本発明のPVAフィルムはPVA(A)、ノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)および炭素数6〜30である脂肪族モノアルコール(D)を含有する樹脂組成物からなる。
PVA(A)としては、ビニルエステルを重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより製造されたものを使用することができる。ビニルエステルとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができる。これらは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよいが前者が好ましい。入手性、コスト、PVA(A)の生産性などの観点からビニルエステルとして酢酸ビニルが好ましい。
ビニルエステルと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数3〜30のオレフィン;アクリル酸またはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸またはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロールアクリルアミドまたはその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。これらの他のモノマーは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。中でも、他のモノマーとして、エチレンおよび炭素数3〜30のオレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
前記ビニルエステル系重合体に占める上記他のモノマーに由来する構造単位の割合に特に制限はないが、ビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
PVA(A)の重合度に必ずしも制限はないが、重合度が下がるにつれてフィルム強度が低下する傾向があることから200以上であることが好ましく、より好適には300以上、さらに好適には400以上、特に好適には500以上である。また、重合度が高すぎると水溶液あるいは溶融したPVA(A)の粘度が高くなり、製膜が難しくなる傾向があることから、10,000以下であることが好ましく、より好適には9,000以下、さらに好適には8,000以下、特に好適には7,000以下である。ここでPVA(A)の重合度とは、JIS K6726−1994の記載に準じて測定される平均重合度を意味し、PVA(A)を再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求められる。
重合度 = ([η]×103/8.29)(1/0.62)
PVA(A)のけん化度に特に制限はなく、例えば60モル%以上のPVA(A)を使用することができるが、PVAフィルムを偏光フィルム等の光学フィルム製造用の原反フィルムとして使用する場合などにおいては、PVA(A)のけん化度は95モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましい。ここでPVA(A)のけん化度とは、PVA(A)が有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル系モノマー単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)を意味する。PVA(A)のけん化度は、JIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
PVA(A)は、1種のPVAを単独で用いてもよいし、重合度、けん化度、変性度などが異なる2種以上のPVAを併用してもよい。但し、PVAフィルムが、カルボキシル基、スルホン酸基等の酸性官能基を有するPVA;酸無水物基を有するPVA;アミノ基等の塩基性官能基を有するPVA;これらの中和物など、架橋反応を促進させる官能基を有するPVAを含有すると、PVA分子間の架橋反応によって当該PVAフィルムの二次加工性が低下することがある。したがって、光学フィルム製造用の原反フィルムのように、優れた二次加工性が求められる場合においては、PVA(A)における、酸性官能基を有するPVA、酸無水物基を有するPVA、塩基性官能基を有するPVAおよびこれらの中和物の含有量はそれぞれ0.1質量%以下であることが好ましく、いずれも含有しないことがより好ましい。
前記樹脂組成物におけるPVA(A)の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。
本発明で用いられるノニオン系界面活性剤(B)としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ノニオン系界面活性剤(B)が、炭素数9以上のアルキル鎖(アルキル基)を有するノニオン系界面活性剤を含むことが好ましい。このようなノニオン系界面活性剤は、極性が低いため、PVAフィルムの透明性を悪化させ易かった。それに対して本発明では、炭素数9以上のアルキル鎖(アルキル基)を有するノニオン系界面活性剤とともに、アニオン系界面活性剤(C)および脂肪族モノアルコール(D)を併用することによって、高い透明性を有するPVAフィルムを得ることができる。そして、ノニオン系界面活性剤(B)として炭素数9以上のアルキル鎖を有するノニオン系界面活性剤を含むものを用いることによって、製膜時におけるスジ状の欠点の発生をさらに低減させることができる。上記のような観点から、アルキル鎖の炭素数(アルキル鎖長)は10以上であることがより好ましい。一方、アルキル鎖の炭素数は30以下であることが好ましく、22以下であることがより好ましく、16以下であることがさらに好ましく、12以下であることが特に好ましい。前記アルキル鎖は直鎖であってもよいし分岐鎖であってもよいが、直鎖であることが好ましい。また上記のアルキル鎖はノニオン系界面活性剤(B)の主鎖部分(最長鎖)中に含まれることが好ましい。ノニオン系界面活性剤(B)における前記アルキル鎖を有するノニオン系界面活性剤の含有量は90質量%以上であることが好ましく、ノニオン系界面活性剤(B)が実質的に前記アルキル鎖を有するノニオン系界面活性剤のみを含有することがより好ましい。
またノニオン系界面活性剤(B)がアルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤を含むことも好ましく、脂肪酸のジアルカノールアミドを含むことがより好ましい。このようなノニオン系界面活性剤は、金属に配位したりして相互作用することにより、PVAフィルムの透明性を悪化させ易かった。それに対して本発明では、アルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤とともに、アニオン系界面活性剤(C)および脂肪族モノアルコール(D)を併用することによって、高い透明性を有するPVAフィルムを得ることができる。そして、ノニオン系界面活性剤(B)としてアルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤を含むものを用いることによって、製膜時におけるスジ状の欠点の発生をさらに低減させることができる。ノニオン系界面活性剤(B)におけるアルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤の含有量は90質量%以上であることが好ましく、ノニオン系界面活性剤(B)が実質的にアルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤のみを含有することがより好ましい。
本発明で用いられるアニオン系界面活性剤(C)としては、例えば、ヤシ油脂肪酸トリエタノールアミン、ラウリン酸トリエタノールアミン、ラウロイルサルコシンナトリウム、ヤシ油脂肪酸サルコシンナトリウム、ヤシ油脂肪酸サルコシントリエタノールアミン等のカルボン酸型;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル(12,13)エーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド硫酸ナトリウム等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、ジオクチルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル(12〜14)スルホコハク酸二ナトリウム、ヤジ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸タウリンナトリウム等のスルホン酸型;ラウリルリン酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸等のリン酸エステル型が挙げられる。これらは1種のアニオン系界面活性剤のみを単独で用いてもよいし、2種以上のアニオン系界面活性剤を併用してもよい。
アニオン系界面活性剤(C)が、炭素数9以上のアルキル鎖(アルキル基)を有するアニオン系界面活性剤を含むことが好ましい。このようなアニオン系界面活性剤は、そのカウンターカチオンの影響によりPVAと相互作用して、製膜時にゲル成分が発生するおそれがある。それに対して本発明では、炭素数9以上のアルキル鎖(アルキル基)を有するアニオン系界面活性剤とともに、ノニオン系界面活性剤(B)と脂肪族モノアルコール(D)を併用することによって、ゲル成分の発生を抑制することができる。そして、ノニオン系界面活性剤(B)と同様にアニオン系界面活性剤(C)が炭素数9以上のアルキル鎖を有するアニオン系界面活性剤を含むと製膜時におけるスジ状の欠点の発生がさらに低減する。上記のような観点から、上記アルキル鎖の炭素数(アルキル鎖長)は10以上であることがより好ましい。一方、上記アルキル鎖の炭素数は30以下であることが好ましく、22以下であることがより好ましく、16以下であることがさらに好ましく、12以下であることが特に好ましい。上記のアルキル鎖は直鎖であってもよいし分岐鎖であってもよいが、直鎖であることが好ましい。また上記のアルキル鎖はアニオン系界面活性剤(C)の主鎖部分(最長鎖)中に含まれることが好ましい。アニオン系界面活性剤(C)における前記アルキル鎖を有するアニオン系界面活性剤の含有量は90質量%以上であることが好ましく、アニオン系界面活性剤(C)が実質的に前記アルキル鎖を有するアニオン系界面活性剤のみを含有することがより好ましい。
アニオン系界面活性剤(C)が、硫酸エステル型のアニオン系界面活性剤を含有することも好ましい。このようなアニオン系界面活性剤は、そのカウンターカチオンの影響によりPVAと相互作用して、製膜時にゲル成分が発生するおそれがある。それに対して本発明では、硫酸エステル型のアニオン系界面活性剤とともに、ノニオン系界面活性剤(B)と脂肪族モノアルコール(D)を併用することによって、ゲル成分の発生を抑制することができる。そして、アニオン系界面活性剤(C)として硫酸エステル型のアニオン系界面活性剤を含むものを用いることによって製膜時におけるスジ状の欠点の発生がさらに低減する。アニオン系界面活性剤(C)における硫酸エステル型のアニオン系界面活性剤の含有量は90質量%以上であることが好ましく、アニオン系界面活性剤(C)が実質的に硫酸エステル型のアニオン系界面活性剤のみを含有することがより好ましい。
脂肪族モノアルコール(D)は炭素数が6〜30である必要がある。これにより、界面活性剤との相溶性が向上してスジ状の欠点が少なく、しかも表面が荒れていない平滑性に優れたPVAフィルムが得られる。前記炭素数は9以上が好ましい。一方、前記炭素数は、22以下が好ましい。脂肪族モノアルコール(D)は、飽和アルコールであっても不飽和アルコールであってもよいが、前者が好ましい。また、脂肪族モノアルコール(D)は、直鎖アルコールであっても分岐アルコールでも良いが、前者が好ましい。
炭素数6〜30である脂肪族モノアルコール(D)としては、例えば1−オクタノール、2−エチルヘキサノール、1−ノナノール、1−デカノール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セタノール、パルミトレイルアルコール、1−ヘプデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、エライジルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、エライドリノレニルアルコール、リシルレイルアルコール、ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール、ヘンエイコサノール、ベヘニルアルコール、エルシルアルコール、リグノセリルアルコール、セリルアルコール、1−ヘプタコサノール、モンタニルアルコール、1−ノナコサノール、ミリシルアルコール、1−ドトリアコンタノール、ゲジルアルコール、セテアリルアルコールが挙げられる。これらは1種類を単独でも用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
前記樹脂組成物中における、ノニオン系界面活性剤(B)と、アニオン系界面活性剤(C)および脂肪族モノアルコール(D)の合計との質量比[(C+D)/B]が0.10〜0.80である必要がある。これにより、表面平滑性に優れたPVAフィルムが得られる。一方、質量比[(C+D)/B]は0.45以下が好ましく、0.35以下がより好ましい。
光学フィルムの透明性には、原反のPVAフィルムの表面平滑性が影響する。このため、本発明者らは、PVAフィルムの表面平滑性を向上させるためにノニオン系界面活性剤の添加量を通常よりも増やしたところ、得られるPVAフィルムに表面荒れが生じるとともに透明性も低下した。そこで、さらに検討を進めたところ、ノニオン系界面活性剤(B)とともに、アニオン系界面活性剤(C)および炭素数6〜30である脂肪族モノアルコール(D)を所定の比率で用いることによって、表面荒れが生じることなく、優れた表面平滑性を有し、なおかつ透明性にも優れたPVAフィルムが得られることを見出した。表面平滑性が顕著に向上する理由は明確ではないが、以下のように推定される。後述するように、本発明のPVAフィルムは、PVA(A)、ノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)および脂肪族モノアルコール(D)を含む製膜原液等を用いて製造することができる。このとき、PVA(A)を核として、PVA(A)、ノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)および脂肪族モノアルコール(D)が相互作用していると考えられる。ここで、アニオン系界面活性剤(C)および脂肪族モノアルコール(D)を用いることによって、ノニオン系界面活性剤(B)の相溶性が向上するため、製膜時における樹脂組成物とダイとのすべり性が良好となるものと考えられる。その結果、表面荒れが生じることなく平滑性に優れ、しかも透明性にも優れたPVAフィルムが得られるものと考えられる。
前記樹脂組成物における、アニオン系界面活性剤(C)と炭素数6〜30である脂肪族モノアルコール(D)との質量比(D/C)が0.05〜0.8である必要がある。質量比(D/C)が0.05未満である場合、PVAと、ノニオン系界面活性剤(B)又はアニオン系界面活性剤(C)との親和性が低下することから成形時に膜厚ムラが生じる。また製膜時にスジ状欠点が発生する。質量比(D/C)が0.15以上であることが好ましい。一方、質量比(D/C)が0.8を超える場合、脂肪族モノアルコール(D)がPVAフィルムの表面に移行してブロッキングが生じて取り扱い性が低下する。質量比(D/C)が0.4以下であることが好ましい。
前記樹脂組成物において、ビニルアルコール(A)100質量部に対するノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)および脂肪族モノアルコール(D)の合計含有量が0.10〜5.0質量部である必要がある。当該合計含有量が5.0質量部を超える場合、ノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)又は脂肪族モノアルコール(D)がPVAフィルムの表面に移行してブロッキングが生じやすくなり取り扱い性が低下する。前記合計含有量は、2質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましい。一方、前記合計含有量が0.10質量部未満の場合、得られるPVAフィルムにおいて、スジ状の欠点が増加するとともに、表面が荒れて平滑性が不良となる。前記合計含有量は、0.15質量部以上が好ましい。
PVAフィルムに柔軟性を付与させることができる観点から、本発明のPVAフィルムは可塑剤を含有することが好ましい。好ましい可塑剤としては多価アルコールが挙げられ、具体的には、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。これらは1種の可塑剤のみを用いてもよいし、2種以上の可塑剤を併用してもよい。中でも、PVA(A)との相溶性や入手性などの観点から、エチレングリコールまたはグリセリンが好ましい。
可塑剤の含有量は、PVA(A)100質量部に対して1〜30質量部の範囲内であることが好ましい。
前記樹脂組成物は、PVA、界面活性剤、脂肪族モノアルコールおよび可塑剤以外の他の成分を、必要に応じてさらに含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば、水分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤、充填剤(無機物粒子・デンプン等)、防腐剤、防黴剤、上記した成分以外の他の高分子化合物などが挙げられる。前記樹脂組成物中の他の成分の含有量は10質量%以下が好ましい。
本発明のPVAフィルムの厚みは特に制限されず、PVAフィルムの用途などに応じて適宜設定することができ、例えば300μm以下とすることができる。本発明のPVAフィルムを偏光フィルム等の光学フィルム製造用の原反フィルムとして使用する場合には当該厚みは5〜150μmの範囲内であることが好ましい。なお、PVAフィルムの厚みは、任意の10ヶ所において測定された値の平均値として求めることができる。
本発明のPVAフィルムの形状は特に制限されないが、より均一なPVAフィルムを連続して円滑に製造することができる点や、得られたPVAフィルムを用いて光学フィルム等を製造する場合などにおいて連続して使用すること点などから長尺のフィルムであることが好ましい。長尺のフィルムの長さ(流れ方向の長さ)は特に制限されず、用途などに応じて適宜設定することができ、例えば、5〜30,000mの範囲内とすることができる。長尺のフィルムはコアに巻き取るなどしてフィルムロールとすることが好ましい。
本発明のPVAフィルムの幅に特に制限はなく、例えば0.5m以上とすることができる。近年幅広の偏光フィルムが求められていることから、当該幅は1m以上であることが好ましく、3m以上であることがより好ましく、4.5m以上であることがさらに好ましく、5.0m以上であることが特に好ましく、5.5m以上であることが最も好ましい。一方、PVAフィルムの幅があまりに広すぎると、PVAフィルムを製膜するための製膜装置の製造費用が増加したり、さらには、実用化されている製造装置で光学フィルムを製造する場合において均一に延伸することが困難になったりすることがあることから、PVAフィルムの幅は7.5m以下であることが好ましく、7.0m以下であることがより好ましく、6.5m以下であることがさらに好ましい。
本発明によれば表面平滑性が良好なPVAフィルムが得られる。PVAフィルムの表面平滑性の程度に特に制限はないが、JIS B0601:1994で規定される表面平滑性Raが2.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましく、1.3μm以下であることがさらに好ましく、1.0μm以下であることが特に好ましく、0.5μm以下であることが最も好ましい。このように表面平滑性が良好なPVAフィルムによれば、光透過率が高くて透明性に優れた光学フィルムを容易に得ることができる。
本発明によれば透明性が良好なPVAフィルムが得られる。PVAフィルムの透明性の程度に特に制限はないが、カラーメーターで規定される濁度が3.00以下であることが好ましく、2.00以下であることがさらに好ましく、1.50以下であることが特に好ましい。
本発明のPVAフィルムの製造方法に特に制限はなく、例えば、PVA(A)、ノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)、炭素数6〜30である脂肪族モノアルコール(D)、液体媒体、および必要に応じてさらに上記した可塑剤やその他の成分を含有する製膜原液を用いて、流延製膜法や溶融押出製膜法など公知の方法により製造することができる。なお、製膜原液は、PVA(A)が液体媒体に溶解してなるものであってもよいし、PVA(A)が溶融したものであってもよい。
製膜原液における上記液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、環境に与える負荷が小さいことや回収性の点から水が好ましい。
製膜原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の製膜原液中における含有割合)は製膜方法、製膜条件等によっても異なるが、50〜90質量%の範囲内であることが好ましく、55〜80質量%の範囲内であることがより好ましい。製膜原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなりすぎず製膜が容易になる。一方、製膜原液の揮発分率が90質量%以下であることにより、製膜原液の粘度が低くなりすぎず得られるPVAフィルムの厚み均一性が向上する。
上記の製膜原液を用いて、流延製膜法や溶融押出製膜法によって本発明のPVAフィルムを製造する際の具体的な製造方法に特に制限はなく、例えば、当該製膜原液をドラムやベルト等の支持体上に膜状に流延または吐出し、当該支持体上で乾燥させることにより得ることができる。得られたフィルムに対し、必要に応じて、乾燥ロールや熱風乾燥装置によりさらに乾燥したり、熱処理装置により熱処理を施したり、調湿装置により調湿したりしてもよい。製造されたPVAフィルムは、コアに巻き取るなどしてフィルムロールとすることが好ましい。また、製造されたPVAフィルムの幅方向の両端部を切り取ってもよい。
本発明のPVAフィルムは、偏光フィルム、位相差フィルム、特殊集光フィルム等の光学フィルムを製造するための原反フィルムとして好適に使用することができる。本発明のPVAフィルムを用いることによって、光透過率が高くて品質が高い光学フィルムを得ることができる。また、本発明のPVAフィルムは、包装材料、ランドリーバッグ等の水溶性フィルム、人工大理石等を製造する際の離型フィルムなどとして使用することもできる。なかでも、本発明のPVAフィルムは、偏光フィルム製造用の原反フィルムとして好適に使用される。
前記PVAフィルムを染色する工程と延伸する工程とを有する偏光フィルムの製造方法が本発明の好適な実施態様である。当該製造方法がさらに固定処理工程、乾燥処理工程、熱処理工程等を有していてもよい。染色と延伸の順序は特に限定されず、延伸処理の前に染色処理を行ってもよいし、延伸処理と同時に染色処理を行ってもよいし、または延伸処理の後に染色処理を行ってもよい。また、延伸、染色などの工程は複数回繰り返してもよい。特に延伸を2段以上に分けると均一な延伸を行いやすくなるため好ましい。
PVAフィルムの染色に用いる染料としては、ヨウ素または二色性有機染料(例えば、DirectBlack 17、19、154;DirectBrown 44、106、195、210、223;DirectRed 2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247;DirectBlue 1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270;DirectViolet 9、12、51、98;DirectGreen 1、85;DirectYellow 8、12、44、86、87;DirectOrange 26、39、106、107などの二色性染料)などを使用することができる。これらの染料は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。染色は、通常、上記染料を含有する溶液中にPVAフィルムを浸漬することにより行うことができるが、その処理条件や処理方法は特に制限されるものではない。
PVAフィルムを延伸する方法として、一軸延伸方法および二軸延伸方法が挙げられ、前者が好ましい。PVAフィルムを流れ方向(MD)等に延伸する一軸延伸は、湿式延伸法または乾熱延伸法のいずれで行ってもよいが、得られる偏光フィルムの性能および品質の安定性の観点から湿式延伸法が好ましい。湿式延伸法としては、PVAフィルムを、純水、添加剤や水溶性の有機溶媒等の各種成分を含む水溶液、または各種成分が分散した水分散液中で延伸する方法が挙げられる。湿式延伸法による一軸延伸方法の具体例としては、ホウ酸を含む温水中で一軸延伸する方法、前記染料を含有する溶液中や後述する固定処理浴中で一軸延伸する方法などが挙げられる。また、吸水後のPVAフィルムを用いて空気中で一軸延伸してもよいし、その他の方法で一軸延伸してもよい。
一軸延伸する際の延伸温度は特に限定されないが、湿式延伸する場合は好ましくは20〜90℃、より好ましくは25〜70℃、さらに好ましくは30〜65℃の範囲内の温度が採用され、乾熱延伸する場合は好ましくは50〜180℃の範囲内の温度が採用される。
一軸延伸処理の延伸倍率(多段で一軸延伸を行う場合は合計の延伸倍率)は、偏光性能の点からフィルムが切断する直前までできるだけ延伸することが好ましく、具体的には4倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、5.5倍以上であることがさらに好ましい。延伸倍率の上限はフィルムが破断しない限り特に制限はないが、均一な延伸を行うためには8.0倍以下であることが好ましい。
偏光フィルムの製造にあたっては、一軸延伸されたPVAフィルムへの染料の吸着を強固にするために、固定処理を行うことが好ましい。固定処理としては、一般的なホウ酸および/またはホウ素化合物を添加した処理浴中にPVAフィルムを浸漬する方法等を採用することができる。その際に、必要に応じて処理浴中にヨウ素化合物を添加してもよい。
一軸延伸処理、または一軸延伸処理と固定処理を行ったPVAフィルムを次いで乾燥処理や熱処理を行うことが好ましい。乾燥処理や熱処理の温度は30〜150℃が好ましく、特に50〜140℃であることが好ましい。温度が低すぎると、得られる偏光フィルムの寸法安定性が低下しやすくなる。一方、温度が高すぎると染料の分解などに伴う偏光性能の低下が発生しやすくなる。
上記のようにして得られた偏光フィルムの両面または片面に、光学的に透明で、かつ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にすることができる。その場合の保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが使用される。また、保護膜を貼り合わせるための接着剤としては、PVA系接着剤やウレタン系接着剤などが一般に使用されており、そのうちでもPVA系接着剤が好ましく用いられる。
上記のようにして得られた偏光板は、アクリル系などの粘着剤を被覆した後、ガラス基板に貼り合わせて液晶ディスプレイ装置の部品として使用することができる。偏光板をガラス基板に貼り合わせる際に、位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルムなどを同時に貼り合わせてもよい。
以下に、本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
[表面平滑性の測定方法]
実施例で得られたPVAフィルムから3cm角のサンプル片を採取した。株式会社キーエンス製レーザー顕微鏡「VK−X200」(顕微鏡倍率は20倍)を用いて、JIS B0601:1994に準じて、前記PVAフィルムの各コーナー付近4点とフィルム中央部の1点のRa値をそれぞれ求め、その平均値を表面平滑性の指標とした。
[スジ状の欠点の評価方法]
PVAフィルム上の、製膜時の流れ方向(MD方向)に平行に存在するスジ状の欠点を目視で観察して評価した。具体的には、以下の実施例で得られたPVAフィルムから切り出したサンプル片をMD方向が水直になるように吊り下げ、その背後に30Wの直管状蛍光灯を水直に置いて点灯し、サンプル片を通して蛍光灯を見たときに観察されるスジ状の欠点について、以下の基準で評価した。
A:スジ状の欠点が全くない
B:スジ状の欠点がごくわずかにあるが実用上問題ない
C:スジ状の欠点がわずかにあるが実用上問題ない
D:スジ状の欠点が多数ある
[濁度の測定方法]
以下の実施例で得られたPVAフィルムから、MD方向が15cm、幅方向(TD方向)が165cmの長方形のサンプルを採取した。濁度(ΔL値)の測定は、スガ試験機株式会社製のカラーメーター「SM-T45」を用いて反射法により行った。TD方向50cm当たり10ヶ所測定して、その平均値をPVAフィルムの濁度とした。ここでΔL値はサンプルに垂直な方向から45°傾いた方向から光を照射した際の反射光の強度であり、白濁性の尺度となる。ΔLが高ければ白濁していることを意味しており、透明性を損なっていると解釈できる。
実施例1
PVA(A)として、重合度2400、けん化度99.9モル%のPVA(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物)のチップを用いた。当該PVAのチップ100質量部を35℃の蒸留水2500質量部に24時間浸漬した後、遠心脱水を行い、PVA含水チップを得た。得られたPVA含水チップ中の揮発分率は70質量%であった。当該PVA含水チップ333質量部(乾燥状態のPVAは100質量部)に対して、グリセリンを12質量部、ノニオン系界面活性剤(B)としてラウリン酸ジエタノールアミドを0.2質量部、アニオン系界面活性剤(C)としてラウリル硫酸ナトリウムを0.08質量部、脂肪族モノアルコール(D)としてラウリルアルコールを0.02質量部混合した後、得られた混合物をベント付き二軸押出機で加熱溶融(最高温度130℃)して製膜原液とした。
この製膜原液を熱交換器で100℃に冷却した後、180cm幅のコートハンガーダイから表面温度が90℃であるドラム上に押出製膜して、さらに熱風乾燥装置を用いて乾燥し、次いで、製膜時のネックインにより厚くなったフィルムの両端部を切り取ることにより、膜厚45μm、幅165cmのPVAフィルムを連続的に製造した。製造されたPVAフィルムのうちの長さ4000m分を円筒状のコアに巻き取ってフィルムロールとした。得られたPVAフィルムについて上記した方法により表面平滑性、スジ状の欠点および濁度を評価した結果を表1に示す。
実施例2〜5、比較例1〜6
ノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)および脂肪族モノアルコール(D)の使用量を表1に示されるとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にしてPVAフィルム(およびフィルムロール)の製造および評価を行った。結果を表1に示す。
表1に示されるとおり、ノニオン系界面活性剤(B)と、アニオン系界面活性剤(C)および炭素数6〜30である脂肪族モノアルコール(D)の合計との質量比[(C+D)/B]が0.10〜0.80であり、PVA(A)100質量部に対するノニオン系界面活性剤(B)、アニオン系界面活性剤(C)および脂肪族モノアルコール(D)の合計含有量が0.10〜5.0質量部である実施例1〜5のPVAフィルムは、表面平滑性Raが2.0μm未満であり、表面平滑性に優れていた。またスジ状の欠点が少なく、濁度も低かった。一方、質量比[(C+D)/B]が0.10〜0.80から外れるPVAフィルム(比較例1〜4、6)は、表面平滑性Raが2.0μmを超えており、表面平滑性が劣っていたうえに、スジ状の欠点が多数発生したもの(比較例4)もあった。また、脂肪族モノアルコール(D)を含まないPVAフィルム(比較例5)は、表面平滑性が劣っていたうえにスジ状の欠点が多数発生した。
上記実施例で示されているとおり、本発明のPVAフィルムは、スジ状の欠点が少なく、しかも表面が荒れておらず表面平滑性が良好であるとともに、透明性にも優れる。このようなPVAフィルムを原反フィルムとして用いることによって、光透過率が高く品質の高い光学フィルム、特に偏光フィルムが得られる。また、本発明のPVAフィルムを原反フィルムとして用いることによって、光学フィルム等を高い歩留まりで製造することが可能になり、コストが低減される。