウイルスが、免疫優性T細胞エピトープHex512(GLVDCYINL)(配列番号23)およびHex917(YVLFEVFDV)(配列番号19)の欠失を含んでなる、上記[8]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[12]アデノウイルスが、Hex512エピトープにおけるL520P突然変異およびHex917エピトープにおけるV925K突然変異を含んでなる、上記[11]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[13]アデノウイルスが、免疫優性T細胞エピトープHex713(YLNHTFKKV)(配列番号11)、Hex892(LLYANSAHA)(配列番号15)、およびHex917(YVLFEVFDV)(配列番号19)の欠失を含んでなる、上記[11]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[14]アデノウイルスが、Hex713エピトープにおけるV721A突然変異、Hex892エピトープにおけるA900S突然変異、およびHex917エピトープにおけるV925K突然変異を含んでなる、上記[13]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[15]アデノウイルスが、免疫優性T細胞エピトープHex512(GLVDCYINL)(配列番号23)、Hex713(YLNHTFKKV)(配列番号11)、Hex892(LLYANSAHA)(配列番号15)、およびHex917(YVLFEVFDV)(配列番号19)の欠失を含んでなる、上記[13]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[16]アデノウイルスが、Hex512エピトープにおけるL520P突然変異、Hex713エピトープにおけるV721A突然変異、Hex892エピトープにおけるA900S突然変異、およびHex917エピトープにおけるV925K突然変異を含んでなる、上記[15]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[17]それぞれ腫瘍抗原またはエピトープをコードする1以上の異種核酸配列をさらに含んでなる、上記[1]〜[16]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[18]前記1以上の異種核酸配列が、それぞれ腫瘍抗原またはエピトープをコードする1〜5の異種核酸配列を含んでなる、上記[17]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[19]前記腫瘍抗原またはエピトープが、MAGE−1、MAGE−2、MAGE−3、CEA、チロシナーゼ、ミドカイン、BAGE、CASP−8、β−カテニン、CA−125、CDK−1、ESO−1、gp75、gpl00、MART−1、MUC−1、MUM−1、p53、PAP、PSA、PSMA、ras、trp−1、HER−2、TRP−1、TRP−2、IL13Rα、IL13Rα2、AIM−2、AIM−3、NY−ESO−1、C9orf1l2、SART1、SART2、SART3、BRAP、RTN4、GLEA2、TNKS2、KIAA0376、ING4、HSPH1、C13orf24、RBPSUH、C6orf153、NKTR、NSEP1、U2AF1L、CYNL2、TPR、SOX2、GOLGA、BMI1、COX−2、EGFRvIII、EZH2、LICAM、リビン、MRP−3、ネスチン、OLIG2、ART1、ART4、B−サイクリン、Gli1、Cav−1、カテプシンB、CD74、E−カドヘリン、EphA2/Eck、Fra−1/Fosl1、GAGE−1、ガングリオシド/GD2、GnT−V、β1,6−Ν、Ki67、Ku70/80、PROX1、PSCA、SOX10、SOX11、サバイビン、UPAR、メソテリン、およびWT−1、またはそのエピトープからなる群から選択される、上記[17]または[18]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[20]前記腫瘍抗原またはエピトープが、ヒト腫瘍抗原またはエピトープである、上記[17]〜[19]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[21]前記異種核酸配列が、免疫優性T細胞エピトープの少なくとも1つの欠失を有する前記アデノウイルスタンパク質をコードするアデノウイルス遺伝子に挿入されている、上記[17]〜[20]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[22]前記異種核酸配列が、免疫優性T細胞エピトープの少なくとも1つの欠失を有する前記アデノウイルスタンパク質以外のアデノウイルスタンパク質をコードするアデノウイルス遺伝子に挿入されている、上記[17]〜[20]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[23]前記異種核酸配列が、アデノウイルスヘキソンタンパク質をコードするアデノウイルス遺伝子に挿入されている、上記[17]〜[22]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[24]前記異種核酸配列が、前記アデノウイルスヘキソンタンパク質の超可変領域に挿入されている、上記[23]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[25]前記超可変領域が、超可変領域5である、上記[24]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[26]前記腫瘍抗原またはエピトープにフレキシブルリンカーが隣接している、上記[17]〜[25]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[27]前記フレキシブルリンカーが、GSGSR(配列番号28)、AGSGSR(配列番号29)、およびAGSGS(配列番号30)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなる、上記[26]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[28]前記1以上の異種核酸配列が、gp100腫瘍抗原もしくはエピトープ、またはチロシナーゼ腫瘍抗原もしくはエピトープをコードする、上記[17]〜[27]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[29]前記1以上の異種核酸配列が、(a)gp100抗原またはエピトープをコードする異種核酸配列と、(b)チロシナーゼ抗原またはエピトープをコードする異種核酸配列とを含んでなる、上記[17]〜[27]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[30]前記gp100腫瘍抗原またはエピトープが、アミノ酸配列YLEPGPVTA(配列番号31)を含んでなり、前記チロシナーゼ抗原またはエピトープがアミノ酸配列YMDGTMSQV(配列番号32)を含んでなる、上記[28]または[29]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[31]前記異種核酸配列が、アデノウイルスヘキソンタンパク質の超可変領域5に挿入されている、上記[28]〜[30]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[32]前記アデノウイルスが、ヒトアデノウイルスである、上記[1]〜[31]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[33]前記ヒトアデノウイルスが、ヒトアデノウイルス血清型1〜51、およびそれらの誘導体からなる群から選択される、上記[32]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[34]前記ヒトアデノウイルスが、血清型5である、上記[33]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[35]前記腫瘍溶解性アデノウイルスが、腫瘍において選択的に複製する、上記[1]〜[34]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[36]アデノウイルスが、腫瘍における選択的複製を達成するために組織特異的または腫瘍特異的プロモーターをさらに含んでなる、上記[35]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[37]前記組織特異的プロモーターまたは腫瘍特異的プロモーターが、腫瘍における選択的複製を達成するために、E1a、E1b、E2、およびE4からなる群からの1以上の遺伝子の発現を制御するためのプロモーター配列である、上記[36]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[38]前記組織特異的プロモーターが、E2Fプロモーター、テロメラーゼhTERTプロモーター、チロシナーゼプロモーター、前立腺特異的抗原プロモーター、αフェトタンパク質プロモーター、およびCOX−2プロモーターからなる群から選択される、上記[37]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[39]アデノウイルスが、腫瘍における選択的複製を達成するためにE1a、E1b、E4、およびVA−RNAからなる群から選択される1以上の遺伝子に突然変異をさらに含んでなる、上記[35]〜[38]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[40]アデノウイルスが、その感染力を増強するためまたは腫瘍細胞に存在する受容体を標的化するためのキャプシド修飾をさらに含んでなる、上記[1]〜[39]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[41]アデノウイルスが、癌の遺伝子療法の分野で慣用される少なくとも1つの遺伝子をさらに含んでなる、上記[1]〜[40]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[42]癌療法の分野で慣用される前記少なくとも1つの遺伝子が、プロドラッグ活性化遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、および免疫刺激遺伝子からなる群から選択される遺伝子である、上記[41]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[43]配列番号3または4のヌクレオチド配列を含んでなる、腫瘍溶解性アデノウイルス。
[44]配列番号5のヌクレオチド配列を含んでなる、腫瘍溶解性アデノウイルス。
[45]薬理学的に有効な用量の上記[1]〜[44]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルスと1種類以上の薬学上許容可能な担体または賦形剤とを含んでなる医薬組成物。
[46]薬理学的に有効な用量の上記[17]〜[44]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルスと1種類以上の薬学上許容可能な担体または賦形剤とを含んでなる医薬組成物。
[47]上記[45]または[46]に記載の医薬組成物と使用説明書とを含んでなるキット。
[48]1種類以上の付加的治療薬をさらに含んでなる、上記[47]に記載のキット。
[49]前記治療薬が、化学療法薬である、上記[48]に記載のキット。
[50]上記[1]〜[44]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルスを含んでなる宿主細胞。
[51]感染性アデノウイルス粒子を生産する方法であって、(a)上記[50]に記載の宿主細胞を、前記腫瘍溶解性アデノウイルスの増殖および感染性アデノウイルス粒子の形成を可能とする条件下で培養すること、および(b)前記感染性アデノウイルス粒子を回収することを含んでなる、方法。
[52]哺乳動物における癌または癌に至る前悪性疾患の治療または予防のための薬剤の調製における、上記[1]〜[44]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルスの使用。
[53]前記哺乳動物が、ヒトである、上記[52]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルスの使用。
[54]薬剤として使用するための、上記[1]〜[44]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[55]癌における予防薬および/または治療薬としての上記[54]に記載の腫瘍溶解性アデノウイルス。
[56]腫瘍細胞の溶解を誘導する方法であって、前記腫瘍細胞を有効量の上記[1]〜[44]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルスまたは上記[45]に記載の医薬組成物と接触させて前記腫瘍細胞の溶解を誘導することを含んでなる、方法。
[57]哺乳動物において腫瘍増殖を阻害する方法であって、治療上有効な量の上記[1]〜[44]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルスまたは上記[45]に記載の医薬組成物を前記哺乳動物に投与することを含んでなる、方法。
[58]哺乳動物において癌を処置する方法であって、治療上有効な量の上記[1]〜[44]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルスまたは上記[45]に記載の医薬組成物を前記哺乳動物に投与することを含んでなる、方法。
[59]哺乳動物において癌に対する免疫応答を増強するための方法であって、上記[17]〜[44]のいずれかに記載の腫瘍溶解性アデノウイルスまたは上記[46]に記載の医薬組成物を前記哺乳動物に、前記哺乳動物において前記1以上の腫瘍抗原またはエピトープに対する免疫応答を増強するのに有効な量で投与することを含んでなる、方法。
[60]前記腫瘍溶解性アデノウイルスまたは医薬組成物が、腫瘍内、静脈内、血管内、くも膜下腔内、気管内、筋肉内、皮下、腹膜内、皮内、非経口、鼻腔内、経皮、眼内、頭蓋内、または経口投与される、上記[57]〜[59]のいずれかに記載の方法。
[61]アデノウイルスのおよそ10 4 〜10 13 のウイルス粒子が前記哺乳動物に投与される、上記[60]に記載の方法。
[62]1種類以上の付加的治療薬を前記哺乳動物に投与することをさらに含んでなる、上記[57]〜[61]のいずれかに記載の方法。
[63]前記治療薬が、化学療法薬である、上記[62]に記載の方法。
[64]前記哺乳動物が、ヒトである、上記[57]〜[63]のいずれかに記載の方法。
[65]配列番号3、4、および5からなる群から選択される配列と少なくとも90%同一の配列を含んでなる、単離されたポリヌクレオチド。
[66]配列番号3、4、および5からなる群から選択される配列と少なくとも95%同一の配列を含んでなる、単離されたポリヌクレオチド。
[67]配列番号3、4、および5からなる群から選択される配列と少なくとも99%同一の配列を含んでなる、単離されたポリヌクレオチド。
[68]配列番号3、4、および5からなる群から選択される配列を含んでなる、単離されたポリヌクレオチド。
[69]上記[65]〜[68]のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含んでなるベクター。
[70]上記[69]のベクターを含んでなる宿主細胞。
本開示の実施形態は、本開示の特定の腫瘍溶解性アデノウイルスの詳細な調製および本開示の腫瘍溶解性アデノウイルスを使用するための方法を詳細に記載する以下の限定されない例を参照してさらに定義することができる。本開示の範囲から逸脱することなく材料および方法の両方に対し多くの修飾を行い得ることが当業者には明らかである。
本明細書に記載の実施例および実施形態は単に例示を目的とし、それらに照らして様々な修飾または変更が当業者に示唆され、本出願の趣旨および範囲内に含まれることが理解される。
実施例1〜4は、アデノウイルス免疫優性T細胞エピトープを欠失させることによる抗アデノウイルス免疫応答から抗腫瘍免疫応答への免疫シフトを示す。ヘキソンの3つの免疫優性T細胞エピトープにおける突然変異を含むHAd5腫瘍溶解性アデノウイルスであるICO15K−TD−gp100−tyrおよびヘキソンに挿入されたヒト腫瘍エピトープgp100−tyrを用い、ICO15K−TD−gp100−tyrで処置したマウスは、全体的に低減された抗アデノウイルス免疫応答を有すると同時に、3つのヘキソン突然変異の無い対照ウイルスであるICO15K−gp100−tyrで処置したマウスに比べて、tyr腫瘍エピトープに対してより高い免疫応答を示すことが証明された。
実施例5は、ICO15K−TD−gp100−tyrが、マウス腫瘍を有する動物においてICO15K−gp100−tyrsに比べてより強力な抗腫瘍活性を誘導すること示す。特に、ICO15K−TD−gp100−tyrを注射した動物は、ICO15K−gp100−tyrで処置した動物よりも腫瘍形成にはるかに不応である。
実施例6〜8は、腫瘍エピトープの不在下での抗腫瘍活性における免疫シフトの影響を示す。特に、ICOVIR15K−TDとの比較において導入された、ヒト腫瘍エピトープを欠き、かつ、付加的ヘキソンエピトープ突然変異を有する4重欠失(QD)ICOVIR15Kアデノウイルス(ICOVIR15K−QD)は、マウス腫瘍を有する動物においてICO15Kに比べてより強力な抗腫瘍活性を誘導する。
実施例1
拘束ライブラリー法を用いた3重欠失(TD)を含む腫瘍溶解性アデノウイルスICOVIR15K−TDの作出およびその誘導体ICO15K−TD−gp100−tyr
PubMedにより文献でアデノウイルス5のヒトリンパ球抗原−A2.1(HLA−A2.1)により拘束された免疫優性エピトープの検索を行った。HLA−A2.1は白色人種およびメスティーソ集団でより優勢な(35〜50%)主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIである(Gonzalez‐Galarza, F.F., et al., Nucleic Acids Res. 2011 Jan;39(Database issue):D913-9)ことからこれが選択された。各エピトープは、ペプチドの2番と9番にHLA−A2.1に対する2つの主要な係留部位を、そして1番と3番に2つの二次的な係留部位を有する。ヘキソンは、ヒトアデノウイルス5の最も免疫原性のあるタンパク質と考えられ、以下の3つのエピトープの選択は、異なる研究(Leen, A.M., et al., Blood. 2004 Oct 15;104(8):2432-40; Leen, A.M., et al., J Virol. 2008 Jan;82(1):546-54; Olive, M., et al., Hum Gene Ther. 2002 Jul 1;13(10):1167-78; Tang, J., et al., Virology. 2006 Jul 5;350(2):312-22)における、一連のin silico予測後の、アデノウイルス5感染患者におけるヒト活性の優勢度に基づいた。この目的で、ヘキソンタンパク質を、マウスH2−Dbエピトープと高い親和性で結合するエピトープを予測するためにプログラムNetMHC、IEDB、BIMASおよびRankpepを用いて分析した(表1)。これらのプログラムはまたヒトHLA−A2.1エピトープを同定するために、SYFPEITHIおよびSVRMHCプログラム(Gowthaman, U., et al., Amino Acids. 2010 Nov;39(5):1333-42)(引用することによりその全内容が本明細書の一部とされる)に加えて使用した。欠失させるべく選択されたエピトープはHex713(YLNHTFKKV)(配列番号11)、Hex892(LLYANSAHA)(配列番号15)およびHex917(YVLFEVFDV)(配列番号19)であり、ここで、「Hex」の後の数字は、ヘキソンタンパク質配列(配列番号9)におけるエピトープの最初のアミノ酸の位置を示す。
腫瘍溶解性アデノウイルスICOVIR15Kのプラスミド(Rojas, J.J., et al., Gene Ther. 2012 Apr;19(4):453-7)(引用することによりその全内容を本明細書の一部とする)を、選択されたHex713、Hex892およびHex917エピトープを欠失させるために、酵母において相同組換えにより遺伝的に改変した。これらのエピトープを欠失させるための最初のアプローチは、これらのエピトープの鍵となるアミノ酸(最初のアミノ酸またはエピトープの2番および9番のアンカーアミノ酸)を置換することであった。アデノウイルスプラスミドにおいて構築された、いくつかの突然変異体(hex713エピトープに影響を及ぼすY713C、Y713D、Y713E、L714D、L714G、L714P;Hex892に影響を及ぼすL902D、L902E、L902G、L902K、L902S、L902W;およびエピトープHex917に影響を及ぼすY917D、Y917P、V918D、V918G、V925D、V925G、V925K、V925N、V925P、V925Q、V925S)のうち、HEK293細胞におけるこのようなプラスミドのトランスフェクションの際に生存力のあるウイルスが1つだけ得られた。得られたアデノウイルスは、エピトープHex917にV925K突然変異を有しており、このエピトープの9番(ヘキソンの925番のアミノ酸に相当)のバリン(V)がリシン(K)に置換されていた。標的化突然変異によって免疫優性エピトープの有効な欠失を得るのは困難であると考えられるので、作出中の突然変異体のライブラリーに基づいて異なる戦略に従った。このために、使用時間および陽性クローンの数の点で酵母での組換えに比べて効率がよいことから(Stanton, R.J., et al., Biotechniques. 2008 Dec;45(6):659-62, 664-8)、細菌での相同組換えをその後のエピトープ突然変異の導入のために用いた。この細菌での相同組換えは、アデノウイルスゲノムに挿入された陽性−陰性選択遺伝子を意図される遺伝子突然変異(本発明者らの場合ではエピトープ欠失)を含むドナー断片で置換することに基づく。免疫優性エピトープを欠失させるために拘束ライブラリー法を適用した。この系は、コード配列を1または複数のオリジナルアミノ酸、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、およびバリン以外の任意のアミノ酸で置換するために縮重プライマー(オリゴヌクレオチド)の使用を含む。オリジナルアミノ酸、ならびにロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、およびバリンは、これらのアミノ酸がHLA−A2.1部位と結合し得ることから排除した。縮重プライマーは、ある特定の定義されないヌクレオチドを用いて合成されるので、合成されるプライマーはプライマーライブラリーに相当する。縮重プライマーでは、欠失させるアミノ酸のコドンに対応するヌクレオチドが「NVN」として合成され、ここで、NはA、T、C、Gであり得、VはA、C、Gであり得る。従って、コドンの2番目の位置にTを含むコドンを有する総てのアミノ酸(Phe、Leu、Ile、MetおよびVal)がこのライブラリーには存在しない。これらのアミノ酸は、エピトープのアンカー残基に一般に見られる非極性脂肪族疎水性である。縮重配列はまた、「NBN」としてのリバースプライマーで配置されてもよく、ここで、BはT、CまたはGである。ヘキソンのPCR断片を、縮重プライマーを用いて合成し、細菌での相同組換えにおいてドナー断片として使用した。Hex713およびHex892エピトープを欠失させるためにこの拘束ライブラリー法を適用し、Hex713エピトープにおけるバリンのアラニンによるアミノ酸置換(V721A)およびHex892エピトープにおけるアラニンのセリンによるアミノ酸置換(A901S)を有する突然変異体を得た。このセットの突然変異を従前に得られたV925Kと合わせて「TD」(3重欠失を表す)と呼称し、以下の3つの突然変異を含む:(1)Hex713エピトープの9番の位置における、バリンをアラニンで置換するV721A突然変異;(2)Hex892エピトープの9番の位置における、アラニンをセリンで置換するA900S突然変異;および(3)Hex917エピトープの9番の位置における、バリン(V)をリシン(K)で置換するV925K突然変異。
表2は、その野生型対応物に比べた場合の、各突然変異領域の正確なアミノ酸配列を、表1に挙げられているNetMHC予測法に従う、その対応するHLA対立遺伝子に対する予測親和性とともに示す。この予測で低いIC50値は良好な結合物に相当し、変異型は高いIC50予測値を示す。
ウイルスゲノムを含むプラスミドを、リン酸カルシウム法を用いて真核生物293細胞にトランスフェクトした。作出された各ウイルスを、組織培養中の細胞の50%を死滅させるのに必要な感染性粒子の数(IC50)を測定するスペクトロタイター技術を用い、その腫瘍溶解能に関して分析した。突然変異V721A、A901S、およびV925Kを有するウイルスは、それらの腫瘍溶解能に損失を示さなかった。
図1に示されるように、ICO15K−TD−gp100−tyrを構築するために、ヘキソンの超可変領域5(HVR5)(ヘキソンのアミノ酸270〜281に相当する)を、黒色腫エピトープgp100−280(gp100)およびチロシナーゼ369(tyr)で置換した。gp100およびtyrエピトープ配列は、それぞれYLEPGPVTA(配列番号31)およびYMDGTMSQV(配列番号32)に相当する。tyrエピトープは、N372D突然変異を導入するために、天然チロシナーゼのアミノ酸372に相当する位置で修飾した。tyrにおけるこのN372D突然変異は、TCRにより容易に認識させる翻訳後修飾をもたらす(Skipper, J.C., et al., J Exp Med. 1996 Feb 1;183(2):527-34)。3重欠失を持たない、エピトープgp100およびtyrを有する対照ウイルスICO15K−gp100−tyrを構築した。これらの腫瘍エピトープは、図1に示されるように、リンカーGSGSR(配列番号28)、AGSGSR(配列番号29)およびAGSGS(配列番号30)が隣接している。エピトープ挿入のライブラリーを作出するために、オーバーラップピングPCR産物をオーバーラップさせるために使用可能な相同性の領域を持たせるためにエピトープ間にリンカーを挿入した。リンカーは、フレキシビリティーのためにグリシンおよびセリン(GS)アミノ酸を含むように設計した(Vigne, E., et al., J Virol. 1999 Jun;73(6):5156-61; Taremi, S.S., et al., Protein Sci. 1998 Oct;7(10):2143-9; Kingston, R.L., et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Jun 1;101(22):8301-6)。リンカー内の反復GSコンテント以外の、異なるコドンDNA配列を、相同組換え避けるために使用した。さらに、いくつかのリンカーでは、プロテオソーム切断予測ウェブサイトNetChop 3.1 Server(http://www.cbs.dtu.dk/services/NetChop/)を使用することにより、プロテオソームプロセシングの際のC−ter切断部位に良好なアミノ酸を得るためにアラニン(A)アミノ酸を選択し、また、いくつかのリンカーでは、TAP(Transporter associated with antigen processing)結合とその小胞体エントリーに良好なアミノ酸を得るためにアルギニン(R)を選択した(Uebel, S. and Tampe, R., Curr Opin Immunol. 1999 Apr;11(2):203-8)。ICO15K−TD−gp100−tyrおよびICO15K−gp100−tyrウイルスゲノムを含む両プラスミドを293細胞にトランスフェクトし、A459で増幅させた後、精製した。
実施例2
イン・ビトロにおける新規構築物の生存率のバリデーション
ヒト癌細胞A549におけるウイルス原株の連続継代および細胞変性効果を得るのに必要な時間
3重欠失の安定性を評価するために、図2に示されるように、各3重欠失ウイルスの10回連続継代物を、細胞変性効果(CPE)に関して分析した。これにはA549細胞単層のICOVIR15K−TD−gp100−tyrまたはICOVIR15K−TD感染を含んだ。野生型アデノウイルスでは、CPEは通常、感染72時間後に見られる。この時間枠はまた、3重欠失ウイルスで行った10回の継代の総てで見られた。
A549細胞でのプラークアッセイにおけるプラーク形成能およびプラークサイズ(単層全面)
A549細胞単層を3重欠失ウイルス(ICOVIR15K−TD−gp100−tyrまたはICOVIR15K−TD)または3重欠失を持たない対照ウイルス(ICOVIR15KもしくはICOVIR15K−gp100−tyr)に7日間感染させ、その後、生存細胞をニュートラルレッド染料で染色した。図3に示されるように、いずれの3重欠失ウイルスのプラークサイズも、いずれの対照ウイルスと比べても変化はなかった。これらの所見は、3重欠失ウイルスは親ウイルス同様の挙動を続け、プラーク形成能を損失しないことを示す。
A549細胞におけるIC50値を決定するためのイン・ビトロ細胞傷害性アッセイ
A549細胞をICOVIR15K、ICOVIR15K−TD、ICOVIR15K−gp100−tyr、またはICOVIR15K−TD−gp100−tyrに、0.00001〜200形質転換単位(Transducing Units)(TU)/細胞の範囲の感染多重度(MOI)で感染させ、細胞生存率を感染5日後に評価した。3重欠失を有する各ウイルスのIC50値は、これらのウイルスが、親ウイルスに比べて腫瘍溶解活性または細胞傷害性を損失しなかったことを示す。これらの所見は、これらのキャプシド修飾が3重欠失ウイルスの腫瘍溶解能に干渉しないことを示す。
ウイルス生産アッセイ
A549細胞をICOVIR15K、ICOVIR15K−TD、ICOVIR15K−gp100−tyr、またはICOVIR15K−TD−gp100−tyrに25TU/細胞のMOIで4時間感染させた後、PBSで洗浄した。総ウイルス生産(実線、図5A)および放出ウイルス生産(破線、図5B)を感染後24、48、72および96時間に分析した。親ウイルスICOVIR15Kを良好な腫瘍溶解性ウイルスの対照参照として使用した。3重欠失を有するウイルス(ICOVIR15K−TDおよびICOVIR15K−TD−gp100−tyr)は、感染後24時間で、ICOVIR15K対照ウイルスに比べて総生産におよそ1logの減少を有すると見られたが、ウイルス生産曲線を比較するためのマン・ホイットニーのU検定を用いた統計分析(Wang, G.P. and Bushman, F.D., J Virol Methods. 2006 Jul;135(1):118-23)では、これらの群の間に差は無いことが示された。加えて、経時的放出ウイルス量に関しても、3重欠失ウイルスと対照ウイルスの間に有意差は無かった。これらの結果は、3重欠失ウイルスと対照ウイルスは、総ウイルス生産と放出ウイルス生産の両方に関して同等のウイルス生産を示したことを示す。これらの所見はまた、キャプシドに遺伝子修飾のない対照ウイルスに比べて3重欠失ウイルスで差が見られなかった図4に示される細胞傷害性アッセイのIC50で得られた結果によっても裏づけられる。IC50値は感染5日に取得し、これにより腫瘍溶解能の適正な評価のために複数回のウイルス複製を可能とした。
実施例3
ICOVIR15K−TD−gp100−tyrに存在する変異型アデノウイルスエピトープおよび腫瘍エピトープの、ヒトHLA−A2.1に対する結合親和性
変異型ペプチドの結合親和を評価するために、Takiguchi et al. (Takiguchi, M., Tissue Antigens. 2000 Apr;55(4):296-302)(引用することによりその全内容を本明細書の一部とする)から若干の変更を行ったHLA−A2.1安定化アッセイを使用した。HLA−A2.1を発現するマウス細胞(RMA−S A2細胞)を、ペプチドの不在下でHLA−A2の表面発現を可能とするために26℃で18時間インキュベートした。U型底の96ウェルプレートでペプチドを100μl容量中、300μMから開始し0.1μMまで1:3連続希釈した。2.5e5RMA−S A2細胞を各ウェルに100μl容量で加えた。この混合物を26℃で2時間、次いで、37℃で2時間インキュベートし、結合していないHLA−A2.1を内部移行させた。細胞を500gで3分間回転させ、PBS、FBS5%、BSA0.5%で3回洗浄した。細胞を100μlのハイブリドーマ抗HLA−A2.1(PA2.1)上清とともにインキュベートし、4℃で30分間インキュベートした。細胞を3回洗浄した後、1:500希釈のAlexa Fluor(登録商標)488ヤギ抗マウスIgG(Molecular Probe(登録商標))とともに4℃で30分間インキュベートした。細胞を3回洗浄した後、Galliosフローサイトメーター(Beckman Coulter)で分析した。陰性対照として、RMA−S A2細胞をHLA−A2.1と親和性を持たないペプチドとともに同じ試験条件下でインキュベートした。蛍光指数は、式: フルオレセイン指数=(サンプル蛍光−陰性対照蛍光)/陰性対照蛍光を用いて計算した。
GraphPad Prism v5を用い、非線形回帰を用いてKd値を分析した。各ペプチドに関して、平衡状態で最大可能結合の半分の結合定数を表すKd値を得た。
このアッセイを用い、ICOVIR15K−TD−gp100−tyrにおけるHLA−A2結合エピトープを分析した。図6Aに示されるように、エピトープHex982およびHex713の変異型は、HLA−A2に対してそれらの非修飾対応物と同等レベルの結合を維持していた。よって、これらの突然変異は「機能欠失型でない」と見なされた。Hex917エピトープにおける突然変異V925Kは、図6Aに示されるように、その非修飾対応物のほぼ600分の1までHLA−A2結合を有意に低下させた。よって、この突然変異は、「機能欠失型」と見なされた。さらに、図6Bに示されるように、ICOVIR15K−TD−gp100−tyrに導入された総ての腫瘍エピトープがヒトHLA−A2.1と結合し、機能的である。図6Cにまとめられるように、ICOVIR15K−TD−gp100−tyrは、免疫優性アデノウイルスエピトープならびに機能的gp100およびtyrエピトープの欠失をもたらす「機能欠失」を含む。
実施例4
ICOVIR15K−TD−gp100−tyrにより生じた免疫応答のイン・ビボ分析
マウスクラスI MHC H−2をノックアウトし、かつ、有意な量のヒトクラスI MHC Ag HLA−A2.1を発現するように操作したC57BL/6マウス系統であるHHDトランスジェニックマウス(HHD A2/Kb H−2b−とも呼称;Firat, H., et al., Eur J Immunol. 1999 Oct;29(10):3112-21)を、0日目の不活化ウイルスの 筋肉内投与によるプライミングとさらに14日目の活性ウイルスの静脈内追加免疫に基づく免疫誘導計画を用い、ICOVIR15K−gp100−tyrまたはICOVIR15K−TD−gp100−tyrで免疫誘導した。28日目に、どのヘキソンエピトープがより免疫原性であるか、また、3重欠失エピトープが免疫応答を生成できないかどうかを判定するために、いくつかのヘキソンエピトープに対する免疫応答を分析した。
28日時点での種々のエピトープに対する免疫応答を、膜上の個々の応答細胞の分泌産物(すなわち、IFNγ)の可視化を可能とし、それにより定性的(抗原のタイプ)および定量的(応答細胞の数)情報を提供する酵素結合免疫吸着スポット(ELISPOT)アッセイを用いて評価した。このような分析を行うため、28日目にマウスを犠牲にし、脾臓を採取し、脾細胞を単離した。各動物の脾細胞を2,500,000細胞/ウェルで播種した。フィトヘマグルチニン(PHA 15ng/mL)とイオノマイシン(250ng/mL)を陽性対照として使用し、培地単独を陰性対照として使用した。ペプチドおよびペプチドプールを終濃度1μMで用いた。抗原をこれらの脾細胞とともに37℃、5%CO2で少なくとも18時間インキュベートした。ウェルを洗浄し、ビオチン化抗IFNγ二次抗体(Mabtech 3321−6−250)とともに2時間インキュベートし、洗浄し、次いで、ストレプトアビジン−ALP(Sigma E2636−.2ML)とともに1時間インキュベートした。プレートをPBSで洗浄し、BCIP/NBT溶液(Sigma B1911−100ML)を用い、明瞭なスポットが現れるまで(15〜30分)スポットを現像した。プレートを水道水で洗浄し、一晩乾燥させ、AID EliSpotリーダークラシック(ELR07l; AID GmbH、ストラスバーグ、ドイツ)を用いてスポットを計数した。スポットの数は、CD8含量が0.5%〜3.5%と変動したため、脾細胞集団中のCD8リンパ球含量によって補正した。
この試験では、3重欠失(Hex713、Hex892およびHex917)により標的化されるものおよび表1に示される種々のin silico法に従ってHLA−A2.1と高い親和性で結合すると予測されるものを含む、ヘキソンエピトープのパネルに対する反応性を評価した。これらは以下のヒトHLA−A2.1拘束アデノウイルス/腫瘍エピトープまたはポリペプチドを含んだ:E1A19(LLDQLIEEV)(配列番号33);Hex63(RLTLRFIPV)(配列番号34);Hex512(GLVDCYINL)(配列番号23);Hex548(MLLGNGRYV)(配列番号35);Hex652(MLYPIPANA)(配列番号36);Hex713(YLNHTFKKV)(配列番号11);Hex892(LLYANSAHA)(配列番号15);Hex914(TLLYVLFEV)(配列番号37);Hex917(YVLFEVFDV)(配列番号19);Tyr369(3D)(YMDGTMSQV(配列番号32));gp100−209(IMDQVPFSV)(配列番号38)およびgp100−280(YLEPGPVTA(配列番号31))。加えて、ヘキソンポリペプチドのプール(全ヘキソンタンパク質配列のうち9アミノ酸がオーバーラップする15のアミノ酸ポリペプチド)およびICOVIR15K−gp100−tyrまたはICOVIR15K−TD−gp100−tyrに24時間、事前に感染させたナイーブ脾細胞も含めた。
結果を図7に示す。ヘキソンエピトープパネルは、3重欠失(Hex713、Hex892、およびHex917)により標的化されるものおよび種々の予測モデルに従ってHLA−A2.1と高い親和性で結合すると予測されるものを含んだ。3重欠失ヘキソンエピトープHex713およびHex892に対するCD8 T細胞応答が検出不能であり、かつ、およびICOVIR15K−gp100−tyrで免疫誘導した際にHex917に対して小さな応答が見られたにもかかわらず、3重欠失ウイルスICOVIR15K−TD−gp100−tyrはHex917エピトープに対する応答を惹起することができなかったので、ヘキソンにおけるアミノ酸置換V925Kは、イン・ビボにおいて機能的である。Hex63、Hex512、Hex548、Hex652およびHex914など、HLA−A2.1と高い親和性で結合すると予測された他のヘキソンエピトープに対する免疫応答も評価した。これらの予測エピトープから、Hex512のみが高い免疫応答を誘導することができた。興味深いことに、3重欠失ウイルスICOVIR15K−TD−gp100−tyrで処置したマウスは、親対照ウイルスよりもHex512に対して高い応答を示し、このことは、3重欠失が存在した場合に他のヘキソンエピトープへの免疫優性のシフトが存在したことを示唆する。
ヘキソンペプチドのプール(全ヘキソンタンパク質配列の9アミノ酸がオーバーラップする15のアミノ酸ペプチド)をELISPOTアッセイで分析したところ、ICOVIR15K−gp100−tyrおよびICOVIR15K−TD−gp100−tyrの両ウイルスはヘキソンに対して高い免疫応答を生じたが、3重欠失ウイルスにより生じたヘキソンに対する免疫応答のレベルは、対照ウイルスよりも有意に低かった。この重要な所見は、3重欠失において個々の標的エピトープに対した高い免疫応答が検出されなかったとしても、これら3つのエピトープが欠失される場合には、全体としての抗ヘキソン免疫原性が低下することを示す(図7)。加えて、全アデノウイルスタンパク質に対する全般的免疫性が3重欠失のために変化したかどうかを調べるために、本発明者らは、ウイルスに感染したナイーブ脾細胞と抗原提示細胞を用いて、免疫動物の脾細胞に全セットのアデノウイルスエピトープを提示した。ナイーブ脾細胞をエクス・ビボでICOVIR15K−gp100−tyrまたはICOVIR15K−TD−gp100−tyrに24時間感染させた後、ELISPOTアッセイにおいて免疫マウス由来の脾細胞に加えた(図7)。ICOVIR15K−gp100−tyrで免疫誘導したマウスは、ICOVIR15K−gp100−tyrまたはICOVIR15K−TD−gp100−tyrに感染したナイーブ脾細胞に対して極めてよく応答した。しかしながら、3重欠失ウイルスICOVIR15K−TD−gp100−tyrで免疫誘導したマウスは、ICOVIR15K−gp100−tyrまたはICOVIR15K−TD−gp100−tyrに感染したナイーブ脾細胞に低活性でしか応答しなかった。全体としての抗アデノウイルス免疫応答は、3重欠失ウイルスICOVIR15K−TD−gp100−tyrで免疫誘導したマウスでは、非3重欠失ウイルスICOVIR15K−gp100−tyrに比べて有意に低かった。
3重欠失エピトープを有するヘキソンに対する免疫応答の誘導が、アデノウイルスキャプシド内で提示される腫瘍エピトープの免疫原性を高めるかどうかを評価するために、図7で腫瘍エピトープチロシナーゼに対する免疫応答も分析した。驚くことに、チロシナーゼに対する免疫応答は、腫瘍エピトープが3重欠失ウイルスICOVIR15K−TD−gp100−tyrの状態で提示される場合に50%増強した。
全体的に見れば、これらのデータは、3重欠失ウイルスICOVIR15K−TD−gp100−tyrは免疫系から部分的に隠れることができ、それにより、このチロシナーゼ腫瘍エピトープは、それが対照ウイルスICOVIR15K−gp100−tyrにおいて提示された場合よりもより免疫原性となることを示す。
実施例5
抗腫瘍活性における免疫シフトの影響
上記のように、チロシナーゼエピトープに対する強いCD8+免疫活性が、ICOVIR15K−TD−gp100−tyrで免疫誘導したマウスで検出された(図7)。以下の実施例は、ICO15K−TD−gp100−tyrがマウス腫瘍を有する動物においてICO15K−gp100−tyrよりも強力な抗腫瘍活性を誘導することを示す。特に、ICO15K−TD−gp100−tyrを注射した動物は、ICO15K−gp100−tyrを注射した動物よりも腫瘍形成にはるかに不応である。
HHDトランスジェニックマウスに親腫瘍溶解性アデノウイルスICOVIR15K、HVR5において提示される黒色腫エピトープを有する腫瘍溶解性アデノウイルス(ICOVIR15K−gp100−tyr)、および黒色腫エピトープを有するが3重欠失を有する同じ腫瘍溶解性アデノウイルス(ICOVIR15K−TD−gp100−tyr)を接種した。マウスには図8Aに示される図に記載される通りに接種した。次に、マウスを最後のワクチン接種の7日後に106のB16CAR−A2マウス腫瘍細胞(チロシナーゼ陽性細胞)の皮下投与で刺激した。B16CAR−A2細胞は、HLA−A2/KbのcDNA配列をコードする非複製レトロウイルスベクターMSCV−A2で形質導入したB16CAR細胞の派生物であり、そこで、HLA−A2/Kb導入遺伝子は、CMVプロモーターの制御下で、マウスα3ドメインKbに融合されたヒトHLA−A2.1のα1およびα2ドメインを発現する。
腫瘍形成は、従来の腫瘍投与形性アッセイ(tumor challenge formation assay)と同様に評価し、腫瘍増殖もモニタリングした(図8B)。親ウイルスICOVIR15Kを接種したマウスは総て腫瘍を発達させ、一方、ICOVIR15K−gp100−tyrを接種したマウスは90%が腫瘍を発達させ、ICOVIR15K−TD−gp100−tyrを接種した場合は、マウスの60%だけが腫瘍を発達させた。有意な腫瘍増殖阻害を示した唯一の処置群は、黒色腫エピトープを提示し、かつ、3重欠失を有するもの(ICOVIR15K−TD−gp100−tyr)であった。
抗腫瘍有効性のさらなる評価のため、腫瘍サイズをデジタルカリパスで測定し、式V(mm3)=π/6×W×L×D (式中、W、L、およびDはそれぞれ腫瘍の幅、長さ、および深さである)に従って計算した(図8C)。スチューデントの両側t検定を用いて、異なる処置群間の腫瘍体積の違いの統計的有意性をペアで比較した。結果は、3重欠失(TD)と腫瘍エピトープの提示を合わせた腫瘍溶解性ウイルス(gp100/tyr)の接種が、B16CAR−A2細胞の注射後に腫瘍増殖に有意な影響を及ぼすことを示した。加えて、各群についてカプラン・マイヤー生存曲線を描き、エンドポイントを腫瘍体積≧500mm3に設定した(図8D)。腫瘍サイズが閾値に達しなかった動物を右側打ち切り情報として含めた。ログランク検定を用いて、時間事象的に違いの統計的有意性を決定した。この場合にも、非処置群に比べて有意に高いマウス生存を示した唯一の処置群は、黒色腫エピトープを提示し、かつ、3重欠失を有するもの(ICOVIR15K−gp100−tyr)であった。
全体的に見れば、これらのデータは、アデノウイルスキャプシドの腫瘍関連エピトープの提示とともにアデノウイルスの1つの免疫優性ヘキソンエピトープの欠失が腫瘍溶解性アデノウイルスの抗腫瘍有効性を増強できることを示す。
実施例6
腫瘍溶解性アデノウイルスICOVIR15K−QDの作出および特性決定
ICOVIR15K−TDの「TD」を維持し、かつ、ヘキソンにあらたな突然変異を組み込んだ新たな腫瘍溶解性アデノウイルスICOVIR15K−QDを、ICOVIR15K−TDをバックグラウンドとして用いて作出した。Hex512は、図7に示されるように、トランスジェニックHHDマウスモデルにおいて最高の免疫応答のものを作出するアデノウイルスエピトープである。この新規な突然変異を導入するための方法は、Hex512アミノ酸のコード配列をオリジナルのもの以外のいずれかで置換するために、縮重プライマーを用い、ICOVIR15K−TDの作出のために従ったものと同じである。この新規ウイルスの本セットのヘキソンエピトープ欠失は、4重欠失(Quadruple Deletion、QD)と呼称された。注目すべきは、このウイルスに組み込まれている腫瘍抗原は無いことである。以下のヘキソンエピトープ欠失がICOVIR15K−QDに含まれる:(1)Hex713エピトープの9番の位置における、バリンをアラニンで置換するV721A突然変異;(2)Hex892エピトープの9番の位置における、アラニンをセリンで置換するA900S突然変異;(3)Hex917エピトープの9番の位置における、バリン(V)をリシン(K)で置換するV925K突然変異;および(4)Hex512エピトープの9番の位置における、ロイシン(L)をプロリン(P)で置換するL520P突然変異。
表3は、その野生型対応物と比較した突然変異体領域の正確なアミノ酸配列を示す。
ヘキソンにおける総てのQD欠失を、ゲノムシーケンシングによって確認した。精製ウイルスICOVIR15K−QDの物理的および機能的特性決定は、機能的ウイルス比(vp/TU)が正常標準内にあることを示し、影響の無いIC50値により評価される腫瘍溶解性複製能に低下がないことを示した(図9)。
ICOVIR15K−QDに存在する変異型Hex512の結合親和性もまた、従前に記載したHLA−A2.1安定化アッセイを用いて試験した。図10に示されるように、Hex512エピトープにおける突然変異L520Pは、HLA−A2結合を、10分の1を下回るまでに有意に低下させ、機能的エピトープ欠失と見なすことができる。
実施例7
腫瘍溶解性アデノウイルスICOVIR15K−QDの抗腫瘍活性
免疫優性アデノウイルスエピトープの欠失による免疫シフトの治療能のさらなる評価を、腫瘍抗原が挿入されていないICOVIR15K−QDを用いて行った。その抗腫瘍活性を、2つの異なるマウスモデル:HHDトランスジェニックマウスおよびトランスジェニックC57BL/6 A2/KbH−2+マウスで評価した。C57BL/6 A2/KbH−2+マウスは、これもまたヒトクラスI MHC Ag HLA−A2.1を発現するマウスクラスI MHC H−2はノックアウトされないように操作されたマウス系統である。
トランスジェニックC57BL/6 A2/KbH−2+マウスにおける腫瘍溶解性アデノウイルスICOVIR15K−QDの抗腫瘍活性
106のB16CAR−A2細胞を、トランスジェニックC57BL/6 A2/KbH−2+マウスの両側腹部に皮下注射し、腫瘍を形成させた(n=5動物/群)。接種後8日目に、腫瘍に1010vpの1)ICOVIR15K腫瘍溶解性アデノウイルス、2)ICOVIR15K−QD、または3)PBSを腫瘍内注射した。ウイルス原株をPBSで5.1011vp/mlに希釈し、注射部位につき10μlの容量で各腫瘍に2回、0.3ml、30GのBDインスリンシリンジ(Becton Dickinson 324826)を用いて注射した。具体的には、1回目の注射を腫瘍に行い、5μlのサージカルグルー(VetBond)で封止した。1回目の封止剤が固化するまで30秒待った後、2回目の注射を同じ腫瘍に行い、VetBondで封止した。腫瘍サイズをデジタルカリパスで最大81日間測定し、腫瘍体積を式V(mm3)=π/6×W×L×D(式中、W、LおよびDはそれぞれ腫瘍の幅、長さ、および深さである)に従って計算した。スチューデントの両側t検定を用いて、異なる処置群間の腫瘍体積の違いの統計的有意性をペアで比較した。カプラン・マイヤー生存曲線については、エンドポイントを腫瘍体積≧500mm3に設定した。腫瘍サイズが閾値に達しなかった動物を右側打ち切り情報として含めた。ログランク検定を用いて、時間事象的に違いの統計的有意性を決定した。結果を図11に示す。
PBSを注射した腫瘍は急速に成長した。ICOVIR15K腫瘍溶解性アデノウイルスを注射した腫瘍は、腫瘍内アデノウイルス複製による腫瘍細胞破壊の結果として腫瘍増殖を有意に遅延させた。加えて、7箇所のICOVIR15注射腫瘍のうち3箇所が消失した。しかしながら、ICOVIR15K−QDを注射した群では、腫瘍増殖はICOVIR15Kに比べて有意にさらに低下し、8箇所の注射腫瘍のうち4箇所で消失した(図11A)。ICOVIR15Kで処置した動物の生存期間中央値は24日(PBS処置群の21日と比較)と確定され、ICOVIR15K−QD処置動物では、生存期間中央値は65であった(図11B)。これらのデータは、アデノウイルスの免疫優性T細胞エピトープ(Hex917およびHex512突然変異)の欠失が、ウイルスからの腫瘍抗原の発現にかかわらず、腫瘍溶解性アデノウイルスの抗腫瘍活性の増強をもたらすことを示し、このことは、ウイルス複製と細胞傷害性の効果により腫瘍から放出される腫瘍抗原が有効な抗腫瘍免疫応答を駆動できることを示唆する。
HHDトランスジェニックマウスにおける腫瘍溶解性アデノウイルスICOVIR15K−QDの抗腫瘍活性
1e6 B16CAR−A2を、トランスジェニックHHD A2/Kb H−2b− マウスの側腹部に皮下注射し、腫瘍を形成させた(各群n=4動物)。右側の腫瘍に、1.1010vpの1)ICOVIR15K腫瘍溶解性アデノウイルス、2)ICOVIR15K−QD、または3)PBSを腫瘍内注射した。この試験では、全身抗腫瘍活性を評価するために総ての群で左側の腫瘍を未処置で残した。ウイルス原株を希釈し、従前に記載したように投与した。腫瘍サイズを7日間測定し、その体積を式V(mm3)=π/6×W×L×Dに従って計算した。スチューデントの両側t検定を用いて、異なる処置群間の腫瘍体積の違いの統計的有意性をペアで比較した。結果を図12に示す。以下の実施例8に記載のようなさらなるELISPOT評価向けに脾細胞を回収するために、注射7日後に動物を犠牲にした。
PBS注射腫瘍は、その反対側の非注射腫瘍とともに急速に増殖した。ICOVIR15Kを注射した腫瘍は、PBS群に比べてゆっくり増殖したが、ICOVIR15K−QDで処理した腫瘍の増殖は、この7日のモニタリング期間では多群に対して有意ではないものの、さらに低下した(図12A)。注目すべきは、反対側の腫瘍はICOVIR15K処置群では腫瘍増殖阻害を受けなかったが、ICOVIR15K−QD処置腫瘍と反対側の腫瘍の増殖は有意に低下したことである(図12B)。この証拠は、ICOVIR15K−QD処置動物に関してのみ腫瘍に対する全身免疫応答が生じたことを強く裏づける。
全体的に見れば、これらのデータは驚くことに、アデノウイルスキャプシドにおける免疫優性ヘキソンエピトープの欠失は、アデノウイルスからの腫瘍関連エピトープの提示を必要としない全身機構を介して腫瘍溶解性アデノウイルスの抗腫瘍有効性を増強することを示す。
実施例8
腫瘍エピトープの不在下でアデノウイルス免疫優性エピトープを欠失させることによる抗アデノウイルスから抗腫瘍免疫応答への免疫シフト
両側腹部にB16CAR−A2腫瘍を有し、左側腹部腫瘍にICOVIR15K、ICOVIR15K−QDまたはPBSを注射した実施例7のHHDトランスジェニックマウスもまた、イン・ビボでICOVIR15K−QDウイルスにより生じる免疫応答の分析に使用した。実施例7に記載の通り、注射7日後に、動物を犠牲にし、脾臓を採取し、脾臓から脾細胞を単離した。この時点で種々のエピトープに対する免疫応答を評価するために、2,500,000脾細胞/ウェルを用い、実施例4に記載のプロトコールに従って酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイにより免疫反応性を決定した。
この試験では、以下のヒトHLA−A2.1拘束アデノウイルス$エピトープまたはポリペプチドに対する反応性を評価した:E1A19(LLDQLIEEV)(配列番号33);Hex512(GLVDCYINL)(配列番号23);Hex713(YLNHTFKKV)(配列番号11);Hex892(LLYANSAHA)(配列番号15);およびHex917(YVLFEVFDV)(配列番号19)。加えて、ヘキソンペプチドのプール(全ヘキソンタンパク質配列の9アミノ酸がオーバーラップする15アミノ酸のペプチド)(全ヘキソンタンパク質配列のうち9アミノ酸がオーバーラップする15のアミノ酸ポリペプチド)もまた含んだ。抗腫瘍応答が惹起され得る腫瘍エピトープは定義されないので、それらの抗原提示特性を高めるためにIFN−γとともにプレインキュベートした腫瘍B16CAR−A2マウス細胞も含めた。
ELISPOTアッセイからの結果を図13に示す。ICOVIR15Kで処置したマウスとは際だって対照的に、ICOVIR15K−QDを腫瘍内注射したマウスはHex512およびHex917エピトープに対して応答を惹起できず、ヘキソンにおけるアミノ酸置換L520PおよびV925Kはイン・ビボで機能的であることが確認される。
加えて、完全腫瘍B16CAR−A2マウス細胞に対する免疫性を試験するためにこれらの細胞とこれらの動物の脾細胞を共培養したところ、ICOVIR15K−QDで処置したマウスは、ICOVIR15KまたはPBSで処置したマウスよりも、B16CAR−A2腫瘍に対して高い免疫反応性を示した。
全体的に見れば、これらのデータは、免疫優性アデノウイルスエピトープが欠失された腫瘍溶解性アデノウイルスでの処置は、非修飾アデノウイルスに比べて、腫瘍に対してより強力な抗腫瘍免疫応答を生じ得ることを示す。
本明細書に引用された総ての刊行物、特許、特許出願、インターネットサイト、および受託番号/データベース配列(ポリヌクレオチドおよびポリペプチドの両配列を含む)は、各個の刊行物、特許、特許出願、インターネットサイト、または受託番号/データベース配列が具体的かつ個々に引用することにより本明細書の一部とされることが示される場合と同程度に、あらゆる目的で引用することによりその全内容が本明細書の一部とされる。
配列
配列番号1(SEQ ID NO: 1) - ICOVIR15K
配列番号2(SEQ ID NO: 2) - ICOVIR15K-gp100-tyr
配列番号3(SEQ ID NO: 3) - ICOVIR15K-TD
配列番号4(SEQ ID NO: 4) - ICOVIR15K-TD-gp100-tyr
配列番号5(SEQ ID NO: 5) - ICOVIR15K-QD
配列番号6(SEQ ID NO: 6) - gp100-tyr 挿入物とリンカー
ggaagcggttctcgctacctggagcctggcccagtgactgccgctggttccggaagcagatacatggacggaacaatgtcccaggttgccggttctggctcc
配列番号7(SEQ ID NO: 7) - gp100-tyr 挿入物とリンカー
GSGSRYLEPGPVTAAGSGSRYMDGTMSQVAGSGS
配列番号8(SEQ ID NO: 8) - wt ヘキソン
配列番号9(SEQ ID NO: 9) - wt ヘキソン
配列番号10(SEQ ID NO: 10) - Hex713 エピトープ
tacctcaaccacacctttaagaaggtg
配列番号11(SEQ ID NO: 11) - Hex713 エピトープ
YLNHTFKKV
配列番号12(SEQ ID NO: 12) - V721A エピトープ
tacctcaaccacacctttaagaaggct
配列番号13(SEQ ID NO: 13) - V721A エピトープ
YLNHTFKKA
配列番号14(SEQ ID NO: 14) - Hex892 エピトープ
cttctctacgccaactccgcccacgcg
配列番号15(SEQ ID NO: 15) - Hex892 エピトープ
LLYANSAHA
配列番号16(SEQ ID NO: 16) - A901S エピトープ
cttctctacgccaactccgcccactcc
配列番号17(SEQ ID NO: 17) - A901S エピトープ
LLYANSAHS
配列番号18(SEQ ID NO: 18) - Hex917 エピトープ
tatgttttgtttgaagtctttgacgtg
配列番号19(SEQ ID NO: 19) - Hex917 エピトープ
YVLFEVFDV
配列番号20(SEQ ID NO: 20) - V925K エピトープ
tatgttttgtttgaagtctttgacaag
配列番号21(SEQ ID NO: 21) - V925K エピトープ
YVLFEVFDK
配列番号22(SEQ ID NO: 22) - Hex512 エピトープ
gggttagtggactgctacattaacctt
配列番号23(SEQ ID NO: 23) - Hex512 エピトープ
GLVDCYINL
配列番号24(SEQ ID NO: 24) - L520P エピトープ
gggttagtggactgctacattaacccc
配列番号25(SEQ ID NO: 25) - L520P エピトープ
GLVDCYINP
配列番号26(SEQ ID NO: 26) - ヘパリン硫酸グリコサミノグリカン(HSG)-結合部位
KKTK
配列番号27(SEQ ID NO: 27) - インテグリン結合モチーフ
RGDK
配列番号28(SEQ ID NO: 28) - フレキシブルリンカー
GSGSR
配列番号29(SEQ ID NO: 29) - フレキシブルリンカー
AGSGSR
配列番号30(SEQ ID NO: 30) - フレキシブルリンカー
AGSGS
配列番号31(SEQ ID NO: 31) - gp100-280 エピトープ
YLEPGPVTA
配列番号32(SEQ ID NO: 32) - Tyr369(3D) エピトープ
YMDGTMSQV
配列番号33(SEQ ID NO: 33) - E1A19 エピトープ
LLDQLIEEV
配列番号34(SEQ ID NO: 34) - Hex63 エピトープ
RLTLRFIPV
配列番号35(SEQ ID NO: 35) - Hex548 エピトープ
MLLGNGRYV
配列番号36(SEQ ID NO: 36) - Hex652 エピトープ
MLYPIPANA
配列番号37(SEQ ID NO: 37) - Hex914 エピトープ
TLLYVLFEV
配列番号38(SEQ ID NO: 38) - gp100-209 エピトープ
IMDQVPFSV