JP6520662B2 - 繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体 - Google Patents

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Description

本発明は、繊維強化プラスチック成形体用基材及び繊維強化プラスチック成形体に関する。さらに、本発明は、繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法に関する。
炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を含む不織布(繊維強化プラスチック成形体用基材ともいう)から成形された繊維強化プラスチック成形体は、既にスポーツ、レジャー用品、自動車用材料、航空機用材料、電子機器部材など様々な分野で用いられている。繊維強化プラスチック成形体においてマトリックスとなる樹脂には、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が用いられているが、近年は熱可塑性樹脂を用いた繊維強化プラスチック成形体の開発が進められている。熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用いた不織布は、保存管理が容易であり、長期保管ができるという利点を有する。また、熱可塑性樹脂を含む不織布は、熱硬化性樹脂を含む不織布と比較して成形加工が容易であり、加熱加圧処理を行うことにより成形加工品を成形することができる。
近年、繊維強化プラスチック成形体は、軽量化や製造コスト抑制の観点から自動車用材料や航空機用材料への応用が進んでいる。このため、繊維強化プラスチック成形体には、より一層の優れた強度が求められている。繊維強化プラスチック成形体の強度を高めるためには、強化繊維と熱可塑性樹脂を特定の組み合わせとしたり、強化繊維を表面処理する方法が知られている。
例えば、特許文献1には、酸変性ポリプロピレン樹脂とガラス繊維を含む樹脂組成物からなる成形体が開示されている。ここでは、特定の酸変性ポリプロピレン樹脂とガラス繊維を用いることにより、優れた強度を有する成形体が得られるとされている。
また、特許文献2には、酸変性ポリオレフィンで集束されたガラス繊維が開示されている。ここでは、このようなガラス繊維をポリプロピレン樹脂及び酸変性ポリプロピレン樹脂と溶融混練し、射出成形することで繊維強化プラスチック成形体が製造されている。
特開2006−241340号公報 特開2011−99186号公報
上述したように、酸変性ポリプロピレン樹脂等の特定の樹脂を用いることで繊維強化プラスチック成形体の強度をある程度は高めることができる。しかし、近年、繊維強化プラスチック成形体に求められる強度はますます高まってきており、さらなる改善が求められている。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、酸変性ポリプロピレン樹脂を含む繊維強化プラスチック成形体であって、より一層の強度が高められた繊維強化プラスチック成形体を提供することを目的として検討を進めた。
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂の少なくとも一部を、所定繊維の表面に付着させることにより、強度が格段に高められた繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用基材が得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
[1]ガラス繊維、ポリオレフィン樹脂繊維及び非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む繊維強化プラスチック成形体用基材であって、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂の少なくとも一部は、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維の表面に付着している繊維強化プラスチック成形体用基材。
[2]さらにシランカップリング剤を含む[1]に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[3]シランカップリング剤は、アミノ基及びエポキシ基から選択される少なくとも1種の基を含有する[2]に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[4]ポリオレフィン樹脂繊維は、ポリプロピレン樹脂繊維である[1]〜[3]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[5]非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂は、マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂である[1]〜[4]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[6]非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂の含有量は、不織布100質量部に対して0.1〜5質量部である[1]〜[5]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[7]ガラス繊維の繊維長は、3〜50mmである[1]〜[6]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材。
[8]ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維を含む不織布を形成する工程と、不織布に非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンを付着させる工程とを含む繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
[9]さらにシランカップリング剤を付与する工程を含み、シランカップリング剤を付与する工程は、不織布を形成する工程の後であって、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンを付着させる工程の前に設けられる[8]に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
[10]シランカップリング剤を付与する工程は、シランカップリング剤を付与した後に乾燥工程を含み、乾燥温度は100〜135℃である[9]に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
[11]シランカップリング剤は、アミノ基及びエポキシ基から選択される少なくとも1種の基を含有する[9]又は[10]に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
[12][8]〜[11]のいずれかに記載の方法で製造された繊維強化プラスチック成形体用基材。
[13][1]〜[7]及び[12]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材を加熱加圧成形して形成された繊維強化プラスチック成形体。
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材を用いれば、優れた強度を有する繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。このような繊維強化プラスチック成形体は、特に強度が要求される自動車用材料や航空機用材料として好ましく用いられる。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
(繊維強化プラスチック成形体用基材)
本発明は、ガラス繊維、ポリオレフィン樹脂繊維及び非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む繊維強化プラスチック成形体用基材に関する。ここで、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂の少なくとも一部は、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維の表面に付着している。すなわち、本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は表面に非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を有する不織布に関するものである。
非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂は、不織布を構成するガラス繊維、ポリオレフィン樹脂繊維の表面を全て覆うように付着していてもよいが、部分的に付着していてもよい。非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂が各繊維の表面に付着することにより、成形時に効率よくガラスとポリオレフィン樹脂の界面密着性を向上させることができる。
非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂は、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維の表面に水掻き膜状に存在している。本発明では、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂は、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維の両方の繊維の表面に水掻き膜状に存在している点に特徴がある。界面処理能力が高く、かつ流動しやすい非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂がガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維の表面に局在することにより、効率よくガラス繊維とポリオレフィン樹脂の界面を密着させることができる。このため、成形後の繊維強化プラスチック成形体の強度を高めることができると考えられる。
ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維の表面に付着している非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂の検出は、ESCA(X線光電子分光分析装置)で行うことができる。具体的には、繊維強化プラスチック成形体用基材からガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維を各々20本ずつ採取し、繊維表面をESCAを用いて分析する。そして、付着処理前のガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維の測定結果と比較して、酸素原子の比率が1%以上増えている場合に、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維の表面に非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂が付着しているということができる。
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、上記のような構成を有するため、加熱加圧成形後に優れた強度を発揮する。また、本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、比較的安価であるガラス繊維やポリオレフィン樹脂を用いた場合であっても高強度の繊維強化プラスチック成形体を成形できるため、繊維強化プラスチック成形体の製造コストを抑制することができる。
(ポリオレフィン樹脂繊維)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、ポリオレフィン樹脂繊維を含む。本発明では、ポリオレフィン樹脂繊維は、不織布形成用として用いられる。
ポリオレフィン樹脂繊維は、ポリプロピレン樹脂繊維であることが好ましい。ポリプロピレン樹脂繊維は、未変性ポリプロピレン樹脂繊維であってもよく、酸変性ポリプロピレン樹脂繊維であってもよい。酸変性ポリプロピレン樹脂繊維を用いた場合であっても高強度の繊維強化プラスチック成形体を成形することはできるが、コストの観点からは、未変性ポリプロピレン樹脂繊維を用いることが好ましい。
ポリオレフィン樹脂繊維は、ポリオレフィン樹脂を溶融紡糸することによって得られる。また、ポリオレフィン樹脂繊維は、チョップドストランドであることも好ましい。
ポリオレフィン樹脂繊維の質量平均繊維長は、3〜100mmであることが好ましく、3〜50mmであることがより好ましく、3〜25mmであることがさらに好ましい。ポリオレフィン樹脂繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材からポリオレフィン樹脂繊維が脱落することを抑制することができ、ハンドリング性に優れた繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。また、ポリオレフィン樹脂繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、ポリオレフィン樹脂繊維の分散性を良好にすることができるため、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。さらに、ポリオレフィン樹脂繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、ポリオレフィン樹脂繊維とガラス繊維が均一に混ざり合い、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形することが可能となる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
ポリオレフィン樹脂繊維の含有量は、不織布の全質量に対し、10〜70質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがより好ましい。ポリオレフィン樹脂繊維の含有量を上記範囲内とすることにより、得られる繊維強化プラスチック成形体の曲げ強度と曲げ弾性率を高めることができる。
(非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂)
ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維の表面には、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂が付着している。このような非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を有する繊維強化プラスチック成形体用基材を加熱加圧成形すると、高強度の繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。また、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂をガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維の表面に存在させることにより、プレス成形時のガラス繊維とポリオレフィン樹脂繊維の界面密着性を効率よく向上させることができ、結果として繊維強化プラスチック成形体の強度を向上させ、スプリングバックの発生を抑制することができる。さらに、界面密着性が向上することで、界面破壊を抑えてガラス繊維の高強度を活かすことができ、経時における界面剥離による厚み上昇を抑制することができる。なお、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂は、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維の表面に水掻き膜状に存在する樹脂である。
不織布の表面に存在する非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂は、マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。ここで、マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂とは、ポリオレフィン樹脂の分子構造の一部に、マレイン酸やその無水物、あるいはマレイン酸誘導体が導入された樹脂である。中でも、本発明では無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。このように、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂として、マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂を用いることにより、不織布を構成するガラス繊維とポリオレフィン樹脂繊維の密着性を向上させることができ、繊維強化プラスチック成形体がスプリングバックすることを抑制することができる。さらに成形後の繊維強化プラスチック成形体の強度を効果的に高めることもできる。
マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂は公知の方法で得ることが可能である。例えば、マレイン酸や無水マレイン酸をα−オレフィン(末端に二重結合を有するオレフィン)と共重合する方法や、エチレン性マレイン酸やエチレン性無水マレイン酸をポリオレフィンにグラフト重合させる方法などが挙げられる。
ポリオレフィンやα−ポリオレフィンの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体(エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体)、エチレン−ポリブテン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン三元共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリロニトリル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、エチレン−スチレン共重合体などが挙げられる。中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体が好ましく用いられる。
非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂の含有量は、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維を含む不織布100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましい。すなわち、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維の表面には、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂が所定量付着していることが好ましく、その付着量は、不織布100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましく、0.3〜4質量部であることがより好ましく、0.5〜3質量部であることがさらに好ましい。
マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂の酸価は、1〜100mgKOH/gが好ましく、より好ましくは1〜75mgKOH/gである。酸価は一定樹脂量当たりの脂肪酸の量を示す指標である。具体的には、酸価は樹脂1g中に含まれている脂肪酸を中和するに要する水酸化カリウムのmg数で示され、JIS K 5601に定められている。マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂の酸価を上記範囲内とすることにより、成形後の繊維強化プラスチック成形体の強度を効果的に高めることができる。
マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、東洋紡社製のNZ−1015やNZ−1022、ユニチカ社製DB4010やYA4010、TC4010、DA1010などを挙げることができる。
非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂の融点は、70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましく、110℃以上であることが特に好ましい。また、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂の融点は、150℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましい。非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂の融点を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体がスプリングバックして、膨張することを抑制することができる。特に、繊維強化プラスチック成形体を80℃以上の高温条件下に長時間放置した場合であっても繊維強化プラスチック成形体のスプリングバックを抑制することができる。具体的には、繊維強化プラスチック成形体を90℃の条件下に350時間置いた場合であっても、繊維強化プラスチック成形体の厚みの変化率は10%以下とすることができる。
非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂の融点は、酸変性ポリオレフィン樹脂の結晶化度を高めることで上げることができる。例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂の分子量をコントロールすることで、酸変性ポリオレフィン樹脂の結晶化度及び融点を所望の範囲内とすることができる。
(ガラス繊維)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、強化繊維としてガラス繊維を含む。本発明で用いるガラス繊維としては、Eガラス(Electrical glass)、Cガラス(Chemical glass)、Aガラス(Alkali glass)、Sガラス(High strength glass)及び耐アルカリガラス等のガラスを溶融紡糸してフィラメント状の繊維にしたものを挙げることができる。
ガラス繊維の質量平均繊維長は、3〜100mmであることが好ましく、3〜60mmであることがより好ましく、3〜50mmであることがさらに好ましく、5〜30mmであることが特に好ましい。ガラス繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、ガラス繊維の一本一本が集束し、ガラス繊維束状となることを抑制することができる。これにより、ガラス繊維の集束を抑制することにより、高強度の繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。
また、ガラス繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材からガラス繊維が脱落することを抑制することができ、かつ、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形することが可能となる。また、ガラス繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、ガラス繊維の分散性を良好にすることができる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
なお、本明細書において、質量平均繊維長は、100本の繊維について測定した繊維長の平均値である。
なお、ガラス繊維の繊維径は、特に限定されないが、一般的には平均繊維径が5〜25μm程度のガラス繊維が好適に使用される。
ガラス繊維は、一定の長さにカットされたチョップドストランドであることが好ましい。ガラス繊維をこのような形態とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材中に均一に混合することができる。
ガラス繊維は、丸ガラスであってもよく、扁平ガラスであってもよい。丸ガラスを用いることにより、コスト競争力に優れた繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができ、扁平ガラスを用いることで、成形後の繊維強化プラスチック成形体の強度を高めることができる。なお、ガラス繊維としては、丸ガラスと扁平ガラスを併用してもよい。
ここで、丸ガラスとは、繊維の断面形状が略円形のものである。なお、繊維の断面形状とは、ガラス繊維の長さ方向に対し、垂直方向のカット面の形状のことをいう。扁平ガラスとは、繊維の断面形状が扁平(異形)であるものであり、略円形ではないものをいう。具体的には、扁平形状とは、繊維の断面形状が、中心点を通過する最大長で定義される長径と、中心点を通過する最小長で定義される短径を有する形状をいう。扁平形状としては、例えば、ひょうたん型、まゆ型、長円型、楕円型等を例示することができる。
ガラス繊維が扁平ガラスである場合、繊維の断面形状の長径/短径の比は、1.5〜10であることが好ましく、2〜8であることがより好ましく、3〜6であることがさらに好ましい。長径/短径の比は、ガラス繊維の断面形状を顕微鏡観察し、長径と短径を測定することによって算出することができる。なお、長径/短径の比は、30本のガラス繊維の断面形状の長径/短径の比の平均値である。扁平ガラス繊維としては、例えば、日東紡社製の扁平ガラス繊維(質量平均繊維長が13mm、繊維断面の長径が28μm、短径が7μm、比(長径/短径)が4)を用いることができる。
ガラス繊維の含有量は、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維を含む不織布の全質量に対して、10〜90質量%であることが好ましく、30〜90質量%であることがより好ましく、40〜85質量%がさらに好ましい。ガラス繊維の含有量を上記範囲内とすることにより、曲げ強度と曲げ弾性率が十分に高められた繊維強化プラスチック成形体を成形することができる。
本発明で用いるガラス繊維は、シランカップリング剤が予め付着されていないものであることが好ましい。シランカップリング剤が予め付着していないガラス繊維は、保管条件(保管温度等)のコントロールが容易であり、保管や輸送のコストを抑えることができるというメリットがある。また、シランカップリング剤が予め付着していないガラス繊維は、ガラス繊維間で意図しない結合が起こることを防ぐことができ、スラリー溶液中におけるガラス繊維の分散性を高めることができる。さらに、繊維強化プラスチック成形体用基材を湿式抄紙法で抄紙する際に、ガラス繊維からシランカップリング剤が脱落することがないため、繊維強化プラスチック成形体用基材がシランカップリング剤を含有する場合は、最終的に得られる繊維強化プラスチック成形体用基材に含まれるシランカップリング剤の量を制御することが容易となる。
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、後述するように、シランカップリング剤を含有することが好ましいが、シランカップリング剤は、予めガラス繊維に付着したものではないことが好ましい。
(シランカップリング剤)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、さらにシランカップリング剤を含むことが好ましい。繊維強化プラスチック成形体用基材がシランカップリング剤を含むことにより、より高強度の繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
本発明で用いられるシランカップリング剤は、分子内に官能基を有するシランカップリング剤であることが好ましい。この場合、シランカップリング剤は、アミノ基、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ウレイド基、メルカプト基、ポリスルフィド基及びイソシアネート基から選ばれる基を含有するものであることが好ましい。中でも、アミノ基及びエポキシ基から選択される少なくとも1種の基を含有することが好ましい。
分子内にアミノ基を有するシランカップリング剤の具体的な例としては、例えば、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩などを挙げることができる。
また、分子内にエポキシ基を有するシランカップリング剤の具体的な例としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシランなどを挙げることができる。
シランカップリング剤の含有量は、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維を含む不織布100質量部に対して、0.1〜12質量部含まれていることが好ましく、0.3〜10質量部含まれていることがより好ましく0.5〜5質量部含まれていることがさらに好ましい。シランカップリング剤を上記範囲となるように添加することにより、繊維強化プラスチック成形体の強度をより高めることができる。
(バインダー成分)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、バインダー成分をさらに含んでもよい。バインダー成分は、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維を含む不織布の全質量に対して0.1〜10質量%となるように含有されることが好ましく、0.3〜10質量%であることがより好ましく、0.4〜9質量%であることがさらに好ましく、0.5〜8質量%であることが特に好ましい。バインダー成分の含有量を上記範囲内とすることにより、製造工程中の不織布の強度を高めることができ、ハンドリング性を向上させることができる。なお、バインダー成分の量は多くなると表面強度・層間強度共に強くなるが、逆に加熱成形時の臭気の問題が発生しやすくなる。しかし、上記の範囲において臭気はほとんど発生せず、また断裁工程を経ても層間剥離などを発生しない不織布又は繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。
バインダー成分としては、一般的に不織布製造に使用される成分を用いることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、各種澱粉、セルロース誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドーアクリル酸エステルーメタクリル酸エステル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、ポリ酢酸ビニル樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が使用できる。
好ましいバインダー成分としては、ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂を挙げることができる。ポリエステル樹脂としては、特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。変性ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂を変性することで融点を低下させたものであれば特に限定されないが、変性ポリエチレンテレフタレートが好ましい。変性ポリエチレンテレフタレートとしては、共重合ポリエチレンテレフタレート(coPET)が好ましく、例えば、ウレタン変性共重合ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
共重合ポリエチレンテレフタレートは、融点が140℃以下のものが好ましく、120℃以下ものがより好ましい。また、特公平1−30926号公報に記載のような変性ポリエステル樹脂を使用してもよい。変性ポリエステル樹脂の具体例として、特に、ユニチカ社製商品名「メルティ4000」(繊維全てが共重合ポリエチレンテレフタレートである繊維)が好ましく挙げられる。また、芯鞘構造のバインダー繊維としては、ユニチカ社製商品名「メルティ4080」や、クラレ社製商品名「N−720」等が好適に使用できる。
また、バインダー成分として、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂も好ましく用いられる。ポリビニルアルコール(PVA)樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)繊維(クラレ社製、VPB105−2)等を用いることができる。なお、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂と、上述のポリエステル樹脂、変性ポリエステル樹脂を併用してもよい。併用する場合、ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂の合計質量と、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂の質量比は、100:1〜1:100であることが好ましい。
(繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法)
本発明は、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維を含む不織布を形成する工程と、不織布に非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンを付着させる工程とを含む繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法に関するものでもある。本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は、上記の工程を経て製造されるものであることが好ましい。このような製造方法により製造された繊維強化プラスチック成形体用基材は、高強度の繊維強化プラスチック成形体を成形することができる。
ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維を含む不織布を形成する工程では、上述したようなガラス繊維とポリオレフィン樹脂繊維を溶媒中に分散させ、その後溶媒を除去してウエブを形成する方法(湿式抄紙法)を採用してもよく、ガラス繊維とポリオレフィン樹脂繊維を空気中に分散させることで混合し、ウエブを形成する方法(乾式抄紙法)を採用してもよい。また、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維を含む不織布を形成する工程では、バインダー成分を混合してもよい。
不織布を形成する工程において湿式抄紙法を用いる場合は、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維を含む分散液の濃度や、分散液の溶媒の粘度を調整することで、各繊維を十分に分散させることができる。分散液の溶媒の粘度は、ポリアクリルアミド系の高分子を添加する等の方法で調整できる。各繊維を十分に分散させることで、繊維強化プラスチック成形体用基材中の各繊維同士が均一に混抄される。これにより、繊維強化プラスチック成形体用基材を加熱加圧成形した繊維強化プラスチック成形体において、部分的に樹脂の割合が多くなるのを防ぐことができ、繊維強化プラスチックの曲げ強度を高めることができる。分散液を得る工程では、ガラス繊維を単繊維状に分散させることが好ましい。
湿式抄紙法を用いる場合、抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機又は傾斜型抄紙機を用いることができる。このような抄紙機を用いて抄紙をし、脱水をすることにより、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維を含む不織布を得ることができる。なお、本発明の製造工程では、不織布の脱水後に予備乾燥工程を設けてもよい。
不織布に非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンを付着させる工程は、湿式抄紙法又は乾式抄紙法によって抄紙された不織布に非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を接触させ、付着させる工程である。付着の方法としては、不織布を非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンに浸漬させる方法や、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンを不織布にスプレー噴霧をする方法が挙げられる。溶液又はエマルジョンに浸漬させる方法は、簡便であり、確実に酸変性ポリオレフィン樹脂を不織布に付着させることができる。また、スプレー噴霧をする方法は、簡便であるため抄紙工程に取り入れやすく、生産性を向上させることができる。不織布に非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンを付着させる工程では、0.1〜10質量%の非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンを用いることが好ましい。なお、本明細書においては、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンを、表面処理剤と呼ぶことがある。
非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンのpHは4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンのpHを上記範囲内とすることにより、曲げ強度及び曲げ弾性率により優れた繊維強化プラスチック成形体を成形することができる。
不織布に非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンを付着させる工程の後には、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂が付着した不織布を80〜160℃で乾燥する工程を含むことが好ましい。非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂が付着した不織布を乾燥させることで繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。乾燥工程における乾燥温度は、80〜150℃が好ましく、80〜140℃がより好ましい。上記範囲の温度で不織布の乾燥を行うことにより、ポリオレフィン樹脂繊維を溶融することなく効率よく繊維強化プラスチック成形体用基材を製造することができる。これにより曲げ強度及び曲げ弾性率に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法は、さらにシランカップリング剤を付与する工程を含むことが好ましい。シランカップリング剤を付与する工程は、不織布に非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンを付着させる工程の前後又は同時に設けられればよい。中でも、シランカップリング剤を付与する工程は、不織布を形成する工程の後であって、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンを付着させる工程の前に設けられることが好ましい。本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法では、ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維を含む不織布にシランカップリング剤を付与した後に、非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンを接触させることが好ましい。上記のような順番でシランカップリング剤を付与する工程を設けることにより、シロキサン縮合を十分に進行させることができ、より高強度の繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
シランカップリング剤を付与する方法としては、不織布を、シランカップリング剤を含む水溶液に浸漬させる方法や、シランカップリング剤を含む水溶液を不織布にスプレー噴霧をする方法が挙げられる。シランカップリング剤としては、上述したシランカップリング剤を用いることが好ましい。また、シランカップリング剤を含む水溶液は、0.1〜10質量%のシランカップリング剤を含む水溶液であることが好ましい。
シランカップリング剤を付与する工程は、シランカップリング剤を付与した後に乾燥工程を含むことが好ましい。乾燥工程における乾燥温度は100〜135℃であることが好ましい。シランカップリング剤を付与した後の乾燥工程では、シランカップリング剤のカップリング反応が完全に進行しない温度で乾燥を行うことが好ましい。すなわち、シランカップリング剤を付与した後の乾燥工程では、一部のシロキサン縮合がなされた状態にすることが好ましい。
なお、シランカップリング剤のカップリング反応は、後述する繊維強化プラスチック成形体の製造工程における加熱加圧工程において完全に進行する。このようなカップリング反応を行うことにより、繊維強化プラスチック成形体の強度をより効果的に高めることができる。
本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材は上述したような製造方法で製造されたものであることが好ましい。このように所定の工程を所定の順番で含むことにより、曲げ強度及び曲げ弾性率の優れた繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。
(繊維強化プラスチック成形体の成形方法)
本発明の繊維強化プラスチック成形体は、上述した繊維強化プラスチック成形体用基材を加熱加圧成形することにより成形される。繊維強化プラスチック成形体用基材は、目的とする形状や成形法に合わせて任意の形状に加工することができる。繊維強化プラスチック成形体は、繊維強化プラスチック成形体用基材を、1枚単独、或いは所望の厚さとなるように積層して熱プレスで加熱加圧成形したり、あらかじめ赤外線ヒーター等で予熱した金型によって加熱加圧成形したりすることで成形される。また、繊維強化プラスチック成形体が多層構造である場合、他種の繊維強化プラスチック成形体用基材を積層して熱プレスで加熱加圧成形することもできる。本発明の繊維強化プラスチック成形体は、一般的な繊維強化プラスチック成形体用基材の加熱加圧成形方法を用いて加工される。
プレス成形の方法としては、各種存在するプレス成形の方法の中でも、大型の航空機などの成形体部材を作製する際によく使用されるオートクレーブ法や、工程が比較的簡便である金型プレス法が好ましく挙げられる。ボイドの少ない高品質な成形体を得るという観点からはオートクレーブ法が好ましい。一方、設備や成形工程でのエネルギー使用量、使用する成形用の治具や副資材等の簡略化、成形圧力、温度の自由度の観点からは、金属製の型を用いて成形をおこなう金型プレス法を用いることが好ましく、これらは用途に応じて選択することができる。
金型プレス法には、ヒートアンドクール法やスタンピング成形法を採用することができる。ヒートアンドクール法は、繊維強化プラスチック成形体用基材を型内に予め配置しておき、型締とともに加圧、加熱をおこない、次いで型締をおこなったまま、金型の冷却により該シートの冷却をおこない成形体を得る方法である。スタンピング成形法は、予め該基材を遠赤外線ヒーター、加熱板、高温オーブン、誘電加熱などの加熱装置で加熱し、ポリオレフィン樹脂を溶融、軟化させた状態で、成形体型の内部に配置し、次いで型を閉じて型締を行い、その後加圧冷却する方法である。また、低密度の成形体を得る場合など、成形時の温度が比較的低い場合は、ホットプレス法を採用することもできる。
成形用の金型は大きく2種類に分類され、1つは鋳造や射出成形などに使用される密閉金型であり、もう1つはプレス成形や鍛造などに使用される開放金型である。本発明の繊維強化プラスチック成形体用基材を用いた場合、用途に応じていずれの金型も使用することが可能である。成形時の分解ガスや混入空気を型外に排除する観点からは開放金型が好ましいが、過度の樹脂の流出を抑制するためには、成形加工中においては開放部をできるだけ少なくし、樹脂の型外への流出を抑制するような形状を採用することも好ましい。
さらに、金型には打ち抜き機構、タッピング機構から選択される少なくとも一種を有する金型を使用することができる。2段プレス機構を用いるなどの工夫で、熱プレス後に連続して、成形体を打ち抜き加工することも可能である。また、成形体は、その使用目的などによってはリブやボス等の強度補強・加工用の突起やネジ穴の形成、意匠性の付与を目的とした模様の付与を行うことができる。
繊維強化プラスチック成形体が多層構造である場合、他種の繊維強化プラスチック成形体用基材を積層して熱プレスで加熱加圧成形することもできる。また、繊維強化プラスチック成形体用基材を成形すると同時、或いは成形後にアウトサート成形やインサート成形によって、より複雑な形状部材を接着することも可能である。
繊維強化プラスチック成形体用基材から繊維強化プラスチック成形体を成形する際には、具体的には、繊維強化プラスチック成形体用基材を150〜600℃の温度で加熱加圧成形することが好ましく、160〜250℃がより好ましい。なお、加熱温度は、不織布内のポリオレフィン樹脂が流動する温度であって強化繊維は溶融しない温度帯であることが好ましい。
繊維強化プラスチック成形体を成形する際の圧力としては、5〜20MPaが好ましい。また、所望の保持温度に到達するまでの昇温速度は3〜20℃/分が好ましく、所望の熱プレス温度での保持時間としては1〜30分、その後、成形体を取り出す温度(200℃以下)までは圧力を維持しながら、3〜20℃/分の冷却速度とするのが好ましい。さらに、生産効率はやや落ちるものの、熱プレスの保持温度からポリオレフィン樹脂のガラス転移温度までは空冷でゆっくりと0.1〜3℃/分で冷却することも、強度向上の観点からは好ましい。また、急速加熱、急速冷却(ヒートアンドクール)成形を用いて熱プレス成形することも可能であり、その場合の昇温、冷却速度はそれぞれ30〜500℃/分である。更に、赤外線ヒーターによる場合は、温度として150〜600℃、好ましくは160〜250℃で1〜30分間加熱し、その後30〜150MPaの圧力で成形することができる。
(繊維強化プラスチック成形体)
本発明の繊維強化プラスチック成形体の曲げ強度は130MPa以上であることが好ましく、150MPa以上であることがより好ましく、180MPa以上であることがさらに好ましく、200MPa以上であることが特に好ましい。なお、本明細書において、繊維強化プラスチック成形体の曲げ強度とは、繊維強化プラスチック成形体用基材のマシンディレクション方向(以下、MD方向という)およびMD方向と直交するクロスディレクション方向(以下、CD方向という)の曲げ強度の相乗平均値である。なお、各方向の曲げ強度は、JIS K 7074(炭素繊維プラスチック成形体の曲げ試験方法)に準じて測定することができる。
曲げ強度の相乗平均値=√(MD方向の曲げ強度×CD方向の曲げ強度)
なお、繊維強化プラスチック成形体のMD方向とCD方向は、以下の通り求めた。繊維強化プラスチック成形体の3辺(縦、横、厚さ)のうち、最短の辺を厚みとし、厚み方向に垂直の面を繊維強化プラスチック成形体の面とした。ここで、繊維強化プラスチック成形体のMD方向は、繊維強化プラスチック成形体の面上に存在する方向のうち、最も強度が強い方向である。また、CD方向は、面上に存在する方向であって、MD方向に直交する方向である。繊維強化プラスチック成形体のMD方向は、繊維強化プラスチック成形体の面上の任意の1点を中心点とし、その中心点を基準として各方向(縦、横方向を含む面内に存在する方向)の強度を計測することで決定した。各方向の強度は中心点から10°刻みで36方向測定した。
また、本発明の繊維強化プラスチック成形体の曲げ弾性率は、8.3GPa以上であることが好ましく、9.0GPa以上であることがより好ましく、10.0GPa以上であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、繊維強化プラスチック成形体の曲げ弾性率とは、繊維強化プラスチック成形体用基材のMD方向およびMD方向と直交するCD方向の曲げ弾性率の相乗平均値である。なお、各方向の曲げ弾性率は、JIS K 7074(炭素繊維プラスチック成形体の曲げ試験方法)に準じて測定することができる。
曲げ弾性率の相乗平均値=√(MD方向の曲げ弾性率×CD方向の曲げ弾性率)
繊維強化プラスチック成形体の厚みは、特に限定されないが、0.1〜50mm程度である。また、繊維強化プラスチック成形体の密度は、1.0〜2.0g/cm3であることが好ましい。本発明の繊維強化プラスチック成形体は、上記のような構成により、所望の曲げ強度及び曲げ弾性率を有することができる。
繊維強化プラスチック成形体のスプリングバック(厚みの変化率)は、17%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。本発明の繊維強化プラスチック成形体は、スプリングバック(厚みの変化率)を上記範囲内とすることにより、良好な耐熱性を有することができる。
ここで、繊維強化プラスチック成形体のスプリングバック(厚みの変化率)は、繊維強化プラスチック成形体を90℃の恒温器中に350時間保管し、処理前後の厚み変化率を下式より求める。
厚み変化率=(処理後の厚み−処理前の厚み)÷処理前の厚み×100
(繊維強化プラスチック成形体の用途)
本発明の繊維強化プラスチック成形体の用途としては、例えば、「OA機器、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末、タブレットPC、デジタルビデオカメラなどの携帯電子機器、エアコンその他家電製品などの筐体、及び筐体に貼り付けるリブ等の補強材、「支柱、パネル、補強材」などの土木、建材用部品、「各種フレーム、各種車輪用軸受、各種ビーム、ドア、トランクリッド、サイドパネル、アッパーバックパネル、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、などの外板またはボディー部品及びその補強材」、「インストルメントパネル、シートフレームなどの内装部品」、または「ガソリンタンク、各種配管、各種バルブなどの燃料系、排気系、または吸気系部品」、「エンジン冷却水ジョイント、エアコン用サーモスタットベース、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング」、などの自動車、二輪車用部品、「ウィングレット、スポイラー」などの航空機用部品、「鉄道車両用の座席用部材、外板パネル、外板パネルに貼り付ける補強材、天井パネル、エアコン等の噴出し口」などの鉄道車両用部品、「樹脂(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂)からなる成形体の補強材、樹脂と強化繊維からなる成形体の補強材、植物由来のシート(クラフト紙、段ボール、耐油紙、絶縁紙、導電紙、剥離紙、含浸紙、グラシン紙、セルロースナノファイバーシートなど)の補強材」などの部材等に好適に使用される。さらに、本発明の繊維強化プラスチック成形体は薄くても難燃性に優れるため、電気絶縁性の高いガラス繊維を強化繊維として用いることで、電気絶縁用基板としても好適に用いることができる。
このように、本発明の繊維強化プラスチック成形体は、強度が高く、また優れた難燃性を有するため安全性が高いので、電気、電子機器用の筐体、自動車用の構造部品、航空機用の部品、土木、建材用のパネル、その他多種多様な用途に好ましく用いられる。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、以下において、実施例1、7及び8はそれぞれ、参考例1、7及び8と読み替えるものとする。
(実施例1)
以下のようにして、表1に示す割合で各繊維を含む繊維強化プラスチック成形体用基材(以下、湿式不織布または不織布ということもある)を傾斜型抄紙機(傾斜ワイヤー型抄紙機)を用いた抄紙工程を経て製造した。なお、ガラス繊維としては、質量平均繊維長が18mm、直径が9μmのユージー基材社製のガラス繊維(丸断面繊維)を用いた。ポリプロピレン繊維(熱可塑性樹脂繊維)としては、質量平均繊維長が15mm、直径が18μmの未変性ポリプロピレン繊維(「PZ」ダイワボウポリテック社製)を用いた。
まず、プロペラ型アジテーター付のタンクに、ガラス繊維の濃度が0.5質量%となるように、ガラス繊維と水を投入した。さらに、分散剤として「エマノーン(登録商標)3199V」(花王株式会社製、モノステアリン酸ポリエチレングリコール)の0.5質量%水溶液を、その固形分がガラス繊維100質量部に対して0.5質量部となるように添加し、プロペラ型アジテーターを用いて回転数250rpmで攪拌した。
ついで、ポリプロピレン繊維と、バインダー成分としてポリビニルアルコール繊維(「VPB105−2」クラレ社製)を表1の配合比(質量比)となるように投入し、回転数250rpmで攪拌を続けた。ポリビニルアルコール繊維は水溶性であるため、得られた不織布中では繊維の形態を維持していない。
ついで、ポリアクリルアミド系粘剤(「FA−40MT」アクアポリマー社製、質量平均分子量:1700万)の0.2質量%水溶液を、得られる原料液に対してポリアクリルアミドの固形分が9ppmとなるように投入し、回転数250rpmで攪拌し、各繊維がモノフィラメント化した原料液を得た。
その後、これに水を加え、固形分濃度(ガラス繊維、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維の合計濃度。)が0.5質量%となるように調整した。
その後、この原料液に水(白水)を加え、固形分濃度が0.05質量%の分散液を得た。この分散液の分散媒の25℃における粘度(ただし、JIS Z 8803「液体の粘度測定方法」に規定された測定方法による。)は、1.05mPa・sであった。
この分散液を傾斜型抄紙機のワイヤーに連続的に供給し、抄速:10m/min、ジェットワイヤー比:0.8になるよう調整し、抄紙工程を行った。サクションボックスを通過させて脱水した後、ヤンキードライヤーにより140℃で乾燥し、幅50cm、坪量100g/m2の不織布を得た。
得られた不織布を希釈した酸変性ポリオレフィン樹脂水溶液(「NZ−1022」東洋紡社製)中に浸した後、真空吸引によって吸着量を調節し、110℃の恒温機で60分間乾燥させた後、酸変性ポリオレフィン樹脂が1.6質量部付着した不織布を得た。
その不織布を16枚積層し、185℃に予熱したホットプレス内に入れ、温度:185℃、圧力:10MPa、時間:5分間の条件で、加熱加圧成形を行った。
その後、50℃に冷却し、厚み1.1mmの繊維強化プラスチック成形体を得た。
(実施例2)
実施例1の抄紙工程で得られた不織布(酸変性ポリオレフィン樹脂水溶液含浸前の不織布)エポキシ系シランカップリング剤水溶液(「KBM−403」信越化学工業社製)中に浸した後、真空吸引によって吸着量を調節し、110℃の恒温機で60分間乾燥させた後、シランカップリング剤が1.4質量部付着した不織布を得た。その後、さらに「NZ−1022」水溶液中に浸して酸変性ポリオレフィン樹脂が1.4質量部付着した不織布を得た。それ以外は、実施例1と同様に行った。
(実施例3)
「NZ−1022」の代わりに酸変性ポリオレフィン樹脂水溶液(「NZ−1015」東洋紡社製)を用いて酸変性ポリオレフィン樹脂が1.4質量部付着した不織布を得たこと以外は、実施例2と同様に行った。
(実施例4)
「KBM−403」の代わりにアミン系シランカップリング剤水溶液(「KBM−603」信越化学工業社製)を用いてシランカップリング剤が1.8質量部付着した不織布を得たこと、及び酸変性ポリオレフィン樹脂の付着量を表1の通りとなるように変更した以外は、実施例2と同様に行った。
(実施例5)
未変性ポリプロピレン繊維「PZ」の代わりに 酸変性ポリプロピレン繊維(「PZ−AD」ダイワボウポリテックス社製)を用い、シランカップリング剤及び酸変性ポリオレフィン樹脂の付着量を表1の通りとなるように変更した以外は、実施例2と同様に行った。
(実施例6)
ガラス繊維の代わりに、質量平均繊維長が13mm、長径が28μm、短径が7μm、比(長径/短径)が4の日東紡社製の扁平ガラス繊維を用い、シランカップリング剤及び酸変性ポリオレフィン樹脂の付着量を表1の通りとなるように変更した以外は、実施例2と同様に行った。
(実施例7)
シランカップリング剤を付着させる工程の前に「NZ−1022」水溶液を用いて酸変性ポリオレフィン樹脂が0.9質量部付着した不織布を得た後、「KBM−403」水溶液を用いてシランカップリング剤が0.8質量部付着した不織布を得たこと以外は、実施例2と同様に行った。
(実施例8)
「NZ−1022」と「KBM−403」の等重量混合水溶液を用いて酸変性ポリオレフィン樹脂とシランカップリング剤が0.8質量部ずつ付着した不織布を得たこと以外は、実施例1と同様に行った。
(実施例9及び10)
質量平均繊維長が各々25mm、50mmのガラス繊維を用い、シランカップリング剤及び酸変性ポリオレフィン樹脂の付着量を表1の通りとなるように変更した以外は、実施例2と同様に行った。
(比較例1)
「NZ−1022」処理を実施しなかった以外は、実施例1と同様に行った。
(比較例2)
「NZ−1022」処理を実施しなかった以外は、実施例2と同様に行った。
(比較例3)
「KBM−403」処理、及び「NZ−1022」処理を実施しなかった以外は、実施例5と同様に行った。
(評価)
<曲げ強度及び曲げ弾性率>
得られた繊維強化プラスチック成形体について、JIS K 7074(炭素繊維プラスチック成形体の曲げ試験方法)に準じて、繊維の配向方向(マシンディレクション、以下「MD方向」という。)およびMD方向と直交する方向(クロスディレクション、以下「CD方向」という。)の曲げ強度、曲げ弾性率を測定した。
そして、MD方向とCD方向の値の相乗平均値を下式にて求めた。
相乗平均値=√(MD方向の曲げ強度×CD方向の曲げ強度)
曲げ強度の値を表1及び2に示す。
<スプリングバック>
スプリングバックは、得られた繊維強化プラスチック成形体を90℃の恒温器中に350時間保管し、処理前後の厚み変化率を下式より求め、n=3の平均値を算出した。
厚み変化率=(処理後の厚み−処理前の厚み)÷処理前の厚み×100
厚み変化率を表1に示す。
Figure 0006520662
Figure 0006520662
表1及び表2に示すように、各実施例の不織布を加熱加圧成形した繊維強化プラスチック成形体は、曲げ強度に優れていた。実施例1と比較例1〜3の比較から、酸変性ポリオレフィン樹脂を付着させることで強度が良化することがわかった。実施例2〜6では、シランカップリング剤と併用することでより高い曲げ強度が得られることがわかった。実施例7〜8では、シランカップリング剤、酸変性ポリオレフィン樹脂を適切な順序で処理することで高い曲げ強度が得られることがわかった。実施例9〜10では、適切な長さのガラス繊維を用いることで高い曲げ強度が得られることがわかった。

Claims (3)

  1. ガラス繊維及びポリオレフィン樹脂繊維を含む不織布を形成する工程と、
    シランカップリング剤を付与する工程と、
    前記不織布に非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンを付着させる工程を含み、
    前記シランカップリング剤を付与する工程は、前記不織布を形成する工程の後であって、前記非繊維状の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液又はエマルジョンを付着させる工程の前に設けられる繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
  2. 前記シランカップリング剤を付与する工程は、シランカップリング剤を付与した後に乾燥工程を含み、前記乾燥温度は100〜135℃である請求項に記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
  3. 前記シランカップリング剤は、アミノ基及びエポキシ基から選択される少なくとも1種の基を含有する請求項又はに記載の繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法。
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