関連出願の参照
本特許出願は、先に出願された日本国特許出願である特願2015−016093号(出願日:2015年1月29日)に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本願発明の開示の一部とされる。
本発明は、筋肉合成促進剤に関する。
近年、健康増進や運動能力向上を目的として、筋肉合成の促進、筋肉喪失の予防、および筋肉量の回復促進のために、タンパク質を主成分とする栄養補助剤(サプリメント)を経口摂取して、運動する者(対象)は多い。このような栄養補助剤として、プロテイン粉末があり、その主成分として、牛乳を原料とするホエイタンパク質(乳清タンパク質)およびカゼインタンパク質が知られている。
ホエイタンパク質では、経口摂取から消化吸収までの速度(吸収速度)が速く(時間が短く)、また、BCAA(分岐鎖アミノ酸:バリン、ロイシン、イソロイシン)が多く含まれるため、筋肉疲労を防ぎながら、筋肉を効率良く増強できるといわれている。一方、カゼインタンパク質では、ホエイタンパク質と比べて、ゆっくりと持続的に代謝されるため、経口摂取から消化吸収までの速度(吸収速度)が遅く(時間が長く)、即効的な筋肉合成促進を必要とする対象には不向きであるといわれている(特許文献1:特表2009−507044号公報参照)。そのため、プロテイン粉末には、ホエイタンパク質が主に用いられている。
一方、カゼインタンパク質とホエイタンパク質が所定量で含有されている乳タンパク質に対しても、筋肉合成促進効果が知られている。具体的には、運動後の乳タンパク質の摂取は用量依存的に骨格筋合成を促進し、骨格筋分解を抑制することが知られている(非特許文献1:日本体育学会第64回大会予稿集、2013年、166頁参照)。さらに、非特許文献1:日本体育学会第64回大会予稿集、2013年、166頁によれば、運動直後に摂取する食品として、通常の牛乳に比べて乳タンパク質強化乳飲料が運動負荷に伴うカラダ作りにさらに効果的であることが示されている。
すなわち、乳タンパク質を摂取して、筋肉合成を促進させるためには、高濃度の乳タンパク質強化乳飲料を摂取する、あるいは通常の牛乳を多量に摂取することなど、総合的な乳タンパク質の摂取量を高めることが有効である。
日本体育学会第64回大会予稿集、2013年、166頁
高濃度の乳タンパク質強化乳飲料を摂取する、あるいは通常の牛乳を多量に摂取することなど、総合的な乳タンパク質の摂取量を高めるためには、多量の乳タンパク質の摂取をしなければならないという問題が発生する。このような多量の乳タンパク質の摂取は、時に、エネルギーとして乳タンパク質を多量に摂取できない乳幼児や高齢者には、その摂取自体が困難となり、さらに、摂取エネルギーの過多に伴う、肥満を始めとする生活習慣病の発症の懸念もある。また、年齢を問わず、多量の乳タンパク質を摂取すること自体が負担となることも考えられる。特に運動直後は、筋肉合成を速やかに促進させる必要があるのにも関わらず、運動によるホルモン分泌作用によって食欲が減退するため、多量の乳タンパク質の摂取が負担となることが考えられる。
このように、多量の乳タンパク質摂取を目的とした、非特許文献1:日本体育学会第64回大会予稿集、2013年、166頁のような乳タンパク質を含む中性液状組成物を有効成分とする筋肉合成促進効果と同等、またはそれ以上の筋肉合成促進効果を奏する、必ずしも多量の乳タンパク質の摂取を必要としない筋肉合成促進剤は、これまで知れられていない。そこで、このような効果を奏する、新たな筋肉合成促進剤を提供することが課題であった。
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、および特定のタンパク質量比のカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物が、摂取しやすく、また多量の乳タンパク質を摂取しなくとも、筋肉合成促進効果を奏するという現象を見出した。
具体的には、本発明者らは今般、従来技術では、筋肉合成促進効果には、乳タンパク質が用量依存的に寄与していると知られていながらも、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、および特定のタンパク質量比のカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物が、脱脂粉乳溶液、すなわち、多量の乳タンパク質混合物のみからなる中性液状組成物を有効成分とする筋肉合成促進剤(例えば、非特許文献1:日本体育学会第64回大会予稿集、2013年、166頁参照)と比較して、即効的な筋肉合成促進作用があるという現象を予想外にも見出した。また、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、および特定のタンパク質量比のカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物は、乳タンパク質濃度が低い酸性液状組成物であっても、多量の乳タンパク質混合物のみからなる中性液状組成物を有効成分とする筋肉合成促進剤と比較して、同等の筋肉合成促進作用があるという現象を予想外にも見出した。上記の現象は驚くべきものであった。本発明はかかる知見に基づくものである。
すなわち、本発明は、次の通りとなる。
[1]0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、およびカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を有効成分として含んでなる筋肉合成促進剤であって、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20である、筋肉合成促進剤、
[2]酸性液状組成物が、0.5〜5重量%のトレハロースをさらに含んでなる、[1]に記載の筋肉合成促進剤、
[3]酸性液状組成物のpHが3〜6である、[1]または[2]に記載の筋肉合成促進剤、
[4]繊維状の不溶性セルロースが発酵セルロースである、[1]〜[3]のいずれか1に記載の筋肉合成促進剤、
[5]酸性液状組成物に含まれる乳タンパク質混合物が総タンパク質量で一食あたり0.06〜0.7g/kg体重となるように摂取される、[1]〜[4]のいずれか1に記載の筋肉合成促進剤、
[6]一食あたりの単位包装形態からなり、該単位包装形態中に、乳タンパク質混合物を一食摂取量として総タンパク質量で3〜40g含む、[1]〜[5]のいずれか1に記載の筋肉合成促進剤、
[7]運動する対象のための、[1]〜[6]のいずれか1に記載の筋肉合成促進剤、
[8]運動が筋肉トレーニングである、[7]に記載の筋肉合成促進剤、
[9]0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、およびカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を、筋肉合成促進を必要とする対象に摂取させることを含んでなる、筋肉合成促進方法であって、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20である、筋肉合成促進方法、
[10]0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、およびカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を、筋肉合成促進を必要とする対象に摂取させることを含んでなる、筋肉合成促進方法(ヒトに対する医療行為を除く)であって、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20である、筋肉合成促進方法、
[11]筋肉合成を促進するための、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、およびカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を有効成分として含んでなる筋肉合成促進剤の使用であって、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20である、使用、
[12]筋肉合成を促進するための食品または医薬品の製造のための、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、およびカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を有効成分として含んでなる筋肉合成促進剤の使用であって、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20である、使用、
[13]0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、およびカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物であって、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20である、筋肉合成を促進するための、酸性液状組成物。
本発明によれば、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進させた上で、筋肉合成促進効果を高めることができ、乳タンパク質が同一濃度で含まれる中性液状組成物を有効成分とする筋肉合成促進効果と同等、またはそれ以上の筋肉合成促進効果を奏することができる。よって、本発明によれば、必ずしも多量の乳タンパク質の摂取をしなくても、筋肉合成促進効果を奏することができる。
本発明の筋肉合成促進剤(乳タンパク質3.4重量%)と、脱脂粉乳溶液(乳タンパク質3.4重量%)を経口投与した場合の、骨格筋合成速度(FSR(%/day))の推移を示している。
本発明の筋肉合成促進剤(乳タンパク質3.4重量%)と、高用量脱脂粉乳溶液(乳タンパク質6.8重量%)を経口投与した場合の、骨格筋合成速度(FSR(%/day))の推移を示している。
発明の具体的説明
以下では、本発明を詳細に説明するが、本発明は、個々の形態には限定されない。
本発明の筋肉合成促進剤は、酸性液状組成物を有効成分として含んでなり、好ましくは、酸性液状組成物を有効成分とする筋肉合成促進剤である。具体的には、本発明の筋肉合成促進剤は、大豆多糖類、HMペクチン、繊維状の不溶性セルロース、および特定のタンパク質量比のカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を有効成分として含んでなる筋肉合成促進剤である。より具体的には、本発明の筋肉合成促進剤は、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、およびカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を有効成分として含んでなる筋肉合成促進剤であって、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20である筋肉合成促進剤である。本発明の好ましい態様によれば、本発明の筋肉合成促進剤は、即効的な筋肉合成促進を必要とする対象に使用されるものである。
「有効成分」とは筋肉合成促進効果を奏する上で必要とされる成分のことを意味する。一つの好ましい形態として、「有効成分」とは、即効的な筋肉合成促進を必要とする対象のための筋肉合成促進効果を奏する上での必要とされる成分のことを意味する。
「筋肉合成促進」とは、乳タンパク質を摂取し、栄養素として体内で吸収することにより、筋肉の合成を促進することを意味する。従って、本発明の筋肉合成促進剤は、そのことにおよびそのことに起因する状態に用いられる。例えば、筋肉合成促進の目的には、筋肉増量、筋肉成長助長、筋肉組織修復、筋肉増強、筋力向上、筋肉合成促進に伴う健康増進効果および運動能力向上が挙げられ、好ましくは、筋肉組織修復、筋力向上、筋肉合成促進に伴う健康増進効果および運動能力向上である。筋肉合成促進には、アミノ酸からの筋肉タンパク質の同化も包含される。「即効的な筋肉合成促進」とは、乳タンパク質の即時吸収に伴う筋肉の合成を促進することを意味する。
「筋肉合成促進を必要とする対象」とは、筋肉組織を修復し、筋肉成長を助長するために、筋肉タンパク質の合成を促進する必要がある対象を意味し、例えば、健康増進や運動能力向上を目的として、筋肉合成の促進、筋肉喪失の予防、および筋肉量の回復促進のために、運動する対象を意味する。ここで、筋力に一定の負荷をかけることにより、筋肉の合成が促進される点で、運動は、好ましくは、筋力トレーニング(レジスタンス運動)であり、より好ましくは、長期的な筋力トレーニング、例えば、連続して30分間〜5時間を、1週間のうち1日〜7日の頻度で継続される筋力トレーニングである。筋力トレーニングには、例えば、ダンベル運動、スクワット運動、マシントレーニングが挙げられる。
本発明の筋肉合成促進を必要とする対象には、例えば、スポーツ選手、スポーツ愛好者(アスリート)、生活習慣病の改善のために運動を必要とする者、高齢者などの健康増進のために運動を必要とする者、または筋肉合成促進を必要とする疾患、例えば筋肉損傷疾患(例えば、サルコペニア)を患い、運動により筋肉合成の促進を必要とする患者が挙げられる。また、この対象は、ヒト以外の動物(馬、牛などの家畜、犬、猫などの愛玩動物、動物園などで飼育されている鑑賞動物など)であってもよい。
本発明の筋肉合成促進剤を筋肉合成促進を必要とする対象に摂取させる(投与する)時期は、運動前であっても運動後であっても運動中であってもよい。ここで、この摂取させる時期は、好ましくは、運動後であり、より好ましくは、運動直後である。そして、運動により生じる骨格筋分解(異化)を抑制し、かつ、アミノ酸からタンパク質への同化を促進できる点で、この摂取させる時期は、好ましくは、運動直後のうち、運動終了後から3時間以内であり、より好ましくは、運動終了後から2時間以内であり、さらに好ましくは、運動終了後から1時間以内であり、特に好ましくは、運動終了後から30分以内である(Levenhagen et al. Am J physiol Endocrinol Metab (2001), 280, E982-E993参照)。
筋肉合成促進効果において、乳タンパク質が同一濃度で含まれる中性液状組成物と同等の筋肉合成促進効果とは、乳タンパク質が同一濃度で含まれる中性液状組成物(例えば、牛乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳など)を経口摂取(投与)した場合にみられる、タンパク質の吸収の速度と同レベルの速度、およびその吸収に伴う筋肉合成促進作用と同レベルの効果を意味する。また、筋肉合成促進効果において、乳タンパク質が同一濃度で含まれる中性液状組成物と同等の即効的な筋肉合成促進効果作用とは、乳タンパク質が同一濃度で含まれる中性液状組成物(例えば、牛乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳など)を経口摂取(投与)した場合にみられる、タンパク質の吸収の速度と同レベルの速度、およびその吸収に伴う筋肉合成促進作用と同レベルの効果を意味する。ここで、筋肉合成促進効果は、例えば、ラットの水泳試験後に、試験物質を投与してから1時間以内において、試験群の上肢三頭筋合成速度(FSR)を測定することによって確認することができる。すなわち、即効的な筋肉合成促進作用があるといわれている乳タンパク質が同じ濃度で含まれる中性液状組成物を経口摂取した対照群のFSRに比べて、試験群のFSRが同程度や同程度以上の場合には、筋肉合成促進作用として有意であると判断できる。この場合、即効的な筋肉合成促進効果は、好ましくは本発明の筋肉合成促進剤を摂取してから短時間での筋肉を合成する速度、より好ましくは、摂取後30分から3時間以内、さらに好ましくは摂取後30分から2時間以内、さらに好ましくは摂取後30分から1時間以内、特に好ましくは摂取後から30分での筋肉を合成する速度を測定することによって確認することができる。
「タンパク質量」とは、乳タンパク質、ホエイタンパク質またはカゼインタンパク質の各種のタンパク質に含まれるアミノ酸の高分子としてのタンパク質の量を意味する。「タンパク質量比」とは、乳タンパク質、ホエイタンパク質またはカゼインタンパク質の各種のタンパク質に含まれるアミノ酸の高分子としてのタンパク質の量の比率を意味する。ここで、タンパク質量は、例えば、食品成分表などの公知の情報に基づいて算出してもよく、また、ケルダール法やローリー法などの慣用の方法によって測定して算出してもよい。実際に、ケルダール法の場合には、各種のタンパク質に含まれる窒素を測定し、その値に、窒素−タンパク質換算係数(通常 6.25)を乗じて算出することができる。
本発明で用いられる酸性液状組成物とは、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、および特定のタンパク質量比のカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含み、酸性化した液状組成物をいう。本発明で用いられる酸性液状組成物は、完全な液状でなくともよく、一部に固形状および/またはゲル状のものが含まれているものであってもよい。
本発明で用いられる酸性液状組成物に含有される乳タンパク質混合物は、ホエイタンパク質とカゼインタンパク質とを特定のタンパク質量比で含んでいれば特に限定されず、別々に分離や精製されたホエイタンパク質とカゼインタンパク質とを特定のタンパク質量比になるように混合して調製してもよいし、あるいは、別々に分離や精製されていないホエイタンパク質とカゼインタンパク質とを既に特定のタンパク質量比で含んでいる原料(素材)や食品などを混合して調製してもよい。このとき、本発明で用いられる乳タンパク質混合物では、ホエイタンパク質やカゼインタンパク質の分離工程や精製工程を必要とせず、それらの製造費が安価である点で、ホエイタンパク質とカゼインタンパク質とを既に特定のタンパク質量比で含んでいる原料や食品などを主要な成分とし、必要に応じて、別々に精製されたホエイタンパク質やカゼインタンパク質とを特定のタンパク質量比になるように混合して調製することが好ましい。
カゼインタンパク質と別々に分離や精製されたホエイタンパク質には、例えば、ホエイの原液(甘性ホエイ、酸ホエイなど)、その濃縮物、その乾燥物(ホエイ粉など)、その凍結物、その加水分解物など、および、これらの還元溶液などを用いることができる。さらに、脱塩ホエイ、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質精製物(WPI)、α−ラクトアルブミン(α−La)、β−ラクトグロブリン(β−Lg)、免疫グロブリン、ラクトフェリンなど、および、これらの還元溶液を用いることができる。そして、ホエイタンパク質と別々に分離や精製されたカゼインタンパク質には、例えば、カゼインの分離物(フレッシュチーズなどのナチュラルチーズ、ナトリウムカゼイネート、カルシウムカゼイネートなど)、その濃縮物、その乾燥物、その凍結物、その加水分解物など、および、これらの還元溶液などを用いることができる。さらに、α−カゼイン、β−カゼイン、k−カゼインなどの精製物、および、これらの還元溶液を用いることができる。また、ホエイタンパク質とカゼインタンパク質とを既に特定のタンパク質量比で含んでいる原料や食品には、例えば、生乳、殺菌乳(牛乳など)、脱脂乳、成分調整牛乳、加工乳、乳製品(濃縮乳、粉乳、練乳、発酵乳(ヨーグルトなど)、乳酸菌飲料、プロセスチーズ類、アイスクリーム類、クリーム類)、乳タンパク質濃縮物(MPC)、その濃縮物、その乾燥物、その凍結物、その加水分解物など、および、これらの還元溶液などを用いることができる。これらの中でも、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物の調製が容易な点で、乳タンパク質混合物は、カゼインタンパク質を豊富に含有する乳原料である、乳タンパク質濃縮物(MPC)を用いることが好ましい。この乳タンパク質濃縮物には、カゼインタンパク質とホエイタンパク質とのタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)は、4である。このとき、これらには、市販品を入手して用いてもよいし、自ら調製して用いてもよい。
本発明で用いられる酸性液状組成物に含有される乳タンパク質混合物は、特定のタンパク質量比のホエイタンパク質とカゼインタンパク質とから構成され、具体的には、カゼインタンパク質とホエイタンパク質とのタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20であり、好ましくは2〜10であり、より好ましくは2〜6であり、さらに好ましくは2〜4である。本発明では、カゼインタンパク質とホエイタンパク質とのタンパク質量比は、筋肉合成促進剤に含まれる酸性液状組成物に含まれる乳タンパク質混合物でのタンパク質量比を意味する。なお、本発明で用いられる乳タンパク質混合物では、カゼインタンパク質とホエイタンパク質とのタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が意図的に調整(設計)されて、さらに酸性液状組成物に調製されている点で、従来技術とは大きく異なっている。
本発明で用いられる酸性液状組成物は、一般的に、乳タンパク質中のカゼインタンパク質が酸凝固しやすく、酸凝固に由来する分離および沈殿が生じるところ、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、分離および沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で摂取(投与)しやすい形態である。この形態に該当する範囲であれば、その詳細な性質(pH、粘度など)は、任意に設計することができる。
本発明で用いられる酸性液状組成物のpHは、例えば、3〜6、3.1〜5.8、3.2〜5.6、3.3〜5.4、3.4〜5.2、3.5〜5、3.6〜4.8、3.7〜4.6、3.8〜4.4である。本発明の酸性液状組成物のpHが3を上回ることは、酸味が強く感じられて摂取しづらくなるのを防止する上で好ましい。また、本発明の酸性液状組成物のpHが6を下回ることは、酸味が弱く感じられ、爽やかさが損なわれ、酸性液状組成物として、摂取しづらくなるのを防止する上で好ましい。
本発明で用いられる酸性液状組成物の粘度(10℃)は、B型回転粘度計により測定された酸性液状組成物の粘度である。本発明で用いられる酸性液状組成物の粘度(10℃)は、例えば、3〜30mPa・s、3.5〜30mPa・s、4〜30mPa・s、4.5〜30mPa・s、5〜30mPa・s、5.5〜29mPa・s、6〜28mPa・s、6.5〜27mPa・s、7〜26mPa・s、7.5〜25mPa・s、8〜24mPa・s、8.5〜23mPa・s、9〜22mPa・s、9.5〜21mPa・s、10〜20mPa・sである。本発明で用いられる酸性液状組成物の粘度(10℃)が3mPa・sを上回ることは、酸性液状組成物のカゼインタンパク質が安定しづらくなり、酸性液状組成物の分離および沈殿が発生しやすくなるのを防止する上で好ましい。また、本発明で用いられる酸性液状組成物の粘度(10℃)が30mPa・sを下回ることは、爽やかさが損なわれて摂取しづらくなるのを防止する上で好ましい。なお、本発明で用いられる酸性液状組成物の粘度(10℃)は、ブルックフィールド粘度計などの汎用のB型回転粘度計などで測定された酸性液状組成物の粘度である。
本発明で用いられる酸性液状組成物は、特定のタンパク質量比のカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含んでなる。ここで、乳タンパク質混合物に含まれるカゼインタンパク質は、一般的に、中性領域では安定であるが、等電点であるpH4.6周辺よりも低いpH領域の環境では、酸凝固により、カゼインタンパク質同士が凝集し、これが酸性液状組成物の分離や沈殿の発生につながる。一方、本発明で用いられる特定の組成からなる酸性液状組成物は、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、酸性液状組成物の分離および沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で摂取しやすい形態である。ここでいう、本発明に用いられる酸性液状組成物に含有されている、カゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物の濃度は、高濃度である場合には、例えば、3重量%以上、3.2重量%以上、3.4重量%以上、3.6重量%以上、3.8重量%以上、4重量%以上、4.2重量%以上、4.4重量%以上、3〜10重量%、3〜9.5重量%、3〜9重量%、3〜8.5重量%、3〜8重量%、3〜7.5重量%、3〜7重量%、3.2〜10重量%、3.2〜9.5重量%、3.2〜9重量%、3.2〜8.5重量%、3.2〜8重量%、3.2〜7.5重量%、3.2〜7重量%、3.4〜10重量%、3.4〜9.5重量%、3.4〜9重量%、3.4〜8.5重量%、3.4〜8重量%、3.4〜7.5重量%、3.4〜7重量%、3.6〜10重量%、3.6〜9.5重量%、3.6〜9重量%、3.6〜8.5重量%、3.6〜8重量%、3.6〜7.5重量%、3.6〜7重量%、3.8〜10重量%、3.8〜9.5重量%、3.8〜9重量%、3.8〜8.5重量%、3.8〜8重量%、3.8〜7.5重量%、3.8〜7重量%、4〜10重量%、4〜9.5重量%、4〜9重量%、4〜8.5重量%、4〜8重量%、4〜7.5重量%、4〜7重量%、4.2〜10重量%、4.2〜9.5重量%、4.2〜9重量%、4.2〜8.5重量%、4.2〜8重量%、4.2〜7.5重量%、4.2〜7重量%、4.4〜10重量%、4.4〜9.5重量%、4.4〜9重量%、4.4〜8.5重量%、4.4〜8重量%、4.4〜7.5重量%、4.4〜7重量%である。また、本発明で用いられる酸性液状組成物に含有されている、カゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物の濃度は、高濃度でない場合には、例えば、3重量%以下、2.8重量%以下、2.6重量%以下、2.4重量%以下、2.2重量%以下、2重量%以下、0.5〜3重量%、1〜3重量%、1.2〜3重量%、1.4〜3重量%、1.6〜3重量%、1.8〜3重量%、0.5〜2.8重量%、1〜2.8重量%、1.2〜2.8重量%、1.4〜2.8重量%、1.6〜2.8重量%、1.8〜2.8重量%、0.5〜2.6重量%、1〜2.6重量%、1.2〜2.6重量%、1.4〜2.6重量%、1.6〜2.6重量%、1.8〜2.6重量%、0.5〜2.4重量%、1〜2.4重量%、1.2〜2.4重量%、1.4〜2.4重量%、1.6〜2.4重量%、1.8〜2.4重量%、0.5〜2.2重量%、1〜2.2重量%、1.2〜2.2重量%、1.4〜2.2重量%、1.6〜2.2重量%、1.8〜2.2重量%、0.5〜2重量%、1〜2重量%、1.2〜2重量%、1.4〜2重量%、1.6〜2重量%、1.8〜2重量%である。ここで、乳タンパク質混合物に含まれる、カゼインタンパク質およびホエイタンパク質の各濃度は、前述したカゼインタンパク質とホエイタンパク質とのタンパク質量比から、容易に算出できる。
本発明で用いられる酸性液状組成物は、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、酸性液状組成物の分離および沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で摂取しやすい形態である特徴を出し、かつ、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進させた上で筋肉合成促進効果を高めるために、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロースを含有することができる。
本発明の大豆多糖類とは、大豆由来のラムノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、グルコース、ウロン酸の1種もしくは2種以上を含むものであればよく、大豆のなかでも子葉由来のものが好ましい。本発明の大豆多糖類は、その分子量に特に制限はなく、高分子の分子量であることが好ましく、平均分子量が数千〜数百万、具体的には5千〜100万であるのが好ましい。なお、この大豆多糖類の平均分子量は標準プルラン(昭和電工株式会社)を標準物質として0.1MのNaNO3溶液中の粘度を測定する極限粘度法で求めた値である。かかる大豆多糖類は商業的に入手可能であり、例えば、SM−700(三栄源エフ・エフ・アイ社製)、SM−900(三栄源エフ・エフ・アイ社製)がある。大豆多糖類は、その側鎖の構造により、酸性液状組成物中のカゼインタンパク質同士の酸凝固が原因となる、酸性液状組成物の分離および沈殿を抑制すると言われている。
本発明の大豆多糖類の添加量は、本発明で用いられる酸性液状組成物に対して、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロースを含有させる場合には、例えば、0.2〜1.2重量%、0.25〜1.15重量%、0.3〜1.1重量%、0.35〜1.05重量%、0.4〜1重量%、0.4〜0.9重量%である。本発明の大豆多糖類の添加量が1.2重量%を下回ることは、酸性液状組成物に大豆独特の風味が感じられるようになり、酸性液状組成物として摂取しづらくなることを回避する上で好ましい。また、本発明の大豆多糖類の添加量が0.2重量%を上回ることは、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、本発明で用いられる酸性液状組成物の分離および沈殿の発生を抑制でき、さらには、再分散性も良好となり、最終的には、本発明の筋肉合成促進剤として摂取した場合、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進し、筋肉合成促進効果が高まる点で、好ましい。
本発明のHMペクチンとは、野菜や果物に細胞壁成分として存在する、α−D−ガラクツロン酸を主鎖成分とする酸性多糖類である。ペクチンを構成するガラクツロン酸は部分的にメチルエステル化されており、エステル化度によってLMペクチンとHMペクチンに分けられる。HMペクチンは、一般的にエステル化度が50%以上であるものをいう。かかるHMペクチンは商業的に入手可能であり、例えば、SM−478(三栄源エフ・エフ・アイ社製)、SM−666(三栄源エフ・エフ・アイ社製)、AYD5110SB(ユニテックフーズ社製)などがある。HMペクチンは、マイナス荷電を帯びているのが特徴であり、カゼインタンパク質と結合することにより、結合したカゼインタンパク質同士が電荷により反発することで、カゼインタンパク質同士の凝集を防ぐと言われている。
本発明のHMペクチンの添加量は、本発明で用いられる酸性液状組成物に対して、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロースを含有させる場合には、例えば、0.1〜0.5重量%、0.1〜0.45重量%、0.1〜0.4重量%、0.1〜0.35重量%、0.1〜0.3重量%、0.12〜0.29重量%、0.14〜0.28重量%、0.16〜0.27重量%、0.18〜0.26重量%、0.2〜0.25重量%である。本発明のHMペクチンの添加量が0.5重量%を下回ることは、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、低粘度で摂取しやすい形態となる上で好ましい。また、本発明のHMペクチンの添加量が0.1重量%を上回ることは、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、本発明で用いられる酸性液状組成物の分離および沈殿の発生を抑制でき、さらには、再分散性も良好となり、最終的には、本発明の筋肉合成促進剤として摂取した場合、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進し、筋肉合成促進効果が高まるため点で、好ましい。
本発明で用いられる酸性液状組成物には、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、酸性液状組成物の分離および沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で摂取しやすい形態であり、かつ、本発明の筋肉合成促進剤として摂取した場合、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進させた上で筋肉合成促進効果を高めるために、大豆多糖類および/またはHMペクチンと併用して、もしくは大豆多糖類および/またはHMペクチンの代わりにカルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはアルギン酸プロピレングリコールエステルなどの他の安定剤を添加することができる。特に、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはアルギン酸プロピレングリコールエステルなどの他の安定剤は、大豆多糖類および/またはHMペクチンと比較して、より低粘度で酸性液状組成物の分離および沈殿を抑制し、再分散性も良好で、かつ、筋肉合成促進剤として摂取した場合、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進させた上で筋肉合成促進効果を高めるためには、大豆多糖類および/またはHMペクチンと併用して、あるいは大豆多糖類および/またはHMペクチンの代わりに使用することが好ましい。
本発明で用いられる酸性液状組成物には、カルボキシメチルセルロースナトリウムを添加することができる。カルボキシメチルセルロースナトリウムは、セルロースのグルコースの水酸基にカルボキシメチル基を置換させたものであり、通常、エーテル化度0.6〜1.5程度のものである。かかるカルボキシメチルセルロースナトリウムは、商業的に入手可能であり、例えば、セロゲンF−SL(第一工業製薬社製)、セロゲンF−810A(第一工業製薬社製)、セロゲンF−SB(第一工業製薬社製)、セロゲンF−820B(第一工業製薬社製)、セロゲンF−1220B(第一工業製薬社製)などがある。
本発明で用いられる酸性液状組成物には、アルギン酸プロピレングリコールエステルを添加することができる。アルギン酸プロピレングリコールエステルは、コンブ、ワカメなどの藻藻類から精製された多糖類アルギン酸を化学修飾して得られる物質である。かかるアルギン酸プロピレングリコールエステルは、商業的に入手可能であり、例えば、タックロイドLF−M(キッコーマンバイオケミファ社製)、タックロイドEF(キッコーマンバイオケミファ社製)、タックロイドPF(キッコーマンバイオケミファ社製)、タックロイドPF−H(キッコーマンバイオケミファ社製)などがある。
本発明のカルボキシメチルセルロースナトリウムまたはアルギン酸プロピレングリコールエステルの添加量は、本発明で用いられる酸性液状組成物の特徴である、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、酸性液状組成物の分離および沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で摂取しやすい形態であり、かつ、筋肉合成促進剤として摂取した場合、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進させた上で筋肉合成促進効果を高められれば、その添加量には制限はない。本発明で用いられる酸性液状組成物に添加する、カルボキシメチルセルロースナトリウムまたはアルギン酸プロピレングリコールエステルの添加量は、例えば、0.01〜2重量%、0.01〜1.5重量%、0.01〜1.2重量%、0.01〜1.0重量%である。本発明のカルボキシメチルセルロースナトリウムまたはアルギン酸プロピレングリコールエステルの添加量が2重量%であれば、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、低粘度で摂取しやすい形態となる上で好ましい。また、本発明のカルボキシメチルセルロースナトリウムまたはアルギン酸プロピレングリコールエステルの添加量が0.01重量%を上回ることは、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、本発明で用いられる酸性液状組成物の分離および沈殿の発生を抑制でき、さらには、再分散性も良好となり、最終的には、筋肉合成促進剤として摂取した場合、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進し、本発明の筋肉合成促進効果が高まる点で、好ましい。
本発明の繊維状の不溶性セルロースとは、本発明で用いられる酸性液状組成物に含有させることで、その酸性液状組成物中に三次元網目構造を構築することで、沈殿などの不溶性成分の分散性を向上できる安定剤である。本発明の繊維状の不溶性セルロースは、本発明で用いられる酸性液状組成物の特徴である、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、酸性液状組成物の分離および沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で摂取しやすい形態であり、筋肉合成促進剤として摂取した場合、胃内で乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進させた上で筋肉合成促進効果を高められれば、その由来などには制限がなく、植物由来および/または微生物由来のものを使用することができる。微生物由来の繊維状の不溶性セルロースは、例えば、微生物により産生された発酵セルロースを培地から分離処理され、洗浄されて、適宜精製され繊維状としたものである。この繊維状の不溶性セルロースは、例えば、平均直径0.01〜0.1μmまでミクロフィブリル化されている繊維状不溶性セルロース(特開2005−245217号公報参照)、または発酵セルロースである。本発明の繊維状の不溶性セルロースは商業的に入手可能であり、例えば、サンアーティストPG(三栄源エフ・エフ・アイ社製)、サンアーティストPN(三栄源エフ・エフ・アイ社製)である。
本発明の繊維状の不溶性セルロースの添加量は、本発明で用いられる酸性液状組成物に0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチンを含有させる場合には、例えば、0.01〜0.1重量%、0.015〜0.09重量%、0.02〜0.08重量%、0.025〜0.085重量%、0.03〜0.07重量%、0.03〜0.065重量%、0.03〜0.06重量%、0.03〜0.055重量%、0.03〜0.05重量%である。本発明の繊維状の不溶性セルロースの添加量が0.1重量%であれば、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、低粘度で摂取しやすい形態となる上で好ましい。また、本発明の繊維状の不溶性セルロースの添加量が0.01重量%を上回ることは、特に、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、酸性液状組成物の分離および沈殿の発生を抑制でき、さらには、再分散性も良好となり、最終的には、筋肉合成促進剤として摂取した場合、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進し、本発明の筋肉合成促進効果が高まる点で、好ましい。
本発明で用いられる酸性液状組成物には、さらにトレハロースを添加することができ、トレハロースを添加することで、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、酸性液状組成物の分離および沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で摂取しやすい形態の特徴をさらに付与することができ、最終的には、本発明の筋肉合成促進剤として摂取した場合、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進し、筋肉合成促進効果をより高めることができる。具体的には、本発明で用いられる酸性液状組成物に、さらにトレハロースを添加することで、本発明の酸性液状組成物のpHが4を上回り、カゼインの等電点のpHに近いところであっても、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、酸性液状組成物の分離および沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で飲みやすい形態であり、かつ、筋肉合成促進剤として摂取した場合、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進させた上で筋肉合成促進効果を高めることができる。本発明のトレハロースは商業的にも入手可能であり、例えば、トレハ(林原社製)がある。
本発明のトレハロースの添加量は、本発明で用いられる酸性液状組成物に、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロースを含有させる場合には、例えば、0.1〜5重量%、0.2〜4.5重量%、0.3〜4重量%、0.4〜3.5重量%、0.5〜3重量%、0.6〜2.5重量%、0.7〜2重量%、0.8〜1.5重量%、0.9〜1.3重量%、0.9〜1.1重量%である。本発明のトレハロースの添加量が5重量%であれば、本発明の酸性液状組成物にトレハロースに由来する風味および食感が付与されず、低粘度で摂取しやすい形態となる上で好ましい。また、本発明のトレハロースの添加量が0.01重量%を上回ることは、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、本発明で用いられる酸性液状組成物の分離および沈殿の発生を抑制でき、さらには、再分散性も良好となり、最終的には、本発明の筋肉合成促進剤として、胃内で乳タンパク質がカード化せず、乳タンパク質の吸収を促進し、本発明の筋肉合成促進効果が高まる点で好ましい。
本発明で用いられる酸性液状組成物の製造方法は、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、およびカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む、乳含有溶液を、pHを酸性に調整する工程、および均質化する工程、を含有することを特徴とする。
本発明で用いられる酸性液状組成物の製造方法における、pHを酸性に調整することは、本発明の特徴である、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、酸性液状組成物の分離および沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で飲みやすい形態であり、かつ、本発明の筋肉合成促進剤として摂取した場合、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進させた上で筋肉合成促進効果を高めることができる酸性液状組成物が得られる範囲で、乳含有溶液を所定のpHにまで低下させることができれば、その手段や方法には特に制限はない。この乳含有溶液のpHを酸性に調整する方法は、例えば、乳含有溶液に乳酸菌などの発酵微生物により発酵させる方法、および乳含有溶液に酸を添加する方法がある。
本発明に用いられる酸性液状組成物の製造方法における、乳含有溶液には、本発明の酸性液状組成物の一つの特徴である、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、酸性液状組成物の分離および沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で飲みやすい形態であり、かつ、筋肉合成促進剤として摂取した場合、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進させた上で筋肉合成促進効果を高める特徴を出すために、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロースを含有することが好ましい。本発明の酸性液状組成物の製造方法における、乳含有溶液に含有する、大豆多糖類、HMペクチン、および繊維状の不溶性セルロースは、その他の原料の一部または全部と共に添加しながら、50〜100℃に加温した状態で溶解させてもよいし、予め温水などで溶解したものを用意してもよい。本発明の酸性液状組成物の製造方法における、乳含有溶液は、例えば、乳タンパク質混合物を水で溶解した乳液と、大豆多糖類、HMペクチン、および繊維状の不溶性セルロースを水で溶解した安定剤液とを、混合することで得られる。
本発明で用いられる酸性液状組成物の製造方法において、乳含有溶液に酸を添加してpHを調整する他に、本発明の筋肉合成促進効果を高めるために、乳含有溶液を機械的なせん断処理による均質化をすることができる。均質化により、pHを調整した乳含有溶液のカゼインタンパク質を微粒化して、予め含有されている、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、および0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロースと結合し、本発明の酸性液状組成物の一つの特徴である、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、酸性液状組成物の分離および沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で飲みやすい形態であり、かつ、筋肉合成促進剤として摂取した場合、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進させた上で筋肉合成促進効果を高められる酸性液状組成物が得られる。均質化は、牛乳などの脂肪球の均質化、および発酵乳の液状化に使用している汎用の均質機を使用することができる。
本発明で用いられる酸性液状組成物の製造方法において、乳含有溶液に酸を添加してpHを調整する他に、本発明の効果を高めるために、乳含有溶液を均質機を使用して均質化する場合には、その均質化圧は、例えば、1〜100MPa、2〜80MPa、3〜60MPa、4〜40MPa、5〜20MPa、6〜19MPa、7〜18MPa、8〜17MPa、9〜16MPa、10〜15MPaである。また、均質化をする温度は、例えば、50〜100℃、55〜95℃、60〜90℃、65〜85℃、70〜80℃である。また、本発明で用いられる酸性液状組成物の製造方法において、乳含有溶液に酸を添加してpHを調整する工程、および乳含有溶液を均質機を使用して均質化する工程、はその順番に制限はない。すなわち、本発明で用いられる酸性液状組成物の製造方法において、乳含有溶液に酸を添加してpHを調整した後に、その乳含有溶液を均質機を使用して均質化することも可能であり、乳含有溶液を均質機を使用して均質化した後に、その乳含有溶液に酸を添加してpHを調整することも可能である。なお、本発明で用いられる酸性液状組成物の製造方法における、均質化処理の工程は、酸性液状組成物の一つの特徴である、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、酸性液状組成物の分離および沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で摂取しやすい形態であり、かつ、筋肉合成促進剤として摂取した場合、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進させた上で筋肉合成促進効果を高める特徴の酸性液状組成物が得られる範囲において、後述する加熱殺菌の前にも後にも設定することができる。
本発明で用いられる酸性液状組成物の製造方法において、酸性液状組成物の保存性を高めるために、加熱殺菌をすることができる。本発明で用いられる酸性液状組成物の製造方法における、酸性液状組成物の加熱殺菌の方法は、公知の牛乳および/または飲料の殺菌方法および殺菌条件を設定することができる。殺菌方法は、例えば、プレート式加熱殺菌、チューブ式加熱殺菌、バッチ式加熱殺菌、通電加熱殺菌、マイクロウエーブ波による加熱殺菌、レトルト加熱などの間接加熱殺菌、スチームインジェクション、スチームインフュージョンなどの直接加熱殺菌である。殺菌条件は、牛乳と同じく、例えば、60〜65℃で20〜30分間保持、80〜100℃で15秒〜10分間保持、110℃〜150℃で2〜15秒間保持であり、これと同等の殺菌条件であれば、適宜変更することができる。
本発明で用いられる酸性液状組成物の製造方法において、酸性液状組成物の保存性を高めるために、非加熱殺菌をすることができる。本発明の酸性液状組成物の製造方法における、本発明の酸性液状組成物の非加熱殺菌の方法は、公知の殺菌方法および殺菌条件を設定することができる。非加熱殺菌の殺菌方法は、例えば、光照射殺菌、放射線照射殺菌、高電圧パルス殺菌などである。非加熱殺菌の殺菌条件は、牛乳の加熱殺菌と同じ殺菌効果、例えば、60〜65℃で20〜30分間保持、80〜100℃で15秒〜10分間保持、110℃〜150℃で2〜15秒間保持であり、これと同等の殺菌効果があれば、非加熱殺菌の殺菌条件を適宜変更することができる。
本発明で用いられる酸性液状組成物の製造方法において、酸性液状組成物の保存性を高めるために、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロースを含有する乳含有溶液を、pHを酸性に調整する工程と、均質化する工程を含む工程で得られた酸性液状組成物を冷却することができる。最終的に冷却された酸性液状組成物の温度は、例えば、0〜30℃、0〜25℃、0〜20℃、0〜15℃、0〜12℃、0〜10℃である。
本発明で用いられる酸性液状組成物は、本発明の酸性液状組成物の一つの特徴である、高濃度のカゼインタンパク質を含む乳タンパク質混合物を含有する酸性液状組成物であっても、酸性液状組成物の分離および沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で飲みやすい形態であり、かつ、筋肉合成促進剤として摂取した場合、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進させた上で筋肉合成促進効果を高められれば、その他の食品原料および/または食品添加物原料を添加することができる。例えば、本発明の酸性液状組成物の嗜好性の付与を目的に、甘味料(砂糖類、液糖類、果糖、麦芽糖、三温糖など)、糖アルコール(エリスリトールなど)、高感度甘味料(ステビア、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウム)、香料、果汁、野菜汁などを添加することができる。また、本発明の酸性液状組成物の機能性の付与を目的に、ミネラル類(カルシウム、鉄、マンガン、マグネシウム、亜鉛など)、ビタミン類、機能性素材、プロバイオティクス乳酸菌などを添加して、本発明の筋肉合成促進剤とすることができる。
本発明の筋肉合成促進剤は、市場での提供を目的として、容器詰飲料、容器入り飲料の形態にすることができる。容器は、紙容器(ゲーブルトップ型容器、ブリック型容器など)、ソフトバック、ペットボトル、缶、ビンなど、公知のものを使用することができる。容器の容量は、特に制限はなく、例えば、10〜5000g、20〜4000g、30〜3000g、40〜2000g、50〜1500g、60〜1400g、70〜1300g、80〜1200g、90〜1100gである。中でも、ファミリーサイズ(複数飲用)の場合には、例えば、300〜5000g、300〜4000g、300〜3000g、300〜2000g、300〜1500g、300〜1400g、300〜1300g、300〜1200g、300〜1100gであり、パーソナルサイズ(個別飲用)の場合、10〜500g、20〜500g、30〜500g、40〜500g、50〜500g、60〜500g、70〜500g、80〜500g、90〜500gである。
本発明の筋肉合成促進剤は、その特徴の一つである、高濃度のカゼインを含む乳タンパク質を含有する酸性液状組成物であっても、酸性液状組成物の分離および沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で飲みやすい形態であり、かつ、筋肉合成促進剤として、胃内での乳タンパク質のカード化を防ぎ、乳タンパク質の吸収を促進させた上で筋肉合成促進効果を高められることができれば、市場への提供形態に制限はない。例えば、本発明の筋肉合成促進剤では、10℃以下のチルド流通、常温流通が可能である。また、本発明の筋肉合成促進剤は、耐熱効果もある。従って、本発明の筋肉合成促進剤を配合(添加、混合)した組成物では、本発明の筋肉合成促進剤が耐熱効果を奏することから、好ましくは、液状の製品形態として提供することができるととともに、ホットベンダーなどを用いた加温販売用の製品形態として提供することができる。
本発明の一つの実施態様によれば、例えば、本発明の筋肉合成促進剤では、前記乳タンパク質混合物が総タンパク質量で一食あたり0.06g以上/kg体重となるように摂取(投与)され、具体的には、0.06〜0.7g/kg体重であり、好ましくは0.06〜0.6g/kg体重、より好ましくは0.06〜0.5g/kg体重、さらに好ましくは0.08〜0.4g/kg体重、特に好ましくは0.1〜0.4g/kg体重となるように摂取(投与)される。ここで、対象の代表的な体重は、約60kgと見積もっている。
「一食」とは、即効的な筋肉合成促進を必要とする状態の一回ごとを意味し、例えば、本発明の筋肉合成促進剤では、一食で一息に(一度に)摂取せず、数度に分けて摂取してもよい。本発明の筋肉合成促進剤を即効的な筋肉合成促進を必要とする対象に摂取させる(投与する)時期は、数度に分けて摂取する場合には、血流中のアミノ酸濃度を即効的に高められる点で、好ましくは、運動終了後から2時間以内であり、より好ましくは、運動終了後から1時間以内であり、さらに好ましくは、運動終了後から30分以内であり、特に好ましくは、運動終了後から5分以内である。
本発明の筋肉合成促進剤を即効的な筋肉合成促進を必要とする対象に摂取させる(投与する)方法は、経口摂取(経口投与)、経腸投与、胃ろうなどから、その対象および用途により、適宜選択することができるが、好ましくは経口摂取である。
本発明の別の実施態様によれば、例えば、本発明の筋肉合成促進剤は、一食あたりの単位包装形態からなり、該単位中に、前記乳タンパク質混合物を、一食摂取量として総タンパク質量で3g以上に調整したものが望ましく、具体的には、3〜40g、好ましくは3〜20g、より好ましくは4〜20g、さらに好ましくは4〜15g、特に好ましくは5〜15gとなるように調製してなる。ここで、「一食あたりの単位包装形態」からなるとは、一食あたりの摂取量があらかじめ定められた形態のものであり、例えば、特定量を経口摂取し得る食品として、一般食品のみならず、飲料(ドリンク剤など)、健康補助食品、保健機能食品、サプリメントなどの形態を意味する。「一食あたりの単位包装形態」では、例えば、液状の飲料、ゲル状・糊状・ペースト状のゼリー、粉末状・顆粒状・カプセル状・ブロック状の固体状の食品などの場合には、金属缶、ガラスビン(ボトルなど)、プラスチック容器(ペットボトルなど)、パック、パウチ、フィルム容器、紙箱などの包装容器で特定量(用量)を規定できる形態、あるいは、一食あたりの摂取量(用法、用量)を包装容器やホームページなどに表示することで特定量を規定できる形態が挙げられる。
本発明の好ましい態様によれば、本発明の筋肉合成促進剤は、0.4〜0.9重量%の大豆多糖類、0.2〜0.25重量%のHMペクチン、0.03〜0.05重量%の繊維状の不溶性セルロース、およびカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を有効成分として含んでなる筋肉合成促進剤であって、
ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜6である。
本発明のより好ましい態様によれば、本発明の筋肉合成促進剤は、0.4〜0.9重量%の大豆多糖類、0.2〜0.25重量%のHMペクチン、0.03〜0.05重量%の繊維状の不溶性セルロース、およびカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を有効成分として含んでなる筋肉合成促進剤であって、
ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜4である。
本発明のさらに好ましい態様によれば、本発明の筋肉合成促進剤は、0.4〜0.9重量%の大豆多糖類、0.2〜0.25重量%のHMペクチン、0.03〜0.05重量%の繊維状の不溶性セルロース、トレハロース0.9〜1.1重量%およびカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を有効成分として含んでなる筋肉合成促進剤であって、
ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜4である。
本発明の一つの実施態様によれば、例えば、本発明の筋肉合成促進剤では、筋肉合成促進剤を含んでなる組成物を提供することができる。すなわち、本発明の筋肉合成促進剤では、そのまま単独で使用することもできるが、筋肉合成促進機能が発揮される限りにおいて、食品や医薬品などの種々の経口摂取用(経口投与用)の組成物に対して、原料(素材)や添加剤などとして含ませることもでき、筋肉合成促進効果を有する組成物を得ることができる。よって、本発明の一つの実施態様によれば、本発明の筋肉合成促進剤を含んでなる組成物が提供される。
本発明の一つの実施態様によれば、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、カゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を有効成分とする組成物であって、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20である筋肉合成促進用組成物を提供することができる。本発明の組成物は、食品組成物または医薬組成物であってよい。
食品組成物とは、医薬組成物以外のものであって、溶液、懸濁液、乳濁液、粉末、固体成形物など、経口摂取可能な形態であればよく特に限定されない。具体的には、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品などが挙げられる。好ましくは、食品は、乳製品であり、より好ましくは乳飲料、乳酸菌飲料である。
また食品には、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、機能性表示食品、特定保健用食品、病者用食品、乳幼児用調整粉乳、妊産婦もしくは授乳婦用粉乳、または疾病リスク低減表示を付した食品のような分類のものも包含される。
本発明の別の実施態様によれば、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、カゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を有効成分とする、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20である、筋肉合成促進用食品が提供される。本発明の筋肉合成促進用食品は、筋肉合成促進効果、またはそれに起因する効果が表示された食品を包含する。本発明の好ましい実施態様によれば、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、カゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を有効成分とする筋肉合成促進用飲料(好ましくは乳製品、より好ましくは乳飲料または乳酸菌飲料)であって、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20である筋肉合成促進用乳製品が提供される。
医薬組成物とは、製剤化のために許容されうる添加剤を併用して、常法に従い、経口製剤または非経口製剤として調製したものである。経口製剤の場合には、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤などの固形製剤、溶液、懸濁液、乳濁液などの液状製剤の形態をとることができる。また、非経口製剤の場合には、注射剤や座剤の形態をとることができる。簡易性の点からは、経口製剤であることが好ましい。製剤化のために許容されうる添加剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤などが挙げられる。本発明の医薬組成物には、筋肉合成促進を必要とする疾患、具体的には、筋肉損傷疾患、例えば、サルコペニアの処置用組成物、より具体的には予防用組成物および治療用組成物が含まれる。
本発明のさらに別の実施態様によれば、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、カゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を、筋肉合成促進を必要とする対象に、同時または逐次摂取させることを含んでなる、筋肉合成促進方法であって、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20である筋肉合成促進方法が提供される。本発明の筋肉合成促進方法は、ヒトに対する医療行為を除く方法が好ましい。ここで、「ヒトに対する医療行為」とは、医師等の処方を必要として、ヒトに対して医薬品を摂取させる(投与する)行為などを意味する。本発明の筋肉合成促進方法は、本発明の筋肉合成促進剤について、本願明細書に記載された内容に従って実施することができる。
本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明の筋肉合成促進方法において、酸性液状組成物は、0.5〜5重量%のトレハロースを含有することができる。また、本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明の筋肉合成促進方法において、酸性液状組成物のpHを3〜6にすることができる。さらに、本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明の筋肉合成促進方法において、酸性液状組成物は、繊維状の不要性セルロースとして、発酵セルロースを含むことができる。
本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明の筋肉合成促進方法において、前記乳タンパク質混合物を総タンパク質量で一食あたり0.06g以上/kg体重となるように摂取(投与)させることができ、具体的には、0.06〜0.7g/kg体重であり、好ましくは0.06〜0.6g/kg体重、より好ましくは0.06〜0.5g/kg体重、さらに好ましくは0.08〜0.4g/kg体重、特に好ましくは0.1〜0.4g/kg体重となるように摂取させることができる。
本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明の筋肉合成促進方法において、前記乳タンパク質混合物を総タンパク質量で一食あたり3g以上となるように摂取させることができ、具体的には、3〜40g、好ましくは3〜20g、より好ましくは4〜20g、さらに好ましくは4〜15g、特に好ましくは5〜15gとなるように摂取させることができる。
本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明の筋肉合成促進方法において、筋肉合成促進を必要とする対象は、好ましくは即効的な筋肉合成促進を必要とする対象であり、より好ましくは運動する対象、さらに好ましくは、筋肉トレーニングをする対象に摂取させることができる。
本発明の一つの実施態様によれば、本発明の筋肉合成促進方法において、前記酸性液状組成物を、筋肉合成促進を必要とする対象に加温した液状形態で摂取させることができる。
本発明の別の実施形態によれば、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、カゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を、筋肉合成促進を必要とする疾患対象に摂取させることを含んでなる、筋肉合成促進を必要とする疾患の処置方法であって、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20である処置方法が提供される。本発明の筋肉合成促進を必要とする疾患の処置方法には、筋肉損傷疾患の処置方法、例えばサルコペニアの処置方法が含まれる。処置方法には、予防方法および治療方法が含まれる。本発明の処置方法は、本発明の筋肉合成促進方法について、本願明細書に記載された内容に従って実施することができる。
本発明の一つの実施形態によれば、筋肉合成を促進するための、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、およびカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を有効成分として含んでなる筋肉合成促進剤またはそれを含んでなる組成物であって、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20である、筋肉合成促進剤またはそれを含んでなる組成物の使用が提供される。本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明の使用は、非治療的使用とされる。本発明の筋肉合成促進剤またはそれを含んでなる組成物の使用は、本発明の筋肉合成促進剤および筋肉合成促進方法ついて本明細書に記載された内容に従って実施することができる。
本発明の一つの実施形態によれば、筋肉合成を促進するための食品または医薬品の製造のための、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、およびカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物を有効成分として含んでなる筋肉合成促進剤またはそれを含んでなる組成物であって、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20である筋肉合成促進剤またはそれを含んでなる組成物の使用が提供される。本発明の筋肉合成促進剤または組成物の使用は、本発明の筋肉合成促進剤および筋肉合成促進方法について本明細書に記載された内容に従って実施することができる。
本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明の使用において、酸性液状組成物は、0.5〜5重量%のトレハロースを含有することができる。また、本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明の使用において、酸性液状組成物のpHを3〜6にすることができる。さらに、本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明の使用において、酸性液状組成物は、繊維状の不要性セルロースとして、発酵セルロースを含むことができる。
本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明の使用において、前記乳タンパク質混合物を総タンパク質量で一食あたり0.06g以上/kg体重となるように摂取(投与)させることができ、具体的には、0.06〜0.7g/kg体重であり、好ましくは0.06〜0.6g/kg体重、より好ましくは0.06〜0.5g/kg体重、さらに好ましくは0.08〜0.4g/kg体重、特に好ましくは0.1〜0.4g/kg体重となるように摂取させることができる。
本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明の使用において、前記乳タンパク質混合物を総タンパク質量で一食あたり3g以上となるように摂取させることができ、具体的には、3〜40g、好ましくは3〜20g、より好ましくは4〜20g、さらに好ましくは4〜15g、特に好ましくは5〜15gとなるように摂取させることができる。
本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明の使用において、対象は、運動する対象、好ましくは、筋肉トレーニングをする対象である。
本発明の一つの実施態様によれば、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロース、およびカゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を含む酸性液状組成物であって、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が2〜20である、筋肉合成を促進するための、酸性液状組成物が提供される。本発明の筋肉合成を促進するための、酸性液状組成物は、本発明の筋肉合成促進剤について本明細書に記載された内容に従って設計することができる。
ところで、本発明の筋肉合成促進剤は、例えば、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロースが含まれておらず、かつ酸性化されていない、カゼインタンパク質とホエイタンパク質とを含む乳タンパク質混合物を有効成分として含んでなる筋肉合成促進剤であって、ホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質のタンパク質量比(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)が4である、非特許文献1の知見に基づく筋肉合成促進剤(以下、「乳タンパク質混合物のみからなる中性液状組成物を有効成分として含む筋肉合成促進剤」)と比較して、筋肉合成促進効果がより高まる。例えば、後述する動物実験による実施例(試験例1)において、同一量の乳タンパク質を摂取(投与)した場合、本発明の筋肉合成促進剤は、乳タンパク質混合物のみからなる中性液状組成物を有効成分として含む筋肉合成促進剤と比較して、高い効果を有することが示された。また、後述する動物実験による実施例(試験例2)において、本発明の筋肉合成促進剤を0.85g乳タンパク質/kg体重と低用量で摂取(投与)した場合と、乳タンパク質混合物のみからなる中性液状組成物を有効成分として含む筋肉合成促進剤を1.8g乳タンパク質/kg体重と高用量で摂取(投与)した場合とでは、その筋肉合成促進剤としての効果は同等の程度であった。
すなわち、本発明の筋肉合成促進剤は、乳タンパク質混合物のみからなる中性液状組成物を有効成分とする筋肉合成促進剤と比較して、一定量の乳タンパク質を摂取(投与)すれば、強い筋肉合成促進効果が期待できる。また、本発明の筋肉合成促進剤は、乳タンパク質混合物のみからなる中性液状組成物を有効成分とする筋肉合成促進剤と同等の効果を得るために、摂取すべき乳タンパク質混合物の量を低減することができ、より摂取(投与)しやすくなる。さらに、本発明の筋肉合成促進剤は、適度な酸味による爽やかさがあり、乳タンパク質混合物のみからなる中性液状組成物を有効成分とする筋肉合成促進剤と比較して、同じ濃度の乳タンパク質混合物を含有している場合においても、より摂取(投与)しやすくなる。
以下では、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これにより限定されない。
[実施例1]
乳タンパク質濃縮物(乳タンパク質80重量%、乳糖6.5重量%)4.25kgを40.75kgの水に加熱溶解し、溶液Aとした。大豆多糖類(SM−900、三栄源エフエフアイ社製)0.45kg、HMペクチン(AYD5110SB、ユニテックフーズ社製)0.2kg、発酵セルロース(サンアーティストPG、三栄源エフエフアイ社製)0.05kg、トレハロース1kg、砂糖3.3kgスクラロース0.0063kgを39.99kgの水に加温溶解し、溶液Bとした。クエン酸0.64kgを9.36kgの水に溶解し、溶液Cとした。溶液Aと溶液Bを混合後、この混合液を撹拌しながら溶液Cを10回に分けて5分間かけて添加し、殺菌前のベースミックスとした。このベースミックスをプレート殺菌機で15MPaの均質化処理(70〜80℃)をしてから、130℃2秒間の殺菌をした後に、10℃以下に冷却したものを実施例1の筋肉合成促進剤(乳タンパク質3.4重量%、大豆多糖類0.45重量%、HMペクチン0.2重量%、発酵セルロース0.05重量%、トレハロース1重量%)とした。実施例1の筋肉合成促進剤のpH4.1、粘度は10mPa・s(10℃)であった。「飲み口」、「沈殿」、「再分散性」ともに良好であった。以下、試験例1、2において、実施例1を「筋肉合成促進剤」と称する。なお、ここで使用した乳タンパク質濃縮物は、脱脂乳を膜分離処理(UF処理、MF処理など)して、乳糖や灰分を除去し、カゼインタンパク質とホエイタンパク質とを主体として濃縮した、カゼインタンパク質とホエイタンパク質との混合物であり、その形態は、乾燥粉末である。そして、乳タンパク質濃縮物のタンパク質量比は、生乳(牛乳)と同様に、カゼインタンパク質:ホエイタンパク質=約8:2である(山内邦男および横山健吉編、ミルク総合辞典参照)。
[試験例1]
以下の通り、実施例1の筋肉合成促進剤による筋肉合成促進効果を検証した。
(1)ラットの水泳試験
実験動物には、初期体重が130〜170gのSD系雄性ラット(日本クレア株式会社より入手した)を用いた。全てのラットは、明期7時〜19時、暗期19時〜7時として、室温の22±2℃の条件下にて、ステンレス製ケージ内で個体別に飼育された。
固形飼料(オリエンタル酵母工業株式会社製)を用いて、ラットを3〜5日間予備飼育した後、水泳運動に馴化させるために、ラットを30分間の水泳運動(水温34℃)に供した。馴化水泳運動実施日の翌日から翌々日にかけて16時間絶食させた後、ラットを試験群ごとで体重差が生じないように9つに分けた(各試験群6〜8尾ずつ)。その後、ラットを2時間の水泳運動に供した。水泳運動終了直後に、筋肉合成促進剤または乳タンパク質3.4重量%の脱脂粉乳溶液を24.24mL/kg体重でラットに経口摂取させた。経口摂取から15分後、または45分後、または75分後、または105分後に、重水素ラベルフェニルアラニン溶液(重水素ラベルフェニルアラニン225mgを生理食塩水10mLに溶解して調製した)を2.0mL/kg体重でラットに尾静脈投与した。尾静脈投与から15分後に(すなわち経口摂取から30分後、または60分後、または90分後、または120分後に)、イソフルラン麻酔下でラットを解剖した。腹部大静脈より全採血した後に、上肢三頭筋を摘出し、生理食塩水で洗浄後、直ちに液体窒素で凍結した。尾静脈投与の時刻および上肢三頭筋の凍結保存の時刻は正確に記録した。上肢三頭筋は分析時まで−80℃に保存した。
(2)骨格筋合成速度(FSR)の測定
先行文献(A. Kanda et al., Br J Nutr, Sep. 28, 981-987, 2013)の記載に基づいて、摘出、保存した上肢三頭筋についての骨格筋合成速度(FSR)を測定した。具体的には、骨格筋細胞のタンパク質に同化して存在する、あるいは骨格筋細胞中に遊離状態で存在する、フェニルアラニン(Phe)および重水素ラベルフェニルアラニン(Phe(Ring−D5))量を、LC/MS/MS(Waters社製)を用いてそれぞれ定量した。この測定条件は以下の通りである。すなわち、装置:LC/MS/MS(Waters社製)、カラム:ACQUITY UPLC BEH C18(Waters社製)、移動相:0.05%TFA水/0.05%TFA含有アセトニトリル、注入量 3μL、流速 0.3mL/min、UV 215nmである。
ここで、以下の式により、骨格筋合成速度(FSR)を算出した。
FSR(%/day)=(Eb×100)/(Ea×t)
Ea:エンリッチメント(骨格筋細胞中に遊離状態で存在)
Eb:エンリッチメント(骨格筋細胞のタンパク質に同化して存在)
t:尾静脈投与から、上肢三頭筋を凍結保存するまでの時間(単位:日)
エンリッチメント=Phe(Ring−D5)/(Phe+Phe(Ring−D5))
得られた数値から各試験群の平均値±標準誤差を求めた。統計処理は各タイムポイント(経口摂取後30分または60分または90分または120分)において、筋肉合成促進剤群と脱脂粉乳溶液群との間でStudentのt検定を行った。有意水準は5%未満とした(p<0.05)。この結果を図1に示す。
筋肉合成促進剤の摂取によって、摂取30分後におけるラットの骨格筋合成速度が、脱脂粉乳溶液と比較して、有意に高値を示した(p<0.05、図1)。また、筋肉合成促進剤の摂取によって、摂取60分、90分、120分後においても脱脂粉乳溶液と比較して骨格筋合成速度の値が高まる傾向が見られた(p<0.10、図1)。これらの結果より、筋肉合成促進剤は、脱脂粉乳溶液より高い骨格筋合成促進効果を有することが示された。
[試験例2]
以下の通り、実施例1の筋肉合成促進剤による筋肉合成促進効果を検証した。
(1)ラットの水泳試験
実験動物には、初期体重が130〜170gのSD系雄性ラット(日本クレア株式会社より入手した)を用いた。全てのラットは、明期7時〜19時、暗期19時〜7時として、室温の22±2℃の条件下にて、ステンレス製ケージ内で個体別に飼育された。
固形飼料(オリエンタル酵母工業株式会社製)を用いて、ラットを3〜5日間予備飼育した後、水泳運動に馴化させるために、ラットを30分間の水泳運動(水温34℃)に供した。馴化水泳運動実施日の翌日から翌々日にかけて16時間絶食させた後、ラットを試験群ごとで体重差が生じないように9つに分けた(各試験群6〜8尾ずつ)。その後、ラットを2時間の水泳運動に供した。水泳運動終了直後に、筋肉合成促進剤または乳タンパク質6.8重量%の脱脂粉乳溶液(高用量脱脂粉乳溶液)を24.24mL/kg体重でラットに経口摂取させた。経口摂取から15分後、または45分後、または75分後、または105分後に、重水素ラベルフェニルアラニン溶液(重水素ラベルフェニルアラニン225mgを生理食塩水10mLに溶解して調製した)を2.0mL/kg体重でラットに尾静脈投与した。尾静脈投与から15分後に(すなわち経口摂取から30分後、または60分後、または90分後、または120分後に)、イソフルラン麻酔下でラットを解剖した。腹部大静脈より全採血した後に、上肢三頭筋を摘出し、生理食塩水で洗浄後、直ちに液体窒素で凍結した。尾静脈投与の時刻および上肢三頭筋の凍結保存の時刻は正確に記録した。上肢三頭筋は分析時まで−80℃に保存した。
(2)骨格筋合成速度(FSR)の測定
先行文献(A. Kanda et al., Br J Nutr, Sep. 28, 981-987, 2013)の記載に基づいて、摘出、保存した上肢三頭筋についての骨格筋合成速度(FSR)を測定した。具体的には、骨格筋細胞のタンパク質に同化して存在する、あるいは骨格筋細胞中に遊離状態で存在する、フェニルアラニン(Phe)および重水素ラベルフェニルアラニン(Phe(Ring−D5))量を、LC/MS/MS(Waters社製)を用いてそれぞれ定量した。この測定条件は以下の通りである。すなわち、装置:LC/MS/MS(Waters社製)、カラム:ACQUITY UPLC BEH C18(Waters社製)、移動相:0.05%TFA水/0.05%TFA含有アセトニトリル、注入量 3μL、流速 0.3mL/min、UV 215nmである。
ここで、以下の式により、骨格筋合成速度(FSR)を算出した。
FSR(%/day)=(Eb×100)/(Ea×t)
Ea:エンリッチメント(骨格筋細胞中に遊離状態で存在)
Eb:エンリッチメント(骨格筋細胞のタンパク質に同化して存在)
t:尾静脈投与から、上肢三頭筋を凍結保存するまでの時間(単位:日)
エンリッチメント=Phe(Ring−D5)/(Phe+Phe(Ring−D5))
得られた数値から各試験群の平均値±標準誤差を求めた。統計処理は各タイムポイント(経口摂取後30分または60分または90分または120分)において、筋肉合成促進剤群と脱脂粉乳溶液群との間でStudentのt検定を行った。有意水準は5%未満とした(p<0.05)。この結果を図2に示す。
筋肉合成促進剤は、高用量脱脂粉乳溶液と同等の骨格筋合成促進効果を示した。活性本体である乳タンパク質の摂取量は、筋肉合成促進剤群が0.85g/kg体重、高用量脱脂粉乳溶液群が1.8g/kg体重であり、筋肉合成促進剤は、脱脂粉乳溶液よりも少ない乳タンパク質摂取量で骨格筋合成を促進することが示された。
[試験例3]
人工胃液(ペプシン0.6%含有、pH1.2)と筋肉合成促進剤とを、重量比で(人工胃液):(筋肉合成促進剤)=1:1.6となるように混合し、37℃10分間保持した。この時に、人工胃液と混合した筋肉合成促進剤では、筋肉合成促進剤に由来する乳タンパク質が凝集しなかった。対照として、同様の試験を、試験例1で使用した乳タンパク質3.4重量%の脱脂粉乳溶液、試験例2で使用した乳タンパク質6.8重量%の脱脂粉乳溶液(高用量脱脂粉乳溶液)を使用した試験も行った。人工胃液(ペプシン0.6%含有、pH1.2)と脱脂粉乳溶液とを、重量比で(人工胃液):(脱脂粉乳溶液)=1:1.6となるように混合し、37℃10分間保持した。この時に、人工胃液と混合した脱脂粉乳溶液では、どちらも脱脂粉乳溶液に由来する乳タンパク質が凝集した。
試験例1〜3より、本発明の筋肉合成促進剤は、脱脂粉乳溶液と比較して、摂取(投与)された後に、胃内において、乳タンパク質が凝集(カード化)されないため、その後の腸管での乳タンパク質の吸収性が高まり、筋肉合成促進効果が高めるものと推察された。