以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
[実施形態]
まず、図1〜図11を参照して、一実施形態によるダイカスト成形用射出装置100(以下、射出装置100という)およびこれに用いられるダイカスト成形用射出プランジャ1(以下、射出プランジャ1という)の構成について説明する。なお、図1においては、射出プランジャ1の移動方向をX軸方向とし、水平面内でX軸方向に直交する上下方向をZ軸方向とする。
(射出装置の概略構成)
図1に示すように、本実施形態による射出装置100は、コールドチャンバ方式のダイカスト成形機101に設けられ、射出スリーブ2内に供給された金属溶湯を金型3内へ導入するための装置である。
金型3は、固定型3aと可動型3bとを含む。固定型3aは、ダイカスト成形機101の固定ダイプレート102に取り付けられ、固定されている。可動型3bはダイカスト成形機101の移動ダイプレート103に取り付けられ、固定型3aに対して接近または離間する方向(X方向)に移動可能に保持されている。ダイプレート駆動機構104によって固定型3aに対して可動型3bを接近させて型締めすることにより、金型3内にダイカスト製品(成形品)を成形するためのキャビティ(空洞部分)3cが形成される。また、キャビティ3cには、金属溶湯の流通通路となる湯口3dが射出スリーブ2に連通している。
射出スリーブ2は、金型3内に形成されるキャビティ3cと連通する円筒状の金属製部品であり、水平方向(X方向)に配置されている。射出スリーブ2は、X1方向端部が湯口3dに接続され、X2方向端部が開口している。なお、X1方向を射出方向の前方といい、X2方向を射出方向の後方という。
また、射出スリーブ2の後方側の上部には、射出スリーブ2内に金属溶湯を供給するための注湯口2aが形成されている。射出スリーブ2の注湯口2aの近傍(Z1側の領域)に、溶湯を供給するためのラドル4が配置されている。ラドル4は、軸部材4aの回動に伴って溶湯を注湯口2aに注ぎ込むように構成されている。
射出装置100は、射出プランジャ1と、駆動ユニット5と、冷却水配管6とを備える。射出プランジャ1は、射出スリーブ2内に挿入され、射出スリーブ2内に供給された金属溶湯を金型3に押し込むための射出部材である。
本実施形態では、射出プランジャ1は、前方(X1方向)端部に着脱可能に固定されるプランジャチップ11と、後方(X2方向)端部で駆動ユニット5に接続されたプランジャロッド12と、プランジャチップ11とプランジャロッド12とを連結する継手13とを備える。射出プランジャ1の各部は、主として鋼材などの金属材料により形成されている。射出プランジャ1は、全体としては直線棒状形状を有する。
駆動ユニット5は、プランジャロッド12に接続され、射出プランジャ1を射出スリーブ2内に進退移動させるように構成されている。駆動ユニット5は、たとえば、油圧回路5aによって駆動される油圧シリンダである。
射出プランジャ1は、駆動ユニット5により、所定の前進位置PFと後退位置PBとの間で水平方向(X方向)に移動される。後退位置PBでは、プランジャチップ11が射出スリーブ2の注湯口2aよりも後方(X2方向)に位置し、ラドル4から注湯口2aに溶湯が供給される。プランジャチップ11がX1方向に前進することにより、プランジャチップ11により押し出された溶湯が湯口3dを介してキャビティ3cに供給される。前進位置PFが、キャビティ3c内への溶湯の射出が完了する位置である。これにより、射出プランジャ1は、プランジャチップ11によって射出スリーブ2内の金属溶湯を押し込み、金型3のキャビティ3c内まで射出するように構成されている。X方向は、プランジャロッド12の軸方向に一致する。
図2に示すように、射出プランジャ1のプランジャチップ11は、厚肉構造かつ円筒形状を有する部材であり、金型3内に金属溶湯を導入するための射出スリーブ2(図1参照)内に摺動可能に嵌め込まれる。プランジャチップ11は、射出スリーブ2の内周面に嵌合し摺動するように設けられている。プランジャチップ11は、耐摩耗性や耐熱性のため、たとえば鋼材表面にサーメットなどのコーティングが施されていることが好ましい。
プランジャロッド12は、鋼材などからなる円筒部材であり、駆動ユニット5により射出スリーブ2内に進退移動される。プランジャロッド12は、射出スリーブ2の軸方向に沿って射出プランジャ1を進退駆動する駆動ユニット5に接続されている。
冷却水配管6は、射出プランジャ1のプランジャロッド12に接続される。プランジャロッド12の後方側の所定位置に、射出プランジャ1の内部の冷却水通路と外部とを接続する接続部が設けられており、冷却水配管6は、供給側と回収側との各々が接続部に接続されている。冷却水通路は、供給側と回収側との2系統がプランジャロッド12および継手13の内部を軸方向に貫通して、プランジャチップ11に到達している。これにより、冷却水配管6から供給される冷却水が、プランジャロッド12を介してプランジャチップ11に送られ、再度プランジャロッド12を通って回収される。冷却水配管6は、撓み変形可能なホースなどからなる。冷却水によって、高温の金属溶湯と接するプランジャチップ11が冷却される。
(継手の構成)
ダイカスト製品の成形工程においては、高温の溶湯が射出スリーブ2内に供給されるため、射出スリーブ2およびプランジャチップ11が高温になる。高温下で射出スリーブ2に対して摺動しながら繰り返し往復移動されることにより、プランジャチップ11の外周面には摩耗が生じる。射出スリーブ2およびプランジャチップ11の相対回転位置が変化しない場合、重力の作用によりプランジャチップ11の下面側に偏摩耗が生じてしまう。そこで、本実施形態の射出プランジャ1では、継手13が、射出動作の際に、プランジャチップ11をプランジャロッド12に対して周方向に回転移動させる機構を含む。なお、周方向は、プランジャロッド12の中心軸回りの回転方向に一致する。以下、継手13の詳細構成について説明する。
図3に示すように、継手13は、軸20と、筒蓋30と、回転体40と、内筒50と、外筒60と、キー70とを含む。また、継手13は、筒蓋30の一部と、内筒50の一部とにより構成される回転機構80を備えている。回転機構80は、第1カム部81と第2カム部82とを含んでいる。継手13のこれらの各構成部品は、たとえば鋼材などの金属材料により形成されている。
継手13は、ケース13aを備えており、ケース13aは、筒蓋30および外筒60により構成されている。ケース13aは、円筒形状の外筒60と、外筒60の端面に取り付けられた筒蓋30とにより、収容空間を構成している。ケース13a内には、回転体40、内筒50、キー70および回転機構80が収納されている。
図3および図4に示すように、軸20は、径の異なるチップ側外周部21、中間外周部22およびロッド側外周部23を備えた段付き円筒形状を有する。チップ側外周部21および中間外周部22には、それぞれねじ部が形成されている。チップ側外周部21は、プランジャチップ11との接続部を構成する。チップ側外周部21のねじ部がプランジャチップ11のねじ部と締結されることにより、軸20がプランジャチップ11に取り付けられる。中間外周部22は、回転体40との接続部を構成する。ロッド側外周部23は、非ねじの摺動面となっており、内筒50の内周部51により案内されるガイド部を構成している。軸20の中心には、冷却水の供給用の孔24が軸方向に貫通するように設けられている。
図3および図5に示すように、筒蓋30は、フランジ内周部31、筒状内周部32、フランジ外周部33および筒状外周部34を含む段付き円筒形状を有する。フランジ内周部31およびフランジ外周部33は、外筒60との取り付けのためのフランジ部を構成する。筒状内周部32および筒状外周部34は、軸方向の他方側(プランジャロッド12側)に延びる筒状部を構成する。フランジ内周部31は、軸20の中間外周部22とほぼ等しい径を有し、軸20を挿入して摺動可能である。フランジ外周部33は、外筒60の外周とほぼ等しい径を有する。筒状外周部34は、外筒60の内径に対応しており、外筒60内に嵌合される。筒状部の軸方向他方側(X2方向側)の端部には、回転機構80の第1カム部81が形成されている。すなわち、第1傾斜面35が形成された凸部36と、溝37とが、筒状部の端面において周方向に交互に形成されている。
図3および図6に示すように、回転体40は、径の異なるチップ側内周部41、ロッド側内周部42と、外周部43とを備えた中空円筒形状を有する。回転体40のチップ側内周部41にはねじ部が形成されていて、軸20の中間外周部22のねじ部と締結される。これにより、筒蓋30のフランジ内周部31内に挿入された軸20と、回転体40とが互いに一体的に固定される。すなわち、回転体40は、軸20を介してプランジャチップ11と一体的に連結(固定)される。
図6(A)に示すように、回転体40の軸方向他端(X2方向側)には、傾斜面44を有する回転体波状ギヤ45が形成されている。また、回転体40の外周部43には、外側に突出するリブ46が形成されている。リブ46は、筒蓋30に形成された溝37と合致するように、回転方向に等間隔(等角度間隔)で形成されている。図6(B)に示すように、リブ46の軸方向一端側(X1方向側)には、筒蓋30の凸部36に形成された第1傾斜面35と同じ方向に傾斜する傾斜面47が形成されている。リブ46は、回転体波状ギヤ45の外周部に回転体波状ギヤ45と一体形成されている。リブ46の傾斜面47は、回転機構80の第1カム部81と対応するように形成され、回転体波状ギヤ45の傾斜面44は、回転機構80の第2カム部82と対応するように形成されている。
図3および図7に示すように、内筒50は、内周部51および外周部52を備えた中空円筒形状を有する。内周部51には、軸20のロッド側外周部23が挿入される。内周部51は、軸20のX方向移動をガイドする。外周部52の軸方向一端(X1方向側)には、回転機構80の第2カム部82が形成されている。すなわち、回転体40の回転体波状ギヤ45と同形状(対称形状)の第2傾斜面53を有する内筒波状ギヤ54が形成されている。また、外周部52には、キー70が嵌まり込むキー溝55が形成されている。キー70は、外筒60内に内筒50が挿入された状態で、外筒60に対する内筒50の相対回転を防止する。
図3および図8に示すように、外筒60は、チップ側内周部61、ロッド側内周部62(図9参照)、チップ側外周部63およびロッド側外周部64を備えた中空円筒形状を有する。チップ側内周部61の径は、内筒50の外周部52の径とほぼ一致し、チップ側内周部61には内筒50の外周部52が挿入される。チップ側内周部61にはキー70に対応したキー溝65が形成されている。外筒60と内筒50とは、キー70を介した係合により、相対回転せずに回転方向には一体となっている。ロッド側外周部64には、ねじ部が形成されており、プランジャロッド12に取り付けられて固定される。チップ側内周部61およびロッド側内周部62(図9参照)によって、冷却水を供給するための軸方向の貫通孔が形成されている。
図9に示すように、軸20の中間外周部22が筒蓋30のフランジ内周部31に挿入された上で、回転体40のチップ側内周部41に接続されている。筒蓋30に設けられた第1カム部81と、回転体40のリブ46とが、径方向に同じ位置で、軸方向(X方向)に対向する。
内筒50は、外筒60内に挿入され、キー70(図3参照)により回転が防止される。筒蓋30は、筒状外周部34が外筒60のチップ側内周部61内に嵌合するように組みつけられ、フランジ部において外筒60にねじ止めされる。軸20のロッド側外周部23は内筒50の内周部51内へ挿入される。内周部51にガイドされることにより、軸20、回転体40およびプランジャチップ11の連結体90は、筒蓋30、外筒60およびプランジャロッド12の連結体に対して、相対回転でき、軸方向に相対移動できる。
回転体40は、ケース13a内の内部において、一端側位置P1(X1方向側位置)と、他端側位置P2(X2方向側位置)との間で軸方向(X方向)に相対移動することができる。一端側位置P1は、回転体40のリブ46が筒蓋30の溝37内に嵌合する位置である。つまり、一端側位置P1は、回転体40のX1方向側への移動が筒蓋30により係止されるX1側の移動限度である。他端側位置P2は、回転体40の回転体波状ギヤ45と内筒50の内筒波状ギヤ54とが噛み合う位置である。つまり、他端側位置P2は、回転体40のX2方向側への移動が内筒50により係止されるX2側の移動限度である。このため、軸20、回転体40およびプランジャチップ11の連結体90は、一端側位置P1(X1方向側位置)と他端側位置P2(X2方向側位置)との間で、ケース13a内を軸方向(X方向)に相対移動することができる。
また、軸20、回転体40およびプランジャチップ11の連結体90は、一端側位置P1において筒蓋30(ケース13a)により回転が規制され、他端側位置P2において内筒50、キー70を介して外筒60(ケース13a)により回転が規制される。一端側位置P1と他端側位置P2との間において、溝37(第1カム部81)または内筒波状ギヤ54(第2カム部82)との係合が解除されることにより、軸20、回転体40およびプランジャチップ11の連結体90が回転可能となる。
(回転機構)
次に、図10および図11を参照して、回転機構80の構成について説明する。本実施形態では、回転機構80は、プランジャロッド12の進退移動に伴って回転体40を回転移動させる。また、回転機構80は、回転体40の回転に追従させてプランジャチップ11(連結体90)を回転させるように構成されている。継手13は、ケース13a内で回転機構80により回転体40を回転させるように構成されている。
また、本実施形態では、回転体40と回転機構80とは、プランジャロッド12の軸方向(X方向)に相対移動可能に構成されている。そして、回転機構80は、プランジャロッド12の進退移動に伴う軸方向の力を、周方向の力に変換することにより、回転体40を回転移動させるように構成されている。
具体的には、回転機構80は、回転体40に対して軸方向の一方側(X1方向側)に配置される第1カム部81と、回転体40に対して軸方向の他方側(X2方向側)に配置される第2カム部82と、を含んでいる。
第1カム部81は、回転体40のプランジャチップ11側(X1方向側)に配置され、第2カム部82は、回転体40のプランジャロッド12側(X2方向側)に配置されている。第1カム部81は、上記の通り、ケース13aの筒蓋30に一体形成されている。すなわち、第1カム部81は、筒蓋30において、第1傾斜面35が形成された凸部36と、溝37とにより構成されている。第2カム部82は、内筒50に一体形成されている。すなわち、第2カム部82は、第2傾斜面53を有する内筒波状ギヤ54により構成されている。
第1カム部81は、回転体40のリブ46と当接し、回転体40を周方向に回転移動させるように構成されている。第2カム部82は、回転体40の回転体波状ギヤ45と当接し、回転体40を周方向に回転移動させるように構成されている。
第1カム部81および第2カム部82は、それぞれ、回転体40を周方向の一方側に回転させるように、一方側に向けて傾斜した傾斜面を有している。周方向のうち、一方側をRT方向とする。すなわち、第1カム部81がRT方向に傾斜した第1傾斜面35を有し、第2カム部82がRT方向に傾斜した第2傾斜面53を有する。回転体40は、プランジャロッド12の進退移動に伴って第1カム部81または第2カム部82に向けて押圧される。
具体的には、回転体40が他端側位置P2から一端側位置P1へ向けてX1方向に移動すると、回転体40が第1カム部81に当接する。回転体40が第1カム部81に押圧される場合、回転体40の傾斜面47と第1カム部81の第1傾斜面35との当接により、周方向(RT方向)の分力が回転体40に作用する。これにより、回転体40が周方向(RT方向)に向けて回転する。その後、回転体40のリブ46が溝37内に嵌合して、一端側位置P1に到達する。
回転体40が一端側位置P1から他端側位置P2へ向けてX2方向に移動すると、回転体40が第2カム部82に当接する。回転体40が第2カム部82に押圧される場合、回転体40の傾斜面44(図6参照)と第2カム部82の第2傾斜面53との当接により、周方向(RT方向)の分力が回転体40に作用する。これにより、回転体40が周方向(RT方向)に向けて回転する。その後、回転体40の回転体波状ギヤ45が内筒波状ギヤ54と噛み合って、他端側位置P2に到達する。
これらの結果、第1カム部81および第2カム部82は、それぞれ、回転体40に付与される軸方向(X方向)の駆動力を周方向分力に変換して、回転体40を周方向(RT方向)に向けて回転させるように構成されている。
第1カム部81の第1傾斜面35と第2カム部82の第2傾斜面53は、それぞれ第1カム部81および第2カム部82において、周方向に等間隔で同数形成されている。この構成例では、第1傾斜面35および第2傾斜面53は、周方向に8つ、略45度間隔で設けられている。そして、第1傾斜面35および第2傾斜面53は、周方向の位置が互いにずれるように形成されている。
言い換えると、第1カム部81は、第1傾斜面35によって、回転体40を第2カム部82の次の第2傾斜面53の配置位置までRT方向に回転移動させ、第2カム部82は、第2傾斜面53によって、回転体40を第1カム部81の次の第1傾斜面35の配置位置までRT方向に回転移動させる。これにより、回転機構80は、プランジャロッド12の進退移動に伴い、回転体40を第1カム部81と第2カム部82とに交互に当接させることにより、回転体40を所定角度ずつ回転させるように構成されている。このように、回転機構80は、モータなどの回転手段を備えることなく、射出動作に伴うプランジャロッド12の前進および後退の往復動作と、その際に付与される軸方向の駆動力とを利用して、回転体40を回転させる。
また、本実施形態では、図11に示すように、第2カム部82(図11(B)参照)の回転体40との接触面積A2が、第1カム部81(図11(A)参照)の回転体40との接触面積A2よりも大きくなるように構成されている。具体的には、第1カム部81は、第1傾斜面35が回転体40のリブ46の傾斜面47と当接することにより、回転体40を回転させる。第1カム部81の回転体40との接触面積は、複数の第1傾斜面35(ハッチング部)の総面積に等しい。第2カム部82は、第2傾斜面53を含む内筒50の端面の内筒波状ギヤ54が回転体40の回転体波状ギヤ45と当接することにより、回転体40を回転させる。そのため、第2カム部82の回転体40との接触面積A2は、内筒50の端面に形成された内筒波状ギヤ54の表面積(ハッチング部)に略等しく、第1カム部81の回転体40との接触面積A1よりも大きい。このため、第2カム部82においてより大きな荷重を受けることができる。
なお、第2カム部82(内筒波状ギヤ54)の径方向の厚みt(および対応する回転体40の回転体波状ギヤ45の厚み)を大きくすることにより、第2カム部82の回転体40との接触面積A2を大きくして第2カム部82の耐荷重性能をさらに向上させることが可能である。たとえば、第2カム部82の径方向の厚みt(および回転体40の回転体波状ギヤ45の厚み)を、内筒50の半径rの1/2以上とすることが好ましい。
(回転動作)
図12および図13を参照して、射出動作に伴う回転体40(プランジャチップ11)の回転動作について説明する。図12および図13は、射出動作に伴う射出プランジャ1の位置を図の左側に示し、その状態における継手13内の回転体40および回転機構80の位置関係を図の右側に示したものである。回転体40および回転機構80は、実際には円筒状の回転体40および回転機構80を仮想的に平面展開した形態の模式図(展開図)として図示している。図12および図13の(A)〜(G)は、射出動作の時系列的な各段階を示しており、1回の射出動作が(A)〜(G)の一連の動きによって行われる。
上記の通り、軸20、回転体40およびプランジャチップ11の連結体90は、回転体40が第1カム部81に係合する一端側位置P1と、回転体40が第2カム部82に噛み合う他端側位置P2との間で、ケース13a内をX方向に相対移動することができる。
プランジャロッド12が駆動ユニット5により前進される場合、回転体40が他端側位置P2に配置されるまでは、回転体40(連結体90)に対してケース13aが前方に移動する。他端側位置P2で第2カム部82と回転体40とが当接した後、連結体90とプランジャロッド12とが一体となって前進する。
プランジャロッド12が駆動ユニット5により後退される場合には、回転体40が一端側位置P1に配置されるまで回転体40(連結体90)に対してケース13aが後方に移動する。一端側位置P1で第1カム部81と回転体40とが当接した後、連結体90とプランジャロッド12とが一体となって後退する。
図12(A)に示すように、型閉じ完了後の型締め状態において、後退位置PBで金属溶湯が射出スリーブ2内に供給される。後退位置PBでは、一端側位置P1の回転体40が第1カム部81と当接した状態にある。つまり、回転体40のリブ46が第1カム部81の溝37内に嵌合している。溶湯が射出スリーブ2内に供給された後、プランジャロッド12が前進される。
図12(B)に示すように、後退位置PBからプランジャロッド12が前進を開始すると、ケース13aの前方(X1方向)への移動に伴って、回転体40が第1カム部81から離間し、第2カム部82側に相対的に移動することになる(実際には、第1カム部81および第2カム部82がX1方向に移動する)。図12(A)に示したように、第1カム部81に嵌合していた回転体40の回転体波状ギヤ45の先端位置(山の位置)は、第2カム部82の内筒波状ギヤ54の底部の位置とは周方向にずれている。
そのため、プランジャロッド12の前進に伴って回転体40と第2カム部82とが当接する際、回転体40の回転体波状ギヤ45(傾斜面44)が第2傾斜面53の途中位置に接触し、周方向分力によって回転体40が第2傾斜面53に沿ってCT方向に回転移動する。この結果、プランジャチップ11を含む連結体90が前進時に所定角度、回転移動する。回転体40は、回転体波状ギヤ45と第2カム部82の内筒波状ギヤ54との噛み合い位置である他端側位置P2に到達する。
ケース13a内での回転体40の移動抵抗は、射出動作時のプランジャチップ11の摺動抵抗に比べて十分に小さい。このため、前進時のプランジャチップ11の回転移動は、図12(C)に示す前進開始初期には完了する。金属溶湯を金型3内に射出する段階では、回転体40の回転体波状ギヤ45と第2カム部82の内筒波状ギヤ54とが完全に噛み合った状態(他端側位置P2)となり、プランジャチップ11、継手13およびプランジャロッド12が一体となって前進位置PFまでそのままX1方向に前進移動する。
図12(D)に示すように、前進位置PFでは、他端側位置P2の回転体40が第2カム部82と当接した状態にある。射出完了後、図13(E)に示すように、金型3の型開きが行われるとともに、前進位置PFからプランジャロッド12が後退を開始する。
ケース13aの後方(X2方向)への移動に伴って、回転体40が第2カム部82から離間し、第1カム部81側に相対移動する。図12(D)示したように、第2カム部82に噛み合っていた回転体40のリブ46は、第1カム部81の第1傾斜面35に対して周方向にずれた位置にある。
そのため、プランジャロッド12の後退に伴って回転体40と第1カム部81とが当接する際、回転体40のリブ46の傾斜面47が第1カム部81の第1傾斜面35の途中位置に接触し、周方向分力によって回転体40が第1傾斜面35に沿ってCT方向に回転移動する。この結果、プランジャチップ11を含む連結体90が後退時に所定角度、回転移動する。回転移動が完了すると、回転体40は、リブ46が溝37に嵌合する一端側位置P1に到達する。
ケース13a内での回転体40の移動抵抗は、後退動作時のプランジャチップ11の摺動抵抗に比べて十分に小さいため、後退時のプランジャチップ11の回転移動も、図13(F)に示すように後退開始初期には完了する。後退時の回転移動が完了した後は、回転体40のリブ46が第1カム部81の溝37内に嵌合した状態(一端側位置P1)のまま、プランジャチップ11、継手13およびプランジャロッド12が一体となって後退位置PBまでX2方向に移動する。図13(G)に示すように、後退位置PBに戻ると、射出プランジャ1(継手13)は図12(A)と同じ状態に戻る。そのため、金型3の型締めおよび射出スリーブ2内への金属溶湯の供給の後で、次の射出動作(A)〜(F)が開始される。
以上の前進動作および後退動作は、溶融金属の射出の度に反復して行われる。その結果、射出動作毎に、プランジャチップ11は所定角度ずつ周方向に回転移動され、射出スリーブ2の下側内周面に対する摺動箇所が変化していくことになる。
なお、第1実施形態の各図において、第1カム部81の第1傾斜面35および第2カム部82の第2傾斜面53は、周方向に等間隔(等角度間隔)で8つ形成された例を示しているが、あくまでも一例である。1回の往復移動当たりの回転角度や、接触面積、加工の容易性等を考慮して、各傾斜面の数を決めればよい。
(実施形態の効果)
以下に、本実施形態の効果について説明する。
本実施形態では、上記のように、プランジャチップ11とプランジャロッド12とを連結する継手13を設け、射出動作の際に、プランジャチップ11を、プランジャロッド12に対して周方向に回転移動させる機構を含むように継手13を構成する。これにより、射出動作においてプランジャロッド12を進退させる際に、プランジャロッド12を回転させなくても、継手13から先端側のプランジャチップ11を、プランジャロッド12に対して相対的に回転移動させることができる。その結果、冷却機構(冷却水配管6)が設けられるプランジャロッド12は周方向に回転しないようにしておきながら、射出スリーブ2に対して摺動するプランジャチップ11を周方向に回転移動させて、射出スリーブ2の下側内周面との接触箇所を変化させることができる。これにより、冷却機構(冷却水配管6)に不具合を発生させることなく、プランジャチップ11の偏摩耗を抑制して寿命を延長することが可能な射出装置100および射出プランジャ1を提供することができる。
また、本実施形態では、上記のように、プランジャチップ11と連結される回転体40と、プランジャロッド12の進退移動に伴って回転体40を回転移動させる回転機構80とを継手13に設け、回転体40の回転に追従させてプランジャチップ11を回転移動させるように継手13を構成する。これにより、毎回の射出動作においてプランジャロッド12を進退移動させる際に、回転機構80によりプランジャチップ11を回転移動させることができるので、プランジャチップ11の偏摩耗を効果的に抑制することができる。また、継手13の一部である回転体40の回転に追従させてプランジャチップ11を回転移動させるので、プランジャチップ11に特殊な構造を設ける必要がなく、一般的なプランジャチップ11を採用して回転させることができる。
また、本実施形態では、上記のように、回転体40と回転機構80とを、プランジャロッド12の軸方向(X方向)に相対移動可能に構成し、プランジャロッド12の進退移動に伴う軸方向(X方向)の力を、周方向(RT方向)の力に変換することにより、回転体40を回転させるように回転機構80を構成する。これにより、射出動作においてプランジャロッド12を進退移動させるための射出装置100の駆動力(駆動ユニット5の駆動力)を利用してプランジャチップ11を回転移動させることができる。そのため、モータや油圧機構などのプランジャチップ回転用の駆動源を別途設ける必要なく、プランジャチップ11を回転移動させることができる。
また、本実施形態では、上記のように、プランジャロッド12の進退移動に伴い回転体40を第1カム部81と第2カム部82とに交互に当接させることにより、回転体40を所定角度ずつ回転させるように回転機構80を構成する。これにより、回転体40と第1カム部81または第2カム部82との接触によって、プランジャロッド12をX方向に進退移動させるだけで容易にプランジャチップ11を回転移動させることができる。また、第1カム部81および第2カム部82によって回転体40(プランジャチップ11)を所定角度ずつ回転させるので、毎回の射出動作に伴ってプランジャチップ11の摩耗箇所を少しずつずらして行くことができ、偏摩耗をより効果的に抑制することができる。
また、本実施形態では、上記のように、第1カム部81を回転体40のプランジャチップ11側に配置し、第2カム部82を回転体40のプランジャロッド12側に配置し、第2カム部82の回転体40との接触面積A2を、第1カム部81の回転体40との接触面積A1よりも大きくする。射出動作においてプランジャロッド12を前進移動する際には、金属溶湯を金型3内に押し込むために大きな駆動力が付与されるので、プランジャロッド12を前進移動させる際に当接するプランジャロッド12側の第2カム部82と回転体40との接触面積A2を大きくすることにより、回転体40および回転機構80に加わる負荷を分散させて継手13の耐久性(寿命)を向上させることができる。
また、本実施形態では、上記のように、第1カム部81および第2カム部82のうち少なくとも一方(第1カム部81)を、継手13のケース13aに一体形成する。これにより、回転機構80の一部がケース13aに一体形成されるので、継手13を構成する部品点数が増大するのを抑制することができる。
また、本実施形態では、上記のように、ケース13a内で回転機構80により回転体40を回転させるように継手13を構成する。これにより、プランジャチップ11を回転させるための構造を継手13(ケース13a)の内部に収容することができ、プランジャチップ11を回転させるための駆動源や回転機構80を継手13の外部に配置する必要がなくなる。その結果、プランジャチップ11を回転させるための駆動源や回転機構を外部に設ける構成と比べて、射出装置100の装置構成を簡素化することができる。
[変形例]
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であり制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更(変形例)が含まれる。
たとえば、上記実施形態では、プランジャロッド12の進退移動に伴う軸方向(X方向)の力を、周方向(RT方向)の力に変換することにより、回転体40を回転移動させる回転機構80の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、回転機構自体が周方向(RT方向)の駆動力を発生させる構成であってもよい。つまり、回転機構が、周方向の駆動力を発生させる電動モータや油圧モータなどの駆動源を備えていてもよい。この場合でも、継手から先端のプランジャチップだけを回転させることにより、冷却機構との干渉なくプランジャチップの偏摩耗を抑制することができる。
また、上記実施形態では、外筒60と筒蓋30とから構成されるケース13a内に、回転体40と、回転機構80の第2カム部82を構成する内筒50を収納した例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、図14に示す第1変形例のように、ケース13aに第2カム部82を一体形成して内筒50を省略してもよい。
図14の継手130では、外筒160aの内部に、第2カム部82(内筒波状ギヤ54)が一体形成されている。つまり、外筒160aは、図3で示した上記実施形態の外筒60と内筒50とを一体化した形状を有する。このため、第1変形例では、回転機構80の第1カム部81(破線参照)が、上記実施形態と同様に筒蓋30に一体形成され、第2カム部82が、外筒160aに一体形成されている。つまり、第1変形例では、回転機構80の第1カム部81および第2カム部82の両方がケース13aに一体形成されている。この結果、第1変形例では、上記実施形態よりも部品点数がさらに減少している。
この他、第2カム部82を内筒50に形成してケース13aとは別体としたのと同様に、筒蓋30(ケース13a)に一体形成された第1カム部81を、別部材に設けてケース13aとは別体としてもよい。
また、図14の第1変形例による継手130では、回転体40を一端側位置P1に復帰させるための弾性部材190が外筒160aの内部に設けられている。弾性部材190は、たとえば圧縮コイルバネからなる。弾性部材190は、他端側(X2方向側)が外筒160aの内面に支持され、一端側(X1方向側)が軸20の端面と当接して軸20(連結体90)を一端側位置P1に向けてX1方向に付勢している。弾性部材190は、回転体40を一端側位置P1に移動させるのに十分な付勢力を発生するように設けられている。これにより、回転体40が一端側位置P1に確実に復帰するので、射出プランジャ1が後退位置PB(図12(A)、図13(G)参照)に配置されたときのプランジャチップ11の先端位置がばらつくのを防止することが可能である。
後退時よりも大きな駆動力が付与されるプランジャロッド12の前進時には、プランジャチップ11側から軸20に作用する反力(射出時の駆動力に対する反力)によって弾性部材190が圧縮されることにより、回転体40が他端側位置P2まで移動する。そのため、プランジャロッド12の進退移動に伴うプランジャチップ11の回転は、上記実施形態と同様に行われる。このように、プランジャチップ11に連結される回転体40を軸方向(X方向)に相対移動可能に構成する場合には、継手130内に弾性部材190を設けてもよい。
また、上記実施形態では、ケース13aを外筒60と筒蓋30とから構成し、内筒50をケース13a内(外筒60a内)に収納した例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、図15に示す第2変形例のように、ケース13aを3部材以上により構成してもよい。
図15の継手131では、筒蓋30および外筒160bに筒蓋150を加えた3部材により、ケース13aが構成されている。この第2変形例では、外筒160bは、単純な円筒形状を有し、一端(X1方向側端部)に筒蓋30が取り付けられ、他端(X2方向側端部)に筒蓋150が取り付けられている。筒蓋150は、径の異なるチップ側外周部151、中間外周部152、ロッド側外周部153を含む段付き円筒形状を有する。X1方向側のチップ側外周部151が、外筒160b内に嵌合され、X1方向側の端面に第2カム部82が形成されている。中間外周部152は、外筒160bとの取り付けのためのフランジ部に形成されている。また、X2方向側のロッド側外周部153にねじ部が設けられており、プランジャロッド12に取り付けられる。なお、この第2変形例においても、筒蓋150の内部に弾性部材190が設けられている。
また、上記実施形態では、第1傾斜面35が形成された凸部36と、溝37とにより第1カム部81を構成し、第1傾斜面35に対応する傾斜面47を回転体40に形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。第1カム部81の構造(形状)は、特に限定されない。第1カム部81は、回転体40の回転方向(CT方向)に向かって傾斜する傾斜面(第1傾斜面)を備えていればよい。傾斜面に対して回転体40が当接する際に、軸方向の駆動力の周方向分力を回転体40に作用させて回転させることが可能である。そのため、たとえば第1カム部81を第2カム部82と同様の波状ギヤにしてもよい。
また、上記実施形態では、第2傾斜面53が形成された内筒波状ギヤ54により第2カム部82を構成し、内筒波状ギヤ54(第2傾斜面53)に対応する回転体波状ギヤ45(傾斜面44)を回転体40に形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。第2カム部82の構造(形状)は、特に限定されない。第2カム部82は、回転体40の回転方向(CT方向)に向かって傾斜する傾斜面(第2傾斜面)を備えていればよい。傾斜面に対して回転体40が当接する際に、軸方向の駆動力の周方向分力を回転体40に作用させて回転させることが可能である。そのため、たとえば第2カム部82を、第1カム部81と同様に傾斜面が形成された凸部と、溝とにより構成してもよい。
また、上記実施形態では、第1カム部81または第2カム部82と、回転体40との係合によって、回転体40の軸方向移動を係止する(回転体40と回転機構80とが軸方向に一体で動く一端側位置P1または他端側位置P2の状態となる)ように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、図16に示す変形例のように、回転機構80が、第1カム部81および第2カム部82とは別の係止面83を備え、係止面83により回転体40の軸方向移動を係止するように構成してもよい。
図16では、回転機構80が、軸方向(X方向)と直交する係止面83を備え、回転体40の傾斜面47とは異なる軸方向端面48と、係止面83との当接によって回転体40の軸方向移動を係止するように構成されている。図16の例では、第1カム部81側(一端側位置P1)への移動を係止する係止面83の例を示しており、係止面83は筒蓋30の内側面により構成されている。回転体40がX1方向に相対移動すると、傾斜面47と第1傾斜面35との当接によって回転体40が周方向に回転移動した後、リブ46が溝37内に進入する。図16の場合、溝37が、回転体40の軸方向端面48が回転機構80の係止面83と当接するまで、リブ46の軸方向移動をガイドするように構成されている。この結果、回転体40の軸方向移動は、軸方向端面48と係止面83とが当接する一端側位置P1で停止される。第2カム部82側の他端側位置P2においても同様の構成(係止面)を採用してよい。
この構成例によれば、回転体40を回転させる第1カム部81または第2カム部82と、回転体40の軸方向移動を係止する(受け止める)係止面83とを別個に設けることができる。そのため、プランジャロッド12の進退移動に伴う軸方向(X方向)の力を第1カム部81または第2カム部82によって周方向の力に変換して回転体40を周方向に回転させながら、プランジャロッド12の進退移動に伴う軸方向(X方向)の力を係止面83によって受け止めることができるので、第1カム部81または第2カム部82に大きな負荷が作用するのを抑制できる。係止面83は、カム構造が不要な当接面として容易に強固な構造にすることができるので、回転機構80の耐久性を容易に向上させることができる。
また、波状ギヤを設ける構成においては、ギヤの歯形状は、上記の各図で図示したものに限られない。すなわち、上記実施形態では、2等辺三角形状の歯形状を有する内筒波状ギヤ54(45)を示したが、たとえば鋸刃形状(直角三角形)の歯形状であってもよいし、曲線波状の歯形状でもよい。
また、上記実施形態では、ケース13a内に回転体40と回転機構80とを収容した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ケースを設けなくてもよい。つまり、回転体と回転機構とが露出した状態であってもよい。
また、上記実施形態において示した各図では、便宜的に、回転体40や回転機構80(リブ46、凸部36、回転体波状ギヤ45および内筒波状ギヤ54など)の角部に丸み(アール)をつけずに示しているが、各接触部分には、円弧状や傾斜面状の面取り加工を施すのが好ましい。