JP6728985B2 - 繊維強化プラスチック成形体用基材、繊維強化プラスチック成形体及び繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法 - Google Patents

繊維強化プラスチック成形体用基材、繊維強化プラスチック成形体及び繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、繊維強化プラスチック成形体用基材、繊維強化プラスチック成形体及び繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法に関する。具体的には、本発明は、強化繊維とポリプロピレン繊維とを含む集束繊維束を含有する繊維強化プラスチック成形体用基材及び該繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法に関する。さらに、本発明は、該繊維強化プラスチック成形体用基材から成形される繊維強化プラスチック成形体に関する。
炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を含む不織布(繊維強化プラスチック成形体用基材ともいう)から成形された繊維強化プラスチック成形体は、既にスポーツ、レジャー用品、自動車用材料、航空機用材料、電子機器部材など様々な分野で用いられている。繊維強化プラスチック成形体においてマトリックスとなる樹脂には、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が用いられているが、近年は熱可塑性樹脂を用いた繊維強化プラスチック成形体の開発が進められている。熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用いた不織布は、保存管理が容易であり、長期保管ができるという利点を有する。また、熱可塑性樹脂を含む不織布は、熱硬化性樹脂を含む不織布と比較して成形加工が容易であり、加熱加圧処理を行うことにより成形加工品を成形することができる。
近年、繊維強化プラスチック成形体は、軽量化や製造コスト抑制の観点から自動車用材料や航空機用材料への応用が進んでいる。このため、繊維強化プラスチック成形体には、より一層の優れた強度が求められている。繊維強化プラスチック成形体の強度を高めるために、強化繊維と熱可塑性樹脂を特定の組み合わせとすることや、強化繊維の分散状態を制御すること等が検討されている。
例えば、特許文献1には、集束した無機繊維と、無機繊維を結合するバインダー成分で構成された湿式不織布が開示されている。ここでは、集束した無機繊維を特定の方向に配向させることにより高密度無機繊維不織布が得られるとされている。特許文献2には、ポリプロピレン樹脂とガラス繊維を含む成形材料が開示されている。ここでは、酸変性オレフィン樹脂とポリエチレンイミンを含む集束剤を、ガラス繊維に付与することにより、ガラス繊維を集束させることが検討されている。
また、特許文献3には、炭素繊維からなる不織布にポリエチレンイミンを付与し、その後にポリプロピレンフィルムを積層し、加熱加圧成形することで得られた成形材料が開示されている。ここでは、炭素繊維不織布とポリプロピレンの接着性を高めることで成形体の力学特性を向上させることが検討されている。
特許第4154727号公報 特開2003−191236号公報 特許第4821213号公報
上述したように、強化繊維を集束させることや、強化繊維の表面に所定の成分を付与することにより成形体の強度を高めることが検討されている。しかし、近年、繊維強化プラスチック成形体に求められる強度はますます高まってきており、さらなる改善が求められている。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、より高強度の繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用基材を提供することを目的として検討を進めた。
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、繊維強化プラスチック成形体用基材において、2種以上の異なる繊維を含む集束繊維束を含有させることにより、より高強度の繊維強化プラスチック成形体を成形し得ることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 強化繊維と、熱可塑性樹脂とを含む繊維強化プラスチック成形体用基材であって、2種以上の異なる繊維を含む集束繊維束を含有する繊維強化プラスチック成形体用基材。
[2] 2種以上の異なる繊維が、強化繊維及び熱可塑性樹脂繊維である[1]に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[3] 2種以上の異なる繊維が、2種以上の異なる強化繊維である[1]に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[4] 2種以上の異なる繊維が、2種以上の異なる強化繊維及び熱可塑性樹脂繊維である[1]〜[3]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[5] 熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン繊維又はナイロン繊維である[1]〜[4]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[6] さらにカチオン系化合物を含有する[1]〜[5]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[7] カチオン系化合物は、ポリエチレンイミン及びポリビニルアミンから選択される少なくとも1種である[6]に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[8] 湿式不織布である[1]〜[7]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[9] 強化繊維は、炭素繊維及びガラス繊維から選択される少なくとも1種である[1]〜[8]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[10] ポリプロピレン繊維は、酸変性ポリプロピレン繊維である[5]〜[9]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[11] 集束繊維束が熱可塑性樹脂繊維を含む場合、集束繊維束を構成する繊維の全質量に対して、熱可塑性樹脂繊維は10質量%以上含まれる[1]〜[10]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[12] 強化繊維が炭素繊維を含有し、ESCA(X線光電子分光分析)法により測定した炭素繊維の表面のC−O結合の電子強度をPとし、COO結合の電子強度をQとし、C−C結合の電子強度をRとした場合、(P−Q)/Rで表される値が0.05以上である[1]〜[11]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[13] [1]〜[12]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材から成形される繊維強化プラスチック成形体。
[14] 強化繊維と、熱可塑性樹脂とを含む繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法であって、2種以上の異なる繊維の各々の少なくとも一部が単繊維状態となるまで解繊する工程と、解繊する工程で得られた2種以上の異なる繊維を集束させ、2種以上の異なる繊維を含む集束繊維束を得る工程と、を含む繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
[15] 集束繊維束を得る工程では、カチオン系化合物が添加される[14]に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
[16] カチオン系化合物は、ポリエチレンイミン及びポリビニルアミンから選択される少なくとも1種である[15]に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
[17] カチオン系化合物の添加量は、強化繊維と熱可塑性樹脂の合計質量に対して1質量%以下である[15]又は[16]に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
[18] 集束繊維束を得る工程は、解繊する工程で得られた2種以上の異なる繊維を含むスラリーを攪拌する工程である[14]〜[17]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
[19] 強化繊維の表面を酸化処理する工程をさらに含む[14]〜[18]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
本発明によれば、より高強度の繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
(繊維強化プラスチック成形体用基材)
本発明は、強化繊維と、熱可塑性樹脂とを含む繊維強化プラスチック成形体用基材に関する。本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、2種以上の異なる繊維を含む集束繊維束を含有している。
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材が含有する集束繊維束は、2種以上の異なる繊維が混合されたものである。本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、上記構成を有するため、高強度の繊維強化プラスチック成形体を成形することができる。また、本発明では、3次元形状に賦形した繊維強化プラスチック成形体を成形し易い。すなわち、本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、深絞り成形性にも優れており、加熱加圧成形時の金型追従性に優れている。
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材において、集束繊維束に含まれる2種以上の異なる繊維としては、例えば下記の組み合わせが挙げられる。
(1)2種以上の異なる繊維が強化繊維及び熱可塑性樹脂繊維である。
(2)2種以上の異なる繊維が2種以上の異なる強化繊維である。
(3)2種以上の異なる繊維が2種以上の異なる強化繊維及び熱可塑性樹脂繊維である。
ここで、2種以上の異なる強化繊維とは、強化繊維が異種であることを意味し、例えば、組成の異なる2種以上の強化繊維、結晶構造や物性が異なる2種以上の強化繊維、繊維の断面形状が異なる2種以上の強化繊維を挙げることができる。2種以上の異なる強化繊維の具体例としては、炭素繊維とガラス繊維といった異種の強化繊維、PAN系炭素繊維とピッチ系炭素繊維といった原料の違いにより結晶構造や物性の異なる強化繊維、丸型断面繊維と扁平断面繊維といった異種断面形状の強化繊維を挙げることができる。中でも、2種以上の異なる強化繊維は、組成の異なる2種以上の強化繊維であることが好ましく、炭素繊維とガラス繊維であることがより好ましい。
なお、(2)2種以上の異なる繊維が2種以上の異なる強化繊維である場合、繊維強化プラスチック成形体用基材に含まれる熱可塑性樹脂は集束繊維束に含有されなくてもよい。この場合、熱可塑性樹脂はマトリックス状もしくはシート状に存在していてもよく、熱可塑性樹脂は繊維状でなくてもよい。上記(2)の場合であって、熱可塑性樹脂が繊維状である場合は、熱可塑性樹脂繊維のみで集束繊維束を構成していてもよい。また、熱可塑性樹脂繊維は単繊維状に分散していてもよい。
上記(1)〜(3)の組み合わせはいずれも好ましい態様であるが、中でも、(1)2種以上の異なる繊維が強化繊維及び熱可塑性樹脂繊維である態様と、(3)2種以上の異なる繊維が2種以上の異なる強化繊維及び熱可塑性樹脂繊維である態様が好ましい。
上記(1)と(3)の態様は、熱可塑性樹脂繊維が溶融した際に強化繊維を隙間なく覆いやすく、強化繊維と熱可塑性樹脂の密着性が高いと考えられる。更に、強化繊維の間に入り込んだ熱可塑性樹脂がクッション材のように作用するため加熱加圧成形時に強化繊維同士の衝突や圧迫による強化繊維の破断が生じにくいと考えられる。
また、上記(1)と(3)の態様は、より高強度の繊維強化プラスチック成形体を成形することができ、3次元形状に賦形した繊維強化プラスチック成形体を成形し易い。すなわち、本発明は、深絞り成形性にも優れており、加熱加圧成形時の金型追従性に優れた繊維強化プラスチック成形体用基材を提供することができる。
上記(2)または(3)の態様とした場合は、繊維強化プラスチック成形体用基材を成形する際の流動性を高めつつ、繊維強化プラスチック成形体の強度を高めることができる。繊維強化プラスチック成形体用基材を成形する際の流動性が高いと、繊維強化プラスチック成形体用基材の深絞り成形性や、金型追従性を高めることができる。上記(2)及び(3)の態様においては、集束繊維束に含まれる2種以上の異なる繊維比率等を調整することによって、流動性と繊維強化プラスチック成形体の強度のバランスをとることができる。
なお、本発明における流動性は、繊維強化プラスチック成形体用基材を、ステンレス製金型枠を用いずに加熱加圧成形を行い、成形前後の面積変化率を指標とするものであり、下記の式により算出できる。
流動性=成形後の面積÷成形前の面積
なお、面積の測定方法としては、例えば、成形前の繊維強化プラスチック成形体用基材と、成形後の繊維強化プラスチック成形体をゼロックスでコピー用紙に転写して切り抜き、その重量を比較する(コピー用紙の密度、厚みはほぼ均一なため相対面積としての比較が可能である)。
繊維強化プラスチック成形体用基材に使用される強化繊維として、炭素繊維は曲げ強度や曲げ剛性の向上効果が大きく好ましく使用される。一方で、炭素繊維は相互の結びつきが強固であり、流動性が得られにくい傾向がある。強化繊維相互の結びつきが強固なために流動性が得られにくい点を改善するためには、組成の異なる強化繊維を混合して併用することが有効であるが、一般に、強度の異なる強化繊維を併用すると、成形体の強度は弱いほうの材料の影響が強く発現し、配合比率から予想されるよりも強度が低下することが知られている。この理由は、繊維強化プラスチック成形体の曲げ強度や曲げ剛性の発現が、繊維強化プラスチック成形体内に点在する強度が出難いほうの強化繊維の特性を有する箇所の曲げ強度や曲げ剛性によって制限されることによるものと推定される。上記(2)または(3)の態様では、併用する強化繊維が結束した集束繊維束を形成することにより、曲げ強度や曲げ剛性においては弱いほうの強化繊維の影響の発現が抑えられ、集束繊維束相互の結びつきの強さは、集束繊維束表面を構成する2種以上の異なる強化繊維の比率に応じて調節することができるため、流動性の向上効果も得ることができるものと推定される。
本明細書において「集束」とは繊維複数本(2本以上)が束状に集合した状態のことを言う。繊維の集合状態は、顕微鏡観察により繊維強化プラスチック成形体用基材の表面及び断面を観察することにより判別できる。
繊維複数本(2本以上)が束状に集合した状態とは、繊維同士が繊維長手方向の少なくとも一部で密着しているか、ある繊維の外縁から繊維径の1/2の距離内に隣接する他の繊維の少なくとも一部が観察される状態をいう。束状に集合した状態を把握する具体的方法として、下記の方法がある。はじめに繊維強化プラスチック成形体用基材の表面観察を行い、束状に集合した繊維束と束状に集合していない繊維を分類する。次に束状に集合している繊維束の断面観察を行い繊維径の1/2の距離内に他の繊維の少なくとも一部の外縁が存在しているか否かを判断する。
繊維強化プラスチック成形体用基材の断面観察は、その断面を直接顕微鏡で観察しても良いが、断面切断時の繊維の変形を防ぐという観点から、不織布を包埋樹脂で包埋しミクロトーム等で包埋樹脂ごと断面を削り出して、観察することがより好ましい。
本明細書において「集束繊維束」とは、繊維が複数本集束した繊維束である。本明細書において「集束繊維束」の有無は、幅が30μm以上の集束繊維束の有無で判別する。本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材が有する集束繊維束の平均幅は、広いほうが強度や深絞り成形性の観点から好ましい。そのため、集束繊維束の平均幅は100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましく、250μm以上であることが特に好ましい。
ここで、集束繊維束の幅は、下記の方法で測定することができる。
まず、透過光式フラットヘッドスキャナを用いて透過光観察により1200dpi以上の解像度で、繊維強化プラスチック成形体用基材の画像を取得する。画像中の繊維束の繊維幅を、画像解析ソフトの2点間距離測定機能を用いて測定する。集束繊維束の平均幅は、取得した画像中の無作為に選定した3mm×3mmの範囲内で視認できる幅30μm以上の全ての集束繊維束の平均値である。尚、画像解析ソフトとしては、「Image J」等が例示される。
本発明で用いる強化繊維1本の繊維径は、小さいほうが繊維の表面積が増加し、他種の繊維との接着面積が大きくなるため、補強効果を高めることができる。このような観点から、強化繊維1本の繊維径は15μm以下であることが好ましい。一方、強化繊維の繊維径は一定値以上とすることにより、シート製造時の繊維分散工程・流送工程等における繊維の破断が少なくなるため、補強効果が高まる。このような観点から、繊維径は3μm以上が好ましい。
集束繊維束を構成する繊維の本数は強化繊維1本の繊維径により変動するものであるが、一般的には5本以上50本以下である。
本発明では、1つの集束繊維束には、2種以上の異なる繊維が含まれている。すなわち、本発明の集束繊維束は、異なる種の繊維の混合集束繊維束である。集束繊維束が混合集束繊維束であることは、電子顕微鏡等で観察することにより判別することができる。具体的には、繊維強化プラスチック成形体用基材から無作為に20本以上の集束繊維束をピンセットで取り出し、光学顕微鏡又は電子顕微鏡で拡大して集束繊維束を観察する。そして、集束繊維束を構成する繊維の太さと形状を観察し、観察のみでは不明確な場合は繊維の構成成分を分析し、2種以上の異なる繊維の混合集束繊維束であるか否かを判別する。
集束繊維束が混合集束繊維束であるか否かの判別は、以下の方法で行うことができる。
例えば、2種以上の異なる繊維が強化繊維と熱可塑性樹脂繊維である場合は、各繊維の繊維径を測定することで判別できる。具体的には、ガラス繊維の繊維径は概ね13μmより細く、また炭素繊維である場合は概ね8μmより細い。一方、熱可塑性樹脂繊維は15μmより太いことが多い。この場合は集束繊維束を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察し、混合集束繊維束であるか否かを判別できる。
また、ガラス繊維は半透明の白色であり、炭素繊維は黒色であり、いずれも剛直なのでストレートな形態である。一方、熱可塑性樹脂繊維は一般に白色で柔軟な繊維であり湾曲した形状であるため、光学顕微鏡で観察して、繊維の色や形態で判別することもできる。
2種以上の異なる繊維が強化繊維と熱可塑性樹脂繊維である場合であって、各繊維の繊維径や繊維色、形態で判別できない場合、以下の方法による判別が可能である。
熱可塑性樹脂の融点より高い温度で集束繊維束を加熱して熱可塑性樹脂繊維を溶融させ、冷却した後に繊維形状を喪失していない繊維と、繊維形状を喪失した部分を、FT−IR分析する方法により判別することもできる。繊維形状を喪失していない繊維と、繊維形状を喪失した部分をサンプリングして、FT−IR分析する方法で成分を特定することにより、集束繊維束が混合集束繊維束であるか否かの判別ができる。
繊維形状を喪失したか否かは、光学顕微鏡又は電子顕微鏡で観察することで判断できる。なお、熱可塑性樹脂繊維の融点は、JIS K 7122に準ずる方法で示差走査熱量分析(DSC分析)により集束繊維束の融解熱を測定することで求めることができる。上述したFT−IR分析において、測定成分の特定は、得られたピークをFT−IR製造メーカーが提供するデータベースにより既知のFT−IRピークと照合することにより行うことができる。このようなデータベースは、Nicolet社、日本分光株式会社等より提供されるもの等が例示される。
また、2種以上の異なる繊維が、2種以上の異なる強化繊維である場合、集束繊維束が混合集束繊維束であるか否かの判別は、各繊維の繊維径を測定することで行うことができる。具体的には、ガラス繊維の繊維径と、炭素繊維の繊維径は異なるものであるから、集束繊維束を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察し、集束繊維束を構成する繊維径を測定することで、混合集束繊維束であるか否かを判別できる。また、ガラス繊維は半透明の白色であり、炭素繊維は黒色であるため、集束繊維束を構成する繊維の色を観察することによっても混合集束繊維束であるか否かを判別できる。
なお、集束繊維束が2種以上の異なる強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成される場合も繊維径や繊維の色の違いや、繊維形態で判別することができる。
2種以上の異なる繊維の少なくとも1種が熱可塑性樹脂繊維である場合、集束繊維束中の熱可塑性樹脂繊維の含有率は、集束繊維束を構成する繊維の全質量に対して、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上80質量%以下がより好ましく、30質量%以上70質量%以下が更に好ましい。本発明においては、集束繊維束1本における繊維の全質量に対して、熱可塑性樹脂繊維の含有量が上記範囲内であることが好ましい。
熱可塑性樹脂繊維の含有率は、TGA(Thermo Gravimetry Analyzer)で、熱可塑性樹脂の熱分解温度より高い温度であり、且つ強化繊維の分解温度よりも低い温度に維持して加熱し、重量変化がなくなるまで当該温度にホールドして熱可塑性樹脂を焼き飛ばし、加熱前後の質量を比較することにより算出することができる。一般的に加熱温度は、強化繊維としてガラス繊維又は炭素繊維等の無機繊維を使用した場合、400℃以上800℃以下が好適である。
また、集束繊維束の質量が0.1g以上である場合には、通常の電子天秤を使用して加熱前の重量を測定し、TGAを用いた場合と同様の温度条件で加熱し、加熱後の質量を電子天秤で測定して、加熱前後の質量を比較することでも算出できる。
集束繊維束中の熱可塑性樹脂の含有率は、加熱前の質量をMα、加熱後の質量をMβとして、以下の式で求めることができる。
集束繊維束中の熱可塑性樹脂の含有率=(Mα―Mβ)÷Mα×100 (質量%)
なお、上述した(1)及び(3)の態様のように、集束繊維束が熱可塑性樹脂繊維を含む態様においては、集束繊維束を構成する繊維の全質量に対する熱可塑性樹脂繊維の割合は、繊維強化プラスチック成形体用基材を製造する際に用いる各繊維の混合比率と同様の値となる。例えば、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維を1:1の割合で混合し、繊維強化プラスチック成形体用基材を製造した場合は、集束繊維束を構成する繊維の全質量に対する熱可塑性樹脂繊維の割合は50質量%程度となる。
集束繊維束が強化繊維のみからなる態様においては、集束繊維束を構成する繊維は、繊維強化プラスチック成形体用基材の全質量に対して、10質量%以上であることが好ましい。また、集束繊維束が熱可塑性樹脂繊維を含む態様においては、集束繊維束を構成する繊維は、繊維強化プラスチック成形体用基材の全質量に対して、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、カチオン系化合物をさらに含有することが好ましい。本発明においては、カチオン系化合物は、2種以上の異なる繊維の両方の繊維の表面に存在するものであることが好ましく、繊維強化プラスチック成形体用基材における強化繊維と熱可塑性樹脂繊維の両方の繊維の表面に存在するものであることが好ましい。すなわち、本発明では、カチオン系化合物は、強化繊維又は熱可塑性樹脂繊維のいずれか一方の繊維の集束剤として添加されるのではなく、2種以上の異なる繊維の混合集束繊維束の集束剤として機能するものである。
本発明で用いられるカチオン系化合物は、ポリエチレンイミン及びポリビニルアミンから選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリエチレンイミンであることがより好ましい。
繊維強化プラスチック成形体用基材の坪量は特に制限がなく、用途に応じて適宜設定することができるが、繊維強化プラスチック成形体用基材の製造効率の観点から、30g/m2以上であることが好ましく、50g/m2以上であることがより好ましく、80g/m2以上であることがさらに好ましい。また、繊維強化プラスチック成形体用基材の坪量は、300g/m2以下であることが好ましく、200g/m2以上であることがより好ましい。
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、湿式不織布であることが好ましい。繊維強化プラスチック成形体用基材を湿式不織布とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材は2種以上の異なる繊維の混合集束繊維束を含有しやすくなり、より高強度の繊維強化プラスチック成形体を成形することが可能となる。
(強化繊維)
繊維強化プラスチック成形体用基材は、強化繊維を有する。強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維から選ばれるいずれか1種であることが好ましく、炭素繊維及びガラス繊維から選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。また、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維等の耐熱性に優れた有機繊維を用いてもよい。
強化繊維として、例えば、炭素繊維やガラス繊維等の無機繊維を使用した場合、繊維強化プラスチック成形体用基材に含まれる熱可塑性樹脂繊維の溶融温度で加熱加圧処理することにより繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。
強化繊維の質量平均繊維長は、3mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましく、6mm以上であることがさらに好ましい。また、強化繊維の質量平均繊維長は、100mm以下であることが好ましく、75mm以下であることがより好ましく、55mm以下であることがさらに好ましい。強化繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材から強化繊維が脱落することを抑制することができ、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。また、強化繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、強化繊維の分散性を良好にすることができ、かつその後の繊維収束性を高めることができる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は優れた強度を有する。なお、本明細書において、質量平均繊維長は、100本の繊維について測定した繊維長の平均値である。
強化繊維は、上記繊維長となるように、一定の長さにカットされたチョップドストランドであることが好ましい。チョップドストランドは、50本以上1万本以下、好ましくは100本以上5000本以下の単繊維の束をロービングとして巻取り、所定の繊維長にカットすることで得られる。強化繊維をこのような形態とすることにより、強化繊維の分散性を良好にすることができ、かつその後の繊維収束性を高めることができる。
強化繊維は、表面処理が施されたものであることが好ましい。強化繊維に表面処理を行うことにより、強化繊維と熱可塑性樹脂との接着性を高めることができる。本発明においては、強化繊維表面を酸化処理することにより、熱可塑性樹脂との接着性を高めることができ、繊維強化プラスチック成形体の曲げ強度を高めることができるため好ましい。特に炭素繊維表面の酸化処理は、炭素繊維と熱可塑性樹脂との接着性の向上に有効である。
炭素繊維の酸化処理の程度は、例えば、ESCA(X線光電子分光分析)による表面分析で確認することができる。ESCAによる結合(束縛)エネルギーによる電子強度スペクトルでは、未処理の炭素繊維はC−C結合に対応する287eV付近のピークがみられる。酸化処理によって、電気陰性度の高い酸素原子が導入されるとC−O結合、COO結合に相当する、高エネルギー側にシフトした288〜294eV付近の光電子強度が増加する。このため、C−O結合及びCOO結合の電子強度と、C−C結合の電子強度の比率を算出することによって酸化処理の程度を確認することができる。ESCA(X線光電子分光分析)法により測定した炭素繊維の表面のC−O結合の電子強度をPとし、COO結合の電子強度をQとし、C−C結合の電子強度をRとした場合、(P−Q)/Rで表される値は酸化処理の程度を表すものである。
炭素繊維と熱可塑性樹脂との接着性の向上効果を得るためには、(P−Q)/Rで表される値が、0.05以上であることが望ましい。
強化繊維表面の酸化処理としては、具体的には、電解酸化処理、薬液酸化処理、オゾンマイクロバブル処理などの液相酸化処理;プラズマ処理、コロナ処理、紫外線処理、フレーム処理、イトロ処理、ブラスト処理、オゾンガス処理などの気相酸化処理;等を挙げることができる。強化繊維表面には、上述した処理から選ばれる少なくとも1種の処理を施すことが好ましい。中でも繊維強化プラスチック成形体用基材の製造工程での処理の容易さ、酸素含有官能基の導入のしやすさなどの観点から、オゾンガス処理、オゾンマイクロバブル処理及びプラズマ処理から選ばれる少なくとも1種の処理を行うことが好ましい。
上記のような強化繊維表面の酸化処理は、繊維強化プラスチック成形体用基材の製造工程のいずれかの段階で行うことができる。例えば、強化繊維の少なくとも一部が単繊維状態となるまで解繊する工程の前や、解繊する工程において酸化処理を行うことができる。また、集束繊維束を得る工程の後や、繊維スラリーを抄紙する工程の後等の段階で行うこともできる。
強化繊維の数平均繊維径は、特に限定されないが、一般的には数平均繊維径が5μm以上であることが好ましい。また、強化繊維の数平均繊維径は20μm以下であることが好ましい。また、後述するように強化繊維の断面が扁平形状である場合は、長径と短径の平均値が上記範囲内であることが好ましい。なお、本明細書において、数平均繊維径は、100本の繊維の繊維径を測定した繊維径の平均値である。
強化繊維の含有量は、繊維強化プラスチック成形体用基材に含まれる繊維原料の合計質量に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、40質量%以上であることがよりさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。また、強化繊維の含有量は95質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることがさらに好ましい。なお、繊維強化プラスチック成形体用基材に含まれる繊維原料とは、強化繊維、熱可塑性樹脂繊維及びバインダー繊維(バインダー成分)を指す。強化繊維の含有量を上記範囲内とすることにより、より優れた曲げ強度と曲げ弾性率を有する繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
(ガラス繊維)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、強化繊維としてガラス繊維を含むことが好ましい。本発明で用いるガラス繊維としては、Eガラス(Electrical glass)、Cガラス(Chemical glass)、Aガラス(Alkali glass)、Sガラス(High strength glass)及び耐アルカリガラス等のガラスを溶融紡糸してフィラメント状の繊維にしたものを挙げることができる。
ガラス繊維は、丸ガラスであってもよく、扁平ガラスであってもよい。丸ガラスを用いることにより、コスト競争力に優れた繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。また、扁平ガラスを用いることで、成形後の繊維強化プラスチック成形体の強度をより効果的に高めることができる。なお、ガラス繊維としては、丸ガラスと扁平ガラスを併用してもよい。
ここで、丸ガラスとは、繊維の断面形状が略円形のものである。なお、繊維の断面形状とは、ガラス繊維の長さ方向に対し、垂直方向のカット面の形状のことをいう。扁平ガラスとは、繊維の断面形状が扁平(異形)であるものであり、略円形ではないものをいう。具体的には、扁平形状とは、繊維の断面形状が、中心点を通過する最大長で定義される長径と、中心点を通過する最小長で定義される短径を有する形状をいう。扁平形状としては、例えば、ひょうたん型、まゆ型、長円型、楕円型等を例示することができる。
ガラス繊維の断面形状が扁平形状である場合、断面の長径/短径の比は、1.5以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましい。また、断面の長径/短径の比は、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。ここで、断面の長径/短径の比は、10個の異なるガラス繊維の扁平断面を垂直方向より顕微鏡観察し、マイクロスケールを基準として測定した長径及び短径各々の平均の値から算出することができる。
扁平ガラス繊維としては、例えば、日東紡社製の扁平ガラス繊維(質量平均繊維長が13mm、繊維断面の長径が28μm、短径が7μm、長径/短径の比が4)を用いることができる。
(炭素繊維)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、強化繊維として炭素繊維を含んでもよい。強化繊維に含まれる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系等の炭素繊維を用いることができる。これらの炭素繊維は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせ用いてもよい。また、これら炭素繊維の中でも、工業規模における生産性及び機械特性の観点から、ポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維を用いることが好ましい。
尚、炭素繊維は、成形体の強度の観点からはPAN系炭素繊維が好ましい。また、炭素繊維の単繊維強度は、4500MPa以上であることが好ましく、4700MPa以上であることがより好ましい。単繊維強度とは、モノフィラメントの引っ張り強度をいう。このような炭素繊維を使用した場合、曲げ強度及び曲げ弾性率をより効果的に向上させることができる。なお、単繊維強度は、JIS R 7601「炭素繊維試験方法」に準じて測定することができる。
(熱可塑性樹脂)
繊維強化プラスチック成形体用基材は、熱可塑性樹脂を有する。熱可塑性樹脂は、例えば、熱可塑性樹脂繊維として繊維強化プラスチック成形体用基材に含有されるほか、フィルムや不織布シートのような形態で、強化繊維を含む2種以上の異なる繊維を含む集束繊維束を含有するシートと積層されて繊維強化プラスチック成形体用基材に含有されることもできる。また、発明の効果を損なわない範囲で2種以上の熱可塑性樹脂を併用することが出来、相溶性を示す2種以上の熱可塑性樹脂を組み合わせることもできる。
(熱可塑性樹脂繊維)
熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂を溶融紡糸することによって得られる熱可塑性樹脂繊維として繊維強化プラスチック成形体用基材に含有されることが好ましい。熱可塑性樹脂繊維は、ポリプロピレン繊維又はナイロン繊維であることが好ましく、ポリプロピレン繊維であることがより好ましい。
ポリプロピレン繊維は、未変性ポリプロピレン繊維であってもよく、酸変性ポリプロピレン繊維であってもよいが、酸変性ポリプロピレン繊維であることが好ましい。ポリプロピレン繊維として酸変性ポリプロピレン繊維を用いることにより、より優れた曲げ強度と曲げ弾性率を有する繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。なお、未変性ポリプロピレン繊維は、コスト競争力に優れているため、未変性ポリプロピレン繊維も好ましく用いられる。
酸変性ポリプロピレン繊維を構成する酸変性ポリプロピレン樹脂の酸価は、1mgKOH/g以上100mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは1mgKOH/g以上75mgKOH/g以下である。酸価は一定樹脂量当たりの脂肪酸の量を示す指標であり、具体的には樹脂1g中に含まれている脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で示され、JIS K 5601に定められている。酸変性ポリオレフィンの酸価度を上記範囲内とすることで、成形後の繊維強化プラスチック成形体の強度を効果的に高めることができる。
ナイロン繊維としては、例えば、ナイロン6繊維や、ナイロン66繊維を挙げることができる。
熱可塑性樹脂繊維の質量平均繊維長は、3mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましく、6mm以上であることがさらに好ましい。また、熱可塑性樹脂繊維の質量平均繊維長は、100mm以下であることが好ましく、75mm以下であることがより好ましく、55mm以下であることがさらに好ましく、30mm以下であることが特に好ましい。熱可塑性樹脂繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材から熱可塑性樹脂繊維が脱落することを抑制することができ、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。また、熱可塑性樹脂繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、熱可塑性樹脂繊維の分散性を良好にすることができ、かつその後の繊維収束性を高めることができる。なお、本明細書において、質量平均繊維長は、100本の繊維について測定した繊維長の平均値である。
熱可塑性樹脂繊維は、上記繊維長となるように、一定の長さにカットされたチョップドストランドであることが好ましい。熱可塑性樹脂繊維をこのような形態とすることにより、熱可塑性樹脂繊維の分散性を良好にすることができ、かつその後の繊維収束性を高めることができる。
熱可塑性樹脂繊維の数平均繊維径は、特に限定されないが、一般的には数平均繊維径が5μm以上であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂繊維の数平均繊維径は30μm以下であることが好ましい。なお、本明細書において、数平均繊維径は、100本の繊維の繊維径を測定した繊維径の平均値である。
熱可塑性樹脂繊維の含有量は、繊維強化プラスチック成形体用基材に含まれる繊維原料の合計質量に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。また、熱可塑性樹脂繊維の含有量は90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。なお、繊維強化プラスチック成形体用基材に含まれる繊維原料とは、強化繊維、熱可塑性樹脂繊維及びバインダー繊維(バインダー成分)を指す。熱可塑性樹脂繊維の含有量を上記範囲内とすることにより、より優れた曲げ強度と曲げ弾性率を有する繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
(バインダー成分)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、バインダー成分をさらに含んでもよい。バインダー成分としては、一般的な不織布製造に使用される成分を用いることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、各種澱粉、セルロース誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドーアクリル酸エステルーメタクリル酸エステル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、ポリ酢酸ビニル樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が使用できる。
好ましいバインダー成分としては、ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂を挙げることができる。ポリエステル樹脂としては、特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。変性ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂を変性することで融点を低下させたものであれば特に限定されないが、変性ポリエチレンテレフタレートが好ましい。変性ポリエチレンテレフタレートとしては、共重合ポリエチレンテレフタレート(coPET)が好ましく、例えば、ウレタン変性共重合ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
共重合ポリエチレンテレフタレートは、融点が140℃以下のものが好ましく、120℃以下ものがより好ましい。また、特公平1−30926号公報に記載のような変性ポリエステル樹脂を使用してもよい。変性ポリエステル樹脂の具体例として、特に、ユニチカ社製商品名「メルティ4000」(繊維全てが共重合ポリエチレンテレフタレートである繊維)が好ましく挙げられる。また、芯鞘構造のバインダー繊維としては、ユニチカ社製商品名「メルティ4080」や、クラレ社製商品名「N−720」等が好適に使用できる。
また、バインダー成分として、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂も好ましく用いられる。ポリビニルアルコール(PVA)樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)繊維(クラレ社製、VPB105−2)等を用いることができる。なお、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂と、上述のポリエステル樹脂、変性ポリエステル樹脂を併用してもよい。併用する場合、ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂の合計質量と、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂の質量比は、100:1〜1:100であることが好ましい。
バインダー成分は、粒子状であってもよいが、抄紙工程の歩留りの観点からは、バインダー繊維であることが好ましい。バインダー繊維は、上述したバインダー成分を溶融紡糸等の既知の方法で繊維化することができる。
バインダー成分の含有量は、繊維強化プラスチック成形体用基材に含まれる繊維原料の合計質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、1質量%以上であることが特に好ましい。また、バインダー成分の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。なお、繊維強化プラスチック成形体用基材に含まれる繊維原料とは、強化繊維、熱可塑性樹脂繊維及びバインダー繊維(バインダー成分)を指す。バインダー成分の含有量を上記範囲内とすることにより、製造工程における繊維強化プラスチック成形体用基材の強度を高めることができ、ハンドリング性を向上させることができる。
(繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法)
本発明は、強化繊維と、熱可塑性樹脂とを含む繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法に関するものでもある。本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法は、2種以上の異なる繊維の各々の少なくとも一部が単繊維状態となるまで解繊する工程と、解繊する工程で得られた2種以上の異なる繊維を集束させ、2種以上の異なる繊維を含む集束繊維束を得る工程と、を含む。このような工程を経ることで、2種以上の異なる繊維が均一に混合された集束繊維束を得ることができる。2種以上の異なる繊維を解繊する工程は、2種以上の異なる繊維を含むスラリーを形成する工程であることが好ましく、水中で、2種以上の異なる繊維の各々の少なくとも一部が単繊維状態となるまで解繊する工程であることが好ましい。解繊する工程では、単繊維の存在比率を高めることが好ましい。単繊維の存在比率を高めることにより2種以上の異なる繊維を所望の混合比率で含有する集束繊維束を得ることができる。
上記製造方法で製造される繊維強化プラスチック成形体用基材は、強化繊維と、熱可塑性樹脂とを含むものである。中でも、繊維強化プラスチック成形体用基材に含まれる2種以上の異なる繊維は、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維であることが好ましい。すなわち、本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造工程は、強化繊維及び少なくとも1種の熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部が単繊維状態となるまで解繊する工程と、解繊する工程で得られた強化繊維と熱可塑性樹脂繊維とを集束させ、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維を含む集束繊維束を得る工程とを含むことが好ましい。このような工程を経ることで、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維が均一に混合された集束繊維束を得ることができる。なお、強化繊維は2種以上含まれていてもよい。
上述したように、本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、湿式抄紙法で製造された不織布であることが好ましい。
解繊する工程では、2種以上の異なる繊維を各々のスラリー中で解繊してもよく2種以上の異なる繊維の両方を含むスラリー中で解繊してもよい。本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法においては、2種以上の異なる繊維を各々のスラリー中で少なくとも一部が単繊維状態まで解繊した後に、2つのスラリーを混合して、2種以上の異なる繊維を含むスラリーを得ることが好ましい。
解繊する工程では、スラリーに分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、ポリオキシエチレンジステアレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリエーテル系ウレタン樹脂、アセチレン系ジアルコール組成物、アセチレン系ジアルコール組成物/2―エチルヘキサノール、ポリオキシエチレンアセチレニック・グリコールエーテル、アセチレン系ジオールの酸化エチレン付加物、非イオン性界面活性剤などの混合物、アセチレングリコール界面活性剤、ノニオン性界面活性剤の混合物、ポリエーテル変性シリコーン、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリオキシエチレンモノオレート、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ナフタレンスルホン酸ソーダのホルマリン縮合物、ポリオキシアルキレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリアクリル酸ナトリウム等を挙げることができる。これらは、繊維の表面電荷等に応じて適宜選択することができる。
分散剤の添加量は、スラリー中に含まれる繊維原料の合計質量に対して、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、分散剤の添加量は、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
解繊する工程は、分散剤を添加したスラリーを攪拌する工程を含むことが好ましい。強化繊維は、単繊維状態に解繊されることが理想的であるが、繊維の結束が存在したとしても、結束の本数が5本以下となるまで解繊されていれば十分な効果を得ることができる。具体的には、解繊する工程では、単繊維の本数、及び繊維数が2本以上5本以下の結束繊維束の本数の合計数が、スラリー中に含まれる全繊維本数の60%以上となるように解繊することが好ましく、80%以上となるように解繊することが好ましい。
ここで、単繊維と、結束繊維束の本数は、分散後のスラリーを採取し、濾紙若しくはワイヤーメッシュ等を用いて水をろ過し、繊維のマットを作成し、このマットを110℃以上130℃以下で加熱乾燥し、光学顕微鏡で観察することで数えることができる。
尚、スラリー中にバインダー成分を含有しない場合は、マットに、繊維の固形分重量の1質量%以上5質量%以下の水溶性バインダーをスプレーしてから加熱乾燥することにより、乾燥後もマットの形状を保つことができ、繊維の結束状況を損なわずに観察できるため好ましい。この場合のバインダーとしては、水溶性のPVA、アクリル樹脂のエマルジョン等が好適に使用できる。
解繊する工程では、単繊維化を促進する観点からは強撹拌することが好ましいが、撹拌が強すぎると、強化繊維が破断し、強度が低下するおそれがあるため、一般的には、弱撹拌でも十分に分散するようなチョップドストランドを使用することが好ましい。例えば、水に分散しやすい集束剤を使用したチョップドストランド、いわゆる易分散タイプのチョップドストランドを用いることが好ましい。このようなチョップドストランドを使用した場合、通常のアジテーターによる撹拌で十分に単繊維化が進行する。
なお、上述したような撹拌では十分に単繊維化が進行しない場合、抄紙用のパルパー等で撹拌してもよい。この場合、繊維の破断を抑制する観点から撹拌時間は短時間とすることが好ましい。この場合の適切な撹拌時間は、処理量や分散のしやすさによって変化するが、概ね20分以下が好ましい。
解繊する工程では、良好な分散状態まで分散したところで、スラリーに増粘剤を添加し、通常のアジテーターによる撹拌をすることで、更に単繊維化を進行させることができる。増粘剤としては、アニオン性ポリアクリルアミド、ノニオン性ポリエチレンオキシド等を挙げることができる。中でも増粘剤としては、アニオン性ポリアクリルアミドを用いることが好ましい。増粘剤としてアニオン性ポリアクリルアミドを用いることにより、後述するカチオン系化合物を添加した際に2種以上の異なる繊維を含む混合集束繊維束が得られやすくなるため好ましい。
増粘剤の添加量はガラス繊維の質量に対して、10ppm以上であることが好ましく、30ppm以上であることがより好ましい。また、増粘剤の添加量は500ppm以下であることが好ましい。本発明では、2種以上の異なる繊維の各々の少なくとも一部を単繊維状態まで解繊する工程において増粘剤を添加することにより、解繊された繊維状態を維持しやすくなる。
集束繊維束を得る工程では上記の解繊する工程で得られた2種以上の異なる繊維を集束させ、2種以上の異なる繊維を含む混合集束繊維束を得る。集束繊維束を得る工程は、解繊された2種以上の異なる繊維を含むスラリーを攪拌する工程であることが好ましい。集束繊維束を得る工程では、解繊する工程で得られた2種以上の異なる繊維を含むスラリーを一定時間以上攪拌することにより2種以上の異なる繊維を含む混合集束繊維束を得ることができる。この場合の好ましい撹拌時間は、2種以上の異なる繊維の長さや増粘剤の添加量によって変動するが、集束繊維束の平均繊維幅が好ましい範囲となるように調整する。集束繊維束の平均繊維幅は、スラリーを100ml以上500ml以下サンプリングし、上述した単繊維状態の確認と同様の方法でマットを作成し、当該マットの集束繊維束の平均繊維幅を測定することで確認できる。
集束繊維束を得る工程では、カチオン系化合物が添加されることが好ましい。カチオン系化合物としては、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、ポリジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリジアルキルアミノエチルアクリレート、ポリジアルキルアミノエチルメタクリルアミド、ポリジアルキルアミノエチルアクリルアミド、ポリエポキシアミン、ポリアミドアミン、ジシアンジアミド−ホルマリン縮合物、ジシアンジアミド−ポリアルキレンポリアミン縮合物、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等の化合物およびこれらの変性物等が例示できる。中でも、カチオン系化合物は、カチオン化度が高いほうが好ましく、かかる観点から、ポリエチレンイミン及びポリビニルアミンから選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリエチレンイミンであることがより好ましい。
ポリエチレンイミンはエチレンイミンを重合した水溶性ポリマーであり、1級、2級、3級アミンを含む分岐構造を有するポリマーである。ポリエチレンイミンは、2種以上の異なる繊維の各々の少なくとも一部を単繊維状態まで解繊した後に添加されることが好ましい。ポリエチレンイミンは、2種以上の異なる繊維を集束させ、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維を含む混合集束繊維束の形成を促進させる。
カチオン系化合物の添加量は、スラリー中に存在する強化繊維と熱可塑性樹脂の合計質量に対して1質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.6質量%以下であることがさらに好ましい。本発明では、カチオン系化合物の添加量は少量であっても2種以上の異なる繊維を含む混合集束繊維束の形成を促進させることができる。
繊維強化プラスチック成形体用基材がバインダー成分を含む場合は、バインダー成分は、2種以上の異なる繊維を解繊する工程、もしくは集束繊維束を得る工程においてスラリー中に添加されることが好ましい。より好ましくは、バインダー成分は2種以上の異なる繊維を解繊する工程で添加されることが好ましい。
集束繊維束を得る工程の後には、スラリーを抄紙する工程を含むことが好ましい。抄紙工程で使用する抄紙機は特に限定されないが、円網抄紙機又は傾斜型抄紙機を用いて抄紙することが好ましい。
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造工程は、強化繊維の表面を酸化処理する工程をさらに含んでもよい。このような酸化処理工程は、繊維強化プラスチック成形体用基材の製造工程のいずれかの段階で行うことができる。例えば、強化繊維の少なくとも一部が単繊維状態となるまで解繊する工程の前や、解繊する工程において酸化処理を行うことができる。また、集束繊維束を得る工程の後や、繊維スラリーを抄紙する工程の後等の段階で行うこともできる。
(繊維強化プラスチック成形体)
本発明は、上述した繊維強化プラスチック成形体用基材から成形される繊維強化プラスチック成形体に関するものでもある。
本発明の繊維強化プラスチック成形体の曲げ強度は100MPa以上であることが好ましく、120MPa以上であることがより好ましく、200MPa以上であることがさらに好ましく、250MPa以上であることが特に好ましい。なお、本明細書において、繊維強化プラスチック成形体の曲げ強度とは、繊維強化プラスチック成形体用基材のマシンディレクション方向(以下、MD方向という)およびMD方向と直交するクロスディレクション方向(以下、CD方向という)の曲げ強度の相乗平均値である。なお、各方向の曲げ強度は、JIS K 7074(炭素繊維プラスチック成形体の曲げ試験方法)に準じて測定することができる。
曲げ強度の相乗平均値=√(MD方向の曲げ強度×CD方向の曲げ強度)
なお、繊維強化プラスチック成形体のMD方向とCD方向は、以下の通り求めた。繊維強化プラスチック成形体の3辺(縦、横、厚さ)のうち、最短の辺を厚みとし、厚み方向に垂直の面を繊維強化プラスチック成形体の面とした。ここで、繊維強化プラスチック成形体のMD方向は、繊維強化プラスチック成形体の面上に存在する方向のうち、最も強度が強い方向である。また、CD方向は、面上に存在する方向であって、MD方向に直交する方向である。繊維強化プラスチック成形体のMD方向は、繊維強化プラスチック成形体の面上の任意の1点を中心点とし、その中心点を基準として各方向(縦、横方向を含む面内に存在する方向)の強度を計測することで決定した。各方向の強度は中心点から10°刻みで36方向測定した。
また、本発明の繊維強化プラスチック成形体の曲げ弾性率は、6GPa以上であることが好ましく、8GPa以上であることがより好ましく、10GPa以上であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、繊維強化プラスチック成形体の曲げ弾性率とは、繊維強化プラスチック成形体のMD方向およびMD方向と直交するCD方向の曲げ弾性率の相乗平均値である。なお、各方向の曲げ弾性率は、JIS K 7074(炭素繊維プラスチック成形体の曲げ試験方法)に準じて測定することができる。
曲げ弾性率の相乗平均値=√(MD方向の曲げ弾性率×CD方向の曲げ弾性率)
繊維強化プラスチック成形体の厚みは、特に限定されないが、0.1mm以上50mm以下である。また、繊維強化プラスチック成形体の密度は、1.0g/cm3で以上2.0g/cm3以下であることが好ましい。本発明の繊維強化プラスチック成形体は、上記のような構成により、所望の曲げ強度及び曲げ弾性率を有することができる。
(繊維強化プラスチック成形体の成形方法)
本発明の繊維強化プラスチック成形体は、上述した繊維強化プラスチック成形体用基材を加熱加圧成形することにより成形される。繊維強化プラスチック成形体用基材は、目的とする形状や成形法に合わせて任意の形状に加工することができる。繊維強化プラスチック成形体は、繊維強化プラスチック成形体用基材を、1枚単独、或いは所望の厚さとなるように積層して熱プレスで加熱加圧成形したり、あらかじめ赤外線ヒーター等で予熱した金型によって加熱加圧成形したりすることで成形される。また、繊維強化プラスチック成形体が多層構造である場合、他種の繊維強化プラスチック成形体用基材を積層して熱プレスで加熱加圧成形することもできる。本発明の繊維強化プラスチック成形体は、一般的な繊維強化プラスチック成形体用基材の加熱加圧成形方法を用いて加工される。
プレス成形の方法としては、各種存在するプレス成形の方法の中でも、大型の航空機などの成形体部材を作製する際によく使用されるオートクレーブ法や、工程が比較的簡便である金型プレス法が好ましく挙げられる。ボイドの少ない高品質な成形体を得るという観点からはオートクレーブ法が好ましい。一方、設備や成形工程でのエネルギー使用量、使用する成形用の治具や副資材等の簡略化、成形圧力、温度の自由度の観点からは、金属製の型を用いて成形をおこなう金型プレス法を用いることが好ましく、これらは用途に応じて選択することができる。
金型プレス法には、ヒートアンドクール法やスタンピング成形法を採用することができる。ヒートアンドクール法は、繊維強化プラスチック成形体用基材を型内に予め配置しておき、型締とともに加圧、加熱をおこない、次いで型締をおこなったまま、金型の冷却により該シートの冷却をおこない成形体を得る方法である。スタンピング成形法は、予め該基材を遠赤外線ヒーター、加熱板、高温オーブン、誘電加熱などの加熱装置で加熱し、ポリオレフィン樹脂を溶融、軟化させた状態で、成形体型の内部に配置し、次いで型を閉じて型締を行い、その後加圧冷却する方法である。また、低密度の成形体を得る場合など、成形時の温度が比較的低い場合は、ホットプレス法を採用することもできる。
成形用の金型は大きく2種類に分類され、1つは鋳造や射出成形などに使用される密閉金型であり、もう1つはプレス成形や鍛造などに使用される開放金型である。本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材を用いた場合、用途に応じていずれの金型も使用することが可能である。成形時の分解ガスや混入空気を型外に排除する観点からは開放金型が好ましいが、過度の樹脂の流出を抑制するためには、成形加工中においては開放部をできるだけ少なくし、樹脂の型外への流出を抑制するような形状を採用することも好ましい。
さらに、金型には打ち抜き機構、タッピング機構から選択される少なくとも一種を有する金型を使用することができる。2段プレス機構を用いるなどの工夫で、熱プレス後に連続して、成形体を打ち抜き加工することも可能である。また、成形体は、その使用目的などによってはリブやボス等の強度補強・加工用の突起やネジ穴の形成、意匠性の付与を目的とした模様の付与を行うことができる。
繊維強化プラスチック成形体が多層構造である場合、他種の繊維強化プラスチック成形体用基材を積層して熱プレスで加熱加圧成形することもできる。また、繊維強化プラスチック成形体用基材を成形すると同時、或いは成形後にアウトサート成形やインサート成形によって、より複雑な形状部材を接着することも可能である。
繊維強化プラスチック成形体用基材から繊維強化プラスチック成形体を成形する際には、具体的には、繊維強化プラスチック成形体用基材を150℃以上600℃以下の温度で加熱加圧成形することが好ましく、160℃以上250℃以下がより好ましい。なお、加熱温度は、繊維強化プラスチック成形体用基材内の熱可塑性樹脂繊維が流動する温度であって強化繊維は溶融しない温度帯であることが好ましい。
繊維強化プラスチック成形体を成形する際の圧力としては、5MPa以上20MPa以下が好ましい。また、所望の保持温度に到達するまでの昇温速度は3℃/分以上20℃/分以下が好ましく、所望の熱プレス温度での保持時間としては1分以上30分以下、その後、成形体を取り出す温度(200℃以下)までは圧力を維持しながら、3℃/分以上20℃/分以下の冷却速度とするのが好ましい。さらに、生産効率はやや落ちるものの、熱プレスの保持温度から熱可塑性樹脂のガラス転移温度までは空冷でゆっくりと0.1℃/分以上3℃/分以下で冷却することも、強度向上の観点からは好ましい。また、急速加熱、急速冷却(ヒートアンドクール)成形を用いて熱プレス成形することも可能であり、その場合の昇温、冷却速度はそれぞれ30℃/分以上500℃/分以下である。更に、赤外線ヒーターによる場合は、温度として150℃以上600℃以下、好ましくは160℃以上250℃以下で1分以上30分以下加熱し、その後30MPa以上150MPa以下の圧力で成形することができる。
(繊維強化プラスチック成形体の用途)
本発明の繊維強化プラスチック成形体の用途としては、例えば、「OA機器、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末、タブレットPC、デジタルビデオカメラなどの携帯電子機器、エアコンその他家電製品などの筐体、及び筐体に貼り付けるリブ等の補強材、「支柱、パネル、補強材」などの土木、建材用部品、「各種フレーム、各種車輪用軸受、各種ビーム、ドア、トランクリッド、サイドパネル、アッパーバックパネル、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、などの外板またはボディー部品及びその補強材」、「インストルメントパネル、シートフレームなどの内装部品」、または「ガソリンタンク、各種配管、各種バルブなどの燃料系、排気系、または吸気系部品」、「エンジン冷却水ジョイント、エアコン用サーモスタットベース、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング」、などの自動車、二輪車用部品、「ウィングレット、スポイラー」などの航空機用部品、「鉄道車両用の座席用部材、外板パネル、外板パネルに貼り付ける補強材、天井パネル、エアコン等の噴出し口」などの鉄道車両用部品、「樹脂(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂)からなる成形体の補強材、樹脂と強化繊維からなる成形体の補強材、植物由来のシート(クラフト紙、段ボール、耐油紙、絶縁紙、導電紙、剥離紙、含浸紙、グラシン紙、セルロースナノファイバーシートなど)の補強材」などの部材等に好適に使用される。さらに、本発明の繊維強化プラスチック成形体は薄くても難燃性に優れるため、電気絶縁性の高いガラス繊維を強化繊維として用いることで、電気絶縁用基板としても好適に用いることができる。
このように、本発明の繊維強化プラスチック成形体は、強度が高く、また優れた難燃性を有するため安全性が高いので、電気、電子機器用の筐体、自動車用の構造部品、航空機用の部品、土木、建材用のパネル、その他多種多様な用途に好ましく用いられる。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
(実施例1)
表1に示す繊維長及び繊維径のガラス繊維(ユージー基材社製、PFG−13、繊維径9μm)を、0.5質量%濃度となるように水中に投入し、分散剤(花王株式会社製、エマノーン3199V)の0.5質量%水溶液をガラス繊維に対して固形分が0.5質量%となるように投入し、ディスインテグレーターを用いて5分間離解し、ガラス繊維スラリーを得た。
次に、別の容器にポリプロピレン繊維(ダイワボウ社製、PZ:2.2デシテックス×15mm)とPVAバインダー繊維(クラレ社製、VPB−105−2)を表1の配合比となるよう投入し、固形分濃度が0.2質量%濃度となるように水を投入した。ポリプロピレン繊維及びPVA繊維の合計質量に対して0.5質量%となるように分散剤(花王株式会社製、エマノーン3199V)の0.5質量%水溶液を投入し、撹拌して均一なポリプロピレン繊維及びバインダー繊維スラリーを得た。
そして、ガラス繊維スラリーと、ポリプロピレン繊維及びバインダー繊維スラリーを混合し、固形分濃度が0.2質量%となるよう水で希釈した(混合スラリー)。混合スラリーにあらかじめ水に溶解したアニオン性ポリアクリルアミド系増粘剤(MTアクアポリマー社製、スミフロックFA40HRS)をガラス繊維に対して50ppmとなるように添加し、10分間撹拌して均一な濃度の混合スラリーを得た。この混合スラリーの繊維の分散状態が均一であることを目視にて確認した後、スラリーをサンプリングして濾紙上で水をろ過して繊維マットを得、得られたマットを光学顕微鏡で確認して5本以下の結束繊維束数が、存在する全繊維数(束数)の90%以上であることを確認した。
そして、均一分散後、更に30分間撹拌を続け、ガラス繊維とポリプロピレン繊維の集束繊維束が生成したスラリーを得た。
得られたスラリーを、25cm角の角形手抄き機でシート化し、130℃の熱風乾燥器で乾燥させ、表1に示す坪量の繊維強化プラスチック成形体用基材を得た。
得られた基材を17枚積層し、プレス圧10MPa、プレス温度200℃で加熱加圧成形し、繊維強化プラスチック成形体を得た。
(実施例2)
混合スラリーに添加するアニオン性ポリアクリルアミド系増粘剤の添加量をガラス繊維に対して300ppmに変更し、均一分散後にポリビニルアミン(ハーコボンド6363)を強化繊維とポリプロピレン繊維の合計質量に対して0.4質量%添加した以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体を得た。
(実施例3)
混合スラリーに添加するアニオン性ポリアクリルアミド系増粘剤の添加量をガラス繊維に対して50ppmに変更した以外は、実施例2と同様にして繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体を得た。
(実施例4)
ポリプロピレン繊維を酸変性ポリプロピレン繊維(ダイワボウ社製、PZ−AD)に変更し、さらに、混合スラリーに添加するカチオン系化合物をポリエチレンイミン(純正化学社製、ポリエチレンイミン700000)に変更した以外は、実施例2と同様にして繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体を得た。
(実施例5)
ガラス繊維の繊維長を表1に示す通りとした以外は、実施例4と同様に繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体を得た。
(実施例6)
ガラス繊維を表1に示す形状の扁平ガラス(日東紡社製、長径28μm、短径7μm)に変更し、ポリプロピレン繊維を酸変性ポリプロピレン繊維(ダイワボウ社製、PZ−AD)に変更した以外は、実施例2と同様に繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体を得た。
(実施例7)
ガラス繊維を炭素繊維(東レ社製、T700:繊維径7μm、繊維長12mm)に変更し、ポリプロピレン繊維を酸変性ポリプロピレン繊維に変更した以外は、実施例2と同様にして繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体を得た。
(比較例1)
実施例2において、ポリエチレンイミンの添加をせず、繊維均一分散後にさらに攪拌をせず、手抄きを行った以外は、実施例2と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体を得た。
(比較例2)
実施例2において、ガラス繊維の分散時に分散剤 エマノーン3199Vの添加を中止し、ガラス繊維のスラリー濃度を0.2質量%となるように水中に投入し、撹拌をスリーワンモーターで撹拌することでガラス繊維の集束繊維束(未分散繊維束)が残った状態(単繊維が確認されない状態)とした。また、ポリプロピレン繊維及びPVA繊維分散時のエマノーン添加を中止し、両繊維の集束繊維束(未分散繊維束)が残った状態とした。その後の工程は実施例2と同様にして繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体を得た。
(比較例3)
比較例1のシートに、濃度1.0質量%に希釈したポリエチレンイミンを強化繊維とポリプロピレン繊維の合計質量に対して0.4質量%となるように添加し、繊維均一分散後にさらに攪拌をせず、25cm角の角形手抄き機でシート化し、110℃の熱風乾燥器で乾燥させた以外は、比較例1と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体を得た。
(実施例11)
繊維長12mm及び繊維径7μmの炭素繊維(台湾プラスチック社製、CS−815)を、0.5質量%濃度となるように水中に投入し、分散剤(花王株式会社製、エマノーン3199V)の0.5質量%水溶液を炭素繊維に対して固形分が0.5質量%となるように投入し、ディスインテグレーターを用いて5分間離解し、炭素繊維スラリーを得た。
次に、別の容器に繊維長 15mm及び繊維径15μmの酸変性ポリプロピレン繊維(ダイワボウ社製、PZ−AD)とPVAバインダー繊維(クラレ社製、VPB−105−2)を表1の配合比となるよう投入し、固形分濃度が0.2質量%濃度となるように水を投入した。酸変性ポリプロピレン繊維及びPVA繊維の合計質量に対して0.5質量%となるように分散剤(花王株式会社製、エマノーン3199V)の0.5質量%水溶液を投入し、撹拌して均一な酸変性ポリプロピレン繊維及びバインダー繊維スラリーを得た。
そして、炭素繊維スラリーと、酸変性ポリプロピレン繊維及びバインダー繊維スラリーを混合し、固形分濃度が0.2質量%となるよう水で希釈した混合スラリーに、あらかじめ水に溶解したアニオン性ポリアクリルアミド系増粘剤(MTアクアポリマー社製、スミフロックFA40HRS)を炭素繊維に対して300ppmとなるように添加し、10分間撹拌して均一な濃度の混合スラリーを得た。この混合スラリーの繊維の分散状態が均一であることを目視にて確認した後、スラリーをサンプリングして濾紙上で水をろ過して繊維マットを得、得られたマットを光学顕微鏡で確認して5本以下の結束繊維束数が、存在する全繊維数(束数)の90%以上であることを確認した。
そして、均一分散後にポリエチレンイミン(純正化学社製、ポリエチレンイミン700000)を強化繊維と酸変性ポリプロピレン繊維の合計質量に対して0.4質量%添加した後、更に30分間撹拌を続け、繊維の集束繊維束が生成したスラリーを得た。
得られたスラリーを、25cm角の角形手抄き機でシート化し、130℃の熱風乾燥器で乾燥させ、表1に示す坪量の繊維強化プラスチック成形体用基材を得た。
得られた基材を10cm×10cmのサイズにカットして7枚積層し、10cm×10cm、厚さ1mmのステンレス製金型枠にセットして、プレス圧10MPa、プレス温度200℃で加熱加圧成形し、繊維強化プラスチック成形体を得た。
(実施例12)
実施例11における炭素繊維を、繊維長13mm及び繊維径9μmのガラス繊維(ユージー基材社製、PFG−13)に変更し、表1の配合比となるよう投入した以外は、実施例11と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体を得た。
(実施例13)
炭素繊維、ガラス繊維及び酸変性ポリプロピレンの配合量を表1に示す通りとなるように変更した以外は実施例11と同様にして繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体を得た。
(実施例14)
炭素繊維、ガラス繊維及び酸変性ポリプロピレンの配合量を表1に示す通りとなるように変更した以外は実施例11と同様にして繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体を得た。
(実施例15)
炭素繊維、ガラス繊維及び酸変性ポリプロピレンの配合量を表1に示す通りとなるように変更した以外は実施例11と同様にして繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体を得た。
(実施例16)
酸変性ポリプロピレンを繊維長15mm及び繊維径19μmのナイロン繊維(東レ社製、アミラン)に変更し、炭素繊維、ガラス繊維及びナイロンの配合量を表1に示す通りとなるように変更し、得られた基材をプレス温度250℃で加熱加圧成形した以外は実施例11と同様にして繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体を得た。
(実施例17)
炭素繊維スラリーを110℃で十分乾燥させた後、15gを採取しオゾンガス処理(濃度1.0体積%のオゾン6リットル中に20時間晒す)を行い、再度水に分散させてスラリーとした以外は実施例11と同様にして繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体を得た。
<評価>
(集束繊維束の平均幅)
実施例及び比較例で得られた繊維強化プラスチック成形体用基材の画像を、透過光式フラットヘッドスキャナを用いて1200dpiの解像度でパソコンに取り込んだ。得られた画像を用いて、無作為に選定した3mm×3mmの範囲内に含まれる幅30μm以上の集束繊維束のすべてについて幅を測定し、平均値を算出した。尚、集束繊維束の幅は、画像解析ソフト「Image J」の2点間距離測定機能を用いて測定した。幅30μm以上の集束繊維束が1つも存在しない場合は「集束繊維束なし」と評価した。なお、比較例1及び3の繊維強化プラスチック成形体用基材においては、幅30μm以上の集束繊維束は見出されなかった。
(集束繊維束の構成繊維の確認)
集束繊維束が強化繊維とポリプロピレン繊維を含んだ集束繊維束であるか否かを確認するため、実施例及び比較例で得られた繊維強化プラスチック成形体用基材から無作為に選択した20本の集束繊維束をピンセットで取り出し、電子顕微鏡で300倍に拡大して集束繊維束を観察した。集束繊維束を構成する繊維の太さと形状、及びXMA(X線マイクロアナライザー)による元素情報から、全ての集束繊維束を構成する繊維が、強化繊維のみから構成されるか、強化繊維とポリプロピレン繊維が混合したものであるかを確認した。
ここで、ポリプロピレン繊維はいずれも繊維径が2.2デシテックスであるため、繊維径は15μmであり、ナイロン繊維は繊維径19μmである。一方、ガラス繊維、炭素繊維は上述した繊維径であるため、電子顕微鏡の観察画面上にスケールを表示し、それとの対比によって繊維径を測定し、繊維種類を判断した。なお、繊維径により判別が困難であるものについては、元素情報、及び、別途測定するIR(赤外線)スペクトルを基に繊維種類を判断した。
(曲げ強度・曲げ弾性率)
実施例及び比較例で得られた繊維強化プラスチック成形体を、JIS K 7074「炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験測定方法」に準じて測定した。
(密度)
実施例11〜16で得られた繊維強化プラスチック成形体の体積及び重量を測定し、下記式により密度を算出した。
密度(g/cm3)=重量÷体積
(流動性)
実施例11〜16においては、流動性の評価も行った。実施例11〜16で得られた繊維強化プラスチック成形体用基材を、ステンレス製金型枠を用いずに加熱加圧成形を行い、成形前後の面積変化率を下記式により算出し、流動性の指標とした。
なお、面積は様々な方法で評価可能だが、成形前の繊維強化プラスチック成形体用基材と形後の繊維強化プラスチック成形体をゼロックスでコピー用紙に転写して切り抜き、その重量を比較した(コピー用紙の密度、厚みはほぼ均一なため相対面積としての比較が可能である)。
流動性=成形後の面積÷成形前の面積
Figure 0006728985
Figure 0006728985
強化繊維とポリプロピレン繊維を均一分散後、さらに攪拌を行った実施例1〜7の集束繊維束は何れも強化繊維とポリプロピレン繊維が混合したものであったが、比較例2においては、存在する集束繊維束は、1種のガラス繊維のみから構成されることを確認した。なお、単繊維まで分散後にさらに攪拌を行わなかった比較例1及び3では、幅30μm以上の集束繊維束は見出されなかったため、上記確認は行わなかった。
表1及び2からわかるように2種以上の異なる繊維を含む集束繊維束を有する実施例においては、より高強度の繊維強化プラスチック成形体が得られた。また、集束繊維束の幅が大きくなるほど強度が高まる傾向が見られた。
更に、実施例1と実施例2〜7の比較から明らかなように、ポリエチレンイミンを添加することと、強化繊維とポリプロピレン繊維が混合した集束繊維束を有することの相乗効果で、強度がさらに高まる傾向が見られた。
一方、2種以上の異なる繊維を含む集束繊維束を有さない比較例1では強度はいずれも実施例よりも低いものであった。また、1種の強化繊維単独の繊維束を有する比較例2では、強度は比較例1よりも低下する傾向を示した。なお、繊維均一分散後にさらに攪拌を行わなかった比較例3においては、ポリエチレンイミンを添加しても、実施例にみられるような顕著な強度アップ効果は認められなかった。
また、表2の実施例11〜16を見るに、2種の強化繊維と熱可塑性樹脂繊維が混合した集束繊維束を有する実施例では、強度と流動性のバランスがよく、優れた強度と流動性を示すことがわかった。
なお、実施例17においては、酸化処理の効果を確認するためESCAによる表面分析を行い、実施例11と比較した。実施例11では、C−O結合、COO結合に対応するピークは検出されず、(P−Q)/Rは0であった。なお、Pは炭素繊維の表面のC−O結合の電子強度を表し、Qは炭素繊維の表面のCOO結合の電子強度を表し、Rは炭素繊維の表面のC−C結合の電子強度を表し、(P−Q)/Rで表される値は酸化処理の程度を示すものである。
これに対して、実施例17では、P−Q)/Rで表される値は、0.67であり、曲げ強度及び曲げ弾性率が高い傾向が見られた。

Claims (16)

  1. 強化繊維と、熱可塑性樹脂とを含む繊維強化プラスチック成形体用基材であって、
    前記繊維強化プラスチック成形体用基材は2種以上の異なる繊維を含む集束繊維束を含有し、
    前記2種以上の異なる繊維が、強化繊維及び熱可塑性樹脂繊維であるか、2種以上の異なる強化繊維及び熱可塑性樹脂繊維である繊維強化プラスチック成形体用基材。
  2. 前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン繊維又はナイロン繊維である請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
  3. 前記ポリプロピレン繊維は、酸変性ポリプロピレン繊維である請求項2に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
  4. さらにカチオン系化合物を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
  5. 前記カチオン系化合物は、ポリエチレンイミン及びポリビニルアミンから選択される少なくとも1種である請求項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
  6. 湿式不織布である請求項1〜のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
  7. 前記強化繊維は、炭素繊維及びガラス繊維から選択される少なくとも1種である請求項1〜のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
  8. 前記集束繊維束を構成する繊維の全質量に対して、前記熱可塑性樹脂繊維は10質量%以上含まれる請求項1〜7のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
  9. 前記強化繊維が炭素繊維を含有し、ESCA(X線光電子分光分析)法により測定した前記炭素繊維の表面のC−O結合の電子強度をPとし、COO結合の電子強度をQとし、C−C結合の電子強度をRとした場合、(P−Q)/Rで表される値が0.05以上である請求項1〜8のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
  10. 請求項1〜9のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材から成形される繊維強化プラスチック成形体。
  11. 強化繊維と、熱可塑性樹脂とを含む繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法であって、
    2種以上の異なる繊維の各々の少なくとも一部が単繊維状態となるまで解繊する工程と、
    前記解繊する工程で得られた2種以上の異なる繊維を集束させ、前記2種以上の異なる繊維を含む集束繊維束を得る工程と、を含み、
    前記2種以上の異なる繊維が、強化繊維及び熱可塑性樹脂繊維であるか、2種以上の異なる強化繊維及び熱可塑性樹脂繊維である、繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
  12. 前記集束繊維束を得る工程では、カチオン系化合物が添加される請求項11に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
  13. 前記カチオン系化合物は、ポリエチレンイミン及びポリビニルアミンから選択される少なくとも1種である請求項12に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
  14. 前記カチオン系化合物の添加量は、前記強化繊維と前記熱可塑性樹脂の合計質量に対して1質量%以下である請求項12又は13に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
  15. 前記集束繊維束を得る工程は、前記解繊する工程で得られた2種以上の異なる繊維を含むスラリーを攪拌する工程である請求項11〜14のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
  16. 前記強化繊維の表面を酸化処理する工程をさらに含む請求項11〜15のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
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